プロジェクタ等の電気光学装置などでは、その装置に用いられる液晶パネル等の液晶デバイスの各画素において、実際に表示に寄与し得る光が透過したり反射したりする領域は、各種配線や電子素子等の存在によって本質的に限られている。そこで、従来は、例えば、液晶パネル等の液晶デバイスにおいて、各画素に対応する凸型マイクロレンズや凹型マイクロレンズを所定の位置に配列したマイクロレンズアレイを液晶層の対向基板に作り込んだり、マイクロレンズアレイ基板を対向基板に貼り付けたりして、液晶層に入射される光量を画素単位で集光するようにしている。各種配線や電子素子等により形成されるブラックマトリックス層のブラックマトリックス(BM)によって液晶層に入射される光量は各画素において本質的に限られている。電気光学装置においてマイクロレンズアレイを利用することにより、各画素の開口領域内に光束が導かれるようにした結果、明るい表示が可能となる。マイクロレンズに限らず、レンズサイズを大型化した凸型や凹型レンズの利用分野は、電気光学装置の大型化に対応する分野も含めて将来的にも広がるものである。
このように光の利用効率を上げるために、従来の技術においてもマイクロレンズを使用してBM(ブラックマトリックス)を避けるように各画素ごとに各画素への入射光線を曲げる構成が用いられている。ただし、光線を大きく曲げすぎると、仮にBMを通過できたとしても投射レンズで取り込めなくなるため、BMを避けつつも、できるだけテレセントリックに近い光が必要となる。今まではマイクロレンズの入射側に一つの曲面を設けて光線を適度に曲げ、BMを避けつつテレセントリックに近い光となるようにバランスをとっていた。
従来例の技術として、液晶デバイスの構造として、液晶デバイスでのTFT基板とともに液晶層を挟持し、光照射側に配備される対向基板の構成として、液晶デバイスにおける個々の画素に対応するマイクロレンズのアレイが形成されたマイクロレンズアレイ基板と、平面基板とをマイクロレンズの形成された面を内側にして重ねて一体化した対向基板が特許文献1に開示されている。TFT基板の液晶層に接する側の面には、液晶に対する駆動電界を印加するためのTFT(Thin Film Transistor)では画素が列に従って配列形成され、これらTFTを駆動するためのバスラインが形成されている。
その結果、このTFT基板においては、TFTとバスラインの形成されていない部分が微小な開口として2次元的に配列し、個々の開口が画素に対応する。TFT基板でない方の基板は、対向基板と呼ばれ、対向基板の液晶層に接する側の面には、TFTに対する透明な対向電極層と、TFTやバスラインに対して照射光束を遮光するBM(上記画素に対応する開口に応じた開口の配列が形成されている)等がブラックマトリックス層に形成されている。このように、TFT−LCDにおいて、一つの画素はTFTやバスライン等により光の透過しない部分と、開口部からなり、開口部の面積は1画素の割り当て面積の一部である。このため、TFT−LCDに平行光束を照射した場合、個々の画素あたりにおいて、開口部を透過できるのは入射光の30%程度と小さく、光の利用効率が悪い。これを改善するために、TFT−LCDにおける個々の画素に対応してマイクロレンズを設け、各マイクロレンズにより光を対応する画素の開口部(ブラックマトリックスの開口部)に集光するようにすることが知られている。このようにすると、光利用効率を有効に高めることができる。
特許文献1には、液晶プロジェクタに用いられる液晶デバイスにおいて、TFT基板とともに液晶層を挟持し光照射側に配備される対向基板をマイクロレンズアレイ基板と平面基板とを重ねて一体化した技術が開示されている。マイクロレンズアレイ基板は、集光用の同一のマイクロレンズアレイ配列を片面に形成された透明な基板であって、マイクロレンズの個々が液晶デバイスにおける個々の画素に対応する。平面基板との重ね合わせにおいては、マイクロレンズアレイの形成された面(液晶層側)が内側にされる。良好な光利用効率を得るためには、TFT−LCDに照射する光束のTFT−LCDへの入射角を極めて高い精度で、入射角:0に調整する必要がある。このため、マイクロレンズアレイ形成面から液晶層側の面までの距離が、上記マイクロレンズの焦点距離に略等しく、この焦点距離は、液晶デバイスにおける画素のピッチの10倍以下の大きさ等とするマイクロレンズアレイの形状および配置が用いられている。
特許文献2には、液晶パネルにおける個々の液晶画素と対応して配列され、照明光を対応する液晶画素のブラックマトリックス開口部内に集光する機能を有する集光性のマイクロレンズをアレイ配列したマイクロレンズアレイにおいて、個々のマイクロレンズの照明光の入射側の頂部を光軸に直交する平面部として、照明光の液晶画素への過剰な集光を緩和する技術が開示されている。また、マイクロレンズアレイと照射光の入射側に配備されたカバーガラスとの間がマイクロレンズアレイの材質に対して所定の屈折率差をもつ媒質とすることにより、媒質とマイクロレンズとの境界部でマイクロレンズのレンズ面の屈折作用を高める技術が開示されている。
特許文献3には、光束の入射面に複数の凸レンズまたは凹レンズで、光束の出射側に向かって細くなるテーパ状の円筒形状部分を備えたマイクロレンズが形成され、また光束の出射側には複数のレンズの少なくとも中心を避ける位置に対応して複数の凹部に遮蔽層(ブラックマトリックス)が形成されたマイクロレンズアレイ基板の構造と製造方法が開示されている。この凹部の開口部の面積が底面部の面積より大きくなっていることにより遮光性材料が凹部内に導かれる構成となっているので、出射光束は、入射光束を絞りこんだ状態で出射される。マイクロレンズアレイ基板に形成されたマイクロレンズは、光束の入射面側に設けられた凸状あるいは凹状のマイクロレンズの周辺に光束を絞り込むのに適したブラックマトリックスも備えた構成とされている。
特許文献3には、マイクロレンズの曲面部の反転パターン形状を有する原盤を用いて、ブラックマトリックス部分を含めたマイクロレンズの形状を、マイクロレンズを形成する基板前駆体に転写することによりマイクロレンズ基板を形成する技術が開示されている。基板前駆体の物質としては、エネルギーの付与により硬化可能な物質を好適とする技術である。
特許文献4には、第1のマイクロレンズアレイと中間基板を介して第2のマイクロレンズアレイとを協働させてRGBの光束を液晶表示素子の画素位置に光束を透過させる2層マイクロレンズアレイと、液晶表示素子とを有する液晶パネルユニットが開示されている。第1のマイクロレンズアレイのマイクロレンズは、凸状に突出する複数の球面レンズの外周部が正六角形に形成され、隣接する球面レンズの外周部にそれぞれ当接され、球面レンズの厚み方向から見て蜂の巣状に配置されている。球面レンズの曲率半径は例えば約15μmに設定されている。第2のマイクロレンズアレイのマイクロレンズは稠密構造に配置されるとともに、画素配列がデルタ配列になっている。例えば長辺45μm、短辺15μm、レンズの厚み方向は20μmに設定され、項面は平面状に構成されている。これらのマイクロレンズの構成により、光源から発せられる光線で完全平行化されていない多くの光線を、一定間隔おきに形成されたブラックマトリックスの開口部を透過させる技術が開示されている。
特許文献4には、スタンパ型を用いて第1のマイクロレンズアレイを作製する工程と、第1のマイクロレンズアレイとスタンパ型とを一体化したまま、感光性材料からなる第2のマイクロレンズアレイを形成する技術が開示されている。光透過性の板体に、特定の波長の光の透過率を変化させる材料を塗付することによって、スタンパ型に一体化されたマスク部材を形成し、マスク部材を介して第1のマイクロレンズに照射することにより第2マイクロレンズを形成する技術として開示されている。
また、液晶パネルでは、高輝度なものが求められるようになり、光利用効率を向上させるために、特許文献5や特許文献6に示されるような方法により、光を第2レンズ面で若干の収束光として、遮光層(ブラックマトリックス)において光が吸収されることを軽減する方策が取られている。
特許文献5には、投影型液晶表示装置用の液晶表示素子の光入射側に配置されるマイクロレンズ基板に係る技術が開示されている。光入射側から、異なる角度で入射する複数の光束を液晶表示素子の画素に対応する開口部(ブラックマトリックスの開口部)に収束させる第1のレンズからなる第1のマイクロレンズアレイと、複数の光束それぞれの主光線を平行化する第2のレンズからなる第2のマイクロレンズアレイとを有するマイクロレンズ基板を備えている。ここで、第2レンズは、その形状が略台形状をなし、台形の傾斜面が、光束入射側に凹凸をなす曲面となっている。液晶パネルユニット(液晶表示素子)は、光透過性の保護板に低屈折樹脂からなる平坦化層を介して、第1のマイクロレンズアレイと、光透過性の中間基板と、第2のマイクロレンズアレイと、第2のマイクロレンズアレイの凹凸面を平坦化する平坦化層、ブラックマトリックス層より構成される一連のユニットとしてのマイクロレンズ基板が、開示されている。このマイクロレンズ基板がカラーフィルタレスの単板式の投影型液晶表示装置に適用され、光効率を低下させることなく、低コストにて実現する技術とされて開示されている。
特許文献5には、マイクロレンズ基板の作製方法について以下の作製工程による技術が開示されている。作製工程は、スタンパ型と保護板となる第1の透明基板との間に、平坦化層となる低屈折率樹脂を塗布し、UV光をこの透明基板側から照射して、低屈折率樹脂を硬化させる。スタンパ型を離型した後に、第1レンズとなる高屈折率樹脂を接着層として中間基板となる第2の透明基板を接合する。この透明基板に第2レンズとなる高屈折率樹脂および第2レンズとなる高屈折率樹脂およびネガレジストを順次塗布し、グレースケールマスクを用いた露光・現像後に、ドライエッチングを行い、第2レンズとなる高屈折率樹脂にレンズ形状を転写する。その後平坦化層となる低屈折率樹脂で平坦化して、マイクロレンズ基板を形成する。
特許文献6には、光屈折素子アレイ基板として、2次元に配列された複数の第1屈折素子を有する第1光屈折素子アレイと、それぞれが第1の屈折率を有し、かつ複数の第1光屈折素子と1:1で対応するように2次元に配列された複数の第2光屈折素子を有する第2光屈折素子アレイと、第1の屈折率と異なる第2の屈折率を有する第3光屈折素子とを有する技術が開示されている。第1光屈折素子アレイにお互いに異なる角度で入射し、第1光屈折素子アレイによって集光された光束の主光線は、第2光屈折素子アレイと第3光屈折素子アレイとによって平行化される。光屈折素子アレイ基板としてマイクロレンズおよびマイクロプリズムを備えた構成が例示されている。上記光屈折素子アレイ基板は、光入射側から、ベース基板上に第1マイクロレンズアレイ、第1マイクロレンズの凹凸を平坦化する接着層、中間ガラス層、第2の光屈折素子アレイとしての第2マイクロプリズムアレイ、第2マイクロプリズム層に接する第3マイクロレンズアレイ、第3マイクロレンズアレイの凹凸を平坦化する平坦化層とを有する構成となっている。
特許文献6では、このように、第1光屈折素子アレイに互いに異なる角度で入射し、第1光屈折素子アレイによって集光された光束の主光線を第2光屈折素子アレイと第3光屈折素子アレイとによって平行化する。光の利用効率が高く、色純度等の表示品位の優れた画像表示装置を提供できる技術として開示されている。
また、特許文献6では、マイクロレンズアレイの製造方法が開示されている。光学ガラスからなるベース基板上に、第1マイクロレンズアレイを形成し、接着層で固定し、第1マイクロレンズアレイと中間ガラス板を介して第2マイクロプリズムアレイを形成する。第2マイクロプリズムアレイ上に、第3マイクロレンズアレイ用の高屈折率の熱硬化性樹脂を付与、硬化させる。熱硬化性樹脂の硬化工程で硬化収縮が起こり、第3マイクロレンズアレイの個々のレンズと隣接するマイクロプリズムとの間の樹脂層の表面に窪み(凹部)が形成される。窪みが形成された樹脂層は、負のパワーを有する凹レンズを備えた第3マイクロレンズアレイとして機能する。熱硬化性樹脂の硬化収縮を利用して第2マイクロプリズムアレイに対して自己整合的に第3マイクロレンズアレイを製造する技術である。
特許文献1〜4に記載された従来の技術におけるマイクロレンズは、このように光の利用効率を上げるために、マイクロレンズの形状や配置を利用してBMを避けるように入射光線を曲げている。特許文献1〜2の技術は、マイクロレンズの入射側の曲面を改良した内容であり、特許文献3の技術は、入射側に曲面が形成されたマイクロレンズを透過した入射光を、マイクロレンズアレイ基板に設けたマイクロレンズと近接して設けた遮光層(ブラックマトリックス)とで各画素に光を照射する技術であり、マイクロレンズの入射側に曲面が形成されている。特許文献4〜5の技術は、マイクロレンズを2層構造として中間基板の対向する2面上にそれぞれ形成した技術である。特許文献6の技術は、マイクロレンズとマイクロプリズム・マイクロレンズの組み合わせ層を中間基板の対向する2面上にそれぞれ形成した技術である。
特許文献4〜6に記載された従来の技術では、2層あるいは複数層のマイクロプリズムを含むマイクロレンズにより、入射した光束をこれら複数層のマイクロレンズの協働により、ブラックマトリックス(BM)を避けつつ、光の利用率を高める構成となっている。マイクロレンズの入射側のレンズ曲面の形状やマイクロレンズの配置において、光線を大きく曲げすぎると、仮にBMを通過できたとしても光線を例えばプロジェクタ等における投射レンズで取り込めなくなるため、これを避けるために、BMを避けつつも、できるだけテレセントリックに近い光が必要となる技術が開示されている。
また、特許文献4〜6の技術は、マイクロレンズを形成する基板を2枚構造として、2層目に形成するマイクロレンズあるいはマイクロプリズムを樹脂で形成する技術であり、形成工程が複雑で長いという問題点がある。
図5、6は、従来の技術の一例として、マイクロレンズ121とブラックマトリックス201が形成されたブラックマトリックス層とで構成される対向基板2と、液晶層202、TFT基板203を含めた液晶デバイス1の構成を示す図である。また、液晶パネル1画素についてのマイクロレンズ121とブラックマトリックス(BM)201と光源11から発射された光束131cとしての入射光線との関係をも示す図である。液晶層202を挟んでTFT基板203とブラックマトリックス201を形成する層には、それぞれ1画素を構成する対向電極211aと211bの群が複数設けられている。マイクロレンズ121は、光束131cの入射側に正にパワーを有する曲率を有し、マイクロレンズの出射側には、正のパワーを有する第2のレンズ曲面が形成された構成とすることにより、マイクロレンズ121の両面に曲面形状を形成する構成により、薄型のマイクロレンズ基板構造とすることができる。この構成により、ブラックマトリックスを避けつつも、画素に出射される光束をテレセントリックに近い光として透過させることが容易に可能になり、光利用効率のアップを図ることが可能になる。このようなマイクロレンズ構造が、複数整列された状態で配列されて図示しないマイクロレンズアレイを形成する。この従来例では、マイクロレンズアレイを構成するマイクロレンズ121は、光学ガラスよりなる材料にて一体的に構成されている。光束入射側と出射側における二つの曲面で光束131cを適度に曲げ、かつマイクロレンズアレイ全体として、ブラックマトリックス(BM)201における遮蔽部を避けつつも、テレセントリックに近い光束がBMを透過するようにバランスをとっていた。
この従来例のマイクロレンズの形成方法を図7に従って説明する。
(1)図7(a)に示すように、マイクロレンズをアレイ配列して形成するための光学ガラスよりなるマイクロレンズアレイ基板121を準備する。このマイクロレンズアレイ基板121は、表裏表面が互いに平行かつ平滑な表面を有する。
(2)図7(b)に示すように、光束入射面側のレンズ加工を従来通りの技術により、光束の入射面側に複数の凸レンズ121bが所定の大きさおよびピッチにより構成されたマイクロレンズアレイ基板121を形成する。
(3)図7(c)に示すように、光学ガラスの凸レンズ121bが形成されていない光束出射面側の基板面上に、感光性フォトレジスト層を形成し、フォトリソグラフィ技術を用いて、感光性フォトレジスト層をパターニングして、光学ガラスの光束出射面側を選択的にエッチングする開口部103aを有するマスク層103を形成する。マスク層103の開口部103aと個々の凸レンズ121bとの位置合わせは、マイクロレンズアレイ基板121に設けられた図示しない位置合わせマークや、位置合わせ孔等を用いる。また、各凸レンズ121bの間隙部に図示しない遮光層を設けて、マイクロレンズアレイ基板121の光束入射面側から、紫外線を照射することにより、各凸レンズ121bの間隙部の図示しない遮光層以外の部分からマイクロアレイ基板121の光束出射面側に透過する紫外線により、マイクロレンズ周辺部以外の上記感光性フォトレジスト層を露光・硬化させ、開口部103aに相当する未露光の硬化しない部分の感光性フォトレジスト層をリムーバー等で除去する方法でも光束入射面側の凸レンズ121bと上記開口部103aが自己整合的に位置決めされたマスク層103の形成が可能である。
(4)図7(d)に示すように、エッチング装置を用いて、上記マスク層開口部103aの光学ガラス層を選択的にエッチングし、光学ガラス層の該マスク開口部103aに相当する部分に、略V字状の溝部104を形成する。エッチングは、たとえばエッチング液に浸漬する方式の等方性エッチングにより、溝部は略V字状に形成する。ドライエッチング方式でも、エッチャントの種類、エッチャントの流量、加工電圧などのエッチング条件を調整することにより、異方性のエッチングを緩和した状態としての略V字状の溝部104を形成することができる。エッチングの深さは、2μm程度とすることができる。エッチング条件の制御により、略V字状溝部104の深さや形状を制御することが可能である。エッチング深さと略V字状溝部形状を制御することにより、マイクロレンズの光束出射面側レンズ角部に正のパワーを有するレンズ曲面を形成することができる。
(5)図7(e)に示すように、感光性材料からなるマスク層103を、レジストリムーバー等を用いて、マイクロレンズアレイ基板121の光束出射面側の表面から除去する。
以上の図7(a)から図7(e)の工程により、光学ガラスよりなるマイクロレンズアレイ基板121の光束入射面側に形成された凸レンズ121bと光束出射面側の角部が正のパワーを有する曲面で構成されたマイクロレンズ121cとで構成されたマイクロレンズ121aのマイクロレンズアレイ基板121が完成する。
また、(6)図7(f)に示すように、エッチングにより形成された略V字状溝部104に、入射された光束に対する光反射性物質を埋め込むことも可能である。このような光反射性物質を埋め込んだ略V字状光反射部104aを形成することにより、入射した光束の一部に対してV字状溝部の斜面が反射層となり、光束の出射側に一部の光束を集束する作用が生じてマイクロレンズの光の利用率向上に効果がある。
また、この従来例では、光学ガラスに対するエッチング時間は、2μmの深さの略V字状溝部104のエッチング加工に5min必要である。エッチング時間が長いことにより、マイクロレンズの形成工程も長時間を要するものとなる。
特許文献4〜6の技術では、第1のマイクロレンズを形成した基板と、第2のマイクロレンズを形成した基板を、中間基板を介して組み合わせて、ブラックマトリックスを回避する方策を採っていたが、組み合わせた基板部の厚さが大になり、液晶プロジェクタ装置として要求される薄層化に対して問題が生じていた。
また、特許文献4〜6の技術は、マイクロレンズを形成する基板を中間基板を介した2層構造とし、2層目に形成するマイクロレンズあるいはマイクロプリズムを、1層目のマイクロレンズと整合させながら、高屈折率樹脂や熱硬化性樹脂を用いて形成する技術であり、形成工程が複雑で長いという問題が生じていた。これらの問題を解決する一つの手段が、上記図7に示した従来の技術により一体的に形成したマイクロレンズであり、その形成方法である。
(第1の実施例)
本発明の第1の実施例について、図1を用いて説明する。
(1)図1(a)に示すように、光学ガラスよりなるマイクロレンズアレイ形成用のマイクロレンズアレイ基板101を準備する。このマイクロレンズアレイ基板101は、表裏表面が互いに平行かつ平滑な表面を有する。
(2)図1(b)に示すように、光束入射面側のレンズ加工を従来通りの技術で行う。光束入射面側に複数の凸レンズ101bを所定の大きさおよびピッチによりマイクロレンズアレイ基板101に形成する。
(3)図1(c)に示すように、光束出射面側に光学的に透明なガラス層102aを形成する。スパッタリング装置のような真空成膜機のチャンバー内にて、マイクロレンズアレイ基板101の光束出射面側表面に酸化シリコン(SiO2)層102aを厚さ3μmで真空成膜する。この酸化シリコン(SiO2)層102aが図1(f)に示すマイクロレンズ101aの光束出射面側のレンズ101cを構成する。
(4)図1(d)に示すように、酸化シリコン((SiO2)層102a上に、感光性フォトレジスト層を形成し、フォトリソグラフィ技術を用いて、感光性フォトレジスト層をパターニングして、酸化シリコン((SiO2)層102aを選択的にエッチングするための開口部103aを有するマスク層103を形成する。マスク層の開口部103aと個々のマイクロレンズとの位置合わせは、マイクロレンズアレイ基板101に設けられた位置合わせマークや、位置合わせ孔等を用いる。また、各凸レンズ101bの間隙部(上記開口部103aに対応する部分)に図示しない遮光層を設けて、マイクロレンズアレイ基板101の光束入射面側から、紫外線を照射することにより、各凸レンズ101bの間隙部の図示しない遮光層以外の部分からマイクロアレイ基板101の光束出射面側に透過する紫外線により、凸レンズ101bのレンズ周辺部の感光性フォトレジスト層を露光・硬化させ、非露光部で硬化しない部分の感光性フォトレジスト層をリムーバー等で除去する方法でも光束入射面側の凸レンズ101bと上記開口部103aが自己整合的に位置決めされたマスク層103の形成が可能である。
(5)図1(e)に示すように、エッチング装置を用いて、上記マスク層開口部103aの酸化シリコン(SiO2)層102aを選択的にエッチングし、酸化シリコン(SiO2)層102aの該マスク開口部103aに相当する部分に、略V字状溝部104を形成する。エッチングは、たとえばエッチング液に浸漬する方式の等方性エッチングにより、溝部を略V字状に形成する。エッチング液に浸漬する方式では、溝部の形状は、緩やかな曲面状の斜面を有する略U字状溝部を形成する場合があり、必ずしも精密なV字状溝部にはならない場合がある。ドライエッチング方式でも、エッチャントの種類、エッチャントの流量、加工電圧などのエッチング条件を調整することにより、異方性のエッチングを緩和した状態としての略V字状溝部104を形成することができる。本発明における略V字状溝部104は、溝部を形成する対向斜面の形状がそれぞれ平面状であるV字状の凹部や、緩やかな窪み状の曲面を有するU字状の凹部を含むものとする。エッチングの深さは、2μm程度とすることができる。エッチングの深さは、形成した酸化シリコン(SiO2)層102aの厚さ3μmとすることができる。下層の光学ガラス層と上層の酸化シリコン(SiO2)層のエッチングレートの差を利用して、下層の光学ガラスの表面をエッチングストッパーとして作用させることにより、略V字状溝部104の深さや形状を制御することが可能となる。成膜した酸化シリコン(SiO2)層102aの厚さ分を選択的にエッチングすることにより、また、成膜した酸化シリコン(SiO2)層の厚さとV字溝形状を制御することにより、マイクロレンズの出射面側角部に正のパワーを有する酸化シリコン(SiO2)層102aよりなる光束出射側レンズ101cにおける曲面を形成することができる。以上のように酸化シリコン(SiO2)層102aより構成される光束の出射側レンズ101cの曲面形状を制御することが容易に可能となる。
(6)図1(f)に示すように、感光性材料からなるマスク層103を、レジストリムーバー等を用いて、酸化シリコン(SiO2)層102aの表面から除去する。
以上の図1(a)から図1(f)の工程により、光学ガラス基板の光束入射側に形成された凸レンズ101bと、光束出射面側のレンズ101cが酸化シリコン(SiO2)層及びその曲面で構成されたマイクロレンズ101aを有するマイクロレンズアレイ基板101が完成する。
また、図1(g)に示すように、酸化シリコン(SiO2)層102aのエッチングにより形成された略V字状溝部104に、入射された光束に対する光反射性物質を埋め込むことにより略V字状光反射部104aを形成することも可能である。光反射性物質を埋め込む方法は、例えば、基板の光学ガラスとは屈折率の異なる光透過性の液状樹脂を微少量ポッテングし硬化させる方法や、インクジェット方式により基板の光学ガラスとは屈折率の異なる光透過性のインク材を描画塗布する手法等により行うことができる。屈折率が異なる材料により、入射された光束を出射側に集束させるものである。あるいは、略V字状溝部104に、アルミニウム薄層を選択的に形成して光反射部を形成することもできる。形成方法としては、アルミニウム等の金属薄膜を例えば蒸着法にて基板表面に形成し、フォトリソグラフィ技術により形成した感光性マスク層を利用してエッチングして選択的にアルミニウム膜を形成して略V字状光反射部104aを形成することもできる。このような手法を用いて、略V字状溝部104に光反射性物質を埋め込むことにより、入射した光束の一部に対してV字状溝部の一方の斜面が反射層となり、光束の出射側に一部の光束を集束する作用が生じて、マイクロレンズの光の利用率が向上する。
また、本実施例1において、通常、光学ガラスに対するエッチング時間は、0.4μm/min、2μmのエッチング加工に5min必要であるが、本発明に係る酸化シリコン(SiO2)層のエッチング加工では、2μm/minであり、2μmのエッチング加工に1minの加工時間で済むため、マイクロレンズの加工時間を短縮することが可能となる。光束の出射側の光学ガラスをエッチングしてレンズ面を形成する従来の技術では、略7.5minの所要時間を必要とする工程が、本発明の実施例1では、1.5minで加工が終了した。
その後、酸化シリコン(SiO2)層や低屈折率のガラスをマイクロレンズアレイ基板101の表面に成膜後、その表面を研磨して平滑に加工する工程を加えてもよい。
本発明のマイクロレンズの形成方法においては、成膜した酸化シリコン(SiO2)層の厚さとV字溝形状を制御することにより、マイクロレンズの出射側角部に正のパワーを有する酸化シリコン(SiO2)層よりなるレンズ曲面を短時間でかつ容易に形成することが可能となる。
(第2の実施例)
第1の実施例にて用いた酸化シリコン層に換えて、酸化アルミニウム(Al203)層を用いる点を除いて、実施例1と同様の形成方法である第2の実施例について図1を用いて説明する。図1において共通する符号は同一符号とする。
(1)図1(a)に示すように、光学ガラスよりなるマイクロレンズのアレイ形成用のマイクロレンズアレイ基板101を準備する。このマイクロレンズアレイ基板101は、表裏表面が互いに平行かつ平滑な表面を有する。
(2)図1(b)に示すように、光束入射面側のレンズ加工を従来通りの技術で行う。光束入射面側に複数の凸レンズ101bを所定の大きさおよびピッチにより形成されたマイクロレンズアレイ基板101を形成する。
(3)図1(c)に示すように、光束出射面側に光学的に透明なガラス層102bを形成する。PVD(Physical Vapor Deposition)法の中で比較的低温での皮膜形成が可能な反応性スパッタリング装置のような真空成膜機のチャンバー内にて、マイクロレンズ基板101の光束出射面側表面に酸化アルミニウム(Al203)層102bを厚さ3μmで真空成膜する。この酸化アルミニウム(Al203)層102bが図1(f)に示すマイクロレンズ101aの光束出射面側のレンズ101cを構成する。
(4)図1(d)に示すように、酸化アルミニウム(Al203)層102b上に、感光性フォトレジスト層を形成し、フォトリソグラフィ技術を用いて、感光性フォトレジスト層をパターニングして、酸化アルミニウム(Al203)層102bを選択的にエッチングするための開口部103aを有するマスク層103を形成する。マスク層103の開口部103aと個々のマイクロレンズとの位置合わせは、マイクロレンズ基板に設けられた位置合わせマークや、位置合わせ孔等を用いる。また、各凸レンズ101bの間隙部(上記開口部103aに対応する部分)に図示しない遮光層を設けて、マイクロレンズアレイ基板101の光束入射面側から、紫外線を照射することにより、各凸レンズ101bの間隙部の図示しない遮光層以外の部分からマイクロアレイ基板101の光束出射面側に透過する紫外線により、マイクロレンズ周辺部の感光性フォトレジスト層を露光・硬化させ、非露光部で硬化しない部分の感光性フォトレジスト層をリムーバー等で除去する方法でも光束入射面側の凸レンズ101bと上記開口部103aが自己整合的に位置決めされたマスク層103の形成が可能である。
(5)図1(e)に示すように、エッチング装置を用いて、上記マスク層103の開口部103aの酸化アルミニウム(Al203)層102bを選択的にエッチングし、酸化アルミニウム(Al203)層102bの該マスク開口部103aに相当する部分に、略V字状溝部104を形成する。エッチングは、たとえばエッチング液に浸漬する方式の等方性エッチングにより、溝部を略V字状に形成する。ドライエッチング方式でも、エッチャントの種類やエッチャントの流量、加速電圧等のエッチング条件を調整することにより、略V字状溝部104を形成することができる。エッチングの深さは、形成した酸化アルミニウム(Al203)層102bの厚さ3μmとすることができる。下層の光学ガラスと酸化アルミニウム(Al203)層のエッチングレートの差を利用して、下層の光学ガラスの表面をエッチングストッパーとして作用させることにより、略V字状溝部104の深さや形状を制御することが可能となる。成膜した酸化アルミニウム(Al203)層102bの厚さ分を選択的にエッチングすることにより、酸化アルミニウム(Al203)層102bより構成される光束出射側レンズ101cの形状を制御することが容易に可能となる。
また、図1(g)に示すように、エッチングにより形成された酸化アルミニウム(Al203)層102bの略V字状溝部104に、入射された光束に対する光反射性物質を埋め込むことにより略V字状光反射部104aを形成することも可能である。光反射性物質を埋め込む方法は、例えば、基板の光学ガラスとは屈折率の異なる光透過性の液状樹脂を微少量ポッテングし硬化させる方法や、インクジェット方式により基板ガラスと屈折率の異なる光透過性のインク材を描画塗布する手法等により行うことができる。あるいは、V字状溝部にアルミニウム等の金属の薄膜を例えば蒸着法により選択的に形成することにより光反射部104aを形成することもできる。このような手法を用いて、略V字状溝部104に光反射性物質を埋め込むことにより、入射した光束の一部に対してV字状溝部の一方の斜面が反射層となり、光束の出射側に一部の光束を集束する作用が生じて、マイクロレンズの光の利用率が向上する。
光学ガラスに対するエッチング時間は、0.4μm/min、2μmのエッチング加工に5min必要であるが、酸化アルミニウム(Al203)層のエッチング加工では、2μm/minであり、2μmのエッチング加工に1minの加工時間で済むため、マイクロレンズの加工時間を短縮することが可能となる。光束出射側の光学ガラスをエッチングしてレンズ面を形成する従来の技術では、略9minの所要時間を必要とする工程が、本発明の実施例2では、3minで加工が終了した。
その後、酸化シリコン(SiO2)層や低屈折率のガラスをマイクロレンズアレイ基板101の表面に成膜後、その表面を研磨して平滑に加工する工程を加えてもよい。
(第3の実施例)
図2は、本発明の別の実施形態である実施例3を示す図であり、液晶デバイス用の対向基板2を構成するマイクロレンズ101とブラックマトリックス201と、液晶層202(図3に示す)、TFT基板203およびブラックマトリックス201の層と、TFT基板203に形成された画素電極211a、211bからなる液晶デバイス1の一画素を概略的に示している。光源11から発射された光束は、マイクロレンズ101を透過し、ブラックマトリックス201の開口部、液晶層202、TFT基板203を透過して投射される。液晶デバイス1としては、このようなマイクロレンズ101が複数整列して配置されたマイクロレンズアレイを用いるものであるが、便宜上、1画素分のみを示している。
(第4の実施例)
図3は、本発明の実施例4を示す図であり、液晶デバイス1、対向基板2の構成は、従来技術と同様であり、詳細説明は省略する。図3のマイクロレンズ101aに入射された光束131aが、マイクロレンズ101aの出射側の周辺部に設けられた正のパワーを有するレンズ曲面により曲げられて、ブラックマトリックス201の遮光部を避けて、略テレセントリックに液晶層202を透過する状態を示す図である。図3におけるマイクロレンズ101aは、光学ガラス部101bと光学的に透明な成膜部101cから構成され、光学ガラス部101bと成膜部101cが正のパワーを有する曲面をなす構成となっている。このようにマイクロレンズ101aの光線の入射側と出射側にそれぞれ正のパワーを有するレンズ曲面を形成することで、BMを避けつつ、画素開口部にテレセントリックな光を照射することが簡易な構成にて可能になる。
(第5の実施例)
図4はさらに、マイクロレンズ101a(図1のマイクロレンズアレイ基板101)とブラックマトリックス201層との間に平面基板120とを有し、該平面基板120と前記マイクロレンズアレイ基板のマイクロレンズ101aが形成された面を内側にして重ねて一体化して前記対向基板2を構成した本発明の実施例5を示す図である。マイクロレンズ101a(図1のマイクロレンズアレイ基板101)と平面基板120とが対向する位置で、固定され易くなり、BMを避けつつ、位置決めされる画素開口部に略テレセントリックな光を照射することが簡易な構成にてより安定した状態で可能になる。
このように液晶デバイス用の対向基板と、TFT基板とにより液晶層を挟持してなる液晶プロジェクタ用の液晶デバイスを簡易な構成にてより安定した構成とすることができる。