JP5957083B2 - 電子・電気機器用銅合金、電子・電気機器用銅合金薄板、電子・電気機器用導電部品及び端子 - Google Patents
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Description
本願は、2013年7月10日に日本に出願された特願2013−145008号及び2013年12月27日に日本に出願された特願2013−273549号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
また、コネクタなどの端子の場合、相手側の導電部材との接触の信頼性を高めるため、Cu−Zn合金からなる基材(素板)の表面に錫(Sn)めっきを施して使用することがある。Cu−Zn合金を基材としてその表面にSnめっきを施したコネクタなどの導電部品においては、Snめっき材のリサイクル性を向上させるとともに、強度を向上させるため、Cu−Zn−Sn系合金を使用する場合がある。
また、特許文献4には、打ち抜き加工時において、プレス金型の摩耗やバリの発生を抑制できるように、せん断加工性を向上させたCu−Zn−Sn系合金が提案されている。
特許文献2においては、Cu−Zn−Sn系合金に、Ni、FeをPとともに添加して化合物を生成させることにより、強度、弾性、耐熱性を向上させ得ることが記載されており、上記の強度、弾性、耐熱性の向上は、耐応力緩和特性の向上を意味していると考えられる。
また、特許文献3においては、Cu−Zn−Sn系合金にNiを添加するとともに、Ni/Sn比を特定の範囲内に調整することにより耐応力緩和特性を向上させることができると記載され、またFeの微量添加も耐応力緩和特性の向上に有効である旨、記載されている。
さらに、この特許文献4には、Cu−Zn−Sn系合金に、銅の母相中に固溶しないPb、Bi、Se、Te、Ca、SrおよびMM(ミッシュメタル)といった元素を添加することにより、これらの元素がプレス加工時の破断点として機能し、打ち抜き加工性が向上する旨が記載されている。
しかしながら、特許文献1、2においては、Ni、Fe、Pの個別の含有量が考慮されているだけであり、このような個別の含有量の調整だけでは、必ずしも耐応力緩和特性を確実かつ十分に向上させることができなかった。
また、特許文献3においては、Ni/Sn比を調整することが開示されているが、P化合物と耐応力緩和特性との関係については全く考慮されておらず、十分かつ確実な耐応力緩和特性の向上を図ることができなかった。
さらに、特許文献4においては、Fe、Ni、Pの合計量と、(Fe+Ni)/Pの原子比とを調整しただけであり、耐応力緩和特性の十分な向上を図ることができなかった。
ここで、特許文献4には、Cu−Zn−Sn系合金に対してPb、Bi、Se、Te、Ca、SrおよびMMといった元素を添加することでせん断加工性を向上させることが開示されているが、これらの元素を単に添加しただけでは、せん断加工性を十分に向上させることはできなかった。また、Pb,Bi,Teといった元素は、低融点金属であることから熱間加工性が大幅に劣化するおそれがあった。
(a)Cu−Zn−Sn系合金に、Niを適量添加するとともに、Pを適量添加し、Niの含有量とPの含有量との比Ni/Pと、Snの含有量とNiの含有量との比Sn/Niとを、それぞれ原子比で適切な範囲内に調整する。
(b)同時にさらにCu、ZnおよびSnを含有するα相の表面におけるビッカース硬度を100以上にする。
さらに、上記のNi、Pと同時に適量のFe及びCoを添加することにより、耐応力緩和特性および強度をより一層向上させることができることを見い出した。
また、NiをPとともに添加し、さらにFe,Coを添加し、Sn、Ni、Fe、CoおよびPの相互間の添加比率を規制することにより、耐応力緩和特性が確実かつ十分に優れ、しかも強度(耐力)も高くなる。
本発明の第二の態様による電子・電気機器用銅合金においては、特殊粒界長さ比率(Lσ/L)を10%以上に設定することで、結晶性の高い粒界(原子配列の乱れが少ない粒界)が増加する。これにより、曲げ加工時の破壊の起点となる粒界の割合を少なくすることが可能となり、曲げ加工性に優れることになる。
なお、EBSD法とは、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡による電子線反射回折法(Electron Backscatter Diffraction Patterns:EBSD)法を意味し、またOIMは、EBSDによる測定データを用いて結晶方位を解析するためのデータ解析ソフト(Orientation Imaging Microscopy:OIM)である。さらにCI値とは、信頼性指数(Confidence Index)であって、EBSD装置の解析ソフトOIM Analysis(Ver.5.3)を用いて解析したときに、結晶方位決定の信頼性を表す数値として表示される数値である(例えば、「EBSD読本:OIMを使用するにあたって(改定第3版)」鈴木清一著、2009年9月、株式会社TSLソリューションズ発行)。
ここで、EBSDにより測定してOIMにより解析した測定点の組織が加工組織である場合、結晶パターンが明確ではないため結晶方位決定の信頼性が低くなり、CI値が低くなる。特にCI値が0.1以下の場合にその測定点の組織が加工組織であると判断される。
このような構成の電子・電気機器用銅合金薄板は、コネクタ、その他の端子、電磁リレーの可動導電片、リードフレームなどに好適に使用することができる。
この場合、Snめっきの下地の基材は0.10mass%以上0.90mass%以下のSnを含有するCu−Zn−Sn系合金で構成されているため、使用済みのコネクタなどの部品をSnめっきCu−Zn系合金のスクラップとして回収して良好なリサイクル性を確保することができる。
また、本発明の一態様による端子は、上述の電子・電気機器用銅合金からなることを特徴とする。
さらに、本発明の他の態様による電子・電気機器用導電部品は、上述の電子・電気機器用銅合金薄板からなることを特徴とする。
また、本発明の他の態様による端子は、上述の電子・電気機器用銅合金薄板からなることを特徴とする。
これらの構成の電子・電気機器用導電部品及び端子によれば、特に耐応力緩和特性に優れているので、経時的にもしくは高温環境で、残留応力が緩和されにくく、信頼性に優れている。また、電子・電気機器用導電部品及び端子の薄肉化を図ることができる。また、せん断加工性に優れた電子・電気機器用銅合金及び電子・電気機器用銅合金薄板で構成されているので、寸法精度に優れている。
本実施形態である電子・電気機器用銅合金は、Znを2.0mass%超えて36.5mass%以下、Snを0.10mass%以上0.90mass%以下、Niを0.15mass%以上1.00mass%未満、Pを0.005mass%以上0.100mass%以下含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する。
3.0<(Ni+Fe+Co)/P<100.0 ・・・(1’)
さらにSnの含有量とNi、FeおよびCoの合計含有量(Ni+Fe+Co)との比Sn/(Ni+Fe+Co)が、原子比で、次の(2’)式を満たす。
0.10<Sn/(Ni+Fe+Co)<2.90 ・・・(2’)
さらにFeおよびCoの合計含有量とNiの含有量との比(Fe+Co)/Niが、原子比で、次の(3’)式を満たすように定められている。
0.002≦(Fe+Co)/Ni<1.500 ・・・(3’)
Znは、本実施形態で対象としている銅合金において基本的な合金元素であり、強度およびばね性の向上に有効な元素である。また、ZnはCuより安価であるため、銅合金の材料コストの低減にも効果がある。Znが2.0mass%以下では、材料コストの低減効果が十分に得られない。一方、Znが36.5mass%を超えれば、耐食性が低下するとともに、冷間圧延性も低下してしまう。
したがって、Znの含有量は2.0mass%超えて36.5mass%以下の範囲内とした。なお、Znの含有量は、上記の範囲内でも5.0mass%以上33.0mass%以下の範囲内が好ましく、7.0mass%以上27.0mass%以下の範囲内がさらに好ましい。
Snの添加は強度向上に効果があり、Snめっき付きCu−Zn合金材のリサイクル性の向上に有利となる。さらに、SnがNiと共存すれば、耐応力緩和特性の向上にも寄与することが本発明者等の研究により判明している。Snが0.10mass%未満では、これらの効果が十分に得られず、一方、Snが0.90mass%を超えれば、熱間加工性および冷間圧延性が低下し、熱間圧延や冷間圧延で割れが発生してしまうおそれがあり、導電率も低下してしまう。
したがって、Snの含有量は0.10mass%以上0.90mass%以下の範囲内とした。なお、Snの含有量は、上記の範囲内でも特に0.20mass%以上0.80mass%以下の範囲内が好ましい。
Niは、Pとともに添加することにより、Ni−P系析出物を母相(α相主体)から析出させることができる。また、Fe及びCoの一方又は両方とPとともにNiを添加することにより、〔Ni,(Fe,Co)〕−P系析出物を母相(α相主体)から析出させることができる。これらNi−P系析出物もしくは〔Ni,(Fe,Co)〕−P系析出物によって再結晶の際に結晶粒界をピン止めする効果が得られる。このため、平均結晶粒径を小さくすることができ、強度、曲げ加工性、耐応力腐食割れ性を向上させることができる。さらに、これらの析出物の存在により、耐応力緩和特性を大幅に向上させることができる。加えて、NiをSn、(Fe,Co)、Pと共存させることで、固溶強化によっても耐応力緩和特性を向上させることができる。ここで、Niの添加量が0.15mass%未満では、耐応力緩和特性を十分に向上させることができない。一方、Niの添加量が1.00mass%以上となれば、固溶Niが多くなって導電率が低下し、また高価なNi原材料の使用量の増大によりコスト上昇を招く。
したがって、Niの含有量は0.15mass%以上1.00mass%未満の範囲内とした。なお、Niの含有量は、上記の範囲内でも特に0.20mass%以上0.80mass%未満の範囲内とすることが好ましい。
Pは、Niとの結合性が高く、Niとともに適量のPを含有させれば、Ni−P系析出物を析出させることができ、また、Fe及びCoの一方又は両方と共にPを添加することにより、〔Ni,(Fe,Co)〕−P系析出物を母相(α相主体)から析出させることができる。これらNi−P系析出物もしくは〔Ni,(Fe,Co)〕−P系析出物の存在によって耐応力緩和特性を向上させることができる。ここで、P量が0.005mass%未満では、十分にNi−P系析出物もしくは〔Ni,(Fe,Co)〕−P系析出物を析出させることが困難となり、十分に耐応力緩和特性を向上させることができなくなる。一方、P量が0.10mass%を超えれば、P固溶量が多くなって、導電率が低下するとともに圧延性が低下して冷間圧延割れが生じやすくなってしまう。
したがって、Pの含有量は、0.005mass%以上0.100mass%以下の範囲内とした。Pの含有量は、上記の範囲内でも特に0.010mass%以上0.080mass%以下の範囲内が好ましい。
なお、Pは、銅合金の溶解原料から不可避的に混入することが多い元素であることから、Pの含有量を上述のように規制するためには、溶解原料を適切に選定することが望ましい。
Feは、必ずしも必須の添加元素ではないが、少量のFeをNi、Pとともに添加すれば、〔Ni,Fe〕−P系析出物を母相(α相主体)から析出させることができる。さらに少量のCoを添加することにより、〔Ni,Fe,Co〕−P系析出物を母相(α相主体)から析出させることができる。これら〔Ni,Fe〕−P系析出物もしくは〔Ni,Fe,Co〕−P系析出物によって再結晶の際に結晶粒界をピン止めする効果により、平均結晶粒径を小さくすることができ、強度、曲げ加工性、耐応力腐食割れ性を向上させることができる。さらに、これらの析出物の存在により、耐応力緩和特性を大幅に向上させることができる。ここで、Feの添加量が0.001mass%未満では、Fe添加による耐応力緩和特性のより一層の向上効果が得られない。一方、Feの添加量が0.100mass%以上となれば、固溶Feが多くなって導電率が低下し、また冷間圧延性も低下してしまう。
そこで、本実施形態では、Feを添加する場合には、Feの含有量を0.001mass%以上0.100mass%未満の範囲内とした。なお、Feの含有量は、上記の範囲内でも特に0.002mass%以上0.080mass%以下の範囲内とすることが好ましい。なお、Feを積極的に添加しない場合でも、不純物として0.001mass%未満のFeが含有されることがある。
Coは、必ずしも必須の添加元素ではないが、少量のCoをNi、Pとともに添加すれば、〔Ni,Co〕−P系析出物を母相(α相主体)から析出させることができる。さらに少量のFeを添加することにより、〔Ni,Fe,Co〕−P系析出物を母相(α相主体)から析出させることができる。これら〔Ni,Co〕−P系析出物もしくは〔Ni,Fe,Co〕−P系析出物によって耐応力緩和特性をより一層向上させることができる。ここで、Co添加量が0.001mass%未満では、Co添加による耐応力緩和特性のより一層の向上効果が得られない。一方、Co添加量が0.100mass%以上となれば、固溶Coが多くなって導電率が低下し、また高価なCo原材料の使用量の増大によりコスト上昇を招く。
そこで、本実施形態では、Coを添加する場合には、Coの含有量を0.001mass%以上0.100mass%未満の範囲内とした。Coの含有量は、上記の範囲内でも特に0.002mass%以上0.080mass%以下の範囲内とすることが好ましい。なお、Coを積極的に添加しない場合でも、不純物として0.001mass%未満のCoが含有されることがある。
(Ni+Fe+Co)/P比が3.0以下では、固溶Pの割合の増大に伴って耐応力緩和特性が低下する。また同時に固溶Pにより導電率が低下するとともに、圧延性が低下して冷間圧延割れが生じやすくなり、さらに曲げ加工性も低下する。一方、(Ni+Fe+Co)/P比が100.0以上となれば、固溶したNi、Fe、Coの割合の増大により導電率が低下するとともに、高価なCoやNiの原材料使用量が相対的に多くなってコスト上昇を招く。そこで、(Ni+Fe+Co)/P比を上記の範囲内に規制することとした。なお、(Ni+Fe+Co)/P比の上限値は、上記の範囲内でも、50.0以下、好ましくは40.0以下、さらに好ましくは20.0以下、さらには15.0未満、最適には12.0以下とすることが望ましい。
Sn/(Ni+Fe+Co)比が0.10以下では、十分な耐応力緩和特性向上効果が発揮されない。一方、Sn/(Ni+Fe+Co)比が2.90以上となれば、相対的に(Ni+Fe+Co)量が少なくなって、〔Ni,(Fe,Co)〕−P系析出物の量が少なくなり、耐応力緩和特性が低下してしまう。そこで、Sn/(Ni+Fe+Co)比を上記の範囲内に規制することとした。なお、Sn/(Ni+Fe+Co)比の下限は、上記の範囲内でも、特に0.20以上、好ましくは0.25以上、最適には0.30超えとすることが望ましい。また、Sn/(Ni+Fe+Co)比の上限は、上記の範囲内でも、2.50以下、好ましくは2.00以下、さらに好ましくは1.50以下とすることが望ましい。
Fe及びCoの一方又は両方を添加した場合には、NiとFe及びCoの含有量の合計とNiの含有量との比も重要となる。(Fe+Co)/Ni比が1.500以上の場合には、耐応力緩和特性が低下するとともに高価なCo原材料の使用量の増大によりコスト上昇を招く。(Fe+Co)/Ni比が0.002未満の場合には、強度が低下するとともに高価なNiの原材料使用量が相対的に多くなってコスト上昇を招く。そこで、(Fe+Co)/Ni比は、上記の範囲内に規制することとした。なお、(Fe+Co)/Ni比は、上記の範囲内でも、特に0.002以上1.200以下の範囲内が望ましい。さらに好ましくは0.002以上0.700以下の範囲内が望ましい。
すなわち、本実施形態である電子・電気機器用銅合金は、Cu、ZnおよびSnを含有するα相の表面のビッカース硬さが100以上とされている。
ここで、このようにビッカース硬さを規定した理由について以下に説明する。
Cu、ZnおよびSnを含有するα相の表面のビッカース硬さが100以上になると、母相中に転位密度の高い組織が形成され、せん断加工の際に容易に破断にいたる。このため、ダレやバリの大きさが抑制され、せん断加工性が向上する。
また、Cu、ZnおよびSnを含有するα相の表面のビッカース硬さが100未満の場合、転位密度が十分に高くないため、破断にいたるまで大きく変形することでダレやバリが大きくなり、せん断加工性が劣化する。また、ビッカース硬さが300以上になると、転位密度が高くなりすぎ、塑性変形が極めて困難になり、曲げ加工性が劣化する。よって、Cu、ZnおよびSnを含有するα相の表面のビッカース硬さは、100以上300以下が望ましい。
また、ビッカース硬さは、さらに好ましくは、105以上280以下であり、より好ましくは、110以上250以下である。
結晶組織は、以下の比率(Lσ/L)が10%以上とされていることが好ましい。
Cu、ZnおよびSnを含有するα相を、EBSD法により1000μm2以上の測定面積を測定間隔0.1μmステップで測定する。次いで、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除いて解析し、隣接する測定間の方位差が15°を超える測定点間を結晶粒界とする。全ての結晶粒界長さLに対するΣ3、Σ9、Σ27a、Σ27bの各粒界長さの和Lσの比率である特殊粒界長さ比率(Lσ/L)が10%以上とされていることが好ましい。
さらに、Cu、ZnおよびSnを含有するα相の平均結晶粒径(双晶を含む)が0.1μm以上15μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
ここで、上述のように結晶組織を規定した理由について以下に説明する。
特殊粒界は、結晶学的にCSL理論(Kronberg et al:Trans.Met.Soc.AIME,185,501(1949))に基づき定義されるΣ値で3≦Σ≦29に属する対応粒界であって、かつ、当該対応粒界における固有対応部位格子方位欠陥Dqが、Dq≦15°/Σ1/2(D.G.Brandon:Acta.Metallurgica.Vol.14,p.1479,(1966))を満たす結晶粒界であるとして定義される。特殊粒界は結晶性の高い粒界(原子配列の乱れが少ない粒界)であるため、加工時の破壊の起点となりにくくなる。このため、全ての結晶粒界長さLに対するΣ3、Σ9、Σ27a、Σ27bの各粒界長さの和Lσの比率である特殊粒界長さ比率(Lσ/L)を高くすると、耐応力緩和特性を維持したまま、さらに曲げ加工性を向上させることができる。なお、特殊粒界長さ比率(Lσ/L)は、12%以上とすることがさらに好ましい。より好ましくは15%以上である。
なお、EBSD装置の解析ソフトOIMにより解析したときのCI値(信頼性指数)は、測定点の結晶パターンが明確ではない場合にその値が小さくなり、CI値が0.1以下ではその解析結果を信頼することが難しい。よって、本実施形態では、CI値が0.1以下である信頼性の低い測定点を除いた。
耐応力緩和特性には、材料の平均結晶粒径もある程度の影響を与えることが知られており、一般には平均結晶粒径が小さいほど、耐応力緩和特性は低下する。本実施形態である電子・電気機器用銅合金の場合、成分組成と各合金元素の比率の適切な調整、及び、結晶性の高い特殊粒界の比率を適切にすることによって、良好な耐応力緩和特性を確保できる。このため、平均結晶粒径を小さくして、強度と曲げ加工性の向上を図ることができる。したがって製造プロセス中における再結晶および析出のための仕上げ熱処理後の段階で、平均結晶粒径が15μm以下となるようにすることが望ましい。強度と曲げバランスをさらに向上させるためには、平均結晶粒径を0.1μm以上10μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上8μm以下、より好ましくは0.1μm以上5μm以下の範囲内とすることが好ましい。
まず、前述した成分組成の銅合金溶湯を溶製する。銅原料としては、純度が99.99%以上の4NCu(無酸素銅等)を使用することが望ましいが、スクラップを原料として用いてもよい。また、溶解には、大気雰囲気炉を用いてもよいが、添加元素の酸化を抑制するために、真空炉、不活性ガス雰囲気又は還元性雰囲気とされた雰囲気炉を用いてもよい。
次いで、成分調整された銅合金溶湯を、適宜の鋳造法、例えば金型鋳造などのバッチ式鋳造法、あるいは連続鋳造法、半連続鋳造法などによって鋳造して鋳塊(例えばスラブ状鋳塊)を得る。
その後、必要に応じて、鋳塊の偏析を解消して鋳塊組織を均一化するために均質化熱処理を行う。この熱処理の条件は特に限定しないが、通常は600℃以上950℃以下において5分以上24時間以下加熱すればよい。熱処理温度が600℃未満、あるいは熱処理時間が5分未満では、十分な均質化効果が得られないおそれがある。一方、熱処理温度が950℃を超えれば、偏析部位が一部溶解してしまうおそれがあり、さらに熱処理時間が24時間を超えることはコスト上昇を招くだけである。熱処理後の冷却条件は、適宜定めればよいが、通常は水焼入れすればよい。なお、熱処理後には、必要に応じて面削を行う。
次いで、粗加工の効率化と組織の均一化のために、鋳塊に対して熱間加工を行ってもよい。この熱間加工の条件は特に限定されないが、通常は、開始温度600℃以上950℃以下、終了温度300℃以上850℃以下、加工率50%以上99%以下程度とすることが好ましい。なお、熱間加工開始温度までの鋳塊加熱は、前述の加熱工程S02と兼ねてもよい。熱間加工後の冷却条件は、適宜定めればよいが、通常は水焼入れすればよい。なお、熱間加工後には、必要に応じて面削を行う。熱間加工の加工方法については、特に限定されないが、最終形状が板や条の場合は熱間圧延を適用して0.5mm以上50mm以下程度の板厚まで圧延すればよい。また、最終形状が線や棒の場合には押出や溝圧延を、最終形状がバルク形状の場合には鍛造やプレスを適用すればよい。
次に、加熱工程S02で均質化処理を施した鋳塊、あるいは熱間圧延などの熱間加工工程S03を施した熱間加工材に対して、中間塑性加工を施す。この中間塑性加工工程S04における温度条件は特に限定はないが、冷間又は温間加工となる−200℃から+200℃の範囲内とすることが好ましい。中間塑性加工の加工率も特に限定されないが、通常は10%以上99%以下程度とする。加工方法は特に限定されないが、最終形状が板、条の場合は、圧延を適用して0.05mm以上25mm以下程度の板厚まで圧延すればよい。また、最終形状が線や棒の場合には押出や溝圧延、最終形状がバルク形状の場合には鍛造やプレスを適用することができる。なお、溶体化の徹底のために、S02〜S04を繰り返してもよい。
冷間もしくは温間での中間塑性加工工程S04の後に、再結晶処理と析出処理を兼ねた中間熱処理を施す。この中間熱処理は、組織を再結晶させると同時に、Ni−P系析出物もしくは〔Ni,(Fe,Co)〕−P系析出物を分散析出させるために実施される工程であり、これらの析出物が生成される加熱温度、加熱時間の条件を適用すればよく、通常は、200℃以上800℃以下で、1秒以上24時間以下とすればよい。
ここで、中間熱処理においては、バッチ式の加熱炉を用いてもよいし、連続焼鈍ラインを用いてもよい。そして、バッチ式の加熱炉を用いて中間熱処理を実施する場合には、300℃以上800℃以下の温度で5分以上24時間以下加熱することが好ましい。また、連続焼鈍ラインを用いて中間熱処理を実施する場合には、加熱到達温度を350℃以上800℃以下とし、かつこの範囲内の温度で、保持なし、若しくは1秒以上5分以下程度保持することが好ましい。以上のように、中間熱処理工程S05における熱処理条件は、熱処理を実施する具体的手段によって異なることになる。
また、中間熱処理の雰囲気は、非酸化性雰囲気(窒素ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気、あるいは還元性雰囲気)とすることが好ましい。
中間熱処理後の冷却条件は、特に限定しないが、通常は2000℃/秒〜100℃/時間程度の冷却速度で冷却すればよい。
なお、必要に応じて、上記の中間塑性加工工程S04と中間熱処理工程S05を、複数回繰り返してもよい。
中間熱処理工程S05の後には、最終寸法、最終形状まで仕上げ塑性加工を行う。仕上げ塑性加工における加工方法は特に限定されないが、最終製品形態が板や条である場合には、圧延(冷間圧延)を適用して0.05mm以上1.0mm以下程度の板厚に圧延すればよい。その他、最終製品形態に応じて、鍛造やプレス、溝圧延などを適用してもよい。加工率は最終板厚や最終形状に応じて適宜選択すればよいが、5%以上90%以下の範囲内が好ましい。加工率が5%未満では、耐力を向上させる効果が十分に得られない。一方、90%を超えれば、実質的に再結晶組織が失われて加工組織となり、圧延方向に対して直交する方向を曲げの軸としたときの曲げ加工性が低下してしまうおそれがある。なお、加工率は、好ましくは5%以上90%以下、より好ましくは、10%以上90%以下とする。仕上げ塑性加工後は、これをそのまま製品として用いてもよいが、通常は、さらに仕上げ熱処理を施すことが好ましい。
仕上げ塑性加工後には、必要に応じて、耐応力緩和特性の向上および低温焼鈍硬化のために、または残留ひずみの除去のために、仕上げ熱処理工程S07を行う。この仕上げ熱処理は、150℃以上800℃以下の範囲内の温度で、0.1秒以上24時間以下行うことが望ましい。熱処理温度が高温の場合は短時間の熱処理を実施し、熱処理温度が低温の場合は長時間の熱処理を実施すればよい。仕上げ熱処理の温度が150℃未満、または仕上げ熱処理の時間が0.1秒未満では、十分な歪み取りの効果が得られなくなるおそれがある。一方、仕上げ熱処理の温度が800℃を超える場合は再結晶のおそれがある。さらに仕上げ熱処理の時間が24時間を超えることは、コスト上昇を招くだけである。なお、仕上げ塑性加工工程S06を行わない場合には、仕上げ熱処理工程S07は省略してもよい。
仕上げ熱処理工程S07後には、必要に応じて、内部応力均一化のために形状修正の圧延を行う。この圧延によりせん断加工性も向上する。この形状修正圧延は、5%未満の加工率で行うことが望ましい。5%以上の加工率では、十分なひずみが導入され、仕上げ熱処理工程S07の効果が失われる。
そして、本実施形態では、Cu,Zn及びSnを含有するα相の表面のビッカース硬さが100以上であるので、せん断加工性を大幅に向上することが可能となる。
また、表面にSnめっきを施した場合には、使用済みのコネクタなどの部品をSnめっきCu−Zn系合金のスクラップとして回収して良好なリサイクル性を確保することができる。
具体的には、中間塑性加工および中間熱処理をそれぞれ1回実施する場合には、圧延率が約50%以上の冷間圧延(中間塑性加工)を行った。次いで、再結晶と析出処理のための中間熱処理として、350℃以上800℃以下で所定時間(1秒〜1時間)保持し、次いで、水焼入れした。その後、圧延材を切断し、酸化被膜を除去するために表面研削を実施し、後述する仕上げ塑性加工に供した。
一方、中間塑性加工および中間熱処理をそれぞれ2回実施する場合には、圧延率が約50%以上の一次冷間圧延(一次中間塑性加工)を行った。次いで、一次中間熱処理として、350℃以上800℃以下で所定時間(1秒〜1時間)保持し、次いで、水焼入れした。次に、圧延率が約50%以上の二次冷間圧延(二次中間塑性加工)を行った。次いで、二次中間熱処理として、350℃以上800℃以下で所定時間(1秒〜1時間)保持し、次いで、水焼入れした。その後、圧延材を切断し、酸化被膜を除去するために表面研削を実施し、後述する仕上げ塑性加工に供した。
次いで、仕上げ熱処理として、表5〜8に示した温度で所定時間(1秒〜1時間)保持し、次いで、水焼入れした。そして、切断および表面研磨を実施し、厚さ0.51mm×幅約180mmとした。その後、形状修正のための圧延を実施した。次いで、表面研磨を実施し、厚さ約0.5mm×幅約180mmとし、次いで特性評価用条材を製出した。
圧延の幅方向に対して垂直な面、すなわちTD面(Transverse direction)を観察面として、EBSD測定装置及びOIM解析ソフトによって、次のように結晶粒界および結晶方位差分布を測定した。
耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った。次いで、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。そして、EBSD測定装置(FEI社製Quanta FEG 450,EDAX/TSL社製(現 AMETEK社) OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製(現 AMETEK社)OIM Data Analysis ver.5.3)によって、電子線の加速電圧20kV、測定間隔0.1μmステップで1000μm2以上の測定面積で、各結晶粒の方位差の解析を行った。解析ソフトOIMにより各測定点のCI値を計算し、結晶粒径の解析からはCI値が0.1以下のものは除外した。結晶粒界に関しては、二次元断面観察の結果、隣り合う2つの結晶間の配向方位差が15°以上となる測定点間を結晶粒界として結晶粒界マップを作成した。JIS H 0501の切断法に準拠し、結晶粒界マップに対して、縦、横の所定長さの線分を5本ずつ引き、完全に切られる結晶粒数を数え、その切断長さの平均値を平均結晶粒径とした。
特性評価用条材から幅10mm×長さ60mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。また、マイクロメータを用いて試験片の寸法の測定を行い、試験片の体積を算出した。そして、測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。なお、試験片は、その長手方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。
特性評価用条材からJIS Z 2201に規定される13B号試験片を採取し、JIS Z 2241のオフセット法により、ヤング率E、0.2%耐力σ0.2、強度を測定した。なお、試験片は、引張試験の引張方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行な方向となるように採取した。
JIS Z 2244に規定されている微小硬さ試験方法に準拠し、特性評価用条材の表面すなわちND面(Normal Direction)で試験加重1.96N(=0.2kgf)でビッカース硬さを測定した。
日本伸銅協会技術標準JCBA−T307:2007の4試験方法に準拠して曲げ加工を行った。圧延方向と試験片の長手方向が平行になるように、特性評価用条材から幅10mm×長さ30mmの試験片を複数採取した。次いで曲げ角度が90度、曲げ半径が0.5mmのW型の治具を用い、W曲げ試験を行った。
曲げ部の外周部を目視で観察して割れが観察された場合は「×」(bad)、破断や微細な割れが確認されなかった場合は「○」(good)と判定した。
特性評価用条材から金型で角孔(8mm×8mm)を多数打抜いて、図2に示される破断面割合(打ち抜きされた部分の板厚に対する破断面の割合)及びかえり高さの測定により評価を行った。打ち抜きの切口面においては、破断面とせん断面とが存在しており、せん断面の割合が少なく破断面の割合が多いほど、せん断加工性に優れることになる。
金型のクリアランスは0.02mmとし、50spm(stroke per minute)の打ち抜き速度により打ち抜きを行った。破断面割合、かえり高さの測定については、穴抜き側の切口面を観察し、各測定箇所10点の平均を評価した。
なお、破断面の割合が40%以上のものを「○」(good)と評価し、40%未満のものを「×」(bad)と評価した。また、かえり高さが6μm以下のものを「○」(good)と評価し、6μmを超えるものを「×」(bad)と評価した。
耐応力緩和特性試験は、日本伸銅協会技術標準JCBA−T309:2004の片持はりねじ式に準じた方法によって応力を負荷し、Zn量が2mass%を超えて15mass%未満の試料(表9〜12中の「2−15Zn評価」の欄に記入したもの)については、150℃の温度で500時間保持後の残留応力率を測定した。Zn量が15mass%以上36.5mass%以下の試料(表9〜12中の「15−36.5Zn評価」の欄に記入したもの)については、120℃の温度で500時間保持後の残留応力率を測定した。
試験方法としては、各特性評価用条材から圧延方向に対して平行な方向に試験片(幅10mm)を採取し、試験片の表面最大応力が耐力の80%となるように、初期たわみ変位を2mmと設定し、スパン長さを調整した。上記表面最大応力は次式で定められる。
表面最大応力(MPa)=1.5Etδ0/Ls 2
ただし、E:ヤング率(MPa)、t:試料の厚み(t=0.5mm)、δ0:初期たわみ変位(2mm)、Ls:スパン長さ(mm)である。
また、残留応力率は次式を用いて算出した。
残留応力率(%)=(1−δt/δ0)×100
ただし、δt:(120℃で500h保持後、もしくは150℃で500h保持後の永久たわみ変位(mm))−(常温で24h保持後の永久たわみ変位(mm))であり、δ0:初期たわみ変位(mm)である。
残留応力率が、70%以上のものを「○」(good)、70%未満ものを「×」(bad)と評価した。
比較例102においては、ビッカース硬さが100未満であり、破断面の評価、かえり高さの評価が「×」の評価となり、さらに耐応力緩和特性評価も「×」評価であった。
比較例103においては、Zn、Sn、Niが添加されておらず、ビッカース硬さが100未満であったため、破断面の評価、かえり高さの評価が「×」の評価となり、さらに耐応力緩和特性も「×」の評価であった。
Claims (8)
- Znを2.0mass%超えて36.5mass%以下、Snを0.10mass%以上0.90mass%以下、Niを0.15mass%以上1.00mass%未満、Pを0.005mass%以上0.100mass%以下含有するとともに、
0.001mass%以上0.100mass%未満のFe及び0.001mass%以上0.100mass%未満のCoのいずれか一方又は両方を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなり、
Ni、FeおよびCoの合計含有量(Ni+Fe+Co)とPの含有量との比(Ni+Fe+Co)/Pが、原子比で、
3.0<(Ni+Fe+Co)/P<100.0を満たし、
かつ、Snの含有量とNi、FeおよびCoの合計含有量(Ni+Fe+Co)との比Sn/(Ni+Fe+Co)が、原子比で、
0.10<Sn/(Ni+Fe+Co)<2.90を満たすとともに、
FeとCoの合計含有量とNiの含有量との比(Fe+Co)/Niが、原子比で、
0.002≦(Fe+Co)/Ni<1.500を満たし、
さらに、Cu、ZnおよびSnを含有する表面のα相のビッカース硬さが100以上300以下であり、
Cu、ZnおよびSnを含有するα相の結晶粒の平均結晶粒径が0.1μm以上15μm以下の範囲内であり、FeとCoとNiからなる群から選択される少なくとも一種の元素とPとを含有する析出物が含まれていることを特徴とする電子・電気機器用銅合金。 - Cu、ZnおよびSnを含有するα相を、EBSD法により1000μm2以上の測定面積を測定間隔0.1μmステップで測定して、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除いて解析し、隣接する測定点間の方位差が15°を超える測定点間を結晶粒界とし、全ての結晶粒界長さLに対するΣ3、Σ9、Σ27a、Σ27bの各粒界長さの和Lσの比率である特殊粒界長さ比率(Lσ/L)が10%以上であることを特徴とする請求項1に記載の電子・電気機器用銅合金。
- 請求項1又は請求項2に記載の電子・電気機器用銅合金の圧延材からなり、厚みが0.05mm以上1.0mm以下の範囲内にあることを特徴とする電子・電気機器用銅合金薄板。
- 表面にSnめっきが施されていることを特徴とする請求項3に記載の電子・電気機器用銅合金薄板。
- 請求項1又は請求項2に記載の電子・電気機器用銅合金からなることを特徴とする電子・電気機器用導電部品。
- 請求項1又は請求項2に記載の電子・電気機器用銅合金からなることを特徴とする端子。
- 請求項3または請求項4に記載の電子・電気機器用銅合金薄板からなることを特徴とする電子・電気機器用導電部品。
- 請求項3または請求項4に記載の電子・電気機器用銅合金薄板からなることを特徴とする端子。
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