JP2006077152A - リグニンのフェノール誘導体の製造方法 - Google Patents

リグニンのフェノール誘導体の製造方法 Download PDF

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浩之 井岡
Makoto Yamaguchi
誠 山口
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KINOUSEI MOKUSHITSU SHINSOZAI
KINOUSEI MOKUSHITSU SHINSOZAI GIJUTSU KENKYU KUMIAI
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Abstract

【課題】リグノフェノール誘導体の製造において、酸やフェノール化合物等の不純物を効率的に除去する。
【解決手段】フェノール化合物により溶媒和されたリグニン含有材料に酸を添加し混合しリグニンのフェノール誘導体を生成させる工程と、前記リグニンのフェノール誘導体を不溶解物として含有する区分に当該リグニンのフェノール誘導体を抽出可能な抽出溶媒を添加して抽出する抽出工程と、前記工程で得られる抽出液から、有機溶媒と水とを含む析出溶媒を用いて該析出溶媒における不溶区分を回収してリグニンのフェノール誘導体を精製する精製工程、とを備えるようにする。
【選択図】なし

Description

本発明は、リグニンのフェノール誘導体(以下、単にリグノフェノール誘導体ともいう。)の製造方法に関する。
リグノフェノール誘導体は、リグノセルロース系材料などのリグニン含有材料をフェノール化合物で溶媒和後に酸を添加して反応させることにより製造することができる(特許文献1、2)。例えば、リグノセルロース系材料にフェノール化合物を溶媒和させた後、硫酸を添加し混合して反応させて得られる反応生成物を過剰の水中に滴下して水洗浄するとともに、水不溶区分としてリグノフェノール誘導体の他炭水化物を含む混合物(粗リグノフェノール誘導体ともいう。)が得られる。この混合物から純度の高いリグノフェノール誘導体を得るには、未反応のフェノール化合物、硫酸、未溶解の炭水化物を除去する必要がある。従来の精製プロセスでは、この混合物をアセトン抽出により炭水化物と硫酸を不溶区分としアセトン溶解区分にリグノフェノール誘導体を抽出し、さらに、ジエチルエーテルを用いてその溶解区分にフェノールや低分子リグニンを不溶区分として精製されたリグノフェノール誘導体を得るようにしていた。
特開平2−233701号公報 特開平9−278904号公報
アセトンを用いて抽出を行う場合、アセトン抽出液中に混入するフェノール化合物や低分子量のリグニンの除去のためにジエチルエーテルへの滴下精製を行っていたが、ジエチルエーテルは大量の精製には不向きであり、また、生成物を不溶物として遠心分離で回収することも困難である。また、水不溶区分として回収した粗リグノフェノール誘導体にはフェノール化合物や硫酸が残留しており、これらを合わせてアセトン抽出工程及びジエチルエーテル精製工程において除去するのは困難であった。
そこで、本発明は、リグノフェノール誘導体の製造における精製工程において、ジエチルエーテルを使用しなくてもフェノール化合物等を効果的に除去できる手法を提供することを一つの目的とする。また、本発明の他の一つの目的は、フェノール化合物や硫酸などの誘導体化時の残留成分の分離性を向上させることである。さらにまた、他の一つの目的は、製造工程上の安全等確保のための作業及び装置を簡略化することを目的とする。
本発明は、上記した目的の少なくとも一つを解決する手段として以下の発明を提供する。
本発明によれば、リグニンのフェノール誘導体の製造方法であって、フェノール化合物により溶媒和されたリグニン含有材料に酸を添加し混合しリグニンのフェノール誘導体を生成させる工程と、前記リグニンのフェノール誘導体を不溶解物として含有する区分に当該リグニンのフェノール誘導体を抽出可能な抽出溶媒を添加して抽出する抽出工程と、前記工程で得られる抽出液から、有機溶媒と水とを含む析出溶媒を用いて該析出溶媒における不溶区分を回収してリグニンのフェノール誘導体を精製する精製工程、とを備える、方法が提供される。この方法においては、前記析出溶媒が含有する有機溶媒は、メチルエチルケトン、アセトン及び炭素数1〜4のアルキル基を備える1価のアルコールから選択されることが好ましい態様である。また、前記有機溶媒は、メタノールであることが好ましい態様である。この態様においては、メタノールと水との全量に対する水の比率が20wt%以上70wt%以下であることが好ましく、より好ましくは、同比率が45wt%以上60wt%以下である。
また、前記抽出溶媒は、アセトン及びメチルエチルケトンから選択されることが好ましい態様であり、この態様においては、前記抽出液の抽出溶媒に水を加えて得られる混液を析出溶媒として用いることが好ましい。
また、上記いずれかの方法において、精製工程により回収した前記不溶区分を、メチルエチルケトン、アセトン、炭素数1〜4のアルキル基を備える1価のアルコール、ジイソプロピルエーテル、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン及び水からなる群から選択される1種あるいは2種以上の溶媒からなる洗浄溶媒で洗浄する工程を備えることが好ましい。また、洗浄溶媒としては、水のみあるいは水及び水以外の前記有機溶媒から選択される1種あるいは2種以上の溶媒からなる混液を用いることが好ましく、また、前記洗浄溶媒の少なくとも一つとして、前記析出溶媒とは異なる組成の水と有機溶媒との混液を用いることが好ましい。この態様において、前記少なくとも一つの洗浄溶媒は、前記析出溶媒として用いた水と有機溶媒との混液であり、該水と該有機溶媒の全量に対する水の比率は、前記析出溶媒における水と有機溶媒との全量に対する水の比率よりも大きい洗浄溶媒を用いることが好ましい。
これらの方法によれば、析出溶媒として上記溶媒を使用することで、精製工程においてジエチルエーテルを用いることなく、リグノフェノール誘導体を精製できる。また、析出溶媒として上記溶媒を使用することで、不溶区分の回収を容易とし、また、作業等の安全性が向上される。また、所定の析出溶媒を用いることで、抽出液中に残留するフェノール化合物等の低分子化合物や硫酸を効率的に分離除去することができる。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(リグノフェノール誘導体)
本発明方法により製造するリグノフェノール誘導体は、リグニン含有材料をフェノール化合物で溶媒和後、酸を添加し混合して得られるリグニンのフェノール化合物であるリグニン誘導体である。この反応過程によりリグニンのアリールプロパンユニットのベンジル位(側鎖C1位、以下、単にC1位という。)にフェノール化合物がグラフト(導入)されたリグニン誘導体を得ることができる。フェノール化合物は、そのフェノール性水酸基に対してオルト位あるいはパラ位にて前記C1位の炭素原子に結合する。この結果、1,1−ビス(アリール)プロパンユニットがリグニン中に形成される。この反応において、フェノール化合物は、前記C1位に対して選択的に導入されるため、出発原料であるリグニン含有材料におけるC1位における様々な結合を開放し、リグニンマトリックスの多様性を低減し、また、低分子量化することができる。さらに、この結果、従来のリグニンにはなかった各種溶媒への溶解性、熱流動性、熱可塑性など各種の特性を発現することが既に知られている。
なお、ここで、フェノール化合物で溶媒和するとは、液体のフェノール化合物にリグニン含有材料を浸漬する等して溶媒和する他、液体あるいは固体のフェノール化合物を当該フェノール化合物が溶解する溶媒に溶解させたものをリグニン含有材料に適用後、溶媒を留去することでリグニン含有材料にフェノール化合物を収着することによっても達成することができる。
なお、リグノフェノール誘導体は、それ自体、リグノセルロース系材料などのリグニン含有材料から反応、分離して得られるリグニン由来のポリマーの混合物である。このため、得られるポリマーにおける導入フェノール誘導体の量や分子量は、原料となるリグニン含有材料のリグニン構造および反応条件により変動する。
(リグニン含有材料)
本発明におけるリグニン含有材料には、天然リグニンを含有するリグノセルロース系材料を含む。リグノセルロース系材料は、木質化した材料、主として木材である各種材料、例えば、木粉、チップの他、廃材、端材、古紙などの木本類植物資源に付随する農産廃棄物や工業廃棄物を挙げることができる。また用いる木本類の種類としては、スギ、ヒノキなどの針葉樹、ブナなどの広葉樹等、任意の種類のものを使用することができる。さらに、ケナフ、ジュート、イネ、タケなどの各種草本類植物、それに関連するイネワラ、モミガラなどの農産廃棄物や工業廃棄物なども使用できる。
(フェノール化合物)
フェノール化合物としては、1価のフェノール化合物、2価のフェノール化合物、または3価のフェノール化合物などを用いることができる。
1価のフェノール化合物の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいフェノール、1以上の置換基を有していてもよいナフトール、1以上の置換基を有していてもよいアントロール、1以上の置換基を有していてもよいアントロキノンオールなどが挙げられる。
2価のフェノール化合物の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいカテコール、1以上の置換基を有していてもよいレゾルシノール、1以上の置換基を有していてもよいヒドロキノンなどが挙げられる。
3価のフェノール化合物の具体例としては、1以上の置換基を有していてもよいピロガロールなどが挙げられる。
本発明においては1価のフェノール化合物、2価のフェノール化合物及び3価のフェノール化合物のうち、1種あるいは2種以上を用いることができる。フェノール化合物の導入割合を高くするには、単環のフェノール化合物を用いることが好ましい。好ましくは、p−クレゾール、フェノール、p−エチルフェノールである。また、得られるリグニン誘導体の水親和性を高めるには、フェノール化合物の導入比率を高めるか、あるいは、2価以上のフェノール化合物を用いることが好ましい。好ましくはカテコール、ピロガロールを用いることができる。
1価から3価のフェノール化合物が有していてもよい置換基の種類は特に限定されず、任意の置換基を有していてもよいが、好ましくは、電子吸引性の基(ハロゲン原子など)以外の基であり、例えば、炭素数が1〜4、好ましくは炭素数が1〜3の低級アルキル基含有置換基である。低級アルキル基含有置換基としては、例えば、低級アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、低級アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基など)である。また、アリール基(フェニル基など)の芳香族系の置換基を有していてもよい。また、水酸基含有置換基であってもよい。
これらのフェノール化合物は、そのフェノール性水酸基に対してオルト位あるいはパラ位の炭素原子がリグニンのアリールプロパンユニットのC1位の炭素に結合することにより、1,1−ビス(アリール)プロパンユニットが形成されることになる。したがって、少なくとも1つの導入サイトを確保するには、オルト位及びパラ位のうち、少なくともひとつの位置に置換基を有していないことが好ましい。
以上のことから、本発明では、無置換フェノール誘導体の他、少なくとも一つの無置換のオルト位あるいはパラ位を有する各種置換形態のフェノール誘導体の1種あるいは2種以上を適宜選択して用いることができる。
フェノール誘導体の好ましい具体例としては、フェノール、p−クレゾール、2,6−ジメチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2−メトキシフェノール(Guaiacol)、2,6−ジメトキシフェノール、カテコール、レゾルシノール、ホモカテコール、ピロガロール及びフロログルシノールなどが挙げられる。p−クレゾールを用いることにより、高い導入効率を得ることができる。
(酸)
リグニン含有材料と接触させる酸としては、特に限定しないで、リグノフェノール誘導体を生成しうる範囲で各種無機酸や有機酸を使用することができる。したがって、硫酸、リン酸、塩酸などの無機酸の他、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などを使用することができる。リグニン含有材料としてリグノセルロース系材料を使用する場合には、セルロースを膨潤させる作用を有していることが好ましい。例えば、65重量%以上の硫酸(好ましくは、72重量%の硫酸)、85重量%以上のリン酸、38重量%以上の塩酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などを挙げることができる。好ましい酸は、85重量%以上(好ましくは95重量%以上)のリン酸、トリフルオロ酢酸又はギ酸である。また、リグノフェノール誘導体を高収率で得るには、65重量%以上の硫酸(好ましくは、72重量%の硫酸)が好ましい。
(粗リグノフェノール誘導体の分離工程)
リグニン含有材料中のリグニンを、リグノフェノール誘導体に変換するのにあたっては、次の方法を採用できる。第1の方法は、リグニン含有材料を液状のフェノール化合物で溶媒和した状態で酸を添加する方法である。また、第2の方法は、リグニン含有材料に、固体状あるいは液体状のフェノール化合物を溶解した溶媒(例えば、エタノールあるいはアセトン)を浸透させた後、溶媒を留去(フェノール化合物の収着)し、フェノール化合物を収着したリグニン含有材料に対して酸を添加する方法である。さらに、第3の方法は、リグニン含有材料とフェノール化合物と酸とを含む混合物とベンゼン、キシレン、トルエン、ヘキサン又はこれらの混合物から選択される不活性疎水性有機溶媒とを混合する方法である。リグノフェノール誘導体は、第1の方法では、フェノール化合物中に得られ、第2の方法では、酸との混合物として得られる。第3の方法では、遠心分離により分離される中間層として得られる。これらのいずれの方法にあっても、リグノフェノール誘導体は、未精製の、すなわち、未反応のフェノール化合物や酸などと共存した状態となっている。
リグノフェノール誘導体を分離精製するのにあたっては、このような混合状態からリグノフェノール誘導体を抽出する必要がある。リグノフェノール誘導体の生成時の混合状態からリグノフェノール誘導体をその溶解溶媒で抽出するのにあたっては、ある程度生成系成分を除去しておくことが好ましい。すなわち、リグノフェノール誘導体を不溶解物として含有する粗リグノフェノール誘導体区分としておくことが好ましい。例えば、第1の方法にあっては、フェノール化合物相を大過剰のエチルエーテルに滴下して粗リグノフェノール誘導体区分を沈殿物として得ることができる。また、第2の方法にあっては、酸処理後の混合物を同様にエチルエーテルに添加等して粗リグノフェノール誘導体区分を沈殿物として採取する他、当該混合物を水に添加等して不溶区分として粗リグノフェノール誘導体区分を得ることができる。さらに、第3の方法にあっては、前記中間層をそのまま、あるいは、水に添加等後に不溶区分として粗リグノフェノール誘導体区分を得ることができる。
(リグノフェノール誘導体の抽出工程)
生成反応後のリグノフェノール誘導体含有区分あるいは粗リグノフェノール誘導体区分は、次に、リグノフェノール誘導体を抽出可能な溶媒(抽出溶媒)にて抽出される。抽出溶媒としては、生成したリグノフェノール誘導体を溶解する溶媒であればよいが、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドを使用することができる。これらの2種以上の混液も使用することができる。好ましくは、アセトン及び/又はメチルエチルケトンを用いることができる。メチルエチルケトンは、アセトンを使用した場合とほぼ同等の抽出率を得ることができる。
抽出工程は、特に限定しないが、抽出溶媒を加えて1時間から数時間程度攪拌することが好ましい。特に加熱する必要はない。リグノフェノール誘導体は抽出溶媒中に溶解し、炭水化物等は沈殿物として残留する。抽出液を遠心分離あるいはろ過等の、固液分離手段により分離し、固形分に対しては、抽出溶媒で洗浄することで、固形分に混合しているリグノフェノール誘導体を回収できる。なお、固液分離手段は特に限定しないが、後述するように、ろ過にて行うことが好ましい。
(精製工程)
固液分離後の抽出液からリグノフェノール誘導体を精製するには、抽出液を過剰の析出溶媒を用いて、リグノフェノール誘導体を不溶区分とし、不純物を可溶区分に分離し、次いで不溶区分を回収することが好ましい。析出溶媒を用いて精製する操作としては、抽出液を過剰の析出溶媒に滴下等により添加し混合等することが好ましい。抽出溶媒に対する析出溶媒の容量比は特に限定しないが、好ましくは、5倍以上であり、より好ましくは10倍以上である。また、滴下時においては、析出溶媒への溶解度の上昇を防いで収率を確保するには混合熱の発生を避けることが好ましい。このため、析出溶媒を約0℃〜20℃程度、好ましくは、0℃〜10℃に冷却しながら行うことが好ましい。精製操作によって得られる水不溶区分は、従来公知の各種固液分離方法によって分離することができる。
析出溶媒には、有機溶媒と水とを含有することが好ましく、より好ましくは、水と有機溶媒とからなる混液を用いる。析出溶媒の一部に水を用いることにより、抽出溶媒からリグノフェノール誘導体から酸や金属などの成分を効果的に分離することができるとともに、有機溶媒の揮発性や引火性を低下させることができるとともに装置への侵食性を低下させて安全性や取り扱いやすさを向上させることができる。さらに、本発明者らによれば、水と有機溶媒とを組み合わせることにより、使用するリグニン含有材料やフェノール化合物によって親水性等が変動するリグノフェノール誘導体の析出溶媒としての性質を容易に最適化できることがわかった。
有機溶媒としては、ジイソプロピルエーテル、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、アセトン、炭素数1〜4のアルキル基を備える1級アルコール等を用いることができる。これらは、1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、有機溶媒は、メチルエチルケトン、アセトン、炭素数1〜4のアルキル基を備える1価のアルコールから選択されることが好ましい。
また、好ましい有機溶媒としては、炭素1〜4のアルキル基を備える1価のアルコールが挙げられる。1価のアルコールを用いることにより、効果的にフェノール化合物やリグノフェノール誘導体の低分子画分が除去され、好ましいリグノフェノール誘導体が得られる。また、アルコールを用いることにより効果的に硫酸などの酸性成分を分離できるからである。また、特に、水とアルコールとの混液によれば、リグノフェノール誘導体の精製挙動を容易にコントロールできる点においても好ましい。アルコールとしては、具体的には、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、ターシャリーブタノールが挙げられる。好ましくは、メタノール、エタノールであり、より好ましくは、メタノールである。メタノールは、効果的に低分子区分や酸を分離できるからである。
水と有機溶媒との混合比率は、特に限定しないし、精製方法により適宜変更することもできる。抽出液を析出溶媒に滴下することにより析出溶媒中にリグノフェノール誘導体を析出させるときには、水と有機溶媒との全量に対して有機溶媒が3wt%以上90wt%以下とすることができる。この範囲内において、析出温度や滴下量等によればリグノフェノール誘導体を析出させることが可能であるからである。また、滴下析出溶媒として水:メタノールの混液を用いる場合には、水とメタノールとの全量に対するメタノール比率を10wt%以上90wt%以下とすることが好ましい。この範囲であれば、析出温度等によりリグノフェノール誘導体を析出させることが容易であるからである。好ましくは、メタノール比率は20wt%以上である。20wt%以上であれば、低分子区分の除去効果及び未反応フェノール化合物の除去効果が容易に得られるからである。より好ましくは、30wt%以上である。さらに好ましくは35wt%以上である。一層好ましくは45wt%以上である。また、上限は、70wt%以下であることが好ましい。70wt%以下であれば、リグノフェノール誘導体を容易に析出させることができるからである。より好ましくは65wt%以下であり、さらに好ましくは60wt%以下である。以上のことから、水:メタノール混液を析出溶媒として用いる場合には、混液におけるメタノール比率が20wt%以上70wt%以下であることが好ましく、より好ましくは、30wt%以上65wt%以下であり、さらに好ましくは45wt%以上60wt%以下である。
また、滴下析出溶媒として水:アセトン混液を用いる場合には、アセトン比率が30wt%以下であることが好ましい。30wt%以下であればリグノフェノール誘導体を不溶区分に容易に分離可能であるからである。また、滴下析出溶媒として水:メチルエチルケトン混液を用いる場合には、メチルエチルケトン比率は15wt%以下であることが好ましい。15wt%以下であれば、リグノフェノール誘導体を容易に不溶区分に分離可能であるからである。
なお、有機溶媒として、ジイソプロピルエーテルを用いることにより、低分子のリグニンあるいは低分子のリグノフェノール誘導体をよく排除することができる。また、使用したフェノール化合物の排除にも効果的である。また、ジイソプロピルエーテルを用いることにより、精製効果を維持して精製工程における安全性を容易に確保することができるようになる。また、有機溶媒として、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、キシレン及びトルエンを用いることにより、フェノール化合物をよく除去できるとともにリグノフェノール誘導体の低分子量区分を回収することができる。
(洗浄工程)
精製工程において回収された不溶区分は、さらに、洗浄工程を実施することで、精製度を向上することができる。洗浄工程は、回収した不溶区分に、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、炭素数1〜4のアルキル基を備える1価のアルコール、ジイソプロピルエーテル、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン及び水を洗浄溶媒として用いて行うことができる。なお、これらの溶媒は、1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
洗浄工程は、回収した不溶区分にこれらの洗浄溶媒を加えて混合し、その後、固液分離することによって行う。リグノフェノール誘導体は不溶区分に分配される。固液分離は、好ましくは、ろ過を用いる。特に、洗浄溶媒として混液を用いる場合には、互いに完全に混和しない2相系となる場合があり、このような場合には、遠心分離を固液分離手段として用いると所期の精製効果を得ることができなくなる。なお、洗浄工程は一連の操作を繰り返し実施することができる。また、洗浄溶媒との混合後のろ過によって分離されるろ布上の固形物を固液分離時の洗浄溶媒と同一あるいは異なる洗浄溶媒でさらに洗浄することができる。
洗浄工程は、上記した各種溶媒を単独で用いることもできる。したがって、水のみで行うこともできる。また、水及び水以外の前記洗浄溶媒との混液を用いることもできる。また、洗浄溶媒の少なくとも一種は、析出溶媒と異なる組成であることが好ましい。相違する組成とすることで、精製工程と洗浄工程とで異なる不純物成分を除去することが可能となる。なお、ここでいう組成とは、洗浄溶媒に用いる溶媒の組み合わせ、洗浄溶媒に用いる溶媒の混合比率の双方を含む。有効な酸の除去のためには、析出溶媒と洗浄溶媒のうちいずれか一方の溶媒を、水を含む組成とすることが好ましい。また、好ましくは、洗浄溶媒を、水を含む及び/又は水のみからなる組成とする。同時に、析出溶媒を水以外の有機溶媒とすることも好ましい。特に好ましくは、ジイソプロピルエーテルである。なお、洗浄溶媒は、2種類以上の組成を採用できる。すなわち、例えば、水のみからなる洗浄溶媒と水と他の溶媒との混液との両方を使用できるし、異なる比率で混合した水・有機溶媒混液を用いることもできるし、水と2種類以上の有機溶媒をそれぞれ組み合わせた水・有機溶媒混液を用いることもできる。このように複数種類の組成の洗浄溶媒を準備することにより、洗浄工程においても、多様な不純物除去が可能となる。
析出溶媒及び洗浄溶媒の好ましい組み合わせは、例えば、析出溶媒をジイソプロピルエーテルとし、第1の洗浄溶媒をジイソプロピルエーテルと水との混液とし、次に使用する(第1の洗浄工程で例えば追加的にろ布上等に残った固形分を洗浄するときの他、別に引き続いて行われる第2の洗浄工程以降の洗浄溶媒)洗浄溶媒を水のみとするなど、析出溶媒として水以外の上記有機溶媒のみを用い、洗浄溶媒において、析出溶媒として使用した水・有機溶媒混液又は水のみを用い、水・有機溶媒混液を用いた場合には、必要に応じて、洗浄工程の最終段階においては水のみを用いることで、精製工程から洗浄工程にかけて粗リグノフェノール誘導体が接触する溶媒の極性を上昇させて、引き続いて行う乾燥工程において蒸発させる溶媒の処理を簡易化あるいは省略することができる。
また、析出溶媒及び洗浄溶媒の好ましい組み合わせは、洗浄溶媒の少なくとも一種が、析出溶媒として用いた水と有機溶媒との混液であることである。例えば、析出溶媒が、水と、メチルエチルケトン、アセトン、炭素数1〜4のアルキル基を備える1価のアルコールから選択される有機溶媒との混液であり、洗浄溶媒の少なくも一種が水と、メチルエチルケトン、アセトン、炭素数1〜4のアルキル基を備える1価のアルコールから選択される有機溶媒との混液である組み合わせである。このとき、析出溶媒と該一種の洗浄溶媒とは異なる有機溶媒が用いられていてもよいが、同一であってもよい。また、水と有機溶媒の比率は、析出溶媒と洗浄溶媒とにおいて同一であってもよいが、異なっていてもよいが、好ましくは、洗浄溶媒における水と有機溶媒の全量に対する水の比率が、析出溶媒における水と有機溶媒との全量に対する水の比率よりも大きい。洗浄溶媒における水の比率は析出溶媒におけるそれよりも高くすることにより、リグノフェノール誘導体の回収率を低下させることなく洗浄効率を高めることができる。また、洗浄溶媒においても、2回以上洗浄溶媒で洗浄する場合には、より後段において使用する洗浄溶媒の水の比率を高めることでリグノフェノール誘導体の回収率を維持しつつ洗浄効率を高めることができる。このような精製工程及び洗浄工程に使用する水・有機溶媒混液における有機溶媒は、メタノールを用いることが好ましい。
また、精製工程において好ましい水の他の利用形態は、水・有機溶媒混液を析出溶媒として用いて精製操作を行って不溶区分を回収した後、析出溶媒に用いた有機溶媒あるいは当該有機溶媒以外の溶媒にて水不溶区分を洗浄することである。当該形態によれば、精製操作において水混液溶媒を用いることで酸を効率的に除去することができ、洗浄操作において溶媒洗浄液を用いることでその他のフェノール化合物などを効率的に除去することができる。精製操作において析出溶媒中に酸を分離することで、洗浄を効率的に行うことができるようになる。なお、この場合であっても、水あるいは水混液溶媒による洗浄を行うことは効果的である。
なお、抽出工程及び精製工程における固液分離手段としては、ろ過や遠心分離等公知の固液分離手段を用いることができるが、ろ過手段は、大量の液体の処理に適しており、さらに、ろ取した固形分の洗浄にも適している。特に、本発明においては、抽出工程においては、ろ過助材を用いることがこのましい。ろ過助材としては各種用いることができるが、ラジオライト(商品名である。)等の珪藻土を用いることが好ましい。
以下、本発明を具体化して実施例について説明する。なお、これらの実施例は本発明を具体的に説明するものであって、本願発明を拘束するものではない。
(試験例1)
1)粗リグノフェノール誘導体の調製
アセトン脱脂したスギ木粉1kgをp−クレゾール500gをアセトン7Lに溶解して調製した液を浸透させ、その後、溶媒を留去することによってp−クレゾール収着(3mol/C9ユニット)を調製した。この収着木粉全量1.5kg(木粉1kg+クレゾール0.5kg)に対して72%硫酸5Lを加えて、30℃で1時間攪拌後、硫酸量の10倍量の水に分散させ、以降、水による洗浄を繰り返して、上澄み液が中性になるまで洗浄した。得られた沈殿物を40℃で乾燥し、粗リグノフェノール誘導体(ここでは、粗リグノクレゾール)を得た。粗リグノクレゾールは、さらに、真空乾燥(50mmHg、72時間)することにより乾燥した。
2)抽出工程
粗リグノクレゾール10gに対して、抽出溶媒としてアセトン、メチルエチルケトン(MEK)をそれぞれ70ml加え、3時間攪拌し抽出した。沈殿物を遠心分離(2000g、10分)し、各溶媒を用いて洗浄することを3回繰り返し、抽出時及び洗浄時の溶媒を溶媒の種類毎に合わせて最終的にそれぞれ100mlとした。
3)精製工程
抽出工程で得た各抽出液5mlを、析出溶媒として図1に示す各種溶媒(約50ml)に滴下した。溶媒は全て冷却した状態で使用した。生じた沈殿物(不溶区分)を遠心分離(2000g、10分)した。
4)洗浄工程
得られた沈殿物を析出溶媒と同一溶媒を用いて洗浄することを3回繰り返した後、40℃で乾燥後、さらに減圧乾燥で乾燥し、これを精製リグノクレゾールとし、その重量を測定した。この重量から、粗リグノクレゾール当たりの収率(%)を求めた。
5)精製物の分析
得られた精製物(一部の分析項目についてはその一部)について、収率(重量法)、重量平均分子量(GPC)、フロー温度(TMA)、イオウ含有量(元素分析)、を測定した(カッコ内は分析方法を示している。)。
なお、GPCは以下の条件で行った。
カラム:Shodex KF804、Shodex KF803、Shodex KF802、及びShodex KF801を流入側からこの順で連結したもの
移動相:THF
流量:1ml/min
圧力:50kgf/cm
温度:40℃
検出:UV(280nm)
各種精製系における収率、精製物の分析結果を抽出溶媒及び析出溶媒(洗浄溶媒でもある。)とともに図1に示す。また、各種精製系におけるGPCクロマトグラムを図2から図4に示す。
(アセトン−水・アセトン系)
図1に示すように、抽出溶媒としてアセトンを用い、析出溶媒として水・アセトン系を用いた場合、水のみの場合において最も高い回収率を得ることができ、析出溶媒におけるアセトン比率を高めると、収率が低下し、アセトン比率が32wt%に至ると、粘性のある沈殿が生じて洗浄不可能となり、析出物を回収できなかった。一方、図2のGPCのクロマトグラムによれば、アセトン比率によって大きく分子量分布が変化する傾向は見受けられなかった。また、イオウ含有量は、析出溶媒を水のみとした場合に2000μg/gであったのに対し、アセトン16wt%としたときには、1700μg/gであり、良好な脱酸効果を示した。
(アセトン−水・メタノール系)
アセトン−水・メタノール系では、析出溶媒である水・メタノール混液におけるメタノール比率によってリグノフェノール誘導体の精製挙動は大きく変化した。すなわち、メタノール比率が増大するにつれ回収率は向上したが、メタノール比率が72wt%以上では、リグノフェノール誘導体が溶解して回収不可能であった。また、図3に示すGPCのクロマトグラムからは、メタノール比率32wt%以上において、顕著に低分子区分が排除されており、同48wt%以上においては、さらに一層低分子区分が排除されていた。同60wt%において最も低分子区分が排除された。重量平均分子量は、メタノール比率48wt%以上において顕著に増大していた。また、フロー温度の結果も、これらのGPC結果を支持しており、メタノール比率が最も高い混液を析出溶媒として用いることにより、最も高いフロー温度を示した。さらに、メタノール比率60wt%で精製時のイオウ含有量は極めて低い値となっており、回収率の増大及び低分子区分の排除とともに酸の分離も良好であることがわかった。以上のことから、水とメタノールなどのアルコールとの混液を用いることにより、リグノフェノール誘導体の析出溶媒を容易に最適化できることがわかった。
(MEK−水・MEK系)
MEK−水・MEK系では、水・MEK混液のMEK比率にかかわらず、回収率に大きな変化はなかったが、いずれも低かった。
実施例で使用した抽出溶媒、析出溶媒と得られたリグノフェノール誘導体の分析結果を示す図。 リグノフェノール誘導体のGPCによる分子量分析の結果(析出溶媒:水・アセトン混液)を示す図。 リグノフェノール誘導体のGPCによる分子量分析の結果(析出溶媒:水・メタノール混液)を示す図。 リグノフェノール誘導体のGPCによる分子量分析の結果(析出溶媒:水・MEK混液)を示す図。

Claims (10)

  1. リグニンのフェノール誘導体の製造方法であって、
    フェノール化合物により溶媒和されたリグニン含有材料に酸を添加し混合しリグニンのフェノール誘導体を生成させる工程と、
    前記リグニンのフェノール誘導体を不溶解物として含有する区分に当該リグニンのフェノール誘導体を抽出可能な抽出溶媒を添加して抽出する抽出工程と、
    前記工程で得られる抽出液から、有機溶媒と水とを含む析出溶媒を用いて該析出溶媒における不溶区分を回収してリグニンのフェノール誘導体を精製する精製工程、
    とを備える、方法。
  2. 前記析出溶媒が含有する有機溶媒は、メチルエチルケトン、アセトン及び炭素数1〜4のアルキル基を備える1価のアルコールから選択される請求項1に記載の方法。
  3. 前記有機溶媒は、メタノールである、請求項2に記載の方法。
  4. 前記析出溶媒において、メタノールと水との全量に対する水の比率が20wt%以上70wt%以下である、請求項3に記載の方法。
  5. 前記析出溶媒において、前記比率が45wt%以上60wt%以下である、請求項4に記載の方法。
  6. 前記抽出溶媒は、アセトン及びメチルエチルケトンから選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  7. 回収した前記不溶区分を、メチルエチルケトン、アセトン、炭素数1〜4のアルキル基を備える1価のアルコール、ジイソプロピルエーテル、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン及び水からなる群から選択される1種あるいは2種以上の溶媒からなる洗浄溶媒で洗浄する工程を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
  8. 前記洗浄溶媒として、水のみあるいは水及び水以外の前記有機溶媒から選択される1種あるいは2種以上の溶媒からなる混液を用いる、請求項7記載の方法。
  9. 前記析出溶媒の少なくとも一種として、前記析出溶媒とは異なる組成の水と有機溶媒との混液を用いる、請求項7又は8に記載の方法。
  10. 前記少なくとも一種の洗浄溶媒は、前記析出溶媒として用いた水と有機溶媒との混液であり、該水と該有機溶媒の全量に対する水の比率は、前記析出溶媒における水と有機溶媒との全量に対する水の比率よりも大きい洗浄溶媒を用いる、請求項9に記載の方法。
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