以下、本発明に係る、観察又は加工のための視野範囲内に一度に収まらないような試料上の大領域に対し、微細な加工パターンの高精度な連続反復加工や一連一体加工が可能な集束イオンビーム装置、及びこの集束イオンビーム装置を用いた試料加工方法の実施の形態について、図面とともに説明する。
<第1の実施の形態>
本実施の形態では、試料上の大領域に高精度な連続反復加工により同一の加工パターンを繰り返し複数加工する試料加工方法について、図面とともに説明する。
図1は、本実施の形態に係る試料加工方法に用いられる集束イオンビーム装置の一実施例の概略構成図である。
図2は、図1に示した集束イオンビーム装置の機能構成の一実施例を示した機能ブロック図である。
図1,図2に示すように、集束イオンビーム装置10は、FIBカラム110及び試料室120を備えた真空筐体ブロック100と、FIBカラム110及び試料室120に設けられた各部の作動制御を行う制御部200と、FIB装置全体の動作制御や観察画像の取得等を行うコンピュータ部300とを有する。コンピュータ部300は、OSD(On-Screen Display)機能が備えられた表示部310と、キーボードやマウス等の操作機器を備えた操作入力部320とが付設された構成になっている。
FIBカラム110には、イオンビーム(FIB)11を発生するイオン源111と、イオン源111から発生したイオンビーム11を加速、集束及び偏向し、試料ステージ121上の試料20に導くイオンビーム光学系112とが設けられている。
イオン源111には、例えば、カリウム等の金属イオン源又はアルゴンや酸素等の不活性ガスイオン源を用いられている。
イオンビーム光学系112は、イオン源111から引き出されたイオンビーム11を試料上に集束させるコンデンサーレンズ及び対物レンズ、これらコンデンサーレンズ及び対物レンズの間に配置されたイオンビーム制限絞り板、イオンビーム11の軸補正及びビーム形状補正を行うアライナー・スティグマ、観察又は加工のための視野範囲に対応する試料上でイオンビーム11の照射位置を二次元走査するブランカー及び偏向器、等を備えている。
試料室120は、試料20を搭載可能な試料ステージ121、イオンビームの照射によって試料20から発生した二次粒子(二次電子、二次イオン)を検出する二次粒子検出器122、等を有する構成になっている。
試料ステージ121は、例えば、X-Y軸(水平面方向)、Z軸(高さ方向)、R軸(回転方向)、T軸(傾斜方向)に駆動可能な5軸式のステージであり、その試料載置面がX,Y,Z方向それぞれへの平行移動に加え、回転可能及び傾動可能な構成になっている。これにより、試料ステージ121のR軸と、試料ステージ121に載置された試料20の中心位置とがずれている場合であっても、試料ステージ121は、試料20の中心位置を通る軸周りに試料20を回転できるようになっている。
二次粒子検出器122は、シンチレータと光電子増倍管とを組み合わせた構成が採用され、二次粒子の衝突によりシンチレータが発する非常に微弱な光を、光電子増倍管が検出可能な電気信号として取り出す構成になっている。二次粒子検出器122の出力は、A/D変換され、集束イオンビーム11の照射によって試料20から放出される二次粒子の検出信号としてコンピュータ部300に供給される。
制御部200は、イオン源111を制御するイオン源制御部211、イオンビーム光学系112を制御するイオンビーム制御部212、試料ステージ121の動作を制御するステージ制御部221を有する。
イオン源制御部211は、コンピュータ部300からの指示に基づいてイオン源111に電圧を印加し、イオン源111をプラズマ化してイオンビーム11を発生させる。イオンビーム11は、イオン源111に付設された引き出し電極等により導出される。
イオンビーム制御部212は、イオンビーム制限絞り板を駆動する絞り駆動部、アラナイナー・スティグマを制御するアラナイナー・スティグマ制御部、ブランカーを制御するブランキング・アンプ、偏向器を制御してイオンビームを偏向・走査する偏向制御部、対物レンズに印加する電力を制御するレンズ電源、等を備えている。これらは、いずれもコンピュータ部300からの指示に基づいて、各部の駆動を制御する。
ステージ制御部221は、コンピュータ部300からの指示に基づいて、各軸部のアクチェータを駆動制御して、試料ステージ121の位置・姿勢を制御する。
コンピュータ部300は、設定入力データ及び試料加工プログラムに従って、加工を行いたい試料上の範囲が観察又は加工のための視野範囲内に一度に収まらないような試料上の大きさ範囲である大領域に対して、加工パターンの試料加工を制御部200のそれぞれ各部を介して実行制御する。また、その際、二次粒子検出器122からの検出信号をその信号強度に応じた輝度信号に変換し、かつ二次粒子の検出信号を偏向制御部に指令したビーム偏向信号(走査信号)と同期させることにより、試料上の視野範囲の走査型イオン顕微鏡像(SIM(scanning ion microscope)像)を生成する。
表示部310は、コンピュータ部300からの指示を基に、コンピュータ部300で画像生成されたSIM画像、各種操作入力のためのGUI(Graphical User Interface)、、等を表示する。
操作入力部320は、試料加工に際して、表示部310にOSD機能によって表示されるGUI上で、操作入力部320の操作機器を用いて、試料情報、加工パターン情報、試料加工方法の種別情報、加工条件、等の試料加工情報を、設定又は登録操作する。
その上で、コンピュータ部300は、大領域に対する加工パターンの連続反復加工用や一連一体加工を含む試料加工を実行するために、図2に示したように、画像制御部301、記憶部302、マーク検出部303、制御演算部304等を有する。
画像制御部301は、画像メモリや画像処理部を含み、二次粒子検出器122からの二次粒子の検出信号をその信号強度に応じた輝度信号に変換して画像メモリに記憶し、また、輝度信号に変換された二次粒子の検出信号を偏向制御部に指令したビーム偏向信号と同期して画像メモリから読み出すことにより、試料上の視野範囲に係るSIM像を生成する。
記憶部302には、試料上の大領域に対する加工パターンの連続反復加工プログラムや一連一体加工プログラムを含む各種試料加工プログラム、加工パターン検出用マークのマーク情報、等が記憶されているとともに、これら試料加工プログラムを用いた試料加工を実行する際には、その実行に際して設定又は登録された試料加工情報、その実行途中に画像制御部301で生成されて取得したSIM像の画像データ、等が記憶される。
マーク検出部303は、試料上の大領域に対する加工パターンの加工開始に当たって、必要に応じて、記憶部302に記憶された加工パターン検出用マークの登録情報を基に加工パターン検出用のマークを検出する。マーク検出部303は、試料上の大領域に対する加工パターンの加工開始に当たって、検出された加工パターン検出用のマークの位置情報とその加工パターン検出用のマークの登録された位置情報とのずれ量を算出し、イオンビームの加工開始に当たっての照射位置を補正する。
制御演算部304は、マーク検出部303からの補正値、記憶部302に記憶された試料加工情報、等を基に、イオン源制御部211、イオンビーム制御部212、ステージ制御部221、等を制御して、試料上の大領域に対する加工パターンの連続反復加工や一連一体加工を実行制御する。
次に、上述した構成からなる集束イオンビーム装置10を用いた、試料上の大領域に対し微細な加工パターンを加工するための試料加工方法の実施例について、図面に基づき説明する。なお、ここでは、集束イオンビーム装置10は、試料室内で試料ステージ121を移動位置させる際は、試料ステージ121の移動原点を基準としたステージ座標系で、その移動位置を管理するようになっているものとする。一方、試料上の微細な加工パターンに係る情報は、試料20の外形を基準とした試料座標系で、管理されているものとする。これに伴い、集束イオンビーム装置10では、試料ステージ上における試料20の載置位置、載置方向等に基づいて、ステージ座標系と試料座標系との間のオフセットが算出されており、試料加工時は、これらオフセットを基にして、試料座標系上の座標値をステージ座標値により管理できるようになっている。
図3は、試料上の大領域に微細な加工パターンを連続反復加工する前の試料、及び連続反復加工した後の試料のイメージ図である。
図示の例では、図3(A)に示すような、所定半径及び厚さの薄厚円板試料21の周縁部に、図3(B)に示すように、その周方向に外周全域に亘って、所定間隔に、加工パターンとして同一のV字形状の溝パターン22を繰り返し連続して作製して、歯車状の試料21を作製する例を示している。なお、このV字形状の溝パターン22は、微細な加工パターンの一例であって、微細な加工パターンの形状等を限定するものではない。
集束イオンビーム装置10では、歯車状の試料21を作製するに当たって、表示部310にOSD表示されたGUIに従った操作入力部320の操作によって、試料情報、加工パターン情報、試料加工方法の種別情報、加工条件、等の試料加工情報を設定できるようになっている。
試料情報は、加工対象試料の形状データ、サイズデータ、等が該当する。図3に示した薄厚円板試料21の場合は、形状データは、試料の厚さ方向(軸線方向)に沿って眺めた平面形状が円形、軸線に垂直な水平方向(試料の径方向)から眺めた側面形状が細長矩形、等といった試料外観に関する情報である。サイズデータは、この薄厚円板試料21の、半径の大きさ、厚さ、回転中心位置、等といった試料寸法に関する情報である。
加工パターン情報は、加工パターンの形状データ、サイズデータ、等が該当する。図3に示したV字形状の溝パターン22の場合は、形状データとしては、試料の厚さ方向(軸線方向)に沿って眺めた平面形状がV字形状、等といった加工パターンの外観に関する情報である。サイズデータは、このV字形状の溝パターン22の、溝幅(薄厚円板試料21の周縁部の接線方向に沿った加工長)、溝深さ(薄厚円板試料21の径方向に沿った加工長)、溝長さ(薄厚円板試料21の厚さ方向に沿った加工長)、等といった加工パターン寸法に関する情報である。
試料加工方法の種別情報は、試料上の大領域における加工パターンの連続反復加工、試料上の大領域における加工パターンの一連一体加工、等といった試料加工方法の種別に関する情報が該当する。図3に示した薄厚円板試料21の場合は、試料加工方法の種別として、試料上の大領域に対する加工パターンの連続反復加工が選択される。
加工条件は、観察及び加工それぞれためのイオンビーム11のビーム条件情報や、試料上に加工パターンを試料加工する際に利用される個別加工条件情報、等が該当する。図1に示した集束イオンビーム装置10の場合は、ビーム条件情報としては、イオンビーム11のビーム電流の種類、試料上の走査位置でのビーム照射時間、ビーム走査回数、等といったイオンビーム11の照射に関する情報である。具体的には、ビーム電流の種類としては、観察ビームモード、加工ビームモード(高速加工モード/低ダメージ加工モード)がある。また、個別加工条件情報としては、図3に示した薄厚円板試料21にV字形状の溝パターン22を連続反復加工する場合は、試料ステージ上における試料の載置位置、試料上における大領域の範囲(連続反復加工範囲)、試料上の大領域における加工パターンの加工位置(作製位置)、加工間隔(作製間隔、すなわち隣り合う加工パターン間の離間距離若しくは回転角度)、加工個数(作製個数)、等がある。なお、この個別加工条件情報については、例えば、加工位置や加工間隔については、大領域の範囲(連続反復加工範囲)と加工個数(作製個数)とから導出可能することも可能であり、これら全てを有することが必須ではない。
なお、この個別加工条件情報の中には、図3に示した薄厚円板試料21の周縁部の全周に亘って同じV字形状の溝パターン22のみを形成するような場合は省略することも可能であるが、最初の加工パターンを加工するための視野範囲、すなわち試料上に最初の加工パターンを加工するための試料上の位置を調整するための加工パターン検出用のマークのマーク情報(マーク形状及びマーク位置)も必要に応じて含まれる。加工パターン検出用のマークについては、薄厚円板試料21の表面において、加工パターンと同じ視野内に特徴的な形状があれば、その特徴的な形状を利用することもできる。
本実施例の場合、試料加工情報の中、試料情報、加工パターン情報、加工条件、等は、試料加工方法の種別で選択指定された試料加工プログラムで用いられる制御情報として取り扱われる。
次に、図3に示した歯車状の試料21を試料加工する場合を例に、集束イオンビーム装置10によって実行されるV字形状の溝パターン22の連続反復加工処理について、図4、図5に基づいて説明する。
図4は、集束イオンビーム装置によって実行される、加工パターンの連続反復加工による試料加工手順を示したフローチャートである。
図5は、加工パターンの連続反復加工による試料加工のイメージ図である。
集束イオンビーム装置10を用いて、試料上の大領域に対し、微細な加工パターンの高精度な連続反復加工を行う場合は、試料加工情報に含まれる試料加工方法の種別として、試料上の大領域における加工パターンの連続反復加工が選択・設定されている場合に該当する。
この場合、集束イオンビーム装置10では、コンピュータ部300は、試料上の大領域における加工パターンの連続反復加工による試料加工を開始するに当たり、試料情報、加工パターン情報、加工条件、等の試料加工情報の中、今回の、加工パターンの連続反復加工による試料加工で必要な、試料情報、加工パターン情報、加工条件を設定するためのGUI画面を、表示部310に表示する。
集束イオンビーム装置10では、操作入力部320の操作によって、例えば、薄厚円板試料21の形状データ(円形)、サイズデータ(半径の大きさ、厚さ、中心位置)が設定されると、コンピュータ部300の制御演算部304は、今回の加工パターンの連続反復加工による試料加工に用いる試料情報として、記憶部302に登録する(図4、ステップS101)。
また、集束イオンビーム装置10では、操作入力部320の操作によって、加工パターンのパターンデータとして、V字形状の溝パターン22が選択されると、コンピュータ部300の制御演算部304は、その設定された形状データ、サイズデータについても、今回の、加工パターンの連続反復加工による試料加工に用いる加工パターン情報として、記憶部302に登録する。
さらに、集束イオンビーム装置10では、操作入力部320の操作によって、例えば、加工条件として、観察及び加工のためのビーム条件情報や、試料上に加工パターンを試料加工する際に利用される加工条件(試料21の試料ステージ上における載置位置情報、試料上の大領域の範囲情報、加工パターンの加工位置や加工間隔といった個別加工条件情報、等)が設定されると、コンピュータ部300の制御演算部304は、今回の、加工パターンの連続反復加工による試料加工に用いる加工条件として、記憶部302に登録する(ステップS102)。なお、試料ステージ上に、加工対象として、薄厚円板試料21が互いの載置位置を変えて複数載置されている場合は、試料の載置位置情報としてそれぞれの薄厚円板試料21の載置位置情報が全て登録される。
なお、これら試料加工情報の登録は、操作入力部320の操作による個別入力によらず、予め登録されている所望の試料加工レシピを選択設定することにより、自動的に登録するようにすることも可能である。
集束イオンビーム装置10では、このようにして、加工パターンの連続反復加工による試料加工に用いられる、試料情報、加工パターン情報、加工条件、等の試料加工情報が登録されると、コンピュータ部300の制御演算部304は、試料加工情報から、例えば、今回の加工パターンの連続反復加工における加工終了条件、等の判定情報を取得又は演算し、記憶部302に登録する(ステップS103)。この場合、加工終了条件とは、一の薄厚円板試料21に対する試料加工の終了判定や、試料ステージ上に載置されている複数の薄厚円板試料21全体についての試料加工についての終了判定のための、判定情報を指す。例えば、加工終了条件としては、一の薄厚円板試料21についての加工終了を判定するためには、加工条件の加工個数(作製個数)が利用される。また、試料ステージ上に載置されている複数の薄厚円板試料21全体についての加工終了を判定するためには、薄厚円板試料21の載置個数が利用される。
集束イオンビーム装置10では、このようにして加工パターンの連続反復加工の実施のための準備がなされ、加工対象としての最初の薄厚円板試料21が載置された試料ステージ121が試料室内の所定位置に配置されると、この準備完了、又は操作入力部320の実行開始の操作入力に基づき、薄厚円板試料21の大領域に対するV字形状の溝パターン22の連続反復加工による試料加工が開始される(ステップS104)。
連続反復加工による試料加工の開始に当たっては、集束イオンビーム装置10では、まず、コンピュータ部300の制御演算部304が、イオン源制御部211、イオンビーム制御部212、ステージ制御部221を介して、イオン源111、イオンビーム光学系112、試料ステージ121を制御して、その観察及び加工のための視野範囲を、加工パターン検出用のマークが設けられた最初の加工パターンを加工する薄厚円板試料21の周縁部に合わせる。
そして、集束イオンビーム装置10では、コンピュータ部300の制御演算部304が、イオン源制御部211、イオンビーム制御部212を介して、イオン源111、イオンビーム光学系112を制御して、視野範囲における、加工パターン検出用のマークが設けられた部分の試料上を観察ビームモードでイオンビーム11を走査する。
コンピュータ部300のマーク検出部303は、その際における加工パターン検出用のマークの検出位置と、予め登録されている試料上におけるマークの配置位置とに基づいて、今回の加工パターンの連続反復加工の実行開始に当たっての、試料ステージの移動誤差(位置再現性)やビームドリフトに起因する開始当初の誤差を取得する。
なお、この開始当初の誤差の補正は、図3に示した薄厚円板試料21の周縁部の全周に亘ってV字形状の溝パターン22のみを形成するような場合は、加工パターン検出用のマークの検出を行わずとも、試料加工情報の中の試料情報の特徴的な形状を利用して算出可能である。
そして、集束イオンビーム装置10は、コンピュータ部300の制御演算部304が、この開始当初の誤差を補正して、ステージ制御部221を介して、試料ステージ121を制御して試料ステージ121を移動させることにより、又はイオン源制御部211、イオンビーム制御部212を介して、イオン源111、イオンビーム光学系112を制御して最初のV字形状の溝パターン22の加工のための視野範囲を移動させることによって、試料上の大領域における最初のV字形状の溝パターン22の加工位置を正確に決定し、加工のための視野範囲を最初の加工位置に正確に合わせることができる。
その上で、集束イオンビーム装置10は、コンピュータ部300の制御演算部304が、イオン源制御部211、イオンビーム制御部212を介して、イオン源111、イオンビーム光学系112を制御して、視野範囲の試料上を、登録された試料加工情報に基づいて、加工ビームモードのイオンビーム11をビームシフトで走査開始する。これにより、薄厚円板試料21の周縁部にV字形状の溝パターン22、すなわち、この場合は、最初のV字形状の溝パターン22の試料加工が開始される。
その後、集束イオンビーム装置10は、登録された試料加工情報に基づいて、薄厚円板試料21の周縁部にV字形状の溝パターン22、すなわち、この場合は、最初のV字形状の溝パターン22の試料加工を完了させる(ステップS105)。
そして、集束イオンビーム装置10は、コンピュータ部300の制御演算部304が、先にステップS103で登録した加工終了条件を基に、この薄厚円板試料21の大領域に対するV字形状の溝パターン22の連続反復加工が全部終了したか否かを、例えば加工終了条件の加工個数を基に判定する(ステップS106)。
集束イオンビーム装置10は、コンピュータ部300の制御演算部304が、この薄厚円板試料21の大領域に対するV字形状の溝パターン22の連続反復加工が全部終了していない場合は、ステップS107〜S110の処理を実行する。これに対して、コンピュータ部300の制御演算部304は、この薄厚円板試料21の大領域に対するV字形状の溝パターン22の連続反復加工が全部終了した場合は、ステップS111の処理を実行する。
ここで、連続反復加工が全部終了していない場合は、集束イオンビーム装置10は、観察ビームモードで、ステップS105で加工完了したV字形状の溝パターン22及びその近傍の画像を、V字形状の溝パターン22の作製後の位置合わせ用の基準画像として取得する(ステップS107)。
図5(A)は、連続反復加工による最初の加工パターンの試料加工が完了した状態のイメージ図である。
したがって、大領域に対してのV字形状の溝パターン22の連続反復加工においては、この最初のV字形状の溝パターン22及びその近傍の画像が最初の位置合わせ用の基準画像として取得されることになる。
すなわち、ステップS107の画像取得では、例えば、コンピュータ部300の制御演算部304が、ステップS104で説明した加工のための視野範囲を変えずに今度は観察のための視野範囲で、イオン源制御部211、イオンビーム制御部212を介して、イオン源111、イオンビーム光学系112を制御して、視野範囲の試料上を観察ビームモードでイオンビーム11を走査する。一方、コンピュータ部300の画像制御部301は、その際における二次粒子検出器122からの検出信号を基に、ステップS104で説明した加工のための視野範囲を変えないままの、作製した溝パターン22及びその近傍の画像を生成し、記憶部302に位置合わせ用の基準画像510として記憶することになる。この結果、この位置合わせ用の基準画像510は、ステップS104,ステップS105で示されるV字形状の溝パターン22の加工時とイオンビーム光学系112と試料ステージ121との相対関係が変わらない状況で、最初のV字形状の溝パターン22を加工した際のイオンビーム11及び試料ステージ121の状況を反映したものになる。
その後、集束イオンビーム装置10は、この位置合わせ用の基準画像510の取得後、コンピュータ部300の制御演算部304が、先に登録された試料加工情報に従って、ステージ制御部221を介して、試料ステージ121を制御して、大領域内の、次のV字形状の溝パターン22の加工位置である薄厚円板試料21の周縁部を観察及び加工のための視野範囲内に位置させるように、試料ステージ121を移動させる(ステップS108)。その際、試料ステージ121は、薄厚円板試料21の中心位置を通る軸周りに薄厚円板試料21を加工間隔だけ回転させるように移動する。これに伴い、最初のV字形状の溝パターン22は、ステップS107の画像取得時に対して、薄厚円板試料21の試料上を加工間隔だけ回転した位置に移動したことになる。
図5(B)は、次の加工パターンの試料加工を行うに当たって、試料を加工間隔だけ回転した状態のイメージ図である。
集束イオンビーム装置10は、次の試料上の加工位置に対しての試料ステージ121の移動が完了したならば、コンピュータ部300の制御演算部304が、先に登録された試料加工情報に従って、イオン源制御部211、イオンビーム制御部212を介して、イオン源111、イオンビーム光学系112を制御して、ステップS107の画像取得時に対して、薄厚円板試料21の試料上を加工間隔だけ回転した位置を含むように、視野範囲を移動させて、この視野範囲の試料上を観察ビームモードでイオンビーム11を走査する。これに伴い、コンピュータ部300の画像制御部301は、その際における二次粒子検出器122からの検出信号を基に、この移動させた視野範囲で、先に作製したV字形状の溝パターン22及びその近傍の画像を生成し、記憶部302にV字形状の溝パターン22の次の加工位置の位置合わせ用の比較画像520として記憶する(ステップS109)。すなわち、この位置合わせ用の比較画像520では、試料ステージ121はステップS107で示した基準画像510の取得時である試料加工完了時から移動しており、ステップS104,ステップS105で示されるV字形状の溝パターン22の加工時とイオンビーム11及び試料ステージ121の状況が変わった、次のV字形状の溝パターン22の加工の際のイオンビーム11及び試料ステージ121の状況を反映したものになる。
そこで、集束イオンビーム装置10は、コンピュータ部300の制御演算部304が、先に取得したV字形状の溝パターン22の作製後の位置合わせ用の基準画像510と、次のV字形状の溝パターン22の加工位置の位置合わせ用の比較画像520とを対照させて、最初のV字形状の溝パターン22を加工する際と次のV字形状の溝パターン22を加工する際との間の、試料ステージの移動誤差(位置再現性)やビームドリフトに起因する誤差を算出して、この誤差に基づき、視野範囲及び/又は試料ステージ121の位置をさらに補正することによって、次のV字形状の溝パターン22の加工位置を決定する(ステップS110)。
この場合、誤差は、基準画像510と比較画像520とで観察対象のV字形状の溝パターン22が同一の加工パターンであるので、例えば、両画像それぞれのV字形状の溝パターン22部分の画像データの相関演算を行うことにより精度よく演算することができる。この誤差の具体的な演算は、種々の仕方がある。一例として、両画像それぞれのV字形状の溝パターン22部分の画像データに係る相関ピークのずれ等に基づき、薄厚円板試料21の試料上を加工間隔だけ回転させるように試料ステージ121が移動する前後の、同一のV字形状の溝パターン22についての向きの違い、すなわち実際に移動させられた加工間隔を容易に算出することができる。
したがって、集束イオンビーム装置10は、コンピュータ部300の制御演算部304が、ステップS108で先に登録された試料加工情報に従って移動させた次のV字形状の溝パターン22の加工位置に対して、ステップS110で算出された誤差量を補正するように、試料ステージ121を制御して試料ステージ121を移動位置させることにより、又はイオン源111、イオンビーム光学系112を制御して次のV字形状の溝パターン22の加工のための視野範囲を移動させることによって、試料上の大領域における次のV字形状の溝パターン22の加工位置を正確に決定することができる。
そして、これ以降の順番の次のV字形状の溝パターン22の加工位置の決定については、上述したステップS104〜S110の処理を繰り返し行うことによって、それ以降の加工位置毎に、すなわち大領域を分割した部分領域毎に、加工位置補正用マークの形成や補正情報の登録が予め行われていなくても、試料上の大領域に高精度なV字形状の溝パターン22の連続反復加工が行える。
上述したステップS104〜S110の処理を繰り返しにおいて、ステップS106で、コンピュータ部300の制御演算部304が、先にステップS103で登録した加工終了条件を基に、この薄厚円板試料21の大領域に対するV字形状の溝パターン22の連続反復加工が全部終了したことを、例えば加工パターンの加工情報としての加工個数を基に判定すると、ステップS111で、試料ステージ上に載置位置を変えて載置されている別の加工が済んでいない薄厚円板試料21が残っていないことを確認し、残っている場合には、その残っている加工が済んでいない薄厚円板試料21それぞれについて順番に上述したステップS104〜S110の処理を繰り返し行って、試料ステージ上に載置位置を変えて載置されている薄厚円板試料21全てについての加工を終了させる。
したがって、集束イオンビーム装置10によって上述したように実行されるV字形状の溝パターン22の連続反復加工によれば、観察又は加工のための視野範囲内に一度に収まらないような試料上の大領域において、この大領域を分割した部分領域毎に、加工位置補正用マークの形成や補正情報の登録を行っておくこともなく、微細な加工パターンに係る高精度な連続反復加工を円滑に実行することができる。
すなわち、本実施の形態の連続反復加工による加工パターンの試料加工手順は、
・ 試料加工によって作製された加工パターンを含む視野範囲で位置合わせ用の基準画像の取得、
・ 作製された加工パターンを、その加工位置から加工間隔だけ移動させて、次の加工パターンの加工位置をこの加工位置に位置させるための試料ステージの移動、
・ 加工間隔だけ移動させた後の加工パターンについて、加工パターンを含む視野範囲で位置合わせ用の比較画像の取得、
・ 位置合わせ用の基準画像と位置合わせ用の比較画像との対照に基づき、試料ステージの移動誤差(位置再現性)やビームドリフトがないかを確認し、誤差がある場合には、この誤差を解消するように試料ステージ又は加工のための視野範囲を移動、
・ 次の加工パターンの加工、
を、事前に登録した加工終了条件になるまで繰り返し実行することを特徴とする。
また、位置合わせ用の基準画像や比較画像を取得するための、観察のための視野範囲の大きさ、すなわち画像サイズは、できるだけ集束イオンビームによる試料面の汚染を防ぐため小さな領域とするか、加工条件の設定時に加工条件の一つとして又は加工条件と一緒に、任意の大きさに決定できるようにすることも可能である。具体的には、例えば、V字形状の溝パターン22の場合、そのV字型形状全体を視野範囲に含まずとも、所定の一片若しくは一頂点を含む位置合わせ用の基準画像や比較画像を取得するだけでも、同様な効果を達成することができる。
<第2の実施の形態>
本実施の形態では、試料上の大領域に高精度な一連一体加工により観察又は加工のための視野範囲内に一度に収まらない大きさの加工パターンを加工する試料加工方法について、図面とともに説明する。
図6は、本実施の形態に係る試料加工方法に用いられる集束イオンビーム装置の一実施例の概略構成図である。
本実施の形態に係る試料加工方法の説明では、試料の断面作製と断面観察を連続に行うことができる走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope、SEM)付集束イオンビーム装置30を用いた場合を例に、説明する。なお、その説明に当たって、図1及び図2に示した集束イオンビーム装置10と同一若しくは同様な構成については、その説明及び図示を省略する。
図6は、走査型電子顕微鏡付集束イオンビーム装置の概略構成図である。
走査型電子顕微鏡付集束イオンビーム装置30は、真空筐体ブロック100に、FIBカラム110、試料室120に加えて、SEMカラム130が備えられ、FIB装置部31とSEM装置部32とを有する集束イオンビーム装置になっている。
図示のSEM付集束イオンビーム装置30では、SEMカラム130は、FIBカラム110からの集束イオンビーム11と、SEMカラム130からの一次電子ビーム12とが試料室内で鋭角に交差できるように、真空筐体ブロック100に備えられてる。SEMカラム130には、電子ビーム12を発生する電子源と、電子源から発生した電子ビーム12を加速、集束及び偏向し、試料ステージ121上の試料20に導く電子ビーム光学系とが設けられている。二次粒子検出器122は、試料上への集束イオンビーム11の照射又は一次電子ビーム12の照射により試料上の照射部位から放出される二次電子、二次イオンといった二次粒子を検出する。
SEM付集束イオンビーム装置30は、FIBカラム110、SEMカラム130及び試料室120を備えた真空筐体ブロック100と、FIBカラム110、SEMカラム130及び試料室120に設けられた各部の作動制御を行う制御部200と、走査型電子顕微鏡付集束イオンビーム装置全体の動作制御や観察画像の取得等を行うコンピュータ部300とを有する。この場合、制御部200は、イオン源制御部211、イオンビーム制御部212及びステージ制御部221に加えて、電子源制御部及び電子ビーム制御部を有する。
このようなSEM付集束イオンビーム装置30は、両ビームの走査画像、すなわちSIM像とSEM像とで試料上の同じ領域の画像を表示することができるデュアルビーム装置となっている。そのため、電子ビームの視野範囲に含まれるように試料上に加工パターンをFIB加工すれば、その加工断面は、試料20を傾斜せずに試料ステージ121はそのままの姿勢でSEM観察することができ、このFIB加工とSEM観察を繰り返していけば、加工面の奥行き方向に連続的な断面画像が生成できるようになっている。
図7は、図6に示したSEM付集束イオンビーム装置により実施する断面作製と断面観察の説明図である。
図7では、所定の片長さ及び厚さの薄厚正方形板試料25の試料上に、所定の溝幅、溝深さ、溝長さを有する断面凹形状の直線溝パターン26を、試料上の所定位置から所定方向に延設してなる加工パターンを形成する場合を例に、説明する。
図7(A2)は、SEM付集束イオンビーム装置のFIB装置部による試料観察及び試料加工についての説明図であり、図7(A3)はSEM装置部による試料観察についての説明図である。
図7(A2)では、試料22の移動なしでFIB装置部31により、観察又は加工のための視野範囲内に一度に収まらない試料上の大領域601に対して、FIB装置部31による観察又は加工のための視野範囲内に一度に収まらない大きさの加工パターンの直線溝パターン26を作製する場合の、観察又は加工のためのFIB視野範囲(SIM画像領域)610を示したものである。なお、ここでは、便宜的にFIB装置部31による観察ための視野範囲の形状及び大きさは、加工のための視野範囲と同一のものとして説明する。611は、試料上における直線溝パターン26の試料加工を開始した加工開始位置での直線溝パターン26を示したものである。
これに対し、図7(A3)では、試料22の移動なしでSEM装置部32により、この直線溝パターン26の加工断面27を断面観察する場合の、観察のためのSEM視野範囲(SEM画像領域)620を示したものである。
このように、試料面上に配置した断面作製と断面観察を行う領域は、FIB装置部31での試料22の移動なしでビームシフトにより加工・観察可能なFIB視野範囲610、SEM装置部32での試料22の移動なしでビームシフトにより断面観察可能なSEM視野範囲620のいずれよりも、直線溝パターン26の延設方向に係り大きくなっている。
図7(A1)は、図7(A2)に示したFIB視野範囲と、図7(A3)に示したSEM視野範囲とを対照するために、両図を合成して表した図である。
図示の例では、FIB視野範囲610とSEM視野範囲620との大きさが異なり、FIB視野範囲610がSEM視野範囲620よりも、直線溝パターン26の延設方向に係り大きくなっている。
そのため、図7(A1)に示すように、まず、FIB装置部31による直線溝パターン26の作製とSEM装置部32による加工断面27の断面観察とを、試料上の加工開始位置及び断面観察開始位置がFIB視野範囲610、SEM視野範囲620それぞれの範囲内になるように調整し、集束イオンビーム11や一次電子ビーム12それぞれのイメージシフト等を用い、FIB視野範囲610、SEM視野範囲620それぞれの範囲内での試料加工及び断面観察を開始する。
図7(B)は、試料の加工位置や断面観察位置がFIB視野範囲やSEM視野範囲で実行可能な試料上の加工位置、観察位置にまで達した状態を表した図である。
図7(B)に示すように、試料加工や断面観察に係る試料上の加工位置や断面観察位置が、このFIB視野範囲610又はSEM視野範囲620の中のいずれかで実行可能な試料上の加工位置、観察位置にまで達したならば、試料加工及び断面観察を一旦中断して、試料ステージ121を移動してFIB視野範囲610やSEM視野範囲620を試料上で相対移動させて、中断する際に試料加工、断面観察されていた試料上の加工断面27やその近傍部分からなる直近の加工済部分612が、FIB視野範囲610やSEM視野範囲620のそれぞれ範囲内で試料加工や断面観察の開始位置611側に配置されるように位置させる。
図7(C1)は、試料ステージ121を移動してFIB視野範囲610やSEM視野範囲620を試料上で移動させた状態を表した図である。
このようにして、直近の加工済部分612がFIB視野範囲610やSEM視野範囲620のそれぞれ範囲内で試料加工や断面観察の開始位置611側に配置されるように、試料ステージ121を移動してFIB視野範囲610やSEM視野範囲620を試料上で相対移動させた後、再びFIB視野範囲610やSEM視野範囲620のそれぞれ範囲内で、FIB装置部31による直線溝パターン26の試料加工やSEM装置部32による加工断面26の断面観察を継続して行う。
このような、FIB視野範囲610やSEM視野範囲620で実行可能な試料上の試料加工や断面観察を繰り返すことにより、試料上の大領域601に対する直線溝パターン26の一連一体加工を行う。
次に、図7に示した直線溝パターン26を含む試料25を試料加工する場合を例に、SEM付集束イオンビーム装置30によって実行される直線溝パターン26の一連一体加工について、図8に基づいて説明する。
図8は、SEM付集束イオンビーム装置によって実行される、一連一体加工による加工パターンの試料加工手順を示したフローチャートである。
SEM付集束イオンビーム装置30を用いて、試料上の大領域に対し、微細な加工パターンの高精度な一連一体加工を行う場合は、試料加工情報に含まれる試料加工方法の種別として、試料上の大領域における加工パターンの一連一体加工が選択・設定されている場合に該当する。
この場合、SEM付集束イオンビーム装置30では、コンピュータ部300は、試料上の大領域における加工パターンの一連一体加工による試料加工を開始するに当たり、試料情報、加工パターン情報、加工条件、等の試料加工情報の中、今回の、加工パターンの一連一体加工による試料加工で必要な、試料情報、加工パターン情報、加工条件を設定するためのGUI画面を、表示部310に表示する。
SEM付集束イオンビーム装置30では、操作入力部320の操作によって、例えば、薄厚正方形板試料25の形状データ(正方形)、サイズデータ(一辺の大きさ、厚さ、中心位置)が設定されると、コンピュータ部300の制御演算部304は、今回の加工パターンの一連一体加工による試料加工に用いる試料情報として、記憶部302に登録する(図8では、図示略)。
また、SEM付集束イオンビーム装置30では、操作入力部320の操作によって、加工パターンのパターンデータとして、断面凹形状の直線溝パターン26が選択されると、コンピュータ部300の制御演算部304は、その設定された形状データ(矩形状断面)、サイズデータ(溝幅、溝深さ)についても、今回の、加工パターンの連続反復加工による試料加工に用いる加工パターン情報として、記憶部302に登録する(図8では、図示略)。
試料加工方法の種別情報は、図7に示した薄厚正方形板試料25の場合は、試料加工方法の種別として、試料上の大領域に対する加工パターンの一連一体加工が選択される。
SEM付集束イオンビーム装置30の場合、加工条件は、FIB装置部31による観察及び加工それぞれためのイオンビーム11のビーム条件情報や、試料上に加工パターンを試料加工する際に利用される個別加工条件情報、等が該当する。さらに、SEM付集束イオンビーム装置30の場合は、観察条件として、SEM装置部32による観察のための一次電子ビーム12のビーム条件情報や、試料上の加工断面27の断面観察する際に利用される個別観察条件情報、等も加わる。
そのため、SEM付集束イオンビーム装置30では、操作入力部320の操作によって、FIB装置部31による加工条件、及びSEM装置部32による観察条件が設定されると、コンピュータ部300の制御演算部304は、今回の、加工パターンの一連一体加工による試料加工に用いる断面加工・断面観察情報として、記憶部302に登録する(ステップS201,S202)。したがって、この断面加工・断面観察情報には、試料25の試料ステージ上における載置位置情報、試料上の大領域の範囲情報(FIB装置部31・SEM装置部32により断面加工・断面観察を行う試料上の位置領域情報)、FIB装置部31による断面作製の間隔、加工パターンの加工情報、SEM装置部32による断面観察倍率、SEM装置部32による断面観察画像の取得間隔、等が含まれる。
なお、試料ステージ上に、加工対象として、薄厚正方形板試料25が互いの載置位置を変えて複数載置されている場合は、試料の載置位置情報としてそれぞれの薄厚正方形板試料25の載置位置情報も全て登録される。
そして、このような断面加工・断面観察情報が登録されると(ステップS201,S202)、コンピュータ部300の制御演算部304は、断面作製の間隔から、FIB装置部31で試料ステージ121に載置された薄厚正方形板試料25に断面凹形状の直線溝パターン26の断面作製を行うために最適な断面加工最適倍率を導き出す(ステップS203)。この断面加工最適倍率は、図7に示したFIB視野範囲610の大きさを規定するものである。
また、コンピュータ部300の制御演算部304は、このFIB装置部31の断面加工最適倍率を導き出すと、SEM装置部32による断面観察倍率に基づいた試料上におけるSEM視野範囲620から、直線溝パターン26の延設方向すなわち試料ステージ121の移動方向に係る、SEM視野範囲620の分割点を決定する(ステップS204)。この分割点は、図7に示した直線溝パターン26を含む薄厚正方形板試料25を作製する場合では、直線溝パターン26の延設方向すなわち試料ステージ121の移動方向に係る、点621が該当する。
図7において、この分割点621は、試料加工や断面観察に係る試料上の加工位置や断面観察位置が、直線溝パターン26の延設方向すなわち試料ステージ121の移動方向に係り、SEM視野範囲620で断面観察可能な限界の観察位置にまで達した際に、断面観察されていた試料上の加工断面27やその近傍部分からなる直近の加工済部分612を、FIB視野範囲610やSEM視野範囲620のそれぞれ範囲内で試料加工や断面観察の開始位置611側に試料加工及び断面観察可能に配置するために、SEM視野範囲620を直線溝パターン26の延設方向すなわち試料ステージ121の移動方向に関して分割する点である。したがって、分割点621は、その際におけるFIB視野範囲610やSEM視野範囲620に対する試料ステージ121の相対的な移動距離622を規定するものであり、試料ステージ121の移動方向に沿った試料上のSEM視野範囲620の長さ623よりも小さな値になる。
図8に戻り、ステップS203、S204で取得したFIB装置部31の断面加工最適倍率、及び分割点621を登録して断面加工・断面観察情報に加えると、SEM付集束イオンビーム装置30では、コンピュータ部300の制御演算部304が、FIB装置部31を制御して、直線溝パターン26の加工開始位置を含むFIB視野範囲610の加工パターン検出用のマークが設けられた部分の試料上を観察ビームモードでイオンビーム11を走査する。
コンピュータ部300のマーク検出部303は、その際における加工パターン検出用のマークの検出位置と、予め登録されている試料上におけるマークの配置位置とに基づいて、今回の加工パターンの一連一体加工の実行開始に当たっての、試料ステージの移動誤差(位置再現性)やビームドリフトに起因する開始当初の誤差を取得する。
そして、SEM付集束イオンビーム装置30は、コンピュータ部300の制御演算部304が、この開始当初の誤差を補正して、ステージ制御部221を介して、試料ステージ121を制御して試料ステージ121を移動させることにより、又はFIB装置部31及びSEM装置部32を制御して、最初の直線溝パターン26の加工のためのFIB視野範囲610及び断面観察のためのSEM視野範囲620を移動させることによって、試料上の大領域における最初の直線溝パターン26の断面加工位置及び断面観察位置を正確に決定し、FIB視野範囲610及びSEM視野範囲620を最初の加工位置に正確に合わせることができる。
その上で、SEM付集束イオンビーム装置30は、コンピュータ部300の制御演算部304が、FIB装置部31を制御して、FIB視野範囲610の試料上を、登録された断面加工・断面観察情報に基づいて、加工ビームモードのイオンビーム11をビームシフトで走査開始する。これにより、最初の直線溝パターン26の試料加工が開始される(ステップS205)。
その後、SEM付集束イオンビーム装置30は、登録された断面加工・断面観察情報に基づいて、SEM装置部32による断面観察画像の取得間隔に対応するFIB装置部31による断面作製の間隔分だけ直線溝パターン26の試料加工を完了させる(ステップS206)。
そして、SEM付集束イオンビーム装置30は、SEM装置部32を制御して、直線溝パターン26の加工断面27の断面観察し、コンピュータ部300の画像制御部301は、生成した断面観察画像を記憶部302に記憶して蓄積する(ステップS207)。
SEM付集束イオンビーム装置30は、SEM装置部32による加工断面27の断面観察が終了すると、コンピュータ部300の制御演算部304が、先にステップS201,S202で登録した断面加工・断面観察情報を基に、図7に示した薄厚正方形板試料25の大領域601に対する直線溝パターン26の一連一体加工が全部終了したか否かを、FIB装置部31・SEM装置部32により断面加工・断面観察を行う試料上の位置領域情報を基に判定する(ステップS208)。
SEM付集束イオンビーム装置30は、コンピュータ部300の制御演算部304が、この薄厚正方形板試料25の大領域601に対する直線溝パターン26の一連一体加工が全部終了していない場合は、ステップS209〜S213の処理を実行する。これに対して、コンピュータ部300の制御演算部304は、この薄厚正方形板試料25の大領域601に対する直線溝パターン26の一連一体加工が全部終了した場合は、ステップS214の処理を実行する。
ここで、一連一体加工が全部終了していない場合は、SEM付集束イオンビーム装置30は、コンピュータ部300の制御演算部304が、試料加工や断面観察に係る試料上の加工位置や断面観察位置が、直線溝パターン26の延設方向すなわち試料ステージ121の移動方向に係り、SEM視野範囲620で断面観察可能な限界の観察位置にまで達したか否かを判定する(ステップS209)。
そして、SEM付集束イオンビーム装置30は、試料加工や断面観察に係る試料上の加工位置や断面観察位置が、直線溝パターン26の延設方向すなわち試料ステージ121の移動方向に係り、SEM視野範囲620で断面観察可能な限界の観察位置にまで達していない場合は、ステップS205〜S208で説明した、薄厚正方形板試料25の大領域601に対する直線溝パターン26の断面加工及び断面観察を行う。
これに対し、SEM視野範囲620で断面観察可能な限界の観察位置に達した場合は、SEM付集束イオンビーム装置30は、コンピュータ部300の制御演算部304がFIB装置部31を制御して、観察ビームモードで、ステップS206で加工完了した直線溝パターン26及びその近傍の画像を、直線溝パターン26の一連一体加工のための作製後の位置合わせ用の基準画像として取得する(ステップS210)。この場合、作製後の位置合わせ用の基準画像は、図7(B)において説明した、中断する際に試料加工、断面観察されていた試料上の加工断面27やその近傍部分からなる直近の加工済部分612を含む、FIB視野範囲610内の直線溝パターン26及びその周囲のSIM画像が該当する。
したがって、大領域601に対しての直線溝パターン26の一連一体加工においては、SEM視野範囲620で断面観察可能な限界の観察位置に達した場合の、直近の加工済部分612を含むFIB視野範囲610内の直線溝パターン26及びその周囲のSIM画像が、随時、位置合わせ用の基準画像として取得されることになる。
その後、SEM付集束イオンビーム装置30は、コンピュータ部300の制御演算部304が、ステップS204で決定した分割点621を基に、直線溝パターン26の延設方向に係り、この分割点621で規定される相対的な移動距離622だけ、試料ステージ121を移動させる(ステップS211)。
そして、SEM付集束イオンビーム装置30は、次の試料上の継続加工位置に対しての試料ステージ121の移動が完了したならば、コンピュータ部300の制御演算部304が、先に登録された断面加工・断面観察情報に従って、FIB装置部31を制御して、ステップS210の画像取得時に対して直線溝パターン26の延設方向に沿って移動距離622だけ移動した、直近の加工済部分612を含む直線溝パターン26及びその近傍のSIM画像を生成し、記憶部302に直線溝パターン26の次の加工位置の位置合わせ用の比較画像として記憶する(ステップS212)。この取得した次の加工位置の位置合わせ用の比較画像は、図7(C1)若しくは(C2)において、直近の加工済部分612を含む直線溝パターン26及びその近傍のSIM画像が該当する。
すなわち、この位置合わせ用の比較画像では、試料ステージ121は、ステップS210で示した基準画像の取得時であるステップS206で示した試料加工完了時から移動距離622だけ移動しており、ステップS205,ステップS206で示される直線溝パターン26の加工時とイオンビーム11及び試料ステージ121の状況が変わった、直線溝パターン26の継続加工する際のイオンビーム11及び試料ステージ121の状況を反映したものになる。
そこで、SEM付集束イオンビーム装置30は、コンピュータ部300の制御演算部304が、先に取得した直線溝パターン26の作製後の位置合わせ用の基準画像と、次の直線溝パターン26の継続加工位置の位置合わせ用の比較画像とを対照させて、今回、直線溝パターン26を延設した際と次に直線溝パターン26を継続して延設する際との間の、試料ステージの移動誤差(位置再現性)やビームドリフトに起因する誤差を算出して、この誤差に基づき、視野範囲及び/又は試料ステージ121の位置をさらに補正することによって、次の直線溝パターン26の継続加工位置を決定する(ステップS213)。
この場合、誤差は、基準画像510と比較画像520とで観察対象の直線溝パターン26の直近の加工済部分612が同一であるので、例えば、両画像それぞれの同じ直近の加工済部分612の画像データの相関演算を行うことにより精度よく演算することができる。この誤差の具体的な演算は、種々の仕方がある。一例として、両画像それぞれの直近の加工済部分612の画像データに係る相関ピークのずれ等に基づき、薄厚正方形板試料25を移動距離622だけ移動させるように試料ステージ121が移動する前後の、同一の直線溝パターン26についての向きや実際の移動量の違い、すなわち実際に移動させられた移動方向及び移動量を容易に算出することができる。
したがって、SEM付集束イオンビーム装置30は、コンピュータ部300の制御演算部304が、ステップS211で先に登録された分割点621を基に移動距離622だけ移動させた次の直線溝パターン26の加工位置に対して、ステップS213で算出された誤差量を補正するように、試料ステージ121を制御して試料ステージ121を移動位置させることにより、又はイオン源111、イオンビーム光学系112を制御して次のV字形状の溝パターン22の加工のための視野範囲を移動させることによって、試料上の大領域601における次の直線溝パターン26の加工位置を正確に決定することができる。
そして、これ以降の次の直線溝パターン26の加工位置の決定については、上述したステップS205〜S213の処理を繰り返し行うことによって、それ以降の加工位置毎に、すなわち大領域601を分割した部分領域毎に、加工位置補正用マークの形成や補正情報の登録が予め行われていなくても、試料上の大領域601に高精度な直線溝パターン26の一連一体加工が行える。
上述したステップS205〜S213の処理を繰り返しにおいて、ステップS208で、コンピュータ部300の制御演算部304が、薄厚正方形板試料25の大領域601に対する直線溝パターン26の一連一体加工が全部終了したことを判定すると、ステップS214で、試料ステージ上に載置位置を変えて載置されている別の加工が済んでいない薄厚正方形板試料25が残っていないことを確認し、残っている場合には、その残っている加工が済んでいない薄厚正方形板試料25それぞれについて順番に上述したステップS205〜S213の処理を繰り返し行って、試料ステージ上に載置位置を変えて載置されている薄厚円板試料21全てについての加工を終了させる。
したがって、SEM付集束イオンビーム装置30によって上述したように実行される直線溝パターン26の一連一体加工によれば、観察又は加工のための視野範囲内に一度に収まらないような試料上の大領域において、この大領域を分割した部分領域毎に、加工位置補正用マークの形成や補正情報の登録を行っておくこともなく、微細な加工パターンに係る高精度な一連一体加工を円滑に実行することができる。
本実施の形態の一連一体加工による加工パターンの試料加工手順は、前述した連続反復加工による加工パターンの試料加工手順に対し、位置合わせ用の基準画像、比較画像の取得の仕方が試料上の大領域に作製する加工パターンの性質の相違によって異なるだけである。そのため、説明では、試料上の大領域に高精度な同一の加工パターンを繰り返し複数加工する連続反復加工と、試料上の大領域に高精度な観察又は加工のための視野範囲内に一度に収まらない大きさの加工パターンを加工する一連一体加工とで、集束イオンビーム装置10とSEM付集束イオンビーム装置30とで集束イオンビーム装置を相違させて説明したが、集束イオンビーム装置10で一連一体加工を行わせることも、SEM付集束イオンビーム装置30で連続反復加工を行わせることも可能であることは、説明するまでもない。集束イオンビーム装置10とEM付集束イオンビーム装置30との間の相違は、SEM視野範囲の影響を受けるか否かで、試料ステージ121の移動制御、すなわち試料上の部分領域の作製の仕方が変化するだけである。
なお、本発明の実施の形態は、上記した実施の形態、実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が可能である。
また、上述した集束イオンビーム装置の機能、及び集束イオンビーム装置が実行する試料加工方法の手順は、集束イオンビーム装置のコンピュータ部に上述した試料上の大領域に対しての連続反復加工及び/又は一連一体加工を実現させる試料加工プログラムとして構成することも可能である。