JP6058566B2 - ポリアミド9t樹脂シートを用いた成形方法 - Google Patents

ポリアミド9t樹脂シートを用いた成形方法 Download PDF

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Description

本発明は、耐熱性、低吸水性、耐薬品性等に優れるポリアミド9T樹脂シートを用いた成形方法に関するものである。
ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド12樹脂、及びポリアミド46樹脂等の脂肪ポリアミド樹脂は、機械的強度、電気的性質、耐摩耗性、耐熱性、耐寒性、耐薬品性、印刷適性、及びガスバリヤー性等に優れた性質を発揮する。この優れた性質に鑑み、脂肪族ポリアミド樹脂から得られる成形品は、医薬・食品、情報電子・電気機器、医療用機器、自動車等の広範囲な分野で使用が提案され、利用されている。
ところで近年、医薬・食品、情報電子・電気機器、医療用機器、あるいは自動車等の分野の成形品には、小型・薄型・軽量、高耐熱、低吸水性が望まれている。しかしながら、脂肪族ポリアミド樹脂は、高吸水性であるため、吸水時の成形品の寸法安定性、機械的性質、及び電気的性質が低下したり、成形中の発泡現象等に悪影響が生じる。また、自動車分野で使用される場合には、耐熱性が不足したり、ガソリンやエンジンオイル等に対する耐薬品性に問題が生じる。
このような脂肪族ポリアミド樹脂の問題点を解決するため、ポリアミド6T樹脂、変性ポリアミド6T樹脂、ポリアミド9T樹脂、ポリアミド10T樹脂、ポリアミド11T樹脂等の半芳香族ポリアミド樹脂が提案され、利用されている。これらの半芳香族アミド樹脂の中では、ポリアミド9T樹脂が耐熱性、低吸水性、耐薬品性、成形性、及び価格等の点で最適である。
ポリアミド9T樹脂製の成形品は、その大部分が射出成形されるが、多様な成形品を大量に、しかも、低価格で成形するため、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形等の熱成形による成形が望まれている。ポリアミド9T樹脂を用いて真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形等の熱成形を行う場合には、ポリアミド9T樹脂を用いた押出成形により一旦ポリアミド9T樹脂シートを成形し、その後、ポリアミド9T樹脂シートを使用して熱成形するのが一般的である。
しかし、ポリアミド9T樹脂シートを熱成形する場合、ポリアミド9T樹脂のような結晶性樹脂は、溶融張力が小さいため、ドローダウン(垂れ下がり現象)しやすく、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形等の熱成形が困難である。係るドローダウンの発生を防止するため、従来においては、(1)例えば熱可塑性エンジニアリング樹脂にアクリルポリマーを添加する方法(特許文献1参照)、(2)ポリアミド9T樹脂にメチルメタクリレートとアクリル酸及び/又はメタクリル酸の共重合体を添加する方法(特許文献2参照)、(3)ポリアミド9T樹脂にアクリル系共重合体を添加する方法(特許文献3参照)が提案されている。
特開平1‐268761号公報 特開平8‐67815号公報 特開2008‐255215号公報
しかしながら、(1)、(2)、(3)の方法を採用する場合には、ドローダウンをある程度抑制することができるものの、アクリルポリマーや所定の共重合体の添加により、ポリアミド9T樹脂の優れた特性の喪失を招くという大きな問題が新たに生じることとなる。また、ポリアミド9T樹脂シートによる単なる熱成形では、ポリアミド9T樹脂シートが軟化しなかったり、ポリアミド9T樹脂シートが溶融し、成形品を熱成形できないことがある。さらに、例えポリアミド9T樹脂シートにより成形品を熱成形できたとしても、ポリアミド9T樹脂の優れた特性が失われたり、成形品が変形するおそれがある。
本発明は上記に鑑みなされたもので、ポリアミド9T樹脂の優れた特性の喪失を招くことが少なく、変形させることなく成形品を熱成形することのできるポリアミド9T樹脂シートを用いた成形方法を提供することを目的としている。
本発明においては上記課題を解決するため、ポリアミド9T樹脂シートを用いて成形品を熱成形する成形方法であって、
ポリアミド9T樹脂シートを、貯蔵弾性率(E’)がポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)〜〔ガラス転移点(Tg)+25℃以下〕の温度範囲中で一旦2.0×10Pa以下に低下する部分を有し、かつ相対結晶化度が90%以下のシートとしてその厚さを3〜500μmとし、このポリアミド9T樹脂シートを、ポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)〜〔ガラス転移点(Tg)+25℃以下〕の温度範囲で予備加熱し、その後、ポリアミド9T樹脂シートを、ポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)〜融点未満の温度範囲の金型により熱成形することを特徴としている。
なお、ポリアミド9T樹脂含有の成形材料をポリアミド9T樹脂の融点〜370℃の温度範囲で溶融混練し、この溶融混練した成形材料をポリアミド9T樹脂の融点〜370℃の温度範囲に設定したダイスから連続的に押し出してポリアミド9T樹脂シートを成形し、このポリアミド9T樹脂シートを160℃以下に冷却してその厚さを3〜500μmとすることができる。
また、ダイスから連続的に押し出して成形したポリアミド9T樹脂シートを160℃以下の圧着ロールと冷却ロールとに挟持させることができる。
ここで、特許請求の範囲におけるポリアミド9T樹脂シートには、少なくとも厚さ100μm前後のポリアミド9T樹脂フィルムが含まれる。このポリアミド9T樹脂シートには、必要に応じてコロナ処理、プラズマ処理、酸処理、火炎処理、コーティング処理等の表面処理が施される。ポリアミド9T樹脂シートの成形材料は、不活性ガスを供給しながら溶融混練することができる。
熱成形には、少なくとも型の孔等を通じ、この型とポリアミド9T樹脂シートとの空間を真空にし、ポリアミド9T樹脂シートを吸着して成形する真空成形、圧縮空気によりポリアミド9T樹脂シートを型に圧着して成形する圧空成形、真空圧空成形、プレス成形等が含まれる。さらに、圧着ロールや冷却ロールの下流には、ポリアミド9T樹脂シート用の巻取機を設置し、圧着ロール及び冷却ロールと巻取機との間に、ポリアミド9T樹脂シートにスリットを形成する刃と、ポリアミド9T樹脂シートにテンションを作用させる回転可能なテンションロールとを配設することができる。
本発明によれば、ポリアミド9T樹脂シートを使用して所定の成形品を熱成形する場合には、先ず、用意したポリアミド9T樹脂シートを予備加熱する。この際、ポリアミド9T樹脂シートを、ポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)〜〔ガラス転移点(Tg)+25℃以下〕の温度範囲で予備加熱して軟化させる。こうしてポリアミド9T樹脂シートを予備加熱したら、このポリアミド9T樹脂シートを金型により熱成形することにより、所定の成形品を得ることができる。この熱成形の際、金型の温度を、ポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)〜融点未満の範囲に設定し、熱成形中の結晶化度を進行させる。
本発明によれば、ポリアミド9T樹脂の優れた特性の喪失を招くことが少なく、変形させることなく成形品を熱成形することができるという効果がある。また、ポリアミド9T樹脂シートが3〜500μmの厚さなので、ポリアミド9T樹脂シートの機械的強度が低下するのを抑制することができる。
請求項2記載の発明によれば、溶融混練時の温度とダイスの押し出し時の温度とがそれぞれポリアミド9T樹脂の融点〜370℃の範囲なので、円滑な溶融押出成形が期待でき、しかも、成形材料中のポリアミド9T樹脂が分解するおそれも少ない。また、ポリアミド9T樹脂シートを160℃以下の温度で冷却するので、ポリアミド9T樹脂シートの結晶化を抑制し、ポリアミド9T樹脂シートを用いた熱成形が困難になるのを防ぐことができる。
請求項3記載の発明によれば、圧着ロールと冷却ロールとを160℃以下の温度に調整してポリアミド9T樹脂シートに接触させるので、ポリアミド9T樹脂シートの結晶化の進行を抑制し、ポリアミド9T樹脂シートによる熱成形が困難になるのを防ぐことが可能になる。また、冷却ロールにポリアミド9T樹脂シートを圧着ロールにより押し付けて密着させることができるので、ポリアミド9T樹脂シートの厚さを3〜500μmの範囲で高精度に制御することができ、しかも、ハンドリング性を向上させたり、設備の簡略化を図ることが可能になる。
本発明に係るポリアミド9T樹脂シートを用いた成形方法の実施形態におけるポリアミド9T樹脂シートの製造装置を模式的に示す全体説明図である。 本発明に係るポリアミド9T樹脂シートを用いた成形方法の実施形態におけるポリアミド9T樹脂シートの貯蔵弾性率を模式的に示すグラフである。 本発明に係るポリアミド9T樹脂シートを用いた成形方法の実施形態におけるポリアミド9T樹脂シートの落ち込み部分を有しない貯蔵弾性率を模式的に示すグラフである。 本発明に係るポリアミド9T樹脂シートを用いた成形方法の実施形態におけるポリアミド9T樹脂シートを予備加熱する状態を模式的に示す断面説明図である。 図4のポリアミド9T樹脂シートを成形金型内にプラグにより挿入する状態を模式的に示す断面説明図である。 図5のポリアミド9T樹脂シートをプラグにより圧縮する状態を模式的に示す断面説明図である。 図6のプラグに圧気して成形金型内を減圧する状態を模式的に示す断面説明図である。
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態におけるポリアミド9T樹脂シート1を用いた成形方法は、図1ないし図7に示すように、ポリアミド9T樹脂シート1を溶融押出成形し、このポリアミド9T樹脂シート1を、ポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)〜〔ガラス転移点(Tg)+25℃以下〕の温度で予備加熱した後、この予備加熱したポリアミド9T樹脂シート1を、ポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)〜融点未満の温度の成形金型72で熱成形するようにしている。
ポリアミド9T樹脂シート1は、溶融押出成形法、カレンダー成形法、又はキャスティング法等の公知の製造法により製造可能であるが、ハンドリング性や設備の簡略化の観点から、溶融押出成形法により連続的に薄く押出成形されることが好ましい。ここで、溶融押出成形法とは、図1に示すポリアミド9T樹脂シート1の製造装置の溶融押出成形機10を使用して成形材料2を溶融混練し、溶融押出成形機10のTダイス20からポリアミド9T樹脂シート1を連続的に押し出して製造する方法である。
溶融押出成形されるポリアミド9T樹脂シート1は、その貯蔵弾性率(E’)がガラス転移点(Tg)〜〔ガラス転移点(Tg)+25℃以下〕の温度範囲中で一旦2.0×10Pa以下に低下する部分を有するシートである必要がある(図2参照)。これは、例えば、係る温度範囲中の120℃付近で一旦2.0×10Pa以下になる落ち込み部分を有しない場合(図3参照)には、ポリアミド9T樹脂シート1が軟化しないので、ポリアミド9T樹脂シート1を用いた後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形等の熱成形が非常に困難になるからである。
なお、図2と図3は、押出方向の貯蔵弾性率を示すが、幅方向(押出方向の直角方向)の貯蔵弾性率も略同様である。
溶融押出成形されるポリアミド9T樹脂シート1の結晶化は、相対結晶化度により表すことができる。このポリアミド9T樹脂シート1の相対結晶化度は、90%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは60%以下が良い。これは、ポリアミド9T樹脂シート1の相対結晶化度が90%を越える場合には、ポリアミド9T樹脂シート1が軟化しないので、後の熱成形性が低下するからである。
ポリアミド9T樹脂シート1の相対結晶化度は、示差走査熱量計を用いて10℃/分の昇温速度で測定した熱分析結果に基づき、以下の式により算出される。
相対結晶化度(%)={(1−ΔHc)/ΔHm}×100
ΔHc:再結晶化ピークの熱量[J/g]
ΔHm:結晶融解ピークの熱量[J/g]
ポリアミド9T樹脂シート1の製造装置は、図1に示すように、ポリアミド9T樹脂含有の成形材料2を溶融混練する溶融押出成形機10と、この溶融押出成形機10に装着されてポリアミド9T樹脂シート1を瞬時に押し出すTダイス20と、押し出されたポリアミド9T樹脂シート1に接触する一対の圧着ロール30と、押し出されたポリアミド9T樹脂シート1を急激に冷却する冷却ロール40と、冷却されたポリアミド9T樹脂シート1を巻き取る巻取機60とを備えて構成される。
成形材料2のポリアミド9T樹脂は、ジカルボン酸成分の60〜100モル%がテレフタル酸であるジカルボン酸成分と、ジアミノ酸成分の60〜100モル%が1,9−ノナンジアミン、及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから選ばれるジアミン成分とからなるポリアミド樹脂である。
ポリアミド9T樹脂のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸が用いられる。このテレフタル酸の使用量は、ジカルボン酸成分全体に対して60モル%以上、好ましくは75モル%以上、より好ましくは90モル%以上が良い。これは、テレフタル酸成分が60モル%未満の場合には、得られるポリアミド9T樹脂シート1の耐熱性、低吸水性、耐薬品性との諸物性が低下するため、好ましくないからである。
テレフタル酸成分以外の他のジカルボン酸成分としては、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、あるいはこれらの任意の混合物があげられる。
これらのうち、芳香族ジカルボン酸が好ましく使用される。また、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸が溶融成形の可能な範囲内で用いられる。
ポリアミド9T樹脂のジアミン成分としては、1,9−ノナンジアミン、及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから選ばれるジアミンが用いられる。その使用量は、ジアミン成分全体に対して、60モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上が良い。ジアミン成分として、上記量の1,9−ノナンジアミン、及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから選ばれるジアミンを使用することにより、耐熱性、耐薬品性、低吸水性、軽量性、摺動性、機械的性質、成形加工性のいずれにも優れるポリアミド樹脂が得られる。
1,9−ノナンジアミン、及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比は、好ましくは50:50〜99:1、より好ましくは60:40〜90:10である。1,9−ノナンジアミン、及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンを上記モル比で併用することにより、特に耐熱性や低吸水性に優れたシートが得られる。
上記以外の他のジアミン成分としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等の脂肪族アミン;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等の脂環式ジアミン;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミノ、あるいはこれらの任意の混合物があげられる。
ポリアミド9T樹脂は、その分子鎖の末端基の10%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは70%以上が末端封止剤により封止されると良い。この末端封止により、ポリアミド9T樹脂シート1の溶融成形時の粘度安定性が向上し、耐熱水性や表面外観性に優れるポリアミド9T樹脂シート1が得られる。
末端封止剤としては、ポリアミド末端基のアミノ基又はカルボシキル基と反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はなく、モノカルボン酸、モノアミン、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類等を使用することができる。これらのうち、反応性、及び封止末端の安定性等の点から、モノカルボン酸又はモノアミンが好ましく、さらに取り扱いの容易さ等の点から、モノカルボン酸が最適である。
末端封止剤として使用されるモノカルボン酸としては、アミノ酸との反応性を有するものであれば特に制限はないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリル酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、スレアリン酸、ピバリン酸、イソブチル酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸、あるいはこれらの任意の混合物をあげることができる。
これらの内、反応性、封止末端の安定性、価格等の点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、安息香酸が特に好ましい。
末端封止剤として使用されるアミノ酸としては、モノカルボン酸との反応性を有するものであれば特に制限はないが、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、アフチルアミン等の芳香族アミン、あるいはこれらの任意の混合物があげられる。
これらの内、反応性、沸点、封止末端の安定性、及び価格等の点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリンが最適である。
ポリアミド9T樹脂の濃硫酸中30℃で測定した極限粘度[η]は、0.4〜3.0dl/gの範囲内、好ましくは0.6〜2.0dl/gの範囲内、より好ましくは0.8〜1.8dl/gの範囲内が良い。これは、極限粘度[η]が係る範囲であれば、シートの成形性を向上させ、機械的性質や耐熱性等に優れたポリアミド9T樹脂シート1が得られるからである。
ポリアミド9T樹脂は、通常、粉状、顆粒状、ペレット状等の成形加工に適した形態で使用される。また、ポリアミド9T樹脂には、必要に応じ、銅化合物等の安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、ヒンダードフェノール系、チオ系、リン系、アミン系等の酸化防止剤、帯電防止剤、臭素系ポリマー、酸化アンチモン、金属水酸化物等の難燃剤、結晶核剤、可塑剤、離型剤、滑剤、無機系フィラー、有機系フィラー等の添加剤がポリアミド9T樹脂の合成時、又はその後に添加される。
このようなポリアミド9T樹脂の製造方法としては、例えば特開平7−228689号公報、特開平7−228769号公報、特開平7−228772号公報、特開平7−228774号公報に記載の製造方法等があげられる。係るポリアミド9T樹脂の具体例としては、例えばジェネスタ(クラレ社製 製品名)があげられる。
成形材料2には、本発明の効果を損なわない範囲において、他のポリアミド樹脂や熱可塑性樹脂が選択的に添加される。他のポリアミド樹脂としては、ポリアミド6T樹脂、変性ポリアミド6T樹脂、ポリアミド10T樹脂やポリアミド11T樹脂等の半芳香族ポリアミド樹脂、あるいはポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド12樹脂やポリアミド46樹脂等の脂肪族ポリアミド樹脂があげられる。
他の熱可塑性樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂やポリエーテルイミド等のポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂やポリエーテルケトン樹脂等のポリアリーレンケトン樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂やポリフェニレンサルホン樹脂等のサルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等のポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチエンナフタレート樹脂やポリブチレンナフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、液晶ポリマー等が該当する。液晶ポリマーは、I型、II型、III型のいずれでも良い。
溶融押出成形機10は、例えば単軸押出成形機や二軸押出成形機等からなり、投入された成形材料2を溶融混練するよう機能する。この溶融押出成形機10の上部後方には、成形材料2用の原料投入口11が設置され、この原料投入口11には、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、窒素ガス、二酸化炭素ガス等の不活性ガス(図1の矢印参照)を必要に応じて供給する不活性ガス供給管12が接続されており、この不活性ガス供給管12による不活性ガスの流入により、成形材料2の酸化劣化や酸素架橋が有効に防止される。
溶融押出成形機10の溶融混練時の温度は、ポリアミド9T樹脂の融点〜370℃、好ましくは310℃〜350℃に調整される。これは、ポリアミド9T樹脂の融点未満の場合には、ポリアミド9T樹脂含有の成形材料2を溶融押出成形することができず、逆に370℃を越える場合には、ポリアミド9T樹脂が分解するおそれがあるからである。
Tダイス20は、溶融押出成形機10の先端部に連結管21を介して装着され、ポリアミド9T樹脂シート1を連続的に下方に薄い帯形に押し出すよう機能する。このTダイス20の上流には、連結管21に装着されたギアポンプ22が位置し、このギアポンプ22が成形材料2を一定速度で、かつ高精度にTダイス20に移送する。
Tダイス20の押し出し時の温度は、ポリアミド9T樹脂の融点〜370℃、好ましくは310℃〜350℃に調整される。これは、ポリアミド9T樹脂の融点未満の場合には、成形材料2の溶融押出成形が困難となり、逆に370℃を越える場合には、ポリアミド9T樹脂の分解を招くおそれがあるという理由に基づく。
一対の圧着ロール30は、冷却ロール40を挟持するようTダイス20の下方に回転可能に軸支される。圧着ロール30とその下流に位置する巻取機60の巻取管61との間には、ポリアミド9T樹脂シート1の側部にスリットを形成するスリット刃51が昇降可能に配置され、このスリット刃51と巻取管61との間には、ポリアミド9T樹脂シート1にテンションを作用させて円滑に巻き取るためのテンションロール52が回転可能に必要数軸支される。
圧着ロール30の周面には、ポリアミド9T樹脂シート1と冷却ロール40との密着性を向上させる観点から、少なくとも天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ノルボルネンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のゴム層が必要に応じて被覆形成され、このゴム層には、シリカやアルミナ等の無機化合物が選択的に添加される。これらの中では、耐熱性に優れるシリコーンゴムやフッ素ゴムの選択が好ましい。
圧着ロール30は、表面が金属の金属弾性ロールが必要に応じて使用され、この金属弾性ロールが使用される場合には、表面が平滑性に優れるポリアミド9T樹脂シート1の成形が可能となる。この金属弾性ロールの具体例としては、金属スリーブロール、エアーロール(ディムコ社製 製品名)、UFロール(日立造船社製 製品名)が該当する。
このような圧着ロール30は、160℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは50℃〜120℃の温度に調整され、ポリアミド9T樹脂シート1に摺接してこれを冷却ロール40に圧接する。これは、圧着ロール30の温度が160℃を越える場合には、ポリアミド9T樹脂シート1の結晶化が進行し、ポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)〜〔ガラス転移点(Tg)+25℃以下〕の温度範囲中で貯蔵弾性率(E’)が、一旦2.0×10Pa以下になる落ち込み部分を有しないため、好ましくないからである。また、ポリアミド9T樹脂シート1の結晶化が進行し、ポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)〜〔ガラス転移点(Tg)+25℃以下〕の温度範囲中で貯蔵弾性率(E’)が、一旦2.0×10Pa以下になる落ち込み部分を有しない場合、ポリアミド9T樹脂シート1を利用した真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形等の熱成形が非常に困難になるという理由に基づく。また、ポリアミド9T樹脂シート1の製造中にポリアミド9T樹脂シート1が圧着ロール30に貼り付き、ポリアミド9T樹脂シート1が破断する場合もあるからである。
冷却ロール40は、例えば圧着ロール30よりも拡径の金属ロールからなり、Tダイス20の下方に回転可能に軸支されて押し出されたポリアミド9T樹脂シート1を圧着ロール30との間に挟持し、圧着ロール30と共にポリアミド9T樹脂シート1を冷却しながらその厚さを所定の範囲内に制御するよう機能する。
冷却ロール40は、圧着ロール30と同様、160℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは50℃〜120℃の温度に調整され、ポリアミド9T樹脂シート1に摺接する。これは、冷却ロール40の温度が160℃を越える場合には、ポリアミド9T樹脂シート1の結晶化が進行し、ポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)〜〔ガラス転移点(Tg)+25℃以下〕の温度範囲中で貯蔵弾性率(E’)が、一旦2.0×10Pa以下になる落ち込み部分を有しないため、好ましくないからである。また、ポリアミド9T樹脂シート1の結晶化が進行し、ポリアミド9T樹脂シート1を利用した熱成形が実に困難になるからである。さらに、ポリアミド9T樹脂シート1の製造中にポリアミド9T樹脂シート1が圧着ロール30に貼り付き、破断してしまう場合もあるからである。
上記において、ポリアミド9T樹脂シート1を製造して所定の成形品を熱成形する場合には、先ず、溶融押出成形機10の原料投入口11に成形材料2を投入して成形材料2を溶融混練し、Tダイス20からポリアミド9T樹脂シート1を連続的に帯形に押し出す。この際、ポリアミド9T樹脂の溶融混練前における含水率は、5000ppm以下、好ましくは2000ppm以下、より好ましくは250〜2000ppm以下に調整される。これは、ポリアミド9T樹脂の溶融混練前における含水率が5000ppmを越える場合には、ポリアミド9T樹脂が発泡するおそれがあるからである。
ポリアミド9T樹脂シート1を押し出したら、一対の圧着ロール30、冷却ロール40、テンションロール52、巻取機60の巻取管61に順次巻架するとともに、ポリアミド9T樹脂シート1を冷却ロール40により冷却し、ポリアミド9T樹脂シート1の両側部をスリット刃51でそれぞれカットし、巻取管61に順次巻き取ることにより、ポリアミド9T樹脂シート1を製造する。
この際、ポリアミド9T樹脂シート1の貯蔵弾性率と相対結晶化度とは、Tダイス20より押し出されたポリアミド9T樹脂シート1を直ちに冷却することで調整することができる。また、ポリアミド9T樹脂シート1を冷却ロール40に密着させる方法としては、ハンドリング性や設備の簡略化の観点から、圧着ロール30により、冷却ロール40にポリアミド9T樹脂シート1を押し付けて密着させるタッチロール法の採用が好ましい。ポリアミド9T樹脂シート1と冷却ロール40との密着時間は、特に限定されるものではないが、0.3〜120秒、好ましくは0.5〜40秒、より好ましくは1〜30秒前後が良い。
冷却されたポリアミド9T樹脂シート1の厚さは、用途により適宜選択されるが、3〜500μm、好ましくは5〜400μmの範囲が好適である。これは、ポリアミド9T樹脂シート1の厚さが3μm未満の場合には、ポリアミド9T樹脂シート1の機械的強度が著しく低下するので、ポリアミド9T樹脂シート1の成形が困難になるという理由に基づく。逆に、ポリアミド9T樹脂シート1の厚さが500μmを越える場合には、巻取機60による巻取りに支障を来すという理由に基づく。
ポリアミド9T樹脂シート1の表面には、本発明の効果を失わない範囲で微細な凹凸を形成し、ポリアミド9T樹脂シート1表面の摩擦係数を低下させることができる。この微細な凹凸の形成方法としては、(1)ポリアミド9T樹脂を溶融押出成形機10により溶融混練し、この溶融混練したポリアミド9T樹脂をTダイス20から微細な凹凸を周面に有する冷却ロール40上に吐き出して密着させ、ポリアミド9T樹脂シート1の成形時に同時に微細な凹凸を形成する方法、(2)ポリアミド9T樹脂シート1を製造した後、微細な凹凸を周面に有する冷却ロール40上に密着させ、微細な凹凸を形成する方法がある。いずれの方法をも採用することができるが、設備の簡略化の観点からすると、(1)の方法が好ましい。
次いで、製造したポリアミド9T樹脂シート1を図4に示す治具70にセットし、ヒータ71等により所定の時間予備加熱する。ポリアミド9T樹脂シート1を予備加熱する時間は、ポリアミド9T樹脂シート1が軟化するのであれば、特に限定されるものではないが、一般的には1〜600秒、好ましくは10〜60秒、より好ましくは30秒前後が良い。
ポリアミド9T樹脂シートの予備加熱は、ポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)〜〔ガラス転移点(Tg)+25℃以下〕の温度範囲、好ましくはガラス転移点(Tg)+5℃〜ガラス転移点(Tg)+10℃以下の温度範囲が良い。これは、ポリアミド9T樹脂シート1の予備加熱温度が、ポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)未満の場合には、ポリアミド9T樹脂シート1が軟化しないので、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形等の熱成形が困難になるという理由に基づく。
また、ガラス転移点+25℃を越える場合には、ポリアミド樹脂シート1の結晶化が熱成形前に進行し、相対結晶化度90%以上となり、ポリアミド9T樹脂シート1の貯蔵弾性率(E’)のガラス転移点(Tg)〜〔ガラス転移点(Tg)+25℃以下〕の温度範囲中で一旦2.0×10Pa以下に低下する部分が消失するため、シートが軟化せず、熱成形が困難になるからである。ポリアミド9T樹脂の融点以上の温度でポリアミド9T樹脂シート1を予備加熱する場合には、ドローダウンを招き、成形不能となる。
ポリアミド9T樹脂シート1を予備加熱したら、この予備加熱したポリアミド9T樹脂シート1を、用意した雌型の成形金型72内に雄型のプラグ73により挿入(図5参照)するとともに、このプラグ73で圧縮(図6参照)し、その後、プラグ73に圧気して成形金型72内を真空ポンプで減圧(図7参照)すれば、所定の成形品を熱成形することができる。
この際、成形金型72とプラグ73のうち、少なくとも成形金型72の温度は、ポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)〜融点未満の範囲、好ましくはガラス転移点(Tg)+15℃〜融点−30℃の範囲に設定される。これは、成形金型72の温度がポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)〜融点未満の範囲の場合には、熱成形中に結晶化度が進行するので、低吸水性、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、摺動性、軽量性等の特性に優れた成形品を得ることができるからである。
これに対し、成形金型72の温度がガラス転移点未満の場合には、成形品の結晶化が進行せず、得られる成形品の低吸水性、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、摺動性、軽量性等の特性が低下する。また、成形品の使用温度がポリアミド9T樹脂のガラス転移点を越える場合には、使用中に結晶化が局部的に進行し、成形品が変形してしまう原因となる。また、成形金型72の温度が融点を越える場合には、ポリアミド9T樹脂シート1が溶融し、成形品が得られないからである。
なお、ポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)未満の温度で熱成形した成形品を、ガラス転移点(Tg)以上融点未満の温度範囲で加熱して結晶化を進行させる方法の採用も考えられるが、この場合には、局部的に結晶化が進行するので、成形品の変形等が生じ、好ましくない。
成形品の成形時間は、ポリアミド9T樹脂の結晶化が十分に進行し、相対結晶化度が100%に達する時間であれば特に限定されるものではないが、一般的には1〜600秒、好ましくは10〜60秒、より好ましくは30秒前後が良い。
上記によれば、成形材料2にアクリルポリマーや所定の共重合体を何ら添加する必要がないので、ポリアミド9T樹脂の優れた特性、具体的には耐熱性、低吸水性、機械的強度、耐薬品性、摺動性、成形加工性、軽量性、及び価格性の喪失を招くことがない。また、優れた特性を有するポリアミド9T樹脂シート1を熱成形して多品種の成形品を安定して安価に製造することができる。また、ポリアミド9T樹脂シート1の製造の煩雑化を防止し、コスト削減を図ることができる。さらに、熱成形中にポリアミド9T樹脂製の成形品の結晶化を促進することが可能なので、熱成形後の熱処理が不要となる。
なお、上記実施形態では圧着ロール30により、冷却ロール40にポリアミド9T樹脂シート1を押し付けて密着させたが、何らこれに限定されるものではない。例えば、例えば静電印加法(ピンニング法)やエアーナイフを採用して冷却ロール40にポリアミド9T樹脂シート1を密着させても良い。また、ポリアミド9T樹脂シート1を冷却する場合には、金属ベルト等にポリアミド9T樹脂シート1を密着させたり、ポリアミド9T樹脂シート1に水を噴霧したり、あるいは水中にポリアミド9T樹脂シート1を投入する方法等を用いても良い。
以下、本発明に係るポリアミド9T樹脂シートの製造装置及び製造方法の実施例を比較例と共に説明する。
〔実施例1〕
先ず、市販のポリアミド9T樹脂(クラレ社製 製品名:ジェネスタ N1000A−M42 BK)を115℃に加熱した除湿乾燥機で8時間乾燥させ、この乾燥したポリアミド9T樹脂を成形材料として幅900mmのTダイスを備えたφ40mmの単軸押出成形機(アイ・ケー・ジー社製)にセットして溶融混練し、この溶融混練したポリアミド9T樹脂を単軸押出成形機のTダイスから連続的に押し出してポリアミド9T樹脂シートを帯形に押出成形した。
この際、ポリアミド9T樹脂の含水率を、微量水分測定装置(三菱化学社製 製品名CA−100型)を用い、カールフィッシャー滴定法により測定した。測定の結果、ポリアミド9T樹脂の乾燥時の水分率は、288ppmであった。また、単軸押出成形機は、L/D=25、圧縮比:2.5、スクリュー:フルフライトスクリュータイプとした。この単軸押出成形機の温度は310〜350℃、Tダイスの温度は310〜320℃、単軸押出成形機とTダイスとを連結する連結管の温度は310℃に調整した。
溶融したポリアミド9T樹脂の温度については、Tダイス入口の樹脂温度を測定することとし、測定したところ315℃であった。また、単軸押出成形機にポリアミド9T樹脂を投入する際には、窒素ガス520l/分を供給した。
こうしてポリアミド9T樹脂シートを押出成形したら、連続したシートの両側部をスリット刃で裁断して巻取機の巻取管に順次巻き取り、長さ150m、幅600mmのポリアミド9T樹脂シートを製造した。この際、ポリアミド9T樹脂シートは、シリコーンゴム製の一対の圧着ロール、周面に凹凸を備えた90℃の冷却ロールである金属ロール、及びこれらの下流に位置する6インチの巻取管に順次巻架し、圧着ロールと金属ロールとに挟持させた。
ポリアミド9T樹脂シートが得られたら、このポリアミド9T樹脂シートのシート厚、相対結晶化度、ガラス転移点(Tg)と貯蔵弾性率(E’)を測定し、その結果を表1に記載した。
次に、製造したポリアミド9T樹脂シートを用い、真空成形法によりカップ状の成形品を成形した。真空成形は、底部を有する円筒状の雌型金型(直径30mm、深さ15mm)を成形金型として使用し、プラグを用いて実施した。ここで、ポリアミド9T樹脂シートの真空成形は、シートの予備加熱温度:125℃、成形金型温度:150℃、プラグ温度:130℃、成形圧力:200kPa、成形時間:30秒間の条件で実施した。カップ状の成形品を成形したら、成形品の真空成形性、相対結晶化度、及び耐熱性を評価し、その結果を表1に記載した。
・ポリアミド9T樹脂シートのシート厚
ポリアミド9T樹脂シートの厚さについては、マイクロメータ(ミツトヨ社製 製品名:クーラントプルーフマイクロメータ 符号MDC−25PJ)を使用して測定した。測定に際しては、ポリアミド9T樹脂シートの押出方向と幅方向(押出方向の直角方向)が交わる所定の厚みを100箇所測定し、その平均値をシート厚とした。押出方向の測定箇所は、ポリアミド9T樹脂シートの先端部から100mm間隔で100mm、200mm、300mm、400mm、500mmの位置とした。
これに対し、幅方向の測定箇所は、ポリアミド9T樹脂シートの左端部から25mm、次いで30mm間隔で55mm、85mm、115mm、145mm、175mm、205mm、235mm、265mm、295mm、325mm、355mm、385mm、415mm、445mm、475mm、505mm、535mm、565mm、595mmの箇所とした。
・ポリアミド9T樹脂シートの相対結晶化度
ポリアミド9T樹脂シートの相対結晶化度については、ポリアミド9T樹脂シートから測定試料10mgを秤量し、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジーズ社製 製品名:EXSTAR7000シリーズ X−DSC7000)を使用して10℃/分の昇温速度で加熱し、このときに得られる結晶融解ピークの熱量(J/g)、再結晶化ピークの熱量(J/g)から以下の式を用いて算出した。
相対結晶化度(%)={(1−ΔHc)/ΔHm}×100
ここで、ΔHcはポリアミド9T樹脂シートの10℃/分の昇温条件下での再結晶化ピークの熱量(J/g)を表し、ΔHmはポリアミド9T樹脂シートの10℃/分の昇温条件下での結晶融解ピークの熱量(J/g)を表す。
・ポリアミド9T樹脂シートのガラス転移点(Tg)
ポリアミド9T樹脂シートのガラス転移点(Tg)については、シートの損失弾性率(E”)を測定し、その値が極大になった温度をガラス転移点とした。損失弾性率は、ポリアミド9T樹脂シートの押出方向で測定した。具体的には、ポリアミド9T樹脂シートを押出方向60mm×幅方向6mmの大きさに切り出し、粘弾性スペクトロメータ(ティー・エス・インスツルメント・ジャパン社製 製品名:RSA−G2)を用いた引張モードにより、周波数3Hz、歪み0.1%、昇温速度3℃/分、測定温度範囲−60〜300℃、チェック間21mmの条件で測定した。
・ポリアミド9T樹脂シートの貯蔵弾性率(E’)
ポリアミド9樹脂シートの貯蔵弾性率は、ポリアミド9T樹脂シートの押出方向において引張モードにより測定した。具体的には、ポリアミド9T樹脂シートを押出方向60mm×幅方向6mmの大きさに切り出し、粘弾性スペクトロメータ(ティー・エス・インスツルメント・ジャパン社製 製品名:RSA−G2)を用いた引張モードにより、周波数3Hz、歪み0.1%、昇温速度3℃/分、測定温度範囲−60〜300℃、チェック間21mmの条件で測定した。
○:ガラス転移点(Tg)〜〔ガラス転移点(Tg)+25℃以下〕の温度範囲中で一旦2.0×10Pa以下に低下する部分を有する場合
×:ガラス転移点(Tg)〜〔ガラス転移点(Tg)+25℃以下〕の温度範囲中で一旦2.0×10Pa以下になる落ち込み部分を有しない場合
・成形品の真空成形性
カップ状の成形品を目視により観察・評価した。
・成形品の相対結晶化度
成形品の相対結晶化度は、ポリアミド9T樹脂シートの相対結晶化度と同様の方法により算出した。
・成形品の耐熱性
得られたカップ状の成形品を200℃に加熱した熱風オーブン中に24時間静置し、静置後の成形品の状態を目視により観察・評価した。
ここで、○:変形無し、×:変形有とした。
〔実施例2〕
実施例1で使用したポリアミド9T樹脂と同様のポリアミド9T樹脂を使用し、ポリアミド9T樹脂シートを溶融押出成形した。シートの成形条件は、冷却ロールである金属ロールの温度を105℃に変更した以外は、実施例1と同様とした。ポリアミド9T樹脂シートを得たら、実施例1と同様の方法により、シート厚、相対結晶化度、ガラス転移点(Tg)と貯蔵弾性率(E’)を測定し、その結果を表1に記載した。
次に、得られたポリアミド9T樹脂シートを真空成形法により、カップ状の成形品に成形した。真空成形に使用した成形金型は、実施例1と同様とした。ここで、ポリアミド9T樹脂シートの真空成形は、シートの予備加熱温度:135℃、成形金型温度:180℃、プラグ温度:110℃、成形圧力:200kPa、成形時間:30秒間の条件で実施した。カップ状の成形品を成形したら、その真空成形性、相対結晶化度、及び耐熱性を評価してその結果を表1に記載した。
〔実施例3〕
先ず、市販のポリアミド9T樹脂(クラレ社製 製品名:ジェネスタ N1000A−M42 NA]を115℃に加熱した除湿乾燥機で8時間乾燥させ、このポリアミド9T樹脂を実施例1と同様の方法によりポリアミド9T樹脂シートに押出成形した。但し、金属ロールの温度は60℃に変更した。ポリアミド9T樹脂の乾燥時の水分率は、253ppmであった。
成形したポリアミド9T樹脂シートについて、実施例1と同様の方法により、シート厚、相対結晶化度、ガラス転移点(Tg)と貯蔵弾性率(E’)を測定し、その結果を表1にまとめた。
次に、ポリアミド9T樹脂シートを真空成形法により、カップ状の成形品に成形した。真空成形に使用した成形金型は、実施例1と同様とした。ここで、ポリアミド9T樹脂シートの真空成形は、シートの予備加熱温度:135℃、成形金型温度:200℃、プラグ温度:110℃、成形圧力:200kPa、成形時間:30秒間の条件で実施した。得られたカップ状の成形品の真空成形性、相対結晶化度、及び耐熱性を評価してその結果を表1にまとめた。
〔実施例4〕
実施例3で使用したポリアミド9T樹脂と同様のポリアミド9T樹脂を使用し、ポリアミド9T樹脂シートを押出成形した。ポリアミド9T樹脂シートの成形条件は、金属ロールの温度を50℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件とした。得られたポリアミド9T樹脂シートについて、実施例1と同様の方法により、シート厚、相対結晶化度、ガラス転移点(Tg)と貯蔵弾性率(E’)を測定してその結果を表1にまとめた。
次に、得られたポリアミド9T樹脂シートを真空成形法により、カップ状の成形品に成形した。真空成形に使用した成形金型は、実施例1と同様とした。ここで、ポリアミド9T樹脂シートの真空成形は、シートの予備加熱温度:130℃、成形金型温度:140℃、プラグ温度:110℃、成形圧力:200kPa、成形時間:60秒間の条件で実施した。成形品を成形したら、その真空成形性、相対結晶化度、及び耐熱性を評価して結果を表1にまとめた。
〔実施例5〕
先ず、市販のポリアミド9T樹脂(クラレ社製 製品名:ジェネスタ N1000A−M41 BK)を115℃に加熱した除湿乾燥機で8時間乾燥させ、この乾燥したポリアミド9T樹脂を実施例1と同様の方法により、帯形のポリアミド9T樹脂シートに押出成形した。ポリアミド9T樹脂シートの成形条件は、冷却ロールである金属ロールの温度を150℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件とした。ポリアミド9T樹脂の乾燥時の水分率は、241ppmであった。ポリアミド9T樹脂シートを得たら、実施例1と同様の方法により、シート厚、相対結晶化度、ガラス転移点(Tg)と貯蔵弾性率(E’)を測定してその結果を表1にまとめた。
次に、得られたポリアミド9T樹脂シートを真空成形法により、カップ状の成形品に成形した。真空成形は、底部を有する円筒状の雌型金型(直径10mm、深さ1mm)を成形金型として使用し、プラグを用いて実施した。ここで、ポリアミド9T樹脂シートの真空成形は、シートの予備加熱温度:125℃、成形金型温度:150℃、プラグ温度:120℃、成形圧力:100kPa、成形時間:5秒間の条件で実施した。成形品を成形したら、その真空成形性、相対結晶化度、及び耐熱性を評価して結果を表1にまとめた。ここで、シート厚は、測定器をフィルム厚み測定装置(マーシャ社製 製品名:1240)に変更して測定した。シートの測定箇所は、実施例1と同様とした。
〔実施例6〕
実施例5で使用したポリアミド9T樹脂と同様のポリアミド9T樹脂を使用し、ポリアミド9T樹脂シートを押出成形した。ポリアミド9T樹脂シートの成形条件は、金属ロールの温度を145℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件とした。得られたポリアミド9T樹脂シートについて、実施例1と同様の方法により、シート厚、相対結晶化度、ガラス転移点(Tg)と貯蔵弾性率(E’)を測定してその結果を表1にまとめた。
次に、得られたポリアミド9T樹脂シートを真空成形法により、カップ状の成形品に成形した。真空成形は、底部を有する円筒状の雌型金型(直径20mm、深さ5mm)を成形金型として使用し、プラグを用いて実施した。ここで、ポリアミド9T樹脂シートの真空成形は、シートの予備加熱温度:130℃、成形金型温度:150℃、プラグ温度:120℃、成形圧力:100kPa、成形時間:15秒間の条件で実施した。成形品を成形したら、その真空成形性、相対結晶化度、及び耐熱性を評価して結果を表1にまとめた。
Figure 0006058566
〔比較例1〕
実施例1と同様のポリアミド9T樹脂を使用し、金属ロールの温度を170℃に変更した以外は実施例1と同様の条件でポリアミド9T樹脂シートを押出成形した。ポリアミド9T樹脂シートを押出成形したら、このポリアミド9T樹脂シートのシート厚、相対結晶化度、ガラス転移点(Tg)と貯蔵弾性率(E’)を測定してその結果を表2に記載した。
次に、得られたポリアミド9T樹脂シートを真空成形法により、カップ状の成形品に成形しようと試みた。真空成形に使用した成形金型は、実施例1と同様とした。ここで、ポリアミド9T樹脂シートの真空成形は、シートの予備加熱温度:140℃、成形金型温度:160℃、プラグ温度:110℃、成形圧力:200kPa、成形時間:30秒間の条件で実施した。
カップ状の成形品を成形しようと試みたが、ポリアミド9T樹脂シートが軟化しなかったため、成形品を得ることができなかった。
〔比較例2〕
実施例1で成形したポリアミド9T樹脂シートを真空成形法により、カップ状の成形品に成形しようと試みた。真空成形法に使用した成形金型は、実施例1と同様とした。ここで、ポリアミド9T樹脂シートの真空成形は、シートの予備加熱温度:155℃、成形金型温度:160℃、プラグ温度:110℃、成形圧力:200kPa、成形時間:30秒間の条件で実施した。
〔比較例3〕
実施例1のポリアミド9T樹脂シートを真空成形法により、カップ状の成形品に成形しようと試みた。真空成形法に使用した成形金型は、実施例1と同様である。ポリアミド9T樹脂シートの融点を測定したところ、ポリアミド9T樹脂シートの融点は302℃であった。
ここで、ポリアミド9T樹脂シートの真空成形は、ポリアミド9T樹脂シートの予備加熱温度:125℃、成形金型温度:320℃、プラグ温度:110℃、成形圧力:200kPa、成形時間:30秒間の条件で実施した。
・融点
ポリアミド9T樹脂シートの融点については、ポリアミド9T樹脂シートから測定試料10mgを秤量し、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジーズ社製 製品名:EXSTAR7000シリーズ X−DSC 7000)を使用して10℃/分の昇温速度で加熱し、このときに得られる熱量曲線から極大値ピークを融点とした。
〔比較例4〕
実施例4のポリアミド9T樹脂シートを真空成形法により、カップ状の成形品に成形した。真空成形法に使用した成形金型は、実施例1と同様である。真空成形は、シートの予備加熱125℃、金型温度:50℃、プラグ温度:110℃、成形圧力:200kPa、成形時間:30秒間の条件で実施した。
Figure 0006058566
〔結 果〕
実施例の場合、ガラス転移点(Tg)〜〔ガラス転移点(Tg)+25℃以下〕の温度範囲中で一旦2.0×10Pa以下に低下する部分を有するポリアミド9T樹脂シートを製造し、使用したので、真空成形性が実に良好であった。また、真空成形中に結晶化度が増大し、相対結晶化度が100%となり、耐熱性に優れる成形品を得ることができた。
これに対し、比較例1の場合、金属ロールの温度が160℃を越える170℃なので、結晶化が進行し、ガラス転移点(Tg)〜〔ガラス転移点(Tg)+25℃以下〕の温度範囲中で一旦2.0×10Pa以下に低下する部分を有しないポリアミド9T樹脂シートとなった。したがって、予備加熱によりポリアミド9T樹脂シートを軟化させることができず、成形品を成形することができなかった。
比較例2の場合、ポリアミド9T樹脂シートをガラス転移点(Tg)+25℃を超える温度で予備加熱したので、予備加熱中にポリアミド9T樹脂シートの結晶化が進行し、ポリアミド9T樹脂シートが軟化せず、成形品を成形できなかった。
比較例3の場合、成形金型の温度をポリアミド9T樹脂の融点を超える温度に設定して真空成形しようとしたが、ポリアミド9T樹脂が成形金型内で溶融してしまい、成形品を得ることができなかった。
比較例4の場合、成形金型の温度をポリアミド9T樹脂のガラス転移点未満の温度に設定して真空成形した。その結果、成形品の成形性は良好であったが、真空成形中に成形品の結晶化を十分に進めることができなかったため、成形品の耐熱性に問題が生じた。
本発明に係るポリアミド9T樹脂シートを用いた成形方法は、例えば医薬、医療用機器、食品、機械、包装資材、電気、電子、家電機器、音楽機器、情報機器、自動車等の製造分野で使用される。
1 ポリアミド9T樹脂シート
2 成形材料
10 溶融押出成形機
11 原料投入口
12 不活性ガス供給管
20 Tダイス(ダイス)
30 圧着ロール
40 冷却ロール
60 巻取機
61 巻取管
70 治具
71 ヒータ
72 成形金型(金型)
73 プラグ(金型)

Claims (3)

  1. ポリアミド9T樹脂シートを用いて成形品を熱成形する成形方法であって、ポリアミド9T樹脂シートを、貯蔵弾性率(E’)がポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)〜〔ガラス転移点(Tg)+25℃以下〕の温度範囲中で一旦2.0×10Pa以下に低下する部分を有し、かつ相対結晶化度が90%以下のシートとしてその厚さを3〜500μmとし、このポリアミド9T樹脂シートを、ポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)〜〔ガラス転移点(Tg)+25℃以下〕の温度範囲で予備加熱し、その後、ポリアミド9T樹脂シートを、ポリアミド9T樹脂のガラス転移点(Tg)〜融点未満の温度範囲の金型により熱成形することを特徴とするポリアミド9T樹脂シートを用いた成形方法。
  2. ポリアミド9T樹脂含有の成形材料をポリアミド9T樹脂の融点〜370℃の温度範囲で溶融混練し、この溶融混練した成形材料をポリアミド9T樹脂の融点〜370℃の温度範囲に設定したダイスから連続的に押し出してポリアミド9T樹脂シートを成形し、このポリアミド9T樹脂シートを160℃以下に冷却してその厚さを3〜500μmとする請求項1記載のポリアミド9T樹脂シートを用いた成形方法。
  3. ダイスから連続的に押し出して成形したポリアミド9T樹脂シートを160℃以下の圧着ロールと冷却ロールとに挟持させる請求項2記載のポリアミド9T樹脂シートを用いた成形方法。
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