しかしながら、上記第1〜第3従来例の電磁弁101,201,301には、以下の問題があった。
(1)一般的に、コイル吸引力をF、製品に固有な係数をK、コイル巻数をN、コイル電流値をI、吸着面積をS、プランジャストロークをlとすると、電磁弁のコイル吸引力Fは下記数1により求められる。
図8に示す第1従来例の電磁弁101は、コイルボビン102の中心に固定鉄心104と可動鉄心105が配置されている。そのため、固定鉄心104が可動鉄心105を吸着する吸着面104aの吸着面積S、及び、コイルボビン102に巻回されるコイル103の巻数Nは、コイルボビン102の中空孔形状の制約を受ける。よって、大きさが制約される電磁弁では、固定鉄心104が可動鉄心105を吸着する吸着面104aの吸着面積を大きくすることと、コイル103の巻数Nを増やす(コイル占積率を向上させる)ことの両立が困難であるために、吸引力Fを高めることに限界があった。
具体的には、外径寸法が一定の場合、コイル吸引力Fを向上させるために、固定鉄心104の径を大きくして吸着面積Sを広げると、コイルボビン102の中空孔内径が大きくなり、コイル103の巻数Nが減少してしまう(コイル占積率が低下してしまう)。一方、外径寸法が一定の場合、コイルボビン102の中空孔内径を小さくしてコイル103の巻数Nを増やす(コイル占積率を向上させる)と、固定鉄心104の径が小さくなり、吸着面積Sが小さくなってしまう。
(2)この点、図9に示す第2従来例の電磁弁201は、拡大径部204aがコイルボビン202の外側に配置され、固定鉄心204の吸着面(拡大径部204aの図中下面)の面積Sとコイル203の巻数Nを、コイルボビン202の中空孔202aの内径寸法の制約を受けずに設定できる。
しかし、第2従来例の電磁弁201は、縮小径部209aから流れる磁気の一部が空気層を伝って拡大径部204aへ流れ、残りの磁気が縮小径部209aから可動鉄心205を介して拡大径部204aへ流れていた。すなわち、電磁弁201は、全ての磁気が縮小径部209aから可動鉄心205を介して拡大径部204aへ流れていなかった。そのため、電磁弁201は、可動鉄心205と拡大径部204aとの間の磁束密度が小さく、吸着効率が悪かった。このような問題は、電磁弁201が小型になるほど、縮小径部209aと拡大径部204aとの間隔が狭くなり、顕著となる。
(3)図10に示す第3従来例の電磁弁301は、固定鉄心挿入部304aと可動鉄心ガイド部304bとの間に非磁性体部304cが配置され、全ての磁気が可動鉄心ガイド部304bから可動鉄心305を介して固定鉄心挿入部304aへ流れる。
しかし、電磁弁301は、非磁性体部304cが可動鉄心305の吸着に作用せず、可動鉄心305を実質的に吸着するのは、エッジワイズコイル302の中空孔下端開口部から露出する固定鉄心挿入部304aの下端面のみであった。固定鉄心挿入部304aはエッジワイズコイル302の中心に配置されている。そのため、固定鉄心挿入部304aの下端面(吸着面)の面積Sは、エッジワイズコイル302の中空孔開口面積以下である。そのため、電磁弁301も、第1従来例の電磁弁101と同様、大きさの制約がある中で、吸着面の面積Sを大きくすることと、エッジワイズコイル302の占積率を向上させることの両立が困難であるために、コイル吸引力Fを高めることが困難であった。
ここで、電磁弁301について、非磁性体部304cを磁性体で構成し、可動鉄心305を吸着する面積を拡げることも考えられる(以下、非磁性体部304cに相当する部品を磁性体で構成したものを磁性体部304c’という。)。しかし、この場合、磁性体からなる可動鉄心ガイド部材304bと磁性体部304c’と固定鉄心挿入部304aが接触した状態で配置されるため、固定鉄心挿入部304aから外部カバー309へ流れた磁気の多くが、可動鉄心ガイド部304bから磁性体部304c’を介して固定鉄心挿入部304aへ流れる。つまり、可動鉄心305を引き上げるための磁束が形成されにくく、コイル吸引力Fを効率よく向上させることができない。よって、電磁弁301の構造では、可動鉄心305の上面に非磁性体部304cを配置して可動鉄心305を引き上げる方向の磁路を形成する必要があった。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、簡単な構造で吸引効率を向上させることができると共に、コイル吸引力の調整の幅を広げることができる電磁弁を提供することを目的とする。
本発明の一態様は、次のような構成を有している。
(1)流体制御を行う弁部と、前記弁部に駆動力を与えるアクチュエータ部が連結され、前記アクチュエータ部は、コイルボビンにコイルを巻き付けたコイル組立と、前記コイル組立を覆う外部カバーと、前記外部カバーに接触した状態で前記コイルボビンの中心に配置される固定鉄心と、前記固定鉄心に吸引される可動鉄心と、前記可動鉄心を弁部方向へ付勢する付勢部材とを備える電磁弁において、前記コイルボビンは、非磁性材で形成されたものであって、中空孔を備え、外周面に前記コイルを巻回される筒体部と、前記筒体部の弁部側端部に設けられた弁部側リング部と、前記筒体部の反弁部側端部に設けられた反弁部側リング部とを備えること、前記固定鉄心は、前記中空孔に挿入される固定鉄心挿入部と、前記固定鉄心挿入部の弁部側端面に設けられ、前記筒体部の前記弁部側端部より外側に配置されて前記可動鉄心を吸着する拡大径部とを備え、前記拡大径部が前記可動鉄心を吸着する吸着面の吸着面積が前記中空孔の断面積より大きいこと、非磁性材を環状に形成したものであって、前記拡大径部と前記可動鉄心とが対向する部分の周りを囲むように配置される非磁性部材と、磁性材を環状に形成したものであって、前記非磁性部材と前記弁部との間に介在し、前記外部カバーに接触する接触部と前記可動鉄心の外周面と対向するように配置される対向配置部とを備える磁性部材と、有すること、を特徴とする。
尚、非磁性材とは、磁気を流さない材料(樹脂、金属を含む。)をいう。
上記態様の電磁弁は、コイルに通電されると、磁気が固定鉄心挿入部から外部カバー、磁性部材、可動鉄心、固定鉄心の拡大径部、固定鉄心挿入部へと流れる磁路が形成される。これにより、可動鉄心が固定鉄心に吸着され、弁部に流体が流れる。
非磁性部材は、拡大径部と可動鉄心が対向する部分の周りを囲うように配置され、拡大径部と外部カバーとの間を絶縁している。そのため、上記態様の電磁弁は、外部カバーから磁性部材、可動鉄心、拡大径部へ磁気を流す磁路が効率良く形成され、可動鉄心と固定鉄心との間の磁束密度が大きい。
また、電磁弁のコイル吸引力Fは、上述したように、数1により求められる。数1のうち製品に固有な係数K、コイル電流値I及びプランジャストロークlは、製品のサイズや用途により限定される。よって、電磁弁のコイル吸引力Fは、実質的に、固定鉄心の吸着面積Sとコイルの巻数N(コイル占積率)により、調整される。
上記態様の電磁弁は、可動鉄心を吸着する拡大径部が、固定鉄心挿入部の弁部側端面に設けられ、コイルボビンを構成する筒体部の弁部側端部より外側に配置されている。そのため、筒体部の中空孔断面積の制約を受けずに、吸着面の吸着面積Sを中空孔の断面積より大きく設定することが可能である。また、吸着面積Sと関係なく筒体部の形状を設定し、コイルの巻数Nを調整することが可能である。このように、上記態様の電磁弁は、固定鉄心の吸着面積Sとコイルの巻数Nを別個に調整することが可能なので、大きさを制約されていても、固定鉄心の吸着面積Sを出来る限り大きくしつつ、コイルの巻数Nを増やし、コイル吸引力Fを高めることが可能である。
(2)(1)に記載の構成において、好ましくは、前記非磁性部材が前記弁部側リング部に一体に設けられていることを特徴とする。
上記態様の電磁弁は、非磁性部材をコイルボビンと一緒に製造したり組み立てることができるので、部品加工数や組立工数を減らしてコストダウンを図ることができる。
(3)(1)又は(2)に記載の構成において、好ましくは、前記吸着面を可動鉄心側に露出させた状態で前記拡大径部を収納する収納凹部を前記弁部側リング部に形成していること、前記拡大径部の外周面と前記収納凹部の内周面との間に配置されるシール部材を有すること、を特徴とする。
上記態様の電磁弁は、吸着面を可動鉄心側に突出させた状態で拡大径部を弁部側リング部の収納凹部に収納し、拡大径部の外周面と収納凹部の内周面との間にシール部材を配置するため、固定鉄心挿入部の外周面にシール部材を装着するための装着溝を形成する必要がない。よって、上記態様の電磁弁は、固定鉄心挿入部の磁路断面積を広く確保して、吸引効率を向上させることができる。
(4)(1)乃至(3)の何れか一つに記載の構成において、好ましくは、前記外部カバーは、前記コイル組立の外周面を覆うように配置される筒部材と、前記筒部材の反弁部側端部に設けられた蓋部材に分割されていること、前記筒部材が磁性ステンレス材で形成され、前記蓋部材が純鉄系材料で形成されていること、を特徴とする。
上記態様の電磁弁は、コイル組立の外周面を覆うように配置される筒部材と、筒部材の反弁部側端部に設けられた蓋部材に、外部カバーを分割し、流体に接する可能性が高い筒部材を、耐腐食性のある磁性ステンレス材で形成する一方、流体に接する可能性が低い蓋部材を、磁性ステンレス材と比べると耐腐食性が劣るものの、安価で磁気効率が良い純鉄系材料で形成するので、外部カバーに使用する磁性ステンレス材の使用量が減り、コストダウンできると共に、純鉄系材料を用いて磁気効率を向上させることができる。
(5)(4)に記載の構成において、好ましくは、前記磁性部材を前記筒部材に一体に設けていることを特徴とする。
上記態様の電磁弁は、外部カバーと磁性部材との間の磁気ギャップがなく、磁気効率を向上させることができる。
(6)(4)又は(5)に記載の構成において、前記蓋部材は、前記中空孔に挿入されるボス部を有し、前記固定鉄心は、磁性ステンレス材で形成され、前記固定鉄心挿入部が前記ボス部を介して前記中空孔に挿入されていることを特徴とする。
上記態様の電磁弁は、蓋部材のボス部を筒体部の中空孔に挿入し、更に、固定鉄心挿入部をボス部を介して筒体部の中空孔に挿入している。非磁性部材のボス部は純鉄系材料で形成され、固定鉄心は磁性ステンレス材で形成されている。そのため、電磁弁は、コイルに通電されると、固定鉄心挿入部とボス部が一体となって磁束を流す。このような電磁弁は、固定鉄心挿入部を筒体部に直接挿入する構造と比べ、固定鉄心に使用する磁性ステンレス材の使用量を減らしてコストダウンすることができると共に、磁気効率を向上させることができる。
上記態様の電磁弁によれば、簡単な構造で吸引効率を向上させることができると共に、コイル吸引力の調整の幅を広げることができる。
以下に、本発明に係る電磁弁の実施形態について図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る電磁弁1Aの断面図である。電磁弁1Aは、流体制御を行う弁部2と、弁部2に駆動力を与えるアクチュエータ部3が連結されて、外観を構成されている。電磁弁1Aは、アクチュエータ部3のコイル32に通電されると、可動鉄心35が固定鉄心34に吸引されて弁部2の弁開度を調整するように、構成されている。
弁部2は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)やポリプロピレン(PP)、四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂を直方体形状に成形したバルブボディ20を備える。弁室22は、バルブボディ20の上端面に開口する開口部21をアクチュエータ部3で塞ぐことにより形成されている。第1ポート23と第2ポート24は、弁室22を介して連通するようにバルブボディ20に形成されている。弁座25は、第2ポート24に連通する流路が弁室22の底面に開口する開口部の周囲に沿って設けられている。
アクチュエータ部3は、コイルボビン31にコイル32を巻き付けたコイル組立33と、コイル組立33を覆う外部カバー38と、外部カバー38に接触した状態でコイルボビン31の中心に配置される固定鉄心34と、固定鉄心34に吸引される可動鉄心35と、可動鉄心35を弁部2方向へ付勢する圧縮ばね(付勢部材の一例)36とを備える。
コイルボビン31は、非磁性材(磁気を流さない材料(樹脂、金属を含む。)をいう。以下同じ。)からなり、本実施形態では、PPSなどの樹脂を射出成形等により安価に形成したものを使用している。コイルボビン31は、中空孔31eを備え、外周面にコイル32を巻回される筒体部31aと、筒体部31aの弁部側端部(図中下端部)に設けられた下側リング部(弁部側リング部に相当)31bと、筒体部31aの反弁部側端部(図中上端部)に設けられた上側リング部(反弁部側リング部に相当)31dとを備える。コイル組立33は、コイル32が下側リング部31bと上側リング部31dの間で筒体部31aの周りに密に巻き付けられ、コイル占積率が高められている。
非磁性部材31cは、樹脂等の非磁性材を環状に形成したものである。非磁性部材31cは、固定鉄心34の拡大径部34aと可動鉄心35が対向する部分の周りを囲むように配置され、可動鉄心35を流れた磁気が固定鉄心34以外へ流れることを防いでいる。非磁性部材31cは、加工や組立の手間を省くために、コイルボビン31を射出成形等で形成する場合に、下側リング部31bの外縁部から弁部2側へ突出するように下側リング部31bに一体に設けられている。
可動鉄心35は、非磁性部材31cの内側に配置されている。可動鉄心35は、弁室22の内部のみで軸方向へ往復直線運動するように、軸方向長さが短い円柱形状をなす。可動鉄心35は、非磁性部材31cとの間に僅かな隙間を空けた状態で配置され、コイル吸引力に対して応答性良く移動するようになっている。圧縮ばね36は、下側リング部31bの下面と可動鉄心35の外周面に形成された段差面35aとの間に縮設され、可動鉄心35を弁部方向へ常時付勢している。
コイル組立33は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの絶縁性樹脂でコイル32の外周面を覆われ、モールド部30が形成されている。よって、コイル32は、樹脂製のモールド部30とコイルボビン31により絶縁されている。
コイル組立33の周囲には、磁性材で形成された固定鉄心34と可動鉄心35と磁性部材37と外部カバー38が、配置されている。磁性材は、耐腐食性の高い磁性ステンレスであることが好ましい。また、磁性材は、固定鉄心34と可動鉄心35の吸着状態を速やかに解消できるように、消磁性に優れたものであることが好ましい。
固定鉄心34は、筒体部31aの中空孔31eに挿入される固定鉄心挿入部34cと、固定鉄心挿入部34cの弁部側端面に設けられ、筒体部31aの弁部側端部(筒体部31aと下側リング部31bとが接続する部分)より外側に配置されて可動鉄心35を吸着する拡大径部34aとを備える。拡大径部34aは、可動鉄心35を吸着する吸着面34dの吸着面積Sが筒体部31aの中空孔31eの断面積より大きい。このような固定鉄心34は、コイル32に通電されると励磁され、拡大径部34aが圧縮ばね36に抗して可動鉄心35を吸着する。
外部カバー38は、袋形状をなし、開口端部をバルブボディ20の上端面に突き当てるようにして取り付けられている。固定鉄心34は、固定鉄心挿入部34cの上端部34bが上側リング部31dから上方へ突出し、外部カバー38にカシメ固定されている。よって、コイル32に通電した場合に、磁気が固定鉄心34から外部カバー38に効率良く流れる。
磁性部材37は、プレス加工や切削加工等により、磁性材を環状の形成したものである。磁性部材37は、非磁性部材31cと弁部2との間に介在している。磁性部材37は、外部カバー38から可動鉄心35へ効率良く磁気を流すために、外部カバー38に接触する第2延設部37c(接触部の一例)と、可動鉄心35の外周面と対向するように配置される第1延設部37b(対向配置部の一例)とを備える。
具体的には、磁性部材37は、軸線方向の断面形状がクランク形状をなす。すなわち、磁性部材37は、非磁性部材31cの下端部とバルブボディ20の上端面との間で狭持されるリング形状の本体部37aを備える。第1延設部37bは、本体部37aの内周縁部からバルブボディ20に向かって延びるように設けられている。第1延設部37bは、バルブボディ20に開設された開口部21の内周面21aに沿って配置されるように環状に設けられ、内周面が可動鉄心35の外周面に対して常時対向する。第2延設部37cは、本体部37aの外周縁部からバルブボディ20と反対側に延びるように設けられている。第2延設部37cは、外部カバー38の内周面38aに面接触するように環状に設けられている。
ここで、第1延設部37bは、開口部21aの内周面に面接触することにより位置決めされる一方、第2延設部37cは、外部カバー38の内周面38aと非磁性部材31cの外周面に面接触して位置決めされている。そのため、磁性部材37は、アクチュエータ部3を弁部2に対して位置決めする役割も担っている。
第1延設部37bと非磁性部材31cは、内径寸法が同一にされ、軸方向へ移動する可動鉄心35の動作を阻害しない。
可動鉄心35は、弁体40を保持し、弁体40を弁座25に押し付けてシールさせる。弁体40は、NBR(ニトリルゴム)やFKM(フッ素ゴム)などのゴムや、PTFEなどのフッ素系樹脂等により形成されている。
電磁弁1Aは、バルブボディ20の上端面と本体部37aの下面との間、非磁性部材31cの内周面と第2延設部37cの外周面との間、固定鉄心挿入部34cの外周面と下側リング部31bの内周面との間に、それぞれ、ゴムなどの弾性材からなるシール部材41,42,43が配設され、弁部2を流れる流体が固定鉄心挿入部34c側に流れ込んだり、外部に漏れるのを防いでいる。
続いて、上記電磁弁1Aの作用効果を説明する。電磁弁1Aは、コイル32に通電されない間は、固定鉄心34が励磁されず、コイル吸引力を発生しない。この場合、可動鉄心35が圧縮ばね36に付勢されて弁体40を弁座25に当接させるため、弁部2が流体を遮断する。
電磁弁1Aは、コイル32に通電されると、固定鉄心34が励磁される。すると、磁気が固定鉄心挿入部34cから外部カバー38、磁性部材37の第2延設部37c、本体部37a、第1延設部37b、可動鉄心35の外周面、可動鉄心35の上端面、拡大径部34a、固定鉄心挿入部34cへと流れる磁路が形成され、コイル吸引力が発生する。これにより、可動鉄心35が、圧縮ばね36に抗して固定鉄心34に吸引され、弁体40を弁座25から離間させる。流体は、可動鉄心35のストローク量に応じた流量で、第1及び第2ポート23,24の間を流れる。
ところで、電磁弁1Aは、拡大径部34aが筒体部31aの弁部側端部より外側、更に言えば、下側リング部31bより外側に設けられ、外部カバー38に対峙している。しかし、非磁性部材31cが、拡大径部34aと可動鉄心35が対向する部分の周りを囲むように配置されている。つまり、拡大径部34aと外部カバー38は、非磁性部材31cを介して対峙している。よって、電磁弁1Aは、磁性材からなる外部カバー38から磁性部材37、可動鉄心35、拡大径部34aへ磁気を流す磁路が効率良く形成され、可動鉄心35と固定鉄心34との間の磁束密度が大きい。
また、電磁弁1Aのコイル吸引力Fは、上述したように、数1により求められる。数1のうち製品に固有な係数K、コイル電流値I及びプランジャストロークlは、製品のサイズや用途により限定される。よって、電磁弁のコイル吸引力Fは、実質的に、固定鉄心34の吸着面積Sとコイル32の巻数N(コイル占積率)により、調整される。
上記電磁弁1Aは、可動鉄心35を吸着する拡大径部34aが、固定鉄心挿入部34cの弁部側端面に設けられ、コイルボビン31を構成する筒体部31aの弁部側端部より外側に配置されている。そのため、筒体部31aに形成された中空孔31eの断面積の制約を受けずに、吸着面34dの吸着面積Sを中空孔31eの断面積より大きく設定することが可能である。また、吸着面積Sと関係なく筒体部31aの形状を設定し、コイル32の巻数Nを調整することが可能である。このように、電磁弁1Aは、固定鉄心34の吸着面積Sとコイル32の巻数Nを別個に調整することが可能なので、大きさを制約されていても、固定鉄心34の吸着面積Sを出来る限り大きくしつつ、コイル32の巻数Nを増やし、コイル吸引力Fを高めることが可能である。
従って、上記電磁弁1Aによれば、簡単な構造で吸引効率を向上させることができると共に、コイル吸引力Fの調整の幅を広げることができる。
また、上記電磁弁1Aは、非磁性部材31cが下側リング部31bに一体に設けられているので、非磁性部材31cをコイルボビン31と一緒に製造したり組み立てることができ、部品加工数や組立工数を減らしてコストダウンを図ることができる。
また、電磁弁1Aは、可動鉄心35が軸方向の長さが短い円柱形状をなし、弁室22の内部のみで軸方向へ短い距離を移動するので、流体に含まれる異物が可動鉄心35の周りに入り込んで可動鉄心35の動作を阻害しにくい。また、電磁弁1Aは、第1従来例の電磁弁101と比べると、可動鉄心35が小型で軽いので、第1従来例の電磁弁101より小さいコイル吸引力で可動鉄心35を移動させることができる。
ところで、発明者らは、本実施形態の電磁弁1Aが発生するコイル吸引力と、第1従来例の電磁弁101が発生するコイル吸引力を調べるシミュレーションを行った。シミュレーションでは、コイル32,103に供給する電力を同じにして行った。図2は、第1実施形態の電磁弁1Aのシミュレーションの結果を示す図である。図3は、第1従来例の電磁弁101のシミュレーションの結果を示す図である。尚、図2及び図3に示す濃淡は、色が薄いほど(白に近いほど)、磁束密度が低く、色が濃いほど(黒に近いほど)、磁束密度が高いことを示している。
図2及び図3のシミュレーション結果より、電磁弁1Aは、電磁弁101と比べると、コイル32の周囲に配置される固定鉄心34と外部カバー38と磁性部材37と可動鉄心35が満遍なく磁束を発生することが分かった。つまり、電磁弁1Aは、電磁弁101より、可動鉄心35を吸着するための磁気の流れが無駄なく形成されていることが分かった。そして、電磁弁1Aは、電磁弁101と比べると、固定鉄心34に発生する磁束密度が高いことが分かった。このシミュレーションにおいて、弁閉位置から可動鉄心を上昇させる吸引力は、電磁弁1Aが電磁弁101の89%であることが分かった。つまり、電磁弁1Aは、固定鉄心34と可動鉄心35との間の磁束密度が、電磁弁101より高いことが分かった。
以上のシミュレーション結果より、電磁弁1Aは、拡大径部34aをコイル32より外側に配置しても、電磁弁101より高い磁束密度を固定鉄心34全体にほぼ満遍なく発生させることができることが分かった。つまり、電磁弁1Aが、電磁弁101より起磁力が大きいことが分かった。よって、同じ起磁力を発生するように電磁弁1Aと電磁弁101を設計した場合には、固定鉄心34に拡大径部34aを設けて吸着面積Sを広げた電磁弁1Aの方が、電磁弁101より、大きいコイル吸引力を発生する。これは、同じバルブサイズであれば、電磁弁1Aは、電磁弁101よりコイル組立33を小型化できるメリットがある。また、同じコイルサイズであれば、電磁弁1Aは、電磁弁101より弁座径を広げて大流量制御を行う等の性能向上を図ることができるメリットがある。
(第2実施形態)
続いて、本発明の第2実施形態の電磁弁について説明する。図4は、本発明の第2実施形態に係る電磁弁1Bの断面図である。
第2実施形態の電磁弁1Bは、固定鉄心34とコイルボビン31との間のシール構造を除いて、第1実施形態の電磁弁1Aと同様に構成されている。ここでは、第1実施形態の電磁弁1Aと異なる点を中心に説明し、共通する点は適宜説明を省略する。尚、第1実施形態の電磁弁1Aと共通する部品には、以下の説明及び図面に第1実施形態と同じ符号を用いる。
電磁弁1Bのコイルボビン51は、吸着面34dを可動鉄心35側に露出させた状態で拡大径部34aを収納するための収納凹部51bが、下側リング部51aの弁部側端面(図中下面)に開設されている。拡大径部34aの外周面と収納凹部51bの内周面との間には、シール部材53が配置され、弁室22を流れる流体が固定鉄心挿入部34c側へ入り込むのを防いでいる。固定鉄心52は、シール部材53を装着するための環状溝52aが拡大径部34aの外周面に設けられている。つまり、固定鉄心52は、第1実施形態の固定鉄心1Aと異なり、固定鉄心挿入部34cの外周面にシール部材を装着するための環状溝が形成されていない。
このような電磁弁1Bは、固定鉄心挿入部34cの外周面に環状溝が形成されていないので、可動鉄心35から拡大径部34aへ流れた磁気が固定鉄心挿入部34cへ流れるときに、磁路を絞られない。拡大径部34aに環状溝52aが形成されていても、環状溝52aが形成された部分の磁路断面積は、固定鉄心挿入部34cの磁路断面積より大きいので、磁気の流れへの影響は小さい。よって、第2実施形態の電磁弁1Bは、第1実施形態の電磁弁1Aよりも固定鉄心挿入部34cにおける磁路断面積を広く確保して、吸引効率を向上させることができる。
また、拡大径部34aの吸着面34dのみが可動鉄心35側に露出しているので、磁気が可動鉄心35の図中上端面から拡大径部34aの吸着面34dへ集中して流れ、可動鉄心35と固定鉄心35との間の磁束密度を大きくできる。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図5は、本発明の第3実施形態に係る電磁弁1Cの断面図である。
第3実施形態の電磁弁1Cは、固定鉄心61と外部カバー62の構成を除き、第2実施形態の電磁弁1Bと同様に構成されている。ここでは、第2実施形態の電磁弁1Bと異なる点を中心に説明し、共通する点は適宜説明を省略する。尚、第2実施形態の電磁弁1Bと共通する部品には、以下の説明及び図面に第2実施形態と同じ符号を用いる。
第3実施形態の電磁弁1Cは、外部カバー62が、コイル組立33の外周面を覆うように配置される筒部材64と、筒部材64の反弁部側端部(図中上端部)に設けられた蓋部材63に、分割され、袋形状に加工しやすくなっている。筒部材64は、流体を制御する弁部2の近傍に配置されるので、耐腐食性のある磁性材(例えばSUS403などの磁性ステンレス材)で形成されている。一方、蓋部材63は、弁部2から離れた位置に配置されるので、筒部材64のような耐腐食性が要求されない。そこで、蓋部材63は、磁性ステンレスと比べ、耐腐食性が低いものの、安価で磁気効率が良い炭素鋼などの純鉄系材料で形成されている。蓋部材63は、コイル組立33の上端面を覆うようにリング形状をなし、固定鉄心61の上端部34bがかしめ固定されている。
筒部材64は、コイル組立33の外周面を覆うように円筒形状に形成されている。筒部材64は、弁部側開口端部(図中下端部)を屈曲させて磁性部材64cが一体に設けられ、磁気ギャップが減らされている。磁性部材64cは、軸方向断面がL字形状をなし、非磁性部材31cと弁部2(バルブボディ20)に狭持されるリング本体64aと、弁室22の内壁(バルブボディ20の開口部21の内壁21a)に沿って配置されて可動鉄心35の外周面に対して対向するように配置される対向配置部64bを備える。磁性部材64cは、筒部材64を絞り成形することにより設けられており、屈曲部分64dにより、外部カバー62と磁性部材64cが接続する接続部分(接触部)が構成されている。
蓋部材63は、コイルボビン51を構成する筒体部31aの中空孔31eに挿入されるボス部63aを有し、ボス部63aの外周面が中空孔31eの内周面に密着している。ボス部63aは、蓋部材63の内周縁部から軸方向に突出するように設けられている。
固定鉄心61は、磁性ステンレス材で形成され、固定鉄心挿入部61aがボス部63aを介して中空孔31eに挿入されている。固定鉄心挿入部61aは、ボス部63aに隙間無く挿入され、ボス部63aの内周面に密着している。そのため、固定鉄心61は、コイル32が通電されると、固定鉄心挿入部61aがボス部63aと一体となって励磁される。このような固定鉄心61は、固定鉄心挿入部61aが、第2実施形態の固定鉄心52の固定鉄心挿入部34cより細く、固定鉄心52より磁性ステンレスの使用量が少ない。
このような第3実施形態の電磁弁1Cは、コイル組立33の外周面を覆うように配置される筒部材64と、筒部材64の反弁部側端部に設けられた蓋部材63に、外部カバー62を分割し、流体に接する可能性が高い筒部材64を、耐腐食性のある磁性ステンレス材で形成する一方、流体に接する可能性が低い蓋部材63を、磁性ステンレス材と比べると耐腐食性が劣るものの、安価で磁気効率が良い純鉄系材料で形成するので、外部カバー62に使用する磁性ステンレス材の使用量が減り、コストダウンできると共に、純鉄系材料を用いて磁気効率を向上させることができる。
また、電磁弁1Cは、筒部材64の弁部側端部に磁性部材64cを一体に設けているので、外部カバー62と磁性部材との間の磁気ギャップがなく、磁気効率を向上させることができる。
また、電磁弁1Cは、蓋部材63のボス部63aを筒体部31aの中空孔31eに挿入し、更に、固定鉄心挿入部61aをボス部63aを介して筒体部31aの中空孔31eに挿入している。非磁性部材63のボス部63aは純鉄系材料で形成され、固定鉄心64は磁性ステンレス材で形成されている。そのため、電磁弁1Cは、コイル32に通電されると、固定鉄心挿入部61aとボス部63aが一体となって磁束を流す。このような電磁弁1Cは、第2実施形態の電磁弁1Bのように固定鉄心挿入部34aを筒体部31aに直接挿入する構造と比べ、固定鉄心61に使用する磁性ステンレス材の使用量を減らしてコストダウンすることができると共に、磁気効率を向上させることができる。
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。図6は、本発明の第4実施形態に係る電磁弁1Dの断面図である。
第4実施形態の電磁弁1Dは、磁性部材72と外部カバー75を除き、第2実施形態の電磁弁1Bと同様に構成されている。ここでは、第2実施形態の電磁弁1Bと異なる点を中心に説明し、共通する点は適宜説明を省略する。尚、第2実施形態の電磁弁1Bと共通する部材には、以下の説明及び図面では第2実施形態と同じ符号を用いる。
外部カバー75は、コイル組立33の外周面を覆うように配置される筒部材75bと、筒部材75bの反弁部側端部に設けられた蓋部材75aに分割され、袋形状に加工しやすくされている。蓋部材75aは純鉄系材料で形成され、筒部材75bは磁性ステンレスで形成されている。流体が流れる流路に近い筒部材75bを耐腐食性の高い磁性ステンレスで形成し、流路から遠い蓋部材75aを磁性ステンレスより安価な純鉄系材料で形成することにより、外部カバー75は、第2実施形態の外部カバー38より、磁気効率を向上させつつ、磁性ステンレスの使用量を減らしてコストダウンしている。
磁性部材72は、磁性ステンレス材を環状に形成したものである。磁性部材72は、軸方向断面において、内周面の軸方向幅寸法が外周面の軸方向幅寸法より大きいT字形状になるように、切削加工等で形成されている。接触部72aは、筒部材75bの内周面75cに面接触する磁性部材72の外周面により構成される。また、対向配置部72bは、可動鉄心35に対向するように配置される磁性部材72の内周面により構成される。磁性部材72は、内周縁部から弁座側へ突出する下側環状部72cと、内周縁部から反弁座側へ突出する上側環状部72dを備える。
コイルボビン71は、樹脂等の非磁性材を材質とし、非磁性部材71aが下側リング部51aと一体に設けられている。非磁性部材71aは、下側リング部51aから弁座方向に向かって突出し、環状に設けられている。非磁性部材71aは、磁性部材72の上側環状部72dが隙間無く嵌め込まれる凹部71bが開設されている。
磁性部材72は、上側環状溝72dが非磁性部材71aの凹部71bに入り込んだ状態で配置され、下側環状部72cがバルブボディ20の開口部21の内周面21aに沿って配置されており、第2実施形態の磁性部材37より、可動鉄心35の外周面と対向する面積が広い。そのため、電磁弁1Dは、可動鉄心35のストロークに対する、可動鉄心35と拡大径部34aとの間の磁束密度の変化割合が小さく、吸引効率が良い。
尚、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、色々な応用が可能である。
(1)例えば、上記実施形態では、ボディ20の材質を樹脂としたが、ボデ20の材質を黄銅やステンレス鋼等の金属にしても良い。
(2)例えば、上記実施形態で説明した第1及び第2延設部37b,37cの形状は、環状に限定されず、本体部37aからバルブボディ20及びバルブボディ20と反対方向に延びる複数の凸部により構成しても良い。これによれば、磁性部材37の製造に用いる磁性ステンレスの使用量が減り、コストダウンを図ることができる。
(3)例えば、第4実施形態の電磁弁1Dの外部カバー75と磁性部材72を、第3実施形態の外部カバー62とすることにより、図7に示す電磁弁1Eを構成しても良い。この場合、磁性部材64cが筒部材64に一体に設けられ、磁気ギャップが少ないので、磁気効率が良い。
(4)例えば、圧縮ばね36に代えて板ばねを使用してもよい。
(5)上記実施形態では、固定鉄心34を外部カバー38にカシメ固定して接触させたが、固定鉄心34の上端面を外部カバー38の天井内壁に当接させた状態で外部カバー38をコイル組立33に被せても良い。また、固定鉄心34は、外部カバー38にネジ等で固定されていても良い。
(6)上記実施形態では、コイルボビン31に非磁性部材31cを一体に形成したが、コイルボビン31と非磁性部材31cを別部品で構成しても良い。