JP6056231B2 - 液体クロマトグラフィー用カチオン交換体 - Google Patents
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一方、カチオン交換基としては、従来からスルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基等が知られている。なかでもスルホン酸基は、pKaが小さく、対象をイオン解離する目的で溶離液のpHを低下した場合にそのpHの変動が生じたとしても対象を安定的に保持し得ることから、カチオン交換基として多用されており、スルホン酸基の粒子への導入方法として、スチレン共重合体粒子に対して三酸化硫黄、クロロ硫酸又は濃硫酸を作用させる方法、粒子に対してエポキシ基やアリル基を導入し更に亜硫酸を作用させる方法、そして水酸基を有する粒子にプロパンスルトン、ブタンスルトン又は三硫化硫黄を作用させる方法が使用されている。
このため、上記(1)や(2)の改善を目的として、カチオン交換能を有するビニルポリマー鎖を粒子表面にグラフトして固定する方法(特許文献1から4)、細孔内に水溶性ポリマーを固定化する方法(特許文献5)が提案されている。しかし、グラフトによってポリマー鎖を粒子表面に固定すると、操作圧が高くなり、上記(5)に反して操作流速の低下を招いてしまう。また細孔内に水溶性ポリマーを固定する方法は非多孔性粒子には適用することができない。
そこで本発明の目的は、(1)から(6)の要請に応え、更に吸着容量を向上した液体クロマトグラフィー用カチオン交換体を提供することにある。
固定するポリビニルスルホン酸共重合体としては、特に上記(1)〜(3)及び(5)を改善するために、その分子量が5000から40000の範囲のものが好ましい。分子量が小さいと(1)から(3)の改善効果が小さく、分子量が大すぎると操作圧が上昇して(5)の改善効果が小さくなるからである。ポリビニルスルホン酸共重合体は、ビニルスルホン酸と、粒子への固定化のため、粒子表面の官能基(エポキシ基等)と結合し得る官能基を有するビニルモノマーとを共重合して得ることができる。例えば粒子表面にエポキシ基又はカルボキシル基が存在する場合には、これらと結合し得る水酸基、アミノ基、チオール基等を有するビニルモノマーをビニルスルホン酸と共重合すれば良い。中でもビニルスルホン酸との共重合が容易な水酸基を有するビニルモノマーが好適であり、具体的に、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステル、ポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステルやグリセロール(メタ)アクリルエステル等のポリオール化合物の(メタ)アクリル酸エステル、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(トリス(ヒドロキシメチル)メチル)(メタ)アクリルアミド等を例示することができる。
[非多孔性基材の作成]
特許公開2001−2716号に記載された方法(シード重合法)により、非多孔性粒子を製造した。ベンジルメタクリレート20g及びメルカプト酢酸2−エチルヘキシル0.95gを500mL三つ口フラスコに入れて混合し、イオン交換水を200g投入した。マグネティック撹拌子を入れ、85度に設定したオイルバスに取り付け、窒素導入管を設置し、150rpmで撹拌した。これとは別に50mL容器に過硫酸カリウム0.6g及びイオン交換水20gを計り取り溶解した。30分経過後、三つ口フラスコに設置したゴム栓から、過硫酸カリウム水溶液を注射器で投入した。回転数を300rpmとしてソープフリー乳化重合を実施した。2時間重合を継続後、凝集分を取り除いてシード溶液を回収した。シード溶液の固形分含有率は、6.98%であり、粒子径は電子顕微鏡による測定で0.39μmであった。
メタクリル酸2,3エポキシプロピル64g、二メタクリル酸エチレン16g、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(商品名V−65、和光純薬(株)製)0.2g及びドデシル硫酸ナトリウム0.2gを300mLフラスコに計量し、撹拌子を入れ、マグネティックスタラーで混合した。イオン交換水を100mL加え、マグネティックスタラーで撹拌しながら超音波ホモジナイザーで乳化した。前記のように調整したシード溶液7.94g(固形分量0.554g)及び50mLの4%濃度のポリビニルアルコール水溶液を加え、1分間よく撹拌し、静置した。室温下で30分放置後、60度に設定した水浴に静置し、2時間重合を行った。得られた重合液をガラスフィルターでろ過し、温水、アセトン、温水の順で洗浄して、非多孔性粒子を得た。
実施例1
ビニルスルホン酸ナトリウム25%水溶液(東京化成工業製)10.0g、2-ヒドロキシエチルメタクリル酸エステル0.216g(ビニルスルホン酸ナトリウムとの比率で10モル%)及び過硫酸カリウム0.026gを10mLガラス容器に入れ、65度に設定した水浴中で5時間重合した。重合液を少量サンプリングし、共重合体の分子量を下記の条件下、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した結果、重量平均分子量11700、ビニルスルホン酸の重合率は94%であった。
カラム:TSKgel(登録商標) G4000PWXL及び同 G2500PWXL
溶離液:0.1mol/L 硝酸ナトリウム
流速:1.0mL/分
検出:屈折率計
サンプル:10倍希釈し、5uL注入
上記重合液を200mLのメタノールで再沈精製し、窒素気流下通風乾燥しビニルスルホン酸共重合体の白色粉体を得た。
エポキシ化非多孔性粒子5g(乾燥重量)に対し、ビニルスルホン酸共重合体1.0g及び20mLの純水を100mLナス型フラスコに入れ、超音波槽にてよく分散した。ナス型フラスコをエバポレータ―に取り付け、減圧下水を留去した。ナス型フラスコを150度に設定した温風過熱器に入れ、5時間加熱することにより、ビニルスルホン酸共重合体をエポキシ化非多孔性粒子の表面に固定した。ナス型フラスコを冷却後、水を入れ、よく分散し、ガラスフィルターを用いて、水、0.1N塩酸、0.1N水酸化ナトリウム、水の順で洗浄し、カチオン交換体を得た。このカチオン交換体のイオン交換容量は22μ等量/ゲル(mL)であり、また表面に残存するエポキシ基量は495μ当量/ドライゲル(g)であった。
このカチオン交換体を24mLのイオン交換水とともに100mLナスフラスコに投入し、亜硫酸ナトリウム6.6gを加えた後、撹拌しながら80℃のオイルバスに16時間浸漬した。浸漬後、ガラスフィルターを用い、水、0.1N塩酸、0.1N水酸化ナトリウム、水の順で洗浄し、残存エポキシ基がスルホン化したカチオン交換体を得た。このカチオン交換体のイオン交換容量は133μ当量/ゲル(mL)であった。
得られたカチオン交換体は、10%のイオン交換水を分散液として、4.6mm内径x50mm長さの液体クロマトグラフィー用カラムにスラリー充填した。得られたカラムを使用して、下記条件下、液体クロマトグラフィーを実施してタンパク質の分離性能を測定した。カチオン交換体の操作圧は、溶離液Aを流速0.5mL/分で送液した時の操作圧とした。そしてカチオン交換体のカチオン交換容量は、カラムに100mmol/Lのクエン酸溶液を0.4mL/分の流速で10分間通液し、続いてイオン交換水を0.4mL/分の流速でカラム溶出液の電気伝導度が低下するまで通液し、カラムから抽出したカチオン交換体を200mLのビーカー中で0.5mol/Lの塩化ナトリウム水溶液で分散後、0.01mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液でpH7を終点として自動滴定することで測定した。
溶離液A:10mmol/L リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)
溶離液B:0.5mol/LのNaClを含む10mmol/L リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)
グラジエント:5〜100%溶離液B直線グラジエント、9.5分
流速:0.4mL/分
対象:α−キモトリプシノーゲンA(1g/L)
リボヌクレアーゼA(1g/L)
リゾチウム(1g/L)
注入量:3、5、7、10、20、30及び50μL
対象を10μL注入したときのクロマトグラムは図1に示したとおりであり、3種類の対象が良好に分離されていること、及び、全対象について、本発明のカチオン交換体が十分な保持力を有していることが分かる。また、α−キモトリプシノーゲンAの溶出ピーク半値幅結果は図2に示した通りであり、後述する比較例1で製造したカチオン交換体で発生する低注入量時の溶出ピーク半値幅のブロード化が発生していないことが分かる。なお、本実施例で製造したカチオン交換体の操作圧は26.0MPaと低操作圧であった。
比較例1
実施例1において、ビニルスルホン酸共重合体をエポキシ化非多孔性粒子の表面に固定したのみで、その後残存するエポキシ基にスルホン基の導入を行っていないカチオン交換体を用い、実施例1と同様に3種類の対象について分離性能を測定した。得られた結果のうち、α−キモトリプシノーゲンAの溶出ピーク半値幅結果を図2に示す。本比較例で製造したカチオン交換体は、従来のカチオン交換体と比較すると良好な性能を示すものの、α−キモトリプシノーゲンA溶液の注入量が3、5、7及び10μL(α−キモトリプシノーゲンAの注入量としては、それぞれ、3、5、7及び10μg)と少ない場合には溶出ピーク半値幅がブロードになった。これは、対象であるα−キモトリプシノーゲンAがカチオン交換体に非特異的に吸着していることを示すものである。なお、本比較例で製造したカチオン交換体のイオン交換容量は22μ等量/ゲル(mL)であり、操作圧は26MPaであった。
比較例2
実施例1において、ビニルスルホン酸共重合体をエポキシ化非多孔性粒子の表面に固定せず、存在するエポキシ基にスルホン基の導入を行ったのみのカチオン交換体を用い、実施例1と同様に3種類の対象について分離性能を測定した。対象を10μL注入したときのクロマトグラムを図1に示す。図1において、対象の溶出時間が速いことから比較例2のカチオン交換体は保持力が低いこと、α−キモトリプシノーゲンAとリボヌクレアーゼが分離していないことから分離能が低いこと、溶出ピークがブロード化していることからカチオン交換体への非特異的な吸着が生じたこと、が分かる。なお、本比較例で製造したカチオン交換体のイオン交換容量は135μ当量/ゲル(mL)であり、操作圧は22MPaであった。
Claims (5)
- 非多孔性粒子の表面にあるエポキシ基が、スルホン酸基及びポリビニルスルホン酸共重合体と、開環して結合していることを特徴とする、液体クロマトグラフィー用カチオン交換体。
- 前記非多孔性粒子は、単官能性ビニルモノマーと多官能性ビニルモノマーの共重合体であり、その粒径が5μm以下であることを特徴とする、請求項1記載の液体クロマトグラフィー用カチオン交換体。
- 前記ポリビニルスルホン酸共重合体は、分子量が5000以上40000以下であることを特徴とする、請求項1記載の液体クロマトグラフィー用カチオン交換体。
- 前記ポリビニルスルホン酸共重合体は、多孔性粒子の乾燥重量に対して5重量%以上、非多孔性粒子の表面にある開環したエポキシ基と結合していることを特徴とする、請求項1記載の液体クロマトグラフィー用カチオン交換体。
- 請求項1乃至4のいずれかに記載の液体クロマトグラフィー用カチオン交換体を充填して成る液体クロマトグラフィー用カラム。
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