本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、実施形態1の電動車両駆動装置の構成を示す図である。インホイールモータである電動車両駆動装置10は、ケーシングGと、第1モータ11と、第2モータ12と、変速機構13と、減速機構40と、ホイール軸受50とを含む。なお、インホイールモータは、必ずしもホイールの内部に収納されていなくてもよい。ケーシングGは、第1モータ11と、第2モータ12と、変速機構13と、減速機構40とを収納する。
第1モータ11は、第1回転力TAを出力できる。第2モータ12は、第2回転力TBを出力できる。変速機構13は、第1モータ11と連結される。このような構造により、変速機構13は、第1モータ11が作動すると、第1モータ11から第1回転力TAが伝えられる(入力される)。また、変速機構13は、第2モータ12と連結される。このような構造により、変速機構13は、第2モータ12が作動すると、第2回転力TBが伝えられる(入力される)。ここでいうモータの作動とは、第1モータ11(第2モータ12)に電力が供給されて第1モータ11(第2モータ12)の入出力軸が回転することをいう。
変速機構13は、減速比(変速機構13への入力回転速度ωiと出力回転速度ωoとの比ωi/ωo)を変更できる。変速機構13は、第1遊星歯車機構20と、第2遊星歯車機構30と、クラッチ装置60とを含む。第1遊星歯車機構20は、シングルピニオン式の遊星歯車機構である。第1遊星歯車機構20は、第1サンギア21と、第1ピニオンギア22と、第1キャリア23と、第1リングギア24とを含む。第2遊星歯車機構30は、ダブルピニオン式の遊星歯車機構である。第2遊星歯車機構30は、第2サンギア31と、第2ピニオンギア32aと、第3ピニオンギア32bと、第2キャリア33と、第2リングギア34とを含む。
第1サンギア21は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第1サンギア21は、第1モータ11と連結される。このような構造により、第1サンギア21は、第1モータ11が作動すると、第1回転力TAが伝えられる。そして、第1サンギア21は、第1モータ11が作動すると、回転軸Rを中心に回転する。第1ピニオンギア22は、第1サンギア21と噛み合う。第1キャリア23は、第1ピニオンギア22が第1ピニオン回転軸Rp1を中心に回転(自転)できるように第1ピニオンギア22を保持する。第1ピニオン回転軸Rp1は、例えば、回転軸Rと平行である。
第1キャリア23は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。このような構造により、第1キャリア23は、第1ピニオンギア22が第1サンギア21を中心に、すなわち回転軸Rを中心に公転できるように第1ピニオンギア22を保持する。第1リングギア24は、回転軸Rを中心に回転(自転)できる。第1リングギア24は、第1ピニオンギア22と噛み合う。また、第1リングギア24は、第2モータ12と連結される。このような構造により、第1リングギア24は、第2モータ12が作動すると第2回転力TBが伝えられる。そして、第1リングギア24は、第2モータ12が作動すると、回転軸Rを中心に回転(自転)する。
クラッチ装置60は、ケーシングGと第1キャリア23との間に配置される。クラッチ装置60は、第1キャリア23の回転を両方向で規制できる。具体的には、クラッチ装置60は、回転軸Rを中心とした第1キャリア23の回転を規制(制動)する場合と、前記回転を許容する場合とを切り替えできる。以下、クラッチ装置60は、前記回転を規制(制動)する状態を係合状態といい、前記回転を許容する状態を非係合状態という。クラッチ装置60は、第1キャリア23の両方の回転方向において、係合状態と非係合状態とを切り替えることができる、いわゆる2ウェイクラッチ装置である。
クラッチ装置60は、摩擦係合部材(クラッチ側摩擦係合部材)64を介して、第1サンギア21と第2サンギア31とが取り付けられるサンギアシャフト14と接続される。クラッチ側摩擦係合部材64がサンギアシャフト14と接する部分は、サンギア側摩擦係合部14Fである。このような構造により、クラッチ装置60は、第1サンギア21及び第2サンギア31の回転に基づいて第1キャリア23の係合状態(回転の規制)と非係合状態(回転の許容)とを切り替えることができる。サンギア側摩擦係合部14Fは、クラッチ側摩擦係合部材64との間の摩擦力を向上させるための加工(粗面加工、ローレット加工等)がサンギアシャフト14の表面に施されていてもよいし、摩擦材がサンギアシャフト14に取り付けられていてもよい。このように、第1キャリア23は、クラッチ装置60によってケーシングGとの係合と分離とが可能となっている。すなわち、クラッチ装置60は、ケーシングGに対して第1キャリア23を回転自在としたり、ケーシングGに対して第1キャリア23を回転不能にしたりすることができる。
第2サンギア31は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第2サンギア31は、第1サンギア21を介して第1モータ11と連結される。具体的には、第1サンギア21と第2サンギア31とは、それぞれが同軸(回転軸R)で回転できるようにサンギアシャフト14に一体で形成される。そして、サンギアシャフト14は、第1モータ11と連結される。このような構造により、第2サンギア31は、第1モータ11が作動すると、回転軸Rを中心に回転する。
第2ピニオンギア32aは、第2サンギア31と噛み合う。第3ピニオンギア32bは、第2ピニオンギア32aと噛み合う。第2キャリア33は、第2ピニオンギア32aが第2ピニオン回転軸Rp2を中心に回転(自転)できるように第2ピニオンギア32aを保持する。また、第2キャリア33は、第3ピニオンギア32bが第3ピニオン回転軸Rp3を中心に回転(自転)できるように第3ピニオンギア32bを保持する。第2ピニオン回転軸Rp2及び第3ピニオン回転軸Rp3は、例えば、回転軸Rと平行である。
第2キャリア33は、回転軸Rを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。このような構造により、第2キャリア33は、第2ピニオンギア32a及び第3ピニオンギア32bが第2サンギア31を中心に、すなわち回転軸Rを中心に公転できるように第2ピニオンギア32a及び第3ピニオンギア32bを保持することになる。また、第2キャリア33は、第1リングギア24と連結される。このような構造により、第2キャリア33は、第1リングギア24が回転(自転)すると、回転軸Rを中心に回転(自転)する。第2リングギア34は、回転軸Rを中心に回転(自転)できる。第2リングギア34は、第3ピニオンギア32bと噛み合う。また、第2リングギア34は、変速機構13の入出力軸(変速機構入出力軸)15と連結される。このような構造により、第2リングギア34が回転(自転)すると、変速機構入出力軸15は回転する。
減速機構40は、変速機構13と電動車両の車輪Hとの間に配置される。そして、減速機構40は、変速機構入出力軸15の回転速度を減速して、入出力軸(減速機構入出力軸)16へ出力する。減速機構入出力軸16は、電動車両の車輪Hに連結されており、減速機構40と車輪Hとの間で動力を伝達する。このような構造により、第1モータ11と第2モータ12との少なくとも一方が発生した動力は、変速機構13と減速機構40とを介して車輪Hへ伝達されてこれを駆動する。また、車輪Hからの入力は、減速機構40と変速機構13とを介して第1モータ11と第2モータ12との少なくとも一方に伝達される。この場合、第1モータ11と第2モータ12との少なくとも一方は、車輪Hに駆動されて電力を発生することができる(回生)。
減速機構40は、第3サンギア41と、第4ピニオンギア42と、第3キャリア43と、第3リングギア44とを含む。第3サンギア41は、変速機構入出力軸15が取り付けられている。このような構造により、第3サンギア41と変速機構13の第2リングギア34とが変速機構入出力軸15を介して連結される。第4ピニオンギア42は、第3サンギア41と噛み合っている。第3キャリア43は、第4ピニオンギア42が第4ピニオン回転軸Rp4を中心として自転できるように、かつ、第4ピニオンギア42が第3サンギア41を中心に公転できるように第4ピニオンギア42を保持する。第3リングギア44は、第4ピニオンギア42と噛み合い、かつ、静止系(実施形態1ではケーシングG)に固定される。第3キャリア43は、減速機構入出力軸16を介して車輪Hに連結されている。また、第3キャリア43は、ホイール軸受50によって回転可能に支持される。
電動車両駆動装置10は、変速機構13と車輪Hとの間に減速機構40を介在させて、変速機構13の変速機構入出力軸15の回転速度を減速して車輪Hを駆動する。このため、第1モータ11及び第2モータ12は、最大回転力が小さいものでも電動車両に必要な駆動力を得ることができる。その結果、第1モータ11及び第2モータ12の駆動電流が小さくて済むとともに、これらを小型化及び軽量化することができる。そして、電動車両駆動装置10の製造コスト低減及び軽量化を実現できる。
制御装置1は、電動車両駆動装置10の動作を制御する。より具体的には、制御装置1は、第1モータ11及び第2モータ12の回転速度、回転方向及び出力を制御する。制御装置1は、例えば、マイクロコンピュータである。次に、クラッチ装置60の構造について説明する。
(クラッチ装置)
図2は、実施形態1に係る電動車両駆動装置が備えるクラッチ装置を回転軸Rと平行な方向にみた状態を示す正面図である。図3は、図2に示すクラッチ装置のA−A断面図である。図4は、図2の背面側から視たクラッチ装置の斜視図である。図5は、図2に示すクラッチ装置が内蔵する保持器組立体の側面図である。図6は、図5に示す保持器組立体を分解した状態を示す斜視図である。図7は、図5に示す保持器組立体のB−B断面図である。図2から図7に示すように、クラッチ装置60は、外側部材61と、保持器62と、ローラ62Rと、内側部材63と、クラッチ側摩擦係合部材64と、押圧部材としてのスプリング64Bとを含む。この他に、クラッチ装置60は、軸受65と、止め輪66とを含む。
図2から図6に示すように、外側部材61、保持器62及び内側部材63はいずれも円筒形状の部材である。外側部材61の径方向内側に保持器62が配置され、保持器62の径方向内側に内側部材63が配置される。そして、図5に示すように、保持器62及び内側部材63は、保持器組立体62Uとなる。
図6に示すように、保持器62は、中心軸と平行な方向に向かって形成された複数の保持溝それぞれに、複数のローラ62Rを保持している。複数のローラ62Rは、保持器62の周方向に向かって等間隔で配置されている。ローラ62Rは円柱形状の部材である。複数のローラ62Rを保持した保持器62は、外側部材61と内側部材63との間に配置される。
図4及び図6に示すように、クラッチ装置60の保持器62は、一方の端部に複数(実施形態1では3個)のクラッチ側摩擦係合部材64を備えている。保持器62は、クラッチ側摩擦係合部材64のとは反対側の端部に、クラッチ側摩擦係合部材64から離れる方向に延在する周方向規制突起部621a、621bを備えている。また、保持器62は、クラッチ側摩擦係合部材64のとは反対側の端部に、径方向内側に向かって延びる軸方向位置固定突起部622a、622b、622cを備えている。
軸方向位置固定突起部622a、622b、622cは、保持器62の周方向に均等配置されている。実施形態1の保持器62は、板部材をプレス加工して形成されており、切削加工による保持器に比較して軽量に製作されている。また、周方向規制突起部621a、621b及び軸方向位置固定突起部622a、622b、622cは、プレス加工により、打ち抜き及び折り曲げ加工されているので容易に形成できる。
内側部材63は、保持器62と対向する部分に、複数の平面(カム面)63swを有している。複数のローラ62Rを保持した保持器62に内側部材63が取り付けられた状態で、それぞれのカム面63swは、それぞれのローラ62Rと対向し接触する。図5に示すように内側部材63は、内側部材63の外周であって、保持器62と対向しない部分に、リターンスプリング67を取り付けるリターンスプリング取付部632と、軸受取付部634とを有している。
図3に示すように、内側部材63の軸受取付部634には、軸受65が取り付けられる。軸受65の内輪が内側部材63に取り付けられると、軸受65の内側部材63からの脱落を回避するため、内側部材63に設けられた溝63Sに止め輪66が取り付けられる。実施形態1の軸受65は、複数の軸受65A、65Bを回転軸Rと平行に配列している。内側部材63が保持器62とともに外側部材61の径方向内側に配置されると、軸受65A、65Bの外輪は、外側部材61の内周部に取り付けられる。このような構造により、軸受65は、外側部材61と内側部材63とが相対的に回転できるように両者を支持する。そして、複数の軸受65A、65Bは、外側部材61と内側部材63とが相対的に回転する場合の振れ回りを抑制し、モーメント剛性を高めることができる。実施形態1の軸受65は、2列の軸受65A、65Bで構成したが、3列以上の軸受で構成してもよい。
図5及び図6に示すように、リターンスプリング取付部632は、内側部材63のカム面63swと、軸受取付部634との間に位置し、カム面63sw及び軸受取付部634よりも全周に渡って径方向の厚みが大きい。そして、カム面63swとリターンスプリング取付部632との間には、径方向においてカム面63swよりも小さい溝633を有している。リターンスプリング取付部632は、表面に径方向外側に突出する突出部631a、631bとを備え、隣り合う突出部631a、631bの間の凹部632aに、リターンスプリング67の固定部671を嵌め合わせる。
リターンスプリング67は、板状の金属部材を弧状に加工し、内側に押圧力が加わるように加工した円弧形状のバネ要素である。固定部671は、板状部材の中央部分の凹みであって、リターンスプリング取付部632の突出部631a、631bの間の凹部632aに嵌め合わせた場合に、突出部631a、631bに対して押圧力が加わる程度の凹み間隔を有している。リターンスプリング67の周方向の両端にある、リターンスプリング端部672a、672bは、固定部671に対して左右対称の長さを有している。例えば、図7に示すように、リターンスプリング67がリターンスプリング取付部632に取り付けられた場合、固定部671から回転軸Rに向かう直線と、リターンスプリング端部672a、672bから回転軸Rに向かう直線とのなす角度は、120°である。
上述したように、保持器組立体62Uは、保持器62の径方向内側に内側部材63が配置され、リターンスプリング取付部632の表面に周方向規制突起部621a、621bが配置される。これにより、周方向規制突起部621aの周方向の端部621aa、端部621abのうち、周方向の端部621aaがリターンスプリング端部672aと接触し、復元力作用基部673を形成する。同様に、周方向規制突起部621bの周方向の端部621ba、端部621bbのうち、周方向の端部621baがリターンスプリング端部672bと接触し、復元力作用基部673を形成する。
図8は、図7に示す保持器組立体のC−C断面における軸方向位置固定機構の要部拡大図である。図9は、図7に示す保持器組立体のD−D断面図である。図8に示すように、溝633の底表面633Bの回転軸Rからの距離(半径)をL1、軸方向位置固定突起部622a(622b、622c)の径方向内側先端部622Fの回転軸Rからの距離(半径)をL2、カム面63swの回転軸Rからの最小距離をL3、リターンスプリング取付部632の外周表面の回転軸Rからの距離(半径)をL4とする。この場合、距離L1、L2、L3及びL4は、L1<L2<L3<L4の関係を満たす。このように、保持器62は、クラッチ側摩擦係合部材64を備える端部とは反対側の端部に、径方向内側に向かって延びる軸方向位置固定突起部622a(622b、622c)を備え、内側部材63の外周に設けられた溝633に、軸方向位置固定突起部622a(622b、622c)の径方向内側先端部622Fが挿入されている。このため、軸方向位置固定突起部622a(622b、622c)は、溝633の中で規制される軸方向位置固定機構となり、保持器組立体62Uは、内側部材63から保持器62が軸方向に抜けて脱洛する可能性を抑制する。そして、クラッチ装置60は、保持器62と内側部材63との軸方向の位置関係をクラッチ装置60の外部構造に依存せずに、規制できる。その結果、クラッチ装置60の構成要素が各々分離する可能性が低減し、静止系(実施形態1ではケーシングG)への取り付け時に取り扱いが容易となる。
なお、底表面633Bは、カム面63sw側及びリターンスプリング取付部632側の壁面との接続断面は曲面としている。これにより、溝633により加わる内側部材63への応力を低減することができる。
保持器組立体62Uは、保持器62の径方向内側に内側部材63が配置されるため、軸方向位置固定突起部622a(622b、622c)が塑性変形しないように、軸方向位置固定突起部622a(622b、622c)を溝633へ嵌め込む必要がある。図9に示すように、保持器組立体62Uは、内側部材63のクラッチ側摩擦係合部材64側となる端面に面取りした面取部63Qを有している。面取部63Qの回転軸Rからの最小距離(最小半径)をL5とした場合、軸方向位置固定突起部622a(622b、622c)の径方向内側先端部622Fの回転軸Rからの距離(半径)L2よりも距離L5を小さくすることで、軸方向位置固定突起部622a(622b、622c)が内側部材63のカム面63swに乗り上げ易くなり、軸方向位置固定突起部622a(622b、622c)が不用意な力で塑性変形することを抑制できる。また、軸方向位置固定突起部622a(622b、622c)は、内側部材63の外周を摺接しながら移動し、溝633に到達すると、軸方向位置固定突起部622aの変形が復元する。
図2に示す外側部材61は、図1に示す、電動車両駆動装置10のケーシングGに固定されるフランジ部61Fを外側部材61の周方向に向かって等間隔に複数(実施形態1においては6つ)備えている。フランジ部61Fには、孔部61Hが開けられていて、孔部61Hを通したボルト(不図示)などを介してフランジ部61FがケーシングGに固定されて、外側部材61は、静止系に固定される。内側部材63は、図1に示す第1キャリア23に取り付けられる。保持器62は、クラッチ側摩擦係合部材64及び図1に示すサンギア側摩擦係合部14Fを介して、サンギアシャフト14と接続される。図4に示すように、クラッチ装置60の保持器62は、複数(実施形態1では3個)のクラッチ側摩擦係合部材64を有する。クラッチ側摩擦係合部材64は、断面が弓形形状の部材である。
複数のクラッチ側摩擦係合部材64は、保持器62の周方向に向かって配置される。それぞれのクラッチ側摩擦係合部材64は、一端部が揺動ピン68によって保持器62に取り付けられている。クラッチ側摩擦係合部材64は、揺動ピン68を中心として、保持器62に対して揺動することができる(図4の矢印rで示す方向)。図4に示すスプリング64Bは、クラッチ側摩擦係合部材64の外周部に設けられた溝64Sに取り付けられる。実施形態1において、スプリング64Bは、例えば、ばね鋼で作られたコイルスプリングであり、複数のクラッチ側摩擦係合部材64の溝64Sに取り付けられ、複数のクラッチ側摩擦係合部材64の外周部にかけ回される。
クラッチ側摩擦係合部材64は、他端部、すなわち揺動ピン68とは反対側に摩擦面64Fを有する。摩擦面64Fと揺動ピン68までの間は、逃げ部64Eが設けられる。逃げ部64Eの表面は、摩擦面64Fよりも溝64S側に位置する。複数のクラッチ側摩擦係合部材64の内側(保持器62の径方向内側に相当)には、図1に示すサンギアシャフト14が配置される。サンギアシャフト14は、図1に示すサンギア側摩擦係合部14Fが複数のクラッチ側摩擦係合部材64の摩擦面64Fと対向し、接触する。複数のクラッチ側摩擦係合部材64は、外周部にかけ回されているスプリング64Bの張力によって、摩擦面64Fがサンギア側摩擦係合部14Fに押し付けられる。クラッチ側摩擦係合部材64の摩擦面64Fとサンギアシャフト14のサンギア側摩擦係合部14Fとの間に発生する摩擦力によって、保持器62はその中心軸(図1に示すサンギアシャフト14等の回転軸Rと同じ)を中心に回転する。そして、内側部材63に対する保持器62の相対位相が変化する。この保持器62の動作によって、クラッチ装置60の係合状態と非係合状態とが切り替えられる。実施形態1において、クラッチ側摩擦係合部材64は、サンギアシャフト14と保持器62との間に相対的な回転速度差が発生している場合に、前記回転速度差に起因する摩擦力を発生して、保持器62を回転させるトルクを発生する。
実施形態1において、クラッチ側摩擦係合部材64は、揺動ピン68とは反対側に摩擦面64Fを有することにより、スプリング64Bによる押付力によって摩擦面64Fの位置に大きなモーメントを発生させる。このようにすることで、揺動ピン68とクラッチ側摩擦係合部材64との間の摩擦の影響を小さくすることができる。このため、クラッチ装置60は、摩擦面64Fが自身の摩耗分を補償することができるので、摩擦面64Fとサンギア側摩擦係合部14Fとの間の摩擦力を一定の値に保ちやすくなる。その結果、クラッチ側摩擦係合部材64は、一定の把持力でサンギアシャフト14を把持することができるので、保持器62を安定かつ確実に動作させて、クラッチ装置60の係合状態と非係合状態とを安定かつ確実に切り替えることができる。次に、クラッチ装置60の動作を説明する。
図10から図13は、クラッチ装置60の動作を説明するための図である。図11から図13は、図10に示すクラッチ装置60の一部を拡大して示している。図10から図13は、説明の便宜のため、クラッチ装置60を簡略化して表している。図10に示すように、外側部材61の内周部61iwと内側部材63のカム面63swとの間に保持器62に回転可能に保持されたローラ62Rが配置されている。実施形態1においては、保持器62及び内側部材63は、サンギアシャフト14等の回転軸Rを中心として回転する。図11は、クラッチ装置60が中立状態にある状態を示している。内側部材63のカム面63swに直交し、かつ回転軸Rを通る直線上にローラ62Rの中心がある状態が、クラッチ装置60の中立状態である。この場合、内側部材63は、図11に示す回転軸Rを中心として両方向(図11中矢印Q方向)に回転することができる。
クラッチ側摩擦係合部材64の摩擦面64Fとサンギアシャフト14のサンギア側摩擦係合部14Fとの間に発生する摩擦力によって、図12、図13に示すように、保持器62が回転軸Rを中心として回転した場合を考える。この場合、ローラ62Rの位置が、クラッチ装置60の中立状態における位置から回転軸Rを中心とした中心角θだけ変化している。すると、外側部材61の内周部61iwと内側部材63のカム面63swとの間隔が小さくなり、ローラ62Rが外側部材61と内側部材63との間でロック状態となる。この状態になると、内側部材63は、保持器62の回転方向と同方向の回転のみが許容され、保持器62の回転方向と反対方向の回転は規制される。図12に示す例では、矢印Q1で示す方向への内側部材63の回転のみが許容され、図13に示す例では、矢印Q2で示す方向への内側部材63の回転のみが許容される。このため、保持器62が回転軸Rを中心として回転すると、保持器62の回転方向と反対方向に内側部材63が回転しようとした場合にクラッチ装置60が係合状態となり、保持器62の回転方向と同一の方向に内側部材63が回転しようとした場合にクラッチ装置60が非係合状態となる。
クラッチ装置60は、保持器62の姿勢を変更させ、内側部材63との相対位相を変化させることにより、内側部材63を一方向のみに回転可能にするとともに、回転可能な方向とは反対方向に対しては回転不可能にすることができる。また、クラッチ装置60は、保持器62の姿勢によって、内側部材63が回転可能な方向と回転不可能な方向とを変更することができる。実施形態1において、保持器62は、クラッチ側摩擦係合部材64及びサンギア側摩擦係合部14Fを介してサンギアシャフト14によって姿勢が変更される。サンギアシャフト14は第1モータ11に連結されているので、保持器62の姿勢は、第1モータ11の回転によって変更することができる。ところで、クラッチ装置60は、クラッチ側摩擦係合部材64がサンギアシャフト14のサンギア側摩擦係合部14Fと係合することで、サンギアシャフト14の回転方向を保持器62に伝達する。すなわち、サンギア側摩擦係合部14Fは、保持器62に回転方向を入力する入力部として作用する。そして、サンギアシャフト14は、第1サンギア21、第2サンギア31及び第1モータ11のロータに連結されるものであるから、サンギア側摩擦係合部14Fは、第1サンギア21、第2サンギア31又は第1モータ11のロータにおける入力部として機能する。このように、クラッチ装置60は、クラッチ側摩擦係合部材64が、第1サンギア21、第2サンギア31又は第1モータ11のロータにおける入力部と係合し、かつクラッチ側摩擦係合部材64の発生する摩擦力によって内側部材63に対する保持器62の相対位相を変化させることで、第1キャリア23の回転の許容(非係合状態)と規制(係合状態)とを切り替える。
クラッチ側摩擦係合部材64の発生する摩擦力によって内側部材63に対する保持器62の相対位相を変化させるので、摩擦力の状態によっては第1キャリア23の回転が反転する場合、図11に示す回転軸Rを中心として両方向(図11中矢印Q方向)に回転することができる中立状態に戻す復元力が十分ではない場合がある。その結果、第1キャリア23の回転の規制(係合状態)から許容(非係合状態)への切り替えが行われず、クラッチ装置60の動作が不正確となる可能性があるため、実施形態1に係るクラッチ装置60では、リターンスプリング67及び周方向規制突起部621a、621bが中立位置に戻す復元力を補助する。
クラッチ側摩擦係合部材64の摩擦面64Fとサンギアシャフト14のサンギア側摩擦係合部14Fとの間に発生する摩擦力によって、図12、図13に示すように、保持器62が回転軸Rを中心として回転した場合、図7に示すリターンスプリング67は、固定部671からリターンスプリング端部672aにかけてのリターンスプリング半体及び固定部671からリターンスプリング端部672bにかけてのリターンスプリング半体のうち一方が圧縮し、他方が伸長する状態が維持される。次に、第1キャリア23の回転が反転する場合、先ずリターンスプリング67が弾性力より、復元力作用基部673で周方向規制突起部621a、621bの少なくとも1つを押圧する。その結果、クラッチ装置60は、リターンスプリング67が内側部材63に対する保持器62の相対位相を中立状態に戻すことができる。その結果、クラッチ側摩擦係合部材64の発生する摩擦力に関わらず、クラッチ装置60は、正確に第1キャリア23の回転の規制(係合状態)から許容(非係合状態)への切り替えをすることができる。
以上説明したように、クラッチ装置60は、静止系に固定された円筒形状の部材である外側部材61と、保持器62と、内側部材63と、軸受65と、リターンスプリング67とを備える。保持器62は、外側部材61の径方向内側に配置される円筒形状の部材であって、一方の端部に摩擦力を発生させる摩擦係合部材64を備え、かつ周方向に向かって複数のローラ62Rを回転可能に保持する。内側部材63は、保持器62の径方向内側にローラ62Rを介して配置される円筒形状の部材であって、第1キャリア23の回転の許容と規制とを切り替え、第1キャリア23と連結する。リターンスプリング67は、クラッチ側摩擦係合部材64の発生する摩擦力によって内側部材63に対する保持器62の相対位相が変化した場合に、保持器62と内側部材63との間に作用し、保持器62の相対位相の変化を減じる方向に戻す弾性力を生じさせる。このクラッチ装置60は、第1キャリア23の回転方向が変化しても、クラッチの中立状態から動作できるので、回転の規制(係合状態)から許容(非係合状態)への切り替えの精度を高めることができ、第1キャリア23の回転を両方向で規制できる。
そして、保持器組立体62Uは、保持器62がクラッチ側摩擦係合部材64を備える端部とは反対側の端部に擦係合部材64から離れる方向に延在する複数の周方向規制突起部621a、621bを備え、リターンスプリング67の中央は、内側部材63の外周に固定され、内側部材63が保持器62に対して相対的に回転した場合に、リターンスプリング67の端部は周方向規制突起部621a、621bの少なくとも1つを押圧する。この構成により、クラッチ装置60は、保持器62と内側部材63との回転方向(周方向)の位置関係をクラッチ装置60の外部構造に依存せずに、規制できる。また、内側部材63に対する保持器62の相対位相が変化すると、リターンスプリング67の端部は周方向規制突起部621a、621bの少なくとも1つを押圧する。これにより、第1キャリアの回転方向が変化して反転するときに、保持器62と内側部材63の位置を中立位置に戻す復元力が働き、回転の規制(係合状態)から許容(非係合状態)への切り替えの精度を高めることができる。その結果、クラッチ装置60は、キャリアの回転を両方向で精度よく規制できる。次に、電動車両駆動装置10における回転力の伝達経路について説明する。
図14は、実施形態1に係る電動車両駆動装置が第1変速状態にある場合に、回転力が伝わる経路を示す説明図である。電動車両駆動装置10は、第1変速状態と第2変速状態との2つの変速状態を実現できる。まずは、第1変速状態を電動車両駆動装置10が実現する場合を説明する。
第1変速状態は、いわゆるローギア状態の状態であり、減速比を大きくとることができる。すなわち、変速機構入出力軸15のトルクを大きくすることができる。第1変速状態は、主に、電動車両が走行時に大きな駆動力を必要とする場合、例えば、坂道を発進するとき又は登坂時(坂道を登る時)等に用いられる。第1変速状態では、第1モータ11と第2モータ12とはともに動作するが、発生するトルクの大きさが等しく、かつトルクの向きが反対になる。第1モータ11の動力は、サンギアシャフト14を介して第1サンギア21に入力され、第2モータ12の動力は、第1リングギア24に入力される。第1モータ11の動力がサンギアシャフト14に入力されることによって、サンギア側摩擦係合部14F及びクラッチ側摩擦係合部材64を介してクラッチ装置60の保持器62の姿勢が中立状態から変更される。第1モータ11と第2モータ12とは発生するトルクの大きさが等しく、かつトルクの向きが反対になるため、第1モータ11による保持器62の回転方向と、第2モータ12によって回転する第1キャリア23及びこれに連結されている内側部材63の回転方向とは反対になる。このため、第1変速状態において、クラッチ装置60は係合状態になる。すなわち、第1変速状態において、第1ピニオンギア22は、ケーシングGに対して回転できない状態となる。
第1変速状態において、電動車両駆動装置10は、サンギアシャフト14、すなわち、第1サンギア21及び第2サンギア31の回転方向と、クラッチ装置60で回転方向が規制された第1キャリア23の回転しようとする方向とが反対方向になる。また、電動車両駆動装置10は、第1サンギア21及び第2サンギア31の回転速度の絶対値がクラッチ装置60で回転方向が規制された第1キャリア23の回転速度の絶対値よりも大きくなる。
第1変速状態の時に、第1モータ11が出力する回転力を第1回転力T1とし、第2モータ12が出力する回転力を第2回転力T5とする。図14に示す第1回転力T1、循環回転力T3、合成回転力T2、第1分配回転力T6及び第2分配回転力T4の各回転力は、各部位に作用するトルクを示し、単位はNmである。
第1モータ11から出力された第1回転力T1は、第1サンギア21に入力される。そして、第1回転力T1は、第1サンギア21で循環回転力T3と合流して、合成回転力T2となる。合成回転力T2は、第1サンギア21から出力される。循環回転力T3は、第1リングギア24から第1サンギア21に伝えられた回転力である。循環回転力T3の詳細については後述する。
第1サンギア21と第2サンギア31とは、サンギアシャフト14で連結されている。このため、第1変速状態において、第1回転力T1と循環回転力T3とが合成され、第1サンギア21から出力された合成回転力T2は、サンギアシャフト14を介してサンギアシャフト14に伝えられる。合成回転力T2は、第2遊星歯車機構30によって増幅される。また、合成回転力T2は、第2遊星歯車機構30によって第1分配回転力T6と第2分配回転力T4とに分配される。第1分配回転力T6は、合成回転力T2が第2リングギア34に分配されて増幅された回転力であり、変速機構入出力軸15から出力される。第2分配回転力T4は、合成回転力T2が第2キャリア33に分配されて増幅された回転力である。
第1分配回転力T6は、変速機構入出力軸15から減速機構40に出力される。そして、第1分配回転力T6は、減速機構40で増幅されて、図1に示す減速機構入出力軸16を介して車輪Hに出力されて、これを駆動する。その結果、電動車両は走行する。
第2キャリア33と第1リングギア24とが一体で回転しているため、第2キャリア33に分配された第2分配回転力T4は、第1リングギア24の循環回転力となる。そして、第2分配回転力T4は、第1リングギア24で、第2モータ12の第2回転力T5と合成されて、第1遊星歯車機構20に向かう。第2回転力T5、すなわち、第2モータ12の回転力の向きは、第1モータ11の回転力の向きとは反対である。
第1遊星歯車機構20に戻ってきた第1リングギア24における第2分配回転力T4及び第2回転力T5は、第1遊星歯車機構20によってその大きさが減少されるとともに、力の向きを逆転させられて、第1サンギア21における循環回転力T3となる。このようにして、第1遊星歯車機構20と第2遊星歯車機構30との間で動力(回転力)の循環が発生するので、変速機構13は、減速比を大きくすることができる。すなわち、電動車両駆動装置10は、第1変速状態のときに、大きなトルクを発生することができる。次に、合成回転力T2、循環回転力T3、第2分配回転力T4及び第1分配回転力T6の値の一例を説明する。
第2サンギア31の歯数をZ1とし、第2リングギア34の歯数をZ4とし、第1サンギア21の歯数をZ5とし、第1リングギア24の歯数をZ7とする。式(1)から式(4)に、電動車両駆動装置10の各部に作用する回転力(図14に示す合成回転力T2、循環回転力T3、第2分配回転力T4及び第1分配回転力T6)を示す。なお、下記の式(1)〜式(4)で負の値となるものは、第1回転力T1とは逆方向の回転力である。
一例として、歯数Z1を47、歯数Z4を97、歯数Z5を24、歯数Z7を76とする。また、第1回転力T1を50Nmとし、第2回転力T5を50Nmとする。すると、合成回転力T2は99.1Nm、循環回転力T3は49.1Nm、第2分配回転力T4は−105.4Nm、第1分配回転力T6は204.5Nmとなる。このように、電動車両駆動装置10は、一例として第1モータ11が出力する第1回転力T1を約4倍に増幅して車輪Hに出力できる。次に、第2変速状態を電動車両駆動装置10が実現する場合を説明する。
図15は、実施形態1に係る電動車両駆動装置が第2変速状態にある場合に、回転力が伝わる経路を示す説明図である。第2変速状態は、いわゆるハイギア状態の状態であり、減速比を小さくとることができる。すなわち、変速機構入出力軸15のトルクは小さくなるが、変速機構13の摩擦損失を小さくすることができる。第2変速状態では、第1モータ11と第2モータ12とはともに動作する。そして、第1モータ11及び第2モータ12が発生するトルクの大きさとトルクの向きとは等しくなる。第2変速状態のときに、第1モータ11が出力する回転力を第1回転力T7とし、第2モータ12が出力する回転力を第2回転力T8とする。
第1モータ11の動力は、サンギアシャフト14を介して第1サンギア21に入力され、第2モータ12の動力は、第1リングギア24に入力される。第1モータ11の動力がサンギアシャフト14に入力されることによって、サンギア側摩擦係合部14F及びクラッチ側摩擦係合部材64を介してクラッチ装置60の保持器62の姿勢が中立状態から変更される。第1モータ11と第2モータ12とは発生するトルクの大きさが等しく、かつトルクの向きが同一になるため、第1モータ11による保持器62の回転方向と、第2モータ12によって回転する第1キャリア23及びこれに連結されている内側部材63の回転方向とは同一になる。このため、第2変速状態において、クラッチ装置60は非係合状態になる。第2変速状態において、電動車両駆動装置10は、サンギアシャフト14、すなわち、第1サンギア21及び第2サンギア31の回転方向と、クラッチ装置60で回転方向が規制された第1キャリア23の回転しようとする方向とが同じ方向になる。
第2変速状態において、第1ピニオンギア22は、ケーシングGに対して回転できる状態となる。その結果、第2変速状態では、第1遊星歯車機構20と第2遊星歯車機構30との間における回転力の循環が遮断される。また、第2変速状態では、第1キャリア23が自由に公転(回転)できるため、第1サンギア21と第1リングギア24とは相対的に自由に回転(自転)できる。なお、図15に示す合成回転力T9は、変速機構入出力軸15から出力されて減速機構40に伝えられるトルクを示し、単位はNmである。
第2変速状態では、第1回転力T7と第2回転力T8との比は、第2サンギア31の歯数Z1と第2リングギア34の歯数Z4との比で定まる。第1回転力T7は、第2キャリア33で第2回転力T8と合流する。その結果、第2リングギア34に合成回転力T9が伝わる。第1回転力T7と、第2回転力T8と、合成回転力T9とは、下記の式(5)を満たす。
変速機構入出力軸15の角速度(回転速度)は、第1モータ11によって駆動される第2サンギア31の角速度と、第2モータ12によって駆動される第2キャリア33の角速度とによって決定される。したがって、変速機構入出力軸15の角速度を一定としていても、第1モータ11の角速度と第2モータ12の角速度との組合せを変化させることができる。
このように、変速機構入出力軸15の角速度と第1モータ11の角速度と第2モータ12の角速度との組合せは一意に決定されないので、上述した第1変速状態から第2変速状態へ、あるいは第2変速状態から第1変速状態へ連続して移行させることができる。したがって、制御装置1は、第1モータ11の角速度と第2モータ12の角速度と回転力とを連続して滑らかに制御すると、第1変速状態と第2変速状態との間で変速機構13の状態が変化した場合でも、いわゆる変速ショックを小さくすることができる。
変速機構13は、第1サンギア21と第1リングギア24とは、互いに同方向に回転(自転)するため、第2サンギア31と第2キャリア33とも、互いに同方向に回転(自転)する。第2サンギア31の角速度を一定とした場合、第2キャリア33の角速度が速くなるほど、第2リングギア34の角速度は遅くなる。また、第2キャリア33の角速度が遅くなるほど、第2リングギア34の角速度は速くなる。このように、第2リングギア34の角速度は、第2サンギア31の角速度と、第2キャリア33の角速度とによって連続的に変化する。すなわち、電動車両駆動装置10は、第2モータ12が出力する第2回転力T8の角速度が変化することで、変速比を連続的に変更できる。
また、電動車両駆動装置10は、第2リングギア34の角速度を一定にしようとする際に、第1モータ11が出力する第1回転力T7の角速度と、第2モータ12が出力する第2回転力T8の角速度との組合せを複数有する。すなわち、第2モータ12が出力する第2回転力T8の角速度が変化することで、第1モータ11が出力する第1回転力T7の角速度が変化しても、第2リングギア34の角速度を一定に維持できる。このため、電動車両駆動装置10は、第1変速状態から第2変速状態に切り替わる際に、第2リングギア34の角速度の変化量を低減できる。結果として、電動車両駆動装置10は、変速ショックを低減できる。
次に、第2モータ12が出力する第2回転力T8について説明する。第2モータ12は、式(6)を満たす第2回転力T8以上の回転力を出力する必要がある。なお、式(6)中の、1−(Z4/Z1)は、第2サンギア31と第2リングギア34との間の回転力比を示す。
したがって、第1モータ11が任意に回転する際に第2リングギア34の回転力及び角速度を調節するためには、第1回転力TAと、第2回転力TBと、歯数Z1と、歯数Z4とは、下記の式(7)を満たせばよい。なお、第1回転力TAは第1モータ11の任意の角速度での回転力であり、第2回転力TBは第2モータ12の任意の角速度での回転力である。
上述したように、クラッチ装置60は、第1変速状態、すなわち第1モータ11及び第2モータ12が作動している状態であって、電動車両を前進させるように第1モータ11が回転力を出力する場合に、第1サンギア21及び第2サンギア31の回転方向と、クラッチ装置60で回転方向が規制された第1キャリア23の回転しようとする方向とが反対方向になると係合状態となる。すなわち、第2モータ12が第1モータ11の回転方向とは反対方向に回転して、第2モータ12が第1モータ11の回転力とは反対向きの回転力を出力している場合に、変速機構13は、第1変速状態となる。
また、クラッチ装置60は、第2変速状態、すなわち第1モータ11及び第2モータ12が作動している状態であって、電動車両を前進させるように第1モータ11が回転力を出力する場合に、第1サンギア21及び第2サンギア31の回転方向と、第1キャリア23の回転方向とが同じ方向になると非係合状態となる。すなわち、第2モータ12が第1モータ11の回転方向と同じ方向に回転して、第2モータ12が第1モータ11の回転力とは同じ向きの回転力を出力している場合に、変速機構13は、第2変速状態となる。このように、クラッチ装置60は、第1モータ11の回転力の方向と第2モータ12の回転力の方向とによって、受動的に係合状態と非係合状態とを切り替えできる。
実施形態1において、クラッチ装置60は、2ウェイクラッチなので、電動車両駆動装置10は、後進方向においても、第1モータ11及び第2モータ12の回転方向と回転力の方向とを前進方向に対して反対とすることにより、第1変速状態と第2変速状態とを実現できる。このため、電動車両駆動装置10は、前進方向及び後進方向の両方において変速が可能になる。また、クラッチ装置60の保持器62は、第1モータ11の回転によって受動的に動作するので、電動車両駆動装置10の変速動作にアクチュエータを必要としないので、部品点数を低減でき、かつ、自身(クラッチ装置60)を小型化できる。
実施形態1では、電動車両駆動装置10が、変速機構13と減速機構40とを介して、第1モータ11及び第2モータ12の動力を車輪Hに伝達してこれを駆動する例を説明した。しかし、電動車両駆動装置10は、減速機構40を備えていなくてもよい。この場合、変速機構13の第2リングギア34を変速機構13の出力部とし、第2リングギア34と車輪Hとを連結して車輪Hを駆動する。次に、電動車両駆動装置10の構造の一例を説明する。
(電動車両駆動装置の内部構造)
図16は、実施形態1に係る電動車両駆動装置の内部構造を示す図である。次の説明において、上述した構成要素については重複する説明は省略し、図中において同一の符号で示す。図16に示すように、ケーシングGは、第1ケーシングG1と、第2ケーシングG2と、第3ケーシングG3と、第4ケーシングG4とを含む。第1ケーシングG1と、第2ケーシングG2と、第4ケーシングG4とは、筒状の部材である。第2ケーシングG2は、第1ケーシングG1よりも車輪H側に設けられる。第1ケーシングG1と第2ケーシングG2とは、例えば複数のボルトで締結される。
第3ケーシングG3は、第1ケーシングG1の2つの開口端のうち第2ケーシングG2とは反対側の開口端、すなわち、第1ケーシングG1の電動車両の車体側の開口端に設けられる。第1ケーシングG1と第3ケーシングG3とは、例えば複数のボルト52で締結される。このようにすることで、第3ケーシングG3は、第1ケーシングG1の開口を塞ぐ。第4ケーシングG4は、第1ケーシングG1の内部に設けられる。第1ケーシングG1と第4ケーシングG4とは、例えば複数のボルトで締結される。
図16に示すように、第1モータ11は、第1ステータコア11aと、第1コイル11bと、第1ロータ11cと、第1磁気パターンリング11dと、第1モータ出力軸11eとを含む。第1ステータコア11aは、筒状の部材である。第1ステータコア11aは、図16に示すように、第1ケーシングG1に嵌め込まれるとともに、第1ケーシングG1と第3ケーシングG3とに挟み込まれて位置決め(固定)される。第1コイル11bは、第1ステータコア11aの複数個所に設けられる。第1コイル11bは、インシュレータを介して第1ステータコア11aに巻きつけられる。
第1ロータ11cは、第1ステータコア11aの径方向内側に配置される。第1ロータ11cは、第1ロータコア11c1と、第1マグネット11c2とを含む。第1ロータコア11c1は、筒状の部材である。第1マグネット11c2は、第1ロータコア11c1の内部又は外周部に複数設けられる。第1モータ出力軸11eは、棒状の部材である。第1モータ出力軸11eは、第1ロータコア11c1と連結される。第1磁気パターンリング11dは、第1ロータコア11c1に設けられて、第1ロータコア11c1と同軸で回転する。第1磁気パターンリング11dは、第1ロータコア11c1の回転角度を検出する際に用いられる。
第2モータ12は、第2ステータコア12aと、第2コイル12bと、第2ロータ12cと、第2磁気パターンリング12dとを含む。第2ステータコア12aは、筒状の部材である。第2ステータコア12aは、第1ケーシングG1と第2ケーシングG2とに挟み込まれて位置決め(固定)される。第2コイル12bは、第2ステータコア12aの複数個所に設けられる。第2コイル12bは、インシュレータを介して第2ステータコア12aに巻きつけられる。
第2ロータ12cは、第2ステータコア12aの径方向内側に設けられる。第2ロータ12cは、クラッチ装置60とともに、回転軸Rを中心に回転できるように、第4ケーシングG4によって支持される。第2ロータ12cは、第2ロータコア12c1と、第2マグネット12c2とを含む。第2ロータコア12c1は、筒状の部材である。第2マグネット12c2は、第2ロータコア12c1の内部又は外周部に複数設けられる。第2磁気パターンリング12dは、第2ロータコア12c1に設けられて、第2ロータコア12c1と同軸で回転する。第2磁気パターンリング12dは、第2ロータコア12c1の回転角度を検出する際に用いられる。
図16に示すように、減速機構40は、例えば複数のボルト54で第2ケーシングG2に締結されて取り付けられる。実施形態1では、減速機構40が有する第3リングギア44が第2ケーシングG2に取り付けられる。減速機構40の第3キャリア43の一端部には、外輪45が取り付けられている。外輪45と第3リングギア44との間には、ホイール軸受50の転動体が介在している。このような構造により、第3キャリア43は、第3リングギア44の外周部に、外輪45を介して回転可能に支持される。
第3キャリア43は、車輪HのホイールHwが取り付けられる。ホイールHwは、スタッドボルト51Bとナット51Nとによって、第3キャリア43の回転軸と直交する面に締結される。ホイールHwにはタイヤHtが取り付けられる。電動車両の車輪Hは、ホイールHwとタイヤHtとで構成される。この例において、車輪Hは、第3キャリア43に直接取り付けられている。このため、第3キャリア43は、図1に示す減速機構入出力軸16を兼ねている。
懸架装置取付部53は、第2ケーシングG2に設けられる。具体的には、懸架装置取付部53は、第2ケーシングG2のうち、電動車両駆動装置10が電動車両の車体に取り付けられた際に鉛直方向上側及び下側となる部分に設けられる。鉛直方向上側の懸架装置取付部53は、上部ナックル53Naを含み、鉛直方向下側の懸架装置取付部53は、下部ナックル53Nbを含む。上部ナックル53Naと下部ナックル53Nbとに、懸架装置のアームが取り付けられて、電動車両駆動装置10は、電動車両の車体に支持される。
第1モータ出力軸11eとサンギアシャフト14とは、第1嵌合部56Aで連結される。このような構造により、第1モータ11とサンギアシャフト14との間で動力が伝達される。第1嵌合部56Aは、例えば、第1モータ出力軸11eの内周面に形成されたスプラインと、サンギアシャフト14の第1モータ11側における端部に形成されて、前記スプラインと嵌合するスプラインとで構成される。このような構造により、回転軸R方向における第1モータ出力軸11eとサンギアシャフト14との熱伸び等が吸収される。
変速機構入出力軸15は、変速機構13が有する第2リングギア34と、減速機構40が有する第3サンギア41のシャフト(第3サンギアシャフト41S)とを連結する。このような構造により、変速機構13の第2遊星歯車機構30と減速機構40の第3サンギアシャフト41Sとの間で動力が伝達される。変速機構入出力軸15と第3サンギアシャフト41Sとは、第2嵌合部56Bで連結される。第2嵌合部56Bは、例えば、変速機構入出力軸15の内周面に形成されたスプラインと、第3サンギアシャフト41Sの第2モータ12側における端部に形成されて、前記スプラインと嵌合するスプラインとで構成される。このような構造により、回転軸R方向における変速機構入出力軸15と第3サンギアシャフト41Sとの熱伸び等が吸収される。
上述した構造により、電動車両駆動装置10は、車輪Hを保持し、かつ、第1モータ11及び第2モータ12から出力された回転力を車輪Hに伝達することで、電動車両を走行させることができる。なお、実施形態1では、第1モータ11と、第2モータ12と、第1サンギア21と、第1キャリア23と、第1リングギア24と、第2サンギア31と、第2キャリア33と、第2リングギア34と、第3サンギア41と、第3キャリア43と、第3リングギア44とがすべて同軸上に配置されているが、電動車両駆動装置10は、必ずしもこれらの構成要素が同軸上に配置されなくてもよい。次に、第1モータ11及び第2モータ12の角速度(回転速度)を検出する構造を説明する。
第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとは、第1モータ11と第2モータ12との間に介在するケーシングG1の仕切り壁G1Wを隔てて、互いに対向して配置される。すなわち、第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとは、それぞれ仕切り壁G1Wに対向している。
図17は、車両を走行させるモータに要求される回転力(トルク)と角速度(回転速度)との関係を示す図である。一般的に、モータの回転力(トルク)と角速度(回転速度)の関係として、一定の回転力の領域における上限回転速度と最高回転速度との比は、1:2程度である。また、最大の回転力と、最高回転速度における最大の回転力との比は、2:1程度である。これに対して、車両を走行させる場合、図17の実線で示す車両の走行特性曲線Caから、一定の回転力の領域における上限回転速度と最高回転速度との比は1:4程度である。また、車両を走行させる場合、最大の回転力と、最高回転速度における最大の回転力との比は、4:1程度である。
したがって、モータで車両を走行させる場合、一段目の変速比と二段目の変速比との比率(段間比)が2程度の変速を行うことが好ましい。このようにすることで、モータのNT特性(回転速度と回転力との関係)の全領域で、過不足なく車両の走行特性曲線Caをカバーすることができ、必要最小限の出力を有するモータで、車両に必要な動力性能を確保できる。
図17の点線で示すNT特性曲線CLは、電動車両駆動装置10の第1変速状態(ローギア)であり、一点鎖線で示すNT特性曲線CHは、電動車両駆動装置10の第2変速状態(ハイギア)である。このように、第1変速状態と第2変速状態とを用いることにより、車両の走行特性曲線Caを過不足なくカバーすることができる。二点鎖線で示すNT特性曲線Cbは、変速を行わないで車両の走行特性曲線Caをカバーしようとした場合に必要なNT特性を示している。一般に、モータは、一定の回転力の領域における上限回転速度と最高回転速度との比が1:2程度であるため、一つのモータで走行特性曲線Caをカバーする場合、モータにはNT特性曲線Cbのような特性が要求される。その結果、モータに過剰な性能が必要になり、無駄が多くなるとともにコスト及び質量の増加を招く。
モータの効率に注目すると、モータの効率が高い領域は、最大回転力から最高回転速度に向かって推移する定出力領域(NT特性曲線CL又はNT特性曲線CHの曲線部分)の中間部分AL、AHにある。電動車両駆動装置10は、変速により、この中間部分AL、AHを積極的に活用して、効率を向上させることができる。変速を行わない場合、NT特性曲線Cbのようなモータが必要になるが、この場合、走行特性曲線Caにおいて使用頻度の低い領域(例えば、低速で高い回転力が必要な領域又は最高速に近い領域)でモータの効率が最も高くなってしまう。このため、モータを効率よく使用する観点からは、電動車両駆動装置10のように、減速比を変更して用いることが好ましい。
電動車両駆動装置10で、第1モータ11と第2モータ12との両方が動作する場合、変速機構13の総合減速比RR=(α+β−1)/(α−β−1)である。これは、第1変速状態のみであり、第2変速状態ではRR=1である。αは、第2遊星歯車機構30の遊星比であり、βは、第1遊星歯車機構20の遊星比である。遊星比は、リングギアの歯数をサンギアの歯数で除した値である。したがって、第2遊星歯車機構30の遊星比αは、第2リングギア34の歯数/第2サンギア31の歯数であり、第1遊星歯車機構20の遊星比βは、第1リングギア24の歯数/第1サンギア21の歯数である。図1に示す電動車両駆動装置10で、段間比2を実現するためには、第2遊星歯車機構30の遊星比α(>1)を1.90以上2.10以下の範囲とし、第1遊星歯車機構20の遊星比β(>1)を2.80以上3.20以下の範囲とすることが好ましい。
電動車両駆動装置10は、電動車両のばね下に配置されるので、できる限り軽量であることが好ましい。電動車両駆動装置10を軽量化するために、第1モータ11及び第2モータ12の巻き線(第1コイル11b及び第2コイル12b)にアルミニウム(アルミニウム合金を含む)を用いる手法がある。アルミニウムの比重は銅の比重の30%程度なので、第1モータ11及び第2モータ12の巻き線を銅からアルミニウムに置き換えると、巻き線の質量を70%低下させることができる。このため、第1モータ11、第2モータ12及び電動車両駆動装置10を軽量化することができる。しかし、アルミニウムの導電率は、一般に巻き線に用いられる銅の導電率の60%程度であるので、銅線を単にアルミニウム線に置き換えるのみでは、性能低下及び発熱量の増加を招くおそれがある。
電動車両駆動装置10は、減速機構40を用いるとともに、変速機構13で減速比を変更する。このため、第1モータ11及び第2モータ12に必要とされる回転力が比較的小さくて済むので、第1モータ11及び第2モータ12に流れる電流も比較的小さくなる。このため、実施形態1において、第1モータ11の第1コイル11b及び第2モータ12の第2コイル12bに、銅線の代わりにアルミニウム線を用いたとしても、性能低下及び発熱量の増加はほとんど発生しない。したがって、実施形態1において、電動車両駆動装置10は、第1モータ11及び第2モータ12の巻き線(第1コイル11b及び第2コイル12b)にアルミニウム(アルミニウム合金を含む)を用いて軽量化を実現する。
第1モータ11及び第2モータ12の巻き線にアルミニウムを用いる場合、銅クラッドアルミニウム線を用いることが好ましい。銅クラッドアルミニウム線は、アルミニウム線の外側に銅を一様に被覆し、銅とアルミニウムとの境界を強固に金属結合させたものである。銅クラッドアルミニウム線は、アルミニウム線と比較して、はんだ付けしやすく、端子との接続部の信頼性も高い。銅クラッドアルミニウムの比重は銅の比重の40%程度なので、第1モータ11及び第2モータ12の巻き線を銅からアルミニウムに置き換えると、巻き線の質量を60%低下させることができる。その結果、第1モータ11、第2モータ12及び電動車両駆動装置10を軽量化することができる。
(実施形態2)
図18は、実施形態2に係るクラッチ装置を回転軸Rと平行な方向にみた状態を示す正面図である。図19は、図18に示すクラッチ装置のE−E断面図である。図20は、図18の背面側から視たクラッチ装置の斜視図である。実施形態2に係るクラッチ装置60Aにおいて、実施形態1に係るクラッチ装置60と同様の構成要素は、同一の符号を付して説明を省略する。クラッチ装置60Aは、外側部材61と、保持器62と、ローラ62Rと、内側部材63と、クラッチ側摩擦係合部材64と、押圧部材としてのスプリング64Bとを含む。この他に、クラッチ装置60Aは、軸受65と、止め輪66とを含む。
外側部材61は、図1に示す、電動車両駆動装置10のケーシングGに固定されるフランジ部61Aを外側部材61の外周に1つ備えている。フランジ部61Aには、孔部61Hが開けられていて、孔部61Hに固定された1つのピン61Pが前記ケーシングGに開けられた穴に挿入され固定されている。このため、外側部材61は、ケーシングGに対して、相対回転不能にされ、ピン61Pが回り止めとなり、ピン61Pが外側部材61を適正位置に案内する。そして、外側部材61の外周には、溝611を備えており、溝611には、止め輪61Bが取り付けられる。止め輪61Bは、周方向の一カ所にスリット61BSを有するC字状となっており、端部61BSには、軸方向に孔61BHが貫通している。フランジ61Aと、止め輪61BとがケーシングGを挟むことで、クラッチ装置60AがケーシングGに対し軸方向に位置ずれする可能性を抑制することができる。なお、孔61BHに挿入したボルト(不図示)でケーシングGと止め輪61Bとを固定してもよい。
このような構造により、クラッチ装置60Aは、クラッチ装置60と比較して、外周のフランジの数を低減することができる。クラッチ装置60AとケーシングGとの支持剛性を維持するため、フランジにはある程度のボリュームが必要となる。しかしながら車両の燃費(電費)向上のためには、クラッチ装置60Aはなるべく軽い方が良く、フランジのボリュームはクラッチ装置60Aの総重量に対して大きな割合を占める部位である。クラッチ装置60Aは、フランジの体積を低減し、クラッチ装置自体の自重を軽量化すると共に、クラッチ装置60AとケーシングGとの支持剛性を維持することができる。そして、クラッチ装置60Aは、クラッチ装置60と同様の原理により、クラッチ装置60が奏する効果と同様の作用及び効果を奏する。
(実施形態3)
図21は、実施形態3に係るクラッチ装置を回転軸Rと平行な方向にみた状態を示す正面図である。図22は、図21に示すクラッチ装置のF−F断面図である。図23は、図21の背面側から視たクラッチ装置から外側部材に取り付ける止め輪を分解した状態を示す斜視図である。実施形態3に係るクラッチ装置60Bにおいて、実施形態1に係るクラッチ装置60及び実施形態2に係るクラッチ装置60Aと同様の構成要素は、同一の符号を付して説明を省略する。クラッチ装置60Bは、外側部材61と、保持器62と、ローラ62Rと、内側部材63と、クラッチ側摩擦係合部材64と、押圧部材としてのスプリング64Bとを含む。この他に、クラッチ装置60Aは、軸受65と、止め輪66とを含む。
外側部材61は、図1に示す、電動車両駆動装置10のケーシングGに固定されるスプライン部61C、61Dを外側部材61の外周に備えている。スプライン部61Cとスプライン部61Dとは、外側部材61の外周の周方向に交互に配置され、ケーシングGに対して、相対回転不能にする回り止めおよび適正位置に案内する角スプラインである。スプライン部61Cは、径方向外側に突出する凸部であり、スプライン部61Dは、隣り合うスプライン部61Cに挟まれた凹部である。スプライン部61C、61Dの径方向外側から前記ケーシングGに対応する凹凸部が嵌め合わされ固定されている。そして、外側部材61の外周には、溝611を備えており、溝611に止め輪61Bが取り付けられる。止め輪61Bは、周方向の一カ所にスリット61BSを有するC字状となっており、端部61BSには、軸方向に孔61BHが貫通している。ケーシングGと止め輪61Bとが接することで、クラッチ装置60がケーシングGに対し軸方向に位置ずれする可能性を抑制することができる。なお、孔61BHに挿入したボルト(不図示)でケーシングGと止め輪61Bとを固定してもよい。
このような構造により、クラッチ装置60Bは、クラッチ装置60と比較して、外周のフランジの数を低減することができる。クラッチ装置60AとケーシングGとの支持剛性を維持するため、フランジにはある程度のボリュームが必要となる。しかしながら車両の燃費(電費)向上のためには、クラッチ装置60Aはなるべく軽い方が良く、フランジのボリュームはクラッチ装置60Aの総重量に対して大きな割合を占める部位である。クラッチ装置60Aは、フランジの体積を低減し、クラッチ装置自体の自重を軽量化すると共に、クラッチ装置60AとケーシングGとの支持剛性を維持することができる。そして、クラッチ装置60Aは、クラッチ装置60と同様の原理により、クラッチ装置60が奏する効果と同様の作用及び効果を奏する。
(実施形態4)
図24は、実施形態4に係るクラッチ装置をクラッチ側摩擦係合部材側からみた背面図である。図25は、図24に示すJ−J断面図である。次においては、上述したクラッチ装置60の構成要素と同様の構成要素は、同一の符号を付して説明を省略する。
クラッチ装置60Cは、押圧部材としてのスプリング64Bを含み、このスプリング64Bの張力により、クラッチ側摩擦係合部材64の摩擦面64Fが入力部であるサンギア側摩擦係合部14Fに押し付けられる。
ここで、クラッチ側摩擦係合部材64は、入力部の回転方向を保持器62に伝達する、すなわち保持器62の姿勢を変えるだけの役割のため、必要な伝達トルクは小さくてよい。また、クラッチ装置60Cの係合状態では、保持器62は自身の回転が静止されるため、クラッチ側摩擦係合部材64の摩擦面64Fと入力部との間にはすべりが生じており、摩擦力により損失が発生する。すなわち、クラッチ側摩擦係合部材64において発生する摩擦力は、上記伝達トルクを生じるのに必要な力より大きく、かつ、できるだけ小さいことが望ましい。また、スプリング64Bの伸びなどの経年変化によりクラッチ側摩擦係合部材64の入力部への押し付け力が変化しないことが望ましい。
そこで、実施形態4では、スプリング64Bの押圧部材として、ガータースプリングを用いる。ガータースプリングは、環状コイルばねであって、3つのクラッチ側摩擦係合部材64に均等に押圧力を与えることができる。このため、3つのクラッチ側摩擦係合部材64毎にコイルスプリングを備える場合に比較して、伸びなどの経年変化によりクラッチ側摩擦係合部材64毎の入力部への押し付け力が変化してばらつく可能性を抑制することができる。
スプリング64Bの周囲には、溝64Sから延長される板状部材の一部を折り曲げてスプリング64Bを囲うスプリング保持部64aを備えている。スプリング保持部64aは、スプリング64Bに遠心力が加わった場合でもクラッチ側摩擦係合部材64からスプリング64Bが脱洛する可能性を抑制することができる。スプリング保持部64aは、円環状のスプリング64の周方向の一部を囲っていればよい。
図26及び図27は、揺動ピンを説明するための説明図である。図26に示すように、揺動ピン68は、保持器62に取り付ける前の一端部68aaが棒状である。そして、揺動ピン68の一端部68aaは、クラッチ側摩擦係合部材64を貫通し、保持器62に設けられたピン挿入孔62hに挿入される。保持器62に挿入された、揺動ピン68の一端部68aaは、図27に示すようにかしめられ、変形してピン頭部68aとなる。ピン頭部68aは、保持器62に設けられたピン挿入孔62hの直径よりも軸方向に直交する方向に広がるため、揺動ピン68が軸方向に抜けにくくなる。このように、図25に示すピン頭部68aがかしめられて、揺動ピン68が保持器62に固定されるので、クラッチ側摩擦係合部材64も保持器62に取り付けられる。その結果、クラッチ側摩擦係合部材64は、揺動ピン68により軸方向に抜けにくくなり、保持器62に対して揺動することができる。
以上、実施形態1、2、3及び4について説明したが、上述した内容により実施形態1、2、3及び4が限定されるものではない。また、上述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、上述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、実施形態1、2、3及び4の発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換及び変更を行うことができる。