JP6080836B2 - 車両運動制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、車両運動制御装置に関する。
特許文献1には、横加速度と車体速にもとづいた横G規範ヨーレートを補正した限界規範ヨーレートと、実際に発生している実ヨーレートと、の偏差を打ち消すように制動力を発生させて旋回時の回頭性を向上させる旋回制御装置(車両運動制御装置)が記載されている。特許文献1に記載される旋回制御装置は、旋回内側又は旋回外側となる片側の車輪に制動力を発生させて回頭性を向上させる。
特開2011−183826号公報
特許文献1に記載される旋回制御装置は、旋回時に片側の車輪に制動力が発生するため、転舵輪となる前輪へ充分に荷重移動しない。旋回時に前輪(転舵輪)へ充分に荷重移動すると、車両は、運転者の操舵に応じて効果的に回頭するので回頭性が向上して、旋回時の操舵に対するヨーレートの遅れが改善される。これによって、運転者が違和感を覚えることなく、且つ、安定した旋回が実現される。このように、特許文献1に記載される旋回制御装置は、旋回時に前輪へ充分に荷重移動されないという点で改善の余地がある。
そこで、本発明は、旋回時に前輪へ充分に荷重移動させて回頭性を向上させることでヨーレートの特性を効果的に改善できる車両運動制御装置を提供することを課題とする。
前記課題を解決するため、本発明は、前輪と後輪を有する車両に備わり、ステアリングホイールの操舵角と前記車両の車体速にもとづいて第1の規範ヨーレートを演算する定常特性部と、前記第1の規範ヨーレートの変化に対して遅れを有する第2の規範ヨーレートを演算する過渡特性部と、前記第1の規範ヨーレートと前記第2の規範ヨーレートの偏差に応じた制動力を設定する制動力演算部と、前記制動力演算部が設定した前記制動力を、制動力発生部に発生させる制御信号を出力する制御信号発生部と、を有する車両運動制御装置とする。そして、前記制動力演算部は、前記第1の規範ヨーレートと前記第2の規範ヨーレートにもとづいて前記ステアリングホイールが切り増し状態であると判定したときに前記制動力を設定し、前記制御信号発生部は、少なくとも2つの前輪又は2つの後輪に備わる前記制動力発生部に前記制動力を発生させるように前記制御信号を設定して当該制御信号を出力することを特徴とする。
本発明の車両運動制御装置は、ステアリングホイールが切り増しされているときに、操舵角と車体速にもとづいた第1の規範ヨーレートと、第1の規範ヨーレートに対して遅れを有する第2の規範ヨーレートと、の偏差にもとづいた制動力を設定する。そして、この制動力を少なくとも2つの前輪又は2つの後輪で発生させる。したがって、ステアリングホイールが切り増しされているときに前輪へ荷重移動し、ステアリングホイールの操舵に応じて車両が速やかに回頭する。これによって、旋回する車両におけるヨーレートの特性が改善される。
また、前記制動力演算部は、前記第1の規範ヨーレートの絶対値が前記第2の規範ヨーレートの絶対値より大きいときに前記ステアリングホイールが切り増し状態であると判定する。
本発明によると、制動力演算部は、第1の規範ヨーレートの絶対値と第2の規範ヨーレートの絶対値の大小を比較するだけでステアリングホイールが切り増し状態であると判定できる。
また、前記制動力演算部は、前記偏差が大きいほど前記制動力を大きく設定することを特徴とする。
本発明によると、第1の規範ヨーレートと第2の規範ヨーレートの偏差が大きいほど大きな制動力が車両に発生して前輪へ大きく荷重移動する。したがって、第2の規範ヨーレートが第1の規範ヨーレートから大きく遅れているほど運転者の操舵に対して効率よく車両が回頭して回頭性が向上し、これによって、第1の規範ヨーレートに対する第2の規範ヨーレートの遅れが小さくなるように車両を動作させることが可能になって、車両に発生するヨーレートの特性が改善される。
また、前記過渡特性部は、前記第1の規範ヨーレートの変化に対して所定の時定数で遅れるように前記第2の規範ヨーレートを演算し、前記時定数は、前記車両の旋回特性に応じて設定されていることを特徴とする。
本発明によると、車両の旋回特性に応じた第2の規範ヨーレートが設定される。
本発明によると、旋回時に前輪へ充分に荷重移動させて回頭性を向上させることでヨーレートの特性を効果的に改善できる車両運動制御装置を提供できる。
車両運動制御装置を備える車両を示す図である。 車両運動制御装置の機能ブロック図である。 (a)は定常特性部の機能ブロック図、(b)は過渡特性部の機能ブロック図である。 制動力演算部の機能ブロック図である。 制動力演算部の設計変更例を示す図である。
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は車両運動制御装置を備える車両を示す図である。
図1に示すように、車両運動制御装置1は車両10に備わっている。図1に示す車両10は、動力源11が出力する動力で前輪WFが駆動されて走行する前輪駆動であるが、車両10の駆動形式は限定されない。車両10は後輪WRが駆動されて走行する後輪駆動であってもよいし4輪駆動であってもよい。動力源11は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関であってもよいし、電動機であってもよい。また、内燃機関と電動機が組み合わさったハイブリッドタイプであってもよい。
車両運動制御装置1は、いずれも図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)から構成されるマイクロコンピュータ、及び周辺機器からなる。
車両10は操舵装置12と制動装置13を備える。
操舵装置12は、ステアリングホイール121とステアリング軸124を有する。なお、電動パワーステアリングシステムの場合、操舵装置12にはアシストモータ122が備わる。アシストモータ122はステアリング軸124に入力するトルク(アシストトルク)を発生する。
ステアリング軸124は、ステアリングホイール121が操舵されたときに回転してラック軸123を変位させて前輪WFを転舵する。また、ステアリングホイール121が操舵されたときの舵角は舵角センサ121aで検出される。舵角センサ121aの検出信号(舵角信号Sh)は、車両運動制御装置1に入力される。車両運動制御装置1は舵角信号Shにもとづいてステアリングホイール121の操舵角θhを算出する。
また、車両運動制御装置1は、算出した操舵角θhにもとづいてアシストモータ122を駆動してアシストトルクを発生させる。
制動装置13は、ブレーキペダル131と制動力発生部(ブレーキ動作部132)を有する。ブレーキ動作部132は例えばディスクブレーキであって、液圧発生部133で発生するブレーキ液圧でブレーキディスク132aを挟んで制動力を発生する。液圧発生部133は、例えば、前輪WFと後輪WRとに独立してブレーキ液圧を供給可能に構成される。又は、2つの前輪WFと2つの後輪WRのそれぞれに(つまり、4輪のそれぞれに)独立してブレーキ液圧を供給可能に構成されていてもよい。
なお、動力源11が電動機の場合、又は、動力源11が内燃機関と電動機が組み合わさったハイブリッドタイプの場合、動力源11で回生制動力を発生することができる。したがって、動力源11として電動機を有する車両10(電気自動車、ハイブリッド自動車等)においては、動力源11(電動機)が制動力発生部として機能する。
ブレーキペダル131が踏み込み操作されたときの操作量(ブレーキストローク)はブレーキセンサ131aで検出される。ブレーキセンサ131aの検出信号(制動信号Sb)は車両運動制御装置1に入力される。車両運動制御装置1は制動信号Sbにもとづいてブレーキストロークを算出し、算出したブレーキストロークにもとづいて、液圧発生部133のアクチュエータ133aを駆動する。液圧発生部133はアクチュエータ133aが駆動してブレーキストロークに対応したブレーキ液圧を発生する。このように、制動装置13は、ブレーキペダル131の踏み込み操作量(ブレーキストローク)に応じた車両運動制御装置1の制御でアクチュエータ133aが駆動し、ブレーキ動作部132が駆動するブレーキバイワイヤになっている。
車両10にはスロットルペダル111が備わる。スロットルペダル111は動力源11に接続される。動力源11はスロットルペダル111の踏み込み操作量に応じた動力を出力する。
また、スロットルペダル111が踏み込み操作されたときの操作量(スロットルストローク)はスロットルセンサ111aで検出される。スロットルセンサ111aの検出信号(スロットル信号Sa)は車両運動制御装置1に入力される。車両運動制御装置1はスロットル信号Saにもとづいてスロットルストロークを算出可能に構成されている。
なお、車両運動制御装置1が、算出したスロットルストロークにもとづいて動力源11の動力を調節する構成のドライブバイワイヤが備わる車両10であってもよい。動力源11が、ドライブバイワイヤで操作されるガソリンエンジンの場合、車両運動制御装置1はスロットルストロークにもとづいてスロットル弁(図示せず)を制御してスロットル開度を設定する。
車両10には、横加速度検出手段(横加速度センサ14)、前後加速度センサ15、車速センサ16、及びヨーレートセンサ17が備わっている。
横加速度センサ14は車両10に発生する横加速度を検出するセンサであり、検出信号(横加速度信号Sgy)は車両運動制御装置1に入力される。車両運動制御装置1は横加速度信号Sgyにもとづいて車両10に発生している横加速度を算出する。
前後加速度センサ15は車両10に発生する前後加速度を検出するセンサであり、検出信号(前後加速度信号Sgx)は車両運動制御装置1に入力される。車両運動制御装置1は前後加速度信号Sgxにもとづいて車両10に発生している前後加速度を算出する。
また、車速センサ16は、例えば車輪(前輪WF,後輪WR)の回転速度を検出する車輪速センサである。車速センサ16は車輪の回転に応じてパルス信号(車輪速信号Sw)を出力する。車両運動制御装置1は車輪速信号Swにもとづいて車両10の車速(車体速Vc)を算出する。
また、ヨーレートセンサ17は、車両10に発生するヨーレートを検出するセンサであり、検出信号(ヨーレート信号Syaw)は車両運動制御装置1に入力される。車両運動制御装置1はヨーレート信号Syawにもとづいて車両10に発生しているヨーレート(実ヨーレート)を算出する。
なお、図1では省略してあるが、車両運動制御装置1には4つの車速センサ16(車輪速センサ)からパルス信号が入力される。車両運動制御装置1は、4つのパルス信号にもとづいて車両10の車体速Vcを算出する。
図2は車両運動制御装置の機能ブロック図である。図3の(a)は定常特性部の機能ブロック図、(b)は過渡特性部の機能ブロック図である。
図2に示すように、車両運動制御装置1は、操舵角演算部20aと車体速演算部20bを有する。
操舵角演算部20aには舵角信号Shが入力される。操舵角演算部20aは舵角信号Shにもとづいてステアリングホイール121(図1参照)の操舵角θhを算出する。
車体速演算部20bには車輪速信号Swが入力される。車体速演算部20bは車輪速信号Swにもとづいて車両10(図1参照)の車体速Vcを算出する。
また、車両運動制御装置1は規範ヨーレート演算部21を有する。操舵角演算部20aが算出する操舵角θh、及び、車体速演算部20bが算出する車体速Vcは規範ヨーレート演算部21に入力される。
規範ヨーレート演算部21は定常特性部21aと過渡特性部21bを有する。
定常特性部21aは、操舵角θhと車体速Vcにもとづいて、車両10(図1参照)に発生すると予測される第1の規範ヨーレート(舵角規範ヨーレートωstn)を演算する。
図3の(a)に示すように、定常特性部21aは車速ゲインマップMP1を有する。車速ゲインマップMP1は、車体速Vcと規範ヨーレートゲインKfの関係を示すマップである。定常特性部21aは、車体速Vcに対応する規範ヨーレートゲインKfを車速ゲインマップMP1にもとづいて設定する。
車速ゲインマップMP1は、車両10(図1参照)の動特性等にもとづいた事前の実験計測やシミュレーションによって設定される。
設定された規範ヨーレートゲインKfは乗算器210に入力される。
乗算器210は、操舵角θhに規範ヨーレートゲインKfを乗算して舵角規範ヨーレートωstnを算出する。定常特性部21aは、乗算器210で算出される舵角規範ヨーレートωstnを出力する。
車速ゲインマップMP1は、車体速Vcに対する規範ヨーレートゲインKfの特性を示すマップである。車速ゲインマップMP1において、規範ヨーレートゲインKfは、車両10(図1参照)の運動特性などに対応して様々な特性を示す。
図2に示すように、過渡特性部21bは、第2の規範ヨーレート(遅れ規範ヨーレートωstf)を算出する。遅れ規範ヨーレートωstfは、ステアリングホイール121(図1参照)が操舵されたときに車両10(図1参照)が回頭を開始するまでに生じる遅れに応じて、舵角規範ヨーレートωstnから遅れることを想定されたヨーレートである。つまり、遅れ規範ヨーレートωstfは、車両10の動特性に応じて、舵角規範ヨーレートωstnから遅れて生じるヨーレートである。ステアリングホイール121が操舵されたとき、車両10が回頭を開始するまでの遅れは小さいことが好ましく、ひいては、舵角規範ヨーレートωstnと遅れ規範ヨーレートωstfの偏差(ヨーレート偏差ΔY)が小さいことが好ましい。
そこで、本実施形態の車両運動制御装置1は、ステアリングホイール121(図1参照)が操舵されたとき、車両10に制動力を発生させて前輪WF(図1参照)に効果的に荷重移動し、ステアリングホイール121が操舵されたときの車両10の回頭性を向上して、旋回する車両10に発生するヨーレートの特性を効果的に改善する。
図3の(b)に示すように、過渡特性部21bは規範ヨーレート算出部211を有する。規範ヨーレート算出部211は、車体速Vcに対応する規範ヨーレートゲインKfを操舵角θhに乗算して中間ヨーレートω1を設定する。規範ヨーレートゲインKfは、定常特性部21aにおいて車体速Vcに乗算されるものと同じであり、例えば、過渡特性部21bが車体速Vcに対応する規範ヨーレートゲインKfを車速ゲインマップMP1にもとづいて設定する。
中間ヨーレートω1はフィルタ処理部212に入力される。フィルタ処理部212は中間ヨーレートω1に所定の時定数で遅れを生じさせて出力する。この時定数は車両10(図1参照)の動特性(特に、旋回特性)に応じて設定される設計値である。
このような時定数は、操舵装置12(図1参照)を構成するギヤやラック、ナックル(いずれも図示せず)等の構成要素の特性に応じて決定される旋回特性にもとづくものであり、事前の実験計測やシミュレーション等で設定される。
フィルタ処理部212は、ローパスフィルタや一次遅れフィルタなど、入力信号に遅れを生じさせるフィルタで中間ヨーレートω1をフィルタリングし、中間ヨーレートω1の変化に対して遅れて変化する規範ヨーレートωstfを出力する。
過渡特性部21bの規範ヨーレート算出部211が演算する中間ヨーレートω1は、定常特性部21aが演算する舵角規範ヨーレートωstn(第1の規範ヨーレート)と同等である。したがって、過渡特性部21bが演算する遅れ規範ヨーレートωstf(第2の規範ヨーレート)は、舵角規範ヨーレートωstn(第1の規範ヨーレート)の変化に対して遅れを有するヨーレートになる。
図2に示すように、定常特性部21aから出力される舵角規範ヨーレートωstnと、過渡特性部21bから出力される遅れ規範ヨーレートωstfは、加減算器22に入力される。
加減算器22は、舵角規範ヨーレートωstnから遅れ規範ヨーレートωstfを減算してヨーレート偏差ΔYを算出する(ΔY=ωstn−ωstf)。ヨーレート偏差ΔYは制動力演算部23に入力される。
制動力演算部23は、ヨーレート偏差ΔYに応じた制動力(制動力目標値Btg)を演算する。制動力目標値Btgは制御信号発生部(制動力制御信号発生部24)に入力される。
制動力制御信号発生部24は、制動力目標値Btgに相当する制動力をブレーキ動作部132(図1参照)で発生させるブレーキ液圧が液圧発生部133(図1参照)で発生するような制御信号(液圧制御信号Cb)を出力する。
制動力制御信号発生部24が出力する液圧制御信号Cbは、制動装置13の液圧発生部133のアクチュエータ133a(図1参照)に入力される。アクチュエータ133aは液圧制御信号Cbにもとづいて駆動し、液圧発生部133(図1参照)がブレーキ液圧を発生する。
図4は制動力演算部の機能ブロック図である。
図4に示すように、制動力演算部23はステアリング動作判定部231と演算部232を有する。
ステアリング動作判定部231はステアリングホイール121(図1参照)が操舵されている状態を判定する。
ステアリング動作判定部231は、舵角規範ヨーレートωstnの絶対値が遅れ規範ヨーレートωstfの絶対値より大きいとき(|ωstn|>|ωstf|)、ステアリングホイール121が切り増しされていると判定する(切り増し状態St_Fと判定する)。また、ステアリング動作判定部231は、舵角規範ヨーレートωstnの絶対値が遅れ規範ヨーレートωstfの絶対値より小さいとき(|ωstn|<|ωstf|)、ステアリングホイール121が切り戻しされていると判定する(切り戻し状態St_Rと判定する)。この判定結果は演算部232に入力される。
なお、本実施形態において、切り増し状態St_Fは、ステアリングホイール121(図1参照)が中立位置から離れる方向に操舵される状態を示し、切り戻し状態St_Rは、ステアリングホイール121が中立位置に近づく方向に操舵される状態を示す。したがって、ステアリングホイール121が切り増し状態St_Fのとき、車両10(図1参照)に発生するヨーレートが増大する。また、ステアリングホイール121が切り戻し状態St_Rのとき、車両10に発生するヨーレートが減少する。
図4に示すように、遅れ規範ヨーレートωstfは舵角規範ヨーレートωstnの変化に対して所定の時定数で遅れて変化する(遅れを有することになる)。したがって、ステアリングホイール121(図1参照)が操舵されてから所定の時間が経過するまでは舵角規範ヨーレートωstnの絶対値は遅れ規範ヨーレートωstfの絶対値よりも大きい。そして、所定の時間が経過すると舵角規範ヨーレートωstnの絶対値が遅れ規範ヨーレートωstfの絶対値よりも小さくなる。
そして、舵角規範ヨーレートωstnの絶対値が遅れ規範ヨーレートωstfの絶対値よりも大きいときは、舵角規範ヨーレートωstnが遅れ規範ヨーレートωstfに先んじて増大しているときであり、ステアリングホイール121(図1参照)が切り増しされているときに相当する。
一方、舵角規範ヨーレートωstnの絶対値が遅れ規範ヨーレートωstfの絶対値よりも小さいときは、舵角規範ヨーレートωstnが遅れ規範ヨーレートωstfに先んじて減少しているときであり、ステアリングホイール121が切り戻しされているときに相当する。
このことから、ステアリング動作判定部231は、舵角規範ヨーレートωstnの絶対値が遅れ規範ヨーレートωstfの絶対値より大きいとき、ステアリングホイール121が切り増しされていると判定する。また、ステアリング動作判定部231は、舵角規範ヨーレートωstnの絶対値が遅れ規範ヨーレートωstfの絶対値より小さいとき、ステアリングホイール121が切り戻しされていると判定する。
演算部232は制動力設定マップMP2を有する。制動力設定マップMP2は、ヨーレート偏差ΔYと制動力目標値Btgの関係を示すマップである。
制動力設定マップMP2は、ヨーレート偏差ΔYが大きいほど大きな制動力目標値Btgが設定されている。したがって、演算部232は、ヨーレート偏差ΔYが大きいほど大きな制動力目標値Btgを設定する。
このような制動力設定マップMP2は、車両10(図1参照)に要求される走行性能や旋回性能等にもとづいて、事前の実験計測やシミュレーションによって設定されることが好適である。
また、演算部232は出力選択部232aを有する。出力選択部232aは、ステアリング動作判定部231の判定結果に応じて出力値を選択する。ステアリング動作判定部231が切り増し状態St_Fと判定した場合、出力選択部232aは、制動力設定マップMP2にもとづいて設定された制動力目標値Btgを選択する。また、ステアリング動作判定部231が切り戻し状態St_Rと判定した場合、出力選択部232aは、制動力目標値Btgとして「0(ゼロ)」を選択する。
出力選択部232aで選択された制動力目標値Btgが演算部232から出力される。したがって、ステアリング動作判定部231が切り戻し状態St_Rと判定した場合、演算部232から出力される制動力目標値Btgは「0(ゼロ)」になる。
このように、制動力演算部23は、舵角規範ヨーレートωstn(第1の規範ヨーレート)と遅れ規範ヨーレートωstf(第2の規範ヨーレート)の偏差(ヨーレート偏差ΔY)にもとづいた制動力目標値Btg(制動力)を設定する。
また、制動力演算部23は、舵角規範ヨーレートωstnと遅れ規範ヨーレートωstfにもとづいて、ステアリングホイール121(図1参照)が切り増し状態St_Fであると判定したときのみ、ヨーレート偏差ΔYにもとづいて設定した制動力目標値Btgを出力する。
図2に示すように、制動力目標値Btgは制動力制御信号発生部24に入力され、制動力制御信号発生部24は制動力目標値Btgにもとづいて液圧制御信号Cbを設定して出力する。
液圧発生部133(図1参照)は制動力制御信号発生部24から出力される液圧制御信号Cbにもとづいて駆動する。そして、制動力目標値Btgに相当する制動力をブレーキ動作部132(図1参照)で発生させるブレーキ液圧が液圧発生部133で発生する。
したがって、ヨーレート偏差ΔYが大きいほど大きな制動力が車両10(図1参照)に発生する。これによって、ヨーレート偏差ΔYが大きいほど前輪WF(図1参照)への荷重移動が大きくなり車両10の回頭性が向上する。そして、ヨーレート偏差ΔYが効果的に減少する。
また、ステアリング動作判定部231(図4参照)が切り戻し状態St_Rと判定した場合、演算部232から出力される制動力目標値Btgは「0(ゼロ)」になるので、車両10(図1参照)に制動力が発生しない。したがって、ステアリングホイール121(図1参照)が切り増しされて、ステアリング動作判定部231が切り増し状態St_Fと判定したときのみ車両10に制動力が発生する。カーブの走行において、運転者は旋回終了時にステアリングホイール121(図1参照)を切り戻す。したがって、ステアリング動作判定部231が切り戻し状態St_Rと判定したときには車両10に制動力が発生しない構成にすることで、旋回終了時に車両10に制動力が発生しない構成となる。
このように、制動力演算部23が旋回開始時のみに制動力目標値Btgを設定する(「0(ゼロ)」以外に設定する)構成であれば、カーブの走行において旋回開始時のみ車両10(図1参照)に制動力が発生して回頭性が向上し、旋回終了時に、車両10に制動力が発生しないので効率よい加速が可能になる。
また、制動力制御信号発生部24は、2つの前輪WF(図1参照)だけで制動力を発生するように液圧制御信号Cbを設定してこれを出力する。又は、制動力制御信号発生部24は、2つの後輪WR(図1参照)だけで制動力を発生するように液圧制御信号Cbを設定してこれを出力する。又は、制動力制御信号発生部24は、2つの前輪WFと2つの後輪WR(図1参照)の全てで制動力を発生するように液圧制御信号Cbを設定してこれを出力する。つまり、本実施形態の制動力制御信号発生部24は、少なくとも2つの前輪WF又は2つの後輪WRに備わるブレーキ動作部132(図1参照)で制動力を発生させるように設定する液圧制御信号Cbを出力する。
2つの前輪WFで制動力が発生すると、車両10(図1参照)には左右均等に制動力が発生し、2つの前輪WFに均等に荷重が移動する。これによって車両10の回頭性が効果的に向上するのでカーブを走行する車両10におけるヨーレートの特性が改善される。
また、前輪WFへ荷重移動すると路面と前輪WFの摩擦が大きくなる。したがって、前輪WFで制動力が発生すると車両10が効果的に制動される。2つの後輪WRで制動力が発生する場合も同等の効果を得ることができる。
なお、前記したように、動力源11(図1参照)が電動機の場合、又は、動力源11が内燃機関と電動機が組み合わさったハイブリッドタイプの場合、車両10(図1参照)は、動力源11(電動機)で回生制動力を発生させることができる。
この場合、制動力制御信号発生部24は動力源11で回生制動力を発生させるための制御信号(回生制御信号)を設定して出力する。車両運動制御装置1(図2参照)は回生制御信号で動力源11を制御し、制動力目標値Btgに相当する制動力を回生制動力で発生させる。
なお、回生制動力は、2つの前輪WF(図1参照)、及び、2つの後輪WR(図1参照)の4輪に発生する構成であってもよい。
制動力目標値Btgに相当する制動力を回生制動力で発生する場合、液圧発生部133(図1参照)の作動音やブレーキ操作部132(図1参照)の機械的な消耗(図示しないパッド等の消耗)、ブレーキ操作部132で発生する摩擦熱の放熱等によるエネルギロスを軽減しながら車両10(図1参照)の回頭性を向上させることができ、車両10に発生するヨーレートの特性が改善される。
以上のように、本実施形態の車両運動制御装置1(図1参照)は、操舵角θhと車体速Vcにもとづいて舵角規範ヨーレートωstnを算出する。また、車両運動制御装置1は、車両10(図1参照)の動特性に応じた遅れ規範ヨーレートωstfを算出する。そして、車両運動制御装置1は、ステアリングホイール121(図1参照)が切り増し状態St_Fであると判定したとき、舵角規範ヨーレートωstnと遅れ規範ヨーレートωstfの偏差(ヨーレート偏差ΔY)が小さくなるように、車両10(図1参照)に制動力を発生させる。具体的に車両運動制御装置1は、ヨーレート偏差ΔYが大きくなるほど大きな制動力目標値Btgを設定する。
遅れ規範ヨーレートωstfは、ステアリングホイール121(図1参照)が操舵されてから車両10(図1参照)が回頭動作を始めるまでに生じる遅れによって規範ヨーレートωstnから遅れる。
そこで、本実施形態の車両運動制御装置1(図1参照)は、車両10において、特に前輪WF(図1参照)で制動力を発生させて前輪WFへ充分に荷重移動させる。これによって、車両10の回頭性が向上して、ステアリングホイール121の操舵に対する旋回(回頭)の応答性が向上する。したがって、ステアリングホイール121が操舵されてから車両10が回頭動作を始めるまでの遅れが緩和され、車両10に発生するヨーレートの特性が改善される。
また、車両運動制御装置1(図1参照)は、ステアリングホイール121(図1参照)が切り増し状態St_Fであると判定したときのみ制動力を発生させ、切り戻し状態St_Rであると判定したときには制動力を発生させない。
車両10(図1参照)がカーブから離脱するときにステアリングホイール121が切り戻し状態St_Rとなるので、車両運動制御装置1が切り戻し状態St_Rと判定したときに制動力が発生しない構成であれば、カーブから離脱する車両10の加速が制動力で妨げられないので、車両10は効率よく加速される。
また、車両運動制御装置1(図1参照)は、ステアリングホイール121(図1参照)が切り増し状態St_Fであると判定したとき、前輪WF(図1参照)で制動力が発生するように液圧制御信号Cbを設定する。
車両10には左右均等に制動力が発生し、2つの前輪WFに均等に荷重が移動する。これによって車両10の回頭性が効果的に向上するのでカーブを走行する車両10におけるヨーレートの特性が改善される。
なお、本発明は、発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜設計変更が可能である。
例えば、制動力演算部23(図4参照)において、車体速Vcが高いほど制動力目標値Btgのゲインが大きくなる構成であってもよい。
図5は制動力演算部の設計変更例を示す図である。
図5に示すように、図4に示す制動力演算部23に、ゲイン設定マップMP3と、乗算器234が備わり、車体速Vcが入力される構成の制動力演算部23aであってもよい。ゲイン設定マップMP3は、車体速Vcと車速補正ゲインGvとの関係を示すマップである。車速補正ゲインGvは演算部232が出力する制動力目標値Btgを車体速Vcに応じて補正するゲインであり、車体速Vcが高いほど大きな値となるように制動力目標値Btgを補正する。図5に示すように、車速補正ゲインGvは1.0より大きな値であって車体速Vcが高くなるほど大きな値になる。このような車速補正ゲインGvは、車両10(図1参照)に要求される走行性能や旋回性能等にもとづいて、事前の実験計測やシミュレーションによって設定されることが好適である。
制動力演算部23aは、車体速Vcに対応する車速補正ゲインGvをゲイン設定マップMP3にもとづいて設定する。車体速Vcに対応する車速補正ゲインGvは乗算器234に入力される。乗算器234は演算部232から出力される制動力目標値Btgに車速補正ゲインGvを乗算して出力する。
図5に示す制動力演算部23aでは、演算部232が出力する制動力目標値Btgに、車体速Vcが高いほど大きく設定される車速補正ゲインGvが乗算される。したがって、制動力演算部23aから出力される制動力目標値Btgは車体速Vcが高いほど大きくなる。ひいては、車体速Vcが高いほど車両10に大きな制動力が発生する。
例えば、旋回開始時において車体速Vcが高いほど充分な制動力が車両10(図1参照)に発生するので、前輪WF(図1参照)への荷重移動が大きくなって車両10の回頭性が向上する。したがって、車両10はステアリングホイール121(図1参照)の操舵に素早く対応して回頭するのでヨーレートの特性が効果的に改善される。
なお、本発明は、1つの前輪WF(図1参照)と2つの後輪WR(図1参照)を備える三輪自動車や、1つの前輪WFと1つの後輪WRを備える二輪自動車に適用することも可能である。この場合、制動力制御信号発生部24(図2参照)は、1つの前輪WFに備わるブレーキ動作部132(図1参照)で制動力を発生させるように液圧制御信号Cbを設定して出力する。
1 車両運動制御装置
10 車両
21a 定常特性部
21b 過渡特性部
23 制動力演算部
24 制動力制御信号発生部(制御信号発生部)
121 ステアリングホイール
132 ブレーキ動作部(制動力発生部)
Cb 液圧制御信号(制御信号)
St_F 切り増し状態
St_R 切り戻し状態
WF 前輪
WR 後輪
ΔY ヨーレート偏差(偏差)
ωstn 舵角規範ヨーレート(第1の規範ヨーレート)
ωstf 遅れ規範ヨーレート(第2の規範ヨーレート)

Claims (4)

  1. 前輪と後輪を有する車両に備わり、
    ステアリングホイールの操舵角と前記車両の車体速にもとづいて第1の規範ヨーレートを演算する定常特性部と、
    前記第1の規範ヨーレートの変化に対して遅れを有する第2の規範ヨーレートを演算する過渡特性部と、
    前記第1の規範ヨーレートと前記第2の規範ヨーレートの偏差に応じた制動力を設定する制動力演算部と、
    前記制動力演算部が設定した前記制動力を、制動力発生部に発生させる制御信号を出力する制御信号発生部と、を有し、
    前記制動力演算部は、前記第1の規範ヨーレートと前記第2の規範ヨーレートにもとづいて前記ステアリングホイールが切り増し状態であると判定したときに前記制動力を設定し、
    前記制御信号発生部は、少なくとも2つの前輪又は2つの後輪に備わる前記制動力発生部に前記制動力を発生させるように前記制御信号を設定して当該制御信号を出力すること、を特徴とする車両運動制御装置。
  2. 前記制動力演算部は、前記第1の規範ヨーレートの絶対値が前記第2の規範ヨーレートの絶対値より大きいときに前記ステアリングホイールが切り増し状態であると判定することを特徴とする請求項1に記載の車両運動制御装置。
  3. 前記制動力演算部は、前記偏差が大きいほど前記制動力を大きく設定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両運動制御装置。
  4. 前記過渡特性部は、前記第1の規範ヨーレートの変化に対して所定の時定数で遅れるように前記第2の規範ヨーレートを演算し、
    前記時定数は、前記車両の旋回特性に応じて設定されていることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の車両運動制御装置。
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