JP6072489B2 - 重層コ−トの電気絶縁電線 - Google Patents

重層コ−トの電気絶縁電線 Download PDF

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Description

本発明は、重層コ−トの電気絶縁電線に関するものである。
太陽電池を電源とし電気モ−タ−で走る自動車であるソ−ラ−カ−(solar car)は、太陽からの光エネルギ−を太陽電池によって電気エネルギ−に変換し、それを電気モ−タ−に投入することで動力とし、タイヤを回転させて走行する。その電気自動車のソ−ラ−カ−の電気モ−タ−(電動機)には、太陽電池の電力を最大限に利用するために、軽量で高効率な電動機が要求される。
電動機は、電気エネルギ−を機械エネルギ−に変換する電力機器で、回転子(ロ−タ)と、回転子と相互作用して回転モ−メントを発生させる固定子(ステ−タ)、回転子の回転を外部に伝える回転軸、回転軸を支える軸受、損失により発生した熱を冷却する冷却装置などから構成されている。
電動機にはいろいろな種類があるが、固定子に絶縁コイルが巻回され、当該コイルに変化する電流を供給することによって、変動する磁界を発生させる電動機があり、当該コイルは、その使用により、熱を持つので放熱が必要であり、又、モ−タ−効率(力率)の良いことが要求される。
当該力率とは、皮相電力と有効電力の割合を示しており、電圧と電流の位相差の違いを比率で示したもので、上記のソ−ラ−カ−の電気モ−タ−(電動機)を初めとして、コイル(巻線)を利用した受動素子のリアクトル(コンデンサから発生する高調波を緩和する為、又、進相コンデンサを投入したときの突入電流を緩和するために設置される。)等の電気機器は、殆どがコイル成分で出来ているため、電圧よりも電流が遅れている「遅れ力率」状態となっていて、電圧よりも電流が遅れている状態では、負荷で実際に使用される「有効電力」と、負荷と電源間を往復するだけで消費されない「無効電力」が発生している。この遅れ力率によってロスする電力を含んだ電力は、皮相電力と呼ばれ、皮相電力は、有効電力と無効電力を含んだ見掛けの電力を示しており、力率が判明していれば、有効に消費した有効電力と、消費されない無効電力を知ることが出来る。
電熱器などの電気機器の場合、電力はすべて熱に変換されているため、無効電力は存在せず、力率は1になり、力率の遅れはまったく発生しないことになる。このように、電力が全て有効に消化されている場合、力率(モ−タ−効率)は1となり、最も高効率と言える。
電気機器の放熱に付いては、古くからシリコ−ングリ−スが使用されてきて、オルガノポリシロキサンなどのシリコ−ン成分に金属酸化物や熱伝導性充填剤などが混入されたシリコ−ングリ−スが使用されてきた。当該熱伝導により電子機器の熱を効率よく放熱させる金属酸化物や熱伝導性充填剤等には、酸化亜鉛、酸化ベリリウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化硼素、酸化珪素、アルミニウム粉、カ−ボンブラック、微粉末シリカ、ベントナイト、ダイヤモンド等が使用されている(特公昭52−33272号公報、特開平10−110179号公報、特開2004−91743号公報、特開2008−255275号公報)。
一方、当該グリ−ス様ではなく、エマルジョンやオイルや絶縁塗料などの形態にしたものもあり、スチレンブロック共重合体と粘着性付与樹脂と溶剤とからなる絶縁塗料等がある。窒化硼素(BN)、炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al)、窒化珪素(SiN)、酸化珪素(SiO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO)等の放熱用フィラ−を含有させ放熱性を向上させてなる絶縁塗料も従来から提供されている(特開平11−246885号公報、特開2002−201483号公報、特開2008−174697号公報、特開2008−303263号公報、特開2008−026699号公報)。
電気機器の電気絶縁電線からなる絶縁コイルは、上記のような放熱性やモ−タ−効率の良さ等の他に、巻線間のコロナ放電による電気機器の使用寿命の低下などを防止する為に、耐コロナ性が要求され、又、巻線の使用上巻線劣化を引き起こさず、その基本的な特性である可撓性に優れていることが要求され、更に、コイルの巻線加工では、高速でその作業が行われ巻線が損傷を受け易くなるので、滑性を付与し、摩擦係数を低下させる必要がある。
電気機器に組み込まれるコイルは、上記したソ−ラ−カ−におけるモ−タ−やリアクトル(インダクタンス)では、大電流による高電圧化などにより、又、加熱による自己融着作業は高温下で行われること等の観点から、高温時でも優れた耐熱性(熱軟化温度)を有することも、コイルとして基本的なことで、当該コイルにおける絶縁層は、2層等の重層として、高温における被膜の軟化の度合いが少ない絶縁電線としたり、絶縁抵抗を増大させて絶縁性能を一段と高く保持させることが要求される。
特公昭52−33272号公報、特開平10−110179号公報、特開2004−91743号公報、特開2008−255275号公報、特開平11−246885号公報、特開2002−201483号公報、特開2008−174697号公報、特開2008−303263号公報、特開2008−026699号公報
本発明は、上記従来技術の有する欠点を解消し、又、前記要請に答えることの出来る技術を提供することを目的としたものである。
本発明の他の目的や新規な特徴については本件明細書及び図面の記載からも明らかになるであろう。
本発明の特許請求の範囲は、次の通りである。
(請求項1)
導線の外周に、耐熱性樹脂に黒鉛、カ−ボンブラック、不定形炭素、ダイヤモンド及びフラ−レンからなる群から選ばれた1種又は2種以上の炭素同素体を添加してなる第1の放熱性電気絶縁塗料層、及び、耐熱性樹脂に窒化アルミニウム、窒化硼素、炭化珪素及び金属酸化物からなる群から選ばれた1種又は2種以上を添加してなる第2の放熱性電気絶縁塗料層を、順次内外層に施してなる2重層コ−トを有してなることを特徴とする重層コ−トの電気絶縁電線。
(請求項2)
炭素同素体が、黒鉛であることを特徴とする、請求項1に記載の重層コ−トの電気絶縁電線。
(請求項3)
耐熱性樹脂100重量部に対して黒鉛5〜30重量部を添加してなることを特徴とする、請求項2に記載の重層コ−トの電気絶縁電線。
(請求項4)
窒化アルミニウムを添加してなることを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の重層コ−トの電気絶縁電線。
(請求項5)
耐熱性樹脂100重量部に対して窒化アルミニウム5〜50重量部を添加してなることを特徴とする、請求項4に記載の重層コ−トの電気絶縁電線。
本発明の請求項は上記の通りであるが、上記の耐熱性樹脂に黒鉛、カ−ボンブラック、不定形炭素、ダイヤモンド及びフラ−レンからなる群から選ばれた1種又は2種以上の炭素同素体を添加してなる第1の放熱性電気絶縁塗料層と、耐熱性樹脂に窒化アルミニウム、窒化硼素、炭化珪素及び金属酸化物からなる群から選ばれた1種又は2種以上を添加してなる第2の放熱性電気絶縁塗料層とからなる2重層コ−トを有しつつ、より好ましい実施態様を挙げると次の通りである。
(イ)
上記の第1の放熱性電気絶縁塗料層と第2の放熱性電気絶縁塗料層との間に、耐熱性樹脂に二酸化珪素を添加して耐コロナ性を付与した耐コロナ性電気絶縁塗料層を施してなる3重層コ−トよりなる重層コ−トの電気絶縁電線。
(ロ)
上記(イ)において、二酸化珪素を、耐熱性樹脂100重量部に対して5〜50重量部添加してなる上記(イ)の重層コ−トの電気絶縁電線。
(ハ)
上記の第1の放熱性電気絶縁塗料層と第2の放熱性電気絶縁塗料層との間に、耐熱性樹脂の電気絶縁塗料層を施してなる3重層コ−トよりなる重層コ−トの電気絶縁電線。
(ニ)
上記の第1の放熱性電気絶縁塗料層と第2の放熱性電気絶縁塗料層との間に、耐熱性樹脂の電気絶縁塗料層、及び、耐熱性樹脂に二酸化珪素を添加して耐コロナ性を付与した耐コロナ性電気絶縁塗料層を順次施してなる4重層コ−トよりなる重層コ−トの電気絶縁電線。
(ホ)
上記(ニ)の4重層コ−トよりなる重層コ−トの電気絶縁電線の最外層に、耐熱性樹脂の電気絶縁塗料層を施してなる5重層コ−トよりなる重層コ−トの電気絶縁電線。
(ヘ)
本発明における耐熱性樹脂としては、ポリイミド系合成樹脂であることが好ましい。。
(ト)
又、当該ポリイミド系合成樹脂としては、ポリアミドイミド又はポリエステルイミドであることが好ましい。
本発明によれば、次のような利点がある。
本発明によれば、請求項1に記載のように、導線の外周に、異なった種類のフイラ−を添加してなる第1の放熱性電気絶縁塗料層及び第2の放熱性電気絶縁塗料層を順次内外層に施してなるので、放熱性に優れ、放熱性能を一段と高く保持させることができ、又、モ−タ−効率に優れ、熱を持たず放熱に優れ、又、モ−タ−効率が良いので、その絶縁コイル(電気絶縁電線)は、ソ−ラ−カ−等の電気モ−タ−(電動機)やリアクトル(インダクタンス)のような各種電気機器の使用寿命を延ばすことができる。
本発明によれば、第1の放熱性電気絶縁塗料層を構成するフイラ−と、第2の放熱性電気絶縁塗料層を構成するフイラ−とを別異のものとしており、当該第1の放熱性電気絶縁塗料層を構成するフイラ−は、黒鉛、カ−ボンブラック、不定形炭素、ダイヤモンド及びフラ−レンからなる群から選ばれた炭素同素体によるものとしている。当該黒鉛なりのフイラ−は、規則性を持つヒゲ状(ウィスカ−,whisker)の薄い黒鉛が成長したりして、導線との密着性を良好にし、又、耐熱性も良い。
第2の放熱性電気絶縁塗料層を構成するフイラ−には、窒化アルミニウム、窒化硼素、炭化珪素及び(又は)金属酸化物を使用してなる。当該窒化アルミニウム、窒化硼素、炭化珪素、金属酸化物は、上記の黒鉛等の炭素同素体との共同作用で放熱性を著しく向上させ、又、モ−タ−効率を高める。
本発明によれば、請求項2に記載のように、当該第1の放熱性電気絶縁塗料層を構成するフイラ−としては、上記観点からも、黒鉛の使用が好ましい。
本発明によれば、請求項3に記載のように、当該第1の放熱性電気絶縁塗料層を構成するフイラ−の黒鉛は、導線との密着性や上記ヒゲ効果からは、耐熱性樹脂100重量部に対して5〜30重量部の使用が好ましい。
本発明によれば、請求項4に記載のように、当該第2の放熱性電気絶縁塗料層を構成するフイラ−としては、第1の放熱性電気絶縁塗料層を構成するフイラ−との関係や放熱性やモ−タ−効率が良いこと等からは、窒化アルミニウムを添加することが好ましい。
本発明によれば、請求項5に記載のように、当該第2の放熱性電気絶縁塗料層を構成するフイラ−として窒化アルミニウムを使用する場合、放熱性やモ−タ−効率の点で、耐熱性樹脂100重量部に対して窒化アルミニウム5〜50重量部を添加することが好ましい。
本発明によれば、上記(イ)に記載のように、当該第1の放熱性電気絶縁塗料層と当該第2の放熱性電気絶縁塗料層との間に、耐熱性樹脂に二酸化珪素を添加して耐コロナ性を付与した耐コロナ性電気絶縁塗料層を介在させて3重層コ−ト(被膜、層)とすることが好ましく、本発明における当該第1の放熱性電気絶縁塗料層と当該第2の放熱性電気絶縁塗料層とからなる2重層コ−トの基本構造は、放熱性の点で優れているが、耐コロナ性をも要求されるような場合には、耐コロナ性の要求をも充足すべく、当該耐熱性樹脂に二酸化珪素を添加して耐コロナ性を付与した耐コロナ性電気絶縁塗料層を介在させて3重層コ−トとすることが好ましい。二酸化珪素の他にも、炭化珪素、窒化珪素、二硫化モリブテンなども使用できるが、巻線の基本的な特性である可撓性を悪化させることなく、耐コロナ性を向上させることができる点で、二酸化珪素(SiO)が好ましい。
本発明によれば、上記(ロ)に記載のように、当該第1の放熱性電気絶縁塗料層と当該第2の放熱性電気絶縁塗料層との間に、耐熱性樹脂に二酸化珪素を添加して耐コロナ性を付与した耐コロナ性電気絶縁塗料層を介在させる場合、当該二酸化珪素は、巻線の基本的な特性である可撓性を悪化させることなく、耐コロナ性を向上させることができるなどから、耐熱性樹脂100重量部に対して5〜50重量部を添加することが好ましい。
本発明によれば、上記(ハ)に記載のように、当該第1の放熱性電気絶縁塗料層と当該第2の放熱性電気絶縁塗料層との間に、耐熱性樹脂の電気絶縁塗料層を介在させて、3重層コ−ト(被膜、層)とすることが好ましく、本発明における当該第1の放熱性電気絶縁塗料層と当該第2の放熱性電気絶縁塗料層とからなる2重層コ−トの基本構造は、放熱性の点で優れているがフイラ−が混合され、硬くなり、巻線の使用上の基本的な特性である可撓性に優れていないと、巻線劣化を引き起こし易いので、その点をカバ−する為に、耐熱性樹脂の電気絶縁塗料層を介在させることが好ましい。
本発明によれば、上記(ニ)に記載のように、当該第1の放熱性電気絶縁塗料層と当該第2の放熱性電気絶縁塗料層との間に、耐コロナ性を付与した耐コロナ性電気絶縁塗料層を介在させると共に、耐熱性樹脂の電気絶縁塗料層を介在させて、4重層コ−トとすれば、可撓性や耐コロナ性の両機能を向上させることができるので好ましい。
本発明によれば、上記(ホ)に記載のように、当該第1の放熱性電気絶縁塗料層と当該第2の放熱性電気絶縁塗料層との間に、耐コロナ性を付与した耐コロナ性電気絶縁塗料層を介在させると共に、耐熱性樹脂の電気絶縁塗料層を介在させ、更には、最上層にも、耐熱性樹脂の電気絶縁塗料層を介在させて5重層コ−トとすれば、可撓性や耐コロナ性の両機能を向上させることができると共に、電気絶縁電線の当該第2の放熱性電気絶縁塗料層が当該耐熱性樹脂の電気絶縁塗料層で被覆されて保護され、コイルの巻線加工では、高速でその作業が行われ巻線が損傷を受け易くなるので、当該耐熱性樹脂の電気絶縁塗料層に滑性を付与して、摩擦係数を低下させることができる。
本発明によれば、上記(ヘ)に記載のように、電気絶縁電線を構成する樹脂としては、耐熱性樹脂が使用される。電気機器に組み込まれるコイルは、上記したソ−ラ−カ−におけるモ−タ−やリアクトル(インダクタンス)を初めとして、大電流による高電圧化などにより、又、加熱による巻線の自己融着作業は高温下で行われること等の観点から、高温時でも優れた耐熱性(熱軟化温度)を有することが要求され、当該コイルにおける2層等による重層コ−トの絶縁層は、いずれも、耐熱性樹脂で構成して、高温における被膜の軟化の度合いが少ない絶縁電線としている。当該耐熱性樹脂としては、当該要求・観点からは、ポリイミド系合成樹脂が好ましい。
本発明によれば、上記(ト)に記載のように、当該ポリイミド系合成樹脂よりなる耐熱性樹脂としては、耐熱性や可撓性や融着性などに優れていて、前記ソ−ラ−カ−におけるモ−タ−やリアクトル(インダクタンス)等の大電流による高電圧化仕様に対する耐性などを考慮して、ポリアミドイミド又はポリエステルイミドであることが好ましい。
本発明で第1の放熱性電気絶縁塗料層に使用される炭素同素体は、黒鉛(グラファイト)の他、カ−ボンブラック、不定形炭素、ダイヤモンド、フラ−レンを包含する。炭素同素体は、黒鉛、カ−ボンブラック、不定形炭素、ダイヤモンド及びフラ−レンからなる群から選ばれた1種又は2種以上が使用できる。
当該炭素同素体は、粒状、板状、短繊維状などの任意の形状で使用できるが、粉末として使用することが、放熱性やモ−タ−効率などの点で好ましい。
フラ−レン(fullerene)は、最小の構造が多数の炭素原子で構成されるクラスタ−の総称で、構造の始まりが14個のダイヤモンドおよび6個のグラファイトと異なり、数十個の数の原子から始まる炭素元素同素体である。
当該炭素同素体には、カ−ボンナノチュ−ブのような炭素によって作られる六員環ネットワ−ク(グラフェンシ−ト)が単層あるいは多層の同軸管状になった物質をも包含する。カ−ボンナノチュ−ブは、炭素の同素体で、前記フラ−レンの一種に分類されることもある。
当該炭素同素体としては、規則性を持つヒゲ状(ウィスカ−)の薄い黒鉛が成長したり、導線との密着性を良好にし、又、耐熱性も良い等から、黒鉛の使用が好ましい。
当該黒鉛の使用量は、耐熱性樹脂(樹脂分、不揮発分)100重量部に対して5〜30重量部、より好ましくは、10〜20重量部である。
黒鉛が、5重量部未満では、ヒゲ効果が少なくなり、又、30重量部を超えると、導線との密着性が悪くなる。
本発明で第2の放熱性電気絶縁塗料層に使用されるフイラ−としては、窒化アルミニウム、窒化硼素、炭化珪素、金属酸化物が挙げられる。
当該フイラ−は、窒化アルミニウム、窒化硼素、炭化珪素及び金属酸化物からなる群から選ばれる。
当該窒化アルミニウム、窒化硼素、炭化珪素、金属酸化物は、上記の黒鉛等の炭素同素体との共同作用で放熱性を著しく向上させ、又、モ−タ−効率を高めることができる
窒化アルミニウム(AlN)の熱伝導率は約170(W/m・K)、窒化硼素(BN)の熱伝導率は約210(W/m・K)、炭化珪素(SiC)の熱伝導率は270(W/m・K)である。
当該金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタンなどが挙げられる。金属製ナノ粒子でもよい。
当該第2の放熱性電気絶縁塗料層を構成するフイラ−としては、第1の放熱性電気絶縁塗料層を構成するフイラ−との関係や放熱性やモ−タ−効率が良いこと等からは、窒化アルミニウム(AlN)を添加することが好ましい。
本発明によれば、当該第2の放熱性電気絶縁塗料層を構成するフイラ−として窒化アルミニウムを使用する場合、耐熱性樹脂(樹脂分、不揮発分)100重量部に対して窒化アルミニウム5〜50重量部、より好ましくは、10〜30重量部である。
窒化アルミニウムが5重量部未満では、放熱性やモ−タ−効率の点で劣り、一方、50重量を超えると、塗料化し難くなる。
本発明において耐コロナ性の要求を充足すべく、耐熱性樹脂に二酸化珪素を添加して耐コロナ性を付与した耐コロナ性電気絶縁塗料層を介在させるが、当該耐コロナ性を向上させることができる無機化合物としては、炭化珪素、窒化珪素、二硫化モリブテンなどであってもよいが、巻線の基本的な特性である可撓性を悪化させることなく、耐コロナ性を向上させることができる点で、二酸化珪素(SiO)が好ましい。
当該二酸化珪素(SiO)は、その粒子径が20nm以下であることが、巻線の基本的な特性である可撓性を悪化させることなく、耐コロナ性を向上させることができるので好ましい。粒子径は、20nm以下好ましくは、10〜20nmである。
当該二酸化珪素(SiO)は、オルガノシリカゾル(有機溶媒に分散したシリカゾル)の形態で使用することができる。当該オルガノシリカゾルは、市販のものを使用することができる。例えば、DMAC−ST、IPA−ST、EG−ST、NPC−ST−30(日産化学工業株式会社製)が挙げられ、これらオルガノシリカゾルは次のような物性を持つ。
DMAC−STは、そのSiOの含有量が20〜21%、HO含有量が3以下、分散媒がN,N−ジメチルアセトアミド、粒子径が10〜20nm、粘度が1〜10cp(20℃)のオルガノシリカゾルである。
IPA−STは、そのSiOの含有量が30〜31%、HO含有量が2以下、分散媒がイソプロパノ−ル、粒子径が10〜20nm、粘度が3〜20cp(20℃)のオルガノシリカゾルである。
EG−STは、そのSiOの含有量が20〜21%、HO含有量が2以下、分散媒がエチレングリコ−ル、粒子径が10〜20nm、粘度が20〜100cp(20℃)のオルガノシリカゾルである。
NPC−ST−30は、そのSiOの含有量が30〜31%、HO含有量が1.5以下、分散媒がエチレングリコ−ルモノプロピルエ−テル、粒子径が10〜15nm、粘度が25cp以下(20℃)のオルガノシリカゾルである。
上記のオルガノシリカゾルの中で、DMAC−STが特に好ましい。
他に、デグサ/アエロシリ−ズ(東新化成社製)等も使用できる。
当該無機化合物は、耐熱性樹脂(樹脂分、不揮発分)100重量部に対して5〜50重量部の割合で添加する。
当該添加量が、5重量部未満では、耐コロナ性(耐コロナ放電破壊性)の効果を奏することができないし、一方、50重量部を超えると、耐コロナ性に優れていても、可撓性を悪化させ、特に、塗料被膜が薄くなると可撓性が悪くなり、又、50重量部を超えて添加しても耐コロナ性の効果が飽和し経済的ではない。
本発明で使用される耐熱性樹脂としては、ポリエステルなども使用できるが、耐熱性や可撓性や融着性などに優れていて、前記ソ−ラ−カ−におけるモ−タ−やリアクトル(インダクタンス)等の大電流による高電圧化仕様に対する耐性などを考慮すると、ポリイミド系樹脂が好ましく、更に、当該ポリイミド系樹脂としては、例えば、ポリアミドイミド、ポリエステルイミドが好ましい。
導線の外周を構成する耐熱性樹脂には、共通の耐熱性樹脂が使用できる。
本発明で第1の放熱性電気絶縁塗料層と当該第2の放熱性電気絶縁塗料層との間に介在させたり、又は、絶縁層の上層(被覆層)としたりする耐熱性樹脂の電気絶縁塗料層は、例えば、耐熱性樹脂或いは耐熱性樹脂に各種添加剤を添加してなる樹脂組成物を有機溶剤に溶解させて電気絶縁塗料を構成することができる。
当該有機溶剤としては、例えば、クレゾ−ル、フェノ−ル、Nメチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、キシレン、ソルベントナフサが挙げられる。
当該添加剤には、上記のフイラ−等の他に、架橋剤などが挙げられ、当該架橋剤の例としては、シランカップリングなどが挙げられる。
当該添加剤としては、他に必要に応じて、層状粘度鉱物や着色剤やフェノ−ル系酸化防止剤等の酸化防止剤(耐候剤)や難燃剤や反応触媒などを添加してもよい。
本発明において絶縁層の最上層(被覆層)の耐熱性樹脂の電気絶縁塗料層には、滑剤の添加が有効であり、滑性の付与により、電線の劣化が低減し、自己滑性を有するようにしてもよい。
当該滑剤としては、脂肪酸エステル、低分子ポリエチレン、ワックスなどが例示できる。
本発明の電気絶縁電線の構造例を、図1に例示する。
図示の電気絶縁電線(マグネットワイヤ−)Mは、銅線などの導線Rの外周に、第1の放熱性電気絶縁塗料層1と第2の放熱性電気絶縁塗料層4との基本構造を有し、当該第1の放熱性電気絶縁塗料層1と第2の放熱性電気絶縁塗料層4との間に、耐熱性樹脂に二酸化珪素を添加して耐コロナ性を付与した耐コロナ性電気絶縁塗料層3又は(及び)耐熱性樹脂の電気絶縁塗料層2を介在させて3重層コ−ト又は4重層コ−トとし、又、更に、第2の放熱性電気絶縁塗料層4の表面を耐熱性樹脂の電気絶縁塗料層5で被覆する5重層コ−トとする。当該図示例は、当該5重層コ−トの電気絶縁電線の構造例を示す。
以下に実施例を挙げ本発明のより詳細な理解に供する。当然のことながら本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
絶縁電線の構造及び仕様
(a)次の構造の5重層コ−トの絶縁電線を作製した。
下地 Neoheat AI−26M
ポリアミドイミド系塗料(東特塗料株式会社製)
+黒鉛(上記樹脂分、不揮発分100重量部に対して20重量部を添加)
中層 Neoheat AI−602
ポリアミドイミド系塗料(東特塗料株式会社製)
Neoheat AI−26M
ポリアミドイミド系塗料(東特塗料株式会社製)
+SiO2(上記樹脂分、不揮発分100重量部に対して20重量部を添加)
Neoheat AI−26M
ポリアミドイミド系塗料(東特塗料株式会社製)
+AlN(上記樹脂分、不揮発分100重量部に対して20重量部を添加)
上地 Neoheat AI−26M
ポリアミドイミド系塗料(東特塗料株式会社製)
(b)次の仕様により、絶縁電線を作製した。
(イ)絞り方法(ダイス)及び回数
D11(1+3+2+2+3)
(1.05/1.06,1.07,1.08/1.09,1.10/ 1.11,1.12/1.13、1.14,1,15)
(ロ)焼付温度(℃)
370−450−500℃、アニ−ラ550−580℃
(ハ)線速; 20m/min
(ニ)導体径;1.0mm
(ホ)皮膜厚;0.042mm
電線特性の評価
(A)放熱及びモ−タ−効率
(1)試験方法
上記で作成された絶縁電線を、ワイヤ−を巻回するコアスロットと磁石とケ−シングを備えてなるソ−ラ−カ−における実験装置のモ−タ−の当該コアスロットに巻回し、時間(S)の経過に伴う巻線温度と室温との差(℃)を測定した。尚、当該温度測定は、10Aにて巻線温度50℃まで上昇させた後、定格4Aにて30分間運転し、1分毎の温度を測定した。モ−タ−効率は、始めの5分と終わりの5分間測定した。
その結果を図2のグラフに示した。又、その結果を表1に示した。
(B)電線特性の測定
次の電線特性の評価方法にて電線特性の測定を行った。
(a)破壊電圧;
JIS C 3216−4に準拠して、絶縁破壊電圧(kV)を測定した。
(b)B.D.V.残存率;
260℃X168Hr加熱処理後の絶縁破壊電圧(kV)を測定し、上記(a)の絶縁破壊電圧(kV)に対する残存率(%)を測定した。
(c)グリセリン耐圧;
グリセリン中での絶縁破壊電圧(kV)を測定した。
(d)ヒ−トショック(1);
NEMA法により、220℃X0.5Hr加熱処理後のキレツ数を
測定した。
(e)ヒ−トショック(2);
240℃X1Hr加熱処理後のキレツ数を測定した。
(f)可撓性;
10%、20%、30%伸張巻付時のピンホ−ルのキレツ数を測定した。
1d(自己径)で測定。
(g)往復摩耗試験;
max/minでの往復摩耗の回数の平均値を測定した。
(h)耐軟化試験;
荷重2000gf/Nで測定。平均値(℃)を算出。
(i)ガラス転移温度(Tg);
ヒ−タ−法及びメタルバス法に準拠して、Tg(Tanδ)(℃)を測定した。
その結果を表2に示した。
次の構造の4重層コ−トの絶縁電線を作製した以外は、実施例1と同様にして、電線特性の測定を行った。その結果を表2に示した。
下地 Neoheat AI−26M
ポリアミドイミド系塗料(東特塗料株式会社製)
+黒鉛(上記樹脂分、不揮発分100重量部に対して20重量部を添加)
中層 Neoheat AI−602
ポリアミドイミド系塗料(東特塗料株式会社製)
Neoheat AI−26M
ポリアミドイミド系塗料(東特塗料株式会社製)
+SiO2(上記樹脂分、不揮発分100重量部に対して20重量部を添加)
上地 Neoheat AI−26M
ポリアミドイミド系塗料(東特塗料株式会社製)
+AlN(上記樹脂分、不揮発分100重量部に対して20重量部を添加)
上記の4重層コ−トの絶縁電線について、実施例1と同様の試験方法にて放熱及びモ−タ−効率を測定した所、実施例1と同様の結果を得た。
比較例
比較例1
次の構造の5重層コ−トの絶縁電線を作製した以外は、実施例1と同様にして、放熱及びモ−タ−効率を測定し、又、電線特性の測定を行った。
下地 Neoheat AI−26M
ポリアミドイミド系塗料(東特塗料株式会社製)
中層 Neoheat AI−602
ポリアミドイミド系塗料(東特塗料株式会社製)
Neoheat AI−26M
ポリアミドイミド系塗料(東特塗料株式会社製)
Neoheat AI−26M
ポリアミドイミド系塗料(東特塗料株式会社製)
上地 Neoheat AI−26M
ポリアミドイミド系塗料(東特塗料株式会社製)
その結果を、図2、表1及び表2に示した。







Figure 0006072489



















Figure 0006072489












結果
実施例及び比較例の結果から、図2に示すように、本発明の絶縁電線は、温度差が比較例に比べて高く、放熱が良いことを示しており、一方、比較例は、温度差が低く、放熱性において本発明に比べて劣ることが示されている。
又、モ−タ−効率において、表1に示すように、試験開始1〜5分での効率に余り差は認められないが、開始26〜30分と経過した時点では、本発明の実施例の方が、比較例に比して0.6%効率が高いことが示されており、当該0.6%の効率は、最も高効率の力率が1であることを考慮すると、その力率において優れていることが判る。
又、上記実施例及び比較例の結果から、本発明は、耐熱性、可撓性、耐コロナ性、滑性にも優れていることが判る。
本発明は、各種電気絶縁電線や電気絶縁塗料に適用できる。
本発明の電気絶縁電線の一例構成図である。 本発明と比較例との放熱効果の差を示すグラフ図である。
1 実施例1
2 比較例1

Claims (5)

  1. 導線の外周に、耐熱性樹脂に黒鉛、カ−ボンブラック、不定形炭素、ダイヤモンド及びフラ−レンからなる群から選ばれた1種又は2種以上の炭素同素体を添加してなる第1の放熱性電気絶縁塗料層、及び、耐熱性樹脂に窒化アルミニウム、窒化硼素、炭化珪素及び金属酸化物からなる群から選ばれた1種又は2種以上を添加してなる第2の放熱性電気絶縁塗料層を、順次内外層に施してなる2重層コ−トを有してなることを特徴とする重層コ−トの電気絶縁電線。
  2. 炭素同素体が、黒鉛であることを特徴とする、請求項1に記載の重層コ−トの電気絶縁電線。
  3. 耐熱性樹脂100重量部に対して黒鉛5〜30重量部を添加してなることを特徴とする、請求項2に記載の重層コ−トの電気絶縁電線。
  4. 窒化アルミニウムを添加してなることを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の重層コ−トの電気絶縁電線。
  5. 耐熱性樹脂100重量部に対して窒化アルミニウム5〜50重量部を添加してなることを特徴とする、請求項4に記載の重層コ−トの電気絶縁電線。
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