JP5926737B2 - 携帯機器用カバーガラスの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、携帯電話やスマートフォン、PDA(Personal Digital Assistant)などの携帯端末装置の表示画面の保護に用いられる携帯機器用カバーガラスの製造方法に関する。
携帯電話やスマートフォン、PDAなどの携帯端末装置では、液晶などの表示装置を保護するために、表示装置の外側に透明な保護板が配置される。保護板としては、アクリルなどの樹脂が多く用いられているが、樹脂の保護板は撓み易いため、板厚を厚くしたり、表示装置との間隙を多く取ったりする必要がある。
そこで、携帯端末装置の表示装置の保護のためには、ガラス素材からなるカバーガラスを用いることが好ましい。ガラスは、硬度が高いために撓みが少なく、薄型化に寄与することができる。
一般に、カバーガラスは、大きい一枚板の板状ガラスから任意の形状のガラス基板を抜き出し、この抜き出されたガラス基板を加工することにより製造される。板状ガラスからガラス基板を抜き出す方法としては、機械加工だけでなく、エッチング処理を用いた方法が知られている(例えば、特許文献1)。
特許文献1では、レジストパターンを主表面に形成した板状ガラスをエッチャントでエッチング処理して、板状ガラスから所望の形状のガラス基板を抜き出している。このようにエッチング処理で外形を形成することにより、端面は鏡面となって非常に高い平滑性を有し、機械加工では必ず生じるマイクロクラックが生じない。このため、携帯端末用カバーガラスに求められる高い強度を得ることができる。また、携帯端末用カバーガラスが機械加工では困難な複雑な形状であっても、エッチング処理であれば容易に加工することができるという利点もある。
しかしながら、ガラスは割れるという特性を有しているため、強度を向上させる必要がある。これに対して、特許文献2では、カバーガラスの外形を抜き出した後に、抜き出されたガラス基板をイオン交換処理により化学強化することが提案されている。特許文献2によれば、ガラス基板を化学強化して表面に圧縮応力が作用するイオン交換層を形成することで、撓みを抑え、また破損し難い携帯端末用カバーガラスを製造できるとしている。また、特許文献2には、ガラス基板の化学強化のために、例えば、硝酸カリウムや硝酸ナトリウムなどの化学強化処理液を用い、温度400〜550(℃)で処理を行うことが記載されている。
特開2009−167086号公報 特開2007−99557号公報
近年、携帯端末装置で代表される携帯機器の需要増加に伴い、携帯機器用のカバーガラスの需要も急増している。このような背景の下、携帯機器用カバーガラスには、例えば携帯機器の表示画面を保護するために強度を高めるだけでなく、より高い寸法精度も求められている。このような要求を満たすべく、本発明者らは、板状ガラスを携帯機器用カバーガラス形状のガラス基板に加工する形状加工工程後に、化学強化を行い、携帯機器用カバーガラスを製造した。しかしながら、製造された携帯機器用カバーガラスは、製品として要求される寸法を満たさない場合があるという問題が発生した。
本発明は、上記の課題に鑑み、化学強化後のガラス基板の寸法精度を向上できる携帯機器用カバーガラスの製造方法を提供することを目的としている。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、高温の化学強化処理液にガラス基板を浸漬する化学強化工程では、化学強化処理液の状態に応じてガラス基板の寸法が伸びることを見出した。さらに検討した結果、本発明者らは、化学強化処理液の状態と、この状態の化学強化処理液で化学強化を行ったガラス基板の寸法の伸びとの対応関係を参照し、化学強化処理液の状態に基づいて、形状加工工程でのガラス基板の加工量を決定することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
(構成1)
上記課題を解決するために、本発明にかかる携帯機器用カバーガラスの製造方法の代表的な構成は、板状ガラスを、携帯機器用カバーガラス形状のガラス基板に加工する形状加工工程と、形状加工工程の後に行われ、ガラス基板を化学強化処理液に接触させることにより、ガラス基板の中に含まれる一部のイオンを、そのイオンよりも大きなイオン半径である化学強化処理液中のイオンとイオン交換することによりガラス基板を化学強化する化学強化工程と、を含む携帯機器用カバーガラスの製造方法であって、化学強化工程で用いる化学強化処理液の状態と、当該状態の化学強化処理液を用いて化学強化を行った場合におけるガラス基板の寸法の伸びとの対応関係を予め把握しておき、形状加工工程では、化学強化工程での化学強化処理液の状態に基づいて、対応関係を参照して、化学強化工程後のガラス基板の寸法が、携帯機器用カバーガラスに求められる寸法になるように、ガラス基板の加工量を決定することを特徴とする。
ここで、製品として要求される携帯機器用カバーガラスの寸法は、製品毎に決められている。しかし、化学強化工程での化学強化処理液の状態に起因して、ガラス基板の寸法が変化してしまう。そこで、上記構成1では、化学強化に伴うガラス基板の寸法の伸びを予め把握して、化学強化前に実施される形状加工工程でのガラス基板の加工量を決定することで、化学強化後のガラス基板の寸法精度を向上させている。
すなわち、上記構成1によれば、化学強化処理液の状態と化学強化に伴うガラス基板の寸法の伸びとの対応関係を予め把握しておく。そして、この対応関係を参照して、使用される化学強化処理液の状態に基づいて、化学強化工程の前段階である形状加工工程でのガラス基板の加工量を決定する。この加工量は、化学強化工程後のガラス基板の寸法が携帯機器用カバーガラスに求められる寸法となるように決定される。このように、化学強化工程に伴うガラス基板の寸法変化を、形状加工工程で相殺するように補正できるので、化学強化後のガラス基板の寸法精度が向上する。
ガラス基板は、Liイオンを含有するアルミノシリケートガラスであり、化学強化処理液の状態とは、化学強化処理液中に含まれるLiイオンの濃度であると好ましい。この場合には、使用する化学強化処理液のLiイオンの濃度を直接測定し、対応関係を参照することで、ガラス基板の寸法の伸びを正確に把握できる。なお、アルミノシリケートガラスの化学強化では、ガラスに含まれるLiイオンをNaイオンと交換し、NaイオンをKイオンと交換する。したがって、化学強化処理液に含まれるLiイオンの濃度が高いほど、化学強化処理液が疲労し、化学強化に伴うガラス基板の寸法の伸びが小さくなる。
化学強化処理液の状態とは、当該化学強化処理液を用いて化学強化を行ったガラス基板の累積表面積であると好ましい。この場合には、化学強化処理液を直接測定することなく、間接的に化学強化した累積表面積を算出し、対応関係を参照することで、ガラス基板の寸法の伸びを把握できる。よって、特別な測定機器が不要となり、製造コストの削減や製造工程の効率化を図ることができる。なお、累積表面積が大きいほど、化学強化処理液が疲労し、化学強化に伴うガラス基板の寸法の伸びが小さくなる。
形状加工工程は、板状ガラスの主表面に形成された携帯機器用カバーガラス形状のレジストパターンを用いて、板状ガラスをエッチング処理することにより形状加工する工程であり、化学強化工程でのガラス基板の伸びを相殺するように、レジストパターンの形状を変更することにより、ガラス基板の加工量を決定すると好ましい。ここで、レジストパターンの形状とは、板状ガラスの主表面に形成されるレジストマスクの主表面方向の形状をいう。このため、レジストマスクの形状は、化学強化工程後のガラス基板の寸法が携帯機器用カバーガラスに求められる寸法になるように調整される。レジストマスクの形状を調整するためには、例えば、レジストマスクに対応する領域を含むフォトマスクを多数用意し、これらのフォトマスクのうち、レジストマスクの形状が求められる寸法となるような領域を含むフォトマスクを用いて、レジストパターンを形成すればよい。このように、化学強化工程でのガラス基板の寸法の伸びに応じて、レジストパターンに含まれるレジストマスクの形状を調整するので、化学強化後のガラス基板の寸法精度が向上する。
また、他の方法として、上記形状加工工程でレジストパターンを用いてエッチング処理することにより板状ガラスを形状加工する際に、化学強化工程でのガラス基板の伸びを相殺するように、エッチング処理条件を変更することにより、ガラス基板の加工量を決定すると好ましい。ここで、エッチング処理条件とは、エッチング処理時間、エッチング処理液の量などが考えられる。この場合には、化学強化工程後のガラス基板の寸法が携帯機器用カバーガラスに求められる寸法になるように、化学強化工程に伴うガラス基板の寸法の伸びの分だけ、ガラス基板の寸法を小さくするようにエッチング処理すればよい。このように、化学強化工程でのガラス基板の寸法の伸びに応じて、形状加工工程でのエッチング加工量を決定するので、化学強化後のガラス基板の寸法精度が向上する。
さらに、他の方法として、形状加工工程は、板状ガラスを機械加工によって携帯機器用カバーガラスの形状のガラス基板に加工する工程であり、化学強化工程でのガラス基板の伸びを相殺するように、ガラス基板の加工量を決定すると好ましい。この場合には、化学強化工程後のガラス基板の寸法が携帯機器用カバーガラスに求められる寸法になるように、化学強化工程に伴うガラス基板の寸法の伸びを相殺すべく、ガラス基板の寸法を小さくするように機械加工を施せばよい。このように、化学強化工程でのガラス基板の寸法の伸びに応じて、機械加工での加工量を決定するので、化学強化後のガラス基板の寸法精度が向上する。
(構成2)
本発明にかかる携帯機器用カバーガラスの製造方法の代表的な別の構成は、板状ガラスを、携帯機器用カバーガラス形状のガラス基板に加工する形状加工工程と、前記形状加工工程の後に行われ、前記ガラス基板を化学強化処理液に接触させることにより、ガラス基板の中に含まれる一部のイオンを、そのイオンよりも大きなイオン半径である前記化学強化処理液中のイオンとイオン交換することによりガラス基板を化学強化する化学強化工程と、を含む携帯機器用カバーガラスの製造方法であって、前記ガラス基板を構成しているガラスは、Liを含有せず、Naを含有するものであり、前記化学強化工程は、ガラス基板中のNaと化学強化処理液中に含まれるKとをイオン交換するものであり、
前記形状加工工程では、前記化学強化工程によって変化したガラス基板の寸法が、携帯機器用カバーガラスに求められる寸法になるように、前記ガラス基板の加工量を決定することを特徴とする。
本発明によれば、化学強化後のガラス基板の寸法精度を向上できる携帯機器用カバーガラスの製造方法を提供することができる。
本発明の実施の形態1による携帯機器用カバーガラスの製造方法を適用したガラス基板を説明する図である。 本発明の実施の形態1による携帯機器用カバーガラスの製造システムの機能ブロック図である。 板状ガラスの主表面に形成されたレジストパターンを模式的に示す図である。 フォトマスクを用いた露光工程を模式的に示す図である。 等方性エッチングで抜き出されたガラス基板の断面を示す図である。 図2の製造システムを構成するメモリに記憶されるテーブルの具体例を示す図である。 フォトマスクの一部を模式的に示す図である。 本発明の実施の形態2による携帯機器用カバーガラスの製造システムの機能ブロック図である。 本発明の実施の形態3による携帯機器用カバーガラスの製造システムの機能ブロック図である。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。かかる実施の形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1による携帯機器用カバーガラスの製造方法を適用したガラス基板を説明する図である。ガラス基板100は、携帯端末の表示画面を保護する携帯機器用カバーガラス(以下、カバーガラス)として用いられる。ガラス基板100は、矩形の外形部分102を有する板状である。また、ガラス基板100には、マイクやスピーカー用の開口104が設けられている。ガラス基板100は、必要に応じて例えば、印刷等の加飾を施すことでカバーガラスとなる。カバーガラスは、携帯端末のフレーム等に装着され、表示画面を保護することから、カバーガラスには、強度だけでなく高い寸法精度が求められている。
実施の形態1では、カバーガラスを製造する際に、後述する化学強化工程でガラス基板の寸法が変化することに着目し、化学強化後のガラス基板の寸法が製品として要求される所望の目標寸法となるような高い寸法精度を得ることを目的としている。以下、化学強化工程などを含む一連の工程を実施可能なカバーガラスの製造システムを説明する。
図2は、本発明の実施の形態1による携帯機器用カバーガラスの製造システムの機能ブロック図である。製造システム110は、大きい一枚板の板状ガラス120をカバーガラス形状のガラス基板に加工した後、化学強化を行い、カバーガラスに用いられる上記ガラス基板100を製造する。製造システム110は、外形加工装置130と、化学強化処理槽140と、レジストパターン形成装置150およびフォトマスク決定装置160からなる加工量決定装置170と、把握装置180と、後述されるテーブルを記憶するメモリ190とを備える。
板状ガラス120は、溶融ガラスから直接シート状に成型したもの、あるいは、ある厚さに成型されたガラス体を所定の厚さに成型し、主表面を研磨して所定の厚さに仕上げたものを使用することができる。特に、溶融ガラスから直接シート状に成型した場合には、板状ガラス120の主表面がマイクロクラックのない表面状態を有するため好ましい。溶融ガラスから直接シート状に成型する方法としては、ダウンドロー法、フロート法などが挙げられる。またプレス法によって板状ガラスを形成してもよい。
板状ガラス120としては、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラス等が挙げられ、強い圧縮応力を形成できる観点からアルミノシリケートガラスがより好ましい。中でも、SiO2、Al2O3、Li2O及び/又はNa2Oを含有したアルミノシリケートガラスであることが好ましい。Al2O3は、後述する化学強化においてイオン交換性能を向上させるため有用である。Li2Oは、化学強化においてNa+イオンとイオン交換させるための成分である。Na2Oは、化学強化においてK+イオンとイオン交換させるための成分である。ZrO2は、機械的強度を高めるために有用である。
外形加工装置130は、板状ガラス120をカバーガラス形状のガラス基板に加工する形状加工工程を行う。ここでは、形状加工工程として、エッチング処理を実施する場合について説明する。外形加工装置130は、アルカリイオンを含む板状ガラス120の主表面に形成されたレジストパターン200(図3参照)を用いて、板状ガラス120をエッチング処理することで、カバーガラス形状の小片のガラス基板を抜き出すエッチング処理を行う。
図3をも参照して、加工量決定装置170は、エッチング処理で用いられるレジストパターン200の形状、すなわちレジストマスク204の形状を変更することにより、エッチング処理によるガラス基板の加工量(すなわちエッチング処理によるガラス基板の面方向の溶解量)を決定する。加工量決定装置170に含まれるレジストパターン形成装置150は、レジストパターン200を形成するパターン形成工程を行う。
図3は、板状ガラス120の主表面に形成されたレジストパターン200を模式的に示す図である。レジストパターン200は、図示のように、板状ガラス120の主表面に形成されていて、板状ガラス120の主表面が露出した露出領域(図中、白抜き)202と、カバーガラス形状のガラス基板を形成するための複数のレジストマスク(図中、斜線)204とからなる。
以下、パターン形成工程について説明する。図4は、フォトマスクを用いた露光工程を模式的に示す図である。板状ガラス120にレジストパターン200を形成する際には、まず、板状ガラス120の両主表面120a、120b上にレジスト材をコーティングする。レジスト材としては、エッチング処理の際に使用するエッチャントに対して耐性を有する材料であればよい。一例として、フッ酸を含む水溶液の湿式エッチング(ウェットエッチング)による等方性エッチングで板状ガラス120を食刻する場合には、フッ酸耐性に優れたレジスト材などが用いられる。
次に、フォトマスク300、300Aを板状ガラス120の両主表面120a、120bに沿わせて、レジスト材の両面からUVランプ等の照射装置400、400Aによって光(UV)を照射して露光する。代表的に示すフォトマスク300は、例えばUVを透過可能なガラス板等で構成されていて、銅箔等で形成されUVを遮光する遮光部分(図中、黒塗り)302と、UVを透過する透過部分(図中、白抜き)304とを有する。
レジストパターン200の露出領域202は、フォトマスク300の遮光部分302に対応しており、露光工程でUVが照射されない遮光領域となる。レジストパターン200のレジストマスク204は、フォトマスク300の透過部分304に対応しており、露光工程でUVが照射される露光領域となる。ここでのレジスト材は、ネガ型であり、露光されると変質し、現像液で溶解しないようになる。
露光工程後の板状ガラス120は、現像液に浸漬され現像される。上記露出領域202は、露光工程での遮光領域であるから、変質せずに残っていたレジスト材が現像液に溶解して形成される。一方、上記レジストマスク204は、露光工程での露光領域であるから、変質して残っていたレジスト材が溶解せずに形成される。このようなパターン形成工程により、板状ガラス120の主表面には、図3に示す露出領域202とレジストマスク204とからなるレジストパターン200が形成される。なお、レジスト材は、ポジ型であってもよく、この場合には、フォトマスク300の遮光部分302に対応する領域が露光領域となり、また、透過部分304に対応する領域が遮光領域となるように、銅箔等で形成すればよい。
次に、パターン形成工程後に実施される、外形加工装置130によるエッチング処理について説明する。エッチング処理では、ウェットエッチングが行われ、板状ガラス120が等方的にエッチングされる。このため、レジストパターン200の露出領域202では、露出した板状ガラス120の両面から溝が掘り下げられるように溶解し、やがて板厚のほぼ中央部で板状ガラス120の両面の溝同士が繋がることによって分離する。なお、ウェットエッチングに使用するエッチャントは、板状ガラス120を食刻できるものであればよい。一例として、フッ酸を主成分とする酸性溶液や、フッ酸に硫酸、硝酸、塩酸、ケイフッ酸のうち少なくとも一つの酸を含む混酸などを、エッチャントとして用いることができる。
図5は、エッチング処理で抜き出されたガラス基板の断面を示す図である。ここでは、板状ガラス120がウェットエッチングにより等方的にエッチングされた場合のガラス基板100Aの端面を含む断面形状を示している。図中、ガラス基板100Aの両主表面に形成されたレジストマスク204を斜線で示している。また、図5において一点鎖線で示す複数の円弧形状は、等方性エッチングが進行する様子を模式的に示したものである。
ガラス基板100Aの端面は、図5に示すように、厚さ方向の中央部が外方に突出した突出部106aを有しており、そこから両方の主表面側に向かって緩やかに湾曲した傾斜面106b、106cが形成される。なお、傾斜面106b、106cと主表面との境界、および突出部106aは、半径数十μmの丸みを帯びた形状にすることが好ましい。傾斜面106b、106cと主表面との境界、および突出部106aを、丸みを帯びた形状とすることで、携帯端末装置のフレーム等に当該カバーガラスを装着する際、カジリや欠けが生じることなく容易に装着することができる。
図5に示すガラス基板100Aの寸法は、図の左右方向の両端面の突出部106a、106a間の距離Waで定義される。
エッチング処理後には、レジスト剥離が行われる。例えばレジストマスク204をガラス基板100Aから剥離するための剥離液としては、KOHやNaOHなどのアルカリ溶液を用いることが好ましい。なお、レジストマスク、エッチャント、剥離液の種類は、被エッチング材料である板状ガラスの材料に応じて適宜選択することができる。
次に、エッチング処理後の小片のガラス基板に対して実施される化学強化工程について説明する。図2に示す化学強化処理槽140は、エッチング処理による形状加工工程の後に、板状ガラス120から抜き出されたガラス基板に対して、イオン交換処理により化学強化を行う。化学強化は、ガラスの表層面のイオンをイオン半径の大きな他のイオンと交換することにより、ガラス表面に圧縮応力層を形成し、機械的強度をさらに高める処理である。化学強化は、例えば、硝酸カリウムや硝酸ナトリウムなどを含む化学強化処理液を用いて、温度300〜450(℃)で、浸漬時間1時間〜30時間の処理を行うことにより、ガラス中のLi+イオンを化学強化処理液中のNa+イオンと交換し、ガラス中のNa+イオンを化学強化処理液中のK+イオンと交換する。
化学強化により形成する圧縮応力層は5(μm)以上あればよい。好ましくは圧縮応力層の厚みは35(μm)以上、より好ましくは50(μm)以上、さらに好ましくは100(μm)以上が望ましい。また、ガラス基板を抜き出した後に化学強化を行うことで、ガラス基板の端面も化学強化される。このため、図1に示すガラス基板100を携帯端末装置に装着する際、ガラス基板100の欠けや割れが生じることを抑制できる。
ここで、化学強化処理槽140は、例えば直方体状であり、内部に化学強化用の化学強化処理液が溜められるものでよい。また、化学強化処理槽140は、例えば側面に、化学強化処理液を加熱するヒーターを配置し、このヒーターによって加熱された化学強化処理液を化学強化処理槽140内で対流させる構成を採用してもよい。
本発明者らは、化学強化工程での化学強化処理液の状態、すなわち化学強化条件により、ガラス基板100Aの寸法が変わることに着目した。
上記したように、化学強化ではガラスの表層面のイオンをイオン半径の大きな他のイオンと交換することにより、ガラス表面には圧縮応力層が形成される。この結果、ガラス基板の寸法は増加する(伸びる)。なお、この伸びに関する情報は、図2に示すメモリ190に格納されたテーブルに記憶されている。
図6は、テーブルの具体例を示す図である。テーブルは、化学強化に伴う化学強化条件とガラス基板の寸法の伸びとの対応関係を示している。化学強化条件としては、例えば、化学強化処理液中に含まれるLiイオンの濃度、化学強化を行ったガラス基板の累積表面積が挙げられる。また、本実施の形態1では、化学強化工程の前工程でのガラス基板の製造誤差を考慮しつつ、ガラス基板の伸びを定量的に表すために、基板寸法変動比を用いた。この基板寸法変動比は、化学強化後基板寸法/化学強化前基板寸法である。例えば、化学強化前の基板寸法が47.98(mm)、化学強化後の基板寸法が48(mm)の場合、基板寸法変動比は48/47.98=1.0004である。
図6(a)のテーブルは、Liイオンの濃度と基板寸法変動比との対応関係を示している。化学強化工程では、ガラス基板に含まれているLiイオンを化学強化処理液中のNaイオンと交換し、Naイオンを化学強化処理液中のKイオンと交換する。このため、化学強化処理液に含まれるLiイオンの濃度が高いほど、化学強化処理液が疲労し、イオン交換が低下することで、化学強化の程度が小さくなる。
図6(a)のテーブルの数値関係から、Liイオンの濃度が高いほど、化学強化の程度が小さくなり、基板寸法変動比が小さくなることがわかる。ここで、化学強化処理液中のLiイオンは、イオンクロマトグラフィ(Dionex製 ICS−2000)により測定した。使用した交換カラムはCS−12A、また溶離液はメタンスルホン酸である。
図6(b)のテーブルは、累積表面積と基板寸法変動比との対応関係を示している。ここで、累積表面積とは、重量1kg当たりの新品の溶融塩が化学強化をしたガラス基板の表面積の累計である。例えば、重量100(kg)の溶融塩により、表面積96(cm2)のガラス基板を10000枚化学強化処理した場合、累積表面積は9600(cm2/kg)となる。
図6(b)のテーブルの数値関係から、化学強化工程では、化学強化を行ったガラス基板の累積表面積が大きいほど、化学強化処理液が疲労し、化学強化の程度が小さくなり、基板寸法変動比が小さくなることがわかる。
図6(a)、図6(b)に示したテーブルは、Liイオンの濃度、及び累積表面積のそれぞれの化学強化条件と基板寸法変動比との対応関係を示したが、これに限定されない。例えば、2つ以上の化学強化条件を組み合わせて基板寸法変動比との対応関係を示す他のテーブルを作成してもよい。また、本実施の形態1では、化学強化によるガラス基板の伸びを定量的に表すために、基板寸法変動比を用いたが、この基板寸法変動比に限定するものではない。例えば、化学強化による実際のガラス基板の伸び量を測定してテーブルに登録してもよい。
次に、図2の製造システム110での情報の流れについて説明する。上記テーブルを記憶しているメモリ190は、図2に示す把握装置180の要求に応じてテーブルの内容を参照させる。把握装置180は、テーブルから化学強化工程における化学強化条件と基板寸法変動比との対応関係を把握する。また、把握装置180は、化学強化処理槽140で使用される化学強化処理液の状態を把握する。
化学強化条件のうちLiイオン濃度は、化学強化処理液を直接測定することにより、把握装置180で把握される。また、化学強化条件のうち累積表面積は、化学強化処理液を直接測定することなく、化学強化処理されたガラス基板の表面積の累計によって間接的に累積表面積を算出し、その値を例えばメモリ190に適宜記憶させることにより、把握装置180で把握される。さらに、把握装置180は、加工量決定装置170に含まれるフォトマスク決定装置160の要求に応じて、メモリ190におけるテーブルの対応関係、および使用される化学強化処理液の状態を、フォトマスク決定装置160に参照させる。
フォトマスク決定装置160は、使用される化学強化処理液の状態に基づいて、テーブルの対応関係を参照し、化学強化工程後のガラス基板の寸法が、製品として要求される目標寸法になるような(化学強化工程でのガラス基板の伸びを相殺するような)フォトマスク300を決定する。なお、ガラス基板の目標寸法は、例えばメモリ190に適宜記憶させてよい。
レジストパターン形成装置150は、フォトマスク決定装置160で決定されたフォトマスク300を用いて、上記パターン形成工程を行い、レジストマスク204の主表面方向の形状を調整したレジストパターン200を形成する。以下、図7を参照して、具体的に説明する。
図7は、フォトマスクの一部を模式的に示す図である。ここでは、フォトマスクの一例として、隣接する透過部分304A、304B、304Cをそれぞれ含む3つのフォトマスク310A、310B、310Cを重ねて示している。透過部分304A、304B、304Cは、互いに相似形を保ったまま拡大または縮小された大きさを有している。透過部分304A、304B、304Cの大きさは、上記レジストマスク204(図3および図5参照)の大きさに対応しており、レジストマスク204の寸法を規定する。
ここで、フォトマスク決定装置160の動作について説明する。まず、フォトマスク決定装置160は、使用する化学強化処理液の状態に基づいて、把握装置180を介してメモリ190におけるテーブルの対応関係(例えば図6(a),(b))を参照する。これにより、フォトマスク決定装置160は、ガラス基板の化学強化工程に伴うガラス基板の伸びを把握する。
次に、フォトマスク決定装置160は、化学強化工程後の目標寸法、および使用する化学強化液の状態を把握し、エッチング処理後の寸法を把握装置180経由でメモリ190から読み出し、化学強化工程後のガラス基板の寸法が目標寸法となるように、板状ガラスの主表面に形成するべきレジストマスクの形状を算出、設定する。
続いて、フォトマスク決定装置160は、算出された形状のレジストマスクを形成するために必要なフォトマスクの大きさを決定する。ここで、化学強化工程の累積表面積が小さいほど、またはLiイオン濃度が小さいほど、ガラス基板の伸びは大きくなるので、それを相殺するためにレジストマスクの大きさは小さくなる。
つまり、フォトマスク決定装置160は、化学強化処理の累積表面積が大きいほど、ガラス基板の伸びが小さくなるので、レジストマスクの形状が大きくなるフォトマスクを選択し、また、化学強化処理の累積表面積が小さいほど、ガラス基板の伸びが大きくなるので、レジストマスクの形状が小さくなるフォトマスクを選択する。なお、図7では、3つのフォトマスク310A、310B、310Cを示したが、これに限られず、透過部分304A、304B、304Cとは異なる大きさの透過部分を含むフォトマスクを多数(4つ以上)用意し、レジストマスクの形状を所望の寸法にするために用いてもよい。
続いて、レジストパターン形成装置150は、決定された上記フォトマスク310A、310B、310Cを用いて露光工程を行い、上記パターン形成工程を実施する。これにより、エッチング処理後にガラス基板となる板状ガラスの主表面に、レジストマスクの主表面の形状が調整されたレジストパターンが形成される。
その後、外形加工装置130で、レジストパターンを用いて板状ガラスを等方性エッチングすると、板状ガラスからガラス基板が抜き出される。このガラス基板は化学強化工程の状態に対応した寸法になっている。
続いて、レジストマスクをガラス基板から剥離するレジスト剥離を行い、さらに、化学強化処理槽140を用いた化学強化工程を実施する。
化学強化処理により、把握装置180によって予め把握された伸びがガラス基板に生じることとなり、化学強化処理を経ることによって、目標寸法のガラス基板が得られる。
化学強化後のガラス基板は、化学強化処理槽140から取り出され、さらに空中と水中で冷却された後、ガラス基板に付着している溶融塩やその他の付着物を取り除くために洗浄され、図1に示すガラス基板100となる。洗浄方法としては、水などの洗浄液で洗い流す方法や、洗浄液に浸漬する浸漬法や、洗浄液を流しながら回転するロール体をガラス基板に接触させるスクラブ洗浄法などを利用することができる。浸漬法では、洗浄液に超音波を印加した状態で実施してもよい。そして、洗浄後のガラス基板100に、必要に応じて印刷等の加飾が施されて、カバーガラスが製造される。
上記説明したように、実施の形態1による携帯機器用カバーガラスの製造方法では、化学強化処理液の状態と化学強化に伴うガラス基板の伸びとの対応関係を予め把握しメモリに記憶しておく。そして、化学強化工程の前段階である形状加工工程では、この対応関係を参照して、使用される化学強化処理液の状態に基づいて、化学強化工程後のガラス基板の寸法が携帯機器用カバーガラスに求められる寸法となるように、ガラス基板の加工量を決定する。
ガラス基板の加工量は、加工量決定装置170が板状ガラスの主表面に形成されるレジストマスクの主表面方向の形状を決定することにより調整される。具体的には、レジストマスク204の主表面の形状に対応した領域を含むフォトマスク300を決定し、このフォトマスク300を用いてレジストパターン200を形成し、外形加工装置130でエッチング処理することによりガラス基板の加工量が調整される。このように、化学強化工程に伴うガラス基板の寸法変化を、形状加工工程で相殺するように補正できるので、化学強化後のガラス基板の寸法精度が向上する。
なお、ガラス基板の開口寸法に関しても、上記の調整を同様に適用できる。よって、化学強化工程に伴うガラス基板の開口の寸法変化を、形状加工工程で相殺するように補正できるので、ガラス基板の開口の寸法精度が向上する。これに加えて、ガラス基板の外形寸法及び開口寸法の両方を調整することによって、ガラス基板の外周端面と開口の内壁面との間で生じうる寸法変化を小さくすることができ、開口の位置ずれが抑えられることから、開口の位置精度が向上する。
(実施の形態2)
上記の実施の形態1では、レジストパターン200の形状を変更することにより、形状加工工程でのガラス基板の加工量を決定するようにしたが、これに限られず、外形加工装置130のエッチング処理条件を調整しても良い。以下、図8を参照して実施の形態2について説明する。
図8は、本発明の実施の形態2による携帯機器用カバーガラスの製造システムの機能ブロック図である。製造システム110Aは、加工量決定装置170に加えて、エッチング条件設定装置172を含む加工量決定装置170Aを備えている点で、実施の形態1の製造システム110とは異なる。ここでは、実施の形態1との違いを中心に説明する。
エッチング条件設定装置172は、把握装置180から、化学強化処理液の状態およびメモリ190におけるテーブルの対応関係を参照して、上記形状加工工程で板状ガラスをエッチング処理するエッチング処理条件を変更する。これにより、実施の形態2の製造システム110Aでは、化学強化工程でのガラス基板の伸びを相殺し、化学強化工程後のガラス基板の寸法が携帯機器用カバーガラスに求められる寸法になるようにガラス基板の加工量が調整される。
具体的には、製造システム110Aでは、把握装置180は、化学強化工程後の目標寸法、および使用する化学強化処理液の状態を把握する。そして、エッチング条件設定装置172は、エッチング処理後の寸法をメモリ190から読み出す。その上で、外形加工装置130は、化学強化工程後のガラス基板の寸法が目標寸法となるように、エッチング処理を行う。
ここで、エッチング処理条件としては、例えばエッチング処理時間や、シャワーによるエッチング処理液の量などがよい。同じ形状のレジストマスクを使用した場合には、エッチング処理時間の長い方が、またエッチング処理液の量の多い方が、エッチング処理によるガラス基板の加工量が大きくなり、その結果エッチング処理後のガラス基板の寸法が小さくなる。
ここでは、化学強化工程の化学強化処理をした累積表面積が小さいほど、または化学強化処理液のLiイオン濃度が小さいほど、ガラス基板の伸びは大きくなるので、それを相殺するためにエッチング処理の加工量を大きくしてガラス基板の寸法を小さくすることがよい。このようにして、製造システム110Aでは、化学強化後のガラス基板の寸法精度が向上する。なお、製造システム110Aでは、加工量決定装置170Aでエッチング処理条件を変更するだけでなく、これに加えて、実施の形態1の加工量決定装置170によるレジストパターン200の形状を変更する工程を実施してもよい。
(実施の形態3)
上記の実施の形態1,2では、形状加工工程としてエッチング処理を行う場合について説明したが、これに限らず、形状加工工程として機械加工を行ってもよい。以下、図9を参照して実施の形態3について説明する。
図9は、本発明の実施の形態3による携帯機器用カバーガラスの製造システムの機能ブロック図である。製造システム110Bは、実施の形態1における外形加工装置130に代えて外形加工装置130Aを備え、実施の形態1における加工量決定装置170に代えて、機械加工条件設定装置174を含む加工量決定装置170Bを備えている点で、実施の形態1の製造システム110とは異なる。ここでは、実施の形態1との相違点を中心に説明する。
製造システム110Bに含まれる外形加工装置130Aは、板状ガラス120を機械加工によってカバーガラス形状のガラス基板に加工する研削装置等であり、板状ガラス120からガラス基板の外形抜きを行う。また、加工量決定装置170Bは、外形加工装置130Aによるガラス基板の加工量を決定する。このため、外形加工装置130Aは、加工量決定装置170Bで決定された加工量に従って機械加工を行い、ガラス基板の寸法を調整する。以下、具体的に説明する。
まず、加工量決定装置170Bは、把握装置180から使用する化学強化処理液の状態およびメモリ190におけるテーブルの対応関係を参照して、化学強化工程に伴うガラス基板の伸びを把握する。
次に、加工量決定装置170Bは、目標寸法をメモリ190から読み出し、化学強化工程後のガラス基板の寸法が目標寸法となるように、機械加工で得るべきガラス基板寸法を算出する。続いて、加工量決定装置170Bは、算出された形状のガラス基板を形成するために必要な加工量を決定する。
つまり、加工量決定装置170Bは、化学強化工程の化学強化の累積表面積が大きいほどガラス基板の伸びが小さくなるので、ガラス基板の形状が大きくなるように加工量を決定する。加工量決定装置170Bはまた、化学強化の累積表面積が小さいほどガラス基板の伸びが大きくなるので、化学強化工程でのガラス基板の伸びを相殺するように、ガラス基板の形状が小さくなるように加工量を決定する。なお、加工量は、例えば、機械加工条件設定装置174で決定され、機械加工工程で所望の形状を有するガラス基板を得るために必要な外形加工装置130Aの駆動量やティーチングする設定値に対応してもよい。
その後、外形加工装置130Aは、加工量決定装置170Bで決定された加工量に従って板状ガラス120に対する機械加工を行い、所定の形状のガラス基板を形成する。続いて、化学強化処理槽140を用いた化学強化工程を実施すると、ガラス基板の寸法が伸びて、目標寸法と一致するガラス基板が得られる。
すなわち、実施の形態3による製造システム110Bのように、外形加工装置130Aで板状ガラス120の機械加工を実施する場合であっても、化学強化に伴うガラス基板の寸法の変化に応じた加工量を加工量決定装置170Bで決定することで、化学強化後のガラス基板の寸法精度が向上する。
[実施例]
以下、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
本例(実験、実施例、比較例)に使用したガラス材は、63.5重量%のSiO2と、14.1重量%のAl2O3と、6重量%のLiO2と、10.4重量%のNa2Oと、6重量%のZrO2とを含有するアルミノシリケートガラスである。また、カバーガラス製品として要求される目標寸法は、長辺101(mm)、短辺48(mm)であり、本例では短辺寸法を測定した。
また、ガラス基板の伸びを定量的に表すための基板寸法変動比は、化学強化後基板寸法/化学強化前基板寸法である。基板寸法の測定は、(株)ニコン製のCNC画像測定システム「NEXIV」を使用した。
(実験1)
はじめに、化学強化工程の化学強化処理液のLiイオン濃度とガラス基板の基板寸法変動比の関係を求め、そして、各Liイオン濃度で化学強化するときに所望の製品目標寸法を得るためのフォトマスクの形状(カバーガラスの短辺相当幅)を求めた。本実験1では、3レベルのLiイオン濃度の場合について、フォトマスクの形状を求めた。しかしながら、この例に限定されず、より細かく、多数(4以上)のレベルのLiイオン濃度の場合について、フォトマスクの形状を求めてもよい。
化学強化工程の化学強化処理液のLiイオン濃度はイオンクロマトグラフィ(Dionex製 ICS−2000)により測定した。使用した交換カラムはCS−12A、また溶離液はメタンスルホン酸である。
エッチング処理に使用したエッチング液は、フッ酸を含有する酸性溶液である。エッチングの時間、エッチング液の供給量などの条件は各Liイオン濃度で同じである。また、化学強化は、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合塩を使用し、温度360℃、浸漬時間3時間の条件で実施した。
実験結果を表1に示す。ここでは、マスクパターンにおけるガラス基板主表面に対する透過部分の面積が異なる3種類のフォトマスクA〜Cを用意した。また、ガラス基板の寸法は、Liイオン濃度毎に10枚測定した。表1に示すように、化学強化処理液のLiイオン濃度が0(ppm)と比較的小さい場合、化学強化処理によるガラス基板の基板寸法変動比は、1.0008となった。この基板寸法変動比に対応するガラス基板の伸びを相殺するように目標のガラス基板の寸法を得るためのフォトマスクをフォトマスクAとした。
また、化学強化処理液のLiイオン濃度が900(ppm)の場合、化学強化によるガラス基板の基板寸法変動比は、1.0005となった。この基板寸法変動比に対応するガラス基板の伸びを相殺するように目標のガラス基板の寸法を得るためのフォトマスクを、フォトマスクBとした。
さらに、化学強化処理液のLiイオン濃度が1800(ppm)と比較的大きい場合、化学強化処理によるガラス基板の基板寸法変動比は、1.0002となった。この基板寸法変動比に対応するガラス基板の伸びを相殺するように目標のガラス基板の寸法を得るためのフォトマスクを、フォトマスクCとした。
ここで、フォトマスクA〜Cにおけるマスクパターンのガラス基板主表面に対する保護領域は、基板寸法変動比の増加に対応するように小さく、フォトマスクA〜Cの順にマスクパターンのガラス基板主表面に対する透過部分の面積が大きい。
Figure 0005926737
(実施例1)
実施例1は、化学強化処理液の状態とガラス基板の基板寸法変動比との関係を参照し、把握されたガラス基板の伸びを相殺するために調整したフォトマスクを選択することによって、レジストマスクの形状を調整して外形加工を施した。ここで化学強化は、Liイオン濃度が1800(ppm)の化学強化処理液を使用して実施した。
実施例1では、まず板状ガラスの両面にそれぞれレジストを塗布し、上記表1を参照して選択したフォトマスクCを使用して所定の露光、現像を行い、レジストパターンを板状ガラスの両面に形成した。そして、このレジストをマスクとして、エッチング処理することによりガラス基板に切り出し、残ったレジストを除去し洗浄した。
ここで、エッチングによる外形加工時の板状ガラス移動速度は、1.04(m/分)とした。なお、板状ガラス移動速度とは、搬送型のエッチング処理装置での板状ガラスの移動速度であり、移動速度が小さいほどエッチング処理時間が長くなることを意味する。その後、Liイオン濃度1800(ppm)の化学強化処理液により化学強化した。化学強化時間、温度は、前出の実験1と同等である。化学強化後のガラス基板の寸法を表2に示す。ガラス基板の寸法は、700枚測定した。
(比較例1)
比較例1は、化学強化処理液の状態とガラス基板の伸びとの関係を参照せず、伸びを相殺するために調整したフォトマスクを選択せずに、外形加工を施したものである。具体的にはフォトマスクBを使用した。なお、化学強化処理は、Liイオン濃度が1800(ppm)の化学強化処理液を使用して実施した。その他の作成・測定は実施例1と同じ条件である。化学強化後のガラス基板の寸法を表2に示す。ガラス基板の寸法は、700枚測定した。
Figure 0005926737
表2によれば、表1を参照して、Liイオン濃度1800(ppm)に対応するフォトマスクCを用いてエッチング処理および化学強化処理を実施した実施例1のガラス基板の寸法(平均値)は、48.001(mm)となり、目標寸法48(mm)とほぼ一致した。一方、表1を参照せず、フォトマスクBを用いてエッチング処理および化学強化工程を実施した比較例1のガラス基板の寸法(平均値)は47.985(mm)となり、目標寸法48(mm)に対して0.015(mm)ずれていた。
このように、実施例1では、使用する化学強化工程の化学強化処理液の状態を把握して、化学強化工程に伴うガラス基板の伸びを考慮してフォトマスクを選択し、エッチング処理および化学強化工程を実施した。その結果、実施例1では、比較例1に比べてガラス基板の寸法精度が向上することが確かめられた。
(実験2)
次に、実験2では、化学強化処理の累積表面積とガラス基板の伸びとの関係を求め、各累積表面積で化学強化するときに所望の製品目標寸法を得るためのエッチング処理条件を求めた。また、実験2では、エッチング工程のエッチング処理時の板状ガラス移動速度を変更することでガラス基板の加工量を調整した。なお、板状ガラス移動速度とは、搬送型のエッチング処理装置での板状ガラスの移動速度であり、移動速度が小さいほどエッチング処理時間が長くなることを意味する。
ここで、累積表面積(cm2/kg)は、重量1(kg)に相当する新品の溶融塩が化学強化処理をしたガラス基板の表面積の累計である。より具体的には、単位重量当たりの溶融塩に対する、化学強化したガラス基板の表面積と、化学強化処理を施したガラス基板の枚数との積の累計である。なお、本例の溶融塩の重量は、硝酸カリウムの重量と硝酸ナトリウムの重量の合計である。
実験結果を表3に示す。ガラス基板の寸法は、累積表面積毎に10枚測定した。表3に示すように、化学強化の累積表面積が比較的小さい場合、化学強化による基板寸法変動比は大きくなり、これを相殺し目標のガラス基板の寸法を得るための板状ガラス移動速度は小さくなった(エッチング処理時間は長くなった。)。一方、化学強化の累積表面積が比較的大きい場合、化学強化による基板寸法変動比は小さくなり、これを相殺し目標のガラス基板の寸法を得るための板状ガラス移動速度は大きくなった(エッチング処理時間は長くなった。)。なお、エッチング処理に使用したエッチング液は、フッ酸を含有する酸性溶液である。また、化学強化は、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムを混合した化学強化液を360(℃)に3時間浸漬して行った。
Figure 0005926737
(実施例2)
実施例2では、化学強化処理液の状態によるガラス基板の基板寸法変動比の関係を参照し、把握された基板寸法変動比での伸びを相殺するためにエッチング処理条件を変更することによって、エッチング処理時の加工量を調整して外形加工を施した。なお、化学強化は、累積表面積が0(cm2/kg)の化学強化処理液を使用して実施した。
実施例2では、まず板状ガラスの両面にそれぞれレジストを塗布し、一種類のフォトマスクを使用して所定の露光、現像を行い、レジストパターンを板状ガラスの両面に形成した。そして、このレジストをマスクとして、エッチング処理することによりガラス基板に切り出し、残ったレジストを除去し洗浄した。ここで、エッチングによる外形加工時の板状ガラス移動速度は、表3を参照し、累積表面積0(cm2/kg)に対応する、1.03(m/分)とした。その後、累積表面積が0(cm2/kg)の化学強化処理液により化学強化した。化学強化後のガラス基板の寸法を、表4に示す。ガラス基板の寸法は、700枚測定した。
(比較例2)
比較例2のガラス基板は、化学強化処理液の状態とガラス基板の基板寸法変動比との関係を参照せず、ガラス基板の伸びを相殺するための加工量の調整を実施せずに、外形加工を施したものである。なお、化学強化は、累積表面積が0(cm2/kg)の化学強化処理液を使用して実施した。
また、比較例2のガラス基板は、そのエッチング処理条件の板状ガラス移動速度以外は実施例2と同じ工程で作成した。ここで、エッチング処理による外形加工時の板状ガラス移動速度は、1.04(m/分)とした。化学強化後のガラス基板の寸法を、表4に示す。ガラス基板の寸法は、700枚測定した。
Figure 0005926737
表4によれば、実施例2の化学強化後のガラス基板の寸法(平均値)は、48.002(mm)となり、目標寸法48(mm)とほぼ一致した。一方、表3を参照せず、予め用意されていたエッチング処理条件を用いて、エッチング処理および化学強化工程を実施した比較例2のガラス基板の寸法(平均値)は48.017(mm)となり、目標寸法48(mm)に対して0.017(mm)ずれていた。
このように、実施例2では、使用する化学強化工程の化学強化処理液の状態を把握し、化学強化工程に伴うガラス基板の伸びを考慮してエッチング処理条件を変更し、エッチング処理および化学強化工程を実行した。その結果、実施例2では、比較例2に比べてガラス基板の寸法精度が向上していることが明らかとなった。
上記実施例1、2によれば、使用する化学強化工程の化学強化処理液の状態の変化に対応し形状加工工程での加工量を調整したので、化学強化工程の化学強化処理液の状態に左右されず、常にガラス基板の良好な寸法精度が得られることが確認できた。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
特に、実施例では短辺寸法の測定結果を示したが、このほかにガラス基板の長辺寸法および開口寸法などを必要に応じて測定し、長辺寸法および開口寸法のいずれかの寸法とこの寸法の化学強化工程に伴う基板寸法変動比との対応関係に基づいて、外形加工工程での加工量を調整してもよい。あるいは、各種寸法を複数組み合わせて、この組み合わせと各種寸法の化学強化工程に伴う基板寸法変動比(伸びの度合い)との対応関係に基づいて、外形加工工程での加工量を調整してもよい。
なお、上記実施例では、ガラス組成中にLiおよびNaを含むガラスを用いて、化学強化処理液としてNaおよびKを含むものを用い、ガラス中のLiおよびNaと、化学強化処理液中のNaおよびKとをイオン交換する例について説明したが、本発明はこれに限られるものではない。
例えば、前記ガラス基板を構成しているガラスは、Liを含有せず、Naを含有するものであり、前記化学強化工程が、ガラス基板中のNaと化学強化処理液中に含まれるKとをイオン交換するものである場合であってもよい。この場合には、化学強化工程によって、ガラス基板中のNaと化学強化処理液中のKとがイオン交換されるので、化学強化処理液中にはNa(Naイオン)の量が増加することとなる。そして、この化学強化処理液中のNaが増加することにより、化学強化工程で行われるイオン交換の度合いが異なることになるため、化学強化処理液中のNa量に応じて、化学強化工程に起因するガラス基板の寸法の伸び量は変化することとなる。そこで、この化学強化処理液中のNaと、この化学強化処理液を用いてガラス基板をイオン交換した際のガラス基板の寸法の伸び量を予め把握し、この把握した情報に基づいて、化学強化工程後のガラス基板の寸法が、携帯機器用カバーガラスに求められる寸法になるように、形状加工工程でのガラス基板の加工量(換言すると形状加工工程によって得られるガラス基板の寸法)を制御する。こうすることで、最終的に得られる携帯機器用カバーガラスを大量に製造する場合であっても、寸法のバラツキを低減させることができる。
つまり、本発明にかかる携帯機器用カバーガラスの製造方法は、板状ガラスを、携帯機器用カバーガラス形状のガラス基板に加工する形状加工工程と、前記形状加工工程の後に行われ、前記ガラス基板を化学強化処理液に接触させることにより、ガラス基板の中に含まれる一部のイオンを、そのイオンよりも大きなイオン半径である前記化学強化処理液中のイオンとイオン交換することによりガラス基板を化学強化する化学強化工程と、を含む方法であって、前記ガラス基板を構成しているガラスは、Liを含有せず、Naを含有するものであり、前記化学強化工程は、ガラス基板中のNaと化学強化処理液中に含まれるKとをイオン交換するものであり、前記形状加工工程では、前記化学強化工程によって変化したガラス基板の寸法が、携帯機器用カバーガラスに求められる寸法になるように、前記ガラス基板の加工量を決定する構成としてもよい。
また、本発明にかかる携帯機器用カバーガラスの製造方法は、前記化学強化工程によって変化するガラス基板の寸法を予め把握する把握工程をさらに含み、前記形状加工工程では、前記把握工程で把握した寸法に基づいて前記ガラス基板の加工量を決定する構成としてもよい。
さらに、本発明にかかる携帯機器用カバーガラスの製造方法は、前記把握工程は、前記イオン交換によって増加する化学強化処理液中のNa量に基づいて、前記化学強化工程によって変化するガラス基板の寸法を予め把握する構成としてよい。
本発明は、携帯電話やスマートフォン、PDAなどの携帯端末装置やデジタルスチルカメラ等の携帯機器(携帯型電子機器)の表示画面の保護や、携帯機器の筐体に用いられる携帯機器用カバーガラスの製造方法に利用することができる。
100、100A…ガラス基板、102…外形部分、104…開口、106a…突出部、106b、106c…傾斜面、110、110A、110B…製造システム、120…板状ガラス、130…外形加工装置、140…化学強化処理槽、150……レジストパターン形成装置、160…フォトマスク決定装置、170、170A、170B…加工量決定装置、172…エッチング条件設定装置、174…機械加工条件設定装置、180…把握装置、190…メモリ、200…レジストパターン、202…露出領域、204…レジストマスク、300、300A、310A〜310C…フォトマスク、302…遮光部分、304、304A〜304C…透過部分、400、400A…照射装置

Claims (6)

  1. 板状ガラスを、携帯機器用カバーガラス形状のガラス基板に加工する形状加工工程と、
    前記形状加工工程の後に行われ、前記ガラス基板を化学強化処理液に接触させることにより、ガラス基板の中に含まれる一部のイオンを、そのイオンよりも大きなイオン半径である前記化学強化処理液中のイオンとイオン交換することによりガラス基板を化学強化する化学強化工程と、を含む携帯機器用カバーガラスの製造方法であって、
    前記化学強化工程で用いる化学強化処理液の状態と、当該状態の化学強化処理液を用いて化学強化を行った場合における前記ガラス基板の寸法の伸びとの対応関係を予め把握しておき、
    前記形状加工工程では、前記化学強化工程での化学強化処理液の状態の変化に基づいて、前記対応関係を参照して、前記化学強化工程後のガラス基板の寸法が、携帯機器用カバーガラスに求められる寸法になるように、前記ガラス基板の加工量を決定し、
    前記形状加工工程は、前記板状ガラスの主表面に形成された携帯機器用カバーガラス形状のレジストパターンを用いて、前記板状ガラスをエッチング処理することにより形状加工する工程であり、
    前記化学強化工程でのガラス基板の伸びを相殺するように、エッチング処理条件としてエッチング処理時間を変更することにより、ガラス基板の加工量を変更することを特徴とする携帯機器用カバーガラスの製造方法。
  2. 前記ガラス基板は、Liイオンを含有するアルミノシリケートガラスであり、
    前記化学強化処理液の状態とは、化学強化処理液中に含まれるLiイオンの濃度であることを特徴とする請求項1に記載の携帯機器用カバーガラスの製造方法。
  3. 前記化学強化処理液の状態とは、当該化学強化処理液を用いて化学強化を行ったガラス基板の累積表面積であることを特徴とする請求項1に記載の携帯機器用カバーガラスの製造方法。
  4. 前記形状加工工程は、前記板状ガラスの主表面に形成された携帯機器用カバーガラス形状のレジストパターンを用いて、前記板状ガラスをエッチング処理することにより形状加工する工程であり、
    前記化学強化工程でのガラス基板の伸びを相殺するように、前記レジストパターンの形状を変更することにより、ガラス基板の加工量を決定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の携帯機器用カバーガラスの製造方法。
  5. 板状ガラスを、携帯機器用カバーガラス形状のガラス基板に加工する形状加工工程と、
    前記形状加工工程の後に行われ、前記ガラス基板を化学強化処理液に接触させることにより、ガラス基板の中に含まれる一部のイオンを、そのイオンよりも大きなイオン半径である前記化学強化処理液中のイオンとイオン交換することによりガラス基板を化学強化する化学強化工程と、を含む携帯機器用カバーガラスの製造方法であって、
    前記ガラス基板を構成しているガラスは、Liを含有せず、Naを含有するものであり、
    前記化学強化工程は、ガラス基板中のNaと化学強化処理液中に含まれるKとをイオン交換するものであり、
    前記形状加工工程は、前記板状ガラスの主表面に形成された携帯機器用カバーガラス形状のレジストパターンを用いて、前記板状ガラスをエッチング処理することにより形状加工する工程であり、
    前記形状加工工程では、前記化学強化工程によって変化したガラス基板の寸法が、携帯機器用カバーガラスに求められる寸法になるように、化学強化処理液の疲労を考慮して搬送型エッチング処理装置での前記ガラス基板の移動速度によってエッチング処理時間を変更することにより、前記ガラス基板の加工量を変更することを特徴とする携帯機器用カバーガラスの製造方法。
  6. 前記化学強化工程によって変化するガラス基板の寸法を予め把握する把握工程をさらに含み、
    前記把握工程は、前記イオン交換によって増加する化学強化処理液中のNa量に基づいて、前記化学強化工程によって変化するガラス基板の寸法を予め把握することを特徴とする請求項に記載の携帯機器用カバーガラスの製造方法。
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