以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
(実施の形態1)
[摩擦攪拌点接合装置]
本発明の実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置の基本的な構成について、図1を参照して具体的に説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る摩擦攪拌点接合装置50Aは、回転工具51、工具固定部52、工具駆動部53、クランプ部材54、裏当て支持部55、および裏当て部材56を備えている。
回転工具51は、工具固定部52により支持され、工具駆動部53によって進退および回転駆動される。回転工具51、工具固定部52、工具駆動部53およびクランプ部材54は、C型ガン(C型フレーム)で構成される裏当て支持部55の上部に設けられ、当該裏当て支持部55の下部には裏当て部材56が設けられている。したがって、回転工具51と裏当て部材56とは互いに対向する位置で裏当て支持部55に取り付けられており、これら回転工具51の間に被接合物60が配される。
回転工具51は、ピン部材11およびショルダ部材12から構成されている。また、工具固定部52は、回転工具固定部521およびクランプ固定部522から構成され、工具駆動部53は、ピン駆動部531、ショルダ駆動部532、回転駆動部533およびクランプ駆動部41から構成されている。また、クランプ部材54は、クランプ駆動部41を介してクランプ固定部522に固定されている。なお。クランプ駆動部41はスプリングにより構成されている。
ピン部材11は、略円筒形または略円柱形であり、詳細に図示されないが、回転工具固定部521により支持されている。このピン部材11は、回転駆動部533により軸線Xr(回転軸、図中一点鎖線)周りに回転し、ピン駆動部531により、破線矢印P1方向すなわち軸線Xr方向(図1では上下方向)に沿って進退移動可能に構成されている。ショルダ部材12は、中空を有する略円筒状であり、中空内にピン部材11が内挿され、ピン部材11の外側において当該ピン部材11を囲むように回転工具固定部521により支持されている。このショルダ部材12は、回転駆動部533によりピン部材11と同一の軸線Xr周りに回転し、ショルダ駆動部532により、破線矢印P2方向すなわち軸線Xr方向に沿って進退移動可能に構成されている。
このように、ピン部材11およびショルダ部材12は、本実施の形態ではいずれも同一の回転工具固定部521によって支持され、いずれも回転駆動部533により軸線Xr周りに一体的に回転する。さらに、ピン部材11およびショルダ部材12は、ピン駆動部531およびショルダ駆動部532により、それぞれ軸線Xr方向に沿って進退移動可能に構成されている。なお、図1に示す構成では、ピン部材11は単独で進退移動可能であるとともに、ショルダ部材12の進退移動に伴っても進退移動可能となっているが、ピン部材11およびショルダ部材12が互いに独立して進退移動可能に構成されてもよい。
クランプ部材54は、ショルダ部材12の外側に設けられ、ショルダ部材12と同様に、中空を有する円筒状であって、中空内にショルダ部材12が内挿されている。したがって、ピン部材11の外周に略円筒状のショルダ部材12が位置し、ショルダ部材12の外周に略円筒状のクランプ部材54が位置している。言い換えれば、クランプ部材54、ショルダ部材12およびピン部材11が、それぞれ同軸芯状の入れ子構造となっている。
クランプ部材54は、被接合物60を一方の面(表面)から押圧するものであり、本実施の形態では、クランプ駆動部41を介してクランプ固定部522に支持されている。したがって、クランプ部材54は裏当て部材56側に付勢されている。また、クランプ固定部522には、回転駆動部533を介して回転工具固定部521が支持されている。クランプ固定部522は、ショルダ駆動部532によって破線矢印P3方向(破線矢印P1およびP2と同方向)に進退可能に構成されている。なお、クランプ駆動部41の構成は、スプリングに限定されるものではなく、クランプ部材54に付勢を与えたり加圧力を与えたりする構成であればよく、例えば、ガス圧、油圧、サーボモータ等を用いた機構も好適に用いることができる。また、クランプ駆動部41は、図1に示すようにショルダ駆動部532により進退移動可能に構成されてもよいし、ショルダ駆動部532によらず独立して進退移動可能に構成されてもよい。
上記構成の回転工具51、工具固定部52、工具駆動部53およびクランプ部材54は、前述したとおり、裏当て部材56と対向するように裏当て支持部55に設けられている。回転工具51を構成するピン部材11およびショルダ部材12、並びにクランプ部材54は、それぞれ当接面11aおよび当接面12a、並びに当接面54aを備え、これら当接面11a,12a,54aは、工具駆動部53により進退移動し、裏当て部材56との間に配される被接合物60の表面(第一面、一方の面)に当接可能となっている。また、裏当て部材56は、ピン部材11およびショルダ部材12、並びにクランプ部材54に対向する位置に設けられ、被接合物60の裏面に当接するものである。図1では、平板状の被接合物60の裏面に当接するように平坦な面を有している。
裏当て部材56は、ピン部材11およびショルダ部材12の進出方向側に位置し、被接合物60の表面をピン部材11およびショルダ部材12に向けた状態で、当該被接合物60の裏面を支持面56aにより支持する。裏当て部材56は、摩擦攪拌点接合を実施できるように被接合物60を適切に支持することができるものであれば、その構成は特に限定されない。通常は、板状の被接合物60を安定に支持できる支持面56aを有する平板状の構成であればよいが、被接合物60の形状に合わせて平板状以外の構成も採用することができる。例えば、複数種類の形状を有する裏当て部材56が別途準備され、被接合物60の種類に応じて、裏当て支持部55から外して交換できるように構成されてもよい。
本実施の形態における回転工具51、工具固定部52および工具駆動部53の具体的な構成は、前述した構成に限定されず、広く摩擦攪拌接合の分野で公知の構成を好適に用いることができる。例えば工具駆動部53を構成するピン駆動部531、ショルダ駆動部532、および回転駆動部533は、本実施の形態では、いずれも摩擦攪拌接合の分野で公知のモータおよびギア機構等から構成されている。また、摩擦攪拌点接合装置50Aの構成上、クランプ部材54は設けられていなくてもよく、例えば、必要に応じて裏当て支持部55から着脱可能に構成されてもよい。さらに、図1には図示されない他の部材等が含まれてもよい。
また、裏当て支持部55は、本実施の形態ではC型ガンで構成されているが、これに限定されず、ピン部材11およびショルダ部材12を進退移動可能に支持するとともに、これら回転工具51に対向する位置に裏当て部材56を支持するように構成されていればよい。
なお、本実施の形態では、裏当て支持部55は、図示されないアームの先端に取り付けられている。このアームは、図1には図示しない摩擦攪拌点接合用ロボット装置が備える構成である。したがって、裏当て支持部55も摩擦攪拌点接合用ロボット装置に含まれるとみなすことができる。裏当て支持部55およびアームを含めて、摩擦攪拌点接合用ロボット装置の具体的な構成は特に限定されず、多関節ロボット等、摩擦攪拌接合の分野で公知の構成を好適に用いることができる。
また、裏当て支持部55を含む摩擦攪拌点接合装置50Aは、摩擦攪拌点接合用ロボット装置に適用される場合に限定されるものではない。例えば、NC工作機械、大型のCフレーム、オートリベッター等の公知の加工用機器にも好適に適用することができる。さらには、二対以上のロボットが摩擦攪拌点接合装置と裏当て部材56とを正対させる構成であってもよいし、被接合物60に対して安定して摩擦攪拌点接合を行うことが可能であれば、本実施の形態に係る固定式の摩擦攪拌点接合装置50Aに対して手持ち型の構成として用いたり、ロボットを被接合物60のポジショナーとして用いたりすることができる。
[摩擦攪拌点接合方法]
次に、前述した摩擦攪拌点接合装置50Aを用いて実施される摩擦攪拌点接合方法の具体的な工程について、図2(a)〜(f)および図3(a)〜(f)を参照して具体的に説明する。なお、図2(a)〜(f)および図3(a)〜(f)においては、被接合物60として、2枚の金属板61,62を用い、これらを重ねて点接合にて連結する場合を例に挙げている。
また、図2(a)〜(f)および図3(a)〜(f)においては、矢印pは、回転工具51の移動方向(図1における破線矢印P1〜P2の方向に対応)を示し、矢印rは、回転部材(ピン部材11およびショルダ部材12)の回転方向を示し、ブロック矢印Fは、金属板61,62に力が加えられる方向を示す。また、図2(a)〜(f)および図3(a)〜(f)においては、各工程における構成部材の位置、金属板61,62に形成される接合箇所等を明確に説明する便宜上、矢印pおよびブロック矢印Fについては、図2(a)においてのみ「p」および「F」の符号を付しており、矢印rについては図2(b)のみに「r」の符号を付している。また、裏当て部材56からも金属板61,62に対して力が加えられているが、説明の便宜上、図2(a)〜(f)には図示していない。さらに、ショルダ部材12には、ピン部材11およびクランプ部材54との区別を明確とするために、網掛けのハッチングを施している。
まず図2(a)〜(f)に示す一連の工程について説明する。これら一連の工程では、ピン部材11をショルダ部材12よりも先に金属板61,62に圧入させている。
具体的には、図2(a)に示すように、回転工具51を金属板61,62に接近させ(図中矢印p)、クランプ部材54の当接面54a(図2(a)〜(f)には図示せず)を上側の金属板61の表面60cに当接させるとともに、裏当て部材56を下側の金属板62の裏面60dに当接させる。これにより、クランプ部材54と裏当て部材56とで金属板61,62が挟み込まれ、クランプ部材54による押圧(図中ブロック矢印F)によりクランプ力が発生する。
次に図2(b)に示すように、回転工具51の回転部材が金属板61,62に近接し、ピン部材11の当接面11a(図2(a)〜(f)には図示せず)およびショルダ部材12の当接面12a(図2(a)〜(f)には図示せず)が金属板61の表面60cに当接する。この状態では、スプリングで構成されるクランプ駆動部41の収縮によってクランプ部材54のクランプ力が生じる。そして、ピン部材11およびショルダ部材12を金属板61の表面60cに当接させて回転させる(図中矢印r)。
この状態では、ピン部材11もショルダ部材12も進退移動しないので、金属板61の表面60cを「予備加熱」することになる。これにより、金属板61の当接領域における金属材料が摩擦により発熱することで軟化し、金属板61の表面60c近傍に塑性流動部60aが生じる。
次に図2(c)に示すように、図示されないピン駆動部531によりピン部材11をショルダ部材12から突き出すことで、当該ピン部材11を金属板61の表面60cからさらに内部に進入(圧入)させる。このとき、金属材料の軟化部位は、上側の金属板61から下側の金属板62にまで及び、塑性流動部60aが増加する。さらに、塑性流動部60aの軟化した金属材料はピン部材11により押し退けられ、ピン部材11の直下からショルダ部材12の直下に流動するので、ショルダ部材12は後退し、ピン部材11から見て浮き上がる。
次に、必要に応じて、図2(d)に示すように、図示されないピン駆動部531により、突き出たピン部材11を徐々に後退させる(引き込ませる)とともに、ピン部材11の後退に伴ってショルダ部材12を金属板61に進入(圧入)させる工程を行ってもよい。後述する図2(e)に示す工程によって金属板61の表面60cが整形されるが、このときに十分整形されない場合があれば、図2(d)に示す工程を行ってもよい。
その後、図2(c)に示す工程の後であればピン部材11を徐々に引き込ませ、図2(d)に示す工程の後であればショルダ部材12を徐々に引き込ませる。このとき、図2(c)および図2(d)にブロック矢印で示すように、ピン部材11またはショルダ部材12は、いずれも引き込み動作中であっても、その先端による加圧力は維持されている。そして、前者の場合、ピン部材11が引き込まれる間、ショルダ部材12による回転および押圧が維持されるので、塑性流動部60aの軟化した金属材料は、ショルダ部材12の直下からピン部材11の直下に流動し、その結果、前記凹部が埋め戻されていく。後者の場合、ショルダ部材12が引き込まれる間、ピン部材11による回転および押圧が維持されるので、ショルダ部材12の圧入により生じた凹部が埋め戻されていく。
その後、図2(e)に示すように、ピン部材11の当接面11aおよびショルダ部材12の当接面12aを、互いに段差がほとんど生じない程度に合わせる(面一とする)。これにより、金属板61の表面60cが整形され、実質的な凹部が生じない程度の略平坦な面が得られる。
最後に図2(f)に示すように、回転工具51および裏当て部材56を金属板61,62から離し、一連の摩擦攪拌点接合が終了する。このとき、回転工具51の当接による回転(および押圧)は金属板61,62に加えられなくなるので、金属板61,62の双方に及ぶ塑性流動部60aにおいては、塑性流動が停止し、接合部60bとなる。これにより、2枚の金属板61,62は接合部60bによって連結される。
次に、図3(a)〜(f)に示す一連の工程について説明する。これら一連の工程では、ショルダ部材12をピン部材11よりも先に金属板61,62に圧入させている。なお、図3(a)〜(f)においても、裏当て部材56からも金属板61,62に対して力が加えられているが、説明の便宜上、図示していない。
図3(a)および(b)に示す工程は、図2(a)および(b)に示す工程と同様であるため、その説明は省略する。次に、図3(c)に示すように、図示されないショルダ駆動部532によりショルダ部材12をピン部材11から相対的に突き出すことで、当該ショルダ部材12を金属板61の表面60cからさらに内部に進入(圧入)させる。これにより、塑性流動部60aは上側の金属板61から下側の金属板62にまで及び、塑性流動部60aの軟化した金属材料はショルダ部材12により押し退けられ、ショルダ部材12の直下からピン部材11の直下に流動するので、ピン部材11は後退し、ショルダ部材12から見て浮き上がる。
次に、必要に応じて、図3(d)に示すように、突き出たショルダ部材12を徐々に後退させる(引き込ませる)とともに、ピン部材11を金属板61に進入(圧入)させる工程を行ってもよい。その後、図3(c)に示す工程の後であればショルダ部材12を徐々に引き込ませ、図3(d)に示す工程の後であればピン部材11を徐々に引き込ませる。これにより、ショルダ部材12またはピン部材11の圧入により生じた凹部が埋め戻されていく。
その後、図3(e)に示すように、ピン部材11の当接面11aおよびショルダ部材12の当接面12aを、互いに段差がほとんど生じない程度に合わせる(面一とする)。最後に図3(f)に示すように、回転工具51および裏当て部材56を金属板61,62から離し、一連の摩擦攪拌点接合が終了する。
ここで、本実施の形態では、図2(a)または図3(a)に示す段階を摩擦攪拌点接合の「準備段階」と称し、図2(b)または図3(b)に示す段階を「予備加熱段階」と称する。また、図2(c)〜(e)あるいは図3(c)〜(e)に示す段階は、ショルダ部材12に対するピン部材11の相対位置(あるいはピン部材11に対するショルダ部材12の相対位置)を制御することにより、ピン部材11またはショルダ部材12の圧入深さを制御する段階である。それゆえ、これら段階を「工具制御段階」と称する。また、図2(f)または図3(f)に示す段階を摩擦攪拌点接合の「終了段階」と称する。
なお、本実施の形態では「工具制御段階」として、図2(c)または図3(c)に示す段階、図2(d)または図3(d)に示す段階、および図2(e)または図3(e)に示す段階の合計3段階を実行している。そこで、説明の便宜上、これら各段階についても具体的な段階名を称するものとする。具体的には、図2(c)または図3(c)に示す段階を「圧入段階」と称し、図2(d)または図3(d)に示す段階を「埋戻し段階」と称し、図2(e)または図3(e)に示す段階を「整形段階」と称する。
また、本実施の形態では、工具制御段階として、圧入段階、埋戻し段階、および整形段階を例示しているが、前述したように、工具制御段階は、少なくとも圧入段階および整形段階のみであればよい。埋戻し段階は、必要に応じて行われる工具制御段階であるので、必要がなければ行わなくてもよい。さらに、必要に応じて工具制御段階を4段階以上行ってもよい。
このように摩擦攪拌点接合装置50Aは、回転工具51としてピン部材11およびショルダ部材12を備えており、これら回転工具51により被接合物60(前記の例では金属板61,62)を部分的に攪拌することで、当該被接合物60を接合している。2つの回転工具51を備えていることで、図2(a)〜(f)または図3(a)〜(f)に示す各段階を連続的に行うことができるので、単動式摩擦攪拌点接合と比較して凹部を埋め戻して被接合物60の表面60cの凹凸をできる限り小さなものとすることが可能となる。
[摩擦攪拌点接合装置の制御構成]
次に、前述した摩擦攪拌点接合装置50Aが、前述した摩擦攪拌点接合の一連の工程を実行するために備えている制御構成について、図4を参照して具体的に説明する。
図4に示すように、摩擦攪拌点接合装置50Aは、工具駆動制御部21、圧入基準点設定部22、記憶部31、入力部32、および加圧力検出部33をさらに備えている。
工具駆動制御部21は工具駆動部53を制御する。すなわち、工具駆動部53を構成するピン駆動部531、ショルダ駆動部532および回転駆動部533を制御することにより、ピン部材11およびショルダ部材12の進出移動または後退移動の切り替え、進退移動時のピン部材11およびショルダ部材12の先端位置の制御、移動速度および移動方向等を制御する。本実施の形態では、工具駆動制御部21は、圧入基準点設定部22で設定された基準点に基づいて、工具駆動部53を制御することにより、ショルダ部材12の先端に対するピン部材11の先端の相対位置を制御可能とする構成となっている。
圧入基準点設定部22は、ピン部材11またはショルダ部材12が被接合物60に当接した時点の位置を、ピン部材11またはショルダ部材12の圧入(押し込み)の基準点に設定するものである。ピン部材11またはショルダ部材12は、材料が軟化するまでの間、被接合物60の表面60cで、わずかではあるが一定時間留まることになる。そこで、ショルダ部材12を例に挙げると、圧入基準点設定部22は、工具駆動制御部21から得られるショルダ部材12の位置情報(エンコーダで得られる移動速度等)から、当該ショルダ部材12が被接合物60に当接して一定時間留まった時点の位置を圧入基準点として設定する。この圧入基準点は、ピン部材11およびショルダ部材12が被接合物60に圧入する際の圧入深さの基準点となる。なお、ピン部材11による圧入基準点の設定も同様である。
もちろん、圧入基準点設定部22においては、裏当て部材56の表面56aから、被接合物60の公称の板厚あるいは予め測定した板厚分だけオフセットされた位置を圧入基準点として設定しても良いが、この場合には板厚の測定作業や入力作業が必要である。裏当て部材56の表面56aから、被接合物60の公称の板厚あるいは予め測定した板厚分だけオフセットされた位置を圧入基準点とする場合、ピン部材11またはショルダ部材12は、相当の加圧力によって材料中に当接するため、摩擦攪拌点接合装置50Aが当該加圧力によってたわんだ分を考慮する必要がある。さらには、予備加熱中のピン部材11およびショルダ部材12の熱膨張分の長さのずれが誤差として発生し得る。一方、ショルダ部材12(回転工具51)が被接合物60に当接して一定時間留まった時点の位置を圧入基準点として設定する方法であれば、摩擦攪拌点接合装置50Aのたわみ、さらには被接合物60のたわみ、およびピン部材11およびショルダ部材12の熱膨張による長さのずれを解消することが可能となる。
工具駆動制御部21および圧入基準点設定部22の具体的な構成は特に限定されず、本実施の形態では、工具駆動制御部21が、マイクロコンピュータのCPUで構成され、工具駆動部53の動作に関する演算を行うよう構成され、圧入基準点設定部22が、工具駆動制御部21の機能構成となっている。すなわち、工具駆動制御部21としてのCPUが、記憶部31または他の記憶部に格納されるプログラムに従って動作することにより、圧入基準点設定部22が実現される構成であればよい。
また、圧入基準点設定部22は、工具駆動制御部21で生成される前記モータ回転情報(モータの回転角度または回転速度等)から、圧入基準点を設定できる構成となっていれば、工具駆動制御部21の機能構成に限定されない。例えば、公知のスイッチング素子、減算器、比較器等による論理回路等として構成されてもよい。
記憶部31は、各種データを読み出し可能に記憶するものであり、本実施の形態では、図4に示すように、加圧力・モータ電流データベースDb1〜Db3を記憶している。加圧力・モータ電流データベースDb1〜Db3は、工具駆動制御部21による工具駆動部53の制御に用いられる。
記憶部31としては、公知のメモリ、ハードディスク等の記憶装置等で構成される。記憶部31は、単一である必要はなく、複数の記憶装置(例えば、ランダムアクセスメモリおよびハードディスクドライブ)として構成されてもよい。工具駆動制御部21等がマイクロコンピュータで構成されている場合には、記憶部31の少なくとも一部がマイクロコンピュータの内部メモリとして構成されてもよいし、独立したメモリとして構成されてもよい。なお、記憶部31には、前記データベース以外のデータが記憶され、工具駆動制御部21以外からデータの読み出しが可能となっていてもよいし、工具駆動制御部21等からデータの書き込みが可能になっていてもよいことはいうまでもない。
入力部32は、工具駆動制御部21に対して、摩擦攪拌点接合の制御に関する各種パラメータ、あるいはその他のデータ等を入力可能とするものであり、キーボード、タッチパネル、ボタンスイッチ群等の公知の入力装置で構成されている。本実施の形態では、少なくとも、被接合物60の接合条件、例えば被接合物60の厚み、材質等のデータが入力部32により入力可能となっている。
加圧力検出部33は、回転工具51(ピン部材11またはショルダ部材12あるいはその両方)が被接合物60に当接または圧入しているときに、当該回転工具51が被接合物60に与える加圧力を検出する。本実施の形態では、加圧力検出部33としてロードセルが用いられているが、これに限定されず、公知の加圧力検出手段を用いることができる。
なお、本実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50Aでは、加圧力検出部33は必須構成ではないが、記憶部31に記憶される加圧力・モータ電流データベースDb1〜Db3を取得するために用いたり、圧入基準点設定部22の冗長化情報として用いたりすることで、回転工具51の駆動制御の利便性を向上することができる。また、工具駆動制御部21においては、加圧力・モータ電流データベースDb1〜Db3の代わりに、加圧力検出部33からのフィードバック制御に用いることも可能となる。
[工具駆動制御部による制御]
次に、工具駆動制御部21による工具駆動部53の制御、特に、圧入基準点に基づくショルダ部材12の先端に対するピン部材11の先端の相対位置の制御、さらにはこれら回転工具51の圧入深さの制御に関して、図5および図6(a),(b)を参照して具体的に説明する。
まず、図5に示すように、工具駆動制御部21は、工具駆動部53を制御して、裏当て部材56で支持された被接合物60の表面60cに向かって回転工具51を移動させる(ステップS101)。この段階は準備段階(図2(a)または図3(a)参照)に相当するので、クランプ部材54が表面60cに当接するが、ピン部材11およびショルダ部材12は初期設定の位置にあり、表面60cには当接していない。
次に、工具駆動制御部21は、回転工具51のうちショルダ部材12を被接合物60の表面60cに当接させ、被接合物60への加圧(押え付け)を開始する(ステップS102)。このとき、ショルダ部材12は回転させながら当接するが、回転しない状態で当接させてから回転を開始してもよい。そして、工具駆動制御部21は、ショルダ部材12が被接合物60の表面60cに当接した時点の位置を、圧入基準点に設定する(ステップS103)。
具体的には、例えば、図6(a)に示すように、被接合物60が裏当て部材56で支持されており、ピン部材11およびショルダ部材12の先端が同じ位置となるように並んでおり、被接合物60の表面60cとピン部材11およびショルダ部材12の先端位置との間に、任意の間隔Deが生じているとする。ここで、回転工具51(ピン部材11およびショルダ部材12)の先端と裏当て部材56の支持面56aとの間の距離を「工具距離」と定義すれば、図6(a)に示す状態では、工具距離Dt0には前記間隔Deが含まれている。
そして、例えば、圧入深さd0の位置までピン部材11またはショルダ部材12を圧入させたいとする。このとき、前記間隔Deは圧入深さd0の制御には寄与しない距離である。そこで、図6(b)に示すように、ショルダ部材12(およびピン部材11)を進出移動させて被接合物60の表面60cに当接させて一定時間留まったとき、圧入基準点設定部22は、図6(b)では工具距離Dt1の位置を、圧入基準点に設定する。つまり、圧入基準点設定部22は、ショルダ部材12が当接して留まった位置を、圧入深さ=0のポイント(0点)に補正し、工具駆動制御部21は、後述するように、この0点を基準としてピン部材11(またはショルダ部材12あるいはその両方)の進退移動を制御する。
次に、工具駆動制御部21は、ピン部材11を、初期設定の位置から予備加熱段階(図2(b)または図3(b)参照)の指定位置まで移動させるよう指令するとともに、ショルダ部材12による加圧力を所定値まで上昇させる(ステップS104)。この状態でピン部材11およびショルダ部材12の回転を継続することで被接合物60の接合部位が予備加熱される。
なお、このときの初期設定の位置、指定位置および加圧力は、予備加熱を行うために設定されるパラメータであって、摩擦攪拌点接合装置50Aの具体的な構成、被接合物60の材質、厚み、または形状等に応じて好適な値が適宜設定される。また、後述する各段階での指定位置も含む各パラメータは、入力部32により工具駆動制御部21に入力され記憶部31に記憶される。工具駆動制御部21は制御の段階に応じてこれらパラメータを記憶部31から読み出して制御に利用する。
次に、工具駆動制御部21による制御は工具制御段階に移行する。本実施の形態では、工具制御段階は、圧入段階、埋戻し段階、および整形段階の3段階で構成されているので(図2(c)〜(e)および図3(c)〜(e)参照)、下記の制御の説明においても、これら3段階を例示して説明する。また、下記の制御の説明では、便宜上、図2(c)〜(e)に示す例、すなわちピン部材11を先に圧入させる場合を例示して説明する。
まず、工具駆動制御部21は、ショルダ部材12を圧入段階(図2(c)参照)の指定位置まで移動させるとともに、ピン部材11を圧入段階の指定位置まで移動させる(ステップS105)。ここで、ショルダ部材12およびピン部材11の指定位置までの進退移動は、工具駆動部53が備えるモータに印加される電流値(モータ電流値)によって制御される。ショルダ部材12を例に挙げれば、ショルダ部材12をモータ電流値によって制御し、指定位置まで達した時点で進退移動を終了する。圧入段階におけるピン部材11またはショルダ部材12の指定位置は、被接合物60に押し込まれた(圧入された)位置に設定されるが、ショルダ部材12の指定位置は、被接合物60に押し込まれず、加圧した状態でその表面60cを押え付ける位置に設定されている。
次に、埋戻し段階を行う場合には、工具駆動制御部21は、ショルダ部材12を圧入段階の指定位置から埋戻し段階(図2(d)参照)の指定位置まで移動させるとともに、ピン部材11を圧入段階の指定位置から埋戻し段階の指定位置まで移動させる(ステップS106)。なお、前述したように、次の整形段階で被接合物60の表面60cを十分に整形できるのであれば、この埋戻し段階は無くてもよい。
次に、工具駆動制御部21は、ショルダ部材12の整形段階(図2(e)参照)の指定位置まで移動させるとともに、ピン部材11を整形段階の指定位置まで移動させる(ステップS107)。整形段階におけるピン部材11およびショルダ部材12の指定位置は、被接合物60の表面60cと略同等(通常であれば圧入基準点)の位置に設定される。
ここで、前記3つの工具制御段階では、ピン部材11およびショルダ部材12の位置は、圧入基準点を基準として工具駆動制御部21により制御されている。それゆえ、圧入基準点設定部22により圧入の「0点補正」を行った状態で、ピン部材11およびショルダ部材12の進退移動が制御されるので、工具駆動制御部21は、ショルダ部材12に対するピン部材11の相対位置を良好に制御することができるとともに、被接合物60の表面60cと回転工具51(ピン部材11およびショルダ部材12)との間隔De(図6(b)参照)を考慮しないで制御を行うことができるので、より精度良く圧入深さを制御することができる。
その後、工具駆動制御部21は、ピン部材11を初期設定の位置に移動させるとともに、ショルダ部材12による被接合物60への当接を開放させるよう、工具駆動部53を制御し(ステップS108)、摩擦攪拌点接合の一連工程の制御を終了する。
なお、図6(b)に示すように、圧入基準点設定部22により0点補正された工具距離Dt1は、被接合物60の厚みに対応する。それゆえ、本実施の形態に係る摩擦攪拌点接合装置50Bは、ショルダ部材12を被接合物60に当接させて0点補正することで、当該被接合物60の厚みを測定することも可能となる。
ここで、図5の破線Ctで囲んだステップS105〜S107においては、工具駆動制御部21は、ピン部材11およびショルダ部材12の圧入深さを制御しているだけでなく、図4に示すように、記憶部31から次に説明する加圧力調整データを読み出して、ピン部材11およびショルダ部材12の加圧力を制御することもできる。
加圧力調整データは、工具駆動部53の制御に用いることが可能であれば、どのようなデータであってもよいが、少なくとも回転工具51が被接合物60に圧入している状態での加圧力を調整するデータであることが好ましく、本実施の形態では、前述したモータ電流値である。当該モータ電流値は、加圧力の変化に対応するようにデータベース化(あるいはテーブル化)されており、記憶部31においては、前述したとおり、加圧力・モータ電流データベースDb1〜Db3として記憶されている。工具駆動制御部21は、この電流値を読み出すことでモータ電流値を調整することにより、ピン部材11およびショルダ部材12の加圧力を制御している。
特に本実施の形態では、記憶部31に記憶されている前記モータ電流値のデータベース(あるいはテーブル)は1つではなく3つである。このうち加圧力・モータ電流データベースDb1は、ピン部材11の進退移動が停止しているときにショルダ部材12を進退移動させるためのモータ電流値で構成されており、加圧力・モータ電流データベースDb2は、ピン部材11が被接合物60に圧入している(押し込まれている)ときにショルダ部材12を進退移動させるためのモータ電流値で構成されており、加圧力・モータ電流データベースDb3は、ピン部材11が被接合物60から引き抜かれるときにショルダ部材12を進退移動させるためのモータ電流値で構成されている。
工具駆動制御部21は、ピン部材11の動作が圧入している動作であるか、引き抜かれている動作であるか、圧入も引抜きも行われておらず停止している状態であるかを判定し、該当する動作におけるモータ電流値を、3つの加圧力・モータ電流データベースDb1〜Db3から読み出して、工具駆動部53を制御するよう構成されている。これは、被接合物60を加圧している状態であれば、ピン部材11の動作に応じて加圧力が変化するためであり、ピン部材11の動作に応じて加圧力を調整することで、加圧力をより適切に制御することが可能になる。
具体的には、ピン部材11が停止している状態(停止時)を基準とすれば、ピン部材11が圧入している状態(圧入動作時)においては、加圧力が相対的に高くなり、ピン部材11が引き抜かれている状態(引抜動作時)においては、加圧力が相対的に低くなる。それゆえ、ピン部材11の圧入動作、引抜動作、および停止時のそれぞれの場合で、異なるモータ電流値がデータベース化されて記憶部31に記憶されている。工具駆動制御部21は、例えば、ピン部材11の移動速度および移動方向から、当該ピン部材11の動作の種類を判定し、判定した動作に対応したモータ電流値を読み出して加圧力を調整する。
なお、加圧力・モータ電流データベースDb1〜Db3に記憶されているモータ電流値の具体的な値は特に限定されず、工具駆動部53が備えるモータの種類、加圧力の変化量、モータの回転駆動力を伝達するギア機構の種類等に応じて、実験的に好適な値を導き出してデータベース化(テーブル化)しておけばよい。また、データベースは2つのみ記憶させてもよいし、必要に応じて4つ以上のデータベースを記憶させてもよい。
さらに、ピン部材11の動作の種類を判定する指標として、本実施の形態では、ピン部材11の移動速度および移動方向を用いているが、これに限定されず、圧入動作、引抜動作、および停止動作を適切に判定できる指標であれば、公知のどのようなパラメータでも用いることができる。また、ピン部材11の移動速度を指標とする場合には、圧入動作と引抜動作との切り換えに際して、不感帯となる速度の範囲を設定しておくこともできる。
例えば、ピン部材11が0.05mm/sを超える速度で移動する状態を、移動方向によって圧入動作(+方向)または引抜動作(−方向)のいずれかであると判定するとすれば、−0.05〜+0.05mm/sの範囲内を不感帯として設定する。これによって、圧入動作または引抜動作であることを判定する境界がピンポイントの閾値ではなくなるため、読み出し対象となるデータベースが速度変化によって頻繁に変更されてしまい、加圧力の調整がふらつくおそれを抑制または回避することが可能となる。
このように、本実施の形態に係る摩擦攪拌点接合装置50Aは、ショルダ部材12に対するピン部材11の相対位置を良好に制御することができ、特にピン部材11およびショルダ部材12の圧入深さ、あるいは、被接合物60に対するピン部材11の加圧力を良好に制御することができる。それゆえ、接合条件に応じて好適な精度で良好な接合品質を実現することができる。
なお、本実施の形態では、圧入深さおよび加圧力を制御する構成について詳細に説明しているが、本発明は、圧入基準点に基づいてショルダ部材12に対するピン部材11の相対位置を制御する構成であればよく、それゆえ、例えば、ピン部材11およびショルダ部材12の進退方向への移動速度を制御するように構成されてもよい。
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る摩擦攪拌点接合装置の構成について、図7を参照して具体的に説明する。図7に示すように、本実施の形態に係る摩擦攪拌点接合装置50Bは、その基本的な構成は前記実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50Aと同様であるが、工具位置取得部23および位置ずれ量算出部24を備えているとともに、記憶部31にたわみ量/ひずみ量データベースDb4が記憶されている点で異なっている。
工具位置取得部23は、ピン駆動部531およびショルダ駆動部532から工具位置を取得する。工具位置は、ピン部材11の先端またはショルダ部材12の先端の位置であり、工具駆動制御部21は、当該工具位置から工具距離を生成することができる。工具距離は、前記実施の形態1で説明したように(図6(a),(b)参照)、ピン部材11の先端またはショルダ部材12の先端と支持面56aとの間の距離として定義される。
位置ずれ量算出部24は、加圧力検出部33で検出される加圧力から、回転工具51の進退移動に影響する種々の位置ずれの程度(位置ずれ量)を算出する。位置ずれ量としては、例えば、回転工具ずれ量、裏当て支持部55のたわみ量、工具固定部52および工具駆動部53のひずみ量等が挙げられるが、これらに限定されず、工具駆動部53のバックラッシュ等も挙げられる。本実施の形態では、記憶部31に記憶されているたわみ量/ひずみ量データベースDb4から加圧力に対応する位置ずれ量を位置ずれ量算出部24が読み出すことにより算出される。
本実施の形態では、ピン駆動部531およびショルダ駆動部532のそれぞれが公知のモータで構成されているが、当該モータに設けたエンコーダ等により工具位置取得部23が工具位置を取得し、さらに加圧力検出部33から取得された加圧力と、記憶部31に記録されているたわみ量/ひずみ量データベースDb4から位置ずれ量算出部24によって工具位置ずれ量を算出することができる。工具駆動制御部21は、前記工具位置から前記工具距離を生成し、前記工具位置ずれ量により前記工具距離を補正する。
回転工具ずれ量は、裏当て部材56の支持面56aに被接合物60(重ねあわされた金属板61,62)が支持された状態で、接合条件として入力される被接合物60の厚みと、ピン部材11またはショルダ部材12が被接合物60の表面60cに当接したときの当接面12aの位置とのずれとして定義される。なお、被接合物60の表面にピン部材11またはショルダ部材12が当接したときのピン部材11またはショルダ部材12の先端位置は、前述したエンコーダ(ショルダ駆動部532)から取得できる。回転工具ずれ量の発生は、ピン部材11およびショルダ部材12の先端位置の制御に影響を及ぼす。
また、裏当て支持部55のたわみ量は、回転工具51が被接合物60に当接して圧入したときに、被接合物60の表面60cを押さえつけることによる裏当て支持部55のたわみの程度である。裏当て支持部55にたわみが生じると、そのたわみ量に応じて裏当て部材56の支持面56aの相対位置が変位する。それゆえ、当該支持面56a上で支持される被接合物60の表面60cも変位するので、ピン部材11およびショルダ部材12の圧入深さの制御に影響を及ぼす。
また、工具固定部52および工具駆動部53のひずみ量は、工具固定部52および工具駆動部53を構成する部材、部品または機構等のひずみの程度であり、回転工具51が被接合物60に当接して圧入したときに、被接合物60の表面60cを押さえつける力の反作用によって生ずる。工具固定部52および工具駆動部53にひずみが生じると、そのひずみ量に応じて、ピン部材11およびショルダ部材12の先端位置が変位するので、ピン部材11およびショルダ部材12の圧入深さの制御に影響を及ぼす。
位置ずれ量算出部24は、入力部32から入力される接合条件、ピン駆動部531、ショルダ駆動部532等から入力される回転工具51の位置情報、記憶部31に記憶されているたわみ量/ひずみ量データベースDb4等を用いて、前記位置ずれ量を算出する。工具駆動制御部21は、位置ずれ量算出部24により算出された位置ずれ量を用いて工具距離を補正した上で工具駆動部53を制御する。これにより、被接合物60に対する回転工具51(ピン部材11またはショルダ部材12あるいはその双方)の圧入深さを好適に制御することができる。
工具位置取得部23および位置ずれ量算出部24の具体的な構成は特に限定されず、本実施の形態では、前記のように、工具駆動制御部21がマイクロコンピュータのCPUで構成されていれば、工具位置取得部23および位置ずれ量算出部24は、工具駆動制御部21の機能構成となっていればよい。すなわち、工具駆動制御部21としてのCPUが、記憶部31または他の記憶部に格納されるプログラムに従って動作することにより、工具位置取得部23および位置ずれ量算出部24が実現される構成であればよい。あるいは、工具位置取得部23、位置ずれ量算出部24は、公知のスイッチング素子、減算器、比較器等による論理回路等として構成されてもよい。
なお、本実施の形態では、工具駆動制御部21による回転工具51の駆動制御は、圧入基準点設定部22からの出力および位置ずれ量算出部24からの出力、並びに、記憶部31の加圧力・モータ電流データベースDb1〜Db3からのデータの読み出しにより行われればよいが、図7に破線の矢印で示すように、加圧力検出部33からの加圧力を利用するように構成されてもよい。
本実施の形態に係る摩擦攪拌点接合装置50Bは、さらに圧入基準点設定部22による圧入基準点の設定により、ピン部材11およびショルダ部材12の圧入深さを良好に制御することができる。この点は、前記実施の形態1と同様であるが、上記に述べたような回転工具ずれ量、裏当て支持部55のたわみ量、工具固定部52および工具駆動部53のひずみ量、工具駆動部53のバックラッシュ等、位置ずれ量がある場合でも、工具位置取得部23で取得した工具距離を位置ずれ量で補正することで、良好な圧入深さの制御を実現することができる。
また、位置ずれ量のうち回転工具ずれ量で工具距離を補正すれば、回転工具51が被接合物60を貫通するおそれ(穴あき)を防止または抑制することが可能である。前記実施の形態1で説明したように、摩擦攪拌点接合装置50Aおよび50Bでは、回転工具51の圧入による凹部を埋め戻して整形することができるので、穴あきが生じても埋め戻すことは可能であるが、穴あきはできる限り回避することが望ましい。圧入基準点が回転工具ずれ量によって大きくずれると穴あきが生じるおそれがあるが、本実施の形態のように、工具駆動制御部21が、位置ずれ量により工具距離を補正する構成となっていれば、穴あきの発生を防止または抑制することができる。
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置の構成について、図8を参照して具体的に説明する。図8に示すように、本実施の形態に係る摩擦攪拌点接合装置50Cは、その基本的な構成は前記実施の形態1に係る摩擦攪拌点接合装置50Aと同様であるが、クランプ位置−回転工具位置検出部34およびクランプ−工具間距離算出部25を備えている点で異なっている。
クランプ位置−回転工具位置検出部34は、クランプ部材54の先端の位置を検出する。クランプ−工具間距離算出部25は、クランプ位置−回転工具位置検出部34で検出されたクランプ部材54の先端の位置と、ピン部材11またはショルダ部材12の先端との距離であるクランプ−工具間距離Dc(図8のブロック矢印参照)を算出する。クランプ部材54は、前述したように、ショルダ部材12の外側に位置し、被接合物60の表面60cを押圧するものである。したがって、クランプ部材54が被接合物60を押圧している限り、その先端位置は、実質的に被接合物60の表面60cと同じ位置とみなすことができる。
それゆえ、工具駆動制御部21は、圧入基準点設定部22による圧入基準点の設定により、ピン部材11およびショルダ部材12の圧入深さを良好に制御するとともに、クランプ−工具間距離算出部25で算出されたクランプ−工具間距離Dcによって、前記実施の形態2で例示したショルダずれ量、たわみ量等の位置ずれ量を補正した上で、ピン部材11およびショルダ部材12の圧入深さを調整(設定)することができるので、当該圧入深さを良好に制御することができる。
なお、クランプ位置−回転工具位置検出部34の具体的構成は特に限定されず、クランプ部材54の先端の位置を検出可能とする公知の位置センサ等を好適に用いることができる。また、クランプ−工具間距離算出部25の具体的構成も特に限定されず、前記実施の形態1または2で説明したように、工具駆動制御部21の機能構成であってもよいし、公知のスイッチング素子、減算器、比較器等による論理回路等として構成されてもよい。
また、本実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置50Cでは、加圧力検出部33は必須構成ではないが、記憶部31に記憶される加圧力・モータ電流データベースDb1〜Db3を取得するために用いたり、圧入基準点設定部22の冗長化情報として用いたりすることで、回転工具51の駆動制御の利便性を向上することができる。また、工具駆動制御部21においては、加圧力・モータ電流データベースDb1〜Db3の代わりに、加圧力検出部33からのフィードバック制御に用いることも可能となる。
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4に係る摩擦攪拌点接合装置の構成について、図9を参照して具体的に説明する。図9に示すように、本実施の形態に係る摩擦攪拌点接合装置50Dは、その基本的な構成は前記実施の形態3に係る摩擦攪拌点接合装置50Cと同様であるが、裏当て部材56を備えておらず、また加圧力検出部33も備えていない点で異なっている。
裏当て部材56により被接合物60の裏面60dを支持できない場合、例えば、立体的な構造物の一部を接合するような場合で裏当て部材56の入り込む場所がない場合には、裏当て部材56を用いることはできない。また、被接合物60の剛性が十分に確保できる場合には、あえて裏当てが不要な場合もあり得る。これらの場合であっても、本発明は好適に用いることができる。
図9に示す例では、摩擦攪拌点接合装置50Dは、クランプ部材54は被接合物60に当接した状態で、圧入基準点設定部22により圧入基準点が設定され、工具駆動制御部21により回転工具51(ピン部材11およびショルダ部材12)の進退移動および圧入深さが制御される。このとき、加圧力検出部33を備えていなくても、記憶部31に予め加圧力調整データを記憶させておくことで、加圧力を調整することが可能である。
なお、本発明は上記の実施形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。