JP5961867B2 - 切断性にすぐれたソーワイヤおよびその製造方法 - Google Patents

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本発明は、シリコンインゴットをはじめとする半導体インゴット、水晶、サファイアなどの硬脆材料をスライス切断しウェハ状の板を作製することに適したソーワイヤとその製造方法に関するものである。
従来から、ソーワイヤによる切断作業は、シリコンインゴットをはじめとする半導体インゴット、水晶、サファイアなどの硬脆材料をスライス切断しウェハ状の板を作製することに
用いられている。
ソーワイヤは、シリコンインゴット等を切断加工する機械であるワイヤソーマシンのメインローラに所定の間隔で掛け、ダイヤモンド等の硬質砥粒と専用の油性剤あるいは水性剤とを混合したスラリーを吹き付けながら高速で走行させることにより、シリコンインゴット等の被切断物を切断するものである。
図1にワイヤソーマシンの概略図を示す。ワイヤソーマシンでは、供給リール2から供給されたソーワイヤ1は、メインローラ3に幾重にも巻きかけて高速走行する。
このとき、ソーワイヤ1はメインローラ3間で高張力負荷状態となっており、被切断物6を上から押し付けると、吹き付けられたスラリー5によって被切断物6が研削され、薄くスライスされる。
なお、使用済みのソーワイヤ1は、排出リール4へと巻き取られる。
ソーワイヤを用いて被切断物を切断する場合、ソーワイヤに求められる特性は、良好なウェハ品質が得られ、切断時の断線リスクが小さいワイヤである。また、良好なウェハ品質を得るためには、切断機のメインローラ間のワイヤ張力をできるだけ高く設定してワイヤの真直形態を保ちつつ切断時のワイヤ軌跡を安定させることが有効である。
したがって、ソーワイヤに求められる特性は、高強度であることである。
また、ソーワイヤには、良好な線くせ(ワイヤ長手方向にわたって変化のない均一な直径300mm程度のコイル状のくせ)を有することが求められる。線くせが悪いと、例えばコイル径が小さいくせであったり、スパイラル状のくせであったりすると、たとえワイヤに高張力をかけても、真直形態を維持することができなくなり、ウェハ精度を低下させてしまう。
通常切断時のワイヤは弾性域内での引張張力で張られた状態で使用されているが、何らかの要因でソーマシンのメインローラ間のワイヤが弾性域以上の張力を瞬間的に受けた場合は、塑性伸びが生じてメインローラ間のワイヤに弛みが発生し、それがウェハ面精度を悪化させる原因となる。ウェハ面精度が悪化すると、その修復研磨に長時間を要し、修復できないときは被切断物を破棄することになる。
そこで、高強度で、0.2%耐力比が高いワイヤが望まれるが、0.2%耐力比が高すぎる(塑性伸びが少なすぎる)と、切断時に瞬間的に過剰張力がワイヤに負荷された場合にワイヤ断線が発生してしまう原因となるため、切断性にすぐれたソーワイヤの特性は、高強度であり、かつ良好な線くせを有し、切断時に断線しないものである。特許第3814070号公報には強度が高く、延性にすぐれた高強度極細鋼線が記載されている。
また、鋼硬線の伸線を行う場合、ダイスのアプローチ角度は、断面減少率と引抜き力の関係から、引抜き力を最小にする角度である12〜14°が広く採用されてきた。
特許第3814070号公報
ソーワイヤは、切断時は弾性域内での引張張力で張られた状態で使用されているが、何らかの要因でワイヤが弾性域以上の張力を受けた場合は、塑性伸びが生じてメインローラ間のワイヤに弛みが発生し、それがウェハ面精度を悪化させてしまう。そこで、0.2%耐力比が高いワイヤが望まれるが、0.2%耐力比が高すぎると、過剰張力がワイヤに負荷された場合にワイヤ断線が発生してしまう、という問題点があった。さらに、ワイヤ線くせが悪いと、たとえワイヤに高張力をかけても、真直形態を維持することができなくなり、ウェハ精度を低下させてしまう、という問題点があった。
本発明は、前記の問題を解決しようとするもので、ワイヤの必要弾性値を確保し、かつワイヤ線くせに対する安定性も両立できる、切断性にすぐれたソーワイヤおよびその製造方法を提供することにある。
すなわち、本発明のソーワイヤは、引張強さが3900MPa以上であり、0.2%耐力比が94〜98%の範囲であり、フリーコイル径が300mm以上であることを特徴とする。
また、前記ソーワイヤの製造方法は、鋼線材に熱処理とメッキを施した後、中間径まで伸線して得た素線を、ダイスを用いて湿式伸線を行う際、
最終ダイスはアプローチ角度を8〜10°とし、かつ1パス減面率を16〜22%の範囲で、
最終ダイス以外のダイスはアプローチ角度を4〜8°とし、かつ1パス減面率を16〜22%の範囲で湿式伸線加工されてなることを特徴とする。
本発明の製造方法によれば、切断ウェハ面精度が良好で、切断時の断線を低減させることができ、切断性が良好で、製造時の生産性が高いソーワイヤを製造することができる。
図1は、ワイヤソーマシンの概略図である。 図2は、本発明の湿式伸線に使用されるダイスの概略図である。 図3は、湿式伸線機の模式図である。
以下、適宜図面が参照されつつ、本発明のソーワイヤの好ましい一形態をその製造方法とともに説明する。
ここで、本発明において、0.2%耐力比とは、下記一般式(1)、
0.2%耐力比=(0.2%耐力/引張強さ)×100 [%] (1)
で示される。
また、ダイスのアプローチ角度とは、図2のαの角度である。
本発明は、ソーワイヤの製造方法において、
鋼線材に熱処理とメッキを施した後、中間径まで伸線して得た素線7を、熱処理後ダイスで湿式伸線する際、最終ダイス11はアプローチ角度8〜10°のダイスを用い、かつ1パス減面率を16〜22%の範囲とし、最終ダイス以外のダイス10はアプローチ角度4〜8°のダイスを用い、かつ1パス減面率を16〜22%の範囲で湿式伸線加工することを特徴とするものである。ここで、前記湿式伸線加工における総減面率は、95%以上である。
アプローチ角度が小さいダイス(アプローチ角度4〜8°)を用いると、加工深度が大きくなるため高強度でかつ0.2%耐力比が高いワイヤを製造することができるが、最終ダイス11にこのようなアプローチ角度が小さいダイスを使用すると、線くせ変動が大きくなるため、最終ダイス11はアプローチ角度8〜10°のダイスを用いて、良好な線くせを確保している。
アプローチ角度は、4°未満であると引抜き加工時における摩擦力が大きくなり、引抜き抵抗が大きくなり、断線が多発するからアプローチ角度は4°以上としている。
また、1パス減面率を大きくとることで、高強度でかつ0.2%耐力比が高いワイヤを製造することができるが、
1パス減面率が16%未満であると高強度が望めなく、22%を超えると素線がダイスに焼き付く可能性が高くなるから、1パス減面率は16〜22%の範囲としている。
ソーワイヤの引張強さは、3900MPa以上であることが好ましい。
ソーワイヤの0.2%耐力比が98%を超えると、塑性伸びが少なくなりすぎるため、切断時に瞬間的に過剰張力がワイヤに負荷された場合にワイヤ断線が発生する原因となるため、98%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.2%耐力比は、94〜98%の範囲である。
ソーワイヤのフリーコイル径は、300mm以上であることが好ましい。
鋼線材は、高炭素鋼線材やピアノ線材等の高抗張力材であることが好ましい。
メッキは、伸線加工を容易にするために、ブラスメッキ等であることが好ましい。
以上説明のように、本発明に係るソーワイヤの製造方法によれば、最終ダイス以外のダイスは、アプローチ角度を4〜8°とし、かつ1パス減面率を16〜22%の範囲とすることで、強度および0.2%耐力比を高めることができ、最終ダイスはアプローチ角度を8〜10°とし、かつ1パス減面率を16〜22%の範囲とすることで、0.2%耐力比を制御しつつ良好な線くせを有するソーワイヤを製造することができる。
さらに、この方法で製造したワイヤの引張強さは、3900MPa以上で、0.2%耐力比は、94〜98%の範囲であるから、高強度であり、かつ塑性伸びが少なすぎることがないから切断時のワイヤ断線を低減することができる。
そのため、このソーワイヤは高強度であり、かつ0.2%耐力比が高すぎることなく、線くせが良好であるから、切断時に高い張力で切断することができ、ウェハ面精度が良好である切断物を得ることができる。
以下、実施例に従って本発明を更に詳細に説明するが、本発明を以下の実施例に限定するものではない。
<実施例1>
実施例は、0.8重量%の炭素を含有する線径5.5mmの高炭素鋼線材に対し、中間径0.80mmまで伸線加工を施し、熱処理後、以下の表1に示す条件で線径0.12mmまで湿式伸線を行った。表1に、湿式伸線における1パス減面率は14%、19%、24%とし、最終ダイスのアプローチ角度は3°、6°、9°、12°、最終ダイス以外のダイスのアプローチ角度は3°、6°、9°、12°とした条件で得られたソーワイヤの引張強さ(MPa)、0.2%耐力比(%)、線くせ安定性、伸線時断線率指数、そのソーワイヤで切断されたウェハのウェハ精度指数を示す。線くせ安定性は、従来例を100として数値が大きいほど良好な指数であり、100以上を合格とする。今回は、コイル径が直径300mm以上で、従来より級内のばらつきが少ない条件を線くせ安定性100以上とした。
伸線時断線率指数は、従来例を2.3として数値が小さいほど良好な指数であり、ウェハ精度指数は、従来例を100として数値が大きいほど良好な指数である。
表1からわかるように、実施例は、従来例と比して、引張強さ、0.2%耐力比、線くせ安定性、伸線時断線率指数、ウェハ精度指数が共に向上しており、切断性にすぐれたソーワイヤの特性である引張強さが3900MPa以上であり高強度であること、かつ0.2%耐力比の範囲が94〜98%であること、線くせが良好であることを満たし、切断性にすぐれたソーワイヤを製造することができた。
その他の条件で製造されたものは、前記の特性を満たしていないことが確認された。
<実施例2>
表2に、湿式伸線における1パス減面率を17%、19%、21%とし、最終ダイスのアプローチ角度を8°、10°、最終ダイス以外のダイスのアプローチ角度を5°、7°とした結果を示す。
表2より、実施例はいずれの条件でも従来例と比して引張強さ、0.2%耐力比、線くせ安定性、伸線時断線率指数、ウェハ精度指数が共に向上しており、引張強さが3900MPa以上であり高強度であること、かつ0.2%耐力比の範囲が94〜98%であること、線くせが良好であることを満たし、切断性にすぐれたソーワイヤを製造することができた。
今回開示された発明を実施するための形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内ですべての変更が含まれることが意図される。
1 ソーワイヤ
2 供給リール
3 メインローラ
4 排出リール
5 スラリー
6 被切断物
7 素線
8 ダイス
9 駆動キャプスタン
10 最終ダイス以外のダイス
11 最終ダイス
α アプローチ角度

Claims (2)

  1. 引張強さが3900MPa以上であり、0.2%耐力比が96.4〜98%の範囲であり、フリーコイル径が300mm以上であることを特徴とするソーワイヤ。
  2. 鋼線材に熱処理とメッキを施した後、中間径まで伸線して得た素線を、ダイスで湿式伸線してなるソーワイヤの製造方法であって、
    前記湿式伸線工程において、最終ダイスはアプローチ角度を8〜10°とし、かつ1パス減面率を16〜22%の範囲として、
    最終ダイス以外のダイスはアプローチ角度を4〜8°とし、かつ1パス減面率を16〜22%の範囲とすることを特徴とする請求項1に記載のソーワイヤの製造方法。
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