JP6106836B1 - 既設吹付モルタル法面の老朽化対策工法 - Google Patents

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Abstract

【課題】道路などに面する既設吹付モルタル法面の老朽化対策を可塑状グラウトを用いて効率的かつ経済的に実施できる既設吹付モルタル法面の老朽化対策工法を提供する。【解決手段】既設吹付モルタル法面1とその背面地盤2間の隙間3に流動性のグラウト材4を充填する。グラウト材4として、既設吹付モルタル法面1とその背面地盤2間の隙間3を流れるグラウト材4の流動性と流動長を考慮して配合された可塑状グラウト材を充填する。【選択図】図1

Description

本発明は、老朽化した既設モルタル法面の老朽化対策工法に関し、道路などに面して施工された既設吹付モルタル法面の老朽化対策を可塑状グラウトを用いて効率的かつ経済的に実施できるようにしたものである。
道路などに面する斜面(地山)の安定化対策工として、工期が短く簡易的に実施可能なモルタル吹付工が昭和40年代から現在に至るまで広く用いられてきた。
しかし、その多くは施工からすでに30年以上経過し、経年変化による吹付モルタルの老朽化が大きな問題になっており、早期の対策が求められている。
吹付モルタルの老朽化は、年月の経過とともに吹付モルタルとその背面地盤との密着性が損なわれて隙間が生じ、それが背面地盤の緩みとともに進行していったことで劣化や損傷が生じたものと考えられる。
また特に、近年のゲリラ豪雨などの異常気象の多発により背面地盤の土砂化や風化、斜面(地山)に吹き付けられたモルタルの老朽化の進行が早く、背面地盤が吹付モルタルごと崩れる法面崩壊が増加している。
従来、この種の既設吹付モルタル法面の崩壊を未然に防止する対策工としては、既設吹付モルタルをはつり取り、吹付モルタルを再施工する方法が用いられており、また近年は、吹付モルタル法面と背面地盤との間に生じた隙間に注入材を注入する方法が提案されている。
特開平06-257155号公報 特開平07-090867号公報
しかし、吹付モルタル法面の再施工は、既設吹付モルタル取り壊し時の安全性の確保、通行規制の実施、取り壊しコストおよび取り壊した後の吹付モルタル等の建設廃材の処理などに課題があった。
一方、流動性の良いセメント系グラウトの注入施工は、グラウト材が注入圧によって法面上に噴出したりして充填されるべき位置に留まることなく、或いは法面の下端部に流れ落ちてしまったり、或いは途中に留まってしまったりして隙間の隅々まで確実に充填されないことがあった。また、セメント系グラウトは分離しやすいため強度上の問題や法面と原地盤の隙間で沈殿したセメントが部分的に固結して、その間に配合水が貯まるといった充填が不充分になる問題があった。
このように法面における注入は上載圧力がないため流動性のある注入材は法面上に逸出してしまい空隙に浸透させることが困難であった。
本発明は、可塑状グラウトの傾斜面における重力による流下圧力で空隙中を流動させ、流動中に背面の地盤の透水性、或いは水みちにおける脱水に伴う流動特性の変化を利用して、以上の課題を解決するためになされたもので、道路などに面する斜面(地山)の安定化対策工として施工された既設吹付モルタル法面の補修・補強を効率的かつ経済的に実施できる既設吹付モルタル法面の老朽化対策工法を提供することを目的とするものである。
本発明は、既設吹付モルタル法面と当該既設吹付モルタル法面の背面地盤間の隙間に流動性グラウト材を法面の勾配を利用した自然流下によって充填することにより、前記既設吹付モルタル法面を補修・補強する既設吹付モルタル法面の老朽化対策工法の発明であり、前記流動性グラウト材は、前記既設吹付モルタル法面と前記背面地盤間の隙間を自然に流下する間の、前記既設吹付モルタル法面および背面地盤による脱水と前記既設吹付モルタル法面と前記背面地盤間の隙間幅を考慮した流動性と流動長に基いて配合された可塑状グラウト材であるあることを特徴とするものである。
既設吹付モルタル法面とその背面地盤間の隙間にグラウト材を充填して既設吹付モルタル法面の老朽化を防止する工法においては、前記既設吹付モルタル法面とその背面地盤間の隙間全体にグラウト材がむらなく充填されてそのまま固化することで既設モルタル法面の補修・補強が可能になる。
また、セメントグラウト材の充填施工に際しては、前記既設吹付モルタル法面とその背面地盤間の隙間に法面の上部から充填されたグラウト材は、通常、吹付けモルタル法面とその背面地盤間の隙間を吹付モルタル面と背面地盤からの脱水を伴いながら法面の下方に向かって徐々に流れ落ちて法面の隙間全体に充填されるものとして充填施工が行われる。
しかし、吹付モルタル法面と背面地盤間の隙間の大きくて、そこに流動性の大きいグラウト材を流入させた場合、セメント系グラウト材は、本来、岩盤の亀裂や地盤の砂礫中に浸透させて止水固結をはかるために水/セメント比が大きく浸透性が優れた配合が用いられるため、吹付モルタル法面と背面地盤間の隙間の脱水を伴いながらも当初の流動性をほぼ保持したままその大半が法面の下部まで流れ落ち、法面の中間部と上部に十分に充填されないおそれがある。
また特にセメント系グラウト材は充填施工中に材料が分離しやすくセメント分が沈殿したり、法面表面に逸出したりして、均質な固結層を間隙に充填することが難しい。
一方、吹付モルタル法面と背面地盤間の隙間の小さくて、そこに流動性の小さいグラウト材を流入させた場合、吹付モルタル法面と背面地盤間の隙間を背面地盤による脱水を伴いながら法面の下部に向かって徐々に流れ落ちるため、当初の流動性を大幅に失って法面の下部まで流れ落ちることができず、その大半が法面の中間部あたりに留まり、法面の下端部まで充分に充填されないおそれがある。
このことから当出願人は、既設吹付モルタル法面とその背面地盤との間に生じた隙間にグラウト材を充填して既設モルタル法面を補修・補強する工法においては、既設吹付モルタル法面とその背面地盤間の隙間の流れを考慮したグラウト材の流動性とグラウト材の選定が施工精度を大きく左右することを見出した。
モルタル吹付面の法面に注入して補修する材料はモルタル面が法面の夏季の高温や冬季の寒波などに備えければならないため、セメントグラウトなどの注入が考えられる。しかし、上述したように流動性の大きなセメントグラウトでは急斜面の不均質に亀裂が入り組んだ空隙内部では沈殿や分離が生じ法面背面の斜面中の空隙内を十分充填することができない。
このような課題の解決のために本発明者は可塑状グラウトに着目した。可塑状グラウトは矢板背面の裏込めや従来空隙を充填するためにトンネル掘削等の裏込め注入に多く使用されている。
従来、矢板工法やトンネルの背面空洞注入工法に用いられているセメント系注入材は可塑状注入材とエアモルタルを用いたモルタル系注入材であって、可塑状グラウトに、一般的に使用されている材料の流動性のフロー値は静止時において、8〜15cmが普通であり、モルタル系注入材ではフロー値が普通20±2cm程度である。
これらは揺変性を呈し、ゲルが機械的衝動によって流動性のゾルに変わり放置すると再びゲルに戻る。これらのモルタル系注入材も本発明では従来の可塑状グラウトの範囲とみなす。
また、非漏出性が要求され、5mm以下の間隙に完全に流出があってはならないとなっており、これは従来の可塑状グラウトの目的が矢板やトンネルのコンクリートの継ぎ目から漏出することなく背部の空洞を隙間なく充填することを要求されているからである。
それに対し、本発明における、可塑状グラウトの適用はモルタル吹付面の背部の空洞であって、背面地盤はゆるみや水みちが存在している条件での適用であって、本発明はそのような水みちにも可塑状グラウトが浸透して脱水して固化することを目的としている。
従って、本発明の可塑状グラウトは従来の可塑状グラウトとは注入目的も適用条件も異なり、従って、要求される性能も異なるものである。本発明者はこのような条件下で適用可能な可塑状グラウトによる法面補修方法を見出して上記課題を解決するにいたった。
本発明は、グラウト材に可塑状グラウト材を用い、かつ既設吹付モルタル法面とその背面地盤間の隙間を流れるグラウト材の脱水による流動性の変化と流動長を考慮し、当該グラウト材の脱水と流動性と流動長に基いて配合された可塑状グラウト材を用いることにより既設吹付モルタル法面とその背面地盤間の隙間全体にむらなく充填することを可能にした。
本発明における可塑状グラウトの基本的配合のフロー値は表-4や表-7に示すように一般的な裏込めに用いられるフロー値よりも範囲が広く大きく性能も異なる。このため大きな幅には流動性の小さい配合を選定することによりブリージングを少なくしてスムーズに間隙を充填することができる。さらに、細かいところにも浸透し周辺の土砂に脱水して流動性が徐々に低下してブリージングを少なくして充填固化する。
可塑状グラウト材は、液状と固体状の中間領域にあり、静止時ではグラウト材自体に変形は常時ないが、外力を加えることにより変形し、外力を除いたら流動性が停止するという性質を有する。また、放置しても配合液の粒子分が沈殿分離することなく配合液全体が可塑状ゲルを形成するという特徴を有する。
可塑状グラウト材としてはセメントやフライアッシュやスラグや又はフライアッシュとセメントを主体とする可塑状FMグラウトやスラグとセメントを主体とするスラグ系可塑状グラウトが知られているが、セメントや粘度、或いはベントナイト等、シリカ系粉状体を主材とし、セメントや石灰等の硬化剤を加えたものを用いることができる。
また、これらにアルミニウム塩や水ガラス等の可塑材を加えても良いし、アルミ等の発泡剤を加えて流動性を向上させても良い。また砂やシリカ系産業副産物等の粉体を主材とした可塑状グラウトを用いることもできる。特に可塑状保持時間を長く設定できる可塑状FMグラウトは優れている。
可塑状FMグラウトは石炭火力発電所の副産物であるフライアッシュを主材とし、これに硬化発現材と水を混合したフライアッシュモルタルに、或いはさらに添加剤を加えることにより得られた資源循環型のグラウト材であり、球形状粒子を多く含み、粒度分布が0.1mm以下90%以上であることから流動性がよいため、狭い空隙の隅々まで充填することができる。またスラグも鉄鉱石からの副産物である。
可塑状グラウト材の流動性を測定する方法としては、スランプ試験とフロー試験が知られているが、可塑状、つまり静止時では自立して変形することはないが、外力を加えると容易に変形するという状態を測定する方法としてはJIS R 5201に示すフロー試験が好ましい。
モルタル吹付面の原地盤との空隙は原地盤も劣化しているため多くの水みちが存在しており、その形状も種々あり、また空隙自体も法面に沿って大きく、または小さく隙間が変化しており、その空隙に注入された可塑状グラウトは長く傾斜した法面に沿って下方に流入しながら、その背面の地盤中の空隙を通して脱水しながら水/粉体比が変化すると共にフロー値も変化して、その流動性が変化しながら空隙を充填する。
また脱水と共にブリージング率が低下し、流動性が止まった時点ではブリージングがゼロとなって、空隙を生ずることなく固化する(後述の実験例参照)。また法面背部の空隙や水みちには土中水、或いは表面流下水が満たしている場合が多いが、可塑状グラウトは水中分散性が殆どないので、薄まって可塑性を失うことなくこれらの既存の水を地盤側に押しやって空隙や水みちを充填し、十分な強度で固結する。
また、既設吹付モルタル法面とその背面地盤間の隙間は、現地にて目視等により測定すればよい。また打撃を加えることによりモルタル法面の裏の間隙を推定できる。またRI測定や弾性波測定等によっても推定できる。
また、既設吹付モルタル法面とその背面地盤間の隙間を流れるグラウト材の各地点における脱水率は、既設吹付モルタルとその背面地盤の水分量を水分計によって測定し、その値から求めることができる。またRI測定等によって推定できる。
しかし本発明は上記特性を有する可塑状グラウトを処方した配合を用いることにより間隙の大小に係わらず自動的に充填されやすい。即ち背面地盤の透水性が大きい場合は脱水が大きく、従って流動性の低下が早くなり、充填性が早くなり背面の透水性が低い場合は流動性の低下が少なく細い間隙にまで充填しやすくなる。
このように本発明は法面・地盤間の間隙の流れと脱水性を考慮した流動性に基づいて配合された可塑状グラウト材を法面の傾斜による流下力で流動させ、空隙を自動的に充填することが可能になるものである。
以下に本発明の実験例を示す。
〔実験例〕
1.試験装置と試験方法
シリンダーフロー値の測定方法はJIS R 5201に示すフロー試験方法にて測定した。また、ブリージング測定方法はJSCE-F 522-2013、JSCE-F 532-2013である。使用した袋はPCグラウトブリージング率測定用ポリエチレン袋を使用した。強度測定は一軸圧縮強度測定を行った。
流動長試験は写真1のような装置を作製した。流動長は35cm〜120cmまで調整でき、またスリット幅を調整できる装置である。(図-8、図-9)2枚のスリット調製板は発泡スチロールの板を2枚の透明アクリル板で前後にはさむようにアングルにて固定した。
スリット幅は1mm、2mm、3mm、5mm、100mmと幅を変えて試験を行った。
流動長試験方法は、配合液を上部から900mlそそぎいれ、スリットから下部への浸透距離を測定した。配合液が上部から下部へ全通または止まるまでの速度を計測した。
2.使用材料
使用した材料を表-1に示す。
3.実験1
表-1の材料を用いて表-2の配合を基本配合(脱水率0%)として配合した。配合液は流下中に脱水して流動性が低下することを想定してその脱水率に対した脱水後の配合液の成分の配合量を算出した結果を表-3に示す。
また、脱水率に対応したシリンダーフロー値を表-4ならびに図2に示す。さらに脱水率に対応したブリージング率を図-3に示す。さらにその1週強度と4週強度を図-4に示す。
なお表-2の配合を基本配合としているが、この基本配合から脱水率に相当する配合水を減らして、水/粉体比を高めた配合を基本配合とした配合液を注入することができる。
この場合の脱水率に相当するシリンダーフローやブリージング率や強度はそれぞれの表や図から読み取れる。即ち、水/粉体比を調整することにより法面の空隙の大きさや空隙の長さに対応した配合を選定することができる。
脱水率に対する配合変化

脱水率は、配合中の水が試料外に逸脱して生じるものとする。
脱水率a%の時、体積は全試料のa%分減少するが、その減少分は水のみで起こるものとする。
脱水率=a%の時
全量=1000*(1-a/100) (l)
1m3当たりの各材料の配合は
スラグ= 配合スラグ量/(1-a/100) (kg)
セメント= 配合セメント量/(1-a/100) (kg)
ベントナイト= 配合ベントナイト量/(1-a/100) (kg)
水= (配合水量-1000*(a/100)/(1-a/100) (kg)

実験2
次に、実験1の表-2の配合をベントナイトの量を増加させた配合を表-5に示す。配合液は流下中に脱水して流動性が低下することを想定してその脱水率に対した脱水後の配合液の成分の配合量を算出した結果を表-6に示す。また、脱水率に対応したシリンダーフロー値を表-7ならびに図-5に示す。
さらに脱水率に対応したブリージング率を図-6に示す。さらにその1週強度と4週強度を図-7に示す。この実験よりベントナイトの量を調整することにより、脱水率に対応してシリンダーフローやブリージング率や強度を調整することができる。勿論主材の配合を調整して、これらの流動特性や強度の調整ができるので、法面の空隙状態や空隙長に応じて任意の流動特性が得られる配合を調整することができることが判る。
また法面の空隙状況に応じて流動中の配合液の脱水が行われた大きな空隙や細い空隙に対応した流動特性の配合液が充填され、ブリージングのない充填が可能になる。
また従来の矢板工法やトンネルの背面空洞注入工法に用いられる可塑状グラウトのフロー値が静止時においても8〜15cm、或いはモルタルグラウトが20±2cmであるのに対し、本発明では図-2、図-5より直後のフロー値が40〜8cmといった広い範囲のフロー値の配合を用いることができ、空隙状況に応じて水分量を減らして水/粉体比を少なくした配合を用いることもできるし、法面を流下している間に水/粉体比が減少して自動的に20〜8cmのフローとなり最終的にブリージングのない配合液で固結する配合を用いることもできる。
また図-2、図-5より脱水率が25%よりも大きくなると静止フロー値が20cm以下になり、ブリージングが1%〜0%になる事が判る(図-3、図-6)。
脱水率に対する配合変化

脱水率は、配合中の水が試料外に逸脱して生じるものとする。
脱水率a%の時、体積は全試料のa%分減少するが、その減少分は水のみで起こるものとする。
脱水率=a%の時
全量=1000*(1-a/100) (l)
1m3当たりの各材料の配合は
スラグ= 配合スラグ量/(1-a/100) (kg)
セメント= 配合セメント量/(1-a/100) (kg)
ベントナイト= 配合ベントナイト量/(1-a/100) (kg)
水= (配合水量-1000*(a/100)/(1-a/100) (kg)

4.流動長試験
実験1の表-3配合を用いて流動長試験を行った結果を表-8に示す。
流量長結果より
脱水率0%の配合では、スリット幅1mmではスリット長35cmの距離を11秒かけて通過した。スリット幅2mmと5mmは一気に下部まで通過した。
脱水率5%の配合では、スリット幅1mmではスリット長120cmの距離を72秒かけて通過した。
脱水率10%の配合では、スリット幅1mmではスリット長35cの距離を115秒かけて通過した。同様にスリット長50cmでは47cmの距離を2分かかり止った。
打撃
脱水率15%の配合では、スリット長35cmではスリット幅1mmでは24cmの距離を2分かかり止った。
脱水率20%の配合では、スリット長35cmではスリット幅1mmでは8.2cmの距離を1分かかり止った。スリット幅2mmでは、スリット長120cmの距離を4分57秒で通過した。
脱水率25%の配合では、スリット長35cmではスリット幅1mmでは2.2cmの距離を2分かかり止った。スリット幅2mmでは、9.3cmの距離を1分かかり止った。
以下使用したスリット長は120cmを使用した。
脱水率30%の配合では、スリット幅3mmでは10cmの距離を2分かかり止った。
スリット幅5mmでは120cmの距離を全通した。
脱水率35%の配合では、スリット幅5mmでは7.4cmの距離を7分かかり止った。
スリット幅10mmでは全通した。
脱水率40%の配合では、スリット幅5mmでは0.8cmの距離を1分かかり止った。
スリット幅10mmでは2.5cmの距離を1分かかり止った。
次に、表-6の配合を用いてスリット幅1mmの流動長試験を行った結果を表-9に示す。
脱水率0%の配合では、31.8cmの距離でとまり、脱水率5%の配合では15.7cmのところでとまった。脱水率10%の配合では、4.8cmまで流下した。
脱水率を変えることにより(即ち、水/粉体比を変えることにより)スリット幅の違いにより浸透する距離が変わることが分かった。さらに、基本配合を変えることにより流動特性を変えることが出来る。
これにより、ベントナイト量を増やすことにより、同一脱水率で流動性が低下したことが分かる。また同一フローが小さくなり、ブリージング率も減少した。強度が大きくなることが分かる。
このことは同様にベントナイト以外の粉体組成や水/粉対比を変えることによりまた流下中における空隙状況に対応した脱水率の変化による流動性の変化を考慮して基本配合を設定して異なる大きさや長さの空隙が十分充填固結させることが可能になる。
このようにして空隙状況や背面の地盤の透水性に対応してまた、亀裂の大小に対して適切な配合設計法を用いること背面の空洞全体に浸透させて空隙を生ずることなく十分な強度の填充を行うことが出来ることがわかる。
既設吹付モルタル法面の背面地盤間の隙間の幅に合わせて脱水率を考慮し、流動性グラウト材を充填すればよい。
矢板工法トンネルの背面空洞注入工法設計・施工要領より、一般的に使用されている材料の流動性のフロー値は静止時において、8〜15cmである。非漏出性は5mm以下の間隙に完全に流出があってはならないとなっているが、本発明においては空隙が多様な法面での使用であることから5mm以下の間隙に流出しないようでは目的を達することができない。
表-8より本発明では5mm以下1mmの間隙にも流入して脱水に伴い固化することが判る。また図-2、図-5より本発明工法に用いる可塑状グラウトの基本配合のフロー値は20cm以上であり、40cm程度でも良いが好ましくはフロー値35cm程度がよい。
また本発明において、空隙は1mmの幅でも充填できるがさらに細い空隙も充填する場合は予め非可塑性注入材、例えばゲル化の長い水ガラス系グラウトやシリカコロイド系グラウトやシリカゾル系グラウト、或いはセメント系グラウトやセメントベントナイト系グラウト等の浸透性グラウトで空隙を注入した上で可塑状グラウトを充填させれば、可塑状グラウトはこれらの浸透性グラウト中に分散することなく浸透性グラウトを可塑性グラウトが浸透できない細い空隙に押しやり固化せしめることができる。
即ち、可塑性グラウトの充填はより浸透性の良いグラウトを注入したあとに充填することができる。
本発明によれば、既設吹付モルタル法面と当該法面の背面地盤間の隙間に、グラウト材として前記法面と背面地盤間の隙間を流れるグラウト材の流下中の脱水率を考慮した流動性に基いて配合された可塑状グラウト材を充填することで、法面と背面地盤間の隙間全体にむらなく確実に充填施工を実施することができる。
また、特に既設吹付モルタルのはつり取り作業や背面地盤の土砂化した部分の撤去作業がないため、短期間のうちにきわめて効率的かつ経済的に充填施工を実施することができる。さらに短期施工が可能なことにより通行規制も部分規制でよい。
本発明の既設吹付モルタル法面の老朽化対策工法の施工方法を示す既設吹付モルタル法面の断面図である。 脱水率とシリンダーフロー値との関係を示すグラフである。 脱水率とブリーディング率との関係を示すグラフである。 脱水率と一軸強度との関係を示すグラフである。 脱水率とシリンダーフロー値との関係を示すグラフである。 脱水率とブリーディング率との関係を示すグラフである。 脱水率と一軸強度との関係を示すグラフである。 流動長試験装置の上面図である。 流動長試験装置の平面図である。 流動長試験装置の外観を示す図である。
本発明の既設吹付モルタル法面の老朽化対策工法は、(1)現地調査、(2)可塑状グラウト材を製造、および(3)可塑状グラウト材の充填施工の三工程からなる。
(1)現地調査
現地調査は、充填施工に用いられる可塑状グラウト材を現地の条件にあった最適な流動性を有するように製造するのに必要な情報を得るために実施するものであり、現地調査により既設吹付モルタル法面1とその背面地盤2間の隙間3の幅d、既設モルタル法面1と背面地盤2の水分量、さらに既設吹付モルタル法面1の勾配等を計測する。
既設吹付モルタル法面1とその背面地盤2間の隙間3の幅dは、目視しながらゲージ等によって直接計測することができる。また、既設吹付モルタル法面1と背面地盤2間の隙間3の幅dは、背面地盤2の劣化の進行の程度により法面全体に一様でないことが予想されることから複数地点について計測するのが望ましい。
既設吹付モルタル法面1と背面地盤2の水分量は、電気抵抗やラジオアイソトープなどを利用した水分計を用いて直接計測することができる。また、既設モルタル法面1と背面地盤2の水分量は、法面全体に一様でないことから複数地点の水分量を計測するのが望ましい。
(2)可塑状グラウト材の製造
可塑状グラウト材の主な配合材は、セメント、FM(フライアッシュモルタル)やスラグやこれらと砂等の混合物等のシリカ系粉体(主材)、普通セメントや高炉セメント或いは石灰等の硬化性材料、粘土、ベントナイト、スーパークレイ(等の混和剤、アルミ粉等の発泡剤、)或いは水ガラスや硫酸アルミニウム等の可塑材および水であり、これらの配合材料を既設吹付モルタル法面1と背面地盤2間の隙間3内を流れるグラウト材4の流動性と脱水率やブリージング率考慮して、各材料の配合比を決定する。
すなわち、製造された可塑状グラウト材4が既設吹付モルタル法面1と背面地盤2間の隙間3内を法面の上部から下部に向かって、途中既設吹付モルタル1と背面地盤2によって脱水されながら流れ落ち、かつ法面表面に漏出することなく法面の内部で停止して法面の下部から上部に向かって順次ゲル化するような流動性を有するように配合する。実際の法面においては、法面が傾斜しており、可塑状グラウトは重力の関係より空隙があれば法面表面より地盤側に流入する。
具体的には、図-1において、既設吹付モルタル法面1と背面地盤2間の隙間3の幅dと既設吹付モルタル法面1と背面地盤2間の隙間3内を流れる可塑状グラウト材4の各地点における脱水率から可塑状グラウト材の流動長を推定し、当該流動長を保持するように各配合材の配合比を決定する。
(3)可塑状グラウト材の充填施工
可塑状グラウト材の充填施工は原則、法面の上端部から実施し、法面がかなり長くかつかなり広い場合は法面勾配方向と幅方向の複数地点から実施してもよい。また、充填施工は法面の勾配とグラウト材の流動性を利用して実施してもよいが、充填用ポンプを利用して強制的に実施することもできる。
またミキサー中で可塑状グラウトを配合して空隙に注入又は充填しても良いし、主材と可塑材を法面の任意の地点に設置した注入管を介して自然流下或いはポンプで注入地盤中に合流注入しても良い。
さらに、既設吹付モルタル法面1と背面地盤2間の隙間3の幅dが大きく劣化した背面地盤の場合は、法面の下部から充填用ポンプを用いて充填施工を強制的に実施することもできる。勿論、注入に当っては法面上に配合液が噴出しないように出来るだけ低圧注入するのが好ましい。
本発明は、道路などに面して施工された既設吹付モルタル法面とその背面地盤間の隙間に可塑状グラウト材を隙間全体にむらなく充填することにより既設吹付モルタル法面の老朽化対策を効率的かつ経済的に実施することができる。
1 既設吹付モルタル法面
2 背面地盤
3 隙間
4 可塑状グラウト材

Claims (4)

  1. 既設吹付モルタル法面と当該既設吹付モルタル法面の背面地盤間の隙間に流動性グラウト材を法面の勾配を利用した自然流下によって充填することにより、前記既設吹付モルタル法面を補修・補強する既設吹付モルタル法面の老朽化対策工法であり、前記流動性グラウト材は、前記既設吹付モルタル法面と前記背面地盤間の隙間を自然に流下する間の、前記既設吹付モルタル法面および背面地盤による脱水と前記既設吹付モルタル法面と前記背面地盤間の隙間幅を考慮した流動性と流動長に基いて配合された可塑状グラウト材であるあることを特徴とする既設吹付モルタル法面の老朽化対策工法。
  2. 請求項1記載の既設吹付モルタル法面の老朽化対策工法において、前記流動性グラウト材は、8〜40cm内の静止フロー値を呈し、5cm以下の隙間にも流入が可能で、かつ脱水によってフロー値が20cm以下にもなる流動特性を有するように配合された可塑状グラウ材であることを特徴とする既設モルタル法面の老朽化対策工法。
  3. 請求項1または2記載の既設吹付モルタル法面の老朽化対策工法において、前記既設吹付モルタル法面と前記背面地盤間の隙間に浸透性の非可塑状グラウト材を注入し、その後から前記可塑状グラウト材を充填することにより、前記浸透性の非可塑状グラウト材を前記可塑状グラウト材が浸透できない空隙に押しやり固化せしめることを特徴とする既設吹付モルタル法面の老朽化対策工法。
  4. 請求項1〜3のいずれかひとつに記載の既設吹付モルタル法面の老朽化対策工法において、前記流動性グラウト材は、フライアッシュを主材とし、これに硬化発現材と水を混合したフライアッシュモルタル、または当該フライアッシュモルタルに添化剤を加えることにより得られる資源循環型の可塑状グラウト材であることを特徴とする既設モルタル法面の老朽化対策工法。
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