JP5998950B2 - オーステナイト系耐熱合金部材 - Google Patents

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Description

本発明は、オーステナイト系耐熱合金部材に関する。詳しくは、本発明は、クリープ強度と溶接時の耐割れ性とに優れ、発電用ボイラの主蒸気管や高温再熱蒸気管などの厚肉の高温部材として好適に用いることができる、オーステナイト系耐熱合金部材に関する。
近年、環境負荷軽減の観点から発電用ボイラなどでは運転条件の高温・高圧化が世界的規模で進められており、過熱器管や再熱器管の材料として使用されるオーステナイト系耐熱合金には、より優れた高温強度および耐食性を有することが求められている。
さらに、従来、フェライト系耐熱鋼が使用されていた主蒸気管や高温再熱蒸気管などの厚肉の部材など種々の部材においても、オーステナイト系耐熱合金の適用が検討されている。
このような技術的背景のもと、種々のオーステナイト系耐熱合金が提案されている。具体的には、例えば、特許文献1に、Ni基合金が提案されている。このNi基合金は、Wを活用して高温強度を高めるとともに、有効B量を管理することにより、熱間加工性を改善するとともに溶接割れを防止した、オーステナイト系耐熱合金である。
また、特許文献2に、Cr、TiとZrの活用によりα−Cr相を強化相としてクリープ強度を高めた、オーステナイト系耐熱合金が提案されている。
特許文献3に、多量のWを含有させるとともにAlとTiを活用して、固溶強化とγ’相の析出強化によって強度を高めた、Ni基耐熱合金が提案されている。
特許文献4に、W、Mo、TiおよびAlを活用して、クリープ強度を高めるとともに、P、S、Sn、Pbなどの不純物元素ならびにTiおよびAlの含有量を管理して、溶接時の耐液化割れ性(HAZ(熱影響部)の液化割れに対する抵抗性)と使用時の耐応力緩和割れ性(HAZの脆化割れに対する抵抗性)を改善した、オーステナイト系耐熱合金が提案されている。
さらに、特許文献5に、Cr、BおよびPの含有量ならびにAl、TiおよびNbの含有量をそれぞれ、所定の範囲に管理するとともに、Ndを含有させて、クリープ強度および溶接時の耐液化割れ性を改善した、オーステナイト系耐熱合金が提案されている。
特開2011−63838号公報 国際公開第2009/154161号 国際公開第2010/038826号 特開2010−150593号公報 国際公開第2011/071054号 特開2000−265249号公報
オーステナイト系耐熱合金を構造物として使用する場合、一般には、溶接により組み立てられる。その際、溶接部には、主に冶金的要因に起因した様々な割れが発生しやすいことが知られているが、前記特許文献1〜5で開示されているオーステナイト系耐熱合金はいずれも、溶接割れ感受性が十分に低いため、発電用ボイラ、化学工業用プラントなどの高温機器の素材として好適に用いることができる。
なお、本発明者らが、上記のオーステナイト系耐熱合金のうちでも特許文献4および特許文献5で開示されているオーステナイト系耐熱合金を、主蒸気管や高温再熱蒸気管などの厚肉の部材、特に、厚さが30mmを超える部材に適用するために、溶接により組み立てて調査した結果、溶接時の液化割れや使用時の応力緩和割れを安定して防止可能なことが確認できた。
しかしながら、その後、本発明者らが実施したさらなる詳細な調査から、単にオーステナイト系耐熱合金の化学組成を管理するだけでは、特許文献4や特許文献5が対象とした割れの発生部位とは異なる部位、具体的には、多層溶接時の初層および最終層の部材表面の溶接部近傍のHAZに、微細な割れが発生する場合があることが明らかとなった。
加えて、特許文献4や特許文献5で開示されているオーステナイト系耐熱合金は、確かに厚さ30mmを下回る部材においては十分なクリープ強度を得られるものの、厚さが30mmを超えると、十分なクリープ強度を安定して得ることが難しくなる場合があることも判明した。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、クリープ強度と溶接時の耐割れ性、なかでも表面近傍の耐溶接割れ性、具体的には、厚さが30mmを超える厚肉部材として多層溶接される場合の初層および最終層の部材表面の溶接部近傍のHAZでの耐割れ性に優れ、発電用ボイラの主蒸気管や再熱蒸気管などの厚肉の高温部材として好適に用いることができる、オーステナイト系耐熱合金部材を提供することを目的とする。
本発明者らは前記した課題を解決するために、先ず、多層溶接した部材表面の溶接部近傍のHAZに生じた微細な割れについて詳細な調査を行った。その結果、下記[i]〜[iii]の事項が明らかになった。
[i]割れは、初層側部材表面では溶接部から数100μm離れたHAZの結晶粒界に、また、最終層側部材表面では溶接部から500〜1000μm程度離れたHAZの結晶粒界に発生した。
[ii]割れ破面には溶融痕が認められず、しかも延性に乏しい破面を呈していた。
[iii]割れが発生した部位は部材の表面加工時に歪が導入された部位であり、明瞭な硬さの増加が認められた。そして、最終層側では初層側に比して、硬さの増加の程度が小さい場合にも割れが生じることがあった。
上記[i]〜[iii]から、本発明者らは、多層溶接した部材表面の溶接部近傍のHAZに生じた微細な割れは、下記(a)〜(c)の機構により発生するものと推定した。
(a)溶接部近傍のHAZでは溶接による熱応力が発生する。特に、厚肉部材を多層溶接する場合、初層部は周囲の部材が溶接金属部の厚さに比べて厚いため、溶接時の熱変形が溶接金属と表面部を含む溶接部近傍のHAZに生じ、引張りの熱応力が作用する。一方、最終層側の表面では溶接金属部がほぼ母材厚さに等しくなるため、拘束が大きくなり、溶接部から離れたHAZに大きな引張りの熱応力が作用する。そして、いずれの熱応力も、0.2mm深さ程度までの表面部で特に大きくなる。
(b)部材表面部は加工により歪が導入され硬さが増大しているため、粒内の変形抵抗が大きくなって、熱応力は結晶粒界に集中する。その結果、熱応力が粒界の強さを上回った場合に粒界が開口し、微細な割れとなる。
(c)初層側と最終層側で割れ発生位置に差異があるのは、上記(a)および(b)により、引張り応力が作用する部位が異なるためである。また、初層側に比べて硬さの増加の程度が小さい場合にも最終層側で割れが生じるのは、より低温に晒された部位で割れが発生するため、部材表面部の硬さの影響をより強く受けるためである。
なお、上記多層溶接した部材表面の溶接部近傍のHAZに生じる微細な割れは、これまでに確認されている割れ、例えば、前述の特許文献4または特許文献5に述べられている割れとは、発生の位置も機構も全く異なることはいうまでもない。
上記の推定の下、本発明者らは前述の微細な割れを防止するために、鋭意検討を繰り返した。その結果、次の事項(d)が明らかになった。
(d)上述の微細な割れを防止するためには、部材表面から深さ0.2mmまでの領域の平均結晶粒径(μm)(以下、上記領域を「表層」と定義し、表層の平均結晶粒径を「GS」ということがある。)をTi、WおよびBの含有量に応じて特定の値以下に管理する必要があること、より具体的には、溶接時の初層側になる部材表面から深さ0.2mmまでの領域と溶接時の最終層側になる部材表面から深さ0.2mmまでの領域の平均結晶粒径が、次の[1]式を満たすように管理する必要がある。

S≦−20×P1+65・・・[1]
ただし、
P1=Ti+(W/10)−5×B
で、パラメータP1中のTi、WおよびBは、その元素の含有量(質量%)を意味する。
上記[1]式は、粒内を強化して粒界への応力集中を助長するTiおよびWの含有量が多く、逆に粒界を強化するBの含有量が少ない場合、すなわち、P1が大きい場合には、特定の粒界への応力集中を抑制するために、表層の平均結晶粒径の上限を小さくする必要があるのに対し、TiおよびWの含有量が少なく、Bの含有量が多い場合には、表層の平均結晶粒径の上限を大きくしても構わないことを意味する。
なお、上記の[1]式は、溶体化熱処理を施した部材の表面に、例えば、切削、研磨やロールなどによる強加工を施した後、熱処理を施して再結晶させることによって、達成することができる。
また、部材表面部の硬さの影響を受けやすい溶接時の最終層側については、微細な割れを防止するためには、次の(e)の条件を満たすことが好ましいことも明らかになった。
(e)溶接時の最終層側になる部材表面から深さ0.2mmまでの領域における最高硬さHV0.01(以下、簡単のためにHV0.01(max)ということがある。)が350以下であること。
なお、上記の「HV0.01」は、試験力を0.098N(10gf)としてマイクロビッカース硬さ試験を実施した場合の「硬さ記号」を意味する(JIS Z 2244(2009)参照)。
次いで、本発明者らは、オーステナイト系耐熱合金において、厚さが30mmを超えると、十分なクリープ強度を安定して得ることが難しくなる場合がある理由について調査した。その結果、下記[iv]および[v]の事項が確認できた。
[iv]部材厚さが30mmを超える場合、平均結晶粒径にばらつきが生じやすく、クリープ強度が不安定となる。
[v]部材厚さが30mmを超える場合、クリープ強度に有効である一方、溶接割れにも影響を及ぼすB、TiおよびWの含有量、特に、BおよびTiの含有量が少ない場合に、クリープ強度の不安定さが顕在化しやすい。
上記[iv]および[v]から、本発明者らは、クリープ強度の不安定が下記(f)および(g)の理由により生じると推定した。
(f)部材の厚さが30mmを超える場合、オーステナイト系耐熱合金材料の製造時の温度分布、特に溶体化熱処理時の温度不均一などに起因して、平均結晶粒径にばらつきが生じやすい。
(g)オーステナイト系耐熱合金が、B、TiやWを十分に含有している場合は、安定したクリープ強度が得られる。しかしながら、溶接割れを防止するために、上述した元素の含有量を低めに管理した場合は、平均結晶粒径の影響が顕在化し、クリープ強度の不安定が生じる。
上記の推定の下、本発明者らは、厚さ30mmを超える部材において十分なクリープ強度を安定して得るために、鋭意検討を繰り返した。その結果、次の事項(h)および(i)が明らかになった。
(h)部材厚さの25%となる各表面側を除外した領域の平均結晶粒径(μm)(以下、上記領域を「部材の厚さ中央部」と定義し、部材の厚さ中央部の平均結晶粒径を「GB」ということがある。)、より具体的には、溶接時の初層側になる表面からの深さが部材厚さの25%を超えるとともに溶接時の最終層側になる表面からの深さも部材厚さの25%を超える領域の平均結晶粒径を、B、TiおよびWの含有量に応じて特定の値以上に管理することによって、クリープ強度が安定化する。
(i)しかしながら、部材の厚さ中央部の平均結晶粒径を大きくしすぎた場合、溶接時の液化割れの感受性が増大する。このため、部材の厚さ中央部の平均結晶粒径は、B、TiおよびWの含有量に応じて上限も管理する必要がある。
そこで、本発明者らが、さらに詳細な検討を実施した結果、下記(j)の重要な事項が明らかになった。
(j)部材の厚さ中央部の平均結晶粒径(μm)GBが次の[2]式を満たせば、厚さ30mmを超える部材においても十分なクリープ強度が安定して得られる。

−15×P2+100≦GB≦−75×P2+700・・・[2]
ただし、
P2=10×B+Ti+(W/10)
で、パラメータP2中のB、TiおよびWは、その元素の含有量(質量%)を意味する。
上記[2]式は、B、TiおよびWはクリープ強度の向上に有効な元素であるため、その含有量が多い場合には、クリープ強度安定化のために必要な部材の厚さ中央部の平均結晶粒径の下限は小さくても構わないが、含有量が少なくなるにつれて、部材の厚さ中央部の平均結晶粒径の下限を大きくする必要があること、および、これらの元素は溶接時の液化割れ感受性を高める作用も有するため、これら元素の含有量が増加するにつれて、逆に部材の厚さ中央部の平均結晶粒径の上限を小さくする必要があることを意味する。
なお、上記部材の厚さ中央部の平均結晶粒径は、部材の溶体化熱処理時の温度と時間の選定によって管理可能である。このため、適切な溶体化熱処理を施すことによって[2]式を満たすことができる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記に示すオーステナイト系耐熱合金部材にある。
(1)厚さ30mmを超えるオーステナイト系耐熱合金部材であって、質量%で、C:0.03〜0.15%、Si:1%以下、Mn:2%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:40〜55%、Cr:20〜35%、W:3〜10%、Ti:0.01〜1.2%、Al:0.3%以下、B:0.0001〜0.01%、N:0.02%以下およびO:0.01%以下を含み、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、かつ下記の[1]式および[2]式を満足することを特徴とするオーステナイト系耐熱合金部材。
S≦−20×P1+65・・・[1]
−15×P2+100≦GB≦−75×P2+700・・・[2]
ただし、
P1=Ti+(W/10)−5×B
P2=10×B+Ti+(W/10)
で、パラメータP1およびP2中のTi、WおよびBは、その元素の含有量(質量%)を意味する。
SおよびGBはそれぞれ、表層の平均結晶粒径(μm)および部材の厚さ中央部の平均結晶粒径(μm)を指す。
(2)Feの一部に代えて、質量%で、下記に示す群から選択される1種以上の元素を含有することを特徴とする上記(1)に記載のオーステナイト系耐熱合金部材。
第1群:Ca:0.05%以下、Mg:0.05%以下およびREM:0.1%以下から選択される1種以上、
第2群:Co:1%以下、Cu:1%以下、Mo:1%以下、V:0.5%以下、Nb:0.5%以下およびZr:0.5%以下から選択される1種以上。
(3)溶接時の最終層側になる部材表面から深さ0.2mmまでの領域における最高硬さHV0.01が350以下であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のオーステナイト系耐熱合金部材。
本発明のオーステナイト系耐熱合金部材は、厚さが30mmを超える厚肉部材であるにも拘わらず、溶接時の耐割れ性、なかでも多層溶接時の表面近傍の耐溶接割れ性、より具体的には、初層および最終層の部材表面の溶接部近傍のHAZでの耐割れ性に優れるとともに、安定して優れたクリープ強度を有する。このため、本発明のオーステナイト系耐熱合金部材は、発電用ボイラの主蒸気管や再熱蒸気管などの厚肉の高温部材として好適に用いることができる。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、以下の説明における各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
(A)化学組成:
C:0.03〜0.15%
Cは、オーステナイトを安定にするとともに粒界に微細な炭化物を形成し、高温でのクリープ強度を向上させる。この効果を十分に得るためには、0.03%以上のC含有量が必要である。しかしながら、Cが過剰に含有された場合には、炭化物が粗大となり、かつ多量に析出するので、粒界の延性が低下し、さらに、靱性およびクリープ強度の低下も生じる。したがって、上限を設け、Cの含有量を0.03〜0.15%とする。C含有量の望ましい下限は0.04%、さらに望ましい下限は0.05%である。また、C含有量の望ましい上限は0.12%、さらに望ましい上限は0.10%である。
Si:1%以下
Siは、脱酸作用を有するとともに、高温での耐食性および耐酸化性の向上に有効な元素である。しかしながら、Siが過剰に含有された場合には、オーステナイトの安定性が低下して、靱性およびクリープ強度の低下を招く。そのため、Siの含有量に上限を設けて1%以下とする。Siの含有量は望ましくは0.8%以下、さらに望ましくは0.6%以下である。
なお、Siの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端な低減は脱酸効果が十分に得られず合金の清浄度が大きくなって清浄性が劣化するとともに、高温での耐食性および耐酸化性の向上効果も得難くなるし、製造コストも大きく上昇する。そのため、Si含有量の望ましい下限は0.02%、さらに望ましい下限は0.05%である。
Mn:2%以下
Mnは、Siと同様、脱酸作用を有する。Mnは、オーステナイトの安定化にも寄与する。しかしながら、Mnの含有量が過剰になると脆化を招き、さらに、靱性およびクリープ延性の低下も生じる。そのため、Mnの含有量に上限を設けて2%以下とする。Mnの含有量は望ましくは1.8%以下、さらに望ましくは1.5%以下である。
なお、Mnの含有量についても特に下限を設ける必要はないが、極端な低減は脱酸効果が十分に得られず合金の清浄性を劣化させるとともに、オーステナイト安定化効果が得難くなるし、製造コストも大きく上昇する。そのため、Mn含有量の望ましい下限は0.02%、さらに望ましい下限は0.05%である。
P:0.03%以下
Pは、不純物として合金中に含まれ、溶接中にHAZの結晶粒界に偏析して液化割れ感受性を高める元素である。さらに、Pは、長時間使用後のクリープ延性も低下させる。そのため、Pの含有量に上限を設けて0.03%以下とする。Pの含有量は、望ましくは0.025%以下、さらに望ましくは0.02%以下である。
なお、Pの含有量は可能な限り低減することが好ましいが、極度の低減は製造コストの増大を招く。そのため、P含有量の望ましい下限は0.0005%、さらに望ましい下限は0.0008%である。
S:0.01%以下
Sは、Pと同様に不純物として合金中に含まれ、溶接中にHAZの結晶粒界に偏析して液化割れ感受性を高める元素である。さらに、Sは、長時間使用後のクリープ延性および靱性にも悪影響を及ぼす元素である。そのため、Sの含有量に上限を設けて0.01%以下とする。Sの含有量は、望ましくは0.008%以下、さらに望ましくは0.005%以下である。
なお、Sの含有量は可能な限り低減することが好ましいが、極度の低減は製造コストの増大を招く。そのため、S含有量の望ましい下限は0.0001%、さらに望ましい下限は0.0002%である。
Ni:40〜55%
Niは、オーステナイトを得るために有効な元素であり、長時間使用時の組織安定性を確保するために必須の元素である。後述の20〜35%という本発明のCr含有量の範囲で、上記したNiの効果を十分に得るためには、40%以上のNi含有量が必要である。しかしながら、Niは高価な元素であり、多量の含有はコストの増大を招く。そのため、上限を設けて、Niの含有量を40〜55%とする。Ni含有量の望ましい下限は41%、さらに望ましい下限は42%である。また、Ni含有量の望ましい上限は54%、さらに望ましい上限は53%である。
Cr:20〜35%
Crは、高温での耐酸化性および耐食性の確保のために必須の元素である。上記40〜55%という本発明のNi含有量の範囲で、上記したCrの効果を得るためには、20%以上のCr含有量が必要である。しかしながら、Crの含有量が35%を超えると、高温でのオーステナイトの安定性が劣化してクリープ強度の低下を招く。したがって、Crの含有量を20〜35%とする。Cr含有量の望ましい下限は20.5%、さらに望ましい下限は21%である。また、Cr含有量の望ましい上限は34.5%、さらに望ましい上限は34%である。
W:3〜10%
Wは、マトリックスに固溶して高温でのクリープ強度や引張強さの向上に大きく寄与する元素である。その効果を十分に発揮させるためには少なくとも3%以上のW含有量が必要である。しかしながら、Wを過剰に含有させても効果は飽和し、却ってクリープ強度を低下させる場合もある。さらに、Wは高価な元素であるため、過剰のW含有はコストの増大を招く。そのため、上限を設けて、Wの含有量を3〜10%とする。
なお、Wは、強度を高める効果を有する一方、粒内の変形抵抗を高めて、厚肉の部材の多層溶接時における割れ感受性を少なからず高める元素である。そのため、特に、部材表面の溶接部近傍のHAZに生じる微細な割れの防止および安定したクリープ強度確保のために、Wの含有量は前記の[1]式および[2]式も満足する必要がある。
W含有量の望ましい下限は3.5%、さらに望ましい下限は4%である。また、W含有量の望ましい上限は9.5%、さらに望ましい上限は9%である。
Ti:0.01〜1.2%
Tiは、微細な炭窒化物として粒内に析出し、高温でのクリープ強度や引張強さの向上に寄与する。その効果を得るためには0.01%以上のTi含有量が必要である。しかしながら、Tiの含有量が過剰になると炭窒化物として多量に析出して、クリープ延性および靱性の低下を招く。このため、上限を設けて、Tiの含有量を0.01〜1.2%とする。
なお、Tiは、強度を高める効果を有する一方、粒内の変形抵抗を高めて、厚肉の部材の多層溶接時における割れ感受性を高める元素である。そのため、特に、部材表面の溶接部近傍のHAZに生じる微細な割れの防止および安定したクリープ強度確保のために、Tiの含有量は前記の[1]式および[2]式も満足する必要がある。
Ti含有量の望ましい下限は0.03%、さらに望ましい下限は0.05%である。また、Ti含有量の望ましい上限は1.0%、さらに望ましい上限は0.8%である。
Al:0.3%以下
Alは、脱酸作用を有する元素である。しかしながら、Alの含有量が過剰になると合金の清浄性が著しく劣化して、熱間加工性および延性が低下する。そのため、Alの含有量に上限を設けて0.3%以下とする。Alの含有量は望ましくは0.2%以下、さらに望ましくは0.1%以下である。
なお、Alの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端な低減は脱酸効果が十分に得られず合金の清浄性を逆に劣化させるとともに、製造コストの上昇を招く。そのため、Al含有量の望ましい下限は0.0005%である。Alの脱酸効果を安定して得、合金に良好な清浄性を確保させるためには、Al含有量の下限は0.001%とすることがより望ましい。
B:0.0001〜0.01%
Bは、粒界炭化物を微細分散させることによってクリープ強度を向上させるとともに、粒界に偏析して粒界を強化するのに有効な元素である。この効果を得るためには0.0001%以上のB含有量が必要である。しかしながら、Bの含有量が過剰になると、溶接中の溶接熱サイクルにより溶接部近傍の高温HAZにBが多量に偏析して粒界の融点を低下させ、HAZの液化割れ感受性を高める。そのため、上限を設けて、Bの含有量を0.0001〜0.01%とする。
なお、Bには上記の作用があるので、特に、部材表面の溶接部近傍のHAZに生じる微細な割れの防止および安定したクリープ強度確保のために、Bの含有量は前記の[1]式および[2]式も満足する必要がある。
B含有量の望ましい下限は0.0005%、さらに望ましい下限は0.001%である。また、B含有量の望ましい上限は0.008%、さらに望ましい上限は0.006%である。
N:0.02%以下
Nは、オーステナイトを安定にするのに有効な元素であるものの、過剰に含有されると、高温での使用中に多量の微細窒化物が粒内に析出してクリープ延性および靱性の低下を招く。そのため、Nの含有量に上限を設けて0.02%以下とする。Nの含有量は望ましくは0.018%以下、さらに望ましくは0.015%以下である。
なお、Nの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端な低減はオーステナイトを安定にする効果が得難くなるし、製造コストも大きく上昇する。そのため、N含有量の望ましい下限は0.0005%、さらに望ましい下限は0.0008%である。
O:0.01%以下
O(酸素)は、不純物として合金中に含まれ、その含有量が過剰になると熱間加工性が低下し、さらに靱性および延性の劣化を招く。このため、Oの含有量に上限を設けて0.01%以下とする。Oの含有量は望ましくは0.008%以下、さらに望ましくは0.005%以下である。
なお、Oの含有量について特に下限を設ける必要はないが、極端な低減は製造コストの上昇を招く。そのため、O含有量の望ましい下限は0.0005%、さらに望ましい下限は0.0008%である。
本発明のオーステナイト系耐熱合金部材の一つは、上述の各元素を含み、残部がFeおよび不純物からなる化学組成のものである。
なお、「不純物」とは、オーステナイト系耐熱合金部材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップまたは製造環境などから混入するものを指す。
本発明のオーステナイト系耐熱合金部材には、上述のFeの一部に代えて、下記に示す群のCa、Mg、REM、Co、Cu、Mo、V、NbおよびZrから選択される1種以上の元素を含有させてもよい。
第1群:Ca:0.05%以下、Mg:0.05%以下およびREM:0.1%以下から選択される1種以上
第2群:Co:1%以下、Cu:1%以下、Mo:1%以下、V:0.5%以下、Nb:0.5%以下およびZr:0.5%以下から選択される1種以上
以下、これら任意元素の作用効果と、含有量の限定理由について説明する。
第1群の元素であるCa、MgおよびREMは、いずれも熱間加工性を向上させる作用を有する。このため、これらの元素を含有させてもよい。
Ca:0.05%以下
Caは、熱間加工性を改善する作用を有する。このため、Caを含有させてもよい。しかしながら、Caの含有量が過剰になるとOと結合して、清浄性を著しく低下させ、却って熱間加工性を劣化させる。このため、含有させる場合のCaの量に上限を設けて0.05%以下とする。Ca含有量の上限は、望ましくは0.03%である。
一方、Caの効果を安定して得るためには、Caの含有量は0.0001%以上であることが好ましい。Ca含有量のさらに望ましい下限は0.0005%である。
Mg:0.05%以下
Mgは、Caと同様、熱間加工性を改善する作用を有する。このため、Mgを含有させてもよい。しかしながら、Mgの含有量が過剰になるとOと結合して、清浄性を著しく低下させ、却って熱間加工性を劣化させる。このため、含有させる場合のMgの量に上限を設けて0.05%以下とする。Mg含有量の上限は、望ましくは0.03%である。
一方、Mgの効果を安定して得るためには、Mgの含有量は0.0001%以上であることが好ましい。Mg含有量のさらに望ましい下限は0.0005%である。
REM:0.1%以下
REMは、熱間加工性を改善する作用を有する。すなわち、REMは、Sとの親和力が強く、熱間加工性の向上に寄与する。このため、REMを含有させてもよい。しかしながら、REMの含有量が過剰になると、Oと結合して、清浄性を著しく低下させ、却って熱間加工性を劣化させる。このため、含有させる場合のREMの量に上限を設けて0.1%以下とする。REM含有量の上限は、望ましくは0.06%である。
一方、REMの効果を安定して得るためには、REMの含有量は0.0005%以上であることが好ましい。REM含有量のさらに望ましい下限は0.001%である。
なお、「REM」とは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量はREMのうちの1種または2種以上の元素の合計含有量を指す。また、REMについては一般的にミッシュメタルに含有される。このため、例えば、ミッシュメタルの形で添加して、REMの量が上記の範囲となるように含有させてもよい。
上記のCa、MgおよびREMは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種以上の複合で含有させることができる。これらの元素を複合して含有させる場合の合計量は0.2%であってもよい。
第2群の元素であるCo、Cu、Mo、V、NbおよびZrは、いずれもクリープ強度を向上させる作用を有する。このため、これらの元素を含有させてもよい。
Co:1%以下
Coは、クリープ強度を向上させる作用を有する。すなわち、Coは、Niと同様オーステナイト生成元素であり、相安定性を高めてクリープ強度の向上に寄与する。したがって、Coを含有させてもよい。しかしながら、Coは極めて高価な元素であるため、Coの過剰の含有は大幅なコスト増を招く。このため、含有させる場合のCoの量に上限を設けて1%以下とする。Co含有量の上限は、望ましくは0.8%である。
一方、Coの効果を安定して得るためには、Coの含有量は0.01%以上であることが好ましい。Co含有量のさらに望ましい下限は0.03%である。
Cu:1%以下
Cuは、クリープ強度を向上させる作用を有する。すなわち、Cuは、NiおよびCoと同様オーステナイト生成元素であり、相安定性を高めてクリープ強度の向上に寄与する。したがって、Cuを含有させてもよい。しかしながら、Cuが過剰に含有された場合には熱間加工性の低下を招く。このため、含有させる場合のCuの量に上限を設けて1%以下とする。Cu含有量の上限は、望ましくは0.8%である。
一方、Cuの効果を安定して得るためには、Cuの含有量は0.01%以上であることが好ましい。Cu含有量のさらに望ましい下限は0.03%である。
Mo:1%以下
Moは、クリープ強度を向上させる作用を有する。すなわち、Moは、マトリックスに固溶して高温でのクリープ強度を向上させる作用を有する。したがって、Moを含有させてもよい。しかしながら、Moが過剰に含有された場合にはオーステナイトの安定性が低下して、却ってクリープ強度の低下を招く。そのため、含有させる場合のMoの量に上限を設けて1%以下とする。Mo含有量の上限は、望ましくは0.8%である。
一方、Moの効果を安定して得るためには、Moの含有量は0.01%以上であることが好ましい。Mo含有量のさらに望ましい下限は0.03%である。
V:0.5%以下
Vは、クリープ強度を向上させる作用を有する。すなわち、Vは、CまたはNと結合して微細な炭化物または炭窒化物を形成し、クリープ強度を向上させる作用を有する。したがって、Vを含有させてもよい。しかしながら、Vが過剰に含有された場合、炭化物または炭窒化物として多量に析出し、クリープ延性の低下を招く。そのため、含有させる場合のVの量に上限を設けて0.5%以下とする。V含有量の上限は、望ましくは0.4%である。
一方、Vの効果を安定して得るためには、Vの含有量は0.01%以上であることが好ましい。V含有量のさらに望ましい下限は0.02%である。
Nb:0.5%以下
Nbは、Vと同様にCやNと結合して微細な炭化物や炭窒化物として粒内に析出し、高温でのクリープ強度に寄与する。したがって、Nbを含有させてもよい。しかしながら、Nbの含有量が過剰になると炭化物や炭窒化物として多量に析出し、クリープ延性および靱性の低下を招く。そのため、含有させる場合のNbの量に上限を設けて0.5%以下とする。Nb含有量の上限は、望ましくは0.4%である。
一方、Nbの効果を安定して得るためには、Nbの含有量は0.01%以上であることが好ましい。Nb含有量のさらに望ましい下限は0.02%である。
Zr:0.5%以下
Zrは、マトリックスに固溶してクリープ強度を向上させる作用を有する。したがって、Zrを含有させてもよい。しかしながら、Zrが過剰に含有された場合、クリープ延性を低下させることに加えHAZでの液化割れ感受性を高める。そのため、含有させる場合のZrの量に上限を設けて0.5%以下とする。Zr含有量の上限は、望ましくは0.4%である。
一方、Zrの効果を安定して得るためには、Zrの含有量は0.01%以上であることが好ましい。Zr含有量のさらに望ましい下限は0.02%である。
上記のCo、Cu、Mo、V、NbおよびZrは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種以上の複合で含有させることができる。これらの元素を複合して含有させる場合の合計量は、4.5%であってもよい。
(B)表層の平均結晶粒径(GS):
前述の(A)項に記載の化学組成を有するオーステナイト系耐熱合金部材は、厚さ30mmを超える部材として使用される場合、多層溶接時の初層および最終層の部材表面の溶接部近傍のHAZに、微細な割れが発生する場合がある。本発明者らの推定では、上記の微細な割れは、溶接時の熱応力が、結晶粒界に集中し、粒界の強さを上回るために発生する。
上述の微細な割れを防止するためには、部材表面部の熱応力が大きくなる領域の平均結晶粒径を小さくすることが有効である。なお、粒内を強化して、換言すれば、粒内の変形抵抗を高めて、粒界への応力集中を助長するTiおよびWの含有量ならびに、逆に粒界を強化するBの含有量に応じて、該割れを防止するための平均結晶粒径の上限が異なってくる。
しかしながら、表層の平均結晶粒径であるGS(μm)が、前記の[1]式、つまり、
S≦−20×P1+65・・・[1]
を満たせば、上記した微細な割れを安定して防止することができる。
なお、既に述べたように、「表層」とは、部材表面から深さ0.2mmまでの領域を指し、
P1=Ti+(W/10)−5×B
で、パラメータP1中のTi、WおよびBは、その元素の含有量(質量%)を意味する。
なお、表層の平均結晶粒径GSは、溶体化熱処理を施した部材の表面に、工具による切削や研磨、レーザーブラストやサンドブラストなどを活用したショットピーニング、ロールや油圧プレスによる冷間圧延、冷間での抽伸などを行って、機械的に表面部に強加工を施した後、熱処理を施して再結晶させることにより制御することができる。
上記「熱処理」の条件としては、950〜1150℃の温度域で0.1〜1.5h保持する条件が好適で、1000〜1075℃の温度域で0.5〜1.5h保持する条件がさらに望ましい。
なお、特許文献6には、構造物の表面層として再結晶粒を形成させ、耐粒界腐食性を高めるオーステナイト系合金構造物が開示されているが、該構造物と本発明に係るオーステナイト系耐熱合金部材とは、化学組成が全く異なるとともに、解決すべき課題も完全に異なる。このため、特許文献6で開示されている技術からは到底本発明に係るオーステナイト系耐熱合金部材が得られないことは自明である。
(C)部材の厚さ中央部の平均結晶粒径(GB):
前述の(A)項に記載の化学組成を有するオーステナイト系耐熱合金部材は、厚さ30mmを超える部材として使用される場合、十分なクリープ強度を安定して得ることが難しくなる場合がある。本発明者らの推定では、部材の厚さが30mmを超える場合、特に溶体化熱処理時の温度不均一などに起因して、平均結晶粒径にばらつきが生じやすいこと、さらに、クリープ強度に寄与する元素であるB、TiやWの含有量のばらつきによって、クリープ強度が不安定になる。
上述のクリープ強度が不安定になることを解決するためには、部材の平均結晶粒径を大きくすることが有効であるが、クリープ強度の向上に有効なB、TiおよびWの含有量に応じて、クリープ強度の確保に必要な平均結晶粒径の下限が異なってくる。一方で、B、TiおよびWは溶接時の液化割れの感受性を高める作用も有するため、併せて平均結晶粒径の上限もこれら元素の含有量に応じて異なってくる。
しかしながら、部材の厚さ中央部の平均結晶粒径であるGB(μm)が、前記の[2]式、つまり、
−15×P2+100≦GB≦−75×P2+700・・・[2]
を満たせば、厚さ30mmを超える部材においても十分なクリープ強度が安定して得られる。
なお、既に述べたように、「部材の厚さ中央部」とは、部材厚さの25%となる各表面側を除外した領域を指し、
P2=10×B+Ti+(W/10)
で、パラメータP2中のB、TiおよびWは、その元素の含有量(質量%)を意味する。
なお、部材の厚さ中央部の平均結晶粒径GBは、部材の溶体化熱処理時の温度と時間の選定により制御することができる。
上記「溶体化熱処理」の条件としては、900〜1280℃の温度域で0.1〜3h保持する条件が好適で、1100〜1250℃の温度域で0.2〜1.5h保持する条件がさらに望ましい。
(D)HV0.01(max):
前述の(A)〜(C)項に記載の要件を満たすオーステナイト系耐熱合金部材は、厚さ30mmを超える部材として使用される場合でもその厚さに拘わらず、安定して優れたクリープ強度を有するとともに、多層溶接した場合にも、実用上問題とならない程度の耐割れ性、具体的には、初層および最終層の部材表面の溶接部近傍のHAZでの耐割れ性、ならびに部材肉中の耐液化割れ性を具備する。
しかしながら、部材表面の溶接部近傍の割れについては、最終層側は初層側に比べて、低温に晒された位置で発生するため、部材表面部の硬さの影響をより強く受けるので、表面部の硬さを抑えることが好ましい。具体的には、HV0.01(max)、つまり、溶接時の最終層側になる部材表面から深さ0.2mmまでの領域における最高硬さHV0.01を350以下にすることが望ましい。HV0.01(max)は、320以下とすることがより好ましい。
なお、既に述べたように、上記の「HV0.01」は、試験力を0.098N(10gf)としてマイクロビッカース硬さ試験を実施した場合の「硬さ記号」を意味する。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有するオーステナイト系耐熱合金を実験室溶解してインゴットを作製した。
Figure 0005998950
次いで、上記インゴットを用いて、熱間鍛造による成形、溶体化熱処理および一部については切削バイトによる表面研削または冷間で圧延ロールにて表面加工を行い、さらにその後、異なる条件にて熱処理を施して、各オーステナイト系耐熱合金について、厚さ35mm、幅100mm、長さ250mmの合金板を複数枚作製した。
上記のようにして得た各合金板から、横断面が被検面となるように試験片を切り出して鏡面研磨した。
その後、各試験片について、鏡面研磨した面を王水で腐食し、「表層」となる表面加工した双方の表面から深さ方向に0.2mmまでの領域をそれぞれ、3箇所ずつ光学顕微鏡で観察して、切断法により各領域毎の平均粒切片長さを測定し、上記各領域毎の平均粒切片長さをさらに算術平均し、それを1.128倍して、表層の平均結晶粒径GS(μm)を求めた。同様に、「部材の厚さ中央部」となる表面加工した表面からの深さが8.75mmを超える領域をランダムに3箇所光学顕微鏡で観察して、切断法により平均粒切片長さを求め、次いで、該平均粒切片長さを1.128倍して、部材の厚さ中央部の平均結晶粒径GB(μm)を求めた。
さらに、上記の各試験片について、表面加工した双方の表面のうちの任意に選んだ片方を溶接時の最終層側になる表面として、表面から深さ0.2mmまでの領域におけるマイクロビッカース硬さを測定した。具体的には、表面からの深さが0.2mm位置までのマイクロビッカース硬さを、試験力0.098N(10gf)にてランダムに20点測定し、最も大きい値を「HV0.01(max)」とした。
加えて、各合金板について、「部材の厚さ中央部」から、直径6mm、標点距離30mmの丸棒クリープ破断試験片を採取して、母材板材の目標破断時間が1000hとなる700℃、167MPaの条件でクリープ破断試験を行った。なお、クリープ破断時間が、母材板材の目標破断時間である1000h以上となるものを「合格」とし、1000h未満のものを「不合格」とした。
また、各合金板について、上述の各試験片を切り出した残りの部分を用いて、合金板の長手方向に、角度30°、ルート厚さ1mmのV開先を加工した後、厚さ60mm、幅500mmで長さ500mmのJIS G 3106(2008)に規定された市販のSM400Cの鋼板上に、被覆アーク溶接棒としてJIS Z 3224(2010)に規定の「E Ni 6182」を用いて、四周を拘束溶接した。その後さらに、溶接ワイヤ(AWS A5.14 ER NiCrCoMo−1)を用いて、TIG溶接により入熱:9〜15kJ/cmにて開先内に多層溶接を行った。
このようにして得た溶接継手を拘束板から外した後、初層側表面および最終層側表面の浸透探傷試験をJIS Z 2343−1(2001)に準じて実施し、指示模様の有無を確認し、指示模様が無いものを「合格」、有るものを「不合格」とした。
さらに、溶接部の横断面が被検面となるように各5個の試験片を切り出して鏡面研磨した。
上記の鏡面研磨した各5個の試験片について、先ず、初層および最終層側の表面近傍を光学顕微鏡により観察した。そして、浸透探傷試験では検出できなかったものの、光学顕微鏡により表面近傍に微小なミクロ割れが観察された場合を「可」、観察されなかった場合を「良」、さらに、浸透探傷試験で指示模様が認められたことに加え表面近傍にミクロ割れが観察された場合を「不可」と分類した。
次いで、上記表面近傍以外の部分についても光学顕微鏡観察して、所謂「肉中割れ」の存在を調査した。なお、肉中割れは、光学顕微鏡により検鏡した5断面の全てにおいて割れが観察されなかったものを「合格」とし、1断面でも割れが観察されたものは「不合格」とした。
表2および表3に、各合金板に施した溶体化熱処理、表面加工および熱処理の条件とともに、上記各試験の結果を纏めて示す。
表2および表3の「評価」欄における「◎」は、「クリープ強度」、「浸透探傷試験」および「肉中割れ」の各欄がいずれも「合格」で、さらに「表面近傍ミクロ割れ」欄が「良」であって、クリープ強度に優れるとともに溶接時の耐割れ性に極めて優れることを示す。「○」は、「クリープ強度」、「浸透探傷試験」および「肉中割れ」の各欄がいずれも「合格」で、さらに「表面近傍ミクロ割れ」欄が「可」であって、クリープ強度に優れるとともに溶接時の耐割れ性に優れることを示す。「×」は「クリープ強度」欄が「不合格」でクリープ強度に劣るか、「浸透探傷試験」欄が「不合格」または「浸透探傷試験」欄が「合格」であっても「肉中割れ」欄が「不合格」で溶接時の耐割れ性に劣ることを示す。
Figure 0005998950
Figure 0005998950
表2および表3から、本発明で規定する条件を満足する合金板を用いた試験体A2、A3、B2〜B7、C2、C3、D2、D3、E2、E3、F2〜F6、G2およびG3の場合、浸透探傷試験で表面に指示模様が認められず、また、表面以外の部分でも溶接割れが生じていない実用上健全な溶接継手であることが明らかである。さらに、クリープ破断時間も、母材板材の目標破断時間をクリアして優れたクリープ強度を有することが明らかである。加えて、HV0.01(max)が350を下回る場合には、光学顕微鏡による断面観察において表面近傍に微小なミクロ割れも認められなかった。
これに対して、本発明で規定する条件から外れる合金板を用いた試験体A1、A4、A5、B1、B8、B9、C1、C4、C5、D1、D4、D5、E1、E4、E5、F1、F7、F8、G1、G4およびG5の場合、クリープ強度に劣るか、溶接時の耐割れ性に劣る。
具体的には、試験体A4、B8、C4、D4、E4、F7およびG4は、用いた合金板のGS(表層の平均結晶粒径)が前記の[1]式を満足しなかったため、浸透探傷試験で表面に指示模様が認められるとともに断面観察でも表面に割れが観察され、溶接時の耐割れ性に劣っていた。
試験体A1、B1、C1、D1、E1、F1およびG1の場合、用いた合金板のGB(部材の厚さ中央部の平均結晶粒径)が前記の[2]式の下限を下回ったため、十分なクリープ強度が得られなかった。
一方、試験体A5、B9、C5、D5、E5、F8およびG5の場合、用いた合金板のGB(部材の厚さ中央部の平均結晶粒径)が大きくなりすぎ、前記の[2]式の上限を超えたため、光学顕微鏡による断面観察において肉中に液化割れと判断される割れが発生した。
本発明のオーステナイト系耐熱合金部材は、厚さが30mmを超える厚肉部材であるにも拘わらず、溶接時の耐割れ性、なかでも多層溶接時の表面近傍の耐溶接割れ性、より具体的には、初層および最終層の部材表面の溶接部近傍のHAZでの耐割れ性に優れるとともに、安定して優れたクリープ強度を有する。このため、本発明のオーステナイト系耐熱合金部材は、発電用ボイラの主蒸気管や再熱蒸気管などの厚肉の高温部材として好適に用いることができる。



Claims (3)

  1. 厚さ30mmを超えるオーステナイト系耐熱合金部材であって、質量%で、C:0.03〜0.15%、Si:1%以下、Mn:2%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ni:40〜55%、Cr:20〜35%、W:3〜10%、Ti:0.01〜1.2%、Al:0.3%以下、B:0.0001〜0.01%、N:0.02%以下およびO:0.01%以下を含み、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、かつ下記の[1]式および[2]式を満足することを特徴とするオーステナイト系耐熱合金部材。
    S≦−20×P1+65・・・[1]
    −15×P2+100≦GB≦−75×P2+700・・・[2]
    ただし、
    P1=Ti+(W/10)−5×B
    P2=10×B+Ti+(W/10)
    で、パラメータP1およびP2中のTi、WおよびBは、その元素の含有量(質量%)を意味する。
    SおよびGBはそれぞれ、表層の平均結晶粒径(μm)および部材の厚さ中央部の平均結晶粒径(μm)を指す。
  2. Feの一部に代えて、質量%で、下記に示す群から選択される1種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系耐熱合金部材。
    第1群:Ca:0.05%以下、Mg:0.05%以下およびREM:0.1%以下から選択される1種以上
    第2群:Co:1%以下、Cu:1%以下、Mo:1%以下、V:0.5%以下、Nb:0.5%以下およびZr:0.5%以下から選択される1種以上
  3. 溶接時の最終層側になる部材表面から深さ0.2mmまでの領域における最高硬さHV0.01が350以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のオーステナイト系耐熱合金部材。



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