JP6101296B2 - 脂肪酸組成物および燃料油組成物 - Google Patents
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Description
しかし、脂肪酸、特に高級脂肪酸は、その凝固点が高く、特に冬季や寒冷地での使用時には、脂肪酸の使用中や高級脂肪酸の貯蔵中に固化や結晶析出・沈殿という問題が起こりやすかった。また、脂肪酸の凝固点を下げるために、不飽和脂肪酸の含量を増やした場合、貯蔵中に着色や増粘が起こるため、酸化防止剤を配合する必要が生じるが、低温で貯蔵すると、凝固までには至らないが外観が曇ってくるという問題点もあった。
ところで、上記の用途のうち特に燃料油の用途においては、近年、地球環境問題への関心の高まりから、世界各国でディーゼル車の排ガス規制の強化と共に軽油中の硫黄含有量の低減が進められている。日本では2005年1月からすでに硫黄含量が0.001重量%以下のいわゆるサルファーフリー軽油が流通している。硫黄含量を0.001重量%以下にする為に、軽油基材について深度脱硫を行わなければならず、この過程において軽油中の潤滑性物質が一緒に除去され、潤滑性能が低下する事が知られている。ディーゼルエンジンの燃料噴射ポンプは軽油によって潤滑を行っているため、このような潤滑性の低下した軽油を使用すると、燃料噴射ポンプの異常摩耗、エンジンの回転不良等が起こるという事例が欧米諸国から報告されている。このような軽油の潤滑性低下に対して、ディーゼルエンジンの部品面からも対応されているが、燃料面からの対応も要求され、検討が行なわれてきた。
その結果、現在のところ、軽油に各種の摩耗防止剤が添加されている。そして、特許文献1には炭素数8〜30の脂肪酸混合物を低硫黄燃料油の摩耗防止剤として用いることが開示されている。
しかし、上述のように、炭素数10以上の飽和又は不飽和脂肪酸は、冬期のような低温期には、曇点以下の温度になるので、外観が曇ったり、更には固化や結晶の析出が生じたりするため、製油所等で軽油等に添加する際に不具合が生じることがある。特許文献2および特許文献3には流動点降下剤兼曇点降下剤を含有する脂肪酸系の低硫黄軽油用摩耗防止剤が開示されている。しかしながら、流動点降下剤兼曇点降下剤を脂肪酸に対し少なくとも5重量部以上配合しなければ十分な曇点降下効果が得られない。高分子タイプの流動点降下剤兼曇点降下剤を大量に配合した摩耗防止剤を燃料油に添加すると常温での通油性が悪化するという問題が発生する。
10℃ ≧ ta ≧ −20℃ (1)
20℃ ≧ tb ≧ −10℃ (2)
20℃ ≧ tb−ta ≧ −10℃ (3)
本発明の脂肪酸組成物からなる燃料油用潤滑性向上剤は、従来の燃料油用潤滑性向上剤に比べてスラッジ生成量が少なく、低い曇点を示す。
本発明の低硫黄燃料油組成物は、従来と同等の潤滑性を示す。
本発明において、(A)の結晶化開始温度および後述する曇点降下剤(B)の結晶化開始温度は、示差走査熱量計「UNIX(登録商標)DSC7」(PERKIN−ELMER社製)を使用し、試料5mgを10℃/分の等温速度で50℃から−80℃まで冷却したときに観測される結晶化開始温度である。
10℃ ≧ ta ≧ −20℃ (1)
taが10℃より高くなると、脂肪酸組成物の曇り点が高くなり、−20℃より
低くなると、脂肪酸組成物の曇り点は低くなるが、酸化安定性が悪化する。
taを調整するためには、脂肪酸(A)の中の不飽和脂肪酸含量(特に、ジ又はトリ不飽和脂肪酸の含量)を少なくする、又は、ヨウ素価を低くすれば、taが上がり、不飽和脂肪酸含量(特に、ジ又はトリ不飽和脂肪酸の含量)を多くする、又は、ヨウ素価を低くすれば、taが低くなる。
なお、(A)のSP値は、Fedors法(Polymer Engineering and Science,Feburuary,1974,Vol.14、No.2 P.147〜154)に記載の方法で算出される値である。
脂肪酸(A)の分子量は、好ましくは200〜350であり、更に好ましくは250〜300である。
なお、(A)の分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、以下の条件で測定することができる。
<Mwの測定条件>
装置 :「Alliance」[日本ウオーターズ(株)製]
カラム :「TSK gel Super H4000」1本
「TSK gel Super H3000」1本
「TSK gel Super H2000」1本
測定温度 :40℃
試料溶液 :0.5重量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量:200μl
検出装置 :屈折率検出器
標準 :ポリスチレン
脂肪酸(A)の酸価(AV)は、好ましくは150〜250であり、更に好ましくは175〜225、特に好ましくは185〜215である。
脂肪酸(A)の酸価は日本基準油脂試験方法3.3.1で測定した値である。
脂肪酸(A)のヨウ素価は好ましくは60〜188であり、更に好ましくは100〜170である。
脂肪酸(A)のヨウ素価は日本基準油脂試験方法3.3.3で測定した値である。
脂肪酸(A)のSP値、分子量、酸価およびヨウ素価の範囲の値のすべてを満足する場合は、燃料に対する溶解性、金属表面への吸着力、抗乳化性、水の抱きこみ性、又は防錆性等において、更に優れた効果を発揮できるという観点で好ましい。
脂肪酸(A)の二重結合含量は、(A)に含まれる各成分の炭素−炭素二重結合の数と(A)の総重量に基づく各成分の重量分率との積の総和を計算した値である。
20℃ ≧ tb ≧ −10℃ (2)
tbは示差走査熱量計により測定される(B)の結晶化開始温度である。
tbがこの範囲から外れると、脂肪酸組成物の曇点が高くなる。
tbは曇点降下剤(B)が重合体である場合には、構成単量体のアルキル基又はアルキレン基の炭素数によって調整できる。
(a)としては、例えば、メチルメタクリレート、デシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、イソドデシルメタクリレート、トリデシルメタクリレート、イソトリデシルメタクリレート、テトラデシルメタクリレート、イソテトラデシルメタクリレート、ペンタデシルペタメクリレート、イソペンタデシルペタメクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、メチルアクリレート、デシルアクリレート、イソデシルアクリレート、ドデシルアクリレート、イソドデシルアクリレート、トリデシルアクリレート、イソトリデシルアクリレート、テトラデシルアクリレート、イソテトラデシルアクリレート、ペンタデシルアクリレート、イソペンタデシルアクリレート、ヘキサデシルアクリレート、オクタデシルアクリレートが挙げられる。これらのうち、重合体の結晶化温度の調整しやすさという観点から、好ましくは炭素数10〜40、更に好ましくは12〜22のアルキル(メタ)アクリレートである。
(B1)は構成単量体として更に(a)以外の単量体(b)を使用することができる。単量体(b)としては;アルキル基の炭素数が1〜30のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシ基の炭素数が1〜30、アルキレン基の炭素数が2〜30のアルコキシアルキレングリコール(メタ)アクリレート等;アルキル基の炭素数1〜30の不飽和ポリカルボン酸エステル類(ジブチルマレエート、ジオクチルフマレート、ジラウリルマレエート、ジステアリルフマレート、ジオクチルイタコネート、ジラウリルイタコネート等);芳香族系単量体(スチレン、ビニルトルエン等);ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等);炭素数が10〜30(以下、C10〜30と表記する場合がある)のアルファオレフィン類(デセン、ドデセン等);不飽和カルボン酸類(無水マレイン酸、メタアクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等);炭素数が4〜30の共役ジエン(ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等);アルキルビニルエーテル(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル等);アルキルアリルエーテル(メチルアリルエーテル、エチルアリルエーテル、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル等)等が挙げられる。
なお、(B)のSP値は、(B)を構成する単量体それぞれのSP値を前記の方法で算出し、それぞれの単量体のSP値を、構成単量体単位のモル分率に基づいて平均した値である。(B)のSP値は、使用する単量体のSP値、モル分率を適宜調整することにより8.5〜10.5(cal/cm3)1/2にすることができる
<Mwの測定条件>
装置 :「HLC−802A」[東ソー(株)製]
カラム :「TSK gel GMH6」2本
測定温度 :40℃
試料溶液 :0.5重量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量:200μl
検出装置 :屈折率検出器
標準 :ポリスチレン
20℃ ≧ tb−ta ≧ −10℃ (3)
taおよびtbが式(3)を満たさないと、脂肪酸組成物の曇点が高くなる。
20℃ ≧ tb−ta ≧ 0℃ (4)
15℃ ≧ tb−ta ≧ 5℃ (5)
(A)および(B)に対する溶解性の観点と酸化安定性の観点から、(C)のうち好ましいのは、フェノール系化合物(C1)であり、特に好ましいのは、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)、2,6−ジ−t−ブチル−フェノール(DTBP)である。
炭化水素系溶剤(D)としては、芳香族炭化水素系溶剤(D1);トルエン、キシレン、エチルベンゼン、C9を主成分とする芳香族炭化水素(トリメチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、出光興産株式会社製「イプゾール100」、丸善石油化学株式会社製「スワゾール1000」等)、C10を主成分とする芳香族炭化水素(ジエチルベンゼン、ジメチルエチルベンゼン、テトラメチルベンゼン、出光興産株式会社製「イプゾール150」、丸善石油化学株式会社製「スワゾール1500」等)、テトラリン等、脂肪族炭化水素系溶剤(D2):n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン等、又は脂環式炭化水素系溶剤(D3);シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等が挙げられる。
(A)、(B)および(C)の溶解性および脂肪酸組成物の引火点の観点から、好ましいのは芳香族炭化水素系溶剤(D1)であり、特に好ましいのは、C9を主成分とする芳香族炭化水素およびC10を主成分とする芳香族炭化水素である。
脂肪酸組成物の重量に対する(B)の重量百分率は、通常0.01〜4重量%であり、この範囲を外れると常温での通油性の観点から問題があり、好ましくは0.1〜3重量%、更に好ましくは0.2〜2重量%である。
対象となる燃料油は、特に限定されないが、本発明の潤滑性向上剤の潤滑性向上効果が有利に発揮しやすいという観点から、好ましくは低硫黄燃料油であり、更に好ましくは硫黄含量が0.001重量%以下の燃料油である。
硫黄含量が0.001重量%以下の低硫黄燃料油としては、低硫黄原油(たとえば、ミナス原油等南方系の原油)の通常の蒸留で得られるJIS1号軽油、JIS2号軽油、JIS3号軽油、JIS特3号軽油;通常の原油から水素化脱硫処理工程を経て製造される脱硫軽油;この脱硫軽油と直留軽油(水素化脱硫工程前の軽油)をブレンドして得られる軽油留分から製造されるJIS1号軽油、JIS2号軽油、JIS3号軽油、JIS特3号軽油が挙げられる。
これらのうち特に好ましいのは、水素化脱硫処理工程を経て製造される脱硫軽油を50重量%以上使用して製造されるJIS1号軽油、JIS2号軽油、JIS3号軽油、JIS特3号軽油である。
低硫黄燃料油組成物は、低硫黄燃料油組成物の重量に基づき、該燃料油用潤滑性向上剤の含有量は好ましくは20〜1000ppm、更に好ましくは30〜500ppm、特に好ましくは50〜200ppmである。
20ppm以上であれば潤滑性が発揮し易く、1000ppm以下であれば添加効率がよいので経済性が優れる。
特に、本発明の燃料油用潤滑性向上剤は曇点が低いので、冬期のような低温期であっても固化したり、結晶の析出が生じたりすることが少なく、製油所等で軽油等に潤滑性向上剤を添加する際に不具合が生じることが少ない。
更に、本発明の燃料油用潤滑性向上剤は、スラッジ生成量が少ないため、本発明の潤滑性向上剤を含有する低硫黄燃料油組成物は高温でのスラッジ生成量が少なく、高温での貯蔵安定性に優れる。
撹拌装置、加熱冷却装置、温度計、滴下ロート、窒素吹き込み管および減圧装置を備えた反応容器に、イソプロピルアルコールを17.5部仕込み、系内を窒素雰囲気として83℃まで昇温した。反応器中のイソプロピルアルコールを撹拌しながら、別のガラス製ビーカーに、表1記載の単量体70重量部と、イソプロピルアルコール12.5部に2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.1重量部および2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.4重量部を溶解した溶液を、それぞれ別の滴下ロートから反応器に2時間かけて等速度で全量を仕込み、仕込み終了から83℃で2時間重合反応を行なった。反応終了後、83℃から120℃に昇温しながらイソプロピルアルコールを除去し、曇点降下剤(B11)〜(B16)および比較の曇点降下剤(H11)〜(H13)を得た。
(a−1):メタクリル酸ドデシル
(a−2):メタクリル酸テトラデシル
(a−3):メタクリル酸ヘキサデシル
(a−4):メタクリル酸オクタデシル
(a−5):アクリル酸ドデシル
(a−6):アクリル酸テトラデシル
(a−7):アクリル酸オクタデシル
(a−8):アクリル酸イコシル
(a−9):アクリル酸ドコシル
実施例7〜19および比較例4〜12
表1の曇点降下剤(B11)〜(B16)および比較の曇点降下剤(H11)〜(H13)、表2に示した脂肪酸(A−1)〜(A−4)、比較の脂肪酸(HA−1)〜(HA−2)、酸化防止剤(C)としてBHTおよびDTBP、並びに炭化水素系溶剤(D)としてイプゾール100(出光興産株式会社製、C9主成分の芳香族溶剤)を、表3に示した配合組成で配合し、脂肪酸組成物(R1)〜(R13)および比較の脂肪酸組成物(S1)〜(S9)を調製した。
それぞれの脂肪酸組成物の曇点をJISK−2269に準じて測定し、結果を表3に示した。
脂肪酸組成物(R1)〜(R13)および比較の脂肪酸組成物(S1)〜(S9)を、硫黄含量0.001重量%のJIS2号軽油相当のディーゼル燃料油に、燃料油組成物中の脂肪酸含量が250ppmになるように添加し、燃料油組成物(V1)〜(V13)および比較の燃料油組成物(W1)〜(W9)を得た。
燃料油組成物(V1)〜(V13)および比較の燃料油組成物(W1)〜(W9)の潤滑性、スラッジ生成量を以下の方法で測定した。結果を表4に示す。
HFRR(High−Frequency Reciprocating Rig)(英国PCSインスツルメンツ社製)を使用し、JPI−5S−50−98に準じて、試験鋼球に生じた摩耗痕径を測定した。
なお、脂肪酸組成物未添加の該ディーゼル燃料油の摩耗痕径は580μmである。
燃料油組成物(20g)を試験管にいれ、110℃で温調しながら、空気を10L/時間の流量で吹き込み、120時間経過後の試験管内の付着物を溶剤で抽出し、乾燥固化後のスラッジ生成量を測定した。
Claims (9)
- 脂肪酸(A)、曇点降下剤(B)および酸化防止剤(C)を含有してなる脂肪酸組成物であって、(A)の結晶化開始温度(ta)および(B)の結晶化開始温度(tb)が式(1)〜(3)を満たし、脂肪酸組成物の合計重量に基づいて、脂肪酸(A)の含有量が40〜71重量%、曇点降下剤(B)の含有量が0.01〜4重量%、および酸化防止剤(C)の含量が7〜30重量%である脂肪酸組成物。
10℃ ≧ ta ≧ −20℃ (1)
20℃ ≧ tb ≧ −10℃ (2)
20℃ ≧ tb−ta ≧ −10℃ (3) - 脂肪酸(A)の溶解度パラメーターが8.0〜9.6(cal/cm3)1/2、分子量が200〜350、酸価が150〜250、およびヨウ素価が60〜188である請求項1記載の脂肪酸組成物。
- 脂肪酸(A)が、ミリスチン酸、パルミチン酸、およびステアリン酸からなる群から選ばれる2種以上の飽和脂肪酸と、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸からなる群から選ばれる2種以上の不飽和脂肪酸とを含有する混合物である請求項1又は2記載の脂肪酸組成物。
- 曇点降下剤(B)が、炭素数1〜40のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(a)を構成単量体としてなる重合体(B1)であって、該(B1)の重量に基づく該(a)の重量百分率が20〜100重量%である請求項1〜3いずれか記載の脂肪酸組成物。
- 曇点降下剤(B)の溶解性パラメーターが8.5〜10.5(cal/cm3)1/2であり、HLB値が0.5〜9.6、および重量平均分子量が3,000〜600,000である請求項1〜4いずれか記載の脂肪酸組成物。
- 酸化防止剤(C)がフェノール系化合物である請求項1〜5いずれか記載の脂肪酸組成物。
- 更に、炭化水素系溶剤(D)を含有させてなる請求項1〜6いずれか記載の脂肪酸組成物。
- 請求項1〜7いずれか記載の脂肪酸組成物からなる燃料油用潤滑性向上剤。
- 請求項8記載の燃料油用潤滑性向上剤と硫黄含量が0.001重量%以下の低硫黄燃料油とを含有する低硫黄燃料油組成物であって、該燃料油用潤滑性向上剤が低硫黄燃料油組成物の重量に基づいて20〜1000ppmである低硫黄燃料油組成物。
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