従来の原子力プラントの静的格納容器冷却系について図7から図10によりその概要を説明する。
図7は、従来の静的格納容器冷却系の構成の例を示す立断面図である。図7において、炉心1は原子炉圧力容器2の内部に収納されている。原子炉圧力容器2は、原子炉格納容器3内に収納されている。
原子炉格納容器3の内部は、原子炉圧力容器2を収納するドライウェル4と、ウェットウェル5とに区分けされており、ドライウェル4とウェットウェル5とは原子炉格納容器3の一部を構成する。ウェットウェル5は内部に圧力抑制プール6を形成している。圧力抑制プール6の上方にはウェットウェル気相部7が形成されている。
原子炉格納容器3は、一般にその材質により、鋼製原子炉格納容器、鉄筋コンクリート製原子炉格納容器(RCCV)、プレストレスコンクリート製原子炉格納容器(PCCV)、スチール・コンクリート複合構造(SC造)原子炉格納容器(SCCV)など様々のものがある。RCCVとPCCVの場合には内面に鋼製ライナーが張られている。図7ではRCCVの例を示している。
原子炉圧力容器2は円筒状のペデスタル61によりRPVスカート62およびRPVサポート63を介して支持されている。ペデスタル61は鋼製、コンクリート製、両者の複合構造等がある。ドライウェル4のうち原子炉圧力容器2の下方であって、ペデスタル61の円筒状の壁により囲まれるペデスタル61の内側の空間を、ペデスタルキャビティー61aという。ABWのRCCVの場合はペデスタル61の円筒状の壁はウェットウェル5とドライウェル4の境界の壁を形成していて特にこの空間を下部ドライウェルと呼んでいる。
ドライウェル4と圧力抑制プール6はLOCAベント管8により連結されている。LOCAベント管8はたとえば10本など複数個設置されるが図7では2本のみを表示している。RCCVの場合はLOCAベント管8はペデスタル61の円筒状の壁の内部を通って設置されている。そのためRCCVの場合は、このペデスタル61の円筒状の壁をベント壁とも言う。ベント壁は厚さが約1.7mの鉄筋コンクリート製で内側と外側の表面は鋼製である。LOCAベント管8とペデスタル61は原子炉格納容器3の一部を構成する。さらに、RCCVの場合は事故時にペデスタル61の内側のペデスタルキャビティー61aに溜まる水を圧力抑制プール6に還流する目的でリターンライン64が複数個設けられている。リターンライン64は一端がペデスタルキャビティー61aに開口しもう一端がLOCAベント管8内に開口している。RCCV以前の代表的な原子炉格納容器の型式としてMarkI型とMarkII型があるがこれらにはリターンラインは設けられていない。これらの型式ではペデスタル61の円筒状の壁に運転員が出入りするための開口部が設けられていて事故時にペデスタルキャビティ61aに溜まる水はこの開口部からドライウェル4内に流出しさらにLOCAベント管8を通り圧力抑制プール6に還流する構成となっている。
ウェットウェル気相部7内のガスをドライウェル4内に還流する目的で、真空破壊弁9が設けられている。真空破壊弁9はたとえば8個など複数個設置されるが図7では1個のみを表示している。
真空破壊弁9は、ウェットウェル5の壁面に設ける方法、ウェットウェル5の天井に設ける方法、LOCAベント管8に設ける方法がある。真空破壊弁9は、ウェットウェル5内の圧力がドライウェル4内の圧力よりも高くなり、その差圧が設定圧力を超えると作動して開く。真空破壊弁9の設定圧は、たとえば約2psi(約13.79kPa)である。真空破壊弁9は、原子炉格納容器3の一部を構成する。
原子炉格納容器3の雰囲気は、沸騰水型軽水炉の場合には、窒素により置換され酸素濃度を低く制限されている。また、沸騰水型軽水炉の場合には、原子炉格納容器3は原子炉建屋100の内部に収納されている。さらに、図7には表示していないが、原子炉格納容器3の外部に燃料プール35および機器プール38が設けられている(図5参照)。燃料プール35は使用済み燃料を保管するためのプールである。機器プール38は燃料交換時に炉内構造物(ドライヤーおよび気水分離器)を一時的に保管するためのプールである。
原子炉圧力容器2からは主蒸気配管71がドライウェル4の外部に延びている。主蒸気配管71には、逃がし安全弁(Safety Relief Valve、「SRV」)72が設けられており、逃がし安全弁72が動作したときに圧力抑制プール6内に原子炉圧力容器2の蒸気が放出されるように、排出配管73が圧力抑制プール6内に水没するように設けられている。
ドライウェル4の上部には、燃料交換時に取り外しが可能な鋼製の原子炉格納容器上蓋10が設けられている。原子炉格納容器上蓋10は、原子炉格納容器3の一部を構成する。最近では、原子炉格納容器上蓋10の上部には、水を貯えて、通常運転時の遮蔽として使用する水遮蔽11が設けられているタイプのものがある。
原子炉格納容器3の外部に、静的格納容器冷却系12の冷却水プール13が設けられ、内部に冷却水14が蓄えられている。図7では冷却水プール13はタンク型の例を示しているがプール型のものもある。プール型の場合は上部は上蓋で覆われている。この上蓋は冷却水14が沸騰して発生する蒸気を建屋内に放出しないために設けられるが必須ではない。図7では、冷却水プール13等は原子炉建屋100の内部に設置されている例を示しているが、隣接する補助建屋等の内部に設置される場合もある。
冷却水プール13の水面の上方の気相部から、環境に蒸気を放出する排気口15が設けられている。排気口15の出口には虫よけのスクリーンが設けられることがある。冷却水プール13の位置は、一般に原子炉格納容器3の上部に設けられているが、原子炉格納容器3の横に設けることもできる。
冷却水プール13の内部には、冷却水14に少なくとも一部が水没するように、熱交換器16が設置されている。
熱交換器16は複数個設置される場合が多いが、図7では1基のみを表示してある。熱交換器16は入口プレナム17、出口プレナム18および伝熱管19を有する(図8参照)。
図7では、伝熱管19のみが冷却水プール13の内部に設置され、入口プレナム17と出口プレナム18は冷却水プール13の外部に突出している例を示しているが、この例には限定されない。たとえば、熱交換器16全体が、入口プレナム17と出口プレナム18を含めて冷却水プール13の内部に設置される例もある。
入口プレナム17には、ドライウェル4内のガスを供給するガス供給配管20が接続されている。ガス供給配管20の一端はドライウェル4に接続されている。
出口プレナム18には凝縮水戻り配管21とガスベント管22が接続されている。凝縮水戻り配管21の一端は原子炉格納容器3の内部に接続されている。図7では一例としてLOCAベント管8の内部に導かれているが、この例には限定されない。ドライウェル4の内部に導く例や圧力抑制プール6に導く例もある。
ガスベント管22は、その一端がウェットウェル5の内部に導かれ、圧力抑制プール6内に水没するように設置されている。ガスベント管22の圧力抑制プール6内の水没水深は、LOCAベント管8の圧力抑制プール6内の開口部の最上端の水没水深よりも浅くなるように設置される。
図8は、従来の静的格納容器冷却系の熱交換器の例を示す立断面図である。図8により、従来の静的格納容器冷却系12の熱交換器16の構造について横型熱交換器の例で説明する。
図8において、出口プレナム18は、入口プレナム17の下方に設けられている。多数のU字型の伝熱管19が管板23に接続し、伝熱管19の直管部が水平に設置されている。図7では簡略化して2本のみを表示している。伝熱管19の外部には冷却水14(図7参照)が満たされている。伝熱管19の入り口は、入口プレナム17に開口している。また、伝熱管19の出口は出口プレナム18に開口している。
入口プレナム17にはガス供給配管20が接続し、ドライウェル4内の窒素、水素、水蒸気等の混合ガスを入口プレナム17に供給する。この混合ガスは伝熱管19内に導かれ、水蒸気は凝縮して凝縮水となり、伝熱管19の出口から出口プレナム18内に流出し、出口プレナム18内の下部に溜まる。
出口プレナム18の下部には、凝縮水戻り配管21が接続されていて、出口プレナム18内の凝縮水を、重力により原子炉格納容器3の内部に還流する。また、出口プレナム18の上部には、ガスベント管22が接続されている。伝熱管19内で凝縮しない窒素、水素等の非凝縮性ガスは、伝熱管19から排出され出口プレナム18の上部に溜まる。
ガスベント管22の先端は、圧力抑制プール6に導かれていて、出口プレナム18内の非凝縮性ガスは、ガスベント管22を通り圧力抑制プール6内のプール水を押し下げてプール水中にベントされた後、ウェットウェル気相部7に移行する。
なお、伝熱管19の形状はU字型に限定されない。鉛直方向に直管部のある伝熱管19を、縦型に設置する構造のものもある。入口プレナム17は、必ず出口プレナム18よりも上に位置する。これにより伝熱管19内で凝縮した凝縮水を重力により出口プレナム18に導く。横型の利点は耐震性と冷却水14の有効活用ができることである。一方、縦型の利点は凝縮水の排出性が良いことである。
次に、このように構成された従来の静的格納容器冷却系12の機能について説明する。
ドライウェル4内で配管が破断する冷却材喪失事故(LOCA)が発生すると、原子炉圧力容器2から水蒸気が発生してドライウェル4内の圧力が急上昇し、ドライウェル4内のガス(主に窒素と水蒸気)が、静的格納容器冷却系12のガス供給配管20を通り熱交換器16に供給される。
熱交換器16の出口プレナム18内に溜まった非凝縮性ガスは、ガスベント管22を通り圧力抑制プール6内に排出される。この非凝縮性ガスの排出は、ドライウェル4とウェットウェル5との圧力差によって行なわれる。
LOCA時には、ドライウェル4内の圧力はウェットウェル5内の圧力よりも高いため、非凝縮性ガスの排出は円滑に行なわれる。その結果、しばらくするとドライウェル4内のガスはほとんど水蒸気だけになる。この状態になると、熱交換器16はドライウェル4内の水蒸気を効率良く凝縮し、凝縮水を原子炉格納容器3内に還流することができる。
なお、LOCA発生直後は、冷却材から大量の蒸気が発生し、ドライウェル4内のガスのウェットウェル5への急激なベントは、主にLOCAベント管8を通り行なわれる。
水蒸気は圧力抑制プール6内で凝縮し、非凝縮性の窒素は圧力抑制プール6内では凝縮せずにウェットウェル気相部7に移行する。このLOCAベント管8からの急激なベントにより、ドライウェル4内の窒素はたとえばLOCA後1分程度でほとんどウェットウェル5に移行してしまう。
その後はベント流量が少なくなり、ガスベント管22の圧力抑制プール6内の水没水深は、LOCAベント管8の水没水深よりも浅く設定されているので、ドライウェル4内のガスはLOCA後しばらくするとガスベント管22を経由してウェットウェル5にベントされるようになる。
このように、ベント流量が静定し、炉心燃料の崩壊熱に応じて発生する水蒸気はLOCAの破断口からドライウェル4に放出され、LOCAベント管8ではなくガス供給配管20から熱交換器16に導かれて冷却される設計になっている。
その結果、炉心燃料の崩壊熱は、外部の冷却水14に伝熱されるので、圧力抑制プール6の水が高温化して原子炉格納容器3の圧力が高くなることを防止することができる。静的格納容器冷却系12は、このように外部動力を一切使用せずに、原子炉格納容器3を静的に冷却できるように設計されている。
次に、既設炉で検討されている全交流電源喪失(Station Blackout、以下「SBO」ともいう。)等の過渡事象が発生した場合の安全強化策について図9により説明する。図9は、従来の原子力プラントの安全強化策の例を示す模式的立断面図である。
全交流電源喪失(SBO)等の過渡事象発生時には、外部電源41も非常用ディーゼル発電機42からの電源も供給不能となるので、非常用ディーゼル発電機42からの電源を必要とする動的な非常用炉心冷却系は全て運転不能に陥る。
一部の既設炉では、全交流電源喪失が発生した場合でも、高圧炉心スプレー系(High Pressure Core Spray System、「HPCS」)の高圧炉心スプレー系ポンプ46により、圧力抑制プール6等を水源として、炉心1への注水を行なうことができるように安全強化策が検討されている。たとえば、高台43に設置した追加のガスタービン発電機44による電源の多様化や、エアフィンクーラー等による空冷冷却系45による高圧炉心スプレー系ポンプ46の冷却の多様化などである。
この多様化した高圧炉心スプレー系を、以下の説明では、多様化高圧炉心スプレー系(Diverse HPCS、「DHPCS」)47と呼ぶ。この多様化高圧炉心スプレー系(DHPCS)47には炉心1への注水機能はあるが、炉心燃料から発生する崩壊熱を原子炉格納容器3の外部に逃がす機能はない。
次に、従来のフィルターベントシステムについて、図10により説明する。フィルターベントシステム50は、チェルノビル原子力発電所の事故の後、欧州の原子力プラントで採用されている。
図10は、従来のフィルターベントシステムの設計例を示す立断面図である。フィルターベントシステム50は、除染水52を蓄えたフィルターベント容器51と、原子炉格納容器3(図9参照)内のガスを除染水52に導く入り口配管53と、フィルターベント容器51の気相部のガスを環境に放出する出口配管54とを有する。
フィルターベント容器51等の設置場所は建屋内に限定されない。フィルターベント容器51等は、既設炉に後から設置される場合は、原子炉建屋の外部に設置されることが多い。一方、建設当初から設置する場合は原子炉建屋等の内部に設置されることもある。
除染水52の内部にベンチュリースクラッバー55を設置し、入り口配管53から導かれるガスをベンチュリースクラッバー55に通すタイプのものがあるが、ベンチュリースクラッバー55は必須ではない。また、フィルターベント容器51の気相部に金属ファイバーフィルター56を設置するタイプのものがあるが、金属ファイバーフィルター56は必須ではない。
図10では、ベンチュリースクラッバー55と金属ファイバーフィルター56の両方を設けた場合について示している。入り口配管53には、一例として、隔離弁57が設置され、また、これと並列にラプチャーディスク58が、また、ラプチャーディスク58の前後に常時開の隔離弁59a、59bが設置されている。
また、出口配管54には出口弁60が設置されている。従来のフィルターベントシステムでは、入り口配管53は、原子炉格納容器3内のガスを取入れるため、一端が原子炉格納容器3に接続されている。
入り口配管53は図10では1本で表示しているが、2本に分岐し、片方は、不活性ガス系の不活性ガス系出口配管27のウェットウェル5の貫通口28(図1参照)に接続され、もう片方は不活性ガス系の不活性ガス系出口配管27のドライウェル4の貫通口34(図1参照)に接続される例が一般的である。ドライウェル4への分岐ラインについては図示を省略している。隔離弁57、ラプチャーディスク58、隔離弁59a、59bは分岐した配管にそれぞれ設置されている。
ここで、不活性ガス系は、原子炉格納容器3内の雰囲気を窒素で置換し、あるいは、空気雰囲気に戻すために一般的に設置されている。不活性ガス系には、一般に、原子炉格納容器3にガスを入れる入口配管と原子炉格納容器3内のガスを外部に排出する出口配管とがある。
不活性ガス系は、不活性ガス系出口配管27が原子炉格納容器3の貫通口28に接続し、不活性ガス系出口配管27上に不活性ガス系出口配管隔離弁29が設けられている(図1参照)。不活性ガス系出口配管27の他端は分岐してフィルターベント容器51の入口配管53に接続している。
また、事故時に圧力抑制プール6のプール水を汲み上げて、これをドライウェル4内にスプレー水として散布して原子炉格納容器3の内部を除熱し、また放射性物質を除染する目的で一般に原子炉格納容器スプレー系が設けられている。原子炉格納容器スプレー系のスプレー管は上部と下部の二段に分けて設置される例が多い。その場合、下段のものを下部ドライウェルスプレー管、上段のものを上部ドライウェルスプレー管と呼ぶ。
次に、従来のコアキャッチャーについて説明する。従来のコアキャッチャーはたとえば特許文献2に記載されている。この例では円筒状のペデスタル内のコンクリート床の上に設置される。鋼製の本体の下部に冷却フィンと冷却チャンネルを備え、本体の上部には耐熱材が敷設されている。耐熱材はMgO(マグネシア),Al2O3(アルミナ)、ZrO2(ジルコニア)等の金属酸化物を用いることが多いがこれらには限定されない。鋼製本体の底部は冷却チャンネルに勾配をつけるためすり鉢(コーン)状のものが多いが、勾配のない平板のものもある。コアキャッチャーは過酷事故(SA)時に原子炉圧力容器2の底部を炉心デブリが溶融貫通して落下して来た場合、ペデスタル61の内の底部のコンクリートを高温のデブリから防護する機能を有している。
以下、図を参照して本発明の実施形態に係る原子力プラントおよび静的格納容器冷却系について説明する。ここで、前述の従来技術と同一または類似の部分について、また下記の実施形態どうしで同一または類似の部分については、共通の符号を付して、重複説明は省略し要部のみを説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る原子力プラントの原子炉格納容器まわりの構成を示す立断面図である。図1に示す実施形態は、MarkI改良型と呼ばれる原子炉格納容器を使用しているが、原子炉格納容器の型式はMarkI改良型に限定されない。圧力抑制プールによる圧力抑制機能を持つ全ての圧力抑制型の原子炉格納容器に普遍的に適用される。
因みに、MarkI改良型原子炉格納容器の特徴は、ドライウェル4がタンク型であること、ウェットウェル5が円環状であること、ドライウェル4とウェットウェル5は一体型ではなく、両者の間はベント管8cで連結されていること、真空破壊弁9がベント管8cの先端に設置されていることなどである。
しかし、圧力抑制型の原子炉格納容器としての基本的特性は、他の圧力抑制型原子炉格納容器と同一である。なお、MarkI改良型の特徴として、ベント管8cにリングヘッダー8aが接続されていて、リングヘッダー8aから一対になったダウンカマー8bが圧力抑制プール6の中に延びている。MarkI改良型の場合LOCAベント管8はベント管8c、リングヘッダー8aおよびダウンカマー8bとからなる。
図1に示すように、炉心1を内包する原子炉圧力容器2が原子炉格納容器3内に設けられており、原子炉格納容器3の外側には冷却水プール13が設けられている。
冷却水プール13はプール型とタンク型のいずれでも良い。図1ではプール型のものを表示している。プール型の場合は上部を上蓋37で覆う。冷却水プール13の上部の気相部分には環境へ蒸気を放出する排気口15が設けられている。冷却水プールの設置場所は原子炉建屋内でもよいし、原子炉建屋外でもよい。また、この設置場所は補助建屋内でも良いし、専用の建屋でも良いし、屋外であっても良い。排気口15の出口は屋外の環境に導かれる。
また、冷却水プール13は既に建設されているプラントの場合には、機器プール38を使用することができる。図1では、機器プール38を冷却水プールとして使用している例を図示している。勿論、冷却水プール13は機器プール38に限定されることはない。
機器プール38を冷却水プール13として用いる場合にはプラント運転中も冷却水を満たし、その中に熱交換器16を取り付ける。また、上蓋37と排気口15を取り付ける。燃料交換時には、上蓋37、排気口15、熱交換器16を取り外し、ドライヤーと気水分離器を保管する。また、機器プール38のスペースに余裕がある場合は、熱交換器16を常時設置しておく。
原子炉格納容器3内の雰囲気の窒素への置換等を行うための不活性ガス系が設けられており、この不活性ガス系の不活性ガス系出口配管27が貫通口28を介してウェットウェル5に接続されている。不活性ガス系出口配管27上には不活性ガス系出口配管隔離弁29が設けられている。
また、事故時に原子炉格納容器3の内部を除熱し、また放射性物質を除染するための原子炉格納容器スプレー系が設けられており、原子炉格納容器スプレー系の下部ドライウェルスプレー管30がドライウェル4に接続されている。下部ドライウェルスプレー管30上には原子炉格納容器スプレー系隔離弁31が設けられている。なお、RCCVの場合には、原子炉格納容器スプレー系のドライウェル4へのスプレー管は上部と下部には分かれておらず1個である。
冷却水プール13内には熱交換器16が設置されている。熱交換器16の入口プレナム17にはガス供給配管20が接続されている。本実施形態では、ガス供給配管20の他端は不活性ガス系出口配管27の不活性ガス系出口配管隔離弁29とウェットウェル5の貫通口28との間の部分から分岐している。但し、ガス供給配管20のウェットウェル5との接続個所はこれに限定されず、他の貫通口に接続する配管から分岐させても良いし、また、独自の貫通口を設けても良い。
また、熱交換器16の出口プレナム18の下部と、格納容器スプレー系の下部ドライウェルスプレー管30の原子炉格納容器スプレー系隔離弁31と原子炉格納容器3との間に、凝縮水戻り配管21が接続されている。
但し、この場合の凝縮水戻り配管21の原子炉格納容器3との接続個所は一例であって、出口プレナム18より下方の原子炉格納容器3の任意の個所に接続しても良い。たとえば既に存在する原子炉格納容器3の貫通口に接続される配管に分岐させて接続しても良い。
また、専用の貫通口を設けて接続しても良い。但し、重力で凝縮水を戻すので、出口プレナム18より下方であることが必要である。
熱交換器16の出口プレナム18の上部にはガスベント管22が接続されドライウェル4に接続されている。ガスベント管22の先端はウェットウェル5には接続されず、ドライウェル4の任意の個所に接続される。その一例としては、図1に示すように不活性ガス系入口配管32の不活性ガス入口配管隔離弁33と貫通口34の間の配管に接続されている。
ガスベント管22には、排気ファン24が設けられている。(図2を参照。)
また、ウェットウェル5の圧力抑制プール6から、取水して原子炉圧力容器2内に冷却水を注水する多様化高圧炉心スプレー系47が設けられており、多様化高圧炉心スプレー系47はDHPCSポンプ入口弁47a、高圧炉心スプレー系ポンプ46およびDHPCSポンプ出口弁47bを有する。
但し、多様化高圧炉心スプレー系47は一例であって、SBO時に炉心に注水が可能な任意の注水系が多様化高圧炉心スプレー系47に代えて使用可能である。例えば、専用の多様化した電源と専用の機器冷却系を保有するSBO時専用の注水系がある。
図2は、本発明の第1の実施形態に係る原子力プラントの原子炉格納容器まわりの詳細な構成を示す立断面図である。図2により静的格納容器冷却系12と原子炉格納容器3との接続部分の詳細について説明する。
ガス供給配管20上のウェットウェル5に近い場所に隔離弁20aが設置されている。ガス供給配管20が図2に示すように不活性ガス系出口配管27から分岐する場合は隔離弁20aは分岐点よりも熱交換器16側に近い場所に設置される。
凝縮水戻り配管21上にも原子炉格納容器3に近い場所に隔離弁21aが設置される。凝縮水戻り配管21が図2に示すように下部ドライウェルスプレー管30に接続される場合は隔離弁21aは接続点よりも熱交換器16側に近い場所に設置される。出口プレナム18と隔離弁21aの間の凝縮水戻り配管21上に逆止弁21bを設ける。逆止弁21bは出口プレナム18から原子炉格納容器3に向かう流れに対しては開になり、原子炉格納容器3から出口プレナム18に向かう流れに対しては閉鎖する。
ガスベント管22上には出口プレナム18内のガスをドライウェル4内に排気する排気ファン24が設置されている。排気ファン24の電源はSBOおよび苛酷事故専用の電源であるSA電源74から給電する。SA電源74はガスタービン発電機の場合を示している。SA電源74は、たとえばガスタービン発電機、ディーゼル発電機、バッテリーなどであるが、これらに限定されない。
排気ファン24は、図2では1個のみ表示しているが、並列に2個設置するなど複数個を設置しても良い。また、ガスの排気は排気ファン24に限らない。排気ファン24の代わりに、圧縮機を用いてもよい。
また、ガスベント管22のドライウェル4側には隔離弁22aが設置されている。ガスベント管22が図2に示すように不活性ガス系入口配管32に接続される場合は隔離弁22aは接続点よりも熱交換器16側に近い場所に設置される。さらに、排気ファン24と隔離弁22aとの間には逆止弁22bが設置されている。逆止弁22bは排気ファン24からドライウェル4に向かう流れに対しては開になり、ドライウェル4から排気ファン24に向かう流れに対しては閉鎖する。
隔離弁20a,21a、22aは、通常時は閉鎖し、全交流電源喪失等の過渡事象及び苛酷事故発生時に開にする。これらの隔離弁の作動源は設計基準事故用の非常用交流電源を使用しないものとする。たとえば、交流電動弁、直流電動弁、空気作動弁、手動作動弁がある。電動弁を用いる場合はSA電源74等のSBOおよび苛酷事故専用の電源から給電する。
以下、図1および図2に基づき本実施形態の機能について説明する。
設計基準事故である冷却材喪失事故が発生した場合には、動的な非常用炉心冷却系の作動が期待できるので静的格納容器冷却系12は必要ない。従って、設計基準事故である冷却材喪失事故が発生した場合には、隔離弁20a,21a,22aはいずれも閉鎖したままとする。
一方、全交流電源喪失(SBO)が発生した場合には、非常用ディーゼル発電機からの電源を必要とする動的な非常用炉心冷却系は全て運転不能に陥る。この場合には、まず多様化高圧炉心スプレー系(DHPCS)47により、圧力抑制プール6を水源として炉心への注水を行なう。
この運転を続けると、炉心燃料の崩壊熱により原子炉圧力容器2内で発生した蒸気は、逃がし安全弁(SRV)を通り、圧力抑制プール6に移行し凝縮するため、炉心燃料の崩壊熱は徐々に圧力抑制プール6内のプール水に移行し、圧力抑制プール6内のプール水温が高くなる。
なお、逃がし安全弁は、図1では図示を省略しているが、図7に示す構成と同様であって、逃がし安全弁72に排出配管73が接続され、この排出配管73の先端が圧力抑制プール6内に浸漬している(図7参照)。
圧力抑制プール6内のプール水の温度が高くなると、ウェットウェル気相部7に飽和蒸気が発生し、ウェットウェル気相部7の圧力が高くなる。水温が100℃の場合の飽和蒸気圧は101kPaであるが、水温が150℃になると飽和蒸気圧は476kPaにも達する。
圧力抑制プール6内の水温がたとえば100℃に達したら静的格納容器冷却系12の隔離弁20a,21a,22aを全て開にする。これによりウェットウェル気相部7内のガス(主に水蒸気と窒素)がガス供給配管20から熱交換器16に導かれる。
窒素等の非凝縮性ガスは、伝熱管19を通り出口プレナム18(図8参照)に移行するので、ガスベント管22上に設けた排気ファン24を起動する。排気ファン24には、SBOおよび苛酷事故時専用のSA電源74から給電する。
排気ファン24の運転により、出口プレナム18内の非凝縮性ガスは、ドライウェル4内に排出される。この運転を続けると、数時間でウェットウェル気相部7内の非凝縮性ガスはほぼ全量、ドライウェル4内に排出され、ウェットウェル気相部7内のガスはほぼ水蒸気だけで占められるようになる。
その後は、熱交換器16によりウェットウェル気相部7内の水蒸気が効率良く凝縮されて、凝縮水が凝縮水戻り配管21を通り、重力により原子炉格納容器3内に還流される。炉心燃料から放出される崩壊熱は、原子炉圧力容器2内で水蒸気を発生させ逃がし安全弁を通り圧力抑制プール6からウェットウェル気相部7内の水蒸気に移行する。この水蒸気は熱交換器16で熱交換され、崩壊熱はこの水蒸気から冷却水プール13の冷却水14に移行する。さらに冷却水14が蒸発して排気口15から環境に放出される。即ち、炉心燃料から放出される崩壊熱は最終的に排気口15から環境に放出される。
このように構成された本実施形態では、全交流電源喪失等の過渡事象発生時にも、炉心1および原子炉格納容器3の冷却を静的に行なうことができる。炉心燃料は、多様化高圧炉心スプレー系(DHPCS)47で冷却されているため、炉心燃料から放射性物質が漏洩することはなく原子炉格納容器3内のガスにはほとんど放射能はない。
原子炉格納容器3は、静的格納容器冷却系12によって冷却されるので格納容器ベントもフィルターベントも作動させる必要はない。そのため原子炉格納容器3内の窒素ガスは環境に放出されず、仮に、再び巨大地震に襲われて炉心損傷が発生し大量の水素が原子炉圧力容器2内から原子炉格納容器3内に放出されても、原子炉格納容器3内での水素の爆轟を防止することができる。また、格納容器ベント実施時に一部の水素が原子炉建屋内に漏洩し爆轟することを防止できる。
これによって、想定外の長期の全交流電源喪失が発生しても、原子炉を安全に停止し、原子力プラントの安全性を維持することが可能になる。プラントの主要部分の財産の保全も行なうことが可能になる。
炉心燃料、原子炉圧力容器2、原子炉格納容器3のいずれも損傷しないので、外部電源等の周辺部分の機器の故障が回復すると直ちに発電を再開できる。放射能の放散も防止可能となるので、周辺地域社会が原子力プラントの事故により大きな被害を蒙ることも防止できる。
本実施形態では、一例として、ガス供給配管20は、ウェットウェル5の不活性ガス系出口配管27の貫通口28と不活性ガス系出口配管隔離弁29との間の部分から分岐している。また、凝縮水戻り配管21はドライウェル4の下部ドライウェルスプレー管30の原子炉格納容器スプレー系隔離弁31とドライウェル4との間の部分に接続している。また、ガスベント管22は不活性ガス系入口配管32の貫通口34と不活性ガス入口配管隔離弁33との間の部分に接続している。そのため、静的格納容器冷却系12のために新たな原子炉格納容器の貫通口を設ける必要がなく、既に建設されている原子力プラントにも静的格納容器冷却系12の設置が可能になる。
本実施形態によれば、想定外の巨大地震や大津波によって原子力プラントが長期の全交流電源喪失に陥った場合であっても、原子力プラントを安全に停止することができ、炉心燃料の損傷を防止し放射能の放散を防止できるので、周辺の住民の方々の安全とコミュニティーの保全を図ることができる。
炉心燃料、原子炉圧力容器、原子炉格納容器などの主要設備の健全性が維持され、原子力プラントの財産の保全を図ることができる。新たな冷却プールや原子炉格納容器の貫通口を設ける必要がなく、既設の原子力プラントに適用することができる。減圧弁(DPV)のような気相破断LOCAを意図的に発生させる設備を使用することなく、静的格納容器冷却系を機能させることができる。
[第2の実施形態]
図3は、本発明の第2の実施形態に係る原子力プラントの排気ファン周りの構成を示す立断面図である。本実施形態は、第1の実施形態の変形である。
図3に示すようにガスベント管22から分岐させて排気ファン24を設置している。この場合は分岐配管25を設け切替弁26a,26bを設ける。排気ファン24を作動させる場合には、切替弁26aを閉鎖して切替弁26bを開にする。ただし、この構成は一例であり、この例に限定はされない。図3では、SA電源74はガスタービン発電機の例を図示している。SA電源74はスタービン発電機、ディーゼル発電機、バッテリーなどであるが、これらに限定されない。
切替弁26a,26bの作動源は設計基準事故用の非常用交流電源を使用しないものとする。たとえば、交流電動弁、直流電動弁、空気作動弁、手動作動弁がある。電動弁を用いる場合はSA電源74等のSBOおよび苛酷事故専用の電源から給電する。
本実施形態によれば、想定外の巨大地震や大津波によって原子力プラントが長期の全交流電源喪失に陥った場合であっても、原子力プラントを安全に停止することができ、炉心燃料の損傷を防止し放射能の放散を防止できる。
また、仮に、さらに炉心損傷が発生した場合であってもフィルターベント装置を作動させることなく原子炉格納容器を安全に冷却できる。すなわち、過酷事故が発生した場合であってもノーベント原子炉格納容器を安全に冷却できる。
[第3の実施形態]
図4は、本発明の第3の実施形態に係る原子力プラントのPCCSドレンタンクまわりの構成を示す立断面図である。本実施形態は、第1の実施形態の変形である。
図4に示すように内部に水を蓄えて上部に気相部を有するPCCSドレンタンク76を設けている。前記凝縮水戻り配管21の一端は前記PCCSドレンタンク76の水に浸漬する。また、オーバーフロー配管77が設けられPCCSドレンタンク76の気相部と原子炉格納容器3を接続している。このようにPCCSドレンタンク76を設置する場合は、熱交換器16内で生じた凝縮水は出口プレナム18から凝縮水戻り配管21をとおりまずPCCSドレンタンク76内の水のなかにドレンされる。そして、PCCSドレンタンク76内の水位が上昇し前記オーバーフロー配管77をとおり原子炉格納容器3内に凝縮水が流入する。図4ではオーバーフロー配管77の一端は下部ドライウェルスプレー系配管30の原子炉格納容器スプレー系隔離弁31と原子炉格納容器3との間の部分に接続される例を示しているが、この例には限定されない。オーバーフロー配管77は重力により凝縮水を流すので前記PCCSドレンタンクの気相部との接続個所よりも下に位置する原子炉格納容器3の任意の個所に接続可能である。PCCSドレンタンク内の水は凝縮水戻り配管21とオーバーフロー配管77を隔離し前記原子炉格納容器3内のガスが前記熱交換器16に逆流することを防止する機能を果たしている。従って、PCCSドレンタンク76を設置する場合は、PCCSドレンタンク76自体が隔離機能と逆流防止機能を果たすので、隔離弁21a(図2参照)ないしは逆止弁21bを設置しないこともある。また、PCCSドレンタンク76の代わりにあるいはPCCSドレンタンク76に加えてU字水封管を設けることもある。U字水封管は配管をU字型に曲げてそこに水封水を貯めたものである。
本実施形態によれば、想定外の巨大地震や大津波によって原子力プラントが長期の全交流電源喪失に陥った場合であっても、原子力プラントを安全に停止することができ、炉心燃料の損傷を防止し放射能の放散を防止できる。
また、仮に、さらに炉心損傷が発生した場合であってもフィルターベント装置を作動させることなく原子炉格納容器を安全に冷却できる。すなわち、過酷事故が発生した場合であってもノーベント原子炉格納容器を安全に冷却できる。
[第4の実施形態]
図5は、本発明の第4の実施形態に係る原子力プラントの原子炉格納容器まわりの構成を示す立断面図である。原子炉格納容器3の外部に燃料プール35および機器プール38が設けられている。燃料プール35は使用済み燃料を保管するためのプールである。機器プール38は燃料交換時に炉内構造物(ドライヤーおよび気水分離器)を一時的に保管するためのプールである。
本実施形態においては、冷却水プール13は既設プラントの燃料プール35の一部を水密性の分離壁36で区画し、さらに気密性の上蓋37で覆い環境への排気口15を設けた構造とする。
排気口15は、上蓋37ではなく燃料プール35の側壁に接続してもよい。また、機器プール38との間に補給配管39を設け、あらかじめ機器プール38内に貯めておいた水を重力により冷却水プール13に補給する構成とする。補給配管39には隔離弁40を設置しても良い。
この隔離弁40は、現場で開けられるようにハンドル付きのものとするとともに、爆破弁や直流電動弁など交流電源を必要としないものにする。あるいは交流電動弁としてSA電源から給電する。補給配管39はたとえば原子炉格納容器3の周りを迂回するように設置される。
その他の構成は、第1の実施形態ないし第3の実施形態と同様である。
本実施形態によれば、静的格納容器冷却系12を既設炉に追加する場合に、新たに冷却水プール13を設置する必要がなくなる。また、分離壁36で区画することにより、燃料冷却用のプール水の枯渇を防止できる。上蓋37で覆い環境への排気口15を設けることにより、発生する水蒸気を原子炉建屋内に滞留させずに環境に放出できる。また、機器プール38から冷却水を補給することにより、さらに長い時間全交流電源喪失時に、原子炉格納容器3の冷却を継続することができる。
[第5の実施形態]
図6は、本発明の第5の実施形態に係る原子力プラントの原子炉格納容器まわりの構成を示す立断面図である。
本実施形態においては、円筒状のペデスタルキャビティ61aの底部にコアキャッチャー68を設けている。コアキャッチャー68の構成はたとえば特許文献2に記載されているが、これに限定はされない。また、コアキャッチャーの代わりに耐熱材を設けても良い。本実施形態ではコアキャッチャー68は円筒状のペデスタルキャビティ61aのコンクリート床の上に設置される。図6では図示を省略しているが、鋼製の本体の下部に冷却フィンと冷却チャンネルを備え、本体の上部には耐熱材が敷設されている。耐熱材はMgO(マグネシア),Al2O3(アルミナ)、ZrO2(ジルコニア)等の金属酸化物を用いることが多いがこれらには限定されない。本実施形態では、コアキャッチャー68の底部は平板であるが、すり鉢(コーン)状であってもよい。コアキャッチャー68を設けることにより、苛酷事故時に原子炉圧力容器2の底部を炉心デブリが溶融貫通して落下した場合でもペデスタルキャビティ61aの底部コンクリートを高温の炉心デブリから防護することが可能になる。
コアキャッチャー68がない場合には高温の炉心デブリによりペデスタルキャビィティ61aの底部コンクリートが侵食されてコアコンクリート反応(MCCI)により大量の水素が発生し原子炉格納容器の圧力を高め原子炉格納容器が過圧破損するおそれがある。コアキャッチャー68を設置することによりこのコアコンクリート反応(MCCI)による大量の水素の発生を防止し静的格納容器冷却系12による原子炉格納容器3の冷却を補強する。
本実施形態は、さらにペデスタル注水系(PDF)67を備えている。ペデスタル注水系67は圧力抑制プール6のプール水をペデスタル注水系ポンプ66で汲み上げてペデスタルキャビティ61aに注水するシステムである。ペデスタル注水系ポンプ66の前後にPDFポンプ入口弁67aとPDFポンプ出口弁67bが設けられている。通常の動的ECCSとは異なり、流量は1/5程度の約200m3/hである。勿論、流量をさらに大きくしても良い。また、電源も通常の動的ECCSに給電する非常用ディーゼル発電機とは別の苛酷事故専用のSA電源を用いる。多様化HPCS47に給電するSA電源から給電してもよいが、独立した別のSA電源を用いると安全性はさらに高くなる。ペデスタル注水系67を設けることにより苛酷事故時に原子炉圧力容器2の底部を溶融貫通してコアキャッチャー68の上に落下した炉心デブリを圧力抑制プール6のプール水を用いて冷却することが可能になる。ペデスタル注水系67のペデスタルキャビティ61aへの注水の方法は、注水配管から水を注水してペデスタルキャビティ61aを冠水するフラッダー方式、注水配管の先端にスプレーヘッダーを設けペデスタルキャビティ61aにスプレー水を散布するスプレー方式、コアキャッチャー68の鋼製本下部の冷却チャンネルに冷却水を供給するチャンネル冷却方式などがある。チャンネル冷却方式の場合は、注水配管の先端をコアキャッチャー68の鋼製本体の下部まで導きコアキャッチャー68の注水口に接続する。この場合の構造についてはたとえば特許文献2に示されている。図6では一例としてスプレー方式の例で図示している。
本実施形態は、さらにリターンライン64を備えている。リターンライン64は一端がペデスタルキャビティ61aに開口し、もう一端はベント管8cの内部に開口している。図6では図示を省略したがペデスタル61には定期試験中の運転員の出入り口があり、プラント運転中は堰を設けリターンライン64の高さ以上まで塞ぐ。出入り口を完全に塞いでも良い。苛酷事故時にペデスタル注水系67を起動するとペデスタルキャビティ61aに水が溜まり水位が上昇する。ペデスタルキャビティ61aの水位がリターンライン64の高さまで達するとペデスタルキャビティ61aの水はリターンライン64の内部に流入しベント管8c内の開口部からベント管8cの内部に流入し、さらに、ベント管8cの内部を流れて圧力抑制プール6に環流する。この過程によりコアキャッチャー68の上部に落下した炉心デブリから発生する崩壊熱はペデスタルキャビティ61aの水に移行しさらに圧力抑制プール内のプール水を加熱する。一方、コアキャッチャー68の上部に落下した炉心デブリは連続的に冷却される。
本実施形態は、さらに、ペデスタルベント管65を備える。ペデスタルベント管65の一端はペデスタルキャビティ61aに開口し、その高さはリターンライン64の開口部よりも上に位置する。ペデスタルベント管65のもう一端は、圧力抑制プール6のプール水中に導かれる。ペデスタルベント管65のペデスタル61から圧力抑制プールに至る経路は、図6ではドライウェル4を通りベント管8cの内部を通り、ベント管8cを貫通しウェットウェル5の気相部7を通り圧力抑制プール6に至る例を示した。ただし、この経路には限定されない。経路は任意である。たとえば、ドライウェル4の壁面を貫通し原子炉格納容器3の外部を通り再びウェットウェル5の壁面を貫通して原子炉格納容器3の内部にもどり圧力抑制プール6に至るなどしてもよい。ペデスタルベント管65の圧力抑制プール6内の水没水深は、LOCAベント管8の圧力抑制プール6内の水没水深よりも浅く設置される。ペデスタルキャビティ61aの水がコアキャッチャー68の上部に存在する炉心デブリによって加熱されて蒸気が発生した場合にこの蒸気はペデスタルベント管65を通り圧力抑制プール6のプール水に導かれて凝縮しプール水となる。
次に、このように構成される本実施形態の作用と機能について以下に説明する。
巨大地震や大津波が発生し長期の全交流電源喪失(SBO)が発生し全ての動的ECCSが停止した際に、さらに電源を多様化して設計を強化した多様化HPCS47までもが故障することを仮想すると炉心損傷をともなう苛酷事故に進展する。炉心損傷の過程で炉心燃料の被覆管が高温化して冷却材と酸化反応を起こし(金属水反応し)その副産物として大量の水素ガスが発生する。この水素ガスは逃がし安全弁をとおりウェットウェル5のウェットウェル気相部7に移行する。(図7を参照。)
さらに炉心損傷が進展すると炉心デブリが原子炉圧力容器2の底部を溶融貫通しコアキャッチャー68の上に落下する。多様化HPCS47とは別に設けられたペデスタル注水系67を起動し圧力抑制プール6内のプール水をペデスタルキャビティ61aに注水しコアキャッチャー68の上に存在する炉心デブリを冷却する。
ペデスタルキャビティ61aの水は炉心デブリの崩壊熱で加熱されて高温水となりリターンライン64を通り圧力抑制プール6に環流する。圧力抑制プール6内のプール水の通常時の温度は約35℃であるが、リターンライン64から高温水が連続的に環流することにより数時間後には100℃に達する。そうすると圧力抑制プール6のプール水が沸騰しウェットウェル気相部7を加圧する。
ウェットウェル気相部7の圧力が上昇し始めたら静的格納容器冷却系12の各隔離弁20a、22a、21aを開にして排気ファン24を起動する。ウェットウェル気相部7内のガス(主に窒素、水素、水蒸気)がガス供給配管20を通り熱交換器16に導かれる。蒸気は伝熱管で凝縮されて出口プレナム18の底部に溜まり凝縮水戻り配管21を通り下部スプレー配管30からドライウェル4の内部にスプレーされる。このスプレー水はドライウェル4の床の上に溜まりベント管8cの内部に流入し圧力抑制プール6に流入する。
一方、非凝縮性ガスである水素と窒素は出口プレナム18の内部に滞留する。出口プレナム18内に滞留した非凝縮性ガスは排気ファン24により連続的にドライウェル4内に排出される。この状態が数時間続くとウェットウェル気相部7内の非凝縮性ガスはほぼ全量ドライウェル4の内部に排出される。その結果、ウェットウェル気相部7はほぼ蒸気だけで占められる。この状態になるとウェットウェル気相部7内の蒸気は効率良く熱交換器16の内部で凝縮される。
上述のとおり凝縮水は下部ドライウェルスプレー配管30からドライウェル4内に散布されるので、ドライウェル4内にある水蒸気は凝縮しスプレー水とともにベント管8cをとおり圧力抑制プール6に流入する。従って、ドライウェル4内の圧力が水蒸気により過度に加圧されることが防止できる。
ペデスタルキャビティ61aの水が加熱されて蒸気が発生し、ペデスタルキャビティ61aの圧力が上昇した場合はペデスタルベント管65から蒸気がベントされて圧力抑制プール6内のプール水で凝縮される。従って、ペデスタルキャビティ61aの圧力が過度に上昇することが防止される。
ペデスタルキャビティ61aとドライウェル4内は開口部(図示は省略する。)を通してほぼ均圧化している。開口部はたとえば運転員の出入り口の塞いでいない部分やRPVスカート62に設けられている。
上述のように、排気ファン24により非凝縮性ガス(主に窒素と水素)はドライウェル4の内部に蓄積する。ウェットウェル気相部7に最初に存在していた窒素が全量ドライウェル4内に移行した場合でもドライウェル4の圧力はゲージ圧で1気圧にはならない。ドライウェル4の体積の方がウェットウェル気相部7の体積よりも大きいためである。一方、苛酷事故時に炉心燃料から発生する水素の圧力を加えるとドライウェル4の圧力はゲージ圧で約3気圧になる。温度上昇による圧力上昇を入れても苛酷事故時の原子炉格納容器3の圧力はMarkI改良型原子炉格納容器の設計圧力428kPa(約4気圧)を下回る。
仮に、ドライウェル4内の圧力が上昇した場合は、LOCAベント管8の圧力抑制プール6内の水没水深がペデスタルベント管65の圧力抑制プール6内の水没水深よりも深いため、必ず、ペデスタルベント管65からのベントが優先されて行われる。ペデスタルキャビティ61aとドライウェル4内は開口部(図示は省略)を通じてほぼ均圧化しているので、ドライウェル4の圧力が上昇した場合は、ペデスタルキャビティ61aの水蒸気が優先的にペデスタルベント管65をとおり圧力抑制プール6にベントされる。そのためドライウェル4内に蓄積している非凝縮性ガスがLOCAベント管8からウェットウェル気相部7にベントされることを防止できる。非凝縮性ガスがLOCAベント管8からウェットウェル気相部7にベントされるとガス供給配管20から非凝縮性ガスが再び熱交換器16内に吸引され静的格納容器冷却系12の冷却効率が低下してしまう。本実施携帯では、この非凝縮性ガスによる静的格納容器冷却系12の冷却効率の低下を防止することが可能になる。
本実施形態は、このように機能するように構成されていることから、炉心デブリからの崩壊熱をペデスタル注水系67によりウェットウェル5側に移行させ、ウェットウェル5側に移行した崩壊熱を、さらに、ガス供給配管20を通じて静的格納容器冷却系12の熱交換器16に移送し冷却水プール13から系外に放出することにより、課題を解決している。
以上のように構成された本実施形態においては、苛酷事故が発生して炉心デブリが原子炉圧力容器2の底部を溶融貫通してコアキャッチャーの上部に落下している状況であっても原子炉格納容器の下部のコンクリートを高温の炉心デブリから防護し、コアコンクリート反応(MCCI)により発生する大量の水素で原子炉格納容器の圧力が上昇することを防止でき、かつ、静的格納容器冷却系によって原子炉格納容器の圧力を設計圧力程度に抑制できるのでフィルターベントシステムを作動させる必要がない。
[その他の実施形態]
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。MarkI改良型原子炉格納容器を例にいくつかの実施形態を説明したが、MarkI型原子炉格納容器、MarkII型原子炉格納容器、MarkII型改良型原子炉格納容器、RCCV型原子炉格納容器にも同様に適用が可能である。
また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。
さらに、これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。