本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
図1は、本実施形態に係る電動車両の模式図である。電動車両100は、4輪駆動の車両であり、4輪それぞれのホイールに、インホイールモータである電動車両駆動装置が取り付けられている。電動車両100の前進方向に近い側の車輪を前輪といい、遠い側の車輪を後輪という。電動車両100の前進方向とは、電動車両100の運転席から操舵輪に向かう方向である。電動車両が6輪である場合は、電動車両の重心を境として、前進方向に近い側の車輪を前輪といい、遠い側の車輪を後輪という。また、電動車両100の前進方向に向かって右側を右といい、左側を左という。
前輪のホイールHwFR、HwFLにはそれぞれ電動車両駆動装置10FR、10FLが、後輪のホイールHwRR、HwRLにはそれぞれ電動車両駆動装置10RR、10RLが取り付けられている。電動車両駆動装置10FRと電動車両駆動装置10RRとは、電動車両100の前進方向に向かって同じ右側に配置されている。また電動車両駆動装置10FLと電動車両駆動装置10RLとは、電動車両100の前進方向に向かって同じ左側に配置されている。電動車両駆動装置10FRと電動車両駆動装置10FLとは、また電動車両駆動装置10RRと電動車両駆動装置10RLとは、左右が反転した構成である。また、電動車両駆動装置10FRと電動車両駆動装置10RRとは、また電動車両駆動装置10FLと電動車両駆動装置10RLとは、後で説明する、加速の場合において第1変速状態が可能である出力軸の回転方向が、逆であることを除いては構成が同じである。しかし、電動車両駆動装置10FRと電動車両駆動装置10RRとは、また電動車両駆動装置10FLと電動車両駆動装置10RLとは、加速の場合において第1変速状態が可能である出力軸の回転方向が逆の関係であれば、その他の構成が異なっていてもよい。
本実施形態に係る電動車両100を説明するにあたり、まず電動車両駆動装置10FRについて説明する。電動車両駆動装置10FLについては、電動車両駆動装置10FRを左右反転させた構成であるので、説明を省略する。図2は、本実施形態に係る電動車両駆動装置の構成を示す図である。インホイールモータである電動車両駆動装置10FRは、ケーシングGと、第1モータ11と、第2モータ12と、変速機構13と、減速機構40と、ホイール軸受50とを含む。ケーシングGは、第1モータ11と、第2モータ12と、変速機構13と、減速機構40とを収納する。
第1モータ11は、第1回転力TAを出力できる。第2モータ12は、第2回転力TBを出力できる。変速機構13は、第1モータ11と連結される。このような構造により、変速機構13は、第1モータ11が作動すると、第1モータ11から第1回転力TAが伝えられる(入力される)。また、変速機構13は、第2モータ12と連結される。このような構造により、変速機構13は、第2モータ12が作動すると、第2回転力TBが伝えられる(入力される)。ここでいうモータの作動とは、第1モータ11(第2モータ12)に電力が供給されて第1モータ11(第2モータ12)の入出力軸が回転することをいう。
変速機構13は、減速比(変速機構13への入力回転速度ωiと出力回転速度ωoとの比ωi/ωo)を変更できる。変速機構13は、第1遊星歯車機構20と、第2遊星歯車機構30と、ワンウェイクラッチ装置60とを含む。第1遊星歯車機構20は、シングルピニオン式の遊星歯車機構である。第1遊星歯車機構20は、第1サンギア21と、第1ピニオンギア22と、第1キャリア23と、第1リングギア24とを含む。第2遊星歯車機構30は、ダブルピニオン式の遊星歯車機構である。第2遊星歯車機構30は、第2サンギア31と、第2ピニオンギア32aと、第3ピニオンギア32bと、第2キャリア33と、第2リングギア34とを含む。
第1サンギア21は、回転軸Raを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第1サンギア21は、第1モータ11と連結される。このような構造により、第1サンギア21は、第1モータ11が作動すると、第1回転力TAが伝えられる。そして、第1サンギア21は、第1モータ11が作動すると、回転軸Raを中心に回転する。第1ピニオンギア22は、第1サンギア21と噛み合う。第1キャリア23は、第1ピニオンギア22が第1ピニオン回転軸Rp1を中心に回転(自転)できるように第1ピニオンギア22を保持する。第1ピニオン回転軸Rp1は、例えば、回転軸Raと平行である。
第1キャリア23は、回転軸Raを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。このような構造により、第1キャリア23は、第1ピニオンギア22が第1サンギア21を中心に、すなわち回転軸Raを中心に公転できるように第1ピニオンギア22を保持する。第1リングギア24は、回転軸Raを中心に回転(自転)できる。第1リングギア24は、第1ピニオンギア22と噛み合う。また、第1リングギア24は、第2モータ12と連結される。このような構造により、第1リングギア24は、第2モータ12が作動すると第2回転力TBが伝えられる。そして、第1リングギア24は、第2モータ12が作動すると、回転軸Raを中心に回転(自転)する。
ワンウェイクラッチ装置60は、ケーシングGと第1キャリア23との間に配置される。ワンウェイクラッチ装置60は、第1キャリア23の回転を規制できる。具体的には、ワンウェイクラッチ装置60は、回転軸Raを中心とした第1キャリア23の回転を規制(制動)する場合と、前記回転を許容する場合とを切り替えできる。以下、ワンウェイクラッチ装置60は、前記回転を規制(制動)する状態を係合状態といい、前記回転を許容する状態を非係合状態という。ワンウェイクラッチ装置60の詳細については後述する。
このように、第1キャリア23は、ワンウェイクラッチ装置60によってケーシングGと係合と分離とが可能となっている。すなわち、ワンウェイクラッチ装置60は、ケーシングGに対して第1キャリア23を回転自在としたり、ケーシングGに対して第1キャリア23を回転不能にしたりすることができる。
第2サンギア31は、回転軸Raを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第2サンギア31は、第1サンギア21を介して第1モータ11と連結される。具体的には、第1サンギア21と第2サンギア31とは、それぞれが同軸(回転軸Ra)で回転できるようにサンギアシャフト14に一体で形成される。そして、サンギアシャフト14は、第1モータ11と連結される。このような構造により、第2サンギア31は、第1モータ11が作動すると、回転軸Raを中心に回転する。
第2ピニオンギア32aは、第2サンギア31と噛み合う。第3ピニオンギア32bは、第2ピニオンギア32aと噛み合う。第2キャリア33は、第2ピニオンギア32aが第2ピニオン回転軸Rp2を中心に回転(自転)できるように第2ピニオンギア32aを保持する。また、第2キャリア33は、第3ピニオンギア32bが第3ピニオン回転軸Rp3を中心に回転(自転)できるように第3ピニオンギア32bを保持する。第2ピニオン回転軸Rp2及び第3ピニオン回転軸Rp3は、例えば、回転軸Raと平行である。
第2キャリア33は、回転軸Raを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。このような構造により、第2キャリア33は、第2ピニオンギア32a及び第3ピニオンギア32bが第2サンギア31を中心に、すなわち回転軸Raを中心に公転できるように第2ピニオンギア32a及び第3ピニオンギア32bを保持することになる。また、第2キャリア33は、第1リングギア24と連結される。このような構造により、第2キャリア33は、第1リングギア24が回転(自転)すると、回転軸Raを中心に回転(自転)する。第2リングギア34は、回転軸Raを中心に回転(自転)できる。第2リングギア34は、第3ピニオンギア32bと噛み合う。また、第2リングギア34は、変速機構13の入出力軸(変速機構入出力軸)15と連結される。このような構造により、第2リングギア34が回転(自転)すると、変速機構入出力軸15は回転する。
減速機構40は、変速機構13と電動車両100の車輪HFRとの間に配置される。そして、減速機構40は、変速機構入出力軸15の回転速度を減速して、入出力軸(減速機構入出力軸)16へ出力する。減速機構入出力軸16は、電動車両100の車輪HFRに連結されており、減速機構40と車輪HFRとの間で動力を伝達する。このような構造により、第1モータ11と第2モータ12との少なくとも一方が発生した動力は、変速機構13と減速機構40とを介して車輪HFRへ伝達されてこれを駆動する。また、車輪HFRからの入力は、減速機構40と変速機構13とを介して第1モータ11と第2モータ12との少なくとも一方に伝達される。この場合、第1モータ11と第2モータ12との少なくとも一方は、車輪HFRに駆動されて電力を発生することができる(回生)。
減速機構40は、第3サンギア41と、第4ピニオンギア42と、第3キャリア43と、第3リングギア44とを含む。第3サンギア41は、変速機構入出力軸15が取り付けられている。このような構造により、第3サンギア41と変速機構13の第2リングギア34とが変速機構入出力軸15を介して連結される。第4ピニオンギア42は、第3サンギア41と噛み合っている。第3キャリア43は、第4ピニオンギア42が第4ピニオン回転軸Rp4を中心として自転できるように、かつ、第4ピニオンギア42が第3サンギア41を中心に公転できるように第4ピニオンギア42を保持する。第3リングギア44は、第4ピニオンギア42と噛み合い、かつ、静止系(本実施形態ではケーシングG)に固定される。第3キャリア43は、減速機構入出力軸16を介して車輪HFRに連結されている。また、第3キャリア43は、ホイール軸受50によって回転可能に支持される。
電動車両駆動装置10FRは、変速機構13と車輪HFRとの間に減速機構40を介在させて、変速機構13の変速機構入出力軸15の回転速度を減速して車輪HFRを駆動する。このため、第1モータ11及び第2モータ12は、最大回転力が小さいものでも電動車両100に必要な駆動力を得ることができる。その結果、第1モータ11及び第2モータ12の駆動電流が小さくて済むとともに、これらを小型化及び軽量化することができる。そして、電動車両駆動装置10FRの製造コスト低減及び軽量化を実現できる。
制御装置1は、電動車両駆動装置10FRの動作を制御する。より具体的には、制御装置1は、第1モータ11及び第2モータ12の回転速度、回転方向及び出力を制御する。制御装置1は、例えば、マイクロコンピュータである。次に、電動車両駆動装置10FRにおける回転力の伝達経路について説明する。
図3は、本実施形態に係る電動車両駆動装置が第1変速状態にある場合に、回転力が伝わる経路を示す説明図である。電動車両駆動装置10FRは、第1変速状態と第2変速状態との2つの変速状態を実現できる。まずは、第1変速状態を電動車両駆動装置10FRが実現する場合を説明する。
第1変速状態は、いわゆるローギア状態の状態であり、減速比を大きくとることができる。すなわち、変速機構入出力軸15のトルクを大きくすることができる。第1変速状態は、主に、電動車両100が走行時に大きな駆動力を必要とする場合、例えば、発進するとき又は登坂時(坂道を登る時)等に用いられる。第1変速状態では、第1モータ11と第2モータ12とはともに動作するが、発生するトルクの大きさが等しく、かつトルクの向きが反対になる。第1モータ11の動力は、第1サンギア21に入力され、第2モータ12の動力は、第1リングギア24に入力される。第1変速状態において、ワンウェイクラッチ装置60は係合状態である。すなわち、第1変速状態において、第1キャリア23は、ケーシングGに対して回転できない状態となる。
第1変速状態の時に、第1モータ11が出力する回転力を第1回転力T1とし、第2モータ12が出力する回転力を第2回転力T5とする。図1に示す第1回転力T1、循環回転力T3、合成回転力T2、第1分配回転力T6及び第2分配回転力T4の各回転力は、各部位に作用するトルクを示し、単位はNmである。
第1モータ11から出力された第1回転力T1は、第1サンギア21に入力される。そして、第1回転力T1は、第1サンギア21で循環回転力T3と合流して、合成回転力T2となる。合成回転力T2は、第1サンギア21から出力される。循環回転力T3は、第1リングギア24から第1サンギア21に伝えられた回転力である。循環回転力T3の詳細については後述する。
第1サンギア21と第2サンギア31とは、サンギアシャフト14で連結されている。このため、第1変速状態において、第1回転力T1と循環回転力T3とが合成され、第1サンギア21から出力された合成回転力T2は、サンギアシャフト14を介して第2サンギア31に伝えられる。合成回転力T2は、第2遊星歯車機構30によって増幅される。また、合成回転力T2は、第2遊星歯車機構30によって第1分配回転力T6と第2分配回転力T4とに分配される。第1分配回転力T6は、合成回転力T2が第2リングギア34に分配されて増幅された回転力であり、変速機構入出力軸15から出力される。第2分配回転力T4は、合成回転力T2が第2キャリア33に分配されて増幅された回転力である。
第1分配回転力T6は、変速機構入出力軸15から減速機構40に出力される。そして、第1分配回転力T6は、減速機構40で増幅されて、図1に示す減速機構入出力軸16を介して車輪HFRに出力されて、これを駆動する。その結果、電動車両100は走行する。
第2キャリア33と第1リングギア24とが一体で回転しているため、第2キャリア33に分配された第2分配回転力T4は、第1リングギア24の循環回転力となる。そして、第2分配回転力T4は、第1リングギア24で、第2モータ12の第2回転力T5と合成されて、第1遊星歯車機構20に向かう。第2回転力T5、すなわち、第2モータ12の回転力の向きは、第1モータ11の回転力の向きとは反対である。
第1遊星歯車機構20に戻ってきた第1リングギア24における第2分配回転力T4及び第2回転力T5は、第1遊星歯車機構20によってその大きさが減少されるとともに、力の向きを逆転させられて、第1サンギア21における循環回転力T3となる。このようにして、第1遊星歯車機構20と第2遊星歯車機構30との間で動力(回転力)の循環が発生するので、変速機構13は、減速比を大きくすることができる。すなわち、電動車両駆動装置10は、第1変速状態のときに、大きなトルクを発生することができる。次に、合成回転力T2、循環回転力T3、第2分配回転力T4及び第1分配回転力T6の値の一例を説明する。
第2サンギア31の歯数をZ1とし、第2リングギア34の歯数をZ4とし、第1サンギア21の歯数をZ5とし、第1リングギア24の歯数をZ7とする。式(1)から式(4)に、電動車両駆動装置10の各部に作用する回転力(図2に示す合成回転力T2、循環回転力T3、第2分配回転力T4及び第1分配回転力T6)示す。なお、下記の式(1)〜式(4)で負の値となるものは、第1回転力T1とは逆方向の回転力である。
一例として、歯数Z1を47、歯数Z4を97、歯数Z5を24、歯数Z7を76とする。また、第1回転力T1を50Nmとし、第2回転力T5を50Nmとする。すると、合成回転力T2は99.1Nm、循環回転力T3は49.1Nm、第2分配回転力T4は−105.4Nm、第1分配回転力T6は204.5Nmとなる。このように、電動車両駆動装置10は、一例として第1モータ11が出力する第1回転力T1を約4倍に増幅して車輪HFRに出力できる。次に、第2変速状態を電動車両駆動装置10FRが実現する場合を説明する。
図4は、本実施形態に係る電動車両駆動装置が第2変速状態にある場合に、回転力が伝わる経路を示す説明図である。第2変速状態は、いわゆるハイギア状態の状態であり、減速比を小さくとることができる。すなわち、変速機構入出力軸15のトルクは小さくなるが、変速機構13の摩擦損失を小さくすることができる。第2変速状態では、第1モータ11と第2モータ12とはともに動作する。そして、第1モータ11及び第2モータ12が発生するトルクの大きさとトルクの向きとは等しくなる。第2変速状態のときに、第1モータ11が出力する回転力を第1回転力T7とし、第2モータ12が出力する回転力を第2回転力T8とする。
第2変速状態において、第1モータ11の動力は、第1サンギア21に入力され、第2モータ12の動力は、第1リングギア24に入力される。第2変速状態において、ワンウェイクラッチ装置60は非係合状態である。すなわち、第2変速状態において、第1ピニオンギア22は、ケーシングGに対して回転できる状態となる。その結果、第2変速状態では、第1遊星歯車機構20と第2遊星歯車機構30との間における回転力の循環が遮断される。また、第2変速状態では、第1キャリア23が自由に公転(回転)できるため、第1サンギア21と第1リングギア24とは相対的に自由に回転(自転)できる。なお、図4に示す合成回転力T9は、変速機構入出力軸15から出力されて減速機構40に伝えられるトルクを示し、単位はNmである。
第2変速状態では、第1回転力T7と第2回転力T8との比は、第2サンギア31の歯数Z1と第2リングギア34の歯数Z4との比で定まる。第1回転力T7は、第2キャリア33で第2回転力T8と合流する。その結果、第2リングギア34に合成回転力T9が伝わる。第1回転力T7と、第2回転力T8と、合成回転力T9とは、下記の式(5)を満たす。
変速機構入出力軸15の角速度(回転速度)は、第1モータ11によって駆動される第2サンギア31の角速度と、第2モータ12によって駆動される第2キャリア33の角速度とによって決定される。したがって、変速機構入出力軸15の角速度を一定としていても、第1モータ11の角速度と第2モータ12の角速度との組合せを変化させることができる。
このように、変速機構入出力軸15の角速度と第1モータ11の角速度と第2モータ12の角速度との組合せは一意に決定されないので、上述した第1変速状態から第2変速状態へ、あるいは第2変速状態から第1変速状態へ連続して移行させることができる。したがって、制御装置1は、第1モータ11の角速度と第2モータ12の角速度と回転力とを連続して滑らかに制御すると、第1変速状態と第2変速状態との間で変速機構13の状態が変化した場合でも、いわゆる変速ショックを小さくすることができる。
第2変速状態において、変速機構13は、第1サンギア21と第1リングギア24とは、互いに同方向に回転(自転)するため、第2サンギア31と第2キャリア33とも、互いに同方向に回転(自転)する。第2サンギア31の角速度を一定とした場合、第2キャリア33の角速度が速くなるほど、第2リングギア34の角速度は速くなる。また、第2キャリア33の角速度が遅くなるほど、第2リングギア34の角速度は遅くなる。このように、第2リングギア34の角速度は、第2サンギア31の角速度と、第2キャリア33の角速度とによって連続的に変化する。すなわち、電動車両駆動装置10FRは、第2モータ12が出力する第2回転力T8の角速度が変化することで、変速比を連続的に変更できる。
また、電動車両駆動装置10FRは、第2リングギア34の角速度を一定にしようとする際に、第1モータ11が出力する第1回転力T7の角速度と、第2モータ12が出力する第2回転力T8の角速度との組合せを複数有する。すなわち、第2モータ12が出力する第2回転力T8の角速度が変化することで、第1モータ11が出力する第1回転力T7の角速度が変化しても、第2リングギア34の角速度を一定に維持できる。このため、電動車両駆動装置10FRは、第1変速状態から第2変速状態に切り替わる際に、第2リングギア34の角速度の変化量を低減できる。結果として、電動車両駆動装置10FRは、変速ショックを低減できる。
次に、第2モータ12が出力する第2回転力T8について説明する。第2モータ12は、式(6)を満たす第2回転力T8以上の回転力を出力する必要がある。なお、式(6)中の、1−(Z4/Z1)は、第2サンギア31と第2リングギア34との間の回転力比を示す。
したがって、第1モータ11が任意に回転する際に第2リングギア34の回転力及び角速度を調節するためには、第1回転力TAと、第2回転力TBと、歯数Z1と、歯数Z4とは、下記の式(7)を満たせばよい。なお、第1回転力TAは第1モータ11の任意の角速度での回転力であり、第2回転力TBは第2モータ12の任意の角速度での回転力である。
次に、ワンウェイクラッチ装置60について説明する。いわゆるワンウェイクラッチ装置は、第1方向の回転力のみを伝達し、第1方向とは逆方向である第2方向の回転力を伝達しない。すなわち、ワンウェイクラッチ装置60は、図1から図3に示す第1キャリア23が第1方向に回転しようとする際に係合状態となり、第1キャリア23が第2方向に回転しようとする際に非係合状態となる。ワンウェイクラッチ装置60は、例えば、カムクラッチ装置又はローラクラッチ装置である。以下において、ワンウェイクラッチ装置60はカムクラッチ装置であるものとして、ワンウェイクラッチ装置60の構成を説明する。
図5−1は、本実施形態のワンウェイクラッチ装置60を示す説明図である。図6は、本実施形態のワンウェイクラッチ装置60のカムを拡大して示す説明図である。図5に示すように、ワンウェイクラッチ装置60は、第2部材としての内輪61と、第1部材としての外輪62と、係合部材としてのカム63とを含む。なお、内輪61が第1部材として機能し、外輪62が第2部材として機能してもよい。内輪61及び外輪62は、筒状部材である。内輪61は、外輪62の内側に配置される。内輪61と外輪62とのうちの一方は、第1キャリア23に連結され、他方はケーシングGに連結される。本実施形態では、内輪61は第1キャリア23に連結され、外輪62はケーシングGに連結される。カム63は、略円柱状の棒状部材である。ただし、棒状部材の中心軸に直交する仮想平面で切ったカム63の断面形状は、真円ではなく歪な形状である。カム63は、内輪61の外周部と外輪62の内周部との間に、内輪61及び外輪62の周方向に沿って複数設けられる。
図6に示すように、ワンウェイクラッチ装置60は、ワイヤゲージ64と、ガータスプリング65とを含む。ワイヤゲージ64は、弾性部材である。ワイヤゲージ64は、複数のカム63が分散しないようにまとめる。ガータスプリング65は、カム63が内輪61及び外輪62に常に接触するようにカム63に力を与える。これにより、内輪61又は外輪62に回転力が作用した際に、カム63は迅速に内輪61及び外輪62と噛み合うことができる。よって、ワンウェイクラッチ装置60は、非係合状態から係合状態に切り替わる際に要する時間を低減できる。なお、非係合状態では、内輪61と外輪62との間で力は伝達されていない。また、係合状態では、内輪61と外輪62との間で力は伝達されている。
ワンウェイクラッチ装置60は、内輪61に第1方向の回転力が作用すると、カム63が内輪61及び外輪62と噛み合う。これにより、内輪61と外輪62との間で回転力が伝達され、第1キャリア23は、ケーシングGから反力を受ける。その結果、ワンウェイクラッチ装置60は、第1キャリア23の回転を規制できる。また、ワンウェイクラッチ装置60は、内輪61に第2方向の回転力が作用すると、カム63が内輪61及び外輪62と噛み合わない。これにより、内輪61と外輪62との間で回転力が伝達されず、第1キャリア23は、ケーシングGから反力を受けない。このため、ワンウェイクラッチ装置60は、第1キャリア23の回転を規制しない。このようにして、ワンウェイクラッチ装置60は、一方向のみの回転を規制するワンウェイクラッチ装置としての機能を実現する。
本実施形態の場合、ワンウェイクラッチ装置60は、第1変速状態、すなわち第1モータ11及び第2モータ12が作動している状態であって、前輪である車輪HFRを後退させるように第1モータ11が回転力を出力する場合、図2に示す第1キャリア23が回転(自転)する方向に内輪61が回転すると係合状態となる。すなわち、上述の第1方向は、前輪である車輪HFRを後退させるように第1モータ11が回転力を出力し、かつ、第2モータ12が作動していない際に第2部材としての内輪61が回転する方向である。この状態で、第2モータ12が第1モータ11の回転方向とは反対方向に回転して、第1モータ11の回転力とは反対向きの回転力を出力している場合に、変速機構13は、第1変速状態となる。ワンウェイクラッチ装置60は、電動車両100が後退加速する場合の、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FRにおける第1キャリア23の回転方向を規制しているといえる。
また、前輪である車輪HFRを後退させるように第1モータ11が回転力を出力している状態で、第2モータ12が作動して、第1モータ11の回転方向と同じ方向に回転して、第1モータ11の回転力と同じ向きの回転力を出力している場合に、第2キャリア33の回転方向は逆転する。その結果、ワンウェイクラッチ装置60は、第2変速状態の場合、すなわち第1モータ11及び第2モータ12が作動して同じ方向に回転力を出力し、かつ、前輪である車輪HFRを前進させるように第1モータ11及び第2モータ12が回転力を出力する場合に非係合状態となる。このように、ワンウェイクラッチ装置60は、第1モータ11の回転力の方向と第2モータ12の回転力の方向とによって、受動的に係合状態と非係合状態とを切り替えできる。すなわち、電動車両100が加速する場合、第1キャリア23の回転方向は、第1モータ11及び第2モータ12の回転方向と、電動車両駆動装置10FRが駆動することにより路面から生じる反力とによって決まる。第1変速状態にすることができるのは、第1モータ11が、電動車両100を後退させるような方向に回転する場合であり、第1モータ11が電動車両100を前進させるような方向に回転する場合は、電動車両駆動装置10FRは、常に第2変速状態をとる。すなわち、電動車両100が加速する場合、電動車両駆動装置10FRの減速機構入出力軸16は、変速可能な回転方向が、電動車両100を後退させるような方向に決まっている。
ワンウェイクラッチ装置60は、ローラクラッチ装置でもよい。ただし、カムクラッチ装置は、回転力(トルク)容量がローラクラッチ装置よりも大きい。すなわち、カムクラッチ装置は、内輪61と外輪62との間で伝達できる力の大きさがローラクラッチ装置よりも大きい。このため、ワンウェイクラッチ装置60は、カムクラッチ装置である方が、より大きな回転力を伝達できる。さらに、ワンウェイクラッチ装置60は、カムクラッチ装置である方が、カム63が内輪61及び外輪62から分離する際の空転摩擦をローラクラッチ装置よりも小さくすることができる。このため。電動車両駆動装置10FR全体の摩擦損失を低減し、効率を向上させることができる。第1変速状態と第2変速状態とは、制御装置1が第1モータ11及び第2モータ12の回転力と回転方向とを制御することにより切り替えられる。
ワンウェイクラッチ装置60は、スプラグ式ワンウェイクラッチ装置であってもよい。スプラグ式ワンウェイクラッチは、摩擦係合部材としてスプラグが用いられているので、円に類似した底面を持つカムの数よりも多数のスプラグをワンウェイクラッチ装置60に配置することができる。その結果、ワンウェイクラッチ装置60と同一の取付寸法を持つカムクラッチ装置のトルク容量よりも、ワンウェイクラッチ装置60のトルク容量を大きくすることができる。のトルク容量を大きくすることができるので、車輪HFRに出力される第1分配回転力T6の最大値を大きくすることができる。
また、ワンウェイクラッチ装置60は、シリンダ内のピストンを作動流体によって移動させることで2つの回転部材を係合させたり、電磁アクチュエータによって2つの回転部材を係合させたりする方式のクラッチ装置と比較して、ピストンを移動させるための機構を必要とせず、電磁アクチュエータを作動させるための電力も必要としない。ワンウェイクラッチ装置60は、内輪61又は外輪62(本実施形態では内輪61)に作用する回転力の方向が切り替えられることで、係合状態と非係合状態とを切り替えできる。よって、ワンウェイクラッチ装置60は、ワンウェイクラッチ装置ではない場合と比較して、部品点数を低減でき、かつ、自身(ワンウェイクラッチ装置60)を小型化できる。
本実施形態では、電動車両駆動装置10FRが、変速機構13と減速機構40とを介して、第1モータ11及び第2モータ12の動力を車輪HFRに伝達してこれを駆動する例を説明した。しかし、電動車両駆動装置10FRは、減速機構40を備えていなくてもよい。この場合、変速機構13の第2リングギア34を変速機構13の出力部とし、第2リングギア34と車輪HFRとを連結して車輪HFRを駆動する。次に、電動車両駆動装置10FRの構造の一例を説明する。
図7は、本実施形態に係る電動車両駆動装置の内部構造を示す図である。次の説明において、上述した構成要素については重複する説明は省略し、図中において同一の符号で示す。図7に示すように、ケーシングGは、第1ケーシングG1と、第2ケーシングG2と、第3ケーシングG3と、第4ケーシングG4とを含む。第1ケーシングG1と、第2ケーシングG2と、第4ケーシングG4とは、筒状の部材である。第2ケーシングG2は、第1ケーシングG1よりも車輪HFR側に設けられる。第1ケーシングG1と第2ケーシングG2とは、例えば複数のボルトで締結される。
第3ケーシングG3は、第1ケーシングG1の2つの開口端のうち第2ケーシングG2とは反対側の開口端、すなわち、第1ケーシングG1の電動車両の車体側の開口端に設けられる。第1ケーシングG1と第3ケーシングG3とは、例えば複数のボルト52で締結される。このようにすることで、第3ケーシングG3は、第1ケーシングG1の開口を塞ぐ。第4ケーシングG4は、第1ケーシングG1の内部に設けられる。第1ケーシングG1と第4ケーシングG4とは、例えば複数のボルトで締結される。
図7に示すように、第1モータ11は、第1ステータコア11aと、第1コイル11bと、第1ロータ11cと、第1磁気パターンリング11dと、第1モータ出力軸11eとを含む。第1ステータコア11aは、筒状の部材である。第1ステータコア11aは、図7に示すように、第1ケーシングG1に嵌め込まれるとともに、第1ケーシングG1と第3ケーシングG3とに挟み込まれて位置決め(固定)される。第1コイル11bは、第1ステータコア11aの複数個所に設けられる。第1コイル11bは、インシュレータを介して第1ステータコア11aに巻きつけられる。
第1ロータ11cは、第1ステータコア11aの径方向内側に配置される。第1ロータ11cは、第1ロータコア11c1と、第1マグネット11c2とを含む。第1ロータコア11c1は、筒状の部材である。第1マグネット11c2は、第1ロータコア11c1の内部又は外周部に複数設けられる。第1モータ出力軸11eは、棒状の部材である。第1モータ出力軸11eは、第1ロータコア11c1と連結される。第1磁気パターンリング11dは、第1ロータコア11c1に設けられて、第1ロータコア11c1と同軸で回転する。第1磁気パターンリング11dは、第1ロータコア11c1の回転角度を検出する際に用いられる。
第2モータ12は、第2ステータコア12aと、第2コイル12bと、第2ロータ12cと、第2磁気パターンリング12dとを含む。第2ステータコア12aは、筒状の部材である。第2ステータコア12aは、第1ケーシングG1と第2ケーシングG2とに挟み込まれて位置決め(固定)される。第2コイル12bは、第2ステータコア12aの複数個所に設けられる。第2コイル12bは、インシュレータを介して第2ステータコア12aに巻きつけられる。
第2ロータ12cは、第2ステータコア12aの径方向内側に設けられる。第2ロータ12cは、ワンウェイクラッチ装置60とともに、回転軸Raを中心に回転できるように、第4ケーシングG4によって支持される。第2ロータ12cは、第2ロータコア12c1と、第2マグネット12c2とを含む。第2ロータコア12c1は、筒状の部材である。第2マグネット12c2は、第2ロータコア12c1の内部又は外周部に複数設けられる。第2磁気パターンリング12dは、第2ロータコア12c1に設けられて、第2ロータコア12c1と同軸で回転する。第2磁気パターンリング12dは、第2ロータコア12c1の回転角度を検出する際に用いられる。
図7に示すように、減速機構40は、例えば複数のボルト54で第2ケーシングG2に締結されて取り付けられる。本実施形態では、減速機構40が有する第3リングギア44が第2ケーシングG2に取り付けられる。減速機構40の第3キャリア43の一端部には、外輪45が取り付けられている。外輪45と第3リングギア44との間には、ホイール軸受50の転動体が介在している。このような構造により、第3キャリア43は、第3リングギア44の外周部に、外輪45を介して回転可能に支持される。
第3キャリア43には、車輪HFRのホイールHwFRが取り付けられる。ホイールHwFRは、スタッドボルト51Bとナット51Nとによって、第3キャリア43の回転軸と直交する面に締結される。ホイールHwFRにはタイヤHtFRが取り付けられる。電動車両の車輪HFRは、ホイールHwFRとタイヤHtFRとで構成される。この例において、車輪HFRは、第3キャリア43に直接取り付けられている。このため、第3キャリア43は、図1に示す減速機構入出力軸16を兼ねている。
懸架装置取付部53は、第2ケーシングG2に設けられる。具体的には、懸架装置取付部53は、第2ケーシングG2のうち、電動車両駆動装置10FRが電動車両100の車体に取り付けられた際に鉛直方向上側及び下側となる部分に設けられる。鉛直方向上側の懸架装置取付部53は、上部ナックル53Naを含み、鉛直方向下側の懸架装置取付部53は、下部ナックル53Nbを含む。上部ナックル53Naと下部ナックル53Nbとに、懸架装置のアームが取り付けられて、電動車両駆動装置10FRは、電動車両100の車体に支持される。
第1モータ出力軸11eとサンギアシャフト14とは、第1嵌合部56Aで連結される。このような構造により、第1モータ11とサンギアシャフト14との間で動力が伝達される。第1嵌合部56Aは、例えば、第1モータ出力軸11eの内周面に形成されたスプラインと、サンギアシャフト14の第1モータ11側における端部に形成されて、前記スプラインと嵌合するスプラインとで構成される。このような構造により、回転軸Ra方向における第1モータ出力軸11eとサンギアシャフト14との熱伸び等が吸収される。
変速機構入出力軸15は、変速機構13が有する第2リングギア34と、減速機構40が有する第3サンギア41のシャフト(第3サンギアシャフト)41Sとを連結する。このような構造により、変速機構13の第2遊星歯車機構30と減速機構40の第3サンギアシャフト41Sとの間で動力が伝達される。変速機構入出力軸15と第3サンギアシャフト41Sとは、第2嵌合部56Bで連結される。第2嵌合部56Bは、例えば、変速機構入出力軸15の内周面に形成されたスプラインと、第3サンギアシャフト41Sの第2モータ12側における端部に形成されて、前記スプラインと嵌合するスプラインとで構成される。このような構造により、回転軸Ra方向における変速機構入出力軸15と第3サンギアシャフト41Sとの熱伸び等が吸収される。
上述した構造により、電動車両駆動装置10FRは、車輪HFRを保持し、かつ、第1モータ11及び第2モータ12から出力された回転力を車輪HFRに伝達することで、電動車両100を走行させることができる。なお、本実施形態では、第1モータ11と、第2モータ12と、第1サンギア21と、第1キャリア23と、第1リングギア24と、第2サンギア31と、第2キャリア33と、第2リングギア34と、第3サンギア41と、第3キャリア43と、第3リングギア44とがすべて同軸上に配置されているが、電動車両駆動装置10FRは、必ずしもこれらの構成要素が同軸上に配置されなくてもよい。次に、第1モータ11及び第2モータ12の角速度(回転速度)を検出する構造を説明する。
第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとは、第1モータ11と第2モータ12との間に介在するケーシングG1の仕切り壁G1Wを隔てて、互いに対向して配置される。すなわち、第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとは、それぞれ仕切り壁G1Wに対向している。第1磁気パターンリング11d及び第2磁気パターンリング12dは、円環状の薄い金属板の表面に、薄い磁石層が形成されたものである。第1磁気パターンリング11d及び第2磁気パターンリング12dは、中央部に開口部を有し、開口部を、図6に示すサンギアシャフト14が貫通する。第1磁気パターンリング11d及び第2磁気パターンリング12dの磁石層には磁気パターンが着磁されている。このような構造により、第1磁気パターンリング11d及び第2磁気パターンリング12dは、大径であっても、レゾルバと比較して大幅に軽量化することができる。
磁気検出器(磁気ピックアップセンサ)は、第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとに対して1個ずつ用意されて、ケーシングGの第1ケーシングG1の内側に取り付けられる。磁気検出器は、第1ケーシングG1の仕切り壁G1Wの両側、かつ仕切り壁G1Wが有する貫通孔の外側に配置される。貫通孔は、図6に示すサンギアシャフト14が貫通する。このような構造により、それぞれの磁気検出器は、第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとに対向して配置される。
それぞれの磁気検出器は、第1磁気パターンリング11dと第2磁気パターンリング12dとの磁束を検出して、第1モータ11の第1ロータ11cと第2ロータ12cとの絶対角度を算出する。次に、電動車両駆動装置10FRを電動車両に用いた場合の制御を説明する。
図8は、車両を走行させるモータに要求される回転力(トルク)と角速度(回転速度)との関係を示す図である。一般的に、モータの回転力(トルク)と角速度(回転速度)の関係は、一定の回転力の領域における上限回転速度と最高回転速度との比は、1:2程度である。また、最大の回転力と、最高回転速度における最大の回転力との比は、2:1程度である。これに対して、車両を走行させる場合、図8の実線で示す車両の走行特性曲線Caから、一定の回転力の領域における上限回転速度N1と最高回転速度N2との比は1:4程度である。また、車両を走行させる場合、最大の回転力Tq1と、最高回転速度における最大の回転力Tq2との比は、4:1程度である。
したがって、モータで車両を走行させる場合、一段目の変速比と二段目の変速比との比率(段間比)が2程度の変速を行うことが好ましい。このようにすることで、モータのNT特性(回転速度と回転力との関係)の全領域で、過不足なく車両の走行特性曲線Caをカバーすることができ、必要最小限の出力を有するモータで、車両に必要な動力性能を確保できる。
図8の点線で示すNT特性曲線CLは、電動車両駆動装置10FRの第1変速状態(ローギア)であり、一点鎖線で示すNT特性曲線CHは、電動車両駆動装置10FRの第2変速状態(ハイギア)である。このように、第1変速状態と第2変速状態とを用いることにより、車両の走行特性曲線Caを過不足なくカバーすることができる。二点鎖線で示すNT特性曲線Cbは、変速を行わないで車両の走行特性曲線Caをカバーしようとした場合に必要なNT特性を示している。一般に、モータは、一定の回転力の領域における上限回転速度と最高回転速度との比が1:2程度であるため、一つのモータで走行特性曲線Caをカバーする場合、モータにはNT特性曲線Cbのような特性が要求される。その結果、モータに過剰な性能が必要になり、無駄が多くなるとともにコスト及び質量の増加を招く。
モータの効率に注目すると、モータの効率が高い領域は、最大回転力から最高回転速度に向かって推移する定出力領域(NT特性曲線CL又はNT特性曲線CHの曲線部分)の中間部分AL、AHにある。電動車両駆動装置10FRは、変速により、この中間部分AL、AHを積極的に活用して、効率を向上させることができる。変速を行わない場合、NT特性曲線Cbのようなモータが必要になるが、この場合、走行特性曲線Caにおいて使用頻度の低い領域(例えば、低速で高い回転力が必要な領域又は最高速に近い領域)でモータの効率が最も高くなってしまう。このため、モータを効率よく使用する観点からは、電動車両駆動装置10FRのように、減速比を変更して用いることが好ましい。
電動車両駆動装置10FRで、第1モータ11と第2モータ12との両方が動作する場合、変速機構13の総合減速比RR=(α+β−1)/(α−β−1)である。これは、第1変速状態のみであり、第2変速状態ではR=1である。αは、第2遊星歯車機構30の遊星比であり、βは、第1遊星歯車機構20の遊星比である。遊星比は、リングギアの歯数をサンギアの歯数で除した値である。したがって、第2遊星歯車機構30の遊星比αは、第2リングギア34の歯数/第2サンギア31の歯数であり、第1遊星歯車機構20の遊星比βは、第1リングギア24の歯数/第1サンギア21の歯数である。図1に示す電動車両駆動装置10FRで、段間比2を実現するためには、第2遊星歯車機構30の遊星比α(>1)を1.90以上2.10以下の範囲とし、第1遊星歯車機構20の遊星比β(>1)を2.80以上3.20以下の範囲とすることが好ましい。
電動車両駆動装置10FRは、電動車両100のばね下に配置されるので、できる限り軽量であることが好ましい。電動車両駆動装置10FRを軽量化するために、第1モータ11及び第2モータ12の巻き線(第1コイル11b及び第2コイル12b)にアルミニウム(アルミニウム合金を含む)を用いる手法がある。アルミニウムの比重は銅の比重の30%程度なので、第1モータ11及び第2モータ12の巻き線を銅からアルミニウムに置き換えると、巻き線の質量を70%低下させることができる。このため、第1モータ11、第2モータ12及び電動車両駆動装置10FRを軽量化することができる。しかし、アルミニウムの導電率は、一般に巻き線に用いられる銅の導電率の60%程度であるので、銅線を単にアルミニウム線に置き換えるのみでは、性能低下及び発熱量の増加を招くおそれがある。
電動車両駆動装置10FRは、減速機構40を用いるとともに、変速機構13で減速比を変更する。このため、第1モータ11及び第2モータ12に必要とされる回転力が比較的小さくて済むので、第1モータ11及び第2モータ12に流れる電流も比較的小さくなる。このため、本実施形態において、第1モータ11の第1コイル11b及び第2モータ12の第2コイル12bに、銅線の代わりにアルミニウム線を用いたとしても、性能低下及び発熱量の増加はほとんど発生しない。したがって、本実施形態において、電動車両駆動装置10FRは、第1モータ11及び第2モータ12の巻き線(第1コイル11b及び第2コイル12b)にアルミニウム(アルミニウム合金を含む)を用いて軽量化を実現する。
第1モータ11及び第2モータ12の巻き線にアルミニウムを用いる場合、銅クラッドアルミニウム線を用いることが好ましい。銅クラッドアルミニウム線は、アルミニウム線の外側に銅を一様に被覆し、銅とアルミニウムとの境界を強固に金属結合させたものである。銅クラッドアルミニウム線は、アルミニウム線と比較して、はんだ付けしやすく、端子との接続部の信頼性も高い。銅クラッドアルミニウムの比重は銅の比重の40%程度なので、第1モータ11及び第2モータ12の巻き線を銅からアルミニウムに置き換えると、巻き線の質量を60%低下させることができる。その結果、第1モータ11、第2モータ12及び電動車両駆動装置10FRを軽量化することができる。
図9は、本実施形態の変形例に係る電動車両駆動装置の構成を示す説明図である。図9に示す電動車両駆動装置10FRaは、上述した実施形態の電動車両駆動装置10FRと変速機構の構成が異なる。次においては、電動車両駆動装置10FRが有する構成要素と同様の構成要素は、同一の符号を付して説明を省略する。電動車両駆動装置10FRaは、変速機構13aを含む。変速機構13aは、第1モータ11と連結されて第1モータ11が出力した回転力が伝えられる(入力される)。また、変速機構13aは、第2モータ12と連結されて第2モータ12が出力した回転力が伝えられる(入力される)。そして、変速機構13aは、変速機構入出力軸15によって減速機構40と連結され、変速された回転力を減速機構40に伝える(出力する)。減速機構40は、電動車両駆動装置10FRが有するものと同様である。
変速機構13aは、第1遊星歯車機構70と、第2遊星歯車機構80と、ワンウェイクラッチ装置90とを含む。第1遊星歯車機構70は、シングルピニオン式の遊星歯車機構である。第1遊星歯車機構70は、第1サンギア71と、第1ピニオンギア72と、第1キャリア73と、第1リングギア74とを含む。第2遊星歯車機構80は、ダブルピニオン式の遊星歯車機構である。第2遊星歯車機構80は、第2サンギア81と、第2ピニオンギア82aと、第3ピニオンギア82bと、第2キャリア83と、第2リングギア84とを含む。第2遊星歯車機構80は、第1遊星歯車機構70よりも第1モータ11及び第2モータ12側に配置される。
第2サンギア81は、回転軸Raを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第2サンギア81は、第1モータ11と連結される。よって、第1モータ11が作動すると、第2サンギア81は、第1回転力TAが伝えられる。これにより、第2サンギア81は、第1モータ11が作動すると、回転軸Raを中心に回転する。第2ピニオンギア82aは、第2サンギア81と噛み合う。第3ピニオンギア82bは、第2ピニオンギア82aと噛み合う。第2キャリア83は、第2ピニオンギア82aが第2ピニオン回転軸Rp2を中心に回転(自転)できるように第2ピニオンギア82aを保持する。第2キャリア83は、第3ピニオンギア82bが第3ピニオン回転軸Rp3を中心に回転(自転)できるように第3ピニオンギア82bを保持する。第2ピニオン回転軸Rp2は、例えば、回転軸Raと平行である。第3ピニオン回転軸Rp3は、例えば、回転軸Raと平行である。
第2キャリア83は、回転軸Raを中心に回転できるようにケーシングG内に支持される。これにより、第2キャリア83は、第2ピニオンギア82a及び第3ピニオンギア82bが第2サンギア81を中心に、すなわち回転軸Raを中心に公転できるように第2ピニオンギア82a及び第3ピニオンギア82bを保持することになる。第2リングギア84は、回転軸Raを中心に回転(自転)できる。第2リングギア84は、第3ピニオンギア82bと噛み合う。また、第2リングギア84は、第2モータ12と連結される。よって、第2モータ12が作動すると、第2リングギア84は、第2回転力TBが伝えられる。これにより、第2リングギア84は、第2モータ12が作動すると、回転軸Raを中心に回転(自転)する。
第1サンギア71は、回転軸Raを中心に回転(自転)できるようにケーシングG内に支持される。第1サンギア71は、第2サンギア81を介して第1モータ11と連結される。具体的には、第1サンギア71と第2サンギア81とは、同軸(回転軸Ra)で回転できるようにサンギアシャフト94に一体で形成される。そして、サンギアシャフト94は、第1モータ11と連結される。これにより、第1サンギア71は、第2モータ12が作動すると、回転軸Raを中心に回転する。
第1ピニオンギア72は、第1サンギア71と噛み合う。第1キャリア73は、第1ピニオンギア72が第1ピニオン回転軸Rp1を中心に回転(自転)できるように第1ピニオンギア72を保持する。第1ピニオン回転軸Rp1は、例えば、回転軸Raと平行である。第1キャリア73は、回転軸Raを中心に回転できるようにケーシングG内に支持される。これにより、第1キャリア73は、第1ピニオンギア72が第1サンギア71を中心に、すなわち回転軸Raを中心に公転できるように第1ピニオンギア72を保持することになる。
また、第1キャリア73は、第2リングギア84と連結される。これにより、第1キャリア73は、第2リングギア84が回転(自転)すると、回転軸Raを中心に回転(自転)する。第1リングギア74は、第1ピニオンギア72と噛み合う。また、第1リングギア74は、減速機構40の第3サンギア41(図2参照)と連結される。このような構造により、第1リングギア74が回転(自転)すると、減速機構40の第3サンギア41が回転する。ワンウェイクラッチ装置90は、図2に示す電動車両駆動装置10FRが有すると同様に、第2キャリア83の回転を規制できる。具体的には、ワンウェイクラッチ装置90は、回転軸Raを中心とした第2キャリア83の回転を規制(制動)する場合と、前記回転を許容する場合とを切り替えできる。電動車両駆動装置10FRaは、上述した電動車両駆動装置10FRと同様の原理により、電動車両駆動装置10FRが奏する効果と同様の効果を奏する。
次に、電動車両駆動装置10RRについて説明する。電動車両駆動装置10RRは、電動車両駆動装置10FRにおいて、ワンウェイクラッチ装置60の代わりにワンウェイクラッチ装置600が使われている他は電動車両駆動装置10FRと同様の構成である。図5−2は、本実施形態に係るワンウェイクラッチ装置600を示す説明図である。ワンウェイクラッチ装置600は、ワンウェイクラッチ装置60を、図5−1の紙面裏側から見たものと等しい。ワンウェイクラッチ装置600は、カム63の断面形状を左右反転させた断面形状を有するカム603を、内輪601と外輪602との間に配置したものである。第1変速状態、すなわち第1モータ11及び第2モータ12が作動している状態であって、後輪である車輪HRRを前進させるように第1モータ11が回転力を出力する場合に、図2に示す第1キャリア23が回転(自転)する方向に内輪601が回転すると係合状態となる。すなわち、ワンウェイクラッチ装置600のカム603が内輪601及び外輪602と噛み合う場合の、内輪601に働く回転力の方向は、ワンウェイクラッチ装置60のカム63が内輪61及び外輪62と噛み合う場合の、内輪61に働く回転力の方向とは逆である。すなわち、ワンウェイクラッチ装置600における第1方向の回転力とは、後輪である車輪HRRを前進させるように第1モータ11が回転力を出力し、かつ、第2モータが作動していない際に第2部材としての内輪61が回転する方向の回転力である。この状態で、第2モータ12が第1モータ11の回転方向とは反対方向に回転して、第1モータ11の回転力とは反対向きの回転力を出力している場合に、変速機構13は、第1変速状態となる。
また、後輪である車輪HRRを後退させるように第1モータ11が回転力を出力している状態で、第2モータ12が作動して、第1モータ11の回転方向と同じ方向に回転して、第1モータ11の回転力と同じ向きの回転力を出力している場合に、第2キャリア33の回転方向は逆転する。その結果、ワンウェイクラッチ装置600は、第2変速状態の場合、すなわち第1モータ11及び第2モータ12が作動して同じ方向に回転力を出力し、かつ、後輪である車輪HRRを後退させるように第1モータ11及び第2モータ12が回転力を出力する場合に非係合状態となる。
内輪601は、本実施形態では、第1キャリア23に連結されている。このため、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FRにおいて、ワンウェイクラッチ装置60により規制できる第1キャリア23の回転方向と、電動車両駆動装置10FRと同じ右側にある後輪を駆動する電動車両駆動装置10RRにおいてワンウェイクラッチ装置600により規制できる第1キャリア23の回転方向とが逆方向となっている。同時に、電動車両駆動装置10FLが備えるワンウェイクラッチ装置により規制できる第1キャリア23の回転方向と、電動車両駆動装置10RLが備えるワンウェイクラッチ装置により規制できる第1キャリア23の回転方向とも、逆方向である。すなわち、電動車両100が加速する場合において、第1変速状態をとることのできる、電動車両駆動装置10FRの出力軸の回転方向AFRと電動車両駆動装置10RRの出力軸の回転方向ARRとが逆方向である。また、電動車両100が加速する場合において、第1変速状態をとることのできる、電動車両駆動装置10FLの出力軸の回転方向AFLと電動車両駆動装置10RLの出力軸の回転方向ARLとが逆方向である。なお、図1における回転方向AFR、AFL、ARR、ARLは、各電動車両駆動装置の出力軸の回転方向を、電動車両100の上側から見た方向を表す。上側とは、電動車両100が走行する路面側とは反対の側のことをいう。
ここで、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR、10FLにおけるワンウェイクラッチ装置が規制できる前記第1キャリア23の回転方向と、前輪と同じ側にある後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR、10RLにおけるワンウェイクラッチ装置が規制できる前記第1キャリア23の回転方向とが、逆方向であることの効果について説明する。
上述のように、電動車両100の4輪すべてにおいて、電動車両が加速する場合に、電動車両駆動装置の出力軸の、第1変速状態が可能な方向を同じにした場合、前進側の最大駆動トルクと後退側の最大駆動トルクの比は、段間差R以外に設定することができない。
一方、車両は一般的に、前進側1速(無段変速機においては最大減速比)と後退側の減速比は、近い値になっている。したがって、電動車両の4輪すべてにおいて、第1変速状態が可能な方向を同じにした場合、前進側又は後退側どちらかの駆動力を満たすようにすると、もう一方の駆動力が過大又は過小になるおそれがある。また、前進側及び後進側両方の駆動力を満たすようにすると、大型のインホイールモータが必要となる。
本実施形態の電動車両100は、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR及び電動車両駆動装置10FLが、電動車両100を後退加速させる方向で第1変速状態をとることができるように構成してあり、後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR及び電動車両駆動装置10RLが、電動車両100を前進加速させる方向で第1変速状態をとることができるように構成してある。すなわち、電動車両100が後退加速する場合の、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR及び電動車両駆動装置10FLの第1キャリア23の回転方向を、それぞれのワンウェイクラッチ装置が規制できるように構成してあり、電動車両100が前進加速する場合の、後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR及び電動車両駆動装置10RLの第1キャリア23の回転方向を、それぞれのワンウェイクラッチ装置が規制できるように構成してある。
第1変速状態と第2変速状態との段間差をRとし、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR及び電動車両駆動装置10FLの第1変速状態のトルクがRxNmであり、後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR及び電動車両駆動装置10RLの第1変速状態のトルクがRyNmであるとする。電動車両100が前進加速するとき、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR及び電動車両駆動装置10FLが第2変速状態であり、後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR及び電動車両駆動装置10RLが、第1変速状態である場合に最大駆動トルクが得られる。したがって、電動車両100が前進するときの最大駆動トルクは、2(x+Ry)Nmである。一方、電動車両100が後退加速する場合、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR及び電動車両駆動装置10FLは第1変速状態であり、後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR及び電動車両駆動装置10RLは、第2変速状態である場合に最大駆動トルクが得られる。したがって、電動車両100が後退するときの最大駆動トルクは、2(Rx+y)である。
電動車両100における電動車両駆動装置10FR、10FL、10RR、10RLの駆動力設定の第1例を挙げる。各電動車両駆動装置の第1変速状態と第2変速状態との段間差を2とし、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR及び電動車両駆動装置10FLの第1変速状態のトルクが500Nmであり、後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR及び電動車両駆動装置10RLの第1変速状態のトルクが500Nmであるとする。
電動車両100が前進加速するとき、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR及び電動車両駆動装置10FLは第2変速状態を、後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR及び電動車両駆動装置10RLは第1変速状態をとることができ、電動車両100の最大駆動トルクは250Nm×2+500Nm×2=1500Nmである。
電動車両100が後退加速するとき、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR及び電動車両駆動装置10FLは第1変速状態を、後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR及び電動車両駆動装置10RLは第2変速状態をとることができ、電動車両100の最大駆動トルクは500Nm×2+250Nm×2=1500Nmである。電動車両100が前進加速するときの最大駆動トルクと後退加速するときの最大駆動トルクの比は、段間差である2とは異なる値となっている。
電動車両100における電動車両駆動装置10FR、10FL、10RR、10RLの駆動力設定の第2例を挙げる。この例は、電動車両100の前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR、10FLの特性及び後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR、10RLの特性とを異なるものとしたものである。各電動車両駆動装置の第1変速状態と第2変速状態との段間差を2とする。前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR及び電動車両駆動装置10FLの第1変速状態のトルクが300Nmであり、後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR及び電動車両駆動装置10RLの第1変速状態のトルクが500Nmであるとする。
電動車両100が前進加速するとき、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR及び電動車両駆動装置10FLは第2変速状態を、後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR及び電動車両駆動装置10RLは第1変速状態をとることができ、電動車両100の最大駆動トルクは150Nm×2+500×2Nm=1300Nmである。
電動車両100が後退加速するとき、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR及び電動車両駆動装置10FLは第1変速状態を、後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR及び電動車両駆動装置10RLは第2変速状態をとることができ、電動車両100の最大駆動トルクは300Nm×2+250Nm×2=1100Nmである。第2例の場合も、電動車両100が前進加速するときの最大駆動トルクと後退加速するときの最大駆動トルクの比は、段間差である2とは異なる値となっている。
このように、電動車両100は、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR、10FLにおけるワンウェイクラッチ装置が規制できる前記第1キャリア23の回転方向と、前輪と同じ側にある後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR、10RLにおけるワンウェイクラッチ装置が規制できる前記第1キャリア23の回転方向とが、逆方向であるように構成されているので、電動車両100が前進する場合の最大駆動トルクと後進する場合の最大駆動トルクの比を、段間差R以外に設定することができる。その結果、電動車両駆動装置10FR、10FL、10RR、10RLを大型にすることなく、前進側及び後進側の駆動トルクを適切に設定することができる。
なお、電動車両100の前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR、10FLの特性と後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR、10RLの特性とを異なるものとする場合は、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR、10FLは、後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR、10RLよりも駆動トルクが小さいものにすることが好ましい。一般に、前輪は操舵のためのリンク機構を配置する必要がある。したがって、前輪に小さな駆動トルクを有する電動車両駆動装置を配置することによって、前輪にリンク機構を配置することが容易となる。
また、電動車両100は、電動車両100が後退加速する場合に、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR、10FLにおける第1キャリア23の回転方向を、ワンウェイクラッチ装置60及びワンウェイクラッチ装置60の左右が反転した構造のワンウェイクラッチ装置が規制できる。同時に、電動車両100が前進加速する場合に、後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR、10RLにおける第1キャリア23の回転方向を、ワンウェイクラッチ装置600及びワンウェイクラッチ装置600の左右が反転した構造のワンウェイクラッチ装置が規制できる。すなわち、電動車両100が加速する場合、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR、10FLは、電動車両100が後進する方向に出力軸が回転するときに第1変速状態をとることが可能であり、後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR、10RLは、電動車両100が前進する方向に出力軸が回転するときに第1変速状態をとることが可能である。なお、電動車両100が減速する場合は、前輪を駆動する電動車両駆動装置10FR、10FLは、電動車両100が前進する方向に出力軸が回転するときに第1変速状態をとることが可能であり、後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR、10RLは、電動車両100が後退する方向に出力軸が回転するときに第1変速状態をとることが可能である。
車両のタイヤを駆動させると、車両荷重中心周りのモーメントが生じ、それに釣り合うように前輪と後輪との間で荷重移動が生じる。例えば、車両を前進加速させると、前輪から後輪に荷重が移動し、車両前方が浮き上がるような挙動が生じる。車両を後進加速や、前進減速させるときは、後輪から前輪に荷重移動が生じて、車両前方が沈み込むような挙動が生じる。車両の駆動力(駆動トルク)は、必ずタイヤの接地面を通して路面に伝わる。接地面において発揮できる最大のタイヤ力は、接地荷重と摩擦係数により決まる。摩擦係数が一定である場合、すなわち、路面状況が変わらない場合、最大タイヤ力は、接地荷重のみにより決まる。つまり、接地荷重が大きいほど、大きなタイヤ力を発生することができる。
上述のように、車両を前進加速させる場合においては、前輪から後輪に荷重移動が生じる。つまり、後輪の方が大きなタイヤ力を発生させることができる。したがって、後輪を駆動する電動車両駆動装置10RR、10RLが、電動車両100を前進加速させる場合に、トルクの大きい第1変速状態をとれるようにすることが好ましい。
また、車両を前進減速させる場合は、後輪から前輪に荷重移動が生じ、後輪と比較して前輪がより大きなタイヤ力を発生させることができる。このとき、前輪側に配置された電動車両駆動装置10FR、10FLは、制動力を受けて、第1変速状態をとることができるため、モータの回転数が高まり、より効果的に回生することができる。