図1から図11を参照して、実施の形態における内燃機関について説明する。本実施の形態においては、車両に配置されている火花点火式の内燃機関を例に取り上げて説明する。
図1は、本実施の形態における内燃機関の概略図である。内燃機関は、機関本体1を備える。機関本体1は、シリンダブロック2とシリンダヘッド4とを含む。シリンダブロック2の内部には、ピストン3が配置されている。ピストン3は、シリンダブロック2の内部で往復運動する。燃焼室5は、それぞれの気筒ごとに形成されている。
シリンダヘッド4には、吸気ポート7および排気ポート9が形成されている。吸気弁6は吸気ポート7の端部に配置され、燃焼室5に連通する機関吸気通路を開閉可能に形成されている。排気弁8は、排気ポート9の端部に配置され、燃焼室5に連通する機関排気通路を開閉可能に形成されている。吸気弁6は、吸気カム51が回転することにより開閉する。排気弁8は、排気カム52が回転するようことにより開閉する。また、シリンダヘッド4には、点火装置としての点火プラグ10が固定されている。点火プラグ10は、燃焼室5にて燃料を点火するように形成されている。
本実施の形態における内燃機関は、気筒内の圧力を検出するための筒内圧センサ61を含む。筒内圧センサ61は、燃焼室5の内部の気体の圧力振動を取得する。筒内圧センサ61は、シリンダヘッド4に固定されている。筒内圧センサ61は、ピストン3が移動する方向と交差する燃焼室5の頂面に配置されている。また、筒内圧センサ61は、点火プラグ10の近傍に配置されている。すなわち、筒内圧センサ61は、燃焼室5の頂面の中央部分に配置されている。
本実施の形態における内燃機関は、燃焼室5に燃料を供給するための燃料噴射弁11を備える。燃料噴射弁11は、電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ29を介して燃料タンク28に接続されている。燃料タンク28内に貯蔵されている燃料は、燃料ポンプ29によって燃料噴射弁11に供給される。
各気筒の吸気ポート7は、対応する吸気枝管13を介してサージタンク14に連結されている。サージタンク14は、吸気ダクト15を介してエアクリーナ(図示せず)に連結されている。吸気ダクト15の内部には、吸入空気量を検出するエアフローメータ16が配置されている。吸気ダクト15の内部には、ステップモータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置されている。一方、各気筒の排気ポート9は、対応する排気枝管19に連結されている。排気枝管19は、排気処理装置21に連結されている。本実施の形態における排気処理装置21は、三元触媒20を含む。排気処理装置21は、排気管22に接続されている。
本実施の形態における内燃機関は、電子制御ユニット31を備える。本実施の形態における電子制御ユニット31は、デジタルコンピュータを含む。電子制御ユニット31は、双方向バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、入力ポート36および出力ポート37を含む。
エアフローメータ16の出力信号は、対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。アクセルペダル40には、負荷センサ41が接続されている。負荷センサ41は、要求負荷を検出する要求負荷検出器として機能する。負荷センサ41は、アクセルペダル40の踏込量に応じた出力電圧を発生する。この出力電圧は、対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。筒内圧センサ61は、燃焼室5の圧力に応じた出力信号を発生する。筒内圧センサ61の出力信号は、対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力されている。
クランク角センサ42は、クランクシャフトが、例えば所定の角度を回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスは入力ポート36に入力される。クランク角センサ42の出力により、機関回転数を検出することができる。また、クランク角センサ42の出力により、クランク角度を検出することができる。機関排気通路において、排気処理装置21の下流には、排気処理装置21の温度を検出する温度検出器としての温度センサ43が配置されている。温度センサ43の出力信号は、対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。
電子制御ユニット31の出力ポート37は、それぞれの対応する駆動回路39を介して燃料噴射弁11および点火プラグ10に接続されている。本実施の形態における電子制御ユニット31は、燃料噴射制御や点火制御を行うように形成されている。また、出力ポート37は、対応する駆動回路39を介して、スロットル弁18を駆動するステップモータ17および燃料ポンプ29に接続されている。これらの機器は、電子制御ユニット31により制御されている。
本実施の形態における内燃機関は、可変動弁機構を備える。可変動弁機構は、吸気弁6の開閉時期を変更する可変バルブタイミング装置53を含む。本実施の形態における可変バルブタイミング装置53は、吸気カム51を支持するカムシャフトに接続されている。可変バルブタイミング装置53は、電子制御ユニット31により制御されている。
本実施の形態における内燃機関は、圧縮比可変機構を備える。本発明においては、ピストンの任意の位置におけるピストンの冠面とシリンダヘッドとに囲まれる気筒内の空間を燃焼室と称する。内燃機関の圧縮比は、ピストンが上死点に到達したときの燃焼室の容積等に依存して定まる。本実施の形態における圧縮比可変機構は、ピストンが上死点に到達したときの燃焼室の容積を変更することにより圧縮比を変更するように形成されている。
図2に、本実施の形態における内燃機関の圧縮比可変機構の第1の概略断面図を示す。図2は、圧縮比可変機構により高圧縮比になったときの概略図である。図3に、本実施の形態における内燃機関の圧縮比可変機構の第2の概略断面図を示す。図3は、圧縮比可変機構により低圧縮比になったときの概略図である。図2および図3は、ピストン3が上死点に到達した状態を示している。
図1から図3を参照して、本実施の形態における内燃機関は、クランクケース79を含む支持構造物と、支持構造物の上側に配置されているシリンダブロック2とが相対移動する。本実施の形態における支持構造物は、圧縮比可変機構を介してシリンダブロック2を支持している。また、本実施の形態における支持構造物は、クランクシャフトを回転可能に支持している。ピストン3は、コネクティングロッド23を介してクランクシャフトに支持されている。
シリンダブロック2の両側の側壁の下方には複数個の突出部80が形成されている。突出部80には、断面形状が円形のカム挿入穴が形成されており、カム挿入穴の内部には円形カム86が回転可能に配置されている。クランクケース79には、複数個の突出部82が形成されている。突出部82には、断面形状が円形のカム挿入穴が形成されており、カム挿入穴の内部には円形カム88が回転可能に配置されている。シリンダブロック2の突出部80は、クランクケース79の突出部82同士の間に嵌合する。
シリンダブロック2の突出部80に挿入されている円形カム86と、クランクケース79の突出部82に挿入されている円形カム88とは、偏心軸87を介して互いに連結されている。複数の円形カム86と複数の円形カム88とが、偏心軸87を介して連結されることにより、カムシャフト84,85が構成されている。本実施の形態においては、一対のカムシャフト84,85が形成されている。本実施の形態における圧縮比可変機構は、一対のカムシャフト84,85を互いに反対方向に回転させる回転装置を含む。円形カム88は、カムシャフト84,85の回転軸線と同軸状に配置されている。円形カム86は、カムシャフト84,85の回転軸線に対して偏心している。また、偏心軸87は、カムシャフト84,85の回転軸線に対して偏心している。
図2を参照して、それぞれのカムシャフト84,85上に配置されている円形カム88を、矢印97に示すように互いに反対方向に回転させると、偏心軸87が円形カム88の上端に向けて移動する。シリンダブロック2を支持している円形カム86は、カム挿入孔の内部において、矢印96に示すように円形カム88と反対方向に回転する。シリンダブロック2は、矢印98に示すように、クランクケース79から離れる向きに移動する。
図3に示されるように偏心軸87が円形カム88の上端まで移動すると、円形カム88の中心軸が偏心軸87よりも下方に移動する。図2および図3を参照して、クランクケース79とシリンダブロック2との相対位置は、円形カム86の中心軸と円形カム88の中心軸との距離によって定まる。円形カム86の中心軸と円形カム88の中心軸との距離が大きくなるほど、シリンダブロック2はクランクケース79から離れる向きに移動する。シリンダブロック2がクランクケース79から離れる向きに移動するほど、燃焼室5の容積が大きくなる。
本実施の形態における圧縮比可変機構は、クランクケース79に対してシリンダブロック2が相対的に移動することにより、ピストン3が上死点に到達したときの燃焼室5の容積が可変に形成されている。本実施の形態においては、下死点から上死点までのピストンの行程容積とピストンが上死点に到達したときの燃焼室の容積のみから定まる圧縮比を機械圧縮比と言う。機械圧縮比は、吸気弁の閉弁時期に依存せずに、(機械圧縮比)=(ピストンが上死点に到達したときの燃焼室の容積+ピストンの行程容積)/(燃焼室の容積)にて示される。
本実施の形態における内燃機関は、クランクケース79に対するシリンダブロック2の相対的な位置を検出する相対位置センサ89を備える。相対位置センサ89の出力により、ピストン3が上死点に位置しているときのシリンダブロック2に対するピストン3の相対位置を取得することができる。
図2に示す状態では、燃焼室5の容積が小さくなっており、吸入空気量が常時一定の場合には圧縮比が高くなる。この状態は、機械圧縮比が高い状態である。これに対して、図3に示す状態では、燃焼室5の容積が大きくなっており、吸入空気量が常時一定の場合には圧縮比が低くなる。この状態は、機械圧縮比が低い状態である。このように、本実施の形態における内燃機関は、運転期間中に圧縮比を変更することができる。たとえば、内燃機関の運転状態に応じて、圧縮比可変機構により圧縮比を変更することができる。
本実施の形態における圧縮比可変機構は、電子制御ユニット31に制御されている。本実施の形態において、カムシャフト84,85を回転させるモータは、対応する駆動回路39を介して出力ポート37に接続されている。
更に、本実施の形態における内燃機関は、吸気弁の閉弁時期を変化させる可変動弁機構を備える。吸気弁の閉弁時期を変化させることにより、燃焼室に吸入される吸入空気量を変化させることができる。吸気弁の閉弁時期は、ピストンが下死点から上死点に移動する期間内にて変化させることができる。本実施の形態における内燃機関では、機械圧縮比の他に燃焼室における実際の圧縮比である実圧縮比が設定される。実圧縮比は、吸気弁の閉弁時期に依存する。実圧縮比は、(実圧縮比)=(ピストンが上死点に到達したときの燃焼室の容積+吸気弁が閉じている期間にピストンが移動する容積)/(燃焼室の容積)にて設定される。内燃機関の制御としては、所定の運転範囲において負荷が変化しても実圧縮比を一定する制御を行うことができる。たとえば、負荷が大きくなるほど、機械圧縮比を低くする制御を行うと共に、吸気弁の閉弁時期を早くする制御を行うことができる。
本実施の形態の内燃機関は、異常燃焼の発生を検出することができる。異常燃焼は、例えば、点火栓の点火部から順に火炎が広がる燃焼が生じているときに、所望の燃焼の伝播とは異なる燃焼が生じることにより発生する。異常燃焼には、ノッキング現象が含まれる。本実施の形態においては、筒内圧センサ61により燃焼室5の圧力振動を取得し、異常燃焼が発生しているか否かを判別することができる。
図2および図3を参照して、圧縮比可変機構によりクランクケース79に対してシリンダブロック2の相対的な位置が変化すると、燃焼室5の高さHが変化する。本発明では、ピストン3が移動する方向の燃焼室5の長さを燃焼室5の高さHと称する。図2および図3に示す例では、燃焼室5の頂面が傾斜しており、ピストン3の冠面と燃焼室5の頂面との距離が最も大きくなる部分を燃焼室5の高さHと称する。
図4に、機械圧縮比を変化させたときのクランク角度に対する燃焼室の高さHの関係を示す。横軸のクランク角度は、ピストン3が圧縮上死点に到達した位置を0°にしている。図4には、機械圧縮比を変化させたときの複数のグラフが記載されている。機械圧縮比ε1が最も大きく機械圧縮比ε5が最も小さくなっている(ε1>ε2>ε3>ε4>ε5)。それぞれの機械圧縮比ε1〜ε5において、クランク角度CAが大きくなるほど、燃焼室5の高さHが大きくなる。また、それぞれの機械圧縮比ε1〜ε5を比較したときに、機械圧縮比が大きくなるほど、燃焼室5の高さHは小さくなる。本実施の形態の内燃機関では、機械圧縮比を変更すると、燃焼室5の直径は変化せずに燃焼室5の高さHが変化する。
ところで、ピストン3の所定の位置において異常燃焼が発生すると圧力波が生じる。圧力波は、例えば音速で伝播されて燃焼室5内に広がる。このときに、燃焼室5の内部において、燃焼室5の形状に依存した気体の圧力振動が生じている。
図5に、異常燃焼が発生したときの燃焼室5の内部における圧力振動の周波数と振動の強度との関係を説明するグラフを示す。横軸は振動の周波数であり、縦軸は振動の強度である。異常燃焼が発生したときに筒内圧センサ61により検出される振動には、低周波側の圧力振動VLと高周波側の圧力振動VHが含まれる。低周波側の圧力振動VLの周波数は、たとえば3kHz以上15kHz以下であり、高周波側の圧力振動VHの周波数は、たとえば10kHz以上100kHz以下である。
ここで、発明者らは、高周波側の圧力振動VHの周波数は、燃焼室5の高さHに依存することを見出した。高周波側の圧力振動VHは、燃焼室5の高さ方向に共鳴する振動であると推定される。これに対して低周波側の圧力振動VLは、燃焼室5の径方向に共鳴する振動であると推定される。なお、図5には、低周波側の圧力振動VLとして径方向の1次の共鳴の振動および2次の共鳴の振動を記載しているが、さらに高次の振動も生じ得る。また、図5に示す例では、高周波側の圧力振動VHの強度は、低周波側の圧力振動VLの強度よりも小さいことが分る。異常燃焼は、低周波側の圧力振動VLおよび高周波側の圧力振動VHのいずれを用いても検出することができる。
ここで、燃焼室5の内部の気体の圧力振動の周波数は、機関本体1が有する固有振動数には直接的に関係せずに、圧力波が発生したときの燃焼室5の形状等に依存する。また、異常燃焼が発生したときの圧力振動には、燃焼室5の高さ方向に共鳴する高周波側の圧力振動VHが含まれる。本発明では、この高周波側の圧力振動VHを、特定圧力振動と称する。特定圧力振動は、燃焼室の高さ方向に共鳴する振動と考えられ、前述の通り高い周波数を有する。
図6に、クランク角度に対する燃焼室5における特定圧力振動の共鳴周波数を説明するグラフを示す。縦軸は、燃焼室5の高さ方向に振動の節が並ぶ圧力波の共鳴周波数である。すなわち、燃焼室5の高さ方向の振動の共鳴周波数である。それぞれの機械圧縮比ε1〜ε5において、クランク角度CAが大きくなるほど燃焼室5の高さHが大きくなるために、燃焼室5における共鳴周波数は小さくなる。また、複数の機械圧縮比ε1〜ε5において、機械圧縮比が大きくなるほど、共鳴周波数は大きくなる。
ところで、筒内圧センサ61は、種類および大きさに応じて共振周波数Fsを有する。また、筒内圧センサ61の共振周波数Fsは、内部構造等にも依存する。筒内圧センサ61は小さな装置であり、共振周波数Fsは、たとえば40kHz以上100kHz以下である。図5を参照して、筒内圧センサ61の共振周波数Fsは、低周波側の圧力振動VLが生じる周波数よりも大きい。ところが、筒内圧センサ61の共振周波数Fsは、高周波側の圧力振動VHの周波数と一致する場合が生じ得る。筒内圧センサ61の共振周波数Fsが特定圧力振動の周波数と一致した場合には、筒内圧センサ61が共振し、大きな振動が生じて故障する虞が生じる。
図6を参照して、機械圧縮比が変化すると異常燃焼により生じる特定圧力振動の周波数が変化する。特に機械圧縮比が高い状態、すなわち、燃焼室5の高さHが小さくなる状態において、筒内圧センサ61の共振周波数Fsが特定圧力振動の共鳴周波数と一致する。ここで、異常燃焼が発生するクランク角度を燃焼サイクル毎に特定することは困難である。そこで、本実施の形態における内燃機関では、異常燃焼が発生するクランク角度の区間SCAを予め設定している。ここでの実施例では、異常燃焼が発生するクランク角度の区間SCAとして、クランク角度が5°以上10°以下の区間を設定している。
図6に示すように、異常燃焼が発生するクランク角度の区間SCAにおいて、筒内圧センサ61の共振周波数Fsと、燃焼室5における特定圧力振動の共鳴周波数とが一致する機械圧縮比は一部の範囲に限定される。
図7に、機械圧縮比に対する燃焼室における特定圧力振動の共鳴周波数のグラフを示す。図7には、圧縮上死点後のクランク角度5°の位置における特定圧力振動の共鳴周波数が実線にて示されている。また、圧縮上死点後のクランク角度10°の位置における特定圧力振動の共鳴周波数が破線で示されている。圧縮上死点後のクランク角度が進行すると燃焼室5の高さHが大きくなり、共鳴周波数は低下する。ここで、異常燃焼が発生するクランク角度の区間SCAと筒内圧センサ61の共振周波数Fsとに基づいて、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRが定められる。筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRは、最小の機械圧縮比εSLと最大の機械圧縮比εSHとの間の範囲である。
このように、筒内圧センサ61の種類等が定まると、筒内圧センサの共振周波数Fsが定まり、更に、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRが定まる。本実施の形態の内燃機関においては、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRを避けるように、機械圧縮比を変更する。
図8は、本実施の形態の第1の運転制御において、負荷を低下させるときの機械圧縮比の変化を説明するグラフである。本実施の形態の内燃機関の運転範囲には、負荷が小さくなるほど機械圧縮比を上昇させる制御を行う範囲が存在する。すなわち、負荷が大きな領域から小さな領域に移行させるときには、矢印91に示すように、負荷を小さくすると共に機械圧縮比を上昇させる制御を行う。
ここで、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRが設定されている。機械圧縮比εSL以上機械圧縮比εSH以下の領域において、異常燃焼が発生すると筒内圧センサ61の共振が生じ得る。そこで、機械圧縮比が筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRに近接した場合には、矢印92に示すように、機械圧縮比の範囲SCRを超えて大きく機械圧縮比を上昇させる。機械圧縮比を予め定められた値まで上昇した後には、負荷が低下しても機械圧縮比をほぼ一定に維持する。そして、予め定められた負荷まで低下した場合には、矢印93に示すように、負荷の低下と共に機械圧縮比を上昇させる制御を行う。
矢印92に示すように機械圧縮比を大きく上昇させる機械圧縮比は、予め設定しておくことができる。例えば、機械圧縮比εSLから予め定められた余裕分Δεを減算した機械圧縮比に到達した場合に、機械圧縮比を大きく上昇させることができる。また、機械圧縮比εSHに予め定められた余裕分Δεを加算した機械圧縮比まで上昇させることができる。この機械圧縮比(εSL−Δε)以上機械圧縮比(εSH+Δε)以下の範囲は、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRに近接する範囲に相等する。
本実施の形態においては、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRに近接する機械圧縮比の範囲に対応して、負荷の切替え範囲RLが予め設定されている。切替え範囲RLに到達するまでは、負荷の低下と共に機械圧縮比を上昇させることができる。負荷が切替え範囲RLに到達した場合には、機械圧縮比を大きく上昇させた後に機械圧縮比をほぼ一定に維持することができる。更に負荷を低下させて切替え範囲RLから外れた場合には、負荷の低下と共に機械圧縮比を上昇させることができる。本実施の形態においては、この様に筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRによりも高い機械圧縮比にて維持する動作線を動作線aと称する。
図8には、比較例の機械圧縮比の制御が破線にて示されている。比較例の制御においては、負荷の切替え範囲RLにおいても負荷が低下するとともに機械圧縮比を上昇させる制御を行なっている。特に、矢印94に示すように、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRおよびその範囲の近傍においても、負荷が低下するとともに徐々に機械圧縮比を上昇させる制御を行なっている。比較例の内燃機関においては、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRを徐々に通過する場合がある。または、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCR内にて機械圧縮比が維持される場合がある。このような場合に異常燃焼が生じると、異常燃焼の圧力振動に対して筒内圧センサ61が共振し、筒内圧センサ61が故障する虞がある。
これに対して、本実施の形態においては、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRに接近したときに、機械圧縮比の範囲SCRを大きく超えるように機械圧縮比を上昇させる。このために、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRを横切ることができる。機械圧縮比の範囲SCR内に存在する時間は短時間であり、異常燃焼が発生しても筒内圧センサ61の共振を抑制することができる。また、切替え範囲RLの内部では、負荷が変化しても筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRから離れた機械圧縮比に維持するために、異常燃焼が発生した場合でも筒内圧センサ61に共振が生じることを回避することができる。
図9に、本実施の形態の第1の運転制御において、負荷を上昇させるときの機械圧縮比の変化を説明するグラフを示す。負荷が小さな状態から大きな状態に移行させる場合には、矢印101に示すように、負荷が大きくなるほど機械圧縮比を低下させる制御を行なうことができる。負荷が上昇して筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRに接近した場合には、矢印102に示すように、機械圧縮比の範囲SCR未満になるように機械圧縮比を大きく低下させる制御を行う。この例では、負荷が予め設定されている切替え範囲RLに到達した場合には、機械圧縮比を大きく低下させる。機械圧縮比を予め定められた値まで低下させた後に機械圧縮比を一定に維持する制御を行う。この例では、切替え範囲RLの内部では機械圧縮比を維持する制御を行う。更に、負荷が上昇して、切替え範囲RLから外れた場合には、矢印103に示すように、負荷の上昇とともに機械圧縮比を低下させる制御を行なうことができる。本実施の形態においては、この様に筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRによりも低い機械圧縮比にて維持する動作線を動作線bと称する。
ここで、機械圧縮比を大きく低下させる時の機械圧縮比としては、機械圧縮比εSHに対して、予め定められた余裕分Δεを加算した値を採用することができる。また、機械圧縮比εSLから予め定められた余裕分Δεを減算した機械圧縮比まで低下させることができる。また、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRに近接する範囲の内部に進入しないように、低い機械圧縮比に維持することができる。
図9には、比較例の内燃機関の制御が破線にて示されている。比較例の内燃機関においては、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRおよびその範囲の近傍においても、負荷が上昇するとともに機械圧縮比を徐々に低下させている。このために、負荷を低下させる場合の比較例(図8参照)と同様に、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCR内に存在する時間が長くなり、筒内圧センサ61に共振が生じる虞がある。
これに対して、本実施の形態の制御においては、矢印102に示すように、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRに接近すると、この機械圧縮比の範囲SCRを横切るように機械圧縮比を低下させるために、筒内圧センサ61の共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRを短時間で通過することができる。このために、異常燃焼が発生した時の筒内圧センサ61の共振を抑制することができる。切替え範囲RLの内部では、負荷が変化しても筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRから離れた機械圧縮比に維持するために、異常燃焼が発生した場合でも筒内圧センサ61に共振が生じることを回避することができる。
図8および図9に示すような負荷に対する機械圧縮比の関係は、予め電子制御ユニット31に記憶させておくことができる。また、運転制御においては、機関回転数が大きくなるほどノッキング等が発生しにくくなるために、機関回転数が大きくなるほど機械圧縮比を高く設定しても構わない。すなわち、負荷および機関回転数に基づいて機械圧縮比を設定しても構わない。この場合には、負荷および機関回転数を関数にする機械圧縮比のマップを予め電子制御ユニット31に記憶させておくことができる。なお、本実施の形態においては、負荷の切替え範囲RL以外における負荷に対する機械圧縮比の関係は、負荷を低下する場合と負荷を上昇する場合とで同一の関係を用いている。
図8および図9を参照して、第1の運転制御では、負荷の切替え範囲RLにおいて、負荷を低下させる場合には、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRよりも高い機械圧縮比にて一定に維持している。また、負荷を上昇させる場合には、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRによりも低い機械圧縮比にて一定に維持している。このような負荷の上昇と負荷の下降とで動作線が異なるヒステリシスの制御を行うことにより、機械圧縮比の変更点の前後において機械圧縮比が変化する動作頻度を下げることができる。すなわち、機械圧縮比の変更点をまたいで機械圧縮比が大きくなったり小さくなったり繰り返すことを抑制できる。
図10に、本実施の形態における第1の運転制御のフローチャートを示す。図10に示す制御は、割り込み制御等にて繰り返して行うことができる。
ステップ111においては、アクセルペダルの踏込み量を検出する。ステップ112においては、使用者が所望する要求負荷を検出する。アクセルペダル40の踏込み量は、負荷センサ41により検出することができる。また、要求負荷は、アクセルペダル40の踏込み量に基づいて算出することができる。
次に、ステップ113においては、要求負荷が切替え範囲RLの範囲外から範囲内に進入したか否かを判別する。すなわち、負荷が切替え範囲RLに到達したか否かを判別する。要求負荷が切替え範囲RL内に進入していない場合には、ステップ117に移行し、現在の動作線により目標の機械圧縮比を設定する。たとえば、要求負荷が前回の運転制御から切替え範囲RL内に維持されている場合、または前回の運転制御では要求負荷が切替え範囲RLの範囲内であったが今回の運転制御では切替え範囲RLの範囲外であった場合には、現在の動作線にて制御を行う。
ステップ113において、要求負荷が切替え範囲RL内に進入した場合には、ステップ114に移行する。すなわち、機械圧縮比が筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRに接近した場合には、ステップ114に移行する。
ステップ114においては、要求負荷が上昇しているか否かを判別する。前回の制御における要求負荷と、今回の制御における要求負荷とを比較して、要求負荷が増加しているか否かを判別することができる。
ステップ114において、要求負荷が上昇している場合にはステップ115に移行する。ステップ115においては、図9に示す動作線bの負荷に対する機械圧縮比の関係を選定する。筒内圧センサ61の共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRに近づいたときに、機械圧縮比の範囲SCRよりも低い機械圧縮比に維持する制御を選定することができる。
ステップ114において、要求負荷が上昇していない場合にはステップ116に移行する。この場合には、負荷が低下している。ステップ116においては、図8に示す動作線aの負荷に対する機械圧縮比の関係を選定する。筒内圧センサ61の共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRに近づいたときに、筒内圧センサ61の共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRよりも高い機械圧縮比に維持する制御を選定することができる。
次に、ステップ117においては、要求負荷に基づいて目標の機械圧縮比を設定する。動作線aまたは動作線bに基づいて、目標の機械圧縮比を設定することができる。ステップ118においては、圧縮比可変機構により目標の機械圧縮比に変更する。このように、要求負荷が切替え範囲RLの範囲外から切替え範囲RLの範囲内に進入したときに、圧縮比可変機構の動作線を選定することができる。
上記の第1の運転制御では、負荷を上昇させるときに、動作線bにて機械圧縮比の制御を行なっているが、この形態に限られず、動作線aにて機械圧縮比の制御を行っても構わない。たとえば、図8の矢印105に示すように、負荷を上昇させる場合に、負荷の切替え範囲RLにおいて、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRよりも高い機械圧縮比に維持しても構わない。また、負荷が上昇して切替え範囲RLから外れたときには大きく機械圧縮比を低下させる制御を行なっても構わない。
このように、負荷を上昇させる場合および負荷を低下させる場合の両方の場合において、負荷の切替え範囲RLでは筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRよりも高い機械圧縮比に維持する制御を行っても構わない。この制御により、機械圧縮比を高く設定する時間を長くすることができて、理論熱効率を向上させることができる。
なお、動作線aに基づいて、筒内圧センサ61の共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRよりも高い機械圧縮比に維持する場合には、比較例の制御よりも吸気弁の閉弁時期を遅らせることができる。可変バルブタイミング装置53により吸気弁の閉弁時期を遅くすると、燃焼室5における実圧縮比をほぼ一定に維持することができる。このために、ノッキングなどの異常燃焼を抑制することができる。また、吸気弁の閉弁時期を遅くすることにより、ポンプ損失(ポンピングロス)を抑制することができる。
前述の機械圧縮比の動作線aおよび動作線bは、切替え範囲RLの範囲内において機械圧縮比をほぼ一定に維持しているがこの形態に限られず、異常燃焼が発生した時の特定圧力振動の周波数が筒内圧センサの共振周波数から外れるように機械圧縮比を設定することができる。たとえば、切替え範囲RLの範囲内において機械圧縮比が変化しても構わない。但し、筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRから十分に離れた機械圧縮比に制御することが好ましい。
次に、本実施の形態における第2の運転制御について説明する。第2の運転制御においては、負荷の切替え範囲RL内において、負荷が上昇する場合および負荷が低下する場合に、筒内圧センサ61の共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRよりも高い機械圧縮比に維持する制御を行う。ところが、使用者の所望により内燃機関の急加速が必要な場合があり、第2の運転制御においては、内燃機関の急加速が必要な場合に筒内圧センサ61に共振が生じる機械圧縮比の範囲SCRよりも低い機械圧縮比に維持する制御を行う。
図8を参照して、内燃機関の急加速が必要な場合以外の運転制御では、矢印92および矢印105に示すように動作線aに沿って機械圧縮比を変更する。ところが、内燃機関の急加速が必要な場合には、図9に示すように、矢印102に示すように動作線bに沿って機械圧縮比を選定する。
内燃機関を急加速させる場合に、動作線bを用いて機械圧縮比を変更することにより、動作線aよりも低い機械圧縮比に設定され、燃焼室5に流入する吸入空気量を大きくすることができる。たとえば、可変バルブタイミング装置を用いて、実圧縮比を一定に保つ制御を行なっている場合には、機械圧縮比が低くなることにより、吸気弁の閉弁時期が早くなって吸入空気量が大きくなる。また、空燃比を一定に制御する場合には燃料噴射量も大きくなる。このために、内燃機関の出力を大きくすることができて、使用者は大きな加速感を得ることができる。
図11に、本実施の形態の第2の運転制御のフローチャートを示す。ステップ111からステップ114までは、本実施の形態における第1の運転制御と同様である(図10参照)。ステップ114において、負荷が下降する場合には、ステップ116に移行して、動作線aを選定する。ステップ114において、負荷が上昇する場合には、ステップ119に移行する。
ステップ119においては、内燃機関の急加速が要求されているか否かを判別する。本実施の形態においては、アクセルペダルの踏込み量が予め定められた判定値よりも大きいか否かが判別される。アクセルペダルの踏込み量が予め定められた判定値よりも大きい場合には、急加速が要求されていると判別することができる。
内燃機関の急加速が要求されているか否かの判別方法については、この形態に限られず、たとえば、前回の運転制御と今回の運転制御とにおけるアクセルペダルの踏込み量の増加量を算出し、算出した増加量に基づいて内燃機関の急加速が要求されているか否かを判別しても構わない。または、アクセルペダルの踏込み量の加速度を算出し、算出した加速度に基づいて内燃機関の急加速が要求されているか否かを判別しても構わない。
ステップ119において、アクセルペダル40の踏込み量が予め定められた判定値以下の場合には、ステップ116に移行する。この場合には、緩やかな負荷の上昇が要求されていると判別することができる。ステップ116においては、動作線aを選定する。
ステップ119において、アクセルペダル40の踏込み量が予め定められた判定値よりも大きい場合には、ステップ115に移行する。ステップ115においては、動作線bを選定する。
ステップ117およびステップ118は、第1の運転制御と同様である(図10参照)。動作線aまたは動作線bに基づいて目標の機械圧縮比を設定して機械圧縮比を変更することができる。
本実施の形態の第2の運転制御においては、内燃機関を急加速させる場合に内燃機関の出力を大きくすることができる。また、第1の運転制御と同様に、筒内圧センサ61の共振が生じる機械圧縮比の範囲を回避しながら運転を行なうことができる。
本実施の形態における圧縮比可変機構は、クランクケースに対してシリンダブロックを相対的に移動することにより機械圧縮比を変更しているが、この形態に限られず、ピストンが上死点に到達したときの燃焼室の高さを変更可能な任意の圧縮比可変機構を採用することができる。
本実施の形態における内燃機関は、可変動弁機構を備えているが、この形態に限られず、可変動弁機構を備えていない内燃機関においても、本発明を適用することができる。異常燃焼が生じたときに筒内圧センサの共振が生じる機械圧縮比を避ける様に機械圧縮比を変更することができる。
上記の実施の形態は、適宜組み合わせることができる。また、上記の制御においては、作用や機能が同一の範囲内で適宜ステップの順序を変更することができる。上述のそれぞれの図において、同一または相等する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、特許請求の範囲に示される変更が含まれている。