JP3648384B2 - 集束イオンビーム加工方法及び加工装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:略してFIB)を利用した微細デバイスや新機能材料などの断面加工、それらの透過電子顕微鏡(TEM)用の試料作製、微細機械部品などのマイクロマシニングなどに有効なFIB加工方法及びFIB加工装置に関し、特に長時間加工時のビーム照射位置ずれを補正するFIB加工方法及びFIB加工装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
FIB装置は、例えば特開平9−306402号公報に記載されている。また、このようなFIB装置を用いた加工位置補正方法が、例えば特開平9−274879号公報に記載されている。
図12は、従来のFIB加工装置の機能ブロック図である。破線で囲んで示したFIB装置の真空筐体には、イオンを放出するイオン源部1、イオン源部1から放出されるイオンビームを加速、集束、偏向するイオンビーム制御系2、試料を装着、移動する試料室部3、試料から放出される二次電子や二次イオンを検出する二次粒子検出器6が配置されている。イオンビーム制御系2には、コンデンサーレンズ、イオンビーム制御絞り板、アライナー・スティグマ、ブランカー、偏向器、対物レンズが含まれる。イオン源部1及びイオンビーム制御系2には、それぞれにそれらを制御するイオン源制御部4及びイオンビーム制御部5が接続されている。またイオン源制御部4及びイオンビーム制御部5には、これらを統括して制御するコンピュータ部7が接続されている。コンピュータ部7には、画像メモリ、画像処理部からなり二次粒子検出器6の出力信号をもとに試料表面の走査イオン顕微鏡(Scanning Ion Microscope:略してSIM)像を取得する画像制御部9、SIM像を表示するCRT8、キーボードやマウスなどの入力操作部10が接続され、更にマーク検出部12及び加工位置補正部11を備える。
【0003】
この従来技術では、試料ステージの移動を必要としない狭い領域内の長時間加工において、加工位置ずれ補正を以下の手段により実現している。先ず、▲1▼ビーム照射位置補正用として試料の加工開始前に選定したマークの位置をSIM像から検出し、登録する。次に、▲2▼加工途中のある設定時間毎にこの登録マークのSIM像を取得してマーク位置を検出し、この検出位置を登録マーク位置と比較参照してビーム照射位置ずれ量を算出し、加工位置ずれを補正制御するのである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来方法では、加工途中に何度もFIBを照射して登録マークのSIM像を取得し、そのマーク位置の検出を行う。しかし、マークはSIM像取得時にイオン・スパッタリング現象により削られるため、マーク検出回数が増えるとマークは次第に損傷を受け変形してくる。そのため、マーク変形が余り大きくなるとマーク検出ができなくなり、加工位置ずれを高精度に補正することができなくなるという欠点があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、加工位置ずれ検出用のマークがイオン・スパッタリング現象により損傷を受けてマーク形状が加工前に登録したものと大きく異なってきても、そのマークを用いて加工の位置ずれ補正を可能とするFIB加工方法及び加工装置を提供することを目的とする。
本発明は、また、FIB加工の加工終点を自動的に検出するための新規な手法を提供することをも目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明では第n回目(ただし、n=1,2,3,…)の加工位置ずれ量の算出に際して、その回に取得したマークのSIM像データD[n]と比較する参照SIM像データとして、その直前の回、すなわち第(n−1)回目に取得したマークのSIM像データD[n−1]を採用する。そして、この2枚のSIM像データD[n],D[n−1]のマッチング処理から像変位量を求め、加工位置ずれ量を算出する。
【0007】
従来技術では、参照SIM像データは常に加工前のSIM像データD[0]であり、更新していないため、第n回目に取得したSIM像データD[n]が加工前のSIM像データ[0]から大きく異なってしまうと、2枚のSIM像データD[n]、D[0]のマッチング処理に際して大きな誤差が生じたり、マッチング処理が不可能になった。本発明では、SIM像データD[n]と比較すべき参照SIM像データとして直前の回に取得したSIM像データD[n−1]を採用したため、2つの像データD[n],D[n−1]間に類似性が保たれている限り、マーク形状が加工初期のものと大きく異なってきても、更新毎の加工位置ずれ量を高精度に算出することができる。
【0008】
マークは、典型的には試料のFIB加工領域の外に設定されるが、試料のFIB加工領域の外に設定することが絶対に必要な訳ではなく、FIB加工領域のSIM像中の特徴的な構造を選択してそれをマークとすることもできる。選択したマークが試料中に埋もれている構造の断面であるような場合、2枚のSIM像データD[n],D[n−1]のマッチング処理に基づいてFIB照射位置を補正することで、そのマーク(構造)を追跡するように加工領域を変化させながら加工を進めることができる。
【0009】
また、FIB加工領域中にマークを設定し、それをFIB加工の終点検出のために用いることも可能である。例えば、マークが試料中の構造物の一部であり、FIB加工によってその構造物の断面を作りたい場合、SIM像に現れるマーク(構造物)を監視しながらFIB加工を行い、SIM像からマークが消失した時点、あるいはマークが消失してから更に所定時間経過した時点で加工を終了することで、所望の断面作製を行うことができる。
【0010】
すなわち、本発明は、集束イオンビームを用いて試料を加工する集束イオンビーム加工方法において、所定の時間毎に試料の走査イオン顕微鏡像を取得する工程と、前記工程で取得した第(n−1)番目の走査イオン顕微鏡像内の特定領域の画像データD[n−1]と第n番目の走査イオン顕微鏡像内の特定領域の画像データD[n](ただし、n=1,2,3,…)に基づいて像の変位量を求める工程と、求められた変位量だけ集束イオンビームの照射位置をずらして加工位置を補正する工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
試料の走査イオン顕微鏡像は、集束イオンビームによって試料上を走査し、試料から放出される二次電子や、二次イオンなどの二次粒子の強度を走査と同期して検出することによりCRT等の画像表示装置上に表示される。
画像データD[n]を取得する走査イオン顕微鏡像内の特定領域は、試料の加工領域外に位置する特徴あるパターンを含む領域とすることができる。加工領域外に位置する特徴あるパターンは、加工開始前に形成したマークパターンとすることができる。あるいは、走査イオン顕微鏡像内の特定領域は、試料の加工領域内に位置する特徴あるパターンを含む領域とすることもできる。
【0012】
像の変位量が第1の設定値より大きいときは、試料の走査イオン顕微鏡像を取得する時間間隔を短縮し、像の変位量が第2の設定値より小さいときは試料の走査イオン顕微鏡像を取得する時間間隔を延長するようにしてもよい。
本発明は、また、集束イオンビームを用いて試料を加工する集束イオンビーム加工方法において、所定の時間毎に試料の加工領域内に位置する特徴あるパターンを含む領域の走査イオン顕微鏡像を取得する工程と、前記工程で取得した第(n−1)番目の走査イオン顕微鏡像内の特定領域の画像データD[n−1]と第n番目の走査イオン顕微鏡像内の特定領域の画像データD[n](ただし、n=1,2,3,…)に基づいてパターンの形状変化を検出する工程と、パターンの形状変化に基づいて加工終点を判定する工程とを含むことを特徴とする。パターンの形状変化には、パターンの消失も含まれる。
【0013】
本発明の集束イオンビーム加工装置は、イオン源と、イオン源から放出されるイオンビームを加速、集束、偏向するイオンビーム制御系とを含む集束イオンビーム加工装置において、イオンビームの照射によって試料から放出される二次粒子を検出する二次粒子検出器と、二次粒子検出器の出力に基づいて所定の時間毎に試料の走査イオン顕微鏡像を取得する画像制御部と、画像制御部で取得した第(n−1)番目の走査イオン顕微鏡像内の特定領域の画像データD[n−1]と第n番目の走査イオン顕微鏡像内の特定領域の画像データD[n](ただし、n=1,2,3,…)のマッチング処理から像変位量を求めるマッチング処理部と、マッチング処理部で求められた像変位量を補償するようにイオンビーム制御系を制御する制御部とを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の集束イオンビーム加工装置は、また、イオン源と、イオン源から放出されるイオンビームを加速、集束、偏向するイオンビーム制御系とを含む集束イオンビーム加工装置において、イオンビームの照射によって試料から放出される二次粒子を検出する二次粒子検出器と、二次粒子検出器の出力に基づいて所定の時間毎に試料の走査イオン顕微鏡像を取得する画像制御部と、画像制御部で取得した第(n−1)番目の走査イオン顕微鏡像内の特定領域の画像データD[n−1]と第n番目の走査イオン顕微鏡像内の特定領域の画像データD[n](ただし、n=1,2,3,…)を比較する画像比較部とを備え、画像比較部で比較した2つの画像データ間のマッチング度が所定の変化量を超えたとき加工を中止することを特徴とする。
【0015】
本発明によると、長時間のFIB加工の加工位置ずれ補正が、オペレータの介在を必要とせずに行うことができ、加工位置の高精度化、加工の半自動化に貢献する。複数試料の複数箇所の加工に対しては、それらの加工位置と加工条件を前もって登録しておくことにより、これらの全加工を連続数時間にわたってオペレータを介さずに自動で行うことができる。
また、本発明によると、FIB加工の加工終点を自動的に決定することができるので、FIB加工装置の自動運転が可能となる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明によるFIB加工装置の一例の概略構成図である。金属イオン源100から放出したイオンビームは、コンデンサーレンズ101と対物レンズ106により試料108の上に集束される。レンズ間には、イオンビーム制限絞り板102、アライナー・スティグマ103、ブランカー104、偏向器105が配置されている。試料108は試料ステージ109の上に搭載されており、XY微動が可能である。集束イオンビーム(FIB)の照射によって試料108から放出される二次電子や二次イオン等の二次粒子は、荷電粒子検出器107により検出される。荷電粒子検出器107の信号強度でCRT等の画像表示器の輝度変調を行い、かつビーム偏向信号と同期した信号をCRTのビーム走査信号とすることにより、試料表面のSIM像がCRT上に形成される。
【0017】
図2は、本発明によるFIB加工装置の機能ブロック図である。本発明では図12に示したマーク検出部12がマッチング処理部13に入れ替わる。ここでは、第n回目(ただし、n=1,2,3,…)の加工位置ずれ量の算出に際して、(n−1)回目のSIM像データD[n−1]と現在(n回目)のSIM像データD[n]とのマッチング処理から像変位量を求め、加工位置ずれ量が算出される。マッチング処理部13で算出されたマーク像の変位量は、加工位置補正部11に入力される。コンピュータ部7は、加工位置補正部11からの出力に基づいてイオンビーム制御部5に指令し、イオンビーム制御系2を駆動してイオンビームの照射位置を調整し、集束イオンビームによる加工位置を補正する。
【0018】
図3と図4を用いて、本発明によるFIB加工方法を説明する。図3は本発明によるFIB加工方法の加工フローの一例を示す図、図4は本発明のFIB加工方法による加工例を示す図である。試料をFIB装置のビーム直下に設置してからの加工のフローは、以下のとおりである。ここで説明する例では、試料108上の加工領域は、図4に示した矩形領域151である。ビーム照射位置ずれ検出用のマーク152は大きさ5μm×5μmの十字マーク152であり、加工領域151の外側に位置する。
【0019】
▲1▼登録マークの加工(S11)
加工領域151の近傍に、ビーム照射位置補正用の登録マーク152を設定し加工する。ここで、加工領域151と登録マーク152との両者は、試料ステージ109を動かさずに偏向器105によるFIB偏向のみでカバーできる領域150内に位置している必要がある。
【0020】
▲2▼マーク画像データD[0]の登録とマーク位置P[0]及びnの初期化(S12)
CRTに表示されたSIM画像を用いて、マーク152の画像データとマーク位置を登録する。この登録画像データは、第n回目のビーム照射位置補正での参照マーク画像データD[n−1]において、n=1の参照マーク画像データD[0]となる。同様に、この加工開始前に取得したSIM像のマーク位置を常に原点にとって表したマーク位置の二次元(x,y)データP[n]の初期データP[0]を(0,0)に初期化する。
【0021】
▲3▼加工領域の設定と登録(S13)
加工領域151を設定し、その位置を登録する。また、全加工時間Tと加工位置補正の時間間隔Δtを設定する。
▲4▼加工位置補正用タイマーの初期化(t=0)とスタート(S14)
▲5▼加工(S15)
加工は累積加工時間[=(n−1)Δt+t]がステップ13で設定した全加工時間Tに到達するまで行われる。累積加工時間が全加工時間Tに達すると、ステップ16からステップ17に進んで加工を終了する。
【0022】
▲6▼加工中断と加工位置補正制御処理(S16〜S25)
ステップ16において、累積加工時間が全加工時間Tに到達していないと判定されるとステップ18に進む。ステップ18において、加工位置補正のタイマー時間tがステップ13で設定されたΔtを越えていないと判定されると、ステップ19に進む。ステップ19において、加工中にモニターしているイオン源からの放出イオン電流Itの時間不安定度が予め設定してある許容値を越えていないと判定されると、ステップ15に戻り、加工は連続して行われる。一方、イオン電流Itの時間不安定度が許容値を越えた場合には、ステップ19からステップ20に進んで加工を直ちに中断し、「It不安定」のメッセージをCRT上に表示する。
【0023】
また、加工位置補正のタイマー時間tがΔtを越えた場合には、ステップ18からステップ21に進んで、n=n+1によりnをインクリメントし、第n回目の加工位置補正制御処理を起動する。これが起動されると加工を中断してステップ22に進み、登録された検出用マーク152の近傍をFIB走査してSIM像を取得する。次に、このSIM像データと参照マーク画像データD[n−1]とのマッチング処理からマークを検出する。次に、ステップ23に進んで、検出したマークの画像データをD[n]に記録する。続いて、ステップ24において、マークの位置ずれ量ΔP[n]を算出する。加工開始前に取得したSIM像のマーク位置を常に原点にとって表したマーク位置データP[n]は、次の〔数1〕で表される。
【0024】
【数1】
Figure 0003648384
【0025】
そして、ステップ25において、マーク位置データP[n]に基づいてFIB照射位置を更新し、ステップ14(前記▲4▼)に戻る。
図5は、ステップ22を実行する図2の画像制御部9とマッチング処理部13の機能ブロック図である。画像制御部9は、荷電粒子検出器107の出力信号に基づいてSIM像を取得する画像取得手段32、参照画像更新手段34、画像取得手段32で取得した現在画像を記憶する画像メモリ33、参照画像を記憶する画像メモリ35、マッチング処理部13で検出されたマーク像D[n]を記憶する検出マーク像記録手段(画像メモリ)37を備える。画像取得手段32は、コンピュータ部7の一部を構成する画像取得タイミング手段31からタイミング信号を受けてSIM画像を取得する。マッチング処理部13は、メモリ33に記憶された現在画像Aとメモリ35に記憶された参照画像Bのマッチングにより、マーク152の検出とマーク像の変位量算出を行う。マッチング処理部13で算出されたマーク像の変位量は、加工位置補正部11に入力される。コンピュータ部7は、加工位置補正部11からの出力に基づいてイオンビーム制御部5に指令し、イオンビーム制御系2を駆動してイオンビームの照射位置を調整し、集束イオンビームによる加工位置を補正する。
【0026】
第n回目の加工位置補正制御処理が起動すると、コンピュータ部7の画像取得タイミング制御手段31よりタイミング信号が画像制御部9の画像取得手段32に送られる。タイミング信号を受けて、画像取得手段32はマーク近傍のSIM像を取得し、取得されたSIM像は画像メモリ33に記憶される。この画像を現在画像Aとする。一方、タイミング信号は参照画像更新手段34にも送られ、タイミング信号を受けた参照画像更新手段34は、検出マーク像記録手段37から前回検出された検出マーク像D[n−1]を取り込み、メモリ35に記憶されている参照画像Bを第(n−1)回目の検出マーク画像D[n−1]に更新する。
【0027】
次に、現在画像Aとマークを含む参照画像Bとを像マッチング処理手段36において参照比較し、現在画像Aの中でマークを検出し、マークの位置ずれ量ΔP[n]を算出する。そして、検出したマークの画像は検出マーク像記録手段(画像メモリ)37に検出マーク像D[n]として記録しておく。加工位置補正部11は、マッチング処理部13から出力されたマーク位置P[n]に基づき、ビーム照射位置補正量を算出する。次の、つまり第(n+1)回目の加工位置補正制御処理が起動するまでは、このビーム照射位置補正量を用いて加工を続ける。
本実施の形態では、マークの参照画像Bを更新しながら現在画像Aと比較していることがポイントである。従来は、この参照画像の更新をしておらず、参照画像として常に初期マーク画像D[0]を用いていた。
【0028】
図6は十字マークのスパッタ損傷の経緯を表すSIM像であり、本実施の形態における代表的なn=0、20、40、60の十字マークのSIM画像D[n]を示している。十字マーク形状はスパッタリングにより損傷を受け、nが増加するに従い元の形状と次第に異なってきているのがわかる。しかし、本発明の方法によると、現在の画像D[n]と初期画像D[0]との間における像の類似性が低下しても、現在の画像D[n]と直前の画像D[n−1]との間に像の類似性が維持されている限り、マークの検出は可能である。従来方法では、例えばn=60のマークはもはや十字形状と認識できず、現在画像D[60]とマーク参照画像D[0]との比較参照からはマークを検出することはできなかった。
【0029】
次に、上記のマーク検出に用いた画像マッチング処理の具体例について説明する。加工前のマーク像の編集は、マークを含むSIM像を取得した後、その記録像をCRTに表示し、その上でマウス・カーソルをドラッグして矩形を描き、その矩形領域内の像を参照画像として記録することで行った。矩形の位置や大きさなどの編集は、矩形の辺や角をマウスでピックしてドラッグすることにより行える。マークの原画像を画像処理(2値化、ノイズ除去、フレーム抽出など)したものを参照画像として登録してもよい。
【0030】
加工中にSIM像から検出したマーク画像は、画像処理により明るさを2値化し、2次元配列(つまり位置)表現画像とする。そして画像特徴を抽出するために、小さな黒点や白点を消去する。こうした現在画像Aに参照画像Bを重ね、最も両画像が一致する位置、つまり、両画像の画像相関係数が最大になる位置を求めてマークの位置ずれを算出した。この画像間の比較は、処理時間が長くなるが、ずれ量の算出精度が高いのが特徴である。処理時間の短縮には、画像のデータ量を減らした画像(つまりスケッチ画像)に変換して比較するのが非常に効果がある。ただし、ずれ量の算出精度は若干低下する。本実施の形態では、マーク画像を512×512ピクセルのSIM像のほぼ枠一杯に撮り、これを128×128ピクセルのスケッチ画像にしてマッチング処理をした。
【0031】
ここでは、マークとしてFIB加工した5μm×5μmの十字マーク102を採用したが、登録マークは“特徴ある"試料パターンであれば、異物であってもよい。ここで、“特徴ある"ということの意味は、その登録される試料パターンの形状がその取得画像の中にただ一つしか存在せず、かつFIB加工によってそのパターン形状が急変せず継続性が保たれることである。
【0032】
また、これまで登録マークは加工領域151の外に設けたが、加工領域151の内部に登録マークを設定すると、ビーム照射位置補正とは異なる別の使い方ができる。つまり、加工領域内にマークとして登録した試料パターンが深さ方向に形状や横平面内位置が変わっても、加工領域にその登録パターンを追跡させて試料を掘り進めて行くことができる。加工終了後、このマーク像D[n]をその追跡のためにずらした画像ずれ量ΔP[n]分ずらしながら各深さに対して並べれば、そのマークの3次元構造が得られる。
【0033】
図7により、この他の実施の形態について説明する。図7は、深さ方向に大きさも平面位置も連続的に変化している構造体を加工領域に取り込んで、それを登録マークとして用いた加工試料の断面を示す模式図である。図7(a)は加工前の状態を示し、図7(b)、図7(c)は加工が進行していく過程を示している。
【0034】
試料210には深さ方向に大きさも平面位置も連続的に変化している構造体200があり、その試料表面に露出している形状を登録マークとして用いた。所定の時間間隔で加工領域のSIM像を取得し、そのSIM像と直前の回に検出されたマーク画像(構造体200の露出形状)D[n−1]とのマッチング処理によりマーク画像D[n]を検出し、マークの位置ずれ量を算出する手法は、前述の実施の形態の場合と同様である。
【0035】
本例では、構造体200の平面位置が変わっても加工領域の大きさは変えず、加工領域の位置を構造体200の平面位置変化と同期させてずらしながら加工したため、図7(b),図7(c)に示されているように、加工側壁230,240は平坦にならない。このような加工法は、この構造体200の試料内部での形状や位置の情報が不明でも、追跡して加工していく場合に有効である。本方法の特徴は、構造体200の平面位置が試料内部において最初に設定した加工領域内にほぼ入っていれば、追跡加工していけることにある。加工領域の大きさや位置を固定したまま掘り進めていく従来の加工法では、構造体200の平面位置が試料内部において最初に設定した加工領域内に必ず入っていなければならない。本実施の形態では、走査領域の加工領域から得られるSIM像の枠近傍には、加工領域をずらすとそれまでに形成された加工側壁の像が画像枠近傍に現れたり消えたりするので、登録用のマーク画像データD[n]は、それらの影響を受けない画像の中央部のみを採用することが望ましい。
【0036】
これまで全加工設定時間Tは、加工開始前に設定した固定時間としたが、例えば、加工モニター信号(二次電子、二次イオンなど)の強度の時間変化カーブが特定条件を満足するまでの時間、つまり所望の加工深さが不正確で実際に加工してみないと決まらない時間とすることもできる。
図8は、全加工時間を加工中の加工モニター信号に基づいて決定する例を示す説明図である。図8(a)は加工試料の断面構造の概略図であり、図8(b)は二次加工モニター信号(二次電子)の強度の時間変化である。試料は基板Aの上に膜BとCが2層堆積したものである。この場合の目的の加工深さは、基板Aと膜Bとの界面位置であるとする。
【0037】
30keV−Gaイオンビームの材質A,B及びCに対する二次電子収率はC,A,Bの順で低くなり、二次電子強度の時間変化Ie(t)は図8(b)に示すようになった。そこで、加工終点を決める特定条件として、▲1▼二次電子強度Ieがある設定値K1以上、及び▲2▼加工時間に対する二次電子強度Ieのカーブの傾き(ΔIe/Δt)がある設定値K2以上の2つを設定した。図8(b)中の時間Tは、この両条件を満足するまでの時間に相当する。時間T後のIeカーブは、時間Tで加工を終了しなかったとして予測されるカーブを示したものである。
【0038】
この場合の加工フロー図を図9に示す。図9の加工フロー図は、図3に示した加工フロー図のステップ16における加工時間の判定条件を、Ie≧K1,ΔIe/Δt≧K2に変更したものに相当する。
図3のフロー図あるいは図9のフロー図では、ステップ13あるいはステップ33において加工位置補正のために試料のSIM像を取得する時間間隔Δtを設定した。すなわち、この例では時間間隔Δtは一定である。しかし、この時間間隔Δtは可変とすることも可能である。
【0039】
Δtの可変は、例えば以下のようにして行えばよい。図3のフロー図のステップ24あるいは図9のフロー図のステップ44で算出されたマーク位置ずれ量ΔP[n]が予め設定されたずれ量ΔP1より大きい場合には、ステップ24あるいはステップ44において、マーク位置P[n]の算出後に、Δtから予め決められた時間t1を減算した値(Δt−t1)を新たにΔtとして設定し直し、FIB照射位置の補正頻度を高める。逆に、図3のフロー図のステップ24あるいは図9のフロー図のステップ44で算出されたマーク位置ずれ量ΔP[n]が予め設定されたずれ量ΔP2より小さい場合には、ステップ24あるいはステップ44において、マーク位置P[n]の算出後に、Δtに予め決められた時間t2(t2=t1であってもよい)を加算した値(Δt+t2)を新たなΔtとして設定し直し、FIB照射位置の補正頻度を低くする。補正頻度を低くすることで、試料に加わる損傷を低減し、マークの損傷も少なくすることができる。
【0040】
次に、図10により、本発明の他の実施の形態を説明する。本実施の形態は、微細デバイス中の異物の断面作製に関するもので、加工終点を自動的に決定することを可能にするものである。図10は加工終点を自動的に決定することを可能にする方法の説明図である。図10(a)は試料の模式的断面図であり、異物の埋もれた試料の断面構造と加工途中時間t1,t2,…,t6の加工底位置を示している。また、図10(b)は時間t1,t2,…,t6での加工領域のSIM像を示している。この場合、FIBの照射位置補正は、加工領域外に設定した登録マークを用いて前述の実施の形態のようにして行うことができる。加工終点の決定のみが問題であって、FIBの照射位置精度に対する要求が緩い場合には、FIBの照射位置補正を省略することもできる。
【0041】
試料は、図10(a)に断面を模式的に示すように、異物300の埋もれた試料310であり、目的の加工深さは、その加工断面において異物300の底から更に僅かにオーバエッチした深さである。時間t1は加工スタート時間であり、その時に取得したSIM像には異物300のパターン300aが現れている。時間が経過して加工が進むと、加工領域のSIM像には異物の立体形状を反映して少しずつ異なった異物のパターン300b,300c,300dが現れる。時間t5ではSIM像に構造パターンが丁度なくなっている。加工終了は、SIM像から構造パターンが消失した時間t5から、更にオーバエッチのための時間Δtが経過した時間t6とする。加工終点条件は、構造パターンが無くなった時間に時間Δtを加えた時間としたので、全加工時間Tはt6(=t5+Δt)で決まった。
【0042】
図11は、加工終点を自動検出するFIB加工方法の加工フローの一例を示す図である。この例は、FIBの照射位置補正を省略した場合のフローである。まず、ステップ51において、加工領域の設定と登録、SIM像取得の時間間隔Δtの設定、Itの時間不安定性の許容値及び画像間マッチング度の所定値を設定する。次に、ステップ52において、加工領域のSIM像中に加工終点検出に用いる画像データD[0]を登録する。図10に示した例では、時間t1に取得したSIM像中の異物パターン300aがD[0]に相当する。次に、ステップ53において、タイマーを初期化してスタートさせる。続いて、ステップ54に進んで加工を開始する。ステップ55では加工時間を監視し、タイマーで計時した加工時間tがΔt以下であれば、ステップ56に進む。ステップ56において、イオン源からの放出イオン電流Itの時間不安定度があらかじめ設定してある許容値を越えていないと判定されると、ステップ54に戻り、加工が継続される。イオン電流の時間的不安定度が許容値を越えた場合には、ステップ56からステップ57に進んで加工を中断し、「It不安定」のメッセージをCRT上に表示する。
【0043】
また、タイマーで計時した時間tがΔtを越えた場合には、ステップ55からステップ58に進んで、nをインクレメントするとともに加工領域のSIM像を取得する。SIM像中の画像データは、ステップ59においてD[n]に記録される。次に、ステップ60に進んで、前回取得した画像データD[n−1]と今回取得した画像データD[n]を比較する。比較の結果、両画像のマッチング度が予め設定された量を越えていればステップ60からステップ53に戻って加工を継続する。一方、ステップ60の判定で両画像のマッチング度が所定量以下まで落ちていると判定された場合は、ステップ61に進み、所定時間のオーバエッチングを行った後、ステップ62に進んでFIB加工を終了する。ここで、両画像のマッチング度には両画像データのマッチング相関係数を用いた。
【0044】
FIBの照射位置補正を行いながら終点検出を行う場合には、例えば図11に示したフロー図において、ステップ60の判定からステップ53に戻る途中で、例えば図9のステップ42からステップ45に相当する処理を行うようにすればよい。
本実施の形態は、例えば図5に示した機能ブロック図で、マッチング処理部13を2つのSIM像を比較する比較処理部に置き換えたFIB加工装置、あるいはマッチング処理部13に比較処理の機能を持たせたFIB加工装置を用いて実行することができる。ただし、比較処理の対象となる画像はビーム照射位置補正のために加工した登録マークではなく、加工領域のSIM像中の特徴あるパターンの画像である。
【0045】
ここでは、(n−1)回目に取得したSIM像中にはあった構造パターンD[n−1]が、続くn回目に取得したSIM像では消失していたことを検出して加工終点を判定する例について説明した。しかし、加工終点の判定基準はパターンの消失だけとは限らない。例えば、所望の深さまで加工すると今までなかったパターン(例えば、○とか□)が出現するような試料の場合には、そのパターン(例えば、○とか□)の出現を加工終点の判定基準とすればよい。また、所望の深さまで加工すると加工面に現れているパターンの形状が急変するような試料を加工するの場合には、そのパターンの急変、つまり画像間のマッチング度の急変を加工終点の判定基準とすればよい。
【0046】
上記2つの実施の形態では、試料構造が不明、あるいは試料構造に対する知識不正確であったりするため、また加工速度が材質、加工面積、FIBの電流や走査速度などの加工条件にも依存するため、全加工時間Tを前もって高精度に予測することは困難である。しかし、本発明によると、目的とする加工深さを実際に加工しながら最適に決定することができるため、加工を効率よく行うことができた。この効果は、加工の高効率化という点で、加工位置の高精度化とは別次元のものである。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、長時間のFIB加工において、加工位置ずれを検出するための登録マークがイオンスパッタリング現象などにより損傷を受け、その形状が初期のものと大きく異なってきても、加工の位置ずれ補正が可能となる。また、加工終点も最適に決定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるFIB装置の一例を示す模式図。
【図2】本発明によるFIB加工装置の機能ブロック図。
【図3】本発明によるFIB加工方法の加工フローの一例を示す図。
【図4】本発明のFIB加工方法による加工例を示す図。
【図5】図2の画像制御部とマッチング処理部の機能ブロック図。
【図6】十字マークのスパッタ損傷の経緯を表すSIM像。
【図7】深さ方向に大きさも平面位置も連続的に変化している構造体を加工領域に取り込んでそれを登録マークとして用いた加工試料の断面例。
【図8】全加工時間を加工中の加工モニター信号に基づいて決定する例を示す説明図。
【図9】本発明によるFIB加工方法の加工フローの他の例を示す図。
【図10】加工終点を自動的に決定することを可能にする方法の説明図。
【図11】加工終点を自動検出するFIB加工方法の加工フローの一例を示す図。
【図12】従来のFIB加工装置の機能ブロック図。
【符号の説明】
1…イオン源部、2…イオンビーム制御系、3…試料室部、4…イオン源制御部、5…イオンビーム制御部、6…二次粒子検出器、7…コンピュータ部、8…CRT、9…画像制御部、10…入力部、11…加工位置補正部、12…マーク検出部、13…マッチング処理部、31…画像取得タイミング制御部、32…画像取得手段、33…画像メモリ、34…参照画像更新手段、35…画像メモリ、37…検出マーク像記録手段、100…金属イオン源、101…コンデンサーレンズ、102…イオンビーム制限絞り板、103…アライナー・スティグマ、104…ブランカー、105…偏向器、106…対物レンズ、107…荷電粒子検出器、108…試料、109…試料ステージ、150…加工領域設定可能領域、151…加工指定領域、152…検出用登録マーク、200…構造体、210…試料、230,240…加工側壁、300…異物、310…試料、310a〜310d…異物のパターン

Claims (8)

  1. 集束イオンビームを用いて試料を加工する集束イオンビーム加工方法において、
    所定の時間毎に試料の走査イオン顕微鏡像を取得する工程と、
    前記工程で取得した第(n−1)番目の走査イオン顕微鏡像内の特定領域の画像データD[n−1]と第n番目の走査イオン顕微鏡像内の特定領域の画像データD[n](ただし、n=1,2,3,…)に基づいて像の変位量を求める工程と、
    求められた変位量だけ集束イオンビームの照射位置をずらして加工位置を補正する工程とを含むことを特徴とする集束イオンビーム加工方法。
  2. 請求項1記載の集束イオンビーム加工方法において、前記走査イオン顕微鏡像内の特定領域は、試料の加工領域外に位置する特徴あるパターンを含む領域であることを特徴とする集束イオンビーム加工方法。
  3. 請求項2記載の集束イオンビーム加工方法において、前記加工領域外に位置する特徴あるパターンは、加工開始前に形成したマークパターンであることを特徴とする集束イオンビーム加工方法。
  4. 請求項1記載の集束イオンビーム加工方法において、前記走査イオン顕微鏡像内の特定領域は、試料の加工領域内に位置する特徴あるパターンを含む領域であることを特徴とする集束イオンビーム加工方法。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項記載の集束イオンビーム加工方法において、前記像の変位量が第1の設定値より大きいときは、試料の走査イオン顕微鏡像を取得する時間間隔を短縮し、前記像の変位量が第2の設定値より小さいときは試料の走査イオン顕微鏡像を取得する時間間隔を延長することを特徴とする集束イオンビーム加工方法。
  6. 集束イオンビームを用いて試料を加工する集束イオンビーム加工方法において、
    所定の時間毎に試料の加工領域内に位置する特徴あるパターンを含む領域の走査イオン顕微鏡像を取得する工程と、
    前記工程で取得した第(n−1)番目の走査イオン顕微鏡像内の特定領域の画像データD[n−1]と第n番目の走査イオン顕微鏡像内の特定領域の画像データD[n](ただし、n=1,2,3,…)に基づいて前記パターンの形状変化を検出する工程と、
    前記パターンの形状変化に基づいて加工終点を判定する工程とを含むことを特徴とする集束イオンビーム加工方法。
  7. イオン源と、前記イオン源から放出されるイオンビームを加速、集束、偏向するイオンビーム制御系とを含む集束イオンビーム加工装置において、
    イオンビームの照射によって試料から放出される二次粒子を検出する二次粒子検出器と、前記二次粒子検出器の出力に基づいて所定の時間毎に試料の走査イオン顕微鏡像を取得する画像制御部と、前記画像制御部で取得した第(n−1)番目の走査イオン顕微鏡像内の特定領域の画像データD[n−1]と第n番目の走査イオン顕微鏡像内の特定領域の画像データD[n](ただし、n=1,2,3,…)のマッチング処理から像変位量を求めるマッチング処理部と、前記マッチング処理部で求められた像変位量を補償するように前記イオンビーム制御系を制御する制御部とを含むことを特徴とする集束イオンビーム加工装置。
  8. イオン源と、前記イオン源から放出されるイオンビームを加速、集束、偏向するイオンビーム制御系とを含む集束イオンビーム加工装置において、
    イオンビームの照射によって試料から放出される二次粒子を検出する二次粒子検出器と、前記二次粒子検出器の出力に基づいて所定の時間毎に試料の走査イオン顕微鏡像を取得する画像制御部と、前記画像制御部で取得した第(n−1)番目の走査イオン顕微鏡像内の特定領域の画像データD[n−1]と第n番目の走査イオン顕微鏡像内の特定領域の画像データD[n](ただし、n=1,2,3,…)を比較する画像比較部とを備え、前記画像比較部で比較した2つの画像データ間のマッチング度が所定の変化量を超えたとき加工を中止することを特徴とする集束イオンビーム加工装置。
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