以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態になる固定クリップを示す平面図である。図2は同実施形態の固定クリップを示す底面図である。図3は同実施形態の固定クリップを示す右側面図であり、図4は同実施形態の固定クリップを示す左側面図であり、図3および図4は固定クリップの側方からみた状態を表す。図5は同実施形態の固定クリップを示す正面図であり、固定クリップの先端縁側からみた状態を表す。図6は同実施形態の固定クリップを示す背面図であり、固定クリップの基端縁側からみた状態を表す。
図7および図8は、同実施形態の固定クリップを建築部材の縁部に取り付けた状態を示す。具体的には、図7は同実施形態の固定クリップがボルトを建築部材に仮固定した状態を示す平面図である。図8は同実施形態の固定クリップがボルトを建築部材に仮固定した状態を示す側面図であり、(a)が厚みt1の建築部材を示し、(b)が厚みt2の建築部材を示し、(c)が厚みt3の建築部材を示し、(d)が厚みt4の建築部材を示し、(e)が厚みt5の建築部材を示す。これら5種類の建築部材の厚みの関係は、t1<t2<t3<t4<t5である。
図9〜図11は、同実施形態の固定クリップを建築部材の縁部に取り付ける工程を説明するための図である。具体的には、図9は、建築部材にボルトを挿入した状態を示し、(a)は平面図であり、(b)は(a)における矢印IX(b)から見たときの側面図である。図10は、建築部材の縁部に同実施形態のクリップを取り付けた状態、つまり同実施形態の固定クリップがボルトを建築部材に仮固定した状態を示し、(a)は平面図であり、(b)は(a)における矢印X(b)から見たときの側面図である。図11は、建築部材に仮固定されたボルトにナットを締める状態を示し、(a)は平面図であり、(b)は(a)における矢印XI(b)から見たときの側面図である。
図12〜図18は、同実施形態の固定クリップを梁の直交部分などの建築部材に取り付ける工程を説明するための図である。具体的には、図12は、同実施形態の固定クリップを取り付ける梁の直交部分などの建築部材を示す平面図である。図13は、同実施形態の固定クリップを切断線で分離して、ボルトを挿入する工程を説明するための図であり、(a)が分離前の同実施形態の固定クリップを示す側面図であり、(b)が分離後の同実施形態の固定クリップの第1プレート部における切り欠きを含む領域を示す側面図であり、(c)および(d)が分離後の同実施形態の固定クリップの第2プレート部および一対の壁部を含む本体部を示す側面図であり、(e)が第2プレートの貫通穴にボルトの軸部が挿入されて一対の壁部でボルトの頭部を支持している本体部を示す側面図、つまり、分離後の同実施形態の固定クリップにボルトを挿入した状態を示す側面図である。図14は、ボルトを挿入した固定クリップを梁の直交部分などの建築部材に取り付ける前の状態を示し、図12における矢印XIVから固定クリップを見たときの側面図である。図15は、同実施形態の固定クリップの第2プレート部の貫通穴に挿入したボルトを建築部材のボルト穴に挿入した状態を示し、(a)は平面図であり、(b)は(a)における矢印XV(b)から固定クリップを見たときの側面図である。図16は、同実施形態の固定クリップを建築部材に取り付ける前の状態を示す平面図である。図17は、同実施形態の固定クリップを建築部材に取り付けた状態、つまり同実施形態の固定クリップがボルトを建築部材に仮固定した状態を示し、(a)は平面図であり、(b)は(a)における矢印XVII(b)から固定クリップを見たときの側面図である。図18は、建築部材に仮固定されたボルトにナットを締める状態を示し、(a)は平面図であり、(b)は(a)における矢印XVIII(b)から固定クリップを見たときの側面図である。
本実施の形態の固定クリップ10は、形鋼のフランジ部や鋼板といった建築部材にボルトを仮固定するための固定クリップである。固定クリップ10は、図1〜図18に示すように、第1プレート部11と、第2プレート部12と、第3プレート部13と、壁部15と、拡大壁部16とを備えている。第1プレート部11および第2プレート部12は、間隔をあけて互いに対向する。第3プレート部13は、第1および第2プレート部11、12の基端縁11s、12s(自由端と逆側の端縁)同士を接続する。一対の壁部15は、第2プレート部12の両側縁から立ち上がり第1プレート部11に向かって突出する。拡大壁部16は、一対の壁部15のうち第2プレート部12の先端縁12t側の縁部にそれぞれ延設されて第3プレート部13から離れる方向に延びる。
図3および図4に示すように、固定クリップ10の第1〜第3プレート部11〜13は側方からみてコ字状である。なお図に示さなかったが、第1〜第3プレート部11〜13は側方からみてU字状であってもよいし、あるいは他の形状であってもよく、建築部材をクリップとして挟む形状であればよい。
図1に示すように、第1プレート部11には、ボルトBの軸部Sが挿入可能な切り欠き14が形成されている。切り欠き14は、第1プレート部11の先端縁11t(自由端側の端縁)から第3プレート部13に向かって切り欠かれており、先端縁11tと基端縁11sとの間の第1プレート部11の中央領域まで延びている。切り欠き14の一方側縁と他方側縁とは、平行に延びている。
切り欠き14は、図7、図8および図17に示すようにボルトBの軸部Sを通され、軸部Sは切り欠き14と略直交する。ボルトBの軸部Sを支持する観点から、切り欠き14は、ボルトBの軸部Sに形成された雄ねじのねじ山における直径よりも小さく、雄ねじのねじ溝における直径よりも大きな幅寸法を有するよう形成されている。
図1〜図4、図7〜図11および図13に示すように、第1プレート部11には、切り欠き14よりも基端縁11s側であって、基端縁11sから間隔を隔てて設けられ、切り欠き14を含む領域を分離可能にするための切断線11cがさらに形成されている。本実施の形態の切断線11cは、基端縁11s近傍であって、基端縁11sと平行に延びている。なお、切断線11cは、直線であってもよく、波線などの曲線であってもよい。切断線11cは、第1プレート部11における他の領域よりも強度が弱く、例えば、有底溝である。このため、切断線11cに力を加えると、切り欠き14を含む領域を切断線11cで分離することができる。
第2プレート部12は、本実施の形態では、図3および図4に示すように、基端縁12s側から先端縁12t側に向かうほど第1プレート部11に近づくよう斜めに延びている。第2プレート部12は、例えば、板バネである。
なお、第1プレート部11および第2プレート部12は互いに略平行であってもよい。この場合、第2プレート部12を板バネのように弾性変形させて、第1および第2プレート部11、12間の間隔を大きくすることが可能である。あるいは建築部材の厚み毎に適正な間隔の固定クリップを準備してもよい。
図1および図2に示すように、第2プレート部12は、少なくとも切り欠き14の奥側(基端縁11s側)を覆う。第2プレート部12は、第2プレート部12を第1プレート部11に投影したときに、切り欠き14の全体を覆ってもよく、切り欠き14の一部を覆ってもよい。本実施の形態では、第2プレート部12は、切り欠き14のほぼ全体を覆っている。
図1、図2、図5および図13(e)に示すように、第2プレート部12には、ボルトBの軸部Sが挿入可能な貫通穴12hが形成されている。貫通穴12hは、ボルトBの軸部Sの径よりも大きく、ボルトBの頭部Hの径よりも小さい径を有している。
第3プレート部13は、平面であってもよく、曲面であってもよい。第3プレート部13が曲面である場合には、第1および第2プレート部11、12と反対側に凸形状となることが好ましい。
図3、図4、図7〜図11、図13〜図18に示すように、一対の壁部15は、第2プレート部12の両側縁から立ち上がり第1プレート部11に向かって突出する。本実施の形態の一対の壁部15は、第2プレート部12の基端縁12sから先端縁12tまで延在する。一対の壁部15は、図7に破線で示すように、互いに略平行な厚み一定の平板である。一対の壁部15は、図7、図8図13(e)および図17(b)に示すようにボルトBの頭部Hを受け入れる。そして、頭部Hの平行な2辺が、一対の壁部15とそれぞれ僅かな隙間を介して対面する。これにより一対の壁部15はボルトBを支持する。具体的には、図7および図8に示すように建築部材の縁部に固定クリップが取り付けられるときには、一対の壁部15によりボルトBの頭部Hを回り止めする。図17および図18に示すように固定クリップ10を梁の直交部分などの建築部材に取り付ける場合には、図13(e)に示す状態では一対の壁部15はボルトBの頭部Hを支持し、図18に示すようにナットNを締める際には一対の壁部15は固定クリップ10を回り止めする。
一対の壁部15は互いに略平行であるが、図7に破線で示すように、先端縁側の間隔が基端縁側の間隔よりも僅かに大きくされてもよい。これにより、建築部材の縁部に固定クリップ10を取り付ける場合、頭部Hの平行な2辺の距離がボルトB毎に異なる場合であっても、頭部Hを回り止めすることができる。
一対の壁部15の立ち上がり高さは、図3および図4に示すように、第2プレート部12の先端縁12t側から基端縁12s側に向かうほど高くなり途中から低くなるよう、円弧状に形成される。つまり、第2プレート部12の側縁から壁部15の上縁までの立ち上がり高さは、第2プレート部12の先端縁12tから基端縁12sに向かうほど高くなり途中から低くなるよう、円弧状に膨出して形成される。このように、壁部15の上縁は、図3に矢で示すように、第2プレート部12よりも下方の点を中心とする半径Rの円弧である。
なお、第2プレート部12から立ち上がる一対の壁部15の立ち上がり高さは特に限定されず、一対の壁部15の立ち上がり高さは一定であってもよい。この場合、第2プレート部12の傾斜に倣って一対の壁部15が斜めに連続してしまうので、固定クリップ10を建築部材の縁部に取り付ける際に、一対の壁部15のうち第3プレート部13から最も遠い箇所のみが建築部材に当接する場合がある。そうすると一対の壁部15がボルトの頭部を適正に回り止めできない虞がある。あるいは板バネである第2プレート部12の弾性変形によって、第2プレート部12がその基端縁12s側を中心として回動し、第2プレート部12の先端縁12t側が第1プレート部11から遠ざかる場合、上述した状態とは反対に、一対の壁部15のうち第3プレート部13に最も近い箇所のみが建築部材に当接する場合がある。そうするとやはり、一対の壁部15がボルトの頭部を適正に回り止めできない虞がある。このため、一対の壁部15の立ち上がり高さは、第2プレート部12の先端縁12t側から基端縁11s側に向かうほど高くなり途中から低くなるよう、円弧状に形成されることが好ましい。
一対の壁部15間はボルトBの頭部Hを受け入れるための空間を画成する。そして、一対の壁部15によって区画される空間は第1および第2プレート部11、12の先端縁11t、12t側に向かって開口する。図7および図8に示すように建築部材Iの縁部に固定クリップ10を取り付ける場合には、ボルトBの頭部Hは第1および第2プレート部11、12の先端縁11t、12t側から一対の壁部15間に容易に入ることができる。
ボルトBの頭部Hを一対の壁部15間により容易に入れる観点から、図2〜図5、図7および図8に示すように、一対の壁部15のうち第2プレート部12の先端縁12t側の縁部にそれぞれ延設されて第3プレート部13から離れる方向に延び、当該離れるほど間隔が大きくなる一対の拡大壁部16が設けられている。建築部材Iの縁部に固定クリップ10を取り付ける場合、一対の拡大壁部16が第1および第2プレート部11、12の先端縁11t、12t側から入ってくるボルトBの頭部Hを受け入れる。これにより、ボルトBが通された建築部材の縁部に本実施の形態の固定クリップ10を一層容易に差し込むことができ、施工現場での施工効率が益々向上する。
このような固定クリップ10は、金属板、好ましくはステンレス板を打抜き、これを各箇所で曲げ加工して形成される。各部は、例えば、それぞれ厚み一定の平板である。したがって、第1〜第3プレート部11〜13と、一対の壁部15と、一対の拡大壁部16とは、それぞれ厚み一定の平板であり、板バネのように弾性変形が可能である。
なお、第2プレート部自身が板バネである実施形態の他、本発明の他の実施形態として、第2プレート部12に設けられて、一対の壁部15間に配置されるボルトBの頭部Hを第1プレート部11に向かって付勢する付勢手段をさらに備えていてもよい。かかる実施形態によっても、ボルトBの頭部Hを建築部材Iに押し当てることができ、ボルトBを建築部材Iに仮固定することができる。付勢手段は、第1プレート部11と向き合う第2プレート部12の対向面に予め設けられたバネや弾性体である。
続いて、本実施の形態の固定クリップ10を用いて建築部材にボルトを仮固定する方法、及び本実施の形態の固定クリップ10を建築部材に取り付ける方法について説明する。
最初に、主に図7〜図11を参照して、固定クリップ10を建築部材Iの縁部に取り付ける場合について説明する。図9〜図11に示すように、建築部材Iは、H形鋼であって、水平に延びるフランジFと、このフランジFと交差して垂直に延びるウエブWとを備えている。建築部材Iの上面または下面には図示しない被固定部材(例えば柱の接合プレート)が載置されている。
まず、図9(a)および(b)に示すように、ボルトBを建築部材Iおよび被固定部材に通す。ボルトBは、頭部Hを下にし、軸部Sを上にして、下方から建築部材Iのボルト穴Ihに通される。この状態では、作業者の手等でボルトBを支えなければ、ボルトBはボルト穴Ihから抜け出し脱落してしまう。
次いで、図10(a)および(b)に示すように、固定クリップ10の第1プレート部11がフランジFの上面の上に位置し、第2プレート部12がフランジFの下面の下に位置するように、フランジFの縁部Ieを第1および第2プレート部11、12で挟み込む。このとき、第2プレート部12に設けられた一対の壁部15は、板ばねの役目を果たす第2プレート部12の付勢力によって、固定クリップ10が建築部材Iから容易に外れることはない。このようにして、固定クリップ10の第1プレート部11と第2プレート部12との間にフランジFを受け入れる。
この工程を実施することにより、建築部材Iに取り付けられた固定クリップ10とボルトBとが互いに係合するため、ボルトBは抜け出すことなく、建築部材Iに仮固定される。したがって、柱材や梁材といった建築部材IにボルトBを容易に仮固定することができる。また一対の壁部15は、ボルトBの頭部Hを支持するので、頭部Hの回転を規制する。
本実施の形態では、切り欠き14の幅寸法が、ボルトBの軸部Sに形成された雄ねじのねじ山における直径よりも小さく、軸部S外周面の雄ねじのねじ溝における直径よりも大きい関係にある。このため、軸部Sが切り欠き14に係合し、ボルトBが落下する虞がない。そしてボルトBの頭部Hを建築部材Iの下面に接触ないし近接させることができる。
また第2プレート部12は、基端縁12sから先端縁12tに向かうほど第1プレート部11に近づくよう斜めに延び、第3プレート部13に対して弾性変形する板バネを構成する。本実施の形態の原形の固定クリップ10において、先端縁12tと第1プレート部11との間隔は、図8(a)に示す厚みt1よりも小さく形成されている。したがって固定クリップ10は、第1プレート部11と第2プレート部12との間隔が大きくなるよう弾性変形して図8(a)(b)および図10に示す建築部材Iを挟むことができる。
第2プレート部12は、基端縁12sから先端縁12tに向かうほど第1プレート部11に近づくよう斜めに延びる。そして基端縁12sを含む箇所が弾性変形して、第2プレート部12は第1プレート部11から離れる方向に回動可能である。これにより図8(a)〜(e)に示すように、固定クリップ10は様々な厚みの建築部材Iを挟むことができる。即ち固定クリップ10の側方からみて第2プレート部12が傾斜して延びることから、第2プレート部12の先端縁12tと第1プレート部11との間隔が狭く設定される。したがって建築部材Iの厚みが小さい場合であっても、図8(a)〜(c)に示すように、建築部材Iの縁部を第1および第2プレート部11、12で挟むことができる。また建築部材Iの厚みが大きい場合であっても、第1プレート部11と第2プレート部12との間隔が大きくなるように弾性変形して、図8(d)〜(e)に示すように建築部材Iの縁部を第1および第2プレート部11、12で挟むことができる。このとき壁部15の上縁が建築部材Iの下面に当接する。また第1プレート部11の下面が建築部材Iの上面に接触する。
なお固定クリップ10は、水平な建築部材Iの縁部Ieを挟むことができる他、弾性変形の作用によって、垂直な建築部材や傾斜した建築部材の縁部を挟むことができる。
また第2プレート部12の側縁から壁部15の上縁までの立ち上がり高さは、図3および図4に示すように、第2プレート部12の先端縁12tから基端縁12sに向かうほど高くなり途中から低くなるよう、円弧状に膨出して形成される。つまり壁部15の上縁は、図3に矢で示すように、第2プレート部12よりも下方の点を中心とする半径Rの円弧である。これにより図8(a)〜(e)に示すように、第2プレート部12が基端縁12sを中心として下方に回動しても、第2プレート部12の先端縁12tと基端縁12sとの間に位置する一対の壁部15の中央領域が建築部材Iの下面に当接する。したがって、先端縁12tと基端縁12sとの間に位置する一対の壁部15の中央領域が必ず頭部Hの平行な2辺と対向して、ボルトBを確実に回り止めすることができる。
各壁部15に附設された各拡大壁部16は、一対の壁部15のうち第2プレート部12の先端縁12t側の縁部にそれぞれ延設されて、第3プレート部13から離れる方向に延び、当該離れるほど図2に示すように間隔が大きくなるよう対をなす。これにより、頭部Hが第2プレート部12の先端縁12t側から近づいてくると、一対の拡大壁部16が頭部Hを捕捉し、一対の壁部15の間に頭部Hを送り込む。したがって本実施形態によれば、頭部Hを一対の壁部15の間に容易に設置することができる。
図3および図4に示すように、各拡大壁部16の上縁は、各壁部15の上縁と連続しており、拡大壁部16および壁部15が共通する円弧状の縁を構成する。こうして拡大壁部16の立ち上がり高さは、先端縁11t側に向かうほど小さくされる。これにより図8(a)に示すように建築部材I(フランジF)の厚みが特に小さい場合であっても、各拡大壁部16が建築部材Iの下面と当接せず、壁部15の中央領域が建築部材Iの下面と当接する。そして頭部Hの平行な2辺と対向して、頭部Hの回転を確実に規制することができる。
上述したように、固定クリップ10は、厚みt1〜t5といった様々な厚みの建築部材Iの縁部Ieを挟むことができる。ここで付言すると第2プレート部12は先端縁12tに向かうほど第1プレート部11との間隔が小さくなる。このため、固定クリップ10を小さな厚みt1の建築部材Iに差し込む際、一対の壁部15と建築部材Iの下面と先端縁12tで区画される先端側開口が小さくなる虞がある。しかし本実施形態によれば図5に示すように、各拡大壁部16は壁部15に接続するが、第2プレート部12に接続しない。これにより、拡大壁部16を備えても先端側開口が小さくなることを回避して、頭部Hを受け入れ易くすることができる。
次に、図11(a)および(b)に示すように、ボルトBの軸部SにナットNを締め込む。この際、一対の壁部15により、仮固定されたボルトBが共回りすることはない。この工程を実施することにより、ボルトBを建築部材Iおよび被固定部材に通して、両者をボルトBおよびナットNで連結固定できる。
上記工程によって、固定クリップ10を建築部材Iの縁部Ieに取り付けることができるとともに、この固定クリップ10を用いて建築部材IにボルトBを仮固定できる。形鋼のフランジ部や鋼板といった建築部材Iのボルト穴IhにボルトBを通し、ボルトBが通された建築部材Iに本実施の形態の固定クリップ10を差し込むだけで、該ボルトBの頭部Hを回り止めすることができる。したがって、作業者はボルトBの頭部Hを押えなくても、ナットNのみを締め付け方向に回転させるとよく、ナットNおよびボルトBの締付作業が省力化される。また作業者は本実施の形態の固定クリップ10を建築部材IのフランジFに差し込むだけでよいから、固定クリップの取り扱いが従来よりも省力化される。したがって従来のクリップ類のような煩雑な作業を要することがなく、施工効率を向上させることができる。この固定クリップ10を採用することにより、柱材の四方から梁材がそれぞれ延びる柱梁接合構造のように、形鋼のフランジ部同士が重なり合ってボルトBの頭部HおよびナットNの双方を押えることが物理的に不可能な場合であっても、締付作業の際のボルトBの共回りを防止することができる。
続いて、主に図12〜図18を参照して、固定クリップ10を梁の直交部分に取り付ける場合について説明する。なお梁の直交部分とは、図12に示すように、大梁などの建築部材Iと、建築部材Iの側面に配置された小梁などの建築部材(被固定部材J)とが直交する部分である。建築部材Iおよび被固定部材Jのそれぞれは、H形鋼であって、水平に延びるフランジFと、このフランジFと交差して垂直に延びるウエブWとを備えている。本実施の形態では、建築部材Iの下面に、建築部材Iと直交する被固定部材Jが配置され、フランジF同士が直交している。なお、図14、図15(b)、図17(b)および図18(b)においては、被固定部材Jは図示されていない。また、図14、図15(b)、図17(b)および図18(b)においては、建築部材Iは、図9の矢印IX(b)と同じ方向から見たときの状態を示し、固定クリップは、側面から見たときの状態(図14においては図12における矢印XIVから見たときの状態、図15(b)においては図15(a)における矢印XV(b)から見たときの状態、図17(b)においては図17(a)における矢印XVII(b)から見たときの状態、図18(b)においては図18(a)における矢印XVIII(b)から見たときの状態)を示す。
まず、図13(a)に示すように、固定クリップ10を第1プレート部11が上方に位置し第2プレート部12が下方に位置するように配置した状態で、固定クリップ10の第1プレート部11における切り欠きを含む領域11rを上方に移動して、切断線11cで切断されることにより、固定クリップ10から領域11rを分離する。これにより、固定クリップ10は、図13(b)に示す切り欠き14を含む領域11rと、図13(c)に示す第2プレート部12および一対の壁部15を含む本体部10rとに分離される。なお領域11rは、ボルトの脱落防止手段であり、本体部10rは、固定クリップ10の回転止め手段である。次いで、図13(c)に示す本体部10rを図13(d)に示すように上下反転させて、図13(e)に示すように本体部10rの第2プレート部12の貫通穴12h(図2参照)にボルトBの軸部Sを挿入する。この状態では、一対の壁部15でボルトBの頭部Hを支持できるので、ボルトBは本体部10rに固定される。
次に、図13に示す本体部10rに挿入されたボルトBを、図14に示すように、頭部Hを下にし、軸部Sを上にして、建築部材Iおよび被固定部材Jのボルト穴Ihに下方から通す。これにより、図15(a)および(b)に示すように、建築部材Iの下面の下に本体部10rが配置される。なお、本実施の形態では、図15(a)に示すように、建築部材Iおよび被固定部材JのフランジFの延在方向のそれぞれと交差する方向に、一対の壁部15が位置するように本体部10rが配置される。この状態では、本体部10rはまだ建築部材Iに取り付けられていないので、作業者の手等で本体部10rまたはボルトBを支えなければ、ボルトBはボルト穴Ihから抜け出し脱落してしまう。
次に、図16に示すように、建築部材Iの上面の上に位置するボルトBの軸部Sに、図13(b)に示す領域11rの切り欠き14を挿入する。つまり、建築部材Iの上面上に領域11rを配置して、切り欠き14でボルトBの軸部Sを挟持する。これにより、図17(a)および(b)に示すように、切り欠き14でボルトBの軸部Sを支持することができる。ボルトBの軸部Sと連なる頭部Hは、一対の壁部15で支持されているので、この工程を実施すると、一対の壁部15でボルトBの頭部Hを支持し、切り欠き14でボルトBの軸部Sを支持することができる。このため、ボルトBを建築部材Iに仮固定することができるとともに、固定クリップ10を梁の直交部分に取り付けることができる。
次に、図18(a)および(b)に示すように、ボルトBの軸部SにナットNを締め込む。具体的には、図17(a)及び(b)に示す切り欠きを含む領域11r上であって、ボルトBの軸部SにナットNを配置して、ナットNを締め込むと、ナットNの回転に伴って、ボルトBの頭部Hを支持する一対の壁部15を有する本体部10rも回転し、図18(a)に示すように、第3プレート部13の側面および/または第1プレート部11の基端縁11sを含む部分が建築部材IのウエブWに当接する。本体部10rがウエブWに当接した後には、ナットNを締め込んでも、ナットNの回転に伴って、固定クリップ10は動かなくなる。このため、固定クリップ10を回り止めできるので、固定クリップ10により仮固定されたボルトBに、ナットNを容易に締め付けることができる。これにより、ボルトBを建築部材Iおよび被固定部材Jに通して、両者をボルトBおよびナットNで連結固定できる。このように、梁の直交部分のフランジFに位置するボルトBに対して、固定クリップ10を使用することができる。
ナットNの締め込みの際に本体部10rがウエブWに当接するためには、図15(a)に示すように、第2プレート部12の貫通穴12hの中心と第3プレート部13(第2プレート部12の基端縁12s)との距離L1(図2参照)は、ボルト穴Ihの中心とウエブWとの距離L2(図12参照)よりも長い。つまり、固定クリップ10が、水平に延びるフランジFと、フランジFと交差して垂直に延びるウエブWとを備える建築部材IのフランジFに設けられたボルト穴IhにボルトBを仮固定するためのものである場合、第2プレート部12の貫通穴12hの中心と第3プレート部13(第2プレート部12の基端縁12s)との距離L1は、ボルト穴Ihの中心とウエブWとの距離L2よりも長い。なお、距離L1とは、第2プレート部12の貫通穴12hの中心と、第3プレート部13または第2プレート部12の基端縁12sの少なくとも一部との距離を意味する。
上記工程のように、固定クリップ10の切り欠き14を含む領域11rをボルト脱落防止用のプレート部分として用い、第3プレート部13を含む本体部10rを固定クリップ10の回転止め部分として用いることにより、図12に示すようにフランジF同士が直交する直交梁など、建築部材Iの縁部Ieに固定クリップを取り付けることができない場合であっても、建築部材IにボルトBを仮固定できる。また仮固定されたボルトBにナットNを締め込む際に、本体部10rをウエブWに当てることにより、本体部10rが動かないように維持できるので、ボルトBの頭部Hを回り止めすることができる。したがって、作業者はボルトBの頭部Hを押えなくても、ナットNのみを締め付け方向に回転させると、共回りを防いて締め付けることができるので、ナットNおよびボルトBの締付作業が省力化される。
このように、本実施の形態の固定クリップ10を用いることにより、柱材、梁材、ブレースといった建築部材の縁部および直交梁のようないずれの部位にも、煩雑な作業を要することなくボルトを容易に仮固定することができる。したがって本実施の形態の固定クリップ10は、他のフランジ部や鋼板等々の部材が建て込んでいるために、ボルトおよびナットの双方に作業者の手が届かない建築部材同士を連結固定する箇所に好適に用いられる。
続いて、図20〜図22に示す比較例の固定クリップ100R、100Lと比較して、本実施の形態の固定クリップ10の効果をさらに説明する。比較例の固定クリップ100R、100Lを用いてボルトBを仮固定する建築部材は、梁の直交部分である。
図20〜図22に示すように、比較例の固定クリップ100R、100Lは、基本的には本実施の形態の固定クリップ10と同様の構成を備えているが、切断線11cが形成されていない点、第2プレート部102に貫通穴が形成されていない点、および第3プレート部103は背面から見てコ字状である点において異なっている。
具体的には、固定クリップ100R、100Lは、切り欠き104が形成された第1プレート部101と、第1プレート部101と間隔を隔てて対向する第2プレート部102と、第1および第2プレート部101、102の基端縁101s、102s同士を接続する第3プレート部103と、第2プレート部102の両側縁から立ち上がり第1プレート部101に向かって突出し、ボルトの頭部を支持する一対の壁部105と、この一対の壁部105のうち第2プレート部102の先端縁側の縁部にそれぞれ延設されて第3プレート部103から離れる方向に延び、当該離れるほど間隔が大きくなる一対の拡大壁部106とを備えている。第3プレート部103は、第1プレート部101の基端縁101sに連なって延びる第1平坦面103aと、第2プレート部102の基端縁102sに連なって延びる第2平坦面103bと、第1平坦面103aの一方側端縁と第2平坦面103bの一方側端縁とを接続する第3平坦面103cとを有している。固定クリップ100Rの第3平坦面103cは、固定クリップの正面(先端縁側)から見たときに右側に設けられ、固定クリップ100Lの第3平坦面103cは、固定クリップの正面(先端縁)かた見たときに左側に設けられている。つまり、固定クリップ100Rの第3平坦面103cの配置と固定クリップ100Lの第3平坦面103cの配置とは異なり、固定クリップ100Rと固定クリップ100Lとは異なる形状である。
図20〜図22を参照して、比較例の固定クリップ100を用いて建築部材Iと被固定部材Jとの直交部分の縁部Ieにボルトを仮固定する方法および比較例の固定クリップ100を建築部材Iと被固定部材Jとの直交部分の縁部Ieに取り付ける方法について、以下説明する。
まず、図20に示すように、ボルトBを建築部材Iおよび被固定部材Jのボルト穴に通す。次いで、図20に示すように、固定クリップ100R、100Lにおいて第3プレート部103の第3平坦面103cが形成されていない側端縁側を、建築部材Iの縁部Ieに挿入する。その後、図21に示すように、固定クリップ100R、100LをボルトBに向けて移動する。これにより、固定クリップ100の第1プレート部101がフランジFの上面の上に位置し、第2プレート部102がフランジFの下面の下に位置し、フランジFを第1および第2プレート部11、12で挟み込むことができる。その後、図22に示すように固定クリップ100で仮固定したボルトBにナットNを締め込む。
このように、比較例の固定クリップ100R、100Lでは、第3プレート部103の第3平坦面103cが設けられていない側端縁側を建築部材Iの縁部Ieに挿入して、第3プレート部103の第1平坦面103aおよび第1プレート部101と、第3プレート部103の第2平坦面103bおよび第2プレート部102とで、建築部材Iの端部Ibを挟み込んでいる。そうすると、施工現場において、形状の異なる固定クリップ100R、100Lを持ちながら作業する際に、いずれの固定クリップ100R、100Lを用いるかの確認に時間を要してしまう。また、固定クリップ100R、100Lを準備する際に、それぞれの数を考慮しつつ、それぞれの形状が異なる固定クリップを製造する必要がある。このため、固定クリップ100R、100Lをそれぞれ作る必要があるので、コストがかかる。
なお、図12に示すような梁が直交する部分に固定クリップ100R、100Lを取り付け、図9(a)に示すような縁部Ieに別の固定クリップ(例えば、図1の固定クリップ10において切断線11cおよび貫通穴12hが形成されていない固定クリップ)を取り付ける場合には、施工現場での作業の際の確認に要する時間およびコストはさらに増えてしまう。
一方、本実施の形態の固定クリップ10は、上述したように、梁が直交する部分および縁部のいずれにも取り付けることができる。梁が直交する部分には、施工現場で切り欠き14を含む領域11rを切断線で分離するだけで、固定クリップ10を容易に取り付けることができるので、比較例で必要な固定クリップ100R、100Lの確認のための時間を省略でき、比較例に比べて施工効率を向上することができる。また、1種類の固定クリップ10で、梁が直交する部分のいずれの位置にも取り付けることができるとともに、梁が直交する部分用の固定クリップと、縁部用の固定クリップとを兼ねるので、量産の効果によって、コストを低減できる。
また本実施の形態の固定クリップ10の切断線11cは、第1プレート部11において、切り欠き14よりも基端縁11s側であって、基端縁11sから間隔を隔てて形成されている。これにより、切断線11cで分離された領域11rは、基端縁11sから立設する第3プレート部13を含まないので、平板状である。このため、建築部材および被固定部材のボルト穴の位置によらず、領域11rの切り欠き14でボルトBの軸部Sを支持することができる。したがって、本実施の形態の固定クリップ10の使用可能な範囲は非常に広い。
なお、切断線11cは、第3プレート部13に設けられてもよい(図示せず)。この場合、切断線11cで分離された領域11rは、基端縁11sから立設する第3プレート部13を含むが、領域11rの平面側を建築部材の上面に接するように配置することで、領域11rの切り欠き14でボルトBの軸部Sを支持することができる。このため、この場合の固定クリップ10の使用可能な範囲も広い。
(変形例)
本発明の実施の形態の変形例を説明する。図19は本実施の形態の変形例になる固定クリップを示す側面図であり、使用状態を表す。変形例において上述した実施形態と共通する構成は同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。変形例の固定クリップ20は、図19に示すように建築部材Iの縁部に取り付けられる。ただし、固定クリップ20の原形において、壁部15の上縁と第1プレート部11との間隔が建築部材Iの厚みt6よりも大きい。このため固定クリップ20は建築部材Iを挟むものではない。かかる変形例の場合であっても、第1プレート部11が建築部材Iに支持されることから、固定クリップ20の脱落を回避することができる。なお、変形例の固定クリップ20を切断線11cで領域11rと本体部10rとに分離することで、梁の直交部分に取り付けることも可能である。
ここで、本実施の形態の固定クリップ10、20は、ボルトを仮固定するためのものであり、頭部Hが六角柱の六角ボルトを例に挙げて説明した。本発明のボルトは、六角ボルトに限定されず、一対の壁部15で支持できる部分を有する他のボルト、ねじ等のねじ要素を含む。
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。