JP4945716B2 - リグノセルロース系材料の分離方法 - Google Patents
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Description
リグノセルロース系材料のバイオマスとしての利用において、炭水化物の主成分であるセルロースを抽出してパルプ化して再利用することが図られているが、従来からリグニンの再利用はほとんどなされていなかった。リグニンの有効な利用を図るためには、先ずリグノセルロース系材料をその構成成分に分離することが必要である。このような分離方法として、濃酸による炭水化物の膨潤による組織構造の破壊と、フェノール誘導体によるリグニンの溶媒和の組み合わせにより、リグニンの不活性化を抑制し、リグノセルロース系材料をその構成成分であるリグノフェノール誘導体と炭水化物とに分離する、相分離変換システムによる分離方法が開発されている(特許文献1)。この方法で得られたリグノフェノール誘導体を、例えば、セルロース系ファイバー等の成形材料に適用し成形体を作製して再利用することが報告されている(特許文献2)。また、分離されたリグノフェノール誘導体と炭水化物との複合体を木工製品の修復剤などに再利用することも報告されている(特許文献3)。
更に本発明の課題は、そのような分離方法を利用した、リグフェノール誘導体の製造方法、およびリグノフェノール誘導体と炭水化物との複合体の製造方法を提供することにある。
即ち本発明は、炭水化物とリグニンから主として形成されるリグノセルロース系材料に、フェノール誘導体を添加してリグニンをフェノール誘導体により溶媒和させ、次いで、濃酸水溶液を添加し混合して、フェノール誘導体相に生成するリグノフェノール誘導体と、水相の炭水化物とを分離する、相分離変換システムによるリグノセルロース系材料をリグノフェノール誘導体と炭水化物とに分離する方法において、濃酸水溶液として、リン酸、ギ酸およびトリフルオロ酢酸から選ばれる酸と、硫酸との混合物を用いることを特徴とする、分離方法に関する。
更に本発明は、上記分離方法により、リグノフェノール誘導体を分離し、回収することからなる、リグノフェノール誘導体の製造方法に関する。
更に本発明は、上記分離方法により、リグノフェノール誘導体および炭水化物を分離し、次いでリグノフェノール誘導体と炭水化物との複合体を製造する、リグノフェノール誘導体と炭水化物との複合体の製造方法に関する。
上記した濃リン酸と濃硫酸との混合物を用いる分離方法は、特に、針葉樹由来のリグノセルロース系材料を用いた場合に、高収率で、リグノセルロース系材料からリグノフェノール誘導体を分離・回収することができる。針葉樹のリグニンと広葉樹のリグニンとを比較した場合、針葉樹のリグニンのほうが分子量が高く、エーテル結合も少ないため、通常、リグノフェノール誘導体への変換が困難であるが、本発明のように、濃リン酸と濃硫酸との混合物を用いる分離方法では、用いる濃硫酸の量を調整することにより、針葉樹のリグニンのリグノフェノール誘導体への変換を容易にして、高収率で、リグノフェノール誘導体を分離・回収することができる。
また、相分離変換システムでは、フェノール誘導体と濃酸との親和性が、リグノセルロース系材料からのリグノフェノール誘導体と炭水化物との分離に影響を及ぼす。従って、クレゾールなどの疎水性の高いフェノール誘導体を使用する場合には、用いる濃硫酸の量を高く調整することにより、酸強度を上げて、疎水性の高いフェノール誘導体と濃酸との親和性を向上させることにより、高収率で、リグノフェノール誘導体を分離・回収することができる。
このようなギ酸またはトリフルオロ酢酸を用いることにより、同様に、95重量%濃リン酸という特殊で高価な試薬レベルの濃リン酸を使用することなく、工業的に有利に、リグノセルロース系材料からリグノフェノール誘導体を分離・回収することができる。
第1の方法は、特開平2−233701号公報等に記載されている方法である。この方法は、木粉等のリグノセルロース材料に、液体状のフェノール誘導体(例えば、p−クレゾール、2,4−ジメチルフェノールなど)を浸透させ、リグニンをフェノール誘導体により溶媒和させ、次に、リグノセルロース材料に濃酸水溶液を添加し混合して、セルロース成分を溶解する。ここで使用するフェノール誘導体の量は、通常、リグノセルロース系材料中の存在するリグニンの予想量に対して2モル倍から50モル倍である。また、濃酸水溶液の使用量は、リグノセルロース材料に対して通常2から50倍容量である。この方法では、リグニンを溶媒和したフェノール誘導体と、セルロースなどの炭水化物を溶解した濃酸水溶液とが2相分離系を形成する。フェノール誘導体により溶媒和されたリグニンは、フェノール誘導体相が濃酸相と接触する界面においてのみ、酸と接触し、反応する。すなわち、酸との界面接触により生じたリグニン基本構成単位の高反応サイトである側鎖C1位(ベンジル位)のカチオンが、フェノール誘導体により攻撃され、その結果、C1位にフェノール誘導体がC−C結合で導入され、またベンジルアリールエーテル結合が開裂することにより低分子化される。これによりリグニンが低分子化され、同時にその基本構成単位のC1位にフェノール誘導体が導入されたリグノフェノール誘導体がフェノール誘導体相に生成される。このフェノール誘導体相から、リグノフェノール誘導体が抽出される。
フェノール誘導体相からのリグノフェノール誘導体の抽出は、例えば、フェノール誘導体相を、大過剰のエチルエーテルに加えて得た沈殿物を集めて、アセトンに溶解する。アセトン不溶部を遠心分離により除去し、アセトン可溶部を濃縮する。このアセトン可溶部を、大過剰のエチルエーテルに滴下し、沈殿区分を集め、この沈殿区分から溶媒留去し、リグノフェノール誘導体を得ることができる。
このようにして、使用したフェノール誘導体のオルト位あるいはパラ位でリグニンのフェニルプロパンユニットのC1位に当該フェノール誘導体がグラフトされた、1,1−ビス(アリール)プロパンユニットを有するリグノフェノール誘導体を得ることができる。
また、以上に説明したようにして得られるリグノフェノール誘導体と炭水化物との複合体も、同様に、各種の成型品に利用することができる。
実施例1
濃リン酸と濃硫酸との混合物を用いた相分離変換システムによるリグノフェノール誘導体およびリグノフェノール誘導体と炭水化物との複合体の分離・回収
(1)方法
濃酸水溶液として、85重量%濃リン酸と98重量%濃硫酸との混合物を用いて、酸強度を高め、加水分解制御型相分離処理を行った。具体的には、表1に示したような各種条件で、脱脂木粉にリグニン量(脱脂木粉のリグニン量はJIS規格クラソン法により測定した)に対し3モル倍のフェノール誘導体を収着し、濃リン酸と濃硫酸との混合物を加えて激しく攪拌した。表1に示した各条件で処理後、処理液を約10倍量の水に希釈し、不溶区分を回収した。不溶区分は水で中性になるまで洗浄し、凍結乾燥した。乾燥重量測定後、リグノフェノール誘導体をアセトン抽出し、ジエチルエーテルにて精製した。
1.リグノフェノール誘導体と炭水化物との複合体の収率
表1に示した各処理条件におけるリグノフェノール誘導体と炭水化物との複合体(LC体)の収率を図1にまとめて比較した。図1に示すようにフェノール誘導体としてp−クレゾールを用いた場合、95重量%濃リン酸50℃処理におけるLC体収率は、針葉樹(Hemlock)で76%、広葉樹(Birch)73%となりほぼヘミセルロースのみが分解されたと考えられる。
しかし、85重量%濃リン酸50℃処理ではHemlockで82%とHemlock総炭水化物量(73%)以上となった。まだLC体中にヘミセルロースが残っていると思われた。
85重量%濃リン酸に濃硫酸を加えた混合系では硫酸10容量%混合、15容量%混合系とも30℃処理では針葉樹、広葉樹ともLC体収率は80%以上となった。50℃処理では針葉樹76%、広葉樹73%と、95重量%濃リン酸系とほぼ同じ結果となった。
リン酸系相分離変換システムではリグノフェノール誘導体は上述のLC体のアセトン抽出により得られる。表1の各条件で調製したLC体をそれぞれアセトン抽出し、リグノフェノール誘導体を回収した。図2にリグノフェノール誘導体の収率を示す。フェノール誘導体としてp−クレゾールを用いた場合、濃リン酸系ではリグノフェノール誘導体の収率は低い値となった。濃硫酸混合により改善はされ15容量%濃硫酸混合50℃処理においてリグニンあたりの収率は約50%であった。
フェノール誘導体としてレゾルシノールを用いた場合、針葉樹では15容量%濃硫酸混合50℃処理でリグノフェノール誘導体収率は52%であったが、広葉樹を用いた場合、10容量%濃硫酸混合50℃処理で96%となり、従来法である95%濃リン酸相分離処理におけるリグノフェノール収率より高い値となった。
分離・回収されたリグノレゾルシノールの特性評価
(1)方法
実施例1により分離・回収されたリグノレゾルシノールを、従来の95重量%濃リン酸により得られたリグノレゾルシノールと比較するため、GPC分析による分子量分布解析とTMA分析により熱可塑特性を調べた。
(2)結果
実施例1により得られたリグノレゾルシノールのGPCによる分子量分布は、従来の95重量%濃リン酸50℃処理により得られたリグノレゾルシノールとよく似た分子量分布を示し(図3)、重量平均分子量も大きな違いは見られなかった。15容量%濃硫酸混合系50℃処理のみ平均分子量が17000と高い値となった(図4)。
続いてTMA分析を行った結果、実施例1により得られたリグノレゾルシノールは、広葉樹リグノクレゾールよりも熱軟化温度が高いが明瞭な熱軟化挙動を示し、処理条件による大きな違いは見られなかった(図5)。
分離・回収されたリグノセルロースの分離挙動解析
(1)方法
脱脂木粉1gに含有リグニン量に対し3mol倍のレゾルシノールを収着し、これに95重量%濃リン酸または10容量%濃硫酸混合85重量%濃リン酸を15ml添加し、50℃で所定時間激しく攪拌した。反応終了後、蒸留水を35mlを加え、撹拌した。遠心分離により水可溶区分と水不溶区分に分離した。糖組成分析試料として水可溶区分20−30ml採り、10重量%リン酸濃度になるように希釈後、120℃で1時間オートクレーブした。冷却後、内部標準として10mgのリボースを添加し、これを水酸化バリウムで中和し糖組成分析試料を調製した。
また、GPC分析試料として遠心分離後の水可溶部を約2ml採り、すばやく水酸化バリウムで中和し、GPCサンプルを調製した。
また、水不溶区分は蒸留水で中性になるまで洗浄し、凍結乾燥した。乾燥重量を測定後、アセトン抽出し、このアセトン抽出液を濃縮後、ジエチルエーテルに滴下し、リグノレゾルシノールを得た。アセトン抽出残渣は乾燥重量測定後、100mg採り、72重量%濃硫酸を1.5ml加え、30℃で2時間加水分解した。反応終了後、蒸留水で3%硫酸濃度に希釈し、120℃で1時間オートクレーブした。冷却後、内部標準として4mgのリボースを添加し、これを水酸化バリウムで中和し、糖組成分析試料を調製した。構成糖組成分析はHPLCにより分析した。
カラム:Shim−pack ISA−07/S2504
(4mm ID.×25cm L.)
溶出液:A;0.1 M ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)
B;0.4 M ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH9.0)
溶出速度:0.6 ml/min
勾配:A 100% to B 100%(2.5%/min)
温度:65℃
検出:反応試薬;1%L−アルギニン、3%ホウ酸、0.5ml/min
反応時間:150℃
検出波長:Ex−320nm、Em−430nm
カラム:Asahipak GS−620HQ,GS−520HQ,GS−320HQ,
GS−220HQ(7.6mm ID.×30cm L.)
溶出液:H2O
溶出速度:0.6ml/min
温度:50℃
検出:RI
標準:プルラン、マルトース、マルトトリオース、マルトペンタノース、
マルトヘプタノース、グルコース、キシロース
実施例1で得られるLC体の収率から考えると酸可溶性区分はヘミセルロースが多く含まれると予想される。そこで実施例1における相分離変換システムにおける炭水化物とリグニンの分離挙動を検討した。
リン酸可溶区分の糖組成分析を行った結果、キシロースが主成分でありヘミセルロースが選択的にリン酸可溶区分に分離したことがわかる。硫酸の添加によりグルコースの比率が少し高くなっておりセルロースの加水分解が少し生じていることが示唆された。(図6)。
また、リン酸可溶区分の炭水化物のGPC分析を行った結果、図7のように分子量1000以下のオリゴ糖が多く含まれていた。分子量10000以上の高分子画分の量はわずかであった。
一方、リン酸不溶区分(LC体)からリグノフェノールをアセトン抽出した残渣の糖組成分析を行った結果、グルコースが主成分であり、リン酸不溶区分に含まれる炭水化物の主成分はセルロースであることが示された(図8)。
リグノレゾルシノールの加熱圧縮成型体
本発明のリン酸系相分離変換システム処理では、従来の硫酸系相分離変換システムと比べ酸強度が低いためセルロースの加水分解が抑制され、酸処理後の水不溶解物には結晶構造が分解されたセルロースとリグノフェノール誘導体の複合体(LC体)が中間物質として回収される。この中間体は熱可塑性が高く加熱圧縮することにより成型加工が可能である。そこで本発明の相分離変換システムにより得られたリグノレゾルシノール−炭水化物複合体(LC体)を用いて加熱圧縮成型体を作成した。金型はプラスチックJIS規格に準じた4×10×80mmの金型を用いた。
リグノレゾルシノールのエポキシ化
実施例1で得られたリグノレゾルシノール1.0g(3mmol)を0.5N NaOH25mlに溶解、50℃にて撹拌し、エピクロロヒドリン0.92g(10mmol)を滴下した。
LC体のメチロール化
実施例1で得られたLC体を1.5gとり、0.5N NaOHを60ml加え、少し撹拌し、一晩放置した。さらに60mlの蒸留水と14.6mlにホルマリンを加え、60℃水浴中で撹拌した。窒素置換なしで行った。3時間後、冷却、酸性化後、遠心分離で不溶解物を回収し、凍結乾燥した。
LC体のエポキシ化
実施例1で得られたLC体を2g採り、1N NaOH20mlを加えた。撹拌後2時間放置した。50℃のバスにセットし、エピクロロヒドリン1.0gを加え、50℃で撹拌した。1時間後、1N HClでpH2に酸性化した。不溶解物を遠心分離にて回収し、蒸留水で洗浄により脱酸した。これを凍結乾燥した。
Claims (14)
- 炭水化物とリグニンから主として形成されるリグノセルロース系材料に、フェノール誘導体を添加してリグニンをフェノール誘導体により溶媒和させ、次いで、濃酸水溶液を添加し混合して、フェノール誘導体相に生成するリグノフェノール誘導体と、水相の炭水化物とを分離する、相分離変換システムによるリグノセルロース系材料をリグノフェノール誘導体と炭水化物とに分離する方法において、濃酸水溶液として、リン酸、ギ酸およびトリフルオロ酢酸から選ばれる酸と、硫酸との混合物を用いることを特徴とする、分離方法。
- 濃リン酸と濃硫酸との混合物を用いる、請求項1の分離方法。
- 濃リン酸が、50重量%以上、95重量%未満の濃リン酸である、請求項2の分離方法。
- 濃硫酸が、65重量%以上、98重量%以下の濃硫酸である、請求項2または3の分離方法。
- 濃リン酸が85重量%濃リン酸である、請求項2から4のいずれかの分離方法。
- 濃リン酸が85重量%濃リン酸で、濃硫酸が98重量%濃硫酸である、請求項2から5のいずれかの分離方法。
- 濃リン酸と濃硫酸との混合割合は、濃硫酸に対して濃リン酸が5倍容量から19倍容量である、請求項2から6のいずれかの分離方法。
- 濃リン酸と濃硫酸との混合割合は、濃硫酸に対して濃リン酸が9倍容量である、請求項2から7のいずれかの分離方法。
- フェノール誘導体が多価フェノール誘導体である、請求項1から8のいずれかの分離方法。
- 多価フェノール誘導体がレゾルシノールである、請求項9の分離方法。
- リグノセルロース系材料が針葉樹由来である、請求項1から10のいずれかの分離方法。
- 請求項1から10のいずれかの分離方法により、リグノフェノール誘導体を分離し、回収することからなる、リグノフェノール誘導体の製造方法。
- リグノフェノール誘導体がリグノレゾルシノールである、請求項12の製造方法。
- 請求項1から11のいずれかの分離方法により、リグノフェノール誘導体および炭水化物を分離し、次いでリグノフェノール誘導体と炭水化物との複合体を製造する、リグノフェノール誘導体と炭水化物との複合体の製造方法。
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