以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
[制動制御装置1]
図1は、本実施形態の制動制御装置1の全体構成図である。制動制御装置1は、電動モータとエンジンとを動力源とするハイブリッド車両に搭載している。図において、FL輪は左前輪、FR輪は右前輪、RL輪は左後輪、RR輪は右後輪である。また、矢印付きの破線は信号線であり、矢印の向きによって信号の流れを表す。
制動制御装置1は、マスタシリンダ2と、リザーバタンクRESと、ホイルシリンダ圧制御機構3と、各輪FL,FR,RL,RRに設けられたホイルシリンダ4a〜4dと、マスタシリンダ2に接続して設けられたマスタシリンダ圧制御機構5およびインプットロッド6と、ブレーキ操作量検出装置7と、マスタシリンダ圧制御機構5を制御するマスタシリンダ圧制御装置8と、ホイルシリンダ圧制御機構3を制御するホイルシリンダ圧制御装置9と、を有している。
インプットロッド6は、ブレーキペダルBPとともに、マスタシリンダ2内の液圧(以下、マスタシリンダ圧Pmc)を加減圧する。マスタシリンダ圧制御機構5およびマスタシリンダ圧制御装置8は、マスタシリンダ2のプライマリピストン2bとともに、マスタシリンダ圧Pmcを加減圧する。
以下、説明のため、マスタシリンダ2の軸方向にx軸を設定し、ブレーキペダルBPの側を負方向と定義する。マスタシリンダ2はいわゆるタンデム型であり、シリンダ2a内にプライマリピストン2bおよびセカンダリピストン2cを有している。シリンダ2aの内周面と、プライマリピストン2bのx軸正方向側の面およびセカンダリピストン2cのx軸負方向側の面との間で、加圧室としてのプライマリ液室2dが形成されている。シリンダ2aの内周面とセカンダリピストン2cのx軸正方向側の面との間で、加圧室としてのセカンダリ液室2eが形成されている。
プライマリ液室2dは、ブレーキ回路10と連通可能に接続され、セカンダリ液室2eは、ブレーキ回路20と連通可能に接続されている。プライマリ液室2dの容積は、プライマリピストン2bおよびセカンダリピストン2cがシリンダ2a内で摺動することで変化する。プライマリ液室2dには、プライマリピストン2bをx軸負方向側に付勢する戻しバネ2fが設置されている。セカンダリ液室2eの容積は、セカンダリピストン2cがシリンダ2a内で摺動することで変化する。セカンダリ液室2eには、セカンダリピストン2cをx軸負方向側に付勢する戻しバネ2gが設置されている。
インプットロッド6のx軸正方向側の一端6aは、プライマリピストン2bの隔壁2hを貫通し、プライマリ液室2d内に設置されている。インプットロッド6の一端6aとプライマリピストン2bの隔壁2hとの間はシールされ、液密性が保たれているとともに、一端6aは隔壁2hに対してx軸方向に摺動可能に設けられている。一方、インプットロッド6のx軸負方向側の他端6bは、ブレーキペダルBPに連結されている。ブレーキペダルBPが踏まれるとインプットロッド6はx軸正方向側に移動し、ブレーキペダルBPが戻されるとインプットロッド6はx軸負方向側に移動する。
プライマリ液室2dの作動液は、インプットロッド6または(駆動モータ50により駆動される)プライマリピストン2bがx軸正方向側へ推進することによって加圧される。加圧された作動液は、ブレーキ回路10を経由してホイルシリンダ圧制御機構3に供給される。また、加圧されたプライマリ液室2dの圧力により、セカンダリピストン2cがx軸正方向側へ推進する。セカンダリ液室2eの作動液は、セカンダリピストン2cの上記推進によって加圧され、ブレーキ回路20を経由してホイルシリンダ圧制御機構3に供給される。
このようにインプットロッド6がブレーキペダルBPと連動して移動し、プライマリ液室2dを加圧する構成により、万一、故障により駆動モータ50が停止した場合にも、ドライバのブレーキ操作によってマスタシリンダ圧Pmcを上昇でき、所定のブレーキ力が確保される。また、マスタシリンダ圧Pmcに応じた力がインプットロッド6を介してブレーキペダルBPに作用し、ブレーキペダル反力としてドライバに伝達されるため、上記構成を採らない場合に必要な、ブレーキペダル反力を生成するバネ等の装置が不要となる。よって、制動制御装置の小型化・軽量化が図られ、車両への搭載性が向上する。
インプットロッド6の他端6b側には、ドライバの要求ブレーキ力を検出するブレーキ操作量検出装置7が設けられている。ブレーキ操作量検出装置7は、インプットロッド6のx軸方向変位量を検出する変位センサ(ブレーキペダルBPのストロークセンサ)である。本実施形態では、2つの変位センサ7a、7bが設けられており、これらにより検出された変位量はそれぞれマスタシリンダ圧制御装置8に入力される。このように複数個の変位センサを組み合わせることにより、万一、故障により1つのセンサからの信号が途絶えた場合にも、残りのセンサによってドライバのブレーキ要求が検出・認知されるため、フェールセーフが確保される。
また、ブレーキ操作量検出装置7としては、ブレーキペダルBPの踏力を検出する踏力センサや、ストロークセンサと踏力センサを組み合わせた構成であってもよい。
リザーバタンクRESは、隔壁によって互いに仕切られた少なくとも2つの液室を有している。各液室はそれぞれブレーキ回路10j、20jを介して、マスタシリンダ2のプライマリ液室2dおよびセカンダリ液室2eと連通可能に接続されている。
ホイルシリンダ圧制御機構3は、ABS制御や車両挙動安定化制御等を実行可能な液圧制御ユニットであり、マスタシリンダ2等で加圧された作動液を、ホイルシリンダ圧制御装置9の制御指令に従って、各ホイルシリンダ4a〜4dへ供給する。
ホイルシリンダ4a〜4dは、シリンダ、ピストン、パッド等を有しており、ホイルシリンダ圧制御機構3から供給された作動液によって上記ピストンが推進され、このピストンに連結されたパッドがディスクロータ40a〜40dに押圧される周知のものである。なお、ディスクロータ40a〜40dはそれぞれ車輪FL,FR,RL,RRと一体回転し、ディスクロータ40a〜40dに作用するブレーキトルクは、車輪FL,FR,RL,RRと路面との間に作用するブレーキ力となる。
マスタシリンダ圧制御機構5は、プライマリピストン2bの変位量すなわちマスタシリンダ圧Pmcを、マスタシリンダ圧制御装置8の制御指令に従って制御するものであり、駆動モータ50と、減速装置51と、回転−並進変換装置55と、を有している。
マスタシリンダ圧制御装置8は演算処理回路であり、ブレーキ操作量検出装置7や駆動モータ50からのセンサ信号や、後述するホイルシリンダ圧制御装置9からの信号等に基づいて、駆動モータ50の作動を制御する。
ホイルシリンダ圧制御装置9は演算処理回路であり、先行車との車間距離や道路情報、および車両状態量(例えば、ヨーレート、前後加速度、横加速度、ハンドル舵角、車輪速、車体速等)に基づき、各輪FL,FR,RL,RRで発生させるべき目標ブレーキ力を算出する。そして、この算出結果に基づき、ホイルシリンダ圧制御機構3の各アクチュエータ(ソレノイドバルブやポンプ)の作動を制御する。
なお、マスタシリンダ圧制御装置8とホイルシリンダ圧制御装置9とは信号線Lで結線されて通信可能である。
[ホイルシリンダ圧制御機構3]
以下、ホイルシリンダ圧制御機構3の油圧回路構成を説明する。
ブレーキ回路は独立した2つのブレーキ系統を有し、プライマリ系統およびセカンダリ系統に分かれている。プライマリ系統は、プライマリ液室2dから作動液の供給を受け、ブレーキ回路10を介してFL輪とRR輪のブレーキ力を制御する。セカンダリ系統は、セカンダリ液室2eから作動液の供給を受け、ブレーキ回路20を介してFR輪とRL輪のブレーキ力を制御する。このようにいわゆるX配管構造であるため、一方のブレーキ系統が失陥した場合でも、他方の正常なブレーキ系統によって対角2輪分のブレーキ力が確保され、車両の挙動が安定に保たれる。以下、プライマリ系統を例にとって説明する。
ブレーキ回路10のマスタシリンダ2側(以下、上流という)からホイルシリンダ4a、4d側(以下、下流という)に向かう途中には、アウト側ゲート弁11が設けられている。アウト側ゲート弁11は、マスタシリンダ2で加圧された作動液をホイルシリンダ4a、4dに供給する際に開弁される。
アウト側ゲート弁11が設けられたブレーキ回路10kの下流はブレーキ回路10a、10bに分岐し、ブレーキ回路10a、10bは、それぞれブレーキ回路10l、10mを介してホイルシリンダ4a、4dに接続している。ブレーキ回路10a、10b上には、それぞれ増圧弁12、13が設けられている。増圧弁12、13は、マスタシリンダ2または後述のポンプPで加圧された作動液をホイルシリンダ4a、4dに供給する際に開弁される。
ブレーキ回路10a、10bには、増圧弁12、13の下流側で、リターン回路10c、10dがそれぞれ接続している。リターン回路10c、10d上にはそれぞれ減圧弁14、15が設けられている。減圧弁14、15は、ホイルシリンダ4a、4d内の圧力(以下、ホイルシリンダ圧Pwc)を減圧する際に開弁される。リターン回路10c、10dは合流してリターン回路10eを形成し、リターン回路10eはリザーバ16に接続している。
一方、ブレーキ回路10はアウト側ゲート弁11の上流で分岐し、吸入回路10gを形成している。吸入回路10g上には、吸入回路10gの連通・遮断を切り換えるイン側ゲート弁17が設けられている。イン側ゲート弁17は、例えば、マスタシリンダ2で加圧された作動液を後述のポンプPで昇圧してホイルシリンダ4a、4dに供給する際に開弁される。吸入回路10gは、リザーバ16からのリターン回路10fと合流して吸入回路10hを形成している。
ブレーキ回路10には、マスタシリンダ2以外の液圧源として、作動液の吸入・吐出を行うポンプPが接続されている。ポンプPはプランジャ式又はギヤ式のポンプであって、第1ポンプP1および第2ポンプP2を備えている。ポンプPは、例えば、車両挙動安定化制御等の自動ブレーキ制御を行う際、マスタシリンダ2の作動圧を超える圧力が必要な場合に、マスタシリンダ圧Pmcを昇圧してホイルシリンダ4a、4dに供給する。第1ポンプP1は、吸入回路10hおよび吐出回路10iと接続し、吐出回路10iを介してブレーキ回路10kと接続している。
モータMは、DC(直流)ブラシレスモータ又はDCブラシモータであり、その出力軸にはポンプP1、P2が連結されている。モータMは、ホイルシリンダ圧制御装置9の制御指令に基づき供給される電力によって作動し、ポンプP1、P2を駆動する。
アウト側ゲート弁11、イン側ゲート弁17、増圧弁12、13、および減圧弁14、15は、ソレノイドへの通電により弁の開閉が行われる電磁式のものであり、ホイルシリンダ圧制御装置9が出力する駆動信号に応じた大きさの駆動電流が通電されることで、弁の開閉量が各弁個々に制御される。
なお、アウト側ゲート弁11および増圧弁12、13は常開弁であり、イン側ゲート弁17および減圧弁14、15は常閉弁である。これにより万一、故障によりいずれかの弁への電力供給が停止した場合であっても、マスタシリンダ2で加圧された作動液が全てホイルシリンダ4a、4dに到達する回路構成となるため、ドライバの要求通りのブレーキ力を発生させることができる。
ブレーキ回路20側の油圧回路も、上記ブレーキ回路10側と同様に構成されている。
ブレーキ回路10(マスタシリンダ2とホイルシリンダ圧制御機構3との間)、およびブレーキ回路20(ホイルシリンダ圧制御機構3内)には、それぞれ、マスタシリンダ圧Pmc(プライマリ液室2dおよびセカンダリ液室2eの圧力)を検出する圧力センサであるマスタシリンダ圧センサ3a、3bが設けられている。マスタシリンダ圧センサ3a、3bが検出したマスタシリンダ圧Pmcの情報は、マスタシリンダ圧制御装置8およびホイルシリンダ圧制御装置9に入力される。なお、マスタシリンダ圧センサの個数および設置位置に関しては、制御性やフェールセーフ等を考慮して任意に決定できる。
以下、ブレーキ制御時のホイルシリンダ圧制御機構3の動作を説明する。
通常制御時には、マスタシリンダ2の作動液がブレーキ回路10、20を介して各ホイルシリンダ4a〜4dに供給され、ブレーキ力が発生する。
ABS制御時には、車輪FLを例にとると、ホイルシリンダ4aに接続されている減圧弁14を開弁させるとともに増圧弁12を閉弁させ、ホイルシリンダ4aの作動液をリザーバ16に戻すことで減圧を行う。また、車輪FLがロック傾向から回復したら、増圧弁12を開弁させるとともに減圧弁14を閉弁させることで増圧を行う。このときポンプPは、リザーバ16に逃がした作動液をブレーキ回路10kに戻す。
車両挙動安定化制御等の自動ブレーキ制御時には、アウト側ゲート弁11、21を閉弁させる一方で、イン側ゲート弁17、27を開弁させる。同時にポンプPを作動させ、吸入回路10g、10h、20g、20h、吐出回路10i、20iを介してマスタシリンダ2からブレーキ回路10k,20kに向けて作動液を吐出させる。さらに、ホイルシリンダ圧Pwcが必要なブレーキ力に応じた目標圧となるようにアウト側ゲート弁11、21または増圧弁12、13、22、23を制御する。
[マスタシリンダ圧制御機構5]
以下、マスタシリンダ圧制御機構5の構成と動作について説明する。
駆動モータ50は三相DCブラシレスモータであり、マスタシリンダ圧制御装置8の制御指令に基づき供給される電力によって動作し、所望の回転トルクを発生する。
減速装置51は、駆動モータ50の出力回転をプーリ減速方式により減速する。減速装置51は、駆動モータ50の出力軸に設けられた小径の駆動側プーリ52と、回転−並進変換装置55のボールネジナット56に設けられた大径の従動側プーリ53と、駆動側および従動側プーリ52、53に巻き掛けられたベルト54と、を有している。減速装置51は、駆動モータ50の回転トルクを、減速比(駆動側および従動側プーリ52、53の半径比)分だけ増幅させて、回転−並進変換装置55に伝達する。
なお、駆動モータ50の回転トルクが十分に大きく、減速によるトルク増幅が必要でない場合には、減速装置51を省略して、駆動モータ50と回転−並進変換装置55とを直結することとしてもよい。この場合、減速装置51の介在に起因して発生する、信頼性や静粛性、および搭載性等に関する諸問題を回避できる。
回転−並進変換装置55は、駆動モータ50の回転動力を並進動力に変換し、この並進動力によりプライマリピストン2bを押圧する。本実施形態では、動力変換機構としてボールネジ方式を採用しており、回転−並進変換装置55は、ボールネジナット56と、ボールネジ軸57と、可動部材58と、戻しバネ59と、を有している。
マスタシリンダ2のx軸負方向側には第1ハウジング部材HSG1が接続され、第1ハウジング部材HSG1のx軸負方向側には第2ハウジング部材HSG2が接続されている。ボールネジナット56は、第2ハウジング部材HSG2内に設けられたベアリングBRGの内周に、軸回転可能に設置されている。ボールネジナット56のx軸負方向側の外周には、従動側プーリ53が嵌合されている。ボールネジナット56の内周には、中空のボールネジ軸57が螺合している。ボールネジナット56とボールネジ軸57との間の隙間には、複数のボールが回転移動可能に設置されている。
ボールネジ軸57のx軸正方向側の端には、可動部材58が一体に設けられている。可動部材58のx軸正方向側の面には、プライマリピストン2bが接合している。プライマリピストン2bは、第1ハウジング部材HSG1内に収容されている。プライマリピストン2bのx軸正方向側の端は第1ハウジング部材HSG1から突出してマスタシリンダ2のシリンダ2aの内周に嵌合している。
第1ハウジング部材HSG1内では、プライマリピストン2bの外周に、戻しバネ59が設置されている。戻しバネ59のx軸正方向側の端は第1ハウジング部材HSG1内部のx軸正方向側の面Aに固定される一方、x軸負方向側の端は可動部材58に係合している。戻しバネ59は、面Aと可動部材28との間でx軸方向に押し縮められて設置され、可動部材58およびボールネジ軸57をx軸負方向側に付勢している。
従動側プーリ53が回転するとボールネジナット56が一体に回転し、このボールネジナット56の回転運動により、ボールネジ軸57がx軸方向に並進運動する。x軸正方向側へのボールネジ軸57の並進運動の推力により、可動部材58を介して、プライマリピストン2bがx軸正方向側に押圧される。なお、図1では、ブレーキ非操作時にボールネジ軸57がx軸負方向側に最大変位した初期位置にある状態を示す。
一方、ボールネジ軸57には、上記x軸正方向側への推力と反対方向(x軸負方向側)に、戻しバネ59の弾性力が作用する。これによりブレーキ中、すなわちプライマリピストン2bがx軸正方向側に押圧されマスタシリンダ圧Pmcが加圧されている状態で、万一、故障により駆動モータ50が停止し、ボールネジ軸57の戻し制御が不能となった場合でも、戻しバネ59の反力によりボールネジ軸27が初期位置に戻される。これによりマスタシリンダ圧Pmcがゼロ付近まで低下するため、ブレーキ力の引きずりの発生が防止され、この引きずりに起因して車両挙動が不安定になる事態が回避される。
また、インプットロッド6とプライマリピストン2bとの間に画成された環状空間Bには、一対のバネ6d、6eが配設されている。一対のバネ6d、6eは、その各一端がインプットロッド6に設けられたフランジ部6cに係止され、バネ6dの他端がプライマリピストン2bの隔壁2hに係止され、バネ6eの他端がプライマリピストン2bの隔壁2iに係止されている。一対のバネ6d、6eは、プライマリピストン2bに対してインプットロッド6を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢し、ブレーキ非作動時にインプットロッド6とプライマリピストン2bとを相対移動の中立位置に保持する機能を有している。また、インプットロッド6とプライマリピストン2bとが中立位置からいずれかの方向に相対変位したとき、一対のバネ6d、6eにより、プライマリピストン2bに対してインプットロッド6を中立位置に戻す付勢力が作用する。
なお、駆動モータ50には回転角検出センサ50aが設けられており、これにより検出されるモータ出力軸の位置信号がマスタシリンダ圧制御装置8に入力される。マスタシリンダ圧制御装置8は、入力された位置信号に基づき駆動モータ50の回転角を算出し、この回転角に基づき回転−並進変換装置25の推進量、すなわちプライマリピストン2bのx軸方向変位量を算出する。
また、駆動モータ50には温度センサ50bが設けられており、検出された駆動モータ50の温度情報はマスタシリンダ圧制御装置8に入力される。
[倍力制御処理]
次に、マスタシリンダ圧制御機構5とマスタシリンダ圧制御装置8による、インプットロッド6の推力の増幅作用について説明する。
マスタシリンダ圧制御機構5およびマスタシリンダ圧制御装置8は、ドライバのブレーキ操作によるインプットロッド6の変位量に応じて、プライマリピストン2bを変位させる。これによりプライマリ液室2dが、インプットロッド6の推力に加えてプライマリピストン2bの推力によって加圧され、マスタシリンダ圧Pmcが調整される。すなわちインプットロッド6の推力が増幅される。増幅比(以下、倍力比α)は、プライマリ液室2dにおけるインプットロッド6とプライマリピストン2bの軸直方向断面積(以下、それぞれ受圧面積AIRおよびAPP)の比等により、以下のように決定される。
マスタシリンダ圧Pmcの液圧調整は、下記の式(1)で示される圧力平衡関係をもって行われる。
Pmc=(FIR+K×Δx)/AIR=(FPP−K×Δx)/APP …(1)
ここで、上記圧力平衡式(1)における各要素は、以下のとおりである。
Pmc:プライマリ液室2dの液圧(マスタシリンダ圧)
FIR:インプットロッド6の推力
FPP:プライマリピストン2bの推力
AIR:インプットロッド6の受圧面積
APP:プライマリピストン2bの受圧面積
K:バネ6d、6eのバネ定数
Δx:インプットロッド6とプライマリピストン2bとの相対変位量
なお、実施形態では、インプットロッド6の受圧面積AIRは、プライマリピストン2bの受圧面積APPよりも小さく構成されている。
ここで相対変位量Δxは、インプットロッド6の変位(インプットロッドストローク)をXi、プライマリピストン2bの変位(ピストンストローク)をXbとして、Δx=Xb−Xiと定義する。よって、Δxは、相対移動の中立位置では0、インプットロッド6に対してプライマリピストン2bが前進(x軸正方向側へ変位)する方向では正符号、その逆方向では負符号となる。なお、圧力平衡式(1)ではシールの摺動抵抗を無視している。プライマリピストン2bの推力FPPは、駆動モータ50の電流値から推定できる。
一方、倍力比αは、下記式(2)のように表わされる。
α=PM/C×(APP+AIR)/FIR …(2)
よって、この式(2)に上記式(1)のPM/Cを代入すると、倍力比αは下記式(3)となる。
α=(1+K×Δx/FIR)×(AIR+APP)/AIR …(3)
倍力制御では、目標のマスタシリンダ圧特性が得られるように、駆動モータ50(ピストンストロークXb)を制御する。ここでマスタシリンダ圧特性とは、インプットロッドストロークXiに対するマスタシリンダ圧Pmcの変化の特性を指す。インプットロッドストロークXiに対するピストンストロークXbを示すストローク特性と、上記目標マスタシリンダ圧特性とに対応して、インプットロッドストロークXiに対する相対変位量Δxの変化を示す目標変位量算出特性が得られる。検証により得られた目標変位量算出特性データに基づき、相対変位量Δxの目標値(以下、目標変位量Δx*)が算出される。
すなわち、目標変位量算出特性は、インプットロッドストロークXiに対する目標変位量Δx*の変化の特性を示し、インプットロッドストロークXiに対応して1つの目標変位量Δx*が定まる。検出されたインプットロッドストロークXiに対応して決定される目標変位量Δx*を実現するように駆動モータ50の回転(ピストンストロークXb)を制御すると、目標変位量Δx*に対応する大きさのマスタシリンダ圧Pmcがマスタシリンダ2で発生する。
ここで、上記のようにインプットロッドストロークXiはブレーキ操作量検出装置7により検出され、ピストンストロークXbは回転角検出センサ50aの信号に基づき算出され、相対変位量Δxは上記検出(算出)された変位量の差により求められる。倍力制御では、具体的には、上記検出したインプットロッドストロークXiと目標変位量算出特性とに基づいて目標変位量Δx*を設定し、上記検出(算出)された相対変位量Δxが目標変位量Δx*と一致するように駆動モータ50を制御(フィードバック制御)する。なお、ピストンストロークXbを検出するストロークセンサを別途設けることとしてもよい。
このように踏力センサを用いることなく倍力制御を行った場合、その分、コストを低減できる。また、相対変位量Δxが任意の所定値となるように駆動モータ50を制御することにより、受圧面積比(AIR+APP)/AIRで定まる倍力比よりも大きな倍力比や小さな倍力比を得ることができ、所望の倍力比に基づく制動力を得ることができる。
一定倍力制御は、インプットロッド6およびプライマリピストン2bを一体的に変位させる、すなわちインプットロッド6に対してプライマリピストン2bが常に上記中立位置となり相対変位量Δx=0で変位するように、駆動モータ50を制御するものである。このようにΔx=0となるようにプライマリピストン2bを変位させた場合、上記式(3)により、倍力比αは、α=(AIR+APP)/AIRとして一意に定まる。よって、必要な倍力比に基づいてAIRおよびAPPを設定し、変位量XbがインプットロッドストロークXiに等しくなるようにプライマリピストン2bを制御することで、常に一定の(上記必要な)倍力比を得ることができる。
一定倍力制御における目標マスタシリンダ圧特性は、インプットロッド6の前進(x軸正方向側への変位)に伴い発生するマスタシリンダ圧Pmcが2次曲線、3次曲線、あるいはこれらにそれ以上の高次曲線等が複合した多次曲線(以下、これらを総称して多次曲線という)状に大きくなる。また、一定倍力制御は、インプットロッドストロークXiと同じ量だけプライマリピストン2bが変位する(Xb=Xi)ストローク特性を有している。このストローク特性と上記目標マスタシリンダ圧特性とに基づき得られる目標変位量算出特性では、あらゆるインプットロッドストロークXiに対して目標変位量Δx*が0となる。
これに対して、倍力可変制御は、目標変位量Δx*を正の所定値に設定し、相対変位量Δxがこの所定値となるように駆動モータ50を制御する。これにより、マスタシリンダ圧Pmcを増加する方向へインプットロッド6が前進移動するに従い、インプットロッド6ストロークXiに比べてピストンストロークXbが大きくなるようにするものである。上記式(3)により、倍力比αは、(1+K×Δx/FIR)倍の大きさとなる。すなわち、インプットロッドストロークXiに比例ゲイン(1+K×Δx/FIR)を乗じた量だけプライマリピストン2bを変位させることと同義となる。このようにΔxに応じて倍力比αが可変となり、マスタシリンダ圧制御機構5が倍力源として働いて、ドライバの要求通りのブレーキ力を発生させつつペダル踏力の大きな低減を図ることができる。
すなわち、制御性の観点からは上記比例ゲイン(1+K×Δx/FIR)は1であることが望ましいが、例えば緊急ブレーキ等によりドライバのブレーキ操作量を上回るブレーキ力が必要な場合には、一時的に、1を上回る値に上記比例ゲインを変更することができる。これにより、同量のブレーキ操作量でも、マスタシリンダ圧Pmcを通常時(上記比例ゲインが1の場合)に比べて引き上げることができるため、より大きなブレーキ力を発生させることができる。ここで、緊急ブレーキの判定は、例えば、ブレーキ操作量検出装置7の信号の時間変化率が所定値を上回るか否かで判定できる。
このように倍力可変制御は、インプットロッド6の前進に対してプライマリピストン2bの前進をより進め、インプットロッド6に対するプライマリピストン2bの相対変位量Δxがインプットロッド6の前進に伴い大きくなり、これに対応してインプットロッド6の前進に伴うマスタシリンダ圧Pmcの増加が一定倍力制御よりも大きくなるように駆動モータ50を制御する方法である。
倍力可変制御における目標マスタシリンダ圧特性は、インプットロッド6の前進(x軸正方向側への変位)に伴い発生するマスタシリンダ圧Pmcの増加が一定倍力制御よりも大きくなる(多次曲線状に増加するマスタシリンダ圧特性がより急峻になる)。また、倍力可変制御は、インプットロッドストロークXiの増加に対するピストンストロークXbの増加分が1よりも大きいストローク特性を有している。このストローク特性と上記目標マスタシリンダ圧特性とに基づき得られる目標変位量算出特性では、インプットロッドストロークXiが増加するに応じて目標変位量Δx*が所定の割合で増加する。
また、倍力可変制御として、上記制御、すなわち、マスタシリンダ圧Pmcを増加する方向へインプットロッド6が移動するに従い、インプットロッドストロークXiに比べてピストンストロークXbが大きくなるように駆動モータ50を制御すること、に加え、マスタシリンダ圧Pmcを増加する方向へインプットロッド6が移動するに従い、インプットロッドストロークXiに比べてピストンストロークXbが小さくなるように駆動モータ50を制御することを含めてもよい。このように1を下回る値に上記比例ゲインを変更することで、ハイブリッド車両の回生ブレーキ力分だけ液圧ブレーキを減圧する回生協調ブレーキ制御に適用することも可能である。
[流路抵抗制御処理]
続けて、ホイルシリンダ圧制御装置9による、流路抵抗制御について説明する。この流路抵抗制御では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、以下の2点を目的として、ブレーキペダルBPの踏み込みに応じてホイルシリンダ圧制御機構3の流路抵抗を増大させ、ブレーキペダルBPのフィーリングを向上させる。
まず、ブレーキペダルBPの踏み込み速度が速いほど駆動モータ50の応答遅れによってインプットロッド6に対してプライマリピストン2bが遅れて変位する。その結果、マスタシリンダ圧Pmcの昇圧が遅れ、ブレーキペダルBPの操作に対してブレーキペダル反力が遅れて立ち上がり、ブレーキペダルBPのフィーリングが悪化する。
これを防止するために、ホイルシリンダ圧制御装置9は、インプットロッド6のストローク速度ΔXiに応じてホイルシリンダ圧制御機構3の流路抵抗を増大させ、マスタシリンダ圧Pmcを昇圧させる。
次に、ブレーキペダルBPを踏み込んでいくと、駆動モータ50の出力を最大にしても、駆動モータ50によるプライマリピストン2bの推力とマスタシリンダ圧Pmcによる反力とが釣り合い、ピストンストロークXbが増加しない全負荷状態となる。この全負荷状態でブレーキペダルBPをさらに踏み込むと、インプットロッド6のみが前進してインプットロッド6のストロークXiの増分が急増し(図2参照)、ブレーキペダルBPの剛性感が低下する。
これを防止するために、ホイルシリンダ圧制御装置9は、全負荷状態となった場合は、ホイルシリンダ圧制御機構3の流路抵抗を増大させ、マスタシリンダ圧Pmcを昇圧させる。
図3は、ホイルシリンダ圧制御装置9が実行する流路抵抗制御の内容を示したフローチャートであり、ホイルシリンダ圧制御装置9によって所定時間毎に繰り返し実行される。これを参照しながら流路抵抗制御についてさらに詳しく説明する。
S11では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、インプットロッドストロークXiを読み込む。
S12では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、インプットロッドストロークXiとその前回値Xi_Zとの差分から、ストローク速度ΔXiを算出する。
S13では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、マスタシリンダ圧Pmcを読み込む。
S14では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、全負荷状態か判断する。全負荷状態かは、ブレーキペダルBPの踏み込みに対してインプットロッド6のストロークXiが非連続に変化する全負荷点を予め求めておき、マスタシリンダ圧Pmc、ブレーキペダルBPの踏力のマスタシリンダ圧換算値又はインプットロッドストロークXiが全負荷点に対応する値を超えたかに基づき判断することができる。
本実施形態では、マスタシリンダ圧Pmcが全負荷点に対応する値Pmc_FLを超えたかに基づき判断する。
全負荷状態と判断されなかった場合は処理がS15に進み、全負荷状態と判断された場合は処理がS20に進む。
S15では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、図4に示す設定マップを参照して、インプットロッドストロークXiに対して所望の目標ストローク特性及び目標マスタシリンダ圧特性が得られる目標変位量Δx*となるようなピストンストロークXbの目標値であるアシストストロークXbbaseを算出する。
この設定マップでは、目標変位量Δx*を0とした場合のインプットロッドストロークXiに対するアシストストロークXbbaseの特性を記載しているが、時間の経過に従ってブレーキ力を高めるブレーキアシスト制御、又は、回生協調ブレーキ制御の実施中は、目標変位量Δx*は0以外の値をとるため、それに応じてマップの特性も変化する。
S16では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、ストローク速度ΔXiに基づいて、ホイルシリンダ圧制御機構3の増圧弁12、13、22、23の閉弁量Vpoを算出する。図5に、ストローク速度Xiに応じた閉弁量Vpoの設定マップを示す。この設定マップでは、ストローク速度ΔXiに応じて閉弁量を0%(開弁量100%)から50%(開弁量50%)まで変化させ、ストローク速度ΔXiが高いほど閉弁量Vpoを増加させる特性としている。
このような特性とするのは、ストローク速度ΔXiが大きいほどホイルシリンダ圧制御機構3の流路抵抗を増大させてマスタシリンダ圧Pmcの昇圧を早め、ブレーキペダルBPのフィーリングを向上させるためである。
S17では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、アシストストロークXbbaseが得られるような制御指令を駆動モータ50に出力する。
S18では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、閉弁量Vpoが得られるような制御指令を、増圧弁12、13、22、23のソレノイドへ出力する。
S19では、インプットロッドストロークXiを前回値Xi_Zとして保存する。
一方、全負荷状態であるとして進んだS20では、増圧弁12、13、22、23を閉弁させるための制御指令を、増圧弁12、13、22、23のソレノイドへ出力する。
増圧弁12、13、22、23が閉弁すると、ホイルシリンダ圧制御機構3の流路抵抗が増大してマスタシリンダ圧Pmcが昇圧し、ブレーキペダルBPの剛性感が低下するのを防止することができる。
続いて、上記流路抵抗制御を行うことによる作用効果について説明する。
上記流路抵抗制御によれば、駆動モータ50の出力を最大にしても、駆動モータ50によるプライマリピストン2bの推力とマスタシリンダ圧Pmcによる反力とが釣り合い、プライマリピストン2bが停止する全負荷状態か判断され、全負荷状態と判断された場合は、増圧弁12、13、22、23が閉弁する。
これにより、ホイルシリンダ圧制御機構3の流路抵抗が増大してマスタシリンダ圧Pmcが昇圧し、図6に示すように、全負荷点前後で、マスタシリンダ圧Pmcに対してインプットロッド6のストロークXiが連続的に変化するようになる。全負荷点を超えてもインプットロッド6のストロークXiが急増することはなく、ブレーキペダルBPの剛性感の低下を防止することができる。
なお、本実施形態では、増圧弁12、13、22、23を閉弁させているが、少なくともこれらの弁の閉弁量Vpoを0%よりも大きな値に設定し、開度を減少させれば、ブレーキペダルBPの剛性感低下の防止という作用効果が奏される。
また、増圧弁12、13、22、23に代えて、アウト側ゲート弁11、21を閉弁するようにしてもよい。
<第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。
第2実施形態は、流路抵抗制御処理において全負荷状態と判断された場合の処理が第1実施形態と相違する。その他の構成は第1実施形態と同じである。以下、相違点を中心に説明する。
図7は、ホイルシリンダ圧制御装置9が実行する流路抵抗制御の内容を示したフローチャートであり、S14で全負荷状態と判断された場合に実行される処理(S21〜S23)が第1実施形態と相違する。
すなわち、全負荷状態と判断された場合は、まず、S21において、ホイルシリンダ圧制御装置9は、増圧弁12、13、22、23それぞれについて作動可能時間を算出する。作動可能時間は、増圧弁12、13、22、23の発熱量に基づき算出され、これについては後述する。
次に、S22において、ホイルシリンダ圧制御装置9は、作動可能時間に基づき、作動弁を決定する。作動弁は、万一誤動作した場合にヨーモーメントが打ち消されるように、まず、対角線上にあるFL輪及びRR輪への作動液の供給を制御する増圧弁12、13に決定される。
その後、増圧弁12、13の作動時間がS21で算出される作動可能時間に達したら、作動弁が、同じく対角線上にあるFR輪及びRL輪への作動液の供給を制御する増圧弁22、23に決定される。
以後、作動弁がその作動可能時間に達したタイミングで、作動弁が増圧弁12、13及び増圧弁22、23のいずれかに設定される。作動弁の決定処理の詳細については後述する。
そして、S23において、ホイルシリンダ圧制御装置9は、S22で決定された作動弁を閉弁させるための制御指令を、作動弁のソレノイドへ出力する。
図8は、S21における作動可能時間算出処理の内容を示したフローチャートである。本処理は、ホイルシリンダ圧制御装置9において、増圧弁12、13、22、23それぞれについて実行される。
これによると、まず、S211では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、マスタシリンダ圧Pmcとホイルシリンダ圧Pwcとの差圧を算出する。
マスタシリンダ圧Pmcはマスタシリンダ圧センサ3a、3bによって検出される値である。また、ホイルシリンダ圧Pwcは、算出対象の増圧弁が作動液の供給を制御するホイルシリンダの液圧であり、ホイルシリンダに送り込まれた作動液の液量(マスタシリンダ圧Pmcと算出対象の増圧弁の開弁時間から算出可能)に基づき、既知の液量−液圧マップを参照することによって推定することができる。
S212では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、マスタシリンダ圧Pmcとホイルシリンダ圧Pwcとの差圧に応じて算出対象の増圧弁の通電量Iを決定し、算出対象の増圧弁の抵抗Rと通電量Iとに基づき次式:
発熱量P=R×I2
によって算出対象の増圧弁の発熱量Pを算出する。
S213では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、算出対象の増圧弁の発熱量Pに基づき、算出対象の増圧弁があと何秒でその上限温度(動作が保証される温度の上限)に達するかを算出し、算出された時間を熱的上限作動時間とする。
S214では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、熱的上限作動時間から最大ABS作動時間を減じて、作動可能時間を算出する。最大ABS作動時間は、最高速から車両停止までABSを連続して作動させた場合のABSの作動時間である。熱的上限作動時間から最大ABS作動時間を減じた値を作動可能時間とすることで、流路抵抗制御処理によって増圧弁12、13、22、23の温度が上昇したとしても、ABSを車両停止まで動作させるだけの温度余裕代が確保される。
図9は、図8の処理によって算出される作動可能時間を図示したものである。増圧弁12、13、22、23の発熱量は、マスタシリンダ圧Pmcとホイルシリンダ圧Pwcとの差圧が大きくなるほど多くなるので、熱的上限作動時間は差圧が大きくなるほど短くなる。
作動可能時間は、このような傾向を有する熱的上限作動時間から最大ABS作動時間を引いた値であり、マスタシリンダ圧Pmcとホイルシリンダ圧Pwcとの差圧がある値よりも大きくなると作動可能時間は0になる。
図10は、S22における作動弁決定処理の内容を示したフローチャートである。本処理は、ホイルシリンダ圧制御装置9において実行される。
まず、S221では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、作動弁が増圧弁12、13及び増圧弁22、23のいずれであるか判断する。作動弁が増圧弁12、13の場合は処理がS222に進み、増圧弁22、23の場合は処理がS225に進む。なお、作動弁の初期値は増圧弁12、13である。
S222では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、増圧弁12、13の作動時間がその作動可能時間よりも短いか判断する。作動可能時間よりも短い場合は、ホイルシリンダ圧制御装置9は、作動弁を引き続き増圧弁12、13に決定し(S223)、そうでない場合は、ホイルシリンダ圧制御装置9は、作動弁を増圧弁22、23に決定し、作動弁を増圧弁12、13から増圧弁22、23に切り替える(S224)。
同様に、S225では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、増圧弁22、23の作動時間がその作動可能時間よりも短いか判断する。作動可能時間よりも短い場合は、ホイルシリンダ圧制御装置9は、作動弁を引き続き増圧弁22、23に決定し(S226)、そうでない場合は、ホイルシリンダ圧制御装置9は、作動弁を増圧弁12、13に決定し、作動弁を増圧弁22、23から増圧弁12、13に切り替える(S227)。
以上の処理により、作動可能時間に応じて、作動弁が増圧弁12、13及び増圧弁22、23のいずれかに決定される。
第2実施形態の作用効果について説明する。
第2実施形態によれば、全負荷状態になると、図11に示すように、増圧弁12、13及び増圧弁22、23のいずれかが閉弁される。
これにより、第1実施形態と同じく、ホイルシリンダ圧制御機構3の流路抵抗が増大してマスタシリンダ圧Pmcが昇圧するので、全負荷点を超えてもインプットロッド6のストロークXiが急増することはなく、ブレーキペダルBPの剛性感の低下を防止することができる。
また、第2実施形態では、発熱量に基づき算出される作動可能時間に応じて増圧弁12、13及び増圧弁22、23が交互に閉弁されるので、増圧弁12、13、22、23の過熱が抑えられ、過熱による増圧弁12、13、22、23の損傷を防止することができる。
なお、第2実施形態では、増圧弁12、13、22、23を閉弁させているが、少なくともこれらの弁の閉弁量Vpoを0%よりも大きな値に設定し、開度を減少させれば、ブレーキペダルBPの剛性感低下の防止という作用効果が奏される。
<第3実施形態>
続いて、本発明の第3実施形態について説明する。
第3実施形態は、第2実施形態を一部変形したものである。流路抵抗制御の内容は図7に示した第2実施形態のものと同じであるが、全負荷状態と判断された場合に閉弁される弁が増圧弁12、13、22、23、及び、増圧弁12、13、22、23よりもマスタシリンダ2側に設けられるアウト側ゲート弁11、21のいずれかである点が第2実施形態と相違する。以下、第2実施形態との相違点を中心に説明する。
図7のS21では、第3実施形態では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、増圧弁12、13、22、23及びアウト側ゲート弁11、21それぞれについて作動可能時間を算出する。作動可能時間は、増圧弁12、13、22、23及びアウト側ゲート弁11、21の発熱量に基づき算出され、その算出方法はアウト側ゲート弁11、21の作動可能時間も含め、第2実施形態と同じである。
次に、S22において、ホイルシリンダ圧制御装置9は、作動可能時間に基づき、作動弁を決定する。作動弁は、まず、増圧弁12、13、22、23に決定される。
その後、増圧弁12、13、22、23の作動時間がS21で算出される作動可能時間に達したら、作動弁がアウト側ゲート弁11、21に決定される。
以後、作動弁がその作動可能時間に達したタイミングで、作動弁が増圧弁12、13、22、23及びアウト側ゲート弁11、21のいずれかに設定される。
そして、S23において、ホイルシリンダ圧制御装置9は、S22で決定された作動弁を閉弁する。
図12は、S22における作動弁決定処理の内容を示したフローチャートである。本処理は、ホイルシリンダ圧制御装置9において実行される。
まず、S321では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、作動弁が増圧弁12、13、22、23及びアウト側ゲート弁11、21のいずれであるか判断する。作動弁が増圧弁12、13、22、23の場合は処理がS322に進み、アウト側ゲート弁11、21の場合は処理がS325に進む。なお、作動弁の初期値は作動弁が増圧弁12、13、22、23である。
S322では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、増圧弁12、13、22、23の作動時間がその作動可能時間よりも短いか判断する。作動可能時間よりも短い場合は、ホイルシリンダ圧制御装置9は、作動弁を引き続き増圧弁12、13、22、23に決定し(S323)、そうでない場合は、ホイルシリンダ圧制御装置9は、作動弁をアウト側ゲート弁11、21に決定し、作動弁を増圧弁12、13、22、23からアウト側ゲート弁11、21に切り替える(S324)。
同様に、S325では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、アウト側ゲート弁11、21の作動時間がその作動可能時間よりも短いか判断する。作動可能時間よりも短い場合は、ホイルシリンダ圧制御装置9は、作動弁を引き続きアウト側ゲート弁11、21に決定し(S326)、そうでない場合は、ホイルシリンダ圧制御装置9は、作動弁を増圧弁12、13、22、23に決定し、作動弁をアウト側ゲート弁11、21から増圧弁12、13、22、23に切り替える(S327)。
以上の処理により、作動可能時間に応じて、作動弁が増圧弁12、13、22、23及びアウト側ゲート弁11、21のいずれかに決定される。
第3実施形態の作用効果について説明する。
第3実施形態によれば、全負荷状態になると、図13に示すように、増圧弁12、13、22、23及びアウト側ゲート弁11、21のいずれかが閉弁される。
これにより、第1実施形態と同じく、ホイルシリンダ圧制御機構3の流路抵抗が増大してマスタシリンダ圧Pmcが昇圧するので、全負荷点を超えてもインプットロッド6のストロークXiが急増することはなく、ブレーキペダルBPの剛性感の低下を防止することができる。
また、第3実施形態では、発熱量に基づき算出される作動可能時間に応じて増圧弁12、13、22、23及びアウト側ゲート弁11、21が交互に閉弁される。これにより、増圧弁12、13、22、23及びアウト側ゲート弁11、21の過熱が抑えられ、過熱による増圧弁12、13、22、23及びアウト側ゲート弁11、21の損傷を防止することができる。
また、増圧弁12、13、22、23とアウト側ゲート弁11、21との間での切り替えは、同圧(差圧がない)ライン上の弁である増圧弁12、13とアウト側ゲート弁11との切り替えと、同じく同圧ライン上の弁である増圧弁22、23とアウト側ゲート弁21との切り替えとで構成され、切り替え前後でマスタシリンダ圧Pmcが変動しない。これにより、切り替え時にブレーキペダルBPのフィーリングが悪化するのを防止することができる。
なお、第3実施形態では、増圧弁12、13、22、23及びアウト側ゲート弁11、21を閉弁させているが、少なくともこれらの弁の閉弁量Vpoを0%よりも大きな値に設定し、開度を減少させれば、ブレーキペダルBPの剛性感低下の防止という作用効果が奏される。
また、第3実施形態では、増圧弁12、13、22、23をアウト側ゲート弁11、21に先行して閉弁しているが、順序を逆にし、アウト側ゲート弁11、21を増圧弁12、13、22、23に先行して閉弁してもよい。
<第4実施形態>
続いて、本発明の第4実施形態について説明する。
第4実施形態は、流路抵抗制御処理において全負荷状態と判断された場合の処理が第1実施形態と相違する。その他の構成は第1実施形態と同じである。以下、相違点を中心に説明する。
なお、第4実施形態の前提として、リヤ側のホイルシリンダ4c、dcの容量がフロント側のホイルシリンダ4a、4bの容量よりも小さく、増圧弁13、23(リヤ側増圧弁)の方が増圧弁12、22(フロント側増圧弁)よりも弁を流れる作動液の流量が少ないとする。
図14は、ホイルシリンダ圧制御装置9が実行する流路抵抗制御の内容を示したフローチャートであり、S14で全負荷状態と判断された場合に実行される処理(S41、S42)が第1実施形態と相違する。
すなわち、全負荷状態と判断された場合は、ホイルシリンダ圧制御装置9は、まず、S41において、全負荷状態と判断されてからの経過時間に基づき作動弁を決定する。作動弁は、経過時間が所定の切り替え時間に達するまでは、RR輪及びRL輪への作動液の供給を制御する増圧弁13、23(リヤ側増圧弁)に決定され、経過時間が所定の切り替え時間に達した後は、全ての増圧弁12、13、22、23(フロント側+リヤ側増圧弁)に決定される。これについては後述する。
そして、S42において、ホイルシリンダ圧制御装置9は、S41で決定された作動弁を閉弁させるための制御指令を、作動弁のソレノイドへ出力する。
図15は、S41における作動弁決定処理の内容を示したフローチャートである。
これによると、まず、S411では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、インプットロッド6のストローク速度ΔXiに基づき、図16に示すマップを参照して切り替え時間を設定する。切り替え時間は、所定のストローク速度ΔXiまでは一定値を取り、所定のストローク速度ΔXiを超えると0に設定される。なお、S411の処理は、S14で全負荷状態と判断されて、処理が初めてS411に進んだ場合にのみ実行される。
S412では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、S14で全負荷状態と判断されてからの経過時間と切り替え時間とを比較する。経過時間が切り替え時間未満の場合は処理がS413に進み、切り替え時間以上の場合は処理がS414に進む。
S413では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、作動弁を、増圧弁13、23(リヤ側増圧弁)に決定する。
S414では、ホイルシリンダ圧制御装置9は、作動弁を、全ての増圧弁12、13、22、23(フロント側+リヤ側増圧弁)に決定する。
以上の処理により、全負荷状態と判断されてからの経過時間に応じて、作動弁が増圧弁13、23(リヤ側増圧弁)又は増圧弁12、13、22、23(フロント側+リヤ側増圧弁)に決定される。
第4実施形態の作用効果について説明する。
第4実施形態によれば、全負荷状態になると、図17に示すように、全負荷状態からの経過時間に応じて、増圧弁13、23(リヤ側増圧弁)、増圧弁12、13、22、23(フロント側+リヤ側増圧弁)の順に閉弁する。
これにより、第1実施形態と同じく、ホイルシリンダ圧制御機構3の流路抵抗が増大してマスタシリンダ圧Pmcが昇圧するので、全負荷点を超えてもインプットロッド6のストロークXiが急増することはなく、ブレーキペダルBPの剛性感の低下を防止することができる。
また、弁を流れる作動液の流量は、増圧弁12、22(フロント側増圧弁)よりも増圧弁13、23(リヤ側増圧弁)の方が少なく、閉弁時のマスタシリンダ圧Pmcの昇圧効果(及びそれによるブレーキペダルBPの反力の増大)も増圧弁13、23(リヤ側増圧弁)の方が小さい。
第4実施形態では、増圧弁13、23(リヤ側増圧弁)を先行して閉弁するので、ブレーキペダルBPの剛性感を緩やかに増大させることができ、剛性感が急激に高まることによる違和感を防止することができる。
また、ブレーキペダルBPの踏み込み速度(インプットロッド6のストローク速度ΔXi)が高い場合は、所定の切り替え時間を0にしたので、全ての増圧弁12、13、22、23(フロント側+リヤ側増圧弁)が直ちに閉弁する。
これにより、ブレーキペダルBPの踏み込み速度が高い場合は、速やかにマスタシリンダ圧Pmcを昇圧し、ブレーキペダルBPの剛性感が不足するのを防止することができる。
なお、第4実施形態では、増圧弁12、13、22、23を閉弁させているが、少なくともこれらの弁の閉弁量Vpoを0%よりも大きな値に設定し、開度を減少させれば、ブレーキペダルBPの剛性感低下の防止という作用効果が奏される。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的に限定する趣旨ではない。
例えば、全負荷状態と判断されてホイルシリンダ圧制御機構3の流路抵抗を増大する場合に制御する弁として、増圧弁12、13、22、23及びアウト側ゲート弁11、21を挙げたが、これらに限定されず、ホイルシリンダ圧制御機構3の流路抵抗を増大させるための弁を別途設けて、当該弁を制御するようにしてもよい。
また、そのような弁が設けられる位置は、ホイルシリンダ圧制御機構3に限定されず、マスタシリンダ2とホイルシリンダ圧制御機構3とを接続するブレーキ回路10、20に設けられていてもよい。
また、上記実施形態は、倍力装置がプライマリピストン2bと駆動モータ50とで構成されるが、倍力装置の構成はこれに限定されず、例えば、空気圧(負圧)や油圧を利用する倍力装置としてもよい。