JP6032198B2 - ポリマーの製造方法、有機酸の製造方法及び有機酸生産菌 - Google Patents

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Description

本発明は、着色の少ない高品質なポリマーの製造方法、該ポリマーを得るための有機酸の製造方法及び有機酸に使用する有機酸生産菌に関する。
微生物によって最終的に水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチック材料は、食品容器や農業用資材など幅広い用途で用いられている。
このようなポリエステルは、現在、化石燃料資源由来の原料を重縮合することにより製造されているが、近年の化石燃料資源枯渇への危惧や大気中の二酸化炭素増加という地球規模での環境問題の背景から、バイオマス資源からこれらポリマーの原料を誘導する手法が注目されている。
これまでに、ポリエステルの原料として用いられるコハク酸、アジピン酸などのジカルボン酸をバイオマス資源由来のグルコース、スクロースなどから発酵法によって製造する技術が記載されている(特許文献1、特許文献2、及び非特許文献1参照)。
ポリマー原料としてジカルボン酸を用いる場合、ポリマーの重合活性を維持し、かつ着色の少ない高品質なポリマーを得るためには高純度のジカルボン酸が要求される。発酵法により製造されたジカルボン酸の精製方法としては、イオン交換樹脂を用いる方法、電気透析を用いる方法などが記載されている(特許文献3、4)。ポリマー着色の原因物質としては、250〜300nmの紫外線領域に吸収を示す不純物が挙げられ、これらを特定量以下に低減することが有用であると記載されている(特許文献5)。
特開平11−113588号公報 特開平11−196888号公報 米国特許第6,284,904号 特開平2−283289号公報 特開2010−100617号公報
Journal of the American Chemical Society No.116 (1994) 399−400
しかし、特許文献1、特許文献2、及び非特許文献1記載の製造方法では、目的のジカルボン酸以外の副生有機酸や微生物によって完全に資化されずに残存した糖類、バイオマス資源由来の窒素元素を有する化合物及び金属カチオン等の様々な不純物が混入することがあり、更なる改善が必要であった。
また、特許文献3及び4に記載の精製プロセスで得られたジカルボン酸においても、ポリマー原料として用いた場合にポリマーが着色する傾向があるなど、更なる改善が必要であった。
さらに、特許文献5において、ポリマーの着色原因となる不純物は特定されておらず、不純物をより効率的に安価な方法でジカルボン酸から取り除くことが、実用化する上で重要な課題となっていた。
本発明は、着色の少ない高品質なポリマーを生産する製造方法、該目的に適する有機酸の製造方法及び該有機酸を生産するための微生物を提供することを課題とする。
本発明者達は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ポリマー原料となる有機酸中に混入する様々な不純物のうち、ポリマー着色の原因となる物質がプロトカテク酸等の芳香族カルボン酸であること、更には、プロトカテク酸等の芳香族カルボン酸は精製により分離するのが困難であることを見出した。そして、プロトカテク酸等の芳香族カルボン酸が低減するように改変してなる微生物又はその処理物を、有機原料に作用させることにより有機酸を生成させ、これを用いてポリマー合成をおこなうとポリマー着色が低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] 有機酸生産能を有し、非改変株と比較して芳香族カルボン酸の生成が低減されるように改変された微生物又はその処理物を、有機原料に作用させることにより得られた有機酸を原料として重合反応を行うポリマーの製造方法。
[2] 前記微生物が、DAHPシンターゼ活性、デヒドロキナ酸シンターゼ活性、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して低減するように改変することにより芳香族カルボン酸の生成が低減した微生物である、[1]に記載のポリマーの製造方法。
[3] 前記有機酸が晶析処理されたものである、[1]または[2]に記載のポリマーの製造方法。
[4] 前記芳香族カルボン酸がヒドロキシベンゼンカルボン酸である、[1]〜[3]のいずれかに記載のポリマーの製造方法。
[5] 前記有機酸がコハク酸である、[1]〜[4]のいずれかに記載のポリマーの製造方法。
[6] 前記ポリマーが、ポリエステル又はポリアミドである、[5]に記載のポリマーの製造方法。
[7] 有機酸生産能を有し、非改変株と比較して芳香族カルボン酸の生成が低減されるように改変された微生物又はその処理物を、有機原料に作用させることを特徴とする有機酸の製造方法。
[8] 前記微生物が、DAHPシンターゼ活性、デヒドロキナ酸シンターゼ活性、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して低減するように改変することにより芳香族カルボン酸の生成が低減した微生物である、[7]に記載の有機酸の製造方法。
[9] 前記微生物あるいはその処理物を嫌気的雰囲気下で有機原料に作用させることを特徴とする、[7]又は[8]に記載の有機酸の製造方法。
[10] 有機酸がコハク酸である、[7]〜[9]のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
[11] 有機酸の晶析処理工程を含む、[7]〜[10]のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
[12] 前記芳香族カルボン酸がヒドロキシベンゼンカルボン酸である、[7]〜[11]のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
[13] 前記微生物が、コリネ型細菌、マイコバクテリウム属細菌、ロドコッカス属細菌、ノカルディア属細菌、またはストレプトマイセス属細菌よりなる群から選ばれる少なくとも1種類である細菌である[7]〜[12]のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
[14] 有機酸生産能を有し、デヒドロキナ酸シンターゼ活性、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して低減するように改変することにより芳香族カルボン酸の生成が低減したコリネ型細菌。
[15] デヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性が低下するように改変された、[14]に記載のコリネ型細菌。
[16] デヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼをコードする遺伝子を破壊することまたは該遺伝子に変異を導入することによりデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性が低下した、[15]に記載のコリネ型細菌。
[17] デヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼをコードする遺伝子が、配列番号15の塩基配列を含むDNA、または配列番号15の塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、デヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性を有する蛋白質をコードするDNAである、[16]に記載のコリネ型細菌。
[18] 芳香族カルボン酸がヒドロキシベンゼンカルボン酸である、[14]〜[17]のいずれかに記載のコリネ型細菌。
[19] 芳香族カルボン酸がプロトカテク酸である、[18]に記載のコリネ型細菌。
本発明により、ポリマー着色の原因となる芳香族カルボン酸を減少させることができ、結果としてポリマー原料として用いたときに着色の少ない高品質なポリマーを得ることができる。本発明により、有機酸の精製工程を簡略化でき、製造コストを低減できる。また、本発明は、環境問題、化石燃料資源の枯渇問題等の解決に大きく貢献することができる。
プロトカテク酸合成経路を示す図である。 プラスミドpMJPC17.2の構築手順を示す図。下線の数字は当該配列番号の配列からなるプライマーを示す。 プラスミドpQsuB1の構築手順を示す図である。 晶析装置を示す図面である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<本発明の微生物>
本発明の微生物とは、有機酸生産能を有し、非改変株と比較して芳香族カルボン酸の生成が低減されるように改変された微生物である。非改変株と比較して芳香族カルボン酸の生成が低減されるように改変された、とは、芳香族カルボン酸の生合成経路に関わる酵素に関して直接的及び間接的に該酵素活性が非改変株と比較して減少したこと、芳香族カルボン酸と前駆体を共有し、芳香族カルボン酸の生合成経路とは分岐する他の生合成経路の酵素の活性が増加したことにより芳香族カルボン酸の前駆体から芳香族カルボン酸生合成経路への流れが減少し、間接的に芳香族カルボン酸の生合成が減少したこと、および芳香族カルボン酸の分解経路に関わる酵素に関して、直接的及び間接的に該酵素活性が非改変株と比較して増加したことを含む。
具体的には、DAHPシンターゼ活性、デヒドロキナ酸シンターゼ活性、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性からなる群より選ばれる1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して低減するように改変してなる微生物が挙げられる。なかでも、デヒドロキナ酸シンターゼ活性、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性からなる群より選ばれる1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して低減するように改変してなる微生物が好ましく、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性及び/又はデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性が非改変株と比較して低減するように改変してなる微生物より好ましく、デヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性が非改変株と比較して低減するように改変してなる微生物が特に好ましい。
ここで、「有機酸生産能を有する」とは、該微生物を培地中で培養したときに該培地中に有機酸を生成蓄積することができることをいう。
有機酸としては芳香族カルボン酸以外の有機酸であれば特に限定されないが、アミノ酸およびカルボン酸が好ましく、カルボン酸がより好ましく、脂肪族カルボン酸が更に好ましい。また、カルボン酸の中でも多価カルボン酸が好ましく、ジカルボン酸がより好ましい。
芳香族カルボン酸以外の有機酸としては、例えば、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、オキザロ酢酸、クエン酸、イソクエン酸、2−オキソグルタル酸、シス−アコニット酸、ピルビン酸、酢酸又はアミノ酸などが挙げられる。中でも、好ましくはジカルボン酸であり、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、クエン酸、イソクエン酸、2−オキソグルタル酸、シス−アコニット酸又はピルビン酸がより好ましく、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸がさらに好ましく、コハク酸が特に好ましい。
また、「芳香族カルボン酸生産能」とは、本発明の微生物を培地中で培養したときに該培地中に芳香族カルボン酸を生成蓄積する能力をいう。「芳香族カルボン酸生産能が低下した」とは、野生株などの非改変株と比較して、芳香族カルボン酸生産能が低下したことを意味する。なお、「非改変株」としては、野生株、及び野生株と同程度の芳香族カルボン酸生産能を有する株、DAHPシンターゼ活性、デヒドロキナ酸シンターゼ活性、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性を有する株も含まれる。
培養中に低減する芳香族カルボン酸としては、酸素含有複素芳香族カルボン酸、窒素含有複素芳香族カルボン酸又はベンゼン系芳香族カルボン酸が挙げられる。
酸素含有複素芳香族カルボン酸としては、芳香属性を有する酸素含有複素環に直接または結合基を介してカルボキシル基が結合しているものがあげられるが、具体的には、フロ酸又はピロ粘液酸等のフランモノカルボン酸;デヒドロ粘液酸等のフランジカルボン酸が挙げられる。
窒素含有複素芳香族カルボン酸としては、芳香属性を有する窒素含有複素環に直接または結合基を介してカルボキシル基が結合しているものがあげられるが、具体的には、ニコチン酸、ピコリン酸又はイソニコチン酸等のピリジンモノカルボン酸;シトラジン酸等のヒドロキシピリジンカルボン酸;キノリン酸、ルチジン酸、イソシンコメロン酸、ジピコリン酸、シンコメロン酸、ジニコチン酸又はウビトン酸等のピリジンジカルボン酸;ベルベロン酸等のピリジントリカルボン酸が挙げられる。
ベンゼン系芳香族カルボン酸としては、ベンゼン環に直接または結合基を介してカルボキシル基が結合しているものがあげられるが、ベンゼン環が複数の置換基を有するものが好ましく、3つ以上の置換基を有するものがより好ましい。なかでもカルボキシル基以外にヒドロキシ基を有するヒドロキシベンゼンカルボン酸が好ましく、カルボキシル基を複数有するヒドロキシベンゼンカルボン酸がより好ましい。特には、ヒドロキシ基と複数のカルボキシル基を同時に有するヒドロキシベンゼンカルボン酸が好ましい。ヒドロキシベンゼンカルボン酸は、ヒドロキシ基とカルボキシル基以外に置換基を有するヒドロキシベンゼンカルボン酸の誘導体も包含する。
より具体的には、安息香酸、トルイル酸、キシリル酸、α−トルイル酸、ケイ皮酸又はヒドロケイ皮酸等のベンゼンモノカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸又はテレフタル酸等のベンゼンジカルボン酸;ヘミメリト酸、トリメリト酸又はトリメシン酸等のベンゼントリカルボン酸;サリチル酸又はクレオソート酸等のヒドロキシベンゼンカルボン酸;ピロカテク酸、プロトカテク酸、レソルシル酸又はゲンチジン酸等のジヒドロキシベンゼンカルボン酸;没食子酸等のトリヒドロキシベンゼンカルボン酸が挙げられる。
なかでも、デヒドロ粘液酸等のフランジカルボン酸;シトラジン酸等のヒドロキシピリジンカルボン酸;キノリン酸、ルチジン酸、イソシンコメロン酸、ジピコリン酸、シンコメロン酸、ジニコチン酸又はウビトン酸等のピリジンジカルボン酸;ベルベロン酸等のピリジントリカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸又はテレフタル酸等のベンゼンジカルボン酸;ヘミメリト酸、トリメリト酸又はトリメシン酸等のベンゼントリカルボン酸;サリチル酸又はクレオソート酸等のヒドロキシベンゼンカルボン酸;ピロカテク酸、プロトカテク酸、レソルシル酸又はゲンチジン酸等のジヒドロキシベンゼンカルボン酸;没食子酸等のトリヒドロキシベンゼンカルボン酸が低減することが好ましい。
シトラジン酸等のヒドロキシピリジンカルボン酸;キノリン酸、ルチジン酸、イソシンコメロン酸、ジピコリン酸、シンコメロン酸、ジニコチン酸又はウビトン酸等のピリジンジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸又はテレフタル酸等のベンゼンジカルボン酸;ヘミメリト酸、トリメリト酸又はトリメシン酸等のベンゼントリカルボン酸;サリチル酸又はクレオソート酸等のヒドロキシベンゼンカルボン酸;ピロカテク酸、プロトカテク酸、レソルシル酸又はゲンチジン酸等のジヒドロキシベンゼンカルボン酸が低減することがより好ましい。
キノリン酸、ルチジン酸、イソシンコメロン酸、ジピコリン酸、シンコメロン酸、ジニコチン酸又はウビトン酸等のピリジンジカルボン酸;サリチル酸又はクレオソート酸等のヒドロキシベンゼンカルボン酸;ピロカテク酸、プロトカテク酸、レソルシル酸又はゲンチジン酸等のジヒドロキシベンゼンカルボン酸が低減することが更に好ましい。
ルチジン酸、ウビトン酸、ピロカテク酸、プロトカテク酸、レソルシル酸又はゲンチジン酸が低減することが殊更に好ましい。
ピロカテク酸、プロトカテク酸、レソルシル酸又はゲンチジン酸が低減することがより更に好ましい。プロトカテク酸が低減することが特に好ましい。
詳細のメカニズムは不明であるが、後述するポリマー重合反応時に、これらの芳香族カルボン酸がポリマー間にて架橋されたり、ポリマー合成に使用した触媒にこれらの芳香族カルボン酸が配位した着色物質が生成したりすることが着色の原因となると推定される。ゆえに、着色の原因となる芳香族カルボン酸が有機酸産生中に減少することは、後述する精製プロセスの簡略化を可能とすることができ、結果として有機酸の製造コストを低減することができるために好ましい。
後述の培養液中又は有機酸中の芳香族カルボン酸の濃度は、従来知られているカラムクロマトグラフィーによる有機酸分析測定により求めることができる。
本発明の微生物は、本来的に有機酸生産能を有する微生物または育種により有機酸生産能を付与された微生物において、例えば、DAHPシンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼからなる群より選ばれる1種類以上の酵素の活性が低減するように改変を行うことで、芳香族カルボン酸生産能を低下させたものでもよいし、これらの改変によって芳香族カルボン酸生産能を低下させた後で、有機酸生産能を付与したものでもよい。
育種により有機酸生産能を付与する手段としては、変異処理や遺伝子組換え処理などが挙げられる。各有機酸について生合成酵素遺伝子の発現強化など公知の方法を採用することができる。例えば、コハク酸生産能を付与する場合は、後述するようなラクテートデヒドロゲナーゼ活性を低減するような改変やピルビン酸カルボキシラーゼ活性を増強するような手段などが挙げられる。
本発明に用いる微生物は、以下に示すような微生物を親株として用い、該親株を改変することによって得ることができる。親株の種類は有機酸を生産しうる微生物であれば特に限定されないが、コリネ型細菌(Coryneform Bacterium)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属細菌、ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌、ノカルディア(Nocardia)属細菌、またはストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌などが挙げられるが、コリネ型細菌がより好ましい。
コリネ型細菌は、これに分類されるものであれば特に制限されないが、コリネバクテリウム属に属する細菌、ブレビバクテリウム属に属する細菌またはアースロバクター属に属する細菌などが挙げられ、このうち好ましくは、コリネバクテリウム属またはブレビバクテリウム属に属するものが挙げられ、更に好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(Brevibacterium ammoniagenes)またはブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)に分類される細菌が挙げられる。
本発明に用いる微生物の親株の特に好ましい具体例としては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233(FERM BP−1497)、同MJ−233 AB−41(FERM BP−1498)、ブレビバクテリウム・アンモニアゲネスATCC6872、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC31831、及びブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869等が挙げられる。なお、ブレビバクテリウム・フラバムは、現在、コリネバクテリウム・グルタミカムに分類される場合もあることから(Lielbl W, Ehrmann M, Ludwig W, Schleifer KH, Int J Syst Bacteriol., 1991, Vol.41, p255−260)、本発明においては、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株、及びその変異株MJ−233 AB−41株はそれぞれ、コリネバクテリウム・グルタミカムMJ−233株及びMJ−233 AB−41株と同一の株であるものとする。
ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233は、1975年4月28日に通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所(現独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM P−3068として寄託され、1981年5月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、FERM BP−1497の受託番号で寄託されている。 また、親株として用いられる上記微生物は、野生株だけでなく、UV照射やNTG処理等の通常の変異処理により得られる変異株、細胞融合若しくは遺伝子組換え法などの遺伝学的手法により誘導される組換え株などのいずれの株であってもよい。
以下については、芳香族カルボン酸がプロトカテク酸であるものとして説明する。
プロトカテク酸は、DAHPシンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ等の酵素によって、解糖系の中間代謝物であるホスホエノールピルビン酸とペントースリン酸経路の中間代謝物であるエリスロース−4−リン酸の縮合反応からシキミ酸経路を経由し、3−デヒドロシキミ酸から合成される。プロトカテク酸合成経路を図1に示す。
本発明に用いる微生物は、上記のような株を、DAHPシンターゼ活性、デヒドロキナ酸シンターゼ活性、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性からなる群より選ばれる1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して低減するように改変することによって得ることができる。
「DAHPシンターゼ活性」とは、ホスホエノールピルビン酸とエリスロース−4−リン酸を縮合し、DAHP(3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸−7−リン酸)を生成する反応を触媒する活性(EC:2.5.1.54)をいう。「DAHPシンターゼ活性が低減するように改変された」とは、DAHPシンターゼ活性が、非改変株、例えば野生株よりも低くなったことをいう。DAHPシンターゼ活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、DAHPシンターゼ活性は完全に消失していてもよい。DAHPシンターゼ活性が低下したことは、公知の方法、例えばLiuらの方法(Liu YJ, Li PP, Zhao KX, Wang BJ, Jiang CY, Drake HL, Liu SJ, Appl Environ Microbiol., 2008, Vol.74(14), p5497−5503)により、DAHPシンターゼ活性を測定することによって確認することができる。
「デヒドロキナ酸シンターゼ活性」とは、DAHP(3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸−7−リン酸)から3−デヒドロキナ酸を生成する反応を触媒する活性(EC:4.2.3.4)をいう。「デヒドロキナ酸シンターゼ活性が低減するように改変された」とは、デヒドロキナ酸シンターゼ活性が、非改変株、例えば野生株よりも低くなったことをいう。デヒドロキナ酸シンターゼ活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、デヒドロキナ酸シンターゼ活性は完全に消失していてもよい。デヒドロキナ酸シンターゼ活性が低下したことは、公知の方法、例えばde Mendoncaらの方法(de Mendonca JD, Ely F, Palma MS, Frazzon J, Basso LA, Santos DS, J Bacteriol., 2007, Vol.189(17), p6246−6252)により、デヒドロキナ酸シンターゼ活性を測定することによって確認することができる。
「デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性」とは、3−デヒドロキナ酸から3−デヒドロシキミ酸を生成する反応を触媒する活性(EC:4.2.1.10)をいう。「デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性が低減するように改変された」とは、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性が、非改変株、例えば野生株よりも低くなったことをいう。デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性は完全に消失していてもよい。デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性が低下したことは、公知の方法、例えばElsemoreらの方法(Elsemore DA, Ornston LN, J Bacteriol., 1995, Vol.177(20), p5971−5978)により、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性を測定することによって確認することができる。
「デヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性」とは、3−デヒドロシキミ酸からプロトカテク酸を生成する反応を触媒する活性(EC:4.2.1.−)をいう。「デヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性が低減するように改変された」とは、デヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性が、非改変株、例えば野生株よりも低くなったことをいう。デヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、デヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性は完全に消失していてもよい。デヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性が低下したことは、公知の方法、例えばElsemoreらの方法(Elsemore DA, Ornston LN, J Bacteriol., 1995, Vol.177(20), p5971−5978)により、デヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性を測定することによって確認することができる。
DAHPシンターゼ活性、デヒドロキナ酸シンターゼ活性、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性からなる群より選ばれる1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して低減するように改変してなる株は、上記親株をN−メチル−N'−ニトローN−ニトロソグアニジン(NTG)や亜硝酸等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理し、各酵素活性が低減した株を選択することによってそれぞれ得ることができる。
また、各酵素をコードする遺伝子を用いて改変してもよい。具体的には、染色体上の遺伝子を破壊したり、プロモーターやシャインダルガルノ(SD)配列等の発現調節配列を改変したりすることなどによって達成される。
染色体上のDAHPシンターゼ遺伝子としては、DAHPシンターゼ活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えば、配列番号7、配列番号9に示す塩基配列を含むコリネバクテリウム・グルタミカムMJ−233株由来の遺伝子を挙げることができる(以下、それぞれaroF遺伝子、aroG遺伝子とも呼ぶ)。
また、デヒドロキナ酸シンターゼ遺伝子、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ遺伝子、デヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ遺伝子についても、各酵素活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、それぞれ配列番号11、配列番号13、配列番号15に示す塩基配列を含むコリネバクテリウム・グルタミカムMJ−233株由来の遺伝子を挙げることができる(以下、それぞれaroB遺伝子、qsuC遺伝子、qsuB遺伝子とも呼ぶ)。
また、aroF遺伝子、aroG遺伝子、aroB遺伝子、qsuC遺伝子、及びqsuB遺伝子は、各酵素活性を有する限り、配列番号8,10,12,14,16に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。ここで、数個とは、通常2個以上であり、一方、通常20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下であることを意味する。
さらに、宿主として使用する微生物の種類に応じて、コリネ型細菌以外の細菌または他の微生物由来のDAHPシンターゼ遺伝子、デヒドロキナ酸シンターゼ遺伝子、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ遺伝子、デヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ遺伝子を使用することもできる。微生物由来のDAHPシンターゼ遺伝子、デヒドロキナ酸シンターゼ遺伝子、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ遺伝子、デヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子、ホモロジー等に基づいてDAHPシンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ、またはデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を微生物の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、そのプロモーター及びORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。
以下に、コリネ型細菌においてqsuB遺伝子を破壊する方法について説明する。qsuB遺伝子の取得は、例えば、上記配列に基づき、合成オリゴヌクレオチドを合成し、コリネバクテリウム・グルタミカムの染色体DNAを鋳型としてPCR反応を行うことによってクローニングできる。染色体DNAは、DNA供与体である細菌から、例えば、斎藤、三浦の方法(Saito H, Miura K, Biochim Biophys Acta., 1963, Vol.72, p619−629、生物工学実験書、日本生物工学会編、97〜98頁、培風館、1992年参照)等により調製することができる。
上記のようにして調製したqsuB遺伝子またはその一部を遺伝子破壊に使用することができる。ただし、遺伝子破壊に用いる遺伝子は破壊対象の細菌の染色体DNA上のqsuB遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性(同一性)を有していればよいため、配列番号15と相同性を有する相同遺伝子も使用することができる。ここで、相同組換えを起こす程度の相同性とは、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、上記遺伝子(配列番号15の相補鎖)とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAであれば、相同組換えは起こり得る。ここで、ストリンジェントな条件としては、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、60℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
なお、aroF遺伝子、aroG遺伝子、aroB遺伝子、およびqsuC遺伝子についても、それぞれ、配列番号7,9,11,13と相同性を有する遺伝子(配列番号7,9,11,13の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA)も使用することができる。
上記のような遺伝子を使用し、例えば、qsuB遺伝子の部分配列を欠失し、正常QsuBタンパク質を産生しないように改変した欠失型qsuB遺伝子を作製し、該遺伝子を含むDNAでコリネ型細菌を形質転換し、欠失型遺伝子と染色体上の遺伝子で組換えを起こさせることにより、染色体上のqsuB遺伝子を破壊することができる。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、直鎖状DNAを用いる方法や温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法などがある(米国特許第6303383号明細書、または特開平05−007491号公報)。また、上述のような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は、宿主上で複製能力を持たないプラスミドを用いても行うことが出来、コリネ型細菌内で複製能を持たないプラスミドとしては、エシェリヒア・コリで複製能力を持つプラスミドが好ましく、例えば、pHSG299(タカラバイオ社製)pHSG399(タカラバイオ社製)等が挙げられる。以上、コリネ型細菌においてqsuB遺伝子を破壊する例について述べたが、aroF遺伝子、aroG遺伝子、aroB遺伝子、またはqsuC遺伝子を破壊する場合も、他の細菌を用いる場合も同様の方法によって達成することができる。
プロトカテク酸等の芳香族カルボン酸生産能が低下した微生物を得るためには、上述の通り、DAHPシンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼからなる群より選ばれる1種類以上の酵素の活性が低減するように改変された微生物であればよいが、このうちデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性が低減するように改変された微生物が好ましい。これは、下記の理由による。 DAHPシンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、またはデヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性を低減させるとプロトカテク酸だけでなく、シキミ酸経路から合成されるフェニルアラニン等の生育に必要な代謝物の合成も困難となり、増殖が抑制されてしまう傾向にある。実際にDAHPシンターゼをコードする遺伝子を破壊したコリネ型細菌は合成培地での増殖が抑制されることが報告されている(Liu YJ, Li PP, Zhao KX, Wang BJ, Jiang CY, Drake HL, Liu SJ, Appl Environ Microbiol., 2008, Vol.74(14), p5497−5503)。したがって、これらの活性を低減させた場合は微生物を増殖させるためにフェニルアラニン等の芳香族アミノ酸を添加する必要がある。一方、デヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性を低減させてもシキミ酸経路は遮断されないため、そのような増殖悪化は起こらないと考えられる。したがって、デヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性が低減するように改変された微生物は、増殖させるに当たってフェニルアラニン等の芳香族アミノ酸やそれらを含む有機窒素の添加量が少なくてよく、合成培地等の簡単な培地で増殖できるため経済的であるという点で好ましい。
プロトカテク酸等の芳香族カルボン酸生産能が低下した微生物を得るためには、上述の通り、DAHPシンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼからなる群より選ばれる1種類以上の酵素の活性が低減するように改変された微生物であってもよいし、またはシキミ酸デヒドロゲナーゼ活性が増強するように改変された微生物であってもよい。
「シキミ酸デヒドロゲナーゼ活性」とは、3−デヒドロシキミ酸からシキミ酸を生成する反応を触媒する活性(EC:1.1.1.25, 1.1.1.282, 1.1.5.8)をいう。「シキミ酸デヒドロゲナーゼ活性が増強するように改変された」とは、シキミ酸デヒドロゲナーゼ活性が、非改変株、例えば野生株よりも高くなったことをいう。シキミ酸デヒドロゲナーゼ活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。シキミ酸デヒドロゲナーゼ活性が増強されたことは、公知の方法、例えばFonsecaらの方法(Fonseca IO, Magalhaes ML, Oliveira JS, Silva RG, Mendes MA, Palma MS, Santos DS, Basso LA, Protein Expr Purif., 2006, Vol.46(2), p429−437)により、シキミ酸デヒドロゲナーゼ活性を測定することによって確認することができる。
シキミ酸デヒドロゲナーゼ活性が増強した株は、親株をN−メチル−N'−ニトローN−ニトロソグアニジン(NTG)や亜硝酸等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理し、シキミ酸デヒドロゲナーゼ活性が上昇した株を選択することによって得ることができる。
また、シキミ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を用いて改変してもよい。具体的には、シキミ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコピー数を高めることによって達成でき、コピー数を高めることは、プラスミドを用いたり、公知の相同組換え法によって染色体上で多コピー化させたりすることなどによって達成できる。なお、シキミ酸デヒドロゲナーゼ活性の増強は、染色体上またはプラスミド上でシキミ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のプロモーターへの変異導入、より強力なプロモーターへの置換などによって高発現化させることによっても達成される。
シキミ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子としては、シキミ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする限り特に限定されないが、例えば、配列番号17に示す塩基配列を含むコリネバクテリウム・グルタミカムMJ−233株由来の遺伝子を挙げることができる(以下、qsuD遺伝子とも呼ぶ)。
また、qsuD遺伝子は、シキミ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする限り、上記塩基配列の相補配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA、または上記塩基配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNAのようなホモログであってもよい。ここで、ストリンジェントな条件としては、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、60℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
さらに、qsuD遺伝子は、シキミ酸デヒドロゲナーゼ活性を有する限り、配列番号18に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。ここで、数個とは、通常2個以上であり、一方、通常20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下であることを意味する。
さらに、コリネ型細菌以外の細菌、または他の微生物、動植物由来のシキミ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を使用することもできる。微生物または動植物由来のシキミ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子は、既にその塩基配列が決定されている遺伝子、ホモロジー等に基づいてシキミ酸デヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を微生物、動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、そのプロモーター及びORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。
上記のようにして単離されたシキミ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を公知の発現ベクターに発現可能に挿入することにより、シキミ酸デヒドロゲナーゼ発現ベクターが提供される。この発現ベクターで形質転換することにより、シキミ酸デヒドロゲナーゼ活性増強株を得ることができる。あるいは、相同組換えなどによって、宿主細菌の染色体DNAにシキミ酸デヒドロゲナーゼをコードするDNAを発現可能に組み込むことによってもシキミ酸デヒドロゲナーゼ活性増強株を得ることができる。なお、形質転換、相同組換えは当業者に知られた通常の方法に従って行うことができる。
染色体上またはプラスミド上にシキミ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入する場合には、適当なプロモーターを該遺伝子の5'−側上流に、より好ましくはターミネーターを3'−側下流にそれぞれ組み込む。このプロモーター及びターミネーターとしては、宿主として利用する細菌中において機能することが知られているプロモーター及びターミネーターであれば特に限定されず、シキミ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子自身のプロモーター及びターミネーターであってもよいし、他のプロモーター及びターミネーターに置換してもよい。これら各種細菌において利用可能なベクター、プロモーター及びターミネーターなどに関しては、例えば「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」などに詳細に記述されている。
以下に、コリネ型細菌においてqsuD遺伝子を増強する方法について説明する。コリネ型細菌を使用する場合、qsuD遺伝子を含むDNA断片を、コリネ型細菌内でプラスミドの複製増殖機能を司る遺伝子を含むプラスミドベクターに導入することにより、コリネ型細菌内でqsuD遺伝子の発現増強が可能な組換えプラスミドを得ることができる。該組み換えベクターで、コリネ型細菌、例えばコリネバクテリウム・グルタミカムMJ−233株を形質転換することにより、qsuD遺伝子の発現が増強されたコリネ型細菌が得られる。形質転換は、例えば、電気パルス法(Vertes AA, Inui M, Kobayashi M, Kurusu Y, Yukawa H, Res. Microbiol., 1993, Vol.144(3), p181−185)等によって行うことができる。
コリネ型細菌に遺伝子を導入することができるプラスミドベクターとしては、コリネ型細菌内での複製増殖機能を司る遺伝子を少なくとも含むものであれば特に制限されない。その具体例としては、例えば、特開平3−210184号公報に記載のプラスミドpCRY30;特開平2−72876号公報及び米国特許5,185,262号明細書公報に記載のプラスミドpCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE、及びpCRY3KX;特開平1−191686号公報に記載のプラスミドpCRY2及びpCRY3;特開昭58−67679号公報に記載のpAM330;特開昭58−77895号公報に記載のpHM1519;特開昭58−192900号公報に記載のpAJ655、pAJ611、及びpAJ1844;特開昭57−134500号公報に記載のpCG1;特開昭58−35197号公報に記載のpCG2;特開昭57−183799号公報に記載のpCG4及びpCG11等を挙げることができる。それらの中でもコリネ型細菌の宿主−ベクター系で用いられるプラスミドベクターとしては、コリネ型細菌内でプラスミドの複製増殖機能を司る遺伝子とコリネ型細菌内でプラスミドの安定化機能を司る遺伝子とを有するものが好ましく、例えば、プラスミドpCRY30、pCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE、及びpCRY3KX等が好適に使用される。
上記組み換えプラスミドまたは染色体上への組み込みにおいて、qsuD遺伝子を発現させるためのプロモーターはコリネ型細菌において機能するものであればいかなるプロモーターであってもよく、用いるqsuD遺伝子自身のプロモーターであってもよい。プロモーターを適宜選択することによっても、qsuD遺伝子の発現量の調節が可能である。以上、コリネ型細菌を用いる例を述べたが、他の細菌を用いる場合も同様の方法によってシキミ酸デヒドロゲナーゼ活性の増強を達成することができる。
本発明の微生物は、芳香族カルボン酸生産能を低下させる改変(DAHPシンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼからなる群より選ばれる1種類以上の酵素の活性が低減、またはシキミ酸デヒドロゲナーゼ活性が増強するように改変)に加えて、ラクテートデヒドロゲナーゼ(以下、LDHとも呼ぶ)活性が低減するように改変された細菌であってもよい。ここで、「LDH活性」とは、ピルビン酸を還元して乳酸を生成する反応を触媒する活性(EC:1.1.1.27)をいう。「LDH活性が低減された」とは、非改変株と比較してLDH活性が低下していることをいう。LDH活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、LDH活性は完全に消失していてもよい。LDH活性が低下したことは、公知の方法、例えばKanarekらの方法(Kanarek L, Hill RL, J Biol Chem., 1964, Vol.239, p4202−4206)によりLDH活性を測定することによって確認することができる。
LDH活性が低減した株の具体的な作製方法としては、特開平11−206385号公報に記載されている染色体への相同組換えによる方法、あるいは、sacB遺伝子を用いる方法(Schafer A, Tauch A, Jager W, Kalinowski J, Thierbach G, Puhler A, Gene 1994 Vol.145(1), p69−73)等が挙げられる。LDH活性が低減し、かつ、芳香族カルボン酸生産能を低下させた細菌は、例えば、ldh遺伝子が破壊された細菌を作製し、該細菌において芳香族カルボン酸生産能を低下させる改変を行うことにより得ることができる。ただし、LDH活性低減のための改変操作と芳香族カルボン酸生産能を低下させる改変操作はどちらを先に行ってもよい。
また、本発明に用いる微生物は、芳香族カルボン酸生産能を低下させる改変(DAHPシンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼからなる群より選ばれる1種類以上の酵素の活性が低減、またはシキミ酸デヒドロゲナーゼ活性が増強するように改変)に加えて、ピルビン酸カルボキシラーゼ(以下、PCとも呼ぶ)活性が増強するように改変された細菌であってもよい。ここで、「PC活性」とは、ピルビン酸をカルボキシル化してオキサロ酢酸を生成する反応を触媒する活性(EC:6.4.1.1)をいう。「PC活性が増強された」とは、非改変株と比較してPC活性が上昇していることをいう。PC活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり1.5倍以上に増加していることが好ましく、3倍以上に増加していることがより好ましい。PC活性が増強されたことは、公知の方法、例えばFisherらの方法(Fisher SH, Magasanik B, J Bacteriol., 1984, Vol..158(1), p55−62)により、PC活性を測定することによって確認することができる。
PC活性が増強した株は、上述のシキミ酸デヒドロゲナーゼ活性を増強する方法と同様にして作製することができる。具体的な作製方法としては、例えば、特開平11−196888号公報に記載の方法と同様にして、pc遺伝子をコリネ型細菌に導入して高発現させることが挙げられる。具体的なpc遺伝子としては、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム由来のpc遺伝子(Peters−Wendisch PG, Kreutzer C, Kalinowski J, Patek M, Sahm H, Eikmanns BJ, Microbiology, 1998, Vol.144, p915−927)などを用いることができる。また、pc遺伝子は、該コリネバクテリウム・グルタミカム由来のpc遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNA、または該遺伝子の塩基配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNAであって、PC活性を有するタンパク質をコードするDNAも好適に用いることができる。
さらに、コリネバクテリウム・グルタミカム以外のコリネ型細菌、または他の微生物、動植物由来のpc遺伝子を使用することもできる。特に、以下に示す微生物または動植物由来のpc遺伝子は、その配列が既知(以下に文献を示す)であり、上記と同様にしてハイブリダイゼーションにより、あるいはPCR法によりそのORF部分を増幅することにより取得することができる。
ヒト [Biochem.Biophys.Res.Comm., 202, 1009−1014, (1994)]
マウス[Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 90, 1766−1779, (1993)]
ラット[GENE, 165, 331−332, (1995)]
酵母;サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)
[Mol.Gen.Genet., 229, 307−315, (1991)]
シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)
[DDBJ Accession No.; D78170]
バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)
[GENE, 191, 47−50, (1997)]
リゾビウム・エトリ(Rhizobium etli)
[J.Bacteriol., 178, 5960−5970, (1996)]
PC活性が増強し、かつ、芳香族カルボン酸生産能を低下させた細菌は、例えば、pc遺伝子を導入して高発現させた細菌を作製し、該細菌において芳香族カルボン酸生産能を低下させる改変を行うことにより得ることができる。ただし、PC活性増強のための改変操作と芳香族カルボン酸生産能を低下させる改変操作はどちらを先に行ってもよい。
さらに、本発明の微生物は、芳香族カルボン酸生産能を低下させる改変(DAHPシンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼからなる群より選ばれる1種類以上の酵素の活性が低減、またはシキミ酸デヒドロゲナーゼ活性が増強するように改変)に加えて、アセテートキナーゼ(以下、ACKとも呼ぶ)及びホスホトランスアセチラーゼ(以下、PTAとも呼ぶ)からなる群より選ばれる1種類以上の酵素の活性が低減するように改変された細菌であってもよい。
「PTA活性」とは、アセチルCoAにリン酸を転移してアセチルリン酸を生成する反応を触媒する活性(EC:2.3.1.8)をいう。「PTA活性が低減するように改変された」とは、非改変株と比較してPTA活性が低下していることをいう。PTA活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、PTA活性は完全に消失していてもよい。PTA活性が低下したことは、公知の方法、例えばKlotzschらの方法(Klotzsch HR, Meth Enzymol., 1969, Vol.12, p381−386)により、PTA活性を測定することによって確認することができる。
「ACK活性」とは、アセチルリン酸とADPから酢酸を生成する反応を触媒する活性(EC:2.7.2.1)をいう。「ACK活性が低減するように改変された」とは、非改変株と比較してPTA活性が低下していることをいう。ACK活性は非改変株と比較して、単位菌体重量当たり30%以下に低下していることが好ましく、10%以下に低下していることがより好ましい。また、ACK活性は完全に消失していてもよい。ACK活性が低下したことは、公知の方法、例えばRamponiらの方法(Ramponi G, Meth Enzymol., 1975, Vol.42, p409−426)により、ACK活性を測定することによって確認することができる。
PTAとACKはいずれか一方を活性低下させてもよいが、酢酸の副生を効率よく低減させるためには、両方の活性を低下させることがより好ましい。
なお、コリネバクテリウム・グルタミカム(ブレビバクテリウム・フラバムに分類されるものも含む)においては、Microbiology. 1999 Feb;145 (Pt2):503−13に記載されているように、両酵素はpta−ackオペロン(GenBank Accession No. X89084)にコードされているため、pta遺伝子を破壊した場合は、PTA及びACKの両酵素の活性を低下させることができる。
PTA及びACKの活性が低減した株は、公知の方法、例えば、相同組換えを利用する方法やsacB遺伝子を用いる方法(Schafer A, Tauch A, Jager W, Kalinowski J, Thierbach G, Puhler A, Gene 1994 Vol.145(1), p69−73)に従ってこれらの遺伝子を破壊することによって行うことができる。具体的には、特開2006−000091号公報に開示された方法に従って行うことができる。pta遺伝子及びack遺伝子としては、上記GenBank Accession No. X89084の塩基配列を有する遺伝子のほか、宿主染色体上のpta遺伝子及びack遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性を有する遺伝子を用いることもできる。ここで、相同組換えを起こす程度の相同性とは、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、上記遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA同士であれば、相同組換えは起こり得る。
PTA及びACKからなる群より選ばれる1種類以上の酵素の活性が低減し、かつ、芳香族カルボン酸生産能を低下させた細菌は、例えば、pta遺伝子、ack遺伝子が破壊された細菌を作製し、該細菌において芳香族カルボン酸生産能を低下させる改変を行うことにより得ることができる。ただし、PTA、ACK活性低減のための改変操作と芳香族カルボン酸生産能を低下させる改変操作はどちらを先に行ってもよい。
なお、本発明において使用する微生物は、芳香族カルボン酸生産能を低下させる改変(DAHPシンターゼ、デヒドロキナ酸シンターゼ、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼからなる群より選ばれる1種類以上の酵素の活性が低減、またはシキミ酸デヒドロゲナーゼ活性が増強するように改変)に加え、上記改変のうちの2種類以上の改変を組み合わせて得られる細菌であってもよい。複数の改変を行う場合、その順番は問わない。
<有機酸の製造方法>
本発明の有機酸の製造方法は、上記微生物またはその処理物を有機原料に作用させることにより有機酸を生成させることを特徴とする有機酸の製造方法である。中でも、上記微生物またはその処理物を有機原料に作用させることにより有機酸を生成させ、これを採取するのが好ましい。
製造しうる有機酸の種類及び好ましい有機酸の例は上述したとおりである。
有機酸の製造に上記微生物を用いるに当たっては、寒天培地等の固体培地で斜面培養したものを直接反応に用いても良いが、上記微生物を予め液体培地で培養(種培養)したものを用いるのが好ましい。種培養に用いる培地は、微生物の培養に用いられる通常の培地を用いることができる。例えば、硫酸アンモニウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム等の無機塩からなる組成に、肉エキス、酵母エキス、ペプトン等の天然栄養源を添加した一般的な培地を用いることができる。種培養後の菌体は、遠心分離、膜分離等によって回収した後に、有機酸の製造反応に用いることが好ましい。なお、種培養した微生物を、有機原料を含む培地で増殖させながら、有機原料と反応させることによって有機酸を製造してもよいし、予め増殖させて得られた菌体を、有機原料を含む反応液中で有機原料と反応させることによっても有機酸を製造してもよい。
本発明では微生物の菌体の処理物を使用することもできる。菌体の処理物としては、例えば、菌体をアクリルアミド、カラギーナン等で固定化した固定化菌体、菌体を破砕した破砕物、その遠心分離上清、またはその上清を硫安処理等で部分精製した画分等が挙げられる。
本発明の製造方法に用いる有機原料としては、本微生物が資化してコハク酸を生成させうる炭素源であれば特に限定されないが、通常、ガラクトース、ラクトース、グルコース、フルクトース、グリセロール、スクロース、サッカロース、デンプン又はセルロース等の炭水化物;グリセリン、マンニトール、キシリトール又はリビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が用いられ、このうちグルコース、スクロース又はフルクトースが好ましく、特にグルコース又はスクロースが好ましい。
また、前記発酵性糖質を含有する澱粉糖化液又は糖蜜なども使用され、具体的にはサトウキビ、甜菜又はサトウカエデ等の植物から搾取した糖液であるものが好ましい。
これらの糖は、単独でも組み合わせても使用できる。前記糖の使用濃度は特に限定されないが、コハク酸の生成を阻害しない範囲で可能な限り高くするのが有利であり、反応液に対して、通常5%(W/V)以上、好ましくは10%(W/V)以上であり、一方、通常30%(W/V)以下、好ましくは20%(W/V)以下である。また、反応の進行に伴う前記糖の減少にあわせ、糖の追加添加を行っても良い。
上記有機原料を含む反応液としては特に限定されず、例えば、微生物を培養するための培地であってもよいし、リン酸緩衝液等の緩衝液であってもよい。反応液は、窒素源や無機塩などを含む水溶液であることが好ましい。ここで、窒素源としては、本微生物が資化してコハク酸を生成させうる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。また、反応時の発泡を抑えるために、培養液には市販の消泡剤を適量添加しておくことが望ましい。
反応液には、例えば上記した有機原料、窒素源、無機塩などのほかに、炭酸イオン、重炭酸イオンまたは二酸化炭素ガス(炭酸ガス)を含有させる。炭酸イオンまたは重炭酸イオンは、中和剤としても用いることのできる炭酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウムなどから供給されるが、必要に応じて、炭酸若しくは重炭酸またはこれらの塩或いは二酸化炭素ガスから供給することもできる。炭酸または重炭酸の塩の具体例としては、例えば炭酸マグネシウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等が挙げられる。そして、炭酸イオン又は重炭酸イオンは、通常1mM以上、好ましくは2mM以上、さらに好ましくは3mM以上の濃度で添加する。一方、通常500mM以下、好ましくは300mM以下、さらに好ましくは200mM以下の濃度で添加する。二酸化炭素ガスを含有させる場合は、溶液1L当たり通常50mg以上、好ましくは100mg以上、さらに好ましくは150mg以上の二酸化炭素ガスを含有させる。一方、通常25g以下、好ましくは15g以下、さらに好ましくは10g以下の二酸化炭素ガスを含有させる。
反応液のpHは、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム又はアンモニア等を添加することによって調整することができる。本反応におけるpHは、通常5以上、好ましくは5.5以上、より好ましくは6以上であり、一方、10以下、好ましくは9.5以下、より好ましくは9.0以下である。反応中も必要に応じて反応液のpHはアルカリ性物質、炭酸塩、尿素などによって上記範囲内に調節する。
本反応に用いる微生物の生育至適温度は、生育至適温度であれば特段の制限はないが、通常25℃以上であり、一方、通常35℃以下、好ましくは32℃以下、特に好ましくは30℃以下である。生育至適温度は、コハク酸の生産に用いられる条件において最も生育速度が速い温度のことを言う。
また、よりコハク酸の製造に適した菌体の調製方法として、特開2008−259451号公報に記載の炭素源の枯渇と充足を短時間で交互に繰り返すように培養を行う方法も用いることができる。
反応中に用いる微生物の菌体量は、特に規定されないが、湿菌体重量として、通常1g/L以上、好ましくは10g/L以上、より好ましくは20g/L以上であり、一方、通常700g/L以下、好ましくは500g/L以下、さらに好ましくは400g/L以下である。反応の時間は、特に限定はないが、通常1時間以上、好ましくは3時間以上であり、一方、通常168時間以下、好ましくは72時間以下である。
微生物の種培養時は、通気、攪拌し酸素を供給することが必要である。一方、コハク酸など有機酸の生成反応は、通気、攪拌して行ってもよいが、通気せず、酸素を供給しない嫌気的雰囲気下で行ってもよい。ここでいう嫌気的雰囲気下は、例えば容器を密閉して無通気で反応させる、窒素ガス等の不活性ガスを供給して反応させる、二酸化炭素ガス含有の不活性ガスを通気する等の方法によって得ることができる。
以上のような微生物反応により、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、またはピルビン酸などの有機酸が反応液中に生成蓄積する。
本発明の微生物またはその処理物を有機原料に作用させた後の反応後の培養液中のコハク酸生成量当たりのプロトカテク酸生成量は、通常500ppm以下、好ましくは300ppm以下、より好ましくは150ppm以下、さらに好ましくは75ppm以下、特に好ましくは50ppm以下である。下限に特段の制限はない。
本発明の微生物またはその処理物を有機原料に作用させた後の反応後の培養液中のコハク酸生成量当たりのウビトン酸生成量は、通常500ppm以下、好ましくは300ppm以下、より好ましくは150ppm以下、さらに好ましくは75ppm以下、特に好ましくは50ppm以下である。下限に特段の制限はない。
なお、コハク酸以外の有機酸を製造する場合においても、反応後の培養液中の目的有機酸に対するプロトカテク酸およびウビトン酸の濃度はそれぞれ通常500ppm以下、好ましくは300ppm以下、より好ましくは150ppm以下、さらに好ましくは75ppm以下、特に好ましくは50ppm以下である。
反応液(培養液)中に蓄積した有機酸は、常法に従って、反応液より採取することができる。反応液より有機酸を採取する方法は、目的とする有機酸を含む組成物を得られる限り制限されない。反応液から、微生物、水および/または不純物を除去することで有機酸を採取できる。
反応液から微生物、水および/または不純物を除去する方法は特に制限されず、濃縮、抽出、晶析、活性炭処理、水素処理、イオン交換カラム処理など、公知の方法または公知の方法を任意に組み合わせることができる。
本発明の有機酸の製造方法においては、従来、晶析処理では分離が困難であった芳香族カルボン酸の生成が低減されているため、有機酸の採取が晶析処理を含むのが好ましい。
晶析を含む有機酸の採取方法としては、例えば、反応液から微生物を除去し、必要に応じて濃縮及び有機酸の抽出を行った後、晶析、固液分離、および乾燥を行う方法が挙げられる。固液分離した後、活性炭処理、水素処理、および/またはイオン交換カラム処理等を行ってもよい。
以下、有機酸の一つであるコハク酸の取得方法について記載する。ただし、コハク酸の取得方法については、以下の記載に限定されることはない。
<濃縮>
本発明においては、微生物反応後の発酵液は、その後の精製工程での操作性や効率性を考慮して適宜濃縮しても良い。濃縮方法としては、特に限定されないが、不活性ガスを流通させる方法、加熱により水を留去させる方法、減圧で水を留去させる方法ならびにこれらを組み合わせる方法などが挙げられる。また濃縮操作は、バッチ操作で行っても、連続操作で行っても良い。
<微生物除去>
尚、本発明の方法において発酵液を用いる場合、微生物を除去した後の発酵液を用いることが好ましい。微生物の除去方法は特に限定は無いが、沈降分離、遠心分離、ろ過分離ならびにそれらを組み合わせた方法などが用いられる。工業的には遠心分離、膜ろ過分離などの方法で行われる。遠心分離においては、遠心沈降、遠心ろ過などを用いることができる。遠心分離において、その操作条件は特に限定されるものではないが、通常100G以上100,000G以下の遠心力で分離される。またその操作は連続式でも、バッチ式でも使用できる。
また膜ろ過分離においては、精密ろ過および/または限外ろ過等を使用することが出来る。膜の材質は特に限定は無く、例えばポリオレフィン、ポリスルフィン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン等の有機膜でも、セラミック等の無機材質の膜でも使用できる。また操作方法として、デッドエンド型、クロスフロー型いずれでも用いることができる。膜ろ過分離では、微生物が膜に目詰まりすることが多いので、遠心分離などで微生物を粗取りを行ってから膜ろ過を行うなどの方法も用いられる。
本発明の製造方法においては、微生物反応において、上記のように中和剤を用いた場合には、コハク酸の塩が得られ、得られたコハク酸の塩を目的とするコハク酸へ変換する。コハク酸への変換は、目的とするコハク酸よりも酸解離定数(pKa)の高い弱酸性の有機酸を使用した反応晶析方法によりコハク酸に変換しても良い。このような有機酸としては、例えば、酢酸が挙げられる。
また、別法として、上記のようにして得られたコハク酸の塩を無機酸でコハク酸に変換しても良い。ここで、使用する無機酸としては、硫酸、塩酸、炭酸、リン酸、硝酸などが例示される。より具体的には、コハク酸発酵の場合、生成したコハク酸をアンモニアや水酸化マグネシウムで中和しながら発酵を行うと、発酵液中にはコハク酸アンモニウムやコハク酸マグネシウムが生成する。このようなコハク酸アンモニウムやコハク酸マグネシウムを含む発酵液を硫酸等で処理すると、コハク酸を含む水溶液が得られる。
本発明において、コハク酸を含む溶液或いは水溶液とはバイオマス資源から誘導されるコハク酸を主体として含む溶液或いは水溶液である。従って、上記のようなコハク酸アンモニウムやコハク酸マグネシウムのようなコハク酸塩を主体として含む溶液或いは水溶液はコハク酸塩を含む溶液或いは水溶液と表す。ここでいう「主体として含む」状態とは、溶媒を除く全成分の重量に対する該成分の重量が、通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上含まれる状態を示す。
<抽出>
本発明においては、上記の無機酸でコハク酸に変換した水溶液から、特には限定されないが、有機溶媒を用いて該水溶液からコハク酸を抽出しても良い。
この方法で使用される有機溶媒は、通常、無機性値/有機性値の比(I/O値)が0.2以上2.3以下であり、常圧(1気圧)で沸点が40℃以上の有機溶媒であるが、より好ましくは、I/O値が、0.3以上2.0以下であり、常圧で沸点が40℃以上の有機溶媒であり、更に好ましくは、I/O値が0.3以上2.0以下であり、常圧で沸点が60℃以上の有機溶媒である。このような有機溶媒を用いることにより、コハク酸を選択的に抽出して、効率よく糖類やアミノ酸と分離できる。また、常圧で沸点が40℃以上の有機溶媒を用いることにより、溶媒が気化して引火する危険性や、溶媒が気化してコハク酸の抽出効率が低下するという問題や溶媒のリサイクルがしにくいといった問題を回避することができる。
無機性値及び有機性値は、有機概念図論(「系統的有機定性分析」藤田穆、風間書房(1974))により提案されており、有機化合物を構成する官能基に対して予め設定された数値を基に有機性値及び無機性値を算出し、その比を求めて得られる。
I/O値が0.2以上2.3以下であり、常圧で沸点が40℃以上の有機溶媒としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、プロパノール、ブタノール、オクタノール等の炭素鎖3以上のアルコールが例示される。
各溶媒のI/O値および沸点を以下に示す。
I O I/O 沸点
テトラヒドロフラン 30 80 0.375 66.0
メチルエチルケトン 65 60 1.083 79.6
メチルイソブチルケトン 65 120 0.542 94.2
アセトン 65 40 1.625 56.1
アセトニトリル 70 40 1.750 81.1
酢酸エチル 85 80 1.063 77.2
プロパノール 100 60 1.667 97.2
イソブタノール 100 70 1.429 108.0
オクタノール 100 160 0.625 179.8
ジオキサン 40 80 0.500 101.3
抽出工程においては、有機溶媒は、コハク酸を含有する水溶液の容量1に対し、通常0.5容量以上、好ましくは1容量以上加える。一方、コハク酸を含有する水溶液の容量1に対して、通常5容量以下、好ましくは3容量以下で加える。
抽出工程の温度はコハク酸が抽出される温度であればよいが、通常10℃以上、好ましくは20℃以上であり、一方、通常90℃以下、好ましくは85℃以下である。
抽出工程により、コハク酸が有機溶媒中に回収され、糖類や発酵由来の窒素元素の他、発酵菌由来のアンモニア、硫黄含有不純物ならびに金属カチオン等の不純物はある程度分離される。なお、コハク酸をさらに効率よく抽出するために、有機溶媒による抽出処理を複数回繰り返してもよいし、向流抽出を行ってもよい。
<不純物の除去>
コハク酸を含む発酵液から精製によりバイオマス資源に含まれる窒素元素の他、発酵菌由来の窒素元素やアンモニア、硫黄含有不純物ならびに金属カチオン等の多くの不純物の量を減らすことが重要である。そして、250〜300nmの紫外線領域に吸収を示す不純物量、特に芳香族カルボン酸を含有する不純物量を平均吸光度が0.05以下になるまで低減させることが重要である(特開2010−100617号公報参照)。
このコハク酸中に含まれる250〜300nmの紫外線領域に吸収を示す不純物、特に芳香族ジカルボン酸を平均吸光度が0.05以下にまで低減させる為には、通常、上記のようにして製造されたコハク酸を、晶析処理、活性炭処理、水素処理及び乾燥処理等の精製処理を組み合わせて実施する必要がある。しかし、本発明の発酵方法(有機酸の製造方法)により得られるコハク酸含有液は、上記不純物が従来の発酵方法(有機酸の製造方法)と比較して格段に少ないことから、晶析処理や活性炭処理等の精製工程の軽減や該精製工程の条件の緩和を行うことができ、結果として、コハク酸等の有機酸のコスト低減及び有機酸の収率向上ができるために好ましい。
<晶析>
本発明においては、反応により得られたコハク酸を含む溶液から、晶析によりコハク酸を回収しても良い。晶析操作を行うことによりプロトカテク酸等の芳香族カルボン酸をさらに低減させることができる。また晶析を行う場合、従来の微生物を用いる場合と比べて晶析操作の回数を減らすことができるので有用である。
本発明におけるコハク酸晶析とは、コハク酸を含む溶液に何がしかの変化を与えて、コハク酸の溶解度を変化させることによって、コハク酸を含む溶液からコハク酸結晶を析出させる操作であるが、コハク酸を含有する流体からコハク酸を結晶として析出させる操作であれば、どのような方法であっても構わない。より具体的には、例えば、コハク酸を含む溶液の温度を変化させて、コハク酸溶解度の温度依存性を利用して、コハク酸を析出させる冷却晶析法、加熱や減圧などにより溶液から溶媒を揮発させて溶液中のコハク酸濃度を高めてコハク酸を析出させる濃縮晶析方法、コハク酸を含む溶液にコハク酸溶解度を減少させる第三成分(貧溶媒)を添加してコハク酸を析出させる貧溶媒晶析方法、さらにはそれらの組み合わせによる方法などがあげられる。
またコハク酸を含む溶液がコハク酸の塩をも含むものである場合には、当該コハク酸を含む溶液に硫酸や塩酸などの強酸を加えることでコハク酸塩を非解離形のコハク酸に変化させるとともに、上記の冷却、濃縮、貧溶媒添加などの方法と組み合わせてコハク酸結晶を析出させることができる。
冷却晶析ではその冷却方法として、コハク酸を含む溶液を外部の熱交換器などに循環させ冷却する方法や、冷媒の流通する管(インナーコイル)をコハク酸を含む溶液中に投入する方法や、装置内を減圧することにより溶液中の溶媒を揮発させて、溶媒の気化熱により冷却する方法などがある。なかでも装置内を減圧することにより溶液中の溶媒を揮発させて、溶媒の気化熱により冷却する方法では、熱交換界面にコハク酸が析出することによる熱移動の阻害を防止することができるとともに、溶液中のコハク酸の濃縮も伴い、晶析収率の点から好ましい。
晶析槽に供給されるコハク酸を含む溶液中のコハク酸濃度は、好ましくは10重量%から45重量%のものが用いられ、より好ましくは15重量%から40重量%であって、特には20重量%から35重量%であることが望ましい。
晶析溶媒としては、水、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、酢酸エチルなどのエステル類、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、イソブタノールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、およびこれらの混合溶媒などが使用できるが、これらの中では水が最も好ましい。水は、通常、脱イオン水、蒸留水、河川水、井戸水、水道水などが使用される。
晶析をする際の晶析槽内のコハク酸結晶を含有する流体の温度(以下、晶析温度ということがある)は、コハク酸含有流体からコハク酸結晶が結晶化する温度が設定され、通常5℃以上60℃以下、好ましくは10℃以上50℃以下が選ばれる。晶析温度が5℃より低いとコハク酸の高い収率が得られるが、冷却のために非常に大きな設備が必要となったり、またジャケットやインナーコイルに冷媒を流すことで冷却する方法においては、伝熱面でのコハク酸スラリーと冷媒の温度差が大きくなりすぎるため激しくスケーリングしたりするため望ましくない。ジャケットやインナーコイルに冷媒を流すことで冷却する方法においては、スケーリング防止の観点から、伝熱面でのコハク酸スラリーと冷媒の温度差は通常20℃以下、好ましくは10℃以下となるよう設定することが望ましい。
また減圧下で晶析する方法における槽内圧力は、求める晶析温度によって決まり、通常0.5kPa以上20kPa以下、好ましくは1kPa以上15kPa以下、特には1.5kPa以上10kPa以下が望ましい。圧力が低いと晶析槽内の温度をより低くすることが可能となり晶析効率的を高めることができるが、供給するコハク酸含有流体濃度にもよるが、晶析槽内のスラリー濃度が高くなりすぎるために、そのハンドリングが困難となったり、圧力の制御が困難となったりする虞がある。また減圧のための設備が限定され、一般には設備費用が大きくなり、経済的に好ましくない。例えば減圧にスチームエゼクターを用いた場合は、減圧度が大きくなると、スチームエゼクターの段数を増やすなど設備費用が大きくなる。逆に圧力が高いと晶析槽内の温度は高くなり、晶析槽内のスラリー濃度が低すぎて効率が悪くなる。真空発生装置は求められる圧力、水とともに蒸発する溶媒の有無とその種類などにより、公知の方法から選択することができる。公知の方法としては、設計・操作シリーズNo.3改訂晶析(化学工学社)P292-293にあげられる方法、例えば水またはスチームエゼクター、油封回転型真空ポンプなどがあげられる。
晶析操作は、晶析を行うコハク酸含有流体の全量を晶析槽に入れた上で晶析を行った後に晶析後の流体全量を抜き出すバッチ式であっても構わないし、晶析操作中に晶析槽の中が空にならないように、晶析操作継続中にコハク酸含有流体の供給と抜出を適宜行う連続式であっても構わない。
連続式で晶析を行う際のコハク酸含有流体の晶析槽への供給は、晶析槽の中が空になることが無いように、送液ポンプまたは圧力差を利用して連続的または間欠的に圧送する方法などにより行われる。コハク酸溶液の供給速度は通常晶析槽での平均滞留時間が0.5時間以上10時間以下となるように供給する。晶析槽での滞留時間が短いと、槽内のコハク酸過飽和度が大きくなり、微結晶が多く発生したり、また過飽和度を残したままスラリーが晶析槽から抜き出されることで後続の工程でスケーリングが起こったりするなどのトラブルを引き起こす虞がある。逆に滞留時間が長すぎても、無用に晶析槽が大きくなり非効率的である。
連続式で晶析を行う際に得られたコハク酸を晶析槽から抜き出す際には、通常コハク酸含有流体とともにスラリーとして抜き出す。この際の抜出は、晶析槽の中が空になることが無いように、供給したコハク酸含有流体の量と適宜対比して、連続的または間欠的にスラリーポンプまたは晶析槽よりも減圧とした受槽に圧力差を利用して圧送などで抜出す方法などにより行われる。
晶析槽の中が空になることが無いように、コハク酸含有流体を晶析槽に供給し、且つ晶析槽から抜出すには、供給量と抜出量を同一にする方法や、液面センサーなどにより晶析槽内の液面が一定以下になった場合に供給し、一定以上になった場合に抜出す操作を繰り返す方法などがあげられる。
晶析操作では、コハク酸結晶の粒度分布を制御するためにコハク酸の核化、結晶成長を制御することが望ましい。コハク酸の核化、結晶成長は、通常、槽内のコハク酸の過飽和度により制御されるが、そのためには通常晶析時間を制御する方法が用いられる。晶析時間は通常0.5時間以上10時間以下、好ましくは1時間以上5時間以下の時間をかけて行う。例えばバッチ操作による冷却晶析の場合ならコハク酸含有流体を所定の温度まで下げるのに0.5時間以上5時間以下かけてコハク酸含有流体を冷却し、さらに0.1時間以上5時間以下熟成することが望ましい。そのときのコハク酸含有流体の冷却速度は通常0.05℃/分以上2℃/分以下、好ましくは0.1℃/分以上1.5℃/分以下であって、特には0.2℃/分以上1℃/分以下が好ましい。また連続操作による冷却晶析の場合では、コハク酸含有流体の平均滞留時間が0.5時間以上10時間以下、好ましくは1時間以上5時間以下とするのが望ましい。晶析時間もしくは平均滞留時間が短いと槽内のコハク酸過飽和度が大きくなり、核化速度が大きくなるため、微結晶が多く発生したり、また過飽和度を残したままスラリーが晶析槽から抜き出されることで後続の工程でスケーリングしたりするなどのトラブルを引き起こす虞がある。逆に晶析時間が長すぎても無用に晶析槽が大きくなり非効率的である。
(晶析槽)
晶析槽は、攪拌装置を備えている容器であればその構造としては特に限定されるものではなく、通常知られる攪拌装置を有する容器を使用することができるが、底部を有する円筒形の容器が好ましい。また、効率的にスラリーに剪断を与えるため、槽内に邪魔板を設置することが好ましい。さらに晶析槽内の流れを整えるためにドラフトチューブと称するなど円筒形のガイドを有する容器も使うことができる。
容器の形状に特に制限は無いが、装置内でスラリーをより均一とし、さらに効率的に剪断を与えるために、通常容器の径と高さの比(L/D)が0.5以上3以下の容器が用いられ、好ましくは0.7以上2.5以下、特に好ましくは1以上2以下の容器が用いられる。
(攪拌装置)
攪拌装置としては、攪拌翼を備えている攪拌装置が用いられる。攪拌翼は特殊な翼である必要は無く、公知の攪拌翼を用いることができる。例えばパドル翼、タービン翼などの剪断型翼、後退翼、ファウドラー翼、マックスブレンド翼(住友重機械工業社登録商標)、フルゾーン翼(神鋼パンテック社登録商標)などの吐出型翼などから選ばれる。
攪拌翼の大きさにも特に制限は無いが、攪拌翼を備えた攪拌装置に加えて流体を循環させるような他の攪拌装置を併用してもかまわない。
他の攪拌装置としては、例えば晶析槽から導いたコハク酸を含む溶液を遠心ポンプなどの流体移送用ポンプにより、晶析槽へ循環させる装置を使用することができる。
晶析槽の攪拌は、晶析槽内でコハク酸結晶が沈殿などすることなく流動していれば特に制約は無いが、得られるコハク酸の純度を高めたり、より均一な粒子径のコハク酸を得ることができるという観点から、コハク酸を含む溶液の単位体積あたりの攪拌所要動力(以下、Pvと略記することがある)が0.2kW/m3以上5kW/m3以下、望ましくは0.4kW/m3以上3kW/m3以下となるような攪拌条件下で晶析する。
(固液分離)
晶析後のコハク酸スラリーは公知の方法でコハク酸結晶および母液を固液分離処理できる。分離方法は特に限定するものではなく、ろ過分離、沈降分離などがあげられる。また操作はバッチでも連続でもよい。例えば効率の良い固液分離機として連続式の遠心ろ過機、デカンター等の遠心沈降機などが挙げられる。また求められるコハク酸の純度により固液分離操作で回収したウェットケーキは冷水等でリンスすることができる。
(乾燥)
晶析で回収されたコハク酸は、その用途によるが、常法により乾燥することができる。通常、コハク酸含水率は通常0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%であり、一方、通常2重量%以下、好ましくは1重量%以下まで乾燥する。乾燥方法は特に限定するものではないが、バンド式乾燥機、流動乾燥機のような対流伝熱式乾燥機、ドラム式乾燥機のような伝導伝熱式乾燥機などが挙げられる。特に大量かつ連続処理可能で、かつ乾燥処理の過程で結晶の破砕などが小さい流動乾燥機が望ましい。また流動乾燥機を使用するときはコハク酸の粉塵爆発防止の観点から窒素供給下で乾燥することが好ましく、その雰囲気酸素濃度は12%以下とすることが好ましい。また乾燥時のコハク酸の温度は、分子内脱水により無水コハク酸が生成する虞があることから、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下となるように乾燥する。
晶析装置として具体的には、例えば、図4に示すような、コハク酸水溶液供給槽、邪魔板4枚および4枚の傾斜パドル翼(攪拌翼)を2段備えた晶析槽、スラリー抜出槽等を備えた晶析装置が挙げられる。
<活性炭処理>
活性炭処理を行う場合、使用される活性炭としては、石炭系、木質系、ヤシ穀系、樹脂系など任意の公知のものを用いることができる。また、これら石炭系、木質系、ヤシ穀系、樹脂系などの各種原料活性炭を、ガス賦活法、水蒸気賦活法、塩化亜鉛やリン酸などの薬品賦活法などの方法により賦活した活性炭を用いることができる。
具体的には、三菱化学カルゴン株式会社製のカルゴンCPG、カルゴンCAL、カルゴンSGL、ダイアソーブW、ダイアホープMS10、ダイアホープM010、ダイアホープMS16、ダイアホープ6MD、ダイアホープ6MW、ダイアホープ8ED、ダイアホープZGN4、Centur、日本ノリット株式会社製のGAC、GAC PLUS、GCN PLUS、C GRAN、RO、ROX、DARCO、CN、SX、SXPLUS、sa、SX、PK、W、クラレケミカル株式会社製のGW、GWH、GLC、4GC、KW、PW、PK、株式会社ツルミコール社製のHC−30S、GL−30S、4G−3S、PA、PC、フタムラ化学株式会社製のP、W、CW、SG、SGP、S、GB、CA、K、日本エンバイロケミカルズ株式会社製の白鷺KL、白鷺W2c、白鷺WH2c、白鷺W5c、白鷺WH5c、白鷺WH5X、白鷺XS7100H−3、カルボラフィン、白鷺A、白鷺C、白鷺M、味の素ファインテクノ株式会社社製のホクエツ CL−K、ホクエツHs、ホクエツKSなどが挙げられる。
これらの中では、コハク酸中に含まれる250〜300nmの紫外線領域に吸収を示す不純物を効率的に除くことができる理由から、ヤシ穀炭、木質炭が好ましい。一方、コハク酸の着色成分を効率よく除去する観点からは、ガス賦活法、水蒸気賦活法、塩化亜鉛やリン酸などの薬品賦活法などの方法により賦活した活性炭が好ましく、その中でも水蒸気賦活法、塩化亜鉛やリン酸などの薬品賦活した活性炭が好ましく、特に塩化亜鉛やリン酸などの薬品賦活した活性炭が好ましい。使用する活性炭の形状は、粉末炭、破砕炭、成形炭、繊維状活性炭のいずれでもよい。カラムに充填して使用する場合には塔圧抑制の理由から粒状、顆粒状の活性炭が好ましい。
活性炭処理の方式としては、バッチ式で活性炭と混合した後に濾過分離する方法、活性炭の充填層に通液する方法のどちらも可能である。処理時間は、バッチ式の場合には、通常5分以上、好ましくは10分以上であり、一方、通常5時間以下、好ましくは2時間以下である。処理時間は、充填層方式の場合には、SV(空間速度)として通常0.1hr-1以上20hr-1以下である。処理温度は通常20℃以上90℃以下である。 上記のように活性炭の種類により除去される不純物種が異なる為、これらの不純物除去方法としては、複数の活性炭種を組み合わせる方法や活性炭処理と上記の晶析処理、後述の水素処理やイオン交換カラム処理とを組み合わせる方法が挙げられる。
また、発酵由来のコハク酸溶液には、溶媒として水を使用する際には水に不溶な成分が混入している場合がある。このような不溶成分の混入は、活性炭による上記の不純物除去やその後の精製工程の効率を低下させる要因となる為に、予め不溶成分を除去することが好ましい。不溶成分の除去は、発酵法により生成するコハク酸塩からコハク酸に誘導した後から活性炭処理工程に至る迄の間の工程で発酵由来のコハク酸溶液を公知の膜透過処理を使用して実施する方法が好ましい。また、別法として、粉末状の活性炭を共存させて不溶成分を吸着させて膜透過処理の透過性を向上させたり、適切な粉末活性炭を用いて不溶成分とともに上記の不純物を同時に吸着除去する方法も好適に使用される。
更に、本発明においては、晶析又は/及び活性炭処理と水素処理とを組み合わせて不純物除去を実施する際には、特に限定はされないが、効率的に不純物が除去される為、後述の水素処理工程の前に晶析又は/及び活性炭処理工程を実施するプロセスが好適に使用される。
<水素処理>
微生物反応により得られたコハク酸には通常、臭気成分が含まれるが、コハク酸中に含まれる臭気成分の含有量を低減させることが好ましい。
臭気成分の除去方法としては、活性炭等の吸着剤による脱臭方法、有機溶媒での洗浄除去方法、晶析方法、曝気法などが知られている。臭気成分の除去には触媒存在下での水素処理が特に有効である。一方、発酵等によりバイオマス資源から誘導されるコハク酸含有液には少量のフマル酸が含有される場合がある。
発酵等によりバイオマス資源から誘導されるコハク酸含有液の水素処理を行うと、コハク酸中の臭気成分が容易に除去できるばかりでなく、上記のようにフマル酸が含有される場合にはフマル酸からコハク酸が生成し、コハク酸の収率向上が同時に達成されるので、コハク酸の脱臭方法として水素処理法は従来にはない特に優れた手法となる。発酵由来のコハク酸を含有する溶液の触媒存在下での水素処理工程を精製プロセスの中に含むことが好ましい。
水素処理は、バッチ式、連続式いずれの反応形式でもよく、従来の公知の方法に従って行うことができる。水素処理の具体的な方法としては、加圧反応器にコハク酸を含有する溶液と水素化触媒とを共存させ、この混合物を撹拌しながら水素ガスを導入して水素処理を行い、処理後のコハク酸含有反応液を水素化触媒と分離して反応器から取り出す方法、固定床多管式または単管式の反応器を用いてコハク酸含有溶液および水素ガスを反応器の下部から流通させながら水素処理を行い、処理後のコハク酸含有反応液を取り出す方法あるいは水素ガスを反応器の下部から、コハク酸含有溶液は上部から流通させて水素処理を行い、処理後のコハク酸含有反応液を取り出す方法などが挙げられる。
水素化触媒としては、公知の均一系ならびに不均一系の貴金属含有水素化触媒を用いることができる。具体的には、特に限定はされないが、ルテニウム、ロジウム、パラジウムおよび白金などの貴金属を含む水素化触媒が挙げられ、これらの中では、パラジウムならびに白金、特にパラジウムを含む水素化触媒が好ましい。
これら水素化触媒は上記の貴金属を含む化合物をそのまま使用したり、有機ホスフィンなどの配位子を共存させて使用することができるが、触媒分離の容易性の理由から不均一系の貴金属含有触媒が好ましい。
また、これらの貴金属を含む化合物をシリカやチタン、ジルコニア、活性アルミナなどの金属酸化物またはこれらの複合金属酸化物、或いは活性炭共存下で水素処理を行うことができる。この方法は、発酵由来のコハク酸中に含まれる臭気成分だけではなく、着色成分や有機不純物を同時に吸着除去でき、不純物を効率的に除去できる為に好ましい態様である。同様の効果は、上記の貴金属をシリカやチタン、ジルコニア、活性アルミナなどの金属酸化物またはこれらの複合金属酸化物、或いは活性炭などの担体に担持した触媒を使用した際にも達成される為、これらの担持触媒を使用する方法も好適に使用される。貴金属の担持量は、通常、担体の0.1〜10重量%であるが、担体としては、特には限定されないが、水素処理中の金属の溶出量が少ない理由からシリカあるいは活性炭、特に活性炭が好ましい。
従って、本発明においては、貴金属をシリカやチタン、ジルコニア、活性アルミナなどの金属酸化物またはこれらの複合金属酸化物、或いは活性炭などの担体に担持した水素化触媒により水素処理を行う態様は、金属酸化物、シリカ及び活性炭の群から選ばれるいずれかの吸着剤存在下、水素化触媒により水素処理を行う態様の定義に含まれるものとする。
水素処理の際のバイオマス資源から誘導されるコハク酸を含有させる溶媒は、水、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、酢酸エチルなどのエステル類、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、イソブタノールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン類、アセトニトリルなどのニトリル類、およびこれらの混合溶媒などが使用できるが、これらの中では水が最も好ましい。水は、通常、脱イオン水、蒸留水、河川水、井戸水、水道水などを使用するが、必要に応じて、水素化反応後の後工程でコハク酸含有反応液からコハク酸を晶析し、ろ別した後の溶液を繰り返して使用することもできる。溶液中のコハク酸濃度は液温度の飽和溶解度以下であればよい。
使用する水素は、純水素でもよいが、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスで希釈させたものも使用できる。水素ガス中の一酸化炭素濃度は、水素処理効率への影響が懸念される為、通常、10000ppm以下、好ましくは、2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下である。
水素処理時の水素圧は、低すぎると反応速度が遅く、反応完結までに時間がかかり、一方高すぎると、触媒や反応条件によってはブタンジオールやテトラヒドロフラン等のコハク酸の水素化物が副生してしまう為に、通常0.1MPa以上であり、上限は通常5MPa以下、好ましくは3MPa以下、より好ましくは1MPa以下である。
水素処理時の温度は、低すぎると反応速度が遅く、反応完結までに時間がかかり、一方高すぎるとコハク酸の水素化物の副生や、溶媒として水を使用する際にリンゴ酸などの副生物が多くなる為に、通常30℃以上、好ましくは50℃以上であり、上限は通常150℃以下、好ましくは120℃以下である。
<イオン交換カラム処理>
更に、本発明においては、コハク酸中の不純物を除く目的で、イオン交換カラム処理等の精製操作を併用してもよい。
ここで、イオン交換カラム処理とは、イオン交換樹脂を充填したカラムに、処理すべき液を通液することで、イオン類を除去することである。イオン交換樹脂は、処理すべき液に含まれるイオン、必要とされるコハク酸の純度に応じ選定されるべきものであり、例えば硫酸イオン、塩素イオンなどのアニオンを除去するためにはアニオン交換樹脂(OH型)を、金属イオン、アンモニウムイオンなどのカチオンを除去するためにはカチオン交換樹脂(H型)を用いることができるが、必要に応じてその両方を用いてもよい。
イオン交換樹脂は、その官能基の酸または塩基としての強度により強酸性カチオン交換樹脂、弱酸性カチオン交換樹脂、強塩基性アニオン交換樹脂、弱塩基性アニオン交換樹脂に分類され、さらにその形状により、ゲル型、ポーラス型に分類されるが、ここでは用いるイオン交換樹脂は特に限定されるものではない。ただイオン交換の効率を考慮すると、より酸または塩基としての強度が強い強酸性カチオン交換樹脂、強塩基性アニオン交換樹脂を用いることが好ましい。またその形状もポーラス型である特別な理由もなく、より汎用的で安価なゲル型を用いることが望ましい。具体的には、カチオン交換樹脂としてダイヤイオンSK1B(H型)など、アニオン交換樹脂としてダイヤイオンSA10Aなどが例示される。
イオン交換カラム処理は、処理すべき液においてコハク酸を溶解させる温度以上、且つイオン交換樹脂の耐熱温度よりも低い温度範囲内で行うことができる。すなわちカチオン交換樹脂では、処理すべき液中のコハク酸濃度にもよるが通常20〜100℃で処理を行う。一方、アニオン交換樹脂はカチオン交換樹脂にくらべ耐熱性が低いため通常10〜80℃で処理を行う。処理温度の観点からアニオン交換カラム処理を用いる場合は、コハク酸濃度が低く、低い温度でカラム処理できる工程が望ましい。
またその通液処理方法は、特に限定するものではないが、処理速度が大きすぎるとカラム前後における圧力損失が大きくなったり、またイオン交換が不十分となり、逆に不必要に処理速度が遅くすると不必要にカラムが大きくなるため、通常、空間速度(SV)0.1〜10hr−1、空塔速度1〜20m/hrで処理する。
通常カラム処理は、カラム出口においてイオン濃度を常時または定期的に測定し、カラム出口にイオンのリークが認められれば、イオン交換樹脂を再生処理する。イオン交換樹脂の再生は通常の方法に従い、カチオン交換樹脂では硫酸、塩酸などの酸を、アニオン交換樹脂では苛性ソーダなどのアルカリにより行うことができる。
本発明の製造方法で得られるコハク酸等の有機酸は上記のような芳香族カルボン酸の不純物の含有量が少ないものであるが、250〜300nmの紫外線領域における平均吸光度が0.05以下であることが好ましく、0.03以下であるとより好ましく、0.01以下であると特に好ましい。平均吸光度が高いコハク酸は、ポリエステルの原料として使用すると製造されるポリマーの着色が著しくなる。
本発明において、吸光度は、3.0重量%のコハク酸水溶液を光路長1cmの石英セルに入れ、紫外可視吸収分光光度計にて測定される値である。吸光度は市販の紫外可視吸収分光光度計を用いて測定することができる。
ここで、吸光度(A)とは光路長1cmで測定した際の吸光度であって、次の定義に従って算出される値である。
A=log10(I0/I)(ここで、I0=入射光強度、I=透過光強度を表す。)
また、250〜300nmの紫外線領域の平均吸光度とは、250〜300nm間の1nm毎に測定された吸光度の総和を51で除した値である。
平均吸光度=(250〜300nm間の1nm毎の吸光度の総和)/51
本発明の製造方法で得られるコハク酸に対するプロトカテク酸濃度は80ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることがより好ましく、15ppm以下であることがさらに好ましく、10ppm以下であることがさらにより好ましく、5ppm以下であることがさらにより好ましく、3ppm以下であることが特に好ましい。プロトカテク酸の濃度が高いとポリマー着色が大きくなる。また低濃度とするためには過度な精製処理が必要となる一方で、ポリマー着色の改善効果は小さく非効率的である。
本発明の製造方法で得られるコハク酸に対するウビトン酸濃度は300ppm以下であることが好ましく、150ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることがさらに好ましく、30ppm以下であることがさらにより好ましく、10ppm以下であることが特に好ましい。ウビトン酸の濃度が高いとポリマー着色が大きくなる。また低濃度とするためには過度な精製処理が必要となる一方で、ポリマー着色の改善効果は小さく非効率的である。
なお、コハク酸以外の有機酸を製造する場合においても、本発明の製造方法で得られる目的有機酸に対するプロトカテク酸の濃度は80ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることがより好ましく、15ppm以下であることがさらに好ましく、10ppm以下であることがさらにより好ましく、5ppm以下であることがさらにより好ましく、3ppm以下であることが特に好ましい。また本発明の製造方法で得られる目的有機酸に対するウビトン酸の濃度は300ppm以下であることが好ましく、150ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることがさらに好ましく、30ppm以下であることがさらにより好ましく、10ppm以下であることが特に好ましい。
また、本発明で製造されるコハク酸は、通常、可視光領域での吸収の少ない、着色の少ないものであることが好ましく、コハク酸の黄色度(YI値)は、その上限が、通常50以下、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下、さらにより好ましくは6以下、特に好ましくは4以下であり、一方、その下限は、特には限定されないが、通常−10以上、好ましくは、−5以上、より好ましくは、―1以上である。高いYI値を示すコハク酸は、ポリマー原料として使用すると製造するポリマーの着色が著しくなる欠点を有する。一方、低いYI値を示すコハク酸は、より好ましい形態ではあるが、その製造に極めて高額の設備投資を要する他、多大な製造時間を要するなど経済的に不利な点である。本発明において、YI値は、JIS K7105に基づく方法で測定される値である。
本発明の製造方法で得られるコハク酸等の有機酸には、バイオマス資源由来、発酵処理ならびに酸による中和工程を含む精製処理に起因して不純物として窒素元素が含まれてくる場合がある。具体的には、アミノ酸、たんぱく質、アンモニウム塩、尿素、発酵菌由来等の窒素元素が含まれてくる場合がある。
本発明の製造方法で得られるコハク酸等の有機酸中に含まれる窒素原子含有量は、有機酸中に、原子換算として、上限は通常2000ppm以下、好ましくは、1000ppm以下、より好ましくは100ppm以下、最も好ましくは20ppm以下である。下限は通常、0.01ppm以上、好ましくは0.05ppm以上、精製工程の経済性の理由からより好ましくは0.1ppm以上、更に好ましくは1ppm以上である。
窒素原子含有量は、元素分析法等の公知の方法や、アミノ酸分析計を用い、生体アミノ酸分離条件にて試料中のアミノ酸やアンモニアを分離し、これらをニンヒドリン発色させて検出する方法により測定される値である。
窒素原子含有量が上記の範囲にあるコハク酸は、ポリエステル原料として用いた場合、得られるポリエステルの着色の減少に有利になる。また、ポリエステルの重合反応の遅延化を抑制する効果も併せ持つ。
また、本発明の製造方法で得られるコハク酸等の有機酸には、酸による中和工程を含む精製処理等により硫黄原子が含まれてくる場合がある。具体的に、硫黄原子が含有される不純物としては、硫酸、硫酸塩、亜硫酸、有機スルホン酸、有機スルホン酸塩等が挙げられる。
本発明の製造方法で得られるコハク酸等の有機酸中に含まれる硫黄原子含有量は特に制限されないが、多すぎるとポリエステル原料として用いた場合に重合反応の遅延化や生成ポリマーの一部ゲル化そして生成ポリマーの安定性の低下などが引き起こされる傾向があり、一方で少なすぎると精製工程が煩雑となるため、ジカルボン酸中に、原子換算として、上限は通常100ppm以下、好ましくは20ppm以下、より好ましくは10ppm以下、特に好ましくは5ppm以下、最も好ましくは0.5ppm以下である。一方、下限は通常0.001ppm以上、好ましくは0.01ppm以上、より好ましくは0.05ppm以上、特に好ましくは0.1ppm以上である。硫黄原子含有量は、公知の元素分析法により測定される値である。
本発明の製造方法で得られるコハク酸等の有機酸には、アルカリ金属元素が含まれてくる場合がある。脂肪族ジカルボン酸中に含まれるアルカリ金属の含有量は、多すぎるとポリマー原料として用いた場合に熱安定性や耐加水分解性を低減させるばかりでなく、重合中に重度の重合阻害を引き起こし、実用上十分な力学特性を有する高重合度のポリマーが得られない場合があるため、通常、50ppm以下、好ましくは30ppm以下、より好ましくは10ppm以下で、その中でも5ppm以下が特に好ましい。
<ポリマーの製造方法>
さらに、本発明においては、上記の方法によりコハク酸などの有機酸を製造した後に、得られた有機酸を原料として重合反応を行うことにより有機酸含有ポリマーを製造することができる。近年、環境に配慮した工業製品が数を増す中、植物由来の原料を用いたポリマーに注目が集まってきている。特に、本発明において製造されるコハク酸は、ジカルボン酸成分、好ましくは脂肪族ジカルボン酸を原料として使用する公知のポリマー、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン等のポリマーに加工されて用いることができる。コハク酸単位含有ポリマーとして具体的には、ブタンジオールやエチレングリコールなどのジオールとコハク酸を重合させて得られるポリエステル、ヘキサメチレンジアミンなどのジアミンとコハク酸を重合させて得られるポリアミドなどが挙げられる。
以下、ポリマーの製造方法の一例としてポリエステルの製造方法を説明する。
<ポリエステルの製造方法>
本発明におけるポリエステルの製造方法としては、従来の公知の方法が使用でき、例えば、上記のコハク酸を含む脂肪族ジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応を行った後、減圧下での重縮合反応を行うといった溶融重合の一般的な方法や、有機溶媒を用いた公知の溶液加熱脱水縮合方法によっても製造することができるが、経済性ならびに製造工程の簡略性の観点から、無溶媒下で行う溶融重合でポリエステルを製造する方法が好ましい。
<ジカルボン酸成分>
ジカルボン酸成分としては、前記の有機酸の製造方法によって得られたコハク酸を含めば限定されず、化石資源から誘導された脂肪族及び/又は芳香族ジカルボン酸を含んでも良いが、前記の有機酸の製造方法によって得られたコハク酸が好ましい。
<ジオール成分>
ジオール成分としては特には限定されないが、脂肪族ジオールが好ましい。
脂肪族ジオールとは、2個のOH基を有する脂肪族及び脂環式化合物であれば特に制限はされないが、炭素数の下限値が2以上であり、上限値が通常10以下、好ましくは6以下の脂肪族ジオールが挙げられる。
脂肪族ジオールの具体例としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコ−ル、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、1,4−ブタンジオール及び1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらは、単独でも2種以上の混合物として使用してもよい。
この内、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−プロピレングリコ−ル及び1,4−シクロヘキサンジメタノ−ルが好ましく、その中でも、エチレングリコール及び1,4−ブタンジオ−ル、及びこれらの混合物が好ましく、更には、1,4−ブタンジオ−ルを主成分とするもの、または、1,4−ブタンジオ−ルが特に好ましい。ここでいう主成分とは、該成分が全ジオール単位に対して、通常50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であることを示す。
また、両末端ヒドロキシポリエーテルを上記の脂肪族ジオールと混合して使用してもよい。両末端ヒドロキシポリエーテルとしては、炭素数は下限値が通常4以上、好ましくは10以上であり、上限値が通常1000以下、好ましくは200以下、更に好ましくは100以下である。
両末端ヒドロキシポリエーテルの具体例としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ1,3−プロパンジオール及びポリ1,6−ヘキサメチレングリコール等が挙げられる。また、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合ポリエーテル等を使用することもできる。これらの両末端ヒドロキシポリエーテルの使用量は、ポリエステル中の含量として、通常90重量%以下、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下に計算される量である。
<その他の共重合成分>
本発明においては、ポリエステルの製造において上記のジオール成分とジカルボン酸成分に加えて、共重合成分を加えてもよい。
共重合成分の具体的な例としては、2官能のオキシカルボン酸、不飽和ジカルボン酸、架橋構造を形成するために3官能以上の多価アルコール及び3官能以上の多価カルボン酸またはその無水物および3官能以上のオキシカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の多官能化合物が挙げられる。これらの共重合成分を添加するとポリエステル製造時の重合速度を著しく向上する効果が発現する。これらの共重合成分の中では、高重合度のポリエステルが容易に製造できる傾向があるためオキシカルボン酸が好適に使用される。
2官能のオキシカルボン酸としては、具体的には、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸等が挙げられるが、これらはオキシカルボン酸のエステルやラクトン、或いはオキシカルボン酸重合体等の誘導体であっても良い。また、これらオキシカルボン酸は単独でも、二種以上の混合物として使用することもできる。これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体、またはラセミ体のいずれでもよく、形態としては固体、液体、または水溶液であってもよい。これらの中では、入手の容易な乳酸またはグリコール酸が特に好ましい。形態は、30〜95%の水溶液のものが容易に入手することができるので好ましい。この場合、オキシカルボン酸の使用量は、通常、原料モノマーに対して下限が通常、0.02モル%以上、好ましくは0.5モル%以上、より好ましくは1.0モル%以上であり、上限が、通常30モル%以下、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。
不飽和ジカルボン酸としては、イタコン酸、アコニット酸、フマル酸やマレイン酸等が挙げられ、単独でも、二種以上の混合物として使用することもできる。不飽和ジカルボン酸の使用量は、ゲルの発生原因となるため、ポリエステルを構成する全単量体単位に対して、通常、5モル%以下、好ましくは、0.5モル%以下、より好ましくは0.05モル%以下である。
3官能以上の多価アルコールとしては、具体的には、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられ、単独でも、二種以上の混合物として使用することもできる。
3官能以上の多価カルボン酸またはその無水物としては、具体的には、プロパントリカルボン酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、シクロペンタテトラカルボン酸無水物等が挙げられ、単独でも、二種以上の混合物として使用することもできる。
3官能以上のオキシカルボン酸としては、具体的には、リンゴ酸、ヒドロキシグルタル酸、ヒドロキシメチルグルタル酸、酒石酸、クエン酸、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドロキシテレフタル酸等が挙げられ、単独でも、二種以上の混合物として使用することもできる。特に、入手のし易さから、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸が好ましい。
上記の3官能以上の化合物の使用量は、ゲルの発生原因となるため、ポリエステルを構成する全単量体単位に対して、通常、5モル%以下、好ましくは、0.5モル%以下、より好ましくは0.2モル%以下である。
温度、時間、圧力などの条件は、従来公知の範囲を採用できる。
コハク酸を含む脂肪族ジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化反応及び/又はエステル交換反応の反応温度は、下限が通常150℃以上、好ましくは180℃以上、上限が通常260℃以下、好ましくは250℃以下である。反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下である。反応圧力は、通常、常圧〜10kPaであるが、常圧が好ましい。
反応時間は、通常1時間以上であり、上限が通常10時間以下、好ましくは、4時間以下である。
その後の重縮合反応は、重合製造時の圧力が高すぎるとポリエステルの重合製造時間が長くなり、それに伴いポリエステルの熱分解による分子量低下や着色が引き起こされ、実用上充分な特性を示すポリエステルを製造が難しくなる傾向があり、一方で、超高真空重合設備を用いて製造する手法は重合速度を向上させる観点からは好ましい態様であるが、極めて高額な設備投資が必要なばかりでなく、それでも未だポリエステルの重合製造時間が長くなる傾向があり、それに伴うポリエステルの熱分解による分子量低下や着色が懸念されるため、下限は通常0.01×103Pa以上、好ましくは0.01×103Pa以上、上限は通常1.4×103Pa以下、好ましくは0.4×103Pa以下の真空度下として行う。
反応温度は、低すぎると重合反応速度が極めて遅くなり、高重合度のポリエステル製造に長時間を要するばかりでなく、高動力の撹拌機も必要となる為、経済的に不利であり、一方で、高すぎると重合速度は向上するが同時に製造時のポリマーの熱分解が引き起こされ、結果的に高重合度のポリエステルの製造が難しくなるため、下限は通常150℃以上、好ましくは180℃以上であり、上限は通常280℃以下、好ましくは260℃以下の範囲である。
反応時間は、短すぎると反応が不充分で低重合度のポリエステルが得られ、引張り破断伸び率が低く、また、そのカルボキシル基末端量が多いこともあり、引張り破断伸び率の劣化も著しくなる場合が多く、一方で、長すぎるとポリエステルの熱分解による分子量低下が顕著となり、引張り破断伸び率が低下するばかりでなく、ポリマーの耐久性に影響を与えるカルボキシル基末端量が熱分解により増加する場合があるため、下限は通常2時間以上であり、上限が通常15時間以下、好ましくは8時間以下、より好ましくは6時間以下である。
本発明において、目的とする重合度のポリエステルを得るためのジオール成分と脂肪族ジカルボン酸成分とのモル比は、その目的や原料の種類により好ましい範囲は異なるが、酸成分1モルに対するジオール成分の量が、下限が通常0.8モル以上、好ましくは、0.9モル以上であり、上限が通常3.0モル以下、好ましくは2.7モル以下、特に好ましくは2.5モル以下である。
また、本発明において重縮合反応は、重合触媒の存在下に行うのが好ましい。重合触媒の添加時期は、重縮合反応以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよく、減圧開始時に添加してもよい。
重合触媒としては、一般には、周期表で、水素、炭素を除く第1族〜第14族金属元素を含む化合物が挙げられる。具体的には、チタン、ジルコニウム、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれた、少なくとも1種以上の金属を含むカルボン酸塩、アルコキシ塩、有機スルホン酸塩又はβ−ジケトナート塩等の有機基を含む化合物、更には前記した金属の酸化物、ハロゲン化物等の無機化合物及びそれらの混合物が挙げられる。これらの触媒成分は、上記の理由からバイオマス資源から誘導されるポリエステル原料中に含まれる場合がある。その場合は、特に原料の精製を行わず、そのまま金属を含む原料として使用してもよい。しかしながら、製造するポリエステルによってはポリエステル原料中に含まれるナトリウムやカリウム等の1族金属元素の含有量が少ない程、高重合度のポリエステルが製造しやすい場合がある。その様な場合には1族金属元素が実質含まれない程度まで精製された原料が好適に使用される。
これらの中では、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム及びカルシウムを含む金属化合物、並びにそれらの混合物が好ましく、その中でも、特に、チタン化合物、ジルコニウム化合物及びゲルマニウム化合物が好ましい。また、触媒は、重合時に溶融或いは溶解した状態であると重合速度が高くなる理由から、重合時に液状であるか、エステル低重合体やポリエステルに溶解する化合物が好ましい。
チタン化合物としては、テトラアルキルチタネートが好ましく、具体的には、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネート及びこれらの混合チタネートが挙げられる。また、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタン(ジイソプロキシド)アセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、チタンビス(エチルアセトアセテート)ジイソプロポキシド、チタン(トリエタノールアミネート)イソプロポキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ブチルチタネートダイマー等も好適に用いられる。更には、酸化チタンや、チタンと珪素を含む複合酸化物も好適に用いられる。
これらの中では、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート及びテトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマー、酸化チタン、チタニア/シリカ複合酸化物が好ましく、テトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマー、チタニア/シリカ複合酸化物がより好ましく、特に、テトラ−n−ブチルチタネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタニア/シリカ複合酸化物が好ましい。
ジルコニウム化合物としては、具体的には、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニルジアセテイト、シュウ酸ジルコニウム、シュウ酸ジルコニル、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシド、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネートならびにそれらの混合物が例示される。更には、酸化ジルコニウムや、例えばジルコニウムと珪素を含む複合酸化物も好適に使用される。これらの中では、ジルコニルジアセテイト、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシドが好ましく、ジルコニルジアセテイト、ジルコニウムテトラアセテイト、ジルコニウムアセテイトヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシドがより好ましく、特にジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレートが着色のない高重合度のポリエステルが容易に得られる理由から好ましい。
ゲルマニウム化合物としては、具体的には、酸化ゲルマニウムや塩化ゲルマニウム等の無機ゲルマニウム化合物、テトラアルコキシゲルマニウムなどの有機ゲルマニウム化合物が挙げられる。価格や入手の容易さなどから、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム及びテトラブトキシゲルマニウムなどが好ましく、特に、酸化ゲルマニウムが好ましい。
これらの重合触媒として金属化合物を用いる場合の触媒使用量は、触媒量が多すぎると経済的に不利であるばかりでなくポリマーの熱安定性が低くなるのに対し、逆に少なすぎると重合活性が低くなり、それに伴いポリマー製造中にポリマーの分解が誘発されやすくなるため、生成するポリエステルに対する金属量として、下限値が通常5ppm以上、好ましくは10ppm以上であり、上限値が通常30000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは250ppm以下、特に好ましくは130ppm以下である。
<ポリエステル及びその用途>
本発明の方法で製造されたポリエステルは、通常、ポリマーの熱安定性に著しく悪影響を与えるカルボン酸末端量が少ない特徴があるため、熱安定性に優れ、成形時の品質の低下が少ない、即ち、溶融成形時に末端基の切断や、主鎖の切断等の副反応が少ないという特徴を有する。従って、本発明において製造される好ましいポリエステルの末端COOH基数は、ポリエステルの重合度にもよるが、通常、100当量/トン(以下、eq/トンと記載することがある)以下、好ましくは60eq/トン以下、より好ましくは40eq/トン以下、特に好ましくは30eq/トン以下である。一方、カルボキシル基末端量が極端に少なくなると、重合速度が極めて遅くなり、高重合度のポリマーが製造できない。そのような理由から、ポリエステルの末端COOH基数の下限は、通常、0.1eq/トン以上、より好ましくは1eq/トンである。
本発明で製造されるポリエステルは、通常、着色の少ないポリエステルであることが好ましく、ポリエステルの黄色度(YI値)は、その上限が、通常、50以下、好ましくは30以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは15以下、特に好ましくは10以下であり、一方、その下限は、特には限定されないが、通常−20以上、好ましくは、−10以上、より好ましくは、―5以上、特に好ましくは−3以上、最も好ましくはー1以上である。高いYI値を示すポリエステルは、フィルムやシート等の使用用途が制限される欠点を有する。一方、低いYI値を示すポリエステルは、より好ましい形態ではあるが、このようなポリマーを製造するには製造プロセスが煩雑で極めて高額の設備投資を要するなど経済的に不利な点がある。本発明において、YI値は、JIS K7105に基づく方法で測定される値である。
本発明で製造されるポリエステルの還元粘度(ηsp/C)値は、実用上十分な力学特性が得られる理由から、0.5以上であり、中でも1.6以上が好ましく、更には、2.0以上がより好ましく、特に2.3以上が好ましい。還元粘度(ηsp/C)値の上限は、ポリエステルの重合反応後の抜き出し易さならびに成形のし易さ等の操作性の観点から、通常、6.0以下、好ましくは5.0以下、更に好ましくは4.0以下である。
本発明でいう還元粘度は以下の測定条件により測定されたものである。
〔還元粘度(ηsp/C)測定条件〕
粘度管:ウベローデ粘度管
測定温度:30℃
溶媒:フェノール/テトラクロロエタン(1:1重量比)溶液
ポリエステル濃度:0.5g/dl
ポリエステルの特性が損なわれない範囲において、本発明のポリエステルの製造方法の途中で反応系に、又は得られたポリエステルに、各種の添加剤、例えば熱安定剤、酸化防止剤、結晶核剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤及び紫外線吸収剤等を重合時に添加してもよい。
また、成形時に上に示した各種の添加剤の他に、ガラス繊維、炭素繊維、チタンウィスカー、マイカ、タルク、CaCO3、TiO2、シリカ等の強化剤及び増量剤を添加して成形することもできる。
本発明の製造方法により得られるポリエステルは、耐熱性、色調に優れ、更に耐加水分解性や生分解性にも優れ、しかも安価に製造できるので、各種のフィルム用途や射出成形品の用途に適している。
本発明の製造方法で得られるポリエステルを成形して得ることができる。その成形方法は、通常の方法を採用することができる。得られる成形品を、用途とともに以下に示す。 具体的な用途としては、射出成型品(例えば、生鮮食品のトレーやファーストフードの容器、野外レジャー製品など)、押出成型品(フィルム、シート等、例えば釣り糸、漁網、植生ネット、保水シートなど)、中空成型品(ボトル等)等が挙げられ、更にその他農業用のフィルム、コーティング資材、肥料用コーティング材、ラミネートフィルム、板、延伸シート、モノフィラメント、マルチフィラメント、不織布、フラットヤーン、ステープル、捲縮繊維、筋付きテープ、スプリットヤーン、複合繊維、ブローボトル、発泡体、ショッピングバッグ、ゴミ袋、コンポスト袋、化粧品容器、洗剤容器、漂白剤容器、ロープ、結束材、手術糸、衛生用カバーストック材、保冷箱、クッション材フィルム及び合成紙などに利用可能である。
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
<有機酸の定量方法>
有機酸の量は、以下の条件でのHPLCによる定量分析で測定した。
カラム;信和化工(株)製 ULTRON PS−80H(8.0mmI.D.× 300mm)
溶離液:水(過塩素酸)(過塩素酸60%水溶液1.8ml/1L−H2O)、温度:60℃
検出:RI、UV(210nm)
<アンモニウムイオンの定量方法>
アンモニウムイオンの量は、以下の条件でのイオンクロマトグラフィ−による定量分析で測定した。
カラム;GL−IC−C75(4.6mmI.D × 150mm)
溶離液;3.5mmol/L 硫酸
カラム温度:40℃
<芳香族カルボン酸の定量方法>
実験例1乃至3については、以下の条件でのHPLCによる定量分析で測定した。実施例2及び比較例2での測定は、有機酸の定量方法と同様の条件で測定した。
カラム;野村化学(株)製 Develosil C30−UG(3μm,4.6mmI.D.×100mm)
溶離液:0.02%ギ酸水溶液 1.0mL/分 温度:40℃
検出器:UV(280nm)
<ポリマーの評価方法>
・黄色度(以下、YIと略記することがある)
得られたポリエステルのYIをJIS K7105の方法に基づいて日本電色工業株式会社製 Color meter ZE−6000を用いて、セルにポリマーのチップを入れて、反射法により4回測定し、その平均値をYIとした。
・還元粘度
ポリエステルを濃度0.5g/dLとなるようにフェノール/テトラクロロエタン(1/1(質量比)混合液)に溶解し、溶液が30℃の恒温槽中で粘度管を落下する時間t(sec)を測定した。また溶媒のみの落下する時間t0(sec)を測定し30℃での還元粘度ηsp/C(=(t−t0)/t0・C)を算出した(Cは溶液の濃度)。
・末端カルボキシル基量
得られたポリエステルをベンジルアルコールに溶解し、0.1N NaOHにて滴定し、ポリエステル1×106gあたりの酸末端当量の値を末端カルボキシル基量とした。
<実施例1>
[ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔQsuB/PC−4/ΔLDHの作製](QsuB破壊株の作製)
(A)MJ233株ゲノムDNAの抽出
種培養培地[尿素 2g、(NH42SO4 7g、KH2PO4 0.5g、K2HPO4 0.5g、MgSO4・7H2O 0.5g、FeSO4・7H2O 6mg、MnSO4・4−5H2O 6mg、ビオチン 200μg、チアミン 100μg、イーストエキストラクト 1g、カザミノ酸 1g、グルコース 20g、蒸留水1Lに溶解]10mLに、ブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株を対数増殖期後期まで培養し、遠心分離(10000g、5分)により菌体を集めた。得られた菌体を10mg/mLの濃度にリゾチームを含む10mM NaCl/20mMトリス緩衝液(pH8.0)/1mM EDTA・2Na溶液0.15mLに懸濁した。次に、上記懸濁液にプロテイナーゼKを、最終濃度が100μg/mLになるように添加し、37℃で1時間保温した。さらにドデシル硫酸ナトリウムを最終濃度が0.5%になるように添加し、50℃で6時間保温して溶菌した。この溶菌液に、等量のフェノール/クロロフォルム溶液を添加し、室温で10分間ゆるやかに振盪した後、全量を遠心分離(5,000G、20分間、10〜12℃)し、上清画分を分取し、酢酸ナトリウムを0.3Mとなるように添加した後、2倍量のエタノールを加え混合した。遠心分離(15,000G、2分)により回収した沈殿物を70%エタノールで洗浄した後、風乾した。得られたDNAに10mMトリス緩衝液(pH7.5)−1mM EDTA・2Na溶液5mLを加え、4℃で一晩静置し、以後のPCRの鋳型DNAに使用した。
(B)QsuB破壊用プラスミドの構築
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株由来qsuB遺伝子の内部配列を欠失したDNA断片の取得は、上記(A)で調製したDNAを鋳型とし、全ゲノム配列が報告されているコリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032株の該遺伝子周辺の配列(GenBank Accession No. BA000036)を基に設計した合成DNA(配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4)を用いたクロスオーバーPCRによって行った。qsuB遺伝子の5'末端側領域のDNA断片は配列番号1と配列番号2、3'末端側領域のDNA断片は配列番号3と配列番号4の合成DNAをそれぞれプライマーとしてPCRを行った。反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)0.5μL、1倍濃度添付バッファー、0.4μM 各々プライマー、1mM MgSO4、0.2μM dNTPsを混合し、全量を50μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で45秒からなるサイクルを35回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は2分、最終サイクルの68℃での保温は3分とした。次に得られた二つの増幅産物を鋳型として配列番号1及び配列番号4の合成DNAをプライマーとしてPCRを行った。反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)0.5μL、1倍濃度添付バッファー、0.4μM 各々プライマー、1mM MgSO4、0.2μM dNTPsを混合し、全量を50μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で15秒、55℃で30秒、68℃で1分20秒からなるサイクルを35回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は2分、最終サイクルの68℃での保温は3分とした。得られたqsuB遺伝子の内部配列が欠失したDNA断片はChargeSwitch PCR Clean−Up Kit(インビトロジェン社製)を用いて精製後、制限酵素XhoI及びSacIで切断した。これによって生じた約1.2kbのDNA断片は0.9%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することで検出し、Zymoclean Gel DNA Recovery Kit(Zymo Research社製)を用いてゲルから回収した。このDNA断片を、pKMB1(特開2005−95169)を制限酵素XhoI及びSacIで切断して調製したDNAと混合し、ライゲーションキットver.2(タカラバイオ製)を用いて連結した。得られたプラスミドDNAで大腸菌(DH5α株)を形質転換し、50μg/mLカナマシン及び50μg/mLX−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素XhoI及びSacIで切断することにより約1.2kbの挿入断片が認められ、これをpQsuB1と命名した。pQsuB1の構築過程を図3に示した。
(C)QsuB破壊株の作製
QsuB破壊株作製の供試菌株は、後述する参考例1で作製したブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDHを用いた。ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDHに対して、形質転換に用いるプラスミドDNAは上記(B)で構築したpQsuB1を用いて形質転換した大腸菌MJ110株から調製した。ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDHの形質転換は電気パルス法(Vertes AA, Inui M, Kobayashi M, Kurusu Y, Yukawa H, Res. Microbiol., 1993, Vol.144(3), p181−185)によって行い、得られた形質転換体を50μg/mLカナマイシンを含むLBG寒天培地[トリプトン10g、イーストエキストラクト5g、NaCl5g、グルコース20g、及び寒天15gを蒸留水1Lに溶解]に塗抹した。この培地上に生育した株は、pQsuB1がブレビバクテリウム・フラバムMJ233株菌体内で複製不可能なプラスミドであるため、該プラスミドのqsuB遺伝子とブレビバクテリウム・フラバムMJ−233株ゲノム上の同遺伝子との間で相同組み換えを起こした結果、同ゲノム上に該プラスミドに由来するカナマイシン耐性遺伝子が挿入されているはずである。この様にして得られたカナマイシン耐性株がそのゲノム上に存在するqsuB遺伝子とプラスミドpQsuB1に存在する該遺伝子との間で相同組み換えを起こしたものであるか否かの確認は、配列番号1及び配列番号5、配列番号4及び配列番号6の合成DNAをプライマーとして用いたコロニーPCRにより行った。鋳型DNAは、コロニーを50μLの滅菌水に懸濁した後、5分間煮沸処理した上清とした。反応液組成:鋳型DNA1μL、Ex−TaqDNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)0.2μL、1倍濃度添付バッファー、0.2μM 各々プライマー、0.2μM dNTPsを混合し、全量を20μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、98℃で10秒、55℃で20秒、72℃で2分からなるサイクルを35回繰り返した。但し、1サイクル目の95℃での保温は2分、最終サイクルの72℃での保温は5分とした。上記方法にてカナマイシン耐性菌株を分析した結果、配列番号1及び配列番号5の組み合わせでは1,256bp、配列番号4及び配列番号6の組み合わせでは1,866bpのPCR増幅産物を得る株を選抜し、これをブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔQsuB/PC−4/ΔLDHと命名した。
(QsuB破壊株の合成培地における増殖評価)
MM培地(尿素:4g、硫酸アンモニウム:14g、リン酸1カリウム:0.5g、リン酸2カリウム0.5g、硫酸マグネシウム・7水和物:0.5g、硫酸第一鉄・7水和物:20mg、硫酸マンガン・水和物:20mg、D−ビオチン:200μg、塩酸チアミン:200μg、蒸留水1Lに溶解)100mLを500mLの三角フラスコに入れ、120℃、20分加熱滅菌した。これを室温まで冷やし、あらかじめ滅菌した50%グルコース水溶液を6mL、無菌濾過した5%カナマイシン水溶液を50μL添加し、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔQsuB/PC−4/ΔLDHをOD660の吸光度が1.0となるように接種し、160rpm、30℃にて培養した。培養開始後、1.5、3.1、5.0、7.0、9.0、11.0、23.5時間でOD660の吸光度を測定した。測定結果を表1に示す。
<参考例1>
[ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDH株の作製]
(ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)増強株の作製)
(A)ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株ゲノムDNAの抽出
A培地[尿素 2g、(NH42SO4 7g、KH2PO4 0.5g、K2HPO4 0.5g、MgSO4・7H2O 0.5g、FeSO4・7H2O 6mg、MnSO4・4−5H2O6mg、ビオチン 200μg、チアミン 100μg、イーストエキストラクト 1g、カザミノ酸 1g、グルコース 20g、蒸留水1Lに溶解]10mLに、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株を対数増殖期後期まで培養し、遠心分離(10000g、5分)により菌体を集めた。得られた菌体を10mg/mLの濃度にリゾチームを含む10mM NaCl/20mMトリス緩衝液(pH8.0)/1mM EDTA・2Na溶液0.15mLに懸濁した。次に、上記懸濁液にプロテナーゼKを、最終濃度が100μg/mLになるように添加し、37℃で1時間保温した。さらにドデシル硫酸ナトリウムを最終濃度が0.5%になるように添加し、50℃で6時間保温して溶菌した。この溶菌液に、等量のフェノール/クロロフォルム溶液を添加し、室温で10分間ゆるやかに振盪した後、全量を遠心分離(5,000G、20分間、10〜12℃)し、上清画分を分取し、酢酸ナトリウムを0.3Mとなるように添加した後、2倍量のエタノールを加え混合した。遠心分離(15,000G、2分)により回収した沈殿物を70%エタノールで洗浄した後、風乾した。得られたDNAに10mMトリス緩衝液(pH7.5)−1mM EDTA・2Na溶液5mLを加え、4℃で一晩静置し、以後のPCRの鋳型DNAに使用した。
(B)PC遺伝子プロモーター置換用プラスミドの構築
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株由来ピルベートカルボキシラーゼ遺伝子のN末端領域のDNA断片の取得は、上記(A)で調製したDNAを鋳型とし、全ゲノム配列が報告されているコリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13032株の該遺伝子の配列(GenBank Database Accession No.BA000036のCgl0689)を基に設計した合成DNA(配列番号19および配列番号20)を用いたPCRによって行った。尚、配列番号19のDNAは5'末端がリン酸化されたものを用いた。反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)0.2μL、1倍濃度添付バッファー、0.3μM各々プライマー、1mM MgSO4、0.25μMdNTPsを混合し、全量を20μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で1分らなるサイクルを35回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は1分20秒、最終サイクルの72℃での保温は4分とした。増幅産物の確認は、0.75%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することにより行い、約0.9kbの断片を検出した。ゲルからの目的DNA断片の回収は、QIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて行い、これをPC遺伝子N末端断片とした。
一方、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株由来で構成的に高発現するTZ4プロモーター断片はプラスミドpMJPC1(特開2005−95169)を鋳型とし、配列番号21および配列番号22に記載の合成DNAを用いたPCRにより調製した。尚、配列番号22のDNAは5'末端がリン酸化されたものを用いた。反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製) 0.2μL、1倍濃度添付バッファー、0.3μM各々プライマー、1mM MgSO4、0.25μMdNTPsを混合し、全量を20μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で30秒分らなるサイクルを25回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は1分20秒、最終サイクルの72℃での保温は3分とした。増幅産物の確認は、1.0%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することにより行い、約0.5kbの断片を検出した。ゲルからの目的DNA断片の回収は、QIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて行い、これをTZ4プロモーター断片とした。
上記にて調製したPC遺伝子N末端断片とTZ4プロモーター断片を混合し、ライゲーションキットver.2(宝酒造製)を用いて連結後、制限酵素PstIで切断し、1.0%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離し、約1.0kbのDNA断片をQIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて回収し、これをTZ4プロモーター::PC遺伝子N末端断片とした。さらにこのDNA断片と大腸菌プラスミドpHSG299(宝酒造製)をPstIで切断して調製したDNAと混合し、ライゲーションキットver.2(宝酒造製)を用いて連結した。得られたプラスミドDNAで大腸菌(DH5α株)を形質転換した。この様にして得られた組換え大腸菌を50μg/mL カナマシンおよび50μg/mL X−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素PstIで切断することにより、約1.0kbの挿入断片が認められ、これをpMJPC17.1と命名した。
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233株由来ピルベートカルボキシラーゼ遺伝子の5'上流領域のDNA断片の取得は、上記(A)で調製したDNAを鋳型とし、全ゲノム配列が報告されているコリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13032株の該遺伝子の配列(GenBank Database Accession No.BA000036)を基に設計した合成DNA(配列番号23および配列番号24)を用いたPCRによって行った。反応液組成:鋳型DNA1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製) 0.2μL、1倍濃度添付バッファー、0.3μM各々プライマー、1mM MgSO4、0.25μMdNTPsを混合し、全量を20μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で30秒からなるサイクルを35回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は1分20秒、最終サイクルの72℃での保温は5分とした。増幅産物の確認は、1.0%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することにより行い、約0.7kbの断片を検出した。ゲルからの目的DNA断片の回収は、QIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて行った。回収したDNA断片は、T4 ポリヌクレオチドキナーゼ(T4 Polynucleotide Kinase:宝酒造製)により5′末端をリン酸化した後、ライゲーションキットver.2(宝酒造製)を用いて大腸菌ベクターpUC119(宝酒造製)のSmaI部位に結合し、得られたプラスミドDNAで大腸菌(DH5α株)を形質転換した。この様にして得られた組換え大腸菌を50μg/mL アンピシリンおよび50μg/mL X−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを、配列番号25および配列番号24で示した合成DNAをプライマーとしたPCR反応に供した。反応液組成:上記プラスミド1ng、Ex−TaqDNAポリメラーゼ(宝酒造社製) 0.2μL、1倍濃度添付バッファー、0.2μM各々プライマー、0.25μMdNTPsを混合し、全量を20μLとした。反応温度条件:DNAサーマルサイクラー PTC−200(MJResearch社製)を用い、94℃で20秒、60℃で20秒、72℃で50秒からなるサイクルを20回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は1分20秒、最終サイクルの72℃での保温は5分とした。このようにして挿入DNA断片の有無を確認した結果、約0.7kbの増幅産物を認めるプラスミドを選抜し、これをpMJPC5.1と命名した。
次に、上記pMJPC17.1およびpMJPC5.1をそれぞれ制限酵素XbaIで切断後混合し、ライゲーションキットver.2(宝酒造製)を用いて連結した。これを制限酵素SacIおよび制限酵素SphIで切断したDNA断片を0.75%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMCBioProducts製)ゲル電気泳動により分離し、約1.75kbのDNA断片をQIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を用いて回収した。このPC遺伝子の5'上流領域とN末端領域の間にTZ4プロモーターが挿入されたDNA断片を、sacB遺伝子を含むプラスミドpKMB1(特開2005−95169)をSacIおよびSphIで切断して調製したDNAと混合し、ライゲーションキットver.2(宝酒造製)を用いて連結した。得られたプラスミドDNAで大腸菌(DH5α株)を形質転換した。この様にして得られた組換え大腸菌を50μg/mLカナマシンおよび50μg/mLX−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素SacIおよびSphIで切断することにより、約1.75kbの挿入断片が認められ、これをpMJPC17.2と命名した(図2)。
(C)PC増強株の作製
ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔLDH(ラクテートデヒドロゲナーゼ遺伝子破壊株:特開2005−95169)の形質転換に用いるプラスミドDNAは、pMJPC17.2のプラスミドDNAを用いて塩化カルシウム法(Journal of Molecular Biology,53,159,1970)により形質転換した大腸菌JM110株から再調製した。ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔLDH株の形質転換は電気パルス法(Res.Microbiol.、Vol.144, p.181−185, 1993)によって行い、得られた形質転換体をカナマイシン 25μg/mLを含むLBG寒天培地[トリプトン10g、イーストエキストラクト5g、NaCl 5g、グルコース 20g、及び寒天15gを蒸留水1Lに溶解]に塗抹した。この培地上に生育した株は、pMJPC17.2がブレビバクテリウム・フラバムMJ233株菌体内で複製不可能なプラスミドであるため、該プラスミドのPC遺伝子とブレビバクテリウム・フラバムMJ233株ゲノム上の同遺伝子との間で相同組み換えを起こした結果、ゲノム上に該プラスミドに由来するカナマイシン耐性遺伝子およびsacB遺伝子が挿入されているはずである。次に、上記相同組み換え株をカナマイシン25μg/mLを含むLBG培地にて液体培養した。この培養液の菌体数約100万相当分を10%ショ糖含有LBG培地に塗抹にした。結果、2回目の相同組み換えによりsacB遺伝子が脱落しショ糖非感受性となったと考えられる株を数十個得た。この様にして得られた株の中には、そのPC遺伝子の上流にpMJPC17.2に由来するTZ4プロモーターが挿入されたものと野生型に戻ったものが含まれる。PC遺伝子がプロモーター置換型であるか野生型であるかの確認は、LBG培地にて液体培養して得られた菌体を直接PCR反応に供し、PC遺伝子の検出を行うことによって容易に確認できる。TZ4プロモーターおよびPC遺伝子をPCR増幅するためのプライマー(配列番号26および配列番号27)を用いて分析すると、プロモーター置換型では678bpのDNA断片を認めるはずである。上記方法にてショ糖非感受性となった菌株を分析した結果、TZ4プロモーターが挿入された株を選抜し、該株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDHと命名した。
(D)ピルベートカルボキシラーゼ酵素活性の測定
上記(C)で得られた形質転換株ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDH株をグルコース2%を含むA培地100mLで終夜培養を行った。得られた菌体を集菌後、50mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)50mLで洗浄し、同組成の緩衝液20mLに再度懸濁させた。懸濁液をSONIFIER 350(BRANSON製)で破砕し、遠心分離した上清を無細胞抽出液とした。得られた無細胞抽出液を用いピルベートカルボキシラーゼ活性を測定した。酵素活性の測定は100mM Tris/HCl緩衝液(pH7.5)、 0.1mg/10mlビオチン、5mM 塩化マグネシウム、50mM 炭酸水素ナトリウム、5mM ピルビン酸ナトリウム 、5mM アデノシン3リン酸ナトリウム、0.32 mM NADH、20units/1.5mlリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(WAKO製、酵母由来)及び酵素を含む反応液中で25℃で反応させることにより行った。1Uは1分間に1μmolのNADHの減少を触媒する酵素量とした。ピルベートカルボキシラーゼの発現を強化した無細胞抽出液における比活性は 0.1U/mg蛋白質であった。尚、親株であるMJ233/△LDH株を同様に培養した菌体では、本活性測定方法検出限界以下であった。
<比較例1>
(合成培地における増殖評価)
使用する菌株をブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔQsuB/PC−4/ΔLDHの代わりに、ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDHを培養した以外、実施例1と同様に行った。ただし、培養時のカナマイシン添加は行わなかった。実施例1と同様に、培養開始後、1.5、3.1、5.0、7.0、9.0、11.0、23.5時間でOD660の吸光度を測定した。測定結果を表1に示す。
Figure 0006032198
表1に示された結果より、qsuB遺伝子の破壊によって合成培地における増殖は悪化しないことが確認された。
<実施例2>
(QsuB破壊株によるコハク酸の製造)
A培地(尿素:4g、硫酸アンモニウム:14g、リン酸1カリウム:0.5g、リン酸2カリウム0.5g、硫酸マグネシウム・7水和物:0.5g、硫酸第一鉄・7水和物:20mg、硫酸マンガン・水和物:20mg、D−ビオチン:200μg、塩酸チアミン:200μg、酵母エキス:1g、カザミノ酸:1g、蒸留水1Lに溶解)100mLを500mLの三角フラスコに入れ、120℃、20分加熱滅菌した。これを室温まで冷やし、あらかじめ滅菌した50%グルコース水溶液を8mL、無菌濾過した5%カナマイシン水溶液を50μL添加し、実施例1で作成したQsuB破壊株(ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔQsuB/PC−4/ΔLDH)をOD660の吸光度が1.0となるように接種して30℃にて培養した。
培養を開始してから12時間後に炭酸水素アンモニウムを3.16g添加し、三角フラスコの口をパラフィルムで密閉して12時間反応させた。反応後、10,000G、5分の遠心分離によって菌体を取り除き、その上清の有機酸濃度を上記記載の測定方法で分析した結果、反応後培養液中のコハク酸生成量当たりのプロトカテク酸生成量は、12ppmであった。反応後培養液中のコハク酸濃度は、14.3 g/Lであった。
<比較例2>
実施例1で作製したQsuB破壊株(ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/ΔQsuB/PC−4/ΔLDH)の代わりに、参考例1で作製したピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)増強株(ブレビバクテリウム・フラバムMJ233/PC−4/ΔLDH)を用いた以外、実施例2と同様に株の評価を行った。ただし、培養時のカナマイシン添加は行わなかった。
実施例2と同様の測定方法で培養液中の有機酸濃度を分析した結果、反応後培養液中のコハク酸生成量当たりのプロトカテク酸生成量が564ppmであった。反応後培養液中のコハク酸濃度は、14.5 g/Lであった。
これらの結果より、qsuB遺伝子の破壊によってプロトカテク酸の副生量が顕著に低減することが確認された。
[実験例1]
[比較例2で得られたコハク酸を用いたポリマー製造のモデル実験]
(コハク酸を含む溶液Aの調製)
食品添加物グレードのコハク酸(川崎化成製)およびプロトカテク酸(和光純薬工業株式会社製)を80℃温水に溶解し、コハク酸濃度35重量%、プロトカテク酸濃度197ppm(対コハク酸564ppm)の溶液Aを作製した。
(晶析)
このように調製したコハク酸を含む溶液Aをコハク酸水溶液供給槽に貯蔵し、プログラム付循環恒温槽でジャケット温度を80℃に制御した晶析槽内へ、液位が所定の位置になるよう原液供給ポンプで晶析槽に供給した。液位が所定の位置になった後、パドル翼を500回転/分で攪拌し、晶析槽のジャケットへ供給している温水を約1時間かけ20℃まで下げ、晶析槽内の温度を20℃まで冷却した。20℃に到達後、温度を維持しながらさらに1時間攪拌を続けた。
その後、晶析槽内の温度を20℃に維持できるようジャケットに通液する冷水温度を制御しながら、コハク酸を含む溶液Aを250ml/分で連続的に供給するとともに、約15分に一回の頻度で晶析槽内のコハク酸スラリー容積がほぼ一定となるように固体コハク酸含有スラリーをスラリー抜出槽へ間欠的に抜き出した。抜き出したコハク酸含有スラリーは真空ろ過し、その都度コハク酸ウェットケーキと晶析母液に分離した。
この連続晶析操作を24時間継続し、連続晶析操作開始後6時間目以降に得られたコハク酸ウェットケーキを回収した。回収したコハク酸ウェットケーキは、ウェットケーキに対して5重量倍の10℃の冷水で懸濁洗浄した後、当該スラリーを真空ろ過しコハク酸ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを80℃で真空乾燥し、コハク酸を回収した。
このようにして得られたコハク酸を、コハク酸濃度35重量%となるように80℃温水に溶解し、再び上記晶析操作により、7時間連続晶析を行い、連続晶析操作の6時間目から7時間目までの間に得られたコハク酸ウェットケーキをウェットケーキに対して5重量倍の10℃の冷水で懸濁洗浄した後、当該スラリーを真空ろ過しコハク酸ウェットケーキを得た。こうして得られたウェットケーキを80℃で真空乾燥し、コハク酸55gを回収した。得られたコハク酸中の芳香族カルボン酸を定量したところ、プロトカテク酸が3.6ppm含まれていた。
(ポリマー製造)
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧用排気口を備えた反応容器に、原料として前記晶析操作により得られたコハク酸100重量部、三菱化学社製工業グレードの1,4−ブタンジオール99.2重量部、リンゴ酸0.38重量部(コハク酸に対して総リンゴ酸量0.33mol%)を仕込み、窒素−減圧置換によって系内を窒素雰囲気下にした。次に、系内を撹拌しながら1時間かけて230℃まで昇温し、この温度で1時間反応させた。この反応液に、以下の方法で作製した触媒溶液を、原料使用量から理論的に計算されるポリエステルあたり、チタン原子として50ppmとなる量添加した。
撹拌装置付き500cm3のガラス製ナス型フラスコに酢酸マグネシウム・4水和物を62.0g入れ、更に250gの無水エタノール(純度99重量%以上)を加えた。更にエチルアシッドホスフェート(モノエステル体とジエステル体の混合重量比は45:55)を35.8g加え、23℃で撹拌を行った。15分後に酢酸マグネシウムが完全に溶解したことを確認後、テトラ−n−ブチルチタネートを75.0g添加した。更に10分間撹拌を継続し、均一混合溶液を得た。この混合溶液を、1000cm3のナス型フラスコに移し、60℃のオイルバス中でエバポレーターによって減圧下で濃縮を行った。1時間後に殆どのエタノールが留去され、半透明の粘稠な液体が残った。オイルバスの温度を更に80℃まで上昇させ、5Torrの減圧下で更に濃縮を行った。粘稠な液体は表面から粉体状へと徐々に変化し、2時間後には完全に粉体化した。その後、窒素を用いて常圧に戻し、室温まで冷却し、淡黄色粉体108gを得た。得られた触媒の金属元素分析値は、チタン原子含有量が10.3重量%、マグネシウム原子含有量が6.8重量%、リン原子含有量が7.8重量%であり、モル比としては、T/P=0.77,M/P=1.0であった。更に、この粉体状の触媒を1,4−ブタンジオールに溶解させ、チタン原子として34、000ppmとなるように調製した。
触媒溶液を添加後、反応容器内の温度を250℃まで徐々に昇温し、同時に2時間かけて0.06×103Paになるように減圧し、更に同減圧度で2.5時間反応を行い、ポリエステルを製造した。このポリエステルを、前記ポリマーの評価方法に従って評価したところ、YIは10、還元粘度(ηsp/c)は2.3、末端カルボキシル基量は24当量/トンであった。
[実験例2]
[実施例2で得られたコハク酸を用いたポリマー製造のモデル実験(1)]
(コハク酸を含む溶液Bの調製、晶析およびポリマー製造)
食品添加物グレードのコハク酸(川崎化成製)およびプロトカテク酸(和光純薬工業株式会社製)を80℃温水に溶解し、コハク酸濃度35重量、プロトカテク酸濃度4.2ppm(対コハク酸12ppm)の溶液Bを作製した。
上記コハク酸を含む溶液Bを用いた以外は実験例1と同様にして晶析操作を行い、コハク酸54gを回収した。得られたコハク酸中の芳香族カルボン酸を定量したところ、プロトカテク酸が0.1ppm含まれていた。
得られたコハク酸を用いて、実験例1と同様にしてポリエステルを製造し、このポリエステルを、前記ポリマーの評価方法に従って評価したところ、YIは5、還元粘度(ηsp/c)は2.3、末端カルボキシル基量は24当量/トンであった。
[実験例3]
[実施例2で得られたコハク酸を用いたポリマー製造のモデル実験(2)]
(コハク酸を含む溶液Bを用いた晶析およびポリマー製造)
上記コハク酸を含む溶液Bをコハク酸水溶液供給槽に貯蔵し、実験例1と同様にして連続晶析操作を24時間継続し、連続晶析操作開始後6時間目以降に得られたコハク酸ウェットケーキを回収した。回収したコハク酸ウェットケーキは、ウェットケーキに対して5重量倍の10℃の冷水で懸濁洗浄した後、当該スラリーを真空ろ過しコハク酸ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを80℃で真空乾燥し、コハク酸を回収した。得られたコハク酸中の芳香族カルボン酸を定量したところ、プロトカテク酸が、1ppm含まれていた。
得られたコハク酸を用いて、実験例1と同様にしてポリエステルを製造し、このポリエステルを、前記ポリマーの評価方法に従って評価したところ、YIは6、還元粘度(ηsp/c)は2.3、末端カルボキシル基量は24当量/トンであった。
[実験例4]
(コハク酸を含む溶液Cの調製、晶析およびポリマー製造)
食品添加物グレードのコハク酸(川崎化成製)およびコハク酸ジアンモニウム(和光純薬工業株式会社製)を80℃温水に溶解し、コハク酸濃度35重量%、アンモニウムイオン濃度175ppm(対コハク酸5000ppmの溶液Cを作製した。
上記コハク酸を含む溶液Cを用いた以外は実験例1と同様にして晶析操作を行い、コハク酸60gを回収した。得られたコハク酸中のアンモニウムイオン量を定量したところ、検出限界(0.1ppm)以下であった。
得られたコハク酸を用いて、実験例1と同様にしてポリエステルを製造し、このポリエステルを、前記ポリマーの評価方法に従って評価したところ、YIは5、還元粘度(ηsp/c)は2.3、末端カルボキシル基量は24当量/トンであった。
実験例1〜実験例4により、本発明のポリマーの製造方法によればポリマーの着色が低減できることがわかる。
[実験例5]
下記文献の方法を参考に、ウビトン酸を合成した。すなわちアンモニアのエタノール溶液(2mol)10mlを100ml三口フラスコ内のおさめ、N2下でマグネチックスターラで攪拌しながら、室温でピルビン酸0.91g(0.01mol)を滴下した。やや発熱し、数分後に白色沈殿が析出した。その後、白色沈殿をエタノールで洗浄した。
参考文献
1.J.Org.Chem., 50、1688(1985)
2.Biochimie,54,115(1972)
3.Vegetable Physiology and Agriculture
4.J.Org.Chem., 47、1148(1982)
Figure 0006032198
コハク酸として食品添加物グレードのコハク酸(川崎化成製)を用い、プロトカテク酸(和光純薬工業株式会社製)または上記の方法で製造したウビトン酸を、表2に記載した量含有させた以外は、上記実験例1と同様にしてポリエステルを製造した。得られたポリエステルのYI値を、前記ポリマーの評価方法に従い測定した。測定の結果を下記表2に示す。
Figure 0006032198
以上の結果から、芳香族カルボン酸の一種であるプロトカテク酸及びウビトン酸がポリマーの着色原因物質の一つであることが判る。
一般的にコハク酸は石油化学由来の原料から製造され、多種多様な用途に使用されているが、このような用途に対してバイオ資源から誘導されたコハク酸も同様に好ましく使用することができる。例えば、1,4−ブタンジオール、2−ピロリジン、スクシンイミド、無水マレイン酸、イタコン酸、アスパルギン酸、マレイン酸、フマル酸、ヒドロキシスクシンイミド、マレイミド、4−アミノ酪酸、γ−アミノ酪酸、テトラヒドロフラン、アクリル酸、コハク酸ジメチルやコハク酸ジエチル等のコハク酸エステル、ピリロリドン若しくはN−メチルピロリドン等の原料として、ポリエステル、ポリウレタン若しくはポリアミド等のポリマー化合物や製品等の原料として、酸味料、調味料、醸造薬品若しくは加工食品添加剤等の食品添加剤として、発泡浴成分として、植物成長抑制剤、除草剤、抗菌剤、殺虫剤若しくは蚊誘引剤等の医薬品及び農薬の合成原料及び成分として、口腔洗浄剤や化粧品等の原料及び成分として、写真や印刷等に使用される製品の原料及び成分として、高温溶接剤やアルマイト処理表面接着剤等、接着剤及びシーラント原料及び成分として、粉末ニッケル製造、鉄鋼研磨浴、金属加工洗浄溶媒若しくは金属シンタリング用バインダー等の金属加工用の原料及び成分として、ハンダ若しくは溶接用フラックスの原料及び成分として、多孔質酸化チタン製造、ベーマイト製造、光触媒コーティング剤もしくは多孔質セラミック製造等のセラミックや無機化合物等の製造助剤の原料及び成分として、洗剤等の原料及び成分として、漂白剤等の原料及び成分として、染色助剤等の原料及び成分として、電解質溶媒及びメッキ浴液等の原料及び成分として、脱臭剤若しくは空気洗浄剤等の原料及び成分として、生体吸収性縫合糸等の生体吸収性化合物原料として、繊維製品の処理やソフトナー等の原料及び成分として、溶剤若しくは溶媒等の原料及び成分として、水溶性塗料溶剤の原料及び成分として、生分解性樹脂等の原料及び成分として、無臭シーラント等、シーラント原料及び成分として、鉄鋼製品、銅製品若しくは合金製品に対するコーティング・凍結防止・金属加工・過塩素酸用鉛・ボイラー水処理用等の防食剤等の原料及び成分として、合成潤滑剤、耐熱性プラスチック用潤滑剤若しくは電気接点用潤滑剤等の潤滑剤の合成原料及び成分として、樹脂若しくは高分子材料等の溶媒除去洗浄剤等の原料及び成分として、繊維工業若しくはドライクリーニング等に使用される製品の原料及び成分として、インク用溶剤、脱インキ剤、自動車用トップコート剤、絶縁塗料、粉体塗料、三次元印刷用インク、光硬化型塗料、光硬化インク組成物、ナノ粒子インク、インクジェット用インク、印刷スクリーン洗浄、有機半導体溶液、カラーフィルタ製造用インク、トナー、キナクドン顔料製造、スクシニルコハク酸製造、染料中間体等、顔料、染料若しくはインク等の原料及び成分として、含酸素型ディーゼル燃料等の原料及び成分として、セメント混和剤及び処理剤等の原料及び成分として、エンジン浄化剤等の原料及び成分として、石油精製溶剤等の原料及び成分として、プロパント組成物若しくは析出フィルターケーキ除去等の石油及び天然ガス採掘助剤等の原料及び成分として、天然ガス脱水溶媒等の天然ガス生産に係る製品の原料及び成分として、低ダスト性コンクリート床材若しくはアスファルト舗装剤等の建材の原料及び成分として、インク用溶剤や脱インク剤等の原料及び成分として、使用できる。
配列表の説明
配列番号1(プライマーの塩基配列)
配列番号2(プライマーの塩基配列)
配列番号3(プライマーの塩基配列)
配列番号4(プライマーの塩基配列)
配列番号5(プライマーの塩基配列)
配列番号6(プライマーの塩基配列)
配列番号7、8(aroF遺伝子の塩基配列とコードされるアミノ酸配列)
配列番号9,10(aroG遺伝子の塩基配列とコードされるアミノ酸配列)
配列番号11,12(aroB遺伝子の塩基配列とコードされるアミノ酸配列)
配列番号13,14(qsuC遺伝子の塩基配列とコードされるアミノ酸配列)
配列番号15,16(qsuB遺伝子の塩基配列とコードされるアミノ酸配列)
配列番号17,18(qsuD遺伝子の塩基配列とコードされるアミノ酸配列)
配列番号19(pMJPC17.2構築用プライマーの塩基配列)
配列番号20(pMJPC17.2構築用プライマーの塩基配列)
配列番号21(pMJPC17.2構築用プライマーの塩基配列)
配列番号22(pMJPC17.2構築用プライマーの塩基配列)
配列番号23(pMJPC17.2構築用プライマーの塩基配列)
配列番号24(pMJPC17.2構築用プライマーの塩基配列)
配列番号25(pMJPC17.2構築用プライマーの塩基配列)
配列番号26(pMJPC17.2構築用プライマーの塩基配列)
配列番号27(pMJPC17.2構築用プライマーの塩基配列)

Claims (11)

  1. コハク酸生産能を有し、DAHPシンターゼ活性、デヒドロキナ酸シンターゼ活性、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して低減するように改変することにより、非改変株と比較して芳香族カルボン酸の生成が低減されるように改変された微生物又はその処理物を、有機原料に作用させてコハク酸を製造する工程、および得られたコハク酸を原料として重合反応を行う工程を含む、ポリマーの製造方法。
  2. 前記コハク酸が晶析処理されたものである、請求項1に記載のポリマーの製造方法。
  3. 前記芳香族カルボン酸がヒドロキシベンゼンカルボン酸である、請求項1または2に記載のポリマーの製造方法。
  4. 前記ポリマーが、ポリエステル又はポリアミドである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリマーの製造方法。
  5. コハク酸生産能を有し、DAHPシンターゼ活性、デヒドロキナ酸シンターゼ活性、デヒドロキナ酸デヒドラタ−ゼ活性、及びデヒドロシキミ酸デヒドラタ−ゼ活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株と比較して低減するように改変することにより、非改変株と比較して芳香族カルボン酸の生成が低減されるように改変された微生物又はその処理物を、有機原料に作用させることを特徴とするコハク酸の製造方法。
  6. 前記微生物あるいはその処理物を嫌気的雰囲気下で有機原料に作用させることを特徴とする、請求項5に記載のコハク酸の製造方法。
  7. コハク酸の晶析処理工程を含む、請求項5または6に記載のコハク酸の製造方法。
  8. 前記微生物を有機原料に作用させて得られた反応液から、コハク酸を採取する工程を含む、請求項5または6に記載のコハク酸の製造方法。
  9. 前記コハク酸を採取する工程として晶析処理を含み、得られたコハク酸に対するプロトカテク酸濃度が80ppm以下であることを特徴とする、請求項8に記載のコハク酸の製造方法。
  10. 前記芳香族カルボン酸がヒドロキシベンゼンカルボン酸である、請求項5〜9のいずれか一項に記載のコハク酸の製造方法。
  11. 前記微生物が、コリネ型細菌、マイコバクテリウム属細菌、ロドコッカス属細菌、ノカルディア属細菌、またはストレプトマイセス属細菌よりなる群から選ばれる少なくとも1種類の細菌である請求項5〜10のいずれか一項に記載のコハク酸の製造方法。
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