以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
<低級アルキル(メタ)アクリレート>
本発明の歯科用硬化性組成物は、低級アルキル(メタ)アクリレートを含む。このような低級アルキル(メタ)アクリレートは、アルキル鎖の炭素数が4以下のものであり、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートが例示される。これら低級アルキル(メタ)アクリレートの中で、特にメチル(メタ)アクリレートは特に不快で強い臭気を有すため、本発明の歯科用硬化性組成物にメチル(メタ)アクリレートを含む場合に特に悪臭の緩和効果(以下、悪臭が緩和されることを消臭ともいう)が効果的に発揮される。
このような低級アルキル(メタ)アクリレートは、揮発性が高く、独特の臭気を有するため、低級アルキル(メタ)アクリレートを含む歯科用硬化性組成物が特に口腔内に直接適用された場合や技工所等で大量に使用された場合は、その独特の臭気が患者や技工術者に多大な不快感を与える。低級アルキル(メタ)アクリレートの臭気は極めて高い為、歯科用硬化性組成物に少量でも含まれていればその臭気は不快臭として容易に感知される。そのため、歯科用硬化性組成物の全体に対して1質量%以上の低級アルキル(メタ)アクリレートが含まれている場合に、該歯科用硬化性組成物由来の極めて強い臭気を効果的に緩和することが可能となるため本発明の効果が効果的に発揮される。より好ましくは、歯科用硬化性組成物の全体に対して5質量%以上の低級アルキル(メタ)アクリレートが含まれている場合であり、特に好ましくは、歯科用硬化性組成物の全体に対して10質量%以上の低級アルキル(メタ)アクリレートが含まれている場合である。
<ラクトン系香料>
本発明において、歯科用硬化性組成物に一般式(1)に示すラクトン系香料を該歯科用硬化性組成物に含ませる。
(式中Rは、水素原子、アルキル基、またはアルケニル基である。)
本発明のラクトン系香料を用いると、低級アルキル(メタ)アクリレートの臭気を効果的に低減し得る。
一般式(1)に示す構造であるラクトン系香料が、低級アルキル(メタ)アクリレートの悪臭緩和能力が高い理由は不明であるが、本発明者等は以下のような効果発現機構によると考察している。即ち、臭覚とは、臭覚細胞表面に存在する臭覚レセプターに臭いの原因となる化合物が結合することで始まり、細胞が興奮した結果、我々は臭気を感じ取る。ここで、本発明のラクトン系香料が低級アルキル(メタ)アクリレートと比較して相対的に臭覚レセプターとの親和性が高いために、短時間で臭覚レセプターと結合することができる、或いは臭気レセプターに結合し続けることができ、本発明のラクトン系香料が低級アルキル(メタ)アクリレートと競合し、低級アルキル(メタ)アクリレートの臭覚レセプターへの結合を抑制することで、低級アルキル(メタ)アクリレートの臭気を効率よく緩和できるのではないかと考察している。
一般式(1)のラクトン系香料においてRは炭素数1〜15のアルキル基又はアルケニル基である場合に、低級アルキル(メタ)アクリレートの悪臭緩和能力に優れるため好適である。
このような一般式(1)で表されるRが水素原子またはアルキル基のラクトン系香料の具体例を示すと、γ−ブチロラクトン、γ−ペンタラクトン、γ−ヘキサラクトン、γ−ヘプタラクトン、γ−オクタラクトン、γ−ノナラクトン、γ−デカラクトン、γ−ウンデカラクトン、γ−ドデカラクトン、γ−トリデカラクトン、γ−テトラデカラクトン、γ−ペンタデカラクトン、γ−ヘキサデカラクトン、γ−ヘプタデカラクトン、γ−オクタデカラクトン、γ−ノナデカラクトン等が挙げられる。
また、一般式(1)で表されるRがアルケニル基のラクトン系香料としては、前述したγ−ヘキサラクトン、γ−ヘプタラクトン、γ−オクタラクトン、γ−ノナラクトン、γ−デカラクトン、γ−ウンデカラクトン、γ−ドデカラクトン、γ−トリデカラクトン、γ−テトラデカラクトン、γ−ペンタデカラクトン、γ−ヘキサデカラクトン、γ−ヘプタデカラクトン、γ−オクタデカラクトン、γ−ノナデカラクトン等の、R基のいずれかに、二重結合が一つ含まれるものが挙げられる。二重結合の位置は特に限定されず、いずれの位置にあっても良い。具体例を示すと、以下、一般式(2)〜(7)が挙げられる。
これらの中でも特に十分な揮発性を有すため少量の添加量でも低級アルキル(メタ)アクリレートの悪臭緩和能力が得られ、かつ保存中に揮発しすぎないために臭気成分が歯科用硬化性組成物中から失われ難いため、悪臭緩和能力と保存安定性を両立させやすいことから、一般式(1)においてRは炭素数2〜8のアルキル基又はアルケニル基が特に好ましく、このような化合物を例示すれば、γ−ヘキサラクトン、γ−ヘプタラクトン、γ−オクタラクトン、γ−ノナラクトン、γ−デカラクトン、γ−ジャスモラクトン、γ−ウンデカラクトン、またはγ−ドデカラクトンが特に好ましい化合物として例示できる。
これらのラクトン系香料は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
また、本発明のラクトン系香料は、歯科用硬化性組成物の重合性等の理工学的物性や操作性に対する悪影響が実用上十分に少ないものであれば、従来公知の合成物または一般式(1)に示すラクトン系香料を含む天然物からの抽出オイルが使用できる。
本発明の歯科用硬化性組成物においては、該歯科用硬化性組成物の全体に対し、1質量%以上の低級アルキル(メタ)アクリレートを含む場合に低級アルキル(メタ)アクリレートに由来する悪臭が特に強く感知されるため本発明の悪臭低減効果が特に良好に得られ、このような場合に本発明のラクトン系香料の配合量が歯科用硬化性組成物の全体に対し0.005〜5質量%である場合に、低級アルキル(メタ)アクリレートに由来する悪臭の効果的な悪臭低減効果が得られる。本発明のラクトン系香料の歯科用硬化性組成物への配合量が少なすぎると、低級アルキル(メタ)アクリレートの悪臭を緩和する効果が低く、多すぎると歯科用硬化性組成物の強度に悪影響を与えたり、ラクトン系香料自体の臭気が強くなりすぎたり残香が長時間残る場合がある。よって、本発明の歯科用硬化性組成物に対する上記一般式(1)に示す構造式である香気成分の特に好適な添加量は、歯科用硬化性組成物の全体に対し0.05〜2質量%である。
本発明の歯科用硬化性組成物は、低級アルキル(メタ)アクリレートを含む組成物であって、硬化性を有するものであれば、その実施態様や硬化機構は特に限定されず、従来公知の実施態様や硬化機構を使用できる。歯科用硬化性組成の硬化機構としては、グラスアイオノマーセメントやリン酸亜鉛セメントに使用されるようなイオン架橋反応による硬化機構、高分子やフィラーを揮発性溶媒に分散や溶解しておき揮発性溶媒の揮発により硬化層や硬化体を形成させる硬化機構、ワックスやユージノール系仮封材に使用されるような熱溶解後の冷却固化を利用する硬化機構、アニオン重合反応、カチオン重合反応、ラジカル重合反応等を利用した付加重合、重付加、重縮合、付加縮合等の重合反応機構による硬化機構等を使用することができる。
これら硬化機構の中で、口腔内の穏和な条件下で硬化させることができ、また比較的短時間に硬化体強度等の高い理工学物性が得られること、また本発明の歯科用硬化性組成物に使用する低級アルキル(メタ)アクリレートを重合硬化させることで重合硬化後の低級アルキル(メタ)アクリレートに由来する臭気を低減できることから、従来公知のラジカル重合反応を利用した硬化機構を使用することが好ましい。本発明の歯科用硬化性組成物がラジカル硬化機構を利用する場合は、本発明の歯科用硬化性組成物は従来公知のラジカル重合性単量体と、従来公知の重合開始剤を含む。ここで、ラジカル重合性単量体としては、低級アルキル(メタ)アクリレートだけからなっても良く、機械的強度を向上する等の目的で、更に低級アルキル(メタ)アクリレート以外のラジカル重合性単量体を含んでもよい。
<ラジカル重合性単量体>
本発明の歯科用硬化性組成物は、低級アルキル(メタ)アクリレート以外のラジカル重合性単量体を含むことができる。このような低級アルキル(メタ)アクリレート以外のラジカル重合性単量体としては、分子中に少なくとも一つの重合性不飽和基を有するものであれば従来公知のものを使用でき、このような重合性不飽和基としてはアクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基、スチリル基等を例示できる。重合性の良さなどから、(メタ)アクリレート系の単量体が特に好適に用いられる。当該(メタ)アクリレート系の重合性単量体を具体的に例示すると、次に示すものが例示できる。
(i)単官能ラジカル重合性単量体
ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、プロピオンオキシエチル(メタ)アクリレート、ブタノンオキシエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,6H−デカフルオロヘキシル(メタ)アクリレート及び1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート等の含フッ素(メタ)アクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルフェニルハオドロジェンフォスフェート、11−メタクリロキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸及びその無水物等の酸性基を有する(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート等の塩基性基を含有しているもの、ω−メタクリロイルオキシヘキシル2−チオウラシル−5−カルボキシレート、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の接着性(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(ii)二官能ラジカル重合性単量体
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス((メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(3−(メタ)アクリロキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル]プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジプロポキシフェニルプロパン、2−(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロキシトリエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロキシジプロポキシフェニル−2−(4−(メタ)アクリロキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシイソプロポキシフェニルプロパン等の(メタ)アクリレート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンフォスフェート等が挙げられる。
(iii)三官能ラジカル重合性単量体
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(iv)四官能ラジカル重合性単量体
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
更に、上記(メタ)アクリレート系重合性単量体以外のラジカル重合性単量体を混合して重合することも可能である。これらのラジカル重合性単量体を例示すると、フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体;ジアセトンアクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド基を含有しているもの;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物を挙げることができる。
これらのラジカル重合性単量体は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
このような低級アルキル(メタ)アクリレート以外のラジカル重合性単量体は、本発明の歯科用硬化性組成物の全体の1〜98.5質量%であることが好ましい。歯科用硬化性組成物が1液型の歯科用接着性組成物である場合は、低級アルキル(メタ)アクリレート以外のラジカル重合性単量体は歯科用硬化性組成物の全体の1〜98.5質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜95質量%である。また、ペースト状の歯科用硬化性材料(1ペースト型、2ペースト混合型、粉液混合型等)の場合は、歯科用硬化性組成物の全体に対し1〜95質量%が好ましく、より好ましくは3〜90質量%である。
<重合開始剤>
本発明の歯科用硬化性組成物は、例えば歯科用常温重合レジン、歯科用レジンセメント、歯科用接着性組成物または仮封材等の硬化性材料として有用であり、これらの場合には、低級アルキル(メタ)アクリレートと更に必要に応じて使用する場合には上述したラジカル重合性単量体を重合させるために従来公知の重合開始剤が有効量配合される。重合開始剤は、化学重合型と光重合型に分類され、目的に応じて適宜選定すればよい。また、光重合開始剤と化学重合開始剤を併用し、光重合と化学重合のどちらによっても重合を開始させることの出来るデュアルキュアタイプとすることも可能である。歯科分野で用いられる重合開始剤としては、化学重合開始剤(常温レドックス開始剤)、光重合開始剤、熱重合開始剤等がある。
このような光重合開始剤としては、ジアセチル、アセチルベンゾイル、ベンジル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4'−ジメトキシベンジル、4,4'−オキシベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα−ジケトン類、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン誘導体、ベンゾフェノン、p,p'−ジメチルアミノベンゾフェノン、p,p'−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド誘導体、さらには、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤からなる系が挙げられる。これらの中でも特に好ましいのは、α−ジケトン系の光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系の光重合開始剤、及びアリールボレート化合物/色素/光酸発生剤を組み合わせた系からなる光重合開始剤である。
上記α−ジケトンとしてはカンファーキノン、ベンジルが好ましく、また、アシルホスフォンオキサイドとしては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドが好ましい。なお、これらα−ジケトン及びアシルホスフォンオキサイドは単独でも光重合活性を示すが、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ラウリル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミン化合物と併用することがより高い重合活性を得られて好ましい。また、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤系の光重合開始剤としては、テトラフェニルホウ素ナトリウム塩等のアリールボレート化合物を、色素として3,3'−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3,3'−カルボニルビス(4−シアノ−7−ジエチルアミノクマリン等のクマリン系の色素を、光酸発生剤として、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等のハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、またはジフェニルヨードニウム塩化合物を用いたものが特に好適に使用できる。
本発明の歯科用硬化性組成物に配合できる化学重合開始剤としては、2成分以上からなり、使用直前に全成分が混合されることにより室温近辺で重合活性種を生じる重合開始剤が好適である。このような化学重合開始剤としては、有機過酸化物及びアミン化合物の組み合わせ、有機過酸化物類、アミン化合物及びスルフィン酸塩類の組み合わせ、酸性化合物及びアリールボレート化合物の組み合わせ、バルビツール酸、アルキルボラン等の化学重合開始剤等が挙げられる。
上記のアミン化合物としては、第二級又は第三級アミン類が好ましく、具体的に例示すると、第二級アミンとしてはN−メチルアニリン、N−メチル−p−トルイジン等が挙げられ、第三級アミンとしてはN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、p−ジメチルアミノスチルベン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,Nジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2,2'−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等が挙げられる。これらアミン化合物は、単独又は2種以上を組み合わせて使用しても良い。
上記の有機過酸化物としては公知のケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリールパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネートに分類される有機過酸化物が使用できる。具体的には、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過酸化ジt−ブチル、過酸化ジクミル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル等が挙げられる。使用する有機過酸化物は、適宜選択して使用すればよく、単独又は2種以上を組み合わせて用いても何等構わないが、中でもハイドロパーオキサイド類、ケトンパーオキサイド類、パーオキシエステル類及びジアシルパーオキサイド類が重合活性の点から特に好ましい。さらにこの中でも、硬化性組成物としたときの保存安定性の点から10時間半減期温度が60℃以上の有機過酸化物を用いるのが好ましい。
また、アリールボレート化合物が酸により分解してラジカルを生じることを利用した、酸性化合物及びアリールボレート化合物の組み合わせからなる重合開始剤を用いることもできる。アリールボレート化合物は、分子中に少なくとも1個のホウ素−アリール結合を有する化合物であれば特に限定されず公知の化合物が使用できるが、その中でも、保存安定性を考慮すると、1分子中に3個または4個のホウ素−アリール結合を有するアリールボレート化合物を用いることが好ましく、さらには取り扱いや合成・入手の容易さから4個のホウ素−アリール結合を有するアリールボレート化合物がより好ましい。これら4個のホウ素−アリール結合を有するアリールボレート化合物を具体的に例示すれば、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p―クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p―フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、テトラキス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3―ヘキサフルオロ―2―メトキシ―2―プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p―ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m―ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p―ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m―ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p―ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m―ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p―オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m―オクチルオキシフェニル)ホウ素などのホウ素化合物の塩を挙げることができる。ホウ素化合物と塩を形成する陽イオンとしては、金属イオン、第3級または第4級アンモニウムイオン、第4級ピリジニウムイオン、第4級キノリニウムイオン、または第4級ホスホニウムイオンを使用することができる。尚、これらアリールボレート化合物は2種以上を併用しても良い。
上記の酸性化合物としては、従来公知の酸性化合物を使用することができるが、ラジカル重合性単量体の一部として、酸性基含有ラジカル重合性単量体を使用することにより機能させても良い。こうした酸性基含有ラジカル重合性単量体としては、1分子中に少なくとも1つの重合性不飽和基と少なくとも1つの酸性基を有する重合性単量体であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。ここで、重合性不飽和基とは、(メタ)アクリロイル基及び(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基等の(メタ)アクリロイル基の誘導体基;ビニル基:アリル基;スチリル基等が例示される。
また、ここで酸性基とは、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)2}、カルボキシル基{−C(=O)OH}、スルホ基(−SO3H)等の遊離の酸基のみならず、当該酸性基の2つが脱水縮合した酸無水物構造(例えば、−C(=O)−O−C(=O)−)、あるいは酸性基のOHがハロゲンに置換された酸ハロゲン化物基(例えば、−C(=O)Cl)等など、該基を有する重合性単量体の水溶液又は水懸濁液が酸性を示す基を示す。
酸性基含有重合性単量体を具体的に例示すると、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−O−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸等の分子内に1つのカルボキシル基を有す重合性単量体、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物;11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−メタクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート、N,O−ジ(メタ)アクリロイルチロシン、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテートアンハイドライド、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、4−アクリロイルオキシブチルトリメリテート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸無水物、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−2,3,6−トリカルボン酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル−1,8−ナフタル酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,8−トリカルボン酸無水物等の分子内に複数のカルボキシル基あるいはその酸無水物基を有す重合性単量体、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物(ただしこれらはカルボキシル基を有す化合物である場合);2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル2−ブロモエチルハイドロジェンフォスフェート等の分子内にホスフィニコオキシ基又はホスホノオキシ基を有す重合性単量体(重合性酸性リン酸エステルとも称す)、およびこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物;ビニルリン酸、p−ビニルベンゼンリン酸等の分子内にホスホノ基を有す重合性単量体;2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸等の分子内にスルホ基を有す重合性単量体が例示される。またこれら以外にも、特開昭54−11149号公報、特開昭58−140046号公報、特開昭59−15468号公報、特開昭58−173175号公報、特開昭61−293951号公報、特開平7−179401号公報、特開平8−208760号公報、特開平8−319209号公報、特開平10−236912号公報、特開平10−245525号公報等に開示されている歯科用接着材の成分として記載されている酸性モノマーも好適に使用できる。
また、このようなアリールボレート化合物/酸性化合物系の重合開始剤に更に、有機過酸化物および/または遷移金属化合物を組み合わせて用いることも重合活性を更に高めることができ好適である。有機過酸化物としては、前記の通りである。遷移金属化合物としては、+IV価および/または+V価のバナジウム化合物が好適である。このようなバナジウム化合物の具体例としては、四酸化二バナジウム(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1―フェニル―1,3―ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)等を挙げることができる。
さらに、化学重合開始剤として好ましいものを例示すれば、(x)ピリミジントリオン誘導体(例えば、1−シクロヘキシル−5−メチルピリミジントリオン、1−シクロヘキシル−5−エチルピリミジントリオン等)、(y)ハロゲンイオン形成化合物(例えば、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド等)および(z)第二銅形成化合物又は第二鉄イオン形成化合物(例えば、アセチルアセトン銅、酢酸第二銅、オレイン酸銅、アセチルアセトン鉄等)との組み合わせを挙げることができる。この化学重合開始剤系のものは、硬化後の変色が起こりにくく、本発明の歯科用硬化性組成物を歯科修復材の目的に使用した場合の化学重合開始剤として特に好ましい。
これらの化学重合開始剤は、本発明の歯科用硬化性材料をその保存安定性等を考慮して2分包以上に適宜分包しておき、化学重合開始剤の複数成分の全てが、歯科用硬化性材料の各分包の何れかに保存中に混合されないように各成分を分けて適宜配合する。例えば本発明の歯科用硬化性材料が低級アルキル(メタ)アクリレートを含む(A)液材と、後述するポリ低級アルキル(メタ)アクリレートを含む(B)粉材とからなり、これら(A)液材または(B)粉材に化学重合開始剤が配合される場合は、その分け方は夫々の化学重合開始剤成分の、(A)液材または(B)粉材に対する安定性や分散性に応じて適宜に決定すれば良い。例えば、前記アミン化合物/有機過酸化物系であれば、前者が(A)液材に配合され、後者が(B)粉材に配合されるのが一般的である。また、前記(x)ピリミジントリオン誘導体、(y)ハロゲンイオン形成化合物、および(z)第二銅形成化合物又は第二鉄イオン形成化合物との組み合わせであれば、(y)ハロゲンイオン形成化合物が(A)液材に配合され、(x)ピリミジントリオン誘導体と(z)第二銅形成化合物又は第二鉄イオン形成化合物とが(B)粉材に配合されるのが一般的である。
本発明の重合開始剤はそれぞれ単独で配合するのみならず、必要に応じて複数の種類を組み合わせて配合することもできる。これらの配合量は、本発明の歯科用硬化性組成物の全体の0.01〜10質量%の範囲であるのが好ましい。0.01質量%未満では本発明の歯科用硬化性組成物の硬化性が低下する傾向にあり、逆に10質量%を超えると、本発明の歯科用硬化性組成物の硬化体強度が低下する傾向にある。重合開始剤の上記配合量は、0.1〜8質量%の範囲であるのがより好ましい。
<その他の任意性分>
本発明の歯科用硬化性組成物において、必要に応じてフィラーを配合することができる。このようなフィラーとしては、従来公知の非架橋または架橋した有機フィラー、有機無機複合フィラーまたは無機フィラーを何ら制限なく使用することができる。
有機フィラーとしては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸のエステル類(例えばポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体等のポリアルキルメタクリレート等)、架橋型ポリアルキルメタクリレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリエステル類、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等のポリスチレン類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド類等の有機高分子からなる粒子が挙げられる。
これら有機フィラーは、1種類のものを用いても良いし、2種類以上を混合して使用しても良い。有機フィラーの粒径、比表面積、形状等は特に限定されない。
特に、義歯の補修や暫間歯等に使用される歯科用常温重合レジン、動揺歯の暫間固定等に使用される歯科用プライマーと歯科用硬化性組成物(所謂MMAレジン等)からなる歯科用レジンセメント等においては、低級アルキル(メタ)アクリレートやその他のラジカル重合性単量体とのなじみや溶解性の高さ、透明性の高い硬化体が得られること、また高い靭性が得られることから、ポリ低級アルキルメタクリレートが好適に用いられる。
該ポリ低級アルキル(メタ)アクリレートは、アルキル鎖の炭素数が4以下の低級アルキル(メタ)アクリレートを単独重合または共重合して得られる重合体であり、原料に使用する低級アルキル(メタ)アクリレートは具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートが例示される。
ポリ低級アルキル(メタ)アクリレートは、従来公知の架橋剤を使用して合成した架橋型のものであっても良いし、非架橋型のものであってもよい。該ポリ低級アルキル(メタ)アクリレートは、上述した低級アルキル(メタ)アクリレートを原料としてバルク重合または懸濁重合法等により合成された従来公知の架橋型または非架橋型のポリ低級アルキル(メタ)アクリレートを何ら制限無く使用することができる。低級アルキル(メタ)アクリレートやその他のラジカル重合性単量体との特に高いなじみや溶解性、また特に高い靭性を得る目的においては、非架橋型のポリ低級アルキルメタクリレートが好適に使用される。このような非架橋のポリ低級アルキル(メタ)アクリレートを例示すれば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートの共重合体、メチルメタクリレートとブチルメタクリレートの共重合体、エチルメタクリレートとブチルメタクリレートの共重合体等、が挙げられる。これらは、2種類以上を混合して使用しても良い。非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子の配合割合は、(B)粉材の合計を100質量%とした場合に70質量%以上であり、80質量%以上であるのが特に好ましい。
本発明の歯科用硬化性組成物において、上記有機フィラーの該非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子は、比表面積が0.7〜6.0m2/gと大きいものを使用するので、低級アルキル(メタ)アクリレートを主成分として含有してなる(A)液材に対して溶解性が高い。そのため、粉材と液材を混合後、短時間にその粘度が上昇し、そのため直ぐの光照射による光重合においても、重合性(硬化性)がよい。ここで、非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子の比表面積が小さいと、(A)液材への溶解性が低くなり、混合後の粘度上昇が不十分となって高い光硬化活性が得られない。一方、比表面積が大きすぎると、(A)液材への溶解性が高すぎて、粉液混合後の粘度が高くなりすぎ、操作性が悪くなる。この効果をより良好に発揮させる観点から、比表面積が0.7〜6.0m2/gであり、0.9〜5.5m2/gのものがより好ましい。
該非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子の形状は特に限定されず、比表面積が0.7〜6.0m2/gを有するものであれば、平均粒径がおよそ5μm以下の球状から略球状の懸濁重合法等で作製した粒子も使用できるし、通常の粉砕により得られる異形化粒子または不定形状の粉砕粒子を使用しても良い。
また、粒子径は特に限定されるものではないが、(B)粉材の平均粒子径は0.1〜200μmであるのが好ましく、好適には5〜150μm、より好適には10〜100μmである。
なお、本発明において、粒子の平均粒径はレーザー回折・散乱法により測定したメジアン径である。具体的には、エタノールや水とエタノールの混合溶媒等の、非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子が良好に分散し、且つ該粒子が溶解または膨潤しない分散媒を使用し、フランホーファー回折法により平均粒径を測定する。
また、本発明において、比表面積は窒素吸着法によるBET比表面積値(m2/g)のことである。具体的には、25℃にて4時間真空乾燥した、非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子のBET比表面積値を測定する。
本発明において、非架橋ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート粒子は、重量平均分子量が小さすぎると硬化体の靭性が低下してしまい、十分な硬化体強度が得られない。一方、重量平均分子量が大きすぎると、その遅溶解性の性状から、混合後の粘度上昇が不十分となって高い光硬化活性が得られない。この効果をより良好に発揮させる観点から、重量平均分子量は10〜70万であるものを使用する。好ましくは、15〜65万が好ましい。このような重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを使用しポリスチレン換算の分子量として測定する。
また、無機フィラーとしては、石英、シリカ(湿式シリカ、ヒュームドシリカ)、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、チタニア、アルミナ、ジルコニア、フルオロアルミノシリケートガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、フッ化ナトリウム等の無機塩が挙げられ、これらは(A)液材とのなじみをよくするために、その表面をポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等の(メタ)アクリレート系重合体等のポリマーやシランカップリング剤等で被覆することができる。また、有機無機複合フィラーとしては、無機粒子と重合性単量体を予め混合し、ペースト状にした後、重合させ、粉砕して得られる粒状のフィラーが挙げられる。
さらに、本発明の歯科用硬化性組成物には、必要に応じて、その性能を低下させない範囲で、従来公知の任意性分を配合することができる。このような任意性分としては、重合等の助触媒成分、pH調整剤等の安定化剤、ラジカル重合性単量体等に溶解して使用する非架橋有機ポリマー等の粘度調節剤、フッ化ナトリウム等の各種塩類、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロパンジオール、アセトン等の有機溶剤、重合禁止剤、重合調整剤、紫外線に対する変色防止のための2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等の公知の紫外線吸収剤、顔料、染料、帯電防止剤、化1の構造を有さないその他の香料、各種抗菌剤、各種薬効成分等の各種添加剤を添加することが可能である。特に、保存安定性や環境光安定性を向上させるため、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジターシャリーブチルフェノール等の重合禁止剤を少量加えるのが好ましい。
本発明の歯科用硬化性組成物は、保管形態を(A)液材、(B)粉材の2つに分け、使用時に混合する粉液型歯科用硬化性材料として使用することも可能である。かかる粉液型歯科用硬化性材料は、義歯の補修、動揺歯の暫間固定等に使用される。すなわち、本発明の歯科用硬化性組成物は保管形態を、低級アルキル(メタ)アクリレートを含む(A)液材と、ポリ低級アルキル(メタ)アクリレートを含む(B)粉材とに分離し、(A)液材または(B)粉材の少なくとも一方には重合開始剤が含有されてなり、さらに、(A)液材または(B)粉材の少なくとも一方にラクトン系香料を含有させることも可能である。ラクトン系香料は、(A)液材、(B)粉材のいずれに配合してもよいが、ラクトン系香料が低級アルキル(メタ)アクリレートの悪臭を低減できる効果を最大限発揮する観点からは、低級アルキル(メタ)アクリレートを含む(A)液材に配合する事で、液材と粉材を混練する前の段階から悪臭を低減できる為、好ましい。
また、ラクトン系香料を液材に配合する事で、ラクトン系香料が揮発し難くなる為、低級アルキル(メタ)アクリレートの悪臭を低減する効果を長期に渡って持続させることが可能となり、保存安定性の観点からも、(A)液材に配合させることが好適である。
このような粉液型の歯科用硬化性材料は、(A)液材と(B)粉材とを練和法または筆積み法により混合して使用される。(A)液材と(B)粉材との混合比は特に制限されるものではないが、質量比で粉材/液材が0.2〜5の範囲が好ましく、特に、0.3〜4の範囲がより好ましい。
次に、本発明の実施例について、比較例と比較しながら説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
尚、実施例および比較例で使用した化合物の略称を(1)に、消臭性評価1の評価方法を(2)に、消臭性評価2の評価方法を(3)に、消臭性評価1保存安定性評価方法を(4)に、硬化体の曲げ強さの評価方法を(5)に、それぞれ示した。
(1)使用した化合物とその略称
[ポリ低級アルキル(メタ)アクリレート]
PMMA;重量平均分子量50万、体積平均粒子径60μmのポリメチルメタクリレート
PMMA−EMA;重量平均分子量50万、体積平均粒子径60μmのメチルメタクリレート50質量部とエチルメタクリレート50質量部の共重合体
PEMA;重量平均分子量50万、体積平均粒子径60μmのポリエチルメタクリレート
[低級アルキル(メタ)アクリレート]
MMA;メチルメタクリレート
EMA;エチルメタクリレート
[ラジカル重合性単量体]
TMPT;トリメチロールプロパントリメタクリレート
UDMA;1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,2,4−トリメチルヘキサンと1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,4,4−トリメチルヘキサンの混合物
HEMA;2−ヒドロキシエチルメタクリレート
BisGMA:2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン
3G;トリエチレングリコールジメタクリレート
[ラジカル重合性単量体(酸性化合物)]
PM;2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物
MMPS;2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸
[重合開始剤]
BPO;過酸化ベンゾイル
cHexEt−PTO:1−シクロヘキシル−5−エチルピリミジントリオン
CuAcAc:アセチルアセトン銅
DLDMACl:ジラウリルジメチルアンモニウムクロリド
DEPT;N,N−ジエタノール−p−トルイジン
PhBTEOA;テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩
CQ;カンファーキノン
DMBE;4−ジメチルアミノ安息香酸エチル
[無機フィラー]
FS1;火炎溶融法によるシリカ粒子。平均1次粒径18nm、メチルトリクロロシラン処理物。
[重合禁止剤]
BHT;ジブチルヒドロキシトルエン
(2)消臭性評価1の評価方法
(A)液材の1.0gをラバーカップに取り、そこに(B)粉材を2.0g加え、ヘラで30秒間混合しレジン泥を調製した。混合開始から1分後にレジン泥の1.0gを口腔内で30秒間保持し、低級アルキル(メタ)アクリレートの悪臭を感じるかどうか、以下の基準で10人で評価し、合計得点(10点を満点とする)を得た。
<低級アルキル(メタ)アクリレートの臭気>
スコア1:低級アルキル(メタ)アクリレートの悪臭を感じない。
スコア0.5:低級アルキル(メタ)アクリレートの悪臭を僅かに感じる。
スコア0:低級アルキル(メタ)アクリレートの悪臭を明らかに感じる。
(3)消臭性評価2の評価方法
液状の歯科用硬化性組成物の0.1gを歯科用混和皿に採取し、小筆を用いて口腔内の歯牙2本の表面全体に塗布し、そのまま30秒間保持した。30秒間保持後、低級アルキル(メタ)アクリレートの悪臭を感じるかどうか、以下の基準で10人で評価し、合計得点(10点を満点とする)を得た。
<低級アルキル(メタ)アクリレートの臭気>
スコア1:低級アルキル(メタ)アクリレートの悪臭を感じない。
スコア0.5:低級アルキル(メタ)アクリレートの悪臭を僅かに感じる。
スコア0:低級アルキル(メタ)アクリレートの悪臭を明らかに感じる。
(4)消臭性評価1保存安定性評価
調整した(A)液材および、(B)粉材をそれぞれ、ポリプロピレン製の容器中に密封した状態で37℃のインキュベーター内に1カ月放置後のサンプルを使用して、上記消臭性評価1の評価を行い、調整直後の結果と比較することで、保存安定性を評価した。
(5)硬化体の曲げ強さの評価方法
幅2±0.1mm、厚さ2±0.1mm、長さ25±2mmの試験片を作製するためのSUS製割型に、(A)液材1.0gと(B)粉材2.0gを練和したレジン泥を填入してポリプロピレンフィルムで圧接し、硬化させた。硬化体を型から取り出し、37℃の水中に一晩保存した。水中から取り出し、耐水研磨紙#1500で長さ方向に研磨して幅2±0.1mm、厚さ2±0.1mm、長さ25±2mmの試験片とし、試験片の幅と厚さをマイクロメーターで測定した。オートグラフ(島津製作所製)を用いて、支点間距離20mmクロスヘッドスピード2mm/minの条件で3点曲げ試験を行い、荷重−たわみ曲線を得た。
下式により曲げ強さを求めた。
また下式により、曲げ弾性率を求めた。
実施例1
実施例1では、(B)粉材として、PMMA−EMAを92質量部とPEMAを5質量部と、更に重合開始剤としてBPOを3質量部添加したものを混合して調製し使用した。(A)液材としてMMAを90質量部とTMPTを10質量部と、重合開始剤としてDEPTを1.5質量部と、ラクトン系香料として0.5質量部のγ−ブチロラクトンを添加したものを混合して調製し使用した。この(A)液材と上記(B)粉材を用いて、(2)消臭性評価1の評価方法に従い消臭性評価1を、(4)硬化体の曲げ強さの評価方法に従い曲げ強さを評価した。歯科用硬化性組成物の組成を表1に、試験結果を表3に示した。
実施例2〜23
表1及び表2に示した組成の異なる歯科用硬化性組成物を調製する以外は、実施例1の方法に準じ、消臭性評価および曲げ強さを評価した。試験結果を表3及び表4に示した。
比較例1〜6
表2に示した組成の異なる歯科用硬化性組成物を調製する以外は、実施例1の方法に準じ、消臭性評価および曲げ強さを評価した。試験結果を表4に示した。
実施例1〜23は、本発明の要件を満足するように配合された歯科用硬化性組成物であり、いずれの場合においても、良好な消臭効果が得られている。
また、実施例9と実施例21は、液材及び粉材混練後の組成は同等であるが、ラクトン系を液材に配合した場合(実施例9)、粉材に配合した場合(実施例21)の相違を表すものであるが、ラクトン系香料を液材に配合することで、長期保管時の香料の揮発による失活が抑制され、37℃1カ月後においても、消臭性が劣化する事無く、保存安定性が良好であることがわかる。
また、実施例13は、ラクトン系香料の配合量が極微量の場合であるが、ラクトン系香料の臭気が殆ど感じられないにもかかわらず、低級アルキル(メタ)アクリレートの消臭効果が得られている。
これに対して比較例1、比較例2、及び比較例5は、本発明のラクトン系香料以外の香料を配合した場合であるが、曲げ強さに関しては良好であるものの、低級アルキル(メタ)アクリレートの消臭効果が大幅に低下してしまう。
比較例3、比較例4、および比較例6は、本発明のラクトン系以外の香料の配合量を増量することで、低級アルキル(メタ)アクリレートの消臭を試みた場合であるが、増量した香料の臭気は強くなるものの、低級アルキル(メタ)アクリレートの消臭効果は得られなかった。