以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態では、側車輪が備えられたサイドカー付きのバイクにて構成される三輪車両に適用される車両用ブレーキ制御装置を例に挙げて説明する。
図1は、サイドカー付きバイクにて構成される三輪車両に適用される車両用ブレーキ制御装置1の全体構成を示したものである。この車両用ブレーキ制御装置1は、従動輪となる前輪FWおよび駆動輪となる後輪RWに対してブレーキを掛けるものであり、安定性制御において制動力を発生させることで車両の加減速度を制御して車両の安定性を向上させるためにも用いられる。具体的には、車両用ブレーキ制御装置1は、前輪FWに対して制動力を発生させる系統と後輪RWに対して制動力を発生させる系統の2つの配管系統を有した構成となっている。
図1に示されるように、車両用ブレーキ制御装置1には、ハンドル右側に位置するブレーキレバー11と右足置き前方に位置するブレーキペダル12が備えられている。これらブレーキレバー11およびブレーキペダル12は、それぞれ前輪FWと後輪RWに対して制動力を発生させるためのブレーキ操作部材に相当するものであり、ドライバに独立して操作されるものである。これらブレーキレバー11およびブレーキペダル12は、前輪マスタシリンダ(以下、M/Cという)13aと後輪M/C13bなどを介して、第1、第2配管系統14、15を備えたブレーキ回路に接続されている。
ブレーキレバー11は、前輪M/C13aなどを介して前輪FWに対して制動力を発生させる第1配管系統14に接続されている。ブレーキペダル12は、後輪M/C13bなどを介して後輪RWに対して制動力を発生させる第2配管系統15に接続されている。ブレーキレバー11やブレーキペダル12が操作されると、前輪M/C13aや後輪M/C13b内に発生させられたブレーキ液圧に基づいて、第1、第2配管系統14、15を通じて前輪FW側の前輪ホイールシリンダ(以下、W/Cという)16や後輪RW側の後輪W/C17に対してW/C圧を発生させ、これによりブレーキ力を発生させる。
前輪M/C13aおよび後輪M/C13bと前輪W/C16および後輪W/C17との間には、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ2が備えられている。ブレーキ液圧制御用アクチュエータ2に備えられた各種制御弁等を制御することにより、第1配管系統14では前輪W/C16に加えられるW/C圧を制御し、第2配管系統15では後輪W/C17に加えられるW/C圧を制御する。
以下、第1、第2配管系統14、15の詳細構造について説明するが、第1配管系統14と第2配管系統15とは、略同様の構成であるため、ここでは第1配管系統14について説明し、第2配管系統15については第1配管系統14を参照する。
第1配管系統14には、前輪M/C13aと前輪W/C16とを接続する主管路となる管路Aが備えられている。この管路Aを通じて、M/C圧が伝えられることによって前輪W/C16にW/C圧が発生させられる。
また、管路Aには、連通状態と差圧状態に制御できる第1差圧制御弁18が備えられている。この第1差圧制御弁18は、通常ブレーキ状態では連通状態とされ、ソレノイドに電流が流されると差圧状態となる。第1差圧制御弁18で形成される差圧はソレノイドに流す電流の電流値に応じて変化し、電流値が大きいほど大きな差圧量となる。この第1差圧制御弁18が差圧状態とされていると、W/C圧がM/C圧よりも差圧量分高くなるようにブレーキ液の流動が規制される。
そして、管路Aは、この第1差圧制御弁18よりも前輪W/C16側となる下流において、前輪W/C16へのブレーキ液圧の増圧を制御する第1増圧制御弁19が備えられている。第1増圧制御弁19は、連通・遮断状態を制御できる2位置弁として電磁弁により構成されている。この第1増圧制御弁19が連通状態に制御されると、M/C圧あるいは後述するポンプ22からのブレーキ液の吐出によるブレーキ液圧が前輪W/C16に加えられる。
なお、ドライバが行うブレーキレバー11の操作による通常のブレーキ時には、第1差圧制御弁18および第1増圧制御弁19は、常時連通状態に制御される。このため、前輪M/C13aに発生させられたM/C圧がそのまま前輪W/C16のW/C圧として伝えられることになる。また、第1差圧制御弁18および第1増圧制御弁19には、それぞれ安全弁18a、19aが並列に設けられている。
管路Aにおける第1増圧制御弁19および前輪W/C16の間には減圧管路としての管路Bが接続され、この管路Bに対して調圧リザーバ20が備えられている。また、管路Bには、連通・遮断状態を制御できる2位置弁として、電磁弁からなる第1減圧制御弁21が配設されている。この第1減圧制御弁21は、通常ブレーキ時には、常時遮断状態とされている。
さらに、調圧リザーバ20と管路Aにおける第1差圧制御弁18と第1増圧制御弁19との間を結ぶように、還流管路となる管路Cが配設されている。この管路Cには調圧リザーバ20からM/C13側あるいは前輪W/C16側に向けてブレーキ液を吸入吐出するように、モータ3によって駆動される自吸式のポンプ22が設けられている。
そして、調圧リザーバ20と前輪M/C13aとを接続するように、補助管路となる管路Dが設けられている。この管路Dを通じて、ポンプ22にて前輪M/C13aからブレーキ液を吸入し、管路Cを通じて管路Aに吐出することで、アンチスキッド制御などにおいて、前輪W/C16側にブレーキ液を供給し、前輪W/C16のW/C圧を増加できるようになっている。
調圧リザーバ20は、管路Dに接続されて前輪M/C13a側からのブレーキ液を受け入れるリザーバ孔20aと、管路Bおよび管路Cに接続され前輪W/C16から排出されるブレーキ液を受け入れると共にポンプ22の吸入側にブレーキ液を供給するリザーバ孔20bとが備えられ、これらがリザーバ室20cと連通している。リザーバ孔20aより内側には、ボール弁からなる弁体20dが配設されている。この弁体20dは、弁座20eに離着することで管路Dとリザーバ室20cとの間の連通遮断を制御したり、弁座20eとの間の距離が調整されることでリザーバ室20cの内圧とM/C圧との差圧の調圧を行う。弁体20dの下方には、弁体20dを上下に移動させるための所定ストロークを有するロッド20fが弁体20dと別体で設けられている。また、リザーバ室20c内には、ロッド20fと連動するピストン20gと、このピストン20gを弁体20d側に押圧してリザーバ室20c内のブレーキ液を押し出そうとする力を発生するスプリング20hが備えられている。
このように構成された調圧リザーバ20は、所定量のブレーキ液が貯留されると、弁体20dが弁座20eに着座して調圧リザーバ20内にブレーキ液が流入しないようになっている。このため、ポンプ22の吸入能力より多くのブレーキ液がリザーバ室20c内に流動することがなく、ポンプ22の吸入側に高圧が印加されることもない。
一方、上述したように、第2配管系統15は、第1配管系統14における構成と略同様となっている。つまり、第1差圧制御弁18および安全弁18aは、第2差圧制御弁23および安全弁23aに対応する。第1増圧制御弁19および安全弁19aは、それぞれ第2増圧制御弁24および安全弁24aに対応し、第1減圧制御弁21は、第2減圧制御弁26に対応する。調圧リザーバ20および各構成要素20a〜20hは、調圧リザーバ25および各構成要素25a〜25hに対応する。ポンプ22は、ポンプ27に対応する。また、管路A、管路B、管路C、管路Dは、それぞれ管路E、管路F、管路G、管路Hに対応する。以上のようにしてブレーキ液圧制御用アクチュエータ2が構成されている。このようなブレーキ液圧制御用アクチュエータ2に備えられた各種制御弁18、19、21、23、24、26およびポンプ22、27を駆動するためのモータ3は、ブレーキ制御用の電子制御装置(以下、ブレーキECUという)4によって駆動される。
ブレーキECU4は、車両用ブレーキ制御装置1の制御系を司る本発明の車両安定性制御装置に相当するものであり、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種演算などの処理を実行する。例えば、ブレーキECU4は前輪FWおよび後輪RWに備えられた車輪速度センサ5、ヨーレートセンサ6および舵角センサ7からの検出信号を受け取り、各種物理量を求める。
具体的には、ブレーキECU4は、アンチスキッド制御などに加えて、車両安定性制御を行っており、これら各制御を実行するための各種演算を行っている。このため、ブレーキECU4は、例えば、車輪速度センサ5の検出信号に基づいて各車輪FW、RWの車輪速度や車体速度(推定車体速度)、各車輪のスリップ率などを演算している。また、ブレーキECU4は、ヨーレートセンサ6および舵角センサ7の検出信号に基づいてヨーレートYr、舵角センサ値Strなどを求めている。本実施形態の場合、ヨーレートYrについては正値が車両回転中心に対する左回りのモーメントを意味し、左旋回時等に発生する値であり、負値が車両回転中心に対する右回りのモーメントを意味し、右旋回時等に発生する値であるとする。また、舵角センサ値Strは、正値が舵角が左旋回方向に切られているとき、負値が右旋回方向に切られているときを意味しているとする。
また、ブレーキECU4は、エンジン制御を行っているエンジンECU8と相互に情報通信を行っており、エンジンECU8からエンジントルク(駆動トルク)に関する情報を取得している。また、ブレーキECU4からはエンジンECU8に対してエンジン制御量に関する情報を伝えている。エンジンECU8は、このエンジン制御量に関する情報に基づいて、エンジントルクを調整することで、車両安定性を図るようにしている。
そして、ブレーキECU4は、各種演算結果に基づいて、アンチスキッド制御や車両安定性制御などの各種制御を行い、各種制御を実行する場合の制御対象輪を決定したり、制御対象輪に対するブレーキ制御量やエンジン制御量を求める。その結果に基づいて、ブレーキECU4が各種制御弁18、19、21、23、24、26およびモータ3への供給電流を制御したり、エンジンECU8に対してエンジン制御量に関する情報を伝えたりする。以上のような構成により、本実施形態にかかる車両用ブレーキ制御装置1が構成されている。
このように構成される車両用ブレーキ制御装置1では、例えば、アンチスキッド制御等が実行されない通常のブレーキ時には、ブレーキECU4から各種制御弁18、19、21、23、24、26およびモータ3への電流供給が行われない。このため、ブレーキレバー11やブレーキペダル12での操作量に応じたW/C圧が各W/C16、17に発生させられることになる。これにより、ブレーキレバー11やブレーキペダル12に応じた制動力が前輪FWや後輪RWに発生させられる。
また、アンチスキッド制御時には、必要に応じて、ブレーキECU4から各種制御弁18、19、21、23、24、26およびモータ3への電流供給が行われる。これにより、管路B、Fを通じて管路A、Eと調圧リザーバ20、25が連通状態になり、各W/C16、17に発生させられたW/C圧が減少させられ、車輪スリップが抑制されることで車輪ロックを回避することが可能となる。
そして、車両安定性制御時には、制御対象輪に対して制動力を発生させるためにブレーキ制御量に対応するW/C圧を発生させたり、エンジンECU8に対してエンジン制御量に関する情報を伝えたりする。この車両安定性制御が本発明の特徴となる制御であるため、以下、この車両安定性制御について詳細に説明する。
本実施形態でいう車両安定性制御とは、サイドカー付きバイク等の三輪車両のように、バイクの両車輪FW、RWを通る車体中心線上から重心がずれる三輪車両について、旋回性能を向上させる車両制御のことを示している。まず、本実施形態のような三輪車両において発生するモーメントについて説明する。
図2(a)〜(c)は、本実施形態の三輪車両において走行時に発生するモーメントを示した図であり、(a)は直進走行時、(b)は左旋回時、(c)は右旋回時に発生するモーメントを示している。
図2(a)〜(c)に示したように、本実施形態の三輪車両がバイク30の左側にサイドカー31が備えられたものであるとすると、バイク30の両車輪FW、RWを通る車体中心線に対して重心が左側にずれる。
このため、直進走行時には、図2(a)に示すように後輪RWにて駆動力を発生させると、その駆動力に基づいて重心周りのモーメント、つまり左回りのモーメントを発生させる。このようなモーメントを抑制するためには、右回りのモーメントを発生させることが必要であり、通常は、ドライバがモーメントに対する修正操舵を行うことで直進走行が行われている。
このように、元々重心に対して左回りのモーメントが発生している。このため、サイドカー31側の旋回となる左旋回を行う場合には、ドライバのステアリング操作に対応した理想的な旋回状態よりも旋回度が大きく、車両が内側に切れ込んでしまうオーバーステア状態となり、車両が不安定になり得る。また、サイドカー31側と反対側であるバイク30側の旋回となる右旋回を行う場合には、ドライバのステアリング操作に対応した理想的な旋回状態よりも旋回度が小さく、車両が外側にはみ出してしまうアンダーステア状態となり、車両が不安定になり得る。
したがって、左旋回の場合には、図2(b)に示すように、右回りのモーメントを発生させるために車輪に減速度を発生させるべく、前後両輪FW、RWもしくはいずれか一方に対して制動力を発生させたり、エンジントルクを下げる。これにより、オーバーステア状態を抑制することが可能となる。また、右旋回の場合にも、図2(c)に示すように、右回りのモーメントを発生させるために車輪に減速度を発生させるべく、前後両輪FW、RWもしくはいずれか一方に対して制動力を発生させたり、エンジントルクを下げる。これにより、アンダーステア状態を抑制することが可能となる。このようにして、左旋回におけるオーバーステア状態や右旋回におけるアンダーステア状態を抑制でき、旋回性能を向上させる車両安定性を実現することができる。
次に、以上のようなメカニズムに基づいて実行する車輪安定性制御の詳細について説明する。図3は、ブレーキECU4が実行する車両安定性制御処理の詳細を示したフローチャートである。この図に示す処理は、例えば図示しないイグニッションスイッチがオンのときに所定の制御周期毎に実行される。
まず、ステップ100では、初期設定として、エンジン制御量を0、フロントブレーキ制御量を0、リアブレーキ制御量を0にする。エンジン制御量とは、エンジントルクの調整分に相当する制御量であり、エンジンECU8に対して伝えられる。フロントブレーキ制御量およびリアブレーキ制御量は、前輪FWや後輪RWに発生させる制動力の制御量を意味している。
ここでは、エンジン制御量については、エンジン制御量=0は何も調整しないことを表し、エンジン制御量が発生している場合にはエンジントルクをその分減少させることを意味している。また、フロントブレーキ制御量およびリアブレーキ制御量については、ブレーキ制御量=0はブレーキについて何も調整しないことを意味している。ブレーキ制御量が発生している場合には、第1、第2差圧制御弁18、23によって所定の差圧(例えば10MPa)を発生させると共にモータ3を作動させてポンプ22、27を駆動し、前輪W/C16や後輪W/C17のW/C圧を上昇させてブレーキを掛けることを意味している。したがって、ステップ100で初期設定として各制御量を0に設定することで、エンジントルクやブレーキについて何も調整していない状態とする。
続いて、ステップ105に進み、ヨーレートセンサ6や舵角センサ7の検出信号に基づいて、ヨーレートYrや舵角センサ値Strを検出すると共に、エンジンECUからエンジントルクEgを取得する。
そして、ステップ110に進み、前回と今回の制御周期で得たヨーレートY(n−1)、Y(n)が共に0であり、かつ、今回と前回の制御周期で得たエンジントルクEg(n)、Eg(n−1)が等しくない(Eg(n)≠Eg(n−1))か否かを判定する。前回と今回の制御周期で得たヨーレートY(n−1)、Y(n)が共に0の状況とは、車両が直進走行している状態であることを意味している。また、今回と前回の制御周期で得たエンジントルクEg(n)、Eg(n−1)が等しくない状況とは、エンジントルクEgが変動していてアクセルが開閉されたこと、つまり車両に加減速があったことを意味している。このような状況のときに、ドライバがモーメントに対する修正操舵を行って直進走行を維持していると考えられる。
このため、本ステップで肯定判定された場合にはステップ115、120に進んで制御量補正係数Hkの算出処理を行い、否定判定された場合にはステップ115、120に進むことなくステップ125に進む
ステップ115では、まず補正値Hを算出する。補正値Hは、サイドカー31への積載等で重心が移動したことによる補正値であり、本実施形態では、重心位置変化によるヨーレート変化を机上計算することで求めている。具体的には、ステップ115中に示したように、次式によって補正値Hを算出している。なお、次式においてS2は、車両特性に基づいて車両ごとに決まる係数であり、Str(n)、Str(n−1)は今回と前回の制御周期での舵角センサ値Strである。
(数1)
H=S2×{Str(n)−Str(n−1)}÷{Eg(n)−Eg(n−1)}
この式において、今回と前回の制御周期でのステアリング角Stの差(Str(n)−Str(n−1))は、直進走行時に行ったドライバの修正操舵量に相当する。また、今回と前回の制御周期でのエンジントルクEgの差(Eg(n)−Eg(n−1))は、直進走行時におけるエンジントルクEgの変動量に相当する。そして、修正操舵量をエンジントルクEgの変動量で割った値は、重心位置に応じた修正操舵量となることから、この値に係数S2を掛けることで重心位置変化に応じた補正値Hを算出することができる。
続いて、ステップ120において、ステップ115で算出した補正値Hに基づいて、制御量補正係数Hkを演算する。制御量補正係数Hkは、補正値Hに対応したエンジン制御量やブレーキ制御量の補正に用いる係数である。
補正値Hは、少しのエンジントルクの変化が生じたときに修正操舵量が大きくなるような状況において大きな値になる。この状況では、少しのエンジントルクの変化でもヨーレートが大きく変化するような状態となっている。このような場合において、モーメントを抑制するようにヨーレートを発生させようとするときには、小さいエンジン制御量やブレーキ制御量の変化によって大きなヨーレートを発生させることができることから、補正値Hが大きな値になるほどエンジン制御量やブレーキ制御量の変化が小さくても大きなヨーレートを発生させられる。したがって、補正値Hが大きくなるほど制御量補正係数Hkが小さな値となるような関係に基づいて、補正値Hに対応する制御量補正係数Hkを算出することができる。図4は、補正値Hと制御量補正係数Hkとの関係の一例を示したマップである。この図に示すように、補正値Hが大きくなるほど制御量補正係数Hkが徐々に低下するような関係に基づいて、補正値Hに対応する制御量補正係数Hkを算出することができる。
このようにして制御量補正係数Hkを算出したのち、ステップ125に進んで目標ヨーレートYr推定処理を行う。目標ヨーレートYrは、理想的な旋回状態、つまり基準旋回状態のときに想定されるヨーレートYrである。この処理の詳細について、図5における目標ヨーレートYr推定処理の詳細を示したフローチャートを参照して説明する。
定常(定速)走行時には、舵角がほぼ進路に応じた位置にあるが、加減速中は加減速に応じて発生するヨーモーメントに対抗して進路を修正する為に、加減速度の大きさに応じた修正操舵が必要となる。目標ヨーレートYrを求めるには、修正舵角Str2を排除して、進路に応じた舵角である基準舵角を求める必要がある。
基本的に、「トルク/車両重量」が加速度に相当するため、加速時であればエンジントルクEgから加速度が求められる。ただし、エンジントルクEgは加速の他に、走行抵抗に打ち勝って車速を維持するためにも用いられている。このため、エンジントルクEgより、走行抵抗に相当するトルクを差し引くことで、エンジントルクEgのうち加速に寄与している分である補正トルクTsを演算し、この補正トルクTsから修正舵角Str2を演算し、さらに基準舵角を求めて目標ヨーレートYrを推定しなければならない。このため、ステップ200〜220では、以下の順序にしたがって目標ヨーレートYrを推定している。
まず、ステップ200では、走行抵抗算出に用いられる車体速度V0を検出する。車体速度V0については、車輪速度センサ5の検出信号に基づいて各車輪FW、RWの車輪速度を演算したのち、その演算結果を用いて周知の手法により算出している。
続いて、ステップ205に進み、ステップ200で検出した車体速度V0に基づいて走行抵抗トルクTdを算出する。走行抵抗トルクTdは、車両に対して走行中に加わる走行抵抗をトルク換算した値であり、車体速度V0と走行抵抗とは一定の関係を有している。このため、例えば設計値や実験値設定に基づいて、車体速度V0毎の走行抵抗に相当する走行抵抗トルクTdを前もってマップ化しておき、検出した車体速度V0とそのマップから走行抵抗トルクTdを算出することができる。
図6は、車体速度V0と走行抵抗との関係の一例を示したマップである。この図に示されるように、車体速度V0が大きくなるほど走行抵抗トルクTdが大きくなり、また、車体速度V0が大きくなるほど走行抵抗トルクTdの大きくなる度合いも大きくなるようなマップとして、車体速度V0と走行抵抗との関係を表すことができる。なお、走行抵抗は、実際には車体速度V0だけにより決まらず、走行路面の傾斜なども影響することから、必要に応じて走行路面の斜度に基づいて走行抵抗トルクTdを補正しても良い。
そして、ステップ210に進み、補正トルクTsを算出する。補正トルクTsについては、今回の制御周期でのエンジントルクEg(n)から走行抵抗トルクTdを差し引くことにより算出している。このように、エンジントルクEg(n)から走行抵抗相当トルクTdを差し引くことで、エンジントルクEg(n)中の加速に寄与するトルク分に相当する補正トルクTsを抽出することができる。
この後、ステップ215に進み、補正トルクTsに基づいて修正舵角Str2を算出する。補正トルクTs、つまりエンジントルクEgのうち加速に寄与するトルク分が修正操舵に対応する値となっていることから、補正トルクTsに基づいて修正操舵Str2を算出することができる。例えば、設計値や実験値に基づいて、補正トルクTsに応じた修正舵角量を前もってマップ化しておき、算出した補正トルクTsとこのマップから修正舵角Str2を算出することができる。
図7は、補正トルクTsと修正舵角Str2との関係の一例を示したマップである。この図に示されるように、修正舵角Str2は補正トルクTsの大きさに対応した値となり、補正トルクTsが大きいほど修正舵角Str2が大きくなる。具体的には、補正トルクTsについては、加速側か減速側かによって正負が反転することから、補正トルクTsの絶対値が大きくなるほど修正舵角Str2の絶対値が大きくなることになる。なお、車両重量の変化、つまり重心位置の変化に伴って補正トルクTsが同じ値であっても車両を変更させるモーメントが変化し、修正舵角Str2も変化する。このため、前もって求めたヨーレートの発生傾向を表す制御量補正係数Hkに基づいて、補正トルクTsと必要な修正舵角Str2の関係を補正しても良い。例えば、図7中に実線と破線で示したように、制御量補正係数Hkが小さい場合には補正トルクTsに対する修正舵角Str2の変化の傾きが大きく、制御量補正係数Hkが大きい場合にはその傾きが小さくなるようにしても良い。
最後にステップ220に進み、舵角センサ7の検出信号から求めた舵角センサ値Str、つまり現在実際に発生している舵角より修正舵角Str2を差し引くことで、進路に応じた舵角である基準舵角を演算する。そして、この基準舵角と車体速度V0に基づいて目標ヨーレートYrを推定する。この推定手法は、四輪車両と同様であり、基準舵角から求めた旋回半径と車体速度V0から、進路に応じて発生させられるべき目標ヨーレートYrを推定することができる。このようにして、目標ヨーレートYr推定処理が完了する。
そして、目標ヨーレートYrを推定した後、図3のステップ130に進み、現在の舵角センサ値Strやヨーレートセンサ6の検出信号から求めた現在実際に発生している実ヨーレートYrが正であり、かつ、実ヨーレートYrが目標ヨーレートYrを超えているか否かを判定する。ここで、舵角センサ値Strおよび実ヨーレートYrが正であれば、左旋回時、つまりサイドカー31側への旋回時である状態を示しており、かつ、実ヨーレートYrが目標ヨーレートYrを超えていれば、オーバーステア状態であることを意味している。
したがって、本ステップで肯定判定された場合にはステップ135に進み、オーバーステア状態を抑制するためのエンジン制御量やフロントブレーキ制御量もしくはリアブレーキ制御量を演算する。具体的には、実ヨーレートYrから目標ヨーレートYrを差し引いた値の絶対値が、ヨーレート誤差分に相当する。このため、実ヨーレートYrと目標ヨーレートYrとの差の絶対値に定数E1と制御量補正係数Hkを掛けることで、エンジン制御量を演算することができる。また、実ヨーレートYrと目標ヨーレートYrとの差の絶対値に定数B1と制御量補正係数Hkを掛けることで、フロントブレーキ制御量もしくはリアブレーキ制御量を演算することができる。このようにして、オーバーステア状態を抑制するためのエンジン制御量やフロントブレーキ制御量もしくはリアブレーキ制御量を演算することができる。
また、ステップ130で否定判定された場合は、ステップ140に進み、現在の舵角センサ値Strやヨーレートセンサ6の検出信号から求めた現在実際に発生している実ヨーレートYrが負であり、かつ、実ヨーレートYrが目標ヨーレートYr未満であるか否かを判定する。ここで、舵角センサ値Strおよび実ヨーレートYrが負であれば、右旋回時、つまりバイク30側への旋回時である状態を示しており、かつ、実ヨーレートYrが目標ヨーレートYr未満であれば、アンダーステア状態であることを意味している。
したがって、本ステップで肯定判定された場合にはステップ145に進み、アンダーステア状態を抑制するためのエンジン制御量やフロントブレーキ制御量もしくはリアブレーキ制御量を演算する。具体的には、上記したステップ135と同じ方法によって、アンダーステア状態を抑制するためのエンジン制御量やフロントブレーキ制御量もしくはリアブレーキ制御量を演算することができる。
このようにして、エンジン制御量やフロントブレーキ制御量もしくはリアブレーキ制御量を演算したら、その結果に基づいて各種処理を行う。すなわち、エンジン制御量に関しては、そのエンジン制御量を示す情報をエンジンECU8に対して伝える。これにより、エンジンECU8がそのエンジン制御量分をエンジントルクEgから差し引くことで駆動力を低下させる。また、各ブレーキ制御量については、それに対応した制動力が発生させられるように、ブレーキ液圧制御用アクチュエータ2の各種構成部品を駆動する。これらの処理により、加速度が低下させられる、もしくは減速度が増加させられ、車両の加減速度が調整されて右回りのモーメントを発生させることが可能となり、オーバーステア状態やアンダーステア状態を抑制することが可能となる。
以上説明したように、本実施形態では、直進走行時にエンジントルクEgの変化に基づいて車両の加減速を検出し、加速中の操舵量に相当する舵角に基づいて修正操舵量に相当する修正舵角を算出しておく。そして、旋回時等には、舵角と修正舵角Str2とに基づいて基準旋回状態に相当する目標ヨーレートYrを推定したのち、実旋回状態に相当する実ヨーレートYrと目標ヨーレートYrとに基づいて、エンジン制御量やブレーキ制御量を設定することで車両の加減速度を制御するようにしている。
これにより、車両の車体中心線から重心位置がずれた状態となる三輪車両において、旋回性能の向上が図れ、車両旋回時の車両安定性をより向上させられる。具体的には、オーバーステア状態やアンダーステア状態を抑制することが可能となり、車両旋回時の車両安定性をより向上させられる。そして、このような制御については、サイドカー31にブレーキ機構を備えなくても実施できるため、車体中心線から重心位置がずれた状態となる三輪車両において、サイドカー31側にブレーキ機構を備えなくても、車両旋回時の車両安定性をより向上させることが可能となる。
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して車輪の持ち上がり抑制も行えるようにしたものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
本実施形態では、車両安定性制御として、バイクの両車輪を通る線上から重心がずれる三輪車両について、旋回性能を向上させるのに加えて車輪の持ち上がりを抑制する制御も行う。
第1実施形態で説明したように、オーバーステア状態やアンダーステア状態も車両が不安定になるが、旋回時に車輪の持ち上がりが発生することで車両が不安定になることもあり得る。本実施形態では、オーバーステア状態やアンダーステア状態の抑制に加えて、車輪の持ち上がりにより車両が不安定になることも抑制する。
まず、図8を参照して車輪の持ち上がりについて説明する。図8(a)は、左旋回時の車輪の持ち上がりのメカニズムを説明する図であり、(b)は、右旋回時の車輪の持ち上がりのメカニズムを説明する図である。
図8(a)に示すように、サイドカー31側となる左旋回を行う際には、車体に対して右方向に横加速度(以下、加速度をGという)が発生する。この横Gにより、車両が旋回外側にロールし、サイドカー31に備えられた側車輪SWが持ち上がる。サイドカー31付きのバイク30のような三輪車両は、重心位置が高く、バイク30の前後輪FW、RWを結ぶ車体中心線と重心の平面上の位置が近いために、サイドカー31の側車輪SWが容易に持ち上がる。一方、図8(b)に示すように、バイク30側となる右旋回中を行う際には、車体に対して左方向に横Gが発生し、これと右旋回制動により発生する減速Gにより、車両が旋回外側斜め前方にロールする。このため、後輪RWが持ち上がり、持ち上がりが大きいとサイドカー31の下面が接地して、車両挙動が急変することもあり得る。サイドカー31付きのバイク30のような三輪車両は、重心位置が高く、バイク30の前後輪FW、RWを結ぶ車体中心線と重心の平面上の位置が近いために、後輪RWも容易に持ち上がる。これらの場合にも車両の安定性が保てなくなる。
したがって、左旋回においてサイドカー31の側車輪SWが持ち上がるような状況になったときには、前後輪FW、RWの両方もしくはいずれか一方に対して制動力を発生させたり、エンジントルクを下げることで制動力を発生させる。これにより、側車輪SWの持ち上がりを抑制することが可能となる。また、右旋回において後輪RWが持ち上がるような状況になったときにも、前後輪FW、RWの両方もしくはいずれか一方に対して制動力を発生させたり、エンジントルクを下げることで制動力を発生させる。これにより、後輪RWの持ち上がりを抑制することが可能となる。このようにして、左旋回や右旋回時における車輪の持ち上がりを抑制でき、車両安定化を実現することができる。
なお、このような現象は、オーバーステア状態やアンダーステア状態と同時に発生するとは限らず、別でも発生する。このため、オーバーステア状態やアンダーステア状態を抑制するための制御量とは別に、車輪の持ち上がりを抑制するための制御量を発生させれば良い。したがって、仮にオーバーステア状態やアンダーステア状態と同時に発生した時には、オーバーステア状態やアンダーステア状態を抑制するための制御量に加えて、車輪の持ち上がりを抑制するための制御量を発生させれば良い。
左旋回時にサイドカー31の側車輪SWが持ち上がる条件や右旋回時にバイク30の後輪RWが持ち上がる条件は、次のようにして求められる。図9の三輪車両の荷重移動時の様子を示した図を参照して、これら各条件について説明する。
図9(a)に示すように、車重をW、重心位置までの高さをh、三輪車両に発生している横Gをαyとすると、三輪車両の回転中心に加わるモーメント量Aは、W×αy×hで表される。そして、トレッド(バイク30の各車輪を結んだ線からサイドカー31の側車輪SWまでとなるアーム長)をTとすると、モーメント量AをトレッドTで割れば、側車輪位置で作用する荷重減少量ΔWとなる。すなわち、(W×αy×h)/Tが側車輪位置での荷重減少量ΔWとなる。この荷重減少量ΔWが側車輪SWにかかる荷重(側車輪荷重)を上回るという条件を満たすと、側車輪SWが持ち上がる。
そして、三輪車両の回転中心(バイク30の前後軸)に加わる側車輪SWの荷重モーメントBは車重のうち側車輪SWに関わる分×重力×トレッド、つまりW×β×g(=1)×Tとなる。βは側車輪SWの荷重係数で(0<β<1)の範囲の値をとる。荷重係数βは車両諸元に基づいて求めたトレッド上の重心位置CPから側車輪SWまでの距離TSと、トレッド上の重心位置CPからバイク30の各車輪を結んだ線との距離TBとの比から求めることが出来る。あるいは、事前に車両を使って各輪の荷重を実際に測定した結果から導き出しても良い。したがって、次式より、αy≧T×β/hが導出されることができ、横G(=αy)が側車輪SWの持ち上がる条件となる閾値(=T×β/h)以上になると、オーバーステア状態のときと同様に、加速度を低下させる、もしくは減速度を増加させることにより、側車輪SWの持ち上がりを抑制することができ、車両の安定性をより向上させることが可能となる。
(数2)
(W×αy×h)≧(W×β×T)
(W×αy×h)≧W×(T×β)
αy×h≧T×β
αy≧T×β/h
一方、右旋回時については、図9(a)のモデルを左右逆に考えると横Gによる後輪RWの荷重モーメントByを計算することができる。このとき、バイク30の前後輪FW、RWにおいてバイク30側の荷重(W×(1−β)×g×T)を支えることになる。後輪荷重はバイク側荷重を前輪FWと分け合った値となる。後輪荷重は側車輪SWの荷重と同様に、ホイールベース上の重心位置と前後輪FW、RWそれぞれへの長さから算出することが出来る。一方、横Gによるモーメントも前後輪FW、RWの2輪に掛かるため、後輪RWの荷重モーメントもバイク30側に加わる荷重モーメントByを前後輪FW、RWで分け合うためBy/2となる。荷重モーメントByは、側車輪SW側への旋回時と同様に、W×αy×hで表される。そして、横Gにより後輪RWに作用する荷重減少量ΔWyは、(W×αy×h)/Tの1/2となる。
また、減速Gによるバイク30の後輪RWの持ち上がりについては、バイク30の車輪とサイドカー31の側車輪SWとの関係をバイク30の前後輪FW、RWに置き換えたものに相当する。このため、図9(b)に示すように、ホイールベースをl、減速Gをαxとして、横Gによる側車輪SWの持ち上がりの式に対して、トレッドTをホイールベースlに入れ替え、横G(=αy)を減速Gに入れ替えれば良い。つまり、減速Gによる後輪RWのモーメント量Bxは、W×αx×hとなる。一方、減速GによるモーメントBxも後輪RWと側車輪SWの2輪で分け合う為Bx/2となる。減速Gにより後輪位置で作用する荷重減少量ΔWxは、(W×αx×h)/lの1/2となる。
したがって、横Gおよび減速Gにより後輪RWに作用する荷重減少量については、横Gにより後輪RWに作用する荷重減少量ΔWyと減速Gにより後輪RWに作用する荷重減少量ΔWxを足した値となる。したがって、次式に示したように、横Gおよび減速Gにより後輪RWに作用する荷重減少量が後輪荷重以上になるという条件を満たすと、後輪RWが持ち上がる。
(数3)
((W×αx×h)/l)/2+((W×αy×h)/T)/2≧後輪荷重
このため、フロントブレーキ制御量を調整することで、数式3中の横G(=Gy)および減速G(Gx)を抑制し、数式3の条件が満たされないようにする。例えば、αx、αyの制御限界量マップを作成しておき、その制御限界量マップに従うか、もしくは、簡易的にαx、αyにそれぞれ定数を掛けて決めた制御限界量に従って、制御限界量以下となるようにフロントブレーキ制御量を設定し、減速度を制限減速度以下となるように制限する。これにより、後輪RWの持ち上がりを抑制しつつ、車両の速度を抑えることができ、車両の安定性をより向上させることが可能となる。
なお、モーメントが2輪に作用する場合それぞれの輪に作用するモーメントは1/2となるが、動的な動作ではサスペンションの作動などがあり、モーメントが必ずしも均等に2輪に作用するとは限らない。従って、上記前後方向、左右方向のモーメント算出式にある1/2を実験結果から必要に応じて修正しても良い。
なお、横Gが大きくなるほど、より後輪RWが持ち上がり易くなるため、横Gが大きくなるほど、より小さな制限減速度となるように、制御限界量を設定するのが好ましい。これにより、横Gの大きさに関わらず、後輪RWの持ち上がりを抑制することが可能となる。
(他の実施形態)
上記実施形態では、駆動および制動力を発生させるバイク30の両車輪FW、RWを通る車体中心線上から重心がずれる三輪車両として、サイドカー31付きバイク30を例に挙げて説明したが、必ずしもサイドカー31が備えられた構成である必要はなく、単に側車輪SWが備えられたバイクであっても良い。また、上記実施形態では、サイドカー付きバイクは、右側がバイク30、左側がサイドカー31としたが、サイドカー31がバイク30の右側に付けられていても構わない。
また、上記第2実施形態では、オーバーステア状態やアンダーステア状態の抑制に加えて、車輪の持ち上がりにより車両が不安定になることを抑制した。しかしながら、車輪の持ち上がりにより車両が不安定になるのは、オーバステア状態やアンダーステア状態とは無関係に発生することもある。したがって、オーバーステア状態やアンダーステア状態の抑制とは別に、車輪の持ち上がりにより車両が不安定になることを抑制すると好ましい。
さらに、図5に示した目標ヨーレートYrの演算において、エンジントルクEgと走行抵抗トルクTdに基づいて補正トルクTsを演算したが、車両が制動している場合には、走行抵抗トルクTdとエンジントルクEgに加え、制動トルクから補正トルクTsを演算しても良い。この場合、制動中であることから、エンジンブレーキ状態であり、エンジントルクEgは負値となる。また、制動トルクについては、車両用ブレーキ制御装置1を用いた加圧制御中の場合には、制御油圧(加圧量)、ドライバによるブレーキ操作ならM/C圧センサ値から推定することができる。
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。具体的には、ブレーキECU4のうち、ステップ105の処理を実行する部分がトルク取得手段、操舵量取得手段、実旋回状態取得手段、ステップ110の処理を実行する部分が加減速検出手段、ステップ120の処理を実行する部分が変化量取得手段、ステップ125の処理を実行する部分が基準旋回状態推定手段、ステップ135、145の処理を実行する部分が車両安定化制御手段に相当する。また、ステップ215の処理を実行する部分が修正操舵量推定手段に相当する。