JP6019216B2 - 黒液の製造方法および香味成分含有液の製造方法 - Google Patents

黒液の製造方法および香味成分含有液の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、たばこ原料を処理することにより得られる黒液の製造方法に関する。また、前記黒液を処理することにより得られる香味成分含有液の製造方法にも関する。
黒液とは、一般的に、パルプの製造工程における蒸解処理によって得られる黒または褐色の液体をいう。ここで、蒸解処理とは、パルプの原料を薬液と共に加熱し、パルプを得る処理方法である。得られたパルプは、紙、シート等の原料として工業的に利用される。
この蒸解処理には種々の方法があり、例えば、水酸化ナトリウムと硫酸ナトリウムの混合液を使用するクラフトパルプ法、水酸化ナトリウム水溶液を使用するソーダパルプ法、重亜硫酸塩および亜硫酸ガス等を使用する酸性亜硫酸塩法、水酸化ナトリウムと重亜硫酸塩を使用する中性亜硫酸塩法等が挙げられる。蒸解処理は、一般的に厳しい条件下で行われるため、その反応を制御することは難しい。そのため、目的とする特定の化合物を得るために、蒸解処理は行われていない。また、工業的に木材パルプを得る場合においては、蒸解処理によって得られる黒液は、廃棄処分される場合が多いのが現状である。
一方、たばこ業界においては、たばこ繊維をもとに製造されるシートたばこが知られている。シートたばこは、例えば、たばこ原料の短中骨、細粉等を60℃程度の温水中で撹拌し、その後、抽出液と残渣(すなわち、たばこ繊維)とに分離し、得られたたばこ繊維をシート化することで得られる。このシートたばこには、適宜たばこに好ましい香味を付与する技術が知られている。そのような技術として、例えば、たばこ原料からたばこ繊維を抽出する際に得られた香味成分を含む抽出液をたばこ繊維に添加することが一般的に行われている。
たばこに好ましい香味成分の1つとして、バニリンが挙げられる。バニリンを製造する方法としては、亜硫酸パルプを製造する際に生じる黒液をアルカリ性条件下で酸化する方法が知られている(特許文献1〜3)。
米国特許第2516827号明細書 米国特許第2576752号明細書 米国特許第2576753号明細書
上記バニリンの製造方法を、リグニンを含むたばこ原料に適用することにより、バニリンを含む黒液が得られると考えられる。また、そのようにして得られた黒液をたばこ繊維に添加すれば、良好な香味をもつシートたばこが得られると考えられる。しかしながら、上記バニリンの製造方法である酸性亜硫酸法においては、薬剤として二酸化硫黄を用いる方法が知られている。同様に中性亜硫酸塩法においても薬剤として硫化ナトリウムを用いる方法が知られている。しかしたばこ原料やたばこ抽出液の処理において、硫黄を含む化合物でたばこ原料またはたばこ抽出液を処理することは、たばこの喫味を損なう可能性があり好ましくないとされる。また前記酸性亜硫酸法はおもに2回以上の加熱を行う多段操作であるため、複雑な処理設備を必要とする点で問題を有する。
そこで、本発明は、少ない処理工程で、たばこの喫味を損なうことなく香味成分を含む黒液を得ることができる黒液の製造方法を提供することを目的とする。また、黒液を処理することにより得られる香味成分含有液の製造方法を提供することも目的とする。
本発明の第1の側面によれば、たばこ原料をアルカリ性条件下で蒸解して黒液を得ることを含む、黒液の製造方法が提供される。
本発明の第2の側面によれば、たばこ原料をアルカリ性条件下で蒸解することと、前記蒸解により得られた生成物を黒液とたばこ繊維とに分離することと、前記黒液を脱塩して香味成分含有液を得ることとを含む香味成分含有液の製造方法が提供される。
本発明によれば、少ない処理工程で、香味成分を含む黒液を得ることができる黒液の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、黒液を処理することにより得られる香味成分含有液の製造方法を提供することもできる。
図1は、本発明に係る黒液、香味成分含有液およびたばこ充填材の製造方法を示すフローチャートである。 図2Aは、蒸解処理の時間および温度と、バニリン生成量との関係を示す図である。 図2Bは、蒸解処理の時間および温度と、残渣量との関係を示す図である。 図3Aは、蒸解処理の時間および固液比と、バニリン生成量との関係を示す図である。 図3Bは、蒸解処理の時間および固液比と、残渣量との関係を示す図である。 図4Aは、蒸解処理の時間ならびに使用する薬液の種類および濃度と、バニリン生成量との関係を示す図である。 図4Bは、蒸解処理の時間ならびに使用する薬液の種類および濃度と、シリンガアルデヒド生成量との関係を示す図である。 図4Cは、蒸解処理の時間ならびに使用する薬液の種類および濃度と、残渣量との関係を示す図である。 図5は、実施例5の結果を示す図である。 図6は、酸素雰囲気下での蒸解処理における、固液比とバニリン生成量の関係を示す図である。 図7は、酸素雰囲気下での蒸解処理における、酸素封入圧とバニリン生成量の関係を示す図である。 図8は、空気圧入条件下での蒸解処理における、バニリン生成量を示す図である。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
まず、本発明の1つの態様に係る黒液の製造方法について、図1を参照して説明する。
図1は、本発明に係る黒液、香味成分含有液およびたばこ充填材の製造方法を示すフローチャートである。本発明に係る黒液の製造方法は、たばこ原料をアルカリ性条件下で蒸解して黒液を得ることを含む。具体的には、たばこ原料(A)をアルカリ性条件下で蒸解処理し(S1)、生成物を分離して(S2)、黒液(B)とたばこ繊維(C)とを得る。この方法によると、少ない処理工程で、香味成分を含む黒液を得ることができる。
たばこ原料(A)としては、タバコ属の植物に由来するものを適宜使用することができるが、たばこ中骨、茎および根を多く含むものが好ましい。たばこ中骨、茎および根には、バニリンの原料となるリグニンが、たばこ葉(たばこ中骨以外の部分)よりも多く含まれるためである。
蒸解処理(S1)は、たばこ原料(A)を薬液中で加熱することにより行われる。本発明において、蒸解処理(S1)は、アルカリ性条件下で行われる。アルカリ性であればその程度は限定されないが、好ましくは強アルカリ性条件下で行われる。アルカリ性条件は、例えば、蒸解処理のための薬液としてアルカリ溶液を使用することにより作られる。薬液の濃度は、その薬液が蒸解処理に適したpHを有するように適宜調節することができるが、アルカリ溶液を使用する場合には、例えば、0.01規定以上、好ましくは0.1規定以上の濃度で使用することができる(以下、規定をNとも表す)。濃度の上限値は特に限定されないが、例えば、0.1〜2規定の濃度で使用することができる。
また、蒸解処理に適したアルカリ性条件を作るためには、pH12以上、好ましくはpH13以上のアルカリ溶液を使用することが好ましい。pHの上限値は特に限定されないが、例えばpH12〜14.3、好ましくはpH13〜14.3のアルカリ溶液を使用することができる。好ましく使用されるアルカリ溶液としては、例えば、NaOH水溶液、KOH水溶液、KCO水溶液、NaCO水溶液、NaHCO水溶液等が挙げられる。薬液として特に好ましいのは、0.1規定以上の強塩基水溶液である。薬液のpHが高いほど、バニリン生成量が高くなる傾向がある。
薬液の使用量は、使用する薬液のpHによって異なるが、たばこ原料が十分に蒸解される量であれば特に限定されない。例えば、たばこ原料の質量(g)と薬液の使用量(mL)との比が、1:2〜1:100であることが好ましく、1:3〜1:100であることがより好ましく、1:3〜1:50であることが更に好ましく、1:5〜1:50であることが更に好ましく、1:10〜1:50であることが特に好ましい。
図6の結果より、固液比の液量の下限値が3以上5未満の範囲でバニリンの生成量に大きく有意差が生じている。一方、固液比の液量の上限値に関して図6の結果をみると、固液比1:5、1:10のいずれの場合も、良好なバニリン生成量を得ており、さらに図5のサンプルBにおいては実験条件がやや異なるものの固液比1:50の場合においても良好なバニリン生成量を得ている。これらの事をかんがみれば、上記の範囲内の固液比であれば、薬液の使用量が多いほど、得られる黒液中の香味成分量が多くなる傾向があると考えられる。本発明を実施するに当たっては常識的な実施環境を考慮すると、固液比の液量の上限値は一般的に100程度であると考えられるが、前記の通り使用薬液の量が多いほど黒液中の香味成分量が増えると考えられることから、その上限値は一義的に定められるものではない。
蒸解処理は、一般的に、120〜180℃で行われる。本発明でも、前記一般的な温度で行うことが可能であるが、より好ましくは130〜180℃、特に好ましくは150〜180℃である。上記の範囲内であれば、蒸解処理の温度が高いほど、黒液中の香味成分量が多くなる傾向がある。また、蒸解処理の反応時間は、たばこ原料が十分に蒸解される時間であれば特に限定されない。使用する薬液のpHによっても異なるが、例えば、約5分〜6時間が好ましく、30分〜6時間がより好ましく、1時間〜6時間が特に好ましい。反応時間を1時間以上とすることにより、バニリン生成量が安定して高くなる傾向にある。また、上記の範囲内であれば、蒸解処理を行う時間が長いほど、バニリン生成量が高くなる傾向がある。
また、蒸解処理は、酸素雰囲気下で行うことが好ましい。酸素雰囲気下で行うことにより、より短時間で香味成分量の多い黒液を得ることができる。具体的には、たばこ原料と蒸解処理のための薬液とを入れた容器内の空気を酸素と置換することにより酸素を封入し、加熱する。酸素は、容器内の圧力が0.05〜1.0MPaのゲージ圧となるように封入することが好ましく、0.1〜0.7MPaであることがより好ましく、0.1〜0.4MPaであることが特に好ましい。
高酸素雰囲気の状態を作り出す方法としては、酸素のみを容器内に圧入する方法や、空気を圧入する方法等が挙げられるが、これに限定されるものではない。空気を圧入する場合、空気は、容器内の圧力が0.25〜5MPaのゲージ圧となるよう圧入することが好ましく、0.5〜3.5MPaであることがより好ましく、0.5〜2.0MPaであることが特に好ましい。
酸素封入後の処理は、上記の酸素を封入しない場合と同様に行うことができる。
蒸解処理後に黒液(B)とたばこ繊維(C)とに分離する工程(S2)は、公知の分離方法から適宜選択して行うことが可能であるが、例えば、スクリュープレス、スクリーン、遠心脱水等が挙げられる。
続いて、本発明の他の態様に係る香味成分含有液の製造方法について、図1を参照しながら説明する。
本発明に係る香味成分含有液の製造方法は、以下の工程を含む:
(i)たばこ原料(A)をアルカリ性条件下で蒸解すること(S1)、
(ii)蒸解により得られた生成物を黒液(B)とたばこ繊維(C)とに分離すること(S2)、
(iii)黒液(B)を脱塩し(S3)、香味成分含有液(D)を得ること。
アルカリ性条件下での蒸解工程(S1)またはその後の分離工程(S2)の後、任意に、蒸解生成物(すなわち、蒸解工程後且つ分離工程前の生成物)または黒液(B)の中和を行ってもよい。
ここでいう脱塩とは、黒液から塩を除去して、アルカリ蒸解によって生じた香味成分と塩を分離する工程をいう。これにより、塩を含まない香味成分含有液を得ることができる。
上記各工程について、以下に詳細に説明する。
(i)および(ii)の工程については、上記で説明した通りである。
(iii)の脱塩工程(S3)では、黒液(B)中に含まれるNa等の無機イオンまたは黒液(B)の中和により生じるNaCl等の塩を除去し、香味成分含有液(D)を得る。特にたばこ原料の蒸解を強アルカリ性条件下で行った場合、得られる黒液(B)中には多量の無機イオン(Na等)または塩(NaCl等)が含まれることになるが、この無機イオンまたは塩は、シガレットの喫味に悪影響を及ぼす。従って、ここで無機イオンまたは塩を除去しておくことにより、本発明の香味成分含有液(D)を用いて製造したたばこ充填材をシガレットに適用した場合に、効率よく香味を発現できる。
脱塩工程(S3)の一例として、溶媒抽出による方法があげられる。溶媒として、酢酸エチル、ヘキサン、ジエチルエーテルなどの非極性溶媒を使用することができる。この溶媒抽出による方法では、まず始めに黒液の中和を行う。ここで行われる中和工程は、黒液(B)に酸を添加することにより行う。ここで使用する酸としては、黒液(B)を中和可能な酸であればいずれも使用することができるが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。中和工程後の黒液(B)のpHは7以下であることが好ましく、pH2.0〜6.0であることがより好ましい。中和を行うことで、溶媒抽出により効率よく脱塩ができる。
また、他の脱塩方法として、イオン交換による方法があげられる。この方法では、陽イオン交換樹脂等を用いて黒液(B)中の無機イオンを水素イオンと交換することにより脱塩を行う。黒液(B)をイオン交換により脱塩して得られる香味成分含有液(D)のpHは、通常7以下になっている。
さらに脱塩工程(S3)は、減圧濃縮、水蒸気蒸留等の方法により行うことができるが、これらに限定されるものではない。
また、他の脱塩方法として、黒液を合成吸着剤と接触させて黒液中に存在する目的の香味成分を合成吸着剤に吸着させ、無機イオンまたは塩を含む黒液を除去した後に、適当な薬剤を用いて合成吸着剤から香味成分を脱着させることにより香味成分を効率よく得ることができる。ここでいう合成吸着剤とは、特殊な合成技術により多孔質構造を持つように調製された球状の架橋高分子をいい、具体的には「合成吸着剤」という名称で市販されているものをいう。合成吸着剤は、イオン交換樹脂と異なり官能基を有していないため、化学的に安定であるという利点を有する。ここで用いる合成吸着剤は、スチレン系合成吸着剤、アクリル系合成吸着剤、フェノール系合成吸着剤などが挙げられ、たとえばアンバーライトXAD(オルガノ株式会社)、セパビーズ(三菱化学株式会社)などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
上記のようにして得られる香味成分含有液(D)とは、シガレットの香味を向上させ得る香味成分を含む。そのような香味成分としては、バニリン、シリンガアルデヒド(4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシジベンズアルデヒドとも称する)、アセトバニロン(4’−ヒドロキシ−3’−メトキシアセトフェノンとも称する)、アセトシリンゴン(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジメトキシアセトフェノンとも称する)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記のように、本発明の香味成分含有液(D)は、脱塩工程(S3)を経て得られている。従って、本発明の香味成分含有液を用いて製造したたばこ充填材をシガレットに適用しても、シガレットの喫味に悪影響を及ぼすことがない。
次に、本発明の他の態様に係るたばこ充填材の製造方法について、図1を参照しながら説明する。
本発明に係るたばこ充填材の製造方法は、上記のようにして得られた香味成分含有液を、植物繊維またはその成形品に適用することを含む。植物繊維としては、例えばたばこ繊維が挙げられるが、さらには、たばこ以外の植物より得られた繊維であってもよい。また、これらを混合したものであってもよく、たばこ充填材の製造のために使用され得る植物繊維であれば、特に限定することなく使用することができる。以下、植物繊維としてたばこ繊維を使用する場合について説明する。
具体的には、たばこ原料(A)の蒸解(S1)および分離(S2)によって得られたたばこ繊維(C)に、香味成分含有液(D)を添加する(S5)。ここで使用するたばこ繊維は、上記のように香味成分含有液(D)を製造する過程で同一の原料から得られたたばこ繊維(C)であってもよいし、他の工程により得られたたばこ繊維であってもよい。
たばこ繊維への香味成分含有液(D)の添加量は、得られるたばこ充填材をシガレットに使用した際に所望の香味が得られる範囲で、適宜設定することが可能である。
なお、香味成分含有液(D)は、濃縮機等を介して所定の濃度に濃縮(例えば5〜10倍)された後にたばこ繊維(C)に添加されてもよい。濃縮液を用いる場合には、濃縮前の香味成分含有液を上記好ましい量で添加した場合にたばこ繊維に含まれる香味成分の量と濃縮液を添加した場合にたばこ繊維に含まれる香味成分の量が同等になるように、濃縮液の添加量を調節することが好ましい。
香味成分含有液(D)のたばこ繊維(C)またはその成形品への添加は、公知の添加方法から適宜選択して行うことが可能であるが、例えば、噴霧、浸漬、塗工等の手段により行うことが可能である。
香味成分含有液(D)の添加後、乾燥機で乾燥処理を施すことにより(S6)、所定の水分に調整された本発明に係るたばこ充填材(E)が製造される。乾燥後のたばこ充填材(E)中の水分は、例えば、5〜15重量%、好ましくは11〜13重量%である。
たばこ繊維(C)は、香味成分含有液(D)の添加前に、任意に、所定の形状に成形されてもよい(S4)。成形する場合のたばこ繊維の形状は、目的とするたばこ充填材の形状に応じて適宜決定される。例えば、たばこ繊維(C)またはその成形品をベースシートたばことして、シートたばこを製造することができる。たばこ繊維(C)の形状は、例えば粉末状、押出成形により成形されたもの等であってもよい。
シートたばこは、たばこ繊維(C)をシート状に成形してベースシートたばことし、そのベースシートたばこに香味成分含有液(D)を添加することにより製造される。ベースシートたばこは、たばこ原料から得られたたばこ繊維を任意に補強材および結合剤と共に、水等の存在下で混合し、シート状に成形し、乾燥することにより得られる。ベースシートたばこには、上記香味成分含有液の他に、保湿剤、香料、耐水化剤等を適宜添加することができる。
補強材としては、パルプの解繊品等を好ましく使用することができる。結合剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、メチルセルロース、エチルセルロース、でんぷん、アルギン酸ナトリウム、さらにはローカストビーンガム、アラビアガム等を用いることができるがこれらに限定されるものではない。
また、保湿剤としては、グリセリンやプロピレングリコール等の多価アルコール、多価アルコールとコーンシロップとの混合物、ソルビトールやマルチトール等の糖アルコール等を用いることができる。さらに、香料としては、糖類や果実エキス等を用いることができる。
ベースシートたばこは、例えば、特開平3−224472号公報に開示されたシートたばこ製造装置を用いて製造することが可能である。ベースシートたばこへの香味成分含有液の添加は、スプレー加香(静電塗工)、ロール塗工、グラビア塗工、サイズプレス等により行うことができる。しかし、スプレー加香(静電塗工)によるシートたばこへの香味成分の添加率が30%程度であるのに対して、ロール塗工やグラビア塗工の場合にはその90%程度を添加することができる。従って、ロール塗工やグラビア塗工を使用することにより、少量の香味成分含有液を有効に用いてシートたばこの香味を高めることができる。
得られたシートたばこは、適宜、裁断等を行い、たばこ充填材として使用される。
本発明は、また、上記方法により得られるたばこ充填材および該たばこ充填材を含むたばこ製品にも関する。上記方法により得られたたばこ充填材をシガレットに適用することにより、香味に優れたシガレットを得ることができる。また、得られたシートたばこは、シガレット用材料品(巻紙、フィルター、包装紙、パッケージ等)としても使用することができる。さらに、得られたシートたばこは、シガレット以外のたばこ製品、例えばパイプ、葉巻、リトルシガーなどのたばこ製品、非燃焼型たばこ製品、スモークレスたばこ製品(例えば嗅ぎたばこ、口腔用たばこなど)に使用することができる。
本発明によると、従来の黒液の製造方法(例えば、酸性亜硫酸塩法)と比較して、簡便な方法で黒液を得ることができる。すなわち、本発明の方法においては、たばこ原料をアルカリ性条件下で蒸解処理するという1段階の反応を行うだけで、黒液を得ることが可能である。また、本発明の黒液の製造方法は、従来の方法と比較して、加熱時間が短いという特長も有する。本発明の方法により得られる黒液は、従来の方法により得られる黒液と比較して、同等またはそれ以上の量の香味成分を含んでいる。また、本発明では従来の黒液の製造方法のような硫黄を含む薬液での処理を行わないため、本発明で得られた黒液をシガレットに適応した場合には良好な喫味のシガレットを得ることができる。従って、本発明によると、少ない処理工程で、より短時間に、香味成分を含む黒液を得ることができる。
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の内容がこれにより限定されるものではない。
<黒液の製造>
(実施例1)
黄色たばこ茎およびバーレーたばこ茎の粗砕品1gと、2N NaOH水溶液50mLを耐圧容器に封入し、撹拌しながら180℃まで加熱した後、3時間保持した。その後、容器ごと冷却し、黒液と残渣(すなわちたばこ繊維)とをガラスフィルターによりろ過し、分離回収した。黒液に含まれる香味成分量をGCMSにより測定し、たばこ原料1gから生成した香味成分量とした。
黒液に含まれる香味成分量は以下の方法により測定した。
〔黒液の前処理〕
黒液に内標(p−BPA:50μg)を添加し、純水で全量40mlに調整後、1N HCl水溶液を加えてpHが2±0.1となるよう調整した。pH調整後の黒液をあらかじめジエチルエーテル(20ml)→メタノール(20ml)→0.01N HCl水溶液(20ml)でコンディショニングした固相抽出カラムOasis HLB 1g/20cc(Waters製)に全量通液し、さらにジエチルエーテルを通液して回収液を得た。得られた回収液を常圧にて濃縮後、ジエチルエーテルでメスアップし、分析試料を得た。得られた分析試料のGCMS分析は、以下の方法により行った。
〔GCMS分析〕
GCMS分析は、HP6890 GCシステム、5973N質量分析計、およびDB−FFAPカラム(30m, 0.2mm, 0.25μm)(いずれもAgilent製)を用いて行った。詳細な分析条件は、以下の表Aに示す。
Figure 0006019216
結果を、以下の表1に示す。表1に香味成分として挙げた化合物は、シガレットの香喫味に影響を及ぼすと考えられている化合物である。
Figure 0006019216
(実施例2)
バーレーたばこ茎の粗砕品1gと、2N NaOH水溶液50mLとを耐圧容器に封入し、撹拌しながら所定の温度に加熱した後、一定時間保持した。加熱温度は130℃、150℃および180℃とし、保持時間は5〜320分の範囲で変化させた。その後の冷却工程および分離回収工程は、実施例1と同様に行った。黒液中に含まれるバニリンの量をGCMSにより測定し、たばこ原料1gから生成したバニリン量とした。また、分離された残渣の重量を測定し、たばこ原料1gから得られた残渣量とした。その結果を、図2A、図2Bに示す。
図2Aは、蒸解処理の時間および温度と、バニリン生成量との関係を示す図である。図2Bは、蒸解処理の時間および温度と、残渣量との関係を示す図である。図2Aからは、測定した範囲内であれば、蒸解温度が高いほど、また、処理時間が長いほど、黒液中に含まれるバニリンの量が多くなる傾向にあることが分かる。図2Bからは、測定した範囲内であれば、蒸解温度が高いほど、また処理時間が長いほど、分離される残渣量が少なくなる傾向にあることが分かる。
(実施例3)
バーレーたばこ茎の粗砕品1gと、2N NaOH水溶液50mLまたは10mLとを耐圧容器に封入し、撹拌しながら180℃に加熱した後、所定の時間保持した。保持時間は5〜320分の範囲で変化させた。その後の冷却工程および分離回収工程は、実施例1と同様に行った。黒液中に含まれるバニリンの量および分離された残渣の重量を、実施例2と同様に測定した。その結果を、図3A、図3Bに示す。
図3Aは、蒸解処理の時間および固液比と、バニリン生成量との関係を示す図である。図3Bは、蒸解処理の時間および固液比と、残渣量との関係を示す図である。ここで、たばこ原料1g当り2N NaOH水溶液を50mL使用した場合には、固液比1:50とし、たばこ原料1g当り2N NaOH水溶液を10mL使用した場合には、固液比1:10とした。
図3Aからは、使用するアルカリ水溶液の量が多い方が、黒液中に含まれるバニリンの量が多くなる傾向にあることが分かる。また、図3Bからは、差は顕著ではないものの、使用するアルカリ溶液の量が多い方が、分離される残渣量が少なくなる傾向にあることが分かる。
(実施例4)
バーレーたばこの茎の粗砕品1gと、アルカリ水溶液50mLとを耐圧容器に封入し、撹拌しながら180℃に加熱した後、所定の時間保持した。保持時間は5〜320分の範囲で変化させた。アルカリ水溶液としては、2N NaOH(pH14.3)水溶液、0.5N NaOH水溶液(pH13.6)、0.1N NaOH水溶液(pH12.9)、0.05N NaOH水溶液(pH12.6)、0.01N NaOH水溶液(pH12.0)、2N KOH水溶液(pH14.3)、0.1N KOH水溶液(pH12.9)、または4mol/kg KCO水溶液(pH12.5)を使用した。その後の冷却工程および分離回収工程は、実施例1と同様に行った。黒液中に含まれるバニリンおよびシリンガアルデヒド量をGCMSにより測定し、たばこ原料1gから生成したバニリン量およびシリンガアルデヒド量とした。また、分離された残渣の重量を測定し、たばこ原料1gから得られた残渣量とした。その結果を、図4A、図4B、図4Cに示す。
図4Aは、蒸解処理の時間ならびに使用する薬液の種類および濃度と、バニリン生成量との関係を示す図である。図4Bは、蒸解処理の時間ならびに使用する薬液の種類および濃度と、シリンガアルデヒド生成量との関係を示す図である。図4Cは、蒸解処理の時間ならびに使用する薬液の濃度と、残渣量との関係を示す図である。
より多くの香味成分量を含む黒液を得るという観点で図4Aおよび図4Bを参照すると、蒸解処理のための薬液は、0.1N以上の濃度で使用することが好ましく、0.5N以上の濃度で使用することがより好ましいことが分かる。また、pH12.9〜14.3の条件下で蒸解処理を行うことが好ましいことも分かる。これらのことから、蒸解処理は、強アルカリ性で行うことが好ましいと言える。また、図4Cからは、使用する薬液のアルカリ性が強い方が、分離される残渣量が少なくなる傾向にあることが分かる。
(実施例5:蒸解処理により得られる揮発性成分量の比較)
以下に示す黒液のサンプルA〜Dについて、バニリン生成量をGCMSにより測定した。その結果を、図5に示す。図5において、バニリン生成量は、たばこ原料1gから生成した量として示されている。
(サンプルA:実施例1)
実施例1において、たばこ原料としてバーレーたばこ茎の粗砕品1gを使用したものを、サンプルAとした。
(サンプルB:酸素封入)
バーレーたばこ茎の粗砕品と2N NaOH水溶液とを、固液比1:50(たばこ原料1g当りNaOHを50mL使用)(以下同様)で耐圧容器に封入し、容器内にゲージ圧が0.1MPaとなるように酸素を封入した。これを撹拌しながら、180℃まで加熱した後、3時間保持した。その後の冷却工程および分離回収工程は、実施例1と同様に行った。
(サンプルC:中性亜硫酸塩法)
バーレーたばこ茎の粗砕品700g、NaSO210g、NaOH26.6g、アントラキノン0.35gと水2.1Lとを耐圧容器に封入し(固液比1:3)、これを撹拌しながら179℃まで加熱し、6時間保持した。その後の冷却工程および分離回収工程は、実施例1と同様に行った。
(サンプルD:酸性亜硫酸塩法)
バーレーたばこ茎の粗砕品500gと蒸解薬液2L(SO9重量%、Ca(OH) 1.32重量%)とを耐圧容器に封入し(固液比1:4)、158℃まで加熱した後、6時間保持した。その後、容器ごと冷却し、黒液と残渣(すなわちたばこ繊維)とをガラスフィルターによりろ過し、分離回収した。得られた黒液に、2N NaOHの濃度となるようにNaOHを加え、これを耐圧容器に封入して180℃で3時間加熱した。冷却後、黒液を回収した。
図5より、本発明の方法(サンプルAおよびB)によると、中性亜硫酸塩法および酸性亜硫酸塩法により蒸解処理した場合(サンプルCおよびD)と同様にバニリンを含む黒液が得られることが分かる。特に、酸素を封入した場合には(サンプルB)、短時間で非常に高い量のバニリンを含む黒液が得られた。
(実施例6:酸素封入条件下での蒸解処理により得られる揮発性成分量の比較)
バーレーたばこ茎の粗砕品700gに対し2N NaOH水溶液を各々2.1L、3.5L、7Lを添加し、固液比が各々1:3、1:5、1:10となるようサンプルを調整した。それらを耐圧容器に封入し、さらに耐圧容器内部の空気を0.4MPa(ゲージ圧)の酸素で置換した。耐圧容器を撹拌しながら150℃まで加熱した後、3時間保持した。その後、耐圧容器ごと冷却し、黒液と残渣(すなわちたばこ繊維)とをガラスフィルターによりろ過し、分離回収した。黒液に含まれるバニリン量をGCMSにより測定し、たばこ原料1gからのバニリン生成量とした。その結果を、図6に示す。図6より、固液比が1:5以上のときに特にバニリン生成量が高いことが分かる。
(実施例7:酸素封入条件下での蒸解処理により得られる揮発性成分量の比較)
バーレーたばこ茎の粗砕品700gと2N NaOH水溶液7Lを耐圧容器に封入し、さらに耐圧容器内部の空気を各々0.1MPa、0.3MPa、0.4MPa(ゲージ圧)の酸素で置換した。耐圧容器を撹拌しながら150℃まで加熱した後、各々1時間、3時間、6時間保持した。その後、耐圧容器ごと冷却し、黒液と残渣(すなわちたばこ繊維)とをガラスフィルターによりろ過し、分離回収した。黒液に含まれるバニリン量をGCMSにより測定し、たばこ原料1gからのバニリン生成量を算出した。その結果を、図7に示す。図7より、置換した酸素の圧力が高いほど、バニリン生成量が高いことがわかる。
(実施例8:空気圧入条件下での蒸解処理により得られる揮発性成分量の比較)
バーレーたばこ茎の粗砕品5gと2N NaOH水溶液50mLを耐圧容器に封入し、さらに耐圧容器内部に空気を0.5MPa(ゲージ圧)となるよう圧入した。耐圧容器を撹拌しながら150℃まで加熱した後、3時間保持した。その後、耐圧容器ごと冷却し、黒液と残渣(すなわちたばこ繊維)とをガラスフィルターによりろ過し、分離回収した。比較として、空気の圧入は行わず、その他の条件は同一で上記と同様に処理を実施した。各々の黒液に含まれるバニリン量をGCMSにより測定し、たばこ原料1gからのバニリン生成量を算出した。その結果を、図8に示す。図8より、空気の圧入を行うことにより高酸素雰囲気な条件下で反応を行った場合の方が、空気の圧入を行わない場合よりも、バニリン生成量が高いことがわかる。
<香味成分含有液の製造>
(実施例9:溶媒抽出による黒液の脱塩)
実施例1で得られた黒液に塩酸を加え、pH7以下となるように中和した。中和した黒液および等量の酢酸エチルを分液漏斗に入れ、よく撹拌した。しばらく静置した後、有機層を回収した。有機層をロータリーエバポレーターを用いて濃縮し、酢酸エチルを除去した。得られた乾固物に適量のエタノールを加え、甘い香りを有する香味成分含有液を得た。得られた香味成分含有液に含まれるバニリン濃度をGCMSにより測定し、もとの黒液からのバニリン回収率を算出した。その結果を表3に示す。
(実施例10:合成吸着剤による黒液の脱塩)
実施例6のうち、固液比1:10の条件で得られた黒液に塩酸を加え、pH7以下となるように中和した。中和した黒液440mLを、スチレン系合成吸着剤(アンバーライトXAD4、オルガノ株式会社)30mLを充填したカラムに通液した後、純水を通液して合成吸着剤を洗浄し、さらにエタノール240mLを通液し、全量を回収した。回収したエタノール溶液に含まれるバニリン濃度をGCMSにより測定し、もとの黒液からのバニリン回収率を算出した。その結果を表3に示す。
(実施例11:イオン交換による黒液の脱塩)
実施例1で得られた黒液を水で10倍に希釈し、陽イオン交換樹脂(アンバーライトIRC76、オルガノ株式会社)を充填したカラムに通した。カラムを通過した液を回収してpHを測定したところ、pHが2〜6以下の画分が得られたことから、これらの画分では黒液中のNaイオンがHイオンに交換されたことがわかった。また、これらの画分に含まれるバニリン濃度をGCMSにて測定したところ、その濃度はカラム通過前の黒液とほぼ同等であった。もとの黒液からのバニリン回収率を算出し、その結果を表3に示す。
(実施例12:減圧濃縮による脱塩および黒液中のバニリン量の変化)
減圧濃縮による脱塩および黒液中のバニリン量がどのように変化するのかを、モデル水溶液を使用して以下のように調べた。
モデル水溶液(2mol/L NaCl、バニリン0.221g)20gを、エバポレーターを用いて50℃で減圧濃縮し、乾固させた。得られた乾固物をエタノールに溶解し、ろ紙を用いてろ過した。得られた回収液のバニリン濃度をGCMSにより測定した。減圧濃縮前のモデル溶液に含まれるバニリン量と減圧濃縮後の溶液に含まれるバニリン量とを比較することにより、バニリン回収率を算出した。その結果を表2および表3に示す。
上記試験(実施例8〜12)の結果を、以下の表2および表3に示す。
Figure 0006019216
Figure 0006019216
表2、3から、合成吸着剤による黒液の脱塩がバニリン回収率が最も高く、本発明における脱塩方法として好適であることがわかる。また、表2、3から、合成吸着剤による脱塩以外の脱塩方法についても良好なバニリン回収率が得られていることが分かる。従って、脱塩を行うことによるバニリンの損失量は、僅かであり、脱塩工程は、本発明の効果(すなわち、香味成分を含む香味成分含有液の調製)に影響を及ぼさないと言える。
<たばこ充填材の製造>
(実施例13)
実施例9で得られた香味成分含有液を、バーレーたばこ茎から得られたたばこ繊維で作製したたばこベースシートにスプレー塗工し、乾燥した。乾燥したシートたばこを裁刻し、たばこ充填材を得た。
<シガレットの製造>
(実施例14)
実施例13で得られたたばこ充填材をたばこ刻(90重量%)に10重量%配合し、手巻きシガレットを作製した。作製したシガレットを喫煙すると、バニラ様の香味が感じられた。

Claims (12)

  1. たばこ原料をアルカリ性条件下で蒸解することと、
    前記蒸解により得られた生成物を黒液とたばこ繊維とに分離して、たばこ製品に使用可能な香味成分を含有する黒液を得ることと、
    前記蒸解により得られた生成物を前記分離前に中和するか、または前記分離により得られた黒液を中和することと、
    前記分離と前記中和の両工程を経て調製された黒液を脱塩して、香味成分含有液を得ることと
    を含む、香味成分含有液の製造方法。
  2. 前記蒸解は、0.01規定以上のアルカリ溶液を用いて行われる請求項1に記載の香味成分含有液の製造方法。
  3. 前記蒸解は、pH12以上のアルカリ溶液を用いて行われる請求項1に記載の香味成分含有液の製造方法。
  4. 前記蒸解は、酸素雰囲気下で行われる請求項1〜3のいずれか1項に記載の香味成分含有液の製造方法。
  5. たばこ原料をアルカリ性条件下で蒸解することと、
    前記蒸解により得られた生成物を黒液とたばこ繊維とに分離することと、
    前記黒液を脱塩して、香味成分含有液を得ることと
    を含む香味成分含有液の製造方法。
  6. 前記蒸解工程または前記分離工程の後に、蒸解生成物または黒液を中和する工程を更に含む請求項5に記載の香味成分含有液の製造方法。
  7. 前記蒸解は、0.01規定以上のアルカリ溶液を用いて行われる請求項5または6に記載の香味成分含有液の製造方法。
  8. 前記蒸解は、pH12以上のアルカリ溶液を用いて行われる請求項5または6に記載の香味成分含有液の製造方法。
  9. 前記蒸解は、酸素雰囲気下で行われる請求項5〜8のいずれか1項に記載の香味成分含有液の製造方法。
  10. 請求項5〜9のいずれか1項に記載の方法により得られた香味成分含有液を、植物繊維またはその成形品に適用することを含むたばこ充填材の製造方法。
  11. 前記植物繊維がたばこ繊維である、請求項10に記載のたばこ充填材の製造方法。
  12. 前記たばこ繊維またはその成形品はベースシートたばこである、請求項11に記載のたばこ充填材の製造方法。
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