以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<はじめに>
プラズマ処理においては、直流電圧源からチャック電極に電圧をオンすることにより生じるクーロン力によって被処理体を静電チャックに吸着させてプラズマ処理を行っている。また、プラズマ処理後、静電チャックから被処理体を離脱させる際には、チャック電極への電圧をオフし、静電チャック表面に存在する電荷を除電し、静電チャック表面における被処理体への吸着力を弱める。その状態で、支持ピンを上昇させて被処理体を静電チャックから持ち上げ、被処理体を静電チャックから離脱させる。
静電チャックの表面は経時変化する。たとえば、静電チャックの表面にプラズマ処理時に発生する反応生成物等の異物が付着すると、その異物に電荷が蓄積され、チャック電極への電圧をオフしても残留電荷として静電チャック表層に電荷が残ってしまう。
プラズマ処理後に、伝熱ガスの供給をオフし、処理室内にN2やArなどの不活性ガスを導入し、処理室内を所定の圧力(100mTorr〜400mTorr)に維持しながら、プラズマ処理中にチャック電極にオンしていた電圧とは正負が逆の電圧をオンした後に電圧をオフする。この処理により静電チャック表面及びウエハの除電を行っている。上記正負が逆の電圧をオンしているときに高周波電源から高周波電力を処理室内に供給してプラズマを発生させる除電処理もある。このように通常の除電処理では、除電処理後チャック電極への電圧はオフになっている。
これに対して、静電チャックの表層を研磨したり、処理容器内をクリーニングしたりして静電チャック表層に付着した異物自体を取り除くことが考えられる。しかしながら、これでは、異物自体を完全に除去できない場合もあるし、除去できたとしても処理容器を大気開放して静電チャックを取り出す必要があり装置の稼働率が著しく低下してしまう。よって、被処理体に割れ等が生じる前に残留電荷により静電チャックに吸着している被処理体を静電チャックから電気的に離脱する方法が望まれる。
特に、体積抵抗率が1×1012〜14Ωcmの誘電部材を溶射により形成した静電チャックでは、除電処理によりウエハを離脱させる従来の方法でもウエハの離脱が可能な場合もある。しかしながら、体積抵抗率が1×1014Ωcm以上のクーロン型の静電チャックでは、より静電チャックの表層に電荷が逃げにくいため残留し易く、除電処理だけではウエハを静電チャックから離脱させることはより困難になる。
また、近年、静電チャックの表面温度をヒータにて高速に温度調整する機構(以下、ヒータ内蔵静電チャック機構と称呼する)が利用されている。ヒータ内蔵静電チャック機構では、静電チャックに例えば体積抵抗率が1×1014Ωcm以上の体積抵抗率が高い部材が採用されている。よって、ヒータ内蔵静電チャック機構では、クーロン型の、つまり静電吸着力が支配的な静電チャックが用いられ、より表層に電荷が残留し易くなっている。そのため、近年、ヒータ内蔵静電チャック機構の利用が高まるとともに静電チャック表面に反応生成物が堆積して残留電荷が残り、残留電荷による残留吸着によって被処理体の離脱ができなくなるという課題がより顕著になっている。
そこで、以下の本発明の一実施形態では、ヒータ内蔵静電チャック機構の利用時においても、被処理体を静電チャックから離脱することが可能な離脱制御方法及びその離脱制御方法を制御する制御部を備えたプラズマ処理装置について説明する。これによれば、非常時においても被処理体を静電チャックから離脱させることが可能である。
[プラズマ処理装置の全体構成]
まず、本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置の全体構成について、図1を参照しながら説明する。
図1に示したプラズマ処理装置1は、RIE型のプラズマ処理装置として構成されており、たとえばアルミニウムまたはステンレス鋼等の金属製の円筒型チャンバ(処理容器10)を有している。処理容器10は接地されている。処理容器10内では、被処理体にエッチング処理等のプラズマ処理が施される。
処理容器10内には、被処理体としての半導体ウエハW(以下、ウエハWと称呼する)を載置する載置台12が設けられている。載置台12は、たとえばアルミニウムからなり、絶縁性の筒状保持部14を介して処理容器10の底から垂直上方に延びる筒状支持部16に支持されている。筒状保持部14の上面には、載置台12の上面を環状に囲むたとえば石英からなるフォーカスリング18が配置されている。
処理容器10の内側壁と筒状支持部16の外側壁との間には排気路20が形成されている。排気路20には環状のバッフル板22が取り付けられている。排気路20の底部には排気口24が設けられ、排気管26を介して排気装置28に接続されている。排気装置28は図示しない真空ポンプを有しており、処理容器10内を所定の真空度まで減圧する。処理容器10の側壁には、ウエハWの搬入又は搬出時に開閉するゲートバルブ30が取り付けられている。
載置台12には、給電棒36および整合器34を介してプラズマ生成用の高周波電源32が電気的に接続されている。高周波電源32は、たとえば60MHzの高周波電力を載置台12にオンする。このようにして載置台12は下部電極としても機能する。処理容器10の天井部には、シャワーヘッド38が接地電位の上部電極として設けられている。高周波電源32からのプラズマ生成用の高周波電力は載置台12とシャワーヘッド38との間に容量的にオンされる。
載置台12の上面にはウエハWを静電吸着力で保持するための静電チャック40が設けられている。静電チャック40は導電膜からなるシート状のチャック電極40aを一対の誘電部材である誘電層部40b,40cの間に挟み込んだものである。直流電圧源42は、スイッチ43を介してチャック電極40aに接続されている。静電チャック40は、直流電圧源42から電圧をオンされることにより、クーロン力でウエハWをチャック上に吸着保持する。
また、チャック電極40aへの電圧をオフする場合にはスイッチ43によって接地部44へ接続された状態となっている。以下、チャック電極40aへの電圧のオフはチャック電極40aが接地された状態を意味する。
伝熱ガス供給源52は、HeガスやArガス等の伝熱ガスをガス供給ライン54に通して静電チャック40上のウエハW裏面に供給する。天井部のシャワーヘッド38は、多数のガス通気孔56aを有する電極板56と、この電極板56を着脱可能に支持する電極支持体58とを有する。電極支持体58の内部にはバッファ室60が設けられている。バッファ室60のガス導入口60aにはガス供給配管64を介してガス供給源62が連結されている。係る構成により、シャワーヘッド38から処理容器10内に所望のガスが供給される。
載置台12の内部には、外部の図示しない搬送アームとの間でウエハWの受け渡しを行うためにウエハWを昇降させる支持ピン81が複数(例えば3本)設けられている。複数の支持ピン81は、連結部材82を介して伝えられるモータ84の動力により上下動する。処理容器10の外部へ向けて貫通する支持ピン81の貫通孔には底部ベローズ83が設けられ、処理容器10内の真空側と大気側との間の気密を保持する。
処理容器10の周囲には、環状または同心状に延在する磁石66が上下2段に配置されている。処理容器10内において、シャワーヘッド38と載置台12との間のプラズマ生成空間には、高周波電源32により鉛直方向のRF電界が形成され、高周波の放電により、載置台12の表面近傍に高密度のプラズマが生成される。
載置台12の内部には冷媒管70が設けられている。この冷媒管70には、配管72,73を介してチラーユニット71から所定温度の冷媒が循環供給される。また、静電チャック40の内部にはヒータ75が埋設されている。ヒータ75には図示しない交流電源から所望の交流電圧がオンされる。かかる構成により、チラーユニット71による冷却とヒータ75による加熱によって静電チャック40上のウエハWの処理温度は所望の温度に調整される。
モニタ80は、ウエハWの裏面に供給される伝熱ガスの圧力を監視する。その圧力値は、ウエハWの裏面に取り付けられた図示しない圧力センサにより測定される。また、モニタ80は、ウエハWの裏面から供給される伝熱ガスがウエハWの裏面から漏れる漏れ流量を監視する。その流量値Fは、ウエハWの側面に取り付けられた図示しない流量センサにより測定される。モニタ80は、伝熱ガスの圧力および伝熱ガスの漏れ流量の両方を監視してもよいし、それらのいずれか一方を監視してもよい。
制御装置100は、プラズマ処理装置1に取り付けられた各部、たとえばガス供給源62、排気装置28、ヒータ75、直流電圧源42、スイッチ43、整合器34、高周波電源32、伝熱ガス供給源52、モータ84、およびチラーユニット71を制御する。また、制御装置100は、随時、モニタ80からウエハWの裏面に供給される伝熱ガスの圧力値Pおよび伝熱ガスの漏れ流量値Fを取得する。制御装置100は、ホストコンピュータ(図示せず)等とも接続されている。
制御装置100は、図示しないCPU(Central Processing Unit),ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を有し、CPUはこれらの記憶領域に格納された各種レシピに従ってプラズマ処理を実行する。レシピにはプロセス条件に対する装置の制御情報であるプロセス時間、処理室内温度(上部電極温度、処理室の側壁温度、ESC温度など)、圧力(ガスの排気)、高周波電力や電圧、各種プロセスガス流量、伝熱ガス流量などが記載されている。
かかる構成のプラズマ処理装置1において、エッチングを行なうには、先ずゲートバルブ30を開口して搬送アーム上に保持されたウエハWを処理容器10内に搬入する。次に、静電チャック40の表面から突出した支持ピン81により搬送アームからウエハWが持ち上げられ、支持ピン81上にウエハWが保持される。次いで、その搬送アームが処理容器10外へ出た後に、支持ピン81が静電チャック40内に下ろされることでウエハWが静電チャック40上に載置される。
ウエハW搬入後、ゲートバルブ30が閉じられ、ガス供給源62からエッチングガスを所定の流量で処理容器10内に導入し、排気装置28により処理容器10内の圧力を設定値に減圧する。さらに、高周波電源32から所定のパワーの高周波電力を載置台12にオンする。また、直流電圧源42から電圧を静電チャック40のチャック電極40aにオンして、ウエハWを静電チャック40上に固定する。シャワーヘッド38からシャワー状に導入されたエッチングガスは、高周波電源32からの高周波電力によりプラズマ化され、これにより、上部電極(シャワーヘッド38)と下部電極(載置台12)との間のプラズマ生成空間にてプラズマが生成される。生成されたプラズマ中のラジカルやイオンによってウエハWの主面がエッチングされる。
プラズマエッチング終了後、静電チャック40からウエハを離脱させる際には、伝熱ガスの供給をオフし、不活性ガスを処理室内へ導入し処理室内を所定の圧力に維持しながら、プラズマ処理中にチャック電極40aへオンしていた電圧とは正負が逆の電圧を、チャック電極40aへオンした後に電圧をオフする。この処理により静電チャック40及びウエハWに存在する電荷を除電する除電処理が行われる。その状態で、支持ピン81を上昇させてウエハWを静電チャック40から持ち上げ、ウエハWを静電チャックから離脱させる。ゲートバルブ30を開口して搬送アームが処理室内10内に搬入された後、支持ピン81が下げられウエハWが搬送アーム上に保持される。次いで、その搬送アームが処理容器10外へ出て、次のウエハWが搬送アームにより処理室内10へ搬入される。この処理を繰り返すことで連続してウエハWが処理される。
以上、本実施形態に係るプラズマ処理装置の全体構成について説明した。次に、静電チャックに使用される誘電部材の体積抵抗率と吸着力について、図2を参照しながら説明する。
[静電チャックの吸着力]
図2の横軸には体積抵抗率、縦軸には吸着力が示される。静電チャックには、セラミックの誘電部材(図1の誘電層部40b,40c)の体積抵抗率が1×1014Ωcm以上であるクーロン型の静電チャックと、セラミックの誘電部材の体積抵抗率が1×109〜12Ωcm程度であるJR(ジョンセン−ラーベック)力型の静電チャックと、その間の体積抵抗率が1×1012〜14Ωcmのアルミナ等を溶射したJR力型+クーロン型の静電チャックとが存在する。ヒータ内蔵静電チャックは、クーロン型の静電チャックであり、溶射ESCは、JR力+クーロン力型の静電チャックである。
クーロン型の静電チャックは、一般的に純度の高いアルミナAl2O3や窒化アルミニウムAlN等のセラミックス素材を用いることが多い。ウエハ裏面のパーティクルや、ウエハ裏面に形成された伝熱ガスを拡散するためのドット構造により接触面積が低下することによって更に吸着力が低下する。
JR力型の静電チャックでは、体積抵抗率を下げるため、アルミナや窒化アルミニウム等のセラミックス素材に抵抗コントロール用の金属酸化物などの添加物を加える場合が多い。JR力型の静電チャックは、静電チャック表面にもわずかに電流を流し、ウエハと静電チャックの表面との間に発生する静電力によりウエハを吸着する。クーロン型の静電チャックは、チャック電極に直流電流を流し、ウエハと電極との間に発生する静電力によりウエハを吸着する。
図2に示したように、ヒータ内蔵静電チャックでは、体積抵抗率が1×1014Ωcm以上の誘電部材を使う。ヒータ内蔵静電チャックは、焼結セラミックスで体積固有抵抗が高く、吸着力はクーロン力の領域になるため、理論的には、アルミナ等を溶射した静電チャック(溶射ESC)よりも吸着力は劣る。Siプローブを用いた引張試験結果からも、ヒータ内蔵静電チャックはアルミナ等を溶射した静電チャック(溶射ESC)よりも吸着力が劣ることがわかっている。
一方、ヒータ内蔵静電チャックでは、体積抵抗率が1×1014Ωcm以上の誘電部材を使うため、より静電チャックの表層に電荷が溜まり易く、上記逆電圧をオンする除電処理では残留電荷により吸着してしまったウエハを静電チャックから離脱させることは困難である。以下では、静電チャックの残留電荷について図3の吸着モデルを参照しながら説明する。
[静電チャックの残留電荷とガス真空引き]
図3の吸着モデルは、静電チャック40及びウエハW間の電気的な状態を示す。本実施形態では、静電チャック40の誘電部材はアルミナAl2O3から形成されている。アルミナAl2O3の誘電部材の内部にシート状のチャック電極40aが挟み込まれている。チャック電極40aには直流電圧源42から電圧がオンされる。静電チャック40の表層には、プラズマ処理時に徐々に堆積された反応生成物AlFxOyが絶縁膜41aとなって形成されている。静電チャック40上のウエハWはシリコンSiで形成され、裏面に酸化シリコン膜(SiO2膜)41bが形成されている。ウエハWの裏面には、酸化シリコン膜41bに替えて窒化シリコン膜(SiN膜)が形成されてもよい。図3の吸着モデルのように、静電チャック40表面に絶縁膜があると、残留電荷が生じやすい。
ウエハW上のプラズマ空間ではプラズマが生成される。プラズマはほぼグランド電位である。また、処理容器10内のガスが作用してウエハWの電荷がガスとの間で移動する(ガス放電)かはパッシェンの法則により決定される。
パッシェンの法則は、平行な電極間で放電が開始される電圧はガス圧と電極の間隔(ギャップ)の積の関数であることを示す。放電は、電界で加速された電子が処理容器10内のガスと衝突し、ガスを電離させることによって起こる。そのため、ガスを真空引きして処理容器10内の圧力を減圧すると、処理容器10内のガスが少なくなって衝突が起こりにくくなり、放電現象は生じにくくなる。逆に処理容器10内のガスが多くなると電子が衝突までに十分に加速されにくくなり、これによっても放電現象は生じにくくなる。
たとえば、処理容器内の圧力が100mTorr〜400mTorrのような圧力領域の場合、電子は十分に加速された状態で処理容器10内のガスと衝突し放電が起こる。これにより、ウエハWとガスとの間で電荷の移動が生じる。一方、処理容器内の圧力が10mTorr以下に減圧された場合、電子と処理容器10内のガスとの衝突が起こりにくくなって放電は起こらない。このため、ウエハWとガスとの間で電荷の移動は生じない。従って、ウエハWの電位は、パッシェンの法則に基づき処理容器10内の圧力及び上下電極間のギャップによって決定する。
なお、ガスの排気は、パッシェンの法則に基づきウエハWの電荷に処理容器10内のガスとの間で移動が生じない圧力になるまで処理容器10内のガスを真空引きすればよく、処理容器10内の圧力は10mTorrになるとは限らない。例えば、ガスの排気は、排気前後で処理容器10内の圧力のオーダが一桁以上小さくなるまで処理容器10内のガスを真空引きしてもよい。
静電チャック40が新品の場合、静電チャック40の表面にプラズマによる反応生成物は付着しておらず、AlFxOy層等の絶縁膜は存在しない。この場合、設計通りのクーロン力が発生して静電チャック40の良好な制御が実現可能である。ところが、プラズマ処理で使われるフッ素系ガスや酸素ガスによるクリーニングにより、徐々に静電チャック表面(アルミナAl2O3)上にAlFxOy層が堆積し絶縁膜41aとなる。絶縁膜41aは高抵抗であるため電荷が溜まり易く逃げにくい。このため、絶縁膜41aに残留電荷が溜まり、絶縁膜41a及び絶縁膜41b間でクーロン力が発生してしまう。図3では、AlFxOy層の絶縁膜41aに溜まったマイナスの電荷と、SiO2膜の絶縁膜41bに溜まったプラスの電荷とがクーロン力により引き合っている。静電チャック40表面とウエハWの間は、チャック電極40aとウエハWとの間よりもギャップも狭いため、静電チャック40及びウエハW間で生じるクーロン力は強い。
絶縁膜41aが厚くなると残留電荷も増加し、発生するクーロン力は更に強くなる。最終的には、上記除電方法を用いてもウエハWが静電チャック40から離脱できない状態となり、その結果ウエハWが割れたり、ズレたりする。
これは、除電処理時にウエハWの電荷はほとんど無い状態にできるが、残留電荷による静電チャック表面の電圧が高い場合は、上述したパッシェンの法則により処理室内のガスからウエハWに再度電荷の移動が生じ、その結果残留電荷とウエハWがクーロン力で再度吸着されてしまうためである。その理由について、図4の概念図を参照しながら説明する。図4(b−1)では、処理容器10内を100mTorrの圧力に制御した状態で、プラズマ処理後、直流電圧源の電圧をオフにする。その時の残留吸着状態の一例として、ここでは、静電チャック40の絶縁膜41aの電荷量が−10、チャック電極10aの電荷量は+1、ウエハWの絶縁膜41bの電荷量は+9である。このとき、絶縁膜41a、41bに溜まった残留電荷により、ウエハWは静電チャック40に吸着された状態(残留吸着状態)にある。
このような状態で、図4(b−2)に示したように本実施形態に係る除電処理、すなわち、静電チャック表面の残留電荷量及び正負の極性のモニタ結果から静電チャック40表面の残留電荷と同じ大きさで逆の極性の電荷をチャック電極40aに供給できる電圧を求め、求められた電圧をチャック電極40aにオンする。ここでは、絶縁膜41aの電荷量−10に対して、チャック電極10aの電荷量が+10になるようにチャック電極40aに電圧をオンする。つまり、ここでオンされた電圧は、静電チャック表面の残留電荷量及び正負の極性のモニタ結果から静電チャック40表面の残留電荷と同じ大きさで逆の極性の電荷をチャック電極に供給できる電圧である。このようにして、本実施形態では、静電チャック表面の残留電荷量及び正負の極性のモニタ結果から静電チャック40表面の残留電荷と同じ大きさで逆の極性の電荷をチャック電極に供給できる電圧をオンして静電チャック40表面の電位とチャック電極40aの電位を合わせる。これにより、チャック電極10aの電荷量+10と絶縁膜41aに残留する電荷量−10との間で電荷量のバランスを取ることができる。これにより、ウエハWに対して静電チャック表面の残留電荷による影響を無くすことができウエハWの電荷もガスへの放電で少なくなる。ここでは概念的にウエハWの電荷が0となっている。
その後、チャック電極40aへオンしていた電圧をオフし、その状態で処理容器10内を100mTorrの圧力に保持すると、パッシェンの法則により、図4(b−3)に示したように、処理容器10内のガスとウエハWとの間でガス放電により電荷が移動する。つまり、ガス放電により、電荷がグランドであるプラズマ側に移動するとともに、静電チャック40表面の残留電荷により静電チャック40表面に電位が生じているため、プラズマ側からの電荷の移動や、処理容器10内のガスからの電荷の移動が発生する。このようにして、静電チャック40表面の残留電荷によりウエハWの絶縁膜41bに再び電荷が溜まり、静電チャック40表面の残留電荷に引き寄せられる。ここでは、ウエハWの絶縁膜41bに溜まった電荷量が0→+9と増えている。これにより、静電チャック40表面の残留電荷の作用で、再びウエハWと静電チャック間でクーロン力が生じ、再残留吸着が発生する。前述したように、ウエハWとチャック電極40aとの間隔より、ウエハWと静電チャック40表面との間隔が狭いため、ウエハWと静電チャック40表面との間に大きなクーロン力が働き、再残留吸着状態となる。
よって、本実施形態に係るウエハWの離脱制御方法では、ウエハWの離脱時、図4(a−1)に示した残留吸着状態(図4(b−1)と同じ)から、図4(a−2)に示した静電チャック40表面の電位とチャック電極40aの電位を合わせた状態(図4(b−2)と同じ)にした工程後、処理容器10内を真空引きする。
具体的には、図4(a−3)に示したように、処理容器10内を10mTorr又はそれ以下まで真空引きする。この状態では、パッシェンの法則によりガスの衝突は起こりにくくなって放電が抑制されるため、ウエハWとガスとの間で電荷の移動は生じない。これにより、ウエハWの絶縁膜41bの電荷量を除電時の電荷量0のまま保持することができる。それと同時に、静電チャック40に形成された絶縁膜41aのAlFxOy層は、電位の変化、つまり電荷の移動が遅いため、絶縁膜41a中の電荷はなかなか移動しない。この結果、図4(a−3)に示したようにウエハWの絶縁膜41bの電荷量0、静電チャック40の絶縁膜41aの電荷量−10という状態を所定時間保つことができ、再残留吸着状態が発生しないようにすることができる。
以上に説明したように、本実施形態に係る離脱制御方法によれば、AlFxOyの絶縁膜41aとチャック電極40aとの間で電荷量のバランスを取ることにより、ウエハWの電荷を中性にすることができる。
なお、真空引き後、静電チャック40の電圧をオフにし、ウエハWを支持ピン81によって持ち上げる。図4(a−3)に示したようにウエハWの電荷量が0の場合にはそのままウエハWを搬出すればよいが、ウエハWの電荷量が0でない場合もある。よって、最後に、処理容器10内にガスを導入し、処理容器10内の圧力を上げてパッシェンの法則によりウエハWの電荷をガス及びプラズマを介して逃がす。これによりウエハWの電荷量を0にしてからウエハWを搬出する。
[モニタ結果から電圧算出]
モニタ時には、除電処理時の不活性ガスを除電処理時の圧力若しくはそれよりも高い圧力(100mTorr〜400mTorr)で維持した状態であり、伝熱ガスの供給もオフした状態となっている。つまり、ウエハWに対する本実施形態の除電処理後に静電チャック表面の残留電荷による電圧で再度ウエハが吸着している状態で、ウエハ裏面に伝熱ガスを供給してその圧力値P及びウエハ裏面から漏れた伝熱ガスの流量値Fのモニタを行えば残留吸着状態をモニタすることができる。また、静電チャック表面の経時変化による残留電荷の正負はプロセス条件によって変わるため予めこれらのモニタ結果と残留電荷量とその正負の極性の相関関係を求めておく必要がある。
制御部115は、静電チャック表面の残留電荷量及び正負の極性のモニタ結果から静電チャック40表面の残留電荷と同じ大きさで逆の極性の電荷をチャック電極に供給できる電圧を算出し、チャック電極40aにオンする(本実施形態に係る除電処理)。電圧を算出する際に使用されるモニタ結果の一例を図5に示す。図5(a)〜図5(d)には、ウエハW裏面に流した伝熱ガスの圧力値P及びウエハW裏面から漏れた伝熱ガスの流量値Fのモニタ結果が示されている。このモニタ結果から、吸着状態をチェックすることができる。また、このモニタ結果から静電チャック40表面の残留電荷と同じ大きさで逆の極性の電荷をチャック電極に供給できる電圧を算出することができる。
ここでは、伝熱ガスをウエハW裏面の中央部に2Torr、エッジ部に3Torr導入し、安定するまで待つ。安定状態におけるエッジ流量(漏れ流量値F;伝熱ガスのリーク量)をモニタする。吸着状態によって漏れ流量値Fが変わるのでそれを解析し、解析結果に基づきチャック40表面の残留電荷と同じ大きさで逆の極性の電荷をチャック電極に供給できる電圧を算出する。
また、排気側のバルブ(図示せず)を閉じてから1秒後のウエハW裏面の圧力をモニタする。吸着状態によってウエハW裏面の圧力値Pの低下のスピードが変わる。よって、圧力値Pの低下のスピードを解析し、解析結果に基づきチャック40表面の残留電荷と同じ大きさで逆の極性の電荷をチャック電極に供給できる電圧を算出する。漏れ流量値Fの変化及び圧力値Pの低下のスピードの両方に基づきチャック40表面の残留電荷と同じ大きさで逆の極性の電荷をチャック電極に供給できる電圧を求めることもできる。
図5(a)は新品の静電チャック、図5(b)は使用後初期の静電チャック、図5(c)は中期の静電チャック、図5(d)は後期の静電チャックの圧力値P及び漏れ流量値Fのモニタ結果を示す。残留吸着の有無を判定する閾値は2.6Torr(346.6Pa)である。図5(a)を参照すると、新品の場合の圧力値Pは、伝熱ガスの流量をオフにしてから1秒経過後、圧力値Pは3Torrから1.8Torrへと急激に低下した。このように、新品の場合圧力Pの低下するスピードが速い。また、この圧力値Pは閾値2.6Torr以下であり、ウエハWが正常に離脱されていることを示す。また、新品の場合、漏れ流量Fは、2.2sccmであり、流量値Fが大きく、この値からもウエハWが正常に離脱されているため漏れ流量も大きいことがわかる。
図5(b)の初期の場合、図5(c)の中期の場合も同様にして、伝熱ガスの流量をオフにしてから1秒経過後、圧力値Pは3Torrから2.3Torr、2.6Torrへと低下した。低下のスピードは新品の場合より遅いが、この圧力値Pは閾値2.6Torr以下であり、ウエハWが正常に離脱されていることを示す。また、図5(b)の初期の場合、図5(c)の中期の場合の漏れ流量Fは、1.4sccm、0.7sccmであり、これは新品の場合の漏れ流量より小さいが、ウエハWが正常に離脱されていることを示す。
一方、図5(d)の後期の場合、伝熱ガスの流量をオフにしてから1秒経過後、圧力値Pは3Torrから2.7Torrへと低下した。この圧力値Pは閾値2.6Torrより大きい値であり、ウエハWが吸着していることを示す。また、図5(d)の後期の場合の漏れ流量Fは、0.6sccmと小さく、ウエハWが吸着していることを示す。後期の場合、静電チャック表面に残留電荷が多いため、伝熱ガスが流れにくくなっていることが原因である。
これらの圧力値P,漏れ流量値Fのモニタ結果から静電チャック40の表面電位が予測でき、静電チャック40の表面電位に合わせるように、オンする電圧が算出される。
[制御装置の構成]
以上の残留電荷による再吸着の原理を踏まえて、本実施形態では、残留電荷による吸着及び再吸着を抑止し、ウエハWを静電吸着する静電チャック40からウエハWを離脱させるための離脱制御方法を提案する。この離脱制御方法は、プラズマ処理装置1に備えられた制御装置100により制御される。以下では、本実施形態に係る離脱制御方法を実行する制御装置100の機能構成について、図6を参照しながら説明する。
図6は、制御装置100の機能構成を示した図である。制御装置100は、プロセス実行部105、取得部110、制御部115及び記憶部120を有する。
プロセス実行部105は、記憶部120に記憶された複数のレシピのうち、所望のプロセスレシピを選択してそのプロセスレシピに従いエッチング処理を実行する。また、プロセス実行部105は、記憶部120に記憶されたクリーニングレシピに従いクリーニング処理を実行する。
取得部110は、モニタ80からウエハWの裏面に供給される伝熱ガスの圧力値Pおよびその伝熱ガスのウエハWの裏面から漏れる流量値Fを取得する。取得部110は、所定時間経過毎に圧力値Pおよび漏れ流量値Fを取得する。
制御部115は、プラズマ処理装置1内の各部を制御する。特に、本実施形態では、制御部115にて行われる制御のうち、静電チャックの脱着についての制御を中心に説明する。制御部115は、静電チャックの脱着を制御するために、直流電圧源42の電圧を制御し、排気装置28の真空引きを制御し(排気制御)、支持ピン81の昇降を制御し(ピン昇降制御)、ウエハW裏面への伝熱ガスの供給を制御する(伝熱ガス供給制御)。
記憶部120には、エッチング処理を実行するための複数のプロセスレシピと、クリーニング処理を実行するためクリーニングレシピとが予め記憶されている。記憶部120は、例えば半導体メモリ、磁気ディスク、または光学ディスクなどを用いてRAM、ROMとして実現されうる。レシピは、記憶媒体に格納して提供され、図示しないドライバを介して記憶部120に読み込まれるものであってもよく、また、図示しないネットワークからダウンロードされて記憶部120に格納されるものであってもよい。また、上記各部の機能を実現するために、CPUに代えてDSP(Digital Signal Processor)が用いられてもよい。
なお、制御装置100の機能は、ソフトウエアを用いて動作することにより実現されてもよく、ハードウエアを用いて動作することにより実現されてもよい。
以上、本実施形態に係る離脱制御方法を実行する制御装置100の機能構成について説明した。次に、以上に説明した制御装置100の各部の機能を用いて、制御装置100により制御される離脱制御方法について、図7を参照しながら説明する。
[制御装置の動作]
図7は、本実施形態に係るウエハWの離脱制御方法を実行するためのフローチャートであり、プロセス処理は、主にプロセス実行部105により制御され、除電処理および吸着モニタ処理は、主に制御部115により制御される。
まず、ウエハWが処理室内へ搬入され、プラズマ処理が開始されると、プロセスガスが導入され、処理室内が所定の圧力に維持される(S100)。次に、高周波電力を処理室内に導入しプラズマを発生させる(S101)。プラズマ発生後、チャック電極40aに電圧をオンしウエハを静電吸着させる(S102)。その後、ウエハ裏面と静電チャック40表面の間に伝熱ガスを供給し、その状態で所定時間プラズマ処理を行う(S103)。プラズマ処理が終了したら、プロセスガス及び高周波電力をオフし(S104)、伝熱ガスの供給をオフし(S105)、チャック電極40aの電圧をオフする(S106)。
以上でプラズマ処理が終了し、次いで除電処理が行われる。まず、処理室内に不活性ガスが導入され所定の第1の圧力(100mTorr〜400mTorr)に維持される(S107)。次に、プラズマ処理中にオンしていたチャック電極40aの電圧とは正負が逆の電圧をチャック電極40aにオンし(S108)、その後、チャック電極40の電圧をオフする(S109)。次に、吸着モニタ処理(S110)を行う。
なお、ステップS107〜S109は一般的な除電処理であって、以下に説明する図8のS202は本実施形態に係る除電処理である。また、以下に説明するモニタ時の処理室内の圧力は少なくとも第1の圧力と同じかそれより高い圧力である。
図8は、吸着モニタ処理を示したフローチャートである。吸着モニタ処理は、図8に示したように、まず、ウエハ裏面に伝熱ガスを供給し(S200)、ウエハ裏面の圧力値P、及びウエハから漏れた伝熱ガスの流量値Fをモニタする(S201)。
次に、静電チャック表面の残留電荷量及び残留電荷の正負の極性のモニタ結果から静電チャック表面の残留電荷量と同じ大きさで前記正負の極性とは逆の電荷をチャック電極40aへ供給できる電圧を求め、求められた電圧をチャック電極40aにオンする(S202)。
その後、プラズマ処理を行う処理容器10内のガスを真空引きし、処理容器内を第2の圧力へと減圧する(S203)。例えば、真空引きは3秒間程度で完了する。よって、この真空引きによるスループットの低下はほとんどない。
次に、静電チャック40の電圧を再度オフにし(S204)、支持ピン81によってウエハWを持ち上げる(S205)。最後に、処理容器10内にガスを導入し、ウエハWの電荷を除去し(S206)、本処理を終了する。
[効果の例]
図9に、本実施形態に係る離脱制御方法の効果の一例を示す。図8のステップS202にて、チャック電極40aに電圧−1500V、−1200V、−1000V、−800Vをオンした後、ステップS203にて、処理容器10内を真空引きした場合の圧力値P、漏れ流量値F、ウエハの離脱状態を、図9(a)〜図9(d)に示す。
これによれば、図9(b)の−1200Vの電圧オン後に真空引きした場合が、最も圧力値Pの低下のスピードが速く、漏れ流量値Fが大きかった。この結果から、上記条件ではウエハWが離脱され易かったことがわかる。
しかし、図9(a)の−1500Vの電圧オン後に真空引き、及び図9(c)の−1000Vの電圧オン後に真空引きした場合も、圧力値P2.3Torr、2.5Torrはともに閾値2.6Torrより小さい値である。このため、ウエハWは離脱されたことがわかる。図9(d)の−800Vの電圧オン後に真空引きした場合、圧力値P2.6Torrであり閾値2.6Torrと同じ値である。また、漏れ流量値Fも0.7sccmと最も小さい値を持つ。一方、流量オフ後のトルクTは、その他3つの場合と比較して大きな値となっている。よって、図9(d)の−800Vの電圧オン後に真空引きした場合、ウエハWは離脱したとしても、大きなトルクが発生しているため、離脱しにくくなっていることがわかる。これらの結果から、静電チャック40表面の状態を伝熱ガスの圧力値P及び漏れ流量値Fからおおよそ予測可能であることがわかる。
以上に説明したように、本実施形態に係る離脱制御方法では、プラズマ処理後にチャック電極40aにオンする電圧をオフし、静電チャック40上に載置されたウエハWの裏面に供給される伝熱ガスの圧力及び伝熱ガスのウエハWの裏面からの漏れ流量をモニタし、モニタ結果からチャック40表面の残留電荷と同じ大きさで逆の極性の電荷をチャック電極に供給できる電圧をチャック電極40aにオンする。これにより、ウエハWを静電チャック40から離脱させることができる。例えば、残留電荷によりウエハWが逆の極性の電圧をオン等する除電方法によっても離脱されなくなった非常時においても、ウエハWを静電チャック40から離脱させることができる。
[変形例]
次に、上記実施形態の変形例に係る離脱制御方法について説明する。変形例に係る離脱制御方法では、伝熱ガスの一例であるHeガスのモニタ結果からウエハの離脱が可能かを判断し、所定の場合にウエハの離脱処理を停止する。
変形例に係る離脱制御方法を実行するために、ウエハの離脱が可能かを判断するための閾値を実験により特定した。その特定について以下に説明する。
モニタ対象のHeガスは、図11に示したように、ガス供給ライン54から静電チャック40上のウエハW裏面に供給される。この状態で、直流電圧源から電圧をチャック電極40aにオンして、ウエハWを静電チャック40上に固定する。
本変形例では、ウエハWと静電チャック40とのエッジの隙間(図11に示したHe漏れ流路)から外側へ漏れ出すHeガスの流量(Heガスの漏れ流量)をモニタする。図12では、図11のHe漏れ流路から漏れ出すHeガスの漏れ流量Aとチャック電極40aにオンされる電圧Bとの関係を示す。
チャック電極40aへの電圧Bをオンしたタイミングに、ウエハWは静電チャック40上に吸着する。その結果、図11に示したHe漏れ流路は狭くなり、Heガスの漏れ流量Aは減る。これに対して、チャック電極40aへの電圧Bをオフしたタイミングに、ウエハWは静電チャック40への吸着から開放される。その結果、He漏れ流路は広くなり、Heガスの漏れ流量Aは増える。
図13には、チャック電極40aにオンする電圧とHe漏れ流量の体積比率との関係の一例を示す。チャック電極40aにオンする電圧が0Vの場合、ウエハWは静電チャック40に吸着されておらず、除電が完了した状態とみることができる。一方、チャック電極40aにオンされる電圧が2500Vの場合、ウエハWは静電チャック40に完全に吸着しており、除電がまったく行われていない状態とみることができる。この両者の場合のHe漏れ流量の体積比率を見ると、除電が完了した状態(電圧が0Vのとき)では、除電がまったく行われていない状態(電圧が2500Vのとき)の4倍の漏れがあることがわかる。
また、チャック電極40aにオンされる電圧が1000Vの場合のHe漏れ流量の体積比率「0.96」は、2500Vの場合のHe漏れ流量の体積比率「1」とほぼ同じ状態、つまり除電されていない状態であり、1000V〜0Vの間で徐々に除電が進行していることがわかる。
図14は、He漏れ流量の体積比率と支持ピンのトルク電圧との関係の一例を示す。図14の実線で示したHe漏れ流量の体積比率は、図13に示したHe漏れ流量の体積比率の数値をグラフ化したものである。図14の破線で示した支持ピンのトルク電圧は、支持ピン81が静電チャック40からウエハWを持ち上げる際に支持ピン81にかかるトルクを電圧値で示したものである。前述したように、He漏れ流量から1000V〜0Vの間で徐々に除電が進行しており、チャック電極40aにオンされる電圧(除電印加電圧)が500V以上の場合には、除電が不完全なため、ウエハに跳ねや割れが生じることが目視された。
次に、図11のHe漏れ流路から流出するHe漏れ流量と、ウエハWと静電チャック40との間のHe圧力値との関係を測定した。測定前に、まず、チャック電極40aに2500Vの電圧をオンし、ウエハWを静電チャック40に吸着させた。その上で、ウエハWに図15の横軸に示した除電印加電圧を加え、除電を実施した。その結果、除電印加電圧を0Vから1500Vまで印加する間、つまり、図15のグラフで電圧が2500Vの初期状態から1000Vまで変化する間、He漏れ流量Fは約0.5sccm、He圧力値は約2Torr(266Pa)であり、ほとんど変化していない。一方、除電印加電圧を1500Vから2500Vまで印加する間、つまり、図15のグラフで電圧が1000Vの状態から0Vまで変化する間、He漏れ流量Fは約0.5sccmから約0.18sccmと急激に減り、かつ、He圧力値も2Torr(266Pa)から3Torr(400Pa)と急激に増加している。つまり、電圧が1000Vの状態から0Vまで変化する間にウエハWの静電チャック40への吸着が進むことが分かる。
この結果と図14に示したチャック電極40aにオンされる電圧(除電印加電圧)が500V以上でウエハに跳ねや割れが生じる事実から、除電がほぼ完了し、ウエハWの離脱が可能なHe圧力値を図15の除電印加電圧が500VのときのHe圧力値である2.6Torr(346.6Pa)と特定することができる。また、除電がほぼ完了し、ウエハWの離脱が可能なHe漏れ流量値を、図15の除電印加電圧が500VのときのHeガスの漏れ流量値である0.3sccmと特定することができる。
よって、本実施形態に係る離脱制御方法は、モニタされたHeガスの圧力値が2.6Torr(346.6Pa)以上又はウエハWの裏面からのHeガスの漏れ流量値が0.3sccm以下になったとき、静電チャック40に対してウエハWの離脱時に自動的に適用されるように制御してもよい。
(変形例1)
以上から、以下に説明する変形例に係る離脱制御方法では、ウエハWの離脱が可能なHe圧力値を2.6Torrに設定して、ウエハWの離脱の可否を判断する。図16は、変形例1に係る吸着モニタ処理を実行するためのフローチャートである。図16の吸着モニタ処理は、上記実施形態にて説明した図7の離脱制御方法のステップS110で呼び出される吸着モニタ処理の変形例である。
つまり、本変形例1は、図7のステップS100〜ステップS106のプロセス処理、及びステップS107〜ステップS109の除電処理後に実行される吸着モニタ処理の変形例を示す。
変形例1に係る吸着モニタ処理は、制御部115によって行われる。まず、図16に示したように、ウエハW裏面にHeガスを供給する(S300)。次に、ウエハ裏面の圧力安定後、Heガスの供給を停止し、ウエハW裏面の圧力値を1秒間モニタする(S301)。
次に、ウエハWの圧力値が2.6Torrより大きいかを判定する(S302)。図17及び図18は、吸着モニタ処理のモニタ状況の一例を示す。横軸の時間に対して、A線は、静電チャック40に供給される電圧、B線は、ウエハW裏面のセンター側のHe圧力値、C線は、ウエハW裏面のエッジ側のHe圧力値を示す。
本実施形態のように、He供給口がセンター、及びセンターの外周側のエッジの2つのゾーンに分かれている場合、中央のセンター領域とその外周側のエッジ領域の圧力を変えて制御する。ウエハWが静電チャック40に吸着している場合、表面積が大きい方が、表面積が小さいほうより吸着しやすい。よって、吸着力は、表面積の小さいセンター側より表面積の大きいエッジ側が大きくなる。このような場合、2つのゾーンに同流量のガスを流入させ、2つのゾーンを同じ圧力に制御しようとすると、エッジ側がセンター側より吸着力が大きいため釣り合いがとれず、センター側からエッジ側にガスが流れる。そうすると、ウエハW裏面で圧力の面内均一性が保てずにウエハWが跳ね上がる場合がある。よって、表面積が大きいエッジ側の圧力がセンター側の圧力より高くなるようにエッジ側に流入するガス量を多くする。
以上から、図17及び図18では、エッジ側の圧力がセンター側の圧力より高くなるようにエッジ側に流入するHeガスの流量を多く供給している。このため、He供給開始後、エッジ側のHe圧力値(C線)が、センター側のHe圧力値(B線)より高くなっている。
このように、そもそもエッジ側の圧力はセンター側の圧力より高い上、エッジ側のHeガスはHe漏れ流路からウエハWの外に逃げ易いが、センター側のHeガスは逃げにくい構造となっている。このため、Heガスの供給停止後のエッジ側の圧力は、センター側の圧力の変化より大きくなる。よって、ここでは、応答性がよいエッジ側の圧力値(C線)をモニタする。図17及び図18では、Heガスの供給開始から6秒でウエハW裏面の圧力は安定している。そこで、Heガスの供給開始から6秒後にHeガスの供給を停止し、Heガスの供給停止(つまり、監視開始)から1秒後のエッジ側のHe圧力値を検出する。その結果、図17では、検出されたエッジ側のHe圧力値は約2Torr(266Pa)であり、ウエハWの離脱が可能なHe圧力値(アラーム閾値)2.6Torrより小さい。
よって、図17の検出結果の場合には、制御部115は、ウエハWの離脱可能と判断し、図16のステップ303に進み、静電チャック40表面の残留電荷量及び残留電荷の正負の極性のモニタ結果から静電チャック表面の残留電荷量と同じ大きさで前記正負の極性とは逆の電荷をチャック電極40aへ供給できる電圧を求め、チャック電極40aにオンする(S303)。
その後、プラズマ処理を行う処理容器10内のガスを真空引きし、処理容器内を第2の圧力へと減圧する(S304)。次に、静電チャック40の電圧を再度オフにし(S305)、支持ピン81によってウエハWを持ち上げる(S306)。最後に、処理容器10内にガスを導入し、ウエハWの電荷を除去し(S307)、本処理を終了する。
一方、図18では、Heガスの供給停止から1秒後のエッジ側のHe圧力値は、約2.8Torr(372.4Pa)であり、ウエハWの離脱が可能な2.6Torrより大きい。このとき、制御部115は、ウエハWの離脱不可能と判断し、ステップS302からステップS308に進み、ウエハWを静電チャック40から離脱させる処理を停止する。また、制御部115は、ウエハの離脱処理を停止したことを知らせるアラームを出力し(S308)、本処理を終了する。
以上に説明したように、本変形例では、Heガスの供給停止から1秒後のエッジ側のHe圧力値を検出し、その値が2.6Torrより大きければウエハの離脱処理を停止させる。これにより、ウエハWの離脱時の割れや破損を回避することができる。
なお、本変形例では、Heガスの供給停止から1秒後のエッジ側のHe圧力値を検出したが、これに限れず、Heガスの供給停止から圧力が急激に変化する時間内に少なくとも一つ以上のサンプリングポイントを設定してもよい。この場合、各サンプリングポイントの圧力値とアラーム閾値2.6Torrとを比較して、最後まで圧力値がアラーム閾値2.6Torrを下回らなかった場合には、ウエハの離脱処理を停止させる。これにより、より精度よくウエハWの離脱時の割れや破損を回避することができる。
また、このモニタ工程では、Heガスの供給停止から圧力が急激に変化する時間内として、Heガスの供給停止後、Heガスの圧力が50%以上変化する時間内に少なくとも一つのサンプリングポイントを設定し、Heガスの圧力値を検出することが好ましい。本変形例のように、Heガスの圧力が50%以上変化する時間は、一秒であってもよいし、1秒より短くてもよい。また、Heガスの圧力が50%以上変化する時間内であれば、モニタ回数は複数であってもよい。
(変形例2)
最後に、変形例2に係る吸着モニタ処理について説明する。図19は、変形例2に係る吸着モニタ処理を実行するためのフローチャートである。図19の吸着モニタ処理は、上記実施形態にて説明した図7の離脱制御方法のステップS110で呼び出される吸着モニタ処理の他の変形例である。
図16で示した変形例1との違いは、ステップS310を加えた点のみである。つまり、Heガスの供給停止から1秒後のウエハW裏面のエッジ側のHe圧力値を検出した結果、エッジ側のHe圧力値が、ウエハWの離脱が可能なHe圧力値(アラーム閾値)2.6Torrより大きい場合、制御部115は、すぐにウエハWの離脱処理を停止せず、ステップ310にて吸着モニタ(つまり、ステップS300〜S302の処理)を予め定められた回数以上繰り返したかを判定する。吸着モニタを予め定められた回数以上繰り返していない場合、ステップS300に戻り、再度ステップ300〜S302の処理が実行される。つまり、再度、Heガスの供給を開始し、6秒後にHeガスの供給を停止し、その1秒後のウエハW裏面のエッジ側のHe圧力値を検出する。その結果、圧力値が2.6Torrより大きいかを再度判定する。
このように、ステップS300〜S302、S310の処理を複数回繰り返した結果、繰り返し回数が予め定められた回数以上となる前に、検出した圧力値が2.6Torr以下になった場合には、ウエハWの離脱処理を行う(S304〜S307)。一方、ステップS300〜S302、S310の繰り返し回数が予め定められた回数以上となる前に、検出した圧力値が2.6Torr以下にならなかった場合には、ステップS308に進んで、ウエハWを静電チャック40から離脱させる処理を停止する。また、制御部115は、ウエハの離脱処理を停止したことを知らせるアラームを出力し(S308)、本処理を終了する。
以上に説明したように、本変形例では、He供給停止から1秒後のエッジ側のHe圧力値を検出し、エッジ側のHe圧力値が2.6Torrより大きければ、再度吸着モニタ処理を繰り返し、所定回数繰り返しても、He圧力値が2.6Torrを下回らなければ、ウエハの離脱不可能と判断してウエハの離脱処理を停止させる。これにより、可能な限りウエハWを離脱させて、離脱処理の停止を極力減らし、かつ、ウエハWの離脱時の割れや破損を回避することができる。
なお、上記モニタ工程では、Heガスの供給開始からHeガスの供給停止後、Heガスの圧力が50%以上変化する時間内に少なくとも一つのHeガスの圧力値を検出する処理を、前記検出された少なくとも一つのHeガスの圧力値が2.6Torrより大きい間、予め定められた回数以内で繰り返し行う。このとき、最後に検出された圧力値が2.6Torrより大きくても、その前に検出されたHeガスの圧力値のいずれかが2.6Torrを下回る場合には、ウエハWの離脱工程を実行するようにしてもよい。これとは逆に、最後に検出されたHeガスの圧力値が2.6Torrより大きい場合、その前に検出されたHeガスの圧力値のいずれかが2.6Torrを下回っても、ウエハWを離脱させる工程を停止するようにしてもよい。
また、上記変形例では、ウエハW裏面のHeガスの圧力値をモニタしたが、これに替えて、ウエハW裏面のHeガスの流量値をモニタしてもよい。
また、上記実施形態及び各変形例において、Heガスの供給口が複数のゾーンに分かれている場合、半径方向に対して供給するHeガスの圧力を変える。複数個のガス供給口がある場合には、最外周のガス供給口から供給されるHeガスの圧力を監視する。これにより、圧力値が最も急峻に変化する状態をモニタすることができ、上記離脱処理の精度を向上させることができる。例えば、上記変形例で説明したように、2ゾーンの場合には、外側のゾーンに設けられたHeガスの供給口をモニタする。1ゾーンの場合には、Heガスの供給口のいずれかをモニタする。
<おわりに>
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、本発明に係る離脱制御方法は、予め定められた時間経過後の静電チャック40に対して実行してもよい。つまり、本発明に係る離脱制御方法は、予め定められた時間以上使用した静電チャック40上のウエハWを離脱させる際の制御方法であってもよい。
例えば、図10に示したように、ウエハWを離脱する際にウエハWを持ち上げる支持ピン81を駆動するモータ84のトルクを監視する。これにより、ウエハWの脱着が悪化して離脱され難くなっていく様子を確認することができる。例えば、図10の縦軸に示したピントルクが予め定められた閾値以下になったら、予め定められた時間以上使用した静電チャック40とみなして、本発明に係る離脱制御方法を自動的に適用してもよい。図10では、ウエハ処理枚数が3000枚のとき、ピントルクが閾値を下回ったため、静電チャックの表面状態が悪くなったとみなして、本発明を自動的に適用するようにしてもよい。
以上ではプラズマ処理装置で実行されるプラズマ処理としてプラズマエッチングを例に挙げて説明したが、本発明はプラズマエッチングに限られず、例えば、化学気相蒸着(CVD: Chemical Vapor Deposition)によりウエハ上に薄膜を形成するプラズマCVD、プラズマ酸化、プラズマ窒化、スパッタリング、アッシング等を行うプラズマ処理装置にも適用可能である。
また、本発明に係るプラズマ処理装置は、チャンバ内の平行平板電極間に生じる高周波の放電により容量結合プラズマ(CCP:Capacitively Coupled Plasma)を生成する容量結合型プラズマ処理装置に限られず、例えば、チャンバの上面または周囲にアンテナを配置して高周波の誘導電磁界の下で誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)を生成する誘導結合型プラズマ処理装置、マイクロ波のパワーを用いてプラズマ波を生成するマイクロ波プラズマ処理装置等にも適用可能である。
本発明においてプラズマ処理を施される被処理体は、半導体ウエハに限られず、例えば、フラットパネルディスプレイ(FPD:Flat Panel Display)用の大型基板、EL素子又は太陽電池用の基板であってもよい。
なお、本発明に係る離脱制御方法は、チャック電極を有し、被処理体を静電吸着する静電チャックから被処理体を離脱させるための離脱制御方法であって、プラズマ処理後に前記チャック電極にオンしている電圧をオフする工程と、前記静電チャックの吸着時にオンした電圧と逆電圧をオンする工程と、前記逆の電圧をオンする工程後、プラズマ処理を行う処理容器内のガスを排気する工程と、を含んで構成されていてもよい。