本発明の一実施形態に係るDC−DCコンバータについて、図1〜図14を参酌しつつ説明する。まず、同実施形態に係るDC−DCコンバータの構成について、図1〜図5を参酌しつつ説明する。
DC−DCコンバータ1は、図1に示すように、特定の電圧値E1の直流電力を供給する直流電源2と、該直流電源2の電圧値E1と異なる別の電圧値E2の直流電力を必要とする1以上の負荷3と、該負荷3に対して供給すべき直流電力の電圧値を該DC−DCコンバータ1に対して指令する電圧指令部4とに接続される。このDC−DCコンバータ1は、直流電力の電圧値E1を電圧指令部4から指令される電圧値E3に変換する。そして、DC−DCコンバータ1は、電圧値E3に変換された直流電力を負荷3に供給する。
直流電源2は、具体的には、直接、直流電力を供給可能な蓄電池であったり、商用電源などの交流電力から直流電力に変換された電源などである。本実施形態に係る直流電源2は、単相の直流電源である例を説明する。直流電源2は、DC−DCコンバータ1の入力側に接続される。そこで、本明細書では、直流電源2からDC−DCコンバータ1に入力される電圧値E1のことを「入力電圧値E1」と呼ぶ。この入力電圧値E1は、該直流電源2ごとに定まる特定の固定値である。
負荷3は、直流電力で動作する負荷全般を対象とする。負荷3は、DC−DCコンバータ1の出力側に接続される。本実施形態に係る負荷3は、単相の直流負荷である例を説明する。そこで、本明細書では、DC−DCコンバータ1から負荷3に出力される電圧値E2のことを「出力電圧値E2」と呼ぶ。出力電圧値E2は、負荷3ごとに異なっており、また、その運転状態によっても異なる。つまり、負荷3に供給すべき電圧値は、特定の固定された値でなく、変更できることを求められている。
電圧指令部4は、負荷3などを運転制御する設備の一部である。電圧指令部4もDC−DCコンバータ1に接続されている。電圧指令部4は、負荷3が所望する電圧値をDC−DCコンバータ1に指令する装置である。そこで、本明細書では、電圧指令部4からDC−DCコンバータ1に対して指令される電圧値E3のことを「電圧指令値E3」と呼ぶ。
DC−DCコンバータ1は、直流電源2から入力される直流電力を交流電力に変換するインバータ回路10と、該インバータ回路10を電気的に絶縁する絶縁用変圧器11と、該絶縁用変圧器11から出力される交流電力を整流する整流回路12と、該整流回路12で整流される直流電力を平滑化する平滑化回路13と、該平滑化回路13から出力される電圧値を検出する電圧検出回路14と、該電圧検出回路14から検出された電圧検出値E4に基づいてインバータ回路10の交流電力の電圧値を制御する制御装置15とを備える。
インバータ回路10は、図1及び図2の回路図に示すように、直流電源2から入力される入力電圧値E1の直流電力を負荷3に出力する出力電圧値E2とするために適当なインバータ出力電圧値VINVの交流電力に変換する。このインバータ回路10は、単相のフルブリッジ回路を構成する。つまり、インバータ回路10は、直流電源2を接続可能な入力端子100と、この入力端子100に接続されて直流電源2の正極側から負極側に向かって流れる電流の流れをスイッチングして切り換える4つのスイッチング素子101〜104と、入力端子100に接続されて直流電源2の負極側から正極側に向かって流れる電流の流れを許容する4つの還流ダイオード105〜108と、絶縁側変圧器11を接続可能な出力端子109とを備える。
入力端子100は、直流電源2から直流電圧の入力を受け付けるための入力インターフェースである。直流電源2が単相であるため、入力端子100には正極と負極とが設けられている。
スイッチング素子101〜104は、該スイッチング素子101〜104のオン状態又はオフ状態を外部からの信号によって任意に切換可能な自己消弧形半導体素子である。具体的には、スイッチング素子101〜104は、トランジスタである。本明細書では、これらのスイッチング素子を「第1〜第4のトランジスタ101〜104」と呼ぶ。第1〜第4のトランジスタ101〜104は、直流電源2の正極側の入力端子100に並列に設けられる2つの電源側トランジスタ101,102と、負極側の入力端子100に並列に設けられる2つの負極側トランジスタ103,104とを備える。電源側トランジスタ101,102と負極側トランジスタ103,104とはそれぞれ直列に接続される。そして、出力端子109は、これらの接続点に設けられる。
還流ダイオード105〜108は、直流電源2の正極側の入力端子100と並列に設けられる2つの電源側還流ダイオード105,106と、負極側の入力端子100と並列に設けられる2つの負極側還流ダイオード107,108とを備える。電源側還流ダイオード105,106と負極側還流ダイオード107,108とはそれぞれ直列に接続される。そして、出力端子109は、これらの接続点に設けられる。本明細書では、これらの還流ダイオードを「第1〜第4の還流ダイオード105〜108」と呼ぶ。第1〜第4の還流ダイオード105〜108は、第1〜第4のトランジスタ101〜104のそれぞれに逆バイアスとなるように並列に接続される。
出力端子109は、絶縁用変圧器11に交流電圧を出力する出力インターフェースである。出力する交流電圧が単相であるため、出力端子109にも正極と負極とが設けられている。
絶縁用変圧器11は、1次側回路と2次側回路とを電磁結合する。つまり、絶縁用変圧器11は、1次側回路としてのインバータ回路10と2次側回路としての整流回路12とを絶縁する変圧器である。この絶縁用変圧器11には、1次巻線と2次巻線との間の磁気漏れなどで変圧作用に寄与しない漏れインダクタンスL1が含まれている。この漏れインダクタンスL1は、実質的にこの絶縁用変圧器11と直列に接続されるインダクタンスとして機能する。
整流回路12は、インバータ回路10から絶縁用変圧器11を介して入力されるインバータ出力電圧値VINVの交流電力を直流電力に変換する。この整流回路12は、スイッチング素子を用いて入力される交流電力を整流する制御整流回路を構成する。つまり、整流回路12は、直流電源2を接続可能な入力端子120と、この入力端子120に接続されて負荷3の正極側から負極側に向かって流れる電流の流れをスイッチングして切り換える4つのスイッチング素子121〜124と、入力端子120に接続されて負荷3の負極側から正極側に向かって流れる電流の流れを許容する4つの還流ダイオード125〜128と、負荷3を接続可能な出力端子129とを備える。
入力端子120は、直流電源2から絶縁用変圧器11を介して直流電圧の入力を受け付けるための入力インターフェースである。直流電源2が単相であるため、入力端子120には正極と負極とが設けられている。
スイッチング素子121〜124は、該スイッチング素子121〜124のオン状態又はオフ状態を外部からの信号によって任意に切換可能な自己消弧形半導体素子である。具体的には、スイッチング素子121〜124は、トランジスタである。本明細書では、これらのスイッチング素子を「第1〜第4のトランジスタ121〜124」と呼ぶ。第1〜第4のトランジスタ121〜124は、正極側の入力端子120に並列に設けられる2つの電源側トランジスタ121,122と、負極側の入力端子120に並列に設けられる2つの負極側トランジスタ123,124とを備える。電源側トランジスタ121,122と負極側トランジスタ123,124とは直列に接続される。そして、出力端子129は、この接続点に設けられる。
還流ダイオード125〜128は、正極側の入力端子120に並列に設けられる2つの電源側還流ダイオード125,126と、負極側の入力端子120に並列に設けられる2つの負極側還流ダイオード127,128とを備える。電源側還流ダイオード125,126と負極側スイッチング素子127,128とは直列に接続される。そして、出力端子129は、この接続点に設けられる。本明細書では、これらの還流ダイオードを「第1〜第4の還流ダイオード125〜128」と呼ぶ。第1〜第4の還流ダイオード125〜128は、第1〜第4のトランジスタ121〜124のそれぞれに逆バイアスとなるように並列に接続される。
出力端子129は、負荷3に直流電圧を出力する出力インターフェースである。出力する直流電圧が単相であるため、出力端子129にも正極と負極とが設けられている。
平滑化回路13は、整流回路12から入力される入力電圧に含まれるスイッチングリプルを減衰させて平滑化する。平滑化回路13は、入力側に接続される整流回路12に対して直列に接続される平滑化コイル130と、該平滑化コイル130の出力側に並列に接続される平滑化コンデンサ131とを備える。平滑化コイル130は、例えば、チョークコイルなどである。平滑化コンデンサ131は、例えば、電解コンデンサなどである。
電圧検出回路14は、平滑化回路13から出力される直流電圧を電圧検出値E4として検出する。この電圧検出値E4は、DC−DCコンバータ1が負荷3に出力する出力電圧値E2を表している。具体的には、電圧検出回路14は、平滑化回路13の出力側の電圧を検出する計器用変圧器(いわゆる「VT」,図示しない)である。しかし、電圧検出回路14は、この計器用変圧器に限定されず、トランスデューサなどであってもよい。
制御装置15は、図1に示すように、DC−DCコンバータ1全体の制御を行うコンバータ制御部150と、該コンバータ制御部150からの動作信号に基づいてインバータ回路10を制御するインバータ回路制御部151と、コンバータ制御部150からの動作信号に基づいて整流回路12を制御する整流回路制御部152と、過電流の発生を抑制するために出力電圧値E2を制限する電圧制限部153とを備える。
コンバータ制御部150は、インバータ回路制御部151と整流回路制御部152とに接続される。そして、コンバータ制御部150は、DC−DCコンバータ1の起動及び停止のタイミングに、インバータ制御回路151と整流回路制御部152とに起動信号又は停止信号を入力する。
インバータ回路制御部151は、コンバータ制御部150と、電圧制限部153と、インバータ回路10の第1〜第4のトランジスタ101〜104とに接続される。インバータ回路制御部151は、コンバータ制御部150からの起動信号に基づきインバータ回路10を起動する。そして、インバータ回路制御部151は、電圧制限部153から入力される制御信号に基づきインバータ出力電圧値VINVを制御する。また、インバータ回路制御部151は、コンバータ制御部150からの停止信号に基づきインバータ回路10を停止する。
インバータ回路制御部151は、電圧指令部4から電圧制限部153を介して、DC−DCコンバータ1から出力させる出力電圧値E2の入力を受け付ける。インバータ回路制御部151は、電圧検出回路14から検出される電圧検出値E4がこの電圧指令値E3になるように、インバータ出力電圧値VINVを制御する。つまり、インバータ回路制御部151は、インバータ回路10の第1〜第4のトランジスタ101〜104をスイッチングする制御量を電圧指令値E3と電圧検出値E4との差に比例した大きさとなるようにして制御するPI制御を行う。
インバータ回路制御部151は、インバータ回路10を構成する第1〜第4のトランジスタ101〜104のゲート端子Gにスイッチング信号を送信する。そして、インバータ回路制御部151は、このスイッチング信号を送信したタイミングで第1〜第4のトランジスタ101〜104をオン・オフ動作させる。このスイッチング信号は、オン状態とオフ状態とを周期的に切り換える信号である。スイッチング信号の周期Tは、角度で表す。スイッチング信号の1周期は、360度である。
インバータ回路制御部151は、図3(a)〜(f)に示すように、第1〜第4のトランジスタ101〜104をスイッチングするタイミングを調整することにより、出力する極性を変更する。負極側トランジスタ103,104をオンして、それら以外のトランジスタをオフする動作モードA,Fでは、出力端子109から出力されない。電源側トランジスタの第1のトランジスタ101と負荷側トランジスタの第4のトランジスタ104をオンして、それら以外のトランジスタをオフする動作モードBでは、出力端子109から正の電圧が出力される。電源側トランジスタ101,102をオンして、それら以外のトランジスタをオフする動作モードC,Dでは、出力端子109から出力されない。電源側トランジスタの第2のトランジスタ102と負荷側トランジスタの第3のトランジスタ103をオンして、それら以外のトランジスタをオフする動作モードEでは、出力端子109から負の電圧が出力される。
インバータ回路制御部151は、動作モードB,Eの期間を調整することにより、出力端子109から出力される出力電圧値E2を昇降圧する。つまり、動作モードB,Eの期間が長くなるように操作すると、出力電圧値E2が高くなる。動作モードB,Eの期間が短くなるように操作すると、出力電圧値E2が低くなる。具体的には、第4のトランジスタ104がオンしているときに第1のトランジスタ101がオンしてから第2のトランジスタ102がオンするまでの期間θに比例して定常状態における出力電圧値E2が決定される。また、第2のトランジスタ102がオンしているときに第3のトランジスタ103がオンしてから第4のトランジスタ104がオンするまでの期間θに比例して定常状態における出力電圧値E2が決定される。なお、本明細書では、このθのことを「制御角」と呼ぶ。この制御角θは、角度[°]を用いて期間を表している。そして、この制御角θは、本発明の「操作量」に相当する。また、第1〜第4の各トランジスタ101〜104のスイッチングにおいてデッドタイムを設けると、制御角θと出力電圧値E2との関係に影響がでる場合もあるが、上記の関係においては無視できる程度であるため、デッドタイムとの関係についての説明は省略する。
整流回路制御部152は、図1に示すように、コンバータ制御部150と整流回路12の第1〜第4のトランジスタ121〜124とに接続される。整流回路制御部152は、コンバータ制御部150からの起動信号に基づき整流回路12を起動する。整流回路制御部152は、整流回路12を一定周期でスイッチング制御する。また、整流回路制御部152は、コンバータ制御部150からの停止信号に基づき整流回路12を停止する。
整流回路制御部152は、図4(a)〜(f)に示すように、第1〜第4のトランジスタ121〜124をスイッチングすることにより、交流電力を整流する。つまり、第1〜第4のトランジスタ121〜124は、半周期ごとにスイッチングする。整流回路12に対して正の電圧値が入力される動作モードA〜Cでは、第1のトランジスタ121と第4のトランジスタ124とをオンして、それら以外のトランジスタをオフする。よって、出力される電圧は、正の電圧値となる。一方、整流回路12に対して負の電圧値が入力される動作モードD〜Fでは、第2のトランジスタ122と第3のトランジスタ123とをオンして、それら以外のトランジスタをオフする。よって、出力される電圧は、極性が反転して、正の電圧値となる。
電圧制限部153は、図1に示すように、電圧指令値E3から電圧検出値E4を減算して算出される制御偏差値ΔE34を出力する減算器1530と、制御偏差値ΔE34に基づいてインバータ回路10をPI制御するために制御角θを算出するPI制御器1531と、制御角θに一定の制限が加わるように制限するリミッタ1532とを備える。
減算器1530は、電圧指令値E3と電圧検出値E4とを比較して、その差分値(E3−E4)を制御偏差値ΔE34として出力する。つまり、減算器1530は、本発明の「比較部」に相当する。減算器1530は、電圧指令部4から電圧指令値E3を受け付け、電圧検出回路14から電圧検出値E4を受け付ける。そして、減算器1530は、電圧指令値E3と電圧検出値E4とを比較した結果をPI制御器1531に出力する。減算器1530は、これらの電圧指令値E3及び電圧検出値E4を常時監視している。そして、減算器1530は、リアルタイムに電圧指令値E3と電圧検出値E4との比較結果をPI制御器1531に出力できるように構成されている。なお、減算器1530は、必ずしも電圧指令部4から指令される電圧指令値E3を常時監視している必要はなく、所定のタイミングごとに電圧指令部4から指令される電圧指令値E3を読み込むようにしてもよい。
PI制御器1531は、制御偏差値ΔE34に基づいて電圧検出値E4が電圧指令値E3と一致するようにインバータ回路10を操作する制御角θを算出する。そして、PI制御器1531は、この制御角θによってインバータ回路10を制御する。つまり、PI制御器1531は、本発明の「制御部」に相当する。
リミッタ1532は、制御角θに従って出力電圧値E2を昇圧する際に電圧検出値E4から電圧指令値E3に昇圧する昇圧量に一定の制限が加わるように制御角θを制限するとともに、制御角θに従って出力電圧値E2を降圧する際に電圧検出値E4から電圧指令値E3に降圧する降圧量に一定の制限が加わるように制御角θを制限する。具体的には、リミッタ1532には、出力電圧値E2を昇圧する際に過電流が流れないように制御角θに上限値θmaxが設定されており、出力電圧値E2を降圧する際に過電流が流れないように制御角θに下限値θminが設定されている。
この上限値θmax及び下限値θminは、電圧検出値E4ごとに決定されており、インバータ回路10を制御角θで制御したときに、DC−DCコンバータ1の回路部に流れる電流が過電流に至らない制御角θの閾値である。つまり、制御角θは、電圧検出値E4に基づく上限値θmaxと下限値θminの範囲内に収まるように制限されている。
ここでいう過電流は、図8に示すように、平滑化コンデンサ131の残留電圧に起因して、出力電圧値E2を昇圧又は降圧する際に、小刻みに発生する個々のリプル成分の傾きが大きくなって大電流に至ったものである。このリプル分の傾きは、平滑化コンデンサ131の残留電圧に比例し、また、DC−DCコンバータ1の内部のインダクタンスの合計値ΣL(L1+L2)に反比例して変化する。そして、この過電流は、この主回路電流が通電可能な回路部に流れることにより、該回路部を構成する各素子及び電路に異常が生じる又は生じる可能性のある値以上の電流を指す。なお、ここで言う「回路部」とは、具体的には、インバータ回路10、絶縁用変圧器11、整流回路12及び平滑化回路13により構成される回路を指す。
制御角θが取り得る範囲は、図5のグラフに示すように、電圧検出値E4ごとに決められた制御角θの上限値θmaxを示す上限曲線θc−maxと、電圧検出値E4ごとに決められた制御角θの下限値θminを示す下限曲線θc−minとから設定されている。
上限曲線θc−maxは、電圧検出値E4が0Vのときに所定の制御角θを上限値として有する。そして、上限曲線θc−maxは、その電圧検出値E4が0Vのときの上限値から該電圧検出値E4の増加に比例して制御角θが増加する傾向にある。上限曲線θc−maxは、電圧検出値E4が0Vのとき、100°であり、電圧検出値E4が0Vから400Vまで該電圧検出値E4に比例して制御角θが増加する一次関数で示されている。
下限曲線θc−minは、電圧検出値E4の減少に比例して減少する傾向にある。そして、下限曲線θc−minは、電圧検出値E4が所定の電圧値から0Vまでは制御角θが0°である。下限曲線θc−minは、電圧検出値E4が700Vのとき、90°である。この下限曲線θc−minは、電圧検出値E4が700Vから200Vまで該電圧検出値E4に比例して制御角θが減少する一次関数で示されている。
リミッタ1532は、インバータ回路10に対して出力する制御角θを下限曲線θc−min以上、上限曲線θc−max以下の範囲に収まるように設定する。つまり、リミッタ1532は、制限を掛ける前の制限前制御角(以下、制限を掛けた後の制御角θと区別するため、このように称する)θoが下限曲線θc−min以上、上限曲線θc−max以下であれば、その制限前制御角θoをそのまま制御角θとして設定する。一方、リミッタ1532は、制限前制御角θoが上限曲線θc−max以上であれば、そのときの電圧検出値E4に対応する上限値θmaxを制御角θとして設定する。また、リミッタ1532は、制限前制御角θoが下限曲線θc−min以下であれば、そのときの電圧検出値E4に対応する下限値θminを制御角θとして設定する。
次に、同実施形態に係るDC−DCコンバータ1の動作について、図1〜図14を参酌しつつ説明する。まず、DC−DCコンバータ1の起動時の動作について、図6及び図7に示すフローチャートを主に参酌しつつ説明する。
DC−DCコンバータ1を起動動作に移すとき(図6のステップS1でYES)、コンバータ制御部150は、インバータ回路制御部151と整流回路制御部152とに起動信号を出力する。
インバータ回路制御部151は、電圧指令部4により指令された出力電圧値E2に対応するインバータ出力電圧値VINVとなるように、インバータ回路10の第1〜第4のトランジスタ101〜104をスイッチングする。具体的には、電圧制限部153の減算器1530は、電圧指令部4から電圧指令値E3を受信する(ステップS2でYES)。更に、減算器1530は、電圧検出回路14から電圧検出値E4を受信する(ステップS3でYES)。そして、減算器1530は、電圧指令値E3から電圧検出値E4を減算して制御偏差値ΔE34を出力する(ステップS4)。減算器1530が出力した制御偏差値ΔE34に基づいて、PI制御器1531が制御角θ(制限前制御角θo)を出力する(ステップS5)。
リミッタ1532は、PI制御器1531が出力した制限前制御角θoが電圧検出値E4に対応する上限値θmaxと下限値θminとの間の範囲に収まるように制限を加える(図7のステップS6)。つまり、制限前制御角θoが上限値θmaxと下限値θminとの間の範囲に入っている場合、リミッタ1532は、制限前制御角θoをそのまま制御角θとして設定する(ステップS7)。しかし、制限前制御角θoが上限値θmaxを超えている場合、リミッタ1532は、電圧検出値E4に対応する上限値θmaxを制御角θとして設定する(ステップS8)。制限前制御角θoが下限値θmin未満の場合、リミッタ1532は、電圧検出値E4に対応する下限値θminを制御角θとして設定する(ステップS9)。
そして、リミッタ1532は、この制御角θをインバータ回路制御部151に出力する。インバータ回路制御部151は、インバータ回路10をこの制御角θで第1〜第4のトランジスタ101〜104をスイッチングする(ステップS10)。
一方、整流回路制御部152は、インバータ回路10から整流回路12に入力される交流電力を整流するために、整流回路12の第1〜第4のトランジスタ121〜124をスイッチングする(図6のステップS11)。整流回路12の第1〜第4のトランジスタ121〜124の制御角θは、一定制御される。そして、整流回路12から出力された直流電力は、平滑化回路13によって平滑化される。この出力電圧値E2は、DC−DCコンバータ1から出力される。
その一方で、電圧検出回路14では、電圧検出値E4を繰り返し検出している(図7のステップS12でNO,図6のステップS2に戻る)。そして、検出された電圧検出値E4は、電圧制限部153に入力される。そして、DC−DCコンバータ1は、検出された電圧検出値E4に基づきインバータ回路10の制御角θを繰り返し変更して、起動時の電圧出力値E2から電圧指令値E3までその電圧値を変更する。
例えば、図5に示すように、電圧検出値E4が0Vのとき、PI制御器1531が出力した制限前制御角θoが45°であれば、電圧検出値E4=0Vに対応する上限曲線θc−max上の上限値が100°であり、下限曲線θc−min上の下限値が0°であるため、リミッタ1532は、制限前制御角θoのままの制御角θ=45°をインバータ回路制御部151に出力する。
しかし、電圧検出値E4を電圧指令値E3に昇圧する昇圧量が大きい場合など、PI制御器1531から上限値θmaxを超える制限前制御角θoが出力されたとき、リミッタ1532は、上限値θmax=100°を制御角θとしてインバータ回路制御部151に出力する。そして、インバータ回路10の制御角θが制御されて、出力電圧値E2が昇圧する。この出力電圧値E2は、電圧検出回路14にて電圧検出値E4として常時監視している。そして、次に検出された電圧検出値E4が100Vまで昇圧していたとき、そのときの上限曲線θc−max上の上限値θmaxは、120°となる。PI制御器1531から出力された制限前制御角θoが120°以下であれば、この制御前制御角θoがそのまま制御角θとして設定され、120°を超えておれば、上限値θmax=120°を制御角θとして設定する。これを繰り返すことにより、制御角θは、実際上、電圧検出値E4に対応する上限値θmaxから緩やかに上昇するように制御される。
また、電圧検出値E4が700Vのとき、PI制御器1531が出力した制限前制御角θoが135°であれば、電圧検出値E4=700Vに対応する上限曲線θc−max上の上限値が180°であり、下限曲線θc−min上の下限値が90°であるため、リミッタ1532は、制限前制御角θoのままの制御角θ=135°をインバータ回路制御部151に出力する。
しかし、電圧検出値E4を電圧指令値E3に降圧する降圧量が大きい場合など、PI制御器1531から下限値θmin未満の制限前制御角θoが出力されたとき、リミッタ1532は、下限値θmin=180°を制御角θとしてインバータ回路制御部151に出力する。そして、インバータ回路10の制御角θが制御されて、出力電圧値E2が降圧する。この出力電圧値E2は、電圧検出回路14にて電圧検出値E4として常時監視している。そして、次に検出された電圧検出値E4が600Vまで降圧していたとき、そのときの下限曲線θc−min上の下限値θminは、72°となる。PI制御器1531から出力された制限前制御角θoが72°以上であれば、この制御前制御角θoがそのまま制御角θとして設定され、72°未満であれば、下限値θmin=72°を制御角θとして設定する。これを繰り返すことにより、制御角θは、実際上、電圧検出値E4に対応する下限値θminから緩やかに下降するように制御される。
次に、同実施形態に係るDC−DCコンバータ1の回路部を流れる電流について、図8〜図11の波形図及び図12〜図14の等価回路図を参酌しつつ説明する。
同実施形態に係るDC−DCコンバータ1は、該DC−DCコンバータ1の内部に平滑化コンデンサ131を備えている。そして、このDC−DCコンバータ1は、平滑化コンデンサ131に電圧を残留可能に構成されている。以下、この平滑化コンデンサ131に残留される電圧を「残留電圧」と呼ぶ。この残留電圧は、電圧検出回路14で検出できる。
また、DC−DCコンバータ1には、絶縁用変圧器11に漏れインダクタンスL1を有している。更に、このDC−DCコンバータ1には、平滑化コイル130によってインダクタンスL2が含まれる。特に、これらのインダクタンスL1,L2の値は、DC−DCコンバータ1から出力する電圧の波形を脈動(リプル)の小さい滑らかな正弦波にするために、小さい値に設定されることが好ましい。
このように、DC−DCコンバータ1は、出力側に残留電圧が残るようになっており(第1の条件)、その内部にインダクタンスL1,L2が含まれている(第2の条件)。そして、DC−DCコンバータ1の回路部を流れる電流には、図8(c)に示すように、リプル成分が含まれている。そのリプル成分は、残留電圧に比例して大きくなる。また、リプル成分は、DC−DCコンバータ1の内部のインダクタンスの合計値ΣL(L1+L2)に反比例して大きくなる。
そして、図8(a)に示すように、電圧指令値E3を降圧するなどして、出力電圧値E2から電圧値を大きく変更する(第3の条件)と、この第1の条件と第2の条件との条件下では、従来の回路では、図8(c)のa部に示すように、過電流がDC−DCコンバータ1の回路部に発生していた。この過電流が発生するとき、制御角θは、図8(b)に示すように、下限値θmin未満の値が設定されている。
本実施形態に係るDC−DCコンバータ1の制御装置15は、このような過電流が流れないようにこの制御角θを制御しており、この第3の条件が成立しても過電流が発生しないようになっている。つまり、本実施形態に係るDC−DCコンバータ1の制御装置15は、制御角θに制限を加えることにより、回路部を流れる電流が過電流に至ることのないようにリプル成分の傾きを制御している。
このリプル成分を拡大した図が図9〜図11である。図9〜図11は、この図で表す周期T内では制御角θが変更されておらず、出力電圧値E2が安定状態になったときの電流の波形を示している。このリプル成分の傾きは、各動作モードA〜Fによって異なっている。出力電流が負のときの出力波形を図9に示す。出力電流が零のときの出力波形を図10に示す。出力電流が正のときの出力波形を図11に示す。図9〜図11の(a)は、インバータ回路10の出力側を流れる第1の電流IL1の波形を示している。また、図9〜図11の(b)は、平滑化コイル130を流れる第2の電流IL2の波形を示している。なお、第1の電流IL1及び第2の電流IL2の値は、図に矢印で示す方向を正の値としている。
出力電流が負のときの動作モードAの電流は、図12(a)に示すように流れることによって、dIL1/dt=dIL2/dt≒−E2/(L1+L2)の傾きの電流となる。動作モードBのときの電流は、図12(b)に示すように流れることによって、dIL1/dt=dIL2/dt≒(E1−E2)/(L1+L2)の傾きの電流となる。動作モードCのときの電流は、図12(c)に示すように流れることによって、dIL1/dt=dIL2/dt≒−E2/(L1+L2)の傾きの電流となる。動作モードD〜Fのときの第1の電流IL1は、動作モードA〜Cと同じ傾きの電流となる。動作モードD〜Fのときの第2の電流IL2は、動作モードA〜Cの傾きと逆転した傾きの電流となる。
出力電流が零のときの動作モードAの電流は、図13(a)に示すように流れることによって、dIL1/dt=dIL2/dt≒−E2/(L1+L2)の傾きの電流となる。動作モードBのときの電流は、図13(b)に示すように流れることによって、dIL1/dt=dIL2/dt≒(E1−E2)/(L1+L2)の傾きの電流となる。動作モードCのときの電流は、図13(c)に示すように流れることによって、dIL1/dt=dIL2/dt≒−E2/(L1+L2)の傾きの電流となる。動作モードD〜Fのときの第1の電流IL1は、動作モードA〜Cと同じ傾きの電流となる。動作モードD〜Fのときの第2の電流IL2は、動作モードA〜Cの傾きと逆転した傾きの電流となる。
出力電流が正のときの動作モードAの第1の電流IL1は、図14(a)に示すように流れることによって、dIL1/dt=0の傾きの電流となる。第2の電流IL2は、図14(a)に示すように流れることによって、dIL2/dt≒−E2/L2の傾きの電流となる。動作モードBのときの第1の電流IL1は、図14(b)に実線と点線で示すように流れることによって、第1の電流IL1と第2の電流IL2とが一致するまでは、dIL1/dt=E1/L1の傾きの電流となり、それ以降では、dIL1/dt=(E1−E2)/(L1+L2)の傾きの電流となる。第2の電流IL2は、図14(b)に実線と点線で示すように流れることによって、第1の電流IL1と第2の電流IL2とが一致するまでは、dIL1/dt=−E2/L2の傾きの電流となり、それ以降では、dIL1/dt=(E1−E2)/(L1+L2)の傾きの電流となる。動作モードCのときの電流は、図14(c)に示すように流れることによって、dIL1/dt=dIL2/dt≒−E2/(L1+L2)の傾きの電流となる。動作モードD〜Fのときの第1の電流IL1は、動作モードA〜Cと同じ傾きの電流となる。動作モードD〜Fのときの第2の電流IL2は、動作モードA〜Cの傾きと逆転した傾きの電流となる。
このようにして、減算器1530が電圧指令値E3と電圧検出値E4とを比較して、制御偏差値ΔE34を算出する。そして、PI制御器1531は、この制御偏差値ΔE34に基づいてインバータ回路10を操作する制御角θを算出する。この制御角θは、電圧検出値E3から電圧指令値E4に昇圧する昇圧量に一定の制限が加わるようにPI制限器1531で制限されている。また、この制御角θは、電圧検出値E3から電圧指令値E4に降圧する降圧量に一定の制限が加わるようにPI制限器1531で制限されている。そして、制御装置15は、このようにして制限された制御角θでインバータ回路10を操作しているため、インバータ回路10の回路部に流れる電流が急激に変化して過電流とならないようインバータ回路10を制御することができる。そのため、DC−DCコンバータ1には、過電流が流れないようになっている。
つまり、制御装置15は、制御角θに従って出力電圧値E2が昇圧又は降圧する際に、上限値θmaxと下限値θminとの範囲に入るように制限された制御角θでインバータ回路10を操作しているため、過電流が流れないようになっている。
なお、本実施形態に係る制御装置15は、出力電圧値E2を降圧する際と、出力電圧値E2を昇圧する際とで下限値と上限値とを使い分けるが、この出力電圧値E2の昇降圧を判別する特別な構成を備える必要はない。つまり、出力電圧値E2を降圧する際、「電圧指令値E3<電圧検出値E4(=出力電圧値E2)」となることから、その制御偏差量ΔE34(=E3−E4<0)が負の値となる。PI制御器1531から出力される制限前制御角θoは、減算器1530から制御偏差量ΔE34を受け付ける前に出力していた現在の制御角θより下がるような値が出力される。よって、出力電圧値E2を降圧する際は、制限前制御角θoが下がる方向にしか制御されず、実質的に下限値のみが有効となり、制限前制御角θoを上げる方向に制御されて、上限値を超えるようなことはない。出力電圧値E2を昇圧する場合も同様である。
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で様々変更が可能である。
上記実施形態に係るDC−DCコンバータ1は、絶縁型DC−DCコンバータである例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、本発明に係るDC−DCコンバータは、インバータ回路と整流回路とが絶縁されていないDC−DCコンバータに適用するものであってもよい。このようなDC−DCコンバータであっても、平滑化回路の平滑化コンデンサに残留した残留電圧と平滑化コイルのインダクタンスとに起因するサージ電流が発生し得る。また、これらの平滑化コンデンサの残留電圧と平滑化コイルのインダクタンス又は絶縁用変圧器の漏れインダクタンスと等価な構成を備えておれば、本実施形態のような過電流が流れる恐れがある。本発明は、このようなDC−DCコンバータにおいても有効に効果を発揮する。
上記実施形態に係るDC−DCコンバータ1は、スイッチング素子101〜104,121〜124がトランジスタである例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、スイッチング素子は、電界効果トランジスタ,MOS−FET,バイポーラトランジスタ又は絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)などの自己消弧形半導体素子であってもよい。
上記実施形態に係るDC−DCコンバータ1は、インバータ回路10を制御する制御部としてPI制御器1531を用いる例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、制御部は、PID制御や最適PID制御(オートチューニング)などのフィードバック制御でインバータ回路を制御するものであってもよい。
上記実施形態に係るDC−DCコンバータ1は、リミッタ1532が出力電圧値E2を昇圧する際に過電流が流れないように操作量としての制御角θに上限値θmaxを設定するとともに、出力電圧値E2を降圧する際に過電流が流れないように操作量としての制御角θに下限値θminを設定している例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、インバータ回路を降圧するときにだけ過電流が流れないように制御すればよければ、制限部は、下限値のみを設定して、出力電圧値を降圧する際に操作量が下限値以上となるように制限するようにしてもよい。