以下に本発明の一実施の形態に係る懸架装置について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
図1に示すように、本実施の形態に係る懸架装置Fは、アウターチューブt1と、このアウターチューブt1内に出没可能に挿入されるインナーチューブt2とを備えて車体と車輪との間に介装さている。さらに、上記懸架装置Fは、上記インナーチューブt2内に形成されるとともに気体が圧縮されながら封入されてエアばねとして機能する気室r1と、アウターチューブ側に連結されるとともに上記アウターチューブt1の軸心部に起立して上記気室r1内に出没可能に挿入されるシリンダ(軸部材)1と、上記インナーチューブt2に保持されて上記シリンダ1に摺接し上記気室r1内の気体の流出を防ぐためのシール部材2とを備えている。
以下、詳細に説明すると、上記懸架装置Fは、自動二輪車等の鞍乗型車両においてその前輪を懸架するフロントフォークであり、上記アウターチューブt1が図示しない車体側ブラケットを介して車体の骨格を形成する車体フレームに連結されるとともに、上記インナーチューブt2が車輪側ブラケット30を介して前輪の車軸に連結されており、倒立型に設定されている。
そして、上記アウターチューブt1と上記インナーチューブt2とで、懸架装置Fの外殻となる懸架装置本体Tを構成しており、この懸架装置本体Tの車体側開口(図1中上側開口)がキャップ部材10で塞がれるとともに、懸架装置本体Tの車輪側開口(図1中下側開口)が上記車輪側ブラケット30で塞がれている。
ここで、上記懸架装置本体Tにおけるアウターチューブt1とインナーチューブt2の内側には、緩衝器Dが収容されるとともに、この緩衝器Dの外側にリザーバRが形成されている。また、懸架装置本体Tにおけるアウターチューブt1とインナーチューブt2の重複部の間(アウターチューブt1の内側で、且つ、インナーチューブt2の外側)には筒状隙間t3が形成されている。
つづいて、上記緩衝器Dは、キャップ部材10に筒状のシリンダ保持部材11を介して取り付けられるシリンダ1と、車輪側ブラケット30の底部に起立して先端側がシリンダ1内に出没可能に挿入されるピストンロッド3と、このピストンロッド3の先端に保持されてシリンダ1の内周面に摺接するピストン4とを備えている。つまり、本実施の形態において、シリンダ1がアウターチューブt1を介して車体側に連結されるとともに、ピストンロッド3がインナーチューブt2を介して車輪側に連結されており、緩衝器Dが倒立型に設定されている。
さらに、上記緩衝器Dは、上記シリンダ1の反キャップ部材側端部(図1中下端部)に取り付けられる環状のロッドガイド12を備えており、このロッドガイド12の内周に環状の軸受け12aが嵌合されている。そして、上記ピストンロッド3は、上記軸受け12aに軸方向に移動自在に支持されており、アウターチューブt1内にインナーチューブt2が出没する懸架装置Fの伸縮に伴い、シリンダ1内に出没することができる。
また、上記緩衝器Dは、上記キャップ部材10に吊り下げられた状態に保持されて上記シリンダ1の反ピストンロッド側(図1中上側)の軸心部に起立するベースロッド13と、このベースロッド13の先端に保持されてシリンダ1に固定されるベース部材5と、上記ベースロッド13の外周面及びシリンダ1の内周面に摺接し軸方向に移動可能なフリーピストン6とを備えている。
そして、上記シリンダ1内は、ピストン4、ベース部材5及びフリーピストン6で軸方向に区画され、シリンダ1内には、ピストン4とロッドガイド12との間に伸側室Aが形成され、ピストン4とベース部材5との間に圧側室Bが形成され、フリーピストン6とベース部材5との間に液溜室Cが形成され、フリーピストン6のキャップ部材側(図1中上側)に附勢室Gが形成されている。さらに、伸側室A、圧側室B及び液溜室Cには油、水、水溶液等の液体からなる作動流体が充填されるとともに、附勢室Gには気体が封入されている。
また、本実施の形態において、ロッドガイド12の内周には、環状に形成されてピストンロッド3の外周面に摺接するオイルシール12bとエアシール12cが軸受け12aと直列に保持されている。そして、上記オイルシール12bは、軸受け12aのシリンダ側(図1中上側)に配置されて、ピストンロッド3の外周面に付着した作動流体を掻き落とし、シリンダ1内の作動流体がシリンダ1外に流出することを防いでいる。他方、上記エアシール12cは、軸受け12aの反シリンダ側(図1中下側)に配置されており、ピストンロッド3の外周に形成されている気室r1の気体がシリンダ1内に侵入することを防いでいる。
もどって、ピストンロッド3の先端に保持されるピストン4には、伸側室Aと圧側室Bとを連通する伸側と圧側のピストン流路40,41が形成されている。そして、伸側のピストン流路40は、入口が常に伸側室Aと連通するとともに、出口がピストン4の圧側室側(図1中上側)に積層される伸側減衰バルブV1で開閉可能に塞がれている。また、圧側のピストン流路41は、入口が常に圧側室Bと連通するとともに、出口がピストン4の伸側室側(図1中下側)に積層される圧側チェックバルブV2で開閉可能に塞がれている。
また、上記ベース部材5には、圧側室Bと液溜室Cとを連通する伸側と圧側のベース部材流路50,51が形成されている。そして、伸側のベース部材流路50は、入口が常に液溜室Cと連通するとともに、出口が圧側室側(図1中下側)に積層される伸側チェックバルブV3で開閉可能に塞がれている。また、圧側のベース部材流路51は、入口が常に圧側室Bと連通するとともに、出口が液溜室側(図1中上側)に積層される圧側減衰バルブV4で開閉可能に塞がれている。
上記構成を備えることにより、ピストンロッド3がシリンダ1から退出する懸架装置Fの伸長時において、ピストン4で加圧された伸側室Aの作動流体が伸側減衰バルブV1を開き、伸側のピストン流路40を通過して圧側室Bに移動する。このとき、伸側チェックバルブV3が開き、シリンダ1から退出したピストンロッド体積分の作動流体が伸側のベース部材流路50を通過して液溜室Cから圧側室Bに移動するため、フリーピストン6が図1中下側に移動する。
他方、ピストンロッド3がシリンダ1内に進入する懸架装置Fの圧縮時において、ピストン4で加圧された圧側室Bの作動流体が圧側チェックバルブV2を開き、圧側のピストン流路41を通過して伸側室Aに移動する。このとき、圧側減衰バルブV4が開き、シリンダ1内に進入したピストンロッド体積分の作動流体が圧側のベース部材流路51を通過して圧側室Bから液溜室Cに移動するため、フリーピストン6が図1中上側に移動する。
したがって、懸架装置Fの伸長時において、緩衝器Dは、伸側のピストン流路40及びベース部材流路50を作動流体が通過する際の、伸側減衰バルブV1及び伸側チェックバルブV3の抵抗に起因する減衰力を発生することができる。また、懸架装置Fの圧縮時において、緩衝器Dは、圧側のピストン流路41及びベース部材流路51を作動流体が通過する際の、圧側チェックバルブV2及び圧側減衰バルブV4の抵抗に起因する減衰力を発生することができる。
尚、本実施の形態において、伸側チェックバルブV3や圧側チェックバルブV2による抵抗は、伸側減衰バルブV1や圧側減衰バルブV4による抵抗と比較して小さく、低い開弁圧で開くように設定されている。このため、緩衝器Dの発生する減衰力は、主に伸側減衰バルブV1及び圧側減衰バルブV4の抵抗に起因し、伸側減衰バルブV1と圧側減衰バルブV4とで減衰力発生手段を構成している。しかし、この減衰力発生手段の構成は、適宜変更することが可能であり、上記伸側チェックバルブV3や圧側チェックバルブV2の開弁圧を高めて減衰力発生バルブとしたり、上記伸側減衰バルブV1や圧側減衰バルブV4に替えてオリフィス等を採用したりするとしてもよい。
さらに、本実施の形態において、上記附勢室Gにはフリーピストン6を液溜室側(図1中下側)に附勢する附勢ばねs1が収容されている。このため、上記液溜室Cがフリーピストン6を介して附勢ばねs1で加圧され、圧側チェックバルブV3の開き遅れを抑制することができる。また、本実施の形態において、上記附勢室Gは、緩衝器Dの外側に形成されるリザーバRと区画されているが、リザーバRと連通していてもよい。
つづいて、上記リザーバR内には、インナーチューブt2内に配置される気室r1と、この気室r1のアウターチューブ側(図1中上側)に配置されるリザーバ気室r2とが形成されており、これら二つの気室(気室r1とリザーバ気室r2)が区画手段Eで区画されている。
そして、上記区画手段Eは、インナーチューブt2の車体側端部(図1中上端部)に取り付けられる筒状の隔壁体7と、この隔壁体7を介してインナーチューブt2に保持されてシリンダ1の外周面に摺接する環状のオイルシールからなるシール部材2と、上記隔壁体7の内周に上記シール部材2と直列に保持されてシリンダ1の外周面に摺接する環状の軸受け8と、シール部材2の車体側に貯留される潤滑用の液体とを備えている。尚、この潤滑用の液体は、上記緩衝器D内に収容される作動流体と同じ液体であっても、異なる液体であってもよい。また、図1,2では、リザーバR内に貯留される潤滑用の液体を複数の横線で示しており、図1中符号9は、リザーバR内に収容される潤滑用の液体の液面を示している。
そして、上記シール部材2は、リザーバRに貯留される潤滑用の液体がシール部材2の車輪側(気室r1)に流出することを防ぐとともに、上記インナーチューブt2内に形成される気室r1の気体がシール部材2よりも車体側に流出することを防ぎ、上記気室r1に気体を密閉することができる。
つづいて、上記隔壁体7は、図2に示すように、インナーチューブt2の車体側端部(図2中上端部)の内周に螺合する環状の螺子部70と、この螺子部70の車輪側(図2中下側)に連なり外周に上記インナーチューブt2の内周面に密着する環状のシール71aを保持する環状の基端部71と、上記螺子部70の車体側(図2中上側)に連なり内周にシール部材2と軸受け8を保持する環状の保持部72と、この保持部72の車体側(図2中上側)外周部に起立する筒状のオイルロックケース73とを備えている。
上記構成を備えることにより、上記シール部材2及び軸受け8は、シール部材2の車体側(図2中上側)に貯留される潤滑用の液体の液膜を介してシリンダ1の外周面に摺接することから、シール部材2及び軸受け8の内周面に沿ってシリンダ1が円滑に摺動することが可能になる。
そして、懸架装置Fの伸縮に伴い軸部材たるシリンダ1がシール部材2の車輪側(図2中下側)に形成される気室r1内に出没すると、上記気室r1の容積が拡大、縮小する。このため、上記気室r1は、懸架装置Fの伸縮量に応じた所定の反力を発生し、エアばねとして機能することができる。さらに、上記気室r1には気体が圧縮されながら封入されていることから、上記気室r1は、シリンダ1を押し出す方向、即ち、懸架装置F(懸架装置本体T)が伸長する方向に常に懸架装置本体Fを附勢して車体を弾性支持し、エアばねからなる懸架ばねとして機能することができる。
また、本実施の形態においては、図1に示すように、車体側ブラケット30に取り付けられたエアバルブ32を介して上記気室r1内に気体を吸排することができる。このため、上記気室r1の内圧を上記エアバルブ32で調整することで、気室r1(懸架ばね)による反力を調整することができる。
また、上記緩衝器Dにおいて、ロッドガイド12とピストン4との間には、内周側に配置されるリバウンドばねs2と、外周側に配置されて上記リバウンドばねs2よりも長尺に形成されるバランスばねs3とが並列に設けられている。そして、上記バランスばねs3が、懸架装置Fが最伸張時にあるときに圧縮されて所定の反力を発生し、最伸張時における気室r1(エアばね)による反力を相殺する。つまり、バランスばねs3が懸架装置Fの最伸張時から所定のストローク範囲における懸架装置Fの圧縮を助けるため、懸架装置Fの圧縮ストロークが速やかに開始されて車両の乗り心地を良好にすることができる。また、懸架装置Fの最伸張時において、上記リバウンドばねs2が圧縮されて所定の反力を発生するため、上記リバウンドばねs2で懸架装置Fの最伸張時の衝撃を吸収することができる。
また、本実施の形態において、隔壁体7がインナーチューブt2に取り付けられてアウターチューブt1とシリンダ1との間に出没可能に挿入されており、懸架装置Fの伸縮に伴いリザーバ気室r2の容積が拡大、縮小する。また、リザーバ気室r2にも気体が封入されているため、リザーバ気室r2も、懸架装置Fの伸縮量に応じた所定の反力を発生し、上記気室r1と同様にエアばねとして機能することができる。しかし、本実施の形態においては、上記リザーバ気室r2の内圧は上記気室r1の内圧よりも低く設定されており、気室r1単独で懸架ばねとして機能できるようになっている。
つづいて、シリンダ1の車体側(図1中上側)外周には、シリンダ保持部材11を介して環状のオイルロックピース14が保持されており、このオイルロックピース14と、上記区画手段Eを構成する隔壁体7のオイルリックケース73(図2)と、シール部材2の車体側に貯留される潤滑用の液体とでオイルロック機構を構成している。
また、図2に示すように、隔壁体7の保持部72の外径が螺子部70の外径よりも大きく形成されて、その境界に環状の段差面72aが形成されており、この段差面72aにインナーチューブt2の先端(図2中上端)が当接している。
このため、懸架装置Fの最圧縮時に、オイルロックピース14がインナーチューブt2で支えられたオイルロックケース73内に嵌入し、オイルロックケース73内の液体が加圧されてオイルロック効果を発揮し、懸架装置Fの最圧縮時における衝撃を吸収することができる。
さらに、本実施の形態においては、ピストンロッド3の基端側(図1中下側)外周に発泡ウレタン等の合成樹脂からなるクッションラバー31が設けられている。そして、懸架装置Fの最圧縮時にクッションラバー31がロッドガイド12で押されて弾性変形し、所定の反力を発生する。このため、クッションラバー31でも懸架装置Fの最圧縮時における衝撃を吸収することができる。
つまり、本実施の形態においては、上記オイルロック機構と、クッションラバー31の両方で、懸架装置Fの最圧縮時における衝撃を吸収することができる。しかし、懸架装置Fがオイルロック機構若しくはクッションラバー31の何れか一方のみを備えるとしてもよい。
つづいて、アウターチューブt1とインナーチューブt2の重複部の間に形成される筒状隙間t3には、インナーチューブt2の車体側(図1中上側)外周に保持されてアウターチューブt1の内周面に摺接する環状の内側軸受け33と、アウターチューブt1の車輪側(図1中下側)内周に保持されてインナーチューブt2の外周面に摺接する環状の外側軸受け15と、この外側軸受け15の外気側(図1中下側)に直列に配置されアウターチューブt1の車輪側(図1中下側)内周に保持される環状のオイルシール16と、このオイルシール16の外気側(図1中下側)に直列に配置されアウターチューブt2の車輪側端部(図1中下端部)内周に保持される環状のダストシール17とが設けられている。そして、上記筒状隙間t3にも、シール部材2の車体側に貯留された潤滑用の液体と同じ潤滑用の液体が収容されている。
さらに、本実施の形態において、図示しないが、内側軸受け33がC環状に形成されて合口部を備えており、潤滑用の液体が上記合口部の間を通って筒状隙間t3とリザーバRとの間を移動することができる。このため、アウターチューブt1とインナーチューブt2の重複量が減少して筒状隙間t3の容積が小さくなる懸架装置Fの伸長時には、筒状隙間t3に収容されている潤滑用の液体が上記合口部(図示せず)を通過してリザーバRに移動することができる。他方、アウターチューブt1とインナーチューブt2の重複部が増加して筒状隙間t3の容積が大きくなる懸架装置Fの圧縮時には、リザーバRに収容されている潤滑用の液体が上記合口部を通過して筒状隙間t3に移動することができる。
また、上記構成を備えることにより、筒状隙間t3内に配置されるオイルシール16、ダストシール17及び外側軸受け15を、潤滑用の液体の液膜を介してインナーチューブt2の外周面に摺接させるとともに、内側軸受け33を、同じく潤滑用の液体の液膜を介してアウターチューブt1の内周面に摺接させることができる。このため、インナーチューブt2がオイルシール16、ダストシール17及び外側軸受け15の内周面に沿って円滑に摺動するとともに、インナーチューブt2に取り付けられる内側軸受け33がアウターチューブt1の内周面に沿って円滑に摺動することができる。さらには、オイルシール16で筒状隙間t3内に貯留させる潤滑用の液体がオイルシール16よりも外気側(図1中下側)に流出することを防ぐことで、リザーバ気室r2に収容される気体の流出を防ぐことができる。
次に、本実施の形態に係る懸架装置Fの作用効果について説明する。上記懸架装置Fは、アウターチューブt1と、アウターチューブt1内に出没可能に挿入されるインナーチューブt2とを備えて車体と車輪との間に介装されている。さらに、上記懸架装置Fは、インナーチューブt2内に形成されるとともに気体が圧縮されながら封入されてエアばねとして機能する気室r1と、アウターチューブ側に連結されるとともにアウターチューブt1の軸心部に起立して気室r1内に出没可能に挿入される軸部材たるシリンダ1と、インナーチューブt2に保持されてシリンダ1に摺接し気室r1内の気体の流出を防ぐためのシール部材2とを備えている。
つまり、本実施の形態においては、インナーチューブt2の外周面が飛石等により疵付き、この疵でオイルシール16の内周面が疵付いてリザーバ気室r2内の気体が外気側に流出したとしても、エアばね(懸架ばね)として機能する気室r1に収容される気体の流出を防ぐためのシール部材2は、常に懸架装置本体Tの内部に配置されて飛石等により疵付く虞がない軸部材たるシリンダ1の外周面に摺接していることから、シール部材2が疵付くことを抑制することができる。
したがって、気室r1に収容される気体が気室r1から流出することを確実に抑制することができ、これにより、気室r1が所望のエアばね(懸架ばね)としての機能を損なうことを確実に抑制することができる。
また、本実施の形態においては、シール部材2の位置により、エアばねとして機能する気室r1の容積を調整することが可能となる。つまり、従来のように、気室r1の容積を調整するための液体を収容する必要がないことから、懸架装置Fを従来よりも軽量化することが可能となる。
また、本実施の形態においては、シール部材2の車体側に潤滑用の液体が貯留されるとともに、シール部材2がオイルシールからなり、潤滑用の液体がシール部材2よりも車輪側に流出することをシール部材2で防いている。このため、シール部材2で気室r1内の気体の流出を防ぐとともに、潤滑用の液体を利用して、シール部材2とシリンダ1の摺接面を潤滑し、シリンダ1の円滑な摺動を可能にすることができる。
また、本実施の形態における潤滑用の液体は、従来の懸架装置において、リザーバR内に収容される液体のように、エアばねとして機能する気室r1の容積調整のために利用されるものではないことから、従来よりもリザーバR内に収容される液体の量が少なく、懸架装置Fの軽量化の妨げとならない。
また、本実施の形態の懸架装置Fは、アウターチューブt1が車体側に配置されるとともに、インナーチューブt2が車輪側に配置されており、倒立型に設定されている。
つまり、インナーチューブt2内に形成される気室r1も車輪側に配置されるため、本実施の形態の懸架装置Fは、従来の懸架装置のようにばね下に液体が貯留されることがなく、ばね下重量を軽量化して路面追従性を向上させることが可能となる。
さらには、本実施の形態の懸架装置Fが上記構成を備えることにより、懸架装置本体Tおける車輪側端部(図1中下端部)の内部に発泡ウレタン等の合成樹脂からなるクッションラバー31を配置したとしても、液体にクッションラバー31が浸かることがないため、発泡ウレタン等の合成樹脂からなるクッションラバー31を使用して懸架装置Fの最圧縮時の衝撃を吸収することができる。
また、従来の懸架装置においては、図9に示すように、キャップ部材10にエアバルブ32が取り付けられていたため、従来の懸架装置が自動二輪車用のフロントフォークである場合には、気体を注入する際にハンドルを覆うバーパットを取り外す必要があるなど、気体注入作業が困難であった。また、エアバルブ32の取り付け位置が高いため、気体を注入する際に長尺なホースが必要であった。
しかし、本実施の形態の懸架装置Fおいて、インナーチューブt2が車輪側ブラケット30を介して車輪に連結されており、この車輪側ブラケット30に気室r1内に気体を吸排するためのエアバルブ31が取り付けられている。このため、気体の注入作業が従来よりも容易であるとともに、エアバルブ31の取り付け位置が低くなり、従来よりも短いホースを使用して気体を注入することが可能となる。
また、本実施の形態においては、シール部材2が環状に形成されて隔壁体7を介してインナーチューブt2に保持されるとともに、軸部材たるシリンダ1の外周面に摺接している。そして、上記隔壁体7は、筒状に形成されてインナーチューブt2の車体側端部(図2中上端部)に取り付けられており、内周にシール部材2を保持する環状の保持部72を備えている。
したがって、シール部材2を交換する場合には、隔壁体7をインナーチューブt2から取り外せばよく、シール部材2の交換を容易にすることが可能となる。
また、本実施の形態において、上記隔壁体7は、上記保持部72の車体側(図2中上側)外周部に起立する筒状のオイルロックケース73を備え、上記シリンダ1の車体側(図1中上側)外周に保持される環状のオイルロックピース14と、オイルロックケース73と、シール部材2の車体側に貯留される潤滑用の液体とでオイルロック機構が構成されている。
したがって、懸架装置Fの最圧縮時の衝撃をオイルロック機構で吸収することが可能となる。また、本実施の形態において、リザーバR内に収容される上記潤滑用の液体の量は、オイルロック効果を発揮できる程度にあればよく、この液体を利用して気室r1の容積調整をするものではないことから、従来のリザーバRに貯留される液体よりも少ない量でよく、懸架装置Fの軽量化の妨げになることがない。
また、本実施の形態において、隔壁体7は、環状に形成されてインナーチューブt2の車体側端部(図2中上端部)内周に螺合される螺子部70と、この螺子部70の車輪側(図2中下側)に連なり外周にインナーチューブt2の内周面に密着する環状のシール71aが保持される環状の基端部71とを備えている。そして、上記保持部72が上記螺子部70の車体側(図2中上側)に連なるとともに、保持部72の外径が螺子部70の外径よりも大きく形成されて、その境界に環状の段差面72aが形成されており、この段差面72aにインナーチューブt2の先端(図2中上端)が当接する。
このため、上記隔壁体7に取り付けられるシール部材2とシール72aとで隔壁体7の内周側と外周側をシールして、気室r1内の気体が車体側(リザーバ気室r2)に流出することを防ぐとともに、シール部材2や隔壁体7の車体側に貯留される潤滑用の液体が車輪側(気室r1)に流出することを防ぐことが容易に可能となる。
また、上記構成を備えることにより、オイルロックケース73内にオイルロックピース14が嵌入してオイルロック効果を発揮する際、隔壁体7の段差面72aをインナーチューブt2で下支えすることができ、隔壁体7が軸方向にずれることを抑制することが可能となる。
次に、本発明の他の実施の形態の懸架装置について、図3を参照しながら説明する。尚、本実施の形態の懸架装置は、主に区画手段の構成が一実施の形態と異なり、他の構成及び作用効果については一実施の形態と同様である。したがって、ここでは一実施の形態と異なる区画手段について説明し、他の構成については同一符号を付して図示及び詳細な説明を省略し、一実施の形態の説明及び図1を参照するものとする。
本実施の形態において、区画手段E1は、シリンダ(軸部材)1の外周に取り付けられる筒状の隔壁体7Aと、この隔壁体7Aを介してシリンダ1に保持されてインナーチューブt2の内周面に摺接する環状のオイルシールからなるシール部材2Aと、上記隔壁体7Aの内周に上記シール部材2Aと直列に保持されてインナーチューブt2の内周面に摺接する環状の軸受け8Aと、シール部材2Aの車体側に貯留される潤滑用の液体とを備えている。尚、この潤滑用の液体は、一実施の形態と同様に、緩衝器D内に収容される作動流体と同じ液体であっても、異なる液体であってもよい。また、図3でも、リザーバR内に貯留される潤滑用の液体を複数の横線で示している。
そして、上記シール部材2Aは、リザーバRに貯留される潤滑用の液体がシール部材2Aの車輪側に流出することを防ぐとともに、上記インナーチューブt2内に形成される気室r1の気体がシール部材2Aよりも車体側に流出することを防ぎ、上記気室r1に気体を密閉することができる。
つづいて、上記隔壁体7Aは、上記シリンダ1の外周に上下一対のスナップリング18,18を介して取り付けられており、外周に上記シール部材2Aと軸受け8Aを保持する環状の保持部74と、この保持部74の車輪側(図3中下側)に連なり内周に上記シリンダ1の外周面に密着する環状のシール75aを保持する環状の基端部75とを備えている。
つまり、本実施の形態においても一実施の形態と同様に、上記シール部材2A及び軸受け8Aは、潤滑用の液体の液膜を介してインナーチューブt2の内周面に摺接していることから、シール部材2A及び軸受け8Aの外周面に沿ってインナーチューブt2が円滑に摺動することが可能になる。
そして、懸架装置の伸縮に伴い軸部材たるシリンダ1とともにシール部材2Aがインナーチューブt2内を軸方向に移動すると、上記気室r1の容積が拡大、縮小する。このため、上記気室r1内に封入された気体が懸架装置本体Fの伸縮量に応じた所定の反力を発生し、気室r1がエアばねとして機能することができる。さらに、上記気室r1には、一実施の形態と同様に、気体が圧縮されながら封入されており、気室r1内の気体が懸架装置Fを常に伸長方向に附勢して車体を弾性支持することから、上記気室r1は、エアばねからなる懸架ばねとして機能している。
次に、本実施の形態に係る懸架装置の作用効果について説明する。上記懸架装置は、上記一実施の形態の懸架装置Fと同様に、アウターチューブt1と、アウターチューブt1内に出没可能に挿入されるインナーチューブt2とを備えて車体と車輪との間に介装されている。さらに、上記懸架装置は、インナーチューブt2内に形成されるとともに気体が圧縮されながら封入されてエアばねとして機能する気室r1と、アウターチューブ側に連結されるとともにアウターチューブt1の軸心部に起立して気室r1内に出没可能に挿入される軸部材たるシリンダ1と、このシリンダ1に保持されてインナーチューブt2に摺接し気室r1内の気体の流出を防ぐためのシール部材2Aとを備えている。
つまり、本実施の形態においては、インナーチューブt2の外周面が飛石等により疵付き、この疵でオイルシール16(図1)の内周面が疵付いてリザーバ気室r2(図1)内の気体が外気側に流出したとしても、エアばね(懸架ばね)として機能する気室r1に収容される気体の流出を防ぐためのシール部材2Aは、常に懸架装置本体Tの内側に配置されて飛石等により疵付く虞がないインナーチューブt2の内周面に摺接していることから、シール部材2Aが疵付くことを抑制することができる。
したがって、気室r1に収容される気体が気室r1から流出することを確実に抑制することができ、これにより、気室r1が所望のエアばね(懸架ばね)としての機能を損なうことを確実に抑制することができる。
また、本実施の形態においても一実施の形態と同様に、シール部材2Aの位置により、エアばねとして機能する気室r1の容積を調整することが可能となる。つまり、気室r1の容積を調整するための液体を収容する必要がないことから、懸架装置を従来よりも軽量化することが可能となる。
また、本実施の形態においても一実施の形態と同様に、シール部材2Aの車体側に潤滑用の液体が貯留されるとともに、シール部材2Aがオイルシールからなり、潤滑用の液体がシール部材2Aよりも車輪側に流出することをシール部材2Aで防いている。このため、シール部材2Aで気室r1内の気体の流出を防ぐとともに、潤滑用の液体を利用して、シール部材2Aとインナーチューブt2の摺接面を潤滑し、インナーチューブt2の円滑な摺動を可能にすることができる。
また、本実施の形態における潤滑用の液体も、一実施の形態と同様に、エアばねとして機能する気室r1の容積調整のために利用されるものではないことから、従来よりもリザーバR内に収容される液体の量が少なく、懸架装置Fの軽量化の妨げとならない。
また、本実施の形態の懸架装置において、シール部材2Aが環状に形成されて隔壁体7Aを介してシリンダ1に保持されるとともに、インナーチューブt2の内周面に摺接している。そして、上記隔壁体7Aは、筒状に形成されてシリンダ1の外周に上下一対のスナップリング18,18を介して取り付けられており、外周に上記シール部材2Aを保持する環状の保持部74と、この保持部74の車輪側(図3中下側)に連なり内周にシリンダ1の外周面に密着する環状のシール75aを保持する環状の基端部75とを備えている。
このため、上記隔壁体7Aに取り付けられるシール部材2Aとシール75aとで隔壁体7Aの外周側と内周側をシールして、気室r1内の気体が車体側(リザーバ気室r2)に流出することを防ぐとともに、シール部材2Aや隔壁体7Aの車体側に貯留される潤滑用の液体が車輪側(気室r1)に流出することを防ぐことが容易に可能となる。
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく改造、変形及び変更を行うことができることは理解すべきである。
例えば、上記各実施の形態において、本発明に係る懸架装置がフロントフォークであるとしたが、鞍乗型車両の後輪を懸架するリアクッションユニットであってもよく、また、自動車等、鞍乗型車両以外の輸送機器用の懸架装置であってもよい。
また、上記一実施の形態に係る懸架装置を図4に簡略化して示すように変形するとしてもよい。図4は、一実施の形態の変形例に係る懸架装置を示した縦断面図であり、一実施の形態の懸架装置Fの懸架装置本体T及び緩衝器Dの車体側と車輪側をそれぞれ上下逆にして車両に取り付けたものであり、正立型の懸架装置に正立型の緩衝器Dが収容されている。
そして、本変形例においては、懸架装置が正立型に設定されて、インナーチューブt2が車体側(図4中上側)に配置されるため、一実施の形態と異なり、潤滑用の液体の液面9がインナーチューブt2内(エアばね側)に配置されている。
また、上記他の実施の形態に係る懸架装置を図5〜図7に簡略化して示すように変形するとしてもよい。
図5は、他の実施の形態の第一の変形例に係る懸架装置を示した縦断面図であり、他の実施の形態の懸架装置の懸架装置本体T及び緩衝器Dの車体側と車輪側をそれぞれ上下逆にして車両に取り付けたものであり、正立型の懸架装置に正立型の緩衝器が収容されている。
そして、本変形例においては、懸架装置が正立型に設定されて、インナーチューブt2が車体側(図5中上側)に配置されるため、他の実施の形態と異なり、潤滑用の液体の液面9がインナーチューブt2内(エアばね側)に配置されている。
つづいて、図6は、他の実施の形態の第二の変形例に係る懸架装置を示した縦断面図であり、他の実施の形態の懸架装置の緩衝器Dの車体側と車輪側を逆にして懸架装置本体Tに収容し、倒立型の懸架装置に正立型の緩衝器Dが収容されている。
そして、上記他の実施の形態においては、エアばねとして機能する気室r1内に出没可能に挿入される軸部材がシリンダ1からなるが、本変形例においては、上記軸部材が緩衝器Dのピストンロッド3からなる。このため、本変形例においては、シール部材2Aが隔壁体7Aを介してピストンロッド3に保持されて、インナーチューブt2の内周面に摺接している。
つづいて、図7は、他の実施の形態の第三の変形例に係る懸架装置を示した縦断面図であり、他の実施の形態の懸架装置本体Tの車体側と車輪側を逆にして車両に取り付けたものであり、正立型の懸架装置に倒立型の緩衝器Dが収容されている。
そして、上記他の実施の形態においては、エアばねとして機能する気室r1内に出没可能に挿入される軸部材がシリンダ1からなるが、本変形例においては、上記軸部材が緩衝器Dのピストンロッド3からなる。このため、本変形例においては、シール部材2Aが隔壁体7Aを介してピストンロッド3に保持されて、インナーチューブt2の内周面に摺接している。
さらに、本変形例においては、懸架装置が正立型に設定されて、インナーチューブt2が車体側(図7中上側)に配置されるため、他の実施の形態と異なり、潤滑用の液体の液面9がインナーチューブt2内(エアばね側)に配置されている。
また、上記各実施の形態において、附勢室Gがリザーバ気室r2と区画されているが、附勢室Gがリザーバ気室r2と連通していてもよい。
また、上記各実施の形態において、附勢室G内にコイルスプリングからなる附勢ばねs1を収容し、この附勢ばねs1でフリーピストン6を液溜室側に附勢して、液溜室Cを加圧している。しかし、図8に示すように、リザーバR内に附勢室Gを区画するとともに、この附勢室G内に気体を圧縮しながら封入し、この附勢室Gがエアばねからなる附勢ばねとして機能するとしてもよい。
そして、この場合には、キャップ部材10に上記附勢室G内に気体を吸排するためのエアバルブ19を取り付けることで、懸架ばねとして機能する気室r1の内圧を車輪側ブラケット30に取り付けられたエアバルブ32で調整し、附勢ばねとして機能する附勢室Gの内圧をキャップ部材10に取り付けられたエアバルブ19で調整することができ、懸架ばねのばね力と附勢ばねのばね力を別々に調整することが容易に可能となる。
尚、図8には、一実施の形態の他の変形例として、附勢室Gがエアばねからなる附勢ばねとして機能する懸架装置を示しているが、他の実施の形態においても、図8と同様に変更することが可能である。
また、上記各実施の形態においては、シール部材2,2Aがオイルシールからなり、シール部材2,2Aの車体側に潤滑液が貯留されているが、この限りではなく、シール部材2,2Aがエアシールからなるとしてもよい。
また、上記各実施の形態においては、懸架装置本体T内に緩衝器Dを収容し、インナーチューブt2内に形成される気室r1内に出没可能に挿入される軸部材として、緩衝器Dのシリンダ1やピストンロッド3を利用している。しかし、懸架装置が必ずしも緩衝器Dを収容していなくてもよく、懸架装置の伸縮に伴い気室r1内に出没して、懸架装置の伸縮に伴い気室r1の容積を拡大したり、縮小したりすることが可能な限りにおいて、軸部材として適宜構成を採用することができる。