(第1実施形態)
以下、本発明の四節リンク機構型の無段変速機の実施形態を説明する。本実施形態の無段変速機は、変速比i(i=入力軸の回転速度/出力軸の回転速度)を無限大(∞)にして出力軸の回転速度を「0」にできる変速機、所謂インフィニティ・バリアブル・トランスミッション(Infinity Variable Transmission(IVT))の一種である。
図1に示すように、本実施形態の無段変速機1は、エンジンや電動機等の走行用駆動源からの回転駆動力が入力され、中心軸線P1(図4参照)を中心に回転する中空の入力軸2と、入力軸2に平行に配置され、図外のデファレンシャルギアやプロペラシャフト等を介して車両の駆動輪(図示省略)に回転動力を伝達させる出力軸3と、入力軸2に設けられた6つの回転半径調節機構4とを備える。
各回転半径調節機構4は、カムディスク5と、回転ディスク6とを備える。カムディスク5は、円盤状であり、入力軸2の中心軸線P1から偏心して入力軸2と一体的に回転するように、かつ2個ずつが軸方向に結合して1組となるように、入力軸2に対して夫々設けられる。各1組のカムディスク5は、夫々位相を60度異ならせて、6組のカムディスク5で入力軸2の周方向を一回りするように配置される。回転ディスク6は、円盤状であり、カムディスク5を受け入れる受入孔6aを備える。各1組のカムディスク5には、回転ディスク6が、受入孔6aを介して回転自在に外嵌される。
図4に示すように、回転ディスク6は、カムディスク5の中心点をP2、回転ディスク6の中心点をP3として、入力軸2の中心軸線P1と中心点P2の距離Raと、中心点P2と中心点P3の距離Rbとが同一となるように、カムディスク5に対して偏心している。
回転ディスク6の受入孔6aには、1組のカムディスク5の間に位置させて内歯6bが設けられる。入力軸2には、1組のカムディスク5の間に位置させて、カムディスク5の入力軸2に対する偏心方向と反対側の個所に内周面と外周面とを連通させる切欠孔2aが形成される。
図1に戻り、中空の入力軸2内には、入力軸2と同心に配置され、回転ディスク6と対応する個所に外歯7aを備えるピニオンシャフト7が入力軸2と相対回転自在となるように配置される。ピニオンシャフト7の外歯7aは、入力軸2の切欠孔2aを介して、回転ディスク6の内歯6bと噛合する。
ピニオンシャフト7には、入力軸2とピニオンシャフト7とを差動回転させる差動機構8が接続される。差動機構8は、遊星歯車機構で構成されており、サンギア9と、入力軸2に連結された第1リングギア10と、ピニオンシャフト7に連結された第2リングギア11と、サンギア9及び第1リングギア10と噛合する大径部12aと、第2リングギア11と噛合する小径部12bとから成る段付きピニオン12を自転及び公転自在に軸支するキャリア13とを備える。
サンギア9には、ピニオンシャフト7用の電動機から成る調節用駆動源14の回転軸14aが連結される。調節用駆動源14の回転速度を入力軸2の回転速度と同一にすると、サンギア9と第1リングギア10とが同一速度で回転することとなり、サンギア9、第1リングギア10、第2リングギア11及びキャリア13の4つの要素が相対回転不能なロック状態となって、第2リングギア11と連結するピニオンシャフト7が入力軸2と同一速度で回転する。
調節用駆動源14の回転速度を入力軸2の回転速度よりも遅くすると、サンギア9の回転数をNs、第1リングギア10の回転数をNr1、サンギア9と第1リングギア10のギア比(第1リングギア10の歯数/サンギア9の歯数)をjとして、キャリア13の回転数が(j・Nr1+Ns)/(j+1)となる。そして、サンギア9と第2リングギア11のギア比((第2リングギア11の歯数/サンギア9の歯数)×(段付きピニオン12の大径部12aの歯数/小径部12bの歯数))をkとすると、第2リングギア11の回転数が{j(k+1)Nr1+(k−j)Ns}/{k(j+1)}となる。
カムディスク5が固定された入力軸2の回転速度とピニオンシャフト7の回転速度とが同一である場合には、回転ディスク6はカムディスク5と共に一体に回転する。入力軸2の回転速度とピニオンシャフト7の回転速度とに差がある場合には、回転ディスク6はカムディスク5の中心点P2を中心にカムディスク5の周縁を回転する。
図4に示すように、回転ディスク6は、カムディスク5に対して距離Raと距離Rbとが同一となるように偏心されているため、回転ディスク6の中心点P3を入力中心軸線P1と同一軸線上に位置するようにして、入力中心軸線P1と中心点P3との距離、すなわち偏心量R1を「0」とすることもできる。
回転ディスク6の周縁には、一方の端部に大径の大径環状部15aを備え、他方の端部に大径環状部15aの径よりも小径の小径環状部15bを備えるコネクティングロッド15の大径環状部15aが、ボールベアリングからなるコンロッド軸受16を介して回転自在に外嵌される。出力軸3には、一方向回転阻止機構としての一方向クラッチ17を介して、揺動リンク18がコネクティングロッド15に対応させて6個設けられる。
一方向クラッチ17は、揺動リンク18と出力軸3との間に設けられ、出力軸3に対して一方側に相対回転しようとするときに出力軸3に揺動リンク18を固定し、他方側に相対回転しようとするときに出力軸3に対して揺動リンク18を空転させる。揺動リンク18は、一方向クラッチ17によって出力軸3に対して空転する状態のときに、出力軸3に対して揺動自在となる。
揺動リンク18は、環状に形成されており、その上方には、コネクティングロッド15の小径環状部15bに連結される揺動端部18aが設けられる。揺動端部18aには、小径環状部15bを軸方向で挟み込むように突出した一対の突片18bが設けられる。一対の突片18bには、小径環状部15bの内径に対応する貫通孔18cが穿設される。貫通孔18c及び小径環状部15bには、連結ピン19が挿入される。これにより、コネクティングロッド15と揺動リンク18とが連結される。
図5は、回転半径調節機構4の偏心量R1を変化させた状態のピニオンシャフト7と回転ディスク6との位置関係を示す。図5(a)は偏心量R1を「最大」とした状態を示しており、入力中心軸線P1と、カムディスク5の中心点P2と、回転ディスク6の中心点P3とが一直線に並ぶように、ピニオンシャフト7と回転ディスク6とが位置する。このときの無段変速機1の変速比iは最小となる。
図5(b)は偏心量R1を図5(a)よりも小さい「中」とした状態を示しており、図5(c)は偏心量R1を図5(b)よりも更に小さい「小」とした状態を示している。変速比iは、図5(b)では図5(a)の変速比iよりも大きい「中」となり、図5(c)では図5(b)の変速比iよりも大きい「大」となる。図5(d)は偏心量R1を「0」とした状態を示しており、入力中心軸線P1と、回転ディスク6の中心点P3とが同心に位置する。このときの変速比iは無限大(∞)となる。本実施形態の無段変速機1は、回転半径調節機構4で偏心量R1を変えることにより、入力軸2側の回転運動の半径を調節自在としている。
図4に示すように、本実施形態の回転半径調節機構4、コネクティングロッド15、揺動リンク18は、てこクランク機構20(四節リンク機構)を構成する。そして、てこクランク機構20によって、入力軸2の回転運動が揺動リンク18の揺動運動に変換される。
本実施形態の無段変速機1は合計6個のてこクランク機構20を備える。偏心量R1が「0」でないときに、入力軸2を回転させると共に、ピニオンシャフト7を入力軸2と同一速度で回転させると、各コネクティングロッド15が60度ずつ位相を変えながら、偏心量R1に基づき入力軸2と出力軸3との間で出力軸3側に押したり、入力軸2側に引いたりを交互に繰り返して揺動する。
コネクティングロッド15の小径環状部15bは、出力軸3に一方向クラッチ17を介して設けられた揺動リンク18に連結されているため、揺動リンク18がコネクティングロッド15によって押し引きされて揺動すると、揺動リンク18が押し方向側又は引張り方向側の何れか一方に回転するときだけ、出力軸3が回転し、揺動リンク18が他方に回転するときには、出力軸3に揺動リンク18の揺動運動の力が伝達されず、揺動リンク18が空回りする。各回転半径調節機構4は、60度毎に位相を変えて配置されているため、出力軸3は各回転半径調節機構4で順に回転させられる。
図6(a)は偏心量R1が図5(a)の「最大」である場合(変速比iが最小である場合)、図6(b)は偏心量R1が図5(b)の「中」である場合(変速比iが中である場合)、図6(c)は偏心量R1が図5(c)の「小」である場合(変速比iが大である場合)の、回転半径調節機構4の回転運動に対する揺動リンク18の揺動範囲θ2を示す。
図6から明らかなように、偏心量R1が小さくなるにつれ、揺動リンク18の揺動範囲θ2が狭くなる。なお、偏心量R1が「0」であるときは、揺動リンク18は揺動しなくなる。また、本実施形態では、揺動リンク18の揺動端部18aの揺動範囲θ2のうち、入力軸2に最も近い位置を内死点、入力軸2から最も離れる位置を外死点とする。
図7は、無段変速機1の回転半径調節機構4の回転角度θを横軸、揺動リンク18の角速度ωを縦軸として、回転半径調節機構4の偏心量R1の変化に伴う角速度ωの変化の関係を示す。図7から明らかなように、偏心量R1が大きい(変速比iが小さい)ほど揺動リンク18の角速度ωが大きくなることが分かる。
図8は、60度ずつ位相を異ならせた6つの回転半径調節機構4を回転させたとき(入力軸2とピニオンシャフト7とを同一速度で回転させたとき)の回転半径調節機構4の回転角度θに対する、各揺動リンク18の角速度ωを示す。図8から、6つのてこクランク機構20により出力軸3がスムーズに回転されることが分かる。
図1に示すように、6つのてこクランク機構20は、互いに間隔を存して変速機ケース30により覆われる。変速機ケース30は、入力軸2及び出力軸3の一端側に位置する一端壁部32と、入力軸2及び出力軸3の他端側に位置し、一端壁部32に対向する他端壁部34と、てこクランク機構20及び一方向クラッチ17を間隔を存して覆うように他端壁部34と一端壁部32とを連結する周壁部40とを備える。
入力軸2の一端側には、一端入力側軸受42が設けられる。一端壁部32には、入力軸2の一端側を、一端入力側軸受42を介して回転自在に支持するために孔状の一端入力側固定部44が穿設される。この一端入力側固定部44に一端入力側軸受42が受け入れられて固定される。
なお、本実施形態における一端壁部32は、本発明における境界壁に対応し、一端入力側軸受42は境界壁側入力軸受に対応し、一端入力側固定部44は境界壁側入力軸固定部に対応する。
出力軸3の一端側には、一端出力側軸受46が設けられる。一端壁部32には、出力軸3の一端側を、一端出力側軸受46を介して回転自在に支持するための孔状の一端出力側固定部48が穿設される。この一端出力側固定部48に一端出力側軸受46が受け入れられて固定される。
一端壁部32には、板厚方向に貫通して切り欠かれた複数の一端側切欠部50が設けられる。一端側切欠部50は、孔状の一端入力側固定部44の周辺に穿設された複数の径方向側切欠部52(図2参照)と、一端入力側固定部44と一端出力側固定部48との間に穿設された複数の軸間切欠部54とで構成される。
周壁部40には、図示していない三角形状の周壁側切欠部が複数設けられる。この周壁側切欠部により、周壁部40は、トラス状に構成される。一端壁部32の一端側切欠部50及び周壁部40の周壁側切欠部は、変速機ケース30が可撓性を有するように構成される。これにより、変速機ケース30の弾性が従来よりも大きくなり、入力軸2や出力軸3の撓みに応じて変速機ケース30も弾性により撓むことが可能となる。なお、周壁部40の周壁側切欠部はなくてもよい。
これにより、一端入力側軸受42の内輪の角度変化に追従するように一端入力側軸受42の外輪もその角度を変化させるので、一端入力側軸受42の内輪と外輪との角度(入力軸2の入力中心軸線P1に直交する平面と一端入力側軸受42の内輪又は外輪の成す角)の差が小さくなり、アライメントエラーが抑制される。
また、入力軸2にコネクティングロッド15から大きな荷重が加わっても、弾性の高い変速機ケース30でこの荷重が受け流されて、入力軸2の湾曲が抑制される。これにより、コンロッド軸受16の内輪と外輪との角度(入力軸2の入力中心軸線P1に直交する平面とコンロッド軸受16の内輪又は外輪の成す角)の差が小さくなり、コンロッド軸受16の内輪と外輪とのアライメントエラーが抑制される。
軸間切欠部54のうちの一部と、周壁部40の周壁側切欠部とは、モールド成形によって設けられた樹脂58によって覆い隠される。一端壁部32の縁部及び周壁部40も、樹脂58により覆われる。これによれば、樹脂58により周壁部40の振動の減衰特性が高まり、無段変速機1の騒音、振動を低減させることができる。また、周壁部40の周壁側切欠部及び一部の軸間切欠部54から潤滑油がこぼれることを防止し、無段変速機1内で潤滑油の循環を行うことができる。
一端壁部32の変速機ケース30と反対側には、一端壁部32を変速機ケース30との境界壁とする差動機構ケース59が設けられる。本実施形態の差動機構ケース59は、本発明における隣接ケースに対応する。差動機構ケース59内の空間は、一端壁部32を挟んで変速機ケース30内の空間と隣接し、変速機ケース30と同様の入力軸2に垂直な断面形状する隣接空間59aと、差動機構8の一部及び調節用駆動源14が配置される円筒状空間59bとを含む。
差動機構ケース59内には、一端壁部32に設けられた切欠部53を介して変速機ケース30の内圧を大気開放するとともに、変速機ケース30から切欠部53を介して進入する潤滑油を空気から分離して差動機構ケース59内に排出するブリーザ構造60が設けられる。この気液分離機能により、ブリーザ構造60は、潤滑油が無段変速機1の外部に漏出するのを防止する。
切欠部53は、無段変速機1が車両に搭載された状態における入力軸2の中心軸線を通る鉛直面61について出力軸3と反対側の位置であって、潤滑油が変速機ケース30から切欠部53を介してブリーザ構造60に進入し難い位置に設けられる。また、切欠部53は、一端側切欠部50とともに、差動機構ケース59に可撓性を付与し、上述のアライメントエラーの抑制に寄与する。
図9は、図1のブリーザ構造60部分を拡大して示す。図9に示すように、ブリーザ構造60は、変速機ケース30の内圧を外部に開放するための開放孔としてのブリーザパイプ62と、ブリーザパイプ62の内側端部が開口するブリーザ室63と、ブリーザ室63を迷路化するラビリンス壁64とを備える。
ブリーザ室63とラビリンス壁64とによって、ラビリンス構造が形成される。このラビリンス構造は、差動機構ケース59の一部として、差動機構ケース59を構成する部材により形成される。
ブリーザパイプ62は、無段変速機1が車両に搭載された状態における入力軸2の上方において、鉛直方向上方に延びており、外側端部が、差動機構ケース59の外部において開口する。ブリーザ室63は、入力軸2に平行な第1〜第4の4つの壁63a〜63dと、入力軸2に垂直な第5及び第6の2つの壁63e及び63f(図3参照)により構成される。第1〜第4の壁63a〜63dの入力軸2に垂直な断面は、ほぼ入力軸2を中心とする扇形状を有する。
第1の壁63aは、差動機構ケース59の内壁の一部により形成され、該扇形状の外側の曲線を形成する。第2の壁63bは、一端入力側軸受42よりも径方向外側に位置し、該扇形状の内側の曲線を形成する。第3の壁63c及び第4の壁63dは、それぞれ該扇形状の径方向に延在する一方の辺及び他方の辺を形成する。
ブリーザパイプ62の内側端部は、第1の壁63aにおいて、第3の壁63cの近傍で開口する。第4の壁63d及び第2の壁63bは、相互に交差することなくその交差位置の手前で終了し、それらの間に、下方に向いて開いたスリット状開口65を形成する。したがって、第4の壁63d及び第2の壁63bは、スリット状開口65に向かって下方へ傾斜する斜面を形成する。
ラビリンス壁64は、第5の壁63eと第6の壁63f(図3参照)との間に形成され、入力軸2に垂直な面上の断面がL字形状を有する。ラビリンス壁64は、第1の壁63aの中央部から入力軸2の方に立ち上がった第1壁部64aと、その入力軸2側の端縁から第1の壁63aに沿って第3の壁63cに向かって延びた第2壁部64bとを備える。
入力軸2に垂直な第5の壁63eは、一端壁部32の一部により形成される。第6の壁63f(図3参照)は、差動機構ケース59を構成する部材の一部により形成される。切欠部53は、ブリーザ室63の第1の壁63a、第2の壁63b、第4の壁63d及び第1壁部64aで囲まれた領域における第5の壁63e上で、第4の壁63d及び第2の壁63bの近傍において開口する。
ブリーザパイプ62の内側端部は、第1の壁63a、第1壁部64a、第2壁部64b及び第3の壁63cで囲まれた領域に開口する。ラビリンス壁64と第1の壁63a、第2の壁63b及び第3の壁63cとで、切欠部53からブリーザパイプ62に至るラビリンス(迷路)が形成される。
変速機ケース30は、矢印Y1で示されるように、切欠部53、ブリーザ室63内のラビリンス及びブリーザパイプ62を経て差動機構ケース59の外部に通じている。このため、変速機ケース30内の圧力は、常に無段変速機1の外部の圧力と一致する。変速機ケース30から切欠部53を経てブリーザ室63内に進入する潤滑油は、矢印Y2のように、スリット状開口65から差動機構8の方へ落下し、ブリーザパイプ62まで移動することはない。
図10は、変速機ケース30内の潤滑油の分布を示す断面図である。図10では、変速機ケース30内に配置された6つのてこクランク機構20のうちの1つのみが示されている。また、図10では、揺動リンク18の揺動端部18aが、図4の場合と異なり、出力軸3の下方で揺動する場合について示されている。
図10に示すように、無段変速機1が作動していないときには、潤滑油Lは、変速機ケース30の底部に溜まったままである。無段変速機1の作動時には、揺動リンク18の揺動端部18aは、矢印Y3で示される範囲で揺動する。入力軸2の回転方向は、矢印Y4で示される図10の反時計回り方向、すなわち、入力軸2と出力軸3との間の潤滑油Lが、てこクランク機構20の入力軸2側により掻き揚げられる方向である。
無段変速機1の動作時には、揺動する揺動リンク18によって潤滑油Lが飛沫となって掻き揚げられる。掻き揚げられた潤滑油Lは、コネクティングロッド15の入力軸2側の部分により、反時計回りに撹拌される。かかる揺動リンク18及びコネクティングロッド15の掻き揚げ及び撹拌動作の繰り返しにより、潤滑油Lは、変速機ケース30内を循環するとともに、飛沫となって変速機ケース30内で分布する。
その潤滑油Lの飛沫濃度の分布は、変速機ケース30の出力軸3側の領域66で高く、入力軸2の中心軸線を通る鉛直面61の出力軸3と反対側における入力軸2のやや上方の領域67で低い。図10の断面に対して切欠部53を入力軸2に平行に投射した領域Aは、領域67に含まれる。
また、潤滑油Lが、コネクティングロッド15の入力軸2側と揺動リンク18とにより撹拌されるとき、コネクティングロッド15及び揺動リンク18は入力軸2に垂直な揺動面内で揺動する。このため、その揺動面上よりも該揺動面から離れた位置の方が潤滑油Lの飛沫濃度が低い。したがって、切欠部53は、変速機ケース30内のうちでも、潤滑油Lの飛沫濃度が最も低い位置に存在する。
無段変速機1が作動するとき、変速機ケース30内の圧力は、てこクランク機構20の駆動により、上昇しようとするが、変速機ケース30内の空間は、切欠部53、ブリーザ室63及びブリーザパイプ62を経て大気開放されているので、変速機ケース30内の圧力は、ほぼ大気圧に維持される。
このとき、切欠部53が潤滑油の飛沫濃度が最も低い位置に存在するので、変速機ケース30から切欠部53を介してブリーザ室63内に侵入する潤滑油Lは比較的少ない。このため、ブリーザ室63内に侵入した潤滑油Lは、ブリーザ室63内のラビリンスを上昇してブリーザパイプ62に達することはなく、すべてブリーザ室63のスリット状開口65から下方へ落下し、差動機構8の潤滑に供される。
また、このとき、一端側切欠部50のうちの樹脂58(図2参照)で覆われていないものを介して、差動機構8への潤滑油Lの供給が行われる。すなわち、一端側切欠部50は、変速機ケース30に可撓性を付与する機能に加え、差動機構8への潤滑油Lの油路としての機能を兼ね備える。これにより、差動機構8用の潤滑油の油路を変速機ケース30等に別途設ける場合に比べて、無段変速機1の小型化が図られている。
以上のように、本実施形態によれば、変速機ケース30に隣接する隣接ケースとしての差動機構ケース59にブリーザ構造60を設けたので、変速機ケース30内のスペースを使用することなく、四節リンク機構型の無段変速機1に適したブリーザ機能を実現することができる。
このため、変速機ケース30内の潤滑油の良好な潤滑がブリーザ構造により阻害されたり、変速機ケース30内のスペースがブリーザ構造により圧迫されたりすることなく、ブリーザ機能を享受することができる。その際、ブリーザ構造60により分離された潤滑油は、差動機構8の潤滑に用いることができる。
また、切欠部53は、変速機ケース30が可撓性を有するように構成されるので、一端側切欠部50と同様に、てこクランク機構20からの荷重伝達による入力軸2や出力軸3の撓みに応じて変速機ケース30が撓むのを容易にする。これにより、一端側切欠部50と同様に、一端入力側軸受42の内輪と外輪とのアライメントエラーの抑制に寄与することができる。
すなわち、切欠部53は、変速機ケース30から隣接ケース内のブリーザ構造60への通路としての機能と、一端入力側軸受42のアライメントエラーを抑制する機能とを併有する。したがって、両機能を、より簡単な加工や構造で実現することができる。また、切欠部53に両機能をもたせることにより、変速機ケース30の開口部を減少させ、変速機ケース30からの不要な潤滑油の漏出を抑制することができる。
また、切欠部53を、入力軸2の中心軸線を通る鉛直面について出力軸3と反対側に設け、入力軸2の回転方向を、入力軸2と出力軸3との間の潤滑油がてこクランク機構20のクランク側により掻き揚げられる方向としたので、変速機ケース30から切欠部53を経てブリーザ構造60へ流出する潤滑油の量を最小化することができる。したがって、簡便なブリーザ構造60によって支障なくブリーザ機能を享受することができる。
また、ブリーザ構造60が設けられた差動機構ケース59は、調節用駆動源14及び差動機構8を収納するものであるため、ブリーザ構造60によって分離された潤滑油を、差動機構8の潤滑に用いることができる。
また、切欠部53とブリーザパイプ62との間にラビリンス構造を備えるので、ラビリンス構造によって、潤滑油と空気の分離を促進するとともに、潤滑油がブリーザパイプ62から外部に漏出するのを確実に防止することができる。
(第2実施形態)
図11は、本発明の別の実施形態に係る無段変速機を示す断面図である。図12は、図11のXII−XII線断面図である。図13は、図12のXIII−XIII線断面図である。図11〜図13における図1〜図3と同一の符号は、図1〜図3の場合と同一の要素を示す。
図11〜図13に示すように、この無段変速機70は、出力軸3の回転を入力軸2に伝達する伝達機構71と、伝達機構71を収納する隣接ケースとしての伝達機構収納ケース72とを備える。伝達機構71は、出力軸3の回転を入力軸2に伝達する伝達状態と、この伝達が解除された伝達解除状態とに切替え可能に構成される。
伝達機構71は、例えばエンジンブレーキや、車両の走行時におけるエンジンの始動に際して伝達状態に切り替えられる。伝達機構71を伝達状態に切り替えることにより、エンジンの回転抵抗で車両の駆動輪を制動してエンジンブレーキを効かせたり、駆動輪から伝達される駆動力によってエンジンを回転させて始動させたりすることができる。
本実施形態では第1実施形態の差動機構ケース59(図9)のブリーザ構造60に代えて、同様のブリーザ構造73が、伝達機構収納ケース72内に設けられる。ブリーザ構造73の配置位置や配置方向は、入力軸2に垂直な平面について、第1実施形態の差動機構ケース59のブリーザ構造60と対称である。
また、第1実施形態の一端壁部32の切欠部53に代えて、変速機ケース30からブリーザ構造73に通じる切欠部74が、他端壁部34に設けられる。切欠部74は、切欠部53の場合と同様に、変速機ケース30から潤滑油が進入し難い位置に設けられる。
ブリーザ構造73を構成するブリーザ室75は、伝達機構収納ケース72において、他端壁部34と、これに対向する走行用駆動源側の壁である駆動源側壁部84との間に形成される。
ただし、変速機ケース30の内圧を外部に開放するための開放孔としては、ブリーザパイプ62ではなく、駆動源側壁部84をブリーザ室75から斜め上方に貫通する貫通孔76が用いられる。
入力軸2の他端側には、他端入力側軸受77が設けられる。他端壁部34には、入力軸2の他端側を、他端入力側軸受77を介して回転自在に支持するために孔状の他端入力側固定部78が穿設される。この他端入力側固定部78に他端入力側軸受77が受け入れられて固定される。
なお、本実施形態における他端壁部34は、本発明(隣接ケースを他端壁部34に隣接させて設けた場合)における境界壁に対応し、他端入力側軸受77は境界壁側入力軸受に対応し、他端入力側固定部78は境界壁側入力軸固定部に対応する。
出力軸3の他端側には、他端出力側軸受79が設けられる。他端壁部34には、出力軸3の他端側を、他端出力側軸受79を介して支持する他端出力側固定部80が穿設される。この他端出力側固定部80に他端出力側軸受79が受け入れられて固定される。
また、他端壁部34には、一端壁部32の径方向側切欠部52と同様の径方向側切欠部81と、一端壁部32の軸間切欠部54と同様の軸間切欠部82とで構成された他端側切欠部83が設けられる。軸間切欠部82のうちの一部は、モールド成形によって設けられた樹脂58によって覆い隠される。他端壁部34の縁部も、樹脂58により覆われる。
本実施形態においても、一端壁部32の切欠部53の場合と同様に、切欠部74は、他端入力側軸受77の外輪と内輪とのアライメントエラーを抑制すべく、他端側切欠部83とともに、伝達機構収納ケース72に可撓性を付与する。他の構成及び作用については、図1〜図10の無段変速機1の場合と同様である。
本実施形態によれば、伝達機構71を収納する伝達機構収納ケース72内の空間をブリーザ構造73のために有効活用できるとともに、ブリーザ構造73により分離された潤滑油を、伝達機構71の潤滑のために利用することができる。
また、ブリーザ構造73に通じた切欠部74は、変速機ケース30から隣接ケース内のブリーザ構造73への通路としての機能と、他端入力側軸受77のアライメントエラーを抑制する機能とを併有するので、両機能を、より簡単な加工や構造で実現することができる。その他、本実施形態の無段変速機70によれば、図1〜図10の無段変速機1の場合と同様の効果を得ることができる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、径方向側切欠部52は、一端入力側固定部44の周りに限らず、一端出力側固定部48の周りにも設けてもよい。径方向側切欠部81も、同様に、他端出力側固定部80の周りにも設けてもよい。また、一方向回転阻止機構として、一方向クラッチ17の代わりに、揺動リンク18の出力軸3に対する回転方向が切換え自在であって、揺動リンク18から出力軸3にトルクを伝達することも可能な二方向クラッチ(ツーウェイクラッチ)を用いてもよい。