以下、本発明の耳形成装置の一実施形態について、図1〜図10に基づいて説明する。以下の説明では、経糸18の進行方向と平行な方向を「経糸方向」とし、経糸方向において、経糸18を供給する図示しない経糸送出側を「上流側」、織前側を「下流側」とする。また、緯糸17の飛走方向を「織幅方向」とし、織機を下流側から上流側へ見る場合における織幅方向を「左右方向」ともいう。
図1は、本発明の織機の耳形成装置1が設けられる織機の部分拡大平面図である。なお、耳形成装置1は、織幅方向に関し給糸側及び反給糸側の織端19の近傍の位置にそれぞれ設けられるものであるが、給糸側及び反給糸側の各耳形成装置1は、耳形成装置1を構成する各部材の配置、形状が織幅方向に関し対称的である以外は同じ構成であるため、図1においては、給糸側の耳形成装置1及びその近傍の織機の構成のみを示すものとし、以下では、給糸側の耳形成装置1についてのみ説明する。
耳形成装置1の上流側には、耳形成装置1に耳糸16を供給するボビン22が設置されている。なお、本実施形態の耳形成装置1は、二本の第1の耳糸16a,16bと、一本の第2の耳糸16cとの計三本の耳糸16によって三本絡み耳組織を形成するものであり、そのため、ボビン22としては、2つの第1の耳糸用のボビン22a,22bと1つの第2の耳糸用のボビン22cとが設けられている。これら3つのボビン22は、織機のフレーム20上に固定配置されたボビンスタンド23によりそれぞれが回転可能に支持されている。
なお、本実施形態では、ボビン22は、経糸方向に関して耳形成装置1よりも上流側に設置されているが、ボビン22から引き出された耳糸16を取り回すことにより、耳形成装置1よりも下流側に配置してもよく、可能であれば織前24よりも下流側に配置してもよい。
ボビン22から引き出された各耳糸16は、各耳糸16の張力を調整するためのテンサ装置25を経由して本発明の耳形成装置1に導かれ、その後、筬29の筬羽の間を通過して織前24に至る。
耳形成装置1は、綜絖枠群28の上流側で、織機の給糸側のフレーム20と図示しない反給糸側のフレームとの間に架け渡された横梁部材21に立設されたスタンド30を介して、織機のフレーム(給糸側)20に支持されている。綜絖枠群28の各ヘルドフレーム28aのそれぞれには、最も織端側に位置するヘルド28bとヘルドフレーム28aのサイドフレーム28cとの間に、耳形成装置1を配置するための空間が設けられており、耳形成装置1は、その空間に一部が上流側から入り込むかたちで配置され、織幅方向に関しては最も織端側に位置するヘルド28bとヘルドフレーム28aのサイドフレーム28cとの間に配置されている。
次に、図2を参照して、耳形成装置1の全体構造を説明する。耳形成装置1は、第1の耳糸16a,16bの経路を第2の耳糸16cに対する織幅方向の経糸列側と反経糸列側との二位置間で切換える耳糸経路切換装置2と、第2の耳糸16cの経路を第1の耳糸16a,16bに対する上下方向の上側と下側との二位置間で変位させる耳糸開口装置3と、第2の耳糸16cの経路を上下方向に関し規制するガイド部材27と、第2の耳糸16cの経路を織幅方向に関し規制する規制部材15とを備える。
図2において、耳形成装置1は、スタンド30に固定された支持フレーム32を備えており、耳糸経路切換装置2及び耳糸開口装置3は、支持フレーム32に対し取り付けられている。耳糸経路切換装置2は、経糸方向に関し、筬29の上流側に配置されている。また、耳糸開口装置3は、経糸方向に関し、耳糸経路切換装置2の上流側に配置されるとともに、ガイド部材27の下流側に配置されている。
なお、図示の例では、耳形成装置1は、最も織端側に位置するヘルド28b(図示せず)と、耳糸経路切換装置2及び耳糸開口装置3との接触を防止するために、支持フレーム32のヘルド側に板状のガード部材33を備えている。ガード部材33は、図示しないステー及びボルト34を介して支持フレーム32に対し取り付けられており、経糸方向に関し、耳糸経路切換装置2及び耳糸開口装置3の存在領域にわたって延在している。
図2〜5を参照しながら、耳糸経路切換装置2の詳細について説明する。耳糸経路切換装置2は、織幅方向に関し、二本の第1の耳糸16a,16bの経路を第2の耳糸16cの経路を挟んで左右に切り換える装置である(図7参照)。図4,5に示すとおり、耳糸経路切換装置2は、主要な構成として、図2に示した支持フレーム32を介してフレーム20に固定される本体ブロック35と、本体ブロック35に回転可能に支持された支持部材6としての支持軸36と、支持軸36に支持された変位部材7としてのベース部材37と、ベース部材37に立設された二つの耳糸案内部材5としての耳糸案内ロッド38a,38bと、支持軸36を介してベース部材37を支持軸36の軸心周りに揺動駆動させる駆動装置8とを備えている。
本体ブロック35は、3つの側面に開口する開口部39が形成されたほぼ直方体のブロック型の部材であり、側面からみて逆コの字形の断面形状を有している。この本体ブロック35は、側面のうちの開口部39のない平面40が織幅方向と平行となるように、かつ、平面40が経糸方向に関し最も下流側に位置するように、図2に示した支持フレーム32の織幅方向における経糸列側の側面に固定されている。
また、本体ブロック35は、開口部39を挟んで上下方向に貫通する軸受収納孔41を有している。この軸受収納孔41には、上下方向に関し開口部39を挟んで互いに離間した位置のそれぞれに、回転軸線を上下方向に向けた状態で軸受42が嵌装されている。そして、本体ブロック35は、軸受収納孔41内において、軸受42を介して支持軸36を支持している。したがって、支持軸36は、軸受42、本体ブロック35を介して織機のフレーム2に対し固定配置されている。
支持軸36は、その軸心が上下方向に延在する状態(軸心が織幅方向と交差する方向に向いた状態)で、本体ブロック35によって回転可能に支持されている。また、一対の軸受42の間において、支持軸36の一部が開口部39から外部に露出している。さらに、支持軸36は、本体ブロック35の高さ寸法(軸受収納孔41の軸線方向の寸法)よりも大きい長さ寸法を有しており、本体ブロック35に対し上面から突出する状態で組み付けられている。そして、支持軸36の本体ブロック35から突出する部分には、ベース部材37が相対回転不能に組み付けられている。したがって、ベース部材37は、支持軸36によって、軸受42を介して織機のフレーム2に対し変位可能に支持されている。
ベース部材37は、平板状のブロック型の部材である。ベース部材37には、二つの耳糸案内ロッド38a,38bが挿入される貫通孔43a,43b及び支持軸36が挿入される貫通孔43cが、板厚方向に貫通するかたちで穿設されている。なお、図5に示すとおり、貫通孔43a,43bは、それぞれ貫通孔43cからの距離が等しくなるように穿設されている。ベース部材37は、織幅方向に関し貫通孔43a,43bが貫通孔43cよりも経糸列側となる状態で、貫通孔43cにおいて支持軸36に対し嵌合され、組み付けられている。
図4に示すとおり、耳糸案内ロッド38a,38bは、第1の耳糸16a,16bを挿通するための目孔4が上端部付近に穿設された棒状の部材である。各耳糸案内ロッド38a,38bは、その下端がベース部材37の貫通孔43a,43bに挿通され、支持軸36の軸芯と平行な状態でベース部材37上に立設される。本実施形態では、耳糸案内ロッド38aの目孔4には第1の耳糸16aが挿通され、耳糸案内ロッド38bの目孔4には第1の耳糸16bが挿通されている。
二つの耳糸案内ロッド38a,38bは、長さ寸法(延在方向の寸法)が異なるものとなっており、図示の例では、耳糸案内ロッド38bが、耳糸案内ロッド38aよりも短いものとなっている。具体的には、二つの耳糸案内ロッド38a,38bがベース部材37に組み付けられた状態において、上下方向に関し、耳糸案内ロッド38bの先端の位置が、耳糸案内ロッド38aの目孔4の下端の位置と織前24とを結ぶ直線よりも下方に位置するように、耳糸案内ロッド38a,38bの長さ寸法が設定されている。このため、図2に示すとおり、織前24と耳糸案内ロッド38a,38bとの間で、上下方向に関し、第1の耳糸16aと第1の耳糸16bの経路とは交差せず、第1の耳糸16aは常に第1の耳糸16bよりも上の位置にある。
なお、図4において、ベース部材37には、耳糸経路切換装置2よりも上流側における第1の耳糸16a,16bの経路を第2の耳糸16cの経路よりも下方に位置させるための第1の耳糸用のガイド44a,44bが取り付けられている。第1の耳糸用のガイド44a,44bは、開口時に第1の耳糸16a,16bと第2の耳糸16cとが干渉するのを避けるために設けられるものであるが、これについては後述する。
図4および図5に示すとおり、駆動装置8は、揺動ブロック45と、二つの永久磁石46,47と、電磁石48と、電磁石用ハウジング49と、ストッパ部材50とで構成されている。揺動ブロック45は、図5に示すとおり、平面視における形状が線対称な五角形に形成されたブロック状の部材であり、隣接する側面が互いに直交する3つの側面45a、及び3つの側面45aのうちの平行に延在する二つの側面(幅方向の側面)に連続する二つの傾斜した傾斜面45bを有し、上面及び下面が互いに平行に形成されたブロック状の部材であり、二つの傾斜面45bの境界を通って前記幅方向の側面に平行な対称軸線51に対し線対称の形状を有する。
揺動ブロック45は、対称軸線51上に中心が位置するとともに厚み方向に貫通する支持軸36用の貫通孔45cを有する。貫通孔45cには、本体ブロック35の開口部39から露出している支持軸36の一部が挿入されており、揺動ブロック45は、支持軸36に対し回転不能に固定されている。したがって、駆動装置8は、支持軸36によって、揺動ブロック45をベース部材37に連結されている。揺動ブロック45の二つの傾斜面45bのそれぞれには、永久磁石46,47用の取付孔52,53が穿設されている。
揺動ブロック45の取付孔52,53には永久磁石46,47がそれぞれ挿入され、接着等により固定されている。永久磁石46,47は、互いに同形状であって、いずれも円筒形状を有しており、互いの極性を反転させた状態で、揺動ブロック45の取付孔52,53に装着されている。
電磁石48は、電磁石用ハウジング49に収納されており、電磁石用ハウジング49は、本体ブロック35の上流側側面(幅方向と直交する方向の二つの側面うちの開口が形成された方の側面)54に固定されている。電磁石用ハウジング49は、略直方体形状の部材であり、図4に示すとおり、その長手方向の一端に取付用のフランジ55を有する。電磁石用ハウジング49は、長手方向を経糸方向と平行な方向に向けた状態で、フランジ55において本体ブロック35に固定されている。したがって、駆動装置8は、本体ブロック35を介して織機のフレーム2に対し固定配置されている。
また、電磁石用ハウジング49には、長手方向に貫通した状態で電磁石48が収納される貫通孔56が穿設されており、貫通孔56内部に電磁石48が固定配置されている。電磁石48は、そのコイルに流れる電流の方向が切り換えられることにより、励磁状態における極性が反転される。そして、電磁石48の極性が反転されることにともない、極性を異ならせて設けられた永久磁石46,47が、交互に電磁石48側に引き寄せられ、それにともなって揺動ブロック45を支持軸36の軸心周りに揺動させる。
一方、本体ブロック35の開口部39における奥側(下流側)の底面には、板状のストッパ部材50が固定されている。ストッパ部材50は、揺動ブロック45の揺動を許容するように、ストッパ部材50と揺動ブロック45との間に隙間が形成されるように板厚寸法が定められており、かつ、揺動ブロック45が所定の揺動量を揺動したときに、揺動ブロック45と当接するように板厚寸法が定められている。
このストッパ部材50により、電磁石48の励磁にともなう揺動ブロック45の揺動運動は、揺動ブロック45の下流側の側面45aがストッパ部材50と当接することによって制限される。したがって、揺動ブロック45の揺動範囲は、揺動ブロック45における側面45aのうちの反経糸列側の部分がストッパ部材50に当接する揺動位置(揺動限)と、経糸列側の部分がストッパ部材50に当接する揺動位置(揺動限)との間の範囲となる。なお、この各揺動位置は、前記隙間と揺動ブロックの幅寸法とで定まる。
以上の構成を備えた耳糸経路切換装置2において、ベース部材37と揺動ブロック45とは、図5に示すとおり、揺動ブロック45の対象軸線51が経糸方向と平行な状態において、ベース部材37の貫通孔43a,43bの中心を結ぶ線分Lが経糸方向に対し角度αを成すように、各々が支持軸36に対し組み付けられている。なお、ここでいう角度αは、後述の第2の耳糸16cの経路との関係で設定されるものであり、詳細については後述する。
前述した二つの揺動位置(揺動限)間での揺動ブロック45の揺動にともない、ベース部材37は、線分Lが経糸方向に対し角度αを成す位置を中間位置として、支持軸36の軸心(貫通孔43c,45cの中心)を揺動中心として揺動する。なお、揺動ブロック45が最も反経糸列側へ向けて揺動した状態では、ベース部材37における支持軸36よりも経糸列側の部分は最も上流側に位置し(図7(a)に示す状態)、この位置がベース部材37の上流側の揺動限となる。また、揺動ブロック45が最も経糸列側へ向けて揺動した状態では、ベース部材37における支持軸36よりも経糸列側の部分は最も下流側に位置し(図7(b)に示す状態)、この位置がベース部材37の下流側の揺動限となる。
そして、ベース部材37の前記上流側の揺動限においては(図7(a)に示す状態においては)、経糸方向に関して耳糸案内ロッド38a,38bは最も上流側に位置し、織幅方向に関して耳糸案内ロッド38aは最も反経糸列側に位置し、耳糸案内ロッド38bは最も経糸列側に位置する。また、ベース部材37の前記下流側の揺動限においては(図7(b)に示す状態においては)、経糸方向に関して耳糸案内ロッド38a,38bは最も下流側に位置し、織幅方向に関して耳糸案内ロッド38aは最も経糸列側に位置し、耳糸案内ロッド38bは最も反経糸列側に位置する。したがって、駆動装置8は、耳糸案内ロッド38a,38bの各目孔4の位置を、第2の耳糸16cに対する織幅方向の経糸列側と反経糸列側との二位置間で周期的に切り換えるように前記変位部材7を駆動する。
次に、図2、3、6を参照しながら、耳糸開口装置3の詳細について説明する。耳糸開口装置3は、上下方向に関し、第2の耳糸16cの経路を第1の耳糸16a,16bの経路を挟んで上下に変位させる装置である。耳糸開口装置3は、主要な構成として、第2の耳糸16cと係合する係合部材9を含む被回転部材10と、被回転部材10を回転軸線周りに一方向へ回転駆動する駆動装置11と、駆動装置11の回転駆動を制御する駆動制御装置140とを備えている。
本実施形態の駆動装置11は、直接駆動型のモータ(所謂、ダイレクトドライブモータ、以下「DDモータ」という。)で構成されている。図2において、駆動装置11としてのDDモータ58は、ドーナッツ型のステータ59a、及び外周面をステータの内周面に対向させた状態で設けられるロータ59bからなるインナーロータタイプである。ステータ59aは、DDモータ58の回転軸線60(図6参照)を織幅方向に向けた状態で、図2に示した支持フレーム32に対し取り付けられており、これにより、DDモータ58は、織幅方向に関し、支持フレーム32の経糸列側の側面に固定されている。
DDモータ58のロータ59bには、被回転部材10が相対回転不能に組み付けられている。本実施形態では、被回転部材10として、DDモータ58によって回転駆動される本体部12を備えており、本体部12には、本体部12から織幅方向に関し経糸列側へ突出する係合部材9としての係合ピン13が設けられている。
図6に示すとおり、本体部12は、円盤形状に形成された薄板状の部材である回転ディスク61と、回転ディスク61に取りつけられた支持ステー63とで構成されている。本体部12は、回転ディスク61の中心をDDモータ58の回転軸線60と一致させた状態で、織幅方向に関してDDモータ58の経糸列側において、DDモータ58の図示しないロータ59bに固定されており、織幅方向に延在する回転軸線60周りに回転可能となっている。本体部12は、DDモータ58、図2に示した支持フレーム32及びスタンド30を介して織機のフレーム20に対して固定配置されている。
回転ディスク61の支持ステー63には係合ピン13が取り付けられている。係合ピン13は、第2の耳糸16cと係合することによって上下方向に関し第2の耳糸16cの経路を案内し、第2の耳糸16cの経路を上下方向に変位させる部材である。
係合ピン13は、図示の例では、丸棒状の部材であり、第2の耳糸16cの外れ防止の目的で織幅方向に関し経糸列側の端部に鍔部64を有している。また、係合ピン13は、その軸線を織幅方向に向けた状態で、織幅方向に関し支持ステー63の経糸列側の側面に固定されている。したがって、DDモータ58によって被回転部材10の本体部12が回転駆動されると、係合ピン13は、回転軸線60を中心とする周回軌道上を公転運動する。なお、以下では、前記周回軌道上の係合ピン13の位置のうち、経糸方向における周回軌道の中心(回転ディスク61の中心)の位置での上下方向における下側の係合ピン13の位置(最下降位置)を第1の位置P1、上側の位置(最上昇位置)を第2の位置P2とする。
本実施形態では、ガイド部材27が耳糸開口装置3とテンサ装置25との間に設けられており、係合ピン13を省略した状態(係合ピン13が存在しないと仮定したとき)での上下方向に関する第2の耳糸16cの経路は、織前24に対するガイド部材27の高さ位置(ガイド部材27による案内位置と織前24とを結ぶ直線)によって規定される。
そして、本実施形態では、その耳糸ガイド27と織前24とで規定される第2の耳糸16cの経路との関係で、係合ピン13の公転運動の上下方向成分が上昇方向のときは、第2の耳糸16cが係合ピン13によって下側から持ち上げられて、上方向へ変位し、また、係合ピン13の公転運動の上下方向成分が下降方向のときは、第2の耳糸16cが、自身の張力にて係合ピン13の下降に追従して下方向へ変位する構成となっている。
ガイド部材27は、略円筒形状の部材で形成されており、軸線を織幅方向へ向けた状態で、横梁部材21に立設されたステー31に設けられた固定穴31aに固定されることにより、織機のフレームに対し固定配置されている。図6に示すとおり、ガイド部材27は、その円筒面の周面上に、その円周方向に亘る案内溝66cであって第2の耳糸16cを案内するための案内溝66cを有している。そして、ガイド部材27は、この案内溝66cにより、第2の耳糸16cの経路を上下方向および織幅方向で規制している。
なお、図6に示すとおり、ガイド部材27は、織幅方向においては、の第2の耳糸16cを案内する案内溝66cが、耳糸開口装置3における係合ピン13の延在範囲となるように配置されている。
本実施形態では、ガイド部材27は、第1の耳糸16a、16bを案内するためにも兼用されている。そのため、ガイド部材27には、その円筒面の周面上に、上記案内溝66cに加え、第1の耳糸16a、16bを案内するための案内溝66a、66bが形成されている。なお、案内溝66a、66bは、ガイド部材27の軸線方向において、案内溝66cよりも反経糸列側であって織幅方向における係合ピン13の延在範囲よりも反経糸列側に位置するものとなっている。耳糸16を案内するための三つの案内溝は、給糸側から順に、案内溝66b、66a、66cの順に配置されており、三つの案内溝のそれぞれに、給糸側から順に、第1の耳糸16b,16aおよび第2の耳糸16cが案内されており、それら耳糸16の経路を上下方向および織幅方向で規制している。
さらに、本実施形態では、耳糸開口装置3と耳糸経路切換装置2との間に設けられた規制部材15によって、織幅方向の第2の耳糸16cの経路を規制している。規制部材15は、耳糸経路切換装置2における耳糸案内ロッド38a、38bの位置で、第2の耳糸16cの経路を、織幅方向に関し、所望の位置に維持するためのものである。
規制部材15について、より詳しく説明すると、図1に示すように、本実施形態では、耳糸開口装置3は、織幅方向に関し、織端19よりも反経糸列側に配置されており、係合ピン13もその先端が織端19よりも外側(反経糸列側)に位置するように存在している。したがって、前記したガイド部材27における案内溝66cも、織幅方向において織端19よりも外側に位置している。そのため、仮に規制部材15を省略し、係合ピン13と第2の耳糸16cとを係合させずに、ガイド部材27から織前24における織端19へ第2の耳糸16cを直接導いたとすると、第2の耳糸16cの経路は、経糸方向(織端19)に対し角度を成した状態となる。一方、耳糸開口装置3における被回転部材10の回転ディスク61は経糸方向(織端19)と平行に設けられているため、係合ピン13は、回転ディスク61の回転にともない、織幅方向に関し織端19との距離を一定に保ったまま、経糸方向に関し前後方向に変位する。
そのため、仮に規制部材15を省略し、ガイド部材27から織前24における織端19へ第2の耳糸16cを直接導いた状態で係合ピン13と第2の耳糸16cとを係合させたとすると、係合ピン13が最も下流側に位置するときと、最も上流側に位置するときとでは、係合ピン13に対する第2の耳糸16cの織幅方向の位置が異なるものとなる。それにより、係合ピン13上で第2の耳糸16cが織幅方向へ往復し、第2の耳糸16cと係合ピン13との係合状態が不安定なものとなり、被回転部材10(係合ピン13)の連続的な回転にともなって第2の耳糸16cが係合ピン13から外れてしまう可能性がある。
なお、係合ピン13の構成を、係合ピン13と第2の耳糸16cとの係合状態が維持されるようなものとした場合、規制部材15がなくても前記のような第2の耳糸16cが係合ピン13から外れるといった問題は生じない。しかし、その場合でも、織前24での織端19の位置は一定であるのに対し、被回転部材10(係合ピン13)の連続的な回転にともなって係合ピン13の位置が経糸方向に前後に変化するため、係合ピン13と織前24との間の第2の耳糸16cの経路が経糸方向となす角度が周期的に変化し、係合ピン13と織前24との間で第2の耳糸16cの経路が織幅方向に振動(往復変位)してしまう。そして、その場合、例えば、係合ピン13が前記第2の位置P2から第1の位置P1へ向けて変位した場合、その過程で第2の耳糸16cの経路が変化し、第2の耳糸16cが耳糸経路切換装置2における耳糸案内ロッド38a,38b間に正しく導かれない場合が生じる。これを防止するためには、ベース部材37の揺動角度を大きくする必要があるが、ベース部材37の揺動角度を大きくすると、織機の高速運転に対応できない可能性が高まる。
そこで、本実施形態では、被回転部材10の回転にともなう係合ピン13と第2の耳糸16cとの位置関係の変化、及び耳糸開口装置3よりも下流側(織前側)での第2の耳糸16cの経路の織幅方向の振動を解消する目的で、耳糸開口装置3と耳糸経路切換装置2との間に規制部材15を設けている。
図2、3に示すとおり、規制部材15は、本実施形態では、棒状の部材であり、その下端が駆動装置8の電磁石用ハウジング49の上面に穿設された孔に嵌合され、かつ、上端がガード部材33を支持するガードステー68に支持された状態で、上下方向に延在するかたちで設けられている。規制部材15の上下方向(延在方向)の寸法は、係合ピン13の前記周回軌道上の直径よりも小さい範囲にわたって延在するものとなっている。
規制部材15は、図6に示すとおり、反経糸列側の周面で第2の耳糸16cを案内するものとなっている。そして、規制部材15は、織幅方向に関し、反経糸列側の端縁が、前記のガイド部材27の案内溝66cと同じ位置となるように配置されている。これにより、第2の耳糸16cの経路は、耳糸開口装置3の前後に位置するガイド部材27と規制部材15との間において、経糸(織端)と平行な状態となる。したがって、耳糸開口装置3において、係合ピン13と第2の耳糸16cの経路との織幅方向に関する位置関係は、被回転部材10の回転中常に一定となるため、被回転部材10の連続的な回転にともなう第2の耳糸16cの係合ピン13からの外れを防ぐことができる。
また、前記のように、第2の耳糸16cの経路は、被回転部材10の回転ディスク61と平行になっているため、本体部12の回転にともなって係合ピン13が回転しても、第2の耳糸13cは、織幅方向には変位せず、上下方向にのみ変位する。したがって、耳糸開口装置3よりも下流側での第2の耳糸16cの前記振動は発生しない。
また、この規制部材15により、耳糸開口装置3と耳糸経路切換装置2との間で第2の耳糸16cの経路を規制しているため、規制部材15から織前24までの第2の耳糸16cの経路は、織幅方向に関し常に一定の位置となる。なお、規制部材15に案内されて織前24へと導かれる第2の耳糸16cの経路は、本実施形態では、織幅方向において経糸18に対し前記角度αを成すものとなっている(図5参照)。
また、本実施形態では、図6に示すとおり、回転ディスク61の経糸列側の側面に、第2の耳糸16cと係合ピン13用の支持ステー63との干渉を防止するためのカバー69が取り付けられている。カバー69は、外径が回転ディスク61とほぼ等しいドーナッツ型の円盤状の部材であり、中心を回転ディスク61の中心と一致させた状態で取り付けられている。
次に、第1の耳糸16a,16bおよび第2の耳糸16cの経路ついて説明する。第1の耳糸16a,16bおよび第2の耳糸16cの経路について概説すると、織幅方向に関しては、各ボビン22から耳糸経路切換装置2に至るまでの各耳糸16の経路の位置関係は、図1に示すとおり、反経糸列側から第1の耳糸16b、第1の耳糸16a、第2の耳糸16cの順で不変であり、耳糸経路切換装置2から織前24に至るまでの各耳糸16の経路の位置関係は、図7に示すとおり、第2の耳糸16cの経路は不変であり、第1の耳糸16aの経路は、第2の耳糸16cの経路を挟んで左右の一方の側、第1の耳糸16bの経路は、第2の耳糸16cの経路を挟んで左右の他方の側を通り、耳糸経路切換装置2の動作にともない、第1の耳糸16aの経路と、第1の耳糸16bの経路とが切り換わる。
また、上下方向に関しては、図2および図3に示すとおり、ガイド部材27から耳糸経路切換装置2に至るまでの各耳糸16の経路の位置関係は、上側から第2の耳糸16c、第1の耳糸16a、第1の耳糸16bの順であり、耳糸経路切換装置2から織前24に至るまでの各耳糸16の経路の位置関係は、第1の耳糸16aおよび第1の耳糸16bの経路は不変であり、第2の耳糸16cの経路は、第1の耳糸16a,16bの経路の上または下を通り、耳糸開口装置3の動作にともない、第1の耳糸16a,16bの経路に対する上下位置が切り換わる。
図1において、第2の耳糸16cは、ボビン22cから解舒されて、上流側から順に、テンサ装置25、ガイド部材27の案内溝66c、耳糸開口装置3を経て、織前24に導かれる。また、図2に示すとおり、第2の耳糸16cは、ガイド部材27と織前24との間で、耳糸開口装置3の係合ピン13の上側を通っている。したがって、第2の耳糸16cは、被回転部材10の回転にともない、係合ピン13の前記第1の位置P1から第2の位置P2への変位によって上方に持ち上げられ、第2の位置P2から第1の位置P1への変位によって係合ピン13に載りつつ下降する。このように、第2の耳糸16cの経路は、ガイド部材27と織前24との間で、耳糸開口装置3の動作により上下方向に変化する。そして、本実施形態では、図7に示すとおり、係合ピン13が前記第1の位置P1にあるとき、第2の耳糸16cは、第1の耳糸16a、16bと耳糸開口を形成する。
耳糸開口の下糸となる第2の耳糸16cの初期経路は、前述のとおり、織前24とガイド部材27とで規定されており、その経路は、上下方向に関しては、筬29や他の部材との干渉等を考慮して設定される。具体的には、緯入れとの関係で耳糸開口の開口量は大きい方が好ましく、ガイド部材27から織前27へ第2の耳糸16cを直接導いた場合の第2の耳糸16cの経路(以下、「第2の耳糸16cの初期経路」という。)についても、例えばワープラインWLに対し成す角度が大きい方が好ましい。ただし、その角度を大きくしすぎると、筬29の下側の口金等と干渉してしまう。そこで、第2の耳糸16cの初期経路については、少なくとも筬29の最後退位置(本実施形態では織機の主軸角度180°のときの位置)にある状態で、筬29の緯糸案内溝29aよりも下方を通るとともに、筬29やリードホルダ29b等に干渉しない経路に設定される。
また、他の部材の配置との関係で、その他の部材に干渉する虞がある場合は、その他の部材との干渉についても考慮した上で第2の耳糸16cの初期経路が設定される。なお、ここで言う他の部材としては、例えば、本願発明の耳形成装置1における耳糸経路切換装置2やヘルドフレーム28a(下側フレーム)が挙げられる。なお、第2の耳糸16cの初期経路の上下方向に関する位置については、織前24の位置が固定であるとすると、ガイド部材27の高さ位置によって設定される。
図1に示すとおり、第1の耳糸16aは、ボビン22aから解舒されて、上流側から順に、テンサ装置25、ガイド部材27の案内溝66aを経て、耳糸経路切換装置2に導かれる。
ガイド部材27から耳糸経路切換装置2へ導かれる第1の耳糸16aは、図2に示すとおり、支持フレーム32に固定された第1の耳糸用のガイド67a、耳糸経路切換装置2のベース部材37に取り付けられた第1の耳糸用のガイド44a及び耳糸案内ロッド38aの目孔4に案内されて、織前24へ至る。
同様に、第1の耳糸16bは、ボビン22bから解舒されて、上流側から順に、テンサ装置25、ドロッパ装置26、ガイド部材27の案内溝66bを経て、耳糸経路切換装置2に至る。耳糸経路切換装置2に導かれる第1の耳糸16bは、支持フレーム32に固定された第1の耳糸用のガイド67b、耳糸経路切換装置2のベース部材37に取り付けられた第1の耳糸用のガイド44b及び耳糸案内ロッド38bの目孔4に案内されて、織前24へと導かれている。なお、図示の例では、第1の耳糸16bは、第1の耳糸16aよりも反経糸列側の経路をとおり、かつ、第1の耳糸16aよりも下側を通るものとなっている。
耳糸開口の上糸となる第1の耳糸16a,16bの目孔4から織前24までの経路は、耳糸案内ロッド38a、38bの目孔4の位置で規定される。そして、目孔4から織前24までの経路の上下方向の位置に関しては、緯入れとの関係や、筬29及び他の部材との干渉等を考慮して設定される。具体的には、第1の耳糸16a,16bの経路については、その上下方向に関する位置は固定であるため、先ず、緯入れとの関係を考慮して設定される。すなわち、耳糸開口の開口量が緯入れ可能な大きさである必要があるため、そのような開口量が得られるように、第1の耳糸16a,16bの経路は、緯入れ開始時点(本実施形態では主軸角度70°の時点のときの位置)における筬29の位置との関係で、筬29の緯糸案内溝29aよりも上方を通るように設定される。
一方、その上方の位置について、緯入れとの関係のみで言えばより高い位置、すなわち、ワープラインWLに対し成す角度が大きい方が好ましいが、その角度を大きくしすぎると、筬29の上側の口金等と干渉してしまう。そこで、第1の耳糸16a,16bの経路については、少なくとも筬29の最後退位置にある状態で、筬29やリードホルダ29b等に干渉しない範囲内で設定される。また、第1の耳糸16a,16bと他の部材との干渉を考慮する場合がある場合には、そのような他の部材と干渉しない範囲内で設定される。
但し、第1の耳糸16a,16bの経路については、第2の耳糸16cの経路との関係についても考慮する必要がある。すなわち、第2の耳糸16cの経路は、第1の耳糸16a,16bの経路の経路の切換に際し、係合ピン13が第2の位置P2にある状態で、耳糸案内ロッド38a(耳糸案内ロッド38b)の先端よりも上方を通るものとならなければならない。そのため、上下方向に関し、第1の耳糸16a,16bの経路を上記のように筬29や他の部材と干渉しない範囲において最も高い位置に設定すると、第2の耳糸16cが係合ピン13の上昇に伴ってこれらの部材と干渉してしまうことになる。したがって、第1の耳糸16a,16bの経路については、第2の耳糸16cの経路が自身の経路の上方に位置する状態があることを考慮し、第2の耳糸16cの経路が筬29や他の部材と干渉しないで済む範囲内で設定される。
なお、第1の耳糸16a,16bの目孔4よりも経糸方向に関し上流側の経路は、ガイド部材27、第1の耳糸用のガイド67a,67bおよび第1の耳糸用のガイド44a,44bによって規制される。
第1の耳糸用のガイド67a,67bは、ガイド部材27から耳糸案内ロッド38a,38bの目孔4へ導かれる第1の耳糸16a,16bの経路を被回転部材10よりも下側を通る位置に規制する目的で設けられる部材であり、経糸方向に関し、被回転部材10と耳糸経路切換装置2との間に固定配置されている。第1の耳糸16a,16bの経路を被回転部材10よりも下側に通す理由は以下のとおりである。
図2および図6に示すとおり、本実施形態では、第1の耳糸16a,16bは、耳糸開口装置3の上流側において、上下方向に関し耳糸開口装置3よりも下方に位置するガイド部材27により、織幅方向に関し、係合ピン13の延在範囲よりも反経糸列側で案内されている。一方、耳糸開口装置3の下流側に位置する耳糸案内ロッド38a,38bの目孔4は、いずれも係合ピン13の前記第1の位置P1(最下降位置)よりも上方に位置している。
このため、本実施形態の構成では、第1の耳糸16a,16bをガイド部材27から耳糸案内ロッド38a,38bの各目孔4へ直接案内しようとすると、第1の耳糸16a,16bの経路が耳糸開口装置3に干渉する状態となる。そこで、本実施形態では、第1の耳糸用のガイド67a,67bを設けて、第1の耳糸16a,16bの経路を被回転部材10よりも下側を通る位置に規制している。
本実施形態では、第1の耳糸用のガイド67a,67bは、織幅方向に関し耳糸開口装置3の係合ピン13よりも反経糸列側であって、上下方向に関し係合ピン13の第1の位置P1よりも上側の位置に配置されている。なお、第1の耳糸用のガイド67bは、第1の耳糸16bの経路が第1の耳糸16aの経路と交差しないように、第1の耳糸用のガイド67aに対し、織幅方向に関し反経糸列側であって、かつ、経糸方向に関し下流側に配置されている。また、上下方向に関し、下側に配置されている。
第1の耳糸用のガイド44a,44bは、第1の耳糸用のガイド67a,67bから耳糸案内ロッド38a,38bの目孔4へと案内される第1の耳糸16a,16bが第2の耳糸16cと干渉するのを防ぐ目的で、耳糸経路切換装置2のベース部材37の上面に設けられている。
より詳しく説明すると、第1の耳糸用のガイド67a,67bは、耳糸経路切換装置2(耳糸案内ロッド38a,38b)よりも上流側の固定位置で第1の耳糸16a,16bを案内している。一方、耳糸案内ロッド38a,38bの各目孔4は、第1の耳糸用のガイド67a,67bよりも下流側において、ベース部材37によって揺動させられる。そのため、ベース部材37が、上流側または下流側の揺動限のいずれか一方の揺動限にある状態では、第1の耳糸16a,16bの経路の一方または他方は、第1の耳糸用のガイド67a,67bと耳糸案内ロッド38a,38bとの間で、織幅方向に関し第2の耳糸16cの経路と交差する位置を通ることになる。
したがって、仮に、第1の耳糸16a,16bを第1の耳糸用のガイド67a,67bから耳糸案内ロッド38a,38bの各目孔4へ直接案内すると、第1の耳糸用のガイド67a,67bと耳糸案内ロッド38a,38bの各目孔4との間の経路が、上下方向においても、最下降位置にある第2の耳糸16cの経路(係合ピン13が前記第1の位置P1にある状態での第2の耳糸16cの経路)と交差する位置を通ることになる。
そうすると、係合ピン13の変位にともなう第2の耳糸16cの下降の過程において、第2の耳糸16cが第1の耳糸16a,16bの一方と干渉し、第2の耳糸16cを本来の位置まで下降させることができず、所望の耳糸開口量が得られない状態となる。そこで、本実施形態では、ベース部材37上の耳糸案内ロッド38a,38bの近傍の位置に、第1の耳糸用のガイド44a,44bを設けている。この第1の耳糸用のガイド44a,44bにより、第1の耳糸16a,16bの第1の耳糸用のガイド67a,67bから耳糸案内ロッド38a,38bの近傍の直下までの経路は、最下降位置にある第2の耳糸16cの経路に対して下側の位置に規制されることとなる。
図7に示すとおり、第1の耳糸用のガイド44a,44bは、ベース部材37に対して固定されており、ベース部材37(耳糸案内ロッド38a,38b)と一体的に揺動される。このため、ベース部材37の上流側及び下流側のいずれの揺動限においても、第1の耳糸16a,16bの経路は、第1の耳糸用のガイド67a,67bと第1の耳糸用のガイド44a,44bとの間で、第2の耳糸16cの最下降位置よりも低い位置を通る。また、織幅方向に関し、第2の耳糸16cの経路と交差する経路を通る第1の耳糸16a,16bの一方は、第2の耳糸16cの下をくぐって第1の耳糸用のガイド44aまたは第1の耳糸用のガイド44bにより上方へ偏向される。したがって、第1の耳糸16a,16bは、最下降位置にある第2の耳糸16cの経路と干渉することなく耳糸案内ロッド38a,38bの各目孔4へと導かれる。
なお、図5に示すとおり、本実施形態では、揺動ブロック45における対象軸線51が経糸方向と平行な状態(ベース部材37の揺動範囲における前記中間位置)において、ベース部材37における貫通孔43a,43bの中心を結ぶ線分Lが、規制部材15から織前24へ至る第2の耳糸16cの経路と平行となるように、ベース部材37が支持軸36に組み付けられている。そして、本実施形態では、ベース部材37の前記中間位置において、線分Lが織幅方向に関し第2の耳糸16cの経路よりも経糸列側に位置するように構成されている。
かかる構成により、揺動ブロック45の揺動量を調節することにより、ベース部材37の上流側及び下流側の揺動限で上側から見て線分Lの中間位置を第2の耳糸16cの経路上とすることが可能となる。これにより、図7に示すとおり、上側から見て前記各揺動限で各耳糸案内ロッド38a,38bの位置を第2の耳糸16cから等距離の位置とすることが可能となり、第2の耳糸16cと耳糸案内ロッド38a,38bとの干渉を防止して、第2の耳糸16cを上下方向に関しより確実に変位させて所望の耳糸開口量を得ることが可能となる。
なお、図6に示した本実施形態のガイド部材27は、案内溝66により耳糸16を案内する構成としているが、このような構成に限らない。例えば、案内溝66を有するガイド部材27に代えて、耳糸16を挿通する目孔を有するガイド部材を各耳糸16に対応させて設け、各ガイド部材の目孔に各耳糸16を挿通して各耳糸16を案内するようにしてもよい。
次に、第2の耳糸16cの初期経路に対する耳糸開口装置3の上下方向配置について説明する。図2において、係合ピン13は、回転軸線60(DDモータ58の回転軸)を中心に回転する支持ステー63の旋回軌跡の外周によって規定される周回軌道上を変位する。そして、前記周回軌道は、以下の各条件を満たすように設定される。
条件1:少なくとも第1の位置P1で、係合ピン13が第2の耳糸16cの経路よりも下側に位置する(第2の耳糸16cと離間する)こと。すなわち、経糸方向における周回軌道(回転ディスク61)の中心の位置において、周回軌道(回転ディスク61)の中心から第2の耳糸16cの経路までの距離が、周回軌道(回転ディスク61)の中心から第1の位置P1までの距離(係合ピン13の回転半径)よりも短い距離となること(図2)。なお、「少なくとも第1の位置P1で」と述べたのは、係合ピン13が第1の位置P1に達する前に、係合ピン13が第2の耳糸16cの経路よりも下側の位置を通る経路となる場合も含むことを意味する。
条件2:少なくとも第2の位置P2で、係合ピン13と係合する第2の耳糸16cの経路が、経糸方向における耳糸案内ロッド38aの位置において、耳糸案内ロッド38aの先端よりも上側(反駆動装置8側)の位置を通る経路となること(図3)。なお、「少なくとも第2の位置P2で」と述べたのは、係合ピン13が第2の位置P2に達する前に、第2の耳糸16cの経路が耳糸案内ロッド38aの先端よりも上側の位置を通る経路となる場合も含むことを意味する。
そして、本実施形態では、上下方向に関する前記周回軌道の位置が前記条件1、2を満たすために、その周回軌道を形成する係合ピン13の位置、及びその係合ピン13の回転中心(周回軌道の中心)となるDDモータ58の回転中心を以下のように設定したものである。
(1)先ず、係合ピン13の第2の位置P2を設定する。具体的には、第2の位置P2にある係合ピン13で規定される第2の耳糸16cの経路が前記条件2を満たし、且つ、最後退位置にある状態の筬29の上側のリードホルダ29a等に干渉しない経路となるような位置としての第2の位置P2を設定する。
(2)その上で、上記で設定した第2の位置P2を基準に、DDモータ58の上下方向の配置を設定する。具体的には、(1)で設定した第2の位置P2と第2の耳糸16cの初期経路との上下方向の中間位置M(仮想の位置)に対し、その中間位置Mよりも下方(ガイド部材27側)に、DDモータ58の回転中心を設定(仮定)する。この設定されたDDモータ58の回転中心と、(1)で設定した第2の位置P2とで回転ディスク61の中心から係合ピン13までの距離、すなわち、係合ピン13の回転半径(周回軌道の半径)が求まるため、その回転半径における係合ピン13と第2の耳糸16cの初期経路との関係、より具体的には、周回軌道における第2の耳糸16cの初期経路に対する下側の範囲が適当かどうかを確認し、所望の期間において係合ピン13(周回軌道)が第2の耳糸16cの初期経路に対し下側に位置する状態でDDモータ58の回転中心を確定する。
なお、本実施形態のように、耳糸開口装置3が前後方向における綜絖枠群28の範囲内に配置される場合は、前記DDモータ58の回転中心(周回軌道の中心)を決定するにあたり、当然ながら、周回軌道がヘルドフレーム28aに干渉しない範囲で上記中心を決定する必要がある。また、他の部材が周回軌道の周辺に存在する場合は、その部材との干渉についても考慮する必要がある。例えば、ヘルドフレーム28aとの関係で言うと、上下方向に関し、前記第2の位置P2を固定(基準)として考えた場合、上記回転中心の前記中間位置Mに対する位置をより下側に設定する程係合ピン13の回転半径が大きくなり、前記第1の位置P1がヘルドフレーム28a(ヘルド28bを支持する図示しない下側のスチーブ)に近いものとなる。したがって、前記回転中心を決定するにあたっては、前記第1の位置P1がヘルドフレーム28aにおける下側スチーブの動作範囲と重複しないことを前提とする必要がある。
(3)そして、上記のようにDDモータ58の回転中心が確定されることにより、このDDモータ58の回転中心が周回軌道の中心となり、前記係合ピン13の回転半径により、回転ディスク61に対する係合ピン13の配置、及びその配置を実現するための支持ステー63の寸法等が決定される。
上記のように、DDモータ58の回転中心、すなわち、係合ピン13の周回軌道の中心を、前記中間位置Mよりも下方に設定することにより、経糸方向における前記周回軌道の中心の位置において、周回軌道の中心から第2の耳糸16cの初期経路までの距離は、必然的に周回軌道の半径(周回軌道の中心から第2の位置P2までの距離)よりも短くなる。したがって、係合ピン13の周回軌道を上記のように設定することにより、少なくとも周回軌道上の第1の位置P1(最下降位置)において、係合ピン13が、第2の耳糸16cの初期経路よりも下方の位置となって、第2の耳糸16cの初期経路と離間する。そして、係合ピン13が第2の耳糸16cと離間する期間に亘って、第2の耳糸16cの経路が前記初期経路に維持される(図2)。
また、前述のように、周回軌道上の第2の位置P2は、第2の耳糸16cの経路が前記条件2を満たすように設定されるので、少なくとも周回軌道上の第2の位置P2で、係合ピン13と係合する第2の耳糸16cの経路が、経糸方向における耳糸案内ロッド38aの位置において、上下方向に関し耳糸案内ロッド38aの先端よりも上側(反駆動装置8側)の位置を通る経路となる(図3)。
以上のように、本実施形態では、織機の緯入れとの関係で予め位置を設定されている第2の耳糸16cの初期経路、及び、第1の耳糸16a、16bの経路に対して、前記条件1、2を満たす係合ピン13の周回軌道を設定している。
次に、図8を参照して、耳糸開口装置3の駆動装置11の回転駆動を制御する駆動制御装置140について説明する。本実施形態では、係合ピン13が第2の耳糸16cと離間する期間を延長する目的で被回転部材10を変速駆動する。
図8において、駆動制御装置140は、織機の制御装置146及びDDモータ58に接続されており、また、織機の主軸角度に対応するDDモータ58の目標位置(以下、「運動パターン」ともいう。)を入力するための設定器144と、設定器144に接続されて入力された運動パターンを記憶する記憶器142と、織機の制御装置146と記憶器142とに接続されて織機の制御装置146から入力される織機主軸の角度信号θの入力を受けて記憶器142の対応するDDモータ58の目標位置に応じた位置指令Pcを発生する位置指令発生部141と、位置指令発生部141に接続される位置制御回路143と、位置制御回路143に接続される速度制御回路145と、速度制御回路145とDDモータ58とに接続される電流制御回路147とを含む。
記憶器142に記憶されるDDモータ58の運動パターンは、記憶器142に接続された設定器144により入力されるものであり、具体的には、織機1サイクル内での係合ピン13の運動パターンに対応するDDモータ58の回転角度が、織機の主軸角度に対応させて入力される。位置指令発生部141は、記憶器142に設定されたDDモータ58の運動パターンと織機の制御装置146からの織機主軸の角度信号θとに基づいて、各時点の織機主軸の回転角度θに応じた位置指令Pcを位置制御回路143に対し出力する。
位置制御回路143は、位置指令発生部141からの位置指令Pcが入力される比較部143aと、位置偏差増幅部143bと含む。また、比較部143aには、DDモータ58の回転量を検出するエンコーダENからの位置フィードバック信号Pfが入力されている。比較部143aは、位置フィードバック信号Pfと位置指令Pcとを比較し、その位置偏差Pdを位置偏差増幅部143bへ出力する。位置偏差増幅部143bは、その位置偏差Pdを所定のゲインに応じて増幅して速度指令Scとして速度制御回路145に対し出力する。
速度制御回路145は、位置制御回路143からの速度指令Scが入力される比較部145aと、速度偏差増幅部145bとを含む。また、比較部145aには、エンコーダENによって検出されたDDモータ58の回転量に基づいて微分器149によって得られる速度フィードバック信号Sfが入力されている。比較部145aは、速度フィードバック信号Sfと速度指令Scとを比較し、その速度偏差Sdを速度偏差増幅部145bへ出力する。速度偏差増幅部145bは、その速度偏差Sdを所定のゲインに応じて増幅し、トルク指令Tcとして電流制御回路147に対し出力する。
電流制御回路147は、トルク制御部147a、D/A変換器147b、電流増幅器147c及び電流検出部147dを含む。トルク制御部147aは、速度制御回路145からのトルク指令Tcに基づいて、織機の主軸角度θに応じた電流指令Icを出力する。電流指令Icは、D/A変換器147bでアナログ信号に変換されて電流増幅器147cへ入力される。電流増幅器147cは、電流検出器147dによって検出された電流値IとD/A変換器147bからの電流指令Icとの電流偏差を演算し、その電流偏差に応じた駆動電流をDDモータ58へ供給する。そして、DDモータ58は、その駆動電流によって、設定器144に設定された運動パターンにおける織機の主軸角度θに応じた回転量となるように回転駆動される。
次に、図9を参照して、DDモータ58の運動パターンについて説明する。本実施形態では、DDモータ58の運動パターンは、織機の主軸角度に対するDDモータ58の回転角度が、図9に示す曲線[2]で表される関係となるように設定されている。
なお、図9では、横軸に織機の主軸角度を、縦軸のうち左側の縦軸にDDモータ58の回転角度を、右側の縦軸に第2の耳糸16cの上下方向の変位量を示すものとする。
また、図9の各曲線[1]〜[4]について、詳しくは、以下のとおりである。
曲線[1]:DDモータ58を定速駆動する場合における織機の主軸角度に対するDDモータ58の回転角度の関係を表す曲線(原点とDDモータ58の目標回転角度360°となる点とを結ぶ直線)。
曲線[2]:本実施形態の運動パターンに従ってDDモータ58を変速駆動する場合における織機の主軸角度に対するDDモータ58の回転角度の関係を表す曲線。
曲線[3]:DDモータ58を定速駆動した場合(曲線[1])における織機の主軸角度に対する係合ピン13の変位の関係を表す曲線。
曲線[4]:本実施形態の運動パターンに従ってDDモータ58を変速駆動した場合(曲線[2])における織機の主軸角度に対する係合ピン13の変位の関係を表す曲線。
本実施形態の運動パターン(曲線[2])について、図9および図10を参照してより詳しく説明する。なお、以下では、図10に示すとおり、前記周回軌道のうちの第2の耳糸16cの初期経路よりも上側(反ガイド部材27側)の区間を第1の区間、第2の耳糸16cよりも下側(ガイド部材27側)の区間を第2の区間(以下、「ドウェル区間」ともいう。)とする。また、以下の説明では、係合ピン13が第2の区間の始点に達する主軸角度を「第1の回転角度」、終点に達する主軸角度を「第2の回転角度」とする。そして、本実施形態の運動パターンは、係合ピン13が第2の区間を通過する期間(以下、「第2期間(ドウェル期間)」と言う。)が、DDモータ58を定速駆動する場合に比べて長くなるような変速パターンとして設定されるものとする。
すなわち、前記運動パターンは、係合ピン13と第2の耳糸16cとが離間する期間を長くして、緯入れが可能な耳糸開口期間を長くするために、DDモータ58を定速駆動する場合に対し、係合ピン13が原点から第2の区間(ドウェル区間)へ可及的に早く到達するようにDDモータ58を速く回転させ、第2の区間(ドウェル区間)に到達した後は、係合ピン13が第2の区間(ドウェル区間)をできる限り時間をかけて通過するようにDDモータ58を減速し、ドウェル区間を通過した後は、織機の主軸が一回転した時点でDDモータ58が再び原点位置に達するように、DDモータ58を加速するように設定される。
なお、前提として、本実施形態では、緯入れ開始時点が織機の主軸角度70°に設定され、緯入れ終了時点(緯糸の反給糸側への到達時点)が織機の主軸角度240°に設定されているものとする。但し、この緯入れ開始時点(主軸角度)及び緯入れ終了時点(緯糸の反給糸側への到達時点)については、経糸の開口動作や緯入れに関係する他の構成の動作との関係で設定される。その上で、図9に示すように、織機の主軸角度30°でDDモータ58が原点位置となるようにDDモータ58の位相が設定されると共に、織機の主軸1回転でDDモータ58が連続的(≠間歇的)に1回転するものとする。また、本実施形態では、第2の耳糸16cの初期経路と周回軌道との関係において、DDモータ58が原点から65°回転した時点で係合ピン13が第2の区間の始点に達すると共に、DDモータ58が原点から130°回転した時点で第2の区間の終点に達するものとなっている。
そして、そのような耳糸開口装置の構成による前提の下に、本実施形態では、運動パターンを決定するにあたり、以下の(a)〜(e)の条件を踏まえたものとなるようにしている。なお、以降の説明においては、第2期間(ドウェル期間)以前の期間、すなわち、DDモータ58が原点位置となる織機主軸角度30°から第1の回転角度までの期間を第1期間とする。また、本実施形態では、図9に示すように、第2期間(ドウェル期間)に続く期間においてDDモータ58が加速され、その後、ほぼ定速に近い状態でDDモータ58が回転駆動されるものとなっている。そこで、以降の説明においては、第2期間(第2の回転角度)に連続する加速期間を第3期間とし、第3期間以降の次の織機の主軸角度30°までの期間を第4期間とする。
(a)第1期間における速度パターン(回転速度)
第1期間におけるDDモータ58の回転速度については、減速期間を設けずに、一定速に近い速度とする。
(b)第4期間における速度パターン(回転速度)
第4期間は、DDモータ58が1回転した後の次の第1期間に連続する期間であり、第4期間の終期に加減速を伴うことなく第1期間への移行が行われるように、第4期間におけるDDモータ58の回転速度については、その終期の速度を第1期間の初期と同じ速度とし、且つ、第1期間と同様にほぼ一定速とする。
(c)第1、第2の回転角度
前述のように、本実施形態では、その運動パターンによって実現される第2期間がDDモータ58を定速で駆動した場合よりも長くなるような運動パターンとするものである。そのため、第1の回転角度及び第2の回転角度の少なくとも一方を、DDモータ58を定速で駆動した場合に対し、第1の回転角度については速い時点とし、第2の回転角度については遅い時点とする必要がある。そこで、本実施形態では、第1の回転角度を、DDモータ58を定速で駆動した場合よりも早い時点に設定すると共に、第2の回転角度を、DDモータ58を定速で駆動した場合よりも後の時点に設定するものとする。
(d)第1、第2の回転角度の前後のDDモータ58の速度
第1の回転角度の前後及び第2の回転角度の前後においても、加減速を伴わないものとする。すなわち、第1の回転角度の直前の第1期間の終期及び第1の回転角度の直後の第2期間の初期の速度をほぼ同じ速度とすると共に、第2の回転角度の直前の第2期間の終期及び第2の回転角度の直後の第3期間の初期の速度をほぼ同じ速度とするものとする。
(e)運動パターン中の加減速
加減速がDDモータ58の発熱量に及ぼす影響は大きいため、加減速の大きさについては、連続運転において発熱量が許容できる範囲(許容加速度範囲)内に制限する。
そして、実際に運動パターンを決定するにあたっては、各期間の速度(速度パターン)が前後の期間の初期の速度やその期間の長さに影響を及ぼすため、各期間の速度(速度パターン)や長さについては、他の期間との関係を考慮して設定される。
例えば、第1期間の長さについては、第1の回転角度によって決定されるものであり、前記条件(c)のように、第1の回転角度については、DDモータ58を定速で駆動した場合の第1の回転角度よりも早い時点に設定される。但し、第1の回転角度をより早い時点とすると、それに伴って第1期間におけるDDモータ58の回転速度が速くなり、その結果として、前記条件(b)により、第4期間におけるDDモータ58の回転速度も速くなる。その場合、第3期間における回転速度の上昇度合が大きくなるため、第3期間の長さについては、その第3期間における加速度が、前記条件(e)で述べた許容加速度範囲を超えないように、長さを長くする必要が生じる。一方で、第3期間が長くなると、第2の回転角度に影響を及ぼす。すなわち、DDモータ58がほぼ定速で駆動される第4期間については、その長さはDDモータ58の回転速度で定まるものであり、そのように定められた第4期間を基に第3期間を設定した場合、第3期間を長く設定するほど第2の回転角度は早い時点となる。但し、第2の回転角度については、前記条件(c)で述べたように、DDモータ58を定速で駆動した場合の第2の回転角度よりも遅い時点である必要がある。以上から、第1期間の長さ(第1、第4期間の回転速度)を決定するにあたっては、第2の回転角度及び第3期間の加速度及び長さ等を考慮する必要がある。
また、第1期間の長さ(第1期間の回転速度)については、第2期間の速度パターン及び長さにも関係する。すなわち、前記条件(d)で述べたように第2期間の初期の速度は第1期間とほぼ同じものに設定されるが、前述のように第2期間をDDモータ58が定速で駆動される場合よりも長くなるようにする場合、第2期間におけるDDモータ58の平均回転速度は初期の速度よりも遅くなるため、第2期間中に減速が必要となる。但し、この減速についても、前記条件(e)で述べた許容加速度範囲を超えないようにする必要がある。その場合、第1期間のDDモータ58の回転速度が前記許容加速度範囲内で十分に減速しきれないものであると、より早い時点でDDモータ58の回転角度が130°に達するものとなり、第2期間の長さを短くせざるを得なくなる。しかし、前述のように、第2の回転角度については、DDモータ58を定速で駆動した場合の第2の回転角度よりも遅い時点である必要がある。したがって、第1期間の長さ(第1の回転角度)を決定するにあたっては、第2期間の速度パターン(減速度)及び長さも考慮する必要がある。
なお、上記では一例として第1期間の長さにに着目して他の期間の速度(速度パターン)や長さとの関係を述べたが、いずれの期間に着目しても、同様に他の期間との関係が述べられる。
そして、以上のように前記条件を満たしつつ各期間の関係を考慮した結果として、図9の曲線〔2〕で示すような本実施形態の運動パターンが得られる。なお、この運動パターンについて、具体的には、次の通りである。
第1の回転角度(係合ピン13が第2区間の始点に達する主軸角度)については、85°に決定される。すなわち、主軸角度85°でDDモータ58の回転角度が65°となる(主軸が30°〜85°回転する期間でDDモータ58が原点から65°回転する)。なお、第1の回転角度を上記のように設定した場合、織機の緯入れ開始時点(主軸角度70°)では、曲線[4]で示される係合ピンの位置は、第2の区間の始点には達していないが、耳糸の開口量としては、緯入れに支障を来さないものとなっている。因みに、DDモータ58を定速駆動する場合(曲線[3])では、係合ピン13が第2の区間の始点に達する主軸角度は95°となる。したがって、本実施形態の運動パターンでは、DDモータ58を定速駆動する場合と比べ、係合ピン13の位置が第2の区間の始点に達する時点は、主軸角度に関し早くなっている。
また、第1の回転角度を上記のように設定した結果として、第1期間におけるDDモータ58の回転速度は、DDモータ58を定速で駆動した場合の回転速度よりも速いものとなっている。そして、それに伴い、第4期間におけるDDモータ58の回転速度も、DDモータ58を定速で駆動した場合の回転速度よりも速いものとなっている。
第2の回転角度(係合ピン13が第2の区間の終点に達する主軸角度)については、第2の回転角度は、DDモータ58を定速駆動する場合(曲線[1])の主軸角度160°よりも遅い時点である190°に決定されている。そして、主軸角度190°以降(第3期間)の運動パターンは、DDモータ58の増速に伴う加速度で生じる発熱量が連続運転において許容できるものとなっている。なお、第2の回転角度を上記のように決定した場合、織機の緯入れ終了時点(主軸角度240°)では、曲線〔4〕で示される係合ピン13の位置は、第2の区間の終点を通過してしまうが、耳糸の開口量としては、緯入れ(緯糸の飛走)に支障のないものとなっている。
第2期間(第1の回転角度〜第2の回転角度)におけるDDモータ58の回転速度(速度パターン)については、初期における回転速度が第1期間の回転速度とほぼ等しいものに決定され、それに続く期間(中期)において減速されると共に、その減速期間(中期)以降の終期の回転速度が中期における減速度合に応じた回転速度でほぼ定速に設定されている。その上で、前記中期における減速度は、減速が前記許容加速度範囲を超えないものとなっている。
また、第2期間の速度パターンが上記のように設定されることで、第3期間の初期の速度は第2期間の前記終期の速度によって決定され、加速期間である第3期間における加速度は、第2期間の前記終期の回転速度と前記した第4期間の回転速度とで決定されるものとなっている。但し、この第3期間の加速度についても、前記許容加速度範囲に収まるものとなっている。
なお、図示の運動パターンでは、第1の回転角度以前の期間(主軸角度30°〜85°)及び第2の回転角度以降の加速期間後の期間では、ほぼ直線(定速)に近いかたちとなっているが、厳密にはDDモータ58を定速で駆動するものとなっていない。これは、全体に亘って曲線が滑らかに変化するように運動パターンを設定した結果である。
次に、図2、3、7を参照しながら、耳形成装置1の動作について説明する。織機の製織中、耳糸開口装置3においては、織機主軸1回転毎に被回転部材10(係合ピン13)が織幅方向の経糸列側から見て時計回りに1回転するように、図示しないDDモータ58が駆動されている。また、織機主軸の回転角度と周回軌道上を回転する係合ピン13との位相関係は、本実施形態では、前述したとおり、主軸角度30°のときに、第2の位置P2と第1の位置P1との間の中間位置(原点)に係合ピン13が位置するように設定されているものとする(図10参照)。なお、織機主軸の回転角度と周回軌道上を回転する係合ピン13との位相関係は、前記したものに限定されず、必要に応じ、織機の主軸に対する被回転部材10の位相を変更してもよい。
また、耳糸経路切換装置2において、ベース部材37を前記した上流側または下流側の一方の揺動限から他方の揺動限へ揺動させるタイミング(駆動装置8における電磁石極性を切り換えるタイミング、すなわち第1の耳糸16a,16bの経路を切り換えるタイミング)は、耳糸開口装置3における係合ピン13が前記第2の位置P2へ達した時点に設定されているものとする。
(1)図2に示すとおり、製織中、耳糸開口装置3において、被回転部材10の回転にともなって係合ピン13が前記周回軌道上で前記第2の位置P2から前記第1の位置P1へ向けて変位することにより、係合ピン13から織前24に至る第2の耳糸16cの経路(以下、「部分経路」という。)が、上下方向に関し、最上昇位置から下方へ向けて変位する。一方、第1の耳糸16a,16bの経路は、上下方向に関し、位置が固定されている。したがって、第2の耳糸16cの前記部分経路の変位にともない、前記部分経路が第1の耳糸16a,16bよりも下方へ変位した状態となり、第2の耳糸16cと、第1の耳糸16a,16bとの間で耳糸開口が形成される。係合ピン13が周回軌道の第2の区間(ドウェル区間)の始点に達すると、係合ピン13は、第2の耳糸16cと離間し、第2の耳糸16cの開口運動は、最大開口位置で停止する。このとき、第2の耳糸16cは、経糸方向に関し耳糸案内ロッド38aと耳糸案内ロッド38bとの間を通っている。係合ピン13と、最大開口位置で停止した第2の耳糸16cとは、係合ピン13が第2の区間(ドウェル区間)の終点に達した時点で再び係合する。
(2)(1)での耳糸開口形成後における第2の耳糸16cの前記部分経路の下方への変位過程で、織機主軸の回転角度が設定された緯入れ開始角度に達した時点で緯糸の緯入れが開始され、それにともなって耳糸開口内へも緯糸が緯入れされる。なお、緯入れされた緯糸の先端は、緯入れ開始直後に給糸側の耳糸開口の位置を通過し、経糸開口内を飛走し、反給糸側の織端の位置を通過した後、図示しない反給糸側の耳糸開口に到達する。したがって、給糸側の耳形成装置1のDDモータ58は、少なくとも緯入れ期間全般にわたって耳糸開口が緯入れ可能な大きさ(必要開口量)以上となるように、その駆動が制御される。また、図示しない反給糸側の耳形成装置1のDDモータ58は、少なくとも緯入れ終期まで耳糸開口が前記必要開口量以上に維持されるように、DDモータ58の駆動が制御される。
(3)図3に示すとおり、緯入れ終了後における被回転部材10の更なる回転にともない、係合ピン13が前記周回軌道上で第2の位置P2へ向けて変位し、第2の耳糸16cの前記部分経路が上方の最上昇位置へ向けて変位する。それにともない、第2の耳糸16cの前記部分経路が、第1の耳糸16a,16bよりも上方へ変位した状態となり、前記緯入れされた緯糸が第1の耳糸16a,16bと第2の耳糸16cとにより拘束された状態となる。
(4)その後、係合ピン13が第2の位置P2に達すると、第2の耳糸16cの前記部分経路は、最上昇位置となって耳糸案内ロッド38aの先端よりも上方を通る経路となる。そして、その時点において、耳糸経路切換装置2の駆動装置8は、ベース部材37を前記一方の揺動限から他方の揺動限へと支持軸36の軸心周りに揺動させる。これにより、上方から見て第2の耳糸16cの経路に対し織幅方向の反経糸列側及び経糸列側のそれぞれに位置する第1の耳糸16a,16bの経路が、織幅方向に関し入れ換えられる(図7参照)。その結果、第1の耳糸16a,16bが、第2の耳糸16cと織幅方向に関し交差した(絡んだ)状態となる。
(5)次いで、被回転部材10の更なる回転にともなう係合ピン13の前記第2の位置P2からの下降にともない、第2の耳糸16cの前記部分経路が、最上昇位置から下降し、織機の主軸回転角度が0°となる時点において緯入れされた緯糸の筬打ちが行われる(図10も参照)。なお、前記における第2の耳糸16cの前記部分経路の最上昇位置からの下降により、第2の耳糸16cの前記部分経路は緯糸を拘束している耳糸開口を開放する方向へ変位することになる。しかし、前記のように、第1の耳糸16a,16bが第2の耳糸16cと織幅方向に関し交差した状態となっているため、第2の耳糸16cの前記部分経路が第1の耳糸16a,16bよりも下方の位置へ変位しても、前記耳糸開口は解放されることなく、第1の耳糸16a,16bと第2の耳糸16cとによる緯糸の拘束は維持される。
前記(1)〜(5)が織機の主軸1回転毎に繰り返されることにより、製織された織布の織端に三本絡み耳組織が形成される。
次に、耳糸開口装置3のDDモータ58の具体的な制御について説明する。図8において、製織中、駆動制御装置140は、前述した運動パターンに基づき、DDモータ58を原点から次の原点へ向けて変速駆動する。そのため、駆動制御装置140においては、位置指令発生部141が、記憶器142に設定されたDDモータ58の運動パターンと織機の制御装置146からの主軸の回転角度信号θとに基づき、各時点の主軸角度に応じた位置指令Pcを位置制御回路143の比較部143aに対し出力する。
また、本実施形態では、運動パターンを用いたDDモータ58の制御は、DDモータ58の目標角度を目標パルス数に置き換えて行われている。より具体的には、本実施形態では、DDモータ58の1回転(360°)を4092等分し、DDモータ58の目標角度を前記等分した角度位置に対応する0から4092までの目標パルス数に置き換えている。その上で、上記で設定された運動パターンに従ったDDモータ58の駆動が行われるように、織機の主軸角度に対する前記目標パルス数を対応させたパルステーブル(表)を作成し、このパルステーブルを予め設定器144に入力して記憶器142に記憶させている。したがって、駆動制御装置140の位置指令発生部141は、記憶器142の前記パルステーブルから、織機主軸の回転角度信号θに対応した目標パルス数を参照し、参照した目標パルス数に応じた位置指令Pcを発生して、位置制御回路143の比較部143aへと出力している。
位置制御回路143の比較部143aは、位置フィードバック信号Pfと位置指令Pcとを比較し、その位置偏差Pdを位置偏差増幅部143bへ出力する。位置偏差増幅部143bは、その位置偏差Pdを増幅し、速度指令Scとして速度制御回路145の比較部145aに対し出力する。速度制御回路145の比較部145aは、速度フィードバック信号Sfと速度指令Scとを比較し、その速度偏差Sdを速度偏差増幅部145bへ出力する。速度偏差増幅部145bは、その速度偏差Sdを増幅し、トルク指令Tcとして電流制御回路147のトルク制御部147aに対し出力する。
電流制御回路147のトルク制御部147aは、速度制御回路147からのトルク指令Tcに基づいて、織機主軸の回転角度信号θに応じた電流指令Icを出力する。電流指令Icは、D/A変換器147bでアナログ信号に変換されて電流増幅器147cへ入力される。電流増幅器147cは、電流検出器147dによって検出された電流値IとD/A変換器147bからの電流指令Icとの電流偏差を演算し、その電流偏差に応じた駆動電流をDDモータ58へ供給する。そして、DDモータ58は、その駆動電流によって、記憶器142に設定された回転パターンにおける主軸角度に応じた回転角度となるように回転駆動される。
次に、耳糸開口装置(DDモータ58、係合ピン13等)の詳細動作について説明する。上記駆動制御装置140によるDDモータ58の駆動制御(変速駆動)の結果として、製織中、耳糸開口装置3において以下のような動作が行われる。
(1)図9及び図10において、主軸角度が30°から85°(第2期間(ドウェル期間)の始点)までの期間(第1期間)において、DDモータ58は、定速駆動される場合に比べて速い速度で、原点から65°まで回転される。DDモータ58の原点から65°までの回転に伴い、係合ピン13によって下側から持ち上げられる状態となっている第2の耳糸16cは、DDモータ58を定速駆動する場合に比べて速い速度で、係合ピン13に載りつつ消極的に下降する。この第1期間における第2の耳糸16cの下降に伴い、係合ピンから織前に至る第2の耳糸16cの経路(以下、「部分経路」)は、第1の耳糸16a,16bよりも上方にある状態から、第1の耳糸16a,16bよりも下方へ変位した状態へ移行する、すなわち、開口の形成が開始される。
なお、前述のように、係合ピン13が、周回軌道の第2の区間(ドウェル区間)で第2の耳糸16cの初期経路よりも下方の位置となり、第2の耳糸16cと離間するものとなっている。また、前述のように、運動パターンは、DDモータ58を定速駆動する場合よりも主軸角度に関し早い時点である主軸角度85°で、係合ピン13が第2の区間(ドウェル区間)の始点に達するように決定されている。したがって、第2の耳糸16cの部分経路も、DDモータ58を定速駆動する場合よりも主軸角度に関し早い時点で前記初期経路の位置に達し、前記ドウェルを形成した状態となる。
(2)主軸角度が85°から190°まで回転する期間(第2期間(ドウェル期間))においては、DDモータ58は65°から130°まで回転される。そしてこの第2期間(ドウェル期間)においては、DDモータ58は、前述の第2期間(ドウェル期間)の速度パターンに従って駆動される。
より詳しく説明すると、第2期間(ドウェル期間)の初期においては、第1期間の回転速度とほぼ等しい回転速度で回転駆動される。したがって、DDモータ58は、第1の回転角度(65°)の前後において大きく加減速することなく回転駆動される。次いで、DDモータ58の回転速度は、前記回転速度から減速される。但し、この時の減速度は、前記許容加速度範囲内のものとなっている。その後、DDモータ58は、第3期間の初期の回転速度に応じた回転速度で、定速に近い状態で第2の回転角度までの期間において130°まで回転駆動される。
このように、第2期間(ドウェル期間)のDDモータ58の駆動については、その前後の期間の回転速度との関係からDDモータ58の回転速度は必然的に遅いものとなるが、その場合でも、係合ピン13が周回軌道の前記第2の区間で第2の耳糸16cと離間することにより、第2の耳糸16cの開口運動をDDモータ58の回転速度に依存させずに最大開口位置でドウェルを有するものとして、第2期間におけるDDモータ58の減速度を許容加速度範囲内の揺るやかなものとしている。更に、本実施形態では、DDモータ58を一旦停止させるような間歇駆動等は行わずに、一方向へ回転させる速度パターンに従ってDDモータ58を回転駆動しており、停止や起動を伴う間歇駆動する場合と比べて発熱量が大幅に軽減されるものとなっている。
前記のようにして、DDモータ58が65°から130°まで変速駆動されることにより、係合ピン13は、DDモータ58を定速駆動する場合よりも主軸角度に関し遅い時点(主軸角度190°)までの期間に亘って、前記第2の区間(ドウェル区間)内を移動する。したがって、係合ピン13と第2の耳糸16cとが離間した状態が、DDモータ58を定速駆動する場合よりも長く維持される。その結果、第2の耳糸16cの部分経路が前記初期経路の位置を維持される期間が長くなり、第2の耳糸16cと第1の耳糸16a,16bとの間で形成される耳糸開口は、DDモータ58を定速駆動する場合よりも主軸角度に関し遅い時点までに亘って最大開口の状態(ドウェルを形成した状態)に維持される。
(3)主軸角度が190°から次の30°まで回転する期間に、DDモータ58は、130°から次の原点まで回転される。そして、この期間では、DDモータ58は、まず、第3期間において第2期間(ドウェル期間)の終期の回転速度から加速され、その後の第4期間では、第1期間とほぼ等しい回転速度で、定速に近い状態で回転駆動される。
DDモータ58の130°からの回転に伴い、係合ピン13は、再び第2の耳糸16cと係合するので、第2の耳糸16cは、再び係合ピン13によって下側から持ち上げられる状態となって、係合ピン13の第2の位置P2への変位によって上方へと変位される。なお、第3期間の加速についても、前述のように前記許容加速度範囲に収まるものに決定されているため、その加速に伴う発熱量も連続運転において許容できるものとなっている。
また、前述のように、織機の緯入れ終了時点は第2期間(ドウェル期間)の終点よりも後に設定されており、緯入れ終了時点よりも前に係合ピン13と第2の耳糸16cとが係合して耳糸開口を閉じる動作が開始されているが、本実施形態の運動パターンでは、緯入れ終了時点(主軸角度240°)における係合ピン13の位置が、それによって形成される耳糸開口の開口量が緯入れ(緯糸の飛走)に支障を来さないものとなるように決定されており、緯入れに影響を及ぼすことは無い。
なお、織機の緯入れ終了時点における支障を来さない「耳糸開口の開口量」は、給糸側の耳形成装置と反給糸側の耳形成装置とで異なる。詳しくは、本実施形態では、前述の通り給糸側の耳形成装置1について説明しており、この場合、織機の緯入れ終了時点において、「耳糸開口の開口量」は、飛走中の緯糸と接触しない程度の大きさであればよい。これに対して、反給糸側の耳形成装置の場合、「耳糸開口の開口量」は、反給糸側へ到達した緯糸が反給糸側の耳糸開口内へと進入可能な大きさである必要がある。したがって、織機の緯入れ終了時点における支障を来さない「耳糸開口の開口量」は、反給糸側の方が給糸側よりも大きい開口量となる。そこで、本実施形態では、前記運動パターンを、織機の緯入れ終了時点においてより大きい開口量を必要とする反給糸側での開口量を考慮して決定している。これにより、給糸側の耳形成装置における運動パターンを、反給糸側の耳形成装置における運動パターンとして、そのまま適用することができる。
以上のように、本実施形態では、耳糸開口装置3を、前記第2期間(ドウェル期間)に亘って係合ピン13が第2の耳糸16cと離間する構成とすることにより、DDモータ58の間歇駆動(変速駆動)のみによって第2の耳糸16cを初期経路の位置に維持する構成と比べて、DDモータ58の負荷による発熱や、発熱に伴う破損を大幅に軽減することができる。そして、駆動制御装置140が、前記運動パターンに基づいて前記第2期間(ドウェル期間)が長くなるようにDDモータ58を変速制御することにより、負荷によって生じるDDモータ58の発熱量を、連続運転において許容できる範囲内に抑えて、緯入れが可能な耳糸の開口期間を拡大することができる。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は本実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の実施形態を採りうる。以下に、他の実施形態について説明する。
前記実施形態では、耳形成装置は、二本の第1の耳糸16a,16bと一本の第2の耳糸16cとで三本絡み耳組織を形成しているが、耳糸の本数は三本に限らない。例えば、第1の耳糸16a,16bを一本のみとして、一本の第1の耳糸16aと一本の第2の耳糸16cとで図11(a)に示すような二本絡み耳組織を形成するようにしてもよい。この場合、耳糸経路切換装置2が耳糸案内部材5を一本のみ有する構成としてもよい。
また、前記実施形態では、耳糸経路切換装置2が織機主軸一回転毎、すなわち緯入れ一回毎に耳糸案内部材5の目孔4の位置を切り換えて、図11(a)または図11(b)に示す絡み耳組織を形成しているが、目孔4の位置を切り換える頻度は緯入れ一回毎に限らない。例えば、耳糸経路切換装置2が、織機主軸二回転毎、すなわち緯入れ二回毎に耳糸案内部材5の目孔4の位置を切り換えて、図11(c)に示すような絡み耳組織を形成するものとしてもよい。また、耳糸経路切換装置2による耳糸案内部材5の目孔4の位置の切り換えを、織機の主軸三回転以上毎に行うようにしてもよい。
また、前記実施形態では、耳糸案内ロッド38a,38bをベース部材37の上面に立設して耳糸案内ロッド38a,38bが鉛直方向の上方へ向けて延在するものとし、駆動装置8をベース部材37の下方に設ける構成としているが、これに限らず、例えば、図12に示すように、前記実施形態における耳糸経路切換装置2を倒立した状態で設ける、すなわち、耳糸案内ロッド38a,38bがベース部材37の下面から鉛直方向の下方へ向けて延在し、駆動装置8がベース部材37の上方に設けられる構成としてもよい。なお、図12では、図1〜10に示した実施形態の構成に対応する部位には、図1〜10に示した実施形態と同一の符号を付している。
なお、この図12の構成の場合では、ガイド部材27は、図1〜10に示した実施形態とは異なり、耳糸開口装置3よりも上方に配置されており、係合ピン13を省略した状態での第2の耳糸16cの経路は、上下方向に関し前記第1の位置P1と第2の位置P2との間を通過するものとなっている。
すなわち、図示の例では、図1〜10に示した実施形態とは逆に、耳糸開口装置3の係合ピン13が第2の耳糸16cの初期経路よりも上側にある状態において耳糸16の開口量が最大となる。したがって、この例の場合は、係合ピン13の周回軌道上における最上昇位置が、図1〜10に示した実施形態における第1の位置P1に相当し、最下降位置が、第2の位置P2に相当する。また、この例の場合では、図1〜10に示した実施形態とは逆に、前記周回軌道のうち、第2の耳糸16cの初期経路よりも下側(反ガイド部材27側)の区間が第1の区間、第2の耳糸16cの初期経路よりも上側(ガイド部材27側)の区間が第2の区間(ドウェル区間)となる。
そして、この例の場合では、図1〜10に示した実施形態とは逆に、係合ピン13の公転運動の上下方向成分が上昇方向のとき、第2の耳糸16cは第2の耳糸16c自体の張力により係合ピン13に追従して上方向へ変位し、第2の耳糸16cの経路は緯入れが可能な位置まで上方向へ変位させられる(開口が形成される)。また、係合ピン13の公転運動の上下方向成分が下降方向のとき、第2の耳糸16cは係合ピン13に上側から押し下げられ、第2の耳糸16cの経路は耳糸経路切換装置2による第1の耳糸16a,16bの経路切換が可能な位置まで下方向へ変位させられる。
ただし、耳糸案内部材5の延在方向については、前記のような鉛直方向に限らず、第1の耳糸16cの経路の切換に支障をきたさない範囲内で、経糸方向及び織幅方向に関し鉛直方向と角度を成す状態(傾いた状態)としてもよい。この場合、耳糸経路切換装置2を全体として傾けた状態(支持部材6が経糸方向及び織幅方向に関し上下方向(鉛直方向)と角度を成す方向へ傾いた状態)で設けるようにしてもよいし、支持部材6を鉛直方向のままとし、耳糸案内部材5が変位部材7に対して傾いた状態で設けられていてもよい。
また、図1〜10に示した実施形態では、耳糸案内部材5が固定された変位部材7としてのベース部材37を鉛直方向の回転軸線周りに揺動させて耳糸案内部材5(目孔4)の織幅方向の位置を切り換えているが、これに限らず、例えば、図13〜16に示すような構成としてもよい。具体的には、以下の通りである。
図13に示す例は、変位部材7を直線的に往復運動させることにより、耳糸案内部材5の織幅方向の位置を切り換えるものである。なお、図13では、図1〜10に示した実施形態の構成と同じ部位例えば耳糸開口装置3には図1〜10に示した実施形態と同一の符号を付している。
具体的には、この耳糸経路切換装置2は、駆動装置8としてのアクチュエータ73と、織幅方向に延びる溝70が形成された支持部材6としての溝部材71と、耳糸案内部材5を支持するとともに溝部材71の溝内で織幅方向に変位可能に設けられた変位部材7としてのスライドベース72とを備えている。溝部材71には、第1の耳糸用のガイド74が固定されている。アクチュエータ73がスライドベース72を溝部材71の溝70に沿って織幅方向に直線的に変位させることにより、耳糸案内部材5の目孔4の織幅方向の位置が切り換えられる。
なお、図13の例では、第1の耳糸が二本(第1の耳糸16a,16b)、すなわち耳糸案内部材5が二つの場合(三本絡み耳組織の場合)を示しており、溝部材71における溝70、スライドベース72及びアクチュエータ73は、各耳糸案内部材5に対応させて一対づつ設けられているが、第1の耳糸が一本の場合(二本絡み耳組織の場合)は、溝70、スライドベース72及びアクチュエータ73はひとつづつでよい。また、図示の例では、第1の耳糸16a,16bの経路を被回転部材10よりも下側を通る位置に規制するために、第1の耳糸用のガイド74,67に加えて第1の耳糸用のガイド75を被回転部材10よりも下方の位置に設ける構成としている。
なお、図13の例では、被回転部材10がバランサ14を備えているが、このバランサ14については、後述する。
図14に示す例は、また、第1の耳糸が一本の場合(二本絡み耳組織の場合)であって、変位部材7を回転軸線周りに一方向へ回転駆動して、耳糸案内部材5(目孔4)の織幅方向の位置を切り換えるものである。なお、図14では、図1〜10に示した実施形態の構成と同じ部位には図1〜10に示した実施形態と同一の符号を付している。
具体的には、この耳糸経路切換装置2は、駆動装置8としてのサーボモータ76と、鉛直方向に延在しサーボモータ76の出力軸に直結された支持部材6としての支持軸77と、支持軸77に固定されるとともに支持軸77の回転中心から偏心した位置で耳糸案内部材5を軸受80を介して支持する変位部材7としての円盤状ベース部材78とを備えている。サーボモータ76は、本体ブロック81に内蔵されている。また、本体ブロック81には、第1の耳糸用のガイド79が固定されている。
サーボモータ76が円盤状ベース部材78を一方向へ回転駆動させることにより、耳糸案内部材5を支持軸77の回転軸線周りに周回させて、耳糸案内部材5の目孔4の織幅方向の位置を切り換える。この場合、サーボモータ76が間欠的に回転するようにその駆動を制御する方が好ましいが、連続的に回転するように駆動が制御されるものであってもよい。
間欠回転の場合には、織幅方向に関する第2の耳糸16cの経路を挟んだ両側(経糸列側及び反経糸列側)に特定の2位置を設定しておき、主軸1回転毎にサーボモータ76の出力軸(支持軸77)を半回転させて、前記二位置間で耳糸案内部材5を変位させるとともに、織機主軸1回転中の所定の期間において耳糸案内部材5が前記二位置の一方に位置するようにサーボモータ76の駆動を制御すればよい。なお、耳糸案内部材5を前記二位置間で変位させるタイミングは、第2の耳糸16cが上下方向に関し耳糸案内部材5の上端よりも上方に位置している間であればよい。
一方、連続回転の場合では、織機の主軸2回転に1回転の割合でサーボモータ76の出力軸(支持軸77)を回転させ、耳糸案内部材5を支持軸77の軸線周りに1回転させるとともに、織幅方向に関し耳糸案内部材5が第2の耳糸16cの経路を横切るタイミングと第2の耳糸16cが上下方向に関し耳糸案内部材5の上端よりも上方に位置するタイミングとを合わせるようにサーボモータ76の駆動を制御すればよい。
なお、この例では、耳糸案内部材5は軸受80を介して円盤状ベース部材78に支持されているため、耳糸案内部材5は支持軸77の軸線周りを公転しつつ、第1の耳糸16aの張力で目孔4の向きを常に経糸方向へ向けるように自転する。これにより、耳糸案内部材5の公転にともなって第1の耳糸16aが耳糸案内部材5に絡み付く(巻き付く)ことを防止している。
また、この例の耳形成装置1では、第1の耳糸16を一本のみとし、耳組織として二本絡み耳組織を形成するものであるが、その形成動作は、前述した三本絡み耳組織の実施形態の耳形成装置1の動作と比較して、第1の耳糸16bに関する動作がない以外は基本的に同じである。
図15に示す例は、耳糸案内部材5を、経糸方向に延在する回転軸線を揺動中心として揺動させ、耳糸案内部材5(目孔4)の織幅方向の位置を切り換えるものである。なお、図15では、図1〜10に示した実施形態の構成と同じ部位には図1〜10に示した実施形態と同一の符号を付している。
具体的には、この耳糸経路切換装置2は、経糸方向に延在した状態で本体ブラケット83に固定配置された支持部材6としての支持軸82を有し、支持軸82の両端部のそれぞれには、耳糸案内部材5としてのスイングロッド85が揺動可能に支持されている。スイングロッド85は、その延在方向の中間位置に貫通孔84を有しており、この貫通孔84に支持軸82が嵌挿されることによって揺動可能に支持されている。スイングロッド85には、下端部(目孔4が形成される側とは反対側の端部)に、スイングロッド85の延在方向に延在するとともに厚さ方向に貫通する長孔86が形成されている。また、本体ブラケット83には、第1の耳糸用のガイド92が固定されている。
図示の例の駆動装置8は、経糸方向に延在した状態で固定配置された回転軸87と、回転中心を回転軸87の軸線に一致させた状態で回転軸87の両端部のそれぞれに相対回転不能に一体的に取り付けられた二つのクランク円盤88と、各クランク円盤88に対し回転中心から偏心した位置に取り付けられた揺動ピン89と、二つのクランク円盤88のうちの一方(図示の例では上流側)の外周に形成されたギヤ歯と噛み合うピニオンギヤ91と、ピニオンギヤ91が出力軸に取り付けられたサーボモータ90とを備える。そして、駆動装置8は、揺動ピン89がスイングロッド85の長孔86に挿通されることにより、スイングロッド85と連結されている。したがって、スイングロッド85(特に、貫通孔84よりも下側の部分)と、クランク円盤88と、揺動ピン89とは、クランク機構を構成している。
サーボモータ90による各クランク円盤88の回転駆動にともない、揺動ピン89が織幅方向に変位し、それによって、スイングロッド85が支持軸82を揺動中心として往復揺動駆動される。その結果、スイングロッド85における支持軸82よりも上側の部分が揺動ピン89とは支持軸82に関し対称的に変位し、目孔4の位置が織幅方向に変位する。なお、スイングロッド85と揺動ピン89とは、長孔86を介して連結されているため、前記回転駆動にともなう揺動ピン89の上下方向の変位がスイングロッド85に波及することはない。
なお、図15の例の場合、スイングロッド85を揺動可能に支持する支持軸82が支持部材6に相当し、スイングロッド85における支持軸82よりも上側の部分が耳糸案内部材5に相当し、スイングロッド85における支持軸82に支持される部分を含む下端側の部分が変位部材7に相当している。すなわち、図示の例では、耳糸案内部材5と変位部材7とがスイングロッド85として一体成形されたものとなっている。ただし、スイングロッド85における変位部材7に相当する部分を耳糸案内部材5に相当部分と別体に形成し、その別体に形成された変位部材7に対しスイングロッド85を固定する構成としてもよい。
図16に示す例は、図15の例と同様に耳糸案内部材5を経糸方向に延在する支持軸を中心に揺動させるものであって、支持軸を直接的に回転駆動するものである。なお、図16では、図15に示す実施形態の構成と同じ部位には図15に示す実施形態と同一の符号を付している。
具体的には、この耳糸経路切換装置2では、駆動装置8は、耳糸案内部材5としてのスイングロッド93のそれぞれに対応させて設けられた二つのサーボモータ94を備え、各サーボモータ94は、その出力軸94aの回転軸線が経糸方向に延在するかたちで本体ブロック95に対し固定配置されている。また、各サーボモータ94の出力軸94aには駆動円盤96が取り付けられており、さらに、その駆動円盤96に対しスイングロッド93が立設されている。なお、本体ブロック95には、第1の耳糸用のガイド97が固定されている。
したがって、各サーボモータ94が駆動円盤96を周期的(間欠的)に往復回動させることにより、スイングロッド93が往復揺動駆動され、各スイングロッド93の目孔4の位置が第2の耳糸16cに対する織幅方向の経糸列側と反経糸列側との二位置間で周期的に切り換えられる。なお、この場合、各サーボモータ94の出力軸94aが支持部材6に相当し、駆動円盤96が変位部材7に相当する。
また、図1〜10に示した実施形態では、耳糸経路切換装置2が、上下方向に関し第1の耳糸(第1の耳糸16a、16b)の経路を固定していたが、これに限らず、例えば、図17に示すような構成としてもよい。具体的には以下の通りである。
図17に示す例は、耳糸経路切換装置2が、第1の耳糸(第1の耳糸16a)の経路を第2の耳糸(第2の耳糸16c)に対する織幅方向の経糸列側と反経糸列側との2位置間で周期的に切り換えることに加えて、上下方向にも変位させて耳糸開口を形成するものである。なお、図17では、図1〜10に示した実施形態の構成と同じ部位には図1〜10に示した実施形態と同一の符号を付している。
具体的には、図示の例の耳糸経路切換装置2では、耳糸案内ロッド38aを支持軸36の軸心周りに揺動駆動させる図示しない駆動装置8を支持する本体ブロック151が、織幅方向に軸心を延在させた揺動軸150に固定されている。揺動軸150は、織幅方向に関し本体ブロック151よりも反経糸列側に固定配置された駆動装置152に接続されており、駆動装置152は本体ブロック151を揺動軸150の軸心を回動中心として周期的(間欠的)に往復回動させることにより、耳糸案内ロッド38aを上下に往復揺動運動させる。
そして、図示の例では、耳糸経路切換装置2と耳糸開口装置3によって、第1の耳糸16aの経路と第2の耳糸16cの経路とをともに上下方向に変位させることにより、第1の耳糸16aが上糸、第2の耳糸16cが下糸となる第1の耳糸開口と、第1の耳糸16aが下糸、第2の耳糸16cが上糸となる第2の耳糸開口とを形成する。
すなわち、図17の例の耳糸形成装置1は、耳糸案内ロッド38aを上に揺動させ、係合ピン13を周回軌道の第2の区間(ドウェル区間)に変位させて第1の耳糸開口を形成し、第1の開口に緯入れ後、耳糸案内ロッド38aを下に揺動させ、係合ピン13を周回軌道の第2の位置P2へ変位させて第2の耳糸開口を形成し、さらに、第2の開口の位置において耳糸経路切換装置2により耳糸案内ロッド38a(目孔4)の織幅方向の位置を切り換えることにより、第1の耳糸16aの経路を織幅方向に関して入れ換え、その後、第2の開口に緯入れし、さらにその後、第2の開口の位置において耳糸経路切換装置2により耳糸案内ロッド38a(目孔4)の織幅方向の位置を切り換えた後、耳糸案内ロッド38aを上に揺動させ、係合ピン13を周回軌道の第2の区間(ドウェル区間)に変位させて第1の耳糸開口を形成している。以上の動作を繰り返すことにより、図示の例の耳糸形成装置1は、図11(d)に示すような絡み耳組織を形成している。
なお、図17の例では、第2の耳糸開口の形成時には、第2の耳糸16cと係合ピン13とが離間せず、そのままでは耳糸開口にドウェルが形成されないため、第1の耳糸開口と同じタイミングでの緯入れを可能とするためには、耳糸開口装置3における駆動装置11の変速制御によって緯入れが可能な耳糸の開口期間を拡大する、すなわち、大きな加減速を伴う変速制御を駆動装置11に行わせる必要が生じる。ただし、第1の耳糸開口の形成時については、第2の耳糸16cと係合ピン13とが離間して耳糸開口にドウェルが形成されるため、図1〜10に示した実施例と同様に、駆動装置11に大きな加減速を行わせることなく緯入れが可能な耳糸の開口期間を拡大することができる。したがって、図17の例では、耳糸開口にドウェルを形成する場合に第1、第2の耳糸開口の形成時のそれぞれにおいて駆動装置11の大きな加減速が必要となる従来技術と比べ、駆動装置11の負荷や発熱による破損を低減することができる。
耳糸開口装置3について、図1〜10に示した実施形態では、耳糸開口装置3の被回転部材10の本体部12を、円盤形状に形成された薄板状の部材である回転ディスク61と、回転ディスク61に取り付けられた支持ステー63とで構成しているが、被回転部材10の構成は、これに限らず、例えば、図1〜10に示した実施形態において支持ステー63を省略し、係合ピン13を回転ディスク61に対して取り付けるものとしてもよいし、または、図18、19に示すような構成としてもよい。
具体的には、図18に示す例のように、本体部12は、図1〜10に示した実施形態における円盤形状の部材を省略し、駆動装置11として設けられたサーボモータ98の出力軸に相対回転不能に取り付けられたステー99のみで構成されるものであってもよい。なお、図18では、図1〜10に示した実施形態の構成と同じ部位には図1〜10に示した実施形態と同一の符号を付している。
また、図19に示す例のように、本体部12は、図示しない駆動装置11の駆動軸100に取り付けられた駆動プーリ101と駆動軸100と平行な回転軸線を有する従動プーリ102との間に架け渡されたベルト部材103であってもよい。なお、図19では、図18に示した実施形態の構成と同じ部位には図18に示した実施形態と同一の符号を付している。
そして、この例では、駆動プーリ101と従動プーリ102とは、それらに架け渡されたベルト部材103の軌道が上下方向に垂直で、かつ、経糸方向に平行となるように支持フレーム32に取り付けられている。また、この例では、係合部材9は、図1〜10に示した実施形態と同様に係合ピン13で構成されており、係合ピン13は、その軸線を駆動軸100の軸線と平行に向けた状態でベルト部材103の外周面に固定されるとともに、その一部がベルト部材103から織幅方向に突出する状態で設けられている。したがって、この構成では、駆動プーリ101を回転駆動して前記ベルト部材103を一方向へ回転させることにより、係合ピン13がベルト部材103の外周によって規定される周回軌道上を変位するとともに第2の耳糸16cと係合して第2の耳糸16cの経路を上下方向に変位させるものとなっている。
さらに、この例では、被回転部材10のうちベルト部材103について、そのピッチラインを上下方向の長円形とした上で、経糸方向における前記ピッチラインの中心(中間位置)において、ピッチラインの上下方向に関する中心(中間位置)Mから第2の耳糸16cの初期経路までの距離が、前記中心から前記ピッチラインの下側の位置までの距離よりも短くなるように設定されている。また、ベルト部材103の外周によって規定される係合ピン13の周回軌道の中心とベルト部材103のピッチラインの中心とは一致している。したがって、係合ピン13の周回軌道の中心から第2の耳糸16cの初期経路までの距離は、その周回軌道の中心から周回軌道の最下降位置までの距離よりも短い距離となっており、少なくともこの最下降位置で、係合ピン13が第2の耳糸16cと離間する。
なお、前述のように、被回転部材10は、図13に示すようなバランサ14を備えるものであってもよい。図13の例では、被回転部材10は、その回転軸に対して係合ピン13と対称な位置にバランサ14を備えている。このバランサ14は、回転ディスク61の経糸列側の面に取り付けられたバランサステー64と、バランサステー64を介して織幅方向に関して係合ピン13の延在範囲よりも反経糸列側の位置に取り付けられたバランサピン65とで構成されている。
バランサステー64は、支持ステー63と質量および形状のほぼ等しい板状の部材である。また、バランサピン65は、係合ピン13と質量および形状のほぼ等しい丸棒状の部材である。バランサピン65は、回転ディスク61の中心(DDモータの回転軸線)に対して係合ピン13と対称的な位置に配置されている。
そして、このようなバランサ14を備えることにより、回転軸線周りの係合ピン13の回転により発生する起振力を、回転軸線周りのバランサ14の回転により発生する起振力で相殺することができ、被回転部材10における振動の発生を抑制することができる。これにより、回転ディスク61を駆動する駆動装置(DDモータ)に作用する振動による負荷を軽減することができ、駆動装置が被回転部材10を高速で回転させることが可能になるので、より高速の織機に対応することが可能になる。
図1〜10に示した実施形態では、係合部材9として断面円形の係合ピン13を採用しているが、係合ピンの断面形状は円形に限らず、例えば、図20に示すように、断面形状が偏平なものであってもよい。なお、図20の耳形成装置1は、係合部材9を除いて図1〜10に示した実施形態とほぼ同様の構成を有しており、図20では、図1〜10に示した実施形態の構成と同じ部位には図1〜10に示した実施形態と同一の符号を付している。
そして、この図20に示すような扁平な断面形状の係合ピン126を係合部材9として採用することにより、被回転部材10の回転に伴って周回軌道上を変位する係合部材9が第2の位置P2よりも以前の回転角度から第2の位置P2に達する時点までに亘って、第2の耳糸16cの経路をほぼ最上昇位置に維持することができ、第2の位置P2において、上下方向に関し第2の耳糸16cの位置が変化しない期間(ドウェル)を設けることが可能となり、第1の耳糸16a,16bの経路切換をより容易にすることが可能となる。
なお、以上のような係合部材9を周回軌道上で回転させるための被回転部材10の回転について、図1〜10に示した実施形態では、織幅方向に対し平行に延在する回転軸線の周りに被回転部材10を回転させているが、これに限らず、第2の耳糸16cの経路の上下方向の変位に支障をきたさない範囲内で、織幅方向から上下方向及び経糸方向に関して傾けた状態の回転軸線周りに被回転部材10を回転させてもよい。
また、被回転部材10を回転させるための駆動装置11について、図1〜10に示した実施形態では、駆動装置11をインナーロータタイプのDDモータ58としているが、これに限らず、例えば、アウターロータタイプのDDモータであってもよいし、DDモータに代えてサーボモータやステッピングモータ(パルスモータ)等の駆動モータを用い、その駆動モータの回転軸に被回転部材10を直接取り付けるようにしてもよい。また、DDモータや上記駆動モータによって被回転部材10を直接的に作用させるものに代えて、モータと被回転部材10とがベルトやプーリを含む駆動伝達機構を介して連結されるものとしてもよい。すなわち、駆動装置11が、上記の駆動モータと駆動伝達機構とで構成されるものであってもよい。
また、図1〜10に示した実施形態では、耳糸開口装置3(被回転部材10)の一部がヘルドフレーム28aの存在範囲に位置する配置となっているが、耳糸開口装置3(被回転部材10)の配置は必ずしもヘルドフレーム28aの存在範囲に位置させる必要はない。例えば、緯入れに必要な耳糸開口の開口量に余裕のある場合には、緯入れに支障の出ない範囲内で、被回転部材10の配置を経糸方向に関しヘルドフレーム28aよりも上流側の位置に配置するようにしてもよい。また、製織中の織機の主軸回転数が比較的低い場合には、耳糸開口装置3におけるDDモータ58や被回転部材10の回転数も低くてよいため、DDモータ58や被回転部材10の慣性により駆動装置11に掛かる負荷も小さくなる。したがって、このような場合には、前記慣性による駆動装置11に掛かる負荷に支障の無い範囲内で、被回転部材10を大径化して係合部材9の周回軌道の直径を大きくし、第2の耳糸16cの上下方向の変位量を増加させた上で、被回転部材10の配置を経糸方向のヘルドフレーム28aよりも上流側の位置として、緯入れに必要な耳糸16の開口量を維持させるようにしてもよい。
さらに、図1〜10に示した実施形態では、被回転部材10の回転に伴って、耳糸開口装置3よりも織前24側で第2の耳糸16cの経路が織幅方向に振動するのを防止する目的で、経糸方向に関する耳糸開口装置3と耳糸経路切換装置2との間の位置に規制部材15を設けているが、この規制部材15については省略可能である。なお、その場合、係合部材9の周回軌道を含む平面がガイド部材27から織前24へと至る第2の耳糸16cの経路と平行になるように、すなわち、第2の耳糸16cの経路と被回転部材10の回転軸とが直交するように耳糸開口装置3を設ける構成とした方が好ましい。ただし、耳糸開口装置3の配置や被回転部材10における周回軌道の大きさ等によって上記振動が許容できる程度のものである場合や、耳糸経路切換装置2を上記振動に対応した構成とする場合は、単に規制部材15を省略するだけでもよい。
また、給糸側の耳形成装置1について、図1〜10に示した実施形態では、耳形成装置1を織幅方向の経糸列側から見て被回転部材10を時計回りに回転させているが、被回転部材10を反時計回りに回転させるようにしてもよい。
なお、被回転部材10を上記反時計回りに回転させた場合、規制部材15を備えた図1〜10に示した実施形態の構成においては、被回転部材10を上記時計回りに回転させる場合と比べ、緯入れに必要な開口が形成される期間をより長くできるという効果が得られる。詳しくは、以下の通りである。ただし、以下の説明においては、係合ピン13が変位する周回軌道を被回転部材10の回転中心を通る鉛直線を境にして上流側と下流側とで分けた場合の上流側を上流側の周回軌道とし、下流側を下流側の周回軌道として説明する。
図1〜10に示した実施形態のように耳糸開口装置3の下流側に規制部材15が設けられている場合、第2の耳糸16cは、規制部材15の位置で織幅方向に関し経糸列側へ屈曲されて、織前24へ導かれることとなる。その場合、第2の耳糸16cが上下動する際、第2の耳糸16cに対しては、規制部材15との摺接に伴う摩擦抵抗が作用する。
係合部材9が第2の位置P2から第1の位置P1へ向けて回転する場合、被回転部材10を上記反時計回りに回転させると、係合部材9は、下流側の周回軌道上を変位する。一方、被回転部材10を上記時計回りに回転させると、係合部材9は、上流側の周回軌道上を変位する。したがって、被回転部材10を上記反時計回りに回転させる場合と上記時計回りに回転させる場合とでは、係合部材9と規制部材15との間の距離、すなわち第2の耳糸16cにおける係合部材9と規制部材15との間の経路長が、前者の場合は、係合部材9が第2の位置P2にあるときよりも短い状態で第2の耳糸16cが下方へ向けて変位するのに対し、後者の場合は、係合部材9が第2の位置P2にあるときよりも長い状態で第2の耳糸16cが下方へ向けて変位する。
そのため、被回転部材10を上記反時計回りに回転させる場合は、上記時計回りに回転させる場合に比べて、前記経路長が短いため、第2の耳糸16cの部分経路が撓みにくい状態となっており、規制部材15との摺接に伴う摩擦抵抗が第2の耳糸16cに作用していても、係合部材9の上記変位に対し高い追随性をもって第2の耳糸16cが下方へ変位する。その結果、被回転部材10を上記反時計回りに回転させる場合は、係合部材9の変位に対し耳糸開口の形成が速やかに行われる。
係合部材9が第1の位置P1から第2の位置P2へ向けて回転する場合、被回転部材10を上記反時計回りに回転させると、係合部材9は、上流側の周回軌道上を変位する。一方、被回転部材10を上記時計回りに回転させると、係合部材9は、下流側の周回軌道上を変位する。したがって、被回転部材10を上記反時計回りに回転させる場合と上記時計回りに回転させる場合とでは、第2の耳糸16cにおける係合部材9と規制部材15との間の経路長は、前者の場合は、係合部材9が第1の位置P1にあるときよりも長い状態で第2の耳糸16cが上方へ向けて変位するのに対し、後者の場合は、係合部材9が第1の位置P1にあるときよりも短い状態で第2の耳糸16cが上方へ向けて変位する。
そのため、被回転部材10を上記反時計回りに回転させる場合は、上記時計回りに回転させる場合に比べて、前記経路長が長いため、第2の耳糸16cの部分経路は撓みやすい状態となっており、規制部材15との摺接に伴う摩擦抵抗が第2の耳糸16cに作用した状態において、係合部材9の変位に対する第2の耳糸16cの追随性が低くなり、係合部材9の変位に対し第2の耳糸16cの上方への変位に遅れが生じる。その結果、被回転部材10を上記反時計回りに回転させる場合は、係合部材9の変位に対し耳糸開口を閉じる動作に遅れが生じる。
このように、耳形成装置1が規制部材15を備える場合において、被回転部材10を上記反時計回りに回転させる場合、係合部材9の変位に対し、耳糸開口の形成が速やかに行われると共に、耳糸開口を閉じる動作に遅れが生じるため、緯入れに必要な耳糸の開口が形成される期間を上記時計回りの場合に比べて長くすることが可能となるという効果が得られる。
ただし、図1〜10に示した実施形態のように、被回転部材10を上記時計回りに回転させた場合には、被回転部材10を上記反時計回りに回転させる場合と比べ、第1の耳糸16a,16bの経路の切換タイミングを早めることが可能となるという効果が得られる。詳しくは以下の通り。
被回転部材10を、上記時計回りに回転させた場合、第1の位置P1から第2の位置P2へ向けて回転する係合ピン13は、被回転部材10の回転軸線よりも下流側の周回軌道を上方へ向けて変位する。すなわち、第2の耳糸16cにおける係合部材9と規制部材15との間の経路が短く、第2の耳糸16cの部分経路が撓みにくい状態となっており、第2の耳糸16cが、係合ピン13の変位に対する追随性が高い状態で変位する。
このため、経糸方向における耳糸案内部材5の位置での第2の耳糸16cの部分経路の高さ位置が耳糸案内部材5の上端よりも下方に位置した状態で、耳糸経路切換装置2が第1の耳糸16a,16bの経路の切換を開始して耳糸案内部材5と第2の耳糸16cとが干渉しても、第2の耳糸16cの部分経路が撓みにくい状態となっているため、耳糸案内部材5との干渉に伴う摩擦抵抗や屈曲によって第2の耳糸16cが係止され難く、第2の耳糸16cを耳糸案内部材5の間から上方へ強制的に離脱させることが可能となる。このため、第1の耳糸16a,16bの経路の切換タイミングを早めてより高速の織機に対応することが可能となる。
なお、図示しない反給糸側の耳形成装置についても、給糸側と同様に、被回転部材を時計回りまたは反時計回りのどちらに回転させてもよい。ただし、反給糸側の耳形成装置1では、被回転部材10の回転方向と開口形成動作および閉口動作との関係については、前記した給糸側の耳形成装置1の説明における「時計回り」を「反時計回り」と、「反時計回り」を「時計回り」と読み替えたものとなる。
次に、係合部材9の運動パターンに関する変形例について説明する。
(1)被回転部材10を反時計回りに回転させる場合、図23に示すとおり、係合ピン13が回転方向における第2の位置P2と第1の位置P1との間の中間位置に位置するときの回転角度が原点位置(0°の位置)として設定されるものとすると、すなわち、周回軌道の中心よりも織前側の軌道上における中間位置がDDモータ58の原点位置として設定されるものとすると、第2の耳糸16cの初期経路との関係で、係合ピン13が前記第2の区間(ドウェル区間)の始点の位置に達するときのDDモータ58の回転角度は、図9,10に示した実施形態とは異なり、図9,10に示した実施形態の65°よりも小さい回転角度(具体的には50°)となる。また、係合ピン13が前記第2の区間(ドウェル区間)の終点に達するときのDDモータ13の回転角度も、図9,10に示した実施形態の場合(130°)よりも小さい回転角度(具体的には115°)となる。そこで、被回転部材10(DDモータ58)を反時計回りに回転させる場合においては、運動パターンについては、以下のように決定すればよい。
A)DDモータ58の原点位置を、図9,10に示した実施形態と同様に、係合ピン13が第2の位置P2と第1の位置P1との間の中間位置に位置するときの回転角度とした場合、次のように考えられる。
(a)DDモータ58が原点位置となる織機の主軸角度を、前記時計回りの図9,10に示した実施形態と同じ主軸角度30°の時点に設定する。この場合、係合ピン13が第2の区間(ドウェル区間)の始点に達するまでのDDモータ58の原点位置からの回転角度(回転量)が前記時計回りの図9,10に示した実施形態よりも小さいため、第1期間の運動パターン(DDモータ58の回転速度)を図9,10に示した実施形態と同じほぼ一定速とした場合、第1の回転角度は必然的に図9,10に示した実施形態よりも早い時点となる。したがって、運動パターンは、第1の回転角度をより早い時点(緯入れ開始時点に対し可及的に早い時点)として決定可能である。
なお、この場合において、第1の回転角度が緯入れ開始時点よりも早くなる場合には、第1期間におけるDDモータ58の回転速度を、前記よりも遅いものとしてもよい。すなわち、緯入れ開始時点よりも前に係合ピン13が第2の区間(ドウェル区間)の始点に達する(ドウェルの形成を開始する状態となる)のは、緯入れとの関係において必要性が無いため、その場合には、DDモータ58の負荷を軽減すべく、回転速度を遅くした方がよい。また、この場合において、DDモータ58の回転速度を定速に近い状態で遅くすることに代えて、運動パターンの変形例として後述するように、第1期間の終期に減速期間を設けるようにしてもよい。
(b)DDモータ58が原点位置となる織機の主軸角度を、図9,10に示した実施形態の主軸角度(30°)よりも遅い時点に設定する。上記(a)では、第1期間におけるDDモータ58の回転角度が小さい分、第1期間の回転速度を遅くする、あるいは第1期間の終期に減速期間を設けるものとしたが、これに代えて、DDモータ58が原点位置となる織機の主軸角度を図9,10に示した実施形態よりも遅い時点に設定するようにしてもよい。具体的には、図24に示すとおり、第1の回転角度を前記時計回りの図9,10に示した実施形態と同じ85°とする場合であって、DDモータ58の回転速度を前記時計回りの図9,10に示した実施形態と同じとする場合には、DDモータ58が原点位置となる織機の主軸角度を、図9,10に示した実施形態の主軸角度30°よりも遅い主軸角度の時点の主軸角度約42°付近に設定すればよい。また、この場合において、DDモータ58が原点位置となる織機の主軸角度を、主軸角度約42°付近に代えて、主軸角度30°〜約42°までの間の主軸角度に設定した上で、第1期間におけるDDモータ58の回転速度を、前記(a)で述べたように、DDモータ58の回転速度を遅くしたり、第1期間の終期に減速期間を設けるようにしてもよい。
B)DDモータ58の原点位置を、前述のA)のような前記中間位置とすることに代えて、係合ピン13が第2の位置P2と第1の位置P1との間の中間位置よりも第2の位置P2側に位置するときの回転角度とする。
具体的には、図25に示すとおり、図9,10に示した実施形態と同じくDDモータ58が原点から65°回転した時点で係合ピンが第2の区間の始点に達するようにDDモータ58の原点位相を設定する、言い換えれば、反時計回りの場合における係合ピン13が前記中間位置から第2の区間の始点に達するまでのDDモータの回転量が前記のように50°であるとすると、前記中間位置よりもDDモータの回転角度にして15°だけ第2の位置P2側にDDモータ58の原点位置を設定すればよい。したがって、上記のように原点位置を設定し直した場合には、第1、第2の回転角度を、時計回りの図9,10に示した実施形態とほぼ同様に設定することが可能となる。なお、この場合、係合ピン13が周回軌道の第2の位置P2となる主軸角度は、上記原点の設定により、図24に示した実施形態と比べて遅くなるが、その主軸角度の差異は、耳糸16による緯糸の拘束及び耳糸経路切換装置2における第1の耳糸16a、16bの経路の切り換えにおいて支障のないものとなる。
(2)給糸側と反給糸側とで耳形成装置3のDDモータ58の運動パターンを異ならせてもよい。図9,10に示した実施形態では、DDモータ58を変速駆動する運動パターンを、給糸側の耳形成装置と反給糸側の耳形成装置とで兼用するものとしたが、これに代えて、両者の運動パターンを、それぞれの緯入れとの関係を考慮して異なるものに決定してもよい。具体的には、給糸側の耳形成装置の場合、緯入れとの関係で、第2の区間(ドウェル区間)の終点(第2の回転角度)については、反給糸側のような緯入れのため耳糸開口量は不要であり、耳糸開口内を通過する緯糸との干渉のみを考慮すれば良いことから、第2の回転角度を図9,10に示した実施形態よりも前の時点(主軸角度)に設定してもよい。また、反給糸側の耳形成装置の場合、緯入れとの関係で、第2の区間(ドウェル区間)の始点(第1の回転角度)については、図9,10に示した実施形態のような主軸角度85°の時点では緯糸が反給糸側まで到達しておらず、給糸側のような緯入れのための耳糸開口量が不要なことから、第1の回転角度を図9,10に示した実施形態よりも後の時点(主軸角度)にしてもよい。
(3)各期間(第1〜第3期間)の回転速度(速度パターン)について、図7で示した例と異なる速度パターンとしてもよい。
A)第1の期間について
第1の期間について、図9で示した例では、DDモータ58を変速駆動する運動パターンを、第1期間で減速しないものとしているが、これに限らない。例えば、前記(1)のA)のような、第1期間におけるDDモータ58の回転角度が図1〜10に示した実施形態よりも少ない場合や、前記(2)における反給糸側の場合のように、第1の回転角度を図9,10に示した実施形態よりも後の時点にする場合に、第1期間の終期に、回転速度の減速期間を設けるようにしてもよい。
B)第2の期間について
上記 A)のように第1期間の終期に回転速度の減速期間を設ける場合、第1期間の終点(第1の回転角度)における回転速度は図9,10に示した実施形態よりも遅い速度となる。そこで、第2期間(ドウェル期間)の速度パターンについては、以下のように変更可能である。
(a)第1期間の終点(第1の回転角度)における回転速度が図9,10に示した実施形態と同様に第2期間(ドウェル期間)の前記平均回転速度よりも速い場合には、図9,10に示した実施形態と同様に、第2期間(ドウェル期間)の中期に減速を伴う速度パターンとなる。但し、この場合は、第1期間終期の減速に伴い、第1の回転速度におけるDDモータ58の回転速度は図9,10に示した実施形態よりも遅くなっているため、第2期間(ドウェル期間)の初期の回転速度を図9,10に示した実施形態よりも遅い回転速度に設定することができ、それにより、中期における前記減速の度合を図9,10に示した実施形態よりも緩和するとともに、その減速期間を図9,10に示した実施形態よりも短くすることが可能となる。
(b)第1期間の終点における回転速度を許容加速度範囲内で第2期間(ドウェル期間)の平均回転速度まで減速可能な場合、すなわち、第1期間の終点における回転速度が第2期間(ドウェル期間)の平均回転速度とほぼ同じ場合には、第2期間(ドウェル期間)において減速を行わない一定速の速度パターンとすることができる。なお、この場合、第2期間(ドウェル期間)終期のDDモータ58の回転速度(≒平均回転速度)は図9,10に示した実施形態よりも若干速くなる。したがって、第3期間の加速度については、その第2期間(ドウェル期間)終期の回転速度に基づいて図9,10に示した実施形態のものよりも緩和されたものとすることができる。
(c)第1期間の終点における回転速度を許容加速度範囲内で第2期間(ドウェル期間)の平均回転速度よりも遅い速度まで減速可能な場合、すなわち、第1期間の終点における回転速度が第2期間(ドウェル期間)の平均回転速度よりも遅い場合には、第2期間(ドウェル期間)中(例えば、終期)に加速期間を設ける速度パターンとなる。具体的には、図9,10に示した実施形態でいう初期から中期にかけては第1期間の終点における回転速度とほぼ同じ回転数に設定するとともに、終期において加速が行われるような速度パターンとすればよい。なお、この場合も、前記(b)と同様に、第3期間の加速度については、その度合いを図9,10に示した実施形態のものよりも緩和されたものとすることができる。また、第2期間(ドウェル期間)の終期において許容加速度範囲内で第4期間における回転速度まで加速が可能な場合には、第2期間(ドウェル期間)に続く加速期間である第3期間を無くすとともに、第2の回転角度を図9,10に示した実施形態よりも遅い時点にしてもよい。それにより、ドウェルを形成する第2期間(ドウェル期間)を、図9,10に示した実施形態よりも長い期間とすることができる。但し、前記(2)における給糸側の場合のように、第2の回転角度を遅い時点とする必要が無い場合には、第4期間における回転速度を図9,10に示した実施形態よりも遅い回転速度にしてもよい。
(d)なお、図9,10に示した実施形態では、第2期間でDDモータ58が連続的に回転する速度パターンとしているが、これに限らない。例えば、製織中の織機の主軸回転数が比較的遅く、第2期間の中期における減速度や第3期間における加速度を許容加速度範囲とすることが可能な場合には、第2期間の終期において、DDモータ58の回転が停止(間歇駆動)されるものであってもよい。さらに、第2期間の終期にDDモータを停止させると共に、その停止状態を織機主軸の次の一回転における同じ回転角度まで維持させるようにして、耳糸の開口した状態のまま主軸一回転の期間に亘って耳形成装置1の動作を休止(間歇駆動)させるようにしてもよい。例えば、パイル織機等におけるパイル形成時に、耳形成装置1を上記のような耳糸の開口した状態のまま休止させることにより、耳組織にパイルが形成されてしまうことを回避することができる。
(3)図1〜10に示した実施形態では、駆動制御装置140がDDモータ58を変速駆動するものとしているが、これに限らず、DDモータ58を定速駆動するものとしてもよい。例えば、製織中の織機の主軸回転数が比較的低い速度の場合には、被回転部材10やDDモータ58自身の慣性による負荷が小さくなるため、周回軌道を大径化して第2の区間(ドウェル区間)の円弧長をより大きくすることが可能である。したがって、その場合は、メカ的な構成で長いドウェル期間を実現することが可能なため、駆動制御装置140がDDモータ58を定速駆動するようにしてもよい。具体的な構成としては、以下の通りである。
図22の例では、被回転部材10の中心から係合ピン13までの距離を図1〜10に示した実施形態よりも大きい寸法となるように構成するとともに、周回軌道の中心を図1〜10に示した実施形態よりも下方の位置に設定することにより、係合ピン13が第2の耳糸16cと離間する第2の区間(ドウェル区間)を図1〜10に示した実施形態よりも拡大している。
さらに、図示の例では、DDモータ58の原点を織機の緯入れの開始時点における耳糸開口量に支障の無い範囲で図1〜10に示した実施形態よりも遅い時点(主軸角度60°)に設定することにより、織機の緯入れ終了時点で飛走する緯糸と干渉しない開口量としている。図示の例では、上記構成により、駆動制御装置140がDDモータ58を定速駆動して所望の第2期間(ドウェル期間)を得るとともに、緯入れの開始時点及び終了時点において、給糸側での耳糸開口量を織機の緯入れに支障の無いものとしている。なお、織機の主軸角度に対するDDモータの原点の設定は、必要に応じて適宜変更される。
図1〜10に示した実施形態では、駆動制御装置140が、DDモータ58に設けられたエンコーダで検出した(単位時間あたりの)パルス数を位置フィードバック信号Pfとして位置制御回路143の比較部143aに入力するための位置フィードバック回路と、位置フィードバック信号Pfを速度フィードバック信号Sfに変換(微分)して速度制御回路145の比較部145aに入力するための速度フィードバック回路と、DDモータ58へ供給される電流の検出値Iを電流増幅器147cへ入力するための電流フィードバック回路とを備える回路構成(閉ループ制御回路)としているが、これに限らない。
例えば、DDモータ58に代えてフィードバックの不要なステッピングモータ(パルスモータ)を採用し、駆動制御装置140が上記フィードバック回路を備えない回路構成(開ループ制御回路)としてもよい。なお、図1〜10に示した実施形態では、駆動制御装置140が、DDモータ58を変速駆動するために、運動パターンを入力するための設定器144や記憶するための記憶器142を備える構成としているが、これに限らない。例えば、駆動制御装置140が、DDモータ58を定速駆動する場合には、運動パターンを設定するための設定器や記憶器を備えない構成としてもよい。また、織機の制御装置146に運動パターンを記憶させ、耳形成装置1の駆動制御装置140における位置指令発生部141が、織機の制御装置146に記憶された前記運動パターンを参照するようにしてもよい。
なお、図1〜10に示した実施形態では、一枚の織布を製織する織機の給糸側及び反給糸側、すなわち織布の両織端に耳形成装置1を設ける例について説明したが、本発明は、複数枚の織布を同時に製織する複数幅取り織機における中耳形成用としても適用可能である。この場合、織機の給糸側及び反給糸側に加え、隣接する織布の間(例えば、二幅取りされる第1、第2の織布の間)に中耳形成用の耳形成装置1が各織布の織端に対応して二つ設けられる。なお、この場合、図1〜10に示した実施形態に倣って、隣接する織布の間に設けられる二つの耳形成装置1のそれぞれが独立した耳糸経路切換装置2を備えるものであってもよいが、二つの耳形成装置1が一つの耳糸経路切換装置2を共用するものであってもよい。
例えば、図21に示す例は、第1の織布127と第2の織布128とのそれぞれに中耳を形成するために、図示しない二つの耳糸開口装置3と、一つの耳糸経路切換装置2を用いている。この例では、三本の耳糸16(第1の耳糸16a,16b、第2の耳糸16c)によって三本絡み耳組織を形成する例であり、第1の織布127の第2の耳糸16cおよび第2の織布128の第2の耳糸16cは、図1〜10に示した実施形態と同様に、それぞれが二つの図示しない耳糸開口装置の一方または他方により上下方向に変位させられ、開口を形成する。
一方、第1の耳糸16a,16bの経路の切換えに関しては、第1の織布127と第2の織布128との双方について、一つの耳糸経路切換装置2によって行う。図示の例の耳糸経路切換装置2の変位部材7としてのベース部材129には、耳糸案内部材5として、第1の織布127用の耳糸案内ロッド130a,130bと、第2の織布128用の耳糸案内ロッド131a,131bとが設けられている。ベース部材129は、支持部材6としての支持軸132に固定されており、図1〜10に示した実施形態と同様に、図示しない駆動装置8により支持軸132を介して揺動運動させられ、第1の耳糸16a,16bの経路を切り換える。
図21の例において、第1の耳糸用のガイド133a,133b,134a,134bは図1〜10に示した実施形態における第1の耳糸用のガイド44a,44bに相当し、規制部材135,136は図1〜10に示した実施形態における規制部材15に相当する。