図1は、本実施例におけるモータ制御装置の全体構成例を示す図である。モータ制御装置1は、大きく分けて、交流電力を出力する電力変換回路5とその電力変換回路5によって駆動されるモータ6とで構成される電力主回路と、モータ6に流れる電流またはモータ6の位置あるいは速度を直接的あるいは間接的に検出しモータ6へ印加する電圧指令値を演算する制御部2、等から構成される。なお、ここではモータ制御装置1は、電力主回路と制御部2で構成されるものとして把握したが、これは電力主回路の電力変換回路5とこれに対する制御部2がモータ制御装置であるというように把握することも可能である。
まず電力主回路の主たる機器である電力変換回路5について説明する。図4は、電力変換回路5の構成例を示す図である。電力変換回路5は、インバータ21、直流電圧源20、ゲートドライバ回路23によって構成される。インバータ21は、複数のスイッチング素子22(例えば、IGBT、MOS−FETなどの半導体スイッチング素子)によって構成される。これらのスイッチング素子22は直列に接続され、U相、V相、W相の上下アームを構成している。各相の上下アームの接続点は、モータ6へ配線されている。スイッチング素子22は、制御部2で生成されるドライブ信号を基にゲートドライバ回路23が出力するパルス状のゲート信号(24a〜24f)に応じてスイッチング動作をする。直流電圧源20をスイッチングしてPWM(パルス幅変調)制御された電圧を出力することで、任意の周波数の3相交流電圧をモータ6に印加することができ、これによってモータを可変速駆動する。
なお、制御部2で生成されるドライブ信号と、ゲートドライバ回路23によって生成(増幅)されるゲート信号は、信号の電圧レベル(例えば、5Vと15V)等が異なるため、両者は異なる信号である。しかし、本実施例においてはゲートドライバ回路23を理想回路として扱ったとしてもよく、以降に出てくるドライブ信号とゲート信号は、特に断りが無い限り同じ意味を有するものとして扱う。
電力変換回路5の直流側にシャント抵抗25を付加した場合、過大な電流が流れた際にスイッチング素子22を保護するための過電流保護回路や、後述するシングルシャント電流検出方式などに利用できる。これにより、安全性向上や部品点数削減といった効果が得られる。
ゲートドライバ回路23やスイッチング素子自体の遅れに起因して、上下アームのスイッチング素子22が短絡する恐れがあるため、実際には上下アームの両方がスイッチングオフとなるデッドタイム(数マイクロ秒〜十数マイクロ秒程度)を付加して最終的なドライブ信号とする。しかしながら、デッドタイムに関しては目的や効果に影響のない範囲においては理想的なドライブ信号を示している。もちろん、デッドタイムを付加した構成としても問題は無い。
上記したモータ制御装置では、いわゆるベクトル制御を実施することが多い。このため、以下の説明の前提として、ベクトル制御におけるモータの座標軸の定義の説明をしておく。なお本実施例は、モータ6として、回転子に永久磁石を有する永久磁石同期モータを用いた例で説明する。そのため、制御軸の位置と回転子の位置は、基本的に同期しているとして説明する。なお、実際は加減速時や負荷変動時の過渡状態において、制御軸の位置と回転子の位置にズレ(軸誤差)が生じる場合がある。軸誤差が生じた場合、モータが実際に発生するトルクが減少したり、電流歪みや跳ね上がりが生じたりすることもある。
モータ制御装置における座標軸の関係を図2に示している。一般に、回転子の回転角度位置情報は、モータに流れる電流およびモータ印加電圧からモータの推定位置を出力する位置センサレス制御によって得るものとしている。その際、回転子の主磁束方向の位置をd軸とし、d軸から回転方向に電気的に90度(電気角90度)進んだq軸とからなるd−q軸(回転座標系)を定義する。回転子の回転角度位置θdは、d軸の位相を示す。これに対し、制御上の仮想回転子位置をdc軸とし、そこから回転方向に電気的に90度進んだqc軸とからなるdc−qc軸(回転座標系)も定義する。本実施例では、この回転座標系である制御軸(dc−qc軸)上で電圧や電流を制御することを基本としているが、単に電圧の振幅と位相を調整してモータを制御することも可能である。なお、これ以降の説明において、d−q軸を実軸、dc−qc軸を制御軸、実軸と制御軸のズレである誤差角を軸誤差Δθcと呼ぶことにする。
また固定座標系である3相軸(U,V,W相)と制御軸(dc−qc軸)との関係を図3に示す。U相を基準に、dc軸の回転角度位置(推定磁極位置)をθdcと定義する。dc軸は図中の円弧状の矢印の方向(反時計方向)に回転している。そのため、回転周波数(後に示す、インバータ周波数指令値ω1)を積分することで、推定磁極位置θdcを得られる。
次に図1のモータ制御装置1における損失について検討する。上記のモータ6をPWM制御によって駆動する際、モータ制御装置1の損失を最小化して高効率化を実現するためには、電力変換回路5の損失とモータ6の損失の両方を総合的に考える必要がある。電力変換回路5の損失は、主に、スイッチング素子22が導通している際の導通損と、スイッチング素子22がオンオフする際に生じるスイッチング損があり、モータ6の損失は、主に、モータ6に流れる電流によって生じる銅損と、交流の磁場の影響による鉄損(ヒステリシス損および渦電流損)や磁石渦電流損がある。
このうち電力変換回路5の各損失について、さらに詳述するとその特徴は次のような概要となる。まずスイッチング素子22が導通している際の導通損はスイッチング素子のオン抵抗とスイッチング素子に流れる電流の積で決まる。スイッチング損は、スイッチング素子がオンおよびオフする際の損失の積算で決まる。例えば、モータ6に正弦波電流が流れるように電力変換回路5を制御する場合、導通損は、指令値として与えられた電流波形とスイッチング素子の特性でほぼ一義的に決まり、スイッチング損は、制御量の1つであるスイッチング素子がオンオフする周波数(スイッチング周波数)に略比例して決まる。
同様に、モータ6の各損失について、さらに詳述するとその特徴は次のような概要となる。銅損はモータ6の巻線の抵抗値と巻線に流れる電流の積で決まる。渦電流損は高調波磁束密度の変化に比例して決まる。スイッチング周波数を高くすると、モータ6に流れる電流が正弦波に近づくため、渦電流損はスイッチング周波数に略反比例して決まる。
このように、電力変換回路5の損失とモータ6の損失は、スイッチング周波数に略比例する成分と、スイッチング周波数に略反比例する成分からなる。そのため、両者は背反の関係にあるといえる。しかしながら、両者のスイッチングの周波数に対する特性は異なるため、損失の特性を考慮してスイッチング周波数を制御することにより、損失の総和の最小化をすることができる。
この点に関して、実際に電力主回路を製品として構成することを考えてみると、一般には電力変換回路5とモータ6を別個に製造し、購入して組み上げる。組み上げられた製品についての損失合計を周波数に関して求めてみると、損失を最小とする最適周波数が判明する。これに対し、購入した電力変換回路5のスイッチング周波数(運転周波数)が上記の最適周波数に合致するのであればよいが、一般には合致しないと考えられる。そのため効率を重視するのであれば、電力変換回路5の運転周波数を最適周波数に合致させる方策を講じるのが良い。
以上のことから本実施例の目的の一つは、モータの損失とインバータ(駆動装置)の損失の総和を最小にすることが可能なモータ制御装置を提供することである。
このように損失の総和を最小にすることが可能なモータ制御装置を得るためには、制御部2が定めるスイッチング周波数の管理が重要である。モータ制御装置を実際に構成する際の種々の制約を踏まえ、スイッチング周波数を最適に制御することが重要である。すなわち、制御部2が出力するドライブ信号の生成に関する器が重要であり、以下、制御部2の構成例と共にドライブ信号の生成について説明する。
制御部2の構成例を図1に示す。制御部2は、モータ6に流れる交流電流または電力変換回路5の直流側に流れる電流を入力し、モータ6に印加する電圧指令値を出力する電圧指令値作成器3と、モータ6に流れる電流を入力し、各相の電流ゼロクロスタイミング信号を出力する電流ゼロクロス検出器50と、電流ゼロクロスタイミングを入力し、PWM周波数に関する値を出力するPWM周波数設定器60と、電圧指令値とPWM周波数設定値を入力し、ドライブ信号を出力するPWM信号作成器33と、等から構成される。なお、制御部2の多くは、マイコン(マイクロコンピュータ)やDSPなどの半導体集積回路(演算制御器)によって構成され、ソフトウェアなどで実現している。
モータ6に流れる電流は、図4に示す電流検出器7を用いて、モータ6または電力変換回路5に流れる3相の交流電流の内、U相とW相に流れる電流Iu,Iwを検出する。電流検出器7は、例えば、CT(Current Transformer)等で構成できる。この構成を採用した場合、電力変換回路5のスイッチング状態を気にせず、任意のタイミングで電流検出できるという利点がある。なお、全相の交流電流を検出しても構わないが、キルヒホッフの法則から、3相のうち2相が検出できれば、他の1相は検出した2相から算出できる。
モータ6または電力変換回路5に流れる交流電流を検出する別方式として、例えば、電力変換回路5の直流側に付加されたシャント抵抗25に流れる直流電流から、電力変換回路5の交流側の電流を検出するシングルシャント電流検出方式がある。この方式は、電力変換回路5を構成するスイッチング素子の通電状態によって、電力変換回路5の各相の交流電流と同等の電流がシャント抵抗25に流れることを利用している。シャント抵抗25に流れる電流は時間的に変化するため、ドライブ信号が変化するタイミングを基準に適切なタイミングで電流検出する必要がある。図示はしていないが、電流検出器7に、シングルシャント電流検出方式を用いても問題ない。
次に、モータ6に流れる電流Iu,Iwからモータの回転子の回転角度位置(磁極位置)を推定し、電圧指令値を決定する構成について説明する。電圧指令値作成器3の構成例として、図5を用いて説明する。
モータ6を駆動するためには、前述の通りdc−qc軸(回転座標系)で制御するのが好適であり、回転座標上で制御するために3相交流軸からdc−qc軸に座標変換する必要がある。なお回転座標上では電圧や電流を直流量として扱えるという利点がある。
そのため3φ/dq変換器8においては、モータ6の回転子の磁極位置(本実施例では推定磁極位置θdc)を用いて、電流検出器7で検出した3相交流軸のモータ電流検出値122をdc−qc軸に座標変換し、d軸およびq軸の電流検出値(IdcおよびIqc)を得る。同様に、磁極位置θdcを用いて、後述する電圧指令値演算器34で生成したdc−qc軸上の電圧指令値Vd*,Vq*を、dq/3φ変換器4において3相交流電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に座標変換する。
例えば、モータ6に位置センサを付加した構成の場合は、座標変換する際の位相や、後述する速度演算に用いればよい。
図5に示しているように、電圧指令値作成器3の内部処理はdc−qc軸(回転座標系)上の電流で取り扱われ、電力主回路に対しては3相交流で取り扱う。このため、電圧指令値作成器3と電力主回路側のつなぎになる部分ではdq/3φ変換器4、3φ/dq変換器8による変換が不可欠であり、この変換を実行するためには磁極位置θdcの情報が必要である。
電圧指令値作成器3の内部処理において、磁極位置θdcの情報は軸誤差演算器10、PLL制御器13、積分器15aを備えることで得られる。これら一連の回路が位置推定器を構成している。次に、回転角度位置の位置推定原理、推定器とそれを用いた制御について説明する。
本実施例の位置推定器は、軸誤差Δθcの演算値を基にしている。軸誤差Δθcは、図2で説明したようにd−q軸を実軸、dc−qc軸を制御軸としたときの、実軸と制御軸のズレである誤差角のことである。軸誤差演算器10は、制御軸上の電流検出値(IdcおよびIqc)と、後述する電圧指令値(Vd*およびVq*)を入力して、(1)式により実軸と制御軸との軸誤差Δθcを出力する。(1)式で、Rはモータ6の巻線抵抗値、Ldはd軸のインダクタンス、Lqはq軸のインダクタンスである。
PLL制御器13では、軸誤差Δθcが軸誤差指令値Δθ*(通常はゼロ)になるようにインバータ周波数指令値ω1を出力する。このため、軸誤差指令値Δθ*と軸誤差Δθcの差を減算器17aで求め、これに乗算器18aで比例ゲインKp_pllを乗じ比例制御した演算結果と、乗算器18bで積分ゲインKi_pllを乗じそれを積分器15bで積分し積分制御した演算結果とを加算器16aで加算し、インバータ周波数指令値ω1を出力する。
定常状態においては、軸誤差Δθcはゼロとなる点、永久磁石同期モータでは制御軸の位置と回転子の位置は基本的に同期している点から、PLL制御器13が与えるインバータ周波数指令値ω1がモータの速度に相当する。
回転子の回転角度位置θd(電気角位相)は速度を積分することで得られる。そのため、積分器15aの出力が推定磁極位置θdcとなる。
電圧指令値作成器3における制御演算処理では、制御軸上における電流制御を実施する。電流制御器12において、制御軸上のd軸およびq軸の電流指令Id*、Iq*に対して、検出したd軸およびq軸の電流Id、Iqを合致させるべく制御する。d軸およびq軸の電流Id、Iqは3φ/dq変換器8において求められた値であり、この演算結果として第2のd軸およびq軸電流指令値(Id**およびIq**)を得る。
なお、電流指令値Id*、Iq*を作成するに際し、q軸電流指令値Iq*は上位制御系などから得る構成としてもよいが、上位制御系等から与えられる速度指令値への追従性を良くするため、図5の実施例では速度制御器14を用いてq軸電流指令値Iq*を得る構成として示した。このように、電圧指令値作成器3における好ましい制御演算処理では、速度制御と電流制御によるカスケード制御とされるのが望ましい。
以下、制御の上流側から順次回路構成と制御内容について説明する。まず、速度制御器14の構成例を図6に示し説明する。速度制御器14では、周波数指令値ω*とPLL制13が与えるインバータ周波数指令値ω1の差を減算器17bで求める。これに乗算器18cで比例ゲインKp_asrを乗じて比例制御した演算結果と、乗算器18dで積分ゲインKi_asrを乗じ積分器15cで積分し積分制御した演算結果とを加算器16bで加算し、q軸電流指令値Iq*を出力する。
図7は電流制御器12の構成図の例である。電圧指令値作成器3では、d軸およびq軸電流指令値への追従性を上げるため、電流制御器12において電流制御を行う。d軸およびq軸電流値(Id*およびIq*)と、d軸およびq軸電流検出値Id、Iqとの差をそれぞれ減算器(17cおよび17d)で求める。これらに乗算器(18eおよび18f)で比例ゲイン(Kp_dacrおよびKp_qdacr)を乗じて比例制御した演算結果と、乗算器(18gおよび18h)で積分ゲイン(Ki_dacrおよびKi_qacr)を乗じ積分器(15dおよび15e)で積分し積分制御した演算結果とを加算器(16cおよび16d)で加算し、第2のd軸およびq軸電流指令値(Id**およびIq**)を出力する。
なお、上記したPLL制御器13、速度制御器14、電流制御器12における制御の考え方はいわゆる比例積分制御を実行するものであり、入力偏差がなくなるように制御出力を定めている。
電流制御器12で求めた第2のd軸およびq軸電流指令値(Id**およびIq**)は、電圧指令値作成器34において、d軸およびq軸上の電圧指令値(Vd*およびVq*)に変換される。次に電圧指令値作成器34について説明する。電圧指令値作成器34は、前述の速度制御器14や電流制御器12から得られるd軸およびq軸電流指令値(Id**およびIq**)と、回転角速度指令値ω*またはインバータ周波数指令値ω1とを電圧指令値作成器3に入力し、(2)式のベクトル演算を行い、d軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*を得る。(2)式で、Keは誘起電圧定数である。
上述のようにモータを駆動する制御は一般的にベクトル制御と呼ばれ、モータに流れる電流を界磁成分とトルク成分に分離して演算し、モータ電流位相が所定の位相になるように、電圧の位相と大きさを制御する。ベクトル制御の構成にはいくつか方式があり、例えば、特許文献2に記載の構成がある。
説明の便宜上、本実施例のモータ6は非突極型の永久磁石モータとしている。すなわち、(1)(2)式においてd軸とq軸のインダクタンス値Ld、Lqは同じである。したがって、d軸とq軸のインダクタンスの差によって発生するリラクタンストルクは考慮しておらず、モータ6の発生トルクはq軸を流れる電流に比例するとしている。そのため、図5の実施例においては、d軸電流指令値Id*はゼロを設定している。
なお、突極型モータ(d軸とq軸のインダクタンス値が異なるモータ)の場合は、q軸電流によるトルクの他に、d軸とq軸のインダクタンスの差に起因するリラクタンストルクが発生する。そのため、リラクタンストルクを考慮してd軸電流指令値Id*を設定することで、同じトルクをより小さいq軸電流で発生できる。この場合、効率向上の効果が得られる。
なお、通常、上位制御系等から与えられる周波数指令値ω*は、インバータ周波数指令値ω1に比べると変化の周期は非常に長いため、モータが1回転する間においては一定値と見ても良い。そのため、速度制御器14によって、モータはほぼ一定周波数で回転する。この時、インバータ周波数指令値ω1を積分することで得られる推定磁極位置θdcは、ほぼ一様に増加する。
以上が、電圧指令値を決定する電圧指令値作成器3の構成の説明である。ここでの処理により最終的に三相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*が得られる。
図1に戻り、電圧指令値作成器3の出力はPWM信号作成器33に与えられて、電力変換回路5に対するドライブ信号とされる。次に、電力変換回路5をスイッチング動作させるためのドライブ信号の生成方法について説明する。
PWM信号作成器33は、入力された三相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に応じたドライブ信号を生成する。本実施例では広く使われている180度通電方式と呼ばれる方式について説明する。180度通電方式は、基本的に電力変換回路5の3相の上下アームを全てスイッチング動作させる。
図8に標準的な三角波比較方式によるドライブ信号の生成方法を示す。図8は、電気角360度におけるある相の正弦波状の電圧指令値と、ドライブ信号を生成するための三角波キャリア信号を示している。両者を比較し、大小関係により図中のように上アームのドライブ信号Gpおよび下アームのドライブ信号Gnを生成する。図8の例では、正弦波状の電圧指令値が三角波キャリア信号よりも大きい期間で、ドライブ信号Gp、Gnをレベル1とし、その他の期間でレベル0としている。他相の電圧指令値についても同様に、三角波キャリア信号と電圧指令値を比較し、大小関係により上アームのドライブ信号Gpおよび下アームのドライブ信号Gnを生成する。
上記処理により、ドライブ信号の一方がレベル1の期間、他方のドライブ信号がレベル0の期間となる。従って、またレベル1の期間は一方で順次長くなるときに、他方では順次短くなる。
上記ドライブ信号によるスイッチング動作制御の結果として、電力変換回路5の出力電圧は、三角波キャリア信号に対する電圧指令値の比で決定される。三角波キャリア信号の振幅が、電力変換回路の直流電圧源に相当する。そのため、直流電圧源の電圧値(Edc)の1/2を基準とすると、−Edcから+Edcの電圧が出力されることになる。
図9はPWMキャリア信号に注目して記載した図である。通常、電圧指令値の周波数よりもPWM周波数(図中の三角波の周波数)の方が十分高いため、PWMキャリア1周期において、電圧指令値は一定値として示している。
PWMキャリア信号は図9の上部にある拡大図のように、所定のタイミングでカウントアップをするPWMタイマからなる構成となっている。電圧指令値と等しい値となったタイミングで、ドライブ信号の状態を変化させる。
PWMキャリア信号(PWMタイマ)のカウント値がPWM周期の1/2の値に達したら、カウントアップからカウントダウンに変更する。その後、0までカウントダウンしたら、再度カウントアップをする。このように、PWMキャリア信号の頂点の値を変更することで、PWM周波数を容易に変えることができる。
あるいは例えば、図10のように、カウントアップのみで構成することも可能である。この時も同様にPWMキャリア信号の頂点の値を変更することで、PWM周波数を変更できる。
図9または図10のように、同一のPWMキャリア信号を用いて3相のドライブ信号を生成すると、全相のPWM周波数を一度に変更できるという利点がある。
前述の通り、電力変換回路5から出力される電圧は、三角波キャリア信号に対する電圧指令値の比で決定されるため、例えば、図9は同じ電圧が電力変換回路5から出力するとして図示しているが、キャリア信号の振幅が変わったため、それに応じて、PWMタイマと比較されるカウント値として表した電圧指令値の絶対値は、PWM周期によって変わる。
ここで、改めて電力変換回路5の損失について説明する。前述の通り、電力変換回路5の損失は、主に、スイッチング素子22が導通している際の導通損と、スイッチング素子22がオンオフする際に生じるスイッチング損がある。導通損はスイッチング素子のオン抵抗とスイッチング素子に流れる電流の積で決まり、スイッチング損は、スイッチング素子がオンおよびオフする際の損失の積算で決まる。
従って例えば、モータ6に正弦波電流が流れるように電力変換回路5を制御する場合の導通損とスイッチング損を合わせた電力変換回路の損失(正弦波電流の1周期分)は、PWM周波数を変数に示すと、図11の様になる。この図11から分かるように、電力変換回路の損失は、PWM周波数、すなわちスイッチング周波数(スイッチング回数)に比例する特性となる。
また電力変換回路の損失は、スイッチング素子の特性の影響を大きく受ける。図11に一例として2種類のスイッチング素子(スイッチング素子Aおよびスイッチング素子B)の特性を示した。スイッチング素子Bは、スイッチング素子Aに比べ、低いPWM周波数(例えばfc1)での損失が小さく、かつPWM周波数の変化に対して損失増加の割合が小さい。これらは、スイッチングをONした際のスイッチング素子での電圧降下の値の違いや、スイッチングスピードによるものが大きい。
他方、モータの損失は、主に、モータ6に流れる電流によって生じる銅損と、交流の磁場の影響による鉄損(ヒステリシス損および渦電流損)や磁石渦電流損がある。銅損はモータ6の巻線の抵抗値と巻線に流れる電流の積で決まり、渦電流損は高調波磁束密度の変化に比例して決まる。高調波磁束密度の変化は、関係する因子が多く、磁性材料、モータ6の形状(固定子形状および回転子形状)、電気設計(主にインダクタンス値)による。
渦電流損P_eddyは、次の(3)式で求めることができる。ここで、K_eddは渦電流損の定数、Bnはn次の高調波磁束密度、nは次数、ωは基本波周波数である。
2種のモータ(モータAおよびモータB)のPWM周波数に対する渦電流損(正弦波電流の1周期分)の特性の例を図12に示す。モータAの方が、モータBよりもインダクタンス値が小さいため、同じPWM周波数(fc1)においても、スイッチングによる電流リプルが大きい。このためモータAの方が、渦電流損が大きくなっている。また、PWMキャリア周波数を上げても電流リプル量の減少幅が小さいため、PWMキャリア周波数に対して感度はない特性となる。
逆に言うと、モータBはインダクタンス値が大きいため、PWM周波数を上げるにつれて、モータに流れる電流が正弦波に近づくため、より高いPWM周波数まで渦電流損が減少傾向となる。
モータ制御装置の高効率を実現するためには、電力変換回路の損失(図11)とモータの損失(図12)の総和を最小にすることが重要である。上述したスイッチング素子AとモータAを用いた場合の、PWM周波数に対する総和損失(電力変換回路の損失とモータの損失の総和)の特性の例を図13に示す。スイッチングの周波数に対する、電力変換回路の損失とモータの損失の特性は異なるため、ある周波数(図13ではfc_opt)で最小となる。そのため、PWM周波数をfc_opt(最適PWM周波数)とすれば、モータ制御装置を高効率で駆動することができる。
しかしながら、現実には様々な要因によって、最適PWM周波数でモータを駆動することができないことが多い。例えば、制御部2の処理能力が十分でない場合、電圧指令値の演算処理が間に合わなくなるため、PWM周波数を下げる必要がある。または、電力変換回路の放熱量を下げるために、PWM周波数を下げる必要がある。
もしくは、振動・騒音が問題となり、PWM周波数を上げる必要がある。具体例として、PWM周波数が可聴周波数領域(15kHzから20kHzより下の周波数)の場合、PWM周波数を高くした方が聞こえにくくなる。または、特定のモータ6やモータ6に接続される共振周波数と、最適PWM周波数もしくはその倍数が近くなると、振動・騒音が増大してしまうこともある。
これらの課題を解決するため、定常的にPWM最適周波数fc_optで駆動することが難しい場合においても電力変換回路の損失とモータの損失の総和を最小にすることが可能なモータ制御装置、およびそれを用いた冷凍機を提供することが本実施例の目的の1つである。
この目的を達成するため、電力変換回路の損失とモータの損失の総和である総和損失の低減、特にモータの鉄損低減に効果の大きい期間において、PWM周波数を可変し、モータの鉄損低減とインバータの損失増加抑制を両立する。これにより、制御部の性能(処理能力)に制約がある場合、電力変換回の熱的な制約がある場合、あるいはモータ制御装置に制約(振動や騒音など)がある場合においても、モータ制御装置の高効率化の達成できるといった効果が得られる。
次に、鉄損低減に効果の大きい期間について検証する。モータの鉄損低減に効果の大きい期間は、モータ制御装置の構成要素の特性により、次の2つの期間が考えられる。1つは各相の電流がゼロクロスをする近傍である。もう1つは、各相の電流がピーク値となる近傍である。
まず、各相電流のゼロクロス近傍がモータの鉄損低減に効果が大きい場合について、説明する。モータ6の固定子に電流を流すことにより磁束密度が変化するが、図14は電流と磁束密度の関係を概念的に示した例である。図の下部はモータ6をPWM制御によって駆動した際の相電流の時間変化の例で、上部は磁束密度の変化(磁気ヒステリシス曲線)の例である。相電流の時間変化は上から下方向に進んでおり、ゼロクロス、ピーク、ゼロクロスというように変化している。この電流の変化に対して、磁束密度も変化する。
特に磁束密度の変化に注目すると、電流ゼロクロス近傍の方が、1つの電流リプルにおける磁束密度の変化幅が大きい。これは、特にモータの磁性材料の特性およびモータのインダクタンスの影響による。前述の通り、渦電流損は磁束密度の変化に比例して決まる。図14においては、電流ゼロクロス時の方が磁束密度の変化が大きい。
PWM周波数を高くした場合の同様の関係を図15に示す。図15は、図の見やすさを優先にし、電流リプルを含んだ電流波形の包絡線を示している。PWM周波数を高くすると、電流のリプル量が減り、その結果、スイッチングの度に起きる磁束密度の変化の幅が小さくなる。つまり、PWM周波数を高くすることにより、渦電流損が小さくなることを意味している。特に、電流ゼロクロス近傍の方が磁束密度の変化幅の現象が大きい。両図中の変化幅Aおよび変化幅Cを比較すると明らかである。これは、たとえ電流ゼロクロス近傍の方が、磁束密度の変化の傾きが大きいためである。したがって、つまり、電流ゼロクロス近傍の方がPWM周波数を高くすることによる、渦電流損低減の効果が大きいことになる。
電流ゼロクロス近傍でPWM周波数を変更することについて説明する。上記の動作を実現する構成例の1つは図1の通りである。図1の電流ゼロクロス検出器50では、例えば、検出した電流の極性に応じ、図16に示した極性信号を出力する。ここでは、正現状のモータ電流をその正負に応じて矩形化して極性信号を得る。さらに図1の周波数設定器60では、極性信号の立ち上がり、もしくは立下りエッジのタイミングを基準にパルス状信号を作成する。パルス状信号が得られている期間が、電流ゼロクロス近傍でPWM周波数を変更する期間である。図16の例では、PWM周波数設定値(すなわち、PWMキャリア信号の頂点の値)を通常時のPWM周波数fc_std1(モータに流れる交流電流の1周期における主要なPWM周波数)から、電流ゼロクロス近傍では最適PWM周波数fc_optに設定する。
図16の例では、次の(4)式の関係となる例を示している。
このように、電流ゼロクロス近傍においては、最適PWM周波数fc_optでスイッチングをすることにより、渦電流損低減の効果が大きい期間において、渦電流損を減らすことができる。すなわち、PWM周波数に制約があるモータ制御装置においても、総和損失を低下させることができ、電力変換回路の損失とモータの損失の総和を最小にすることが可能なモータ制御装置、およびそれを用いた冷凍機を提供することができる。
前述の通り、次の(5)式のように通常時のPWM周波数fc_std2を最適PWM周波数fc_optより高い周波数に設定せざるを得ないモータ制御装置もあり得る。
この場合も電流ゼロクロス近傍においては、最適PWM周波数fc_optでスイッチングをすることにより、同様の効果を得られる。
次に最適PWM周波数fc_optで動作させる期間について説明する。電流ゼロクロス近傍においては、最適PWM周波数fc_optでスイッチングをするとしたが、本発明では、PWM周波数に制約があり、最適PWM周波数fc_optでスイッチングし続けることができないモータ制御装置を前提としているため、どこかで通常のPWM周波数(fc_std1もしくはfc_std2)に戻す必要がある。
そこで、例えば、電気角15度進んだ時点で、PWM周波数を最適PWM周波数から通常のPWM周波数に戻す。3相交流電流を考えると、60度毎にいずれかの相が電流ゼロクロスをする。つまり、ある1相について考えると、電流ゼロクロスから±30度(電気角)の期間で、最適PWM周波数で駆動する期間を考える必要がある。±30度を超えると、他の相の電流ゼロクロスからの±30度の期間となるためである。
このようにすると、電気角1周期において、1/4の期間において、最適PWM周波数で駆動することになるが、前述の通り、電流ゼロクロス近傍の方は渦電流損低減の効果が大きいため、PWM周波数の制約の要因に対する影響を少なく、かつ、電力変換回路の損失とモータの損失の総和を最小にすることが可能なモータ制御装置、およびそれを用いた冷凍機を提供することができる。
次に所定値以下の電流でPWM周波数を変更する事例について説明する。図16の構成例では、電流ゼロクロスを検知し、その後に最適PWM周波数で駆動する構成を説明したが、電流ゼロクロスの前の期間も同じく渦電流損低減の効果が大きい。そこで、PWM周波数設定器の別な構成例を、図17を用いて説明する。
図17でのPWM周波数設定器60aは、モータ電流検出値Iを入力する。電流−PWM周波数変換器61によって、予め設定した電流値より小さい期間においては、通常のPWM周波数から最適PWM周波数に変更する。上記の構成を用いた場合のモータ電流とPWM周波数の関係を図18に示す。図18によれば、モータ電流が零点を含む正負の所定値以内であるときにPWM周波数を最適PWM周波数fc_optに設定し、それ以外の期間ではPWM周波数fc_std1に設定している。なお、図17のPWM周波数設定器60aは、図1の電流ゼロクロス検出器50とPWM周波数設定器60の機能を併せ持つ機能構成の図として表されている。
この構成を用いることにより、渦電流損低減の効果が大きい電流ゼロクロス近傍において最適なPWM周波数で駆動することが可能になる。電流が小さい期間においては電力変換回路の導通損も小さいため、通常のPWM周波数が最適なPWM周波数よりも低い場合においても、電力変換回路の損失増加はさほど増えない。したがって、PWM周波数の制約の要因に対する影響を少なく、かつ、電力変換回路の損失とモータの損失の総和を最小にすることが可能なモータ制御装置を提供することができる。
以下に、本発明のさらなる変形代案事例について説明する。図16及び図17の例ではモータ電流を直接入力してその大きさを判断することで電流の零クロス近傍を判定しているが、以下の事例ではモータ電流を入力して判定するのではなく、モータ電流以外の情報、物理量から実質的に電流のゼロクロス近傍を判定する手法を示している。
次に電流のゼロクロス近傍を判定することを可能とする幾つかのモータ電流以外の情報、物理量について説明するが、これらの情報、物理量はモータ電流との間での下記の物理的関連を利用するものである。この物理的関連は、「インバータをPWM駆動する際の電流リプルはモータのインダクタンスに略比例する。例えばインダクタンスが小さい場合は、電流リプル量が増える。従って、電流リプル量からインダクタンス値を推定することが可能である。インダクタンス値は前述の通りモータの回転子の位置に依存する。モータをベクトル制御する場合には、回転子の位置と電流の移送は一義的に決まる。」というものである。この物理的関連からは、電流リプル、モータのインダクタンス、モータの回転子の位置などが、電流のゼロクロス近傍を判定する手法として利用可能であることを表している。
以上の関連を利用して、実質的に電流のゼロクロス近傍を判定可能なモータ電流以外の情報、物理量として最初に着目したのは、回転子の位置の情報θdである。図18にはモータ電流の1サイクル間の値を示しているが、ここで横軸は時間であり、また電流の位相でもある。つまり図18の横軸は回転子の位置の情報θdである。
従って、回転子の位置の情報θdが電流の零クロス付近の角度(例えば±30度の範囲)では、PWM周波数を最適PWM周波数fc_optに設定するようにすればよい。なお回転子の位置の情報θdは、図5の制御系におけるd軸電流設定値Id*として零以外の数値を設定したときには、回転子の位置がずれることが知られている。この場合には予めずれの値を見込んだ回転子の位置の情報θdの範囲(例えば+45度から−15度の範囲)でPWM周波数を最適PWM周波数fc_optに設定するようにすればよい。
回転子の位置に応じてPWM周波数を変更する事例について、さらに詳細に説明する。上述した図16、図17の構成例では、通常のPWM周波数(fc_std1もしくはfc_std2)から最適なPWM周波数(fc_opt)に切り替える構成について説明した。つまり、2種類のPWM周波数を用いていた。しかしながら、PWM周波数は両者の間の中間的な周波数を設定する構成としても本発明の目的を達成できる。
例えば、騒音に対して要求性能が高いモータ制御装置に本発明の構成を適用する場合について考える。騒音は、例えばオーバーオール値(全周波数帯域の音圧を合計した値)が同じだとしても、可聴領域の特定の周波数のみの音と、複数の周波数成分を含んだ音では聴感が異なり、音に対する感じ方が変わる。特定の周波数のみの音の場合、その音が耳触りに聞こえてしまうのに対し、複数の周波数成分を含むとホワイトノイズ的な音となり、他の音を気にしにくくなるという効果がある。
上記を実現するためにPWM周波数設定器60bを図19に示すような構成とする。すなわち、位置センサ等による直接的、あるいは位置推定による間接的に得た回転子の位置情報を入力し、位置−PWM周波数変換器62によって、回転子の位置に応じてPWM周波数を変更する。位置−PWM周波数変換器62による、回転子の位置からPWM周波数を変更する際の例を図20に示す。本図では、通常のPWM周波数と最適なPWM周波数の関係が、(5)式の場合を例に示している。当然のことながら、両者が(4)式の関係の際も同様に適用することができる。
図19に示す構成を用いることにより、騒音に対する要求性能が高いモータ制御装置においても発生音の不快感を増やすことなく、かつ、電力変換回路の損失とモータの損失の総和を最小にすることが可能なモータ制御装置、およびそれを用いた冷凍機を提供することができる。
実質的に電流のゼロクロス近傍を判定可能なモータ電流以外の情報、物理量として次に着目したのは、インダクタンスの変化である。インダクタンスの変化に応じてPWM周波数を変更する構成は、特に、インダクタンスの位置依存あるいは電流依存が大きいモータを駆動するモータ制御装置、あるいは、汎用インバータのように複数のモータを駆動するモータ制御装置に好適な構成である。
前述の通り、渦電流損は高調波磁束密度の変化に比例して決まり、高調波磁束密度の変化はインダクタンス値の変化が要因の1つである。そこで、PWM周波数設定器60cをインダクタンス−PWM周波数変換器63、等により構成する。
図21に示した様に、PWM周波数設定器60cは、直接的あるいは間接的に得た回転子の位置情報θdと、モータ電流値Iの少なくともいずれか一方を入力しインダクタンス算出器64において、インダクタンスLを算出する。次いで、インダクタンス−PWM周波数変換器63によって、インダクタンス値の位置依存変化と電流依存変化の少なくともいずれか一方の変化に応じてPWM周波数を変更する。
ここでは、インダクタンスの位置依存変化と電流依存変化の両方の変化に応じてPWM周波数を変更する例を、図22を用いて説明する。まず、インダクタンス算出器64に回転子の位置情報θdおよびモータ電流値Iを入力し、インダクタンス値Lを得る。図22の下部の関係図がこの処理の概念を示している。図22の下図の関係図は、下向きに行くに従い、位相θdが増える図となっている。位相θdに対しインダクタンスLは正弦波状に変化し、位相θdの0度、180度、360度の位置で最小値となる。また正弦波状に変化するインダクタンスLの最大値はモータ電流値Iに応じて変化する。この特性を模擬した図21のインダクタンス算出器64により、正弦波状のインダクタンスLに対応した値がインダクタンス−PWM周波数変換器63に入力される。
図21のインダクタンス−PWM周波数変換器63により、PWM周波数設定値(すなわち、PWMキャリア信号の頂点の値)が得られる。インダクタンス−PWM周波数変換器63の特性は、図22の上部に示されており、例えばインダクタンスLが大きい時に高いPWM周波数を与え、インダクタンスLが小さい時に低いPWM周波数を与えるものとされる。この一連の処理により、電流零クロス点に対応する位相θdが0度、180度、360度の位置の時のPWM周波数を、それ以外の位相の時のPWM周波数とは相違する値にすることができる。
なおインダクタンス算出器64は、予め保存されていたインダクタンスの位置依存変化と電流依存変化の関係をテーブルデータ用いて求めても構わないし、通信器65やユーザインタフェース器66を介して得る構成としても構わない。後者の器を備えている場合、例えば、汎用インバータのように複数のモータを駆動する際に好適な構成となる。
このように、インダクタンスの位置依存あるいは電流依存によってPWM周波数を変更することにより、インダクタンス値の変化に合わせてPWM周波数を変更することが可能になる。インダクタンス値に応じてPWM周波数を変更することにより、高調波磁束密度の変化をより小さくすることができる。これにより、電力変換回路の損失とモータの損失の総和を最小にすることが可能なモータ制御装置、およびそれを用いた冷凍機を提供することができる。インダクタンスの位置依存あるいは電流依存が大きいモータは、すなわちインダクタンス値の変化によって渦電流損が大きく変化することを意味する。そのため、インダクタンス値に応じてPWM周波数を変更する効果は大きい。
最後に電流リプルの変化に応じてPWM周波数を変更することについて説明する。これまでは、予め保存されていた情報もしくは外部から値を設定することにより、PWM周波数を変更する構成について説明をした。ここでは、モータ制御装置のフィードバック系を用いて、PWM周波数を変更し、電力変換回路の損失とモータの損失の総和を最小にすることが可能なモータ制御装置の構成の例について説明する。
図23に示したPWM周波数設定器60dの構成の例では、電流検出器7aは同一のスイッチング状態における3相の電流を複数回検出する。例えば、2回電流検出(Iu1,Iv1,Iw1とIu2,Iv2,Iw2)し、検出した2つの電流値を減算器17eに入力し電流差分値を得る。電流差分値を絶対値演算器71に入力し、電流リプル量ΔIを求める。
電流リプル量ΔIを電流リプル−PWM周波数変換器67に入力する。図23の電流リプル−PWM周波数変換器67は、電流リプル量ΔIが所定値を超えたらPWM周波数を高くする(あるいは低くする)ように特性が設定された事例を示している。
図24の構成では、電流リプル量ΔIが所定値ΔI*に収まるようにPWM周波数を操作量として比例積分制御などの制御系を含む構成としたものである。図24において17fは検出した電流リプル量ΔIとその目標値ΔI*の差分を求める減算器である。減算器17fで求めた差分に、乗算器18iで比例ゲインKp_ripplを乗じて比例制御した演算結果と、減算器17fで求めた差分に、乗算器18jで積分ゲインKi_ripplを乗じ積分器15fで積分し積分制御した演算結果とを加算器16eで加算し、周波数設定値を出力する。係る制御系を含む構成の場合、PWM周波数を増加させても電流リプル量はゼロにすることはできないため、最大PWM周波数を規定するPWM周波数制限器が必要になる。
なお、上記の構成はシングルシャント電流検出方式においても適用可能である。シングルシャント電流検出方式は最大相あるいは最小相の電流が検出できる。同一のスイッチング状態で複数回シャント抵抗に流れる電流を検出すれば、キルヒホッフの法則により3相の交流電流を検出できると共に、電流リプル量も検出することができる。
このように、電流リプル量を検出し、電流リプル量を減らすようにPWM周波数を操作することは、すなわち渦電流損を減らすようにPWM周波数を操作していることと等価であるといえる。したがって、モータ制御装置のフィードバック系を用いることにより、電力変換回路の損失とモータの損失の総和を最小にすることが可能なモータ制御装置、およびそれを用いた冷凍機を提供することができる。特に、渦電流損が電流リプル量に感度が高い場合に好適である。
以上のようにPWM周波数設定器60を用いることにより、電流ゼロクロス情報、電流値の情報、回転子の位置情報、インダクタンス値、電流リプル量、などの情報、および上記で説明した器・構成を用いてPWM周波数を変更することにより、モータの鉄損低減とインバータの損失増加抑制を両立できるモータ制御装置を提供することができる。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手続き等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良い。また、上記の各構成や機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現しても良い。
モータは、永久磁石モータとして説明したが、その他のモータ(例えば、誘導機、同期機、スイッチトリラクタンスモータ、シンクロナスリラクタンスモータなど)を用いても構わない。その際、モータによっては電圧指令値作成器での演算方法が変わるが、それ以外については同様に適用でき、本発明の目的を達成可能である。
モータに印加する電圧の算出方法として、速度起電圧に基づいた推定位置情報を用いた構成について説明し、通電方法として、180度通電方式を用いた構成について説明した。しかし、モータの回転角度位置の検出(あるいは推定)器や、通電方式は上記の実施例に記載の方式に限らない。例えば、120度通電方式でデューティ制御をする構成などにおいても、スイッチング周波数(PWM周波数)によって各損失の特性は変化する。逆にいえば、PWM周波数を切り替えたり制御したりすることにより、モータ制御装置の総和損失を下げることが可能である。したがって、本発明の目的を達成可能である。
本実施例では、主に渦電流損について説明をしたが、PWM周波数によって特性が変わる損失は他にもある。例えば、磁石渦電流損や高調波銅損などである。紙面の都合上、考慮可能な損失を全ては記載しないが、これらについても損失の特性を予め把握すれば、本発明の構成を用いることにより、同様の効果を得られる。考慮する損失によって、電流ゼロクロス情報、電流値の情報、回転子の位置情報、インダクタンス値、電流リプル量、などの情報の内、いずれかを用い、本発明の器・構成を用いてPWM周波数を変更することにより、同様の効果が得られる。
モータに接続される負荷は圧縮機だけでなく、周期的に変動する負荷トルク特性を有するモータ制御装置、およびそれを用いた駆動装置、冷凍機、冷蔵庫、空調機にも適用可能で、同様の効果があることは言うまでもない。