以下に、添付図面を参照して、本発明にかかる圧延荷重の学習制御装置および学習制御方法、並びにこれを用いた金属板製造方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。
なお、以下では、熱間圧延ライン内の熱間仕上圧延装置を制御対象として例示し、本発明を説明するが、この実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
(実施の形態)
まず、本発明の実施の形態にかかる圧延荷重の学習制御装置の構成について説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかる圧延荷重の学習制御装置の一構成例を示すブロック図である。なお、図1には、本実施の形態にかかる圧延荷重の学習制御装置1の他に、圧延条件の設定および圧延実績データの収集を行うプロセスコンピュータ群11と、制御対象である熱間仕上圧延装置21とが図示されている。
図1に示すように、本実施の形態にかかる圧延荷重の学習制御装置1は、圧延荷重の学習制御を実行するための各種演算処理を行う演算処理部2と、圧延荷重の学習制御プログラム8aを記憶する記憶部8と、一時記憶部9とを備える。
演算処理部2は、CPU等の電子回路等を用いて実現され、記憶部8内の学習制御プログラム8aを実行して、熱間仕上圧延装置21に対する圧延荷重の学習制御に必要な各種演算処理を実行する。このような演算処理部2は、学習制御プログラム8aの実行によって機能する機能ブロックとして、変形抵抗学習部3と、摩擦係数学習部4と、データ格納処理部5と、補正係数算出部6と、補正係数伝送部7とを備える。
変形抵抗学習部3は、変形抵抗誤差算出部3aと変形抵抗補正係数算出部3bとを有し、図1に示す熱間仕上圧延装置21によって圧延された現在の被圧延材25の材料に関する圧延実績をもとに、被圧延材25の変形抵抗の推定誤差を学習する。
変形抵抗誤差算出部3aは、被圧延材25に関する変形抵抗の推定誤差の学習において、変形抵抗モデルfを用いて被圧延材25の変形抵抗推定値を算出する。変形抵抗誤差算出部3aは、被圧延材25の変形抵抗の推定誤差として、この算出した変形抵抗推定値と被圧延材25の実際の変形抵抗値との誤差を算出する。なお、この誤差は、変形抵抗モデルfに基づく計算値と変形抵抗の実績値との誤差(以下、変形抵抗モデル誤差Kerrという)である。
変形抵抗補正係数算出部3bは、変形抵抗誤差推定モデルhを用いて、上述した被圧延材25の変形抵抗の推定誤差を補正する補正係数(以下、変形抵抗モデル補正係数Kadjという)を算出する。この変形抵抗モデル補正係数Kadjは、摩擦係数学習部4による摩擦係数の推定誤差の学習において、変形抵抗モデルfに基づく変形抵抗推定値を補正するために用いられる。
摩擦係数学習部4は、逆算摩擦係数算出部4aと摩擦係数誤差算出部4bとを有し、図1に示す熱間仕上圧延装置21の圧延ロールと被圧延材25との摩擦現象に関する圧延実績をもとに、熱間仕上圧延装置21の圧延ロールと被圧延材25との摩擦係数の推定誤差を学習する。
逆算摩擦係数算出部4aは、被圧延材25に関する摩擦係数の推定誤差の学習において、摩擦係数モデルiを用いて被圧延材25の摩擦係数推定値を算出する。また、逆算摩擦係数算出部4aは、圧延荷重モデルgの摩擦係数に関する逆関数を用いて、被圧延材25の実際の摩擦係数値に相当する逆算摩擦係数値Mactを算出する。
摩擦係数誤差算出部4bは、被圧延材25の摩擦係数の推定誤差として、逆算摩擦係数算出部4aによって算出された摩擦係数推定値と逆算摩擦係数値Mactとの誤差を算出する。なお、この誤差は、摩擦係数モデルiに基づく計算値と摩擦係数の実績値との誤差(以下、摩擦係数モデル誤差Merrという)である。
データ格納処理部5は、上述した変形抵抗学習部3および摩擦係数学習部4の各学習計算処理において用いられた被圧延材25の圧延実績と、変形抵抗学習部3および摩擦係数学習部4の各学習結果とを所定のデータベース(以下、DBと略す)に格納する。具体的には、データ格納処理部5は、図1に示すプロセスコンピュータ群11内の管理装置12に対し、この被圧延材25の圧延実績と各学習結果とを操業実績DB12aの一部として格納し管理するように指示する。なお、この被圧延材25の圧延実績として、例えば、被圧延材25の温度、厚み、金属材種等の材料に関する圧延条件、被圧延材を圧延する熱間圧延装置21の圧延ロール径等の圧延ロールに関する圧延条件、圧延ロールの材質および被圧延材25の表面粗さ等の圧延ロールと被圧延材25との摩擦現象に関する圧延条件等が挙げられる。また、変形抵抗学習部3および摩擦係数学習部4の各学習結果として、例えば、変形抵抗モデル誤差Kerrおよび摩擦係数モデル誤差Merrが挙げられる。
補正係数算出部6は、変形抵抗補正係数算出部6aと摩擦係数補正係数算出部6bとを有し、熱間仕上圧延装置21に対して圧延荷重を設定するために必要な変形抵抗および摩擦係数の各補正係数を算出する。
変形抵抗補正係数算出部6aは、変形抵抗学習部3の学習結果をもとに変形抵抗誤差推定モデルhを学習する。変形抵抗補正係数算出部6aは、この学習した変形抵抗誤差推定モデルhに基づいて変形抵抗モデル補正係数Kadjを算出する。なお、この変形抵抗モデル補正係数Kadjは、現在の被圧延材25に後続する次回の被圧延材26(図1参照)に対応して設定される変形抵抗設定値Ksetを補正する補正係数である。
摩擦係数補正係数算出部6bは、摩擦係数学習部4の学習結果をもとに、上述した摩擦係数の推定誤差の補正に用いる摩擦係数誤差推定モデルjを学習する。摩擦係数補正係数算出部6bは、この学習した摩擦係数誤差推定モデルjに基づいて摩擦係数モデル補正係数Madjを算出する。なお、この摩擦係数モデル補正係数Madjは、次回の被圧延材26に対応して設定される摩擦係数設定値Msetを補正する補正係数である。
補正係数伝送部7は、図1に示すプロセスコンピュータ群11内の設定計算装置13に対し、変形抵抗補正係数算出部6aによる変形抵抗モデル補正係数Kadjと摩擦係数補正係数算出部6bによる摩擦係数モデル補正係数Madjとを伝送する。ここで、設定計算装置13は、圧延荷重モデルgに基づいて、次回の被圧延材26に加える圧延荷重の設定値を算出する装置である。補正係数伝送部7は、この設定計算装置13に対して変形抵抗モデル補正係数Kadjおよび摩擦係数モデル補正係数Madjを送信することによって、設定計算装置13に変形抵抗設定値Ksetおよび摩擦係数設定値Msetを各々補正させる。なお、変形抵抗設定値Ksetおよび摩擦係数設定値Msetは、圧延荷重の設定値を算出する際に圧延荷重モデルgに代入するパラメータである。変形抵抗設定値Ksetは、設定計算装置13に伝送した変形抵抗モデル補正係数Kadjによって補正される。摩擦係数設定値Msetは、設定計算装置13に伝送した摩擦係数モデル補正係数Madjによって補正される。
記憶部8は、ROM等の不揮発性メモリまたはハードディスク等の更新可能に情報を記憶可能な記憶媒体を用いて実現される。記憶部8は、演算処理部2が実行する学習制御プログラム8aを記憶し、必要に応じて演算処理部2に学習制御プログラム8aを提供する。学習制御プログラム8aは、圧延荷重の学習制御に必要なプログラムであり、上述した変形抵抗モデルf、変形抵抗誤差推定モデルh、摩擦係数モデルi、摩擦係数誤差推定モデルj、および圧延荷重モデルgを含む。一時記憶部9は、RAM等の揮発性メモリを用いて実現され、演算処理部2による各種演算処理の際に生じる処理途中のパラメータおよび中間データ等の情報を一時的に記憶する。
上述したような構成を有する学習制御装置1は、プロセスコンピュータ群11から取得したデータを用いて、熱間仕上圧延装置21における圧延荷重の学習制御を行い、この学習制御を通して、熱間仕上圧延装置21の圧延制御を行う。
プロセスコンピュータ群11は、熱間仕上圧延装置21の圧延条件の設定と、熱間仕上圧年装置21の圧延実績データの収集とを行うものであり、図1に示すように、管理装置12と、設定計算装置13と、実績収集装置14と、伝送ケーブル15とを含む。
管理装置12は、熱間仕上圧延装置21の圧延条件等の圧延実績をDB化した操業実績DB12aを保持、管理する。設定計算装置13は、次回の被圧延材26に対する圧延条件の設定値を算出し、伝送ケーブル15を介して、この算出した設定値を熱間仕上圧延装置21に送信する。これによって、設定計算装置13は、被圧延材26に応じた熱間仕上圧延装置21の圧延制御を行う。すなわち、設定計算装置13は、被圧延材26の圧延条件を設定するとともに、設定した圧延条件によって被圧延材26を圧延するように熱間仕上圧延装置21を制御する。また、設定計算装置13は、現在および次回の被圧延材25,26の各圧延条件の設定値を保持、管理する。設定計算装置13は、必要に応じて、学習制御装置1の演算処理部2に被圧延材25,26の各圧延条件の設定値を提供する。
実績収集装置14は、伝送ケーブル15を介して、現在の被圧延材25の圧延実績データを熱間仕上圧延装置21から収集する。実績収集装置14は、収集した圧延実績データを保持、管理し、必要に応じて、学習制御装置1の演算処理部2に被圧延材25の圧延実績データを提供する。また、実績収集装置14は、現在の被圧延材25が圧延完了して次回の被圧延材26が圧延完了するまでの期間に、伝送ケーブル15を介して、この被圧延材25の圧延実績データを管理装置12に送信する。管理装置12は、この送信された圧延実績データを過去の圧延実績データとして保持し、操業実績DB12aの一部として管理する。
一方、熱間仕上圧延装置21は、熱間圧延ライン内に配置された熱間連続圧延装置であり、上流の粗圧延装置(図示せず)側から搬送される複数の被圧延材を順次圧延する。具体的には、熱間仕上圧延装置21は、図1の太線矢印に示される被圧延材25,26の通板方向に沿って並ぶ複数の圧延スタンド(図示せず)を備える。熱間仕上圧延装置21は、これら複数の圧延スタンドに被圧延材25,26を順次通板することによって、被圧延材25,26を各々連続的に圧延する。
図1には、熱間仕上圧延装置21内の複数の圧延スタンドのうち、最下流の圧延スタンドが図示されている。この最下流の圧延スタンドは、図1に示すように、複数の圧延ロールを有する圧延機22と、圧延機22の上側圧延ロールを圧下する圧下装置23と、圧延荷重を計測する荷重計24とを備える。圧延機22は、上下両側の圧延ロールを回転させつつ、鉄鋼材等の被圧延材(例えば図1に示す被圧延材25)をその上下両方向から圧延ロールによって挟圧して圧延する。圧下装置23は、圧延荷重の設定値に対応して圧下量を調整しつつ、圧延機22の上側圧延ロールを下側圧延ロールに向けて圧下する。荷重計24は、圧延機22による被圧延材25の圧延時に被圧延材25に加わる圧延荷重を計測する。この荷重計24による圧延荷重の実測値は、被圧延材25の圧延実績の一つとして実績収集装置14に収集される。なお、熱間仕上圧延装置21内の残りの圧延スタンドは、図1に示す最下流の圧延スタンドと同様の構成および機能を有する。
つぎに、上述した記憶部8内の学習制御プログラム8aに含まれる各種数式モデルについて詳細に説明する。学習制御プログラム8aは、上述したように、変形抵抗モデルf、変形抵抗誤差推定モデルh、圧延荷重モデルg、摩擦係数モデルi、および摩擦係数誤差推定モデルjを含む。変形抵抗モデルf、変形抵抗誤差推定モデルh、圧延荷重モデルg、摩擦係数モデルi、および摩擦係数誤差推定モデルjの各々は、数式モデルであり、学習制御プログラム8aに基づく演算処理部2の各種演算処理に適宜用いられる。
変形抵抗モデルfは、被圧延材25の変形抵抗を推定するための数式モデルである。具体的には、変形抵抗モデルfは、被圧延材25の材料に関する要因(x1,x2,・・・)を代入することによって、次式(1)に示すように、変形抵抗モデル計算値Kcalを算出する。
Kcal=f(x1,x2,・・・) ・・・(1)
この式(1)において、要因(x1,x2,・・・)は、例えば、被圧延材25の温度、厚み、金属種等の材料に起因する圧延実績である。また、変形抵抗モデル計算値Kcalは、上述した変形抵抗誤差算出部3aによって算出される変形抵抗推定値に相当する。
このような変形抵抗モデルfの具体的な実現方法として、例えば、f=K・εn・σm・exp(A/T)が挙げられる。ここで、εは、圧延歪であり、σは、圧延歪速度であり、Tは、被圧延材温度である。また、n、m、Aは、材質毎に定まる定数である。
変形抵抗誤差推定モデルhは、変形抵抗モデルfの推定誤差を補正するための数式モデルである。具体的には、変形抵抗誤差推定モデルhは、被圧延材25の材料に関する要因(x1,x2,・・・)と、過去の被圧延材の材料に関する圧延実績を要素とするデータ行列Xと、過去の変形抵抗モデル誤差Kerrを要素とする変形抵抗モデル誤差ベクトルKbとを代入して、次式(2)に示すように、変形抵抗モデル補正係数Kadjを算出する。
Kadj=h(x1,x2,・・・,X,Kb) ・・・(2)
この式(2)において、データ行列Xは、被圧延材25以前に圧延された過去の被圧延材を特定するサンプル番号等の情報を行の要素として含み、過去の被圧延材の材料に関する要因(xp1,xp2,・・・)を列の要素として含む2次元行列である。なお、この過去の要因(xp1,xp2,・・・)は、現在の要因(x1,x2,・・・)と同種類のものである。一方、変形抵抗モデル誤差ベクトルKbは、過去の被圧延材に対応して変形抵抗誤差算出部3aが算出した過去の変形抵抗モデル誤差Kerrを要素とする縦ベクトルである。データ行列Xおよび変形抵抗モデル誤差ベクトルKbは、操業実績DB12aの一部として管理装置12内に格納される。
なお、上式(2)に示される変形抵抗誤差推定モデルhに代入する要因(x1,x2,・・・)は、変形抵抗モデルfに代入する要因(x1,x2,・・・)と同じである。しかし、この要因(x1,x2,・・・)以外に、摩擦係数に比して変形抵抗に大きな影響を与える因子があれば、この因子を変形抵抗誤差推定モデルhに追加代入してもよい。
一方、変形抵抗誤差推定モデルhは、上述した現在の要因(x1,x2,・・・)に代えて次回の被圧延材26の材料に関する要因(xs1,xs2,・・・)を代入した場合、次式(3)に示すように、次回の被圧延材26の変形抵抗設定値Ksetを補正する変形抵抗モデル補正係数Kadjを算出する。
Kadj=h(xs1,xs2,・・・,X,Kb) ・・・(3)
この式(3)において、データ行列Xおよび変形抵抗モデル誤差ベクトルKbは、被圧延材25の圧延実績を加味したものである。すなわち、データ行列Xは、被圧延材25までの圧延実績を要素として含む。また、変形抵抗モデル誤差ベクトルKbは、被圧延材25までの変形抵抗モデル誤差Kerrを要素として含む。
なお、上述した式(2)に示される変形抵抗誤差推定モデルh(x1,x2,・・・,X,Kb)は、線形回帰、指数平滑学習、テーブル学習等の何れの学習手法を用いてもよい。例えば、変形抵抗誤差推定モデルh(x1,x2,・・・、X、Kb)が線形回帰の場合、次式(4)が成立する。この式(4)に含まれるベクトルxは、上述した現在の要因(x1,x2,・・・)を成分として含むベクトルである。
h(x1,x2,・・・,X,Kb)=x(XTX)−1XTKb ・・・(4)
このことは、式(3)に示される変形抵抗誤差モデルh(xs1,xs2,・・・,X,Kb)についても同様である。
圧延荷重モデルgは、圧延荷重を予測するための数式モデルである。具体的には、圧延荷重モデルgは、被圧延材25の実際の変形抵抗値Kおよび摩擦係数値Mと、図1に示す圧延機22の圧延ロール径等の圧延ロールに関する要因(y1,y2,・・・)とを代入して、次式(5)に示すように、圧延荷重予測値Pを算出する。
P=g(K、M、y1,y2,・・・) ・・・(5)
このような圧延荷重モデルgの具体的な実現方法として、例えば、g=k・R・(ψi+ψ・tanh((β1/2+r)・μ))が知られている。ただし、ψi=ai+bi・r+ci・r1/2+di・r(1−r)1/2の関係が成立し、rは圧下率であり、Rは扁平ロール半径であり、μは摩擦係数であり、β、ai、bi、ci、diは材料によって定まる定数である。なお、圧延荷重モデルgの具体的な実現方法は、これに限らない。
ここで、圧延荷重モデルgの変形抵抗に関する逆関数g’は、被圧延材25の実際の変形抵抗値に相当する逆算変形抵抗値Kactを算出するために用いられる。具体的には、逆関数g’は、上述した摩擦係数値Mおよび要因(y1,y2,・・・)と、被圧延材25の圧延荷重実績値Pactとを代入して、次式(6)に示すように、逆算変形抵抗値Kactを算出する。なお、逆関数g’は、次式(7)を満足する関数である。
Kact=g’(M、y1,y2,・・・,Pact) ・・・(6)
Pact=g(g’(M、y1,y2,…,Pact),M、y1,y2,…)・・・(7)
一方、圧延荷重モデルgの摩擦係数に関する逆関数g”は、被圧延材25の実際の摩擦係数値に相当する逆算摩擦係数値Mactを算出するために用いられる。具体的には、逆関数g”は、上述した圧延荷重実績値Pactおよび要因(y1,y2,・・・)と、式(1)に基づく変形抵抗モデル計算値Kcalの補正値とを代入して、次式(8)に示すように、逆算摩擦係数値Mactを算出する。なお、この変形抵抗モデル計算値Kcalの補正値は、変形抵抗モデル計算値Kcalと式(2)に基づく変形抵抗モデル補正係数Kadjとの乗算値Kcal・Kadjに相当する。また、逆関数g”は、次式(9)を満足する関数である。
Mact=g”(Kcal・Kadj,y1,y2,・・・,Pact)・・・(8)
Pact=g(g’(Kcal・Kadj、y1,y2,…,Pact),y1,y2,…)・・・(9)
なお、上述した式(6)が逆算変形抵抗値Kactを陽に与えられない場合、逆算変形抵抗値Kactは、ニュートン法等によって数値解析的に算出された変形抵抗値Kであってもよい。すなわち、式(5)に基づく圧延荷重予測値Pが圧延荷重実績値Pactと等しくなるような変形抵抗値Kを数値解析的に算出し、この算出した変形抵抗値Kを逆算変形抵抗値Kactとして用いてもよい。同様に、上述した式(8)が逆算摩擦係数値Mactを陽に与えられない場合、逆算摩擦係数値Mactは、ニュートン法等によって数値解析的に算出された摩擦係数値Mであってもよい。すなわち、式(5)に基づく圧延荷重予測値Pが圧延荷重実績値Pactと等しくなるような摩擦係数値Mを数値解析的に算出し、この算出した摩擦係数値Mを逆算摩擦係数値Mactとして用いてもよい。
摩擦係数モデルiは、図1に示す圧延機22と被圧延材25との摩擦係数を推定するための数式モデルである。具体的には、摩擦係数モデルiは、圧延機22と被圧延材25との摩擦現象に関する要因(z1,z2,・・・)を代入することによって、次式(10)に示すように、摩擦係数モデル計算値Mcalを算出する。
Mcal=i(z1,z2,・・・) ・・・(10)
このような摩擦係数モデルiの具体的な実現方法として、例えば、g=(1+a・exp(−b・Lg))・(1+c・exp(−d・v))・(e・Rf+f)がある。ただし、Lgは圧延距離であり、vは圧延速度であり、Rfはロール粗度であり、a、b、c、d、e、fはロールおよび圧延材によって定まる定数である。なお、摩擦係数モデルiの具体的な実現方法は、これに限らない。
この式(10)において、要因(z1,z2,・・・)は、例えば、圧延機22の圧延ロール材質、被圧延材25および圧延ロールの各表面粗さ等の摩擦現象に起因する圧延実績である。また、摩擦係数モデル計算値Mcalは、上述した逆算摩擦係数算出部4aによって算出される摩擦係数推定値に相当する。
摩擦係数誤差推定モデルjは、摩擦係数モデルiの推定誤差を補正するための数式モデルである。具体的には、摩擦係数誤差推定モデルjは、次回の被圧延材26に対応して設定される摩擦現象に関する要因(zs1,zs2,・・・)と、過去の被圧延材の摩擦現象に関する圧延実績を要素とするデータ行列Zと、過去の摩擦係数モデル誤差Merrを要素とする摩擦係数モデル誤差ベクトルMbとを代入して、次式(11)に示すように、摩擦係数モデル補正係数Madjを算出する。
Madj=j(zs1,zs2,・・・,Z,Mb) ・・・(11)
この式(11)において、データ行列Zは、過去の被圧延材を特定するサンプル番号等の情報を行の要素として含み、過去の被圧延材の摩擦現象に関する要因(zs1,zs2,・・・)を列の要素として含む2次元行列である。なお、この過去の要因(zs1,zs2,・・・)は、被圧延材25に対応する要因(z1,z2,・・・)を含むものである。一方、摩擦係数モデル誤差ベクトルMbは、被圧延材25を含む過去の被圧延材に対応して摩擦係数誤差算出部4bが算出した過去の摩擦係数モデル誤差Merrを要素とする縦ベクトルである。データ行列Zおよび摩擦係数モデル誤差ベクトルMbは、操業実績DB12aの一部として管理装置12内に格納される。
また、上式(11)における要因(zs1,zs2,・・・)は、摩擦係数モデルiに代入する要因(z1,z2,・・・)と同じ種類のものである。しかし、この要因(z1,z2,・・・)以外に、変形抵抗に比して摩擦係数に大きな影響を与える因子があれば、この因子を摩擦係数誤差推定モデルjに追加代入してもよい。
なお、上式(11)に示される摩擦係数誤差推定モデルj(zs1,zs2,・・・、Z、Mb)は、線形回帰、指数平滑学習、テーブル学習等の何れの学習手法を用いてもよい。例えば、摩擦係数誤差推定モデルj(zs1,zs2,・・・、Z、Mb)が移動平均学習の場合、次式(12)が成立する。この式(12)において、ベクトルIは、摩擦係数モデル誤差ベクトルMbと同次元のベクトルであり、ベクトルIの要素は「1」である。また、次元dim(Mb)は、摩擦係数モデル誤差ベクトルMbの次元である。
j(zs1,zs2,・・・,Z,Mb)=I・Mb/dim(Mb) ・・・(12)
なお、上記方法では、逆算変形抵抗を算出した後、逆算摩擦係数を算出する方法を示しているが、逆算摩擦係数を計算した後、逆算変形抵抗を算出してもよい。また、他変数を扱うニュートン法などによって逆算摩擦係数と逆算変形抵抗とを同時に算出しても良い。
つぎに、本発明の実施の形態にかかる圧延荷重の学習制御方法について詳細に説明する。本実施の形態にかかる圧延荷重の学習制御方法において、学習制御装置1の演算処理部2は、学習制御プログラムを実行して学習計算処理および設定計算処理を行い、これによって、圧延荷重の学習制御を達成する。以下では、まず、学習計算処理について説明し、その後、設定計算処理について説明する。
図2は、本発明の実施の形態にかかる圧延荷重の学習制御方法における学習計算処理の処理フローを例示するフローチャートである。演算処理部2は、図1に示した被圧延材25の圧延が完了したタイミングに、学習制御プログラム8aを実行して学習計算処理を行う。この学習計算処理において、演算処理部2は、圧延機22によって圧延された現在の被圧延材25の材料に関する圧延実績をもとに、被圧延材25の変形抵抗の推定誤差を学習する。また、演算処理部2は、圧延機22の圧延ロールと被圧延材25との摩擦現象に関する圧延実績をもとに、この圧延ロールと被圧延材25との摩擦係数の推定誤差を学習する。
詳細には、図2に示すように、演算処理部2は、まず、圧延機22による圧延完了後の被圧延材25の変形抵抗モデル計算値Kcalを算出する(ステップS101)。このステップS101は、変形抵抗モデル計算値Kcalに相当する変形抵抗推定値を算出する処理ステップである。このステップS101において、変形抵抗誤差算出部3aは、実績収集装置14から被圧延材25の材料に関する要因(x1,x2,・・・)を取得する。変形抵抗誤差算出部3aは、上述した式(1)に示したように、この要因(x1,x2,・・・)を変形抵抗モデルfに代入して、被圧延材25の変形抵抗モデル計算値Kcalを算出する。
なお、この要因(x1,x2,・・・)は、実績収集装置14によって収集された被圧延材25の圧延実績であり、例えば、被圧延材25の温度および圧延速度等の実績圧延条件である。また、式(1)の具体的な実現方法として、例えば、「井上の式」(文献「板圧延の理論と実際」の195ページに記載の式(7.54))等の公知技術を用いてもよい。
つぎに、演算処理部2は、被圧延材25の実際の変形抵抗値に相当する逆算変形抵抗値Kactを算出する(ステップS102)。このステップS102において、変形抵抗誤差算出部3aは、設定計算装置13から被圧延材25の摩擦係数値Mを取得する。また、変形抵抗誤差算出部3aは、実績収集装置14から、圧延ロールに関する要因(y1,y2,・・・)と被圧延材25の圧延荷重実績値Pactとを取得する。変形抵抗誤差算出部3aは、上述した式(6)に示したように、圧延荷重モデルgの変形抵抗に関する逆関数g’に摩擦係数値Mと要因(y1,y2,・・・)と圧延荷重実績値Pactとを代入して、被圧延材25の逆算変形抵抗値Kactを算出する。
なお、摩擦係数値Mは、設定計算装置13が被圧延材25に対応して設定した圧延条件の一つである。また、この要因(y1,y2,・・・)は、実績収集装置14によって収集された圧延ロールに関する圧延実績である。圧延荷重実績値Pactは、熱間仕上圧延装置21の荷重計24(図1参照)によって計測され、その後、実績収集装置14によって収集された被圧延材25の圧延実績である。一方、この逆関数式g’のもとになる圧延荷重モデルg(式(5)参照)の具体的な実現方法として、例えば、「Simsの式」(文献「板圧延の理論と実際」の290ページに記載の式(11.19))等の公知技術を用いてもよい。
続いて、演算処理部2は、被圧延材25の変形抵抗の推定誤差として、変形抵抗モデル誤差Kerrを算出する(ステップS103)。このステップS103において、変形抵抗誤差算出部3aは、ステップS101において算出した変形抵抗モデル計算値Kcalと、ステップS102において算出した逆算変形抵抗値Kactを用いて、変形抵抗モデル誤差Kerrを算出する。具体的には、変形抵抗誤差算出部3aは、次式(13)に示すように、変形抵抗モデル誤差Kerrとして、逆算変形抵抗値Kactと変形抵抗モデル計算値Kcalとの比を算出する。
Kerr=Kact/Kcal ・・・(13)
その後、演算処理部2は、被圧延材25の変形抵抗の推定誤差を補正する変形抵抗モデル補正係数Kadjを算出する(ステップS104)。このステップS104において、変形抵抗補正係数算出部3bは、実績収集装置14から、被圧延材25の材料に関する要因(x1,x2,・・・)を取得する。また、変形抵抗補正係数算出部3bは、操業実績DB12a内に格納されている過去の被圧延材の圧延実績と過去の変形抵抗モデル誤差Kerrとを管理装置12から取得する。変形抵抗補正係数算出部3bは、取得した過去の被圧延材の圧延実績をもとに、上述したデータ行列Xを生成する。且つ、変形抵抗補正係数算出部3bは、取得した過去の変形抵抗モデル誤差Kerrをもとに、上述した変形抵抗モデル誤差ベクトルKbを生成する。変形抵抗補正係数算出部3bは、上述した式(2)に示したように、変形抵抗誤差推定モデルhに要因(x1,x2,・・・)とデータ行列Xと変形抵抗モデル誤差ベクトルKbとを代入して、被圧延材25の変形抵抗モデル補正係数Kadjを算出する。
つぎに、演算処理部2は、被圧延材25の摩擦係数モデル計算値Mcalを算出する(ステップS105)。このステップS105は、摩擦係数モデル計算値Mcalに相当する摩擦係数推定値を算出する処理ステップである。このステップS105において、逆算摩擦係数算出部4aは、圧延機22と被圧延材25との摩擦現象に関する要因(z1,z2,・・・)を実績収集装置14から取得する。逆算摩擦係数算出部4aは、上述した式(10)に示したように、この要因(z1,z2,・・・)を摩擦係数モデルiに代入して、被圧延材25の摩擦係数モデル計算値Mcalを算出する。
なお、この要因(z1,z2,・・・)は、実績収集装置14によって収集された被圧延材25の摩擦現象に起因する圧延実績である。また、式(10)の具体的な実現方法として、被圧延材25の圧延条件等に基づくデータテーブル値による定数項、例えば、i=0.20を用いてもよい。この場合、データテーブル値は、圧延条件等を格納したルックアップテーブル(図示せず)等から取得すればよい。
続いて、演算処理部2は、被圧延材25の実際の摩擦係数値に相当する逆算摩擦係数値Mactを算出する(ステップS106)。このステップS106において、逆算摩擦係数算出部4aは、上述した変形抵抗誤差算出部3aによる変形抵抗モデル計算値Kcalと変形抵抗補正係数算出部3bによる変形抵抗モデル補正係数Kadjとを乗算して、乗算値(Kcal・Kadj)を算出する。また、逆算摩擦係数算出部4aは、実績収集装置14から、圧延ロールに関する要因(y1,y2,・・・)と被圧延材25の圧延荷重実績値Pactとを取得する。逆算摩擦係数算出部4aは、上述した式(8)に示したように、圧延荷重モデルgの摩擦係数に関する逆関数g”に乗算値(Kcal・Kadj)と要因(y1,y2,・・・)と圧延荷重実績値Pactとを代入して、被圧延材25の逆算摩擦係数値Mactを算出する。
つぎに、演算処理部2は、被圧延材25の摩擦係数の推定誤差として、摩擦係数モデル誤差Merrを算出する(ステップS107)。このステップS107において、摩擦係数誤差算出部4bは、ステップS105において算出された摩擦係数モデル計算値Mcalと、ステップS106において算出された逆算摩擦係数値Mactを用いて、摩擦係数モデル誤差Merrを算出する。具体的には、摩擦係数誤差算出部4bは、次式(14)に示すように、摩擦係数モデル誤差Merrとして、逆算摩擦係数値Mactと摩擦係数モデル計算値Mcalとの比を算出する。
Merr=Mact/Mcal ・・・(14)
その後、演算処理部2は、上述したステップS101〜S103による変形抵抗の誤差推定の学習処理による学習結果等のデータを操業実績DB12a内に格納し(ステップS108)、本処理を終了する。このステップS108において、データ格納処理部5は、管理装置12に対し、この被圧延材25の圧延実績および各学習結果を操業実績DB12aの一部として格納し管理するように指示する。これによって、データ格納処理部5は、新たに得られた過去の圧延実績データとして、被圧延材25の圧延実績および各学習結果を操業実績DB12a内に格納する。
なお、ステップS108における被圧延材25の圧延実績として、例えば、被圧延材25の材料に関する要因(x1,x2,・・・)と、圧延ロールに関する要因(y1,y2,・・・)と、被圧延材25と圧延ロールとの摩擦現象に関する要因(z1,z2,・・・)とが挙げられる。また、ステップS108における各学習結果として、例えば、変形抵抗モデル誤差Kerrおよび摩擦係数モデル誤差Merrが挙げられる。
ここで、演算処理部2は、圧延機22による一被圧延材(例えば図1に示す被圧延材25,26)の圧延が完了する都度、上述したステップS101〜S108の処理手順を繰り返す。これによって、演算処理部2は、圧延機22によって圧延された被圧延材毎に、変形抵抗の推定誤差および摩擦係数の推定誤差を各々学習し、圧延完了直後の圧延実績および各学習結果が反映されたDBに操業実績DB12aを更新する。
つぎに、設定計算処理について説明する。図3は、本発明の実施の形態にかかる圧延荷重の学習制御方法における設定計算処理の処理フローを例示するフローチャートである。演算処理部2は、図1に示した被圧延材25に後続する次回の被圧延材26が圧延機22によって噛み込まれる直前のタイミングに、学習制御プログラム8aを実行して設定計算処理を行う。この設定計算処理において、演算処理部2は、図2に示したステップS101〜S108の学習計算処理の結果に基づく数式モデルを用い、次回の被圧延材26に対応して設定される変形抵抗設定値Ksetおよび摩擦係数設定値Msetの各補正係数、すなわち、変形抵抗モデル補正係数Kadjおよび摩擦係数モデル補正係数Madjを算出する。また、演算処理部2は、変形抵抗モデル補正係数Kadjおよび摩擦係数モデル補正係数Madjを用いて、設定計算装置13に変形抵抗設定値Ksetおよび摩擦係数設定値Msetを各々補正させる。
詳細には、図3に示すように、演算処理部2は、まず、上述した変形抵抗の推定誤差の学習結果に基づく変形抵抗誤差推定モデルhを用いて、変形抵抗設定値Ksetを補正するための変形抵抗モデル補正係数Kadjを算出する(ステップS201)。
このステップS201において、変形抵抗補正係数算出部6aは、設定計算装置13から、被圧延材26の材料に関する要因(xs1,xs2,・・・)を取得する。また、変形抵抗補正係数算出部6aは、操業実績DB12a内に格納されている過去の被圧延材の圧延実績と過去の変形抵抗モデル誤差Kerrとを管理装置12から取得する。変形抵抗補正係数算出部6aは、取得した過去の被圧延材の圧延実績をもとに、上述したデータ行列Xを生成する。且つ、変形抵抗補正係数算出部6aは、取得した過去の変形抵抗モデル誤差Kerrをもとに、上述した変形抵抗モデル誤差ベクトルKbを生成する。変形抵抗補正係数算出部6aは、上述した式(3)に示したように、変形抵抗誤差推定モデルhに要因(xs1,xs2,・・・)とデータ行列Xと変形抵抗モデル誤差ベクトルKbとを代入して、被圧延材26に対応する変形抵抗モデル補正係数Kadjを算出する。
なお、このステップS201において過去とは、これから圧延される次回の被圧延材26に比して過去である。この場合、過去の被圧延材には、圧延完了後の被圧延材25が含まれる。すなわち、ステップS201におけるデータ行列Xは、圧延完了した現在の被圧延材25の材料に関する要因(x1,x2,・・・)を行列要素として含む。同様に、ステップS201における変形抵抗モデル誤差ベクトルKbは、この被圧延材25の材料に関する要因(x1,x2,・・・)をベクトル要素として含む。一方、要因(xs1,xs2,・・・)は、次回の被圧延材26に対応して設定されている温度および圧延速度等の設定圧延条件である。なお、この要因(xs1,xs2,・・・)の種類は、被圧延材25の要因(x1,x2,・・・)と同じである。
つぎに、演算処理部2は、上述した摩擦係数の推定誤差の学習結果に基づく摩擦係数誤差推定モデルjを用いて、摩擦係数設定値Msetを補正するための摩擦係数モデル補正係数Madjを算出する(ステップS202)。
このステップS202において、摩擦係数補正係数算出部6bは、設定計算装置13から、圧延機22の圧延ロールと被圧延材26との摩擦係数に関する要因(xs1,xs2,・・・)を取得する。また、摩擦係数補正係数算出部6bは、操業実績DB12a内に格納されている過去の被圧延材の圧延実績と過去の摩擦係数モデル誤差Merrとを管理装置12から取得する。摩擦係数補正係数算出部6bは、取得した過去の被圧延材の圧延実績をもとに、上述したデータ行列Zを生成する。且つ、変形抵抗補正係数算出部6bは、取得した過去の摩擦係数モデル誤差Merrをもとに、上述した摩擦係数モデル誤差ベクトルMbを生成する。摩擦係数補正係数算出部6bは、上述した式(11)に示したように、摩擦係数誤差推定モデルjに要因(zs1,zs2,・・・)とデータ行列Zと摩擦係数モデル誤差ベクトルMbとを代入して、被圧延材26に対応する摩擦係数モデル補正係数Madjを算出する。
なお、このステップS202において過去とは、上述したステップS201と同様に、被圧延材26に比して過去である。すなわち、ステップS202におけるデータ行列Zは、圧延完了した現在の被圧延材25の摩擦現象に関する要因(z1,z2,・・・)を行列要素として含む。同様に、ステップS202における摩擦係数モデル誤差ベクトルMbは、この被圧延材25の摩擦現象に関する要因(z1,z2,・・・)をベクトル要素として含む。一方、要因(zs1,zs2,・・・)は、次回の被圧延材26に対応して設定されている設定圧延条件である。なお、この要因(zs1,zs2,・・・)の種類は、被圧延材25の要因(z1,z2,・・・)と同じである。
その後、演算処理部2は、設定計算装置13に対して変形抵抗モデル補正係数Kadjおよび摩擦係数モデル補正係数Madjを伝送して、設定計算装置13に、変形抵抗モデル補正係数Kadjによって変形抵抗設定値Ksetを補正させ且つ摩擦係数モデル補正係数Madjによって摩擦係数設定値Msetを補正させて(ステップS203)、本処理を終了する。なお、演算処理部2は、図2に示したステップS101〜S108の学習計算処理を実行する都度、次回の被圧延材26が圧延機22によって噛み込まれる直前のタイミングに、上述したステップS201〜S203の処理手順を繰り返す。
このステップS203において、補正係数伝送部7は、ステップS201による変形抵抗モデル補正係数KadjとステップS202による摩擦係数モデル補正係数Madjとを設定計算装置13に伝送する。これによって、補正係数伝送部7は、変形抵抗モデル補正係数Kadjによる変形抵抗設定値Ksetの補正と、摩擦係数モデル補正係数Madjによる摩擦係数設定値Msetの補正とを設定計算装置13に指示する。
ここで、設定計算装置13は、次回の被圧延材26に加える圧延荷重の設定値を圧延荷重モデルgに基づいて算出する。その際、設定計算装置13は、圧延荷重モデルgに変形抵抗設定値Ksetおよび摩擦係数設定値Msetを代入して、この圧延荷重の設定値を算出する。補正係数伝送部7は、この圧延荷重モデルgに代入される。変形抵抗設定値Ksetおよび摩擦係数設定値Msetを補正するように設定計算装置13に指示する。設定計算装置13は、この補正係数伝送部7の指示に基づいて、変形抵抗設定値Ksetに変形抵抗モデル補正係数Kadjを乗じ、且つ、摩擦係数設定値Msetに摩擦係数モデル補正係数Madjを乗ずる。これによって、設定計算装置13は、被圧延材26に対応する変形抵抗設定値Ksetおよび摩擦係数設定値Msetを各々補正する。
つぎに、設定計算装置13は、次式(15)に示すように、乗算値Kset・Kadjと、乗算値Mset・Madjと、上述した圧延ロールに関する要因(y1,y2,・・・)とを圧延荷重モデルgに代入して、被圧延材26に対応する圧延荷重設定値Psetを算出する。なお、乗算値Kset・Kadjは、変形抵抗モデル補正係数Kadjによる変形抵抗設定値Ksetの補正値であり、変形抵抗設定値Ksetと変形抵抗モデル補正係数Kadjとの乗算によって算出される。乗算値Mset・Madjは、摩擦係数モデル補正係数Madjによる摩擦係数設定値Msetの補正値であり、摩擦係数設定値Msetと摩擦係数モデル補正係数Madjとの乗算によって算出される。
Pset=g(Kset・Kadj,Mset・Madj,y1,y2,・・・) ・・・(15)
その後、設定計算装置13は、式(15)に基づいて算出した圧延荷重設定値Psetをもとに、被圧延材26に対する圧延ロールの圧下量を算出する。設定計算装置13は、この算出した圧下量を被圧延材26の圧延条件として設定し、伝送ケーブル15を介して、圧下装置23(図1参照)に圧下量設定値を送信する。圧下装置23は、この設定計算装置13から取得した圧下量設定値をもとに、圧延機22の圧延ロールの圧下量を調整する。圧延機22は、この調整された圧下量に至るまで、圧延ロールを回転しつつ被圧延材26に押圧する。この結果、圧延機22は、上述した圧延荷重設定値Psetに近似する(さらには圧延荷重設定値Psetと同値の)圧延荷重を被圧延材26に加えつつ、この被圧延材26を圧延する。
上述したような圧延荷重の学習制御方法を用いることによって、熱間仕上圧延装置21は、被圧延材25,26に加える圧延荷重を圧延荷重設定値Psetに高精度に合わせて、被圧延材25,26を順次圧延できる。熱間仕上圧延装置21は、このように鉄鋼材等の金属材を圧延することによって、設定圧延条件に沿った所望の金属板を的確に製造することができる。
つぎに、本発明の具体的に実施例を示して、本発明による作用効果を具体的に説明する。図4は、本発明による圧延荷重設定値と圧延荷重実績値との誤差の調査結果を例示する模式図である。図5は、従来法による圧延荷重モデルの予測精度の調査結果を例示する模式図である。図6は、本発明による圧延荷重モデルの予測精度の調査結果を例示する模式図である。なお、図4には、本発明に対する比較例として、従来法による圧延荷重設定値と圧延荷重実績値との誤差の調査結果が図示されている。
本実施例において、被圧延材25,26として高張力鋼(以下、ハイテン材という)を用いた。熱間仕上圧延装置21は、7つの圧延スタンドを備えたものを用い、100サンプルのハイテン材を順次圧延した。学習制御装置1は、1サンプルのハイテン材毎に、上述した学習計算処理および設定計算処理を実行して、変形抵抗モデル補正係数Kadjおよび摩擦係数モデル補正係数Madjを設定計算装置13に送信した。これによって、学習制御装置1は、100サンプルのハイテン材の各々について、上述した変形抵抗設定値Ksetおよび摩擦係数設定値Msetの各補正処理を設定計算装置13に行わせた。
また、圧延荷重モデルgによる圧延荷重予測値は、熱間仕上圧延装置21の最下流(すなわち7スタンド目)の圧延機22に設定する圧延荷重とした。これに対応して、圧延荷重実績値は、圧延機22における荷重計24によって計測した。調査対象の圧延荷重誤差は、この圧延荷重予測値と荷重計24による圧延荷重実績値との比(圧延荷重予測値/圧延荷重実績値)とした。すなわち、本実施例における圧延荷重の予測精度は、圧延荷重誤差が「1」に近似するに伴って向上する。なお、図4は、縦軸を圧延荷重誤差とし、横軸をハイテン材の圧延順とした。図5,6は、縦軸を圧延荷重予測値とし、横軸を圧延荷重実績値とした。図4〜6には、1つのサンプルのハイテン材毎に1つの点を対応させて、100サンプル分のハイテン材に関する圧延荷重誤差の調査結果をプロットした。
図4において、プロット線L1は、本発明による圧延荷重誤差の調査結果を示す。プロット線L2は、従来法による圧延荷重誤差の調査結果を示す。ここで、本発明にかかる圧延荷重の学習制御装置1および学習制御方法は、上述したように、変形抵抗と摩擦係数とを分離して学習するものである。すなわち、本発明において、変形抵抗の推定誤差は、被圧延材25の材料に関する要因等、摩擦係数に比して変形抵抗に大きな影響を与える因子を用いて学習される。摩擦係数の推定誤差は、被圧延材25と圧延ロールとの摩擦現象に関する要因等、変形抵抗に比して摩擦係数に大きな影響を与える因子を用いて学習される。一方、従来法は、圧延荷重の学習制御において変形抵抗と摩擦係数とを分離せず、例えば、圧延速度等の共通因子を用いて変形抵抗と摩擦係数とを学習するものである。
図4のプロット線L2に示すように、従来法では、圧延荷重誤差の平均値が1.02であり、標準偏差が0.11であった。これに対し、本発明では、図4のプロット線L1に示すように、圧延荷重誤差の平均値が1.00であり、標準偏差が0.07であった。この調査結果によれば、本発明は、従来法に比して圧延荷重誤差および誤差の変動(ばらつき)がともに小さいことが判明した。このことは、本発明にかかる圧延荷重の学習制御装置1および学習制御方法を用いることによって、従来法に比して高精度に圧延荷重を予測できたことを意味する。
一方、図5,6において、グラフ左下から右上に斜行する直線(以下、基準直線という)は、圧延荷重予測値と圧延荷重実績値とが一致するプロット位置を示している。すなわち、図5,6の各グラフ内にプロットされた点は、この基準直線に近づくほど、圧延荷重予測値が圧延荷重実績値に近づくことを意味する。ここで、図5に示す調査結果と図6に示す調査結果とを比較した場合、図6のプロット点は、図5のプロット点に比して基準直線に近く、且つ、基準直線からの乖離も小さい。このことは、本発明による圧延荷重モデルの予測精度が従来法に比して高精度であることを示している。すなわち、本発明にかかる圧延荷重の学習制御装置1および学習制御方法は、従来法に比して高精度に圧延荷重を予測することができた。
このように、従来法に比して高精度に圧延荷重を予測可能な本発明にかかる学習制御装置1および学習制御方法は、圧延対象のハイテン材に加える荷重を設定値に精度よく合わせて、圧延対象のハイテン材を順次圧延できる。この結果、設定圧延条件に沿った所望の鋼板を的確に製造することができる。なお、このような本発明による作用効果は、ハイテン材に限らず、他の鉄鋼材または鉄鋼材以外の金属材(例えば、アルミニウム、銅等)を圧延する場合も同様に得られる。
以上、説明したように、本発明の実施の形態では、圧延装置によって圧延される被圧延材の材料に関する圧延実績をもとに、この被圧延材の変形抵抗の推定誤差を学習し、且つ、この圧延装置の圧延ロールと被圧延材との摩擦現象に関する圧延実績をもとに、この圧延ロールと被圧延材との摩擦係数の推定誤差を学習する学習計算処理を行い、この学習計算処理の結果に基づく数式モデルを用い、次回の被圧延材に対応して設定される変形抵抗設定値および摩擦係数設定値の各補正係数、すなわち、変形抵抗モデル補正係数と摩擦係数モデル補正係数とを算出している。また、この次回の被圧延材に加える圧延荷重の設定値を圧延荷重モデルに基づいて算出する設定計算装置に、この算出した変形抵抗モデル補正係数および摩擦係数モデル補正係数を用いて変形抵抗設定値および摩擦係数設定値を各々補正させ、補正後の変形抵抗設定値および摩擦係数設定値を圧延荷重モデルに代入して、圧延荷重の設定値を算出している。
このため、摩擦係数に比して変形抵抗に大きな影響を与える因子を用いて、被圧延材の変形抵抗を学習でき、且つ、変形抵抗に比して摩擦係数に大きな影響を与える因子を用いて、圧延ロールと被圧延材との摩擦係数を学習できる。したがって、変形抵抗の誤差に影響する因子と摩擦係数の誤差に影響する因子とに分離して、好適な因子別に変形抵抗および摩擦係数の各推定誤差を学習できる。これによって、変形抵抗および摩擦係数の各推定誤差の補正係数を正しく学習して、圧延荷重モデルに代入する変形抵抗および摩擦係数の各補正係数を正確に算出できる。この結果、被圧延材に対する圧延荷重の設定値を圧延荷重モデルによって高精度に予測できるとともに、この圧延荷重の学習制御を通して、圧延装置の高精度な圧延制御に寄与することができる。また、圧延荷重モデル等の数式モデル(物理モデル)の改善または圧延操業の改善の基礎材料として、上述した変形抵抗および摩擦係数の各学習結果(例えば学習係数等)を活用することができる。
本発明にかかる圧延荷重の学習制御装置および学習制御方法を用いることによって、被圧延材に加える圧延荷重を圧延荷重設定値に高精度に合わせて、被圧延材を順次圧延できる。これによって、設定圧延条件に対して殆ど誤差の無い高精度な圧延条件に基づいて鉄鋼材等の金属材を圧延でき、この結果、設定圧延条件に沿った所望の金属板を的確に製造することができる。
また、本発明の実施の形態では、過去の圧延実績および変形抵抗モデル誤差を加味した変形抵抗誤差推定モデルに基づいて、被圧延材の変形抵抗モデル補正係数を算出している。また、この変形抵抗モデル補正係数と変形抵抗モデルに基づく変形抵抗モデル計算値との乗算値を圧延荷重モデルの摩擦係数に関する逆関数に代入して、上述した逆算摩擦係数値を算出している。このため、圧延荷重モデルの摩擦係数に関する逆関数に対し、変形抵抗モデル補正係数によって補正された変形抵抗モデル計算値を代入できる。これによって、逆算摩擦係数の算出処理に変形抵抗モデル計算値の誤差を含ませることなく、逆算摩擦係数値を算出できる。この結果、摩擦係数の学習計算処理によって除去が困難な変形抵抗モデル計算値の誤差を予め除去して、被圧延材および圧延ロールに関する実際の摩擦係数と逆算摩擦係数値との誤差を一層低減できる。これによって、摩擦係数の推定誤差をより高精度に学習できることから、圧延荷重モデルに基づく圧延荷重の予測精度の向上を促進できる。
なお、上述した実施の形態では、圧延制御される圧延条件として圧延ロールの圧下量を例示していたが、これに限らず、本発明によって圧延制御される圧延条件は、圧延ロールのロール間ギャップ等の圧延荷重に関するものであればよい。
また、上述した実施の形態では、図1に示した熱間仕上圧延装置21の最下流の圧延機22に対応して、圧延荷重の学習制御を行っていたが、これに限らず、本発明による圧延荷重の学習制御は、熱間仕上圧延装置21内に配置された何れのスタンドの圧延機に対応して行われてもよい。あるいは、熱間仕上圧延装置21内の複数スタンドの圧延機に対応して、圧延荷重の学習制御を行ってもよい。この場合、学習制御装置1は、圧延制御対象である各圧延機の圧延実績をもとに、圧延機22の場合と同様の学習計算処理および設定計算処理を実行すればよい。
さらに、上述した実施の形態では、7スタンドの圧延機を備えた熱間仕上圧延装置21を例示したが、これに限らず、熱間仕上圧延装置21は、1以上の圧延スタンドを備えたものであればよい。すなわち、本発明において、圧延制御対象である熱間仕上圧延装置21のスタンド数は、特に問われない。
また、上述した実施の形態では、圧延制御対象として熱間仕上圧延装置21を例示したが、これに限らず、本発明による圧延制御対象は、熱間圧延ライン内の他の圧延装置、例えば粗圧延装置であってもよいし、熱間圧延ライン以外の圧延装置、例えば冷間連続圧延装置または厚板圧延装置等の圧延装置であってもよい。
さらに、上述した実施の形態では、図2に示したように、変形抵抗モデル計算値Kcalを算出した後に逆算変形抵抗値Kactを算出し、摩擦係数モデル計算値Mcalを算出した後に逆算摩擦係数値Mactを算出していたが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、逆算変形抵抗値Kactを算出した後に変形抵抗モデル計算値Kcalを算出し、逆算摩擦係数値Mactを算出した後に摩擦係数モデル計算値Mcalを算出してもよい。
また、上述した実施の形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は全て本発明に含まれる。