以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。なお、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
<実施形態1>
(全体構成)
図1は、実施形態1に係る車両用試験装置1(動力系の試験装置)の概略構成を示すブロック図である。車両用試験装置1は、供試体であるトランスミッション等を回転させた状態で該供試体の各種測定データを得るための試験装置である。本実施形態では、車両用試験装置1は、トランスミッション2(回転体、動力系の供試体)に駆動連結される駆動側ダイナモ11(回転体、入力側回転体)及び負荷側ダイナモ12(回転体、出力側回転体)と、該駆動側ダイナモ11及び負荷側ダイナモ12を駆動制御するための制御装置21(制御部)とを備える。なお、本実施形態では、動力系の試験装置として、車両用試験装置1の例を挙げているが、動力伝達系の一部を構成する他の部品の試験装置や、他の用途の試験装置であってもよい。また、トランスミッション2は、内部にモータや発電機等を含んだ構成であってもよい。
駆動側ダイナモ11及び負荷側ダイナモ12は、それぞれ、電動モータであり、入力電流に応じて回転数及び出力トルクが制御される。駆動側ダイナモ11及び負荷側ダイナモ12の構成は、一般的な電動モータと同様であるため、詳しい説明を省略する。駆動側ダイナモ11及び負荷側ダイナモ12には、それぞれ、図示しない回転子の回転速度を検出するための回転速度センサ13,14が設けられている。
駆動側ダイナモ11の回転子は、中間軸15を介してトランスミッション2の回転軸(図示省略)に接続されている。なお、駆動側ダイナモ11の回転子と中間軸15とは、両者にそれぞれ設けられたカップリング同士がボルトによって締結されることにより、駆動連結されている。また、中間軸15とトランスミッション2の回転軸も、同様に、カップリング同士がボルトによって締結されることにより、駆動連結されている。
負荷側ダイナモ12の回転子は、中間軸16を介してトランスミッション2の回転軸(図示省略)に接続されている。なお、負荷側ダイナモ12の回転子と中間軸16とは、両者にそれぞれ設けられたカップリング同士がボルトによって締結されることにより、駆動連結されている。また、中間軸16とトランスミッション2の回転軸も、同様に、カップリング同士がボルトによって締結されることにより、駆動連結されている。
中間軸15には、駆動側ダイナモ11とトランスミッション2との間に生じるトルクを検出するためのトルク計17(トルク検出器、入力側トルク検出器)が設けられている。中間軸16には、負荷側ダイナモ12とトランスミッション2との間に生じるトルクを検出するためのトルク計18(トルク検出器、出力側トルク検出器)が設けられている。トルク計17,18は、それぞれ、中間軸15,16に生じるねじれ角の差を検出する。トルク計17,18では、検出したねじれ角の差から中間軸15,16に生じるトルクを求め、トルク信号T12,T23として出力する。なお、トルク計17,18からねじれ角の差に対応する信号を出力して、制御装置21によってトルク値を算出してもよい。トルク計17,18の構成は、一般的なトルク計の構成と同様なので、詳しい説明を省略する。
車両用試験装置1は、トルク計17,18から出力されるトルク信号T12,T23を用いて、駆動側ダイナモ11、負荷側ダイナモ12及びトランスミッション2に生じるトルクを求めるトルク検出部20を有する。トルク検出部20は、トルク計17,18と、該トルク計17,18から出力されるトルク信号T12,T23に基づいて駆動側ダイナモ11、負荷側ダイナモ12及びトランスミッション2に生じるトルクを算出するトルク算出部52とを有する。なお、トルク計17,18は、それぞれ、中間軸15,16上に設けられている。そのため、以下の説明において、駆動側ダイナモ11で生じるトルクとは、駆動側ダイナモ11に生じるトルクだけでなく、中間軸15の一部で生じるトルクも含む。同様に、トランスミッション2に生じるトルクとは、トランスミッション2に生じるトルクだけでなく、中間軸15,16の一部で生じるトルクも含む。負荷側ダイナモ12で生じるトルクとは、負荷側ダイナモ12に生じるトルクだけでなく、中間軸16の一部で生じるトルクも含む。本実施形態では、上述のように各慣性体で生じるトルクに中間軸で生じるトルクも含まれているが、各慣性体に生じるトルクを他の方法によって検出することにより、各慣性体のみに生じるトルクを求めるようにしてもよい。
トルク算出部52は、トルク計17,18から出力されるトルク信号T12,T23と後述する補正後トルク指令T1ref,T3refとを用いて、駆動側ダイナモ11、負荷側ダイナモ12及びトランスミッション2でそれぞれ生じるトルクを求める。具体的には、トルク算出部52は、駆動側補正後トルク指令T1refとトルク計17から出力されるトルク信号T12との差を求める減算器52aと、負荷側補正後トルク指令T3refとトルク計18から出力されるトルク信号T23とを加算する加算器52bと、トルク計17,18から出力されるトルク信号T12,T23の差を求める減算器52cとを備える。減算器52aによって、駆動側ダイナモ11に生じるトルクを求めることができる。加算器52bによって、負荷側ダイナモ12に生じるトルクを求めることができる。減算器52cによって、トランスミッション2に生じるトルクを求めることができる。
なお、トルク検出部20の構成は、駆動側ダイナモ11、負荷側ダイナモ12及びトランスミッション2にそれぞれ生じるトルクを求めることが可能な構成であれば、どのような構成であってもよい。また、トルク算出部52は、後述する制御装置21内に設けられていてもよい。
制御装置21は、駆動側ダイナモ11及び負荷側ダイナモ12を駆動制御するとともに、駆動側ダイナモ11、負荷側ダイナモ12及びトランスミッション2でそれぞれ生じるトルクから減衰トルクを求めて、駆動側ダイナモ11及び負荷側ダイナモ12のトルク指令を補正する。具体的には、制御装置21は、駆動側ダイナモ11を駆動制御する駆動側制御部22(入力側制御部)と、負荷側ダイナモ12を駆動制御する負荷側制御部23(出力側制御部)と、減衰トルク信号TD1,TD3を求める減衰トルク導出部24とを有する。
駆動側制御部22は、駆動側トルク指令T01refに応じて駆動側ダイナモ11を駆動制御するように構成されている。具体的には、駆動側制御部22は、指令変換部31(T/I)と、電流制御部32(ACR)と、減算器33(トルク指令補正部)とを備える。
指令変換部31には、駆動側制御部22に入力される駆動側トルク指令T01refと、後述する減衰トルク導出部24で生成された減衰トルク信号TD1との差分合成値(駆動側補正後トルク指令)が、入力される。指令変換部31は、入力された信号を電流指令に変換して出力する。
なお、差分合成とは、回転方向を考慮した物理量を合成することを意味する。また、差分合成値とは、回転方向を考慮した物理量を合成することで取得される物理量である。なお、回転方向の設定については、任意である。回転方向に応じて、トルク値等の加減算処理の極性を適宜変更することにより、ねじり振動に対する減衰効果を得ることができる。
例えば、駆動側トルク指令を「正」、負荷側トルク指令を「負」とした場合、減衰トルク信号が「正」となるように極性を定義している。このため、減衰トルク信号の極性を逆に定義した場合、それに応じて、動力系の試験装置の加減算処理等の極性を適宜変更すればよい。減衰トルク信号の極性を逆に定義した場合であっても、当然、ねじり振動に対する減衰効果を同様に高めることができる。
電流制御部32は、指令変換部31から出力される電流指令に応じて、駆動側ダイナモ11に対して入力電流を供給する。
減算器33は、駆動制御部22に入力される駆動側トルク指令T01refと後述する減衰トルク信号TD1との差を、駆動側補正後トルク指令T1refとして出力する。すなわち、この減算器33によって、駆動側トルク指令T01refと減衰トルク信号TD1との差分合成値が求められる。
負荷側制御部23も、駆動側制御部22と同様、指令変換部41(T/I)と、電流制御部42(ACR)と、加算器43(トルク指令補正部)とを備える。指令変換部41及び電流制御部42は、駆動側制御部22の指令変換部31及び電流制御部32と同様の構成なので、詳しい説明を省略する。
加算器43は、負荷側制御部23に入力される負荷側トルク指令T03refに、後述の減衰トルク信号TD3を加算して、負荷側補正後トルク指令として出力する。すなわち、この加算器43によって、負荷側トルク指令T03refと減衰トルク信号TD3との差分合成値が求められる。
減衰トルク導出部24は、駆動側ダイナモ11、負荷側ダイナモ12及びトランスミッション2でそれぞれ生じるトルクから、駆動側ダイナモ11とトランスミッション2との回転角加速度差及びトランスミッション2と負荷側ダイナモ12との回転角加速度差を求めて、駆動側トルク指令及び負荷側トルク指令を補正する減衰トルク信号TD1,TD3を求める。具体的には、減衰トルク導出部24は、角加速度差演算部51と、駆動側減衰トルク演算部61と、負荷側減衰トルク算出部71とを有する。
角加速度差算出部51は、駆動側ダイナモ11とトランスミッション2との回転角加速度差、及び、トランスミッション2と負荷側ダイナモ12との回転角加速度差を、それぞれ算出する。詳しくは、角加速度差演算部51は、角加速度算出部53(回転角加速度算出部)と角加速度差算出部54とを有する。
角加速度算出部53は、トルク算出部52で算出されたトルクから、駆動側ダイナモ11、負荷側ダイナモ12及びトランスミッション2の各加速度をそれぞれ求める。詳しくは、角加速度算出部53は、駆動側ダイナモ角加速度算出部53aと、負荷側ダイナモ角加速度算出部53bと、トランスミッション角加速度算出部53cとを有する。
駆動側ダイナモ角加速度算出部53aは、減算器52aから出力された駆動側ダイナモ11のトルク値を、該駆動側ダイナモ11の慣性モーメントJ1(中間軸15の一部の慣性モーメントも含む。以下、同じ)で除すことにより、回転角加速度信号α1を得る。負荷側ダイナモ角加速度算出部53bは、加算器52bから出力された負荷側ダイナモ12のトルク値を、該負荷側ダイナモ12の慣性モーメントJ3(中間軸16の一部の慣性モーメントも含む。以下、同じ)で除すことにより、回転角加速度信号α3を得る。トランスミッション角加速度算出部53cは、減算器52cから出力されたトランスミッション2のトルク値を、該トランスミッション2の慣性モーメントJ2(中間軸15,16の一部の慣性モーメントも含む。以下、同じ)で除すことにより、回転角加速度信号α2を得る。
角加速度差算出部54は、駆動側ダイナモ11とトランスミッション2との回転角加速度差、及び、トランスミッション2と負荷側ダイナモ12との回転角加速度差を算出する。詳しくは、角加速度差算出部54は、駆動側ダイナモ11とトランスミッション2との回転角加速度差Δα12を求める減算器54aと、トランスミッション2と負荷側ダイナモ12との回転角加速度差Δα23を求める減算器54bとを備える。
駆動側減衰トルク演算部61は、駆動側ダイナモ11とトランスミッション2との回転角加速度差Δα12から回転角速度差Δω12を求めて、該Δω12を用いて減衰トルク信号TD1を求める。詳しくは、駆動側減衰トルク演算部61は、回転角加速度差Δα12から回転角速度差Δω12を求める積分器62と、回転角速度差Δω12に所定の減衰係数D12を乗じて減衰トルク信号TD1を求める減衰トルク算出部63とを備える。
負荷側減衰トルク演算部71は、トランスミッション2と負荷側ダイナモ12との回転角加速度差Δα23から回転角速度差Δω23を求めて、該Δω23を用いて減衰トルク信号TD3を求める。詳しくは、負荷側減衰トルク演算部71は、回転角加速度差Δα23から回転角速度差Δω23を求める積分器72と、回転角速度差Δω23に所定の減衰係数D23を乗じて減衰トルク信号TD3を求める減衰トルク算出部73とを備える。
駆動側減衰トルク演算部61で算出された減衰トルク信号TD1は、駆動側制御部22の駆動側トルク指令T01refに帰還される。負荷側減衰トルク演算部71で算出された減衰トルク信号TD3は、負荷側制御部23の負荷側トルク指令T03refに帰還される。
なお、本実施形態では、角加速度算出部53、角加速度差算出部54及び積分器62,72によって、回転角速度差導出部が構成される。また、角加速度差算出部54及び積分器62,72によって、回転角速度差算出部が構成される。
(車両用試験装置の動作)
まず、3慣性体(本実施形態では駆動側ダイナモ11、トランスミッション2、負荷側ダイナモ12)の軸系で生じるトルクを、図2に示すブロック線図を用いて説明する。なお、図2において、各符号の意味は以下のとおりである。
T1:駆動側ダイナモ11の駆動側トルク指令T01refに対応するトルク
T3:負荷側ダイナモ12の負荷側トルク指令T03refに対応するトルク
T12:駆動側ダイナモ11とトランスミッション2との間に生じる軸トルク
T23:トランスミッション2と負荷側ダイナモ12との間に生じる軸トルク
J1:駆動側ダイナモ11の慣性モーメント
J2:トランスミッション2の慣性モーメント
J3:負荷側ダイナモ12の慣性モーメント
K12:駆動側ダイナモ11及びトランスミッション2のバネ定数
K23:トランスミッション2及び負荷側ダイナモ12のバネ定数
D12:駆動側ダイナモ11及びトランスミッション2の減衰係数
D23:トランスミッション2及び負荷側ダイナモ12の減衰係数
α1:駆動側ダイナモ11の回転角加速度
α2:トランスミッション2の回転角加速度
α3:負荷側ダイナモ12の回転角加速度
ω1:駆動側ダイナモ11の回転角速度
ω2:トランスミッション2の回転角速度
ω3:負荷側ダイナモ12の回転角速度
Δω12:駆動側ダイナモ11とトランスミッション2との回転角速度差
Δω23:トランスミッション2と負荷側ダイナモ12との回転角速度差
Δθ12:駆動側ダイナモ11とトランスミッション2とのねじれ角
Δθ23:トランスミッション2と負荷側ダイナモ12とのねじれ角
図2に示すように、駆動側ダイナモ11及び負荷側ダイナモ12にそれぞれトルクT1,T3が生じると、駆動側ダイナモ11、トランスミッション2及び負荷側ダイナモ12にはそれぞれ回転角加速度α1,α2,α3が生じる。駆動側ダイナモ11の回転角加速度α1とトランスミッション2の回転角加速度α2との差Δα12を積分することで、回転角速度差Δω12が得られる。この回転角速度差Δω12によって、駆動側ダイナモ11とトランスミッション2との間に減衰係数D12に応じて減衰トルクが生じる。
一方、回転角速度差Δω12をさらに積分することによって、ねじれ角Δθ12が得られる。このねじれ角Δθ12によって、駆動側ダイナモ11とトランスミッション2との間にバネ定数K12に起因するトルクが生じる。
したがって、駆動側ダイナモ11とトランスミッション2との間には、減衰係数D12に応じた減衰トルクとバネ定数K12に起因するトルクとの和が軸トルクT12として生じる。
同様に、トランスミッション2の回転角加速度α2と負荷側ダイナモ12の回転角加速度α3との差Δα23を積分することで、回転角速度差Δω23が得られる。この回転角速度差Δω23によって、トランスミッション2と負荷側ダイナモ23との間に減衰係数D23に応じて減衰トルクが生じる。
一方、回転角速度差Δω23をさらに積分することによって、ねじれ角Δθ23が得られる。このねじれ角Δθ23によって、トランスミッション2と負荷側ダイナモ12との間にバネ定数K23に起因するトルクが生じる。
したがって、トランスミッション2と負荷側ダイナモ12との間にも、減衰係数D23に応じた減衰トルクとバネ定数K23に起因するトルクとの和が軸トルクT23として生じる。
このように、軸トルクT12,T23は、バネ定数K12,K23に起因するトルクだけでなく、減衰要素による減衰トルクも含まれる。
なお、減衰係数D12,D23は、ねじり振動の共振倍率に対して反比例の関係にある。そのため、減衰係数D12,D23の値を大きくすることにより、ねじり振動の共振倍率を低く抑えることができ、ねじり振動の増大を抑制できる。
ところで、実際の車両等であれば、振動に対する減衰要素としてタイヤなどがあるが、車両用試験装置には、ねじり振動に対する機械的な減衰要素が非常に少ない。そのため、車両用試験装置では、本実施形態のねじり共振周波数が振動と一致した場合にねじり共振が発生しやすい。特に、本実施形態のように、供試体としてトランスミッションを用いる場合には、減衰要素となる部品がほとんどないため、さらにねじり共振が生じやすくなる。
これに対し、本実施形態では、車両用試験装置1の軸系に対して制御的に減衰トルクを付与することにより、共振時のねじり振動の増大を抑制する。すなわち、本実施形態では、図2において減衰係数D12,D23に応じて得られる減衰トルクの代わりに、トルク指令を減衰トルク信号TD1,TD3によって補正することにより、駆動側ダイナモ11及び負荷側ダイナモ12で生じるトルクを制御する。
すなわち、本実施形態の車両用試験装置1では、駆動側制御部22によって駆動側ダイナモ11の駆動を制御し、負荷側制御部23によって負荷側ダイナモ12の駆動を制御する際に、駆動側ダイナモ11、トランスミッション2及び負荷側ダイナモ12にそれぞれ生じるトルクを用いて、減衰トルク導出部24が減衰トルク信号TD1,TD3を算出する。そして、車両用試験装置1では、算出された減衰トルク信号TD1,TD3を用いて、それぞれ、駆動側制御部22の駆動側トルク指令T01ref及び負荷側制御部23の負荷側トルク指令T03refを補正する。
減衰トルク信号TD1,TD3を算出する減衰トルク導出部24の動作について、以下で詳しく説明する。
減衰トルク導出部24では、角加速度差演算部51が、駆動側ダイナモ11、トランスミッション2及び負荷側ダイナモ12でそれぞれ生じるトルクを用いて、駆動側ダイナモ11とトランスミッション2との回転角加速度差、及び、トランスミッション2と負荷側ダイナモ12との回転角加速度差を算出する。
詳しくは、トルク算出部52に対して、駆動側補正後トルク指令T1ref、トルク計17,18から出力されるトルク信号T12,T23、負荷側補正後トルク指令T3refが入力される。そうすると、トルク算出部52では、減算器52aによって、駆動側補正後トルク指令T1refとトルク計17から出力されるトルク信号T12との差、すなわち、駆動側ダイナモ11に生じるトルクを求める。また、トルク算出部52では、減算器52cによって、トルク計17から出力されるトルク信号T12とトルク計18から出力されるトルク信号T23との差、すなわち、トランスミッション2に生じるトルクを求める。さらに、トルク算出部52では、加算器52bによって、トルク計18から出力されるトルク信号T23と負荷側補正後トルク指令T3refとの和、すなわち、負荷側ダイナモ12に生じるトルクを求める。
トルク算出部52でそれぞれ求められたトルクを用いて、角加速度差演算部51の角加速度算出部53で回転角加速度が算出される。具体的には、角加速度算出部53の駆動側ダイナモ角加速度算出部53aでは、駆動側ダイナモ11で生じたトルクの値を該駆動側ダイナモ11の慣性モーメントJ1で除して、駆動側ダイナモ11の回転角加速度α1を算出する。角加速度差演算部51の負荷側ダイナモ角加速度算出部53bでは、負荷側ダイナモ12で生じたトルクの値を該負荷側ダイナモ12の慣性モーメントJ3で除して、負荷側ダイナモ12の回転角加速度α3を算出する。角加速度差演算部51のトランスミッション角加速度算出部53cでは、トランスミッション2で生じたトルクの値を該トランスミッション2の慣性モーメントJ2で除して、トランスミッション2の回転角加速度α2を算出する。
角加速度差演算部51で算出された回転角加速度α1,α2,α3を用いて、角加速度差算出部54によって、駆動側ダイナモ11とトランスミッション2との回転角加速度差Δα12、及び、トランスミッション2と負荷側ダイナモ12との回転角加速度差Δα23がそれぞれ算出される。具体的には、角加速度差算出部54の減算器54aによって、駆動側ダイナモ11の回転角加速度α1とトランスミッション2の回転角加速度α2との差Δα12が算出される。角加速度差算出部54の減算器54bによって、トランスミッション2の回転角加速度α2と負荷側ダイナモ12の回転角加速度α3との差Δα23が算出される。
角加速度差算出部54で算出された回転角加速度差Δα12,Δα23を用いて、駆動側減衰トルク演算部61及び負荷側減衰トルク演算部71によって、減衰トルクTD1,TD3が算出される。具体的には、駆動側減衰トルク演算部61の積分器62によって、回転角加速度差Δα12を積分することにより、回転角速度差Δω12が算出される。減衰トルク算出部63によって、算出された回転角速度差Δω12に減衰係数を乗じることにより、減衰トルク信号TD1を得る。なお、負荷側減衰トルク演算部71も同様の演算によって、回転角加速度差Δα23から減衰トルク信号TD3を得る。
減衰トルク導出部24で得られた減衰トルク信号TD1,TD3は、それぞれ、駆動側制御部22の減算器33及び負荷側制御部23の加算器43に入力される。これにより、駆動側トルク指令T01refは、減衰トルク信号TD1によって補正されて、駆動側補正後トルク指令T1refとなり、負荷側トルク指令T03refは、減衰トルク信号TD3によって補正されて、負荷側補正後トルク指令T3refとなる。
駆動側制御部22は、駆動側補正後トルク指令T1refによって、駆動側ダイナモ11の駆動を制御する。負荷側制御部23は、負荷側補正後トルク指令T3refによって、負荷側ダイナモ12の駆動を制御する。
本実施形態では、駆動側ダイナモ11、トランスミッション2(供試体)及び負荷側ダイナモ12の3つの慣性体を含む軸系を備えた車両用試験装置1において、各慣性体で生じるトルクから回転角速度差Δω12,Δω23を求める。そして、該各速度差Δω12,Δω23を用いて算出した減衰トルク信号TD1,TD3によって、駆動側トルク指令T01ref及び負荷側トルク指令T03refを補正する。これにより、車両用試験装置1の軸系に対して制御的に減衰トルクを付与することができるため、ねじり共振によってねじり振動が増大するのを効果的に抑制することができる。
図3に、本実施形態の構成を適用した場合の車両用試験装置1において、トルク指令に対するボード線図を示す。図3に示すように、単にダイナモ11の速度制御のみを行った場合(図中のねじり共振抑制制御なし、図中の破線)には、特定の周波数で大きく共振が生じる。これに対し、本実施形態の構成を適用した場合(図中のねじり共振抑制制御あり、図中の実線)には、特定の周波数(100Hz以下の周波数)での共振の発生を抑制することができる。したがって、本実施形態の構成によって、軸系のねじり振動を効果的に抑制できることが分かる。
また、本実施形態では、減衰トルク導出部24の角加速度差演算部51によって、各慣性体で生じるトルクと各慣性体の慣性モーメントとを用いて、各慣性体の回転角加速度を求め、慣性体同士の回転角加速度差を算出する。これにより、慣性体同士の回転角加速度差を容易に且つ精度良く算出することができる。
さらに、本実施形態では、慣性体同士の回転角加速度差を積分器62,72によって積分することにより、回転角速度差Δω12,Δω23を算出する。これにより、各速度差を容易に且つ精度良く算出することができる。
(実施形態1の変形例1)
図4に、実施形態1の変形例1に係る車両用試験装置80の構成を示す。この車両用試験装置80は、トルク算出部52に入力される信号が駆動側トルク指令T01ref及び負荷側トルク指令T03refである点で、実施形態1の構成とは異なる。以下の説明では、実施形態1と同一の構成には同一の符号を付し、実施形態1と異なる構成についてのみ説明する。
図4に示すように、トルク算出部52の減算器52aには、駆動側トルク指令T01ref及びトルク計17から出力されるトルク信号T12が入力される。トルク算出部52の加算器52bには、負荷側トルク指令T03ref及びトルク計18から出力されるトルク信号T23が入力される。これにより、減算器52aは、駆動側トルク指令T01refとトルク信号T12との差を、駆動側ダイナモ11で生じたトルクの値として出力する。また、加算器52bは、負荷側トルク指令T03refとトルク信号T23との和を、負荷側ダイナモ12で生じたトルクの値として出力する。
なお、上述以外の構成は、実施形態1の車両用試験装置1の構成と同様である。
図4に示すような構成でも、車両用試験装置80の軸系に対して減衰トルクを付与することができ、ねじり振動の増大を抑制することができる。
(実施形態1の変形例2)
図5に、実施形態1の変形例2に係る車両用試験装置90の構成を示す。この車両用試験装置90は、減衰トルク導出部92の積分器62,72と減算器54a,54bとの間にハイパスフィルタ93,94(HPF)を設けた点で、実施形態1の構成とは異なる。以下の説明では、実施形態1と同一の構成には同一の符号を付し、実施形態1と異なる構成についてのみ説明する。
図5に示すように、減衰トルク導出部92は、積分器62と減算器54aとの間に設けられたハイパスフィルタ93を有する。また、減衰トルク導出部92は、積分器72と減算器54bとの間に設けられたハイパスフィルタ94を有する。ハイパスフィルタ93には、減算器54aから出力される回転角加速度差Δα12が入力される。ハイパスフィルタ94には、減算器54bから出力される回転角加速度差Δα23が入力される。
ハイパスフィルタ93,94は、所定の周波数成分(所定の周波数帯域の信号成分))を通過させる周波数特性を有する。すなわち、ハイパスフィルタ93,94は、直流成分を低減させる周波数特性を有する。したがって、ハイパスフィルタ93,94は、入力される回転角加速度差Δα12,Δα23に含まれる直流成分を低減して、積分器62,72に対して出力する。
なお、上述の構成以外は、実施形態1の車両用試験装置1の構成と同様である。
図5に示すように、ハイパスフィルタ93,94によって回転角加速度差Δα12,Δα23に含まれる直流成分を低減することにより、該回転角加速度差Δα12,Δα23に含まれる定常偏差を除去することが可能になる。したがって、上述の構成により、軸系のねじり振動の増大を効果的に抑制可能な減衰トルク信号を得ることができる。
なお、角加速度算出部53、角加速度差算出部54、ハイパスフィルタ93,94及び積分器62,72によって、回転角速度差導出部が構成される。また、角加速度差算出部54、ハイパスフィルタ93,94及び積分器62,72によって、回転角速度差算出部が構成される。
(実施形態1の変形例3)
図6に、実施形態1の変形例3に係る車両用試験装置100の構成を示す。この車両用試験装置100は、トルク算出部52に入力される信号が駆動側トルク指令T01ref及び負荷側トルク指令T03refである点で、実施形態1の変形例2の構成とは異なる。以下の説明では、実施形態1の変形例2と同一の構成には同一の符号を付し、実施形態1の変形例2と異なる構成についてのみ説明する。
図6に示すように、実施形態1の変形例1と同様、トルク算出部52の減算器52aには、駆動側トルク指令T01ref及びトルク計17から出力されるトルク信号T12が入力される。トルク算出部52の加算器52bには、負荷側トルク指令T03ref及びトルク計18から出力されるトルク信号T23が入力される。
なお、上述以外の構成は、実施形態1の変形例2の車両用試験装置90の構成と同様である。
図6に示すような構成でも、車両用試験装置100の軸系に対して減衰トルクを付与することができ、ねじり振動の増大を抑制することができる。
<実施形態2>
図7に、実施形態2に係る車両用試験装置110の構成を示す。この車両用試験装置110は、制御装置111(制御部)の減衰トルク導出部112において、積分器の代わりにローパスフィルタ115,117を用いるとともに、減衰トルク算出部116,118ではゲインを用いて減衰トルク信号を算出する点で、実施形態1の構成とは異なる。以下の説明では、実施形態1と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1と異なる構成についてのみ説明する。
図7に示すように、減衰トルク導出部112の駆動側減衰トルク演算部113は、ローパスフィルタ115(LPF1)及び減衰トルク算出部116を有する。また、減衰トルク導出部112の負荷側減衰トルク演算部114も、ローパスフィルタ117(LPF3)及び減衰トルク算出部118を有する。
ローパスフィルタ115には、減算器54aから出力される回転角加速度差Δα12が入力される。ローパスフィルタ117には、減算器54bから出力される回転角加速度差Δα23が入力される。
ローパスフィルタ115,117は、一次遅れフィルタによって実現される。ローパスフィルタ115,117の伝達特性を示すボード線図の一例を図8A及び図8Bに示す。
一次遅れフィルタの伝達関数G(s)は、τをフィルタの時定数、sをラプラス変換の変数(s=jω)とすると、
G(s)=1/(1+τs)
で表される。
ここで、τが1に比べて十分大きい場合には、G(s)は1/τsとなるため、1次遅れフィルタは積分要素(1/s)と同様の機能を果たす。すなわち、一次遅れフィルタは、カットオフ周波数よりも高い周波数範囲であれば、積分と同様の機能を果たす。
よって、本実施形態のように、ローパスフィルタ115,117に対して回転角加速度差Δα12,Δα23を入力することにより、カットオフ周波数よりも高い周波数領域では、積分器と同様の機能を果たして、回転角速度差Δω12,Δω23を出力する。
減衰トルク算出部116,118は、ローパスフィルタ115,117から出力される回転角速度差Δω12,Δω23に対して所定のゲインを乗じることにより、減衰トルク信号TD1,TD3を出力する。
なお、ローパスフィルタ115,117の時定数τ1は以下のように設定するのが好ましい。
車両用試験装置110の制御遅れ(トルク計17,18でのトルク検出遅れ、駆動用ダイナモ11または負荷用ダイナモ12の電流制御で発生する遅れ、制御部111での処理演算の遅れ、装置内の信号処理の遅れ等)の時定数をτ2とし、τ1+τ2により算出される合計時定数をτaとすると、1/τaは、2πf、2πfに近い値(例えば、0.5×2πfから2×2πfの範囲)、または2πfよりも小さい値が好ましい。なお、fは、車両用試験装置110の軸系のねじり共振周波数である。よって、ローパスフィルタ115,117の時定数τ1は、上述の関係を満たすような値に設定するのが好ましい。ローパスフィルタ115,117の時定数τ1を、上述の関係を満たす値に設定することで、車両用試験装置110の軸系のねじり振動をより効果的に抑制することができる。
なお、トルク計17,18や駆動用ダイナモ11及び負荷用ダイナモ12の電流制御の応答周波数を、軸系のねじり共振周波数に対して十分高く設定できない場合には、ローパスフィルタ115,117のカットオフ周波数をねじり共振周波数付近に設定すればよい。これにより、ねじり振動に対する高い減衰効果を得つつ、トルク制御の応答性を高めることができる。
本実施形態では、減衰トルクを算出する減衰トルク導出部112において、積分器の代わりに、ローパスフィルタ115,117を用いる。これにより、ローパスフィルタ115,117のカットオフ周波数よりも高い周波数領域では、実施形態1の積分器と同様、回転角加速度差Δα12,Δα23から回転角速度差Δω12,Δω23を求めることができる。
また、ローパスフィルタ115,117の時定数τ1を、該時定数τ1を含む合計時定数τaの逆数1/τaが2πf、2πfに近い値、または2πfよりも小さい値となるように設定することで、装置の軸系のねじり振動を効果的に抑制することができる。しかも、ローパスフィルタ115,117の時定数τ1は、装置のそれ外の時定数τ2に応じて設定されるため、合計時定数τaが上述の関係を満たしていれば、ローパスフィルタ115,117の時定数τ1を時定数τ2の変化に応じて最適な値に設定することができる。
さらに、トルク計17,18や、駆動側ダイナモ11及び負荷側ダイナモ12の電流制御の応答周波数が機械のねじり共振周波数に対して十分高くないと、回転角速度差Δω12,Δω23に定常偏差が発生する。この場合、例えば、ローパスフィルタ115,117において、ローパスフィルタのカットオフ周波数をねじり共振周波数よりも低く設定すれば、ねじり共振周波数に対しては積分要素となり、ねじり共振を抑制できるとともに、定常偏差が発生してもゼロに収束させる効果がある。この収束スピードは、LPFのカットオフ周波数をねじり共振周波数に近づけるほど速くなる。したがって、トルク計17,18や、駆動側ダイナモ11及び負荷側ダイナモ12の電流制御の応答周波数が機械のねじり共振周波数に対して十分高く設計できない場合には、LPFのカットオフ周波数をねじり共振周波数の付近に設定するのが好ましい。これにより、車両用試験装置110において、高い減衰効果を維持したまま、定常偏差を抑制し、トルク指令に対する発生トルクの追従性を高めることができる。
なお、本実施形態では、角加速度算出部53、角加速度差算出部54及びローパスフィルタ115,117によって、回転角速度差導出部が構成される。また、角加速度差算出部54及びローパスフィルタ115,117によって、回転角速度差算出部が構成される。
(実施形態2の変形例1)
図9に、実施形態2の変形例1に係る車両用試験装置120の構成を示す。この車両用試験装置120は、トルク算出部52に入力される信号が駆動側トルク指令T01ref及び負荷側トルク指令T03refである点で、実施形態2の構成とは異なる。以下の説明では、実施形態2と同一の構成には同一の符号を付し、実施形態2と異なる構成についてのみ説明する。
図9に示すように、トルク算出部52の減算器52aには、駆動側トルク指令T01ref及びトルク計17から出力されるトルク信号T12が入力される。トルク算出部52の加算器52bには、負荷側トルク指令T03ref及びトルク計18から出力されるトルク信号T23が入力される。これにより、減算器52aは、駆動側トルク指令T01refとトルク信号T12との差を、駆動側ダイナモ11で生じたトルクの値として出力する。また、加算器52bは、負荷側トルク指令T03refとトルク信号T23との和を、負荷側ダイナモ12で生じたトルクの値として出力する。
なお、上述以外の構成は、実施形態2の車両用試験装置110の構成と同様である。
図9に示すような構成でも、車両用試験装置120の軸系に対して減衰トルクを付与することができ、ねじり振動の増大を抑制することができる。
<実施形態3>
図10に、実施形態3に係る車両用試験装置130の構成を示す。この車両用試験装置130は、トルク計17,18から出力されるトルク信号T12,T23を、トランスミッション2の変速比に応じて変換する点で、実施形態1の構成とは異なる。以下の説明では、実施形態1と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1と異なる構成についてのみ説明する。
図10に示すように、車両用試験装置130のトルク検出部131は、トルク変換部132(変速比補正部)を備える。トルク変換部132は、トルク計17,18からそれぞれ出力されるトルク信号T12,T23を、トランスミッション2の変速比に応じて変換する。すなわち、トルク変換部132は、トランスミッション2で生じるトルクを算出する際に、該トランスミッション2の変速比に応じてトルク計17,18からそれぞれ出力されるトルク信号T12,T23を変換する。
ここで、トランスミッション2は、入力側に連結された駆動側ダイナモ11の回転数を変速比に応じて所定の回転数に変換して、負荷側ダイナモ12を該所定の回転数で回転させる。そのため、トランスミッション2の入力側に連結された駆動側ダイナモ11と、トランスミッション2の出力側に連結された負荷側ダイナモ12とでは、発生するトルクが異なる。一般的に、車両のトランスミッションでは、トランスミッションの入力側に比べて出力側の回転数は低く、トルクは高い。よって、中間軸15,16に設けられたトルク計17,18からそれぞれ出力されるトルク信号をそのまま用いてトランスミッション2に生じるトルクを算出すると、実際にトランスミッション2に生じているトルクとは異なる値が算出される。
本実施形態では、トルク変換部132は、トランスミッション2の出力側に位置するトルク計18から出力されるトルク信号T23を変速比で除す一方、トランスミッション2の入力側に位置するトルク計17から出力されるトルク信号T12に変速比を乗じる。これにより、トルク計17,18から出力されるトルク信号において、トランスミッション2の変速比による影響をなくすことができる。
具体的には、トルク変換部132は、変速比出力部133と除算器134と乗算器135とを備える。変速比出力部133は、トランスミッション2の変速比を検出して変速比信号として出力する。除算器134は、変速比信号に応じて、トランスミッション2の出力側に位置するトルク計18から出力されるトルク信号T23を除して、補正後トルク信号T23´を得る。乗算器135は、変速比信号に応じて、トランスミッション2の入力側に位置するトルク計17から出力されるトルク信号T12を乗じて、補正後トルク信号T12´を得る。
このようにトルク変換部132で算出された補正後トルク信号T12´,T23´は、後述のトルク算出部136の減算器136b,136cに出力される。
トルク算出部136は、駆動側ダイナモ11に生じるトルクを算出するための減算器136aと、トランスミッション2に生じるトルクを算出するための減算器136b,136c(トランスミッショントルク算出部)と、負荷側ダイナモ12に生じるトルクを算出するための加算器136dとを有する。
減算器136a及び加算器136dの構成は、それぞれ、実施形態1におけるトルク算出部52の減算器52a及び加算器52bと同様であるため、詳しい説明を省略する。
減算器136bは、トランスミッション2の入力側に位置するトルク計17から出力されるトルク信号T12と、トルク変換部132で算出された補正後トルク信号T23´との差を求める。すなわち、減算器136bは、トランスミッション2の入力側に生じるトルクと該トランスミッション2の変速比を考慮した出力側のトルクとの差を求めることにより、トランスミッション2に実際に生じているトルクを求める。
減算器136bで算出されたトランスミッション2で生じるトルクは、トルク信号として後述の角加速度算出部137のトランスミッション角加速度算出部137bに出力される。
減算器136cは、トルク変換部132で算出された補正後トルク信号T12´と、トランスミッション2の出力側に位置するトルク計18から出力されるトルク信号T23との差を求める。すなわち、減算器136cは、トランスミッション2の変速比を考慮した入力側のトルクと該トランスミッション2の出力側に生じるトルクとの差を求めることにより、トランスミッション2に実際に生じているトルクを求める。
減算器136cで算出されたトランスミッション2で生じるトルクは、トルク信号として後述の角加速度算出部137のトランスミッション角加速度算出部137cに出力される。
制御装置139の角加速度算出部137は、駆動側ダイナモ角加速度算出部137aと、トランスミッション角加速度算出部137bと、トランスミッション角加速度算出部137cと、負荷側ダイナモ角加速度算出部137dとを有する。
駆動側ダイナモ角加速度算出部137a及び負荷側ダイナモ角加速度算出部137dの構成は、それぞれ、実施形態1における角加速度算出部53の駆動側ダイナモ角加速度算出部53a及び負荷側ダイナモ角加速度算出部53bと同様であるため、詳しい説明を省略する。
トランスミッション角加速度算出部137bは、トルク算出部136の減算器136bから出力されたトルク信号を、トランスミッション2の慣性モーメントJ2で除すことにより、該トランスミッション2の回転角加速度α2を求める。トランスミッション角加速度算出部137bで算出された回転角加速度α2は、角加速度差算出部54の減算器54aに出力される。
トランスミッション角加速度算出部137cは、トルク算出部136の減算器136cから出力されたトルク信号を、トランスミッション2の慣性モーメントJ2で除すことにより、該トランスミッション2の回転角加速度α2を求める。トランスミッション角加速度算出部137cで算出された回転角加速度α2は、角加速度差算出部53の減算器54bに出力される。
なお、トランスミッション2の変速比が1以外の場合、トランスミッション角加速度算出部137bで用いられる慣性モーメントJ2と、トランスミッション角加速度算出部137cで用いられる慣性モーメントJ2とは、異なる値になる。すなわち、トランスミッション角加速度算出部137bで用いられる慣性モーメントJ2は、中間軸15を含むトランスミッション2の軸系の慣性モーメントであり、トランスミッション角加速度算出部137cで用いられる慣性モーメントJ2は、中間軸16を含むトランスミッション2の軸系の慣性モーメントである。そのため、トランスミッション2の変速比が1以外になると、それに合わせて、トランスミッション角加速度算出部137b及びトランスミッション角加速度算出部137cで用いる慣性モーメントJ2の値は変更される。
上記以外の構成は、実施形態1の車両用試験装置1と同様の構成を有する。
本実施形態では、トランスミッション2の入力側及び出力側にそれぞれ位置するトルク計17,18から出力されるトルク信号T12,T23を、トランスミッション2の変速比を考慮してトルク変換部132によって変換する。これにより、トランスミッション2に実際に生じるトルクを求めることが可能になる。したがって、トランスミッション2と駆動側ダイナモ11の回転角速度差Δω12、及び、トランスミッション2と負荷側ダイナモ12の回転角速度差Δω23をそれぞれ精度良く求めることができる。
(実施形態3の変形例1)
図11に、実施形態3の変形例1に係る車両用試験装置140の構成を示す。この車両用試験装置140は、制御装置141(制御部)の減衰トルク導出部142において、積分器の代わりにローパスフィルタ115,117を用いるとともに、減衰トルク算出部116,118ではゲインを用いて減衰トルク信号を算出する点で、実施形態3の構成とは異なる。以下の説明では、実施形態3と同一の構成には同一の符号を付し、実施形態3と異なる構成についてのみ説明する。
図11に示すように、減衰トルク導出部142の駆動側減衰トルク演算部143は、ローパスフィルタ115及び減衰トルク算出部116を有する。また、減衰トルク導出部142の負荷側減衰トルク演算部144も、ローパスフィルタ117及び減衰トルク算出部118を有する。
ローパスフィルタ115及びローパスフィルタ117は、実施形態2のローパスフィルタ115,117と同様の構成を有する。したがって、本実施形態のローパスフィルタ115,117も、一次遅れフィルタによって構成されている。なお、ローパスフィルタ115,117の時定数τ1も、実施形態2と同様、該時定数τ1を含む装置の合計時定数τaの逆数1/τaが2πf、2πfに近い値、または2πfよりも小さい値となるように設定するのが好ましい。これにより、装置の軸系のねじり振動を効果的に抑制することができる。
減衰トルク算出部116,118も、実施形態2の減衰トルク算出部116,118と同様の構成を有する。したがって、減衰トルク算出部116,118は、ローパスフィルタ115,117から出力される回転角速度差Δω12,Δω23に対して所定のゲインを乗じることにより、減衰トルク信号TD1,TD3を出力する。
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
前記各実施形態では、車両用試験装置1,80,90,100,110,120,130,140の供試体としてトランスミッション2のユニットを用いている。しかしながら、トランスミッションを構成する一部の部品の組立体(ギヤ組立体、CVTベルト及びプーリーの組立体、クラッチ、トルクコンバータなど)、または、動力系を構成するプロペラシャフトやデファレンシャルギヤ、ドライブシャフトなどを供試体として、車両用試験装置によって評価試験を行ってもよい。
前記各実施形態では、車両用試験装置1,80,90,100,110,120,130,140は、駆動側ダイナモ11、トランスミッション2及び負荷側ダイナモ12の3つの慣性体を連結した軸系を有する。しかしながら、車両用試験装置を構成する慣性体の数は4つ以上であってもよい。この場合でも、各慣性体で生じるトルクから回転角加速度を求め、該回転角加速度から隣り合う慣性体の回転角速度差を求めることにより、減衰トルクを得ればよい。
前記各実施形態では、制御装置21,81,91,101,111,121,139,141は、駆動側トルク指令T01ref及び負荷側トルク指令T03refの両方に対して減衰トルク信号TD1,TD3で補正を行う。しかしながら、駆動側トルク指令T01refまたは負荷側トルク指令T03refのいずれか一方のみを減衰トルク信号によって補正してもよい。
前記各実施形態では、制御装置21,81,91,101,111,121,139,141は、駆動側トルク指令T01refまたは駆動側補正後トルク指令T1refと、トルク計17から出力されるトルク信号T12との差から、駆動側ダイナモ11に生じるトルクを求めている。また、制御装置21,81,91,101,111,121,139,141は、負荷側トルク指令T03refまたは負荷側補正後トルク指令T3refと、トルク計18から出力されるトルク信号T23とに基づいて、負荷側ダイナモ12に生じるトルクを求めている。さらに、制御装置21,81,91,101,111,121,139,141は、トルク計17、18から出力されるトルク信号T12,T23に基づいて、トランスミッション2に生じるトルクを求めている。しかしながら、制御装置は、駆動側ダイナモ11、トランスミッション2及び負荷側ダイナモ12でそれぞれ生じるトルクを求めることが可能な構成であれば、他の構成でもよい。
前記各実施形態では、駆動側減衰トルク演算部61,113,143と負荷側減衰トルク演算部71,114,144とは、同様の構成を有する。しかしながら、駆動側減衰トルク演算部と負荷側減衰トルク演算部とが異なる構成を有していてもよい。すなわち、例えば、駆動側減衰トルク演算部が積分器またはローパスフィルタの一方を備えていて、負荷側減衰トルク演算部が積分器またはローパスフィルタの他方を備えていてもよい。特に、トルク制御の精度の観点から、駆動側減衰トルク演算部が積分器を備えていて、負荷側減衰トルクがローパスフィルタを備えている構成が好ましい。
前記各実施形態では、制御装置21,81,91,101,111,121,139,141は、駆動側ダイナモ11、トランスミッション2及び負荷側ダイナモ12での回転角加速度をそれぞれ求めた後、回転角加速度差を求めて、回転角速度差を算出する。しかしながら、制御装置は、例えば各慣性体の回転角加速度から回転角速度を算出した後、慣性体同士の回転角速度差を算出するなど、回転角速度差を算出可能な構成であればどのような構成であってもよい。
前記各実施形態における制御装置21,81,91,101,111,121,139,141を、集積回路や回路基板上に構成してもよい。また、制御装置21,81,101,111,139,141の機能をソフトウェア等によって実現してもよい。また、制御装置21,81,91,101,111,121,139,141を、複数の装置や回路に分割してもよい。
前記実施形態2、3において、積分器62,72またはローパスフィルタ115,117と、減算器54a,54bとの間に、実施形態1の変形例2と同様のハイパスフィルタを設けてもよい。
前記実施形態3において、トルク算出部136の減算器136aに、駆動側補正後トルク指令T1refの代わりに、駆動側トルク指令T01refを入力してもよい。また、トルク算出部136の加算器136dに、負荷側補正後トルク指令T3refの代わりに、負荷側トルク指令T03refを入力してもよい。
前記実施形態2及び実施形態3の変形例1では、ローパスフィルタ115,117は、一次遅れフィルタである。しかしながら、ローパスフィルタ115,117は、二次以上の遅れフィルタであってもよい。
前記実施形態2及び実施形態3の変形例1では、制御装置111,141のローパスフィルタ115,117を用いている。ローパスフィルタの時定数は変速比に関係なく一定でもよいし、車両用試験装置の軸系のねじり共振周波数がトランスミッション2の変速比に応じて変化するため、ローパスフィルタの時定数を変速比に応じて変更してもよい。例えば、トランスミッション2の変速比に応じて最適なローパスフィルタの時定数をメモリ等に予め記憶しておき、トランスミッション2の変速比に応じてローパスフィルタの時定数を変更してもよい。これにより、トランスミッション2を含む軸系において、より効果的にねじり振動を減衰することができる。