JP6067639B2 - 遊星歯車型のロックタイプ双方向クラッチ - Google Patents

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Description

本発明は、入力軸と出力軸との間の動力伝達状態を変更するクラッチ装置、特に、入力軸(駆動側)からの正・逆回転の動力を伝達するとともに、出力軸(従動側)からの動力伝達は遮断するように機能するロックタイプ双方向クラッチに関するものである。
モーターによって物品を上下に移送する昇降装置では、物品が所定の位置となったときにモーターを停止すると、物品が自動的にその位置を保持するような作動が求められる場合がある。そのため、ハウジング及び入力軸、出力軸を備えたロックタイプ双方向クラッチと呼ばれる回転伝達部品を用い、入力軸を正・逆回転可能なモーターに連結するとともに、出力軸の回転により物品を昇降させる装置が知られている。この装置のロックタイプ双方向クラッチでは、モーターで入力軸を正・逆回転したときは、出力軸が連動して正・逆回転し物品を昇降させる一方、出力軸を正・逆回転しようとすると、出力軸がロック状態となって物品の落下を防止する。
ロックタイプ双方向クラッチの一例が、本出願人の先行する特許出願に係る特許第5468096号公報(特許文献1)に開示されている。このロックタイプ双方向クラッチは、遊星歯車機構を利用するものであって、その構造及び作動を図4、図5により説明する。図4は、入力軸からの正・逆回転の動力を受けて出力軸が回転する状態を示すものであり、図5は、出力軸がロックされて動力伝達が遮断された状態を示すものである。
図4に示すとおり、ロックタイプ双方向クラッチDCは、回転不能のハウジングHG、入力軸IS及び出力軸OSを備えている。入力軸ISには太陽歯車(サンギヤ)SGが設けられ、ハウジングHGには、内歯歯車からなるリング歯車(リングギヤ)RGが設けられる(断面矢視A−A)。太陽歯車SGとリング歯車RGとの間には、両方の歯車と噛み合う複数(図示の例においては4個)の遊星歯車(プラネタリギヤ)PGが配置され、入力軸ISが回転すると、遊星歯車PGは、リング歯車RGの内側を公転しながら自転する遊星運動を行う。
さらに、複数の遊星歯車PGの各々には、遊星歯車PGの中心軸と偏心して軸方向に突出する円形断面の偏心延長軸EAが設けられる。そして、出力軸OSには、各々の遊星歯車PGの中心軸と同心の円形断面の孔部Hが形成され、この孔部Hに遊星歯車PGの偏心延長軸EAが挿入される。このとき夫々の遊星歯車PGは、孔部Hと偏心延長軸EAとが孔部Hに対して同位相(断面矢視B−Bでは垂直上部)となるような接触点c1乃至c4で孔部Hの円周内面に接触する。
適宜の駆動手段により入力軸ISが時計方向(図の右方から見て)に回転するときは、図4の断面矢視A−Aに示すように、太陽歯車SGが時計方向に回転すると共に、これと噛み合う複数の遊星歯車PGが夫々反時計方向に回転しつつ、太陽歯車SGの周りを公転する。この時、偏心延長軸EAは、図4の断面矢視B−Bに示すように、円形断面の孔部H内で反時計方向に回転して、偏心延長軸EAと孔部Hの円周内面との接触点(円形断面同士の接触なので理論的には1点で接触)が、孔部Hの円周内面を摺動する。これにより、遊星運動の偏心延長軸EAが孔部Hの円周内面を押す形となり、出力軸OSは、遊星歯車PGの移動方向と同一方向に回転する。つまり、孔部Hを備えた出力軸OSは、遊星ギヤ機構における遊星歯車担持用のキャリアに相当する運動を行い、入力軸ISが正転するときも逆転するときも、その回転方向と同一方向に回転する。
これに対し、図5に示すように、出力軸OSが反時計方向(図の右方から見て)に回転したときは、断面矢視A−Aに示すとおり、出力軸OSの孔部Hの円周内面が、偏心延長軸EAとの接触点において、摩擦力により偏心延長軸EAを回転させて遊星歯車PGを回転駆動し、さらに、遊星歯車PGに噛み合う入力軸ISの太陽歯車SGを回転させることとなる。ところが、複数の遊星歯車PGをリング歯車RGと太陽歯車SGとの間に配置してあると、接触点c1で接触する遊星歯車PGは出力軸OSの回転と同一方向のトルクを太陽歯車SGに対して付与するのに対し、接触点c3で接触する遊星歯車PGは、出力軸OSの回転と反対方向のトルクを太陽歯車SGに対して付与する。つまり、接触点c1で接触する遊星歯車PGと接触点c3で接触する遊星歯車PGは、互いに逆方向に回転しようとすることとなり、出力軸OSを回転させようとしてもロックされる。出力軸OSを時計方向(図の右方から見て)に回転した時も同様にロックされる。
特許第5468096号公報
上述のとおり、特許文献1に示すロックタイプ双方向クラッチは、コンパクトであって確実に動力伝達を制御可能な機械部品であるけれども、以下のような点において、未だ改良すべき余地が残されている。
即ち、特許文献1のロックタイプ双方向クラッチでは、図6に示すように、遊星歯車PGと太陽歯車SG及びリング歯車RGとの噛み合いにおけるバックラッシュ等に起因し、作動中に、ハウジングHG内で遊星歯車PGの回転軸が傾斜した状態となることがある。この場合、断面矢視A−Aに示すとおり、偏心延長軸EAと孔部Hとの接触点c1及びc3は、上記した所定とおりの位置関係(図5の断面矢視A−A)ではなくなり(又は、両者が接触しなくなる)、従って、出力軸OSを回転させようとした際に、接触点c1と接触点c3とにおける摩擦力に差が生じてしまう。そのため、接触点c1で接触する遊星歯車PGが太陽歯車SGに与える出力軸OSの回転と同一方向のトルクと接触点c3で接触する遊星歯車PGが太陽歯車SGに与える出力軸OSの回転と反対方向のトルクとの間に差分が生じ、出力軸OSがロックせずに回転してしまう虞がある。
上記の課題を解決するため、本発明は、遊星ギヤ機構を利用したロックタイプ双方向クラッチにおいて、遊星ギヤの回転軸が常に入力軸の回転軸及び出力軸の回転軸と平行になるようにし、出力軸を回転しようとしたときに確実にロック作用が行われるようにしたものである。すなわち、本発明は、
「回転不能のハウジング、入力軸及び出力軸を備え、前記入力軸の回転により前記出力軸が回転するとともに、前記出力軸の回転による前記入力軸の回転は阻止される双方向クラッチであって、
前記ハウジングと前記入力軸との間には複数の遊星歯車体が備えられ、
前記入力軸には太陽歯車が設けられ、前記ハウジングには内歯歯車からなるリング歯車が設けられ、かつ、前記遊星歯車体の各々には前記太陽歯車及び前記リング歯車に噛み合う遊星歯車が設けられ、
前記遊星歯車体の各々には、遊星歯車の中心軸と偏心して軸方向に突出する円形断面の偏心延長軸が設けられるとともに、前記出力軸には、各々の遊星歯車の中心軸と同心の円形断面の貫通孔が形成されたフランジ部が設けられ、前記偏心延長軸が前記貫通孔に挿入されてその円周内面に接触しており、さらに、
前記遊星歯車体の各々の両端部には、遊星歯車の中心軸と同心であって軸方向に突出する円形断面の支持軸が形成され、かつ、前記ハウジング内の軸方向の両端位置には、前記入力軸及び出力軸の回転軸を中心として回転可能な平板が夫々設けられるとともに、前記平板には、各々の遊星歯車の中心軸と同心の円形断面の軸受け部が形成されており、
前記遊星歯車体の支持軸が前記平板の軸受け部に挿入されて回転可能に支持される」ことを特徴とするロックタイプ双方向クラッチとなっている。
請求項2に記載のように、本発明では、前記ハウジング内の軸方向の一端側に設けられた前記平板を前記偏心延長軸の端面と当接させると共に、他端側に設けられた前記平板を前記遊星歯車の端面と当接させることができる。
請求項3に記載のように、本発明では、前記出力軸のフランジ部の中央に円形断面の中心孔を形成し、ここに前記入力軸を軸受することができる。
請求項4に記載のように、本発明のロックタイプ双方向クラッチは、把持部を有する介護ベッド用の立ち上がり介助装置の回転駆動装置に介在させることができる。
本発明のロックタイプ双方向クラッチは、特許文献1のロックタイプ双方向クラッチと同様に、入力軸に太陽歯車(サンギヤ)を設け、回転不能に固定されたハウジングには、内歯歯車からなるリング歯車(リングギヤ)を設けるものである。ハウジングと入力軸との間には複数の遊星歯車体を備えており、遊星歯車体の各々には太陽歯車及びリング歯車に噛み合う遊星歯車(プラネタリギヤ)が設けられ、かつ、複数の遊星歯車体の各々には、遊星歯車の中心軸と偏心して軸方向に突出する円形断面の偏心延長軸が設けられる。出力軸にはフランジ部を設け、フランジ部には遊星歯車の中心軸と同心の円形断面の貫通孔を形成して、この貫通孔に遊星歯車体の偏心延長軸を挿入し、円周内面に接触させる。
そして、本発明のロックタイプ双方向クラッチでは、遊星歯車体の各々の両端部に、遊星歯車の中心軸と同心であって軸方向外方に夫々突出する円形断面の一対の支持軸を形成する。同時に、ハウジング内の軸方向の両端位置に、入力軸及び出力軸の回転軸を中心として回転可能な一対の平板を設け、平板には各々の遊星歯車の中心軸と同心の円形断面の軸受け部を形成し、ここに遊星歯車体の支持軸を軸受けする。
入力軸が回転すると、遊星歯車は、リング歯車の内側を公転しながら自転する遊星運動を行い、偏心延長軸が円形断面の貫通孔内で回転する。これにより、偏心延長軸と貫通孔の円周内面との接触点が、貫通孔の円周内面を押す形で出力軸を遊星歯車の移動方向と同一方向に回転させる。こうした作動は、特許文献1のロックタイプ双方向クラッチと同じであり、出力軸は、遊星ギヤ機構における遊星歯車担持用のキャリアに相当する運動を行い、入力軸が正転するときも逆転するときも、その回転方向と同一方向に回転する。このときの出力軸の回転速度は、太陽歯車を駆動側としキャリアを従動側とする減速装置(リング歯車固定)と同様に、次の変速比の式:
入力軸回転速度/出力軸回転速度=1+(リング歯車の歯数/太陽歯車の歯数)
によって決定され、リング歯車と太陽歯車の歯数(又は、ピッチ円の径)を変えることにより、入・出力軸間の変速(減速)比及びトルク比を任意に選定できる。
一方、出力軸を回転させて入力軸を回転させようとするときは、図6により説明したとおり、遊星歯車PGの回転軸が傾斜した状態となると、ロック作用が確実に行われない場合がある。
ここで、本発明では、遊星歯車体の両端部に形成された一対の支持軸は平板部に形成された軸受け部に挿入されて、遊星歯車が中心軸の周りに回転可能に支持されている。そのため、遊星歯車の回転軸が傾斜した状態でハウジング内に配置されることなく、遊星歯車の回転軸が常に入力軸の回転軸及び出力軸の回転軸と平行な状態が保持される。従って、偏心延長軸と貫通孔との円周内面における接触点は所定の位置関係を維持することができ、一部の遊星歯車が入力軸に与える出力軸の回転と同一方向のトルクと、その他の遊星歯車が入力軸に与える出力軸の回転と反対方向のトルクとの間に差分は生じず、出力軸は確実にロックされる。
このように、本発明のロックタイプ双方向クラッチは、入力軸を正・逆転したときには出力軸は入力軸と同一方向に回転するが、出力軸側から回転させようとしたときには確実にロックされる。そのため、昇降装置のモーターが停止したときには、自動的に出力軸がロックして物品の落下等を確実に防止することができ、安全性を高めることができると共に省エネルギ効果も発揮する。また、出力軸の貫通孔と遊星歯車の偏心延長軸とは滑り接触をしており、遊星ギヤ機構等の部品の間にも基本的に間隙が存在しないので、作動中の振動や騒音を大幅に低減することができる。
請求項2の発明は、ハウジング内の軸方向の一端側に設けた平板を偏心延長軸の端面と当接すると共に、他端側に設けた平板を遊星歯車の端面と当接するよう構成したものである。こうすると、遊星歯車体が平板によりスラスト方向に支持され、遊星歯車が傾斜した状態でハウジング内に配置されることがより確実に回避される。
請求項3の発明は、出力軸のフランジ部の中央に円形断面の中心孔を形成し、ここに入力軸を軸受けするものである。こうすると、入力軸と出力軸を安定して支持し回転させることが可能であり、ことに、太陽歯車や遊星歯車の軸方向長さが短い場合に有効である。
請求項4の発明は、本発明のロックタイプ双方向クラッチを、把持部を有する介護ベッド用の立ち上がり介助装置に適用し、その回転駆動装置に介在させるものである。このような立ち上がり介助装置の回転駆動装置に本発明のロックタイプ双方向クラッチを適用した場合にあっては、ベッドの使用者はモーターにより把持部を回動させることができ、モーターを停止した回転位置においては、ベッドの使用者が把持部に負荷を掛けた場合であっても把持部が回転することがない。従って、かような把持部が、ベッドの使用者がベッドから立ち上がる際やベッド上を移動する際の手がかりとなる。
本発明のロックタイプ双方向クラッチの構造を示す図である。 第1実施例のロックタイプ双方向クラッチの作動を説明する図である。 本発明のロックタイプ双方向クラッチを有する回転駆動装置を介護用ベッドの立ち上がり介助装置に適用した図である。 従来のロックタイプ双方向クラッチの一例を示す図である。 図4のロックタイプ双方向クラッチの作動を説明する図である。 図4のロックタイプ双方向クラッチにおいて、ハウジング内で遊星歯車の軸が傾斜した状態を示す図である。
以下、図面に基づいて、本発明のロックタイプ双方向クラッチについて説明する。
図1に示すように、本発明のロックタイプ双方向クラッチは、太陽歯車SGを設けた入力軸1及びリング歯車RGが設けられ回転不能に固定されたハウジング2を備えている。ハウジング2と入力軸1との間には、遊星歯車PGを設けた6個の遊星歯車体3が設けられ、断面矢視A−A図に示すとおり、各部材の歯車は互いに噛み合って遊星ギヤ機構を構成している。各々の歯車は、各部材に一体的に形成されているが、歯車部分を別体として製造し各部材に嵌め込んでもよい。図示の実施形態においては、リング歯車RGの歯数は42、太陽歯車SGの歯数は18、遊星歯車PGの歯数は12、であり、入力軸1に対する出力軸4の減速比は3/10である。
入力軸1の軸方向反対側には、出力軸4が置かれている。出力軸4にはフランジ部41が一体に形成されている。ハウジング2の入力軸1側の内側面には、後述する平板6が内接する環状突部21が形成されている。出力軸4とハウジング2との間は、蓋体5が圧入されてシ−ルドされる。
遊星歯車体3の各々には、遊星歯車PGの中心軸と偏心(偏心量e)して出力軸3側の軸方向に突出する円形断面の偏心延長軸31が設けられている。さらに、遊星歯車体3の両端部には、遊星歯車PGの中心軸と同心であって軸方向に夫々突出する円形断面の一対の支持軸32が形成されている。
出力軸4と一体に形成されたフランジ部41には、遊星歯車PGの中心軸と同心であって遊星歯車PGの歯元円の径よりも幾分小さい径の円形断面の貫通孔42が形成されている。貫通孔42には遊星歯車体3の偏心延長軸31が挿入されて、貫通孔42の円周内面は偏心延長軸31の円周外面と1点で接触する。こうした場合にあっては、夫々の遊星歯車体3は、貫通孔42と偏心延長軸31との接触点C1乃至C6(断面矢視B−B図)が貫通孔42に対して同位相(図1においては垂直上方)となるように配置される。また、フランジ部41の中央には中心孔43が形成されており、入力軸1の出力軸4側の端面に形成された円筒型延長部11が入り込む。
ハウジング2内の両端位置には一対の円環形状の平板6が設けられている。平板6には夫々の遊星歯車PGの中心軸と同心の円形断面の軸受け部61が形成され、軸受け部61には遊星歯車体3の支持軸32が挿入されている(断面矢視C−C図)。
ハウジング2内の入力軸1側に位置する平板6は、その内周面がハウジング2の環状突部21の外周面と当接すると共に、その外周面がハウジング2の内周面から幾分離隔し、その入力軸1側の外側面がハウジング2と当接すると共にその出力軸4側の内側面が遊星歯車PGの側面と当接している。ハウジング2内の出力軸4側に位置する平板6は、その内周面が出力軸4と当接すると共にその外周面がハウジング2の内周面と当接し、その入力軸1側の内側面がフランジ部41と当接すると共にその出力軸4側の外側面が蓋体5の内側面と当接している。これにより、平板6はいずれも傾斜することなくハウジング2内で入力軸1及び出力軸4の回転軸を中心として回転可能に設けられている。また、このような平板6に形成された貫通孔42に支持軸32を挿通することにより、ハウジング2内でスラスト方向及びラジアル方向に回転可能に支持される遊星歯車体3は、ハウジング2内で遊星歯車PGの回転軸が傾斜した状態となることはない。
入力軸1が図1の矢印方向に回転すると、偏心延長軸31の接触点C1乃至C6は、ほぼサイクロイド曲線を描きながらリング歯車RGに沿って移動する。出力軸4のフランジ部41は、接触点C1乃至C6で偏心延長軸31に押されてその移動方向(遊星歯車PGの公転方向)と同一方向に回転し、その回転速度は、遊星歯車PGの公転速度(一般的な遊星歯車変速装置のキャリアの回転速度)に等しく、入力軸1の回転速度の3/10となる。これは、入力軸1が逆転したときも同様である。この時、入力軸1に形成された円筒型延長部11が出力軸4のフランジ部41に形成された中心孔43に入り込んで軸受けされているため、入力軸1と出力軸4とは互いに軸受されてラジアル方向に支持されながら回転し、遊星歯車の軸方向長さが短い場合であっても安定した回転が可能となる。
また、平板6は軸受け部61に遊星歯車体3の支持軸32が挿入され遊星歯車体3を回転可能に支持した状態で、遊星歯車体3の公転運動と同期して入力軸1及び出力軸4の回転軸の周りを回転する。
一方、出力軸4を回転させて入力軸1を回転させようとすると、出力軸4がロックされる結果、入力軸1を回転させることができない。これは、図5で説明した特許文献1の双方向クラッチと同様であるが、改めて図2を参照して説明すると、本発明にかかる双方向クラッチにおいて、出力軸4に図2の矢印方向の回転トルクを加えた場合、断面矢視A−A図の各々の接触点C1及びC4には、回転トルクと同一方向の摩擦力が作用して遊星歯車体3を自転させようとする。しかし、遊星歯車体3を自転させようとする方向は、接触点C1の遊星歯車体3では反時計方向であるのに対して、接触点C4の遊星歯車体3では時計方向である。
ここで、遊星歯車体3の両端部に形成された一対の支持軸32が平板6に形成された軸受け部61に挿入されているために、遊星歯車PGの回転軸が常に入力軸1及び出力軸4の回転軸と平行になるように回転可能に支持され、夫々の偏心延長軸31と貫通孔42との円周内面における接触点C1乃至C6が貫通孔42に対して同位相となる所定の位置関係を維持することができる。従って、遊星歯車PGの回転軸が、作動中にハウジング2内で入力軸1及び出力軸4の回転軸に対して傾斜することはなく、接触点C1で接触する遊星歯車PGが太陽歯車SGに与える出力軸OSの回転と同一方向のトルクと、接触点C4で接触する遊星歯車PGが太陽歯車SGに与える出力軸OSの回転と反対方向のトルクと、の間で差分は生じない。これによって、遊星歯車PGと噛み合う入力軸1の太陽歯車SG(断面矢視A−A図の2点鎖線)では、相互に逆方向に回転させようとする結果となり、入力軸1は回転せず、出力軸4も回転しない。
つまり、図1及び図2の双方向クラッチは、入力軸を正・逆転したときは出力軸が減速されて同一方向に回転し、出力軸側からの回転は機械的にロックされるものであり、こうした作動を円滑に行うためには、偏心延長軸31の偏心量eは、貫通孔42の径の5〜30%、好ましくは10〜20%が適当である。
本発明のロックタイプ双方向クラッチの適用例として、図3に示すような把持部を有する介護ベッド用の立ち上がり介助装置の回転駆動装置に設置した場合について説明する。
介護ベッドのサイドフレームSFには立ち上がり介助装置KDが取り付けられている。立ち上がり用介助装置KDは、介護ベッドの使用者が起き上がる際やベッド上で移動する際に掴んで手がかりとする把持部Gと、把持部Gを回転駆動させる回転駆動装置RDから構成される。回転駆動装置RDは更に、本発明にかかるロックタイプ双方向クラッチDCとモーターMを有する。把持部Gは全体としてL字形状をした棒状部材であり、その下端部はロックタイプ双方向クラッチDCの出力軸4に相当する。モーターMは正・逆転可能であり、モーターMの出力軸はロックタイプ双方向クラッチDCの入力軸1に相当する。また、モーターMには、介護ベッドの使用者がモーターMの駆動及び停止を適宜切り替えることができるスイッチSWが付設されている。
介護ベッドの使用者は、介護ベッド上でスイッチSWを操作して、モーターMを駆動することで把持部Gを所望回転位置に回動させる。モーターMが駆動するとモーターに接続された入力軸1が回転すると共に出力軸4が回転し、従って介助装置KDが回動する。把持部Gが所望の回転位置に到達したならば再度スイッチSWを操作してモーターMを停止して把持部Gの回動を停止させる。
モーターMを停止した状態にあっては、出力軸4側、即ち把持部G側、からの回転はロックタイプ双方向クラッチDCにより確実にロックされる。そのため、介護ベッドの使用者が立ち上がる際に把持部Gを手がかりとすべく負荷をかけた場合であっても把持部Gが使用者の体重を確実に支持し回動することはない。これにより、介護ベッドの使用者はかかる把持部Gを手がかりとして介護ベッドから起き上がることやベッド上を移動することが可能となる。
以上詳述したように、本発明は、駆動側からの回転を可能とする一方、従動側からの回転を阻止するロックタイプ双方向クラッチを、遊星ギヤ機構を利用して構成するとともに、遊星ギヤの軸の傾きを防止して確実なロック作用を行わせるものである。上記の実施例においては、遊星ギヤ機構における各歯車をそれぞれの部品に一体的に形成しているが、これらの歯車を、別の材料を用いて各部品に組み付けるようにしてもよい。また、回転部品の接触部には潤滑性の優れた材料を介在させるなど、上記実施例に対し各種の変形が可能であるのは明らかである。
1 入力軸
2 ハウジング
3 遊星歯車体
31 偏心延長軸
32 支持軸
4 出力軸
41 フランジ部
42 貫通孔(遊星歯車と同心)
6 平板
61 軸受け部
SG 太陽歯車
PG 遊星歯車
RG リング歯車

Claims (4)

  1. 回転不能のハウジング、入力軸及び出力軸を備え、前記入力軸の回転により前記出力軸が回転するとともに、前記出力軸の回転による前記入力軸の回転は阻止される双方向クラッチであって、
    前記ハウジングと前記入力軸との間には複数の遊星歯車体が備えられ、
    前記入力軸には太陽歯車が設けられ、前記ハウジングには内歯歯車からなるリング歯車が設けられ、かつ、前記遊星歯車体の各々には前記太陽歯車及び前記リング歯車に噛み合う遊星歯車が設けられ、
    前記遊星歯車体の各々には、遊星歯車の中心軸と偏心して軸方向に突出する円形断面の偏心延長軸が設けられるとともに、前記出力軸には、各々の遊星歯車の中心軸と同心の円形断面の貫通孔が形成されたフランジ部が設けられ、前記偏心延長軸が前記貫通孔に挿入されてその円周内面に接触しており、さらに、
    前記遊星歯車体の各々の両端部には、遊星歯車の中心軸と同心であって軸方向に突出する円形断面の支持軸が形成され、かつ、前記ハウジング内の軸方向の両端位置には、前記入力軸及び出力軸の回転軸を中心として回転可能な平板が夫々設けられるとともに、前記平板には、各々の遊星歯車の中心軸と同心の円形断面の軸受け部が形成されており、
    前記遊星歯車体の支持軸が前記平板の軸受け部に挿入されて回転可能に支持される、ことを特徴とするロックタイプ双方向クラッチ。
  2. 前記ハウジング内の軸方向の一端側に設けられた前記平板は前記偏心延長軸の端面と当接すると共に、他端側に設けられた前記平板は前記遊星歯車の端面と当接する、請求項1に記載のロックタイプ双方向クラッチ。
  3. 前記出力軸のフランジ部の中央に円形断面の中心孔を形成し、ここに前記入力軸を軸受する、請求項1又は2に記載のロックタイプ双方向クラッチ。
  4. 請求項1乃至3のいずれかに記載のロックタイプ双方向クラッチが介在される、把持部を有する介護ベッド用の立ち上がり介助装置の回転駆動装置。
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