JP5984100B1 - リグノフェノール−セルロース複合体の製造方法 - Google Patents

リグノフェノール−セルロース複合体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 植物資源から、より簡易かつ効率的にリグノフェノール−セルロース複合体を製造することができる方法を提供すること。【解決手段】 リグノフェノール−セルロース複合体の製造方法を開示する。本発明の方法は、植物資源粉末にフェノール類材料を添加して、フェノール類収着粉末を得る工程;撹拌翼を備える反応器内にフェノール類収着粉末および濃酸を添加して反応液を得、そして反応器内で反応液に剪断力を付加して該フェノール類収着粉末と該濃酸とを反応させる工程;反応液を水と接触させて反応をクエンチする工程;およびクエンチした反応液を固液分離する工程;を包含する。ここで、反応工程(b)に要する時間は5秒間から10分間であり、反応工程(b)において、反応液に付加される剪断力は反応器における撹拌翼の所定の翼周速度で表され、そして撹拌翼の翼周速度は3π(m/秒)から50π(m/秒)である。【選択図】 図1

Description

本発明は、リグノフェノール−セルロース複合体の製造方法に関し、より詳細には植物資源からの製造がより簡易かつ効率的であるリグノフェノール−セルロース複合体の製造方法に関する。
植物資源に代表されるリグノセルロース系資源は、セルロース、ヘミセルロース、およびリグニンから構成されており、それらは細胞壁中で複雑なセミIPN(Semi−IPN)構造を形成し、高度に複合化されている。このため、単純な溶媒処理等ではその構造を解放することができず、それがリグノセルロース系物質(木質材料)に際立った安定性を付与している。
これに対し、このような植物資源に所定の処理を施して当該植物資源からリグノフェノール−セルロース複合体(LCC;リグノセルロース複合体)やリグノフェノール誘導体(LP)を取り出して、種々の技術分野に応用することが提案されている(特許文献1〜7)。しかし、植物資源から、これらのリグノフェノール−セルロース複合体やリグノフェノール誘導体を得るには、より多くの処理工程および処理時間を必要とし、より効率性の高められた技術開発が所望されている。
また、近年ではセルロースナノファイバー(CNF)が注目されており、各種樹脂材料に混合することにより、繊維補強材として機能することが確認されている。しかし、当該樹脂材料の多くは疎水性であることから、親水性のセルロース繊維を均一分散させることは一般に困難であり、その改善策として様々な添加剤を併用することが提案されている。
この流れの中で、近年リグニンの疎水性が注目されている。セルロースをリグニンでコーティングしたままパルプ−リグニン複合体を調製することができれば、樹脂材料へのセルロース繊維の分散性の改善が期待できるからである。こうしたパルプ−リグニン複合体の製造は、従来の高収率パルプの製造技術を応用したものがほとんどである。植物資源を単純に機械解繊するものや、加熱下で機械解繊するもの、所定の薬剤処理を施した後に機械解繊するもの等、多様な方法が提案されている。
しかし、上記パルプ−リグニン複合体にはいくつかの課題が残されている。例えば、植物資源を構成する細胞壁中において、セルロースミクロフィブリルやその集合体(マクロフィブリル)はリグニンで覆われており、リグニンを除去しない限りは、自由膨潤性を得ることが難しいため、繊維質を破壊しない上記機械解繊のような方法では、細胞壁のナノファイバー化は不可能に近い。また、自由膨潤性を得るために、付与するエネルギーレベルを上げると、繊維質のさらなる破断やリグニンの変性を招くこととなり、樹脂材料における高機能なフィラーとしての性能が損なわれるおそれがある。さらに、リグニンは構造が不規則な不安定物質でもあるため、樹脂材料への配合後、様々な副反応を起こすことも考えられる。これにより、リグニン自体が樹脂材料中で経年変化を起こし、複合製品の安定性や信頼性に影響を及ぼすことがある。
このような点からも、上記パルプ−リグニン複合体に代えて、リグニンをジフェニルメタン(DPM)型構造に変換したリグノフェノールを含むリグノフェノール−セルロース複合体の応用が期待されている。
特開平2−233701号公報 特開平9−278904号公報 特開2001−342353号公報 特開2002−105240号公報 特開2008−266266号公報 特開2011−256380号公報 国際公開第2010/047358号
本発明は、上記課題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、植物資源から、より簡易かつ効率的にリグノフェノール−セルロース複合体を製造することができる方法を提供することにある。
本発明は、リグノフェノール−セルロース複合体の製造方法であって、
(a)植物資源粉末にフェノール類材料を添加して、フェノール類収着粉末を得る工程;
(b)撹拌翼を備える反応器内に該フェノール類収着粉末および濃酸を添加して反応液を得、そして該反応器内で該反応液に剪断力を付加して該フェノール類収着粉末と該濃酸とを反応させる工程;
(c)該反応液を水と接触させて反応をクエンチする工程;および
(d)該クエンチした反応液を固液分離する工程;
を包含し、
ここで、
該反応工程(b)に要する時間が5秒間から分間であり、
該反応工程(b)において、以下の式で表される該反応器における該撹拌翼の翼周速度V(m/秒):
Figure 0005984100
(ここで、Diは該撹拌翼の翼直径(m)であり、Niは該撹拌翼の翼数であり、そしてRは回転数(rpm)である)が該反応液に付加される該剪断力の指標として表され、そして
該反応工程(b)における該撹拌翼の該翼周速度が3π(m/秒)から50π(m/秒)である、方法である。
1つの実施形態では、上記反応工程(b)に要する時間は25秒間から3分間である。
1つの実施形態では、上記反応工程(b)における上記撹拌翼の上記翼周速度は3.6π(m/秒)から28π(m/秒)である。
1つの実施形態では、上記濃酸は、濃硫酸、濃塩酸および濃硝酸からなる群から選択される少なくとも1種の鉱酸である。
1つの実施形態では、上記濃酸は65%以上の濃硫酸である。
1つの実施形態では、上記反応器は円筒状の反応器本体を備え、
該反応器本体の一端側に上記フェノール類収着粉末の導入口、他端側に上記反応液の液出口を備え、
上記撹拌翼の基端は、該反応器本体内に設けられた回転軸の周りに固定されており、該撹拌翼が該回転軸から該反応器本体の内周面に向けて放射方向に延び、櫛歯形状の翼先端を有し、かつ1つの翼先端と他の翼先端とが千鳥配列を構成してずれており、そして
該翼先端と該反応器本体の該内周面とのクリアランスが該反応液に含まれる該フェノール類収着粉末を圧延る寸法に設計されている。
本発明によれば、植物資源粉末からリグノフェノール−セルロース複合体を簡易かつ効率良く製造することができる。本発明により得られた複合体は、植物資源粉末から製造され得るリグノフェノールと比較して、例えば、流動開始温度が上昇しており、当該リグノフェノールとは異なる新素材であり、その製造に要する時間を大幅に短縮することができる。
本発明のリグノフェノール−セルロース複合体の製造方法の一例を説明するフローダイアグラムである。 本発明の反応工程(b)に用いられる反応器の一例を説明するための当該反応器の断面図である。 実施例1〜3で得られた複合体サンプルのFT−IRスペクトルを示すグラフである。 実施例4〜6で得られた複合体サンプルのFT−IRスペクトルを示すグラフである。
以下、本発明を、図面を用いて詳述する。
図1は、本発明のリグノフェノール−セルロース複合体の製造方法の一例を説明するフローダイアグラムである。
本明細書中に用いられる用語「リグノフェノール−セルロース複合体」は、植物資源に由来する組成物であって、リグノフェノール誘導体およびセルロース成分を含有する組成物である。
図1の符号12に示すように、本発明では、まず、前処理工程(a)が行われ、具体的には、植物資源粉末にフェノール類材料が添加され、フェノール類収着粉末が作製される。
本発明に用いられる植物資源粉末は、例えば、植物資源から得られた粉末粒子、チップ、廃材、端材、間伐材ならびに農産および林産廃棄物を包含する。植物資源としては、針葉樹または広葉樹に属する木本植物(例えば、スギ、ヒノキ、ヒバ、イチイ、イチョウ、エンジュ、カエデ、キリ、クス、クリ、クロガキ、クワ、ケヤキ、トチ、ナラ、ツガ、ニレネズコ、ホウ、マカバ、マツ、タケ)、草本植物(例えば、イネ、コムギ、オオムギ、ヒマワリ、シダ、ジャガイモ、サツマイモ、カボチャ、トウモロコシ、キャッサバ、サトウキビ、トマト、エンドウ、ダイズ、テンサイ、アブラヤシ)などが挙げられる。植物資源は、予め充分に乾燥したものであることが好ましい。さらに植物資源は、必要に応じて、予め当業者に周知の方法で脱脂処理が施されていることが好ましい。
本発明において、植物資源粉末は、後述する濃酸との反応工程(b)における反応を円滑に行うために、予め所定の大きさを有するように整粒されていることが好ましい。植物資源粉末の大きさは、好ましくは20メッシュパス〜200メッシュパス、より好ましくは60メッシュパス〜100メッシュパスである。植物資源の粉末化は、当業者に公知の手段(例えば破砕機、粉砕機、粉体製造機)を用いて行われ得る。
フェノール類材料としては、例えば、直鎖または分岐鎖のC〜Cアルキル基、直鎖または分岐鎖のC〜Cアルコキシ基および水酸基から選択される少なくとも1つの置換基をオルト位、メタ位、および/またはパラ位に有するフェノール誘導体が挙げられる。本発明に用いられ得るフェノール類材料の例としては、p−クレゾール、2,6−キシレノール、2,4−キシレノール、2−メトキシフェノール、2,6−ジメトキシフェノール、カテコール、レゾルシノール、ホモカテコール、ピロガロール、およびフロログルシノール、ならびにそれらの2つまたはそれ以上の組合せが挙げられる。得られるリグノフェノール−セルロース複合体の特性を制御することができ、例えば充分な疎水性を提供することができるとの理由から、p−クレゾールが好ましい。
本発明における上記植物資源粉末へのフェノール類材料の添加量は、必ずしも限定されないが、当該植物資源粉末に含まれるリグニン(C)含量を基準として、好ましくは0.5モル倍量〜6モル倍量、より好ましくは1モル倍量〜3モル倍量である。
植物資源粉末にフェノール類材料を添加した後、植物資源粉末へのフェノール類材料の収着を促進するために、充分撹拌を行うことが好ましい。撹拌に要する時間は、例えば、使用する植物資源粉末の量によって変動するため特に限定されない。また、撹拌は好ましくは常温下で行われる。
このようにして植物資源粉末からフェノール類収着粉末が作製される。
次に、本発明では、撹拌翼を備える反応器内に、上記で得られたフェノール類収着粉末および濃酸を添加することにより反応液が調製され、そして反応器内で反応液に剪断力を付加することにより、フェノール類収着粉末と濃酸との反応が行われる(図1の反応工程(b)14)。
図2は、本発明の反応工程(b)に用いられる反応器の一例を説明するための当該反応器の断面図である。
図2に示すように、本発明の反応工程(b)に用いられ得る反応器20は、筒芯を水平にする円筒状の反応器本体20Aと、モータ20Dと、モータ20Dにより回転する回転軸20Bと、回転軸20Bに固定された圧送用翼20Jおよび撹拌翼20Cとを備え、反応器本体20Aの一端側に上記フェノール類収着粉末の導入口20E、および他端側に上記反応液の液出口20Gが設けられている。図2において、撹拌翼20Cの基端は、回転軸20Bの周りに固定されている。撹拌翼20Cは、回転軸20Bから反応器本体20Aの内周面に向けて放射方向に延びている。さらに、撹拌翼20Cの翼先端20C’は、櫛歯形状を有し、かつ1つの翼先端と他の翼先端とが千鳥配列を構成してずれている。またさらに、撹拌翼20Cの翼先端20C’と該反応器本体20Aの内周面とのクリアランスqは後述する反応液を圧延る寸法に設計されている。
反応器20では、導入口20Eから反応器本体20A内に添加されたフェノール類収着粉末と、濃酸注入口21Aから反応器本体20A内に添加された濃酸とから構成される反応液が、撹拌翼20Cの回転によって撹拌され、反応液中のフェノール類収着粉末と濃酸との加水分解反応を通じて、液体と固形物との混合状態で構成されるように調製される。反応液は、撹拌翼20Cの回転に伴って、撹拌翼20Cの翼先端20C’と反応器本体20Aの内周面との間のクリアランスqを介して図2の紙面に向かって右方向から左方向に移動する。その際、反応液に含まれる上記フェノール類収着粉末は、上記撹拌翼20Cの翼先端20C’と反応器本体20Aの内周面との間で圧延による剪断力が付与され、さらに細分化される。
図2に示す反応器20では、反応器本体20Aの周囲に、冷却水入口20Hおよび冷却水出口20Iを有する冷却機構が設けられている。冷却機構は、別途設けられているチラーユニット(図示せず)から送出される冷却水を冷却水入口20Hより導入し冷却機構内部に通流させ冷却水出口20Iより流出することによって反応器本体20Aを20℃以上40℃未満の温度となるように温度調節が行われる。ここで、加水分解時の反応器本体20Aの温度が20℃未満では、例えば、フェノール類収着粉末を含む反応液の粘度が増大する;当該反応液が固化する;等により、反応器20内の反応液の移動が円滑に行われないおそれがある。加水分解時の反応器本体20Aの温度が40℃以上であると、反応液内のフェノール類収着粉末と濃酸との反応が進み過ぎて、所望のリグノフェノール−セルロース複合体を得ることが困難となる場合がある。
反応器20において、フェノール類収着粉末と濃酸とが反応すると、フェノール類収着粉末に含まれているセルロース成分が膨潤する。これにより、反応液は撹拌の初期において粘性が増加する。その後、膨潤したセルロース成分は、濃酸によって加水分解され、これにより、反応液の粘性は低下する。反応器20は、反応器本体20Aにモータ20Dで回転される撹拌翼20Cを有しているので、フェノール類収着粉末と濃酸との反応を促進し、初期混練効率を向上させることができる。
これにより、反応器20において、撹拌されたフェノール類収着粉末が濃酸により加水分解され、一方、フェノール類収着粉末内のリグニン成分が側鎖ベンジル位でフェノール化されてリグノフェノール誘導体に変換される。
なお、本発明において、反応器は、上記図2の構成に必ずしも限定されない。反応液に剪断力を付加し得る、撹拌翼を備えた他の反応器であってもよい。他の反応器としては、例えば、ナイフミキサー、ホモゲナイザー、ピンミキサーなどが挙げられる。
本発明の上記反応工程(b)において使用され得る濃酸は、例えば、フェノール類収着粉末に含まれるセルロース成分を膨潤させ、かつ加水分解し得る能力を有する酸(例えば、無機酸)である。濃酸の例としては、濃硫酸、濃塩酸および濃硝酸、ならびにそれらの組合せが挙げられる。濃硫酸が用いられる場合、例えば、65%以上、72%以上の濃度のものが使用され得る。濃塩酸が用いられる場合、例えば、38%以上の濃度のものが使用され得る。
反応工程(b)における濃酸の使用量は、必ずしも限定されないが、フェノール類収着粉末に含まれる気乾植物資源粉末100gに対して、好ましくは100mL〜500mL、より好ましくは200mL〜400mLである。濃酸の使用量が100mL未満であると、フェノール類収着粉末に含まれるセルロース成分を充分に膨潤および/または加水分解することができず、得られる複合体の収率や品質を低下させることがある。濃酸の使用量が500mLを上回っても、反応工程(b)における反応の進行には特に影響がなく、むしろ反応終了後における当該濃酸の処理および回収が煩雑となって、生産効率を低下させるおそれがある。
本発明では、上記反応工程(b)おける反応時間(すなわち、反応工程(b)に要する時間)と反応液に付加する剪断力とを適宜変動させることにより、得られるリグノフェノール−セルロース複合体の物性を制御することができる。
ここで、本明細書中に用いられる用語「反応工程(b)に要する時間」とは、それぞれ添加されたフェノール類収着粉末および濃酸が互いに接触して反応を開始してから、濃酸によるフェノール類収着粉末の反応がクエンチされるまで(すなわち、後述の工程(c)において水の添加が開始されるまで)の時間を言う。この点において、「反応工程(b)に要する時間」とは、必ずしもフェノール類収着粉末および濃酸を含む反応液が上記図2に示す反応器20内を通過するまでの時間に限定されない。例えば、反応器20から反応液が排出された後も当該反応が進行している場合もあるため、当該時間の終了時点は、後述の水の添加を開始する時点と一致するように設定される。
本発明において、反応工程(b)に要する時間は、使用する反応器のサイズや反応液に付与する剪断力の大きさ等によって変動することがあるため必ずしも限定されないが、例えば5秒間から10分間であり、好ましくは15秒間〜5分間であり、より好ましくは25秒間〜3分間である。反応工程(b)に要する時間が5秒間未満であると、フェノール類収着粉末の濃酸による反応が余り進行しておらず、フェノール類収着粉末中のセルロース成分の膨潤が不充分となり、リグニンがリグノフェノールに変換する量が少なくなって、フェノール類収着粉末を構成する細胞壁構造が充分に解放されず、本発明の複合体のような物性を得ることができないおそれがある。反応工程(b)に要する時間が10分間を上回ると、フェノール類収着粉末の濃酸による反応が過度に進行し、フェノール類収着粉末内のセルロース成分が過度に加水分解して、得られる複合体中のセルロース成分含量が低下し、所望の物性が得られないおそれがある。
上記反応工程(b)は、付与する剪断力の大きさ等の条件にも影響するため必ずしも限定されないが、多くの場合、反応初期においてフェノール類収着粉末と濃酸との反応が急速に進んでリグノフェノールを生成し、その後も濃酸がフェノール類収着粉末内のセルロースを徐々に加水分解する傾向にある。このため、当該反応に要する時間を適宜選択することにより、得られる複合体のリグノフェノールとセルロースとの構成比を制御することが可能である。
本発明においては、反応器における撹拌翼の翼周速度(あるいは、翼外周速度または翼先端速度とも言う)V(m/秒):
Figure 0005984100
(ここで、Diは該撹拌翼の翼直径(m)であり、Niは該撹拌翼の翼数であり、そしてRは回転数(rpm)である)を反応工程(b)の反応液に付加される剪断力の指標として表すことができる。なお、本明細書中で用いられる用語「撹拌翼の翼数」とは、撹拌翼が押出スクリューのようなスクリュー構造を有する場合は、当該スクリューの全山数(すなわち、刃数)を表す。
本発明における撹拌翼の翼周速度は、使用する反応器のサイズや上記反応工程(b)に要する時間等によって変動することがあるため必ずしも限定されないが、例えば3π(m/秒)〜50π(m/秒)であり、好ましくは3.6π(m/秒)〜28π(m/秒)である。たとえ反応工程(b)に要する時間が上記範囲を満たすものであっても、撹拌翼の翼周速度が、3π(m/秒)未満であると、反応器内で反応液に充分な剪断力を付与することができず、フェノール類収着粉末中のセルロース成分の膨潤が不充分となり、リグニンがリグノフェノールに変換する量が少なくなって、フェノール類収着粉末を構成する細胞壁構造が充分に解放されず、本発明の複合体のような物性を得ることができないおそれがある。撹拌翼の翼周速度が、50π(m/秒)で上回ると、反応器内で反応液に付与される剪断力が大きくなりすぎて、反応液が過剰に発熱して温度制御が困難となり、反応液内のフェノール類収着粉末と濃酸との反応が進み過ぎて、所望のリグノフェノール−セルロース複合体を得ることが困難となるおそれがある。
なお、上記撹拌翼の翼周速度を達成し得る撹拌翼の翼直径および回転速度は、例えば、使用する反応器の大きさ(内径および直胴長さ等)に応じて当業者によってそれぞれ任意の範囲に設定することができる。
本発明においては、上記反応工程(b)に要する時間および当該反応工程(b)における撹拌翼の翼周速度をそれぞれ上記のような範囲内に設定することにより、フェノール類収着粉末に含まれるセルロース成分を適度に加水分解することが可能となり、例えば固有の物性を有するリグノフェノール−セルロース複合体を得ることができる。
再び図1を参照すると、本発明では、次いで、反応液は水と接触させられ、反応がクエンチされる(図1のクエンチ工程(c)16)。
このクエンチは、例えば(i)図2に示す反応器20の液出口20Gから出た反応液を、予め所定量の水を配置した別の槽に添加することにより、反応液と水との接触が行われてもよく;(ii)図2に示す反応器20の液出口20Gから出た反応液を別の槽に移して当該槽に水を添加することにより、反応液と水との接触が行われてもよく;あるいは(iii)図2に示す反応器20のうち、反応器本体20Aの導入口20Eの下流側かつ当該反応器本体20Aの液出口20Gの上流側に供給口(図示せず)が設けられ、当該供給口を通じて反応器本体20A内に水を添加することにより、反応液と水との接触が行われてもよい。上記(iii)による反応液と水との接触が行われる場合、反応器本体20A内で供給口よりも下流側に位置する反応液の反応を反応器本体20A内でクエンチすることができ、その結果、液出口20Gからは反応が停止した反応液(クエンチした反応液)を得ることができる。
クエンチ工程(c)に用いられ得る水の例としては、水道水、脱イオン水、またはイオン交換水が挙げられる。添加される水の量は、上記フェノール類収着粉末と濃酸との反応の進行が停止するために必要かつ充分な量であれば必ずしも限定されないが、例えば、使用する濃酸100mLに対して、好ましくは800mL〜4000mL、より好ましくは1000mL〜2000mLである。本発明においては、上記フェノール類収着粉末と濃酸との反応が過度に進行し、得られる複合体の物性を損なうことのないよう、安全性に考慮しながら反応液を水と接触させて、速やかに反応の停止を行うことが好ましい。
本発明において、水は、例えば常温下で反応液と接触させてもよく、あるいは発熱を避けるためにウォータージャケットなどの当該分野において公知の冷却手段で冷却されたか環境下にて反応液と水とを接触させてもよい。反応液と水との接触後、反応系をより均一に保持するために当業者に公知の手段を用いて撹拌が行われてもよい。
本発明では、次いで、クエンチした反応液が固液分離される(図1の分離工程(d)18)。
上記クエンチ工程(c)にてクエンチされた反応液は、当業者に公知の分離方法(例えば、遠心分離、濾過、デカンテーションおよびそれらの組合せ)を用いて、固形成分と液体成分とに分離される。
分離された固形成分は、必要に応じてさらに水等で洗浄され、乾燥が行われてもよい。
このようにして、リグノフェノール−セルロース複合体を製造することができる。
本発明により得られたリグノフェノール−セルロース複合体(LCC)は、上記工程(a)〜(d)を経て、植物資源からヘミセルロースを分離することができ、リグノフェノール誘導体およびセルロース成分から構成される組成物である。これにより、本発明の製造方法により得られる複合体は、従来のLCCおよびリグノフェノール誘導体(LP)と比較して、例えば、熱安定性、熱流動性等の熱特性の点で異なる物性を有し得る。
本発明の製造方法により得られる複合体は、その構成成分であるリグノフェノール誘導体およびセルロース成分の各特性を活かして、例えば、樹脂製品の成形において添加される繊維補強材などの添加剤として用いることができる。あるいは、構成成分であるリグノフェノール誘導体は、DPM型リニア系リグニンセグメントとしての熱流動性に優れる点から、本発明により得られた複合体は、種々の熱圧成形に使用するためのバイオプラスチック材料としても利用することができる。
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1:リグノフェノール−セルロース複合体(LCC)の製造(1))
100Lのステンレス製ジャケット付撹拌タンクに、約83メッシュパスの気乾スギ木粉10kgを仕込み、約80Lのアセトンを添加して、さらに当該アセトンを複数回入れ替えて、脱脂を行った。次いで、当該スギ木粉に含まれるリグニン(C)含量を基準として3モル倍量のp−クレゾールを含有するアセトン溶液80Lを添加し、撹拌しながら3時間加熱してアセトンを蒸発除去した。続いて真空にし、残存アセトンの除去を行ない、スギ木粉にp−クレゾールを収着させた。その後、ステンレス製長バットに移し、ドラフト内で絶えず均一に撹拌しながら、アセトン溶媒を完全に留去して、クレゾール収着木粉を得た。
図2に示す反応器20(ここで、使用した反応器20の各寸法は以下の通りであった:内径108mm、撹拌翼の翼半径54mm(すなわち、翼直径108mm)、直胴長さ501mm、軸径30mm、翼先端の櫛歯形状間の距離25mm、撹拌翼の翼数4)(関西化学機械製作株式会社製)の導入口20Eから1分間当たり10gの供給速度にて上記で得られたクレゾール収着木粉、および濃酸注入口21Aから1分間当たり40mLの供給速度で65%濃硫酸を添加し、撹拌翼20Cを1800rpmの回転数で回転させた。この際の撹拌翼20Cの翼周速度は12.96π(m/秒)であった。合計で50gのクレゾール収着木粉および200mLの濃硫酸を反応器20に添加した。
また、反応器20の液出口20Gを、予めそれぞれ22.5cmのテフロン(登録商標)チューブの一端と接続し、他端を2000mLの脱イオン水を含有するステンレス製容器に浸漬した。本実施例において、クレゾール収着木粉および濃硫酸で構成される反応液は、撹拌翼20Cの回転を通じて反応器本体20A内を60秒間かけて通過し、そしてテフロン(登録商標)チューブ内を8秒間かけて通過し、その後、当該反応液を脱イオン水と接触させることにより、その反応をクエンチした。すなわち、クレゾール収着木粉および濃硫酸の添加から反応液が脱イオン水と接触するまでの時間は68秒間であった。また、クエンチした反応液を、クレゾール収着木粉および濃硫酸の添加(反応開始)から5分間が経過するまで撹拌し続けた。
クエンチした反応液を、1Lの遠心ボトルに移し、20℃にて4200rpmで15分間遠心分離し、pHメーター(株式会社堀場製作所製LAQUAD−71)を用いてpHがより中性側にシフトしていることを確認した後、チューブポンプを用いて透明な上澄みを除去した。次いで、残存した沈殿物にさらに500mLの脱イオン水を添加し、手動で撹拌した後、上記と同様の条件で遠心分離を行った。この遠心分離から上澄みを除去するまでの操作を合計3回繰り返し、最終的に水不溶性画分を含む混合液を一旦1Lのプラスチック製容器に定量的に移した。
次いで、上記で得られた混合液分を、2本の500mL遠心ボトルに移し、超遠心機(株式会社トミー精工製GRX220)を用いて、20℃にて4200rpmで15分間遠心分離した。透明な上澄みを除去し、水不溶性画分を含む混合液を撹拌した後、300mLの脱イオン水をボトルに添加した。この操作により得られた上済みを、pHメーターを用いてpHがより中性側にシフトしていることを確認した後、得られた混合液を手動で撹拌し、再び上記超遠心機を用いて同様に遠心分離を行った。以上の操作を、上澄みのpHが5以下になるまで繰り返し、最終的に水不溶性成分を含む混合液(100mL)に、80℃の温水(300mL)を添加し、20℃にて4200rpmで15分間遠心分離し、かつ透明な上澄みを除去する操作を2回行って、水不溶性画分を有するサンプル液(100mL)を得た。
さらに、得られたサンプル液を凍結乾燥させ、メノウ乳鉢で微粉化し、これを略均等に2つのシャーレに入れ、それぞれ五酸化二リン上で2日間減圧乾燥することにより、複合体サンプルを得た。
このようにして得られた複合体サンプルについて、それぞれ以下の評価試験を行った。
(収率の算出)
得られた複合体サンプルを、秤量し、そして収率を算出した。収率は、上記クレゾール収着木粉の重量に基づく百分率、気乾木粉の重量に基づく百分率、絶乾(oven-dried)木粉の重量に基づく百分率、および上記サンプル液の重量に基づく百分率のそれぞれについて算出した。得られた結果を表1に示す。
(含水率の測定)
上記で得られた複合体サンプル(気乾サンプル)0.1gを3つの秤量瓶にそれぞれ秤取し、105℃の恒温乾燥器で乾燥した後、質量を測定した。サンプルの質量が恒量となるまでこの操作を続け、最終的な質量を絶乾サンプルの質量とした。気乾サンプルの質量(Q)と、絶乾サンプルの質量(Q)とから、以下の式を用いて各サンプルの含水率(%)を算出し、得られた3つの値の平均値を、複合体サンプル(気乾サンプル)の含水率(%)とした:
Figure 0005984100
得られた結果を表1に示す。
(熱重量分析:TGA)
上記で得られた複合体サンプルを105℃の恒温乾燥器で乾燥した後、当該サンプルの約5mgを、直径5mmのアルミニウムパンに入れ、表面を平滑にした。熱重量分析装置(セイコーインスツル株式会社製TG/DTA6200)を用い、300mL/分の窒素雰囲気下にて、50℃〜440℃の温度範囲で2℃/分の割合で加熱し、重量変化を測定した。なお、リファレンスにはアルミナを使用した。これにより、得られたTGA曲線に基づく複合体サンプルの5%重量減少温度および10%重量減少温度を算出した。複合体サンプルの5%重量減少温度は213.90℃であり、10%重量減少温度は279.10℃であった(表1)。
(熱機械分析:TMA)
上記で得られた複合体サンプルを105℃の恒温乾燥器で乾燥した後、当該サンプルの約5mgを、直径5mmのアルミニウムパンに入れ、表面を平滑にして、その複合体サンプルの表面にアルミニウム板を配置した。熱機械分析装置(セイコーインスツル株式会社製TMA−SS)を用い、配置したアルミニウム板の上から石英ニードルで鉛直下向きに応力をかけ(プローブ圧:49mN)、150mL/分の窒素雰囲気下にて、50℃〜300℃の温度範囲で2℃/分の割合で加熱し、変異を測定した。得られたTMA曲線から複合体サンプルの流動開始温度を算出した。複合体サンプルの流動開始温度は158.50℃であった(表1)。
(フーリエ変換赤外分光法:FT−IR)
臭化カリウムをメノウ乳鉢で微粉化し、これに上記で得られた複合体サンプルを混合し、さらに微粉化した。この混合物を成形器に入れ、減圧し、真空状態で約7000kgf/cmの圧力をかけ、ディスクを作製した。リファレンスとして臭化カリウムのみからなるディスクを作製した。フーリエ変換赤外分光分析装置(株式会社島津製作所製FT−IR8400)を用い、波数400cm−1〜4000cm−1、積算回数32回および分解能4cm−1の条件下にて測定した。得られた結果を図3に示す。
図3が示すスペクトルによれば、上記で得られた複合体サンプルには、リグノフェノール誘導体特有のものが含まれていた。このことから、上記で得られた複合体サンプルには、その製造工程の間にリグノフェノール誘導体が適切に生成されかつ含有されていることがわかる。
(実施例2:リグノフェノール−セルロース複合体(LCC)の製造(2))
図2に示す反応器20の濃酸注入口21Aから、65%濃硫酸の代わりに68%濃硫酸を添加したこと以外は、実施例1と同様にしてクレゾール収着木粉と濃硫酸との反応を行い、複合体サンプルを得た。
このようにして得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にして収率および含水率の算出または測定を行った。得られた結果を表1に示す。
また上記で得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にして熱重量分析(TGA)を行った。得られたTGA曲線から算出した複合体サンプルの5%重量減少温度は213.00℃であり、10%重量減少温度は276.20℃であった(表1)。
さらに、上記で得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にして熱機械分析(TMA)を行った。得られたTMA曲線から算出した複合体サンプルの流動開始温度は153.10℃であった(表1)。
またさらに、上記で得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にしてフーリエ変換赤外分光(FT−IR)の測定を行った。得られた結果を図3に示す。図3が示すスペクトルによれば、上記で得られた複合体サンプルには、リグノフェノール誘導体特有のものが含まれていた。このことから、上記で得られた複合体サンプルには、その製造工程の間にリグノフェノール誘導体が適切に生成されかつ含有されていることがわかる。
(実施例3:リグノフェノール−セルロース複合体(LCC)の製造(3))
図2に示す反応器20の濃酸注入口21Aから、65%濃硫酸の代わりに70%濃硫酸を添加したこと以外は、実施例1と同様にしてクレゾール収着木粉と濃硫酸との反応を行い、複合体サンプルを得た。
このようにして得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にして収率および含水率の算出または測定を行った。得られた結果を表1に示す。
また上記で得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にして熱重量分析(TGA)を行った。得られたTGA曲線から算出した複合体サンプルの5%重量減少温度は214.90℃であり、10%重量減少温度は273.90℃であった(表1)。
さらに、上記で得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にして熱機械分析(TMA)を行った。得られたTMA曲線から算出した複合体サンプルの流動開始温度は147.90℃であった(表1)。
またさらに、上記で得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にしてフーリエ変換赤外分光(FT−IR)の測定を行った。得られた結果を図3に示す。図3が示すスペクトルによれば、上記で得られた複合体サンプルには、リグノフェノール誘導体特有のものが含まれていた。このことから、上記で得られた複合体サンプルには、その製造工程の間にリグノフェノール誘導体が適切に生成されかつ含有されていることがわかる。
(実施例4:リグノフェノール−セルロース複合体(LCC)の製造(4))
まず、実施例1と同様にしてクレゾール収着木粉を得た。
次いで、図2に示す反応器20(ここで、使用した反応器20の各寸法は以下の通りであった:内径108mm、撹拌翼の翼半径54mm(すなわち、翼直径108mm)、直胴長さ501mm、軸径30mm、翼先端の櫛歯形状間の距離25mm、撹拌翼の翼数4)(関西化学機械製作株式会社製)の導入口20Eから1分間当たり10gの供給速度にて上記で得られたクレゾール収着木粉、および濃酸注入口21Aから1分間当たり40mLの供給速度で72%濃硫酸を添加し、撹拌翼20Cを1800rpmの回転数で回転させた。この際の撹拌翼20Cの翼周速度は12.96π(m/秒)であった。合計で50gのクレゾール収着木粉および200mLの濃硫酸を反応器20に添加した。
また、反応器20の液出口20Gを、予めそれぞれ22.5cmのテフロン(登録商標)チューブの一端と接続し、他端を2000mLの脱イオン水を含有するステンレス製容器に浸漬した。本実施例において、クレゾール収着木粉および濃硫酸で構成される反応液は、撹拌翼20Cの回転を通じて反応器本体20A内を60秒間かけて通過し、そしてテフロン(登録商標)チューブ内を8秒間かけて通過し、その後、当該反応液を脱イオン水と接触させることにより、その反応をクエンチした。すなわち、クレゾール収着木粉および濃硫酸の添加から反応液が脱イオン水と接触するまでの時間は68秒間であった。また、クエンチした反応液を、クレゾール収着木粉および濃硫酸の添加(反応開始)から5分間が経過するまで撹拌し続けた。
クエンチした反応液を、1Lの遠心ボトルに移し、20℃にて4200rpmで15分間遠心分離し、pHメーター(株式会社堀場製作所製LAQUAD−71)を用いてpHがより中性側にシフトしていることを確認した後、チューブポンプを用いて透明な上澄みを除去した。次いで、残存した沈殿物にさらに500mLの脱イオン水を添加し、手動で撹拌した後、上記と同様の条件で遠心分離を行った。この遠心分離から上澄みを除去するまでの操作を合計3回繰り返し、最終的に水不溶性画分を含む混合液を一旦1Lのプラスチック製容器に定量的に移した。
次いで、上記で得られた混合液分を、2本の500mL遠心ボトルに移し、超遠心機((株式会社トミー精工製GRX220)を用いて、20℃にて4200rpmで15分間遠心分離した。透明な上澄みを除去し、水不溶性画分を含む混合液を撹拌した後、300mLの脱イオン水をボトルに添加した。この操作により得られた上澄みを、pHメーターを用いてpHがより中性側にシフトしていることを確認した後、得られた混合液を手動で撹拌し、再び上記超遠心機を用いて同様に遠心分離を行った。以上の操作を、上澄みのpHが5以下になるまで繰り返し、最終的に水不溶性成分を含む混合液(100mL)に、80℃の温水(300mL)を添加し、20℃にて4200rpmで15分間遠心分離し、かつ透明な上澄みを除去する操作を2回行って、水不溶性画分を有するサンプル液(100mL)を得た。
さらに、得られたサンプル液を凍結乾燥させ、メノウ乳鉢で微粉化し、これを略均等に2つのシャーレに入れ、それぞれ五酸化二リン上で2日間減圧乾燥することにより、複合体サンプルを得た。
このようにして得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にして収率および含水率の算出または測定を行った。得られた結果を表1に示す。
また上記で得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にして熱重量分析(TGA)を行った。得られたTGA曲線から算出した複合体サンプルの5%重量減少温度は211.70℃であり、10%重量減少温度は262.70℃であった(表1)。
さらに、上記で得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にして熱機械分析(TMA)を行った。得られたTMA曲線から算出した複合体サンプルの流動開始温度は164.40℃であった(表1)。
またさらに、上記で得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にしてフーリエ変換赤外分光(FT−IR)の測定を行った。得られた結果を図4に示す。図4が示すスペクトルによれば、上記で得られた複合体サンプルには、リグノフェノール誘導体特有のものが含まれていた。このことから、上記で得られた複合体サンプルには、その製造工程の間にリグノフェノール誘導体が適切に生成されかつ含有されていることがわかる。
(実施例5:リグノフェノール−セルロース複合体(LCC)の製造(5))
図2に示す反応器20の液出口20Gを、それぞれ22.5cmの代わりに73.0cmのテフロン(登録商標)チューブの一端と接続し、他端を2000mLの脱イオン水を含有するステンレス製容器に浸漬した(本実施例において、クレゾール収着木粉および濃硫酸で構成される反応液は、撹拌翼20Cの回転を通じて反応器本体20A内を60秒間かけて通過し、そしてテフロン(登録商標)チューブ内を35秒間かけて通過した。すなわち、クレゾール収着木粉および濃硫酸の添加から反応液が脱イオン水と接触するまでの時間は95秒間であった。)こと以外は、実施例4と同様にしてクレゾール収着木粉と濃硫酸との反応を行い、複合体サンプルを得た。
このようにして得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にして収率および含水率の算出または測定を行った。得られた結果を表1に示す。
また上記で得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にして熱重量分析(TGA)を行った。得られたTGA曲線から算出した複合体サンプルの5%重量減少温度は202.10℃であり、10%重量減少温度は261.30℃であった(表1)。
さらに、上記で得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にして熱機械分析(TMA)を行った。得られたTMA曲線から算出した複合体サンプルの流動開始温度は159.30℃であった(表1)。
またさらに、上記で得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にしてフーリエ変換赤外分光(FT−IR)の測定を行った。得られた結果を図4に示す。図4が示すスペクトルによれば、上記で得られた複合体サンプルには、リグノフェノール誘導体特有のものが含まれていた。このことから、上記で得られた複合体サンプルには、その製造工程の間にリグノフェノール誘導体が適切に生成されかつ含有されていることがわかる。
(実施例6:リグノフェノール−セルロース複合体(LCC)の製造(6))
図2に示す反応器20の液出口20Gを、それぞれ22.5cmの代わりに124.0cmのテフロン(登録商標)チューブの一端と接続し、他端を2000mLの脱イオン水を含有するステンレス製容器に浸漬した(本実施例において、クレゾール収着木粉および濃硫酸で構成される反応液は、撹拌翼20Cの回転を通じて反応器本体20A内を60秒間かけて通過し、そしてテフロン(登録商標)チューブ内を63秒間かけて通過した。すなわち、クレゾール収着木粉および濃硫酸の添加から反応液が脱イオン水と接触するまでの時間は123秒間であった。)こと以外は、実施例4と同様にしてクレゾール収着木粉と濃硫酸との反応を行い、複合体サンプルを得た。
このようにして得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にして収率および含水率の算出または測定を行った。得られた結果を表1に示す。
また上記で得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にして熱重量分析(TGA)を行った。得られたTGA曲線から算出した複合体サンプルの5%重量減少温度は212.70℃であり、10%重量減少温度は264.70℃であった(表1)。
さらに、上記で得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にして熱機械分析(TMA)を行った。得られたTMA曲線から算出した複合体サンプルの流動開始温度は162.70℃であった(表1)。
またさらに、上記で得られた複合体サンプルについて、実施例1と同様にしてフーリエ変換赤外分光(FT−IR)の測定を行った。得られた結果を図4に示す。図4が示すスペクトルによれば、上記で得られた複合体サンプルには、リグノフェノール誘導体特有のものが含まれていた。このことから、上記で得られた複合体サンプルには、その製造工程の間にリグノフェノール誘導体が適切に生成されかつ含有されていることがわかる。
(比較例1)
国際公開第2010/047358号に記載の植物資源相分離系変換装置を用いて、気乾スギ木粉から、リグノフェノールを以下のようにして抽出した。
100Lのステンレス製ジャケット付撹拌タンクに、約83メッシュパスの気乾スギ木粉10kgを仕込み、約80Lのアセトンを添加して、さらに当該アセトンを複数回入れ替えて、脱脂を行った。次いで、当該スギ木粉に含まれるリグニン(C)含量を基準として3モル倍量のp−クレゾールを含有するアセトン溶液80Lを添加し、撹拌しながら3時間加熱してアセトンを蒸発除去した。続いて真空にし、残存アセトンの除去を行ない、スギ木粉にp−クレゾールを収着させた。その後、ステンレス製長バットに移し、ドラフト内で絶えず均一に撹拌しながら、アセトン溶媒を完全に留去して、クレゾール収着木粉を得た。
次に、植物資源相分離系変換装置の反応部に72%濃硫酸を40cc/分の流量で供給し、上記で得られたクレゾール収着木粉を10g/分の割合で供給した。当該植物資源相分離系変換装置において、反応部より溶出される処理液を第1の撹拌バッファ槽に導入し、撹拌しながら、第1の撹拌抽出部の下段へ送出した。処理液を第1の撹拌抽出部の最上段より回収し、第2撹拌バッファ槽へ送出した。この際、リグノフェノール抽出用のm,p−クレゾールを20cm/分の割合で供給した。なお、上記植物資源相分離系変換装置における反応器の各寸法は以下の通りであった:内径108mm、撹拌翼の翼半径54mm(すなわち、翼直径108mm)、直胴長さ501mm、軸径30mm、翼先端の櫛歯形状間の距離25mm、撹拌翼の翼数4。撹拌翼の回転数は1800rpmであり、この際の撹拌翼の翼周速度は12.96π(m/秒)であった。
次いで、第2撹拌バッファ層から排出された液を、遠心分離機によりリグノフェノールを含むリグニン層と炭水化物を含む硫酸層とに分離した。上記濃硫酸の供給開始から当該分離にまで要した時間は、42分3秒であった。その後、リグニン層に含まれるリグニンをヘキサンで抽出除去し、得られた残渣からリグノフェノールを回収した。
このようにして、気乾スギ木粉から、リグノフェノールで構成されるサンプルを得た。
次いで、上記実施例1と同様にして、得られたサンプルの物性等を評価した。得られた結果を表1に示す。
Figure 0005984100
表1に示すように、実施例1〜6で得られた複合体サンプルは、比較例1で得られたものと比較して、5%重量減少温度および10%重量減少温度のいずれについても20℃以上または30℃以上もの高い値を示していた。流動開始温度についても、実施例1〜6で得られた複合体サンプルの結果は、比較例1で得られたものの結果を上回るものであった。このことから、実施例1〜6で得られた複合体サンプルは、比較例1で得られたもの(リグノフェノール)と比較して、特性が全く異なる別の物質であることがわかる。
本発明によれば、リグノフェノール誘導体およびセルロース成分の各特性を活かしたリグノフェノール−セルロース複合体を得ることができる。本発明により得られた複合体は、例えば、種々の熱圧成形に使用するためのバイオプラスチック材料として有用である。
12 前処理工程
14 反応工程
16 クエンチ工程
18 分離工程
20 反応器
20A 反応器本体
20C 撹拌翼
20C’ 翼先端
20D モータ
20B 回転軸
20J 圧送用翼
20E 導入口
20G 液出口
20H 冷却水入口
20I 冷却水出口

Claims (6)

  1. リグノフェノール−セルロース複合体の製造方法であって、
    (a)植物資源粉末にフェノール類材料を添加して、フェノール類収着粉末を得る工程;
    (b)撹拌翼を備える反応器内に該フェノール類収着粉末および濃酸を添加して反応液を得、そして該反応器内で該反応液に剪断力を付加して該フェノール類収着粉末と該濃酸とを反応させる工程;
    (c)該反応液を水と接触させて反応をクエンチする工程;および
    (d)該クエンチした反応液を固液分離する工程;
    を包含し、
    ここで、
    該反応工程(b)に要する時間が5秒間から5分間であり、
    該反応工程(b)において、以下の式で表される該反応器における該撹拌翼の翼周速度V(m/秒):
    Figure 0005984100
    (ここで、Diは該撹拌翼の翼直径(m)であり、Niは該撹拌翼の翼数であり、そしてRは回転数(rpm)である)が該反応液に付加される該剪断力の指標として表され、そして
    該反応工程(b)における該撹拌翼の該翼周速度が3π(m/秒)から50π(m/秒)である、方法。
  2. 前記反応工程(b)に要する時間が25秒間から3分間である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記反応工程(b)における前記撹拌翼の前記翼周速度が3.6π(m/秒)から28π(m/秒)である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記濃酸が、濃硫酸、濃塩酸および濃硝酸からなる群から選択される少なくとも1種の鉱酸である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
  5. 前記濃酸が65%以上の濃硫酸である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
  6. 前記反応器が円筒状の反応器本体を備え、
    該反応器本体の一端側に前記フェノール類収着粉末の導入口、他端側に前記反応液の液出口を備え、
    前記撹拌翼の基端が、該反応器本体内に設けられた回転軸の周りに固定されており、該撹拌翼が該回転軸から該反応器本体の内周面に向けて放射方向に延び、櫛歯形状の翼先端を有し、かつ1つの翼先端と他の翼先端とが千鳥配列を構成してずれており、そして
    該翼先端と該反応器本体の該内周面とのクリアランスが該反応液に含まれる該フェノール類収着粉末を圧延る寸法に設計されている、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
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