JP5949707B2 - 通紙部材用鋼板 - Google Patents
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さらに、特許文献1及び特許文献2に開示の技術は、いずれも耐熱性樹脂として粒状のフッ素樹脂を塗膜中に含有しており、所望の耐熱性や耐汚染性を発現するためには、このフッ素樹脂を溶融させる必要があり、製造コストの高騰を招くという問題があった。粒状のフッ素樹脂を溶融させるためには、最低でも300℃以上の高温で焼付け乾燥を行わなければならず、通常の製造ラインで用いられる乾燥手段(最高到達鋼板温度:100〜250℃程度)ではなく、ラインとは別の特殊な乾燥装置を使用する必要があるためである。
さらに、本発明者らは、従来のフッ素樹脂含有ポリマーを主成分とする塗膜は、表面自由エネルギーを下げ、防汚性を高める効果があるものの、摺動される紙との動摩擦係数が低くないことから、塗膜の磨耗を促進させるケースもあることを新たに知見した。そして、さらに鋭意研究を重ねた結果、パーフルオロアルキル基のような表面自由エネルギーを下げる効果をもつ官能基をもつ微粒子を有機樹脂塗膜中に配合することによって、高い防汚性を確保しつつ、動摩擦係数を下げる効果も同時に得られ、磨耗と非粘着性に対しても有効に作用することを見出した。
(1)鋼板の両面にめっき層及び化成処理層が順次形成され、該化成処理層の少なくとも片面に、有機樹脂及び微粒子を含む樹脂塗膜が形成された通紙部材用鋼板であって、
前記微粒子が、ポリオレフィン系、ステアリン酸系、パラフィン系、シリコン系、及びフッ素樹脂系からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記有機樹脂が、ガラス転移温度75℃以上、数平均分子量10000〜300000である溶剤系アクリル樹脂であり、かつ、硬化剤として、ブロックイソシアネート及びアミノ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種が用いられ、
前記樹脂塗膜表面の75℃における表面硬度が70N/mm2以上であることを特徴とする通紙部材用鋼板。
本発明による通紙部材用鋼板は、鋼板の両面にめっき層及び化成処理層が順次形成され、該化成処理層の少なくとも片面に、樹脂塗膜が形成された鋼板である。
ここで、「通紙部材用鋼板」とは、OA機器内の摺動部材やガイド板等の、紙と接触し、相対的に摺動する部材へ適用される鋼板のことをいい、防汚性、耐食性及び耐磨耗性の特性が要求されるものをいう。
本発明のめっき層については、特に制限されない。例えば、溶融亜鉛めっき又はこれを合金化した合金化溶融亜鉛めっき、さらには、溶融Zn−5質量%Al合金めっき、溶融Zn−55質量%Al合金めっき、電気亜鉛めっき、電気Zn−12質量%Ni合金めっき、電気Zn−2質量%Co合金めっき、電気Zn−0.4質量%Fe合金めっき、ニッケルめっき又はクロムめっき等によって形成される層が挙げられる。
本発明の化成処理層は、主として前記めっき層と後述する樹脂塗膜との密着性を向上するために形成される。高い密着性を確保できれば特に限定はされないが、環境保護の観点からクロムを含有しないものとする。本発明の化成処理層は、例えば、クロムを含有しない従来公知の化成処理液をめっき層表面に塗布し、加熱乾燥することにより形成される。
防錆剤の種類については、特に限定はされず、例えば、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、亜リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、リン酸マンガン、モリブデン酸塩、リン酸モリブデン酸塩、バナジン酸/リン酸混合顔料、メタバナジン酸アンモニウム、シリカ、カルシウムシリケートと呼ばれるCaを吸着させたタイプのシリカ、炭酸亜鉛、炭酸ジルコニウムアンモニウム、等が挙げられる。
具体的には、密着性と耐食性の点からシリカ微粒子を含有し、耐食性の点からリン酸及び/又はリン酸化合物を含有することが好ましい。前記シリカ微粒子は、湿式シリカ、乾式シリカのいずれを用いても構わないが、密着性向上効果の大きいシリカ微粒子、特に乾式シリカが含有されることが好ましい。前記リン酸及びリン酸化合物については、例えば、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸及びこれらの金属塩や化合物等のうちから選ばれる1種以上を含有すれば良い。
前記化成処理層は、ロールコーター、カーテンフローコーター、浸漬引き上げ法などで化成処理液を前記めっき層表面に塗布し、ローラー等で絞った後、水洗することなく最高到達鋼板温度が80〜140℃となるように乾燥することによって形成させることができる。
本発明の鋼板を構成する樹脂塗膜は、有機樹脂及び微粒子を含み、該微粒子が、ポリオレフィン系、ステアリン酸系、パラフィン系、シリコン系、及びフッ素樹脂系からなる群より選択される少なくとも一種であり、前記樹脂塗膜表面の75℃における表面硬度が70N/mm2以上であることを特徴とする。
前記樹脂塗膜表面の75℃における表面硬度が70N/mm2以上である。75℃における前記樹脂塗膜の硬度を、接触する用紙の表面硬度に比べて十分に大きくすることで、OA機器内の摺動部材等に用いた場合であっても、優れた耐磨耗性を実現できる。その結果、前記樹脂塗膜の磨耗に起因した防汚性や耐食性の低下がなく、高い防汚性及び耐食性を長期間維持できるという利点もある。
また、より優れた耐磨耗性を得る点からは、前記樹脂塗膜の表面硬度は75N/mm2以上とすることが好ましく、80N/mm2以上とすることがより好ましい。なお、前記樹脂塗膜の表面硬度が120N/mm2以下であれば鋼板の加工性が劣化することがないので、好ましい。
ここで、前記表面硬度を測定する際の温度を75℃としたのは、本発明の通紙部材用鋼板をOA機器内の通紙部材として用いる場合、最大75℃程度になると予想され、75℃の際の硬度が確保できれば、本発明の目的とする耐磨耗性を実現できるからである。
前記樹脂塗膜は、有機樹脂を含む。
ここで、有機樹脂の種類については、所望の表面硬度を得ることができるものであれば特に限定はされないが、耐食性、耐指紋性などの基本特性が良好である点からは、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂及びポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
なお、前記アクリル系樹脂は、アクリル酸及びメタクリル酸等とそれらのエステルの共重合物であるが、このようなアクリル系樹脂にエポキシ樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂などが少量配合されていてもよい。
前記アクリル系樹脂は、具体的には、DIC製の「アクリディックWBU-1218」、「アクリディックWXU-880」等が挙げられる。
前記樹脂塗膜は、微粒子を含む。表面自由エネルギーを下げる効果をもつ官能基をもつ微粒子を有機樹脂塗膜中に配合することによって、高い防汚性を確保しつつ、動摩擦係数を下げる効果も同時に得られ、耐磨耗性と非粘着性に対しても効果を奏する。
前記樹脂塗膜は、必要に応じて、乾燥剤、湿潤剤、増粘剤、顔料分散剤、レベリング剤、泡消し剤、はじき防止剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤等といった、その他の添加物を含有することも可能である。
本発明の樹脂塗膜を形成するための樹脂組成物の塗布は、該樹脂組成物を化成処理層の表面に塗布できる方法であればよく、特に限定されない。ロールコーター、カーテンフローコーター、浸漬引き上げ法等によって塗布し、目的とする膜厚となるように樹脂組成物の付着量を制御すればよい。
なお、前記樹脂塗膜を形成するための樹脂組成物の溶媒として、シクロヘキサノン、イソホロン、イソブチルアルコール、キシレン、エチルベンゼン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸ブチルや、ミネラルスピリット、トルエン及びキシレンの混合溶媒等を用いることができる。
前記乾燥温度が100℃以上であれば、温度が低すぎることがなく乾燥が十分となり、形成された塗膜の耐溶剤性の劣化を招くことがない。一方、前記乾燥温度が250℃以下であれば、従来の製造ラインによって製造でき、経済性の悪化を招くことがない。
本発明の実施例1について説明する。
(サンプル1−1〜1−6)
めっき鋼板として、各々板厚0.8mmの以下に示すめっき鋼板を準備した。各めっき鋼板のめっき付着量は、いずれも片面あたり20g/m2である。
D−1:電気亜鉛−12質量%ニッケルめっき鋼板
なお、めっき鋼板の一方の面(オモテ面)と他方の面(ウラ面)のめっき付着量、及びめっき組成は同一とした。
準備しためっき鋼板に脱脂処理を行った後、以下の処理工程を行い、通紙部材用鋼板のサンプル1−1〜1−6を作製した。
(II)その後、オモテ面に、表1に示す有機樹脂(A)、硬化剤(B)、微粒子(C)、並びに、ミネラルスピリット、トルエン及びキシレンの混合溶媒を含む樹脂組成物を塗布し、5秒で最高到達鋼板温度が180℃となるような条件で焼付け乾燥を行うことで、表1示す膜厚の樹脂塗膜を形成した。
具体的には、超微小押し込み硬さ試験機(フィッシャースコープHM2000)を用い、試験片を75℃に加温した状態で試験荷重2mNを加えた際の押し込み深さ(μm)に基づいて、75℃、2mNにおける塑性押し込み硬さ(N/mm2)を求めた。
*2 Zr化合物:第一稀元素化学工業(株)製 炭酸ジルコニウムアンモニウム
*3 湿式シリカ:日産化学工業(株)製 スノーテックス0
*4 Ca交換シリカ:Grace Davison製シールデックスC303
*5 表1中の種類E1〜E5は、表2に示したものである。
*6 A−1は、DIC製 アクリディックWBU−1218(分子量:70000、Tg:100℃)である。A−2は、DIC製 アクリディックWXU−880(分子量:26000、Tg:90℃)である。A−3は、DIC製 WJU−146(分子量:70000、Tg:50℃)である。
*7 B−1は、DIC製 ヘキサメチレンジイソシアネート系 バーノックDN−950である。B−2は、DIC製 バーノックD−800である。
*8 C−1は、ポリエチレンワックスである。C−2は、PTFEワックスである。C−3はステアリン酸亜鉛である。C−4はシリコンオイルである。
本発明の実施例2について説明する。
(サンプル2−1〜2−5)
めっき鋼板として、各々板厚0.8mmの以下に示すめっき鋼板を準備した。各めっき鋼板のめっき付着量は、いずれも片面あたり20g/m2である。
D−2:電気亜鉛−2質量%コバルトめっき鋼板
D−3:電気亜鉛めっき鋼板
D−4:電気ニッケルめっき鋼板
D−5:電気クロムめっき鋼板
なお、めっき鋼板の一方の面(オモテ面)と他方の面(ウラ面)のめっき付着量、及びめっき組成は同一とした。
準備しためっき鋼板に脱脂処理を行った後、実施例1と同様に処理工程(I)及び(II)を行い、通紙部材用鋼板のサンプル2−1〜2−5を作製した。得られたサンプルの条件を表3に示す。
具体的には、超微小押し込み硬さ試験機(フィッシャースコープHM2000)を用い、試験片を75℃に加温した状態で試験荷重2mNを加えた際の押し込み深さ(μm)に基づいて、75℃、2mNにおける塑性押し込み硬さ(N/mm2)を求めた。
以上のようにして得られた通紙部材用鋼板のサンプルについて、各種評価を行った。評価方法を以下に示す。
各サンプルに対して、Q印フェルトペン(赤色、黒色)でインクを塗布した後、温度20℃、相対湿度65%の恒温恒湿室にて24時間放置した。その後、インクを乾燥ガーゼで拭き取り、インクの残存状態を目視観察して、以下の基準に従って評価した。実施例1のサンプルについての評価結果を表4、実施例2のサンプルについての評価結果を表5に示す。
◎:色残りなし
○:軽微な色残りあり
△:色残りあり
×:色が全く落ちない
各サンプルから、試験片(大きさ:100mm×50mm)を切り出し、試験片の端部および裏面をテープシールした後、JIS Z2371−2000に準拠し、5質量%塩水を35℃で24時間噴霧し続けた。その後、試験片の状態を目視により観察し、以下の基準に従って評価を行った。実施例1のサンプルについての評価結果を表4、実施例2のサンプルについての評価結果を表5に示す。
◎:表面に変化なし
○:表面に若干の発錆がある
×:表面に多数の発錆がある
各サンプルの樹脂塗膜の表面に対し、スガ試験機(株)社製磨耗試験機を用い、磨耗輪にコピー紙を両面テープで貼り付けた状態で磨耗試験を行った。なお、試験荷重は5N、回数は10万回(紙は1万回ごとに交換)とした。10万回試験後の色調変化を色差計で測定し、以下の基準に従って評価を行った。実施例1のサンプルについての評価結果を表4、実施例2のサンプルについての評価結果を表5に示す。
◎:ΔE≦1
○:1<ΔE≦2
△:2<ΔE≦3
×:3<ΔE
各サンプルの樹脂塗膜の表面に対し、スガ試験機(株)社製磨耗試験機を用い、磨耗輪にコピー紙を両面テープで貼り付けた状態で磨耗試験を行った。試験片温度を75℃に加温した状態で、試験荷重は5N、回数は10万回(紙は1万回ごとに交換)とした。10万回試験後の色調変化を色差計で測定し、以下の基準に従って評価を行った実施例1のサンプルについての評価結果を表4、実施例2のサンプルについての評価結果を表5に示す。
◎:ΔE≦1
○:1<ΔE≦2
△:2<ΔE≦3
×:3<ΔE
上記評価(4)を行った後の試験片の磨耗した部分に対し、Q印フェルトペン(赤色、黒色)でインクを塗布した後、温度20℃、相対湿度65%の恒温恒湿室にて24時間放置した。その後、インクを乾燥ガーゼで拭き取り、インクの残存状態を目視観察して、以下の基準に従って評価した。実施例1のサンプルについての評価結果を表4、実施例2のサンプルについての評価結果を表5に示す。
◎:色残りなし
○:軽微な色残りあり
△:色残りあり
×:色が全く落ちない
Claims (2)
- 鋼板の両面にめっき層及び化成処理層が順次形成され、該化成処理層の少なくとも片面に、有機樹脂及び微粒子を含む樹脂塗膜が形成された通紙部材用鋼板であって、
前記微粒子が、ポリオレフィン系、ステアリン酸系、パラフィン系、シリコン系、及びフッ素樹脂系からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記有機樹脂が、ガラス転移温度75℃以上、数平均分子量10000〜300000である溶剤系アクリル樹脂であり、かつ、硬化剤として、ブロックイソシアネート及びアミノ樹脂からなる群より選択される少なくとも一種が用いられ、
前記樹脂塗膜表面の75℃における表面硬度が70N/mm2以上であることを特徴とする通紙部材用鋼板。 - 前記めっき層が、亜鉛ニッケル合金めっき層、亜鉛コバルト合金めっき層、亜鉛鉄合金めっき層、ニッケルめっき層又はクロムめっき層であることを特徴とする請求項1に記載の通紙部材用鋼板。
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