JP2020018989A - 分離材 - Google Patents

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史彦 河内
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Abstract

【課題】細孔径を大きくしても、良好な通液性を示し、優れた吸着性能を有する充填材を提供すること。【解決手段】分離材は、多孔質ポリマ粒子と、該多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を被覆する水酸基を有する架橋高分子を含む被覆層と、を備え、平均粒子径が80〜300μmであり、粒径の変動係数が10%以下であり、水銀圧入法により測定される細孔径分布において、最大の細孔容積を示す細孔径が0.4μm以上1.1μm未満の範囲にあり、細孔径が0.05〜5.0μmにある細孔容積の総和に対する、細孔径が0.5〜5.0μmにある細孔容積の総和の割合が40%以上である。【選択図】図1

Description

本発明は、分離材に関する。
従来、タンパク質に代表される生体高分子を分離精製する場合、一般的には、多孔質型の合成高分子を母体とするイオン交換体、親水性天然高分子の架橋ゲルを母体とするイオン交換体等が用いられている。多孔質型の合成高分子を母体とするイオン交換体の場合、塩濃度による体積変化が小さいため、カラムに充填してクロマトグラフィーで用いると、通液時の耐圧性が優れる傾向にある。しかし、このイオン交換体は、タンパク質等の分離に用いると、疎水的相互作用に基づく不可逆吸着等の非特異吸着が起きるため、ピークの非対称化が発生する、又は、疎水的相互作用でイオン交換体に吸着されたタンパク質が吸着されたまま回収できないといった問題点がある。
一方、デキストラン、アガロース等の多糖に代表される親水性天然高分子の架橋ゲルを母体とするイオン交換体の場合、タンパク質の非特異吸着が殆どないという利点がある。ところが、このイオン交換体は、水溶液中で著しく膨潤し、溶液のイオン強度による体積変化、及び遊離酸形と負荷形との体積変化が大きく、機械的強度も十分ではないという欠点を有する。特に、架橋ゲルをクロマトグラフィーで使用する場合、通液時の圧力損失が大きく、通液によりゲルが圧密化するといった欠点がある。
親水性天然高分子の架橋ゲルが持つ欠点を克服するため、多孔質高分子の細孔内に天然高分子ゲル等のゲルを保持した複合体が、ペプチド合成の分野で知られている(例えば、特許文献1参照)。セライト等の無機多孔質体にデキストラン、セルロースといった多糖等のキセロゲルを保持させた分離材が知られている(例えば、特許文献2及び3参照)。
また、ウイルス疾病予防に対するワクチンの製造分野において、クロマトグラフィー法を用いることが検討されており、セルロース粒子に硫酸化多糖を結合したクロマトグラフィー用充填剤が知られている(例えば、特許文献4参照)。
米国特許第4965289号明細書 米国特許第4335017号明細書 米国特許第4336161号明細書 特開2011−220992号公報
インフルエンザウイルスの大きさは、80nm〜120nmであり、免疫グロブリンG(IgG)の数nm〜10数nmと比べてはるかに大きい。そのため、抗体精製用の分離材と比較して、ウイルスを効率的に捕捉するには、より大きな細孔径を有する分離材が求められる。しかしながら、分離材の細孔径を大きくすると、分離材が軟化し易くなるため、通液性、吸着性といったカラム性能が低下する要因となる。
本発明は、細孔径を大きくしても、良好な通液性を示し、優れた吸着性能を有する充填材を提供することを目的とする。
本発明は、下記[1]〜[9]に記載の分離材を提供する。
[1]多孔質ポリマ粒子と、該多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を被覆する水酸基を有する架橋高分子を含む被覆層と、を備える分離材であって、平均粒子径が80〜300μmであり、粒径の変動係数が10%以下であり、水銀圧入法により測定される細孔径分布において、最大の細孔容積を示す細孔径が0.4μm以上1.1μm未満の範囲にあり、細孔径が0.05〜5.0μmにある細孔容積の総和に対する、細孔径が0.5〜5.0μmにある細孔容積の総和の割合が40%以上である、分離材。
[2]水酸基を有する架橋高分子が、多糖類又はその変性体由来の架橋高分子である、[1]に記載の分離材。
[3]多糖類が、アガロース又はデキストランである、[2]に記載の分離材。
[4]多孔質ポリマ粒子は、ジビニルベンゼンに由来する構造単位を有するポリマを含む、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の分離材。
[5]比表面積が10m/g以上である、[1]〜[4]のいずれかに記載の分離材。
[6]5%圧縮変形弾性率が60〜1000MPaである、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の分離材。
[7]水酸基を有する架橋高分子の被覆量が、多孔質ポリマ粒子1g当たり30〜400mgである、[1]〜[6]のいずれかに記載の分離材。
[8]当該分離材が充填されたカラムに、該カラムの圧力が0.3MPaとなるように水を通液させたときに、水の通液速度が1000cm/h以上である、[1]〜[7]のいずれかに記載の分離材。
[9]ウイルス粒子の分離精製に用いられる、[1]〜[8]のいずれかに記載の分離材。
本発明によれば、細孔径を大きくしても、良好な通液性を示し、優れた吸着性能を有する充填材を提供することができる。当該分離材は、液体クロマトグラフィー用の分離材、特にウイルス精製用の分離材として好適である。
分離材の細孔径分布の一例を示すグラフである。
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
<分離材>
本実施形態の分離材は、多孔質ポリマ粒子と、該多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を被覆する水酸基を有する架橋高分子を含む被覆層と、を備える。上記分離材において、平均粒子径は80〜300μmであり、粒径の変動係数は10%以下である。また、水銀圧入法により測定される分離材の細孔径分布において、最大の細孔容積を示す細孔径が0.4μm以上1.1μm未満の範囲にあり、細孔径が0.05〜5.0μmにある細孔容積の総和に対する、細孔径が0.5〜5.0μmにある細孔容積の総和の割合が40%以上である。
本明細書において、「多孔質ポリマ粒子の表面」は、多孔質ポリマ粒子の外側の表面のみでなく、多孔質ポリマ粒子の内部における細孔の表面も含む。また、本明細書中、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリレート等の他の類似の表現においても同様である。
[多孔質ポリマ粒子]
本実施形態に係る多孔質ポリマ粒子は、多孔質化剤を含むモノマを硬化させた粒子であり、例えば、従来の懸濁重合、乳化重合等により合成することができる。モノマとしては、特に限定されないが、スチレン系モノマ等のビニルモノマを使用することができる。具体的なモノマとしては、以下のような多官能性モノマ、単官能性モノマ等が挙げられる。以下のようなものが挙げられる。
多官能性モノマとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジビニルフェナントレン等のジビニル化合物が挙げられる。これらの多官能性モノマは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。耐久性、耐膨潤性、耐酸性及び耐アルカリ性の観点より、モノマとしてジビニルベンゼンを使用することが好ましい。
多孔質ポリマ粒子がジビニルベンゼンに由来する構造単位を有するポリマを含む場合、カラムの耐圧性を向上し易くなる。耐膨潤性及び耐圧性を更に向上する観点から、多孔質ポリマ粒子は、ジビニルベンゼンをモノマ全質量基準で40質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、55質量%以上含むことが更に好ましい。
単官能性モノマとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン等のスチレン及びその誘導体が挙げられる。これらの単官能性モノマは、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。耐酸性及び耐アルカリ性の観点から、スチレンを使用することが好ましい。また、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、アルデヒド基等の官能基を有するスチレン誘導体も使用することができる。
多孔質化剤としては、重合時に相分離を促し、粒子の多孔質化を促進する有機溶媒が用いられる。有機溶媒としては、例えば、脂肪族又は芳香族の炭化水素類、エステル類、ケトン類、エーテル類及びアルコール類が挙げられる。多孔質化剤としては、例えば、トルエン、ジエチルベンゼン、キシレン、シクロヘキサン、オクタン、酢酸ブチル、フタル酸ジブチル、メチルエチルケトン、ジブチルエーテル、1−ヘキサノール、2−オクタノール、イソアミルアルコール、デカノール、ラウリルアルコール及びシクロヘキサノールから選ぶことができる。これらの多孔質化剤は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
多孔質化剤の量は、モノマ全質量に対して0〜200質量%であってもよい。多孔質化剤の量によって、多孔質ポリマ粒子の空隙率をコントロールすることができる。多孔質化剤の量は、50〜200質量%であることが好ましい。さらに、多孔質化剤の種類によって、多孔質ポリマ粒子の細孔の大きさ及び形状をコントロールすることができる。
溶媒として使用する水を多孔質化剤とすることもできる。水を多孔質化剤とする場合は、モノマに油溶性界面活性剤を溶解させることで、水を吸収し、粒子を多孔質化させることが可能である。
多孔質化に使用される油溶性界面活性剤としては、分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸又は鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のソルビタンモノエステル、例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノミリステート又はヤシ脂肪酸から誘導されるソルビタンモノエステル;分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸又は鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のジグリセロールモノエステル、例えば、ジグリセロールモノオレエート(例えば、C18:1(炭素数18個、二重結合数1個)脂肪酸のジグリセロールモノエステル)、ジグリセロールモノミリステート、ジグリセロールモノイソステアレート又はヤシ脂肪酸のジグリセロールモノエステル;分岐C16〜C24アルコール(例えば、ゲルベアルコール)、鎖状不飽和C16〜C22アルコール又は鎖状飽和C12〜C14アルコール(例えば、ヤシ脂肪アルコール)のジグリセロールモノ脂肪族エーテル;C12〜C22脂肪酸ショ糖エステル(例えば、ステアリン酸ショ糖エステル);及びこれらの混合物が挙げられる。
これらのうち、ソルビタンモノラウレート(例えば、Span(登録商標)20、純度が好ましくは約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、更に好ましくは約70%を超えるソルビタンモノラウレート)、ソルビタンモノオレエート(例えば、Span(登録商標)80、純度が好ましくは約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、更に好ましくは約70%を超えるソルビタンモノオレエート)、ジグリセロールモノオレエート(例えば、純度が好ましくは約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、更に好ましくは約70%を超えるジグリセロールモノオレエート)、ジグリセロールモノイソステアレート(例えば、純度が好ましくは約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、更に好ましくは約70%を超えるジグリセロールモノイソステアレート)、ジグリセロールモノミリステート(純度が好ましくは約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、更に好ましくは約70%を超えるジグリセロールモノミリステート)、ジグリセロールのココイル(例えば、ラウリル基、ミリストイル基等)エーテル、又はこれらの混合物が好ましい。
これらの油溶性界面活性剤は、モノマ全質量に対して5〜80質量%の範囲で用いることが好ましい。油溶性界面活性剤の量が5質量%以上であると、水滴の安定性が良好となることから、大きな単一孔の形成が抑制される傾向になる。油溶性界面活性剤の量が80質量%以下であると、重合後に多孔質ポリマ粒子が形状をより保持し易くなる。
多孔質化剤として溶解性粒子を含んでいてもよい。溶解性粒子とは、例えば、酸、アルカリ、溶剤等に溶解させることが可能な粒子である。溶解性粒子は、重合中には溶解せず、ポリマ粒子を形成した後に任意の方法で除去することができる。除去方法としては、例えば、ポリマ粒子を酸溶液に浸すことによって溶解性粒子を溶解する方法がある。溶解性粒子の構成材料としては、例えば、炭酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、シリカ、ポリマ、金属コロイド等を使用することができる。除去のし易さの観点から、酸カルシウム、第三リン酸カルシウム等を用いることが好ましい。ポリマ粒子を形成した後に、ポリマ粒子中に含まれている溶解性粒子を除去することによって、ポリマ粒子中に、溶解性粒子に対応する大きさ及び形状の細孔を形成することができる。
溶解性粒子の平均粒径は、多孔質ポリマ粒子における所望の細孔径に応じて調整すればよく、例えば、0.6〜10μmとすることができる。溶解性粒子の平均粒径は、多孔質ポリマ粒子の平均粒径の測定方法と同様の方法で測定することができる。
水性媒体としては、水、又は、水と水溶性溶媒(例えば、低級アルコール)との混合媒体が挙げられる。水性媒体には、界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性イオン系の界面活性剤のうち、いずれも用いることができる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリ等の脂肪酸油、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、アルケルニルコハク酸塩(ジカリウム塩)、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等が挙げられる。
カチオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールアルキルエーテル類、ポリエチレングリコールアルキルアリールエーテル類、ポリエチレングリコールエステル類、ポリエチレングリコールソルビタンエステル類、ポリアルキレングリコールアルキルアミン又はアミド類等の炭化水素系ノニオン界面活性剤、シリコンのポリエチレンオキサイド付加物類、ポリプロピレンオキサイド付加物類等のポリエーテル変性シリコン系ノニオン界面活性剤、パーフルオロアルキルグリコール類等のフッ素系ノニオン界面活性剤、糖脂肪酸エステル、アルキルグルコシドが挙げられる。
両性イオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキサイド等の炭化水素界系面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤及び亜リン酸エステル系界面活性剤が挙げられる。
界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記界面活性剤の中でも、モノマ重合時の分散安定性の観点から、アニオン系界面活性剤が好ましい。
必要に応じて添加される重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物が挙げられる。重合開始剤は、モノマ100質量部に対して、0.1〜7.0質量部の範囲で使用することができる。
重合温度は、モノマ及び重合開始剤の種類に応じて、適宜選択することができる。重合温度は、25〜110℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。
多孔質ポリマ粒子の合成において、粒子の分散安定性を向上させるために、高分子分散安定剤を用いてもよい。
高分子分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、セルロース類(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等)、ポリビニルピロリドンが挙げられ、トリポリリン酸ナトリウム等の無機系水溶性高分子化合物も併用することができる。これらのうち、ポリビニルアルコール、メチルセルロース又はポリビニルピロリドンが好ましい。高分子分散安定剤の添加量は、モノマ100質量部に対して1〜10質量部が好ましい。
水中でモノマが単独に乳化重合した粒子の発生を抑えるために、亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類等の水溶性の重合禁止剤を用いてもよい。
多孔質ポリマ粒子の平均粒径は、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは150μm以下である。多孔質ポリマ粒子の平均粒径は、通液性の更なる向上の観点、及びカラム圧が増加するのを抑制する観点から、好ましくは80μm以上、より好ましくは90μm以上であり、更に好ましくは100μm以上である。
多孔質ポリマ粒子の粒径の変動係数(C.V.)は、通液性の向上の観点から、10%以下が好ましく、2〜10%がより好ましく、2.5〜9%が更に好ましい。C.V.を低減する方法としては、マイクロプロセスサーバー(株式会社日立製作所製)等の乳化装置により単分散化することが挙げられる。
多孔質ポリマ粒子の細孔容積は、多孔質ポリマ粒子の全体積基準で30〜75体積%であってもよく、50〜70体積%であることが好ましい。多孔質ポリマ粒子は、最大の細孔容積を示す細孔径が0.4μm以上1.1μm未満である細孔、すなわちマクロポア(マクロ孔)を有していてもよい。多孔質ポリマ粒子の最大の細孔容積を示す細孔径は、0.4μm以上1.0μm未満であることが好ましい。細孔径が0.4μm以上であると、細孔内に物質が入り易くなる傾向にあり、細孔径が1.1μm未満であると、比表面積が充分なものになる。これらは上述の多孔質化剤により調整可能である。
多孔質ポリマ粒子の比表面積は、10m/g以上であることが好ましい。比表面積が10m/g以上であると、分離する物質の吸着量を向上し易くなる。実用性の観点から、比表面積は15m/g以上であることがより好ましく、20m/g以上であることが更に好ましい。多孔質ポリマ粒子の比表面積の上限は、特に限定されないが、例えば、300m/g以下とすることができる。
[被覆層]
本実施形態に係る被覆層は、水酸基を有する架橋高分子を含む。水酸基を有する架橋高分子で多孔質ポリマ粒子を被覆することにより、カラム圧の上昇を抑制することができると共に、タンパク質の非特異吸着を抑制することが可能となる。上記被覆層を備えることで、分離材のタンパク質吸着量を、天然高分子を用いた場合と同等又はそれ以上とすることができる。さらに、水酸基を有する架橋高分子で被覆されることで、高流速で通液したときにカラム圧の上昇を抑制しつつ、高い吸着能の発現に寄与できる。
(水酸基を有する架橋高分子)
水酸基を有する架橋高分子は、1分子中に2個以上の水酸基を有することが好ましい。水酸基を有する架橋高分子は、水酸基を有する高分子を架橋したものである。また、水酸基を有する高分子は、親水性高分子であることが好ましい。水酸基を有する高分子としては、例えば、多糖類又はその変性体が挙げられる。水酸基を有する高分子として、平均分子量1万〜20万程度の高分子を使用してもよい。水酸基を有する架橋高分子は、多糖類(糖鎖)又はその変性体由来の架橋高分子であることが好ましい。多糖類としては、アガロース、デキストラン、プルラン、セルロース、キトサン等が挙げられる。水酸基を有する架橋高分子は、アガロース又はデキストラン由来の架橋高分子であってもよい。
水酸基を有する高分子は、界面吸着能を向上させる観点から、疎水基を導入した変性体であってもよい。疎水基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基及び炭素数6〜10のアリール基が挙げられる。炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基及びプロピル基が挙げられる。炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基及びナフチル基が挙げられる。疎水基は、水酸基と反応する官能基(例えば、エポキシ基等)及び疎水基を有する化合物(例えば、グリシジルフェニルエーテル等)を、水酸基を有する高分子と従来公知の方法で反応させることにより導入することができる。
(水酸基を有する架橋高分子の被覆方法)
本実施形態に係る水酸基を有する架橋高分子の被覆は、例えば、多孔質ポリマ粒子の表面に水酸基を有する高分子を吸着させた後、当該高分子を架橋して、多孔質ポリマ粒子の表面に水酸基を有する架橋高分子の層を形成することができる。以下、被覆層を形成する方法の具体例について説明する。
まず、水酸基を有する高分子の溶液を多孔質ポリマ粒子表面に吸着させる。水酸基を有する高分子の溶液の溶媒としては、水酸基を有する高分子を溶解することのできるものであれば、特に限定されないが、水が最も一般的である。溶媒に溶解させる高分子の濃度は、5〜20mg/mLが好ましい。
この溶液を、多孔質ポリマ粒子に含浸させる。含浸方法は、水酸基を有する高分子の溶液に多孔質ポリマ粒子を加えて一定時間放置する。含浸時間は多孔質体の表面状態によっても変わるが、通常一昼夜含浸すれば高分子濃度が多孔質体の内部で外部濃度と平衡状態となる。その後、水、アルコール等の溶媒で洗浄し、未吸着分の水酸基を有する高分子を除去する。
(架橋処理)
次いで、架橋剤を加えて、多孔質ポリマ粒子表面に吸着された水酸基を有する高分子を架橋反応させて、架橋体を形成する。例えば、架橋剤を加えて、多孔質ポリマ粒子の表面に吸着した水酸基を有する高分子を架橋反応させて、高分子の架橋ゲルを形成させる。このとき、架橋体において、例えば、水酸基を有する高分子が3次元架橋網目構造を有するようになる。
架橋剤としては、例えば、エピクロロヒドリン等のエピハロヒドリン、グルタルアルデヒド等のジアルデヒド化合物、メチレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジル化合物などのような水酸基(OH基)に活性な官能基を2個以上有する化合物が挙げられる。また、水酸基を有する高分子として、キトサンのようなアミノ基を有する化合物を使用する場合には、ジクロロオクタンのようなジハライドも架橋剤として使用できる。
この架橋反応には通常触媒が用いられる。該触媒は架橋剤の種類に合わせて適宜従来公知のものを用いることができるが、例えば、架橋剤がエピクロロヒドリン等の場合には水酸化ナトリウム等のアルカリが有効であり、架橋剤がジアルデヒド化合物の場合には塩酸等の鉱酸が有効である。
架橋剤による架橋反応は、通常、水酸基を有する高分子の溶液等を細孔内に含浸させた多孔質ポリマ粒子を適当な媒体中に分散、懸濁させた系に架橋剤を添加することによって行われる。架橋剤の添加量は、水酸基を有する高分子として多糖類を使用した場合、単糖類の1単位を1モルとすると、それに対して0.1〜100モル倍の範囲内で、目的とする分離材の性能に応じて選定することができる。一般に、架橋剤の添加量を少なくすると、被覆層が多孔質ポリマ粒子から剥離し易くなる傾向にある。また、架橋剤の添加量が過剰で、かつ、水酸基を有する高分子との反応率が高い場合、原料の水酸基を有する高分子の特性が損なわれる傾向にある。
触媒の使用量としては、架橋剤の種類により異なるが、通常、水酸基を有する高分子として多糖類を使用する場合、多糖類を形成する単糖類の1単位を1モルとすると、これに対して好ましくは0.01〜10モル倍の範囲、より好ましくは0.1〜5モル倍の範囲で使用される。
例えば、該架橋反応条件を温度条件とした場合、反応系の温度を上げ、その温度が反応温度に達すれば架橋反応が生起する。
水酸基を有する高分子溶液等を吸着させた多孔質ポリマ粒子を分散、懸濁させる媒体の具体例としては、吸着させた高分子、架橋剤等を抽出してしまうことなく、かつ、架橋反応に不活性なものである必要がある。媒体として、具体的には、水、アルコール等が挙げられる。
架橋反応は、通常、5〜90℃の範囲の温度で、1〜24時間かけて行う。好ましくは、30〜90℃の範囲の温度である。
架橋反応終了後、生成した粒子を濾別し、次いで水、メタノール、エタノール等の親水性有機溶媒で洗浄し、未反応の高分子、懸濁用媒体等を除去すれば、多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部が、水酸基を有する架橋高分子を含む被覆層により被覆された分離材が得られる。本実施形態の分離材は、多孔質ポリマ粒子1g当たり30〜400mgの被覆層を備えることが好ましい。水酸基を有する架橋高分子の被覆量は、60〜350mgがより好ましく、80〜300mgが更に好ましい。水酸基を有する架橋高分子の被覆量は、熱分解の重量減少等で測定することができる。
(イオン交換基の導入)
被覆層を備える分離材は、イオン交換基、リガンド(プロテインA)等を粒子表面の水酸基等を介して導入することにより、イオン交換精製、アフィニティ精製等に使用することができる。イオン交換基の導入方法としては、例えば、ハロゲン化アルキル化合物(ハロゲン化アルキル基含有化合物)を用いる方法が挙げられる。
ハロゲン化アルキル化合物としては、モノハロゲノ酢酸、モノハロゲノプロピオン酸等のモノハロゲノカルボン酸及びそのナトリウム塩;ジエチルアミノエチルクロライド等の、ハロゲン化アルキル基を少なくとも1つ有する1級、2級又は3級アミン;ハロゲン化アルキル基を有する4級アンモニウムの塩酸塩などが挙げられる。ハロゲン化アルキル化合物は、臭化物又は塩化物であることが好ましい。ハロゲン化アルキル化合物の使用量は、イオン交換基を導入する分離材(イオン交換基を導入する前の分離材)の全質量基準で0.2質量%以上が好ましい。
イオン交換基の導入する反応を促進させるために、有機溶媒を用いることが有効である。有機溶媒としては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール)、1−ブタノール、イソブタノール、1−ペンタノール、イソペンタノール等のアルコール類が挙げられる。
通常、イオン交換基の導入は、分離材表面の水酸基に行われるので、湿潤状態の被覆層を有する粒子を、濾過等により水切りした後、所定濃度のアルカリ性水溶液に浸漬し、一定時間放置する。水、又は、水−有機溶媒混合系で、上記ハロゲン化アルキル化合物を添加し反応させる。この反応は、温度40〜90℃で、還流下、0.5〜12時間行うことが好ましい。
弱塩基性基であるアミノ基をイオン交換基として導入する方法としては、ハロゲン化アルキル化合物のうち、モノ−、ジ−又はトリ−アルキルアミノクロライド、モノ−、ジ−又はトリ−アルカノールアミノクロライド、モノ(又はジ−)アルキル−モノ(又はジ−)アルカノールアミノクロライド等の2級又は3級アミノハロゲナイドなどを反応させる方法が挙げられる。これらのアミンの使用量は、例えば、イオン交換基を導入する分離材の全質量基準で0.2質量%以上である。反応条件は、例えば、40〜90℃で0.5〜12時間である。
強塩基性基である4級アンモニウム基をイオン交換基として導入する方法としては、まず、3級アミノ基を導入し、該3級アミノ基にエピクロロヒドリン等のハロゲン化アルキル化合物を反応させて4級アンモニウム基に変換させる方法などが挙げられる。又は、4級アンモニウムクロライド等の4級アミノハロゲナイドなどを上述の1〜3級アミノクロライドと同様の方法で分離材(複合体)と反応させてもよい。
弱酸性基であるカルボキシ基をイオン交換基として導入する方法としては、ハロゲン化アルキル化合物として、モノハロゲノ酢酸、モノハロゲノプロピオン酸等のモノハロゲノカルボン酸又はそのナトリウム塩を反応させる方法が挙げられる。これらのハロゲン化アルキル化合物の使用量は、例えば、イオン交換基を導入する分離材の全質量基準で0.2質量%以上である。
強酸性基であるスルホン酸基をイオン交換基として導入する方法としては、分離材に対してエピクロロヒドリン等のグリシジル化合物を反応させ、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩又は重亜硫酸塩の飽和水溶液に分離材を添加する方法が挙げられる。反応条件は、例えば、30〜90℃で1〜10時間である。
イオン交換基を導入する他の方法としては、アルカリ性雰囲気下で、分離材に1,3−プロパンスルトンを反応させる方法がある。1,3−プロパンスルトンの量は、例えば、イオン交換基を導入する分離材の全質量基準で0.4質量%以上である。反応条件は、例えば、0〜90℃で0.5〜12時間である。
これらの方法以外のイオン交換基の導入方法としては、スルホプロピルを反応させる方法、エピハロヒドリンジグリシジル化合物等を付加させた後にグリシジル基にイオン交換基を導入する方法も挙げられる。
本実施形態の分離材の吸湿度は、1〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましく、1〜10質量%が更に好ましい。吸湿度が30質量%以下であると、被覆層の厚みにより分離材の通液性が低下することを更に抑制できる。
本実施形態の分離材の平均粒径は、80〜300μmである。分取用又は工業用のクロマトグラフィーで使用される場合、カラム内圧の極端な増加を避けるために、分離材の平均粒径は80〜250μmが好ましく、90〜200μmがより好ましく100〜150μmが更に好ましい。
分離材の粒径の変動係数(C.V.)は、通液性の向上の観点から、10%以下であり、2〜10%が好ましく、2.5〜9%がより好ましい。C.V.を低減する方法としては、多孔質ポリマ粒子を作製する際に、マイクロプロセスサーバー等の乳化装置により単分散化することが挙げられる。
分離材又は多孔質ポリマ粒子の平均粒径及び粒径のC.V.は、以下の測定法により求めることができる。平均粒径は、以下の測定法により求めることができる。
1)超音波分散装置を使用して粒子を水(界面活性剤等の分散剤を含む)に分散させ、1質量%の粒子を含む分散液を調製する。
2)粒度分布計(シスメックス株式会社の商品名「シスメックスフローFPIA−3000」)を用いて、分散液中の粒子約1万個の画像により平均粒径及び粒径のC.V.を測定する。
分離材の細孔容積、細孔径及び比表面積は、多孔質ポリマ粒子の原料、多孔質化剤、水酸基を有する高分子等を適宜選択することによって調整することができる。
分離材又は多孔質ポリマ粒子の細孔容積、細孔径(モード径)及び比表面積は、水銀圧入測定装置(株式会社島津製作所の商品名「オートポア」)を用いて、例えば、以下のようにして測定することができる。試料約0.05gを、標準5mL粉体用セル(ステム容積0.4mL)に加え、初期圧21kPa(約3psia、細孔直径約60μm相当)の条件で測定する。水銀パラメータは、装置デフォルトの水銀接触角130°、水銀表面張力485dynes/cmに設定する。また、細孔径0.05〜5μmの範囲に限定してそれぞれの値を算出する。
本実施形態の分離材の細孔径(モード径、細孔径分布の最頻値、最大頻度径)は、0.4μm以上1.1μm未満であることが好ましく、0.4〜1.0μmであることよりが好ましく、0.4〜0.8μmであることが更に好ましい。細孔径がこれらの範囲にあると、通液性を向上し、動的吸着量を多くし易くなる。
本実施形態の分離材において、水銀圧入法により分離材の細孔径分布を測定した際、最大の細孔容積を示す細孔径が0.4μm以上1.1μm未満の範囲にある。通液性を更に向上する観点から、当該細孔径は、0.4μm以上1.0μm未満の範囲にあることが好ましく、0.4μm以上0.8μm以下の範囲にあることがより好ましい。
本実施形態の分離材の細孔容積分布において、細孔径が0.5〜5μmにある細孔容積の総和は、細孔径が0.05〜5.0μmにある細孔容積の総和(全細孔容積)に対して、40%以上であり、40%超が好ましく、43%以上がより好ましい。細孔径が0.5〜5μmにある細孔容積の割合の上限は、80%以下であってもよい。細孔径が0.5〜5μmにある細孔容積の割合が上記範囲にあることで、大きな生体高分子、ウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)等を効率的に捕捉し易くなり、分離材内部への通液性がより改善され、カラム流速が早い場合の動的吸着量がより高くなる。上記細孔容積の割合は、例えば、細孔容積分布の測定に用いる水銀圧入測定装置に付属の解析ソフトによって算出することができる。
本実施形態の分離材の比表面積は、10m/g以上であることが好ましい。比表面積が10m/g以上であると、分離する物質の吸着量が大きくなる傾向にある。より高い実用性の観点から、比表面積は、15m/g以上であることがより好ましく、20m/g以上であることが更に好ましい。分離材の比表面積の上限は、特に限定されないが、例えば、300m/g以下とすることができる。
本実施形態の分離材の5%圧縮変形弾性率は、以下のようにして算出することができる。微小圧縮試験機(Fisher社製)を用いて、室温(25℃)条件にて荷重負荷速度1mN/秒で、四角柱の平滑な端面(50μm×50μm)により分離材を50mNまで圧縮したときの荷重及び圧縮変位を測定する。得られた測定値から、分離材が5%圧縮変形したときの圧縮弾性率(5%K値)を下記式により求めることができる。また、上記測定中の変位量が最も大きく変化する点の荷重を破壊強度(mN)とする。
5%K値(MPa)=(3/21/2)・F・S−3/2・R−1/2
F:分離材が5%圧縮変形したときの荷重(mN)
S:分離材が5%圧縮変形したときの圧縮変位(mm)
R:分離材の半径(mm)
分離材を5%圧縮変形したときの圧縮弾性率(5%K値)は、60〜1000MPaであることが好ましく、80〜1000MPaであることが好ましく、90〜1000MPaであることがより好ましい。圧縮弾性率が60MPa以上であると、分離材の剛直性が高くなり、カラム内で液を流した際に変形し難くなり、カラム圧が高くなり難くなる。分離材の5%圧縮変形弾性率は、架橋剤の種類及び使用量、被覆層の量等により調整することができる。例えば、架橋剤の使用量又は被覆層の量が多いほど、5%圧縮変形弾性率が大きくなる傾向がある。
本明細書における「通液速度」とは、φ7.8×300mmのステンレスカラムに分離材を充填し、液を流した際の通液速度を表す。本実施形態の分離材が充填されたカラムに、カラムの圧力が0.3MPaとなるように水を通液させたときに、水の通液速度(流速)は、1000cm/h以上であることが好ましく、1200cm/h以上であることがより好ましく、1300cm/h以上であることが更に好ましく、1500cm/h以上であることが特に好ましい。カラムクロマトグラフィーでタンパク質の分離を行う場合、カラムに通液されるタンパク質溶液等の通液速度としては、一般的に400cm/h以下の範囲であるが、本実施形態の分離材を使用した場合は、通常のタンパク質分離用の分離材よりも速い通液速度である1000cm/h以上でも高吸着容量で使用できる。
本実施形態の分離材は、タンパク質の静電的相互作用による分離、アフィニティ精製に用いるのに好適である。例えば、タンパク質を含む混合溶液の中に、イオン交換基を導入した分離材を添加し、静電的相互作用によりタンパク質だけを分離材に吸着させた後、該分離材を溶液から濾別し、塩濃度の高い水溶液中に添加すれば、分離材に吸着しているタンパク質を容易に脱離、回収できる。本実施形態の分離材は、カラムクロマトグラフィーの充填剤としても有用で。カラムは、通常、管状体と、該管状体内に充填された分離材(カラム充填剤)を備えるものである。
本実施形態の分離材は、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、日本脳炎ウイルス、肝炎ウイルス等のウイルスの吸着又は回収に好適に利用することができる。本実施形態の分離材は、ウイルス粒子の分離精製に用いることができる。また、本実施形態の分離材は、血清アルブミン(BSA:Bovine Serum Alubumin)、免疫グロブリン等の血液タンパク質などのタンパク質;生体中に存在する酵素;バイオテクノロジーにより生産されるタンパク質生理活性物質;DNA;生理活性をするペプチド等の生体高分子の分離にも利用することができる。また、公知の方法に従い、タンパク質の等電点、イオン化状態等によって、分離材の性質、条件等を選ぶことができる。公知の方法としては、例えば、特開昭60−169427号公報に記載の方法が挙げられる。
分離材にイオン交換基、プロテインA等を導入することにより、タンパク質等の生体高分子の分離において、天然高分子及びポリマからなる粒子の持つそれぞれの利点をあわせ持った特性を示し易くなる。この性能は、従来の技術では発揮されなかったものである。特に、本実施形態の分離材は、インフルエンザウイルス等の免疫グロブリンGよりも大きいサイズを持つウイルスの吸着又は回収に好適に使用することができる。
本実施形態の分離材は、カラムクロマトグラフィーでカラム充填材として使用した場合、使用する溶出液の性質によらず、カラム内での体積変化が少ないため、操作性に優れる。なお、本実施形態では、主に、イオン交換基を導入する形態の分離材について説明したが、イオン交換基を導入しなくても分離材として用いることができる。このような分離材は、例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーに利用することができる。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(多孔質ポリマ粒子)
500mLの三口フラスコに、純度96%のジビニルベンゼン(新日鉄住金化学株式会社の商品名「DVB960」)12g、ジエチルベンゼン6g、ラウリルアルコール18g、過酸化ベンゾイル0.5g及び炭酸カルシウム粒子(平均粒径1μm)3.0gを、0.05質量%のポリビニルアルコール水溶液に加えて混合液を調製した。この混合液を、マイクロプロセスサーバーを使用して乳化した後、得られた乳化液をフラスコに移し、80℃のウォーターバスで加熱しながら、撹拌機を用いて約8時間撹拌した。得られた粒子を濾過後、純水及びアセトンで洗浄し、多孔質ポリマ粒子1を得た。
多孔質ポリマ粒子の平均粒径(体積基準)及び粒径のC.V.は、レーザー回折粒度分布計(シスメックス株式会社の商品名「FPIA−3000」)にて測定した。結果を表1に示す。
(変性デキストラン)
2質量%のデキストラン水溶液100mLに、水酸化ナトリウム4g及びグリシジルフェニルエーテル0.14gを加え、60℃で6時間反応させ、デキストランにフェニル基を導入した。得られた変性デキストランをメチルアルコールで沈殿させ、洗浄した。得られた変性デキストランを再度水に溶解して20mg/mLの変性デキストラン水溶液を調製した。
(被覆層の形成)
変性デキストラン水溶液70mLに対して、多孔質ポリマ粒子1を1gの割合で投入し、55℃で24時間撹拌することにより、多孔質ポリマ粒子1に変性デキストランを吸着させた。吸着後、濾過を行い、熱水で洗浄した。
多孔質ポリマ粒子に吸着した変性デキストランを次のようにして架橋させた。0.64Mのエチレングリコールジグリシジルエーテル及び0.4Mの水酸化ナトリウムを含む水溶液に、水溶液35mLに対して変性デキストランが吸着した粒子を1gの割合で添加し、室温で24時間撹拌した。その後、加熱した2質量%のドデシル硫酸ナトリウム水溶液で洗浄後、純水で洗浄して、変性デキストランの架橋体を被覆層として有する被覆粒子の水懸濁液を得た。
被覆粒子の平均粒径(体積基準)及び粒径のC.V.をレーザー回折粒度分布計にて測定し、多孔質ポリマ粒子1g当たりの変性デキストランの架橋体の被覆量を熱重量分析により測定した。結果を表2に示す。
(イオン交換基の導入)
上記被覆粒子を含む水懸濁液を濾過して回収した被覆粒子(乾燥質量20g)を、5Mの水酸化ナトリウム水溶液200mLに投入し、室温で1時間放置した。次いで、ジエチルアミノエチルクロライド塩酸塩60gを溶解させた200mLの水を添加し、水溶液の温度を70℃まで上げ、撹拌しながら2時間反応させた。反応終了後、濾過して水洗し、ジエチルアミノエチル(DEAE)基をイオン交換基として有する分離材(DEAE変性イオン交換体)を得た。
分離材の細孔径及び比表面積を水銀圧入測定装置(株式会社島津製作所の商品名「オートポア」)で測定した。分離材の細孔径分布を図1に示す。また、細孔径0.05μm〜5μmの細孔容積に対する細孔径0.5μm〜5μmの細孔容積の割合を、水銀圧入測定装置に付属の解析ソフトによって算出した。結果を表2に示す。
[実施例2]
「DVB960」を純度57%のジビニルベンゼン(新日鉄住金化学株式会社の商品名「DVB570」)12gに変更し、ジエチルベンゼンの量を7.05gに変更し、ラウリルアルコールの量を16.95gに変更した以外は、多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子2を得た。多孔質ポリマ粒子2を用いて、実施例1と同様に分離材を作製した。
(実施例3)
「DVB570」16g、ソルビタンモノオレエート(東京化成工業株式会社の商品名「Span80」)9.6g及び過酸化ベンゾイル0.64gを、0.1質量%のメチルセルロース50水溶液に加えて混合液を調製した以外は、実施例1と同様にして多孔質ポリマ粒子3を合成した。多孔質ポリマ粒子3を用いて、実施例1と同様に分離材を作製した。
(実施例4)
「Span80」をショ糖ステアリン酸エステル(三菱ケミカルフーズ株式会社の商品名「リョートーシュガーエステルS−170」)3.2gに変更した以外は、多孔質ポリマ粒子3の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子4を合成した。多孔質ポリマ粒子4を用いて、実施例1と同様に分離材を作製した。
(実施例5)
「DVB960」を「DVB570」12gに変更し、ジエチルベンゼンの量を6.85gに変更し、ラウリルアルコールの量を17.15gに変更した以外は、多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子5を合成した。多孔質ポリマ粒子5を用いて、実施例1と同様に分離材を作製した。
(比較例1)
「DVB960」を「DVB570」12gに変更し、ジエチルベンゼンの量を8gに変更し、ラウリルアルコールの量を16gに変更した以外は、多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子6を合成した。多孔質ポリマ粒子6を用いて、実施例1と同様に分離材を作製した。分離材の細孔径分布を図1に示す。
(比較例2)
「Span80」の量を8.0gへ変更した以外は、多孔質ポリマ粒子3の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子7を合成した。多孔質ポリマ粒子7を用いて、実施例1と同様に分離材を作製した。
[比較例3]
マイクロプロセスサーバーを使用せずに乳化した以外は、多孔質ポリマ粒子4の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子8を合成した。多孔質ポリマ粒子8を用いて、実施例1と同様に分離材を作製した。
[比較例4]
ラウリルアルコールを4−メチル−2−ペンタノールに変更した以外は、多孔質ポリマ粒子2の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子9を合成した。多孔質ポリマ粒子9を用いて、実施例1と同様に分離材を作製した。
[比較例5]
「Span80」の量を10.4gへ変更した以外は、多孔質ポリマ粒子3の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子10を合成した。多孔質ポリマ粒子10を用いて、実施例3と同様に分離材を作製した。
Figure 2020018989
Figure 2020018989
[分離材の評価]
(5%圧縮変形弾性率)
分離材の5%圧縮変形弾性率は、上述の方法で測定した。結果を表3に示す。
(イオン交換容量)
12時間以上水で膨潤させた分離材0.2〜0.3gを0.1Nの水酸化ナトリウム溶液20mLに浸漬し、25℃で1時間撹拌した。その後、分離材を吸引濾過して、水を用いて分離材を洗浄液が中性になるまで洗浄した。洗浄した分離材を0.1N塩酸水溶液20mLに浸漬し、室温で1時間撹拌した。分離材を濾過で取り除いた後、濾液を、自動電位差滴定装置を使用して0.1N水酸化ナトリウム水溶液で滴定することによって、分離材のイオン交換容量(mmol/mL)を求めた。結果を表3に示す。
(カラム特性)
分離材をメタノールに分散して、濃度30質量%のスラリーを調製した。このスラリーをφ7.8mm×300mmのステンレスカラムに4MPaで15分間かけて65mL充填した。分離材を充填したカラムに流速を変えながら水を流し、流速とカラム圧の関係を測定した。カラム圧が0.3MPa時の線流速(通液速度)を求めた。結果を表3に示す。
動的吸着量は以下のようにして測定した。分離材を充填したカラムに、20mmol/L Tris−塩酸緩衝液(pH8.0)を10カラム容量流した。その後、BSA(Bovine Serum Albumin)濃度2mg/mLの20mmol/LのTris−塩酸緩衝液を流し、UV測定によってカラム出口でのBSA濃度を測定した。カラム入口と出口のBSA濃度が一致するまで緩衝液を流し、5カラム容量分の1M NaCl Tris−塩酸緩衝液で希釈した。10%break throughにおける動的吸着量を以下の式を用いて算出した。結果を表3に示す。
10=cF(t10−t)/V
10:10%breakthroughにおける動的吸着量(mg/mL wet resin)
:注入しているBSA濃度(mg/mL)
F:流速(mL/min)
:ベッド体積(mL)
10:10%breakthroughにおける時間(min)
:BSA注入開始時間(min)
(タンパク質の非特異吸着量)
分離材0.5gを、BSA濃度20mg/mLのリン酸緩衝液(pH7.4)50mLに投入し、24時間室温で攪拌を行った。その後、遠心分離で上澄みをとった後、分光光度計で濾液のBSA濃度を測定した。分離材1mL当たりに吸着したBSA量を非特異吸着量として算出した。BSAの濃度は分光光度計により280nmの吸光度から確認した。その結果を表3に示す。
Figure 2020018989
実施例1〜5の分離材は、細孔径を大きくしても、0.3MPa時の通液速度が速く、優れた吸着性能を有することが判明した。

Claims (9)

  1. 多孔質ポリマ粒子と、該多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を被覆する水酸基を有する架橋高分子を含む被覆層と、を備える分離材であって、
    平均粒子径が80〜300μmであり、粒径の変動係数が10%以下であり、
    水銀圧入法により測定される細孔径分布において、最大の細孔容積を示す細孔径が0.4μm以上1.1μm未満の範囲にあり、細孔径が0.05〜5.0μmにある細孔容積の総和に対する、細孔径が0.5〜5.0μmにある細孔容積の総和の割合が40%以上である、分離材。
  2. 前記水酸基を有する架橋高分子が、多糖類又はその変性体由来の架橋高分子である、請求項1に記載の分離材。
  3. 前記多糖類が、アガロース又はデキストランである、請求項2に記載の分離材。
  4. 前記多孔質ポリマ粒子が、ジビニルベンゼンに由来する構造単位を有するポリマを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の分離材。
  5. 比表面積が10m/g以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の分離材。
  6. 5%圧縮変形弾性率が60〜1000MPaである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の分離材。
  7. 前記水酸基を有する架橋高分子の被覆量が、前記多孔質ポリマ粒子1g当たり30〜400mgである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の分離材。
  8. 当該分離材が充填されたカラムに、該カラムの圧力が0.3MPaとなるように水を通液させたときに、水の通液速度が1000cm/h以上である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の分離材。
  9. ウイルス粒子の分離精製に用いられる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の分離材。
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