JP6030322B2 - 塗装鋼板、加工品および薄型テレビ用パネル - Google Patents

塗装鋼板、加工品および薄型テレビ用パネル Download PDF

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Description

本発明は、塗装鋼板、加工品および薄型テレビ用パネルに関するものであり、特に、曲げ加工性およびプレス加工後の外観に優れ、しかも薄くかつ塗装皮膜の硬度が高い黒色の塗装鋼板に関するものである。
本発明の塗装鋼板は、例えば、液晶テレビやプラズマテレビのような薄型テレビ用パネルに代表される、AV機器などの筐体の素材として好適に使用される。
塗装鋼板は、例えば、テレビ用パネル等に成形される際に、プレス加工や曲げ加工が行われるのが一般的であり、曲げ加工性およびプレス加工後の外観が良好であることが要求されている。通常、プレコート鋼板(塗装鋼板)では、外面側の下塗り塗膜に主として変性ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂を使用することで、下地鋼板との密着性、耐食性などを確保し、さらに、外面側の上塗り塗膜にポリエステル系、アクリル系塗膜などを使用することで、主として耐汚染性、意匠性、耐疵付き性、耐エタノール性および耐塩酸性または耐アルカリ性であるバリア性などを付与する2コート鋼板とすることが一般的である。
さらには、下塗り塗膜と上塗り塗膜の間に、中塗り塗膜を形成した3コート鋼板もある。
従来の2コート塗装鋼板は、特許文献1に開示されているように、隠蔽性や耐食性の観点から、下塗り塗膜の膜厚が5μm程度、上塗り塗膜の膜厚は、最低でも12μm必要とされ、これら塗膜の総膜厚は、20μm以上とするのが一般的である。しかしながら、20μmもの塗膜を形成するには、塗装や焼付のための時間が長くかかり、また塗膜の膜厚が厚いほど製造コストの点でも不利となるため、塗装作業の合理化や省資源化の観点から塗膜の薄膜化が望まれていた。
これに応えるものとして、特許文献2において、塗膜中に樹脂粒子を添加することにより、10μm以下の膜厚でも、曲げ加工性やプレス加工後の外観に優れ、かつ十分な塗膜硬度を持つ塗装鋼板が提案されている。
加えて、特許文献3において、樹脂皮膜の硬度を高めることにより、従来よりも厳しい加工条件においてもプレス加工後の外観に優れる塗装鋼板が提案されている。
特開平4−215873号公報 特開2007−269010号公報 特開2010−065254号公報
上述した特許文献2、3の技術の開発により、塗装鋼板の塗膜の厚みが10μm以下で、かつ、厳しいプレス加工後においても外観に問題のない塗装鋼板が得られるようになった。
一方、最近では薄型テレビの人気の高まりとともに、薄型テレビ用パネル等において、有色系、特に黒色の皮膜を有する塗装鋼板に対する要望が高まっている。また、薄型テレビ用パネルの形状は毎年変化するが、近年では更なるテレビの薄型化に伴い、形状も複雑化している。
そこで、本発明者らは、特許文献3に従い、硬度が200N/mm以上の黒色塗装鋼板の製造を試みたところ、特に複雑な形状のプレス加工を行った時の黒色塗装鋼板の外観に改善の余地を残していることが分かった。
本発明の目的は、上記の問題を有利に解決するもので、良好なプレス加工後外観を有する塗装鋼板を、その加工品、中でも薄型テレビ用パネルと共に提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成するため、特許文献3に従った薄膜化塗膜の外観劣化の原因について検討した。その結果、プレス加工後の黒色塗装鋼板の外観は、プレス加工中のしわ押さえ圧が98kN(10tf)程度の条件でプレス加工を行った時には、特許文献3のバルクの樹脂皮膜の硬度が高いことにより、問題は生じないが、複雑な形状を連続プレスするためにプレス加工部をさらに加工する工程を加えた二段絞りを行うと、問題が生じることが判明した。
これにより、本発明者らは、樹脂皮膜の硬度のみならず、樹脂皮膜の伸びが外観を左右することを知見し、バルクの樹脂皮膜の硬度を維持したまま、樹脂皮膜の伸びを向上させるべく種々の検討を重ねて本発明を完成するに至った。
本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)鋼板の両面に形成された亜鉛系めっき層と、
前記亜鉛系めっき層の少なくとも一方の面上に形成されたクロムを含有しない化成皮膜と、
前記化成皮膜の上に形成された、ポリエステル樹脂、融点が60〜120℃であるワックス、および硬化剤を含み、さらにpH5以下のカーボンブラックを3質量%超15質量%以下含有する着色単一の有機皮膜と、を有し、
前記亜鉛系めっき層が、亜鉛めっき層、合金化亜鉛めっき層、アルミニウム−亜鉛合金めっき層、鉄−亜鉛合金めっき層のいずれかであり、
前記有機皮膜の膜厚が10μm以下であり、かつ、前記有機皮膜の硬度が300N/mm2以上であることを特徴とする塗装鋼板。
(2)前記カーボンブラックは、DBP吸油量が100以下であることを特徴とする上記(1)に記載の塗装鋼板。
(3)前記ポリエステル樹脂は、水酸基価が10KOHmg/g以上であり、かつ、数平均分子量が5000以上であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の塗装鋼板。
(4)前記硬化剤は、イミノ基含有メラミン樹脂であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の塗装鋼板。
)前記化成皮膜および前記有機皮膜を鋼板の一方の面に施した場合において、前記鋼板の他方の面の亜鉛系めっき層上に前記化成皮膜を有し、該他方の面の導電荷重が500g以下であることを特徴とする上記(1)〜()のいずれか一項に記載の塗装鋼板。
)前記他方の面の化成皮膜の上に有機樹脂層を有することを特徴とする上記()に記載の塗装鋼板。
)上記(1)〜()のいずれかに記載の塗装鋼板に、プレス加工を施してなる加工品。
)上記()に記載の加工品において、前記塗装鋼板の有機皮膜を具える面が、外部に露出する凸面になるプレス加工を施したことを特徴とする薄型テレビ用パネル。


本発明によれば、良好なプレス加工後外観を有する塗装鋼板を、その加工品、中でも薄型テレビ用パネルと共に提供することが可能となる。
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の塗装鋼板は、鋼板の両面に亜鉛系めっき層を形成し、この亜鉛系めっき層の少なくとも一方の面上に化成皮膜および有機皮膜を順次形成する。
塗装鋼板の各部の詳細について以下に述べる。
(亜鉛系めっき層)
本発明の塗装鋼板の下地鋼板となる亜鉛系めっき層を形成した鋼板としては、例えば、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板(例えば、溶融亜鉛−55質量%アルミニウム合金めっき鋼板、溶融亜鉛−5質量%アルミニウム合金めっき鋼板)、鉄−亜鉛合金めっき鋼板、ニッケル−亜鉛合金めっき鋼板などの各種亜鉛系めっき鋼板を用いることができる。
(化成皮膜)
上述した亜鉛系めっき層の上に形成された化成皮膜は、環境保護の観点から、クロムを含有しないものとする。前記化成皮膜は、主としてめっき層と着色単一の有機皮膜との密着性向上のために形成される。密着性を向上するものであればどのようなものでも支障はないが、密着性だけでなく耐食性を向上できるものがより好ましい。密着性と耐食性の点からシリカ微粒子を含有し、耐食性の点からリン酸及び/又はリン酸化合物を含有することが好ましい。
シリカ微粒子は、湿式シリカ、乾式シリカのいずれを用いても構わないが、密着性向上効果の大きいシリカ微粒子、特に乾式シリカが含有されることが好ましい。
リン酸やリン酸化合物は、例えば、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸など、これらの金属塩や化合物などのうちから選ばれる1種以上を含有すれば良い。さらに、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などの樹脂、シランカップリング剤などの添加剤を適宜添加してもよい。
(有機皮膜)
前記化成皮膜上に形成された着色単一の有機皮膜の膜厚は10μm以下であることが肝要である。膜厚が10μmを超えると、皮膜形成に長時間が必要となるばかりでなく、プレス加工時に切断端面から脱離する皮膜量が多くなり、製品に付着し外観を損ねるためである。より好ましくは5μm未満である。膜厚は、1μm以上とすることが好ましい。これは、膜厚を1μm以上とすると、当該皮膜の膜厚が均一となり、着色顔料が少ない部分が存在しないため、素地色および素地疵の隠蔽性が十分となり、耐食性の点でも十分となるためである。より好ましくは3μm以上である。
なお、有機皮膜の膜厚は、皮膜を施した鋼板の断面を、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を用い、1視野につき任意の3箇所の膜厚を測定し、少なくとも5視野で、合計15箇所以上で測定した膜厚の平均値を算出して求めることができる。
さらに、有機皮膜の硬度は300N/mm以上であることが肝要である。有機皮膜の硬度が300N/mm未満の場合、二段絞りの条件でのプレス加工後の外観が劣るためである。
有機皮膜の塗膜硬度は、フィッシャー硬度計(フィッシャー・インスツルメンツ製)により測定する。具体的には、フィッシャースコープHM2000を用い、ISO EN DIN 14577に規定された方法に従ってマルテンス硬さを求める。
有機皮膜は、ポリエステル樹脂および硬化剤を含み、さらにpH5以下のカーボンブラックを3質量%超15質量%以下含有することが肝要である。以下、ポリエステル樹脂、硬化剤、およびカーボンブラックについて説明する。
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコールを周知の方法で加熱反応させて得られる共重合体である。
多塩基酸成分としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水トリメリット酸、マレイン酸、アジピン酸、フマル酸などを用いることができる。
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどを用いることができる。
また、市販されているポリエステル樹脂としては、「アルマテックス」(登録商標、三井東圧化学(株)製)、「アルキノール」(商品名、住友バイエルウレタン(株)製)、「デスモフェン」(登録商標、住友バイエルウレタン(株)製)および「バイロン」(登録商標、東洋紡績(株)製)など、いずれもが好適に使用できる。
ポリエステル樹脂は、水酸基価が10KOHmg/g以上であることが好適である。水酸基価が10KOHmg/g以上の場合、架橋反応を行う箇所が多いため、耐溶剤性に優れ、後述するイミノ基含有メラミン樹脂の添加効果を十分に発揮することができる。
また、ポリエステル樹脂は、数平均分子量が5000以上20000未満であることが好適である。ポリエステル樹脂の分子量が5000以上の場合、有機皮膜の硬度が過度に高いことがなく、曲げ加工性および二段絞り後のプレス外観に優れた有機皮膜を得ることができる。一方、ポリエステル樹脂の分子量が20000未満の場合、架橋密度が充分であるので、後述するイミノ基含有メラミン樹脂の添加効果を向上させ、有機皮膜の硬度を300N/mm以上とすることができる。
(硬化剤)
ポリエステル樹脂は、有機皮膜が、皮膜硬度や曲げ加工性、プレス加工後の外観を確保し、また有機溶剤による溶解、変色を低減するために、充分に架橋していることが重要である。充分に架橋した有機皮膜を作製するために、硬化剤(架橋剤)を用いる必要があり、硬化剤として、イミノ基含有メラミン樹脂を使用することが好適であり、特に、3官能のイミノ基含有メラミン樹脂を使用することが好適である。
イミノ基含有メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとを縮重合して得られるトリメチロールメラミンのメチロール基を、メタノール、エタノールおよびブタノールなどの低級アルコールでエーテル化することにより得ることができる。また必要に応じて、これを数分子縮合したものを用いてもよい。
かようなイミノ基含有メラミン樹脂は、一般に市販されているもの、例えば「サイメル」(登録商標、三井サイアナミド社製)325、327、701、703、254等も好適に使用できる。
イミノ基含有メラミン樹脂の添加量は、ポリエステル樹脂100質量部に対して5質量部〜50質量部が好ましい。イミノ基含有メラミン樹脂の添加量がポリエステル樹脂100質量部に対して5質量部以上であると、有機皮膜が充分硬化し、プレス加工後の外観および耐溶剤性が向上する。また、イミノ基含有メラミン樹脂の添加量が50質量部以下であると、有機皮膜が硬くなりすぎることがなく、曲げ加工時のクラックの発生もなく、曲げ加工性に優れ、加工後の有機皮膜の密着性も向上する。
(カーボンブラック)
有機皮膜中には、pH5以下のカーボンブラックを3質量%超15質量%以下の範囲で含有させることも重要である。カーボンブラックのpHは、カーボンブラックを純水中に浸したときの上澄みが示すpHのことであるが、pHが低いことはカーボンブラックの表面に酸化処理で生じるカルボキシル基が多く存在することを意味する。カルボキシル基は表面を親水性にする効果があり、ポリエステル樹脂やイミノ基含有メラミン樹脂のような硬化剤との濡れ性向上に有利に作用する。そのためには、カーボンブラックのpHを5以下とする必要がある。
また、カーボンブラックは、硬化剤、例えば、イミノ基含有メラミン樹脂を架橋剤として使用した場合、同時に添加することにより、架橋作用を補完する作用が生じる。その結果、より強固な架橋となり、有機皮膜の硬度の上昇を実現し、しわ押さえ圧が高く複雑な形状のプレス加工においても外観に優れ、さらには後の塗装工程の省略が可能となり、生産性の向上にも有利に働き、素地色および素地疵の隠蔽性にも有利に作用する。なお、イミノ基含有メラミン樹脂のような硬化剤とカーボンブラックとの組み合わせで、架橋の補完作用が生じる理由については、まだ明確に解明されたわけではないが、有機皮膜内部にある樹脂分子の網目状組織が緻密になることによるものと推定される。
さらにまた、カーボンブラックの含有量が3質量%以下では、上述した効果が得られない。5質量%以上とすることがより好ましい。一方、含有量が15質量%を超えると、顔料が多すぎるため有機皮膜が脆化する。
カーボンブラックは、DBP吸油量が100以下であることが好適である。DBP吸油量とは、カーボンブラック100gが吸収するDBP(ジブチルフタレート)量で定義され(JIS K6217−4:2008)、一般にストラクチャーが発達しているほど吸油量は多くなる。DBP吸油量を100以下とすることで、ポリエステル樹脂やイミノ基含有メラミン樹脂との濡れ性向上にさらに有利に作用する。
また、有機皮膜には、目的に応じて、以下の添加物を適量配合することができる。この添加物としては、天然ワックスまたは合成ワックスなどのワックス、p−トルエンスルホン酸、オクトエ酸錫、ジブチル錫ジラウレートおよび2−エチルヘキサノエート鉛などの硬化触媒、その他消泡剤、顔料分散剤および流れ止め剤などである。さらに、軽度のプレス等、プレス加工の条件によっては、有機樹脂粒子や、粒子状アクリル樹脂、ナイロン樹脂、シリカ等の添加も妨げない。
本発明に用いられるワックスは、その融点が60℃以上120℃以下であることが好ましい。なぜなら、融点が60℃以上であれば、取り扱い時のべたつき、輸送時の高温環境による再融解、表面白化の問題、及びスリット時のけずれによる作業性劣化がなく、一方、融点が120℃以下であれば、プレス加工時に十分な潤滑性が得られるためである。
また、ワックスの含有率が0.1質量%以上10質量%以下であることが好適である。
なぜなら、0.1質量%以上であれば、塗装鋼板のプレス加工性を向上でき、一方、10質量%以下であれば、その効果を維持しつつ、コスト的に不利とならないためである。
また、有機皮膜には、防錆顔料および防錆剤を併用して配合することもできる。防錆顔料および防錆剤としては、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸アルミ、亜リン酸アルミ、モリブデン酸塩、リン酸モリブデン酸塩、バナジン酸/リン酸混合顔料、シリカ、カルシウムシリケートと呼ばれるCaを吸着させたタイプのシリカ等の公知の防錆顔料および防錆剤を使用することができる。
有機皮膜のガラス転移温度Tgは、40℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度Tgが40℃以上であれば、有機皮膜の靭性が低下せず、充分なプレス加工性が得られる上、皮膜硬度、加工後皮膜密着性などの特性も低下しないからである。
本発明では、ガラス転移温度は、剛体振り子型物性測定装置を用いて測定する。塗装鋼板の上に置かれた剛体振り子の自由減衰振動における対数減数率と、塗装鋼板の温度の関係が極大を示す温度を、塗装鋼板に密着した塗膜フィルムのガラス転移温度と定義する。従って、本発明のガラス転移温度Tgは、塗膜フリーフィルムのTgとは異なる。
このガラス転移温度Tgは、60℃以上90℃未満の範囲にある場合にさらに好適である。Tgが90℃未満の場合、皮膜が硬くなりすぎることがなく、加工時、皮膜にクラックが入ることがないからである。さらに好ましいのはTgが70℃以下である。
本発明の塗装鋼板を、例えば薄型テレビ用パネルとして使用する場合に、プレス加工したパネルの内面となる塗装鋼板の裏面は、溶接や電磁波シールド等の必要性から、導電性を付与することが好ましい。
かかる場合は、前記鋼板の他方の面上(裏面)にも、めっき層の上に、前述したクロムを含有しない化成皮膜または有機樹脂層を形成することで、従来のクロメート皮膜と同程度の耐食性と密着性を確保しつつ、優れた導電性も有することができる。この導電性は、導電荷重を500g以下とすることが、電磁波シールド性の観点で好ましい。さらに好ましいのは、300g以下とすることである。なお、この導電荷重は、表面抵抗が10−4Ω以下となる最小荷重のことである。
耐食性の要求度がそれほど高くない用途には、この他方の面はクロムを含有しない化成皮膜だけを形成し、特に電磁波シールド性に優れた塗装鋼板として提供できる。
耐食性の要求度が高い用途には、化成皮膜の上に必要に応じて有機樹脂層を形成することが好ましい。この場合、有機樹脂層としては、エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂が好適である。なお、この有機樹脂層は、Caイオン交換シリカを含有することが、さらに優れた耐食性を得るうえで有利である。
なお、上記した有機樹脂層を、めっき層の上に直接形成することができる。この場合、有機樹脂層としては、エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂が好適である。
放熱性の要求度が高い用途には、上記の化成皮膜の上に、熱吸収性顔料を含む有機樹脂層を形成することが有利である。
かような有機樹脂層としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂およびポリエステル樹脂等が例示される。
また、熱吸収性顔料は、特に限定されるものではなく、公知の顔料を用いればよいが、添加することにより積分放射率を上げる必要があるため、カーボンブラック、アニリンブラック、ポリメチレン染料、トリスアゾ染料アミン塩、シアニン染料またはその金属錯体、酸化鉄、酸化珪素およびマグネシウムケイ酸塩が例示される。これら熱吸収性顔料は、単独で添加してもよいが、二種以上組み合わせてもよい。
なお、積分放射率とは、4.5μm〜25μmの波長領域において、表面の分光反射率(R)を同温度の黒体放射を1(100%)として相対的に表し、波長範囲で積分したものである。
熱吸収性顔料の有機樹脂層に対する添加量としては、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。これは、0.1質量%以上で熱吸収効果が十分に得られ、20質量%以下とすると皮膜の耐食性が劣化することがないためである。
本発明の塗装鋼板は、プレス加工された後、電磁波シールド性や放熱性が要求される電子機器および家電製品等の用途で使用される部材に好適である。例えば、プラズマディスプレイパネルや液晶テレビなどの薄型TVの筐体、背面カバー、バックライトシャーシ及び構造部材に使用するのに適している。
また、本発明の塗装鋼板は、前記着色単一有機皮膜を具える面が外部に露出する凸面になるようにプレス加工された場合、電磁波シールド性や放熱性が要求される電子機器および家電製品等の用途で使用される部材、ならびに外部に露出する面の意匠性が必要な部位にも使用することができ、例えばプラズマディスプレイパネルや液晶テレビなどの背面パネルに使用するのに適している。
次に、本発明の実施例について説明する。
塗装用亜鉛系めっき鋼板として、各々板厚:0.5mmの電気亜鉛めっき鋼板(めっき種記号:EG)、溶融亜鉛めっき鋼板(めっき種記号:GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(Fe含有量:10質量%、めっき種記号:GA)、溶融Zn−Alめっき鋼板(Al含有量:4.5質量%、めっき種記号:GF)および溶融Zn−Alめっき鋼板(Al含有量:55質量%、めっき種記号:GL)を準備した。
各めっき鋼板の片面当たりめっき付着量(g/m)を表1−1〜3に示す。なお、鋼板の一方の面(表面)と他方の面(裏面)のめっき付着量およびめっき組成は同一とした。前記亜鉛系めっき鋼板に脱脂処理を行った後、以下の(i)および(ii)の処理を行い、サンプルとなる塗装鋼板を作製した。
(i)表面に、所定の化成処理薬剤をバーコーターにて塗布し乾燥させた後に、必要に応じて裏面に、前記表面と同じかまたは異なる化成処理薬剤を塗布し、その後、加熱10秒後に到達板温が100℃となるような加熱処理を行い、表1−1〜3および表2−1〜2に示す組成、膜厚の化成皮膜を表面および裏面に形成した。
なお、表面および裏面に形成した化成皮膜の組成については、別途表3に示す。
(ii)その後、表面に着色単一有機皮膜として、ポリエステル樹脂、イミノ基含有メラミン樹脂、カーボンブラックを含有する着色単一有機皮膜用塗料(含有量は表1−1〜3参照)を、表1−1〜3に示す乾燥膜厚となるように塗布した後、必要に応じて裏面に表2−1〜2(裏面の有機樹脂層の添加剤種にあっては表4)に示す組成の有機樹脂塗料を塗布し、その後、加熱開始から20秒後に到達板温が190℃となるように加熱処理を行い、表面の着色単一有機皮膜および/又は裏面の有機樹脂層を形成した。
なお、表1−1〜3中のガラス転移温度Tgは、JIS K71214.2(2)[熱流束示差走査熱量測定]に基づいて測定した。また、サイメル327とはイミノ基含有メラミンであり、サイメル701とはメチロール基(イミノ基含有メラミン)であり、サイメル303とは完全アルキル型メラミン樹脂(イミノ基含有なし)であり、HDIとはヘキサメチレンジイソシアネートである。さらに、着色単一有機皮膜のその他物質としては、硬化触媒として、ネイキュア−3225(キング・インダストリー社製、ジノニルナフタレンジスルホン酸のアミン塩)、他消泡剤として、フローレンAC−324(共栄社化学社製、アクリル・ビニルエーテル系共重合物)、顔料分散剤として、DISPERBYK2025(ビックケミー・ジャパン株式会社製、アクリル系共重合物)および流れ止め剤としてポリフローNO.90(共栄社化学社製、アクリル系共重合物)を4:1:2:1(質量比)の割合で使用した。
かくして得られた各黒色塗装鋼板について、以下に示す性質を調査した。
得られた結果を表2−1〜2に併せて示す。
本試験での皮膜硬度を、前記フィッシャースコープHM2000で測定したところ、発明例の皮膜硬度は、表1−1〜3に示されているとおり、いずれも300N/mm以上であることが確認できた。
<表面の評価>
(1)曲げ加工性
前記曲げ加工性は、JIS Z2248−1996に準拠し、前記塗装鋼板を、縦:60mm、横:30mmの大きさに切り出した試験片に、前記塗装鋼板を室温で180°に折り曲げる、いわゆる、0T曲げをしたときの曲げ加工部の頭頂部を目視及び10倍のルーペで観察した。評価は以下の基準に従って行った。
◎:有機皮膜の割れがルーペで観察されない
○:有機皮膜の割れが目視で観察されない
×:有機皮膜の割れが目視で観察される
(2)プレス加工後の外観
上記各塗装鋼板を、ブランク径:100mm、ポンチ径:50mm、ポンチ肩:4mmR、ダイ径:70mm、ダイ肩:4mmRおよび成形高さ:18mm、しわ押さえ圧:98kN(10tf)の条件で、円錐台成形を行い、側壁部の塗膜の外観を、目視により観察し、以下の基準に従って評価した。
また、上記各塗装鋼板を次の二段絞り試験により評価した。
ブランク径:100mmΦ、ポンチ径:50mmΦ、ポンチ肩:4mmR、しわ押さえ圧:10kNにて表面が外側となるようカップ成形を行い、引き続き成形したカップを用いて、ポンチ径:33mmΦ、ポンチ肩:4mmR、しわ押さえ圧:10kNにて二段カップ成形を行う。二段目の側壁部の塗膜の外観を、一段目の側壁部の塗膜の外観と目視比較し、以下の基準に従って評価した。
◎:損傷による外観の変化は発生せず
○:若干の損傷による外観の変化が認められた
×:損傷が多数発生し、外観の変化が著しかった
(3)素地隠蔽性
素地隠蔽性は、化成皮膜形成前の前記めっき鋼板の表面を、先端が金属のペンで疵をつけた後、前記した塗膜形成の処理工程を行って各塗装鋼板を作製し、表面を目視で観察した。評価は以下の基準に従って評価した。
○:傷が分からない
×:傷が明瞭に分かる
(4)耐溶剤性
上記塗装鋼板の有機皮膜の表面に対し、エタノールラビング試験を4.9N(0.5kgf)の荷重で10回行い、エタノールラビング試験前後のL値(明度)の変動幅(ΔL)を測定し、以下の基準に従って評価した。
◎:ΔLが1以下
○:ΔLが1超2以下の範囲
×:ΔLが2超
(5)耐食性
上記各サンプルから、試験片(大きさ:100mm×50mm)を切り出し、試験片の端部および裏面をテープシールした後、JIS Z2371−2000に準拠して、5質量%塩水を35℃で8時間噴霧した後、16時間休止する工程を1サイクルとし、これを3サイクル行った後の、皮膜表面外観の変化を評価した。評価は以下の基準に従って行った。
◎:表面に変化なし
○:表面に若干の発錆がある
×:表面に多数の発錆がある
<裏面の評価>
(6)導電性
低抵抗測定装置(ロレスタGP、登録商標:三菱化学(株)製:ESPプローブ)を用い、各サンプルの裏面の表面抵抗値を測定した。そのとき、プローブ先端にかかる荷重を20g/sで増加させ、表面抵抗値が10−4Ω以下になった時の荷重値で以下のように評価した。
◎:10点測定の平均荷重が300g以下
○:10点測定の平均荷重が300g超500g以下
△:10点測定の平均荷重が500g超700g以下
×:10点測定の平均荷重が700g超
(7)湿潤耐食性
裏面に純水を200g/cm含有させた黒色フェルトを接触させ、29.42kPa(300gf/cm)の荷重をかけて、温度:20℃、相対湿度:60%の環境で48h静置後の、外観変化を評価した。評価は以下の基準で行った。
◎:表面に変化なし
○:表面に若干の発錆がある
×:表面に多数の発錆がある
(8)放熱性
各サンプル100℃における分光放射率を、波長:4.5μm〜25μmの範囲で測定し同温度の黒体放射を1(100%)として相対的にあらわした。同波長範囲で分光放射率値を積分し、積分放射率を算出し、以下の基準で評価した。
◎:0.7以上
○:0.4以上0.7未満
×:0.4未満
*1)乾式シリカ:日本エアロジル(株)製 アエロジル#200
*2)Zr化合物:第一稀元素化学工業(株)製 炭酸ジルコニウムアンモニウム
*3)湿式シリカ:日産化学工業(株)製 スノーテックス0
*4)Ca交換シリカ:Grace Davison製シールデックスC303
表2−1〜2に示すとおり、本発明に従う着色単一有機皮膜を鋼板の一方の面(表面)に具える黒色塗装鋼板は、いずれも、曲げ加工性、プレス加工後の外観、素地隠蔽性、耐溶剤性および耐食性について優れた効果があることが分かる。
また、鋼板の他方の面(裏面)は、十分に満足のいく導電性と湿潤耐食性を有していることが分かる。
発明例1〜4、6、8、10、18、19、22〜27、29では、特に優れた曲げ加工性が得られている。この結果は、これらの着色単一有機皮膜に含有されるカーボンブラックのDBP吸油量が100以下であることの効果を示している。また、発明例2、7、11、12、13、17、20では、良好な放熱性が併せて得られている。この結果は、発明例2、11、12、17、20の裏面めっき層(GA)の放射率が高いこと、発明例7、13、20の裏面有機樹脂層中に熱吸収性顔料(カーボンブラック)を含んでいることの効果を示している。
これに対し、比較例は、曲げ加工性、プレス加工後の外観、特に二段絞り後のプレス外観、素地隠蔽性、耐溶剤性および耐食性それぞれの点で、十分とはいえなかった。
本発明によれば、良好なプレス加工後外観を有する塗装鋼板を、その加工品、中でも薄型テレビ用パネルと共に提供することが可能となる。

Claims (5)

  1. 鋼板の両面に形成された亜鉛系めっき層と、
    前記亜鉛系めっき層の少なくとも一方の面上に形成されたクロムを含有しない化成皮膜と、
    前記化成皮膜の上に形成された、ポリエステル樹脂、融点が60〜120℃であるワックス、および硬化剤を含み、さらにpH5以下のカーボンブラックを3質量%超15質量%以下含有する着色単一の有機皮膜と、を有し、
    前記カーボンブラックは、DBP吸油量が100以下であり、
    前記ポリエステル樹脂は、水酸基価が10KOHmg/g以上、かつ、数平均分子量が5000以上であり、
    前記硬化剤は、イミノ基含有メラミン樹脂であり、
    前記亜鉛系めっき層が、亜鉛めっき層、合金化亜鉛めっき層、アルミニウム−亜鉛合金めっき層、鉄−亜鉛合金めっき層のいずれかであり、
    前記有機皮膜の膜厚が10μm以下であり、かつ、前記有機皮膜の硬度が300N/mm以上であることを特徴とする塗装鋼板。
  2. 前記化成皮膜および前記有機皮膜を鋼板の一方の面に施した場合において、前記鋼板の他方の面の亜鉛系めっき層上に前記化成皮膜を有し、該他方の面の導電荷重が500g以下であることを特徴とする請求項1に記載の塗装鋼板。
  3. 前記他方の面の化成皮膜の上に有機樹脂層を有することを特徴とする請求項に記載の塗装鋼板。
  4. 請求項1〜のいずれか一項に記載の塗装鋼板に、プレス加工を施してなる加工品。
  5. 請求項に記載の加工品において、前記塗装鋼板の有機皮膜を具える面が、外部に露出する凸面になるプレス加工を施したことを特徴とする薄型テレビ用パネル。
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