図1から図11を参照して、実施の形態における内燃機関について説明する。本実施の形態においては、車両に配置されている内燃機関を例に取り上げて説明する。
図1は、本実施の形態における内燃機関の概略図である。本実施の形態における内燃機関は、火花点火式である。内燃機関は、機関本体1を備える。機関本体1は、シリンダブロック2とシリンダヘッド4とを含む。シリンダブロック2の内部には、ピストン3が配置されている。ピストン3は、シリンダブロック2の内部で往復運動する。
燃焼室5は、それぞれの気筒ごとに形成されている。燃焼室5には、機関吸気通路および機関排気通路が接続されている。機関吸気通路は、燃焼室5に空気または燃料と空気との混合気を供給するための通路である。機関排気通路は、燃料の燃焼により生じた排気を燃焼室5から排出するための通路である。
シリンダヘッド4には、吸気ポート7および排気ポート9が形成されている。吸気弁6は吸気ポート7の端部に配置され、燃焼室5に連通する機関吸気通路を開閉可能に形成されている。排気弁8は、排気ポート9の端部に配置され、燃焼室5に連通する機関排気通路を開閉可能に形成されている。シリンダヘッド4には、点火装置としての点火プラグ10が固定されている。点火プラグ10は、燃焼室5にて燃料を点火するように形成されている。
本実施の形態における内燃機関は、燃焼室5に燃料を供給するための燃料噴射弁11を備える。本実施の形態における燃料噴射弁11は、吸気ポート7に燃料を噴射するように配置されている。燃料噴射弁11は、この形態に限られず、燃焼室5に燃料を供給できるように配置されていれば構わない。たとえば、燃料噴射弁は、燃焼室に直接的に燃料を噴射するように配置されていても構わない。
燃料噴射弁11は、電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ29を介して燃料タンク28に接続されている。燃料タンク28内に貯蔵されている燃料は、燃料ポンプ29によって燃料噴射弁11に供給される。
各気筒の吸気ポート7は、対応する吸気枝管13を介してサージタンク14に連結されている。サージタンク14は、吸気ダクト15を介してエアクリーナ(図示せず)に連結されている。吸気ダクト15の内部には、吸入空気量を検出するエアフローメータ16が配置されている。吸気ダクト15の内部には、ステップモータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置されている。一方、各気筒の排気ポート9は、対応する排気枝管19に連結されている。排気枝管19は、排気処理装置21に連結されている。本実施の形態における排気処理装置21は、三元触媒20を含む。排気処理装置21は、排気管22に接続されている。
本実施の形態における内燃機関は、電子制御ユニット31を備える。本実施の形態における電子制御ユニット31は、デジタルコンピュータを含む。電子制御ユニット31は、双方向バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、入力ポート36および出力ポート37を含む。
エアフローメータ16の出力信号は、対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。アクセルペダル40には、負荷センサ41が接続されている。負荷センサ41は、アクセルペダル40の踏込量に比例した出力電圧を発生する。この出力電圧は、対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。
クランク角センサ42は、クランクシャフトが、例えば所定の角度を回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスは入力ポート36に入力される。クランク角センサ42の出力により、機関回転数を検出することができる。また、クランク角センサ42の出力により、クランク角度を検出することができる。機関排気通路において、排気処理装置21の下流には、排気処理装置21の温度を検出する温度検出器としての温度センサ43が配置されている。温度センサ43の出力は、対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。
電子制御ユニット31の出力ポート37は、それぞれの対応する駆動回路39を介して燃料噴射弁11および点火プラグ10に接続されている。本実施の形態における電子制御ユニット31は、燃料噴射制御や点火制御を行うように形成されている。すなわち、燃料を噴射する時期および燃料の噴射量が電子制御ユニット31により制御される。更に点火プラグ10の点火時期が電子制御ユニット31により制御されている。また、出力ポート37は、対応する駆動回路39を介して、スロットル弁18を駆動するステップモータ17および燃料ポンプ29に接続されている。これらの機器は、電子制御ユニット31により制御されている。
吸気弁6は、吸気カム51が回転することにより開閉するように形成されている。排気弁8は、排気カム52が回転するようことにより開閉するように形成されている。本実施の形態における内燃機関は、可変動弁機構を備える。可変動弁機構は、吸気弁6の開閉時期を変更する可変バルブタイミング装置53を含む。本実施の形態における可変バルブタイミング装置53は、吸気カム51の回転軸に接続されている。可変バルブタイミング装置53は、電子制御ユニット31により制御されている。
更に、本実施の形態における可変動弁機構は、排気弁8の開閉時期を変更する可変バルブタイミング装置54を含む。可変バルブタイミング装置54は、排気カム52の回転軸に接続され、電子制御ユニット31により制御されている。
本実施の形態における可変バルブタイミング装置は、弁が開き始めてから閉じ終わるまでの作動角がほぼ一定で、作動角の中心の位相を変更可能に形成されている。可変バルブタイミング装置としては、この形態に限られず、作動角が可変に形成されていても構わない。また、吸気弁または排気弁の開閉時期を変更可能に形成されている任意の可変バルブタイミング装置を採用することができる。
本実施の形態における内燃機関は、圧縮比可変機構を備える。内燃機関の圧縮比は、ピストンが圧縮上死点に達したときの燃焼室の容積等に依存して定まる。本実施の形態における圧縮比可変機構は、燃焼室の容積を変更することにより圧縮比を変更するように形成されている。燃焼室における実際の圧縮比である実圧縮比は、(実圧縮比)=(燃焼室の容積+吸気弁が閉じている期間のピストンの行程容積)/(燃焼室の容積)で示される。
図2は、本実施の形態における内燃機関の圧縮比可変機構の分解斜視図である。図3は、内燃機関の燃焼室の部分の第1の概略断面図である。図3は、圧縮比可変機構により高圧縮比になったときの概略図である。本実施の形態における内燃機関は、クランクケースを含む下部構造物と、下部構造物の上側に配置されているシリンダブロックとが互いに相対移動する。本実施の形態における下部構造物は、圧縮比可変機構を介してシリンダブロックを支持している。また、本実施の形態における下部構造物は、クランクシャフトを支持している。
図2および図3を参照して、シリンダブロック2の両側の側壁の下方には複数個の突出部80が形成されている。突出部80には、断面形状が円形のカム挿入孔81が形成されている。クランクケース79の上壁には、複数個の突出部82が形成されている。突出部82には、断面形状が円形のカム挿入孔83が形成されている。クランクケース79の突出部82は、シリンダブロック2の突出部80同士の間に嵌合する。
本実施の形態における圧縮比可変機構は、シリンダブロックの支持軸としての一対のカムシャフト84,85を含む。カムシャフト84,85には、それぞれのカム挿入孔83内に回転可能に挿入される円形カム88が固定されている。円形カム88は各カムシャフト84,85の回転軸線と同軸状に配置されている。一方で、それぞれの円形カム88の両側には、カムシャフト84,85の回転軸線に対して偏心して配置された偏心軸87が延びている。この偏心軸87上には、別の円形カム86が偏心して回転可能に取付けられている。これらの円形カム86は円形カム88の両側に配置されている。円形カム86は対応するカム挿入孔81内に回転可能に挿入されている。
圧縮比可変機構は、モータ89を含む。モータ89の回転軸90には、螺旋方向が互いに逆向きの2つのウォーム91,92が取付けられている。それぞれのカムシャフト84,85の端部には、ウォームホイール93,94が固定されている。ウォームホイール93,94は、ウォーム91,92と噛み合うように配置されている。モータ89が回転軸90を回転させることにより、カムシャフト84,85を、互いに反対方向に回転させることができる。
図3を参照して、それぞれのカムシャフト84,85上に配置された円形カム88を、矢印97に示すように互いに反対方向に回転させると、偏心軸87が円形カム88の上端に向けて移動する。円形カム86は、カム挿入孔81内において、矢印96に示すように円形カム88と反対方向に回転する。
図4に、本実施の形態における内燃機関の燃焼室の部分の第2の概略断面図を示す。図4は、圧縮比可変機構により低圧縮比になったときの概略図である。図4に示されるように偏心軸87が円形カム88の上端まで移動すると、円形カム88の中心軸が偏心軸87よりも下方に移動する。図3および図4を参照して、クランクケース79とシリンダブロック2との相対位置は、円形カム86の中心軸と円形カム88の中心軸との距離によって定まる。円形カム86の中心軸と円形カム88の中心軸との距離が大きくなるほどシリンダブロック2はクランクケース79から離れる。矢印98に示すようにシリンダブロック2がクランクケース79から離れるほど、ピストン3が圧縮上死点に達したときの燃焼室5の容積が大きくなる。
本実施の形態における圧縮比可変機構は、クランクケースに対してシリンダブロックが相対的に移動することにより、燃焼室の容積が可変に形成されている。本実施の形態においては、下死点から上死点までのピストンの行程容積と燃焼室の容積のみから定まる圧縮比を機械圧縮比と言う。図3ではピストン3が圧縮上死点に到達しており、燃焼室5の容積が小さくなっている。吸入空気量が常時一定の場合には圧縮比が高くなる。この状態は、機械圧縮比が高い状態である。これに対して、図4ではピストン3が圧縮上死点に到達しており、燃焼室5の容積が大きくなっている。吸入空気量が常時一定の場合には圧縮比が低くなる。この状態は、機械圧縮比が低い状態である。このように、本実施の形態における内燃機関は、運転期間中に圧縮比を変更することができる。たとえば、内燃機関の運転状態に応じて、圧縮比可変機構により圧縮比を変更することができる。
図3を参照して、クランクケース79とシリンダブロック2との境界部分には、クランクケース79とシリンダブロック2との相対位置を検出するための相対位置センサ95が取付けられている。相対位置センサ95により、クランクケース79とシリンダブロック2との相対位置を検出し、機械圧縮比を検出することができる。相対位置センサ95の出力信号は、電子制御ユニットに入力される。
本実施の形態における圧縮比可変機構は、回転軸を偏心させた円形カムを回転させることにより、クランクケースに対してシリンダブロックを相対的に移動させているが、この形態に限られず、任意の機構により機械圧縮比を変更できる任意の圧縮比可変機構を採用することができる。
ところで、燃料と空気との混合気が燃焼室において燃焼した場合に、燃焼せずに未燃ガスとなる部分が残存する。混合気が点火プラグにおいて点火されると火炎が生成され、生成された火炎は、燃焼室内の全体に向かって伝播していく。このときに、燃焼室では火炎が到達しないクエンチゾーンが発現する。このために、燃焼が終了した燃焼ガスには、燃料が燃焼した既燃ガスに加えて、燃料が燃焼しないで残存する未燃ガスが含まれる。未燃ガスには、燃料および空気が含まれる。
また、本実施の形態における内燃機関は、燃焼サイクルの排気行程において、ピストンが圧縮上死点まで上昇するが、一部の燃焼ガスは機関排気通路に流出せずに燃焼室に残留する。残留ガスは、次の燃焼サイクルまで残存する。このため、それぞれの燃焼サイクルにおいて燃焼室に封入される気体には、機関吸気通路から供給される燃料および空気の新混合気(新気)と、以前の燃焼サイクルにおいて残留した残留ガスが含まれる。
燃焼ガスには、既燃ガスおよび未燃ガスが含まれるが、機械圧縮比を変更するとクエンチゾーンの大きさが変化する。このために、機械圧縮比が変化すると、残留ガスに含まれる既燃ガスと未燃ガスとの割合が変化する。
図5に、機械圧縮比が変化したときに燃焼室に残留する残留ガスの組成を説明する概略図を示す。ピストン3は、コネクティングロッド58を介して、クランクシャフト59に支持されている。クランクシャフト59が回転することにより、ピストン3は上死点と下死点との間で往復運動する。図5においては、高圧縮比の例として機械圧縮比εが20の場合と、低圧縮比としての機械圧縮比εが10の場合が示されている。また、それぞれの機械圧縮比が一定に維持されている定常運転の状態の例を示している。
本実施の形態の圧縮比可変機構においては、クランクケースを含む下部構造物に対して、シリンダブロックが移動する。このために、機械圧縮比が変化すると燃焼室の大きさが変化する。本実施の形態においては、特に言及しない限り、吸気弁の開弁時期(IVO)は吸気行程における上死点(TDC)であり、吸気弁の閉弁時期(IVC)は吸気行程における下死点(BDC)である。また、排気弁の閉弁時期(EVC)は、排気行程における上死点(TDC)である。更に、吹き戻しがない状態を前提としている。
ピストン3が排気行程において上死点に到達した場合に燃焼室内に残留している気体が、残留ガス64に相当する。残留ガス64は、燃焼せずに燃料が残っている未燃ガス64aと、燃焼した既燃ガス64bとを含む。また、ピストン3が上死点から下死点まで移動する行程容積の部分は、新たに気筒内に供給される新混合気63に相当する。新混合気63および未燃ガス64aには燃料61と空気62とが含まれ、未燃の混合気が構成されている。
クエンチゾーンは、機械圧縮比が高圧縮比から低圧縮比になるほど小さくなる。機械圧縮比が小さくなるほど、残留ガス64に含まれる未燃ガス64aの割合が小さくなる。残留ガス64における既燃ガスの割合rを高圧縮比の場合と低圧縮比の場合とで比較すると、高圧縮比の既燃ガス64bの割合r(ε=20)は、低圧縮比の既燃ガス64bの割合r(ε=10)よりも小さくなっていることが分かる。
図6に、本実施の形態の第1の運転制御における気筒内の気体の割合を説明する概略図を示す。比較例1は、機械圧縮比εを15に維持した定常運転を行なっている時の例である。残留ガス64における未燃ガス64aと既燃ガス64bとの比は、(1−r(ε=15)):r(ε=15)と表すことができる。
比較例2は、機械圧縮比εが20から低下して15になったときの例である。機械圧縮比εは、比較例1と同じであるが、比較例2では機械圧縮比が変更する過渡運転を行なっている。機械圧縮比が大きくなるほど、未燃ガス64aの割合が大きくなるために、機械圧縮比を低下させる過渡運転においては、高い未燃ガス64aの割合の影響を受ける。このため、比較例2の過渡運転時の未燃ガス64aの割合は、比較例1の定常運転時よりも大きくなる。比較例2では、未燃ガス64aと新混合気63と合わせた気筒内の未燃の混合気の量が比較例1よりも大きくなる。このために、発生するトルクが大きくなったり、トルクショックが生じたりする場合がある。このように、機械圧縮比が同じであっても、過渡運転時には燃焼室に封入される未燃の混合気の量が定常運転時よりも多くなるために、出力されるトルクが大きくなる場合がある。
実施例1は、本実施の形態における第1の運転制御を行なったときの例を示している。第1の運転制御においては、気筒内に残留する残留ガス量と、残留ガスに含まれる未燃ガスの量を推定し、推定した未燃ガスの量に基づいて、気筒内に供給する新混合気の量を調整する制御を行う。比較例1と比較例2とを参照すると、比較例2では、燃料61と空気62とを含む未燃の混合気の量が差分Δmcylのみ比較例1よりも大きくなっている。本実施の形態の第1の運転制御においては、新たに供給する新混合気の量を減少させて、過渡運転時の未燃の混合気の量が、定常運転時の未燃の混合気の量と同じになるように制御する。
本実施の形態の第1の運転制御においては、吸気弁の閉弁時期を基準となる閉弁時期の下死点から進角することにより、気筒内に供給する燃料61と空気62の新混合気63の量を減少させる補正を行なう。混合気の減少量は、比較例1と比較例2との残留ガス64の未燃ガス64aの量の差分Δmcylに相当する。この制御により、比較例1における未燃の混合気65の量と、実施例1における未燃の混合気65の量とをほぼ同じにすることができる。燃焼室に封入される燃焼可能な混合気の量を互いに同じにすることができる。このために、機械圧縮比を変更している期間においても、出力されるトルクが大きく変化したり、トルクショックが生じたりすることを抑制できる。本実施の形態における内燃機関は、機械圧縮比を変更しても安定した運転を行なうことができる。
次に、本実施の形態における第1の運転制御について具体例を説明する。
図7に、本実施の形態における第1の運転制御のフローチャートを示す。図7に示すフローチャートは、例えば、機械圧縮比を変更している期間中に繰り返して行なうことができる。
はじめに、ステップ101においては、ピストンが圧縮行程の上死点(圧縮上死点)に位置しているか否かを判別する。ピストンが圧縮行程の上死点でない場合には、この制御を終了する。ステップ101において、ピストンが圧縮行程の上死点に位置している場合にはステップ102に移行する。
ステップ102においては、ピストンが圧縮行程の上死点に位置している時の機械圧縮比εTDCfpを検出する。すなわち、燃焼室において点火が行なわれるときの上死点の機械圧縮比を検出する。
次に、ステップ103においては、ピストンが吸気行程の上死点(または排気行程の上死点)に位置しているか否かを判別する。ステップ103において、ピストンが吸気行程の上死点に位置していない場合には、この制御を繰り返す。すなわち、ピストンが吸気行程の上死点に到達するまで(クランク角度が360°回転するまで)待機する。ステップ103において、ピストンが吸気行程の上死点に到達していれば、ステップ104に移行する。ステップ104においては、この時の機械圧縮比εTDCvoを検出する。
次に、ステップ105において、ピストンが吸気行程の下死点に到達したときの機械圧縮比ε
TDCivcを推定する。ピストンが吸気行程の下死点に到達した時期は、吸気弁が閉弁する基準となる時期であり、この吸気弁が開くときの機械圧縮比を推定する。ピストンが吸気行程の下死点に到達したときの機械圧縮比ε
BDCivcは、ステップ102において検出した機械圧縮比ε
TDCfpおよびステップ104において検出した機械圧縮比ε
TDCvoを用いて推定することができる。吸気行程においてピストンが下死点(吸気下死点)に位置したときの機械圧縮比ε
BDCivcは、次の式1により推定することができる。
次に、ステップ106において、ピストンが圧縮行程の上死点に位置しているときの残留ガスにおける既燃ガスの割合r(εTDCfp)およびピストンが吸気行程の下死点に位置したときの残留ガスにおける既燃ガスの割合r(εBDCivc)を推定する。
図8に、それぞれの機械圧縮比における残留ガスに含まれる既燃ガスの割合を説明するグラフを示す。機械圧縮比εが大きくなるほど、残留ガスにおける既燃ガスの割合rが減少する。図8に示す機械圧縮比と既燃ガスの割合との関係をマップにして、予め電子制御ユニット等に記憶させておくことができる。図7のステップ106においては、ステップ102において検出した機械圧縮比εTDCfpと、ステップ104において検出した機械圧縮比εTDCvoとにより、それぞれの状態における既燃ガスの割合rをマップから読み込むことができる。
次に、ステップ107においては、ピストンが吸気行程の下死点に到達したときの残留ガス量m
res(ε
BDCivc)を算出する。ピストンが吸気行程の下死点に到達したとき、すなわち、吸気弁の基準の閉弁時期における機械圧縮比に対応する残留ガス量を推定する。それぞれの機械圧縮比における残留ガス量m
resは、次の式2で算出することができる。
ここで、変数PEVCは、排気弁が閉弁したときの気筒内の圧力である。変数VEVCは、排気弁が閉弁したときの気筒内の容積であり、それぞれの機械圧縮比により変化する。定数Rは気体定数であり、変数TEVCは、排気弁が閉弁したときの気筒内の温度である。
変数P
EVCは、気筒内の圧力を検出する筒内圧センサを配置することにより検出することができる。または、クランク角センサの出力等を用いて推定することができる。変数V
EVCは、例えば、次の式3から算出することができる。
ここで、変数Vcylは排気量を示し、変数ncylは気筒数を示し、変数EVCは、排気弁の閉弁時期であり、単位は[rad ATDC]である。
また、変数T
EVCは、例えば、予め内燃機関の運転状態を関数にするマップを電子制御ユニット等に記憶させておくことができる。変数T
EVCは、内燃機関の運転状態を検出し、記憶したマップから読み込むことにより推定することができる。変数T
EVCは、次の式4にて表すことができる。
ここで、変数NEは、機関回転数であり、変数KLは充填効率であり、変数SAは点火時期である。
図9に、排気弁が閉弁したときの気筒内の温度TEVCを推定するときのマップを説明するグラフを示す。温度TEVCは、例えば、機関回転数NEに対して単調増加であり、充填効率KLに対し単調増加である。一方で、温度TEVCは、点火時期SAに対して単調減少である。このような関係を有するマップから温度TEVCを推定することができる。このように、上記の式2から、それぞれの機械圧縮比における残留ガス量mresを算出することができる。
図7を参照して、ステップ107において、ピストンが吸気行程の下死点に到達したときの残留ガス量m
res(ε
BDCivc)を推定後に、ステップ108に移行する。ステップ108においては、気筒内において新たに供給する新混合気を減少させる減少量Δm
cylを算出する。気筒内のガスの減少量Δm
cylは、次の式5により算出することができる。
式5においては、圧縮上死点での機械圧縮比おける未燃ガスの割合(1−r(εTDCfp))から吸気行程の下死点における未燃ガスの割合(1−r(εBDCivc))を減算し、ステップ107において算出した残留ガス量mres(εBDCivc)を乗じることにより算出することができる。
次に、ステップ109においては、気筒内に新たに供給する新混合気量mnewを推定する。気筒内に供給する新混合気量mnewは、例えば、エアフローメータの出力により推定することができる。または、以前の燃焼サイクルにおいて充填した新混合気量により、今回の燃焼サイクルにおける新混合気量を推定することができる。
次に、ステップ110において、次の式6により、吸気弁の閉弁時期を算出する。ここで、プラスの符号は進角を示している。すなわち、本実施の形態においては、吸気弁の閉弁時期を進角させている。
次に、ステップ111において算出した閉弁時期にて吸気弁を閉弁する。この制御を行なうことにより、機械圧縮比を変更している期間中においても、新混合気の量を補正して、燃料と空気との混合気の総量を、定常運転時とほぼ同じにすることができる。本実施の形態の第1の運転制御は、機械圧縮比が変更している期間中に繰り返して行なうことができる。このため、機械圧縮比を変更している過渡運転の期間中に、不測のトルクが出力されたり、トルクショックが生じたりすることを抑制することができる。
本実施の形態における第1の運転制御においては、燃焼室内に残留する残留ガスに含まれる未燃ガスの量および機械圧縮比に基づいて、過渡運転時の未燃の混合気の量が定常運転時の未燃の混合気の量とほぼ同じになる吸気弁の閉弁時期を推定する。推定した吸気弁の閉弁時期に制御することにより、燃焼室に供給する新混合気の量を調整し、安定した運転を行なうことができる。
本実施の形態においては、吸気弁の閉弁時期を進角する補正を行っているが、この形態に限られず、吸気弁の閉弁時期を遅角することにより新混合気量を調整する制御を行っても構わない。または、燃焼室に充填する新混合気量を調整する任意の制御または任意の装置を採用することができる。
次に、本実施の形態における第2の運転制御について説明する。過渡運転状態においては、出力されるトルクの変動のみではなくて、燃焼室から排出されるNOXの量が変化する場合がある。たとえば、燃焼室から排出されるNOXの量が多くなる場合がある。本実施の形態の第2の運転制御においては、過渡運転状態において生じるNOXの量が増加することを抑制する制御を行う。
図10は、本実施の形態の第2の運転制御における気筒内の気体の割合を説明する概略図である。比較例1および比較例2は、第1の運転制御の説明における比較例1および比較例2と同様である(図6参照)。実施例2は、本実施の形態における第2の運転制御を行なったときの気筒内の気体の割合を示している。
比較例2を参照して、過渡運転時における既燃ガス64bの量は、機械圧縮比が同じであっても定常運転時における既燃ガス64bの量よりも少なくなる。すなわち、気筒内の既燃ガス64bの割合が小さくなる。このために、混合気が燃焼する時の温度が上昇し、NOXの発生量が増加する。機械圧縮比εがほぼ同じ場合であっても、過渡運転時において生じるNOXの量は、定常運転時において生じるNOXの量よりも多くなる。
本実施の形態の第2の運転制御においては、過渡運転時における既燃ガス64bの量を増加させて、発生するNOXの量を抑制する制御を行う。本実施の形態の第2の運転制御においては、過渡運転時における残留ガス64に含まれる既燃ガス64bの量を、定常運転時における既燃ガス64bの量とほぼ同じにする制御を行う。
本実施の形態の第2の運転制御においては、吸気弁の開弁時期を進角させる制御を行う。さらに、排気弁の閉弁時期を遅角させる制御を行う。この制御を行うことにより、過渡運転時における残留ガス量mresを大きくすることができる。このために、残留ガス64に含まれる既燃ガス64bの量を多く補正することができる。実施例2においては過渡運転時の既燃ガス64bの量が、定常運転時の比較例1の既燃ガス64bの量と同じになるように調整する。この制御を行うことにより、生じるNOXの量を抑制することができる。過渡運転時にNOX量が変化することを抑制することができて、安定した内燃機関の運転を行なうことができる。
図11に、本実施の形態における第2の運転制御のフローチャートを示す。本実施の形態の第2の運転制御は、機械圧縮比を変更している期間中に繰り返して行なうことができる。
ステップ121およびステップ122は、第1の運転制御のステップ101およびステップ102と同様である(図7参照)。ピストンが圧縮行程の上死点に位置しているときの機械圧縮比εTDCfpを検出する。
次に、ステップ123においては、ピストンが排気行程の下死点(膨張行程の下死点)に位置しているか否かを判別する。ステップ123において、ピストンが排気行程の下死点に到達するまで(クランク角度が180°回転するまで)待機する。ステップ123において、ピストンが排気行程の下死点に到達していればステップ124に移行する。ステップ124においては、ピストンが排気行程の下死点に位置しているときの機械圧縮比εBDCevoを検出する。排気弁が開弁する時の機械圧縮比εBDCevoを検出する。
次に、ステップ125において、ピストンが吸気行程の上死点(排気行程の上死点)に到達したときの機械圧縮比ε
TDCvoを推定する。吸気弁を開弁するための基準開弁時期または、排気弁を閉弁するための基準閉弁時期における機械圧縮比を推定する。ピストンが吸気行程の上死点に到達したときの機械圧縮比は、ステップ122において検出した機械圧縮比ε
TDCfpおよびステップ124において検出した機械圧縮比ε
BDCevoを用いて推定することができる。吸気行程においてピストンが上死点に位置したときの機械圧縮比ε
TDCvoは、次の式7により推定することができる。
次に、ステップ126において、ピストンが圧縮行程の上死点に位置するときの残留ガスに含まれる既燃ガスの割合r(εTDCfp)およびピストンが吸気行程の上死点に位置するときの残留ガスに含まれる既燃ガスの割合r(εTDCvo)を読み込む。これらの割合rは、本実施の形態における第1の運転制御のステップ106(図7参照)と同様に、予めマップを作成し、マップから読み込むことにより推定することができる。
次に、ステップ127においては、ピストンが吸気行程の上死点(吸気弁が開弁するための基準開弁時期)に位置する時の基準となる残留ガス量mres(εTDCvo)を算出する。ここでの残留ガス量は、本実施の形態における第1の運転制御のステップ107(図7参照)と同様の方法を用いて、たとえば、前回の燃焼サイクルの残留ガス量を採用することができる。または、前の燃焼サイクルの残留ガス量に基づいて推定しても構わない。
次に、ステップ128においては、排気弁が閉弁したときの目標値となる目標残留ガス量m
res,tを算出する。目標残留ガス量m
res,tは、ピストンが吸気行程の上死点に到達したときの基準となる残留ガス量m
resに、ピストンが圧縮行程の上死点に到達したときの残留ガスにおける既燃ガスの割合r(ε
TDCfp)と、ピストンが吸気行程の上死点に位置するときの機械圧縮比における既燃ガスの割合r(ε
TDCvo)を用いることにより算出することができる。目標残留ガス量m
res,tは、次の式8により算出することができる。
次に、ステップ129においては、気筒内に供給する新混合気量mnewを推定する。新混合気量mnewは、たとえば、第1の運転制御における方法と同様に、エアフローメータの出力により推定することができる。
次に、ステップ130において、気筒内の新混合気量m
newおよび目標残留ガス量m
res,t、および吸気行程の上死点における残留ガス量m
res(ε
TDCvo)を用いて、吸気弁の開時期(IVO)および排気弁の閉弁時期(EVC)を算出することができる。吸気弁の開時期(IVO)は、次の式9により算出することができる。排気弁の閉弁時期(EVC)は、次の式10により算出することができる。
次に、ステップ131においては、算出された開弁時期にて吸気弁を開弁する制御を行う。また、算出した閉弁時期にて排気弁を閉弁する制御を行う。この制御を行なうことにより、過渡運転時における残留ガスの既燃ガスの量を、定常運転時における既燃ガスの量とほぼ同じにすることができて、NOXの増加を抑制することができる。
本実施の形態の第2の運転制御では、燃焼室内に残留する残留ガスに含まれる既燃ガスの量および機械圧縮比に基づいて、過渡運転時の既燃ガスの量が定常運転時の既燃ガスの量とほぼ同じになる吸気弁の開弁時期および排気弁の閉弁時期を推定している。推定した吸気弁の開弁時期および推定した排気弁の閉弁時期に制御することにより、燃焼室に残留する残留ガスの量を調整し、NOX量の放出量が増大することを抑制することができる。また、燃焼室から流出するNOX量が大きく変動することを抑制できる。
本実施の形態の第2の運転制御においては、吸気弁の開く時期を進角し、更に、排気弁を閉じる時期を遅角しているが、この形態に限られず、燃焼室に残留する残留ガスに含まれる既燃ガスの量を調整可能な任意の制御または任意の装置を採用することができる。
さらに、内燃機関の運転制御においては、第1の運転制御に加えて第2の運転制御を行なうことができる。すなわち、第1の運転制御の気筒内に供給される新混合気量を定常運転時とほぼ同じにすると共に、第2の運転制御の残留ガス量を定常運転時とほぼ同じにする制御を行なうことができる。この場合には、吸気弁の開閉時期を変更する可変バルブタイミング装置に加えて、吸気弁が開いている時間長さ(作動角)を調整可能な作動角調整機構を採用することにより、吸気弁の開弁時期と吸気弁の閉弁時期とを個別に調整することができる。
上記の第1の運転制御および第2の運転制御において示したように、本実施の形態における内燃機関は、過渡運転時における残留ガスに含まれる未燃ガスと既燃ガスとの割合と、今回の燃焼サイクルにおける機械圧縮比とを推定し、推定した未燃ガスと既燃ガスとの割合および推定した機械圧縮比に基づいて、今回の燃焼サイクルにおいて燃焼室に充填されている未燃の混合気の量または既燃ガスの量のうち少なくとも一方の量が、機械圧縮比がほぼ一定の定常運転時の量とほぼ同じになるように補正する制御を行うことができる、今回の燃焼サイクルにおける残留ガスの量および新混合気の量のうち少なくとも一方の量を調整することができる。
本実施の形態においては、機械圧縮比が変更される過渡運転のうち、機械圧縮比が小さくなる過渡運転を例示したが、この形態に限られず、機械圧縮比が大きくなる過渡運転にも本発明を適用することができる。
本実施の形態においては、車両に配置されている内燃機関を例に取り上げて説明したが、この形態に限られず、圧縮比可変機構を備える任意の内燃機関に本発明を適用することができる。
上述のそれぞれの図において、同一または相当する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、特許請求の範囲に示される変更が含まれている。