JP5909695B1 - 植物の細菌性病害に対する微生物防除剤および種子コーティング剤並びに該種子コーティング剤をコートした種子 - Google Patents

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Abstract

【課題】イネ科あるいは他の植物の育苗期に発生する細菌性病害に有効であり、かつ、環境負荷の少ない微生物農薬に関する技術を提供する。【解決手段】植物の細菌性病害の防除に有効な微生物(例えばハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌)と、緑色凝灰岩粉末とを含む溶液を凍結乾燥して得られた、植物の細菌性病害の防除に有効な微生物防除剤、該微生物防除剤を含む、植物の細菌性病害の防除に有効なコーティング剤及び該コーティング剤をコートした種子により解決する。【選択図】なし

Description

本発明は、植物の細菌性病害に対する微生物防除剤および細菌性病害を防除するための種子コーティング剤並びに該種子コーティング剤をコートした種子に関する。
近代農業では、効率的に食糧を確保するため、いわゆる化学農薬を中心とした病害虫防除技術が発達してきた。しかしながら、化学農薬を長年にわたり過度に使用した結果、生態系の乱れ、残留農薬による食品の安全性、化学農薬を使用する農業者の健康被害、などの問題がクローズアップされ、安心・安全という観点から、毒性や残留性の低い農薬への転換が求められ、そこからさらに減農薬、無農薬への取り組みが求められつつある。
こうした流れの中、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した環境保全型農業に適合した病害虫防除技術(例えば微生物防除剤)が注目されている。「微生物防除剤」とは、自然界に生息する「病原菌から植物を守る微生物」や「害虫から植物を守る微生物」を活用して作物を病害虫などの被害から守る製剤のことであり、作物、人間や環境に対する負荷が少なく、食の安全・安心確保に大きく貢献するものと期待されている。
微生物防除剤に関する技術は、糸状菌を利用した例が多く存在し、例えば、イネの育苗時期に病害を引き起こす病原菌に対して拮抗作用を有するタラロマイセス属(Talaromyces)に属する糸状菌を含有する、イネの育苗時期に発生する病害の防除剤(特許文献1)、各種の植物病害防除に有効で、かつ主要作物に病原性を示さず、一種の微生物による各種の作物病害防除を可能にするフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)NPF−9901菌株(FERM P−20469)(特許文献2)、ピシウム・オリガンドラムの卵胞子と、防除効果増強物質としてのカルシウム塩とを含む植物病害防除剤およびその製造方法、ならびに、同植物病害防除剤を用いた植物病害防除方法(特許文献3)などが知られている。
細菌を利用した微生物防除剤に関する技術としては、病原性を欠失させたエルビニア・カロトボーラ細菌を含む懸濁液中にイネ籾を浸漬した後、土壌中に植え付けるイネ苗立枯細菌病の防除方法(特許文献4)、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.) CAB-02を有効成分として含有することを特徴とする、イネ苗の立枯性病害防除剤(特許文献5)などが知られている。
また、植物体内に共生して宿主植物に病原性糸状菌、病原性細菌又は病原性ウイルスによる病害に対する耐性を付与する能力を有する細菌を植物に人為的に感染させ、植物における病原性糸状菌、病原性細菌又は病原性ウイルスによる病害を防除する方法において、Herbaspirillum属新規細菌(受託番号NITE BP−193)が、イネいもち病に対する病害抵抗性誘導効果を示すことが開示されている(特許文献6)。
特開2007−31294号公報 特開2007−82499号公報 特開2010−143876号公報 特開平6−87716号公報 特開平9−124427号公報 国際公開第2007/100162号
植物の育苗期に発生する細菌性病害として、例えばイネ科植物では、イネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病(苗腐敗症)およびイネ褐条病が問題となっている。イネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病およびイネ褐条病は、病原細菌を保菌した種子を播種すると健全苗にも感染して育苗期に苗腐敗症状などを生じ、水田に健全苗を定植できなくなり最終的に収量や品質の低下をもたらす。しかしながら、イネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病およびイネ褐条病は発生予測が困難なうえ、いったん発生すると、農薬を用いても細菌の急激な増殖を抑えきれず、十分な効果が得られないことも知られている。
これらの病原細菌は好高温性で、被害の発生は1960年代以降の加温育苗の普及とともに増加してきた経緯があり、現在では糸状菌病であるイネばか苗病と並び、育苗期の重要病害となっている。
育苗時のこれらの病害の防除は、これまで化学合成農薬を用いた種子消毒が中心であったが、近年では消毒後の廃液処理が問題となるなど、環境への配慮も重視されるようになっている。
従って本発明の目的は、植物、特にイネ科植物育苗期に発生する細菌性病害に有効であり、かつ、環境負荷の少ない微生物農薬に関する技術を提供することにある。
本発明者らが鋭意検討した結果、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌等の植物の病害を防除する機能を有する微生物(細菌)と、緑色凝灰岩粉末とを含む溶液を凍結乾燥して得られた微生物防除剤は、粉粒体状であるため取扱性、保存性に優れており、しかも、前記細菌を単独で適用するよりもさらに優れた防除効果を発揮するとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、前記微生物と、緑色凝灰岩粉末とを含む溶液を凍結乾燥して得られた、植物の細菌性病害の防除に有効な微生物防除剤を提供するものである。
また、本発明は、前記微生物防除剤を含む、植物の細菌性病害の防除に有効なコーティング剤を提供するものである。
さらに、本発明は、前記コーティング剤を植物の種子にコートした種子を提供するものである。
本発明の微生物防除剤、コーティング剤及び該コーティング剤を植物の種子にコートした種子によれば、植物、特にイネ科植物の育苗期における細菌性病害に対し、細菌性病害に有効な微生物を単独で適用した場合よりも優れた防除効果を発揮することができる。
緑色凝灰岩はグリーンタフとも言われる天然物でありもともと安全性が高い。そのため、環境に配慮した環境保全型農業におけるイネ科植物等の作物の安定生産に貢献できる。この粉末は前記微生物と組み合わせて使用することにより微生物を保護する機能を有するため、粉末と微生物を含む水性液を凍結乾燥した剤を使用することにより、長期にわたって安定した防除防除効果を発揮する。また、微生物として特に好適なハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌は、植物の病害防除効果に優れているだけでなく、健全なイネ科植物、ナス科植物、ウリ科植物、アブラナ科植物、バラ科植物、土壌および水から分離される細菌であるため、環境を汚染することがない。
本発明の微生物防除剤では、植物の病害防除技術に利用する観点から、該防除剤を構成する微生物として植物の病害に対して有用な防除効果を与える微生物が使用される。かかる微生物(本明細書では「有用微生物」ということがある)の種類は、植物の病害防除に対して有効な微生物であれば特に限定されないが、例えば、菌寄生作用、抗菌作用、競合・干渉又は拮抗作用、抵抗性誘導作用や食菌作用などによって植物病原菌を抑制する効果を有する微生物、植物生育促進微生物、根粒菌、菌根菌などを挙げることができる。これら有用微生物のうち、糸状菌の胞子や一部のグラム陽性細菌の芽胞のような耐久器官を形成して長期間保存が可能な微生物以外の微生物を長期間保存する観点から、細菌が好ましく、その中でもグラム陰性細菌がさらに好ましい。また、グラム陰性細菌のうち、特に好ましいのはハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌又はコリモナス(Collimonas)属細菌である。これらの中でも、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌が好ましい。
前記ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌としては、本発明者らが特願2011−211164(特開2012−92093)に開示したように、イネ科植物の細菌性病害の防除に有効である。前記ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌としては、ハーバスピリラム・エスピー(Herbaspirillum sp.)、ハーバスピリラム・ルブリスバルビカンス(Herbaspirillum rubrisubalbicans)、ハーバスピリラム・オートトロフィカム(Herbaspirillum autotrophicum)、ハーバスピリラム・クロロフェノリカム(Herbaspirillum chlorophenolicum)、ハーバスピリラム・フリシンゲンセ(Herbaspirillum frisingense)、ハーバスピリラム・ハッチエンセ(Herbaspirillum huttiense)、ハーバスピリラム・プティ(Herbaspirillum putei)、ハーバスピリラム・セロペディカ(Herbaspirillum seropedicae)からなる群から選択された少なくとも1種類があげられる。なかでも、有効なハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌は、本発明者らによって発見され、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE−IPOD)に国際寄託されたハーバスピリラム・エスピー(Herbaspirillum sp.)022S4-11株(受託番号FERM BP−22001)である。また、パントエア(Pantoea)属細菌は、本発明者らが特願2013−192200(特開2015−59090)に開示したようにイネ科植物の細菌性病害の防除に有効であり、さらに、国際特許出願PCT/JP2013/56640(WO2014/141362)に記載したとおり、コリモナス(Collimonas)属細菌も植物病害菌の防除に有効である。これ以外にも、植物の病害に対し防除効果が期待できる有用微生物があり、これらは前述した特許文献1〜6等にも開示されている。
本発明の実施形態に係る微生物防除剤は、前記のごとき有用微生物の少なくとも1種、特にハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌と、緑色凝灰岩粉末とを含む溶液を凍結乾燥して得られる。
本実施形態のハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌を含む微生物病防除剤は、イネ科植物の細菌性病害の防除に効果を発揮し、具体的には、苗立枯細菌病の原因菌であるバークホルデリア・プランタリー(Burkholderia plantarii)、イネもみ枯細菌病菌の原因菌であるバークホルデリア・グルメ(Burkholderia glumae)及びイネ褐条病の原因菌であるシュードモナス・グルメ・クリタエトタベイ(Pseudomonas glumae kurita et Tabei)に対して発病抑制効果を発揮する。なお、本実施形態の微生物防除剤は病原細菌に対して直接的な拮抗能はなく、特に、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌、又はハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌の培養液に含まれる何らかの物質が作用し、発病を抑制するものと推定される。
本実施形態において好適に使用されるハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌は、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌を細菌用の液体培地(例えばジャガイモ半合成寒天培地など)で所定時間培養した培養液について遠心分離等を使用して培養液を菌体と上清液に分離し、得られた菌体を水等の溶媒に懸濁した菌体懸濁液を調製して使用することができる。この場合、菌体懸濁液の菌体濃度は、少なくとも106cfu/ml以上であることが好ましく、107cfu/ml以上であることがより好ましく、108cfu/ml以上であることがさらに好ましい。
また、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌の培養液を微生物防除剤の有効成分として使用する場合は、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌を細菌用の液体培地(例えばジャガイモ半合成寒天培地など)で所定時間培養した培養液をそのまま又は希釈して或いは濃縮して使用することができる。
ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌はイネ科植物から分離されるグラム陰性細菌であり、本実施形態においては、少なくとも健全なイネ(葉鞘、品種:コシヒカリ)から分離されたハーバスピリラム・エスピー(Herbaspirillum sp.)又はサトウキビ疑似赤すじ病の病斑から分離されたハーバスピリラム・ルブリスバルビカンス(Herbaspirillum rubrisubalbicans)、富栄養湖水から分離されたハーバスピリラム・オートトロフィカム(Herbaspirillum autotrophicum)、土壌堆積物から分離されたハーバスピリラム・クロロフェノリカム(Herbaspirillum chlorophenolicum)、オギ(葉)から分離されたハーバスピリラム・フリシンゲンセ(Herbaspirillum frisingense)、蒸留水から分離されたハーバスピリラム・ハッチエンセ(Herbaspirillum huttiense)、淡水から分離されたハーバスピリラム・プティ(Herbaspirillum putei)、イネ(根)から分離されたハーバスピリラム・セロペディカ(Herbaspirillum seropedicae)から選択された少なくとも1種類を使用することが好ましい。
ハーバスピリラム・エスピー(Herbaspirillum sp.)のうち、特に、ハーバスピリラム・エスピー(Herbaspirillum sp.)022S4-11株は窒素固定能も有しており、イネ科植物の栽培においてはかかる性質も利用できるため好ましい。
前記ハーバスピリラム・エスピー(Herbaspirillum sp.)022S4-11株は、健全なイネの葉鞘から分離された細菌である。本発明者らがハーバスピリラム・エスピー(Herbaspirillum sp.)022S4-11株とハーバスピリラム(Herbaspirillum)属の既知種との比較を行ったところ、従来既知の菌株とは明らかに区別することができたため、これを新菌株と同定し、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに国際寄託したものである(受託番号FERM BP−22001)。
本発明において、好ましい緑色凝灰岩としては、例えば、秋田県等で産出される「十和田石」や、栃木県等で産出される「大谷石」を挙げることができる。
前記緑色凝灰岩の粉末を調製する方法は、緑色凝灰岩を粉末にすることができれば特に制限されず、例えば、従来から用いられている粉砕機によって緑色凝灰岩を粉末にする方法などを挙げることができる。これらの緑色凝灰岩粉末は、1種類のみでも、2種類以上混合して用いてもよい。
前記緑色凝灰岩粉末の粒径は、本発明の目的及び効果が得られれば特に制限はないが、種子にコートするコーティング剤としての用途を考慮すれば、平均粒子径が、1〜400μmの範囲にあることが好ましく、100μm以下のものがより好ましく、80μm以下のものが特に好ましい。本実施形態において「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
次に、本実施形態に係る微生物防除剤の調製方法について説明する。本実施形態に係る好適な微生物防除剤は、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌と緑色凝灰岩粉末との混合溶液を凍結乾燥することによって得られる。
ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌と緑色凝灰岩粉末との混合溶液におけるハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌の濃度は、106cfu/ml以上であることが好ましく、107cfu/ml以上であることがより好ましく、108cfu/ml以上であることがさらに好ましい。また、緑色凝灰岩粉末の濃度は、10〜60重量%であることが好ましく、20〜50重量%であることがより好ましく、30〜40重量%であることがさらに好ましい。
このように調製された混合溶液を、一般的な凍結乾燥装置を用いて凍結乾燥処理することにより、本実施形態の微生物防除剤を製造することができる。ここで、凍結乾燥処理を実施するにあたり、ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌をまず予備凍結した後、減圧下で凍結乾燥することが好ましい。
本実施形態に係るハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌を含む微生物防除剤は、イネ科植物に適用した場合、苗立枯細菌病の原因菌であるバークホルデリア・プランタリー(Burkholderia plantarii)、イネもみ枯細菌病菌の原因菌であるバークホルデリア・グルメ(Burkholderia glumae)及びイネ褐条病の原因菌であるシュードモナス・グルメ・クリタエトタベイ(Pseudomonas glumae kurita et Tabei)に対して発病抑制効果を発揮するため、イネ科植物の細菌性病害の防除に有効な種子コーティング剤として利用することができる。しかしながら、本発明の微生物防除剤は、上述した実施形態の微生物に限定されるものではなく、植物の種類に応じ、その植物の病害に対する防除効果が知られている他の有用微生物を使用することもできる。
以下、本実施形態に係る微生物防除剤をイネ科種子のコーティング剤として使用する場合について説明する。イネ科植物の種子にコートする手段は特に制限はないが、より確実に種子にコーティング剤を付着させる観点からは、凍結乾燥して得た粉粒体状の微生物防除剤を水に投入して水中に懸濁させ、前記微生物防除剤を固形分(水分以外の成分)の重量にして3〜30重量%程度含むコーティング液を調製し、それにイネ科植物の種子を浸漬した後、浸漬処理した種子を液から取り出して、自然乾燥させるか又は加熱により乾燥させる方法が好ましい。この場合、前記水性懸濁液中にカルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、澱粉等の水溶性有機物を少量添加しても差支えないが、本実施形態に係る微生物防除剤は、これらの水溶性有機物がなくても種子表面へ良好にコーティングすることができるので、通常、このような添加剤は必要としない。
浸漬処理は、少なくとも12時間以上実施することが好ましく、種子が出芽する前であれば、浸種前、浸種中、浸種後(すなわち催芽中)のいずれの時期に実施してもよい。
ここで「浸種」とは、催芽を行なう前の処理工程であって、一斉に発芽するように種子に水分を吸収させる工程をいう。浸種は、例えば約15〜30℃の温水に約3〜4日浸漬することにより行う。通常、予め水選や塩水選(種子を水や塩水に入れて選別すること)などで充実度の低い種子を取り除いたり、消毒してから浸種させる。「催芽」とは、芽の新生や休眠芽の発育開始を促進させたり、発芽を斉一にする人工的処理をいう。催芽は、例えば約20〜35℃の温水に約12〜24時間浸漬することにより行う。
なお、イネ科植物の種子が出芽した後に種子コーティング剤をコーティングしても一定の効果は得られるが、イネ苗立枯細菌病菌、イネもみ枯細菌病菌又はイネ褐条病菌を保菌している種子は健全に発芽することができない場合が多く、出芽前に防除処理した場合と比較して防除効果は低下する。
本実施形態を適用可能なイネ科植物とは、植物分類学上のイネ科に属する植物をいい、例えば、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、アワ、ヒエ等を挙げることができる。イネ科植物のうち、好ましくはイネ(Oryza sativa)である。
本実施形態によれば、イネ科植物の細菌性病害の防除に有効な微生物病防除剤(種子コーティング剤)をイネ科植物の種子にコートしているため、種子が出芽し発芽する過程において、イネ苗立枯細菌病又はイネもみ枯細菌病に対して抵抗力を有し、育苗中にこれらの細菌性病害の発病を抑制することができる。
また、微生物病防除剤(種子コーティング剤)をコートした後は、微生物防除剤(種子コーティング剤)がコーティングされている限りその後も効果が長期に持続するため、例えば微生物防除剤(種子コーティング剤)をコートした種子をそのまま流通させることができる。
なお、ここでは主としてイネ科植物の細菌性病害の防除について詳述したが、本発明の微生物防除剤が適用可能な植物は、イネ科植物のみに限定されるものではなく、有用微生物の種類を選ぶことで、他の植物にも同様に適用することが可能である。他の植物としては、ナス科植物、ウリ科植物、アブラナ科植物、バラ科植物等を挙げることができる。
1.微生物防除剤の調製
供試菌株はハーバスピリラム・エスピー(Herbaspirillum sp.)022S4-11株(受託番号FERM BP−22001。以下、単に「022S4-11株」という)を使用した。また、緑色凝灰岩粉末は十和田石粉末(十和田グリーンタフ・アグロサイエンス株式会社、商品名:D.M. POWDER、粒径 1〜80μm 5μmpeak)を使用した。
022S4-11株が10の11乗CFU/ml(1011 cfu/ml)、緑色凝灰岩粉末の濃度が33重量%の水性懸濁液を調製し、これを−20℃以下の温度にて24時間程度凍結した後、真空下にて乾燥することにより、所望の菌体−緑色凝灰岩凍結乾燥粉末からなる微生物防除剤とした(防除剤1)。
比較例として、022S4-11株をPPG培地で振蘯培養(25℃、2日間、100rpm)した培養液を調製し、前記緑色凝灰岩粉末を使用せずに022S4-11株の培養液のみで凍結乾燥処理を行って製造した凍結乾燥菌体からなる微生物防除剤(防除剤2)、022S4-11株をPPG培地で振蘯培養(25℃、2日間、100rpm)した培養液からなる微生物防除剤(防除剤3)も調製した。
2.処理方法
イネもみ枯細菌病菌(Burkholderia glumae MAFF301441)の懸濁液(約108cfu/ml)にイネ(コシヒカリ)の種籾を浸漬し、約10分間真空減圧下で種籾に病原細菌を接種した後、水気を切った種籾をラボタオル等に広げ室温で一晩風乾させることにより、汚染率を10%とした種籾を調製した。
先述した防除剤1〜3を緑色凝灰岩粉末の濃度が33重量%になるように水に配合したの水性懸濁液に、前記汚染種籾100粒を添加し、25℃下で48時間、浸漬処理した。すなわち、浸種時に防除処理を行った。その後、水を替えてこの種籾を25℃下で24時間浸漬し、さらに水を替えて25℃下で24時間浸漬し、最後に水を替えて32℃下に16時間浸漬して催芽した後、育苗培土に播種して2週間栽培した後に発病調査を実施した。また、前記防除剤を添加せずに浸種処理及び催芽処理を実施して栽培した区についても発病調査を実施した。
3.育苗条件
以下の条件でイネを育苗した。播種は、底に排水のために直径1mm程度の穴を5カ所あけたプラスチックケース(35mm×110mm×110mm)に育苗培土(イセキ培土)を入れ、15gの処理種籾を均一に播種して軽く覆土した。なお、播種後はガラス温室で管理した。
4.調査方法
各区の全苗について発病程度を調査し、程度別に指数を与え、発病苗率および次式により発病度を算出した。指数は、枯死苗:5、枯死以外の発病苗(白化・わい化・抽出異常):3、健全苗:0とした。
発病度={Σ(発病程度別苗数×指数)/(5×調査苗数)}×100
防除価=(1−処理区の発病度/無処理区の発病度)×100
5.結果
表1に、イネもみ枯細菌病に対する発病抑制効果の検討結果を示す。表1中、反復数は、試験を繰り返した回数を意味する。菌体(022S4-11株)−緑色凝灰岩凍結乾燥粉末からなる微生物防除剤(防除剤1)処理区は、イネもみ枯細菌病を発病したイネは1本もなく、防除価100%を記録した。
緑色凝灰岩粉末を使用せずに022S4-11株の培養液のみで凍結乾燥処理を行って製造した凍結乾燥菌体からなる微生物防除剤(防除剤2)処理区は、一定の防除価は得られたものの、緑色凝灰岩粉末を使用した防除剤1処理区と比較して大きく防除価が劣っていた。
022S4-11株の培養液からなる微生物防除剤(防除剤3)処理区は、防除剤2と同様に緑色凝灰岩粉末を使用しなかったが、凍結乾燥菌体からなる微生物防除剤(防除剤2)と比較すれば防除効果は高かった。但し、防除剤1処理区ほどではなかった。
以上の結果、本発明の微生物防除剤は、イネもみ枯細菌病に対する発病抑制効果を顕著に高めることが判明した。

Claims (10)

  1. ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌と緑色凝灰岩粉末とを含む水性液凍結乾燥物からなる、植物の細菌性病害の防除に有効な微生物防除剤。
  2. 前記緑色凝灰岩が、十和田石又は大谷石である、請求項1に記載の微生物防除剤。
  3. 前記緑色凝灰岩粉末の平均粒子径が1〜400μmである、請求項1又は2に記載の微生物防除剤。
  4. 前記ハーバスピリラム(Herbaspirillum)属細菌が、ハーバスピリラム・エスピー(Herbaspirillum sp.)022S4-11株(受託番号FERM BP−22001)である、請求項1〜のいずれか1項に記載の微生物防除剤。
  5. 植物がイネ科植物である、請求項1〜のいずれか1項に記載の微生物防除剤。
  6. 前記細菌性病害が、イネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病、イネ褐条病からなる群から選択された少なくとも1つである、請求項1〜のいずれか1項に記載の微生物防除剤。
  7. 請求項1〜のいずれか1項に記載の微生物防除剤を含む、植物の細菌性病害の防除に有効なコーティング剤。
  8. 請求項に記載のコーティング剤をコートした種子。
  9. 植物の種子がイネ科植物の種子である、請求項に記載の種子。
  10. 請求項7に記載のコーティング剤を水中に懸濁させた液中に植物の種子を浸漬することにより、該コーティング剤を種子表面の全部又は一部にコートする工程を含む、植物の細菌性病害の防除効果を有する種子の製造方法。
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