以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1(a)は、本発明の一実施の形態に係る信号出力装置を含んだ楽器システムの構成図である。この楽器システムは、信号出力装置としてのブレスコントローラ30と鍵盤楽器22とが、信号の送受信が可能なように接続されてなる。鍵盤楽器22は、MIDI(Musical Instrument Digital Interface)信号を入力するためのMIDIインターフェイスを備え、MIDIデータによる楽音発生及び楽音制御が可能な電子楽器である。
ブレスコントローラ30は、ヘッドホン型に構成されて奏者の頭部に装着可能であり、コントローラ部31、マウスピース32、出力コード33を備える。この他、電源コードを備えてもよい。出力コード33は例えばMIDIコードであり、鍵盤楽器22のMIDIインターフェイスに接続することで、MIDI信号のやりとりが可能となる。
出力コード33の端子33aは例えば、MIDI端子あるいはUSB端子である。端子33aがMIDI端子である場合は、コントローラ部31に電源電池が内蔵される構成をとるのが望ましい。端子33aがUSB端子である場合は、鍵盤楽器22から電力供給を受けることが可能であり、コントローラ部31に電池を内蔵することは不要となる。その場合、USB端子の電源ライン以外のラインによってMIDI信号がパケット信号にて送受信される。
図1(b)は、コントローラ部31の内部構成を示す模式図である。コントローラ部31は、呼気圧及び吸気圧を検出する圧力検出装置を含んでいる。コントローラ部31には、基板38が配設され、基板38に出力端子39、気圧センサ37が配設される。出力端子39は、MIDI信号を出力可能な端子であり、出力コード33を接続可能である。
コントローラ部31には、空気圧が独立するようにダイヤフラム35で仕切られた第1室R1と第2室R2が形成される。気圧センサ37は第2室R2内に配置される。第2室R2には、操作により大気に対して第2室R2を開放または遮蔽することが可能な開閉弁36が設けられる。第1室R1には、マウスピース32を接続可能な接続部34が設けられる。マウスピース32を接続部34に接続した状態で、奏者が息を吐いたり吸ったりすると、第1室R1の内圧が変化してダイヤフラム35が変位する。ダイヤフラム35があるため、第2室R2に奏者の息等の湿気が直接に入り込むことはない。マウスピース32には、過剰な空気を逃がすための開口(図示せず)が設けられている。
開閉弁36を綴じた状態で、ダイヤフラム35の変位に応じて第2室R2の内圧が変化する。気圧センサ37は、第2室R2の内圧の変化を検出し、検出値に応じた検出信号を出力する。気圧センサ37はデジタル式の圧力センサであり、例えば、ボッシュ社のBMP−180(登録商標)等が採用される。検出される圧力は、初期状態の第2室R2の圧力である基準圧P0に対する相対的な圧力値であり、正圧値、負圧値のいずれも検出値となり得る。なお、検出に際し、開閉弁36を操作して一端大気開放とすれば、基準圧P0を大気圧と一致させるようリセットすることができる。気圧センサ37としては、呼気圧及び吸気圧を検出可能であればよく、例示の構成に限定されない。
また、コントローラ部31には、表示装置21が電気的に接続可能となっている。表示装置21は、LEDでなる複数の発光部L(L1〜L8)を有する。表示装置21は、ブレスコントローラ30に実装してもよい。あるいは、表示装置21に相当する装置を鍵盤楽器22に設けておき、MIDI信号と並行して表示用制御信号を鍵盤楽器22に送信するようにしてもよい。あるいは、表示装置21に相当する装置を奏者の腕等の身体に装着できるようにしてもよい。
図2は、ブレスコントローラ30の機能構成を示すブロック図である。
CPU11には、バス10を介して、タイマ12、ROM13、RAM14、記憶部15、音声発生部16、インターフェイス(I/F)17、表示I/F18、MIDI I/F19、その他I/F20及び操作部23が接続される。気圧センサ37の検出信号はI/F17を通じてCPU11に供給される。CPU11から、表示I/F18を通じて、発光部Lの発光を制御するための信号が表示装置21に送られる。MIDI I/F19は、UART(Universal Asynchronous Receiver Transmitter)等のインターフェイスである。その他I/F20には、無線または有線用の通信インターフェイスや、MIDI以外の信号の送受を行うためのインターフェイスが含まれる。
MIDI I/F19は、専用のものに限らず、RS−232CやUSB(ユニバーサル・シリアル・バス)、IEEE1394(アイトリプルイー1394)等の汎用のインターフェイスより構成してもよい。この場合、MIDIメッセージ以外のデータも同時に送受信してもよい。USB等を採用して、鍵盤楽器22から電力の供給を受けるようにしてもよい。
CPU11は、コントローラ部31全体の制御を司る。ROM13は、CPU11が実行する制御プログラムや各種テーブルデータ等を記憶する。RAM14は、演奏データ、テキストデータ等の各種入力情報、各種フラグやバッファデータ及び演算結果等を一時的に記憶する。タイマ12は、タイマ割り込み処理における割り込み時間等の各種時間を計時する。記憶部15は、書き換え可能な不揮発性メモリ等でなり、図3で後述する対応情報TBLを格納している。オリジナルの対応情報TBLは記憶部15に格納しておき、その内容が加工されたものも記憶部15に別途保持されるとする。なお、対応情報TBLは、記憶部15からRAM14に読み出して変更や変換の処理に用いるようにしてもよい。操作部23は、電源のオン/オフや各種の指示の入力に用いられる。
図3(a)〜(c)、(g)は、対応情報TBLの例を示す図である。
本実施の形態では、対応情報TBLを用いて、気圧センサ37の検出値をMIDI値に変換し、それをMIDIメッセージの信号としてMIDI I/F19(出力端子39)から外部に出力する。対応情報TBLは、圧力値と信号値との対応関係を規定する情報であればよく、関数であってもよいが、本実施の形態では変換テーブルを例示する。
本実施の形態では、対応情報TBLを用いるのは、実質的には正圧値だけであり、負圧値は、対応情報TBLの変更(選択や補正)に用いる。ところで、「呼気圧や正圧値が大きい」とは、圧力が高いことを意味し、「吸気圧や負圧値が大きい」とは、圧力が低いこと、すなわち真空の度合いが高いことを意味する。正圧値、負圧値はいずれも、基準圧P0に対する相対的な値であり、単位はhPA(ヘクトパスカル)とする。
対応情報TBLは、予め複数用意されており、テーブルTBL1〜TBL3のうちいずれか1つを選択して用いることになる。各対応情報TBLにおいて、呼気圧(正圧値)に対応して信号値であるMIDI値(ベロシティ)が規定されている。例えば、圧力範囲が20hPAのものと30hPAのものとで、図3(a)〜(c)に示すように、カーブの異なるものがそれぞれ3種類ずつ用意されている。
対応情報TBLの変更には、このように複数の中から用いるものを選択することのほか、図3(d)〜(f)に例示するように、補正や加工という態様もある。例えば、テーブルの中点(変曲点)を上下または左右に移動させる(図3(d)、(e))。または、曲線の傾きを変更する(図3(f))。このほか、曲線全体をシフトする態様もあり得る。
このような補正は、算術式を用いて無段階になされるようにしてもよいが、本実施の形態では、操作を簡単にするために、予め定めた複数の段階で変化(段階切替)させるようにしている。このほか、テーブル自体は補正せずに、MIDIメッセージを切り替えること(例えば、BC(ブレスコントロール)とピッチベンドとで切り替え)、あるいは音色切替等を、対応情報TBLの変更の概念に含めてもよい。
対応情報TBLを用いて変換された値のMIDI信号が供給される鍵盤楽器22では、MIDI信号は楽音の制御に用いられる。例えば、鍵盤楽器22で、設定された音色にて鍵盤演奏を行う際に、ブレスコントローラ30から供給されるMIDI信号によってその発生する楽音が制御される。ブレスコントローラ30は口で操作されるため、鍵盤楽器22で管楽器の音色の楽音を発生させつつ、その楽音パラメータを制御するような場合に特に好適である。
ブレスコントローラ30を用いて鍵盤楽器22にMIDI信号を出力しつつ楽音制御を行う際には、出力コード33でコントローラ部31の出力端子39と鍵盤楽器22とを接続する。そして、マウスピース32を圧力検出装置の接続部34に接続した状態で、奏者が呼気または吸気でブレスコントローラ30を操作する。
コントローラ部31のモードには、信号出力モードと対応変更モードとがある。信号出力モード(以下、出力モードとも略記する)は、現在の選択・設定状態にある対応情報TBLを用いて、気圧センサ37で検出される正圧値に応じたMIDI信号を出力するモードである。対応変更モード(以下、変更モードとも略記する)は、気圧センサ37で検出される負圧状態に応じて、対応情報TBLにおける正圧値とMIDI信号の値との対応関係を変更するモードである。互いのモードの切り替えは、後述する所定の吸気操作により行える。
ところで、変更モードにおいては、対応情報TBLの変更を、複数段階の階層に分けて行える。階層数は3以上でもよいが、本実施の形態では2つの階層を採用する。第1の階層では、対応情報TBLとして複数記憶されたテーブルTBL1〜TBL3(図3(a)〜(c)参照)のうち1つを選択する。それより下の第2の階層では、上記選択されたテーブルTBLを補正する。第2の階層での補正の態様としては、テーブルの中点(変曲点)移動、または曲線全体シフトを採用してもよいが、以降は曲線の傾きの変更(図3(f)参照)を採用するものとして説明する。
なお、各階層に採用する変更内容は例示であり、組み合わせは一例に限定されない。例えば、第1の階層で圧力範囲の選択(20hPAまたは30hPA)、第2の階層でテーブルTBL1〜TBL3の選択を行うようにしてもよい。このような各階層に適用する内容の設定は、出力モードにおいて操作部23により設定することができる。以下、ブレスコントローラ30の呼気・吸気操作によるMIDI信号の出力の動作を図4〜図7を用いて説明する。
図4は、気圧センサ37の検出圧力の遷移を示すタイムチャートである。
検出された吸気圧が第1の変化態様で変化した場合に現在のモードが出力モードと変更モードとの間で切り替わる。本実施の形態では、第1の変化態様は、所定の負圧値P1(例えば−5hPA)以上の負圧状態が第1の所定時間T1(例えば500ms)以上継続した場合とする。
図4に示すように、コントローラ部31の電源をオンにすると、最初は出力モードとなる(フェーズF0)。吸気操作により負圧となり、吸気圧が所定の負圧値P1以上となってそれが第1の所定時間T1以上継続すると(フェーズF1)、モードが出力モードから変更モードに切り替わる。
ところで、変更モードにおいては、所定の負圧状態となったことに応じて対応情報TBLの変更を行う。一例として、所定の負圧状態となった連続回数に応じた段階だけ対応情報TBLの選択切り替えや補正を行う。ここで、所定の負圧状態は、検出された負圧値(吸気圧)が基準圧P0以上の値から所定の負圧値P1以上の負圧状態になったこととしている。
変更モードに切り替わった直後は第1の階層となっている(フェーズF2)。この状態で奏者が吸気を繰り返す。その際、吸気を完全に解除すれば検出圧力は基準圧P0に復帰するので、次の吸気と区別される。従って、短い吸気を繰り返すと、その都度、テーブルTBL1→TBL2→TBL3→TBL1という順序で選択が段階的に切り替わる。最初はテーブルTBL1が選択状態となっているとする。吸気回数が切り替わり可能な段階以上になると、テーブルTBLの選択は一巡して元(テーブルTBL1)に戻る。図4の例では、第1の階層において、負圧値が所定の負圧値P1以上に3回なり、選択が3段階切り替わる結果、テーブルTBL1が選択される。
階層自体の切り替えは、検出圧力≧P0の状態が階層切替間隔Tc以上継続したときになされる(フェーズF3)。ただし、いずれの階層においても、検出圧力≧P0の状態が第2の所定時間T2以上継続すると、出力モードに切り替わる。そのため、第1の階層において階層を切り替えるには、第2の所定時間T2以内で階層切替間隔Tc以上、検出圧力≧P0の状態とする必要がある。その操作としては、吸気を階層切替間隔Tc以上解除し、第2の所定時間T2以内に次の吸気操作を再開すればよい。なお、階層切替間隔Tcは、例えば500msであり、第2の所定時間T2は階層切替間隔Tcや第1の所定時間T1よりも長い値(例えば、2000ms)である。
階層が第2の階層に切り替わると(フェーズF4)、第1の階層と同様の吸気操作により、所定の負圧状態となった連続回数に応じた段階だけテーブルTBLの傾きが段階的に切り替わる。従って、短い吸気を繰り返すと、その都度、選択されたテーブルTBL(TBL1)の傾きが切り替わる。吸気回数が切り替わり可能な段階以上になると、テーブルTBLの傾きは一巡して元に戻る。図4の例では、第2の階層において、負圧値が所定の負圧値P1以上に3回なり、テーブルTBLの傾きが3段階切り替わる。
最下層である第2の階層において、検出圧力≧P0の状態から吸気圧が所定の負圧値P1以上となってそれが第1の所定時間T1以上継続すると(フェーズF5)、モードが変更モードから出力モードに切り替わる。このとき、選択や補正の状態、用いる対応情報TBL(選択されたテーブル及び傾き)が確定される。
出力モードにおいては、確定した対応情報TBLにより、検出される正圧値を変換して対応する信号値を生成し、それをMIDI信号として出力する(フェーズF6以降)。なお、正圧値を変換するか否かの閾値を設けてもよい。例えば、検出圧力が+2hPA以上になった場合にのみ、MIDI信号が出力されるようにしてもよい。
ところで、本実施の形態では、呼気・吸気による操作、検出圧力、モードや階層や補正段階の切り替わり、MIDI信号の出力動作等、各状態を奏者に報知するために、音声発生部16による音声や表示装置21による表示処理を実行する。その態様に限定はないが、図1に示す表示装置21の発光部Lの点灯/消灯による報知の一例を示しておく。
例えば、発光部L1はモードの表示に用いられ、出力モードと変更モードとで点滅間隔を異ならせる。また、発光部L2はMIDI信号の出力状態の表示に用いられ、正圧値に応じた点滅間隔で点滅させる。発光部L3〜L5は第1の階層、発光部L6〜L8は第2の階層にて、それぞれどの段階が選択されているのかを、点灯により報知する。なお、点滅と点灯と点滅間隔による区別だけでなく、発光色の変化を報知に用いてもよい。また、消費電力抑制のため、各発光部Lの点灯は非常に細かい点滅にて代用してもよい。
図5は、メイン処理のフローチャートである。この処理はCPU11により実行され、ブレスコントローラ30の電源オンにより開始される。
まず、初期化処理を実行する(ステップS101)。ここでは、所定プログラムの実行を開始し、各インターフェイス、ポート、フラグ、レジスタを初期化し、気圧センサ37の初期設定、タイマ12の起動も行う。気圧センサ37の初期設定においては、基準圧P0の計測、温度測定、圧力測定、検出した温度及び圧力を元にした物理単位の計算等が行われる。
次に、タイマ割込処理を実行する(ステップS102)。すなわち、一定時間(例えば500μs)の経過を待って処理をステップS103に進める。ステップS103では、表示処理の開始の指示を行う。この指示がなされる毎に、各状態を奏者に報知するための、上記説明した表示処理が開始、実行される。この表示処理のルーチンは図示はしないが、CPU11により一定時間間隔で実行されることになる。
続いてステップS104では信号関連処理(図6)の開始の指示を行う。次に、その他処理を実行し(ステップS105)、ステップS102に処理を戻す。その他処理には、操作部23による各種指示の受け付け等の処理が含まれる。
図6は、信号関連処理のフローチャートである。この処理は、信号関連処理の開始の指示がなされる毎に開始され、従って、CPU11により一定時間間隔で実行されることになる。
まず、気圧センサ37から検出圧力(圧力値)を取得する(ステップS201)。その際、温度測定開始及びその値の取得、圧力測定開始及びその値の取得等がなされる。現在の検出圧力値は現在圧力値nowPとして最新の値が取得される。次に、現在のモードが出力モードであるかを、現在のモードを示すモードフラグmode=出力モードであるか否かにより判別する(ステップS202)。
その判別の結果、mode=変更モードであれば、後述する図7の変更モード処理を実行して(ステップS206)、図6の処理を終了してメイン処理に戻る。しかし、mode=出力モードであれば、現在圧力値nowP<基準圧P0であるか否かを判別する(ステップS203)。その判別の結果、nowP<基準圧P0でない場合は、負圧状態でないから、前回のMIDI信号の送信から10msが経過しているか否かを判別し(ステップS207)、10msが経過していない場合は、今回はMIDI信号の出力を行うことなく図6の処理を終了する。
しかし前回のMIDI信号の送信から10msが経過している場合は、現在確定している対応情報TBLを用いて正圧値に対応するMIDI値を求め(ステップS208)、それをMIDI信号としてMIDI I/F19(出力端子39)から出力する(ステップS209)(出力手段)。従って、正圧状態が継続していれば、10ms毎にMIDI信号が出力されることになる。
一方、ステップS203で、nowP<基準圧P0である場合は、負圧状態であるから、所定の負圧値P1以上の負圧状態が第1の所定時間T1以上継続したか否かを判別する(ステップS204)。その判別の結果、所定の負圧値P1以上の負圧状態が第1の所定時間T1以上継続した場合は、モードを出力モードから変更モードに切り替える一方(ステップS205)(切り替え手段)、そうでない場合は、モード切り替えを行うことなく図6の処理を終了する。
図7は、図6のステップS206で実行される変更モード処理のフローチャートである。
まず、現在圧力値nowP<基準圧P0であるか否かを判別する(ステップS301)。その判別の結果、nowP<基準圧P0でない場合は、切替フラグを「0」に設定する(ステップS309)。ここで切替フラグは、各階層において段階切替(テーブル選択や傾き補正等)がなされた後であって且つ現在圧力値nowPが基準圧P0以上に未だ至らない状態を「1」で示すフラグである。
次に、nowP<基準圧P0の状態が第2の所定時間T2以上継続したか否かを判別し(ステップS310)、第2の所定時間T2以上継続した(第1の変化態様)場合は、処理をステップS303に進める一方、第2の所定時間T2以上継続していない場合は、nowP<基準圧P0の状態が階層切替間隔Tc継続したか否かを判別する(ステップS311)。その判別の結果、階層切替間隔Tc継続していない場合は図7の処理を終了する。
しかし階層切替間隔Tc継続した場合は、現在の階層が第1の階層であるか否かを判別し(ステップS312)、第1の階層であれば下位階層、すなわち、第2の階層に階層を切り替えて(ステップS313)、図7の処理を終了する。一方、現在の階層が第1の階層でない場合は、階層切替を行うことなく図7の処理を終了する。
ステップS301の判別の結果、nowP<基準圧P0である場合は、負圧状態であるから、所定の負圧値P1以上の負圧状態が第1の所定時間T1以上継続したか否かを判別する(ステップS302)。その判別の結果、所定の負圧値P1以上の負圧状態が第1の所定時間T1以上継続(第1の変化態様)した場合は、処理をステップS303に進める一方、そうでない場合は、切替フラグ=0であるか否かを判別する(ステップS304)。
その判別の結果、切替フラグ=0である場合は、現在圧力値nowPが最後に所定の負圧値P1以上の負圧状態になってから階層における段階切替を未だ実施していない状態(第2の変化態様)であるから、処理をステップS305に進める。ステップS305では、現在の階層が第1の階層であるか否かを判別し、第1の階層であれば第1の階層における段階切替を行う(ステップS306)(変更手段)。すなわちここではテーブルの選択の段階を1つ進める。一方、現在の階層が第1の階層でないなら第2の階層であるので、第2の階層における段階切替を行う(ステップS308)(変更手段)。すなわちここではテーブルにおける傾き補正の段階を1つ進める。次に、切替フラグを「1」に設定して(ステップS307)、図7の処理を終了する。
ステップS303では、所定の負圧値P1以上の負圧状態が第1の所定時間T1以上継続したか、またはnowP<基準圧P0の状態が第2の所定時間T2以上継続した場合であるので、その状態における対応情報TBLを確定させる処理を行う。すなわち、現在の対応情報TBLの選択状態(選択テーブル)及び補正状態(傾き)を記憶部15に反映させ、用いるべき対応情報TBLを確定させる。それと並行して、切替フラグを「0」に設定し、さらにモードフラグmode=出力モードとして(切り替え手段)、図7の処理を終了する。
本実施の形態によれば、対応情報TBLを用いて、呼気操作によって、呼気圧に対応する値のMIDI信号を出力するに際し、対応情報TBLにおける圧力値と信号値との対応関係を吸気操作によって変更することができる。よって、呼気で楽音制御を行うと共に、呼気圧に対応する信号値を吸気操作によって変更することができる。ひいては、多彩な楽音制御を行うための設定環境を、手足を使うことなく奏者個人の特性に合わせて簡単な口の操作で切り替えることができる。
また、モード切り替えを可能とし、出力モードでは呼気によりMIDI信号を出力すると共に、変更モードでは吸気により対応情報TBLの変更を行うので、信号出力操作と対応関係変更操作とを明確に分けて行える。従って、奏者にとって操作が理解しやすく、習得が容易である。
また、モード切り替え操作は第1の変化態様(図7のステップS302、S310)が生じたことで実施され、対応情報TBLにおける圧力値と信号値との対応関係の変更は、所定の負圧状態となった場合に実施される。すなわち、変更モードの期間中に吸気圧が第1の変化態様とは異なる第2の変化態様で変化した場合に実施される。これにより、モード切り替え操作と対応関係変更操作とを明確に分けて行える。また、変更モードは複数の階層を有し、各階層において段階切替が実施可能であるので、対応関係の細かな変更が可能となる。
ところで、オーケストラの指揮タイミングより早めの発音動作を行ういわゆる突っ込み演奏における突っ込みの程度を対応情報TBLの選択によって調節するという応用も可能である。図3(g)には、対応情報TBLとして3つのテーブルTBL1〜TBL3が一緒に示してある。例えば、図3(g)に例示する3つのテーブルTBLから1つのテーブルを選択して用い、MIDI値によって音量が制御されるとする。テーブルTBL1は直線的であるが、テーブルTBL2は低い圧力に対してだけ上昇が緩やかなカーブであり、テーブルTBL3は、さらに立ち上がりが緩やかなカーブとなっている。テーブルTBL1が選択されると突っ込み無しの演奏となり、テーブルTBL2、TBL3が選択されると、それぞれ、発音開始タイミングが少し早い、かなり速い状態の突っ込み有りの演奏となる。
一般に、管楽器の特性として、アンブッシュアへの息圧付加と実発音との関係をみると、管楽器系は、打楽器や爪段楽器等の発弦楽器と比べると発音開始が遅い。熟練の指揮者においては、それを考慮して、管楽器系の奏者に対して早めのタイミングで指揮をし、突っ込み演奏をさせることがある。しかしこれは指揮者の技量に依存する要素が大きい。
これに対し、図3(g)のようなテーブル選択を行えるようにすることで、突っ込み演奏の突っ込み早さの個人差を簡単に変更することができる。特に、ブレスコントローラ30を、好適な管楽器系の入力装置として適用した場合に利点が大きい。すなわち、突っ込み早さの調節が可能であることは、高度なテクニックとしての突っ込み演奏をしなくても合奏しやすくなる。一方、突っ込み演奏を十分に習得している奏者はテーブル選択にたよることなく突っ込み演奏を行うことも可能である。従って、奏者の個人に応じたテーブル選択により最適な突っ込み演奏を実現することができる。
なお、各階層での段階切替において、吸気の繰り返しにより段階を進めるために、一旦、nowP<基準圧P0となることが必要であった。しかし、所定の負圧値P1より小さい負圧の閾値を設け、現在圧力値nowPが基準圧P0まで戻らなくとも、負圧の閾値にまで戻れば、次の所定の負圧値P1以下の負圧により段階を進める構成としてもよい。
なお、本実施の形態では、吸気圧が、所定の負圧状態となった連続回数に応じて各段階の切替(対応関係の変更)がなされるとしたが、これに限るものではない。例えば、所定の負圧状態となった継続時間に基づいて対応関係を変更するようにしてもよい。その場合、所定の負圧値P1より大きい閾値を超える大きな負圧状態が継続した時間によって、進める段階を決めてもよい。あるいは所定の負圧状態となったときのピーク値に基づいて対応関係を変更するようにしてもよい。その場合、所定の負圧値P1より大きい閾値を超えた負圧値のピーク値によって、進める段階を決めてもよい。
なお、対応情報TBLの変更(階層における段階切替)を判断するための所定の負圧状態(ないし第2の変化態様)については、上記説明は例示であり、対応情報TBLにおける圧力値と信号値との対応関係の変更を吸気圧に基づいて行う構成であればよい。従って、吸気圧のどのような挙動を採用するかにつき各種の構成が考えられる。モード切り替えを判断するための第1の変化態様についても同様である。
なお、対応情報TBLを用いて、正圧値に対応する値の信号を出力する際、出力する信号はMIDI信号に限定されず、シリアル信号等、楽音制御に用いることが可能な信号であればよい。従って、楽音制御以外の用途に用いることが可能な信号であってもよい。出力のためのインターフェイスないし端子は、その信号に応じて設計すればよい。
ブレスコントローラ30の用途としては、鍵盤楽器22に限られず、ボーカロイド(登録商標)やDAW(Digital Audio Workstation)における楽音に抑揚等の効果を付与・設定するのに好適である。そのほかの楽器としては、電子ハーモニカ、ボイスパーカッション等も考えられる。
また、楽器に限られず、ボイスレッスンやカラオケでの練習にも適用可能で、家電用の操作リモコン、通信端末装置、楽音や文字の入力用のインターフェイス等として応用することも可能である。さらに、3軸加速度センサやジャイロセンサ、照度センサ等を組み合わせて、身体が不自由な者に限られず、あらゆるデバイスの操作に利用できる。