JP6003520B2 - 歯車構造体及びその製造方法 - Google Patents

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本発明は、円環状の歯車部材と、前記歯車部材を支持する支持部材とを備え、前記歯車部材が前記支持部材に嵌合されて一体的に回転する歯車構造体及びその製造方法に関する。
上記のような歯車構造体として、例えば下記の特許文献1に記載された技術が既に知られている。特許文献1の技術では、車両用の傘歯車式差動歯車装置における傘歯車の保持器に固定されるリングギヤが、上記の歯車部材に相当する。
特許文献1の技術では、歯車部材と、歯車部材を支持する支持部材とは、ボルトにより締結されて一体的に回転するように構成されている。
特開平11−165548号公報
通常、傘歯車式差動歯車装置を収容するケース内の下方には潤滑用の油が貯蔵され、リングギヤの下部が油に浸かるように構成される。しかしながら、特許文献1の技術では、ボルトが歯車構造体から軸方向に突出しているため、リングギヤが回転する際に、ボルトにより油が掻き混ぜられてトルク損失が生じる恐れがあった。
また、ボルトを用いて締結される場合は、周方向の複数の位置(例えば、8箇所)で締結されるため、ボルト分だけ歯車構造体の重量が増加すると共に、コストが増加する課題があった。
そこで、回転抵抗となる突出部が少なく、重量の増加を抑制できる方法で、歯車部材と支持部材とが連結された歯車構造体及びその製造方法が求められる。
本発明に係る、円環状の歯車部材と、前記歯車部材を支持する支持部材とを備え、前記歯車部材が前記支持部材に嵌合されて一体的に回転する歯車構造体の特徴構成は、前記支持部材は、円筒状の支持側嵌合面を備え、前記歯車部材は、歯面を構成する歯部と、前記支持側嵌合面に嵌合する円筒状の歯車側嵌合面と、前記歯車側嵌合面に対して軸方向一方側である軸第一方向側において前記支持部材側に突出し、前記支持部材の前記軸第一方向側の面に当接する当接部と、前記歯車側嵌合面に対して軸方向他方側である軸第二方向側において、前記歯車側嵌合面に対して前記支持部材側に突出し、前記支持部材の前記軸第二方向側の面に当接するかしめ部と、を備え、前記かしめ部の硬度は、前記支持部材の硬度より高い点にある。
この特徴構成によれば、円筒状の支持側嵌合面と、円筒状の歯車側嵌合面とが嵌合されて、歯車部材と支持部材が一体的に回転するように連結される。従って、歯車部材と支持部材との連結のために、ボルト等の締結部材の軸方向の突出が生じることを抑制できる。よって、歯車構造体が回転した場合にも、当該突出部が歯車構造体に供給される潤滑油を掻き混ぜることによるトルク損失が生じることを抑制できる。また、ボルトのような締結部材を用いないため、締結部材による重量の増加を抑制できる。
また、上記の特徴構成によれば、歯車部材が備えた軸第一方向側の当接部と軸第二方向側のかしめ部とにより、支持部材を軸方向両側から挟むことができる。このため、歯車部材の軸方向の移動が規制され、歯車部材が支持部材から軸方向に抜け落ちることを防止できる。
また、上記の特徴構成によれば、かしめ部と支持部材との接触面で、フレッティング摩擦が生じたとしても、かしめ部の硬度は支持部材の硬度より高くされているので、硬度の低い支持部材側の磨耗を多くし、硬度の高いかしめ部側の磨耗を抑制することができる。よって、かしめ部の磨耗により、歯車部材が支持部材から軸第一方向側に抜け落ちることを防止できる。
ここで、前記歯部は、前記歯車部材における前記歯車側嵌合面とは反対側の面に設けられていると共に、はすば歯車の歯面を構成し、前記軸第一方向は、主トルク伝達方向のトルクを伝達している状態において前記歯車部材に作用する軸方向荷重と反対方向であり、前記主トルク伝達方向は、前記歯車部材により伝達する時間が長い方のトルク伝達方向、又は前記歯車部材により伝達する最大トルクが大きい方のトルク伝達方向であると好適である。
一般的に、変形により形成されたかしめ部よりも当接部の方が、軸方向荷重に対する強さを大きくさせやすい。上記の構成によれば、はすば歯車が主トルク伝達方向のトルクを伝達している状態において、歯車部材に作用する軸方向荷重を、歯車部材の当接部から支持部材に作用させることができる。よって、軸方向荷重に対する歯車構造体の強度を確保することが容易になる。
ここで、前記歯車部材は、傘歯車式差動歯車装置の傘歯車の保持器に固定されるリングギヤであり、前記支持部材は、鋳造部品であって前記保持器と一体的に回転するように構成されていると好適である。
仮に、鋳造部品である支持部材にかしめ部を備えるように構成した場合は、鋳造部品は一般的に変形により部材の割れが生じ易い。そのため、かしめ部の変形が難しく、かしめ部の品質確保が容易でない。しかし、上記の構成によれば、歯車部材にかしめ部が備えられるため、比較的、変形による部材の割れを生じ難くすることができ、かしめ部の変形を容易にし、品質確保を容易にすることができる。
ここで、前記かしめ部の硬度は、前記歯部の硬度より低いと好適である。
この構成によれば、歯面同士の摩擦や荷重伝達のため、歯部の硬度を高くし、変形し難くすることができる。一方、かしめ部の硬度は、歯部の硬度より低くされるので、支持部材側に突出するように変形させ易くすることができる。
ここで、前記歯車部材は、表層全体に内部よりも炭素濃度及び硬度が高い浸炭層を有しており、前記歯部の表層は、前記歯車部材の前記歯部以外の部分の表層に比べて硬度が高いと好適である。
この構成によれば、かしめ部の表層は、浸炭層を有しており、内部より硬度が高くされているが、歯部の表層に比べて硬度が低くされている。よって、かしめ部の硬度を、歯部の硬度より低くさせることができる。
ここで、前記かしめ部の表層は、前記歯車部材の前記かしめ部以外の部分の表層に比べて、炭素濃度及び硬度が低いと好適である。
この構成によれば、かしめ部の表層は、歯部の表層に比べて炭素濃度及び硬度が低くされている。よって、かしめ部の硬度を、歯部の硬度より低くさせることができる。
ここで、前記支持側嵌合面は、前記支持部材の外周面に形成され、前記歯車側嵌合面は、前記歯車部材の内周面に形成されていると好適である。
この構成によれば、歯車部材を、支持部材の外周側に配置することができる。従って、一般的に多く用いられている歯車に、本発明の構造を適用することができる。
また、本発明に係る、円環状の歯車部材と、前記歯車部材を支持する支持部材とを備え、前記歯車部材が前記支持部材に嵌合されて一体的に回転する歯車構造体の製造方法の特徴構成は、円筒状の支持側嵌合面を備えた前記支持部材を用意する工程と、歯面を構成する歯部と、前記支持側嵌合面に嵌合する円筒状の歯車側嵌合面と、前記歯車側嵌合面に対して軸方向一方側である軸第一方向側において前記支持部材側に突出した当接部と、前記歯車側嵌合面に対して軸方向他方側である軸第二方向側に備えられ、前記支持部材の硬度より高い硬度を有するかしめ部と、を備えた前記歯車部材を用意する工程と、前記歯車部材の前記歯車側嵌合面を、前記支持部材の前記支持側嵌合面に、前記軸第一方向側から嵌合させて、前記歯車部材の前記当接部を前記支持部材の前記軸第一方向側の面に当接させる嵌合工程と、前記かしめ部を、前記歯車側嵌合面に対して前記支持部材側に突出するように変形させて、前記支持部材の前記軸第二方向側の面に当接させるかしめ工程と、を備えた点にある。
この製造方法により製造された歯車構造体も、上述した歯車構造体に係る作用効果を得ることができる。
特に、上記の製造方法によれば、かしめ部を変形させる前に、歯車部材を支持部材に嵌合させ、その後、かしめ部を支持部材側に変形させることで、軸方向両側からかしめ部及び当接部により支持部材を挟みこむことができる。
ここで、前記歯車部材を用意する工程では、前記歯車部材の全体に対して浸炭・徐冷処理を行って、前記歯車部材の表層全体の硬度を内部より高くし、その後、前記歯部に対して焼入れ処理を行って、前記歯部の表層の硬度を前記歯車部材の前記歯部以外の部分の表層に比べて高くすると好適である。
この構成によれば、歯車部材の全体に対する浸炭・徐冷処理により、歯車部材の表層全体に内部よりも炭素濃度が高い浸炭層を形成し、歯車部材の表層全体の硬度を内部よりも高くすることができる。その後、歯部に対する焼入れ処理により、歯部の表層の硬度を、歯車部材の歯部以外の部分の表層の硬度より高くすることができる。よって、かしめ部の表層の硬度を、歯部の表層の硬度に比べて低くさせて、かしめ部の硬度を、歯部の硬度より低くさせることができる。
その結果、歯面同士の摩擦や荷重伝達のため、歯部の硬度を高くし、変形し難くすることができる。一方、かしめ部の硬度は、歯部の硬度より低くされるので、支持部材側に突出するように変形させ易くすることができる。
ここで、前記歯車部材を用意する工程では、前記かしめ部に防炭処理を行い、前記かしめ部に防炭処理が行われた状態で、前記歯車部材の全体に対して浸炭・焼入れ処理を行って、前記かしめ部の表層の硬度を前記歯車部材の前記かしめ部以外の部分の表層の硬度より低くすると好適である。
この構成によれば、かしめ部には、浸炭層が形成されないように防炭処理が行われているので、歯車部材の全体に浸炭・焼入れ処理を施しても、かしめ部の表層の硬度を、歯部の表層の硬度より低くさせ、かしめ部の硬度を、歯部の硬度より低くさせることができる。
その結果、歯面同士の摩擦や荷重伝達のため、歯部の硬度を高くし、変形し難くすることができる。一方、かしめ部の硬度は、歯部の硬度より低くされるので、支持部材側に突出するように変形させ易くすることができる。
ここで、前記嵌合工程では、前記歯車部材の前記歯車側嵌合面と前記支持部材の前記支持側嵌合面とは、圧入又は焼き嵌めにより嵌合されていると好適である。
この構成によれば、歯車側嵌合面と支持側嵌合面との間の摩擦力を適切に確保することができる。
なお、本願において、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等が含まれていてもよい。
本発明の実施形態に係る歯車構造体を備えた車両用駆動装置のスケルトン図である。 本発明の実施形態に係る歯車構造体を備えた傘歯車式差動歯車装置の断面図である。 かしめ部が変形される前の歯車構造体の要部断面図である。 かしめ部が変形された後の歯車構造体の要部断面図である。 浸炭・徐冷処理の処理範囲を説明するための図である。 浸炭・徐冷処理後に行われる部分焼入れ処理の処理範囲を説明するための図である。 防炭処理及び浸炭・焼入れ処理の処理範囲を説明するための図である。 歯車構造体の製造方法を説明するためのフローチャートである。
本発明に係る歯車構造体1の実施形態について、図面を参照して説明する。
図2は、本実施形態に係る歯車構造体1の断面図である。この図に示すように、歯車構造体1は、歯車部材10と、歯車部材10を支持する支持部材11とを備えており、歯車部材10が支持部材11に嵌合されて一体的に回転する構成となっている。
支持部材11は、円筒状の支持側嵌合面12を備えている。
歯車部材10は、歯面を構成する歯部16と、支持側嵌合面12に嵌合する円筒状の歯車側嵌合面13と、を備えている。
歯車部材10は、歯車側嵌合面13に対して軸方向一方側である軸第一方向X1側において支持部材11側に突出し、支持部材11の軸第一方向X1側の面に当接する当接部14を備えている。また、歯車部材10は、歯車側嵌合面13に対して軸方向他方側である軸第二方向X2側において、歯車側嵌合面13に対して支持部材11側に突出し、支持部材11の軸第二方向X2側の面に当接するかしめ部15を備えている。ここで、かしめ部15の硬度は、支持部材11の硬度より高くされている。
このような歯車構造体1は、図8に示すように、支持部材を用意する工程#01、歯車部材を用意する工程#02、嵌合工程#03、及びかしめ工程#04などを備えた製造方法により生産される。
支持部材を用意する工程#01では、円筒状の支持側嵌合面12を備えた支持部材11を用意する。
歯車部材を用意する工程#02では、歯面を構成する歯部16と、支持側嵌合面12に嵌合する円筒状の歯車側嵌合面13と、歯車側嵌合面13に対して軸第一方向X1側において支持部材11側に突出した当接部14と、歯車側嵌合面13に対して軸第二方向X2側に備えられ、支持部材11の硬度より高い硬度を有するかしめ部15と、を備えた歯車部材10を用意する。
嵌合工程#03では、歯車部材10の歯車側嵌合面13を、支持部材11の支持側嵌合面12に、軸第一方向X1側から嵌合させて、歯車部材10の当接部14を支持部材11の軸第一方向X1側の面に当接させる。
かしめ工程#04では、かしめ部15を、歯車側嵌合面13に対して支持部材11側に突出するように変形させて、支持部材11の軸第二方向X2側の面に当接させる。
1.車両用駆動装置
本実施形態では、歯車部材10は、図2に示すように、傘歯車式差動歯車装置DFの傘歯車の保持器CA(以下、傘歯車保持器CAと称す)に固定されるリングギヤRGとされている。そして、支持部材11は、傘歯車保持器CAと一体回転するように構成されている。
また、傘歯車式差動歯車装置DFは、図1に示すように、車両用駆動装置に用いられており、駆動力源の駆動力を左右2つの車輪W1、W2に分配して伝達する差動歯車装置とされている。
本実施形態では、傘歯車式差動歯車装置DFのリングギヤRGは、カウンタギヤ機構CGを介して、変速機構TMの出力ギヤOに駆動連結されており、変速機構TMの入力軸Iは、トルクコンバータTCを介して内燃機関ICの出力軸ICOに駆動連結されている。
<内燃機関IC>
内燃機関ICは、燃料の燃焼により駆動される機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種内燃機関を用いることができる。本例では、内燃機関ICのクランクシャフト等の出力軸ICOが、トルクコンバータTCを介して入力軸Iに駆動連結されている。
<トルクコンバータTC>
トルクコンバータTCは、駆動力源としての内燃機関ICの出力軸ICOの回転駆動力を、内部に充填された作動油を介して、入力軸Iに伝達する装置である。このトルクコンバータTCは、出力軸ICOに駆動連結されたポンプインペラと、入力軸Iに駆動連結されたタービンランナと、これらの間に設けられ、ワンウェイクラッチを備えたステータと、を備えている。そして、トルクコンバータTCは、内部に充填された作動油を介して、駆動側のポンプインペラと従動側のタービンランナとの間で駆動力の伝達を行う。トルクコンバータTCは、ロックアップクラッチを備えている。
<変速機構TM>
トルクコンバータのタービンランナに駆動連結された入力軸Iには、変速機構TMが駆動連結されている。本実施形態では、変速機構TMは、変速比の異なる複数の変速段を有する有段の自動変速機構とされている。変速機構TMは、これら複数の変速段を形成するため、遊星歯車機構等の歯車機構と複数の係合装置とを備えている。変速機構TMは、各変速段の変速比で、入力軸Iの回転速度を変速するとともにトルクを変換して、出力ギヤOへ伝達する。複数の係合要素の係合及び解放が制御されて、遊星歯車機構等の各回転要素の回転状態が切り替えられ、形成される変速段が切り替えられる。
<カウンタギヤ機構CG>
カウンタギヤ機構CGは、カウンタ軸CG3と、第一カウンタギヤCG1と、当該第一カウンタギヤCG1より小径の第二カウンタギヤCG2と、を有して構成されている。第一カウンタギヤCG1は出力ギヤOに噛み合っている。第二カウンタギヤCG2は、傘歯車式差動歯車装置DFのリングギヤRGに噛み合っている。カウンタギヤ機構CGは、出力ギヤOの回転方向を逆転させると共に、出力ギヤOに伝達されるトルクを傘歯車式差動歯車装置DFのリングギヤRGへ伝達させる。
<傘歯車式差動歯車装置DF>
傘歯車式差動歯車装置DFは、互いに噛み合う傘歯車であるピニオンギヤPG及びサイドギヤSGを用いた差動歯車装置とされている。傘歯車式差動歯車装置DFは、第二カウンタギヤCG2からリングギヤRGに伝達された回転及びトルクを、傘歯車保持器CAに伝達し、傘歯車保持器CAに伝達された回転及びトルクを、傘歯車保持器CAが保持するピニオンギヤPG(PG1、PG2)を介して、左右2つのサイドギヤSG1、SG2に分配して伝達する。
傘歯車保持器CA内には、左右2つの車軸AX1、AX2のそれぞれと一体回転する一対のサイドギヤSG1、SG2と、当該2つのサイドギヤSG1、SG2の双方に噛み合うと共に傘歯車保持器CAと共に回転する一対のピニオンギヤPG1、PG2と、が収容されている。
傘歯車保持器CAは、傘歯車保持器CAの回転軸心に直交交差すると共に傘歯車保持器CAと一体回転するピニオン回転軸PSを備えており、各ピニオンギヤPG1、PG2は、ピニオン回転軸PS周りに自転可能に支持されている。すなわち、各ピニオンギヤPG1、PG2は、傘歯車保持器CAと共に回転(公転)すると共に、ピニオン回転軸PS周りに自転可能にされている。各ピニオンギヤPG1、PG2は、左右2つのサイドギヤSG1、SG2の双方と噛み合っている。傘歯車保持器CAが回転すると、傘歯車保持器CAと共に回転するピニオンギヤPG1、PG2を介して、左右2つのサイドギヤSG1、SG2が回転し、各サイドギヤSG1、SG2に連結された各車軸AX1、AX2が回転する。そして、各車軸AX1、AX2が回転すると、各車軸AX1、AX2に駆動連結された各車輪W1、W2が回転する。ここで、各ピニオンギヤPG1、PG2は、ピニオン回転軸PS周りに自転することにより、左右2つのサイドギヤSG1、SG2を差動動作させる。
2.傘歯車式差動歯車装置DFの機械的構成
本実施形態では、図2に示すように、傘歯車式差動歯車装置DFは、トルクコンバータTC、変速機構TM、及びカウンタギヤ機構CGなどを収容する駆動装置収容ケースCs内に収容されている。
傘歯車保持器CAは、傘歯車であるピニオンギヤPG1、PG2及びサイドギヤSG1、SG2を内側に保持するためにケース状に形成されたケース状部20を備えている。
ピニオン回転軸PSは、回転軸心Xoに直交交差する向きにケース状部20を貫通して、ケース状部20と一体回転するように固定されている。第一ピニオンギヤPG1及び第二ピニオンギヤPG2は、ケース状部20の内側で、径方向に互いに対向する位置に配置され、ピニオン回転軸PSは、これらピニオンギヤPG1、PG2の中心部を貫通して、これらをピニオン回転軸PS周りに回転可能に支持している。
第一サイドギヤSG1及び第二サイドギヤSG2は、ケース状部20の内側で、ピニオンギヤPG1、PG2を挟んで、軸方向Xに互いに対向する位置に配置される。
ケース状部20は、回転軸心Xo周りが開口しており、軸第一方向X1側に突出する円筒状の第一突出部21と、軸第二方向X2側に突出する円筒状の第二突出部22と、を備えている。
第一車軸AX1は、軸第一方向X1側から第一突出部21の径方向内側を貫通して、第一サイドギヤSG1の内周面にスプライン嵌合されている。第二車軸AX2は、軸第二方向X2側から第二突出部22の径方向内側を貫通して、第二サイドギヤSG2の内周面にスプライン嵌合されている。
第一突出部21の外周面は、第一支持軸受23を介して、駆動装置収容ケースCsに備えられた円筒状の第一ケース開口部25の内周面により回転可能に支持されている。第二突出部22の外周面は、第二支持軸受24を介して、駆動装置収容ケースCsに備えられた円筒状の第二ケース開口部26の内周面により回転可能に支持されている。
また、第一突出部21の内周面は、第一車軸AX1の外周面を回転可能に支持している。第二突出部22の内周面は、第二車軸AX2の外周面を回転可能に支持している。
第一支持軸受23よりも軸第一方向X1側における、第一ケース開口部25の内周面と第一車軸AX1の外周面との間の隙間を塞ぐように、第一シール部材27が備えられている。第二支持軸受24よりも軸第二方向X2側における、第二ケース開口部26の内周面と第二車軸AX2の外周面との間の隙間を塞ぐように、第二シール部材28が備えられている。これらのシール部材27、28により、駆動装置収容ケースCs内の油が外部に漏れないようにされている。
駆動装置収容ケースCs内の下方には、潤滑用の油19が貯蔵されており、少なくとも歯車部材10及び支持部材11の下部が、油19に浸かるように構成されている。本実施形態では、歯車部材10は、支持部材11に嵌合されて一体的に回転するように構成されている。このため、歯車部材10を支持部材11に取り付けるためのボルト等の締結部材が取り付けられておらず、当該締結部材により油19が掻き混ぜられてトルク損失が生じることを抑制できる。
2−1.歯車構造体1
本実施形態では、歯車部材10は、傘歯車式差動歯車装置DFの傘歯車保持器CAに固定されるリングギヤRGとされている。支持部材11は、傘歯車保持器CAと一体的に回転するように構成されている。
<支持部材11>
本実施形態では、支持部材11は、少なくとも径方向に延在している円環状の部材とされている。図2に示す例では、支持部材11は、ケース状部20における軸第二方向X2の径方向外側端部から軸第二方向X2及び径方向外側に延出し、ケース状部20と一体形成されている。なお、支持部材11は、ケース状部20と別体とされ、支持部材11の径方向内側の端部が、ケース状部20にボルト等の締結部材により、固定されるように構成されてもよい。この場合は、支持部材11の径方向内側の端部にボルト等の締結部材が配置されるので、締結部材を油面より上方に配置すれば、当該締結部材によって、支持部材11の下部が浸かるように貯蔵された油を掻き混ぜることを抑制できる。
支持部材11は、その径方向外側に円筒状の嵌合面支持部17を備えている。当該嵌合面支持部17の外周面が、円筒状の支持側嵌合面12とされている。嵌合面支持部17の軸方向Xの長さは、支持側嵌合面12の軸方向Xの長さと同じにされている。支持部材11は、嵌合面支持部17の軸方向中心付近の径方向内側端部から、径方向内側に延在する円環板状の支持壁部18を備えている。
嵌合面支持部17の軸第一方向X1側の面は、歯車部材10の当接部14に当接しており、後述するように、歯部16が主トルク伝達方向のトルクを伝達している状態でのスラスト荷重に応じた荷重が当該当接部14から伝達され得る。この主トルク伝達方向におけるスラスト荷重に応じた荷重を支えるため、支持壁部18に対して軸第一方向X1側の嵌合面支持部17の径方向厚さは、軸第二方向X2側の嵌合面支持部17の径方向厚さより、厚くされている。ここで、主トルク伝達方向におけるスラスト荷重に応じた荷重としたのは、スラスト荷重は、支持側嵌合面12と歯車側嵌合面13との間の摩擦力によっても伝達されるためである。
<歯車部材10>
歯車部材10は、リングギヤRGの歯面を形成する歯部16と、支持側嵌合面12に嵌合する円筒状の歯車側嵌合面13と、を備えている。本実施形態では、図2から図4に示すように、歯車部材10は、円筒状の部材とされており、歯部16は、歯車部材10における歯車側嵌合面13とは反対側の面に設けられている。ここでは、歯部16は、歯車部材10の外周面に形成されており、歯車側嵌合面13は、歯車部材10の内周面に形成されている。
<当接部14>
歯車部材10は、歯車側嵌合面13に対して軸第一方向X1側において支持部材11側に突出し、支持部材11の軸第一方向X1側の面に当接する当接部14を備えている。本実施形態では、当接部14は、歯車部材10の軸第一方向X1側の端部において、歯車側嵌合面13に対して支持部材11側である径方向内側に突出した円筒状部とされている。そして、このような円筒状の当接部14の軸第二方向X2側の面が、円筒状の支持部材11(嵌合面支持部17)の軸第一方向X1側の面に当接している。
<かしめ部15>
歯車部材10は、歯車側嵌合面13に対して軸第二方向X2側において、歯車側嵌合面13に対して支持部材11側に突出し、支持部材11の軸第二方向X2側の面に当接するかしめ部15を備えている。本実施形態では、図2、図4に示すように、かしめ部15は、歯車部材10の軸第二方向X2側の端部において、歯車側嵌合面13に対して支持部材11側である径方向内側に突出している円環状の部材とされている。かしめ部15は、かしめ工程#04により変形される前は、図3に示すように、歯車側嵌合面13に対して支持部材11側(径方向内側)には突出しておらず、歯車部材10の軸第二方向X2側における径方向内側の端部において、軸第二方向X2側に突出した円環状の部材とされている。なお、図3の例では、変形前のかしめ部15の支持部材11側(径方向内側)の周面は、歯車側嵌合面13よりも支持部材11から離れる側(径方向外側)に位置している。これにより、歯車部材10を、支持部材11に軸第一方向X1側から嵌め込みやすくなっている。
図3に示すように、嵌合工程#03では、かしめ工程#04によりかしめ部15を変形させる前の状態で、歯車部材10の歯車側嵌合面13を、支持部材11の支持側嵌合面12に軸第一方向X1側から嵌め込み、当接部14の軸第二方向X2側の面を、支持部材11(嵌合面支持部17)の軸第一方向X1側の面に当接させる。そして、かしめ工程#04では、軸第二方向X2に延出しているかしめ部15に対して、変形(かしめ)用の工具により、径方向内側及び軸第一方向X1側の力を加えて、かしめ部15を径方向内側に突出するように変形させ、かしめ部15を、支持部材11(嵌合面支持部17)の軸第二方向X2側の面に当接させる。
かしめ部15が当接する支持部材11(嵌合面支持部17)の面は、径方向外側に向うに従って、軸第一方向X1に向かう傾斜面とされており、かしめ部15の変形量を小さくできるようにされている。
<嵌合方法>
本実施形態では、嵌合工程#03において、歯車部材10の歯車側嵌合面13と支持部材11の支持側嵌合面12とは、焼き嵌め又は圧入により嵌合されるように構成されている。
焼き嵌めでは、支持側嵌合面12より直径が小さくされた歯車側嵌合面13を加熱して、歯車側嵌合面13の直径を膨張させ、支持側嵌合面12の直径より大きくさせる。この状態で、歯車部材10を支持部材11に嵌め込んだ後、冷却することにより、歯車側嵌合面13を支持側嵌合面12に密着させる。
圧入では、支持側嵌合面12より直径が小さくされた歯車側嵌合面13に対して軸方向の強い力を加えて、歯車側嵌合面13を支持側嵌合面12に嵌め込み密着させる。
嵌合面12、13同士が周方向に滑らないように、歯車側嵌合面13側に軸方向に延びる溝(ローレット)が形成されてもよい。歯車側嵌合面13側の硬度は、支持側嵌合面12側の硬度より高いので、焼き嵌め又は圧入により嵌合される際に、歯車側嵌合面13のローレットが、支持側嵌合面12に食い込み、周方向の滑りを抑制することができる。
或いは、変形前のかしめ部15における支持部材11と当接する面に、軸方向に延びる溝(ローレット)が形成されてもよい。かしめ部15を支持部材11に当接するように変形させる際に、かしめ部15のローレットを、より硬度の低い支持部材11に食い込ませ、周方向の滑りを抑制することができる。或いは、当接部14における支持部材11と当接する面に、径方向に延びる溝(ローレット)が形成されてもよい。歯車部材10を支持部材11に嵌め込む際、或いは、主トルク伝達方向におけるスラスト荷重に応じた荷重により、当接部14のローレットを、より硬度の低い支持部材11に食い込ませ、周方向の滑りを抑制することできる。
<はすば歯車>
本実施形態では、歯車部材10は、はすば歯車とされており、歯車間でトルクを伝達する際に、歯車部材10に軸方向荷重(スラスト荷重)がかかるように構成されている。
歯車部材10が伝達するトルクの向きによって、歯車部材10に作用するスラスト荷重の向きが、軸第一方向X1又は軸第二方向X2で変化し、歯車部材10が伝達するトルクの大きさに比例して、歯車部材10に作用するスラスト荷重の大きさが変化する。
この歯車部材10に作用するスラスト荷重は、基本的に、歯車側嵌合面13と支持側嵌合面12との間の摩擦力により、支持部材11側に伝達される。しかし、スラスト荷重が嵌合面同士の摩擦力を超えた場合、嵌合面同士の摩擦力が低下した場合などにおいて、当接部14又はかしめ部15に作用するスラスト荷重が大きくなる。変形により形成されたかしめ部15よりも当接部14の方が、スラスト荷重に対する強さを大きくさせやすい。また、後述する第二の構成例では、当接部14の硬度は、かしめ部15の硬度より高くなっているため、スラスト荷重に対する強さを大きくさせやすい。
このため、本実施形態では、歯車部材10により伝達する時間が長い方のトルク伝達方向、又は歯車部材10により伝達する最大トルクが大きい方のトルク伝達方向である主トルク伝達方向のトルクを、歯車部材10が伝達している状態でのスラスト荷重が、当接部14に作用するように構成されている。
具体的には、当接部14が備えられている軸第一方向X1は、主トルク伝達方向のトルクを伝達している状態において歯車部材10に作用するスラスト荷重とは反対方向とされている。
本実施形態では、車両を前進方向に駆動する際に、駆動力源から歯車部材10にトルクが伝達されて、歯車部材10が伝達するトルクの向きが、主トルク伝達方向とされている。
3.歯車構造体1の各部の硬度
3−1.かしめ部15と支持部材11との硬度差
歯車部材10のかしめ部15の硬度は、支持部材11の硬度より高くされている。詳細には、かしめ部15の硬度は、少なくとも、かしめ部15に接触する支持部材11の接触面の硬度より高くされていればよい。
本実施形態では、支持部材11は、鋳造部品(鋳鉄部品)とされている。本例では、ダクタイル鋳鉄とされており、日本工業規格(JIS)のFCD450が用いられている。一方、歯車部材10は、鋼部品とされている。本例では、クロムモリブデン鋼とされており、日本工業規格(JIS)のSCM420が用いられている。本実施形態では、かしめ部15の硬度は、支持部材11の硬度より、ビッカース硬さ(Hv)で、70〜200の範囲内で高くされている。本例では、ダクタイル鋳鉄(FCD450)の支持部材11は、150Hvとされ、クロムモリブデン鋼(SCM420)のかしめ部15の硬度は、後述する焼入れ処理により、220〜350Hvの範囲内とされている。
この硬度差により、かしめ部15と支持部材11との接触面で、仮にフレッティング摩擦が生じたとしても、硬度の低い支持部材11側の磨耗を多くし、硬度の高いかしめ部15側の磨耗を抑制することができる。よって、かしめ部15の磨耗により、歯車部材10が支持部材11から軸第一方向X1側に抜け落ちることを防止できる。
また、本実施形態とは異なり鋳鉄からなる支持部材11側にかしめ部が備えられる場合は、鋳鉄は変形により部材の割れが生じやいため、鋳鉄のかしめ部の変形は難しく、鋳鉄のかしめ部の品質確保は容易でない。更には、鋳鉄には黒鉛が含まれるため、工具により鋳鉄のかしめ部を変形させる際に、工具に黒鉛が付着し、工具の維持管理コストが高くなる。これに対して本実施形態では、かしめ部15は、鋼部品からなるため、変形により部材の割れが生じ難いため、かしめ部15の変形が容易で、品質確保が容易である。更には、鋳鉄のように黒鉛が含まれることもなく、工具の維持管理コストが高くなることを抑制できる。
3−2.歯部16とかしめ部15との硬度差
歯面を形成する歯部は、通常、歯面同士の摩擦や荷重伝達のため、浸炭・焼入れ処理などにより硬度が高くされ、変形し難くされる。しかし、かしめ部15の硬度が、歯部の硬度まで高くされると、支持部材11側に突出するように変形させ難くなる。
そこで、本実施形態では、かしめ部15の硬度は、歯部16の硬度より低くされている。本例では、かしめ部15の硬度は、歯部16の硬度より、ビッカース硬さ(Hv)で450〜550の範囲内で低くされている。また、歯車部材10は、かしめ部15及び歯部16とも同じ材質とされ、本例ではクロムモリブデン鋼(SCM420)とされている。しかし、後述する特別な浸炭・焼入れ処理などにより、かしめ部15の硬度は220〜350Hvの範囲内とされ、歯部16の硬度は720〜850Hvの範囲内とされる。
このような硬度差を有する歯車部材10の構成例として、以下で2つの構成例を説明する。
3−2−1.浸炭・徐冷・部分焼入れ処理(第一の構成例)
第一の構成例として、歯車部材10は、表層全体に内部よりも炭素濃度及び硬度が高い浸炭層を有している。そして、歯部16の表層は、歯車部材10の歯部16以外の部分の表層に比べて硬度が高くされている。
このような歯車部材10は、浸炭・徐冷処理及び部分焼入れ処理により用意される。すなわち、歯車部材を用意する工程#02では、歯車部材10の全体に対して浸炭・徐冷処理を行って、歯車部材10の表層全体の硬度を内部より高くし、その後、歯部16に対して部分焼入れ処理を行って、歯部16の表層の硬度を歯車部材10の歯部16以外の部分の表層に比べて高くする。以下、各処理について詳細に説明する。
<浸炭・徐冷処理>
浸炭・徐冷処理では、図5に示すように、歯車部材10の全体に対して、浸炭・徐冷処理を行う。ただし、浸炭・徐冷処理では、浸炭・徐冷処理により硬度が高くなり過ぎないように、加熱後の冷却速度が、油や水などの液体冷媒を用いる冷却の冷却速度より低くされる。加熱後、液体冷媒により急冷されると、オーステナイトからマルテンサイトに組織変態されて、硬度が大幅に増加する。一方、冷却速度を低下させると、オーステナイトからマルテンサイトへの組織変態が抑制されて、硬度増加が抑制される。浸炭・徐冷処理では、マルテンサイトへの組織変態を抑制できるような速度まで、冷却速度が低くされる。
本例では、浸炭・徐冷処理により、表層の硬度が、内部の硬度より60〜190Hvの範囲内で高くされる。
具体的には、歯車部材10の全体に対して、ガス加熱炉を用いて、ガス浸炭、加熱処理を行う。その後、窒素ガスなどの気体中で冷却させる際に、雰囲気の気圧を大気圧より低下させて、歯車部材10から雰囲気への伝熱率を低下させ、歯車部材10の冷却速度を低下させる。
浸炭ガスとして、アセチレン、プロパン、ブタン、メタンなどを用い、オーステナイト化する温度(950℃)まで加熱させる。ガス浸炭、加熱処理を行う際に、減圧が行われてもよい。浸炭・加熱処理により、歯車部材10の表層全体に内部よりも炭素濃度が高い浸炭層が形成される。
そして、冷却させる際に、オーステナイトからマルテンサイトへの組織変態を抑制して、歯車部材10の表層の硬度が内部の硬度より60〜190Hvの範囲内で高くなるように、雰囲気の気圧低下量を調整し、冷却速度を調整する。本例では、雰囲気の気圧は、少なくとも0.3bar以下に減圧される。また、本例では、浸炭・徐冷処理により、歯車部材10の表層の硬度は、220〜350Hvの範囲内とされるが、歯車部材10の内部の硬度は、浸炭・徐冷処理前の歯車部材10の硬度と同程度の160Hvとされる。
<部分焼入れ処理>
浸炭・徐冷処理後に行う部分焼入れ処理では、図6に示すように、歯車部材10の歯部16に対して部分的に焼入れを行い、歯部16以外の歯車部材10の部分には焼入れを行わない。このような部分的な焼入れを行うために、部分焼入れ処理として高周波焼入れを行う。具体的には、高周波の電磁波や、電子ビームや、レーザビームなどを歯部16に対して照射して、少なくとも歯部16の表層(歯面)をオーステナイト化する温度(950℃)まで加熱させる。加熱後、油や水などの液体冷媒を用い急冷して、オーステナイトからマルテンサイトに組織変態させ、歯部16の表層(歯面)の硬度を更に増加させる。本例では、歯部16の表層(歯面)の硬度は、部分焼入れ処理により更に450〜550Hvの範囲内で増加され、最終的な硬度は、720〜850Hvの範囲内とされる。
3−2−2.防炭・浸炭・焼入れ処理(第二の構成例)
第二の構成例として、かしめ部15の表層は、歯車部材10のかしめ部15以外の部分の表層に比べて、炭素濃度及び硬度が低くされる。
このような歯車部材10は、防炭処理及び浸炭・焼入れ処理により用意される。すなわち、歯車部材を用意する工程#02では、かしめ部15に防炭処理を行い、かしめ部15に防炭処理が行われた状態で、歯車部材10の全体に対して浸炭・焼入れ処理を行って、かしめ部15の表層の硬度を歯車部材10のかしめ部15以外の部分の表層の硬度より低くする。以下、各処理について詳細に説明する。
<防炭処理>
図7に示すように、浸炭処理によりかしめ部15の表層に炭素が浸透しないように、かしめ部15の表面全体を覆うように防炭剤を塗布する防炭処理を行う。
<浸炭・焼入れ処理>
かしめ部15に防炭処理が行われた状態で、歯車部材10の全体に対して浸炭・焼入れ処理を行う。具体的には、歯車部材10の全体に対して、ガス加熱炉を用いて、ガス浸炭、加熱を行う。加熱後、油や水などの液体冷媒を用い急冷して、オーステナイトからマルテンサイトに組織変態させ、歯車部材10の表層の硬度を増加させる。この際、防炭処理により、かしめ部15の表層には、浸炭層が十分に形成されていないので、焼入れ処理による硬度の増加が抑制される。本例では、かしめ部15以外の歯車部材10の表層の硬度は、720〜850Hvの範囲内とされ、かしめ部15の表層の硬度及び歯車部材10の内部の硬度は、220〜350Hvの範囲内とされる。なお、浸炭・焼入れ処理を行う前の歯車部材10の硬度は160Hvである。
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
(1)上記の実施形態において、歯車部材10は、傘歯車式差動歯車装置DFの傘歯車の保持器CAに固定されるリングギヤRGとされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、歯車部材10は、傘歯車式差動歯車装置DF以外の歯車装置を構成するギヤとされていてもよい。例えば、歯車部材10は、遊星歯車装置のリングギヤとされていてもよい。
(2)上記の実施形態において、傘歯車式差動歯車装置DFは、車両用駆動装置に用いられる、駆動力源の駆動力を左右2つの車輪W1、W2に分配して伝達する差動歯車装置とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、傘歯車式差動歯車装置DFは、車両用駆動装置以外の動力伝達装置に用いられる差動歯車装置とされてもよい。
(3)上記の実施形態において、歯車構造体1は、車両用駆動装置に用いられる場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、歯車構造体1は、車両用駆動装置以外の装置に用いられてもよい。例えば、工作機械や船舶などの各種装置の動力伝達用の歯車構造体とされてもよい。
(4)上記の実施形態において、歯車部材10は、はすば歯車とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、歯車部材10は、はすば歯車以外の歯車、例えば、平歯車、やまば歯車などとされてもよい。
(5)上記の実施形態において、支持部材11が、鋳造部品(例えば、ダクタイル鋳鉄)とされ、歯車部材10が、鋼部品(例えば、クロムモリブデン鋼)とされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、歯車部材10のかしめ部15の硬度が、支持部材11の硬度より高くされていれば、支持部材11及び歯車部材10にどのような材料が用いられてもよい。例えば、支持部材11も鋼部品とされてもよく、この場合、少なくとも、かしめ部15に接触する支持部材11の接触面の硬度が、かしめ部15の硬度より低くされればよい。
(6)上記の実施形態において、かしめ部15の硬度は、歯部16の硬度より低くされている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、かしめ部15の硬度は、歯部16の硬度より高い又は同じとされていてもよい。
(7)上記の実施形態において、かしめ部15の硬度が、歯部16の硬度より低くされている場合の例として、2つの構成例を説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、少なくとも、かしめ部15の硬度が、歯部16の硬度より低くされていれば、かしめ部15及び歯部16以外の歯車部材10における硬度分布はどのようになっていてもよい。また、上記の2つの構成例のような浸炭・徐冷・部分焼入れ処理及び防炭・浸炭・焼入れ処理以外の浸炭・焼入れ処理などにより、或いは歯車部材10が複数の材質から形成されることにより、かしめ部15の硬度が、歯部16の硬度より低くされてもよい。
(8)上記の実施形態において、支持側嵌合面12は、支持部材11の外周面に形成され、歯車側嵌合面13は、歯車部材10の内周面に形成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、支持側嵌合面12は、支持部材11の内周面に形成され、歯車側嵌合面13は、歯車部材10の外周面に形成されるように構成されてもよい。この場合は、例えば、歯車部材10は、遊星歯車機構のリングギヤとされ、支持部材11は、リングギヤを支持する円筒状の支持部材とされてもよい。
本発明は、円環状の歯車部材と、前記歯車部材を支持する支持部材とを備え、前記歯車部材が前記支持部材に嵌合されて一体的に回転する歯車構造体及びその製造方法に好適に利用することができる。
1 :歯車構造体
10 :歯車部材
11 :支持部材
12 :支持側嵌合面
13 :歯車側嵌合面
14 :当接部
15 :かしめ部
16 :歯部
17 :嵌合面支持部
18 :支持壁部
20 :ケース状部
21 :第一突出部
22 :第二突出部
23 :第一支持軸受
24 :第二支持軸受
25 :第一ケース開口部
26 :第二ケース開口部
27 :第一シール部材
28 :第二シール部材
AX1 :第一車軸
AX2 :第二車軸
CA :傘歯車保持器
CG :カウンタギヤ機構
CG1 :第一カウンタギヤ
CG2 :第二カウンタギヤ
CG3 :カウンタ軸
Cs :駆動装置収容ケース
DF :傘歯車式差動歯車装置
I :入力軸
IC :内燃機関
ICO :内燃機関の出力軸
O :出力ギヤ
PG1 :第一ピニオンギヤ
PG2 :第二ピニオンギヤ
PS :ピニオン回転軸
RG :リングギヤ
SG1 :第一サイドギヤ
SG2 :第二サイドギヤ
TC :トルクコンバータ
TM :変速機構
W1、W2:車輪
X :軸方向
X1 :軸第一方向(軸方向一方側)
X2 :軸第二方向(軸方向他方側)
Xo :回転軸心

Claims (11)

  1. 円環状の歯車部材と、前記歯車部材を支持する支持部材とを備え、前記歯車部材が前記支持部材に嵌合されて一体的に回転する歯車構造体であって、
    前記支持部材は、円筒状の支持側嵌合面を備え、
    前記歯車部材は、
    歯面を構成する歯部と、
    前記支持側嵌合面に嵌合する円筒状の歯車側嵌合面と、
    前記歯車側嵌合面に対して軸方向一方側である軸第一方向側において前記支持部材側に突出し、前記支持部材の前記軸第一方向側の面に当接する当接部と、
    前記歯車側嵌合面に対して軸方向他方側である軸第二方向側において、前記歯車側嵌合面に対して前記支持部材側に突出し、前記支持部材の前記軸第二方向側の面に当接するかしめ部と、を備え、
    前記かしめ部の硬度は、前記支持部材の硬度より高い歯車構造体。
  2. 前記歯部は、前記歯車部材における前記歯車側嵌合面とは反対側の面に設けられていると共に、はすば歯車の歯面を構成し、
    前記軸第一方向は、主トルク伝達方向のトルクを伝達している状態において前記歯車部材に作用する軸方向荷重と反対方向であり、
    前記主トルク伝達方向は、前記歯車部材により伝達する時間が長い方のトルク伝達方向、又は前記歯車部材により伝達する最大トルクが大きい方のトルク伝達方向である請求項1に記載の歯車構造体。
  3. 前記歯車部材は、傘歯車式差動歯車装置の傘歯車の保持器に固定されるリングギヤであり、
    前記支持部材は、鋳造部品であって前記保持器と一体的に回転するように構成されている請求項1又は2に記載の歯車構造体。
  4. 前記かしめ部の硬度は、前記歯部の硬度より低い請求項1から3のいずれか一項に記載の歯車構造体。
  5. 前記歯車部材は、表層全体に内部よりも炭素濃度及び硬度が高い浸炭層を有しており、
    前記歯部の表層は、前記歯車部材の前記歯部以外の部分の表層に比べて硬度が高い請求項1から4のいずれか一項に記載の歯車構造体。
  6. 前記かしめ部の表層は、前記歯車部材の前記かしめ部以外の部分の表層に比べて、炭素濃度及び硬度が低い請求項1から4のいずれか一項に記載の歯車構造体。
  7. 前記支持側嵌合面は、前記支持部材の外周面に形成され、
    前記歯車側嵌合面は、前記歯車部材の内周面に形成されている請求項1からのいずれか一項に記載の歯車構造体。
  8. 円環状の歯車部材と、前記歯車部材を支持する支持部材とを備え、前記歯車部材が前記支持部材に嵌合されて一体的に回転する歯車構造体の製造方法であって、
    円筒状の支持側嵌合面を備えた前記支持部材を用意する工程と、
    歯面を構成する歯部と、前記支持側嵌合面に嵌合する円筒状の歯車側嵌合面と、前記歯車側嵌合面に対して軸方向一方側である軸第一方向側において前記支持部材側に突出した当接部と、前記歯車側嵌合面に対して軸方向他方側である軸第二方向側に備えられ、前記支持部材の硬度より高い硬度を有するかしめ部と、を備えた前記歯車部材を用意する工程と、
    前記歯車部材の前記歯車側嵌合面を、前記支持部材の前記支持側嵌合面に、前記軸第一方向側から嵌合させて、前記歯車部材の前記当接部を前記支持部材の前記軸第一方向側の面に当接させる嵌合工程と、
    前記かしめ部を、前記歯車側嵌合面に対して前記支持部材側に突出するように変形させて、前記支持部材の前記軸第二方向側の面に当接させるかしめ工程と、
    を備えた歯車構造体の製造方法。
  9. 前記歯車部材を用意する工程では、
    前記歯車部材の全体に対して浸炭・徐冷処理を行って、前記歯車部材の表層全体の硬度を内部より高くし、その後、前記歯部に対して焼入れ処理を行って、前記歯部の表層の硬度を前記歯車部材の前記歯部以外の部分の表層に比べて高くする請求項に記載の歯車構造体の製造方法。
  10. 前記歯車部材を用意する工程では、
    前記かしめ部に防炭処理を行い、前記かしめ部に防炭処理が行われた状態で、前記歯車部材の全体に対して浸炭・焼入れ処理を行って、前記かしめ部の表層の硬度を前記歯車部材の前記かしめ部以外の部分の表層の硬度より低くする請求項に記載の歯車構造体の製造方法。
  11. 前記嵌合工程では、
    前記歯車部材の前記歯車側嵌合面と前記支持部材の前記支持側嵌合面とを、圧入又は焼き嵌めにより嵌合させる請求項8から10のいずれか一項に記載の歯車構造体の製造方法。
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