(第一の実施の形態)
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
図1に、本発明における潜像印刷物(1)を示す。図1(a)に示すのは、潜像印刷物(1)の正面図であり、図1(b)に示すのは、潜像印刷物(1)のAA´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1)は、基材(2)の上に、印刷画像(3)が形成されてなる。基材(2)は、印刷画像(3)を形成することができれば、紙であってもプラスティックであっても、金属等であってもよく、その材質は問わない。印刷画像(3)は、透明であっても半透明であっても着色されていても良く、色彩の制約はない。また、印刷画像(3)が基材(2)に収まる限り、その大きさにも制限はない。なお、図1(a)の印刷画像(3)中には「NPB」の文字が視認されているが、説明の便宜上、可視化させているのであって、実際に作製した潜像印刷物(1)は、拡散反射光下で「NPB」の文字は不可視である。
本発明の印刷画像(3)の構成の概要を図2に示す。印刷画像(3)は、凸画線群(4)の上に、潜像合成画像(5)が重ね合さってなる。潜像合成画像(5)は、第一の有意情報をポジで表した第一の潜像ポジ画像(6P)と、第一の有意情報をネガで表した第一の潜像ネガ画像(6N)とを備える。なお、第一の実施の形態では、第一の有意情報がアルファベットの「NPB」の文字の例で説明するが、本発明において第一の有意情報は、「NPB」の文字に限定されるものではなく、他の文字で形成されても良いし、数字、記号、図形、図柄、マーク及び模様のいずれか又はその組み合わせで形成されても良い。
図3に凸画線群(4)を示す。凸画線群(4)は、明暗フリップフロップ性及び/又はカラーフリップフロップ性を有し、蒲鉾状の盛り上がりを有する、画線幅W1の画線(7)が第一のピッチP1で第一の方向(図中S1方向)に複数配置されて成る。図4に潜像合成画像(5)を示す。潜像合成画像(5)は、第一の潜像ポジ画像(6P)と第一の潜像ネガ画像(6N)から成る。第一の潜像ポジ画像(6P)は、画線幅W2の第一の潜像ポジ画線(8P)が第二のピッチP2で第二の方向(図中S2方向)に複数配置されて成り、第一の潜像ネガ画像(6N)は、画線幅W2の第一の潜像ネガ画線(8N)が第二のピッチP2で第二の方向(図中S2方向)に複数配置されて成る。第一の潜像ポジ画線(8P)と第一の潜像ネガ画線(8N)とは同じ画線幅で、かつ、同じピッチP2で構成される必要があり、加えて第一の潜像ポジ画線(8P)と第一の潜像ネガ画線(8N)とは第二の方向に位相がずれている必要がある。
なお、第一のピッチP1と第二のピッチP2は同じであっても良いし、異なっていても良く、第一の方向と第二の方向は同じであっても良いし、異なっていても良い。ただし、第二のピッチP2は、第一のピッチP1の大きさの80%から120%の大きさであり、第一の方向と第二の方向の角度差は、5度以内に留めることが色彩変化を効果的に見せる上で望ましい。なお、第一の実施の形態では、第1のピッチP1と第2のピッチP2とが同じ値であり、第一の方向と第二の方向が同じ方向である例について説明する。また、第一の実施の形態における第一の潜像ポジ画線(8P)と第一の潜像ネガ画線(8N)との第二の方向への位相のずれは、第1のピッチP1の半分である、すなわち、第1のピッチP1の2分の1としているが、位相のずれは、特に限定されるものではない。
なお、本発明における「明暗フリップフロップ性」とは、物質に光が入射した場合に、物質の明度のみが変化する性質を指し、「カラーフリップフロップ性」とは、物質に光が入射した場合に、物質の色相が変わる性質を指す。「明暗フリップフロップ性」を備えた印刷で用いるインキとしては、金色や銀色等のメタリック系の金属インキや、グロスタイプの着色インキがある。一般的に艶があると感じられる物質は、「明暗フリップフロップ性」を備える。例えば、銀インキは、光を強く反射しない拡散反射光下では、暗い灰色にしか見えないが、光を強く反射する正反射光下では、より淡い灰色か、又は白色に見える。このように、「明暗フリップフロップ性」を有するインキは、正反射光下で明度のみが変化する。
一方の「カラーフリップフロップ性」を備えた印刷で用いるインキとしては、パールインキ、液晶インキ、OVI及びCSI(Color Shifting Ink)等が存在する。多くのインキは物体色を有するが、虹彩色パールインキは無色透明である。例えば、赤色の虹彩色パールインキは、拡散反射光下では無色透明せあるが、正反射光下では赤色の干渉色を発する。このように、「カラーフリップフロップ性」を備えたインキは、正反射光下で色相が変化する。
なお、本発明における「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものであり、また、「色相」とは、赤、青及び黄といった色の様相のことであり、具体的には、可視光領域(400〜700nm)の特定の波長の強弱の分布を示すものである。
蒲鉾状の画線(7)は、正反射光下で第一の色彩で視認される必要がある。第一の潜像ポジ画線(8P)及び第一の潜像ネガ画線(8N)は、拡散反射光下では同じ色彩であって、正反射光下では第一の色彩と異なる第二の色彩でそれぞれが視認される必要がある。蒲鉾状の画線(7)、第一の潜像ポジ画線(8P)及び第一の潜像ネガ画線(8N)の拡散反射光下の色彩については特に問わず、いかなる色彩でも良い。なお、第一の潜像ポジ画線(8P)及び第一の潜像ネガ画線(8N)については、一般的な着色インキで形成することもでき、この場合には、拡散反射光下の色彩と正反射光下の色彩が同じとなるが、重要なのは正反射光下で第一の色彩と異なる色彩を呈することであって、拡散反射光下の色彩は、本発明の潜像印刷物(1)においては付加的要素である。
図5に凸画線群(4)と潜像合成画像(5)の重なり合いの位置関係の詳細を示す。凸画線群(4)を構成する蒲鉾状の画線(7)の上に、潜像合成画像(5)を構成する第一の潜像ポジ画線(8P)と第一の潜像ネガ画線(8N)が配置されてなる。蒲鉾状の画線(7)上で潜像ポジ画線(8P)と潜像ネガ画線(8N)は、第二の方向に位相がずれている必要があるが、第一のピッチP1と第二のピッチP2が同じ値の場合、最も望ましい位置関係は、蒲鉾状の画線(7)の盛り上がりの頂点を境とした片側の表面に第一の潜像ポジ画線(8P)が重なり、蒲鉾状の画線(7)の盛り上がりの頂点を境としたもう一方の片側の表面に第一の潜像ネガ画線(8N)が重なる関係である。ここでは、図5の側面拡大図に示すように、蒲鉾状の画線(7)の盛り上がりの頂点を境としてA´側の表面に、第一の潜像ポジ画線(8P)が重なり、蒲鉾状の画線(7)の盛り上がりの頂点を境としてA側の表面に、第一の潜像ネガ画線(8N)が重なってなる構成について説明する。
以上の構成で形成した潜像印刷物(1)の効果を図6に示す。この効果の説明では、潜像印刷物(1)の蒲鉾状の画線(7)を緑色の干渉色を発する虹彩色パール顔料を含有した透明なパールインキで形成し、第一の潜像ポジ画線(8P)と第一の潜像ネガ画線(8N)を赤色の物体色の着色インキで形成した例で説明する。印刷画像(3)が光を正反射しない、いわゆる、拡散反射光が支配的な観察環境で印刷画像(3)を観察した場合、印刷画像(3)中に第一の有意情報は視認されず、潜像合成画像(5)を形成した着色インキの赤色で印刷画像(3)は視認することができる(図示せず)。図6(a)に示すように、潜像印刷物(1)のA´側にある光源(9a)から光が入射し、潜像印刷物(1)から生じる正反射光を観察者(10a)が観察した場合、黄緑色に見える印刷画像(3)の中に、第一の有意情報である「NPB」の文字を赤色で視認することができる。また、図6(b)に示すように、潜像印刷物(1)の直上に光源(9b)が移動し、潜像印刷物(1)から生じる正反射光を観察者(10b)が観察した場合、極めて狭い観察角度の範囲ではあるが、第一の有意情報である「NPB」の文字が消失し、印刷画像(3)全体が緑色と赤色の中間色である、黄色で視認することができる。続いて、図6(c)に示すように、潜像印刷物(1)のA側に光源(9c)が移動し、潜像印刷物(1)から生じる正反射光を観察者(10c)が観察した場合、赤色に見える印刷画像(3)の中に、第一の有意情報である「NPB」の文字を黄緑色で視認することができる。
本明細書における効果の図は、効果を把握しやすいように潜像印刷物(1)と光源(9)の角度をデフォルメして記載しているが、実際の図6(a)から図6(c)の角度の差は、大きくとも10度以下であり、実際には、ある光源(9)から入射する光に対して、潜像印刷物(1)の角度をわずかに変えるだけで、上記の図6(a)から図6(c)までの効果が生じる。以上のように、正反射光下で印刷画像(3)を観察した場合には、盛り上がりのある蒲鉾状の画線(7)が有する第一の色彩だけでなく、潜像ポジ画像(6P)と潜像ネガ画像(6N)が有する第二の色彩が加わって潜像ポジ画像(6P)と潜像ネガ画像(6N)を視認することができ、従来技術の潜像画像と比べて色彩表現が豊かである。また、以上のように、正反射光下で印刷画像(3)を観察した場合には、拡散反射光下では不可視だった第一の有意情報が出現し、かつ、正反射光下のわずかな観察角度の変化で、「NPB」の文字と背景の色相が反転して観察される。以上のように、印刷物をわずかに傾けるといった、極めて小さな動作によって印刷画像(3)の中に視認性の高い変化を観察することができるという特徴を有する。
以上のような効果が生じる原理について説明する。まず、拡散反射光下では、蒲鉾状の画線(7)は透明であり不可視である。また、第一の潜像ポジ画線(8P)と第一の潜像ネガ画線(8N)は、物体色を有しているものの、二つの画線が対となることで互いの濃淡を打ち消しあうため、第一の有意情報が隠蔽され、印刷画像(3)は、階調のないフラットな画像として視認される。なお、拡散反射光下の印刷画像(3)の色彩は、蒲鉾状の画線(7)の物体色と、第一の潜像ポジ画線(8P)と第一の潜像ネガ画線(8N)の物体色の減法混色による合成色となる。第一の実施の形態において、蒲鉾状の画線(7)の物体色は透明であり、第一の潜像ポジ画線(8P)と第一の潜像ネガ画線(8N)の物体色は赤色であり、その合成色は赤色であるため、拡散反射光下において、印刷画像(3)は赤色で視認される。
続いて、正反射光下での原理について説明する。正反射光下で、図6(a)に示すようにA´側から光が入射した場合、盛り上がりを有する蒲鉾状の画線(7)の画線表面うち、入射光と法線を成す側の画線表面である、すなわち、蒲鉾状の画線(7)の盛り上がりの頂点からA´側の画線表面が光を強く正反射し、その他の蒲鉾状の画線(7)の画線表面は光を正反射しない。蒲鉾状の画線(7)のA´側の画線表面上には、第一の潜像ポジ画線(8P)が重ねられた部分と、第一の潜像ポジ画線(8P)が重ねられていない部分があり、第一の潜像ポジ画線(8P)が重ねられた部分は、第一の潜像ポジ画線(8P)に入射光を遮られて、その下にある蒲鉾状の画線(7)が強く光を反射できず、第一の潜像ポジ画線(8P)と第一の潜像ネガ画線(8N)の正反射時の色彩である、第二の色彩、すなわち、赤色が支配的となり、第一の潜像ポジ画線(8P)が重ねられていない部分は、蒲鉾状の画線(7)に入射光が達して、蒲鉾状の画線(7)が強く光を反射して、第一の色彩である、すなわち、強い緑色の干渉色が支配的となる。一方、蒲鉾状の画線(7)の画線表面のうち、盛り上がりの頂点からA側の画線表面は、光を正反射できずに、印刷画像(3)の拡散反射光下の色彩である、すなわち、赤色から変化しない。以上のことから、図6(a)に示すようにA´側から光が入射した場合、蒲鉾状の画線(7)の画線表面のうち、盛り上がりの頂点からA側の画線表面は、赤色で視認され、盛り上がりの頂点からA´側の画線表面のうち、第一の潜像ポジ画線(8P)が重ねられた部分は、赤色で視認され、盛り上がりの頂点からA´側の画線表面のうち、第一の潜像ポジ画線(8P)が重ねられていない部分は、緑色で視認される。よって、第一の潜像ポジ画線(8P)が表す第一の有意情報は、赤色で視認され、その他の印刷画像(3)は、蒲鉾状の画線(7)の正反射時の色彩である強い緑色と、印刷画像(3)の拡散反射光下の色彩である赤色とが混ざった合成色である、黄緑色で視認される。
正反射光下で、図6(b)に示すように印刷画像(3)の直上から光が入射した場合、蒲鉾状の画線(7)の画線表面うち、蒲鉾状の画線(7)の盛り上がりの頂点を中心に光を強く正反射するが、この領域には第一の潜像ポジ画線(8P)と第一の潜像ネガ画線(8N)が同じ割合で存在しているため、第一の有意情報は可視化されない。この場合の印刷画像(3)の色彩は、蒲鉾状の画線(7)の正反射時の色彩である強い緑色と、印刷画像(3)の拡散反射光下の色彩である赤色が混ざった合成色で視認される。この場合、図6(a)や図6(c)に示した場合に生じる合成色よりも、やや赤味が強くなるため、黄色で視認される。
正反射光下で、図6(c)に示すようにA側から光が入射した場合、蒲鉾状の画線(7)の画線表面うち、入射光と法線を成す側の画線表面である、すなわち、蒲鉾状の画線(7)の盛り上がりの頂点からA側の画線表面が光を強く正反射し、その他の画線表面は光を正反射しない。蒲鉾状の画線(7)のA側の画線表面上には、第一の潜像ネガ画線(8N)が重ねられた部分と、第一の潜像ネガ画線(8N)が重ねられていない部分があり、第一の潜像ネガ画線(8N)が重ねられた部分は、その下にある蒲鉾状の画線(7)が強く光を反射できず、第一の潜像ポジ画線(8P)と第一の潜像ネガ画線(8N)の正反射時の色彩である、第二の色彩、すなわち、赤色が支配的となり、第一の潜像ネガ画線(8N)が重ねられていない部分は、蒲鉾状の画線(7)が強く光を反射して、第一の色彩である、すなわち、強い緑色の干渉色が支配的となる。一方、蒲鉾状の画線(7)の画線表面のうち、盛り上がりの頂点からA´側の画線表面は、光を正反射することができずに、印刷画像(3)の拡散反射光下の色彩である、すなわち、赤色から変化しない。以上のことから、図6(c)に示すようにA側から光が入射した場合、蒲鉾状の画線(7)の画線表面のうち、盛り上がりの頂点からA´側の画線表面は、赤色で視認され、盛り上がりの頂点からA側の画線表面のうち、第一の潜像ネガ画線(8N)が重ねられた部分は、赤色で視認され、盛り上がりの頂点からA側の画線表面のうち、第一の潜像ネガ画線(8N)が重ねられていない部分は、緑色で視認される。よって、第一の潜像ネガ画線(8N)が表す第一の有意情報は赤色で視認され、その他の印刷画像(3)は、蒲鉾状の画線(7)の正反射時の色彩である強い緑色と、印刷画像(3)の拡散反射光下の色彩である赤色とが混ざった合成色である、黄緑色で視認される。
以上が、本発明の潜像印刷物(1)において、拡散反射光下では第一の有意情報が不可視であり、正反射光下で観察することで印刷画像(3)中に色彩豊かな第一の有意情報が出現し、また、光源(9)から入射する光の角度の位置が変わることで、第一の有意情報の色彩が反転する原理である。
第一の有意情報の色彩を大きく変化させるために、第一の色彩と第二の色彩は、補色か、それに近い関係であることが望ましい。印刷画像(3)中に現れる色彩は、第一の色彩と第二の色彩を合成した色彩に限定されるが、観察角度によって第一の色彩が強い領域や第二の色彩が強い領域、第一の色彩と第二の色彩の中間色となる領域等が存在し、また角度を変化させることでその色彩は微妙に変化する。そのため、潜像印刷物(1)の印刷画像(3)中には、第一の色彩から第二の色彩までの微妙に異なった色彩を観察することができる。
また、第一の実施の形態で説明した例において、第一のピッチP1と第二のピッチP2を等しい値としたが、第一のピッチP1と第二のピッチP2の関係は、等しい値に限定されるものではなく、異なっていても良い。また、第一の方向(S1)と第二の方向(S2)も同様に、等しい方向でなくとも良い。第一のピッチP1と第二のピッチP2がわずかに異なっている場合、又は第一の方向(S1)と第二の方向(S2)がわずかに異なっている場合、印刷画像中には、各蒲鉾状の画線(7)上の各第一の潜像ポジ画線(8P)と各第一の潜像ネガ画線(8N)の位置関係が、それぞれの蒲鉾状の画線(7)上で微妙にズレることによって、干渉縞(モアレ)が発生し、部分的な干渉の強弱によって、第一の色彩から第二の色彩までの微妙に色彩の異なったグラデーションが生じるため、色彩表現を優先したい場合にはより好ましい構成であるといえる。また、干渉によって生じる干渉縞は、潜像印刷物(1)の傾きを変化させることで、その色彩が動いているように見える。干渉縞の動きを小さくするには、第一のピッチP1と第二のピッチP2を離れた値とすればよい。ただし、第一のピッチP1と第二のピッチP2が離れすぎた値となると、干渉縞はほとんど動いて見えなくなるため、第一のピッチの大きさを100%とすると、第二のピッチの大きさは80%から120%とすることが望ましい。また、第一の有意情報の色彩変化を効果的に見せるために第一の方向と第二の方向との角度差は、5度以内とすることが望ましい。
第一の実施の形態では、正反射光下で印刷画像(3)中に生じる緑と赤の色彩の付与を、緑色の干渉色を発するパールインキと赤色の着色インキを用いて実現したが、同じ効果は、赤色の干渉色を発するパールインキと緑色の着色インキを用いても同様に実現することができる。また、本発明の効果は、この色彩に限定されるものではなく、紫から黄や、青から橙等、様々な色彩変化を実現することができる。また、正反射光下で生じる色彩は、二つの色彩とその中間色に限定されるものではなく、三つ以上の色彩を表現することもできる。三つの色彩を表現する例については、第二の実施の形態で具体的に説明する。
従来の技術において、正反射光下で見える色彩の全ては、蒲鉾状の画線(7)の色彩に由来するものであり、本発明でいう第一の色彩と第二の色彩は、蒲鉾状の画線(7)が発する必要があった。このことは、蒲鉾状の画線(7)に極めて変化に富んだ光学特性を要求することとなり、蒲鉾状の画線(7)のインキ設計には、機能性顔料に対する深い知見が必要であり、しかもそのような知見に基づいて設計したとしても、機能性顔料のみで表現可能な色彩は限定されるために、満足のいく色彩表現を実現することができるとは限らなかった。しかし、本発明の潜像印刷物(1)において正反射光下で見える複数の色彩の一つは、蒲鉾状の画線(7)由来の第一の色彩であり、もう一つは、第一の潜像ポジ画線(8P)と第一の潜像ネガ画線(8N)由来の第二の色彩である。蒲鉾状の画線(7)が正反射光下の全ての色彩を発する必要はなくなり、少なくとも一種類の色彩を正反射光下で発すればよい。第二の色彩は単なる着色インキを使用しても良く、色彩を自由に選択できることから正反射光下の色彩表現の範囲は格段に向上し、かつ、蒲鉾状の画線(7)を構成するインキの設計難易度を飛躍的に下げることに成功した。これは、発明における優れた効果のひとつである。
本発明における凸画線群(4)の蒲鉾状の画線(7)には、盛り上がり高さが必須であることから、印刷画線に盛り上がりを形成可能な印刷方式で印刷することが望ましい。すなわち、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷及びスクリ−ン印刷等で形成してもよい。また、インクジェットプリンタによって、UVインクを複数回吐き出しすることで、盛り上がりを形成しても良い。容易に視認することができる程度の視認性を確保するためには、蒲鉾状の画線(7)の盛り上がり高さを2μm以上とする必要がある。盛り上がり高さの上限は特にないが、堅ろう性や流通適性を考慮すると1mm以下に留めることが望ましい。また、実施の形態のように、印刷で直接画線の盛り上がりを有する画線を形成するのではなく、エンボス加工や透き入れによって基材上に凹凸構造を形成して、その上に印刷被膜を形成したり、薄膜フィルムを貼付してカラーフリップフロップ性を有する凸画線群(4)としてもよい。また、レンチキュラーレンズシートも盛り上がりと正反射光下での明暗フリップフロップ性を有するため、レンチキュラーレンズシートを基材(2)に貼り合わせて、本発明の凸画線群(4)としても良い。
本発明における潜像合成画像(5)は、特に盛り上がりは必須ではなく、平坦な構造でよい。すなわち、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷及びスクリ−ン印刷等で形成してもよい。第一の潜像ポジ画線(8P)及び第一の潜像ネガ画線(8N)については、正反射光下で第二の色彩として視認される構成を必須とするが、この条件を満たすインキは、物体色を有する一般的な着色インキ及びメタリックインキ等、あらゆるインキまでが含まれるため、色彩選択の自由度は極めて高い。なお、第一の潜像ポジ画線(8P)及び第一の潜像ネガ画線(8N)には、蒲鉾状の画線(7)のような明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性は必須ではないが、これらの性質を備えていた場合の方が、生じさせる色彩変化の幅は広くなる。特に蒲鉾状の画線(7)と、第一の潜像ポジ画線(8P)及び第一の潜像ネガ画線(8N)に異なる干渉色の虹彩色パールインキを用いて潜像印刷物(1)を構成した場合、拡散反射光下では、透明にしか見えなかった印刷画像(3)が、正反射光下で複数の色相で彩られるため、観察者にとってインパクトが強く、真偽判別性や偽造抵抗力により優れた構成となる。
なお、本明細書中でいう正反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と略等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、拡散反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。例えば、虹彩色パールインキを例とすると、拡散反射の状態では無色透明に見えるが、正反射した状態では特定の干渉色を発する。正反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と略等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、拡散反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態を指す。
(第二の実施の形態)
第二の実施の形態では、正反射光下において観察角度の変化に応じて印刷画像(3´)中に3種類の異なる色彩が生じる構成について説明する。この構成では、凸画線群(4´)の上に潜像合成画像(5´)と修飾画線群(11´)を重ね合わせて形成する。
図7に、本発明における潜像印刷物(1´)を示す。図7(a)に示すのは、潜像印刷物(1´)の正面図であり、図7(b)に示すのは、潜像印刷物(1´)のAA´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1´)は、基材(2´)の上に、印刷画像(3´)が形成されてなる。基材(2´)は、第一の実施の形態と同様に、印刷画像(3´)を形成することができれば、紙であっても、プラスティックであっても、金属等であってもよく、その材質、色彩及び大きさは問わない。また、図7(a)の印刷画像(3´)中には「NPB」の文字が視認される状態としているが、説明の便宜上、可視化させているのであって、実際に作製した潜像印刷物(1´)は、拡散反射光下で「NPB」の文字は不可視である。
本発明の印刷画像(3´)の構成の概要を図8に示す。印刷画像(3´)は、凸画線群(4´)の上に、潜像合成画像(5´)と修飾画線群(11´)が重ね合さってなる。潜像合成画像(5´)と修飾画線群(11´)の上下関係は、いずれが上になり、いずれが下になっても問題ない。潜像合成画像(5´)は、第一の有意情報をポジで表した第一の潜像ポジ画像(6P´)と、第一の有意情報をネガで表した第一の潜像ネガ画像(6N´)とを備える。なお、第二の実施の形態においても、第一の有意情報の限定はないが、第一の有意情報がアルファベットの「NPB」の文字の例で説明する。
凸画線群(4´)及び潜像合成画像(5´)の構成は、第一の実施の形態の説明において、図3及び図4に示した構造や要求される性能が同一であることから、説明を省略する。図9に修飾画線群(11´)の構成を示す。修飾画線群(11´)は、正反射光下において、第一の色彩及び第二の色彩とは異なる第三の色彩を有する画線幅W3の修飾画線(12´)が第三のピッチP3で第三の方向(図中S3方向)に複数配置されてなる。
なお、第三のピッチP3は、第一のピッチP1及び第二のピッチP2と同じであっても良いし、異なっていても良く、第三の方向(S3)は、第一の方向(S1)及び第二の方向(S2)と同じであっても良いし、異なっていても良い。ただし、第三のピッチP3は、第二のピッチP2と同様に、第一のピッチP1の大きさの80%から120%の大きさで、第一の方向(S1)と第三の方向(S2)の角度差は、5°以内に留めることが色彩変化を効果的に見せる上で望ましい。なお、第二の実施の形態では、ピッチP1とピッチP2とが同じ値であり、ピッチP3のみがその他のピッチと異なり、第一の方向(S1)、第二の方向(S2)及び第三の方向(S3)が全て同じ方向である例について説明する。また、第二の実施の形態における潜像ポジ画線(8P´)と潜像ネガ画線(8N´)との第二の方向(S2)への位相のずれは、第一の実施の形態と同様に第1のピッチP1の半分である、すなわち、第1のピッチP1の2分の1である。
図10に凸画線群(4´)、潜像合成画像(5´)及び修飾画線群(11´)の重なり合いの位置関係の詳細を示す。図10に示す側面拡大図は、凸画線群(4´)を構成する蒲鉾状の画線(7´)の上に、潜像合成画像(5´)を構成する第一の潜像ポジ画線(8P´)と第一の潜像ネガ画線(8N´)が配置されて、その上に修飾画線群(11´)を構成する修飾画線(12´)が重なりあってなる構成を示している。ここでは、修飾画線(12´)は、潜像合成画像(5´)を構成する潜像ポジ画線(8P´)と潜像ネガ画線(8N´)の上に重なった例について説明するが、本発明の第二の実施の形態の潜像印刷物(1´)は、修飾画線(12´)の上に潜像合成画像(5´)を構成する潜像ポジ画線(8P´)と潜像ネガ画線(8N´)が重なった構成でもよい。
蒲鉾状の画線(7´)と、第一の潜像ポジ画線(8P´)及び第一の潜像ネガ画線(8N´)の重なり合いの位置関係は、第一の実施の形態で説明した構成と同じである。第二の実施の形態の例で説明する修飾画線群(11´)における各修飾画線(12´)のピッチP3は、ピッチP1及びピッチP2とは異なっていることから、蒲鉾状の画線(7´)と第一の潜像ポジ画線(8P´)及び第一の潜像ネガ画線(8N´)に対するそれぞれの修飾画線(12´)の位置は、画線ごとに異なっており、ある部分では蒲鉾状の画線(7´)の中心に重なり、ある部分では中心から外れて重なったりする。また、第一の方向、第二の方向及び第三の方向のうち、いずれか一つの方向が異なる場合も、蒲鉾状の画線(7´)と第一の潜像ポジ画線(8P´)及び第一の潜像ネガ画線(8N´)に対するそれぞれの修飾画線(12´)の配置は、画線ごとに異なって重なる。このように、修飾画線(12´)が蒲鉾状の画線(7´)ごとに異なる位置に重なることによって、蒲鉾状の画線(7´)と修飾画線(12´)によってモアレが生じて見える。なお、正反射光下で視認される画像の詳細については後述する。
一方、第一の方向、第二の方向及び第三の方向が同じであり、かつ、第3のピッチP3、第1のピッチP1及び第2のピッチP2が同一である場合には、修飾画線(12´)が第一の潜像ポジ画線(8P´)及び/又は第一の潜像ネガ画線(8N´)の一部に重なり、第一の潜像ポジ画線(8P´)と第一の潜像ネガ画線(8N´)を完全に被覆した状態で重ならないように配置する。これは、修飾画線(12´)が第一の潜像ポジ画線(8P´)及び第一の潜像ネガ画線(8N´)を完全に被覆してしまうと、被覆した第一の潜像ポジ画線(8P´)や第一の潜像ネガ画線(8N´)が可視化されず、潜像画像を観察することができなくなるためである。
以上の構成で形成した潜像印刷物(1´)の効果を図11に示す。この効果の説明では、潜像印刷物(1´)の蒲鉾状の画線(7´)を緑色の干渉色を発する虹彩色パール顔料を含有した透明なパールインキで形成し、第一の潜像ポジ画線(8P´)と第一の潜像ネガ画線(8N´)を赤色の物体色の着色インキで形成し、修飾画線(12´)を銀色で形成した例で説明する。印刷画像(3´)が光を正反射しない、いわゆる、拡散反射光が支配的な観察環境で印刷画像(3´)を観察した場合、印刷画像(3´)中に第一の有意情報は視認されず、潜像合成画像(5´)を形成した着色インキの赤色と灰色(銀色の拡散反射光下の色彩)の合成色である暗い桃色として印刷画像(3´)が視認される(図示せず)。図11(a)に示すように、潜像印刷物(1´)のA´側にある光源(9a´)から光が入射し、潜像印刷物(1´)から生じる正反射光を観察者(10a´)が観察した場合、黄緑色に見える印刷画像(3´)の中に、銀色の縦縞と、第一の有意情報である「NPB」の文字を赤色で視認することができる。なお、「NPB」の文字は、銀色の縦縞の下にあるように見える。また、図11(b)に示すように、潜像印刷物(1´)の直上に光源(9b´)が移動し、潜像印刷物(1´)から生じる正反射光を観察者(10b´)が観察した場合、極めて狭い観察角度の範囲ではあるが、第一の有意情報である「NPB」の文字が消失し、印刷画像(3´)が緑色と赤色の中間色である黄色となり、その中に銀色の縦縞が視認される。続いて、図11(c)に示すように、潜像印刷物(1´)のA側に光源(9c´)が移動し、潜像印刷物(1´)から生じる正反射光を観察者(10c´)が観察した場合、赤色に見える印刷画像(3´)の中に、銀色の縦縞と第一の有意情報である「NPB」の文字を黄緑色で視認することができる。なお、出現する銀色の縦縞は、傾けて観察することで「NPB」の文字のように色彩が反転したり消失したりしないが、角度が変わるごとに、印刷画像(3´)中で第一の方向(S1)に位相を変えるため、銀色の縦縞が動いているように見える。この第二の実施の形態における潜像印刷物(1´)においては、印刷画像(3´)の中で、「NPB」の文字と背景の色相が反転し、かつ、異なる色彩の縦縞が動いて見える効果が同時に生じるため、観察者には一見、印刷画像(3´)の中に出現した「NPB」の文字と、その背景において緑色と赤色と銀色及びそれぞれの中間色を含む、極めて複雑な色変化が生じているように見える。
本明細書における効果の図は、効果を把握しやすいように潜像印刷物(1´)と光源(9´)の角度をデフォルメして記載しているが、実際の図11(a)から図11(c)の角度の差は大きくとも10度以下であり、実際には、ある光源(9´)から入射する光に対して、潜像印刷物(1´)の角度をわずかに変えるだけで、上記の図11(a)から図11(c)までの効果が生じる。以上のように、正反射光下で印刷画像(3´)を観察した場合には、拡散反射光下では不可視だった第一の有意情報が出現し、かつ、正反射光下のわずかな観察角度の変化で動く縦縞が出現するとともに、「NPB」の文字と背景の色相が反転して観察される。
以上のように、凸画線群(4´)の上に、潜像合成画像(5´)と第三の色彩を有する修飾画線群(11´)を重ねることで、より複雑な色彩変化を実現することができる。第二の実施の形態において出現した動く縦縞模様とは、蒲鉾状の画線(7´)と修飾画線(12´)が干渉して生じる干渉縞(モアレ)であり、第一のピッチP1と第三のピッチP3の大きさの差を調整することで、出現する縦縞の本数や動きの速さ制御が可能である。縦縞の本数を少なく、かつ、動きを早くしたい場合には、P1とP2の差を小さくし、縦縞の本数を多く、かつ、動きを遅くしたい場合にはP1とP2の差を大きくすればよい。より複雑なモアレ模様を用いて画像を形成して制御する具体的な構成は、再公表特許WO2009−139396号公報に記載の構成を用いればよい。
修飾画線(12´)は、正反射光下で第三の色彩として視認される必要がある。第二の実施の形態においては、第一の色彩、第二の色彩及び第三の色彩の三色が必要であり、それぞれの色彩は少なくとも色相が異なっている必要があり、第一の色彩、第二の色彩及び第三の色彩のそれぞれの色彩が違うほど、生じる色彩変化は大きくなる。
修飾画線(12´)に盛り上がり高さは必要なく、第一の潜像ポジ画線(8P´)や第一の潜像ネガ画線(8N´)と同様に、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷及びスクリ−ン印刷等で形成してもよい。この条件を満たすインキは、物体色を有する一般的な着色インキ及びメタリックインキ等、あらゆるインキまでが含まれるため、色彩選択の自由度は極めて高い。なお、修飾画線(12´)には、第一の潜像ポジ画線(8P´)や第一の潜像ネガ画線(8N´)と同様に、明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性は必須ではないが、これらの性質を備えていた場合の方が生じさせる色彩変化の幅は広くなる。
(第三の実施の形態)
第三の実施の形態は、正反射光下で印刷画像(3´´)を観察する角度に応じて、第一の有意情報から第nの有意情報(nは2以上の自然数)を視認することができる潜像印刷物(1´´)である。ここでは、例として、第一の有意情報だけでなく、第二の有意情報が視認される潜像印刷物(1´´)の構成について説明する。
図12に、本発明における潜像印刷物(1´´)を示す。図12(a)に示すのは、潜像印刷物(1´´)の正面図であり、図12(b)に示すのは、潜像印刷物(1´´)のAA´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1´´)は、基材(2´´)の上に、印刷画像(3´´)が形成されてなる。基材(2´´)は、第一の実施の形態と同様に、印刷画像(3´´)を形成することができれば、紙であっても、プラスティックであっても、金属等であってもよく、その材質、色彩及び大きさは問わない。また、図12(a)の印刷画像(3´´)中には、「NPB」の文字と「桜」の図柄を視認することができるが、説明の便宜上、可視化させているのであって、実際に作製した潜像印刷物(1´´)は、拡散反射光下で「NPB」の文字と「桜」の図柄は不可視である。
本発明の印刷画像(3´´)の構成の概要を図13に示す。印刷画像(3´´)は、凸画線群(4´´)の上に、潜像合成画像(5´´)が重ね合さってなる。潜像合成画像(5´´)は、第一の有意情報を含んだ第一の潜像画像(5a´´)及び第二の有意情報を含んだ第二の潜像画像(5b´´)から成る。第一の潜像画像(5a´´)は、第一の有意情報をポジで表した第一の潜像ポジ画像(6Pa´´)と、第一の有意情報をネガで表した第一の潜像ネガ画像(6Na´´)とから成り、第二の潜像画像(5b´´)は、第二の有意情報をポジで表した第二の潜像ポジ画像(6Pb´´)と、第二の有意情報をネガで表した第二の潜像ネガ画像(6Nb´´)とから成る。なお、第三の実施の形態における第一の有意情報とは、アルファベットの「NPB」の文字であり、第二の有意情報とは、「桜」のマークの例で説明する。
凸画線群(4´´)の構成は、第一の実施の形態の説明において、図3に示した構造や要求される性能が同一であることから、説明を省略する。図14に第一の潜像画像(5a´´)の構成を示す。第一の潜像画像(5a´´)は、第一の潜像ポジ画像(6Pa´´)と第一の潜像ネガ画像(6Na´´)から成る。第一の潜像ポジ画像(6Pa´´)は、画線幅W2の第一の潜像ポジ画線(8Pa´´)が第二のピッチP2で第二の方向(図中S2方向)に複数配置されてなり、第一の潜像ネガ画像(6Na´´)は、画線幅W2の第一の潜像ネガ画線(8Na´´)が第二のピッチP2で第二の方向(図中S2方向)に複数配置されてなる。第一の潜像ポジ画線(8Pa´´)と第一の潜像ネガ画線(8Na´´)とは、同じ画線幅で、かつ、同じピッチP2で構成される必要があり、加えて、第一の潜像ポジ画線(8Pa´´)と第一の潜像ネガ画線(8Na´´)とは、第二の方向に位相がずれている必要がある。また、第1の実施の形態と同様に、第一の潜像ポジ画線(8Pa´´)及び第一の潜像ネガ画線(8Na´´)は、拡散反射光下では同じ色彩であって、正反射光下では第一の色彩と異なる第二の色彩で視認される構成となっている。
図15に第二の潜像画像(5b´´)の構成を示す。第二の潜像画像(5b´´)は、第二の潜像ポジ画像(6Pb´´)と第二の潜像ネガ画像(6Nb´´)から成る。第二の潜像ポジ画像(6Pb´´)は、画線幅W4の第二の潜像ポジ画線(8Pb´´)が第二のピッチP2で第二の方向(図中S2方向)に複数配置されてなり、第二の潜像ネガ画像(6Nb´´)は、画線幅W4の第二の潜像ネガ画線(8Nb´´)が第二のピッチP2で第二の方向(図中S2方向)に複数配置されてなる。第二の潜像ポジ画線(8Pb´´)と第二の潜像ネガ画線(8Nb´´)とは、同じ画線幅で、かつ、同じピッチP2で構成される必要があり、加えて、第二の潜像ポジ画線(8Pb´´)と第二の潜像ネガ画線(8Nb´´)とは、第二の方向に位相がずれている必要がある。また、第二の潜像ポジ画線(8Pb´´)及び第二の潜像ネガ画線(8Nb´´)は、拡散反射光下では同じ色彩であって、正反射光下では第一の色彩と異なる第二の色彩で視認される構成となっており、第二の潜像ポジ画線(8Pb´´)及び第二の潜像ネガ画線(8Nb´´)は、一般的な着色インキで形成することができる。第三の実施の形態において、第一のピッチP1と第二のピッチP2の関係及び第一の方向と第二の方向の関係は、第一の実施の形態と同様である。ここでは、第一の実施の形態と同様に、第一のピッチP1と第2のピッチP2が同じ値であり、第一の方向と第二の方向が同じ方向である例について説明する。
図16に潜像合成画像(5´´)を示す。潜像合成画像(5´´)は、第一の潜像ポジ画線(8Pa´´)及び第一の潜像ネガ画線(8Na´´)と、第二の潜像ポジ画線(8Pb´´)及び第二の潜像ネガ画線(8Nb´´)が、互い違いに連続して配置されてなる。それぞれの画線は、互いに重なり合うことなく、第二の方向に一定のずれを有して配置されてなる。第三の実施の形態におけるそれぞれの画線の第二の方向への位相のずれの大きさは、第2のピッチP1の4分の1の大きさである。
図17に凸画線群(4´´)と潜像合成画像(5´´)の重なり合いの位置関係の詳細を示す。凸画線群(4´´)を構成する盛り上がりを有する蒲鉾状の画線(7´´)の上に、潜像合成画像(5´´)を構成する第一の潜像ポジ画線(8Pa´´)、第一の潜像ネガ画線(8Na´´)、第二の潜像ポジ画線(8Pb´´)及び第二の潜像ネガ画線(8Nb´´)の四つの画線が配置されてなる。第一の潜像ポジ画線(8Pa´´)、第一の潜像ネガ画線(8Na´´)、第二の潜像ポジ画線(8Pb´´)及び第二の潜像ネガ画線(8Nb´´)の四つの画線は、全体が蒲鉾状の画線(7´´)の上に重なる必要はないが、四つの画線の各々の画線の少なくとも一部が蒲鉾状の画線(7´´)の上に重なる必要がある。第三の実施の形態において、第一の方向と第二の方向は、同じ方向であることから、蒲鉾状の画線(7´´)と、四つの画線が平行な関係となっているが、これに限定されるものではない。
以上の構成で形成した潜像印刷物(1´´)の効果を図18に示す。この効果の説明では、潜像印刷物(1´´)の蒲鉾状の画線(7´´)を緑色の干渉色を発する虹彩色パール顔料を含有した透明なパールインキで形成し、第一の潜像ポジ画線(8Pa´´)、第一の潜像ネガ画線(8Na´´)、第二の潜像ポジ画線(8Pb´´)及び第二の潜像ネガ画線(8Nb´´)の四つの画線を、赤色の物体色の着色インキで形成した例で説明する。印刷画像(3´´)が光を正反射しない、いわゆる、拡散反射光が支配的な観察環境で印刷画像(3´´)を観察した場合、印刷画像(3´´)中に第一の有意情報及び第二の有意情報は視認されず、潜像合成画像(5´´)を形成した着色インキの色彩である赤色で印刷画像(3´´)が視認される(図示せず)。図18(a)に示すように、潜像印刷物(1´´)のA´側にある光源(9a´´)から光が入射し、潜像印刷物(1´´)から生じる正反射光を観察者(10a´´)が観察した場合、赤色に見える印刷画像(3´´)の中に、第一の有意情報である「NPB」の文字を黄緑色で視認することができる。また、図18(b)に示すように、潜像印刷物(1´´)のA´側から直上側に光源(9b´´)がわずかに移動し、潜像印刷物(1´´)から生じる正反射光を観察者(10b´´)が観察した場合、黄緑色に見える印刷画像(3´)の中に、第一の有意情報である「NPB」の文字を赤色で視認することができる。また、図18(c)に示すように、潜像印刷物(1´´)のA´側からA側に移動した光源(9c´´)から光が入射し、潜像印刷物(1´´)から生じる正反射光を観察者(10c´´)が観察した場合、赤色に見える印刷画像(3´´)の中に、第二の有意情報である「桜」のマークを黄緑色で視認することができる。また、図18(d)に示すように、よりA側に光源(9b´´)が移動し、潜像印刷物(1´´)から生じる正反射光を観察者(10b´´)が観察した場合、黄緑色に見える印刷画像(3´´)の中に、第二の有意情報である「桜」のマークを赤色で視認することができる。また、図18(a)及び図18(b)の中間の観察角度と、図18(c)及び図18(d)の中間の観察角度において、それぞれの有意情報が一旦消失し、第一の色彩と第二の色彩の中間色である黄色で印刷画像(3)全体が視認される角度が存在する。
本明細書における効果の図は、効果を把握しやすいように潜像印刷物(1´´)と光源(9´)の角度をデフォルメして記載しているが、実際の図18(a)から図18(d)の角度の差は、大きくとも10度以下であり、実際には、ある光源(9´´)から入射する光に対して、潜像印刷物(1´´)の角度をわずかに変えるだけで、図18(a)から図18(d)までの効果が生じる。以上のように、正反射光下で印刷画像(3´´)を観察した場合には、拡散反射光下で不可視であった第一の有意情報が出現し、かつ、正反射光下のわずかな観察角度の変化で、「NPB」の文字と背景の色相が反転し、また、潜像印刷物(1´´)を傾ける角度を大きくすることで、第二の有意情報が出現し、かつ、正反射光下のわずかな観察角度の変化で、「桜」のマークと背景の色相が反転した状態として観察することができる。
以上に説明した潜像印刷物(1´´)の例では、二つの有意情報が出現する例であるが、更に三つ目の有意情報(以降、第三の有意情報という。)を出現させるためには、第一の潜像画像(5a´´)及び第二の潜像画像(5b´´)の構成と同様に、第三の有意情報を含んだ第三の潜像画像(図示せず)を第三の潜像ポジ画線(図示せず)と第三の潜像ネガ画線(図示せず)によって形成して、第一の潜像画像(5a´´)、第二の潜像画像(5b´´)及び第三の潜像画像から成る潜像合成画像(5´´)とし、潜像合成画像(5´´)を凸画線群(4´´)の上に形成すれば良い。正反射光下で有意情報を出現させるためには、有意情報を表す潜像ポジ画線と潜像ネガ画線が蒲鉾状の画線に重なる必要があるがことから、出現させる有意情報の数に応じて、蒲鉾状の画線、潜像ポジ画線及び潜像ネガ画線の画線幅を適宜調整する必要がある。
また、第三の実施の形態の潜像印刷物(1´´)を構成する凸画線群(4´´)又は潜像合成模様(5´´)の上に、第二の実施の形態で説明した修飾画線群が重なる構成としても良い。この場合の修飾画線の構成と各画線の配置については、第二の実施の形態と同様であり、修飾画線群が重なることで、正反射光下で観察したときに第一の色彩と第二の色彩で視認される有意情報の変化に、第三の色彩が加わった状態として視認することができる。
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
図19に潜像印刷物(1−1)を示す。図19(a)に示すのは、潜像印刷物(1−1)の正面図であり、図19(b)に示すのは、潜像印刷物(1−1)のAA´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1−1)は、基材(2−1)の上に、印刷画像(3−1)が形成されてなる。基材(2−1)は、白色コート紙(エスプリコートFM 日本製紙製)を用いた。
本発明の印刷画像(3−1)の構成の概要を図20に示す。印刷画像(3−1)は、凸画線群(4−1)の上に、潜像合成画像(5−1)を重ね合わせて形成した。潜像合成画像(5−1)は、第一の有意情報である「NPB」の文字をポジで表した潜像ポジ画像(6P−1)と、第一の有意情報である「NPB」の文字をネガで表した潜像ネガ画像(6N−1)とを有する。
図21に凸画線群(4−1)を示す。凸画線群(4−1)は、表1に示した着色パールインキを用いた盛り上がりのある蒲鉾状の画線幅0.3mmの画線(7−1)が0.4mmピッチで第一の方向(S1方向)に複数配されてなる。表1のインキは、拡散反射光下では黒色に見えるが、正反射光下では緑色の干渉色を発する光学特性を有する。
以上のような構成の凸画線群(4−1)をUV乾燥方式のスクリーン印刷で基材(2−1)上に印刷した。印刷した蒲鉾状の画線(7−1)の盛り上がりの高さは、15μmであった。なお、表1に記載の着色パールインキ中の虹彩色パール顔料には、特開2001−106937号公報に記載の撥水撥油処理を施している。この処理を施すことで、蒲鉾状の画線(7−1)の画線表面にパール顔料が向きを揃えて配向するため、より高いパール効果を得ることができる。また、黒色の着色顔料をパールインキ中に配合することで、入射した光中の虹彩色パール顔料の干渉色以外の色彩の光を吸収する効果が得られるため、パールの干渉色が強調される効果が生じる。
図22に潜像合成画像(5−1)を示す。潜像合成画像(5−1)は、潜像ポジ画像(6P−1)と潜像ネガ画像(6N−1)を有する。潜像ポジ画像(6P−1)は、ピッチ0.4mmで第二の方向(S2方向)に連続して配置された画線幅0.2mmの潜像ポジ画線(8P−1)を有し、潜像ネガ画像(6N−1)は、ピッチ0.4mmで第二の方向(S2方向)に連続して配置された画線幅0.2mmの潜像ネガ画線(8N−1)を有する。また、潜像ポジ画線(8P−1)と潜像ネガ画像(6N−1)は、第二の方向(S2方向)に0.2mmずれてなる。図22の潜像合成画像(5−1)を赤色の着色インキを用いて印刷した。本実施例における第一の色彩は緑色であり、第二の色彩は赤色である。
図23に凸画線群(4−1)と潜像合成画像(5−1)の重なり合いの位置関係の詳細を示す。印刷画像(3−1)において、凸画線群(4−1)を構成する蒲鉾状の画線(7−1)の上に、潜像ポジ画線(8P−1)及び潜像ネガ画線(8N−1)の少なくとも一部が重なるようにオフセット印刷によって印刷した。詳細な重なりの構造としては、蒲鉾状の画線(7−1)の盛り上がりの頂点を基準にしてA側に潜像ネガ画線(8N−1)が重なり、蒲鉾状の画線(7−1)の盛り上がりの頂点を基準にしてA´側に潜像ポジ画線(8P−1)が重なる位置関係となるよう形成した。
以上の構成で形成した潜像印刷物(1−1)の効果を図24に示す。拡散反射光下では印刷画像(3−1)は、単に四角く黒い画像として視認される(図示せず)だけであったが、図24(a)に示すように、潜像印刷物(1−1)のA´側にある光源(9a−1)から光を入射させ、潜像印刷物(1−1)から生じる正反射光を観察したところ、黄緑色に見える印刷画像(3−1)の中に、第一の有意情報である「NPB」の文字を赤色で視認することができた。また、図24(b)に示すように、潜像印刷物(1−1)の直上に光源(9b−1)が移動し、潜像印刷物(1−1)から生じる正反射光を観察者(10b−1)が観察した場合、第一の有意情報である「NPB」の文字が消失し、印刷画像(3−1)全体が緑色と赤色の中間色である、黄色で視認することができた。続いて、図24(c)に示すように、潜像印刷物(1−1)のA側に光源(9c−1)が移動し、潜像印刷物(1−1)から生じる正反射光を観察者(10c−1)が観察した場合、赤色に見える印刷画像(3−1)の中に、第一の有意情報である「NPB」の文字を黄緑色で視認することができた。
以上のように、正反射光下の入射光のわずかな観察角度の変化で、本発明の潜像印刷物(1−1)において、印刷画像(3−1)中に色彩豊かな第一の有意情報が出現し、また、光源から入射する光の角度の位置が変わることで、第一の有意情報の色彩が反転する効果を確認することができた。