ところで、回転テーブルをクランプ機構によってクランプする工作機械では、指令位置に対し位置決め制御した後、クランプ機構によってクランプする際、具体的には、クランプ機構がディスクをおさえつける際に発生するアキシアル方向、ラジアル方向、回転方向の各方向の荷重により、位置決めされた状態からずれる場合、このずれは、結果として精度を命とする工作機械の位置決め誤差となってしまうという問題があった。
このクランプ動作によるずれ量を低減させるためは、ディスクの芯振れや面振れ、アキシアル方向の位置、部品そのものの厚みや平面度など、組付け精度や部品精度を向上させる方法や、複数のクランプ機構を用いた場合は、各クランプ機構のアキシアル方向の取付位置がばらついていないか、各クランプ動作が同時に行われているか、各クランプ機構のクランプ応力にばらつきがないかなど、ディスクにかかる各クランプ機構のクランプ動作の荷重をバランスよくする方法が考えられる。しかし、このようなずれ量を低減させる方法にあっては、部品そのものの精度を向上されるために、部品コストが上がってしまう。また、各部品の組付け精度や、取付調整、測定と油圧設定調整など、組立コストも上がってしまっていた。
また、クランプ機構は、回転軸がアンクランプ状態の時に位置決め制御され、クランプ動作の際に、理想的には位置決めされた回転角度からずれないことが求められる。即ち、クランプ動作によってディスクにはおさえつける力が作用するが、この際に、ディスクにかかるアキシアル方向、ラジアル方向、回転方向の各方向の荷重が小さいほど、位置決め制御された状態からのずれ量も少なく、優れたクランプ機構といえる。しかし、ディスクにかかる前述の各方向の荷重を小さくすると、クランプ力も小さくなる傾向がある。
そこで、本発明は、上記のような課題を鑑み、回転軸をクランプ機構によってクランプする工作機械に用いられ、適切なクランプ力を確保しつつ、ずれ量を抑制できる数値制御装置を提供することを目的とする。
本発明の数値制御装置は、被加工物を固定して旋回自在な回転軸と、回転軸を駆動するアクチュエータと、回転軸をクランプするクランプ機構と、回転軸に備えられた回転軸の回転角度を検出する回転角度検出器と、を備える工作機械に用いる数値制御装置であって、回転軸を任意の指令位置に位置決め制御する際に、クランプ機構によって回転軸がクランプされる前の回転角度検出器の回転角度情報と、クランプ機構によって回転軸がクランプされた後の回転角度検出器の回転角度情報とから位置決め時に回転軸がクランプされたときの位置ずれを補正する補正パラメータを算出する補正手段と、補正手段からの補正パラメータに応じてアクチュエータを駆動制御して回転軸の位置決め制御を行うアクチュエータ制御手段と、を有することを特徴とする。
本発明の数値制御装置において、補正手段はクランプ機構のクランプ指令が行われる直前の位置決め制御時に補正パラメータを有効とすること、としても好適である。
本発明の数値制御装置において、補正手段は、回転軸を時計回り方向から位置決めする場合と、回転軸を反時計回り方向から位置決めする場合とで、異なる補正パラメータを算出すること、として好適である。このようにすることで、より位置決め誤差を低減することができる。
本発明の数値制御装置において、数値制御装置は、指令位置とクランプ動作の前後の回転角度情報とを関連付けて記憶する記憶手段をさらに備え、補正手段は、記憶手段に記憶された複数の指令位置とそれらに対応する複数のクランプ動作の前後の回転角度情報から、回転軸の全回転領域における補正パラメータを補間して算出すること、としても好適である。このようにすることで、クランプ動作前後での回転角度誤差の情報が記憶されていない領域の位置決め誤差も低減することができる。
本発明の数値制御装置において、数値制御装置は、指令位置とクランプ動作の前後の回転角度情報とを関連付けて記憶する記憶手段をさらに備え、補正手段は、記憶手段に記憶された複数の指令位置とそれらに対応する複数のクランプ動作の前後の回転角度情報から、回転軸の全回転領域における補正パラメータを、周波数解析による正弦波状の分布となるよう補間して算出すること、としても好適である。
本発明の数値制御装置において、数値制御装置は、補正パラメータを記憶する記憶手段をさらに備え、所定の運転モードにおいて、補正手段は補正パラメータを算出し、かつ、更新すること、としても好適である。
本発明の数値制御装置において、アクチュエータ制御手段は、回転軸がクランプ機構によってクランプされた状態において、補正手段からの補正パラメータを無効としてアクチュエータを駆動制御すること、としても好適である。
本発明の数値制御装置において、工作機械は、回転軸と回転軸を駆動するアクチュエータとの間に、歯車からなる減速機をさらに備え、数値制御装置は、補正手段にて算出する補正パラメータが一定量を超過した際に、アラームを発生すること、としても好適である。
本発明の数値制御装置によれば、回転軸をクランプ機構によってクランプする工作機械において、適切なクランプ力を確保しつつ、ずれ量を抑制することができるという効果を奏する。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態の数値制御装置が適用される工作機械の円テーブル20の構造を示す説明図である。回転軸22は、軸受31a,31bに軸支され回転自在となっている。軸受31a,31bは、おさえカラー39に支持され、ナット38によって固定されている。回転軸22とウォームホイール26aとは、ボルト32a,32bにて結合されており、アクチュエータである電動機25と結合されたウォームギア26bの回転動力が、ウォームホイール26aに伝達され回転軸22が回転する。さらに、回転軸22の下端には、回転角度検出器23を構成する検出ロータ23aが固定され、検出ロータ23aの回転位置を検出する検出センサ23bが、検出ロータ23aと適当な空隙量を隔てて非回転側に固定されている。数値制御装置10は、検出センサ23bの回転角度情報と、電動機25に内蔵されたエンコーダ28の電動機回転速度情報をもとに、電動機25への電流制御を行い、回転軸22の回転角度、速度を制御する。なお、以後の記載において、ウォームホイール26aとウォームギア26bとの組み合わせを減速機26と、検出ロータ23aと検出センサ23bとの組み合わせを回転角度検出器23と、称することがある。
一方、回転軸22の上側には、ドローバーや(オス,メス)コーン等からなる結合機構33a,33bによってパレット21が結合される。パレット21上には、図示しないが被加工物が自由に固定されるようになっている。他方、パレット21上に固定された被加工物は、所定の回転角度に位置決め制御され、図示しない工具を備えた主軸装置によって切削加工される。この際に、位置決めされた回転角度が、切削抵抗によってずれることを防止するため、クランプ機構24によって回転軸22は拘束されている。ブレーキディスク34は、ボルト35a,35bによって回転軸22に結合されている。クランプ機構24は、一般的にはバネ、油圧、電磁力等を利用した構造によってクランパーが動作し、板バネ等からなるブレーキディスク34を把持するものであり、本実施形態では油圧機器によって作動する機構となっている。クランプ機構24は、回転軸22がアンクランプ状態の時に位置決め制御される。
図2は、本発明の実施形態の円テーブルを搭載した工作機械の数値制御装置を示す概略構成図である。図2に示すように、円テーブル20は、クランプ機構24を動作するためのソレノイドバルブ27も有している。本発明の実施形態に係る工作機械では、適切なクランプ力を確保しつつ、ずれ量を抑制できる数値制御装置10を備えている。数値制御装置10は、指令位置関数発生手段13と、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)14と、補正手段16と、モータ制御手段17、および、記憶領域である記憶手段15を有している。各手段の主な動作を示す。指令位置関数発生手段13は、位置決め制御指令を出力する。PLC14は、指令位置関数発生手段13の出力に応じて、ソレノイドバルブ27を動作させる。記憶手段15は、回転角度検出器23からの回転角度情報、補正手段16により算出される補正パラメータなどを記憶しておく領域である。補正手段16は、記憶手段15に記憶されたデータをもとに補正パラメータの算出、位置決め制御時の補正パラメータの出力をする。モータ制御手段17は、指令位置関数発生手段13が出力する指令位置、補正手段16で算出される補正パラメータ、回転角度検出器23が検出する回転軸22の回転位置に基づき、電動機25を駆動制御する。各手段の動作の詳細は、以下の説明において示す。
図3、図4を参照しながら、円テーブル20および数値制御装置10の動作について説明する。まず、図3を参照しながら、補正パラメータの算出工程を説明する。図3のステップS101に示すように、図2に示す数値制御装置10を構成するCPU11は、プログラムである指令位置関数発生手段13を実行し、回転軸22の移動位置である指令位置を決定し、モータ制御手段17へ指令位置を出力する。図3のステップS102に示すように、指令位置関数発生手段13からの指令位置にもとづいて、モータ制御手段17が電動機25を制御する。図3のステップS103に示すように、モータ制御手段17は、回転角度検出器23が検出した回転軸22の回転位置から、回転軸22の回転角度情報を取得する。図3のステップS104に示すように、モータ制御手段17は、指令位置関数発生手段13からの指令位置と回転角度検出器23からの回転角度情報とを比較し、電動機25をフィードバック制御する。モータ制御手段17は、指令位置関数発生手段13からの指令位置と回転角度検出器23からの回転角度情報との差分が所望の領域に到達したら、指令位置関数発生手段13へ回転軸が所望の領域に到達したことを出力する。そして、指令位置関数発生手段13は、記憶手段15へホールド信号を送出する。図3のステップS105に示すように、回転角度検出器23はクランプ動作前の回転軸22の回転位置を検出し、ステップS106に示すように、記憶手段15は、ホールド信号を受信したらクランプ動作前の回転角度検出器23からの回転角度情報を記憶する。
図3のステップS107に示すように、図2に示す指令位置関数発生手段13はPLC14へクランプ信号を送出し、クランプ信号が入力されたPLC14はソレノイドバルブ27を通じてクランプ機構24をクランプ状態とし、回転軸22をクランプする。PLC14は、クランプ状態となったことを指令位置関数発生手段13へ伝達し、指令位置関数発生手段13は記憶手段15へホールド信号を送出する。図3のステップS108に示すように、回転角度検出器23はクランプ動作後の回転軸22の回転位置を検出し、図3のステップS109に示すように、図2に示す記憶手段15は、ホールド信号を受信したらクランプ動作後の回転角度検出器23からの回転角度情報を記憶する。図3のステップS110に示すように、補正手段16は、記憶手段15に記憶されたクランプ動作前後での回転角度情報の差分から、補正パラメータを算出する。図3のステップS111に示すように、記憶手段15は、補正手段16によって算出された補正パラメータを記憶する。
次に、図4を参照しながら、位置決め工程を説明する。図4のステップS201に示すように、図2に示す数値制御装置10を構成する指令位置関数発生手段13は、位置決め制御指令を出力する。図4のステップS202に示すように、指令位置関数発生手段13は、今回の位置決め制御指令が、クランプ機構24によるクランプ動作の直前であるか判断する。今回の位置決め制御指令が、クランプ機構24によるクランプ動作の直前である場合は、図4のステップS203に示すように、図2に示す指令位置関数発生手段13は、クランプ動作の直前であることを示す指令信号を補正手段16へ送出する。図4のステップS204に示すように、補正手段16は、指令位置関数発生手段13からの指令信号が入力されたら補正が有効であると判定し、記憶手段15に記憶されている補正パラメータを取得し、モータ制御手段17へ補正パラメータが有効となるように設定する。図4のステップS205に示すように、モータ制御手段17は、補正手段16からの補正パラメータに基づいて電動機25を制御し、図4のステップS206に示すように、電動機25により回転軸22が補正パラメータに応じた位置に移動される。図4のS207に示すように、回転軸22が補正パラメータに応じた位置に到達したら、指令位置関数発生手段13からPLC14へクランプ信号を送出し、クランプ信号が入力されたPLC14はソレノイドバルブ27を通じてクランプ機構24をクランプ状態とし、回転軸22をクランプする。
図4のステップS202において、今回の位置決め制御指令が、クランプ機構24によるクランプ動作の直前ではない場合は、図4のステップS210に示すように、図2に示す指令位置関数発生手段13は指令位置をモータ制御手段17に出力し、モータ制御手段17は指令位置に基づき電動機25を制御する。図4のステップS211に示すように、モータ制御手段17が電動機25を制御することにより、回転軸22が指令位置に移動する。以上が本実施形態の数値制御装置10の動作となる。本実施形態の数値制御装置10によれば、円テーブル20において、適切なクランプ力を確保しつつ、ずれ量を抑制することができる。また、クランプ機構24のクランプ動作によって発生する位置決め誤差を、補正パラメータを用いて補正するので、クランプ動作前後での位置決め誤差を低減することができる。また、クランプ機構24を構成する部品の加工精度や、組付け精度、取付調整などは、特別に厳しい精度を必要としなくても、位置決め誤差を低減することができる。なお、記憶手段15や補正手段16などをどのような構成で実現するか、例えば、図2で示すような分離された構成でなくても、一つのCPU内にあるRAM領域やプログラムによって実現しても、それは本発明を使用して数値制御装置を設計する側の自由度の範囲内であるといえる。
次に図5、図6を参照しながら、他の実施形態について説明する。図1に示すクランプ機構24のクランプ動作によって、回転軸22に備えたブレーキディスク34に荷重がかかり、位置ずれを起こすことは前述でも説明したが、クランプ機構24の組付け次第で、常にある方向、たとえば時計回り方向(CW方向)に位置ずれを起こしやすい特性をもってしまう場合がある。図1に示した本実施形態の数値制御装置10が用いられる円テーブル20の構成では、アクチュエータである電動機25と回転軸22との間にウォームホイール26a、ウォームギア26bからなる減速機26をもって駆動する機構となっている。ウォームホイール26aとウォームギア26bとは、適切なバックラッシを設けて組付け調整されるのが一般的である。位置決め動作が、CW方向から行われた場合には、回転軸22がCW方向にバックラッシによる隙間を有した状態になり、反時計回り方向(CCW方向)から行われた場合には逆にCCW方向にバックラッシによる隙間を有した状態となる。さて、図1に示す円テーブル20が、クランプ機構24のクランプ動作によって、CW方向への位置ずれを起こす特性をもっていた場合、クランプ動作前の位置決め動作が、CW方向から行われた場合には、バックラッシによる隙間により回転軸22が位置ずれを起こしやすい状態となっているが、逆にCCW方向から位置決めが行われた場合には、クランプ動作によってCW方向へ位置ずれを起こそうとしても、バックラッシによる隙間がほとんどないため、減速機26のセルフロック効果により、位置ずれ量が少なくなる。このような場合には、CW方向から位置決め制御した際と、CCW方向から位置決め制御した際とで、異なる補正パラメータを使い分けることが大変有効となる。
そこで、本実施形態では、以下に説明するように回転軸の方向により異なる補正パラメータを使用するようにしている。なお、特に図1から図3を参照して説明した実施形態の同様の部分には同様の符号を付して説明を省略する。図5を参照しながら、本実施形態の補正パラメータの算出工程について説明する。図5のステップS301からステップS304は、上述した図3のステップS101からS104と同様の動作である。図5のステップS301からS304により回転軸22が指令位置に移動すると、図5のステップS305に示すように、指令位置関数発生手段13は、モータ制御手段17から電動機25への制御指令を取得し、回転軸22の回転方向がCW方向またはCCW方向のいずれであるかを判断する。指令位置関数発生手段13は、記憶手段15に送出するホールド信号に、CW方向或いはCCW方向のいずれであるかを意味するコードを付加する。ここでは、回転軸22の回転方向がCW方向の場合について記す。図5のステップS311に示すように、回転角度検出器23は、クランプ動作前の回転軸22の回転位置を検出する。図5のステップS312に示すように、記憶手段15は、回転方向のコードにもとづいてクランプ動作前の回転角度検出器23からの回転角度情報をCW方向に区分けして記憶する。図5のステップS313に示すように、指令位置関数発生手段13はPLC14へクランプ信号を送出し、クランプ信号が入力されたPLC14はソレノイドバルブ27を通じてクランプ機構24をクランプ状態とし、回転軸22をクランプする。PLC14は、クランプ状態となったことを指令位置関数発生手段13へ伝達し、指令位置関数発生手段13は記憶手段15へホールド信号を送出する。図5のステップS314に示すように、回転角度検出器23はクランプ動作後の回転軸22の回転位置を検出し、ステップS315に示すように、記憶手段15は、指令位置関数発生手段13からホールド信号を受信したらクランプ動作後の回転角度検出器23からの回転角度情報をCW方向に区分けして記憶する。図5のステップS316に示すように、補正手段16は、記憶手段15に記憶されているCW方向に区分けされたクランプ動作前後での回転角度情報の差分から、CW方向用の補正パラメータを算出する。図5のステップS317に示すように、記憶手段15は、補正手段16によって算出されたCW方向用の補正パラメータを記憶する。図5のステップS305において、回転軸22の回転方向がCCW方向と判断された場合は、図5のステップS321からS327に従ってCCW用の補正パラメータが算出、記憶される。なお、図5のステップS321からS327は、上述したステップS311からS317とCW方向かCCW方向かが異なる以外は同様である。
次に、図6を参照しながら、本実施形態の位置決め工程を説明する。図6のステップS401に示すように、図2に示す数値制御装置10を構成する指令位置関数発生手段13は、位置決め制御指令を出力する。図6のステップS402に示すように、図2に示す指令位置関数発生手段13は、今回の位置決め制御指令が、クランプ機構24によるクランプ動作の直前であるか判断する。今回の位置決め制御指令が、クランプ機構24によるクランプ動作の直前である場合は、図6のステップS403に示すように、図2に示す指令位置関数発生手段13は、モータ制御手段17から電動機25への制御指令を取得し、回転軸22の回転方向がCW方向またはCCW方向のいずれであるかを判断する。ここでは、回転軸22の回転方向がCW方向の場合について記す。図6のステップS411に示すように、指令位置関数発生手段13は、補正手段16に対し、回転軸22の回転方向がCW方向であることを意味するコードを付加して、クランプ動作の直前であることを示す指令信号を送出する。図6のステップ412に示すように、補正手段16は、指令位置関数発生手段13からの指令信号が入力されたら補正が有効であると判定し、モータ制御手段17へ、記憶手段15に記憶されたCW方向用の補正パラメータが有効となるように設定する。図6のステップ413に示すように、モータ制御手段17は、補正手段16からのCW方向用の補正パラメータに基づいて電動機25を制御し、図6のステップS414に示すように、電動機25により回転軸22がCW方向用の補正パラメータに応じた位置に移動される。図6のステップS415に示すように、回転軸22が補正パラメータに応じた位置に到達したら、指令位置関数発生手段13からPLC14へクランプ信号を送出し、クランプ信号を入力したPLC14はソレノイドバルブ27を通じてクランプ機構24をクランプ状態とし、回転軸22をクランプする。図6のステップS403において、回転軸22の回転方向がCCW方向と判断された場合は、ステップS421からS424およびS415に従って位置決めが行われる。なお、図6のステップS421からS424は、上述したステップS411からS414とCW方向かCCW方向かが異なる以外は同様である。
図6のステップS402において、今回の位置決め制御指令が、クランプ機構24によるクランプ動作の直前ではない場合は、図6のステップS431に示すように、指令位置関数発生手段13は指令位置をモータ制御手段17に出力し、モータ制御手段17は指令位置に基づき電動機25を制御する。図6のステップS432に示すように、モータ制御手段17が電動機25を制御することにより、回転軸22が指令位置に移動する。本実施形態の数値制御装置によれば、回転軸の回転方向がCW方向かCCW方向かによって異なる補正パラメータを使い分けるため、クランプ機構によるクランプ動作によって発生する位置ずれが常にある方向に起きやすい場合であっても、適切に位置決め誤差を低減することができる。
図7を参照しながら、他の実施形態について説明する。図1に示す回転軸22に備えたブレーキディスク34について、回転軸22の回転にともなってブレーキディスク34の摩擦面が面振れするような取付状態であったとする。クランプ機構24を構成するクランパーがブレーキディスク34をおさえつける際に、回転位置によってブレーキディスク34の高さ方向(アキシアル方向)の位置が異なるために、おさえつける荷重や、ブレーキディスク34とクランパーが接触するタイミングなど、回転位置によるばらつきが発生し、位置ずれ量も回転位置によって異なってしまう。このような場合には、クランプ動作による位置ずれは、ブレーキディスク34の面振れと同期するため、回転軸の一回転あたりに1サイクルの周期性を有した変化をする。
そこで、本実施形態では以下に説明するように回転軸の全周領域において補正パラメータを設定するようにしたものである。図7のステップS501に示すように、図2に示す指令位置関数発生手段13は、指令位置を0°に決定し、図2に示すモータ制御手段17へ指令位置を出力する。図7のステップS502に示すように、モータ制御手段17が電動機25を制御し、回転軸22を指令位置へ移動する。図7のステップS503に示すように、回転角度検出器23はクランプ動作前の回転軸22の回転位置を検出する。図7のステップS504に示すように、指令位置関数発生手段13から記憶手段15に送出されるホールド信号に指令位置データも付加し、記憶手段15は指令位置データを付加されたホールド信号が入力されたら、指令位置データと関連付けて回転角度検出器23からの回転角度情報を記憶する。図7のステップS505に示すように、図2に示す指令位置関数発生手段13はPLC14へクランプ信号を送出し、クランプ信号が入力されたPLC14はソレノイドバルブ27を通じてクランプ機構24をクランプ状態とし、回転軸22をクランプする。図7のステップS506に示すように、回転角度検出器23はクランプ動作後の回転軸22の回転位置を検出し、図7のステップS507に示すように、記憶手段15は、クランプ動作後の回転角度検出器23からの回転角度情報を指令位置と関連付けて記憶する。図7のステップS508に示すように、図2に示す指令位置関数発生手段13は、指令位置が360°以上であるか判断、すなわち回転軸22の一回転分の回転角度情報を記憶手段15へ記憶させたか判断する。図7のステップS520に示すように、指令位置関数発生手段13は、指令位置が360°以上ではない場合は現在の指令位置に所定の角度αを加算する。そして、指令位置が360°以上になるまで、図7のステップS502からステップS507の動作が繰り返される。図7のステップS508において、図2に示す指令位置発生手段13が指令位置が360°以上であると判断した場合、図7のS509に示すように、補正手段16は、記憶手段15に記憶されている複数の指令位置とそれらに対する複数のクランプ動作前後の回転角度情報の差分のデータを周波数解析し、指令位置と補正パラメータとの関係を導き出し、図7のS510に示すように、記憶手段15は補正手段16によって導出された指令位置と補正パラメータとの関係式を記憶する。たとえば、図8は、一回転360°に対して指令位置30°おきに記憶手段15に記憶されたクランプ動作前後での回転角度情報の差分のデータをグラフ化して示したものである。補正手段16は、30°おきの指令位置に対するクランプ動作前後での回転角度情報の差分のデータを周波数解析し、次の(1)のように指令位置(θ)と補正パラメータ(C)との関係が導かれる。
C=0.0089×sin(θ+150)・・・(1)
これにより、記憶手段15に指令位置30°おきの一回転あたり12箇所の補正パラメータしか無かったものが、任意の指令位置θに対して補正パラメータが導出されるため、より実際の位置ずれに細やかに対応した補正パラメータとすることができる。本実施形態では、図1に示すブレーキディスク34の回転軸22の回転に対する面振れを要因とするものについて説明した。しかし、例えば、ブレーキディスク34の柔軟性を増すために複数のスリットが設けられた形状であった場合には、クランプ機構24のクランパーが、スリット近傍をクランプする時と、そうでない時に、クランプ動作による位置ずれ量に変化が発生し、結果として、そのスリットの数に比例したサイクルの位置ずれ変化が発生することもある。このような場合にも、周波数解析により高次の正弦波状の補正パラメータを選択されることも本実施形態では実現可能となっている。
次に、図9を参照しながら、指令位置と補正パラメータとの関係式を用いた位置決め制御の位置決め工程について説明する。図9のステップS601に示すように、図2に示す指令位置関数発生手段13は、位置決め制御指令を出力する。図9のステップS602に示すように、指令位置関数発生手段13は、今回の位置決め制御指令が、クランプ機構24によるクランプ動作の直前であるか判断する。今回の位置決め制御指令が、クランプ機構24によるクランプ動作の直前である場合は、図9のステップS603に示すように、指令位置関数発生手段13は、クランプ動作の直前であることを示す指令信号を補正手段16へ送出する。図9のステップS604に示すように、補正手段16は、指令位置関数発生手段13からの指令信号が入力されたら補正が有効であると判定し、記憶手段15に記憶されている指令位置と補正パラメータとの関係式から、指令位置関数発生手段13からの指令位置に対する補正パラメータを導出する。図9のステップS605に示すように、補正手段16は、モータ制御手段17に対して導出された補正パラメータが有効となるように設定する。図9のステップS606に示すように、モータ制御手段17は、補正手段16からの補正パラメータに基づいて電動機25を制御し、図9のステップS607に示すように、電動機25により回転軸22が補正パラメータに応じた位置に移動される。図9のステップS608に示すように、回転軸22が補正パラメータに応じた位置に移動したら、指令位置関数発生手段13からPLC14へクランプ信号を送出し、クランプ信号を入力したPLC14はソレノイドバルブ27を通じてクランプ機構24をクランプ状態とし、回転軸22をクランプする。
図9のステップS602において、今回の位置決め制御指令が、図2に示すクランプ機構24によるクランプ動作の直前ではない場合は、図9のステップS610に示すように、指令位置関数発生手段13は指令位置をモータ制御手段17に出力し、モータ制御手段17は指令位置に基づき電動機25を制御する。図9のステップS611に示すように、モータ制御手段17が電動機25を制御することにより、回転軸22が指令位置に移動する。本実施形態の数値制御装置によれば、回転軸の全周領域において補正パラメータを設定することができ、クランプ動作前後での回転角度誤差の情報が記憶されていない領域の位置決め誤差も低減することができる。
上述した本実施形態では、指令位置に対するクランプ動作前後での回転角度情報の差分のデータを周波数解析して、指令位置と補正パラメータの関係を導出したが、他の方法を用いてもよい。たとえば、図7に示すステップS501からS508およびS520に示すように、複数のクランプ機構24のクランプ動作前後の回転軸の回転角度情報を複数の指令位置と関連付けて記憶手段15に記憶する。補正手段16は、記憶手段15に記憶された複数の指令位置とそれらに対応する複数のクランプ動作の前後の回転角度情報から、回転軸22の全回転領域における補正パラメータを補間して算出する。より詳細には、補正手段16は、記憶手段15に記憶された情報をもとに、所定の角度αおきの指令位置とそれらに対応するクランプ動作前後での回転角度情報の差分のデータについて図10に示すように、回転軸22の一回転360°に対して指令位置30°おきに記憶手段15に記憶されたクランプ動作前後での回転角度情報の差分のデータをテーブルとして作成し、記憶手段15へ記憶する。そして、補正手段16は、モータ制御手段17へ補正パラメータを有効となるように設定する際に、指令位置に対する補正パラメータを、記憶手段15に記憶されたテーブルを参照して補間して算出するようにしてもよい。
次に、補正パラメータの更新に関する実施形態について説明する。補正パラメータを算出、更新するには、上述の動作で示したように多くの処理が行われるため、常時、数値制御装置10にて補正パラメータを算出、更新すると処理速度に支障がでる場合がある。そこで、所定の運転モードを行えば、補正パラメータが算出、更新されるようにする。具体的には、Mコードなどで補正パラメータを算出、更新する調整状態に設定されるようにしておき、指令位置関数発生手段13にてそのMコードの構文解釈をしたら、所定の運転モードを受け入れるフラグが設定される。ここでMコードとは、工作機械に種々の動作を行わせるための指令のことをいう。そして、円テーブルを、例えば、CW方向、CCW方向とも45°おきに位置決め制御、クランプ動作を繰り返して1回転ずつ運転すれば、記憶手段15に記憶されたクランプ動作前後での回転角度検出器23の回転情報の差分から、補正手段16が新たな補正パラメータを算出する。本発明の実施形態に係る数値制御装置10を使用するオペレータが、必要と判断した時、例えば、一日の始業前、半年に1回の定期メンテナンス、暑い日、寒い日など、所定の運転モードを実施するMコードと実際の回転動作を指令して、補正パラメータを更新するのが好適な実施方法といえる。なお、このような補正パラメータの更新が好適なのは、次のような状況を踏まえているためである。たとえば、ブレーキディスク34は、繰り返しクランパーにおさえつけられることにより、接触面の磨耗や変形が発生する場合がある。クランプ動作を行うクランパーについても、バネや油圧機器の繰り返し使用による経年劣化により、クランプ力の変化が発生する場合がある。つまり、部品の形状精度や組付け精度、取付状態などが、経年的に変化する。クランプ機構24の経年的な変化は、クランプ動作によるずれを誘発する。これは即ち、クランプ動作前後での位置決め誤差の変化を意味する。さらには、円テーブル20が使用される温度環境によっても、クランプ機構24を構成する各部品や組付け状態が姿勢変形し、同様の位置決め誤差が発生する。このような位置決め誤差を適切に補正しつつ、数値制御装置10の処理速度に支障をきたさない程度に補正パラメータの算出、更新ができる。
クランプ機構24がクランプ状態にある時にも、モータ制御手段17が電動機25を制御状態であり、クランプ機構24とアクチュエータである電動機25の両方の制動力を利用して、回転軸22の回転を拘束する場合について説明する。補正手段16は、クランプ動作前の位置決め制御時に、指令位置関数発生手段13からのクランプ動作の直前であることを示す指令信号にもとづいて、補正が有効であることを判定し、モータ制御手段17へ補正パラメータが有効となるように設定する。その後、クランプ動作が行われ、回転軸22は指令位置でクランプされた状態となる。このとき、指令位置とモータ制御手段17から出力される補正パラメータに応じた位置とは、補正パラメータ分だけずれている。ここで、補正が有効のままであると、回転角度検出器23からのフィードバックにより、モータ制御手段17は補正パラメータの補正量分だけずれた位置をもとに戻そうと制御を行う。この状態では、不要な電力を消費するとともに、電動機25の発熱が増えることになる。円テーブル20が使用される温度環境によっては、クランプ機構24を構成する各部品や組付け状態が姿勢変形し、位置決め誤差を引き起こす原因となる。電動機25の発熱は、円テーブル20の精度阻害要因となる。そこで、指令位置関数発生手段13は、PLC14からのクランプ動作確認信号が入力されたら、回転軸22がクランプされたことを示す指令信号を補正手段16へ送出する。補正手段16は、指令位置関数発生手段13からの回転軸22がクランプされたことを示す指令信号が入力されたら、補正が無効であると判定し、モータ制御手段17への補正パラメータの設定を解除する。これにより、クランプ動作後に理想的には指令位置と実際の回転軸22の回転角度との間に位置ずれはなく、モータ制御のための無駄な電力を発生させることがなくなり、円テーブル20の環境温度による位置決め精度低下を抑制でき、クランプ機構24がクランプ状態のときの低発熱化も可能になる。
また、ウォームホイール26aとウォームギア26bとからなる減速機26について、経年的な磨耗によりバックラッシが増大する場合がある。本実施形態の補正パラメータは、このバックラッシ量とも密接な関係があるため、補正パラメータの補正量がある一定の値を超過した場合に、指令位置関数発生手段13がアラームを発生し、たとえば図示しないディスプレイなどにバックラッシの調整が必要とするアラームを表示させることによって、メンテナンス時期を知らせることができる。なお、バックラッシ量の変化に限らず、円テーブル20を構成する各部位の経年劣化により補正パラメータの補正量がある一定の値を超過する場合もあるため、このような場合には、円テーブル20のメンテナンスが必要であることを示すアラームを発生してもよい。このようにすることで、減速機26や円テーブル20の各部位の経年劣化を適切に把握し、円テーブル20のメンテナンスを適切に行うことができる。
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の実現方法は以上で示した実施例のみに限定されるものではない。例えば、図1の円テーブル20を構成するアクチュエータが、ダイレクトドライブモータが回転軸22に直結された構造であっても、本発明の数値制御装置は実現される。また、旋盤の主軸であって、主軸を位置決め制御してクランプする機構を有する工作機械の数値制御装置であっても、本発明の数値制御装置は適用できる。数値制御装置内の構成に関しても、各指令信号のタイミングなどは、設計側で自由に取り決められるものであり、上述した各指令信号は一例である。即ち、アクチュエータの位置或いは速度を制御するための回転角度検出器について、クランプ動作前後の回転角度検出器の回転角度情報の差分から、クランプ動作による位置ずれ量を算出し、これを補正するシステム構成であれば、本発明の数値制御装置といえる。