以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態におけるコネクタの端子表面の層構造を示す模式断面図である。
本実施の形態におけるコネクタは、図示されないケーブル又は基板と電気的に接続されるものであり、図示されないハウジング及び該ハウジングに装填された端子であって、表面が図に示されるような層構造を備える端子51を有する。
図において、52は本実施の形態におけるコネクタの端子51の基材であり、例えば、銅、銅合金等の金属から成る。なお、基材52は、必ずしも、銅、銅合金等から成るものである必要はなく、導電性の良好な金属であればいかなる種類のものであってもよく、例えば、鉄系の合金であってもよい。
また、前記コネクタは、例えば、コンピュータ、携帯電話機、PDA(Personal Digital Assistant)、薄型テレビ等の電子機器、家庭電化製品等の電気機器等に使用されるプリント回路基板に実装され、フレキシブル回路基板(FPC:Flexible Printed Circuit)、フレキシブルフラットケーブル(FFC:Flexible Flat Cable)等と称される平板状ケーブルを接続するFPCコネクタであるが、必ずしも、FPCコネクタに限定されるものではなく、プリント回路基板等の基板同士を接続する基板対基板コネクタ、電線ケーブルと電線ケーブルとを接続するケーブルコネクタ、プリント回路基板等に実装され、メモリカード等のカードを収容して接続するカードコネクタ、プリント回路基板等に実装され、電線ケーブルを接続する基板対ケーブルコネクタ、プリント回路基板等に実装され、他のプリント回路基板等のエッジ部を収容して接続するエッジコネクタ等であってもよく、ケーブル又は基板と電気的に接続されるコネクタであれば、いかなる種類のコネクタであってもよい。また、前記端子51は、前記コネクタのハウジングに装填され、ケーブルの導電部材又は基板の導電部材と接触して電気的に導通する。
そして、前記端子51の基材52の表面には被膜53が形成されている。なお、該被膜53は、端子51全体の表面に形成されていてもよいし、端子51における一部のみの表面に形成されていてもよい。本実施の形態において、前記被膜53は、少なくとも端子51における外部応力が発生する部分、例えば、相手方コネクタの端子、平板状ケーブル、電線ケーブル等の導電線、プリント回路基板等の導電トレース等と接触する部分であってコンタクト部、テール部等と称される部分や、端子51が装填されているコネクタのハウジングに形成された端子保持溝、端子保持孔(こう)等の壁面等と接触する部分のように、外部から押圧力のような力を受ける部分の表面に形成されているものとする。
本実施の形態において、被膜53は、基材52の表面上に形成された下地層としてのニッケル(Ni)下地めっき層54と、該ニッケル下地めっき層54の上に形成された偏析抑制層としての銀(Ag)めっき層55と、該銀めっき層55の上に形成された錫ビスマス合金層56とを備える。なお、ニッケル下地めっき層54は、必ずしも必要なものではなく、適宜省略することができるが、ここでは、ニッケル下地めっき層54を形成した場合について説明する。また、基材52は、銅又は銅合金から成るものであるとする。なお、見やすさを優先する都合上、図における各層の厚みの比率は正確に表現していない。
ニッケル下地めっき層54は、ニッケルめっき浴を用いて電気めっきを行うことによって形成される。なお、ニッケル下地めっき層54の厚さは、任意に設定することができるが、0.5〜5.0〔μm〕であることが望ましい。
また、銀めっき層55は、銀めっき浴を用いて電気めっきを行うことによって形成される。銀めっき層55は薄層であり、その厚さは0.05〜0.3〔μm〕であることが望ましい。
さらに、錫ビスマス合金層56は、錫ビスマスめっき浴を用いて電気めっきを行うことによって形成される錫ビスマス合金のめっき層である。錫ビスマス合金層56における錫ビスマス合金において錫に対するビスマスの割合は、1.0〜4.0〔wt%〕である。ここで、錫に対するビスマスの割合を上述のような範囲としたのは、その下限値1.0〔wt%〕以下であると、ウィスカの発生を抑制する効果が不十分であるためであり、その上限値4.0〔wt%〕以上であると、SnBi合金めっきのはんだ付部の強度が低下して信頼性が劣る可能性が高くなるためである。また、錫ビスマス合金層56の厚さは0.5〜5.0〔μm〕であることが望ましいが、後述の実験例のように、2.0〔μm〕で製造される場合が多い。好ましい範囲としては、ばらつきも含め1.0〜3.0〔μm〕である。
このように、本実施の形態においては、基材52と該基材52の上に形成された錫ビスマス合金から成る錫ビスマス合金層56との間に銀めっき層55が形成されている。換言すると、基材52上に形成されたビスマスの偏析を抑制する偏析抑制層と、該偏析抑制層上に形成された錫ビスマス合金から成る層とを備える。前記銀めっき層55は、錫ビスマス合金層56におけるビスマスの偏析を抑制する機能を備えるので、錫ビスマス合金層56におけるウィスカの発生及び成長が効果的に抑制される。
「発明が解決しようとする課題」の項でも説明したように、錫ビスマス合金から成る被膜を形成した端子であっても、コネクタの基板への実装の際に錫ビスマスの融点近傍の温度にまで端子が加熱されると、ウィスカが発生して成長してしまうことがある。これは、加熱によって錫ビスマス合金から成る被膜が溶融し、該被膜内でビスマスが移動して部分的に偏析するため、常温に戻った錫ビスマス合金層に外部応力が発生すると、ビスマスの存在しない部分でウィスカが発生して成長するからであると考えられる。
これに関して、本発明の発明者は、錫ビスマス合金から成る層または基材との間に銀から成る薄層を形成すると、該薄層がビスマスの偏析を抑制する偏析抑制層として機能することを見出した。このように、銀から成る薄層を形成しておくと、コネクタの基板への実装の際に錫ビスマス合金の融点近傍の温度にまで端子が加熱された際、銀が錫ビスマス層へ拡散する。そうすると、拡散した銀によりビスマスの移動が制限されビスマスの偏析が抑制されるので、ウィスカの発生及び成長が効果的に抑制される。なお、端子の表面に形成される下地層の存在は、その上に形成される銀から成る薄層及び錫ビスマス合金層の品質、膜厚の均一性等の向上に寄与するが、ビスマスの偏析の抑制にはほとんど関与しない。
次に、前記銀めっき層55を形成したことによる効果について、詳細に説明する。
図2は本発明の第1の実施の形態における実験例1〜3の結果を示す図、図3は本発明の第1の実施の形態における実験例1の結果を示す電子顕微鏡写真、図4は本発明の第1の実施の形態における実験例2の結果を示す電子顕微鏡写真である。なお、図3及び4において、(a)は倍率が100倍、(b)は倍率が150倍、(c)は倍率が500倍である。
本発明の発明者は、FPCコネクタの端子51を用いて実験を行った。前記FPCコネクタは、20本の端子51を有し、隣接する端子51同士のピッチが0.5〔mm〕の狭ピッチコネクタであり、端子51の基材52は銅合金から成るものである。そして、被膜53が相違する3種類の端子51を用いて実験結果を比較した。
実験例1は、従来例に相当するものであり、被膜53が銀めっき層55を含まないものである。すなわち、基材52の表面上に形成されたニッケル下地めっき層54と、該ニッケル下地めっき層54の上に形成された錫ビスマス合金層56とを被膜53として有する端子51である。
また、実験例2は、本発明に相当するものであり、被膜53が銀めっき層55を含むものである。すなわち、基材52の表面上に形成されたニッケル下地めっき層54と、該ニッケル下地めっき層54の上に形成された銀めっき層55と、該銀めっき層55の上に形成された錫ビスマス合金層56とを被膜53として有する端子51である。
さらに、実験例3は、比較のために用いるものであり、錫ビスマス合金層56に代えて、ビスマスを含有しない錫めっき層を形成したものである。すなわち、基材52の表面上に形成されたニッケル下地めっき層54と、該ニッケル下地めっき層54の上に形成された銀めっき層55と、該銀めっき層55の上に形成された錫めっき層とを被膜53として有する端子51である。
なお、ニッケル下地めっき層54は、実験例1〜3のいずれにおいても、厚さが2.0〔μm〕となるように形成された。また、錫ビスマス合金層56は、実験例1及び2のいずれにおいても、錫に添加するビスマスの割合が3.0〔wt%〕のSnBiであり、厚さが2.0〔μm〕となるように形成された。さらに、銀めっき層55は、実験例2及び3のいずれにおいても、厚さが0.1〔μm〕となるように形成された。さらに、実験例3における錫めっき層は、ビスマスを含まず、厚さが2.0〔μm〕となるように形成された。なお、被膜53は、少なくとも平板状ケーブルと接触するコンタクト部を含む端子51のほぼ全表面に形成された。
実験のサンプル数は、実験例1〜3のいずれにおいても、24極の端子51がハウジングに装填されたFPCコネクタが5個ずつ、すなわち、端子51が120極ずつである。
また、実験の前処理として、実験例1〜3のいずれにおいても、FPCコネクタを基板へ実装する際に行われるはんだリフロー処理と同様に、FPCコネクタを加熱した。
そして、実験においては、FPCの基板と同様のサイズの樹脂基板をコネクタに接続し、端子51のコンタクト部に前記樹脂基板からの圧力が付与されるようにして所定環境下に所定時間放置した後、前記樹脂基板を外して端子51のコンタクト部の表面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察した。観察の際の倍率は、50倍以上であることが望ましく、本実験においては150倍に設定した。そして、図3(b)及び4(b)に示されるような150倍の電子顕微鏡写真に基づいて、ウィスカの発生の有無を判断し、ウィスカの発生があった場合には、ウィスカの長さを測定した。
なお、端子51のコンタクト部に樹脂基板から付与される圧力は、1本の端子51当たり、約2.0〔N〕に設定した。また、前記所定環境、すなわち、実験環境は室温25〔℃〕、50RH〔%〕のオフィス環境に設定し、前記所定時間、すなわち、圧力付与時間は1000時間に設定した。
これにより、図2に示されるような実験結果を得ることができた。図2において、横軸には実験例1〜3を採り、右側縦軸にはウィスカの発生率〔%〕を採り、左側縦軸にはウィスカの長さの測定値〔μm〕を採った。また、図中の四角い黒点は各実験例におけるウィスカの発生率〔%〕を示し、棒グラフは各実験例において発生したウィスカのうち最長(最大)のウィスカの長さを示している。ここでは、できるだけ効果が顕著に現れるように、実使用上よりも、めっき表面への圧縮エネルギがより蓄積するよう配慮した加速試験である。この加速試験では、FPC側の軟質な部分である裏面をコネクタ側の硬質な端子51と接触させながら端子51のめっき被膜に弾性応力を加え、ウィスカが発生しやすい状態においてウィスカの発生状態を観察している。実際にコネクタを使用する状況においては、このような加速試験下におけるウィスカの発生状態とは異なり、FPC側の硬質な部分である導電部材とコネクタ側の硬質な端子51とが接触するため、ウィスカの最大発生長さは、上記加速試験におけるウィスカ発生長さの1/2〜1/3程度に留まる。
図2から分かるように、銀めっき層55が形成されていない実験例1の場合には、ウィスカの発生率が90〔%〕という高率となった。これに対し、錫ビスマス合金層56の下に銀めっき層55が形成されている実験例2の場合には、ウィスカの発生率が20〔%〕に抑制されている。
また、最長のウィスカの長さは、実験例1の場合には110〔μm〕であるのに対して、実験例2の場合には25〔μm〕と短くなっている。このことから、銀めっき層55が形成されていない実験例1の場合には発生したウィスカによって短絡が生じる可能性があるのに対し、錫ビスマス合金層56の下に銀めっき層55が形成されている実験例2の場合には、ウィスカが発生したとしても、短絡が生じる可能性がないことが分かる。
なぜならば、端子51のピッチが0.5〔mm〕のFPCコネクタでは、通常、隣接する端子51間の最短空間距離、すなわち、最短絶縁距離は、約200〔μm〕である。したがって、端子51の表面の錫ビスマス合金層56から延出するウィスカの長さが前記最短絶縁距離の1/2である100〔μm〕以上になると、隣接する端子51のウィスカ同士が接触して短絡が生じる可能性がある。これに対し、実験例2の場合には、最長のウィスカであっても、その長さが前記最短絶縁距離の約1/8であるから、短絡が生じる可能性がない。仮に、隣接する端子51間の電位差が極めて高く、隣接する端子51のウィスカ間に空中放電が生じやすい状態になったとしても、実験例2の場合には、最長のウィスカの長さが25〔μm〕であって、隣接する端子51のウィスカ間の距離が150〔μm〕以上となるから、空中放電が防止されると考えられる。
なお、図3には、実験例1において発生したウィスカを撮影した電子顕微鏡写真が示されている。(b)は実験において観察に使用した150倍の倍率の写真であり、(a)は実験に用いたFPCコネクタにおける端子51のコンタクト部の配置を理解するための参考として示した100倍の倍率の写真であり、(c)は発生したウィスカの形状及び長さを理解するための参考として示した500倍の倍率の写真である。図3から、端子51のコンタクト部から横方向に、すなわち、隣の端子51に向けて延出するように成長した細長い針状又は糸状のウィスカの存在を確認することができる。
一方、図4には、実験例2において発生したウィスカを撮影した電子顕微鏡写真が示されている。(a)〜(c)は、図3の場合と同様の写真である。図4と図3とを見比べることによって、実験例2において発生したウィスカは、実験例1において発生したウィスカと比較して、極めて短いものであることが分かる。
このように、実験例1及び2から、基材52と該基材52の上に形成された錫ビスマス合金層56との間に銀めっき層55を形成することによって、錫ビスマス合金層56におけるビスマスの偏析が抑制され、錫ビスマス合金層56におけるウィスカの発生及び成長が効果的に抑制されることが証明された。
また、図2から分かるように、錫ビスマス合金層56に代えてビスマスを含有しない錫めっき層を形成した実験例3の場合には、ウィスカの発生率が38〔%〕となり、最長のウィスカの長さが80〔μm〕となった。実験例2と比較すると、ウィスカの発生率が高く、また、ウィスカの長さも長いことが分かる。このことから、ウィスカの発生及び成長は、銀めっき層55が錫ビスマス合金層56におけるビスマスの偏析を抑制するからこそ効果的に防止されるのであって、ビスマスを含有しない錫めっき層においては、さほど効果的に防止されないことが分かる。つまり、銀めっき層55が備える錫ビスマスにおけるビスマスの偏析を抑制する機能によって、ウィスカの発生及び成長が効果的に防止されることが証明された。
次に、銀めっき層55の厚さの望ましい範囲について説明する。
図5は本発明の第1の実施の形態における実験例2−1〜2−8の結果を示す図である。
本発明の発明者は、銀めっき層55の厚さの望ましい範囲を求めるために、実験例2−1〜2−8として、銀めっき層55の厚さが相違するサンプルを用意し、前述と同様の実験を再度行った。
実験例2−1は銀めっき層55の厚さが0〔μm〕、実験例2−2は銀めっき層55の厚さが0.03〔μm〕、実験例2−3は銀めっき層55の厚さが0.05〔μm〕、実験例2−4は銀めっき層55の厚さが0.07〔μm〕、実験例2−5は銀めっき層55の厚さが0.1〔μm〕、実験例2−6は銀めっき層55の厚さが0.2〔μm〕、実験例2−7は銀めっき層55の厚さが0.3〔μm〕、実験例2−8は銀めっき層55の厚さが0.5〔μm〕である。
銀めっき層55の厚さ以外の点について、実験例2−1〜2−8はすべて同一であり、かつ、前記実験例2と同一である。なお、実験例2−1は、銀めっき層55を形成しないものであるから、前記実験例1と同一のものである。また、実験例2−5は、銀めっき層55の厚さが0.1〔μm〕であるから、前記実験例2と同一のものである。そこで、実験例2−1及び2−5については、サンプルの用意及び実験を省略し、前記実験例1及び2の結果を各々援用した。つまり、実際には、実験例2−2、2−3、2−4、2−6、2−7及び2−8についてサンプルを用意して実験を行った。
なお、実験のサンプル数は、前記実験例1〜3と同様に、FPCコネクタが5個ずつ、すなわち、端子51が120極ずつである。また、実験の内容も前記実験例1〜3と同様である。
これにより、図5に示されるような実験結果を得ることができた。図5において、横軸には銀めっき層55の厚さ〔μm〕を採り、縦軸にはウィスカの長さの測定値〔μm〕を採った。また、図中の菱(ひし)形の黒点は各実験例において発生したウィスカのうち最長(最大)のウィスカの長さを示し、図中の曲線は菱形の黒点の各々を結ぶように描いたものである。
前述のように、端子51のピッチが0.5〔mm〕のFPCコネクタでは、通常、隣接する端子51間の最短絶縁距離は、約200〔μm〕であるから、端子51の表面の錫ビスマス合金層56から延出するウィスカの長さが前記最短絶縁距離の1/2である100〔μm〕以下であれば、隣接する端子51のウィスカ同士が接触して短絡が生じる可能性がない。しかし、隣接する端子51のウィスカ間に生じ得る空中放電の可能性を考慮すると、短絡を確実に防止するためには、ある程度の安全率を考慮することが必要である。そこで、安全率を2倍、すなわち、安全係数を2に設定すると、許容されるウィスカの長さは50〔μm〕となる。
そして、図5に示される曲線において、ウィスカの長さが50〔μm〕以下となるのは、銀めっき層55の厚さが0.05〜0.3〔μm〕の範囲であることが分かる。なお、実験例2−1〜2−8において、錫ビスマス合金層56の厚さは2.0〔μm〕であるから、銀めっき層55の厚さが0.05〜0.3〔μm〕であることは、銀めっき層55の厚さは、錫ビスマス合金層56の厚さの1.0〜60〔%〕であることに対応する。また、実験例2−1〜2−8において、錫ビスマス合金層56におけるビスマスの割合が3.0〔wt%〕であるから、銀めっき層55の厚さが0.05〜0.3〔μm〕であることは、錫ビスマス合金層56が含むビスマスに対する銀めっき層55が含む銀の割合が25〜6000〔wt%〕であることに対応する。ここで、下限値は(Ag100〔%〕×0.05〔μm〕)/(Bi4〔%〕×5〔μm〕)により計算され、上限値は(Ag100〔%〕×0.3〔μm〕)/(Bi1〔%〕×0.5〔μm〕)により計算された結果に基づいている。
このように、実験例2−1〜2−8から、基材52と該基材52の上に形成された錫ビスマス合金層56との間に形成する銀めっき層55の厚さが0.05〜0.3〔μm〕、前記銀めっき層55の厚さが錫ビスマス合金層56の厚さの1.0〜60〔%〕、又は、錫ビスマス合金層56におけるビスマスに対する銀めっき層55における銀の割合が25〜6000〔wt%〕であれば、錫ビスマス合金層56におけるビスマスの偏析が抑制され、錫ビスマス合金層56におけるウィスカの発生及び成長が効果的に抑制され、ウィスカに起因する短絡を防止可能であることが証明された。
このように、本実施の形態において、コネクタは、ハウジングと、ハウジングに装填された端子51とを有し、端子51は、金属から成る基材52と、基材52上に形成されたビスマスの偏析を抑制する偏析抑制層として機能する銀めっき層55と、銀めっき層55とともに形成された錫ビスマス合金から成る錫ビスマス合金層56とを備える。
これにより、端子51がケーブルの導電部材又は基板の導電部材と接触したり、ハウジングに装填されたりして、前記導電部材、ハウジングの壁面等から力を受けた場合であっても、すなわち、外部応力が発生した場合であっても、端子51の表面におけるウィスカの発生及び成長を効果的に抑制することができ、短絡の発生を防止することができる。その結果、コネクタの安定動作を確保することができ、コネクタの信頼性が向上する。これは、銀めっき層55によって錫ビスマス合金層56におけるビスマスの偏析が抑制されるため、その結果として、錫ビスマス合金層56におけるウィスカの発生及び成長が効果的に抑制されるからである。
特に、コネクタを基板に実装する際に行われるはんだリフロー処理によってコネクタが加熱されると、錫ビスマス合金層56において錫とビスマスとが分離してビスマスが偏析しやすくなるが、銀めっき層55が備える偏析抑制層としての機能によって、錫ビスマス合金層56におけるビスマスの偏析が抑制される。そのため、ビスマスの偏析が主要因であると考えられる錫ビスマス合金層56におけるウィスカの発生及び成長が、効果的に抑制される。
また、端子51は、基材52と銀めっき層55との間に形成された下地層としてのニッケル下地めっき層54を備える。これにより、銀めっき層55及び錫ビスマス合金層56がより容易に、かつ、確実に形成される。
さらに、銀めっき層55の厚さは0.05〜0.3〔μm〕である。また、銀めっき層55の厚さは錫ビスマス合金層56の厚さの1.0〜60〔%〕である。さらに、錫ビスマス合金層56が含むビスマスに対する銀めっき層55が含む銀の割合が25〜6000〔wt%〕である。これにより、錫ビスマス合金層56におけるビスマスの偏析が抑制され、錫ビスマス合金層56におけるウィスカの発生及び成長を効果的に抑制することができる。また、比較的高価な銀の量が微量であるから、端子51のコストの上昇を抑制することができる。
さらに、コネクタは、金属から成る端子51の基材52の表面に銀めっき層55を形成し、銀めっき層55上に錫ビスマス合金層56を形成し、基材52の表面に銀めっき層55及び錫ビスマス合金層56が形成された端子51をハウジングに装填することによって製造される。したがって、複雑な製造工程を新たに追加することなく、コネクタを容易に製造することができ、コネクタのコストの上昇を抑制することができる。
なお、本実施の形態においては、説明の都合上、前記端子51は、ニッケル下地めっき層54上において、銀めっき層55と錫ビスマス合金層56とがあたかも別々に積層されているように表現されているが、実際には加熱処理後に、銀めっき層55から錫ビスマス合金層56に銀成分が拡散し浸入した形態となっている。つまり、この状態では、銀めっき層55と錫ビスマス合金層56とは、その間に層の境界が存在している代わりに、銀めっき層55の方が錫ビスマス合金層56よりも銀成分の比率が高い構成となっている。
また、本実施の形態における端子51の表面は、ニッケル下地めっき層54と銀めっき層55との間に更にもう1層、錫ビスマス合金層を設けた層構造を有するものであってもよい。つまり、端子51は、基材52から順に、ニッケル下地めっき層54、当該錫ビスマス合金層、銀めっき層55及び錫ビスマス合金層56の順で積層され、銀めっき層55が2つの錫ビスマス合金層によって挟込まれた層構造であってもよい。また、ニッケル下地めっき層54の材質としては、ニッケル(Ni)のみならず、Cu、SnBi若しくはSn又はこれらいずれかの組合せを採用することができる。
さらに、本実施の形態では、偏析抑制層としての銀めっき層55が存在していれば、必ずしもニッケル下地めっき層54が存在していなくても、ウィスカの発生を抑制する効果を発揮することができる。また、前記端子51は、そのような錫ビスマス合金層をニッケル下地めっき層54の代わりに積層するようにしてもよい。すなわち、端子51は、基材52から順に、当該錫ビスマス合金層、銀めっき層55及び錫ビスマス合金層56が積層されている。
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図6は本発明の第2の実施の形態における実験例を示す倍率が500倍の電子顕微鏡写真、図7は本発明の第2の実施の形態におけるコネクタの端子表面被膜の断面を示す倍率が5000倍の電子顕微鏡写真、図8は本発明の第2の実施の形態におけるコネクタの端子表面部分の断面を示すビットマップ、図9は本発明の第2の実施の形態におけるコネクタの端子表面被膜の断面を示す模式図である。なお、図6において、(a)は実験例2−7、(b)は実験例2−8、図8において、(a)は断面全体を示すビットマップ、(b)は錫ビスマス合金層を示すビットマップ、(c)は銀めっき層を示すビットマップである。
本発明の発明者は、前記第1の実施の形態における実験例2−1〜2−8のサンプルをより詳細に観察した結果、偏析抑制層としての銀めっき層55の厚さが厚くなると、錫ビスマス合金層56の表面に凹凸が発生することを発見した。また、前記第1の実施の形態で説明した図3及び4に示されるようなウィスカよりも径の大きなウィスカが発生することも発見した。
図6(a)及び(b)には、実験例2−7及び2−8のサンプルと同様のもの、すなわち、銀めっき層55の厚さが、それぞれ、0.3〔μm〕及び0.5〔μm〕である端子51の表面を撮影した500倍の電子顕微鏡写真が示されている。
つまり、銀めっき層55の厚さが厚くなると、前記第1の実施の形態で説明した図3及び4に示されるような比較的細いウィスカ、すなわち、小径ウィスカが発生するのみならず、錫ビスマス合金層56の表面に微小な凹凸が発生し、その一部が成長して、図6(a)及び(b)に示されるような比較的太いウィスカ、すなわち、大径ウィスカとなることが判明した。
小径ウィスカは、「発明が解決しようとする課題」の項でも説明したようなメカニズムで発生して成長するものと考えられるが、大径ウィスカは、小径ウィスカと比較して極めて径が大きく、かつ、複雑な外形を備えているので、別のメカニズムで発生して成長するものと考えられる。
そこで、本実施の形態においては、銀めっき層55及び錫ビスマス合金層56を含む被膜53、すなわち、端子51の表面被膜の内部変化を解析するために、端子51のコンタクト部の表面被膜の断面を、前記第1の実施の形態で使用したものと同様の走査型電子顕微鏡で観察した。観察の対象は、実験例2−8のサンプルと同様のもの、すなわち、銀めっき層55の厚さが0.5〔μm〕、錫ビスマス合金層56の厚さが2.0〔μm〕の端子51の表面部分の断面である。図7には、倍率が5000倍の電子顕微鏡写真が示されている。図7から、端子51の表面、すなわち、錫ビスマス合金層56の表面には、小さな凸部が発生しているとともに、比較的短い大径ウィスカが発生していることが分かる。
そして、銀めっき層55及び錫ビスマス合金層56の状態を観察するために、電子顕微鏡写真の一部をビットマップ化したものが図8(a)に示されている。また、図8(b)には、図8(a)のビットマップから錫ビスマス合金層56に対応するビットを抽出したビットマップが示され、図8(c)には、図8(a)のビットマップから銀めっき層55に対応するビットを抽出したビットマップが示されている。
図8(a)〜(c)から、端子51の錫ビスマス合金層56の表面における凸部及び大径ウィスカは、銀めっき層55の表面上の凸部に対応した部位に発生していることが分かる。つまり、銀めっき層55の表面上に凸部が存在すると、該凸部の上方における錫ビスマス合金層56の表面が盛上がるようにして、又は、前記凸部の周囲を錫ビスマス合金層56が包込むようにして、錫ビスマス合金層56の表面における凸部及び大径ウィスカが発生していることが分かる。この状態を図に示すと、図9に示されるようになる。
なお、端子51の錫ビスマス合金層56の表面における凸部及び大径ウィスカは、いずれも、銀めっき層55の表面上の凸部の上方における錫ビスマス合金層56の表面が盛上がることによって、又は、銀めっき層55の表面上の凸部の周囲を錫ビスマス合金層56が包込むことによって形成される点で共通し、その高さ又は長さの点で相違する。つまり、端子51の錫ビスマス合金層56の表面における凸部及び大径ウィスカは、同等の性質のものであって、その寸法が相違するに過ぎないものであるから、ここでは、前記凸部及び大径ウィスカを総称して、大径ウィスカと称することとする。
該大径ウィスカは、偏析抑制層としての銀めっき層55の表面の凸部に対応した部位に発生するウィスカ、すなわち、銀めっき層55の表面の凸部に影響されて、又は、対応して発生するウィスカである、と言える。一方、前記第1の実施の形態で説明した図3及び4に示されるような小径ウィスカは、偏析抑制層としての銀めっき層55の表面に凸部が存在しなくても発生するウィスカ、すなわち、銀めっき層55の表面の凸部と無関係に発生するウィスカである、と言える。
次に、前記第1の実施の形態における実験例2−1〜2−8と同様のサンプルをより詳細に観察し、各実験例において発生したウィスカを小径ウィスカと大径ウィスカとに識別して長さを測定した結果について説明する。
図10は本発明の第2の実施の形態における実験例2−1〜2−8の結果を示す図である。
本実施の形態においては、前記第1の実施の形態と同様のサンプルを用意して、前記第1の実施の形態と同様の実験を再度行った。本実施の形態における実験例2−1〜2−8は、前記第1の実施の形態における実験例2−1〜2−8と同様の条件を備えるものであり、サンプル数その他の条件も前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。なお、本実施の形態においては、ウィスカを小径ウィスカと大径ウィスカとに識別して長さを測定した。
これにより、図10に示されるような実験結果を得ることができた。図10において、横軸には銀めっき層55の厚さ〔μm〕を採り、縦軸にはウィスカの長さの測定値〔μm〕を採った。また、図中の菱形の黒点は各実験例において発生した小径ウィスカのうち最長(最大)のウィスカの長さを示し、図中の実線の曲線は菱形の黒点の各々を結ぶように描いたものである。さらに、図中の正方形の黒点は各実験例において発生した大径ウィスカのうち最長(最大)のウィスカの長さを示し、図中の一点鎖線の曲線は正方形の黒点の各々を結ぶように描いたものである。
図10に示される実線の曲線から、小径ウィスカの長さは、銀めっき層55を形成することによって減少し、銀めっき層55の厚さが0.1〔μm〕までの範囲、すなわち錫ビスマス合金層56に対する銀めっき層55の厚さの割合が5〔%〕まででは、銀めっき層55の厚さを増加させることによって急激に減少することが分かる。また、銀めっき層55の厚さが0.1〔μm〕以上の範囲、すなわち錫ビスマス合金層56に対する銀めっき層55の厚さの割合が5〔%〕以上では、銀めっき層55の厚さを増加させることによって、小径ウィスカの長さが漸次減少することが分かる。
このことから、錫ビスマス合金層56に対する銀めっき層55の厚さの割合を5〔%〕以上にするよう錫ビスマス合金層56の下に銀めっき層55を形成すると、小径ウィスカの発生及び成長を効果的に抑制することができ、かつ、銀めっき層55が厚いほど小径ウィスカの発生及び成長を抑制する効果が大きいことが判明した。
これは、錫ビスマス合金層56に対して偏析抑制層が厚いほど、偏析抑制層の成分が錫ビスマス合金層56へ拡散するため、ビスマスの偏析がより抑制され、小径ウィスカの成長を抑制するためと考えられる。
一方、図10に示される一点鎖線の曲線から、大径ウィスカの長さは、銀めっき層55の厚さが0.1〔μm〕以上で測定可能な程度に発生し、銀めっき層55の厚さが0.1〜0.3〔μm〕の範囲では、銀めっき層55の厚さにほぼ比例して大径ウィスカの長さが増加することが分かる。また、銀めっき層55の厚さが0.3〔μm〕以上の範囲でも、増加の程度は減少するものの、銀めっき層55の厚さが増加するほど大径ウィスカの長さが増加することが分かる。なお、銀めっき層55の厚さが0.05〜0.1〔μm〕の範囲では、正方形の黒点が横軸上に位置する、すなわち、大径ウィスカの長さがゼロであることを示しているが、これは、錫ビスマス合金層56の表面に大径ウィスカとしての凸部が存在するものの、その高さ又は長さが微小であって測定不能であることを示している。
このことから、錫ビスマス合金層56の下に形成した銀めっき層55を厚くすると、該銀めっき層55の表面に凸部が発生しやすく、かつ、該凸部が大きくなりやすくなり、その結果、錫ビスマス合金層56の表面において銀めっき層55の表面上の凸部の上方に形成される大径ウィスカも、発生しやすく、かつ、成長しやすくなると考えられる。
言い換えれば、図10における銀めっき層55の厚さが0.17〔μm〕以上の場合、錫ビスマス合金層56と銀めっき層55との厚さの割合に関係なく、大径ウィスカが小径ウィスカを上回って成長すると考えられる。
なお、前記第1の実施の形態で説明した図5に示される曲線は、図10に示される菱形の黒点及び正方形の黒点のうちの値の大きいものを選択して結んだ曲線であると言える。すなわち、図5に示される曲線は、図10において銀めっき層55の厚さが0.1〔μm〕以下の範囲では菱形の黒点を選択し、銀めっき層55の厚さが0.2〔μm〕以上の範囲では正方形の黒点を選択して結んだ曲線と、同等のものである。
前記第1の実施の形態で説明したように、許容されるウィスカの長さは50〔μm〕であり、ウィスカの長さが50〔μm〕以下となるのは、銀めっき層55の厚さが0.05〜0.3〔μm〕の範囲である。しかし、銀は比較的高価な材料であるので、コストの観点から、銀めっき層55の厚さが薄いことが望ましいところ、銀めっき層55の厚さが0.2〔μm〕以上の範囲ではウィスカの長さが増加してしまうのであるから、前記範囲の上限を0.2〔μm〕とすることが、より望ましい。また、銀めっき層55の厚さは錫ビスマス合金層56の厚さに対しその割合が大きいほど錫ビスマス合金層56への銀の拡散が多く、ウィスカの成長を抑制することができる。本実施の形態では錫ビスマス合金層56の厚さが2〔μm〕で、銀めっき層55の厚さが0.05〔μm〕以上が好ましいことから、その割合を2.5〔%〕以上とすることがより望ましい。
同様に、錫ビスマス合金層56におけるビスマスの割合が3.0〔wt%〕であるから、銀めっき層55の厚さが0.05〜0.2〔μm〕であることは、錫ビスマス合金層56が含むビスマスに対する銀めっき層55が含む銀の割合が25〜4000〔wt%〕であることに対応する。
また、銀めっき層55が厚いほど小径ウィスカの発生及び成長を抑制することができるのに対し、銀めっき層55の厚さが増加するほど大径ウィスカの長さが増加するのであるから、銀めっき層55の厚さは、大径ウィスカが支配的にならない範囲であることが更に望ましい。そして、図10において、最長の小径ウィスカの長さを示す実線の曲線と最長の大径ウィスカの長さを示す一点鎖線の曲線との交点が、小径ウィスカが支配的な範囲と大径ウィスカが支配的な範囲との境界に対応し、前記交点に対応する銀めっき層55の厚さは0.17〔μm〕である。
また、銀めっき層55の厚さが0.1〔μm〕以上、すなわち錫ビスマス合金層56の5〔%〕以上で、発生する小径ウィスカの長さが抑えられているのがわかる。してみると、銀めっき層55の厚さが錫ビスマス合金層56の厚さに対し5〔%〕以上できるだけ大きな割合でめっき層が形成され、かつ、銀めっき層の厚みが0.17〔μm〕以下の範囲であることが更に望ましい。
このように、本実施の形態においては、端子51の基材52上に形成されたビスマスの偏析を抑制する偏析抑制層として機能する銀めっき層55の厚さの割合と上限を規定することによって、銀めっき層55上に形成された錫ビスマス合金から成る錫ビスマス合金層56の表面におけるウィスカの発生及び成長を効果的に抑制することができる。また、比較的高価な材料である銀の使用量を抑制することによって、コネクタのコストを抑制することができる。
その他の点の構成及び効果については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。