図1に示すフィルム10は、フィルム本体12と、フィルム本体12の両面に配される表層13とを備える。フィルム本体12と表層13との境界は観察されるものではないが、図1では、説明の便宜上これらの境界を図示している。
フィルム本体12はセルロースアシレートと添加剤とから構成される。1対の表層13は互いに同じ成分から構成され、具体的にはいずれの表層13もセルロースアシレートと微粒子14と添加剤とから構成され、その比率も互いに同じである。添加剤は、可塑剤、紫外線吸収剤、フィルム10のレタデーションを制御するレタデーション制御剤等である。微粒子14は、疎水基で表面が被覆され、二次粒子の態様をとっているシリカ(二酸化ケイ素,SiO2)である。なお、微粒子14には、シリカとともに、あるいはシリカに代えて、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、燐酸カルシウムなどの微粒子を用いてもよい。微粒子14の詳細は後述する。
フィルム本体12のセルロースアシレートはトリアセチルセルロース(Triacetyl Cellulose、TAC)であり、表層13のセルロースアシレートはTACとしてある。ただし、フィルム本体12と表層13との各セルロースアシレートはこれらに限定されない。例えば、フィルム本体12のセルロースアシレートをジアセチルセルロース(Diacetyl Cellulose、DAC)、表層13のセルロースアシレートをTACとしてもよい。また、本実施形態では、フィルム本体12と表層13との各ポリマー成分をいずれもセルロースアシレートとしているが、溶液製膜方法によりフィルムとすることができるポリマーであればよい。他のポリマーとしては、例えば、環状ポリオレフィン、アクリル、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene Terephthalate、PET)等がある。
両表層13を互いに同じ成分で構成し、その比率が互いに異なっていてもよい。また、両表層13のうち一方のみが微粒子を含む態様であってもよい。また、両表層13を設けず、フィルム本体12を単層とし、フィルム本体12がセルロースアシレートと添加剤と微粒子14とから構成される態様であってもよい。
フィルム10の厚みT10は60μm、フィルム本体12の厚みT12は54μm、表層13の厚みT13は3μmとしている。ただし、各厚みはこれらに限られず、厚みT10は10μm以上80μm以下の範囲内、厚みT12は8μm以上75μm以下の範囲内、厚みT13は1μm以上10μm以下の範囲内であればよい。本発明は、厚みT10が15μm以上60μm以下の範囲内である場合に、特にフィルム10を巻き取る際に重なる部分同士の貼り付きが低減される効果が大きい。厚みT10,T12,T13は、後述の第1ドープ41(図7参照)と第2ドープ42(図7参照)との各固形分の濃度と流延ダイ65(図7参照)への流量とから、計算により求めることができる。
また、フィルム10が、弾性率が3.0GPa以下である低弾性率フィルムである場合にも同様に、フィルム10同士の貼り付き低減の効果が大きい。ここで、フィルム10の弾性率は、フィルム10から2cm×15cmのサンプル切片を作成し、このサンプル切片に対して引張試験を行うことにより測定される。引張試験は、例えば、株式会社東洋精機製作所製のストログラフを用いて行われる。引張試験の条件は、サンプル切片を把持する2つのチャック間の距離が10cmであり、クロスヘッドの速度が200mm/分である。
フィルム10中の微粒子14の一部は、フィルム面10aから一定の高さ以上突出して設けられており、その一つ一つが突起15として機能する。例えば、図2に示すように、微粒子14aはフィルム面10aから突出した高さがH15aの突起15aを構成し、微粒子14bはこの高さがH15bの突起15bを構成する。ここで、フィルム面10aから突出した高さH[単位;nm]は、フィルム面10aとフィルム面10aから露出した部分の頂点との距離で定義される。なお、図1,2,及び図4では、説明の便宜上、突起15としては微粒子14のみにより形成されているものが示されているが、突起15の様態はこれに限らない。突起15は、微粒子14が基点となって形成されるいかなる様態であってもよく、例えば、微粒子14に添加剤やセルロースアシレートが複合したものにより形成されていてもよい。突起15が微粒子14のみにより形成されている場合には、高さHを決める頂点は微粒子14の頂点となる。突起15が微粒子14に添加剤やセルロースアシレートが複合したものにより形成されている場合には、高さHを決める頂点は微粒子の頂点,添加剤の頂点,セルロースアシレートの頂点のうち、フィルム面10aから最も離れている頂点となる。
微粒子14によってフィルム面10aに複数の突起15が設けられることにより、フィルム面10aには微小な凹凸が形成され、フィルム面10aに一定の粗さが付与されている。この凹凸により、フィルム10同士が重なっても互いに貼り付かず、フィルム10同士の滑りが確保され、一定の耐傷性が発現する。このように、微粒子14は、いわゆるマット剤として機能する。
突起15の高さHが30nm以上である場合には、突起15の高さHが30nm未満である場合よりも、フィルム10同士の貼り付きを低減したり滑り性を高めたりする効果が大きい。突起15が高くなるに伴って貼り付きを低減したり滑り性を高めたりする効果が大きくなり、突起15の高さHが40nm以上である場合には、フィルム10同士の貼り付きを低減したり滑り性を高めたりする効果がさらに大きい。また、突起15の高さHが100nm以下である場合には、高さHが100nmより高い場合よりも、フィルム面のヘイズが低いため、好ましい。
本実施形態では、フィルム面10aの1mm2あたりに存在する高さがH以上の突起15の個数を、突起密度D(H)[単位;個/mm2]という。高さが30nm以上の突起密度D(30)が104個/mm2以上である場合には、突起密度D(30)が104個/mm2未満である場合よりも、貼り付き低減の効果や滑り性付与の効果が大きい。突起密度D(30)の増加に伴って貼り付き低減の効果や滑り性付与の効果が大きくなり、突起密度D(30)が2×104個/mm2以上である場合には、貼り付き低減の効果や滑り性付与の効果がさらに大きい。また、突起密度D(30)が106個/mm2以下である場合には、突起密度D(30)が106個/mm2より大きい場合よりも、フィルム10のヘイズが低く抑えられる。突起密度D(30)が5×105個/mm2以下である場合には、フィルム10のヘイズがさらに低く抑えられる。なお、突起密度D(40)についても、貼り付き低減の効果や滑り性付与の効果が大きい範囲やヘイズが低く抑えられる範囲は、突起密度D(30)と同様である。
フィルム10を偏光板の保護フィルムとして用いる場合には、フィルム10にけん化処理を行う。図3に示すように、偏光板20は、偏光膜17と一対のフィルム10とを備え、フィルム10は偏光膜17の各面に配される。けん化処理は、偏光膜17との接着力を高めるために行われるものである。フィルム10の偏光膜17と接着するフィルム面10aとは反対側のフィルム面10aは、偏光板20の表面20aとなる。
フィルム10のけん化処理は、例えば、次のようにして行われる。フィルム10を2.0mol/Lの水酸化カリウム(KOH)水溶液に2分間浸漬した後、純水で洗浄し、中和液である0.05mol/Lの硫酸(H2SO4aq)で20秒間中和し、再び純水で洗浄し、100℃で乾燥させる。これに限らず、一般に知られているいかなる方法も用いられる。なお、けん化処理は、通常は両方のフィルム面10aに行われており、本実施形態でも両方のフィルム面10aに対して行われている。
偏光膜17は、ポリビニルアルコール(Polyvinyl Alcohol、PVA)からなるフィルムに、ヨウ素を含む化合物分子を吸着させ、PVAとヨウ素を含む化合物分子とを配向させて作られる。フィルム10と偏光膜17との接着には、PVA系の接着剤が用いられる。なお、偏光膜17はこれに限られず、一般に偏光膜として用いられているものであればいかなるものであってもよい。また、本実施形態では、偏向膜17の両面にフィルム10が接着されて偏光板20となっているが、この構成に限ることはない。例えば、偏向膜17の片面だけにフィルム10が接着されていてもよいし、偏向膜17の両面にフィルム10が接着された最外面にPET等の保護フィルム層が設けられてもよい。
フィルム10はけん化処理が施されることにより膨潤し、さらに吸湿して膨潤しやすくなる。そのため、けん化処理が施された後(けん化処理後)の微粒子14のフィルム面10aから突出する高さHk[単位;nm]は、けん化処理が施される前(けん化処理前)の高さHに比べて低い。けん化処理後のフィルム10についても、けん化処理前のフィルム10と同様に、突起15の高さHkが30nm以上である場合には、突起15の高さHkが30nm未満である場合より、重なったフィルム10の部分同士の貼り付きを低減したり滑り性を高めたりする効果が大きい。突起15が高くなるに伴って貼り付きを低減したり滑り性を高めたりする効果が大きくなり、突起15の高さHkが40nm以上である場合には、重なったフィルム10の部分同士の貼り付きを低減したり滑り性を高めたりする効果がより大きい。また、けん化処理前と同様に、けん化処理後であっても、突起15の高さHkが100nm以下である場合には、高さHkが100nmより高い場合よりも、フィルム面のヘイズが低いため、好ましい。
また、けん化処理後のフィルム10では、けん化処理前のフィルム10と比較して、高さHkが30nm以上の突起の数は少ないが、貼り付き低減の効果がある。ここで、けん化処理後のフィルム面10aの1mm2あたりに存在する高さがHk以上の突起15の個数を、突起密度Dk(Hk)[単位;個/mm2]とおく。けん化処理後のフィルム10についても、けん化処理前のフィルム10と同様に、高さ30nm以上の突起密度Dk(30)が104個/mm2以上である場合には、突起密度Dk(30)が104個/mm2未満である場合よりも、貼り付き低減の効果や滑り性付与の効果が大きい。突起密度Dk(30)の増加に伴って貼り付き低減の効果や滑り性付与の効果が大きくなり、突起密度Dk(30)が2×104個/mm2以上である場合には、貼り付き低減の効果や滑り性付与の効果がさらに大きい。また、突起密度Dk(30)が106個/mm2以下である場合には、突起密度Dk(30)が106個/mm2より大きい場合よりも、フィルム10のヘイズが低く抑えられる。突起密度Dk(30)が5×105個/mm2以下である場合には、フィルム10のヘイズがさらに低く抑えられる。なお、突起密度Dk(40)についても、貼り付き低減の効果や滑り性付与の効果が大きい範囲やヘイズが低く抑えられる範囲は、突起密度Dk(30)と同様である。
また、偏光板20の表面20aは、けん化処理後のフィルム面10aと同じ構成を有するため、偏光板20についても、上述のけん化処理後のフィルム10と同様の条件下で、偏光板20同士の貼り付き低減や滑り性付与の効果がある。
けん化処理前のフィルム10,けん化処理後のフィルム10,又は偏光板20(まとめて称する場合には、フィルム等10,20と称する)が2枚重なっている場合や、ロール状に巻き取られてフィルムロールとなっている場合について、図4,図5,図6を用いて以下に説明する。
図4に示すように、フィルム等10,20がそれぞれ2枚重なっていると、各フィルム等10,20のいずれか一方のフィルム面10a,20a同士が対向し接触する。対向するフィルム面10a,20aには、いずれも、微粒子14による突起15が形成されている。これらの突起15により、対向しているフィルム面10a,20aが互いに直接に接触することが部分的に妨げられる。そのため、2枚のフィルム等10,20は、部分的に互いに貼り付かない。
フィルムロール22は、図5に示すように、巻芯23と、巻芯23に巻き取られたフィルム等10,20とからなる。巻芯23は略円筒状であり、外側の周面でフィルム等10,20が巻き取られる。巻芯23の内側の周面には、巻芯23を回転不能に固定するための巻芯把持部23aが設けられている。フィルム等10,20は長尺であり、巻芯23の周面にロール状に巻き取られている。
フィルムロール22では、フィルム等10,20のフィルム面10a,20aには接触面圧がかかっている。例えば、フィルム等10,20の両側端部にナーリングが設けられる場合、ナーリングが設けられた両側端部分(ナーリング部分)と、ナーリング部分に挟まれたフィルム等10,20の幅方向中央部分(使用部分)とで、接触面圧のかかり方が異なる。図6のグラフにおいて破線で示すように、ナーリング部分においては0.01MPa以上0.30MPa程度以下の範囲内の接触面圧がかかっている。また、図6のグラフにおいて実線で示すように、使用部分においては0.01MPa以上0.10MPa程度以下の範囲内の接触面圧がかかっている。ナーリング部分と使用部分とのいずれにおいても、図6においてフィルムの巻き長が小さい領域の部分にかかる接触面圧が最も高い。また、図6においてフィルムの巻き長が大きくなるにつれてフィルムの部分にかかる接触面圧が低くなる傾向にある。ここで、フィルムの巻き長とは、フィルムロールにおけるフィルムの巻き芯側の端からの長さでもってフィルムの場所を指す量であり、フィルムの巻き長が小さい領域の部分は巻き芯付近のフィルムの部分を指し、フィルムの巻き長が大きくなるにしたがってフィルムの部分が巻き芯から遠くなる。
巻き芯付近のフィルムの部分にかかる接触面圧は、フィルムが長尺になればなるほど、高くなる傾向にある。例えば、図6のグラフにおいて実線で示すように、長さ4000m弱の長尺フィルムの巻き芯側(巻き芯から0m〜2000m程度)では、0.05MPa以上0.10MPa以下の範囲内程度の接触面圧がかかっている。そのため、従来では、フィルムが2000mより短い場合には大きな問題は生じなかったものの、例えばフィルムの長さが2000m以上10000m以下の範囲内というようにフィルムが長いと、ブロッキング、ベコ、しわ、芯側写り故障が発生しやすい傾向にあった。
また、従来では、例えばフィルムの厚さが10μm以上60μm以下の範囲内というようにフィルムが薄いと、巻芯に巻き取ってフィルムロールにする際に、ブロッキング、ベコ、しわ、芯側写り故障が発生しやすい傾向にあった。また、従来では、例えばフィルムの弾性率が1.0GPa以上4.0GPa以下の範囲内というようにフィルムの弾性率が低いと、巻芯に巻き取ってフィルムロールにする際に、ブロッキング、ベコ、しわ、芯側写り故障が発生しやすい傾向にあった。
フィルムロール22では、図4に示すものと同様にフィルム等10,20の巻き重なる部分においてフィルム面10a,20a同士が対向し接触する。加えて、フィルム面10a,20aの巻き重なる部分間には、上述のような接触面圧がかかる。
フィルム等10,20がフィルムロール状に巻き取られている場合には、フィルム等10,20が2枚重なっていると同様に、突起15により、対向している2つのフィルム面10a,20aが互いに直接に接触することが部分的に妨げられている。そのため、フィルム等10,20の重なる部分は互いに貼り付きが低減される。
本発明のフィルムロール22では、フィルム面10a,20aにかかる接触面圧が0.05MPa以上0.10MPaの範囲内の部分の静摩擦係数が1.2以下である。そのため、フィルム等10,20の重なる部分間で滑りが生じるので、ブロッキング、ベコ、しわ、芯側写り故障の発生が低減される。また、本発明のフィルムロール22では、上述のようにフィルムが長い場合でも、厚さが薄い場合でも、弾性率が低い場合でも、ブロッキング、ベコ、しわ、芯側写り故障の発生が低減される。接触面圧が0.05MPa以上0.10MPa以下の範囲内の部分の静摩擦係数が1.0以下であれば好ましく、接触面圧が0.05MPa以上0.10MPa以下の範囲内の部分の静摩擦係数が0.9以下であればより好ましい。
フィルム10は、第1ドープ41と第2ドープ42とから、後述する溶液製膜設備30(図7参照)によって製造される。フィルム本体12を形成する第1ドープ41は、ポリマーであるセルロースアシレートと、添加剤と、溶媒とを含む液体状の第1のドープ組成物である。セルロースアシレートと添加剤とが、第1のドープ組成物中に固形分として含まれる。セルロースアシレートは溶媒に溶解しており、添加剤は溶媒に溶解ないし分散している。第1ドープ41におけるセルロースアシレートと添加剤との比率は、フィルム本体12の各成分比と同じである。
表層13を形成する第2ドープ42は、第1ドープ41と同様の固形分及び溶媒に加えて、固形分としての微粒子14を含む液体状の第2のドープ組成物である。第2ドープ42におけるセルロースアシレートと添加剤と微粒子14の比率は、表層13の各成分比と同じである。第1,第2ドープ41,42を構成する成分の比率は、それぞれ、各ドープの固形分の濃度及びフィルム本体12,表層13を構成する成分の比率を考慮して定められる。
ここで、微粒子14は、通常は分散媒中に分散された分散液の状態で第2ドープ42の原料とされ、第2ドープ42の調製に用いられる。ここで、第2ドープ42での微粒子14の分散状態は、この分散液での微粒子14の分散状態とほぼ同じであるので、以降では第2ドープ42での微粒子14の分散状態は、第2ドープ42の調製に用いられる微粒子14の分散液での分散状態と同一であるものとして記載する。
第2ドープ中では、微粒子14は、2次粒子の様態をとって分散している。第2ドープに含まれる微粒子14の総数に対する、2次粒子径r2が0.7μm以上の微粒子14の含有割合N(0.7)[単位;%]は30%以上であることが好ましく、含有割合N(0.7)は50%以上であることがより好ましい。表層13を形成する第2ドープ42が0.7μm以上の2次粒子径の微粒子14を含むことにより、表層13には上述のように所望の高さH,Hkの突起15が所望の突起密度D(H),Dk(Hk)で形成される。そのため、このような第2ドープを用いて製造されたフィルム10については、フィルム10が重ねられた際のフィルム10同士の貼り付きが低減され、そのフィルム面10aに滑り性が付与される。
ここで、微粒子14の2次粒子の直径を表す2次粒子径r2は、次のように定義される。2次粒子の形状が球形又は球形に近い場合には、2次粒子を球形近似したときの直径を2次粒子径r2とする。2次粒子の形状が楕円体又は楕円体に近い場合には、2次粒子を楕円体近似したときの長軸の長さを2次粒子径r2とする。第2ドープに含まれる微粒子14の2次粒子径r2は、次のようにして求められる。第2ドープを平面上に薄く延ばし、この平面について、例えば走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)を用いて3000倍に拡大して表面観察を行うと、各2次粒子の表面観察像が得られる。この各2次粒子の表面観察像について円近似あるいは楕円近似でフィッティングを行う。円近似でフィッティングした場合には直径の値を、楕円近似でフィッティングした場合には長軸の長さを、それぞれ2次粒子径r2とする。
第1ドープ41及び第2ドープ42に用いられる溶媒は、いずれも、メチレンクロライド、メタノール、ブタノールである。また、本実施形態では先述の溶媒が用いられているが、一般的なセルロースアシレートフィルムを製造する溶液製膜に用いられるその他のいかなる溶媒も用いられる。また、フィルム本体12と表層13との各ポリマー成分をセルロースアシレートとしない場合には、用いられるポリマー成分に合わせて、第1ドープ41及び第2ドープ42に用いられる溶媒が決められる。
フィルム10を製造する溶液製膜は、例えば図7の溶液製膜設備30で行われる。溶液製膜設備30は、ドープ調製装置31と、流延装置32と、テンタ35と、ローラ乾燥装置36と、巻取装置37(詳細は図8参照)とを、上流側から順に備える。なお、巻取装置37の詳細な説明は後述する。
ドープ調製装置31は、前述の第1ドープ41と第2ドープ42とをつくるためのものである。ドープ調製装置31は、溶液製膜設備30内ではなく溶液製膜設備30の外部に設けられていてもよい。その場合には、つくられた第1ドープ41と第2ドープ42とは、一旦保存容器等に保存される。ドープ調製装置31は、溶解部43と、混合部46と、分散部47と、ろ過部48,49とを備える。
溶解部43は、セルロースアシレート52と溶媒53とが供給されると、これらを混合し加熱や攪拌等を行う。これにより、セルロースアシレート52が溶媒53に溶解した液体状の原料ドープ54をつくる(原料ドープ調製工程)。ろ過部48は、原料ドープ54の一部と添加剤59とが混合して供給されると、これをろ過して第1ドープ41とする。
混合部46は、セルロースアシレート52と溶媒53と微粒子14とが供給されると、これらを混合し攪拌して液体状の混合物を得る(混合物調製工程)。分散部47は、混合部46の下流に配され、分散部47からこの液体状の混合物が供給されると、この混合物に超音波を与え、微粒子14を混合物中で分散させて、微粒子分散液58を得る(微粒子分散工程)。なお、分散部47では、超音波を与える代わりに、ボールミルを用いてもよい。ろ過部49は、分散部47により得られる微粒子分散液58と原料ドープ54の他の一部と添加剤59とが混合して供給されると、これを混合し(混合工程)、ろ過して第2ドープ42とする(濾過工程)。
流延装置32は、第1ドープ41と第2ドープ42とからフィルム10を形成するためのものである。流延装置32は、ベルト62と、第1ローラ63及び第2ローラ64とを備える。ベルト62は、環状に形成された無端の流延支持体であり、SUS製である。ベルト62は、第1ローラ63と第2ローラ64との周面に巻き掛けられる。第1ローラ63と第2ローラ64の少なくともいずれか一方は、駆動部(図示無し)を有し、駆動部により周方向に回転する。この回転により周面に接するベルト62が搬送され、この搬送により、ベルト62は、循環して長手方向に連続走行する。
ベルト62の上方には第1ドープ41と第2ドープ42とを吐出する流延ダイ65が備えられる。搬送されているベルト62に流延ダイ65から第1ドープ41と第2ドープ42とを連続的に吐出することにより、第1ドープ41と第2ドープ42とは互いに重なった状態でベルト62上へ流延されて流延膜66が形成される。なお、第1ドープ41は第2ドープ42に挟まれた態様で流延ダイ65の吐出口65aから出される。
第1ローラ63と第2ローラ64とは、それぞれ周面温度を制御する温度コントローラ(図示せず)を備える。第1ローラ63と第2ローラとの各周面温度が制御されることによって、ベルト62の温度が調整される。
流延ダイ65からベルト62に至る第1ドープ41及び第2ドープ42、いわゆるビードに関して、ベルト62の走行方向における上流には、減圧チャンバ(図示無し)が備えられる。この減圧チャンバは、吐出した第1ドープ41及び第2ドープ42の上流側エリアの雰囲気を吸引して前記エリアを減圧する。
流延膜66を、テンタ35への搬送が可能な程度にまで固くしてから、溶媒53を含む状態でベルト62から剥がす。剥ぎ取りは、乾燥流延方式の場合には10質量%以上100質量%以下の範囲内の溶媒含有率で行い、冷却流延方式の場合には100質量%以上300質量%以下の範囲内の溶媒含有率で行う。乾燥流延方式とは、流延膜66を主に乾燥によって固くする方式であり、冷却流延方式とは、流延膜66を主に冷却によってゲル化して固くする方式である。なお、本明細書における溶媒含有率は、湿潤状態にあるフィルム10の質量をX、このフィルム10を乾燥した後の質量をYとするときに、{(X−Y)/Y}×100で求めるいわゆる乾量基準の値である。
剥ぎ取りの際には、フィルム10を剥ぎ取り用のローラ(以下、剥取ローラと称する)70で支持し、流延膜66がベルト62から剥がれる剥取位置を一定に保持する。ベルト62は循環して剥取位置から第1,第2ドープ41,42が流延される流延位置に戻ると再び新たな第1ドープ41及び第2ドープ42が流延される。
ベルト62の流延膜66が形成される流延面に対向するように、給気ダクト(図示無し)が設けられていてもよい。この給気ダクトは気体を出して、通過する流延膜66の乾燥をすすめる。
剥取ローラ70で剥ぎ取られた流延膜66、すなわちフィルム10は、テンタ35に案内される。テンタ35は、フィルム10の各側部を保持部材71で保持しながらフィルム10の乾燥をすすめる。テンタ35の保持部材71としては、クリップやピン等が用いられる。クリップはフィルム10を挟持し、ピンはフィルム10を厚み方向に貫通することによって、それぞれフィルム10を保持する。
テンタ35は、フィルム10を保持部材71で保持して長手方向に搬送しながら、幅方向での張力を付与し、フィルム10の幅を拡げる。このテンタ35には、乾燥気体をフィルム10の近傍に流して供給するダクト72が備えられる。フィルム10は搬送されながら、ダクト72からの乾燥気体により乾燥がすすめられるとともに、保持部材71により幅が所定のタイミングで変えられる。
ローラ乾燥装置36は、搬送されているフィルム10を乾燥するためのものである。ローラ乾燥装置36は、フィルム10の搬送方向に複数並べられた複数のローラ73と、空調機(図示無し)と、チャンバ(図示無し)とを備える。複数のローラ73の中には、周方向に回転する駆動ローラがあり、この駆動ローラの回転により、フィルム10は下流へと搬送される。空調機はチャンバ内部の雰囲気を吸引し、吸引した気体の湿度や温度等を調節した後にその気体を再びチャンバ内部に送り込む。これにより、チャンバ内部の温度や湿度等は一定に保持される。ナーリング装置(図示なし)は、ローラ乾燥装置36と巻取装置37(詳細は図8参照)との間に設けられ、フィルムの幅方向両端部にエンボス(ナーリング)加工を施す。なお、ナーリング装置がなくても本発明には影響は無い。巻取装置37(詳細は図8参照)はローラ乾燥装置36から供給されてくるフィルム10をロール状に巻き取る。なお、ローラ乾燥装置36と巻取装置37(詳細は図8参照)との間に冷却室(図示無し)を設けてもよい。この冷却室は、内部を通過するフィルム10を、巻取り前に室温まで冷却する。
溶液製膜設備30は、本発明の実施態様の一例であり、他の溶液製膜設備であってもよい。例えば、流延支持体としては、ベルト62に代えて、周方向に回転するドラム(図示せず)であってもよい。冷却流延方式の場合には、ドラムを流延支持体として用いる場合が多い。また、テンタ35とローラ乾燥装置36との間に、テンタ35と同じ構成をもつテンタ(図示無し)を設けてもよい。
巻取装置37は、図8に示すように、巻取軸81、巻芯ホルダ82、ターレット83、ガイドローラ86,87、ダンサローラ88、エンコーダ91、巻取モータ92、シフト機構93、及びコントローラ94を備えている。
巻取軸81は、ターレット83に片持ち支持機構で取り付けられている。片持ち指示機構とは、巻取軸81の一端のみを支持する機構である。巻取軸81の外側の周面と巻芯把持部23aとが、嵌め合わせられるようになっており、巻取軸81には、回転不能に巻芯23が取り付けられるようになっている。巻取軸81に取り付けられた巻芯23は、巻芯ホルダ82により両端部が挟持される。巻取軸81の一端には巻取モータ92が連結されており、巻取軸81を回転するように構成されている。この回転により、巻芯23が回転し、長尺のフィルム10が巻芯23の周面にロール状に巻き取られて、フィルムロール22が得られる。
ガイドローラ86,87及びダンサローラ88は、フィルム10を搬送方向(図8のX方向)に案内する。ガイドローラ87にはエンコーダ91が連結されており、ガイドローラが一定の回転角度で回転するごとに、エンコーダパルス信号をコントローラ94に送信する。また、ダンサローラ88は、シフト機構93によりフィルム10の搬送経路の一部をフィルム面10aに垂直な方向(図8のZ方向)に移動させることにより、フィルム10の巻取張力を調整する。なお、ガイドローラ87にはフィルム10の巻取張力を測定する張力センサを設けてもよい。
コントローラ94は、エンコーダ91、巻取モータ92、シフト機構93と接続されている。コントローラ94は、エンコーダ91から送信されるエンコーダパルス信号を受信して、フィルム10の巻き取った長さ(巻長)を管理する。また、コントローラ94は、巻取モータ92と制御して、巻取の回転速度を制御する。また、コントローラ94は、シフト機構93を通じて、フィルム10の巻取張力を制御する。
上記構成の作用を説明する。セルロースアシレート52と溶媒53とは溶解部43に送られると、混合されて加熱や攪拌等されることにより原料ドープ54とされる(原料ドープ調製工程)。原料ドープ54の一部はろ過部48に案内される前に、添加剤59が加えられ、添加剤59と混じった状態でろ過部48によりろ過されて第1ドープ41となる。
微粒子14とセルロースアシレート52と溶媒53とは混合部46へ案内されると、混合部46により混合され攪拌されて、液体状の混合物が得られる(混合物調製工程)。ここで、第2ドープに含まれる微粒子14についての含有割合N(0.7)は、30%以上であることが好ましい。この混合物は、混合部46から分散部47へ送られる。この混合物中の微粒子14は分散部47により混合物中で分散され、微粒子分散液58が得られる(微粒子分散工程)。微粒子分散液58は、原料ドープ54の他の一部に加えられ、さらに添加剤が加えられてろ過部49へ案内されて混合され(混合工程)、ろ過部49によりろ過されて第2ドープ42とされる(濾過工程)。
第1ドープ41と第2ドープ42とは連続的に流延ダイ65へ案内され、吐出口65aから連続的に吐出される。第2ドープ42,第1ドープ41,第2ドープ42の順に重ねられた状態で、ベルト62上へ流延されて流延膜66が形成される。走行するベルト62上に形成された流延膜66は、自己支持性をもった後にベルト62から溶媒53を含む状態で剥ぎ取られることで、フィルム10とされる。
フィルム10は、テンタ35へ送られ、保持部材71により幅を規制された状態で、ダクト72から供給される乾燥気体の雰囲気を通過する。これによりフィルム10は乾燥を進められる。テンタ35を出たフィルム10はローラ乾燥装置36へ案内され、このローラ乾燥装置36のチャンバ(図示無し)内部を通過する間に乾燥される。ナーリング装置が設けられている場合には、乾燥したフィルム10はナーリング装置(図示なし)に案内され、フィルム10の幅方向両端部にエンボス(ナーリング)加工が施される。乾燥したフィルム10は、巻取装置37へ案内される。
巻取装置37では、コントローラ94により、フィルム10の巻長,巻取の回転速度,フィルム10の巻取張力が制御されながら、フィルム10が巻芯23の周面にロール状に巻き取られて、フィルムロール22となる(巻取工程)。フィルムロール22は、例えば、フィルムロール22から図示しない巻き戻し装置及び切り出し装置によりフィルムシートに切り出されて(切出工程)、フィルムシートとして使用される。このようにして得られるフィルムシートは、フィルムロールにおける重なったフィルムの貼り付きの影響が低減されている。
第2ドープ42におけるセルロースアシレート52に対する微粒子14の質量割合Wp[単位;質量%]及び微粒子14についての含有割合N(0.7)と、フィルム面10aにおける突起密度D(30)[単位;個/mm2]との間には、相関がある。質量割合Wpや含有割合N(0.7)の増加に伴って、突起密度D(30)が増加する。ここで、質量割合Wpは、(ドープに添加された微粒子の総質量)/(ドープに用いられたセルロースアシレートの総質量)で定義される割合である。なお、含有割合N(0.7)及び突起密度D(30)は、それぞれ、後述の実施例に記載する測定方法により求めている。また、突起密度Dk(30),突起密度D(40),突起密度Dk(40)等についても、突起密度D(30)と同様に、質量割合Wpや含有割合N(0.7)の増加に伴って増加する傾向がある。
一例として、質量割合Wpを0.1質量%以上0.3質量%以下の範囲内とし、粒子の1次粒子径r1を12nm以上20nm以下の範囲内とすると、図9に示すように、含有割合N(0.7)の増加に伴って、概ね突起密度D(30)が増加していることがわかる。図9には、含有割合N(0.7)と突起密度D(30)との相関を表す直線U1が示されている。なお、質量割合Wpを下げれば、図9において直線U1が下側(突起密度D(30)が減少する側)にシフトし、質量割合Wpを上げれば、図9において直線U1が上側(突起密度D(30)が増加する側)にシフトする。また、突起密度D(30)に限らず、突起密度D(40)や突起密度D(50)についても、質量割合Wpや含有割合N(0.7)の増加に伴って増加する。
本実施形態では、3層という複層構造のフィルム10を製造するが、単層構造のフィルムに対しても本発明は効果がある。また、本実施形態ではフィルム本体12と1対の表層13とからなる3層構造のフィルム10を製造するが、本発明により得られるフィルムはこれに限られない。例えば、重層流延や塗布などにより4層以上としてもよい。なお、単層構造のフィルムを製造する場合にも同様に、微粒子14についての含有割合N(0.7)は30%以上であることが好ましい。また、製造されるフィルムのフィルム面10aの突起密度D(30)は、104個/mm2以上106個/mm2以下の範囲内であり、けん化処理を受けた後のフィルム面10aの突起密度Dk(30)も、けん化処理前と同様に104個/mm2以上106個/mm2以下の範囲内である。
以下、本発明に関する実施例を4つ挙げる。
本発明の実施例1として、17種類の実験1−A〜1−Qを行った。この実施例1には、商品名がそれぞれR972、NX90S,RX200(いずれも日本アエロジル株式会社製)である3種類の微粒子14の分散液を用いた。ここで、この3種類の微粒子14の分散液について、以下の表1にまとめている。表1の「分散液」の各欄に記載されたそれぞれの商品名の分散液において、「微粒子」の欄には微粒子14を構成する物質を、「分散媒」の欄には分散媒を構成する物質を、「微粒子濃度」の欄には分散媒中の微粒子14の濃度[単位;質量%]を、「1次粒子径」の欄には微粒子14の1次粒子径r1の平均値[単位;nm]を、「2次粒子径平均値」の欄には微粒子14の2次粒子径r2の平均値[単位;μm]を、「含有割合N(0.7)」の欄には微粒子14についての含有割合N(0.7)[単位;%]を、それぞれ示す。なお、「微粒子」と「分散媒」は、3種類の分散液で共通であるため、表1での欄を統一している。
ここで、微粒子14の2次粒子径r2は上述の実施形態で記載した定義に基づくものであり、上述のようにSEMを用いて3000倍に拡大して表面観察を行うことにより微粒子14ごとに求められた。微粒子14ごとに求められた2次粒子径r2の結果から微粒子14の粒径分布を求め、この粒径分布からメジアン径を求め、このメジアン径をもって2次粒子径r2の平均値とした。また、微粒子14の粒度分布から、微粒子14についての含有割合N(0.7)を求めた。なお、ここで求めた微粒子14についての含有割合N(0.7)が、ドープに添加された以降における含有割合N(0.7)となっている。
各実験において用いられた微粒子の分散液の商品名を、表2の各例の欄における「微粒子」の「分散液」の欄に示す。また、セルロースアシレート52に対する微粒子14の質量割合Wpを、表2の各実験における「微粒子」の「質量割合」の欄に示す。なお、比較例1−Lについては、分散液を添加していないため、表2の「分散液」の欄には「−」と示す。
また、各実験に用いたドープに含まれる微粒子14以外の固形分は、以下の固形分A〜Cのいずれかであるとした。いずれの実験においても、3層全てのドープに同じ種類の固形分を用いた。各実験において用いられた微粒子14以外の固形分を、表2の各実験における「固形分種類」の欄に示す。なお、ここで、質量部単位で示す割合は、上述の実施形態において原料ドープ54からもたらされる固形分と、微粒子分散液58からもたらされる微粒子14以外の固形分とを合わせた際の全体の割合となっている。
固形分Aは、以下に示す成分からなる。固形分Aを用いて製造したフィルム10の長尺方向及び幅方向の平均弾性率は、4.5GPaであった。
〔固形分A〕
トリアセチルセルロース(TAC) 100.0質量部
スクロースベンゾエート 7.5質量部
スクロースアセテートイソブチレート 2.5質量部
紫外線吸収剤 チヌビン928(チバガイキ製) 2.0質量部
ここで、上記のトリアセチルセルロースは、アセチル置換度2.86、粘度平均重合度306、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中の6質量%の粘度310mPa・sの粉体である。スクロースベンゾエート及びスクロースアセテートイソブチレートは可塑剤である。また、チヌビン928は、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(1−メチル−1−フェニルエチル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノールを主成分としている。なお、チヌビンは、チバ ホールディング インコーポレーテッドの登録商標である。
固形分Bは、以下に示す成分からなる。固形分Bを用いて製造したフィルム10の長尺方向及び幅方向の平均弾性率は、3.0GPaであった。
〔固形分B〕
トリアセチルセルロース(TAC) 100.0質量部
ポリエステル可塑剤 25.0質量部
紫外線吸収剤 チヌビン928(チバガイキ製) 2.0質量部
固形分Cは、以下に示す成分からなる。固形分Cを用いて製造したフィルム10の長尺方向及び幅方向の平均弾性率は、3.0GPaであった。
〔固形分C〕
アクリルポリマー 100.0質量部
また、各実験のドープに含まれる溶媒には、以下に示す溶媒を用いた。
〔溶媒〕
メチレンクロライド 330.0質量部
メタノール 64.0質量部
ブタノール 3.0質量部
いずれの実験においても、ドープは、上述の図7に示すドープ調製装置31を用いて製造した。ここで、後述する微粒子14を添加したドープについては第2ドープ42と同様の方法で製造し、微粒子14を添加しなかったドープについては第1ドープ41と同様の方法で製造した。また、いずれの実験においても、フィルム本体12を形成することになるドープの固形分の濃度を22%とし、表層13を形成することになるドープの固形分濃度を19%とした。また、いずれの実験においても、上述の図7に示すものと同様の流延装置32によって流延膜66を形成した。流延膜66は、フィルム本体12を形成することになるドープが、表層13を形成することになるドープに挟まれて、3層重なった状態で形成された。そして、この流延膜66を剥ぎ取ってフィルム10を形成した。その後、図7の溶液製膜設備30において流延装置32の下流に設けられた各装置により、上述の実施形態と同様の処理を行った。
ここで、実験1−A〜1−E,1−J〜1−Qについては、3層全てのドープに微粒子14を添加した。一方、実験1−F〜1−Iについては、表層13を形成することになるドープにのみ微粒子14を添加した。各実験において微粒子が添加されたドープの層を、表2の各実験における「微粒子」の「添加層」の欄に示す。ここで、3層全てのドープに微粒子14が添加された例については「全層」と示し、表層13を形成することになるドープにのみ微粒子14が添加された例については「表層」と示す。
製造した各フィルム10について、フィルム面10aにおける突起15の総密度(総突起密度D[単位;個/mm2])と、けん化前後それぞれにおける高さ30nm以上の突起15の密度(突起密度D(30)[単位;個/mm2],Dk(30)[単位;個/mm2])と、を次の方法により求めた。
製造した各フィルム10(けん化処理前)のフィルム面10aに対して略垂直な方向から観察し、その観察画像を取得した。この観察は、走査型プローブ顕微鏡(SPA400、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて、AFM(Atomic Force Microscope、原子間力顕微鏡)モードにて、100μm×100μmの範囲で行われた。ここで得られた観察画像を、以下では、AFM画像と称する。AFM画像では、観察した箇所におけるフィルム面10aの表面からの突出高さに応じて、その箇所に対応する画素の輝度が高く表示される。AFM画像の一例として、実験1−Dで製造したフィルム10に関するAFM画像を、図10に示す。
突出高さに応じて輝度が高くなるというAFM画像の性質から、AFM画像において所定の輝度を閾値に設定して2値化処理を行うと、フィルム面10aの表面から所定の高さ以上の箇所を分離して抽出することができる。これを利用して、各AFM画像について、フィルム面10aの表面から10nm以上突出している部分を明輝度とし、それ以外の部分を暗輝度として分離する2値化処理を行った。ここで、実験1−Dで得られたAFM画像についてこの2値化処理を行った画像の一例を、図11に示す。
高さ10nmの時の輝度を閾値として2値化処理をした後の画像において、明輝度となる各部分(例えば、図11における、各グレーの島)を、それぞれ高さ10nm以上の突起と認識して検出した。その明輝度となる部分の数を数えることにより、高さ10nm以上の突起の数を求めた。そして、この突起の数に100をかけて1mm2あたりの突起の数に換算した数を、このAFM画像を取得した領域における局所的な総突起密度Dlとした。各実験においてAFM画像を複数取得し、複数の局所的な総突起密度Dlを求め、これらの相加平均を各実験における総突起密度Dとした。この総突起密度Dを、表3の各実験における「総突起密度D」の欄に示す。なお、「総突起密度D」の欄には、有効数字2桁とした値を示している。
上述の総突起密度Dの求め方のうち、2値化処理する際の閾値を、フィルム面10aの表面から30nm以上突出しているときの輝度に変更し、その他は総突起密度Dを求めるのと同様の方法で、各実験における突起密度D(30)を求めた。ここで、実験1−Dで得られたAFM画像について高さ30nmの時の輝度を閾値として2値化処理を行った画像の一例を、図12に示す。この突起密度D(30)を、表3の各実験における「突起密度D(30)」の欄に示す。なお、「突起密度D(30)」の欄には、有効数字3桁とした値を示している。
製造した各フィルム10をけん化処理してから、AFM画像の取得処理,2値化処理,及び突起の数を求めるまでの処理について上述と同様の方法で、各実験における突起密度Dk(30)を求めた。この突起密度Dk(30)を、表3の各実験における「突起密度Dk(30)」の欄に示す。なお、「突起密度Dk(30)」の欄には、有効数字3桁とした値を示している。
各実験におけるけん化処理前後それぞれのフィルム10に対し、貼り付きが低減される度合いを次のようにして評価した。まず、各フィルム10を7cm×7cmの正方形にカットしたものを3枚重ねた。次に、各フィルム10を3枚重ねた状態で温度25℃,湿度50%の条件下で24時間調湿した後、3枚重ねたまま温度40℃,湿度20%の環境下に置いた。そして、3枚重ねた各フィルム10の上に5kgのおもりを乗せて24時間放置した後、フィルム10の接触面積に対するフィルム10の貼付面積の割合S[単位;%]を求めた。求めた貼付面積の割合Sを以下のA〜Dの4段階で評価した。この評価結果を表3の各実験における「貼付評価」の欄に示す。けん化処理前の評価については「けん化処理前」の欄に、けん化処理後の評価については「けん化処理後」の欄にそれぞれ示す。この貼付評価がA,B,Cにおさまれば、実用上許容の範囲内のフィルム10である。
A:20%未満
B:20%以上30%未満
C:30%以上40%未満
D:40%以上
各実験におけるけん化処理前のそれぞれのフィルム10に対し、ヘイズメーター(NDH−5000、日本電色工業(株))を用い、JIS−K−7105に準じて、ヘイズを測定した。ヘイズの測定結果を表3の各実験における「ヘイズ」の欄に示す。
表2及び表3より、次のことがわかった。多少のばらつきは生じたものの、分散液の含有割合N(0.7)及び質量割合Wpの増加に伴って、概ね突起密度D(30)が増加する傾向が見られた。微粒子14の添加をした層が全層であるときと比較して、表層であるときの方が、製造されたフィルムのヘイズが低く抑えられることがわかった。
また、また、総突起密度Dとけん化処理前における貼付評価の結果との間には、相関は見られなかった。例えば、実験1−C,1−F,1−N,1−P,1−Qではいずれも総突起密度Dは90000個/mm2であったが、けん化処理前における貼付評価はそれぞれA,A,B,C,Cと大きな差が生じた。一方、突起密度D(30)とけん化処理前における貼付評価の結果との間には、相関が見られた。突起密度D(30)が20000個/mm2以上となった実験1−A〜1−Kではけん化処理前における貼付評価はいずれもAとなった。突起密度D(30)が16000個/mm2以上20000個/mm2未満の範囲内であった実験1−Oではけん化処理前における貼付評価はBとなった。突起密度D(30)が10000個/mm2以上16000個/mm2未満の範囲内であった実験1−M,1−N,1−P,1−Qでは、けん化処理前における貼付評価はそれぞれC,B,C,Cとなった。また、突起密度D(30)が10000個/mm2未満であった実験1−Lではけん化処理前における貼付評価はDとなった。
また、突起密度Dk(30)とけん化処理後における貼付評価の結果との間には、相関が見られた。突起密度Dk(30)が20000個/mm2以上となった実験1−D,1−E,1−G〜1−Kではいずれもけん化処理後における貼付評価はAとなった。突起密度Dk(30)が10000個/mm2以上20000個/mm2未満の範囲内であった実験1−B,1−C,1−Fではけん化処理後における貼付評価はBとなった。突起密度Dk(30)が10000個/mm2未満であった実験1−A,1−L〜1−Qではけん化処理後における貼付評価はDとなった。
また、固形分以外を同じ条件にした実験1−N,1−P,1−Qにおいて、フィルム弾性率の低い固形分BやCを用いた実験1−P、1−Qではケン化処理前における貼付評価はCとなり、固形分Aを用いた実験1−Nの貼付評価Bよりも低い評価となった。一方、同様に固形分以外を同じ条件のまま突起密度D(30)を上げた実験1−G,1−J,1−Kにおいて、固形分BやCを用いた実験1−J、1−Kでは貼付評価はAとなり、固形分Aを用いた実験1−Gの貼付評価Aと同じ結果となった。このことから、弾性率の低い固形分BやCを用いたフィルムの方が、固形分Aを用いたフィルムよりも、突起密度D(30)を上げることによる貼り付き低減の効果が大きく得られることがわかった。
実施例2は、実施例1の実験1−A,1−C,1−D,1−G,1−I〜1−Oで、それぞれ製造した厚みが40μmのけん化処理前の各フィルム10を用いて行ったものである。各フィルム10について、以下で説明する方法により、接触面圧がそれぞれ0.01MPa,0.03MPa,0.05MPa,0.07MPa,0.10MPaであるときの静摩擦係数を求めた。各接触面圧における静摩擦係数を、表4の各実験における「静摩擦係数」の欄にそれぞれ示す。
静摩擦係数の測定には、A&D株式会社製のテンシロン万能試験機RTG−1250を用いた。なお、「テンシロン」は「TENSILON」(登録商標)である。ここで、この試験機に用いられたロードセル108(図13参照)は、50N〜500Nの範囲を適合範囲とする規格のものであった。この試験機及びロードセルを用いて静摩擦係数を測定した時の測定方法としては、「JIS K7125プラスチックフィルム及びシート摩擦係数試験方法」と同様の方法を用いた。以下に、任意の接触面圧に対して静摩擦係数を測定した方法を具体的に説明する。
静摩擦係数の測定をするために、測定開始前の初期の配置(初期配置)として、図13に示すような2枚の試験片を重ねた配置を行った。まず、固定台に固定される側の試験片である固定側試験片102と、測定開始後に滑り移動をする側の試験片である滑り側試験片104とを以下のようにして準備した。各フィルム10を、25℃,60%RHの環境下で1時間以上調湿した。調湿したフィルム10から、それぞれ固定側試験片102と滑り側試験片104とを、いずれも巻き取り時の内側のフィルム面と外側のフィルム面とを区別できるように、かつ、ウェブ方向とウェブ幅方向とを区別できるようにして、切り出した。ここで、固定側試験片102は略長方形に切り出され、その大きさは、ウェブ方向長さが200mm以上であり、ウェブの幅方向長さが50mm以上であるとした。また、滑り側試験片104も略長方形に切り出され、その大きさは、ウェブ方向長さが50mm以上であり、ウェブの幅方向長さが50mm以上であるとした。
略水平の試験片固定台101の上面に両面テープを介して、固定側試験片102を内側のフィルム面を下に向けて重ねて固定した。固定側試験片102の上に、上で準備した滑り側試験片104を内側のフィルム面を下に向けて、互いにウェブ方向及びウェブ幅方向が略一致するように固定せずに重ねた。滑り側試験片104の上に両面テープを介して滑り片105を重ねて固定した。滑り片105の上におもり106を乗せた。ここで、滑り片105は、滑り側試験片104と面で接触することができ、おもり106により変形しないようなものを用いた。また、滑り片105と滑り側試験片104との接触面積を4cm2とした。また、おもり106の質量は400g以上4.0kg以下の範囲内であり、設定条件である各接触面圧から、後述する接触面圧を求める式を用いて、おもりの質量を決めた。そして、滑り片105を、ワイヤ107を介してロードセル108に接続した。ワイヤ107の一端を滑り片105のウェブ方向に垂直な側面に接続し、他方の端をロードセル108に接続した。滑り片105にかかる張力の方向とロードセル108にかかる張力の方向を調整するために、ワイヤ107には、適宜、滑車109を設けた。
このような初期配置を行った後、一定時間が経過するのを待って、初期配置を安定化させた。その後、ロードセル108を速度1000mm/min.で継続して移動させることにより、ワイヤ107に張力を継続してかけた。このようにして、滑り片105にウェブ方向への力を継続して加えた。滑り片105に力が加えられると、滑り片105は滑り側試験片104及びおもり106と一体となって、固定側試験片102上を滑りながら移動した。ロードセル108の移動を開始してから移動を終了させるまでの間、初期配置に対する滑り片105の移動量を変位量[単位;mm]として、測定した。また、この間、固定側試験片102と滑り側試験片104との間に発生した力を摩擦力[単位;N]として、ロードセル108により測定した。変位量を横軸にとり、摩擦力を縦軸にとったグラフに、上の測定結果に基づいて各変位量に対する摩擦力の変化をプロットすると、例えば図14のようなものが得られた。
図14において、曲線112における第1極大点113が指し示す摩擦力(符号;114)を、静摩擦力[単位;N]とした。ここで、第1極大点113は、曲線112における極大点のうち、変位量が最も小さいものである。この静摩擦力を用いて、静摩擦係数を、(静摩擦係数[単位;無次元])=(静摩擦力[単位;N])/(おもり106の質量[単位;kg]×重力加速度g[単位;m/s2])の式により求めた。ここで、重力加速度gは、約9.8m/s2である。また、固定側試験片102と滑り側試験片104との間に加えられた接触面圧を、(接触面圧[単位;MPa])=(おもり106の質量[単位;kg]×重力加速度g[単位;m/s2])/(滑り側試験片104と滑り片105との接触面積[単位;mm2])の式により求めた。おもり105の質量を変更することにより接触面圧を変更して、各接触面圧に対する静摩擦係数を求めた。
また、各フィルム10について、けん化処理前後の両方について、巻取装置37を用いてロール状に巻き取ることにより、巻き取り性を評価した。ここで、巻き取り性の評価とは、ベコ、しわ、芯側写り故障が発生しない度合いの評価である。巻き取った際のフィルムロール22におけるベコやしわや芯側写り故障の発生の度合いにより、巻き取り性を以下のA〜Dの4段階で評価した。この評価結果を表4の各実験における「巻き取り性」の欄に示す。
A:ベコやしわが発生せず、芯側写り故障の発生領域が50m未満
B:ベコやしわが発生し、芯側写り故障の発生領域が50m以上100m未満
C:ベコやしわが強く発生し、芯側写り故障の発生領域が100m以上200m未満
D:ベコやしわがフィルム全体に強く発生し、芯側写り故障の発生領域が200m以上
表4に示すように、けん化処理前における貼付評価、静摩擦係数の結果とけん化処理前における巻き取り性の評価との間には、相関が見られた。けん化処理前における貼付評価がAであった実験1−A,1−C,1−D,1−G,1−I〜1−Kの各フィルム10ではいずれも0.05MPa以上0.10MPa以下の範囲内における静摩擦係数が1.2以下であり、巻き取り性の評価はAとなった。また、けん化処理前における貼付評価がBであった実験1−Oのフィルム10では巻き取り性の評価はBとなった。また、けん化処理前における貼付評価がCであった実験1−M,1−Nのフィルムでは、それぞれ巻き取り性の評価はC,Bとなった。けん化処理前における貼付評価がDであった実験1−Lのフィルムでは巻き取り性の評価はDとなった。巻き取り性の評価がBであったフィルムではいずれも0.05MPa以上0.10MPa以下の範囲内における静摩擦係数の最大値が1.2より大きく1.3以下の範囲内であり、巻き取り性の評価がCであったフィルムではいずれも0.05MPa以上0.10MPa以下の範囲内における静摩擦係数の最大値が1.3より大きく1.4以下の範囲内であり、巻き取り性の評価がDであったフィルムではいずれも0.05MPa以上0.10MPa以下の範囲内における静摩擦係数の最大値が1.4より大きくなった。
微粒子14を添加していない実験1−Lのフィルムでは、接触面圧が0.01MPaの時にフィルム間の静摩擦係数が1.40と高くなった。そのため、フィルム間ですべることができなくなり、ベコやしわがフィルム全体に強く発生し、芯側写り故障が長い領域にわたって発生してしまうことがわかった。また、突起密度D(30)が比較的低い実験1−M,1−N,1−Oのフィルムでは、接触面圧が0.01MPaの時にはフィルム間の静摩擦係数が0.8以下と低いものの、接触面圧が0.05MPaと高くなる時にはフィルム間の静摩擦係数が1.2以上と高くなった。そのため、部分的にフィルム間ですべることができなくなり、ベコやしわが発生し、芯側写り故障が発生してしまうおそれがあることがわかった。一方、突起密度D(30)が20000個/mm2以上と比較的高い実験1−A,1−C,1−D,1−G,1−I〜1−Kの各フィルム10では、接触面圧が0.05MPaと高くなってもフィルム間の静摩擦係数が0.8以下と低く保持され、接触面圧が0.10MPaと高くなってもフィルム間の静摩擦係数が1.2以下と低く保持された。そのため、フィルム間ですべることができ、ベコやしわや芯側写り故障の発生が抑えられることがわかった。
また、表4に挙げたものの他に、実施例1−D,1−J,1−Kでそれぞれ製造した厚みが20μm,40μmの各フィルム10について、けん化処理前後のそれぞれでロール状への巻き取りを行って、上述の方法で巻き取り性を評価した。その結果、いずれもA評価が得られた。また、このうち厚みが40μmの各フィルム10について、クリア塗工を行ってからロール状への巻き取り性を確認したところ、いずれもA評価が得られた。
ここで、クリア塗工とは、上記フィルムの表面に塗工し、透明ハードコート層を設けることをいう。透明ハードコート層として、活性線硬化性樹脂あるいは熱硬化樹脂が好ましく用いられる。活性線硬化性樹脂とは紫外線や電子線等の活性線照射により、架橋反応を経て硬化する樹脂を主成分とする層をいう。活性線硬化性樹脂として、紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂等があり、紫外線や電子線等以外の活性線照射により、硬化する樹脂でもよい。紫外線硬化性樹脂としては例えば、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂等を挙げることができる。
また、実験1−A,1−C,1−D,1−M,1−Nでそれぞれ製造した厚みが40μmの各フィルム10については、上述と同様の方法により、接触面圧を徐々に変更した際の静摩擦係数も測定した。この結果を図15に示す。図15は、これらの静摩擦係数のデータを、横軸に接触面圧を取り、縦軸に静摩擦係数をとったグラフにプロットし、プロットされた点を曲線フィッティングしたものである。図15にしめす曲線C1は実験1−Mのフィルム10についてのデータによるものであり、曲線C2は実験1−Nによるものであり、曲線C3は実験1−Aによるものであり、曲線C4は実験1−Cによるものであり、曲線C5は実験1−Dによるものである。いずれのフィルム10においても、接触面圧が0.005MPa以下の領域において静摩擦係数が最小値をとった。
実験1−Mのフィルムにおいては、図15の曲線C1に示すように、静摩擦係数が最小値をとってから接触面圧が0.03MPa程度になるまでは接触面圧の増加に伴い静摩擦係数がほぼ単調に急激に増加し、接触面圧が0.03MPa程度で静摩擦係数が最大値約1.40をとった。接触面圧が0.03MPa程度から0.10MPa程度で静摩擦係数が1.30〜1.40程度となった。また、実験1−Nのフィルムにおいては、図15の曲線C2に示すように、静摩擦係数が最小値をとってから接触面圧が0.05MPa程度になるまでは接触面圧の増加に伴い静摩擦係数がほぼ単調に急激に増加し、接触面圧が0.05MPa程度で静摩擦係数が最大値約1.30をとった。接触面圧が0.05MPa程度から0.10MPa程度で静摩擦係数が1.20〜1.25程度となった。このことから、実験1−M,1−Nのフィルムでは、接触面圧の高いところで静摩擦係数を1.2以下に保持できないことがわかった。
一方、実験1−Aのフィルムにおいては、図15の曲線C3に示すように、静摩擦係数が最小値をとってから接触面圧が0.05MPa程度になるまでは接触面圧の増加に伴い静摩擦係数がほぼ単調に緩やかに増加し、接触面圧が0.05MPa程度で静摩擦係数が約0.8となった。接触面圧が0.05MPa程度から0.06MPa程度では静摩擦係数の増加は大きくなり接触面圧が0.06MPa程度で静摩擦係数が1.10程度となった。接触面圧が0.06MPa程度から0.10MPa程度では静摩擦係数が最大値1.05〜1.10程度をとった。このことから、実験1−Aのフィルムでは、接触面圧の高いところでも静摩擦係数を1.2以下に保持できることがわかった。
また、実験1−Cのフィルムにおいては、図15の曲線C4に示すように、静摩擦係数が最小値をとってから接触面圧が0.025MPa程度になるまでは接触面圧の増加に伴い静摩擦係数がほぼ単調に緩やかに増加し、接触面圧が0.025MPa程度で静摩擦係数が約0.80をとった。接触面圧が0.025MPa程度から0.05MPa程度までは静摩擦係数は0.70〜0.90程度でほぼ一定となった。また、実験1−Dのフィルムにおいては、図15の曲線C5に示すように、静摩擦係数が最小値をとってから接触面圧が0.025MPa程度になるまでは接触面圧の増加に伴い静摩擦係数がほぼ単調に緩やかに増加し、接触面圧が0.025MPa程度で静摩擦係数が最大値約0.85をとった。接触面圧が0.025MPa程度から0.10MPa程度では静摩擦係数が0.60〜0.70程度となった。このことから、実験1−C,1−Dのフィルムでは、接触面圧の高いところでも静摩擦係数を0.9以下と非常に低く保持できることがわかった。
本発明の実施例3は、上記の固形分Aを用い、微粒子14の1次粒子径r1とその添加量とを変量して、7種類のフィルム10を製造し、貼付低減に有効となる突起高さHの確認を行ったものである。7種類のフィルムには、上述の貼付評価の方法において貼付面積の割合Sが0%〜50%のものをランダムに選択した。
この7種類のフィルム10について、高さ10nm以上の突起の密度(突起密度D(10)[単位;個/mm2]),高さ20nm以上の突起の密度(突起密度D(20)[単位;個/mm2]),高さ30nm以上の突起の密度(突起密度D(30)[単位;個/mm2]),高さ40nm以上の突起の密度(突起密度D(40)[単位;個/mm2]),高さ50nm以上の突起の密度(突起密度D(50)[単位;個/mm2]),をそれぞれ求めた。これらの突起の密度はいずれも、上で説明したAFM画像を、それぞれの突起の高さに応じた輝度を閾値に設定して2値化処理し、明輝度の塊の数をカウントして1mm2あたりに換算することにより求められた。
この7種類のフィルム10に関して、横軸に突起密度D(10)をとり、縦軸に貼付面積の割合Sをとったグラフにプロットをしたところ、図16に示すグラフが得られた。横軸に突起密度D(30)をとって同様のプロットをしたところ、図17に示すグラフが得られた。横軸に突起密度D(40)をとって同様のプロットをしたところ、図18に示すグラフが得られた。また、横軸に突起密度D(50)をとって同様のプロットをしたところ、図19に示すグラフが得られた。
図16のグラフより、突起密度D(10)は、貼付面積の割合Sにはほとんど影響がない因子であることがわかった。一方、図17,18,19のグラフより、突起密度D(30),突起密度D(40)及び突起密度D(50)は、いずれも貼付面積の割合Sに強い相関を持つ因子であることがわかった。突起密度D(30),突起密度D(40)及び突起密度D(50)が大きくなればなるほど、貼付面積の割合Sは小さくなることがわかった。
図16〜19に加えて、この7種類のフィルム10に関して、横軸に突起密度D(20)をとり、縦軸に貼付面積の割合Sをとったグラフにプロットをしたものを作成した(図は省略)。これらの5つのグラフについて、寄与率(重決定係数)R2を求めた。この寄与率R2を求めた結果に関して、横軸に前述の5つのグラフにおいて閾値となった突起高さH[単位;nm]をとり、縦軸に寄与率R2を取ったグラフにプロットしたところ、図20に示すグラフが得られた。このグラフから、高さ30nm以上の突起が、貼付面積の割合Sを小さくすることに寄与しており、その中でも高さ40nm以上の突起がさらに寄与しており、その中でも高さ50nm以上の突起がさらに寄与していることがわかった。
本実施例4は、上述の実施例1,2と同様の方法で作成される10種類のフィルム10を用いて、貼付低減に有効となる突起がどのような微粒子を含むものであるかを確認したものである。10種類のフィルムには、上述の貼付評価の方法において貼付面積の割合Sが0%〜50%のものをランダムに選択した。
この10種類のフィルム10のフィルム面10aに対して略垂直な方向から、SEM(Scanning Electron Microscope、走査型電子顕微鏡)により観察し、各フィルム10のフィルム面10aに存在する微粒子の2次粒子径r2の分布を調査した。この10種類のフィルム10に関して、横軸に微粒子14についての含有割合N(0.7)[単位;%]をとり、縦軸に貼付面積の割合Sをとったグラフにプロットをしたところ、図21に示すグラフが得られた。図21から、含有割合N(0.7)が30%以上になると、貼付面積の割合Sが20%未満になり、含有割合N(0.7)が50%以上になると、貼付面積の割合が10%未満になることがわかった。これにより、重なったフィルム間の貼り付きを低減するには、フィルムを形成するドープにおける含有割合N(0.7)が高いことが重要であることが確認できた。