JP5933848B2 - 耐変色性銅合金および銅合金部材 - Google Patents
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Description
本願は、2013年9月26日に、日本に出願された特願2013−199475号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
しかし、めっき製品は、長期間の使用により表面のめっき層が剥離してしまう。また、塗装製品は、経年により色調が変化するとともに、塗装皮膜が剥離するという問題を有している。また、めっき製品および塗装製品は、銅合金と接触することがないため銅合金のもつ抗菌性(殺菌性)が損なわれてしまう。
そのようなCu−Ni−Zn合金として、例えば、JIS C 7941には、Cu(60.0〜64.0mass%)、Ni(16.5〜19.5mass%)、Pb(0.8〜1.8mass%)、Zn(残部)等を含有する快削洋白が規定されている。また、特許文献1には、Al(5〜9mass%)、Ni(1〜4mass%)、In(0.005〜0.3mass%)にMn(0.1〜0.5mass%)、Co(0.001〜0.01mass%)、Be(0.0025〜0.2mass%)、Ti(0.001〜0.01mass%)、Cr(0.05〜0.2mass%)、Si(0.001〜0.5mass%)、Zn(0.005〜0.5mass%)、Sn(0.003〜0.4mass%)のうち1種又は2種を含有し、残部Cuと不可避不純物からなるアルミ銅合金が開示されている。
例えば、院内感染では、原因となる菌の経路は色々あり、菌を持っている患者が触れ、菌が付着したところに別の患者あるいは医療従事者が触れ、その原因菌が院内に広がっていくことが考えられる。これらの患者や医療従事者が触れる物を銅合金とすることにより、それらの菌が死滅あるいは減少する。そして、それに伴って感染経路が絶たれること等により、院内感染を減少させることが期待される。具体的には、院内の各扉に設置されている取手、レバーハンドル、ドアハンドル等、或いは、ベッドに設置される柵、サイドレール、ナースカートを銅合金とすることで、菌の拡大経路を少なくすることが期待できる。またインフルエンザなどでは、電車、バスあるいは公園等の公共機関において不特定多数の人が接触するような部材に抗菌性(殺菌性)のある銅合金を使用することで様々な菌、ウィルスによる感染を予防することが可能となる。
さらに、特許文献1に開示された銅合金は、Alが5mass%以上含まれたアルミニウム含有合金であり、耐変色性には優れるが、圧延などの加工性が劣るため、主に鋳物材として製造され、薄板などに加工することが困難である。更に、曲げなどの加工を伴う、例えば90度曲げなどでは延性が乏しいため曲げ部分に割れが生じるなど、冷間加工性が悪い。また、表面にアルミニウムの酸化皮膜が形成することにより抗菌性が弱く、長期の使用で抗菌性を失うことになり、問題がある。
Cu−Zn−Sn−Al合金においては、それぞれの添加元素の含有量にもよるが、熱間圧延あるいは熱間押出など材料が高温になると、マトリックス中にβ相が出現し、熱間での変形抵抗を低くさせ、熱間変形能が優れるようになる。しかし、常温(室温)においてβ相の面積率が0.9%又はγ相の面積率が0.7%を超えて存在すると、延性が悪くなり、次工程の冷間圧延あるいは冷間抽伸などの冷間加工性だけでなく、耐変色性などが悪くなる。また、管材では曲率半径の小さい曲げや扁平などの加工も劣ることとなる。更に耐食性にも悪影響を及ぼし、脱亜鉛腐食性、応力腐食割れ性が悪くなる。なお、Cu−Zn−Sn−Al合金で出現するβ相は、Sn、Alを含有していることから、Cu―Zn合金のβ相よりも硬く、脆い。
本発明の第1の態様である耐変色性銅合金は、17〜34mass%のZnと、0.01〜2.5mass%のSnと、0.005〜1.8mass%のAlと、0.0005〜0.009mass%のPbとを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなり、Znの含有量〔Zn〕mass%と、Snの含有量〔Sn〕mass%と、Alの含有量〔Al〕mass%との間に、24≦〔Zn〕+5×〔Sn〕+3×〔Al〕≦40の関係を有し、かつ、Snの含有量〔Sn〕mass%と、Alの含有量〔Al〕mass%との間に、1.2≦〔Sn〕+2×〔Al〕≦4.0の関係を有しており、α相マトリックスのγ相の面積率(γ)%とβ相の面積率(β)%との間に0≦2×(γ)+(β)≦1.5の関係を有するとともに、α相マトリックスに面積率で0〜0.7%のγ相および0〜0.9%のβ相が分散した金属組織とされている。
また、α相マトリックスにおけるγ相とβ相の面積率が上述のように規定されているので、加工性、耐変色性、耐食性を向上させることができる。
さらに、α相マトリックスにおけるγ相とβ相の面積率が上述のように規定されているので、加工性、耐変色性、耐食性を向上させることができる。
本発明の第5の態様である耐変色性銅合金によれば、溶接管、鍛造品、鋳物の形態で使用することにより、各種製品の部材として広く適用することができる。
本発明の第6の態様である耐変色性銅合金によれば、純銅と同等もしくはより優れた抗菌性を有することになり、医療機関、公共施設、衛生管理に厳しい研究施設(例えば食品、化粧品、医薬品等)で使用される製品の部材として適用することが可能となる。
この構成の銅合金部材によれば、上述の耐変色性銅合金を基材として用いているので、基材の変色が抑制されるとともに抗菌性(殺菌性)に優れることになり、様々な用途で使用することが可能となる。
本発明の銅合金部材の具体的な用途としては、ドアハンドル、ドアノブ、ドアプッシュ板、手摺り、ベッド柵、サイドボード、机天板、椅子背もたれ、ナースカート取手の部材、ペンのグリップ、キーボード、マウス、シンク、つり革、建材等が挙げられる。
また、本実施形態では、この含有量の表示方法を用いて、以下のように、複数の組成指数を規定する。なお、組成指数f1において、添加されていない元素、および、Sn、Al、Si、Ti、Ni、Mn、Feについては、各々の含有量が0.01mass%より少ない場合は、組成指数f1の数値にほとんど影響しないとして、〔〕=0とする。
組成指数f2=〔Sn〕+2×〔Al〕
組成指数f3=0.7×〔Ni〕+〔Sn〕+2×〔Al〕
組成指数f4=〔Sn〕×〔Al〕+0.1×〔Ni〕
なお、上述の組成とされた第1の実施形態である耐変色性銅合金を、第1発明合金と称する。
なお、上述の組成とされた第2の実施形態である耐変色性銅合金を、第2発明合金と称する。
なお、上述の組成とされた第3の実施形態である耐変色性銅合金を、第3発明合金と称する。
なお、上述の組成とされた第4の実施形態である耐変色性銅合金を、第4発明合金と称する。
Znは、本発明合金において主要元素であり、引張強度、耐力等の機械的強度、耐変色性、加工性を向上させ、更にSn,Alとの相乗効果によって各種特性をより向上させる作用効果を有する。また、抗菌性(殺菌性)の効果をより強化し、銅合金の特性を確保する上で重要な元素である。なお、純銅や銅濃度の高い銅合金よりも、Znを多く含有する銅合金の方が耐変色性、強度に優れ、抗菌性(殺菌性)において同等もしくはより優れる。さらに、Cuとの合金である黄銅の特長的な色調である黄色(黄色味を帯びた色調、黄銅色)を発揮させるためにも必須の元素である。Zn、Sn,Al等(Cuは残部)の含有量によってはβ相が出現することになり、常温(室温)でもβ相が残存する可能性が高くなり、β相の面積率によっても異なるが、加工性、耐食性等が劣るなどの問題を生じる可能性がある。また、含有成分によって異なるが、β相から冷却条件によってはγ相が共析反応により生じ、γ相がマトリックスに存在するとβ相と同じく冷間での加工性や耐食性が悪くなる。これは高温加熱されるろう付けや溶接などの接合がなされる部分においても同様である。なお、溶接管は条製品(素材をテープ形状のコイルに巻き取られた製品)を、ロール(型)を用いて円形に成型し、その両端を溶接により接合し管材を得るが、溶接部分は加熱され高温になり融点を局部的に超える。また、材料厚さ(管材では肉厚)が薄いため、溶接後に大気空冷されるときの冷却速度が速く、溶接箇所およびその近傍(溶接箇所を中心として幅10mm(片側5mm)離れた部分までの熱影響部)はβ相が残存しやすくなる。なお、溶接管の溶接には高周波誘導加熱コイルを用いて加熱し、つき合わせて溶接する方法や溶接部を直接TIG溶接で接合するなど種々ある。しかしながら、溶接方法はこれらに限定されるのではなく、ロール成型後の材料の両端をオンライン上で溶接することが可能となる方法であればどのような溶接・接合方法も対応可能である。ろう付けにおいても同様で、コンベア炉を用いた炉中ろう付けという方法もあるが、人の手によりろう付け箇所を部分的にバーナーで炙る手ろう付けという方法などもあり、いずれの場合においてろう付け部分は、ろう材の融点、あるいはそれ以上の温度、たとえば、800度以上の温度に加熱される。そして手ろう付けの場合も溶接と同じく加熱部分は急冷されることになり、β相が残存しやすい。
しかし、Znの含有量が34.0mass%を超えると熱間(材料温度が高温)でβ相が多く出現し、熱間での加工性に寄与する一方で、冷間での延性、曲げ加工性、耐食性、耐応力腐食割れ性および耐変色性が悪くなり、抗菌性(殺菌性)も飽和するか、寧ろ悪くなる。また、溶接管製造時やろう付け時にβ相が出現しやすくなり、γ相も多く存在する可能性が高くなる。Znの含有量は32.0mass%以下が好ましく、更には30.0mass%以下、28.0mass%以下がより好ましい。なお、Znの含有量が少なく17.0mass%未満(Cuの含有量が多くなる)の場合、機械的強度が低下し、熱間での加工性、成形性が悪くなり、Sn,Al等の含有量にもよるが抗菌性(殺菌性)が劣る。また冷間でのプレス加工などの冷間加工時のバリが大きくなる。
これらの各種特性は後述する組成指数f1に大きく影響し、この指数の値により加工性、耐食性、耐変色性および機械的強度なども変化する。
Snは耐変色性に大きく寄与するだけでなく、高温でβ相を生じさせやすくするなど、高温での変形抵抗を下げる効果がある。また、耐食性、機械的強度、プレス加工などの打ち抜き性にも貢献する。ただし、Snが含有するCu−Zn合金はγ相が多くなり、γ相が存在することにより冷間での圧延性、加工性、耐食性、耐変色性に影響を与える。Snは銅合金中に含まれた場合、例えば水道水中などの腐食面から見た過酷な環境ではSnの酸化物などを優先的に形成し、銅あるいはその他の元素の酸化物との複合酸化物となるが、安定した保護皮膜として作用することで大きく耐食性に寄与する。酸化物を形成することは腐食することであり、すなわち材料は変色することになるので、変色についてもSnの酸化物が影響する。大気中においての使用でもSnが酸化物あるいは大気中の成分(腐食性のある硫黄酸化物や塩化物などの化合物)によってはそれらの化合物として優先して生成する。ただし、大気中では水中と異なり厚い皮膜ではなく極薄い皮膜として形成するため目視で確認しても色調に大きな変化は見られない。この皮膜が保護作用を示すことで耐変色性が向上する。この皮膜の保護作用が強すぎると抗菌性(殺菌性)にも影響するが、以上の耐変色性や、抗菌性(殺菌性)は、Znの適量存在の元、Alとの共添加によって、より一層高められることになり組成指数f1などによる成分バランスが重要になる。
一方、Snの含有量が2.5mass%を超えると、耐変色性、耐食性が飽和するだけでなく、常温でのγ相が多く出現(高温でのβ相が多くなる)し、溶接管を含めた溶接性、冷間加工性、冷間での曲げ加工性、耐食性などが悪くなる。したがって、Snの含有量は2.5mass%以下であり、好ましくは2.0mass%以下、より好ましくは1.8mass%以下、最適には1.5mass%以下である。なお、耐変色性、抗菌性(殺菌性)、および組織(β相、γ相)の関係は後述する組成指数f1、f2が大きく関係し、特にAlとの関係式である組成指数f2、f3、f4は各種特性に対して重要な因子となる。単独では効果が少ないものの、Alとの共存による相乗効果が高く、f2の関係式を満足する組成範囲では耐変色性、抗菌性(殺菌性)など種々の特性が良好となる。
なお、Snは、上述のように規定された範囲内、好ましい範囲内においては、色調に与える影響はほとんど無い。
AlはSnと同じく耐変色性に大きく貢献する。Alは酸化物の生成自由エネルギーが低く酸化しやすい活性な元素の1つである。このAlの添加により表面に極薄い酸化皮膜が形成することで、耐変色性が高くなる。一方、表面に薄い酸化皮膜が生成され耐変色性が向上すると抗菌性(殺菌性)が阻害されるおそれがあるが、適正な配合のZn、Snの配合により、抗菌性(殺菌性)が損なわれずに保持できる。また、高温でのβ相の出現を多くする効果もあり、高温での変形抵抗、変形能にも寄与し、強度も高くなる。ただし、ZnやSn含有量にもよるが、Alの添加は、β相を形成しやすくするので、冷間での加工性に問題を生じるおそれがある。さらに、Alの添加により溶湯の粘度を低下させ、鋳造性も向上すると共に、鋳造時および溶接時に発生するZnの蒸気を抑制する効果もある。同様に、溶接時の溶接性が向上し、健全な溶接管、接合構造体が得られる。一方、Alを多く含むと酸化皮膜を形成しやすくなるものの、酸化皮膜が強固に厚くなり、その皮膜が存在することにより表面に菌が付着したとしても抗菌性(殺菌性)を示す銅合金の母材(素材)と菌の接触が制限され、抗菌性(殺菌性)が低下する。また、大気中などで実際に使用していると酸化などの表面の腐食が進行するが、その腐食により表面に形成した酸化皮膜ために耐変色性には貢献するものの、抗菌性(殺菌性)がより悪くなり、条件によっては抗菌性(殺菌性)を示さなくなるおそれがある。溶接時においても、Alを多く含むと強固なAlの酸化皮膜(酸化物)の形成により、寧ろ溶接性が悪くなる。
一方、Alの含有量が1.8mass%を超えると、強固な酸化皮膜が形成することにより耐変色性は良好になるが抗菌性(殺菌性)あるいは溶接性を阻害することになる。好ましくは1.7mass%以下、より好ましくは1.6mass%以下であり、最適には1.5mass%以下である。また、Snと同じく特性、組織などについては組成指数f1、f2、f3、f4に大きく影響される。
なお、Alは、上述のように規定された範囲内、好ましい範囲内においては、色調に与える影響はほとんど無い。
Pbは、プレス等のせん断加工や研磨等の加工性を向上させるために含有される。Pbは、金属組織がα単相のCu−Zn−Sn−Al系合金には、常温でほとんど固溶しない。Zn、Sn、Al等(残部Cu)が上述した組成範囲内であり、組成指数f1、f2が適正範囲内であり、熱間圧延あるいは熱間押出終了後の冷却時、熱処理の冷却時、又は、溶接管溶接後、鍛造後およびろう付け後の加熱部分の冷却時に、結晶粒界を主として、Pbが析出する。これらのPbは、Pb粒子として微細に析出するので、プレス等のせん断加工や、研磨等の加工性が向上する。
Niは、耐変色性を確保する上で、また、溶接や熱間加工時に生成するβ相、γ相の生成を抑制する重要な元素である。耐変色性について上述のSnとAlの効果をNiで代替したものである。すなわちSnやAlは酸化物などの安定な皮膜を材料表面に形成することによって耐変色性が向上するが、NiもCuやその他元素との複合的な酸化物を形成し、耐変色性に寄与する。Ni添加量にもよるが、Cu−Zn合金にNi単独で添加しても耐変色性を向上させる効果はSnやAlに比べ低く、SnおよびAlとの共添加によって耐変色性に貢献する。
ここで、Niの含有量が一定量を超えると、鋳造時の湯流れ性の悪化やSn,Al,Zn量とも関係するが熱間圧延の表面割れや耳割れが発生するなど、熱間加工性が悪くなる。また、プレス成形性が低下し、アレルギー(Niアレルギー)が生じる可能性が高くなり、黄銅色から離れ、白色を帯びてくるようになる。しかし、Niの含有量が少ないと、耐変色性を向上させる効果が少ない。そこで、Niを添加する場合、Niの含有量は、0.01mass%以上であり、好ましくは0.3mass%以上である。特に、Sn、Alの効果をNiで代替する場合、SnとAlの合計含有量が0.02mass%以上で、0.5mass%以下の場合(Snの含有量〔Sn〕mass%と、Alの含有量〔Al〕との間に0.02≦[Sn]+[Al]≦0.5)、良好な耐変色性などの特性を得るためのNiの含有量は1.5mass%以上が好ましい。耐変色性などはSnおよびAlとNiの共添加によって発揮されるが、SnおよびAlの含有量が少ない場合にNi含有量も少なくなると耐変色性への効果が小さくなり、Ni含有量を1.5mass%以上とすることでSn、Alの耐変色性等への効果の低下分をNiの添加で補うことができる。
一方、黄銅色を有すること、Niアレルギーや、熱間圧延性の観点から、Niの含有量は、5.0mass%以下である。好ましくは4.0mass%以下、最適には、3.0mass%以下である。なお、Niは、抗菌性(殺菌性)への寄与は小さく、Zn、Al、Snとの配合割合を表す組成指数f1、f3、f4が重要になる。
Siの添加は高温でのβ相を拡大する効果があり、高温での変形抵抗、変形能を向上させるが、多量に含むとβ相が多くなり、常温(室温)でもβ相が多く残存し、Sn、Alとの共添によりγ相なども多くなる(冷却条件にも影響される)。また、機械的強度も高くなるものの、伸びが低下し、強度と伸びのバランスが悪くなる。0.01mass%以下では耐変色性の効果は小さく、1.0mass%を超えて添加すると、耐変色性には効果があるが、β相の析出だけでなく、機械的強度と伸びのバランスが悪くなる。
以上のことから、Siを添加する場合には、Siの含有量は0.01mass%以上1.0mass%以下となり、好ましくは0.01mass%以上0.5mass%以下である。
Tiは、Cu−Zn−Sn−Al合金には多く固溶せず、一部Ti2Cuなどの析出物を形成する。Tiの添加は耐変色性には寄与するものの、多量に存在すると析出物が多くなり、強度には寄与するが、伸び値が低下する。また鋳造時の酸化物の巻き込みなどが問題となり、真空溶解など特殊な溶解法が必要になる。0.01mass%未満では耐変色性の効果が小さく、0.5mass%を超えると機械的性質が悪化するおそれがあり、また、鋳造歩留まりも悪くなる。
以上のことから、Tiを添加する場合には、Tiの含有量は0.01mass%以上0.5mass%以下となり、好ましくは0.01mass%以上0.2mass%以下である。
Mnは、強度、耐摩耗性を向上させ、曲げ性、プレス性を向上させるものである。一方、Mnの含有量が多すぎると、熱間圧延性を阻害する。なお、耐変色性や、抗菌性(殺菌性)への寄与は、Mn単独では小さく、場合によっては、抗菌性(殺菌性)を阻害することもあり、Cu、Zn、Al、Snとの配合の割合が重要となる(組成指数f1)。また、Mnを含有させることにより、溶湯の湯流れ性を向上させることができる。これらの点から、Mnを添加する場合には、Mnの含有量は0.01〜1.5mass%であり、好ましくは0.1〜1.0mass%である。なお、MnとSiの共添加は、Mn−Siの化合物を生成し、冷間加工性を阻害するので避けなければならない。もし、SiとMnを共添加する場合は、Siを0.05mass%以下、Mnを0.5mass%以下とするのが好ましい。
Feは、焼鈍時の結晶粒を微細化する効果があり、特に、溶接管の溶接部の結晶粒を細かくし、溶接管において高い強度が得られ、溶接管を曲げ加工を施したとき、表面が肌荒れせずに平滑な状態になる。このような作用効果を得るためには、Feは、0.001mass%以上必要である。また、0.09mass%を超えて含有しても、上述の作用効果は飽和し、寧ろ冷間での加工性が低下する。
以上のことから、Feを添加する場合には、Feの含有量は0.001mass%以上0.09mass%以下である。
Pは、耐食性を向上させ、溶湯の湯流れ性を向上させる。この効果を発揮するためにはPの含有量は、0.005mass%以上とする必要がある。また、過剰なPの含有量は冷間及び熱間での延性に悪影響を及ぼすことになることから、Pの含有量は、0.09mass%以下とする。
以上のことから、Pを添加する場合には、Pの含有量は0.005mass%以上0.09mass%以下である。
SbもPと同様に耐食性を向上させるために添加される。この効果を得るために、Sbの含有量は0.01mass%以上必要である。また、0.09mass%を超えて含有させても、含有量に見合う効果が得られず、かえって延性が低下する。また、Sbは、人体に悪影響を及ぼすおそれがあるため、含有量は、0.05mass%以下とすることが好ましい。
以上のことから、Sbを添加する場合には、Sbの含有量は0.01mass%以上0.09mass%以下であり、好ましくは0.01mass%以上0.05mass%以下である。
AsもPと同様に耐食性を向上させるために添加される。この効果を得るために、Asの含有量は0.01mass%以上必要である。また、0.09mass%を超えて含有させても、含有量に見合う効果が得られず、かえって延性が低下することになる。また、Asは、人体に悪影響を及ぼすおそれがあるため、含有量は、0.05mass%以下とすることが好ましい。
以上のことから、Asを添加する場合には、Asの含有量は0.01mass%以上0.09mass%以下であり、好ましくは0.01mass%以上0.05mass%以下である。
銅合金は、原料の一部としてスクラップ材が使用されることが多く、そのようなスクラップ材にはS(硫黄)成分が含まれている場合がある。Mgは、このようなS成分を含んだスクラップを合金原料とし製品を製造する場合において、S成分をMgSの形態で除去することができる。このMgSが合金に残留したとしても、耐食性、耐変色性などには悪影響を及ぼさない。また、S成分をMgSの形態にすると、プレス性が向上する。S成分を含んだスクラップにMgを添加せずに用いると、Sは合金の結晶粒界に存在しやすく、粒界腐食を助長することがあり、そうなると耐食性および耐変色性も低下させる。しかし、Mgを添加することにより粒界腐食を効果的に防止することができる。その効果を発揮するためには、Mgの含有量は0.001〜0.03mass%としておくことが必要である。Mgは酸化しやすいため、過剰に添加すると鋳造時に酸化し、酸化物を形成することで溶湯の粘度が上がり、酸化物の巻き込みなどの鋳造欠陥を生じるおそれがある。
以上のことから、Mgを添加する場合には、Mgの含有量は0.001mass%以上0.03mass%以下である。
Cuは、Zn,SnおよびAl等の残余成分であり(ただし、不可避不純物を除く)、これら主要元素のバランスとして含まれる。Cuは、銅合金としての引張強度、耐力等の機械的強度を向上させると共に、抗菌性(殺菌性)等の特性を確保する上で重要な元素である。残余成分であるが、各種特性を発揮するためのCuの含有量は、64.0mass%以上であり、好ましくは65.0mass%以上であり、より好ましく70.0mass%、最適には、72.0mass%以上である。一方、Cuの含有量が81.0mass%を超えると、機械的強度が低下し、熱間圧延性や成形性等の加工性が悪くなり、また抗菌性(殺菌性)が劣るようになるだけでなく耐変色性も低下する。なお、Cuの含有量は、81.0mass%以下であり、好ましくは80.0mass%以下であり、より好ましくは78.0mass%、最適には77.0mass%以下である。
また、不可避的不純物としては、Cr,Ag,Ca,Sr,Ba,Sc,Y,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Re,Ru,Os,Se,Te,Rh,Ir,Pd,Pt,Au,Cd,Ga,In,Li,Ge,Tl,Bi,S,O,Be,N,H,Hg, B、希土類等が挙げられる。これらを含む不可避不純物は、総量で0.5mass%以下であることが望ましい。不可避不純物が総量で0.5mass%以上と多く含まれる場合、金属組織にも影響を与え、耐食性、抗菌性(殺菌性)などを低下させ、伸びを低下させるなど冷間加工性を低下させ、また熱間での変形抵抗を増加させるなど、含まれないことが望ましい。なお、不可避不純物は意図的に含まない元素のことを示す。
Znの含有量〔Zn〕mass%と、Snの含有量〔Sn〕mass%と、Alの含有量〔Al〕mass%と、Si、Ti、Ni、Mn、Feのそれぞれの含有量を〔Si〕mass%、〔Ti〕mass%、〔Ni〕mass%、〔Mn〕mass%、〔Fe〕mass%に、それぞれの元素毎に係数を掛け、合計した関係式とその数値は、溶接管、板、棒、鍛造品、鋳物の金属組織中に存在するβ相、γ相の面積率に影響し、冷間加工性(冷間圧延、冷間伸線などの塑性加工)、溶接管や板材の曲げ加工性、強度、耐食性、耐変色性および抗菌性(殺菌性)に影響を与える。よって、組成指数f1は、これらの特性、性質を総合的に数値化した重要な関係式である。
以上のように、組成指数f1の値は、熱間圧延性、プレス加工性および強度から、24以上であり、好ましくは26以上、より好ましくは28以上であり、最適には29以上である。
すなわち、組成指数f1は、24≦f1≦40の範囲内とされ、好ましくは26≦f1≦38の範囲内、さらに好ましくは28≦f1≦36の範囲内、最適には29≦f1≦34の範囲内とされる。
一方、第4発明合金において添加されるP、Sb、As、Mgは、含有量の他元素と比較し少量であり、機械的性質、耐食性、耐変色性などに大きな影響を与える相組織への影響は少ないため(すなわち、係数は0または0に近い数字のため)、組成指数f1の関係式には含めていない。
SnとAlはZn量とも関連するが、組成指数f2の数値は、Al:0.01〜1.8mass%、Sn:0.01〜2.5mass%が前提で、AlとSnの相乗効果により、耐変色性、耐食性および抗菌性(殺菌性)に大きな影響を与え、溶接性、熱間加工性、冷間加工性、曲げ加工性、プレス加工などの打ち抜き加工性に影響する。
組成指数f2=〔Sn〕+2×〔Al〕の値が1.2未満では、耐変色性に大きく寄与せず、プレス加工などの打ち抜き性を悪化させ、抗菌性(殺菌性)も劣る。一方、組成指数f2の値が4.0を超えると、耐変色性は向上するものの、抗菌性(殺菌性)が低下し、溶接性、熱間加工性、冷間加工性、曲げ加工性も低下する。なお、AlとSnの共添加の下、Alは、Snより大きな係数が与えられているのは、Alは、少量の含有で、特に耐変色性に効果を発揮するが、Alの含有を多くするにしたがって、抗菌性(殺菌性)が、損なわれ始めることによる。このような特性から考慮するとf2の値は、1.3以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。また3.5以下が好ましく、3.2以下がより好ましい。なお、AlとSnの相乗効果の点から、Alは、0.4mass%以上、Snは、0.5mass%以上、各々含有すると、格段の効果を有する。
すなわち、組成指数f2は、1.2≦f2≦4.0の範囲内とされ、好ましくは1.3≦f2≦3.5の範囲内、さらに好ましくは1.5≦f2≦3.2の範囲内とされる。
なお、不可避的に含まれる不純物については、合計の不純物量が0.5mass%より少ない場合は、組成指数f2にほとんど影響を与えない。合計の不可避不純物量が0.5mass%を超える場合であっても、組成指数f2が上述の範囲内であればよい。
第2発明合金のように、Al、Snの一部をNiで代替する場合、組成指数f3=0.7×〔Ni〕+〔Sn〕+2×〔Al〕が、1.2≦f3≦4.0の範囲内であると、耐変色性、耐食性、および抗菌性(殺菌性)が良く、熱間加工性、冷間加工性、曲げ加工性、プレス加工などの打ち抜き加工性も良好な合金となる。また、組成指数f3から、Niの耐変色性等の効果は、AlやSnに比べて低く、Niを多く含有する必要があり、係数は小さくなっている。
組成指数f3は、組成指数f2と同様に、各種特性から考慮すると1.2以上であり、1.3以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。一方で4.0以下であり、3.5以下が好ましく、3.2以下がより好ましい。
すなわち、組成指数f3は、1.2≦f3≦4.0の範囲内とされ、好ましくは1.3≦f3≦3.5の範囲内、さらに好ましくは1.5≦f3≦3.2の範囲内とされる。
なお、不可避的に含まれる不純物については、合計の不純物量が0.5mass%より少ない場合は、組成指数f3にほとんど影響を与えない。合計の不可避不純物量が0.5mass%を超える場合であっても、組成指数f3が上述の範囲内であればよい。
また、SnとAlは上述のように共存添加すると耐変色性、抗菌性(殺菌性)や強度など、様々な特性に寄与することになり、組成指数f4=〔Sn〕×〔Al〕+0.1×〔Ni〕も重要な因子となる。なお、Niを添加しない場合には、組成指数f4=〔Sn〕×〔Al〕となる。
組成指数f4が0.02未満では、Sn、Alの共添加によっても耐変色性、強度などが十分でない。よって、組成指数f4は、0.02以上であり、好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.2以上、最適には0.3以上である。一方、組成指数f4が1.8を超えると共添加による相加相乗の効果が飽和するだけなく、寧ろ冷間加工性の低下など、悪い面が現れる。よって、組成指数f4は、1.8以下であり、好ましくは1.6以下、さらに好ましくは1.4以下、最適には1.3以下である。
すなわち、組成指数f4は、0.02≦f4≦1.8の範囲内、好ましくは0.1≦f4≦1.6の範囲内、より好ましくは0.2≦f4≦1.4の範囲内、最適には0.3≦f4≦1.3の範囲内とされる。
なお、不可避的に含まれる不純物については、合計の不純物量が0.5mass%より少ない場合は、組成指数f4にほとんど影響を与えない。合計の不可避不純物量が0.5mass%を超える場合であっても、組成指数f4が上述の範囲内であればよい。
β相は、Zn量(Cu量)およびSn量、Al量によって出現する面積率が異なり、組成指数f1の値が重要になる。β相は、Cu−Zn合金においてCu−Znの2元平衡状態図から見るとZn量が32.5mass%以上のとき材料温度が高温になると出現する。高温状態でβ相が出現するが、材料が冷却される段階でβ相からα相に変態し、β相は減少する。またZn量が39mass%以上になると常温でもβ相が消滅せずに存在する。ただし、一般的な製造方法で製造すると非平衡状態となり、平衡状態図の通りとならずβ相の残存するZn量が低濃度側へシフトする。また、Sn、Alは、高温でβ相を出現させやすくする元素である。さらに、Sn、Alは実用の生産において、より一層、平衡状態から離れた金属組織、相構成にするので、ZnおよびSn,Al等の組成は組成指数f1等により適正な範囲が決められる。
以上のことから、常温(室温)でのβ相の面積率は0.9%以下であり、0.5%未満が好ましく、より好ましいのは0%か0%の近傍である。つまり、本発明の目的を達成するには、金属組織の観点から、β相が出現する直前のα相のみの金属組織、或いは、マトリックスがα相で、面積率で0.1%程度のβ相を含む金属組織が良い。
よって、面積率指数f5は、1.5以下であり、好ましくは1.2以下、更に好ましいf3の値は1.0以下であり、最も好ましいのは0%か0%近傍である。
ここで、生菌率とは、JIS Z 2801の(抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果)に準拠した試験方法により、評価される。
なお、本発明の第1〜4の実施形態に係る耐変色性銅合金(第1〜4発明合金)においては、引張強さσ、伸びεとした場合に、強度・伸びバランス指数M1=σ×(1+ε/100)を考慮することが好ましい。
高強度であれば使用される製品の薄肉化・軽量化が可能となり、コスト的には有利となるが、高強度の材料は伸び値が小さくなり、冷間加工性、曲げ加工などの塑性加工性が悪く、強度と伸びのバランスが重要になる。強度・伸びバランス指数M1=σ×(1+ε/100)が440以上であれば強度・伸びのバランスが良く、冷間加工性、曲げ加工及び強度なども必要最低限は確保される。なお、強度・伸びバランス指数M1は、490以上であることが望ましい。
さらに、本発明の第1〜4の実施形態に係る耐変色性銅合金(第1〜4発明合金)においては、平均結晶粒径についても考慮することが好ましい。
平均結晶粒径は、打ち抜き性、曲げ性、強度及び耐食性などに影響することから、0.003〜0.070mm(3〜70μm)が好ましい。平均結晶粒径が0.070mmより大きいと、曲げ加工等を施すと肌荒れ(ザラ)が生じる。また、打ち抜き時、だれやかえりが大きくなり、打ち抜き部近傍も肌荒れが生じるなど、製品としての品質が悪くなる。さらに強度が低くなり、手摺りやドアハンドル等に使用する場合、強度が足りず問題となり、繰り返し疲労についても悪くなる。強度不足により肉厚(板厚)を厚くする必要があるため、軽量化が図れず、また耐食性、耐変色性も悪くなる傾向にある。好ましくは、0.050mm以下がよく、最適には0.040mm以下である。一方、平均結晶粒径が0.003mm未満であると曲げ性に問題が生じ、0.005mm以上、さらには0.010mm以上が最適である。なお、冷間抽伸を施さない溶接したままの溶接管の場合、用途上強度が必要とされるので、溶接管の素材の条の平均結晶粒径は0.005〜0.020mmがよい。
ドアハンドルやエルボ等は、鍛造品で作られることもあり、適正な鍛造荷重で割れが無いことが求められる。本発明合金では、各元素の組成範囲、組成指数f1、f2、f3、f4、面積率指数f5およびβ相、γ相の占有面積の要件を満たすことにより、鍛造特性、耐変色性、抗菌性(殺菌性)を備えることができる。
製造工程P2は、圧延材としての量産設備での製造を目的とするとともに、溶接管での調査を目的とした。
製造工程P3は、押出材としての量産設備での製造を目的とするとともに、鍛造品およびろう付け、溶接等の接合についての調査を目的とした。
電気銅、電気亜鉛、高純度のSn、Al及びその他市販の純金属を各種成分調整した原料を電気炉で溶解させた。その後、幅70mm×厚み35mm×長さ200mmの金型鋳型に溶湯を注ぎ、試験サンプルの板状鋳塊を得た。板状鋳塊は全面の鋳肌部分及び酸化物を切削加工により取り除き、幅65mm×厚み30mm×長さ190mmの試料を作成した。この鋳塊を800℃に加熱し、3パスで厚み8mmまで熱間圧延し、空冷及び冷却ファンを用いた強制空冷により冷却した。熱間圧延した試料の表面の酸化物を研摩により除去した後、冷間圧延にて厚み1.0mmまで圧延し、連続炉(光洋サーモシステム製:810A)を用い、窒素雰囲気中で炉設定温度、送り速度を変化することにより、最高到達温度を650℃、最高到達温度より50℃低い温度から最高到達温度までの温度域での保持時間を0.3minの条件で熱処理した。これらの熱処理は量産材を連続焼鈍洗浄ラインで製造することを想定して実施し、連続焼鈍洗浄ラインと同等の熱処理条件で熱処理を行うことが可能である。熱処理後に更に0.9mm(加工率10%)まで冷間圧延し、試料とした。
電気銅、電気亜鉛、高純度のSn、Al及びその他市販の純金属を各種成分調整した原料を電気炉で溶解させた。その後、直径100mm×高さ200mmの金型鋳型に溶湯を注ぎ、棒状鋳塊を得た。棒鋳鋳塊は全面の鋳肌部分及び酸化物を切削加工により取り除き、直径90mm×高さ190mmの試料を作成した。この試料を800℃に加熱し、500トンプレス押出機により直径21mmに押出し、長さ2000mmの棒材を得た。この押出棒を直径20mmに抽伸し、冷間抽伸材(加工率9.3%)を得た。
所定の成分に調整した原料を溝型低周波誘導加熱炉にて溶解し、厚さ:190mm、幅:840mm、長さ:2000mmの板状鋳塊を作成し、その鋳塊を800℃に加熱し、厚さ:12mmまで熱間圧延した(13パス)。圧延材の各表面を面削後(厚み:11.2mm)、冷間圧延にて1.0mmまで加工した。この材料を連続焼鈍洗浄ラインにおいて熱処理材の最高到達温度は650℃、最高到達温度より50℃低い温度から最高到達温度までの温度域での保持時間は0.3minで熱処理を行った。熱処理材をスリッターにより幅87mmおよび80mmに切断し、溶接管の素条(素材)を作製した。
また、連続焼鈍洗浄ラインで熱処理した後の圧延材を、各種特性を評価するために冷間圧延により板厚0.9mm(加工率10%)に圧延した。
また、比較材として板厚1mmのC2600(70Cu/30Zn黄銅)及びC1020(無酸素銅)を、連続炉を用いて窒素雰囲気中で炉設定温度、送り速度を調整することにより、最高到達温度を650℃、最高到達温度より50℃低い温度から最高到達温度までの温度域での保持時間を0.3minで熱処理を行った。熱処理した各板材は板厚0.9mm(加工率10%)まで冷間圧延を行った。
所定の成分に調整した原料を溝型低周波誘導加熱炉にて溶解し、直径240mm、長さ700mmの棒材鋳塊を作成し、その鋳塊を800℃に加熱し、3000トン押出機により直径21mmの押出材を作成した。押出材は直径20mm(加工率9.3%)に冷間抽伸し、抽伸材を得た。
抽伸材は長さ200mmに切断し、炉中で800℃に加熱し、ドアハンドルの形状(L形)に熱間鍛造した。鍛造直後800℃〜650℃の冷却速度は1.5℃/秒であった。
比較材として直径21mmのC4622(63Cu−35.9Zn−1.1Sn)を製造工程P3と同じ工程で製造し、直径20mm(加工率9.3%)に冷間抽伸した。
また、工程P2によりNo.12、13、17を作成し、連続焼鈍洗浄ラインで熱処理を行ったのち、冷間圧延により厚さ0.9mmとした圧延材(加工率10%)および熱処理した材料を溶接管加工により溶接管を試作した。圧延材は工程P1−1と同じく、熱間加工性、組織観察、機械的性質測定、耐変色性試験、耐食性試験等を実施した。溶接管はこれらに加え、扁平試験、押し広げ試験などの溶接管の健全性を評価する試験および溶接性評価も実施した。
工程P3によりNo.14、15、16の押出材(抽伸材)を製造した。これらは工程P1−2と同じ評価およびろう付け性試験および鍛造品を試作し、鍛造性、鍛造品の組織を確認した。
後述する耐変色性試験において評価する銅合金の表面色(色調)については、JIS Z 8722−2009(色の測定方法−反射及び透過物体色)に準拠した物体色の測定方法を実施し、JIS Z 8729−2004(色の表示方法─L*a*b*表色系及びL*u*v*表色系)で規定されているL*a*b*表色系で示した。
具体的には、コニカミノルタ社製の分光測色計「CM−700d」を使用して、SCI(正反射光込み)方式でL、a、b値を測定した。JIS Z8730(色の表示方法−物体色の色差)による色差(ΔE={(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2}1/2: ΔL*、Δa*、Δb*は2つの物体色の差)を試験前後で測定したそれぞれのL*a*b*から算出し、その色差の大きさで評価した。なお、試験前後のL*a*b*測定は3点測定し、その平均値を用いた。
材料の耐変色性を評価する耐変色性試験は、恒温恒湿槽(楠本化成株式会社HIFLEX FX2050)を用いて温度60℃、相対湿度95%の雰囲気中に各サンプルを暴露した。試験時間は24時間とし、試験後に試料を取り出し、暴露前後の材料の表面色を分光測色計によりL*a*b*を測定し、色差を算出し評価した。色差が小さいほど色調の変化が少なく、したがって耐変色性が優れることになる。耐食性評価として色差の値が「A」:0〜4.9、「B」:5〜9.9、「C」:10以上とした。色差は試験前後でのそれぞれの測定値の違いを表し、その値が大きいほど試験前後の色調が異なり、色差が10以上では目視で十分に変色していることが確認でき、耐変色性が劣ると判断出来る。
比較材としてC2600(黄銅:70Cu−30Zn)、C1020(無酸素銅:100Cu)及びC4622(ネーバル黄銅:63Cu−35.9Zn−1.1Sn)についても同様に耐変色性を評価した。なお、棒材形状の耐変色性は直径20mmの抽伸材を50mmに、長手方向と垂直に切断し幅20mm×長さ50mmの断面を#1200番の耐水研磨紙を用いて乾式で表面研摩を行い試験に供した。板状形状の材料は10%冷間圧延材を縦150mm×横50mmの材料を用い、材料表面は#1200番の耐水研磨紙を用いて乾式で表面研摩を行って試験に供した。
C2600、C1020は一般的な銅合金製造会社で実施されている防錆処理(市販の銅合金用防錆液を用いた処理)を施した。防錆処理は各材料の表面をアセトン脱脂した後、75℃に加温した主成分がベンゾトリアゾールである市販の銅合金用防錆液を0.1vol%含む水溶液に10秒間浸漬し、その後、水洗、湯洗を行い、最終ブロワー乾燥した材料を作成した。これは一般的な銅合金の防錆処理条件(量産)と類似である。また、C4622及び発明合金は防錆処理を施さずに暴露試験した。
実際にプッシュプレートとして使用することを念頭に、三菱伸銅株式会社三宝製作所内にある建屋の屋内ドアに10%冷間圧延材を縦150mm×横50mmに切断した板を貼り付けて表面の変色状況について確認した。この供試材は暴露前に表面を#1200番の耐水研磨紙を用いて乾式で表面研摩を行い、室温(空調あり)で1ヶ月暴露した。このプッシュプレートは少なくとも100回/日は人の手が接触する(1回の接触時間は約1秒)条件で使用した。暴露前後の材料の表面色を分光測色計によりL*a*b*を測定し、色差を算出し評価した。評価基準は高温高湿雰囲気試験と同じく、色差の値が「A」:0〜4.9、「B」:5〜9.9、「C」:10以上として評価した。C2600防錆処理材及びC1020防錆処理材も比較材として同様に暴露試験を行い、評価した。
プレス打ち抜き試験は、直径57mmのパンチ及びダイを備えた打ち抜き治具により、200kN油圧型万能試験機(株式会東京試験機製 AY−200SIII−L)により実施した。銅合金板を円形状の丸穴を有するダイ上部に保持し、上部から下部に向かって5mm/秒の速度で打ち抜いた。パンチ、ダイの材質はSKS−3を用い、パンチとのクリアランスは3%、抜きダイテーパーは0°であり、無潤滑で実施した。評価する試料は10%冷間圧延材とした。
直径57mmの円形に打ち抜きされた銅合金板の端部から幅5mm、長さ10mmのサンプルを切り出し、そのサンプルを樹脂埋めし、銅合金板端部から垂直方向に金属顕微鏡にて観察し、バリの高さを測定した。打ち抜きサンプルは90°方向に区切った4点を平均として「バリ高さ」を算出した。プレス性(打ち抜き性)は「バリ高さ」が低いほど評価は高く、「バリ高さ」の測定値から評価した。プレス性(打ち抜き性)の評価はA:5μm未満、B:5〜10μm未満、C:10μm以上とした。バリ高さは小さいほどプレス性が良く、5μm未満「A」であれば良好であると判断できる。
曲げ性は、試料をJIS Z 2248(金属材料曲げ試験方法)に記載の180度曲げを行い、その曲げ加工部の状況により判断した。180度曲げ試験は10%冷間圧延を行った板厚0.9mmのサンプルを用い、圧延方向に平行方向に長さ50mm、幅10mmに切り出し、圧延方向と垂直方向に曲げ、曲げ加工部の曲げ半径(R)を0.45mmとし、R/ta=0.5としての180度曲げを行った(taは、板厚)。評価は、曲げ部(湾曲部)を目視により観察し、A:しわが無い又は小さなしわが存在、B:大きなしわが存在、C:ザラが発生、D:割れが存在、とした。
曲げ加工による支障をきたさない「A」(しわが無いあるいは小さなしわが存在)を曲げ性良好と判断し、割れ(クラック)の無いB以上の評価が望ましい。なお、目視によりしわの規模の判断が困難な場合、JBMA(日本伸銅協会技術標準)T307:1999の銅及び銅合金薄板条の曲げ加工性評価方法に示されるように、曲げ加工部(湾曲部:幅10mm)を金属顕微鏡にて50倍に拡大して観察し、判断した。また、材料の結晶粒が粗大となると曲げ加工を行った場合、曲げ加工部周辺に割れは存在しないものの、大きなザラ(肌荒れ)が生じ、それらの材料は使用することが出来ない。ザラを生じたサンプルの評価は「C」とした。
溶接管は、一般に素材となる条製品を幅方向にフォーミングローラーにより徐々に塑性加工し円形に成形した後、高周波誘導加熱コイルにより誘導発熱させ、、あるいはTIG溶接によりその両端を突き合わせて接合することにより製造する。接合部は局部的に加熱し、瞬間的には溶融させ、その両端を接合する、いわゆる圧接であり、接合部は突き合わされた余分な材料により大きなビードが形成され、その溶接ビード部は連続して切削刃具により管の内部及び外部共に切削除去される。ただし、溶接管の直径がφ15mm以下と小径の場合は内部に挿入する刃具も細くなり十分なビード部分が切削除去できない場合もあるので、すべての溶接管でビード部が切削除去されるわけではない。溶接部は突き合わせ部の密着性により接合性に不具合が生じる。溶接性の評価はJIS H 3320の銅及び銅合金の溶接管に記載の扁平試験により行った。溶接管の端から約100mmの試料を採取し、2枚の平板間に試料を挟み、平板間の距離が管の肉厚の3倍になるまで押しつぶし、そのときの溶接管の溶接部を圧縮方向と垂直の方向に置き、曲げの先端となるように扁平曲げを行い、曲げ加工された溶接部の状態を目視で観察した。なお、扁平曲げは溶接した管材を使用した。評価は、A:割れ、微細ホール等の欠陥が認められない、B:微細割れが認められる(開口した割れの長さが管材長手方向に2mm未満)、C:部分的に割れ(開口した割れの長さが管材長手方向に2mm以上)が認められる、とした。
180°曲げ試験は溶接管を300mmに切断し、CNCベンダマシン(千代田工業製)を用い、180°曲げを実施した。溶接部分を180°曲げを実施したときの最外径となる部分として曲げを行い、溶接部の状況を目視で確認した。なお、曲げ加工を実施した後の曲げ部(溶接部)の直径を直径の3倍である76.2mmとして曲げを行い評価した。割れ、微細ホール等の欠陥が認められないものを「A」、割れ、微細ホール等の欠陥が認められるものを「C」として評価した。
直径20mmの抽伸棒を長さ50mmに切断し、切断面の中心に直径5mmの穴をドリルであけ、そのドリル穴に直径4.8mmのC1100(タフピッチ銅)の棒材入れた。バーナーにより当該部を加熱し、銀が添加されているリン銅ロウ(JIS Z 3264 BCuP−4 7.2P−5Ag−Cu:元素記号の前はmass%を示す)を用いてろう付けを行った。
引張試験機(島津製作所 AG−X)を用い、ろう付けしたサンプルの引張試験を行い、ろう付け部以外のC1100で破断したときにろう付け性を良好とし、ろう付け部分で破断した場合を不良と評価した。引張試験のチャック部(試験機でサンプルを保持する部分)は直径20mmと直径4.8mmのC1100である。
なお、ろう付け前の各サンプルはアセトン脱脂を行い、フラックスはなしとしてろう付けを行った。
結晶粒径は、リダクション10%冷間圧延試料を圧延方向と平行方向の断面および直径20mm抽伸材(リダクション9.3%)の棒材を抽伸方向と平行方向の断面の金属組織を金属顕微鏡(ニコン製EPIPHOT300)を用いて150倍(結晶粒径に応じ適宜500倍まで変化させた)で観察を行い、その測定した金属組織のα相結晶粒についてJIS H 0501(伸銅品結晶粒度試験方法)の比較法により測定した。なお、結晶粒径(α相結晶粒)は任意の3点の平均値とした。
鍛造品の金属組織は、後述するβ相、γ相の面積率と同じく、鍛造表面から厚み方向で1/5の部分を測定し、3点の平均値とした。
β相およびγ相の面積率は次のようにして求めた。リダクション10%冷間圧延試料の圧延方向と平行方向の断面およびφ20mm抽伸材(リダクション9.3%)の棒材の抽伸方向と平行方向の断面の金属組織を、金属顕微鏡(ニコン製ECLIPSE MA200)により500倍(視野270μm×220μm)で観察し、その観察した金属組織を画像処理ソフト「WinROOF」を用い、β相およびγ相について2値化の処理を行ない、金属組織全体の面積に対するβ相の面積の割合を面積率とした。なお、金属組織は3視野の測定を行い、それぞれの面積率の平均値を算出した。
溶接管は溶接部を中心として円周方向に5mm離れた部分を厚み方向で外表面から1/5の部分について測定した。鍛造品は鍛造表面から厚み方向で1/5の部分を測定した。なお、溶接管および鍛造品の金属組織とも3視野の測定を行い、それぞれの面積率の平均値を算出した。
熱間加工性については、熱間圧延後の割れ状況により評価した。外観を目視で観察し、熱間圧延に起因する割れ等の損傷が全くないもの、又は割れがあっても微細(3mm以下)であるものについては実用性に優れるとして「A」で示し、5mm以下の軽度な耳割れが全長に渡り5箇所以下であるものについては実用可能であるとして「B」で示し、5mmを超える大きな割れ、あるいは、3mm以下の小さな割れが6箇所を超えるものについては、実用性困難(実用上大きな手直しが必要)として「C」で示した。また、熱間変形抵抗が大きく熱間圧延でのパス回数で規定の厚み(P1−1では8mm)に圧延できなかった場合も実用性困難と評価し、「C」とした。そして、「C」と評価したものは、基本的に以降の試験を中止した。
冷間加工性については、熱間圧延材を80%以上の高い加工率で冷間圧延した後の割れ状況(冷間加工材の割れ状況)により評価した。外観目視で割れ等の損傷が全くないもの又は割れがあっても微細(3mm以下)であるものについては実用性に優れるとして「A」で示し、3mmを超え5mm以下の耳割れが生じているものについては実用可能であるとして「B」で示し、5mmを超える大きな割れが生じているものについては実用性困難として「C」で示した。この評価は鋳塊に起因する割れは対象外とし、熱間圧延で予め目視で判断できる割れについては、熱間圧延で生じた割れを除き冷間圧延で生じた割れ長さで判断した。そして、「C」と評価したものは、基本的に以降の試験を中止した。
抗菌性評価はJIS Z 2801の(抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果)を参考にした試験方法により実施し、試験面積(フィルム面積)及び接触時間を変更して評価した。試験に用いた細菌は大腸菌(菌株の保存番号:NBRC3972)とし、35±1℃で前培養(前培養の方法はJIS Z 2801に記載の5.6.aの方法)した大腸菌を1/500NBを用いて希釈し、菌数が1.0×106個/mLに調整した液を試験菌液とした。試験方法は20mm四角に切り出した試料を滅菌したシャーレに置き、前述の試験菌液(大腸菌:1.0×106個/mL)0.045mLを滴下し、直径15mmのフィルムをかぶせ、シャーレの蓋を閉じる。そのシャーレを35℃±1℃、相対湿度95%の雰囲気で10分間培養(接種時間:10分)する。培養した試験菌液をSCDLP培地10mLにより洗い出し、洗い出し菌液を得る。洗い出し菌液を、リン酸緩衝生理食塩水を用いて10倍ずつに希釈し、その菌液に標準寒天培地を加え、35±1℃、48時間培養し、集落数(コロニー数)が30以上となる場合にその集落数を計測し、生菌数(cfu/mL)を求めた。接種時の菌数(殺菌性試験開始時の菌数:cfu/mL)を基準とし、それぞれのサンプルの生菌数と比較し、A:10%未満、B:10〜33%未満、C:33%以上として評価した。A以上(つまり接種時の生菌数に対し評価サンプルの生菌数が1/3未満となる)の評価を得たサンプルは抗菌性(殺菌性)が優れると判断した。培養時間(接種時間)を10分と短時間にしたのは、抗菌性(殺菌性)の即効性について評価したためである。評価した試料はリダクション10%冷間圧延試料である。なお、純銅(C1020)においては、上記の試験方法では10分後の菌数は接種の菌数の33%となっている。以上のことから、評価A又は評価Bの材料は、純銅(C1020)と同等もしくはよりも抗菌性(殺菌性)が高い、つまり、接種から10分後における生菌率が同等もしくは低いものとなり、優れた抗菌性(殺菌性)を有する。なお、棒状形状の材料は長手方向と垂直方向に切断した断面で実施した。板状形状の材料は20mm×20mmに切断した。
上述した耐変色性試験2の暴露材(三菱伸銅株式会社三宝製作所内屋内ドアのプッシュプレートとして1ヶ月間暴露)の表面色を測定後、20mm四角に切断し、上記の大腸菌を用いた試験菌液による殺菌試験を行い、長期使用後のサンプルについての抗菌性(殺菌性)を評価した。試験方法及び評価方法は上述した抗菌性(殺菌性)1の評価方法と同じである。
耐食性はISO6509:1981(Corrosion of metals and alloys determination of dezincification resistance of brass)による脱亜鉛腐食試験により評価した。試験は75℃に加温した1%第2塩化銅水溶液中に24時間保持したサンプルを暴露表面から垂直方向の金属組織を観察し、脱亜鉛腐食の最も進行している部分の深さ(最大脱亜鉛腐食深さ)を測定した。その最大脱亜鉛腐食深さが200μm以下を「A」、200μmを超えるものを「C」とした
熱処理工程後の圧延材(冷間圧延前の試料)及び10%冷間圧延試料、押し出し後の棒材及び抽伸(Re:9.3%)後の棒材をそれぞれJIS Z2201:金属材料引張試験片の5号試験片(圧延材:幅25mm、標点間距離50mm)および4号試験片(棒材:径14mm、標点間距離50mm)に加工し、200kN油圧型万能試験機(株式会東京試験機製 AY−200SIII−L)により引張試験を実施した。また、溶接したままの溶接管(直径25.4mm、肉厚1.08mm又は1.0mm)はJIS Z2201:金属材料引張試験片の11号試験片(標点間距離50mm:試験片は管材から切り取ったまま)とし、つかみ部に芯金を入れて、200kN油圧型万能試験機(株式会社東京試験機製 AY−200SIII−L)により引張試験を実施した。引張試験により引張強さ、伸びおよび0.2%耐力を測定した。なお、明細書に記載の耐力はJIS Z2241:金属材料引張試験方法に記載のオフセット法により永久伸び0.2%のときの耐力を示す。
また、引張強度をσ(MPa)、伸びをε(%)としたとき、強度と延性のバランスを示す指標として強度・伸びバランス指数M1=σ×(1+ε/100)を定めた。
なお、製造工程P2を実施したものでは、熱処理工程後の圧延材(冷間圧延前の試料)及び10%冷間圧延試料の他に、熱処理工程後の圧延材:素条(幅111mm×厚み1.0mm)から製造した溶接管の引張試験を行った。その結果を、10%冷間圧延試料の引張試験結果の欄に( )付きで示す。
導電率はSIGMATEST D2.069(日本フェルスター株式会社製)を用いて測定した。各種圧延材は冷間圧延材(Re10%)の表面、棒材(φ20mm冷間抽伸材:Re9.3%)は押出方向と垂直方向に切断した面を測定周波数480kHzで測定した。
第1発明合金(請求項1に記載の組成範囲の耐変色性銅合金)であって、組成指数f1が24≦f1≦40の範囲内、組成指数f2が1.2≦f2≦4.0の範囲内にあれば、熱間加工性、冷間加工性も良好であり、冷間圧延材の金属組織はβ相の割合およびγ相の割合がそれぞれ単独で0.9%以下、0.7%以下となり、平均結晶粒度も30μm以下となった。そのため、機械的性質(強度)が高く、また伸びもあり、強度・伸びバランス指数であるM1も480以上であり高い数値を示した。さらに耐変色性が良好であり、打ち抜き性、曲げ性などの加工性も優れ、抗菌性(殺菌性)も純銅(C1020)と同等もしくはより優れるB評価以上であり、耐食性も良好であった。
比較材である黄銅材(C2600)は殺菌性が良好であるものの、耐変色性が劣り、また打ち抜き性などの加工性も問題があった。純銅(C1020)は短時間で変色が生じるなど、耐変色性が悪く、打ち抜き性などの加工性も低くかった。また、抗菌性(殺菌性)は上述のように試験後の生菌数の割合が接種時の33%であり、第1発明合金と同等あるいは悪く、強度も弱かった(M1の値が小さい)。ネーバル黄銅(C4622)は冷間抽伸前の強度・伸びバランスが低く、耐変色性にも問題があった。また、耐食性(耐脱亜鉛腐食性)にも問題があった。
Znの含有量が本発明の範囲よりも少ないNo.A3では組成指数f1も範囲より小さく、熱間圧延時の変形抵抗が大きくなり、所望の厚みまで圧延できなかった。
Snの含有量が本発明の範囲よりも多いNo.A2では組成指数f2が範囲より大きくなり、金属組織中のβ相はないものの、γ相が多く、そのため冷間圧延時に大きな割れが生じた。そのため伸びも小さくなり、M1も小さい値となり、曲げ性、耐食性で大きな問題が生じた。逆にSnの含有量が本発明の範囲よりも少ないNo.A1−1は組成指数f4が範囲より小さくなり、γ相はないものの、引張強さが低く、M1も小さい値となり、耐変色性、打ち抜き加工性に問題を生じた。
Pbの含有量が本発明の範囲よりも多いNo.A4ではf1が小さいが、熱間圧延時に大きな割れが生じたため、次工程の冷間圧延が実施できなかった。
逆にPbの含有量が本発明の範囲よりも少ないNo.A6では機械的性質や耐変色性、抗菌性(殺菌性)に与える影響はほとんど無いものの、打ち抜き試験を行ったときのバリ高さが大きく、プレス加工性に問題があった。
Alの含有量が本発明の範囲よりも多いNo.A5では組成指数f2も大きく、金属組織中のβ相率が高くなっていた。また、Alが多いため特に長期暴露したサンプルでの抗菌性(殺菌性)が悪くなった。Alの含有量が本発明の範囲よりも少ないNo.A8では組成指数f2、f4の値が小さく、結晶粒が大きく、引張強さも小さくM1が小さかった。また耐変色性に劣った。
組成指数f3が4.0より大きいNo.A7では、Ni−Al系の金属間化合物が熱間加工性を低下させるため、大きな割れが生じた。
Siの含有量が本発明の範囲よりも多く、組成範囲f2、f4も範囲を超えたNo.A8では、熱間圧延中に大きな耳割れが生じた。これは組成指数f2、f4が上限を超えていることと、Siの含有量が多くなっているためであった。熱間加工性がC評価であるが、本合金のみ熱間圧延材の耳部をグラインダーで削り取り、冷間加工を行い、各種評価を行った。なお冷間加工性の評価もCであり、大きな割れが生じた。金属組織中のβ相、γ相が多く、そのため延性(伸び)が小さく焼鈍材でのM1が小さくなり、曲げ性、抗菌性(殺菌性)および耐食性が悪くなった。
Niの含有量が本発明の範囲よりも多く組成指数f3も範囲を超えたNo.A11では、熱間加工性が悪化し、大きな割れが生じた。
これらの合金では耐変色性、加工性、抗菌性(殺菌性)および耐変色性は組成指数f1、f2あるいはf3に影響されるが、第1発明合金、第2発明合金とほぼ同等であり、更に機械的性質(強度)がアップし、M1が大きくなった。
Si,Tiが本発明の範囲よりも小さいNo.A3−1、およびMn,Feが本発明の範囲よりも小さいNo.A3−2は組成の近いNo.1とほぼ同等の機械的性質(強度)、耐変色性、殺菌性などを示し、これらの添加元素による各特性の向上は見られなかった。
一方、Tiが本発明の範囲を超えるNo.A10は曲げ加工性で割れが生じ、加工性に問題が生じた。それぞれSi,Fe、TiおよびMnが本発明の範囲を超えるNo.A3−3、A3−4およびA3−5はβ相、γ相が多く冷間加工性および耐食性に問題があり、Tiなどの酸化物の巻き込みによる鋳塊欠陥による熱間加工性が悪い、およびMnが大量に含まれることによる熱間加工性の悪化による大規模な耳割れが生じるなど、加工性および諸特性に問題が生じた。
また、押出材では熱間鍛造品を試作し、耐食性、組織などを確認したが、いずれのサンプルについても問題はなかった。
なお、平均結晶粒径については範囲内にあれば組成指数f1などにも影響されるが、機械的性質も良好であるが、粗大であると曲げ加工時にザラが発生するなど、加工性に問題が発生した。
Claims (8)
- 17〜34mass%のZnと、0.01〜2.5mass%のSnと、0.005〜1.8mass%のAlと、0.0005〜0.009mass%のPbとを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなり、
Znの含有量〔Zn〕mass%と、Snの含有量〔Sn〕mass%と、Alの含有量〔Al〕mass%との間に、24≦〔Zn〕+5×〔Sn〕+3×〔Al〕≦40の関係を有し、かつ、Snの含有量〔Sn〕mass%と、Alの含有量〔Al〕mass%との間に、1.2≦〔Sn〕+2×〔Al〕≦4.0の関係を有しており、
α相マトリックスのγ相の面積率(γ)%とβ相の面積率(β)%との間に0≦2×(γ)+(β)≦1.5の関係を有するとともに、α相マトリックスに面積率で0〜0.7%のγ相および0〜0.9%のβ相が分散した金属組織とされている耐変色性銅合金。 - 17〜34mass%のZnと、0.01〜2.5mass%のSnと、0.005〜1.8mass%のAlと、0.0005〜0.009mass%のPbと、0.01〜5mass%のNiを含有し、残部がCu及び不可避不純物からなり、Znの含有量〔Zn〕mass%と、Snの含有量〔Sn〕mass%と、Alの含有量〔Al〕mass%と、Niの含有量〔Ni〕mass%の間に、24≦〔Zn〕+5×〔Sn〕+3×〔Al〕−0.5×〔Ni〕≦40の関係を有し、かつ、Snの含有量〔Sn〕mass%と、Alの含有量〔Al〕mass%と、Niの含有量〔Ni〕mass%との間に、1.2≦0.7×〔Ni〕+〔Sn〕+2×〔Al〕≦4.0の関係を有しており、
α相マトリックスのγ相の面積率(γ)%とβ相の面積率(β)%との間に0≦2×(γ)+(β)≦1.5の関係を有するとともに、α相マトリックスに面積率で0〜0.7%のγ相および0〜0.9%のβ相が分散した金属組織とされている耐変色性銅合金。 - さらに、0.01〜1.0mass%のSi、0.01〜0.5mass%のTi、0.01〜1.5mass%のMn、0.001〜0.09mass%のFeのうちいずれか1種以上を含有し、
Znの含有量〔Zn〕mass%と、Snの含有量〔Sn〕mass%と、Alの含有量〔Al〕mass%と、Si、Ti、Ni、Mn、Feのそれぞれの含有量〔Si〕mass%、〔Ti〕mass%、〔Ni〕mass%、〔Mn〕mass%、〔Fe〕mass%との間に、24≦〔Zn〕+5×〔Sn〕+3×〔Al〕+2.5×〔Si〕+1.0×〔Ti〕−0.5×〔Ni〕+0.5×〔Mn〕+0.2×〔Fe〕≦40の関係を有する請求項1又は請求項2に記載の耐変色性銅合金。 - さらに、0.005〜0.09mass%のP、0.01〜0.09mass%のSb、0.01〜0.09mass%のAs、0.001〜0.03mass%のMgのうちのいずれか1種以上を含有する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の耐変色性銅合金。
- 溶接管、鍛造品、鋳物の形態で使用される請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の耐変色性銅合金。
- 抗菌性試験における10分経過後の生菌率が、純銅の生菌率と同等もしくは低くなっている請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の耐変色性銅合金。
- 請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の耐変色性銅合金からなる基材と他部材とが接合されることにより構成されている銅合金部材。
- ドアハンドル、ドアノブ、ドアプッシュ板、手摺り、ベッド柵、サイドボード、机天板、椅子背もたれ、ナースカート取手の部材、ペンのグリップ、キーボード、マウス、シンク、つり革、スイッチ、スイッチカバー、建材として使用される請求項7に記載の銅合金部材。
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