従来、太陽電池などによって生成される直流電力を交流電力に変換して、電力系統に供給する系統連系インバータシステムが開発されている。
図14は、従来の一般的な系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。
系統連系インバータシステムA100は、直流電源1が生成した電力を変換して三相電力系統Bに供給するものである。なお、以下では3つの相をU相、V相およびW相とする。
インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電圧をスイッチング素子(図示しない)のスイッチングにより交流電圧に変換する。フィルタ回路3は、インバータ回路2から出力される交流電圧に含まれるスイッチング周波数成分を除去する。変圧回路4は、フィルタ回路3から出力される交流電圧を三相電力系統Bの系統電圧に昇圧(または降圧)する。制御回路700は、電流センサ5および電圧センサ6などが検出した電流信号および電圧信号を入力され、これに基づいてPWM信号を生成してインバータ回路2に出力する。インバータ回路2は、制御回路700から入力されるPWM信号に基づいてスイッチング素子のスイッチングを行う。
図15は、制御回路700の内部構成を説明するためのブロック図である。
電流センサ5から入力された各相の電流信号は三相/二相変換部73に入力される。
三相/二相変換部73は、入力された3つの電流信号Iu,Iv,Iwを、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβに変換するものである。三相/二相変換部73は、いわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)を行うものであり、電流信号Iu,Iv,Iwを互いに直交するα軸成分とβ軸成分とにそれぞれ分解して、各軸成分をまとめることでα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβを生成する。
三相/二相変換部73で行われる変換処理は、下記(1)式に示す行列式で表される。
回転座標変換部78は、三相/二相変換部73から入力されるα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβを、回転座標系のd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqに変換するものである。回転座標系は、直交するd軸とq軸とを有し、三相電力系統Bの系統電圧の基本波と同一の角速度で同一の方向に回転する直交座標系である。回転座標系の反対概念として、回転しない座標系を静止座標系とする。回転座標変換部78は、いわゆる回転座標変換処理(dq変換処理)を行うものであり、静止座標系のα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβを、位相検出部71が検出した系統電圧の基本波の位相θに基づいて、回転座標系のd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqに変換する。
回転座標変換部78で行われる変換処理は、下記(2)式に示す行列式で表される。
LPF74aおよびLPF75aは、ローパスフィルタであり、それぞれd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqの直流成分だけを通過させる。回転座標変換処理によって、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβの基本波成分が、それぞれd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqの直流成分に変換されている。PI制御部74bおよびPI制御部75bは、それぞれd軸電流信号Idおよびq軸電流信号Iqの直流成分とその目標値との偏差に基づいてPI制御(比例積分制御)を行い、基本波補償信号Xd,Xqを出力するものである。目標値として直流成分を用いることができるので、PI制御部74bおよびPI制御部75bは、精度のよい制御を行うことができる。
静止座標変換部79は、PI制御部74bおよびPI制御部75bからそれぞれ入力される基本波補償信号Xd,Xqを、静止座標系の2つの基本波補償信号Xα,Xβに変換するものであり、回転座標変換部78とは逆の変換処理を行うものである。静止座標変換部79は、いわゆる静止座標変換処理(逆dq変換処理)を行うものであり、回転座標系の基本波補償信号Xd,Xqを、位相θに基づいて、静止座標系の基本波補償信号Xα,Xβに変換する。
静止座標変換部79で行われる変換処理は、下記(3)式に示す行列式で表される。
二相/三相変換部76は、静止座標変換部79から出力される基本波補償信号Xα,Xβに、後述する高調波補償コントローラ800から出力される高調波補償信号Yα,Yβを加算した補正値信号X’α,X’βを、3つの補正値信号Xu,Xv,Xwに変換するものである。二相/三相変換部76は、いわゆる二相/三相変換処理(逆αβ変換処理)を行うものであり、三相/二相変換部73とは逆の変換処理を行うものである。
二相/三相変換部76で行われる変換処理は、下記(4)式に示す行列式で表される。
PWM信号生成部77は、二相/三相変換部76が出力した補正値信号Xu,Xv,Xwに基づいてPWM信号を生成して出力する。
制御回路700には、三相電力系統Bから入力される高調波およびインバータ回路2から出力される高調波を抑制する機能が備えられている。高調波補償コントローラ800は、電流センサ5から入力された各相の電流信号から高調波成分を抽出し、これを打ち消す高調波を出力するための高調波補償信号を出力する。系統連系インバータシステムA100は高調波補償信号に基づく高調波(すなわち、検出した高調波の逆位相の高調波)を出力して打ち消させることで、高調波を抑制する。
図16は、高調波補償コントローラ800の内部構成を説明するためのブロック図である。三相電力系統Bまたはインバータ回路2からの高調波は、一般的に、5次高調波、7次高調波、および11次高調波が多い。これらの高調波を抑制するために、5次高調波を抑制するための5次高調波補償部810、7次高調波を抑制するための7次高調波補償部820、および11次高調波を抑制するための11次高調波補償部830が、高調波補償コントローラ800に備えられている。5次高調波補償部810は、回転座標変換部811、LPF812,813、I制御部814,815、および静止座標変換部816を備えている。なお、7次高調波補償部820および11次高調波補償部830は5次高調波補償部810と同様の構成なので、図16における記載および説明を省略している。
回転座標変換部811は、三相/二相変換部73から入力されるα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβを、回転座標系のd軸電流信号Id5およびq軸電流信号Iq5に変換するものである。この回転座標系は、系統電圧の基本波の角速度の5倍の角速度で逆の方向に回転する直交座標系である。回転座標変換部811は、いわゆる回転座標変換処理(dq変換処理)を行うものであり、静止座標系のα軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβを、位相検出部71が検出した系統電圧の基本波の位相θに基づいて、回転座標系のd軸電流信号Id5およびq軸電流信号Iq5に変換する。
回転座標変換部811で行われる変換処理は、下記(5)式に示す行列式で表される。
なお、7次高調波補償部820および11次高調波補償部830の回転座標変換部は、上記(5)式において、(−5θ)をそれぞれ7θ、(−11θ)とした処理を行う。
LPF812およびLPF813は、ローパスフィルタであり、それぞれd軸電流信号Id5およびq軸電流信号Iq5の直流成分だけを通過させる。回転座標変換処理によって、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβの5次高調波が、それぞれd軸電流信号Id5およびq軸電流信号Iq5の直流成分に変換されている。I制御部814およびI制御部815は、それぞれd軸電流信号Id5およびq軸電流信号Iq5の直流成分に基づいてI制御(積分制御)を行い、5次高調波補償信号Yd5,Yq5を出力するものである。目標値として直流成分を用いることができるので、I制御部814およびI制御部815は、精度のよい制御を行うことができる。
静止座標変換部816は、I制御部814およびI制御部815からそれぞれ入力される5次高調波補償信号Yd5,Yq5を、静止座標系の2つの5次高調波補償信号Yα5,Yβ5に変換するものであり、回転座標変換部811とは逆の変換処理を行うものである。静止座標変換部816は、いわゆる静止座標変換処理(逆dq変換処理)を行うものであり、回転座標系の5次高調波補償信号Yd5,Yq5を、位相θに基づいて、静止座標系の5次高調波補償信号Yα5,Yβ5に変換する。
静止座標変換部816で行われる変換処理は、下記(6)式に示す行列式で表される。
なお、7次高調波補償部820および11次高調波補償部830の静止座標変換部は、上記(6)式において、(−5θ)をそれぞれ7θ、(−11θ)とした処理を行う。
同様にして、7次高調波補償部820は7次高調波補償信号Yα7,Yβ7を生成して出力し、11次高調波補償部830は11次高調波補償信号Yα11,Yβ11を生成して出力する。5次高調波補償信号Yα5、7次高調波補償信号Yα7、11次高調波補償信号Yα11を加算した高調波補償信号Yαと、5次高調波補償信号Yβ5、7次高調波補償信号Yβ7、11次高調波補償信号Yβ11を加算した高調波補償信号Yβとが、高調波補償コントローラ800から出力され、静止座標変換部79から出力される基本波補償信号Xα,Xβにそれぞれ加算されて、補正値信号X’α,X’βとして二相/三相変換部76に入力される。
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
まず、回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を線形時不変の処理に変換する方法について説明する。
図1(a)は、回転座標変換および静止座標変換を伴う処理を説明するための図である。当該処理では、まず、信号αおよびβが、回転座標変換によって、信号dおよびqに変換される。信号dおよびqに対して、それぞれ所定の伝達関数F(s)で表される処理が行われ、信号d’およびq’が出力される。次に、信号d’およびq’が静止座標変換によって、信号α’およびβ’に変換される。図1(a)に示す非線形時変の処理を、図1(b)に示す線形時不変の伝達関数の行列Gを用いた処理に変換する。
図1(a)に示す回転座標変換は下記(7)式の行列式で表され、静止座標変換は下記(8)式の行列式で表される。
したがって、図1(a)に示す処理を、行列を用いて、図2(a)のように表すことができる。図2(a)に示す3つの行列の積を計算し、算出された行列を線形時不変の行列にすることで、図1(b)に示す行列Gを算出することができる。このとき、静止座標変換および回転座標変換の行列を行列の積に変換したうえで、算出を行う。
回転座標変換の行列は、下記(9)式に示す右辺の行列の積に変換することができる。
但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
である。なお、T-1は、Tの逆行列である。
となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
であることが、確認できる。
また、静止座標変換の行列は、下記(10)式に示す右辺の行列の積に変換することができる。当該行列の積の中央の行列は線形時不変の行列である。
但し、jは虚数単位であり、exp()は自然対数の底eの指数関数であり、
である。なお、T-1は、Tの逆行列である。
となり、オイラーの公式より、exp(jθ)=cosθ+jsinθ、exp(−jθ)=cosθ−jsinθを代入して計算すると、
であることが、確認できる。
上記(9)式および(10)式を用いて、図2(a)に示す3つの行列の積を計算して、行列Gを算出すると、下記(11)式のように計算される。
上記(11)式の中央の3つの行列の1行1列目の要素に注目し、これをブロック線図で表すと、図3に示すブロック線図になる。図3に示すブロック線図の入出力特性を計算すると、
となる。ただし、F(s)はインパルス応答f(t)をもつ一入力一出力伝達関数である 。
ここで、θ(t)=ω0tとすると、θ(t)−θ(τ)=ω0t−ω0τ=ω0(t−τ)=θ(t−τ)となるので、図3に示すブロック線図の入出力特性は、インパルス応答f(t)exp(−jω0t)を持つ線形時不変系のものに等しい。インパルス応答f(t)exp(−jω0t)をラプラス変換すると、伝達関数F(s+jω0)が得られる。また、図3に示すブロック線図のexp(jθ(t))とexp(−jθ(t))とを入れ換えた場合の入出力特性は、伝達関数F(s−jω0)の入出力特性になる。
したがって、上記(11)式からさらに計算を進めると、
と計算される。
これにより、図2(a)に示す処理を、図2(b)に示す処理に変換することができる。図2(b)に示す処理は、回転座標変換を行ってから所定の伝達関数F(s)で表される処理を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理であって、当該処理のシステムは線形時不変のシステムである。
PI制御(比例積分制御)コントローラの伝達関数は、比例ゲインおよび積分ゲインをそれぞれKPおよびKIとすると、F(s)=KP+KI/sで表される。したがって、図4に示す処理、すなわち、回転座標変換を行ってからPI制御を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列GPIは、上記(12)式を用いて、下記(13)式のように算出される。
また、I制御(積分制御)コントローラの伝達関数は、積分ゲインをKIとすると、F(s)=KI/sで表される。したがって、図5に示す処理、すなわち、回転座標変換を行ってからI制御を行った後に静止座標変換を行う処理と等価の処理を示す伝達関数の行列GIは、上記(12)式を用いて、下記(14)式のように算出される。
図6は、行列GIの各要素である伝達関数を解析するためのボード線図である。同図(a)は行列GIの1行1列要素(以下では、「(1,1)要素」と記載する。他の要素についても同様に記載する。)および(2,2)要素の伝達関数を示しており、同図(b)は行列GIの(1,2)要素の伝達関数を示しており、同図(c)は行列GIの(2,1)要素の伝達関数を示している。同図は、系統電圧の基本波の周波数(以下では、「中心周波数」とする。また、中心周波数に対応する角周波数を「中心角周波数」とする。)が60Hzの場合(すなわち、角周波数ω0=120πの場合)のものであり、積分ゲインKIを「0.1」,「1」,「10」,「100」とした場合を示している。
同図(a),(b)および(c)が示す振幅特性は、いずれも、中心周波数にピークがあり、積分ゲインKIが大きくなると、振幅特性が大きくなっている。また、同図(a)が示す位相特性は、中心周波数で0度になる。つまり、行列GIの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号を位相を変化させることなく通過させる。同図(b)が示す位相特性は、中心周波数で90度になる。つまり、行列GIの(1,2)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度進めて通過させる。一方、同図(c)が示す位相特性は、中心周波数で−90度になる。つまり、行列GIの(2,1)要素の伝達関数は、中心周波数(中心角周波数)の信号の位相を90度遅らせて通過させる。
上述した伝達関数の行列G(GPI,GI)は、基本波成分の正相分の制御を行うためのものである。次に、逆相分の制御を行う方法について説明する。
図7は、基本波の正相分の信号と逆相分の信号を説明するための図である。同図(a)は基本波の正相分の信号を示しており、同図(b)は基本波の逆相分の信号を示している。
同図(a)において、電流信号Iu,Iv,Iwの基本波成分の正相分信号を破線矢印のベクトルu,v,wで示している。ベクトルu,v,wは互いに120度ずつ向きが異なっており、時計回りの順番で並んで角周波数ω0で反時計回りの方向に回転している。前記正相分信号を三相/二相変換したα軸信号およびβ軸信号は、実線矢印のベクトルα,βで示される。ベクトルα,βは、時計回りの順番で90度向きが異なっており、角周波数ω0で反時計回りの方向に回転している。
つまり、α軸信号はβ軸信号より90度位相が進んでいる。α軸信号に行列GIの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行っても、位相は変化しない(図6(a)参照)。また、β軸信号に行列GIの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行うと、位相が90度進む(図6(b)参照)。したがって、両者の位相がα軸信号と同じ位相になるので、両者を加算することで強め合うことになる。一方、α軸信号に行列GIの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行うと、位相が90度遅れる(図6(c)参照)。また、β軸信号に行列GIの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行っても、位相は変化しない。したがって、両者の位相がβ軸信号と同じ位相になるので、両者を加算することで強め合うことになる。
逆相分は相順が正相分とは逆方向になっている成分である。図7(b)において、電流信号Iu,Iv,Iwの基本波成分の逆相分信号を破線矢印のベクトルu,v,wで示している。ベクトルu,v,wは互いに120度ずつ向きが異なっており、反時計回りの順番で並んで角周波数ω0で反時計回りの方向に回転している。前記逆相分信号を三相/二相変換したα軸信号およびβ軸信号は、実線矢印のベクトルα,βで示される。ベクトルα,βは、反時計回りの順番で90度向きが異なっており、角周波数ω0で反時計回りの方向に回転している。
つまり、α軸信号はβ軸信号より90度位相が遅れている。α軸信号に行列GIの(1,1)要素の伝達関数に示す処理を行っても、位相は変化しない。また、β軸信号に行列GIの(1,2)要素の伝達関数に示す処理を行うと、位相が90度進む。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。一方、α軸信号に行列GIの(2,1)要素の伝達関数に示す処理を行うと、位相が90度遅れる。また、β軸信号に行列GIの(2,2)要素の伝達関数に示す処理を行っても、位相は変化しない。したがって、両者の位相が逆位相になるので、両者を加算することで打ち消し合うことになる。したがって、伝達関数の行列GIは、正相分の制御を行ない、逆相分の制御は行なわない。
伝達関数の行列GIの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた場合、上記とは逆に、正相分が打ち消しあって、逆相成分が強めあうことになる。したがって、逆相分の制御を行う場合には、伝達関数の行列GIの(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた行列を用いればよい。伝達関数の行列G,GPIについても同様である。
次に、正相分、逆相分の両方の制御を行う方法について説明する。
行列GIの(1,1)要素および(2,2)要素の伝達関数に示す処理は、正相分および逆相分の位相を変化させずに通過させる(図6(a)参照)。したがって、上記(14)式に示す行列GIの(1,2)要素および(2,1)要素を「0」にした下記(15)式に示す伝達関数の行列G’Iを用いると、正相分、逆相分の両方の制御を行うことができる。伝達関数の行列GPIについても同様であり、上記(13)式において(1,2)要素および(2,1)要素を「0」にした下記(16)式に示す伝達関数の行列G’PIを用いると、正相分、逆相分の両方の制御を行うことができる。
次に、高調波成分の制御を行う方法について説明する。
上記(12)式に示す伝達関数の行列Gは、基本波成分を制御するためのものである。n次高調波は基本波の角周波数をn倍した角周波数の成分である。n次高調波の正相分を三相/二相変換した場合、α軸信号がβ軸信号より位相が進む場合と遅れる場合とがある。n=3k+1(k=1,2,…)の場合、n次高調波の正相分信号の相の順番は、基本波の正相分信号の相の順番に一致する。すなわち、基本波の正相分のU,V,W相の信号をそれぞれ、Vu=Vcosθ、Vv=Vcos(θ−2π/3)、Vw=Vcos(θ−4π/3)とすると、例えば7次高調波の正相分のU,V,W相の信号はそれぞれ、Vu7=V7cos7θ、Vv7=V7cos(7θ−14π/3)=V7cos(7θ−2π/3)、Vw7=V7cos(7θ−28π/3)=V7cos(7θ−4π/3)となる。この場合、相の順番が基本波の正相分信号の相の順番に一致し、図7(a)と同様に、α軸信号の位相がβ軸信号の位相より90度進む。したがってn次高調波(n=3k+1)の正相分を制御する場合の伝達関数の行列は、上記(12)式においてω0をn・ω0とした下記(17)式に示す伝達関数の行列Gnとなる。一方、n=3k+2(k=0,1,2,…)の場合、n次高調波の正相分信号の相の順番は、基本波の逆相分信号の相の順番に一致する。すなわち、基本波の正相分のU,V,W相の信号Vu,Vv,Vwを上記の様にすると、例えば5次高調波の正相分のU,V,W相の信号はそれぞれ、Vu5=V5cos5θ、Vv5=V5cos(5θ−10π/3)=V5cos(5θ−4π/3)、Vw5=V5cos(5θ−20π/3)=V5cos(5θ−2π/3)となる。この場合、相の順番が基本波の逆相分信号の相の順番に一致し、図7(b)と同様に、α軸信号の位相がβ軸信号の位相より90度遅れる。したがってn次高調波(n=3k+2)の正相分を制御する場合の伝達関数の行列は、上記(12)式においてω0をn・ω0とし、(1,2)要素と(2,1)要素とを入れ換えた下記(17’)式に示す伝達関数の行列Gnとなる。
正相分、逆相分の両方の制御を行う場合、上記(17)式および(17’)式に示す行列Gnにおいて、(1,2)要素および(2,1)要素を「0」にすればよい。この場合、n=3k+1(k=1,2,…)の場合もn=3k+2(k=0,1,2,…)の場合も下記(18)式に示す伝達関数の行列G’nになる。
また、正相分、逆相分の両方をI制御するための伝達関数の行列G’Inは、上記(14)式においてω0をn・ω0とし、(1,2)要素および(2,1)要素を「0」として、下記(19)式のように算出される。下記(19)式は、上記(18)式において、F(s)=KI/sとして算出することもできる。同様に、正相分、逆相分の両方をPI制御するための伝達関数の行列G’PInは、下記(20)式のように算出される。
上記(15)式および(16)式に示すように、基本波の正相分、逆相分の両方の制御を行う場合、下記(21)式に示す周波数重みW1を用いてH∞ループ整形法でコントローラを設計することができる。H∞ループ整形法を用いると、設計仕様を満足する最も安定なコントローラを設計することができる。
また、上記(19)式および(20)式に示すように、n次高調波の正相分、逆相分の両方の制御を行う場合、下記(22)式に示す周波数重みWnを用いてH∞ループ整形法でコントローラを設計することができる。
基本波の正相分、逆相分の両方の制御を行い、かつ、n次高調波の正相分、逆相分の両方の制御を行う場合、下記(23)式に示す周波数重みWを用いてH∞ループ整形法でコントローラを設計すればよい。なお、kは応答速度に応じた実数である。
複数の高調波の制御を行う場合は、上記(23)式の分母に、対応する次数の項を追加すればよい。例えば、5次、7次、11次高調波の制御を行う場合、下記(24)式に示す周波数重みWを用いればよい。
図8は、上記(24)式に示す周波数重みWを解析するためのボード線図である。同図は、角周波数ω0=120π、k=1024の場合を示している。同図に示すように、周波数重みWは、ω0(=120π≒377[rad/sec])、5ω0(=600π≒1884[rad/sec])、7ω0(=840π≒2638[rad/sec])、11ω0(=1320π≒4145[rad/sec])をピークにするような特性を有する。
この周波数重みWを用いてH∞ループ整形法でコントローラを設計すると、下記(25)式に示す伝達関数Kが算出される。なお、後述する図10のフィルタ回路3が備えるLCフィルタのリアクトルのインダクタンスがL=1000μHで、コンデンサのキャパシタンスがC=20μFであり、変圧回路4の漏れインダクタンスをLT=500μHとした場合で算出している。
図9は、上記(25)式に示す伝達関数Kを解析するためのボード線図である。同図に示すように、伝達関数Kは、ω0、5ω0、7ω0、11ω0をピークにする特性を継承している。
以下に、上記(24)式に示す周波数重みWを用いてH∞ループ整形法で設計したコントローラを系統連系インバータシステムの制御回路に適用した場合を、本発明の第1実施形態として説明する。
図10は、第1実施形態に係る系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。
同図に示すように、系統連系インバータシステムAは、直流電源1、インバータ回路2、フィルタ回路3、変圧回路4、電流センサ5、電圧センサ6、および制御回路7を備えている。
直流電源1は、インバータ回路2に接続している。インバータ回路2、フィルタ回路3、および変圧回路4は、この順で、U相、V相、W相の出力電圧の出力ラインに直列に接続されて、三相交流の電力系統Bに接続している。電流センサ5および電圧センサ6は、変圧回路4の出力側に設置されている。制御回路7は、インバータ回路2に接続されている。系統連系インバータシステムAは、直流電源1が出力する直流電力を交流電力に変換して電力系統Bに供給する。なお、系統連系インバータシステムAの構成は、これに限られない。例えば、電流センサ5および電圧センサ6を変圧回路4の入力側に設けてもよいし、インバータ回路2の制御に必要な他のセンサを設けていてもよい。また、変圧回路4をフィルタ回路3の入力側に設けるようにしてもよいし、変圧回路4を設けない、いわゆるトランスレス方式にしてもよい。また、直流電源1とインバータ回路2との間にDC/DCコンバータ回路を設けるようにしてもよい。
直流電源1は、直流電力を出力するものであり、例えば太陽電池を備えている。太陽電池は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換することで、直流電力を生成する。直流電源1は、生成された直流電力を、インバータ回路2に出力する。なお、直流電源1は、太陽電池により直流電力を生成するものに限定されない。例えば、直流電源1は、燃料電池、蓄電池、電気二重層コンデンサやリチウムイオン電池であってもよいし、ディーゼルエンジン発電機、マイクロガスタービン発電機や風力タービン発電機などにより生成された交流電力を直流電力に変換して出力する装置であってもよい。
インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換して、フィルタ回路3に出力するものである。インバータ回路2は、三相インバータであり、図示しない3組6個のスイッチング素子を備えたPWM制御型インバータ回路である。インバータ回路2は、制御回路7から入力されるPWM信号に基づいて、各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換する。なお、インバータ回路2はこれに限定されず、例えば、マルチレベルインバータであってもよい。
フィルタ回路3は、インバータ回路2から入力される交流電圧から、スイッチングによる高周波成分を除去するものである。フィルタ回路3は、リアクトルとコンデンサとからなるローパスフィルタを備えている。フィルタ回路3で高周波成分を除去された交流電圧は、変圧回路4に出力される。なお、フィルタ回路3の構成はこれに限定されず、高周波成分を除去するための周知のフィルタ回路であればよい。変圧回路4は、フィルタ回路3から出力される交流電圧を系統電圧とほぼ同一のレベルに昇圧または降圧する。
電流センサ5は、変圧回路4から出力される各相の交流電流(すなわち、系統連系インバータシステムAの出力電流)を検出するものである。検出された電流信号I(Iu,Iv,Iw)は、制御回路7に入力される。電圧センサ6は、電力系統Bの各相の系統電圧を検出するものである。検出された電圧信号V(Vu,Vv,Vw)は、制御回路7に入力される。なお、系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧は、系統電圧とほぼ一致している。
制御回路7は、インバータ回路2を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路7は、電流センサ5から入力される電流信号I、および、電圧センサ6から入力される電圧信号Vに基づいて、PWM信号を生成してインバータ回路2に出力する。制御回路7は、系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧の波形を指令するための指令値信号を各センサから入力される検出信号に基づいて生成し、当該指令値信号に基づいて生成されるパルス信号をPWM信号として出力する。インバータ回路2は、入力されるPWM信号に基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、指令値信号に対応した波形の交流電圧を出力する。制御回路7は、指令値信号の波形を変化させて系統連系インバータシステムAの出力電圧の波形を変化させることで、出力電流を制御している。これにより、制御回路7は、各種フィードバック制御を行っている。また、制御回路7は、電力系統Bから入力される高調波を打ち消すための高調波をインバータ回路2に出力させることで、高調波の抑制を行う。
図10においては、出力電流制御と高調波抑制制御を行うための構成のみを記載して、その他の制御のための構成を省略している。実際には、制御回路7は、直流電圧制御(入力直流電圧が予め設定された電圧目標値となるように行うフィードバック制御)や無効電力制御(出力無効電力が予め設定された無効電力目標値となるように行うフィードバック制御)なども行っている。なお、制御回路7が行う制御の手法は、これに限られない。例えば、出力電圧制御や有効電力制御を行うようにしてもよい。
制御回路7は、系統対抗分生成部72、三相/二相変換部73、α軸電流コントローラ74、β軸電流コントローラ75、二相/三相変換部76、および、PWM信号生成部77を備えている。
系統対抗分生成部72は、電圧センサ6から電圧信号Vを入力されて、系統指令値信号Ku,Kv,Kwを生成して出力する。系統指令値信号Ku,Kv,Kwは系統連系インバータシステムAが出力する出力電圧の波形を指令するための指令値信号の基準となるものであり、系統指令値信号Ku,Kv,Kwが後述する補正値信号Xu,Xv,Xwで補正されることにより指令値信号が生成される。
三相/二相変換部73は、図15に示す三相/二相変換部73と同じものであり、電流センサ5より入力される3つの電流信号Iu,Iv,Iwを、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβに変換するものである。三相/二相変換部73で行われる変換処理は、上記(1)式に示す行列式で表される。
α軸電流コントローラ74は、三相/二相変換部73より出力されるα軸電流信号Iαと基本波成分の目標値であるα軸電流目標値との偏差を入力され、補正値信号X’αを生成するものである。β軸電流コントローラ75は、三相/二相変換部73より出力されるβ軸電流信号Iβと基本波成分の目標値であるβ軸電流目標値との偏差を入力され、補正値信号X’βを生成するものである。
α軸電流コントローラ74およびβ軸電流コントローラ75は、上記(24)式に示す周波数重みWを用いてH∞ループ整形法で設計したコントローラである。α軸電流コントローラ74およびβ軸電流コントローラ75で行われる処理は、線形時不変の処理である。したがって、線形制御理論を用いた制御系設計を行うことができる。なお、角周波数ω0は系統電圧の基本波の角周波数(例えば、ω0=120π[rad/sec](60[Hz]))があらかじめ設定されており、実数kもあらかじめ設定されている。また、α軸電流コントローラ74およびβ軸電流コントローラ75は、安定余裕を最大化する処理を行っており、この中で、制御ループでの位相の遅延分を補正するための位相の調整も行われている。なお、制御系設計に用いる設計方法はH∞ループ整形法に限定されず、例えば、最適制御、H∞制御理論、混合感度問題などのロバスト制御設計法を用いることもできる。
α軸電流コントローラ74およびβ軸電流コントローラ75は、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβにそれぞれ含まれる基本波成分を目標値に制御し、かつ、α軸電流信号Iαおよびβ軸電流信号Iβにそれぞれ含まれる5次、7次、11次高調波成分を抑制する制御を行う。
なお、本実施形態では、α軸電流コントローラ74およびβ軸電流コントローラ75が、5次、7次、11次高調波の抑制制御を行う場合について説明したが、これに限られない。周波数重みWは、抑制する必要がある高調波の次数に応じて設定すればよい。例えば、5次高調波のみを抑制したい場合は、上記(24)式に示す周波数重みWの分母を(s2+ω0 2)・{s2+(5ω0)2}のみとすればよい。また、さらに13次高調波も抑制したい場合には、上記(24)式に示す周波数重みWの分母にさらに{s2+(13ω0)2}をかければよい。
本実施形態において、α軸電流目標値およびβ軸電流目標値には、d軸電流目標値およびq軸電流目標値を静止座標変換したものが用いられる。d軸電流目標値には図示しない直流電圧制御のための補正値が用いられ、q軸電流目標値には、図示しない無効電力制御のための補正値が用いられる。なお、三相の電流目標値が与えられる場合は、当該目標値を三相/二相変換して、α軸電流目標値およびβ軸電流目標値とすればよい。また、3つの電流信号Iu,Iv,Iwと三相の電流目標値とのそれぞれの偏差を先に算出し、この3つの偏差信号を三相/二相変換して、α軸電流コントローラ74およびβ軸電流コントローラ75に入力するようにしてもよい。また、α軸電流目標値およびβ軸電流目標値が直接与えられる場合は、当該目標値をそのまま用いればよい。
図10に戻って、二相/三相変換部76は、図15に示す二相/三相変換部76と同じものであり、補正値信号X’α,X’βを、3つの補正値信号Xu,Xv,Xwに変換するものである。二相/三相変換部76で行われる変換処理は、上記(4)式に示す行列式で表される。
系統対抗分生成部72が出力する系統指令値信号Ku,Kv,Kwと、二相/三相変換部76が出力する補正値信号Xu,Xv,Xwとがそれぞれ加算されて、指令値信号X’u,X’v,X’wが算出され、PWM信号生成部77に入力される。
PWM信号生成部77は、入力される指令値信号X’u,X’v,X’wと、所定の周波数(例えば、4kHz)の三角波信号として生成されたキャリア信号とに基づいて、三角波比較法によりPWM信号Pu,Pv,Pwを生成する。三角波比較法では、指令値信号X’u,X’v,X’wとキャリア信号とがそれぞれ比較され、例えば、指令値信号X’uがキャリア信号より大きい場合にハイレベルとなり、小さい場合にローレベルとなるパルス信号がPWM信号Puとして生成される。生成されたPWM信号Pu,Pv,Pwは、インバータ回路2に出力される。
図11は、シミュレーション結果を説明するための図である。
系統連系インバータシステムA(図10参照)において、α軸電流コントローラ74およびβ軸電流コントローラ75の伝達関数として上記(25)式に示す伝達関数Kを用い、各相の電流に不平衡外乱および5次、7次、11次高調波を加えて、シミュレーションを行った。図11は、各相の出力電流を電流センサ5によって検出した電流信号Iu,Iv,Iwを示している。同図に示すように、電流信号Iu,Iv,Iwは、各高調波成分が抑制され、基本波の正相分が目標値に追従して、平衡状態になっている。つまり、α軸電流コントローラ74およびβ軸電流コントローラ75は、基本波、5次、7次、11次高調波を適切に制御している。
本実施形態において、α軸電流コントローラ74およびβ軸電流コントローラ75は、図15に示す回転座標変換部78、LPF74a,75a、PI制御部74b,75b、静止座標変換部79、および、高調波補償コントローラ800(図16参照)と同様の処理を行っている。そして、α軸電流コントローラ74およびβ軸電流コントローラ75で行われる処理は、線形時不変の処理である。また、制御回路7には非線形時変処理である回転座標変換処理および静止座標変換処理が含まれておらず、制御回路7は静止座標系で制御を行っている。つまり、電流制御システム全体が線形時不変システムになっている。すなわち、電流制御のための制御系と各高調波補償のための制御系とを1つの制御系として、当該制御系を線形時不変の処理としている。したがって、制御系の設計に線形制御理論を用いることができ、制御系設計を容易にすることができる。
なお、上記実施形態においては、α軸電流コントローラ74およびβ軸電流コントローラ75の設計に用いる周波数重みWを共通のものとして説明しているが、α軸電流コントローラ74とβ軸電流コントローラ75とで異なる周波数重みWを用いるようにしてもよい。例えば、α軸電流コントローラ74とβ軸電流コントローラ75とで異なる実数kを設定して、例えば、α軸成分の速応性を向上させるようにしてもよい。また、一方の安定性を高めたりするなどの付加特性を与えるように設計することもできる。
上記第1実施形態においては、出力電流を制御する場合について説明したが、これに限られない。例えば、出力電圧を制御するようにしてもよい。以下に、出力電圧を制御する場合について、第2実施形態として説明する。
図12は、第2実施形態に係る制御回路を説明するためのブロック図である。同図において、図10に示す系統連系インバータシステムAと同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
図12に示すインバータシステムA’は、電力系統Bではなく負荷Lに電力を供給する点で、第1実施形態に係る系統連系インバータシステムA(図10参照)と異なる。負荷Lに供給される電圧を制御する必要があるので、制御回路8は、出力電流ではなく出力電圧を制御する。制御回路8は、電圧センサ6から入力される電圧信号Vに基づいてPWM信号を生成する点で、第1実施形態に係る制御回路7(図10参照)と異なる。インバータシステムA’は、出力電圧をフィードバック制御によって目標値に制御しながら、負荷Lに電力を供給する。
三相/二相変換部83は、電圧センサ6から入力される3つの電圧信号Vu,Vv,Vwを、α軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換するものである。三相/二相変換部83で行われる変換処理は、下記(26)式に示す行列式で表される。
なお、電圧信号Vu,Vv,Vwは各相の相電圧信号であるが、線間電圧信号を検出して用いるようにしてもよい。なお、この場合、線間電圧信号を相電圧信号に変換してから上記(26)式に示す行列式を用いるか、上記(26)式に示す行列に代えて、線間電圧信号をα軸電圧信号Vαおよびβ軸電圧信号Vβに変換する行列にすればよい。
α軸電圧コントローラ84は、三相/二相変換部83より出力されるα軸電圧信号Vαと基本波成分の目標値であるα軸電圧目標値との偏差を入力され、補正値信号X’αを生成するものである。β軸電圧コントローラ85は、三相/二相変換部83より出力されるβ軸電圧信号Vβと基本波成分の目標値であるβ軸電圧目標値との偏差を入力され、補正値信号X’βを生成するものである。α軸電圧コントローラ84およびβ軸電圧コントローラ85は、上記(24)式に示す周波数重みWを用いてH∞ループ整形法で設計したコントローラである。
本実施形態においても、α軸電圧コントローラ84およびβ軸電圧コントローラ85は線形時不変の処理を行い、電圧制御のための制御系と各高調波補償のための制御系とを1つの制御系として、当該制御系を線形時不変の処理としている。したがって、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
上記第1または第2実施形態においては、本発明に係る制御回路を系統連系インバータシステム(インバータシステム)に用いた場合について説明したが、これに限られない。本発明は、例えば、電力用アクティブフィルタ、不平衡補償装置、静止型無効電力補償装置(SVC、SVG)、無停電電源装置(UPS)などに用いられる高調波補償を行うインバータ回路を制御する制御回路にも適用することができる。また、直流を三相交流に変換するインバータ回路を制御する場合に限られず、例えば、三相交流を直流に変換するコンバータ回路や、三相交流の周波数を変換するサイクロコンバータなどの制御回路にも適用することができる。以下に、本発明をコンバータ回路の制御回路に適用した場合を、第3実施形態として説明する。
図13は、第3実施形態に係る三相PWMコンバータシステムを説明するためのブロック図である。同図において、図10に示す系統連系インバータシステムAと同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
図13に示す三相PWMコンバータシステムCは、電力系統Bから供給される交流電力を直流電力に変換して負荷L’に供給するものである。負荷L’は、直流負荷である。三相PWMコンバータシステムCは、変圧回路4、フィルタ回路3、電流センサ5、電圧センサ6、コンバータ回路9、および制御回路7を備えている。
変圧回路4は、電力系統Bから入力される交流電圧を所定のレベルに昇圧または降圧する。フィルタ回路3は、変圧回路4より入力される交流電圧から高周波成分を除去して、コンバータ回路9に出力する。電流センサ5は、コンバータ回路9に入力される各相の交流電流を検出する。検出された電流信号Iは、制御回路7に入力される。電圧センサ6は、コンバータ回路9に入力される各相の交流電圧を検出するものである。検出された電圧信号Vは、制御回路7に入力される。コンバータ回路9は、入力される交流電圧を直流電圧に変換して、負荷L’に出力する。コンバータ回路9は、三相PWMコンバータであり、図示しない3組6個のスイッチング素子を備えた電圧型コンバータ回路である。コンバータ回路9は、制御回路7から入力されるPWM信号に基づいて、各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、入力される交流電圧を直流電圧に変換する。なお、コンバータ回路9はこれに限定されず、電流型コンバータ回路であってもよい。
制御回路7は、コンバータ回路9を制御するものである。制御回路7は、第1実施形態の制御回路7と同様に、PWM信号を生成してコンバータ回路9に出力する。図13においては、入力電流制御および高調波補償を行うための構成のみを記載して、その他の制御のための構成を省略している。図示していないが、制御回路7は、直流電圧コントローラおよび無効電力コントローラも備えており、出力電圧および入力無効電力も制御している。なお、制御回路7が行う制御の手法は、これに限られない。例えば、コンバータ回路9が電流型コンバータ回路の場合、出力電圧制御に代えて、出力電流制御を行うようにすればよい。
本実施形態においても、第1実施形態の場合と同様の効果を奏することができる。すなわち、三相PWMコンバータシステムCにおいては入力電流の高調波を抑制するための高調波補償が必要となるが、本実施形態においては、電流制御のための制御系と各高調波補償のための制御系とを1つの制御系として、当該制御系を線形時不変の処理とすることで、線形制御理論を用いて制御系設計を容易にすることができる。
なお、三相PWMコンバータシステムCの構成は上記に限られない。例えば、制御回路7に代えて、制御回路8を用いるようにしてもよい。また、コンバータ回路9の出力側にインバータ回路を設け、直流電力をさらに交流電力に変換して交流負荷に供給する、いわゆるサイクロコンバータとしてもよい。
本発明に係る制御回路、この制御回路を用いた系統連系インバータシステムおよび三相PWMコンバータシステムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る制御回路、この制御回路を用いた系統連系インバータシステムおよび三相PWMコンバータシステムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。